説明

マイクロリアクタ

【課題】試薬が収容された収容室に駆動液を注入して試薬を下流へ押し出して送液する際に、試薬の一部が収容室内に滞留することがなく、さらに、試薬収容部の配置の自由度が高いマイクロリアクタを提供する。
【解決手段】試薬収容部33の収容室34aにおける長さを、その流路幅Wに対して10倍以上とするとももに、収容室34aの形状をその少なくとも一部が曲がった形状とした。さらに、収容室34aの当該曲がった部分における壁面の曲率半径を所定範囲内とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、遺伝子増幅反応、抗原抗体反応などによる生体物質の検査・分析、その他の化学物質の検査・分析、有機合成等による目的化合物の化学合成などに用いられるマイクロリアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1、2)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラ
ブ・オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現状の遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0003】
また、各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、信頼性の高い送液システムを確立することが課題であり、精度が高く信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められているが、従来より各種のマイクロポンプシステムおよびその制御方法が提案されている(特許文献3〜5)。
【0004】
上記のようなマイクロポンプシステムによって送液を行う分析用チップとして、本出願人は、予めチップ内の流路に試薬を封入しておき、封入された試薬を分析時に駆動液によって下流へ押し出し、当該下流において試薬同士の混合や反応を行う形態のマイクロリアクタを特許文献1において提案している。
【特許文献1】特願2004−138959号明細書
【特許文献2】特開2004−28589号公報
【特許文献3】特開2001−322099号公報
【特許文献4】特開2004−108285号公報
【特許文献5】特開2004−270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなマイクロリアクタでは、試薬が収容される試薬収容部、試薬同士が混合される試薬混合部、反応部、その他必要に応じて設けられる検出部や各種処理液の収容部などの微細流路が一つのチップ内に配置されるため、複雑な流路構成となる場合が多い。そのため、効率的に流路を配置することが求められる。
【0006】
しかし、試薬収容部の形状が、例えば特許文献1の図14〜図17に示されるような幅広の液溜形状である場合、流路配置の自由度が少なくなる。
また、このような形状の試薬収容部には次の問題点がある。図6は、上記液溜形状の試薬収容部を拡大して示した図である。同図の試薬収容部133において、試薬53が収容される収容室134aの上流側には駆動液流路51からの駆動液が注入される注入口134bが設けられ、収容室134aの下流側には試薬送出流路52への出口134cが設けられている。
【0007】
不図示のマイクロポンプによって駆動液流路51から収容室134aへ駆動液を注入すると、試薬53は下流へ押し出されて出口134cから試薬送出流路52へ送り出される。このとき、試薬収容部133は注入口134bと出口133cとの距離が近い単純な幅広形状であるため、中央部の試薬だけが押し流されて壁面側の試薬が流れにくくなり、試薬53の滞留部157が生じてしまう。
【0008】
このような試薬の滞留を防止するためには、試薬収容部を幅の狭い流路にするという方法が考えられる。しかし、試薬収容部を幅の狭い直線状の流路にすると、試薬収容部における上記注入口と出口との間の距離が遠くなり、また、注入口における流路長手方向と出口における流路長手方向は互いに同一方向を向くことになる。そうすると、チップを誤って落としてしまった場合など、チップ内に保管している試薬に一方向の力が加わったときに試薬収容部外への試薬の漏れが発生し易くなる。
【0009】
さらに、互いに異なる試薬が収容される多数の試薬収容部を小さなチップ内に配置する場合、特に、それらが流路を介して複雑に繋がりあっている系では、試薬収容部が直線状であるとチップ内の空間を有効に使いきれずに結果としてチップを大きくせざるを得ない。
【0010】
このような問題点を解決する方法として、図7に示すように、試薬収容部133を太い流路を折り曲げた形状にすることが考えられる。しかし、その曲がった部分における外壁156および内壁155の曲率半径が流路幅に対して小さいと、外壁のエッジ部付近を含む範囲に上記と同様に試薬の滞留部157が生じてしまい、試薬の送液に支障を来たすことになる。
【0011】
本発明は、試薬が収容された収容室に駆動液を注入して試薬を下流へ押し出して送液する際に、試薬の一部が収容室内に滞留することがなく、さらに、試薬収容部の配置の自由度が高いマイクロリアクタを提供することを目的としている。特に、試薬収容部の形状を流路が曲がった形状とした場合であっても、当該曲がった部分における試薬の滞留を有効に防止できるマイクロリアクタを提供することを目的としている。
【0012】
また本発明は、複数の試薬収容部をチップ内に配置する場合であっても、これらの試薬収容部を狭い空間内へ効率的に配置することができるマイクロリアクタを提供することを目的としている。
【0013】
また本発明は、チップの保管時や移動時等に、試薬収容部外への試薬の漏れ出しを有効に抑制可能なマイクロリアクタを提供することを目的としている。
また本発明は、遺伝子増幅を行う場合のように、ペルチェ素子等を用いた冷却装置によってチップ内における試薬が収容された流路がある部分を選択的に冷却する必要がある場合においても、冷却面積が小さく、簡素でコンパクトな装置構成で効率的に試薬を冷却できるマイクロリアクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のマイクロリアクタは、試薬が収容される収容室と、駆動液を収容室に注入するための注入口と、注入された駆動液により収容室から試薬が押し出される出口と、を有する試薬収容部が板状のチップ内に設けられ、試薬が収容された収容室に前記注入口から駆動液を注入することによって前記出口から試薬送出流路へ試薬を押し出すマイクロリアクタであって、
前記試薬収容部の収容室は、その流路幅に対して長さが10倍以上であり、その少なくとも一部が曲がった形状であることを特徴とする。
【0015】
なお、収容室の流路幅は、通常は流路全長に渡り一定であるが、その一部において流路幅が変化する部分がある場合には、流路長手方向のうち大部分を占める一定の流路幅をもつ領域における流路幅をいうものとする。また、流路の断面形状は通常は正方形または矩形であるが、流路幅とは、チップ面と平行な面における最大幅をいうものとする。
【0016】
このように、収容室の形状をその長さに対して流路幅が十分に狭い形状とすることで、試薬が収容された収容室に駆動液を注入して試薬を下流へ押し出して送液する際に、試薬の一部が収容室内に滞留することを有効に防止できる。
【0017】
さらに、上記のように収容室が長い形状であっても、収容室を流路が曲がった形状とすることで、収容室をチップ内の限られた領域へ効率的に配置することができると共に、前記注入口と前記出口を任意の方向へ向けることができる。すなわち、試薬収容部の配置の自由度が高くなる。
【0018】
上記の発明において、前記収容室の前記曲がった部分における内側壁面の曲率半径が前記流路幅の1/5倍以上であり、外側壁面の曲率半径が前記流路幅の1/2倍以上であることが好ましい。
【0019】
このように収容室の曲がった部分における曲率半径を上記範囲内とすることで、当該曲がった部分における試薬の滞留を特に有効に防止できる。
上記の発明において、前記収容室の少なくとも一部の流路における送液方向と、他の部分における送液方向とが成す角度が90°以上であることが好ましい。
【0020】
このようにすることで、例えば複数の試薬収容部をチップ内に配置する場合であっても、これらの試薬収容部を狭い空間内へ効率的に配置することができる。
上記の発明において、前記収容室は、前記曲がった部分を介して流路が複数回折り返した蛇行形状を有することが好ましい。
【0021】
このようにすることで、試薬収容部は、例えば正方形状、矩形状などの簡素な形状の輪郭内に長い流路が効率的に配置された形状となる。そのため、試薬収容部を含む特定範囲内にペルチェ素子などを用いた冷却装置を押し付けて当該範囲を選択的に冷却する必要がある場合においても、冷却部は簡素な形状でありその冷却面積が小さいので、簡素でコンパクトな装置構成で効率的に試薬を冷却することができる。
【0022】
上記の発明において、前記試薬収容部の前記注入口における流路長手方向と、前記出口における流路長手方向とが互いに異なることが好ましい。
このようにすることで、例えばチップを誤って落としてしまった場合など、チップ内に保管している試薬に一方向の力が加えられても、前記注入口における流路長手方向と、前記出口における流路長手方向とが別の方向を向いているので、試薬は試薬収容部外へ漏れ出しにくくなる。すなわち、チップの保管時や移動時等に、試薬収容部外への試薬の漏れ出しを有効に抑制できる。
【0023】
以上の本発明に係るマイクロリアクタは、互いに異なる試薬が収容される複数の試薬収容部が設けられ、その下流に設けられた合流部において複数の試薬収容部からの試薬を合流させて混合する構成のものに好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のマイクロリアクタは、試薬が収容された収容室に駆動液を注入して試薬を下流へ押し出して送液する際に、試薬の一部が収容室内に滞留することがなく、さらに、試薬収容部の配置の自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。図1は、本発明の一実施例におけるマイクロリアクタの試薬収容部を示した図である。同図の試薬収容部33は、樹脂で形成された板状のチップ内に設けられた微細流路における反応部の上流に配置された流路であり、試薬53が収容された収容室34aと、駆動液を収容室34aに注入するための注入口34bと、注入された駆動液により収容室34aから試薬53が押し出される出口34cと、が設けられている。
【0026】
マイクロリアクタを構成するチップにおける駆動液流路51の上流に設けられた開口に不図示のマイクロポンプを連通させ、マイクロポンプによってチップ内に駆動液を送出し、駆動液流路51を通じて注入口34bから収容室34aに駆動液を注入することによって、出口34cから試薬送出流路52へ試薬53が押し出される。押し出された試薬53は、例えば、チップ内に設けられた他の試薬収容部からの試薬と合流して混合された後、その下流において反応に供される。
【0027】
本実施例では、試薬収容部33の注入口34bと出口34cとのそれぞれに、撥水バルブを設けている。この撥水バルブは、図2に示した構造を備えている。同図の撥水バルブ45は、細径の送液制御通路46を備えている。送液制御通路46は、その断面積(流路に対して垂直な断面の断面積)が、上流側の流路47aおよび下流側の流路47bの断面積よりも小さな細い流路である。
【0028】
流路壁が樹脂のような疎水性の材質である場合、送液制御通路46に接する水性の液48は、流路壁との表面張力の差によって、下流側の流路47bへ通過することが規制される。
【0029】
下流側の流路47bへ液48を流出させる際には、マイクロポンプによって所定圧以上の送液圧力を加え、これによって表面張力に抗して液48を送液制御通路46から下流側の流路47bへ押し出す。液48が流路47bへ流出した後は、液48の先端部を下流側の流路47bへ押し出すのに要する送液圧力を維持せずとも液48は下流側の流路47bへ流れていく。すなわち、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで送液制御通路46から先への液の通過が遮断され、所定圧以上の送液圧力が加わることにより液48は送液制御通路46を通過する。
【0030】
上記の撥水バルブの作用によって、試薬保管時には図1の試薬収容部33における注入口34bおよび出口34cから収容室34aの外部へ試薬53が流出することが抑制される。また、使用時には駆動液による上流からの押圧で出口34cの撥水バルブから試薬53が押し出されて送液制御通路46へ流出する。
【0031】
撥水バルブによる液保持力を十分なものとするために、収容室34aにおける注入口34b側と出口34c側のそれぞれに、試薬53に界面で接する油性液と、この油性液に界面で接する水性液とをこの順に収容するようにしてもよい。
【0032】
本実施例において、試薬収容部33の収容室34aは、その流路幅Wに対して長さが10倍以上である細長い形状であり、複数の曲部54を介して流路が複数回折り返した蛇行形状を有している。曲部54を境にして、送液方向はd1からd2へ略180°切り換わり、全体の輪郭が略正方形となるコンパクトな形状とされている。また、曲部54における内側壁面55の曲率半径は流路幅Wの1/5倍以上であり、外側壁面56の曲率半径は流路幅Wの1/2倍以上とされている。
【0033】
このように、収容室34aの形状をその長さに対して流路幅Wが十分に狭い形状とすることで、収容室34aに駆動液を注入して試薬53を下流へ押し出して送液する際に、図6のように試薬53の一部が滞留することを有効に防止できる。
【0034】
さらに、収容室34aの曲部54における曲率半径を上記範囲内とすることで、曲部54において図7のように試薬53の一部が滞留することを有効に防止できる。
なお、上記の各数値範囲は、流体のシミュレーションによっても上記の効果が得られる妥当な範囲として予測できる。
【0035】
さらに本実施例では、曲部54を設けて収容室34aを流路が曲がった形状としているので、収容室34aをチップ内の限られた領域へ効率的に配置することができると共に、注入口34bと出口34cを任意の方向へ向けることができるので、試薬収容部33の配置の自由度が高い。例えば、複数の試薬収容部33をチップ内に配置する場合においては、これらの試薬収容部33を狭い空間内へ効率的に配置することができる点から、収容室33aの少なくとも一部の流路における送液方向と、他の部分における送液方向とが成す角度が90°以上であることが好ましい。
【0036】
さらに本実施例では、収容室34aを蛇行形状とし、略正方形状の簡素な形状の輪郭内に長い流路が効率的に配置された形状としているので、遺伝子増幅反応に用いるマイクロリアクタのように試薬収容部33を含む特定範囲内にペルチェ素子などを用いた冷却装置を押し付けて当該範囲を選択的に冷却する必要がある場合においても、冷却部は簡素な形状でありその冷却面積が小さいので、簡素でコンパクトな装置構成で効率的に試薬53を冷却することができる。
【0037】
本実施例では、注入口34bにおける流路長手方向d3と、出口34cにおける流路長
手方向d4とが互いに異なっており、これらの方向はほぼ直交している。
このようにすることで、例えばチップを誤って落としてしまった場合など、チップ内に保管している試薬に一方向の力が加えられても、前記注入口における流路長手方向と、前記出口における流路長手方向とが別の方向を向いているので、試薬は試薬収容部外へ漏れ出しにくくなる。すなわち、チップの保管時や移動時等に、試薬収容部外への試薬の漏れ出しを有効に抑制できる。
【0038】
図3は、上記実施例の変形例を示した図である。なお、同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。本変形例では、基本的な構成は上記実施例と同様であるが、蛇行形状の方向を切り換える部分において、2つの曲部54を介して流路を反対方向へ切り換えるようにしている。このような流路形状としても、上記実施例と同様の作用を示し、結果として同様の効果が得られる。
【0039】
図4は、本発明のマイクロリアクタにおける別の実施例を示した平面図である。本実施例のマイクロリアクタは、検体をチップ内の流路に注入し、流路内において試薬とICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification)法によって反応させて検体中の遺伝子を増幅し、その検出を行うものである。
【0040】
同図のマイクロリアクタ1には、試薬収容部33a,33b,33cのそれぞれに3種類の試薬が収容されている。これらの試薬収容部33a,33b,33cは、図1の実施例に示したような蛇行形状であり、その両端部(試薬収容部33aでは上流側の注入口34bおよび下流側の出口34c)には、図2に示した構造の撥水バルブが設けられ、これらの撥水バルブ間の流路に試薬が封入されている。
【0041】
本実施例では、試薬収容部33a,33b,33cの幅は500μm、曲部で折り返さ
れて互いに送液方向が逆となる隣接する流路同士の間隔は500μmである。曲部における曲率半径は、内側壁面が250μm、外側壁面が750μmである。試薬収容部33a,33cの全長はそれぞれ43mm、試薬収容部33bの全長は17mmである。
【0042】
なお、詳細な説明は省略するが、図4のマイクロリアクタ1の微細流路には、試薬収容部33a〜33cの両端部以外の位置にも図2の撥水バルブが設けられており、例えば、混合試薬と試料との合流部38における混合試薬の入口と試料の入口などにも上記の撥水バルブが設けられる。これらの撥水バルブによってその先の流路への送液開始のタイミングが制御される。
【0043】
図4の試薬収容部33a〜33cの上流側には、マイクロリアクタ1の一方の面から外部へ開放された開口32c〜32eが設けられている。これらの開口32c〜32eは、マイクロリアクタ1を後述するマイクロポンプユニットに重ね合わせて接続した際に、マイクロポンプユニットの接続面に設けられた流路開口と位置合わせされてマイクロポンプに連通される。
【0044】
なお、開口32a,32bおよび32f〜32kも同様に、マイクロリアクタ1とマイクロポンプユニットとの接続によってマイクロポンプに連通される。これらの開口32a〜32kを含むチップ面によってポンプ接続部が構成され、ポンプ接続部をマイクロポンプユニットの接続面に密着させることによってマイクロリアクタ1とマイクロポンプユニットとが接続される。
【0045】
試薬収容部33a〜33cに収容された試薬は、開口32c〜32eに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプによって開口32c〜32eから駆動液を流し込むことによって、試薬収容部33a〜33cの下流側端部に設けられた撥水バルブより先へ押し出されて合流部35に流れ込み、その先に続く試薬混合流路36で3種類の各試薬が混合される。
【0046】
その後、混合試薬は、試料受容部37に収容された試料と合流部38で合流する。なお、混合試薬は開口32bに連通したマイクロポンプによって駆動液で下流へ押し出され、試料は開口32aに連通したマイクロポンプによって駆動液で下流へ押し出される。混合試薬と試料との混合液は、反応部39へ収容され加熱によって遺伝子増幅反応が開始される。
【0047】
反応後の液は、検出部40へ送液され、例えば光学的な検出方法などによって標的物質が検出される。なお、開口32f〜32jに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプによって、これらの開口から先の流路に予め収容された各試薬(例えば混合試薬と試料との反応を停止させる液、検出対象の物質に対して標識などの必要な処理を行うための液、洗浄液など)を所定のタイミングで下流へ押し出して送液するようにしている。
【0048】
図5は、図4のマイクロリアクタに使用されるマイクロポンプユニットの一部を示した斜視図である。このマイクロポンプユニット11は、シリコン製の基板17および、陽極接合されたガラス製の基板18,19から構成されている。
【0049】
基板17と基板18との間の内部空間によってマイクロポンプ12が構成されている。マイクロポンプ12は、ピエゾアクチュエータを用いた特開2001−322099号公報等に開示された構造の双方向駆動ポンプである。
【0050】
基板19には、流路20がパターニングされており、流路20の下流側には、図4のマイクロリアクタ1の開口32a〜32kに位置合わせすることによりマイクロポンプ12をチップの微細流路に連通させるための開口15が設けられている。
【0051】
流路20の上流側は、基板18の貫通孔16bを介して、基板17に設けられた流路を通りマイクロポンプ12に連通されている。また、マイクロポンプ12の上流側は、基板17に設けられた流路から基板18の貫通孔16aを介して、基板19に設けられた開口14に連通されている。この開口14は、パッキンを介して不図示の駆動液タンクに接続されている。
【0052】
開口15a,15b,15cはそれぞれ、図4のマイクロリアクタ1の開口32c,32d,32eと連通される。マイクロポンプ12によって、流路20、開口15a、開口32cを通じて駆動液を送液して試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、流路20、開口15b、開口32dを通じて駆動液を送液して試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、流路20、開口15c、開口32eを通じて駆動液を送液して試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出す。
【0053】
反応および検出の一連の分析工程は、マイクロポンプ、温度制御装置、検出装置などが一体化されたシステム本体に、図4のマイクロリアクタ1を装着した状態で行なわれる。すなわち、試料および試薬の送液、増幅反応前後における各種の処理、液の混合に基づく所定の反応および光学的測定等が、一連の連続的工程として自動的に実施され、その測定データは必要な条件や記録事項とともにデータとして格納される。
【0054】
マイクロリアクタ1における試薬収容部33a〜33cの領域は、システム本体に設置されたペルチェ素子をチップ裏面から押し付けることにより選択的に冷却され、これによって試薬の変質等を防止するようにしている。一方、反応部39の領域は、ヒーターをチップ裏面から押し付けることにより選択的に加熱し、これによって反応部39を反応に適した温度にするようにしている。
【0055】
この際、図4の実施例では、試薬収容部33a〜33cを蛇行形状とし全体の輪郭を略正方形または略矩形状の簡素かつコンパクトな形状としているので、チップの冷却領域も簡素な形状となり、さらにその冷却面積が小さくなるので、簡素でコンパクトな装置構成で効率的に試薬を冷却することができる。
【0056】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の一実施例におけるマイクロリアクタの試薬収容部を示した図である。
【図2】図2は、撥水バルブを示した図である。
【図3】図3は、図1の実施例における試薬収容部の変形例を示した図である。
【図4】図4は、本発明のマイクロリアクタにおける別の実施例を示した平面図である。
【図5】図5は、図4のマイクロリアクタに使用されるマイクロポンプユニットの一部を示した斜視図である。
【図6】図6は、マイクロリアクタの試薬収容部の一例を示した図である。
【図7】図7は、マイクロリアクタの試薬収容部の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
1 マイクロリアクタ
11 マイクロポンプユニット
12 マイクロポンプ
13 チップ接続部
14 開口
15,15a〜15c 開口
16a 貫通孔
16b 貫通孔
17 基板
18 基板
19 基板
20 流路
32a〜32k 開口
33,33a〜33c 試薬収容部
34a 収容室
34b 注入口
34c 出口
35 合流部
36 試薬混合流路
37 試料受容部
38 合流部
39 反応部
40 検出部
45 撥水バルブ
46 送液制御通路
47a 上流側の流路
47b 下流側の流路
48 液
51 駆動液流路
52 試薬送出流路
53 試薬
54 曲部
55 内壁
56 外壁
W 流路幅
1 試薬の進行方向
2 試薬の進行方向
3 駆動液注入方向
4 試薬押し出し方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬が収容される収容室と、駆動液を収容室に注入するための注入口と、注入された駆動液により収容室から試薬が押し出される出口と、を有する試薬収容部が板状のチップ内に設けられ、試薬が収容された収容室に前記注入口から駆動液を注入することによって前記出口から下流側の流路へ試薬を押し出すマイクロリアクタであって、
前記試薬収容部の収容室は、その流路幅に対して長さが10倍以上であり、その少なくとも一部が曲がった形状であることを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項2】
前記収容室の前記曲がった部分における内側壁面の曲率半径が前記流路幅の1/5倍以上であり、外側壁面の曲率半径が前記流路幅の1/2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
前記収容室の少なくとも一部の流路における送液方向と、他の部分における送液方向とが成す角度が90°以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
前記収容室は、前記曲がった部分を介して流路が複数回折り返した蛇行形状を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
前記試薬収容部の前記注入口における流路長手方向と、前記出口における流路長手方向とが互いに異なることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
互いに異なる試薬が収容される複数の試薬収容部が設けられ、その下流に、該複数の試薬収容部からの試薬が合流する合流部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロリアクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−237021(P2007−237021A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59691(P2006−59691)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】