説明

マイクロ波を用いた誘電加熱装置

【課題】エネルギー効率に優れ、加熱対象物に対して簡単な構造で効率よく加熱することができる。
【解決手段】誘電加熱装置1は、断面形状が楕円形をなす空胴部2を有する空胴体3と、空胴部2の内部にマイクロ波Mを供給するための発振器4と、一端が発振器4に接続されていて他端が空胴部2に連通して設けられた導波管5と、空胴部2の外周の一部に開口して形成された開口部6とを備え、空胴部2において、マイクロ波Mの電界の向きが空胴部2の断面に対して直交する方向の厚さ方向に一致するとともに、楕円短軸y付近にマイクロ波Mのエネルギーが集中する共振による電磁界集中領域Tを形成することで、発振器4から発振されるマイクロ波Mが導波管5を介して空胴体3内(空胴部2)に伝達され、空胴体3の開口部6から加熱対象物Kに向けてマイクロ波Mを放射する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波のエネルギーを与えることで加熱対象物を加熱するためのマイクロ波を用いた誘電加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルト舗装の補修工事等では、アスファルト混合物を溶解したり、アスファルト舗装表面に撒かれた溶剤を速く揮発させるために、アスファルト舗装表面を広い面積にわたって加熱することが行われている。このような加熱方法として、重油等を燃焼させたバーナによる加熱方式が一般的であるが、間接加熱であることから、加熱効率が低く、且つ過熱によるアスファルトの劣化が問題となっている。
【0003】
一方、骨材に含まれる水分を利用したマイクロ波加熱による加熱方法も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このマイクロ波加熱では、マイクロ波発振器から発振されたマイクロ波を導波管を介して放射させ、その放射させたマイクロ波によって加熱対象物を加熱する構成となっている。この場合、直接加熱であることから効率が高く、アスファルト自身がマイクロ波によってほとんど加熱されないことから、アスファルトの加熱溶解時に過熱による劣化の発生が抑えられるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−303408号公報
【特許文献2】特開平9−189008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のマイクロ波加熱による加熱方式では、以下のような問題があった。
すなわち、マイクロ波加熱ではエネルギー効率を高くする観点から、電磁界分布が明確で単純な形になる共振状態を利用することが期待されるが、加熱対象物が存在してなおこの共振状態を維持することは困難な課題であり、実際の加熱方式として採用されることは少ない。そのため、従来提案されているマイクロ波加熱装置にあっては、導波管から直接マイクロ波を放射させる構成であり、上述したような共振状態を利用してマイクロ波を加熱対象物に対して放射する構成ではなく、マイクロ波を使用した誘電加熱の利点を十分に発揮されていない現状があり、よりエネルギー効率の高い加熱方法が求められており、その点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、エネルギー効率に優れ、加熱対象物に対して簡単な構造で効率よく加熱することができるマイクロ波を用いた誘電加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、加熱対象物にマイクロ波のエネルギーを与えて加熱するマイクロ波を用いた誘電加熱装置であって、断面形状が楕円形又は円形をなす空胴部を有する空胴体と、空胴部に導波管を介してマイクロ波を供給するマイクロ波発振器と、空胴部の短軸付近の周の一部に形成された開口部とを備え、空胴部は、マイクロ波の電界の向きが空胴部の断面に対して直交する方向の厚さ方向に一致するとともに、短軸付近にマイクロ波のエネルギーが集中する共振状態を形成する構成とされたことを特徴としている。
【0008】
本発明では、空胴部を楕円形断面又は円形断面とし、且つ空胴部内におけるマイクロ波の電界の向きを空胴部の断面に対して直交する方向の厚さ方向に一致させた構成であるので、空胴部の短軸付近に電磁波を集中させ、好適な電磁界集中領域を形成することができる。つまり、空胴部の短軸付近に電磁界のエネルギーを集中させやすい構造となり、好適で且つ堅固な場をなす電磁界集中領域を形成することができる。そして、空胴部に形成された安定した電磁界を崩さない位置に開口部を設けることで、その空胴部から一定強度のマイクロ波を開口部から外部へ放射させることができ、マイクロ波供給の安定性を確保することでき、加熱対象物を効率よく加熱することができる。しかも、開口部を備え空胴部を有する空胴体を導波管に装備するといった簡単な構造により実現することができる。
【0009】
また、誘電加熱装置を横移動させることで、開口部の位置を移動させることができ、これにより所定面積の加熱領域全体にわたって加熱することが可能となる。例えば、加熱対象物がアスファルト混合物である場合には、マイクロ波によって内部の水分や骨材が直接加熱されることでその周囲のアスファルトも間接的に加熱され、アスファルト混合物を溶融することができる。そのため、アスファルト自体の過熱による熱劣化を防ぐことが可能となり、マイクロ波加熱における直接加熱の特性を効果的に発揮することができる。
【0010】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、空胴部の断面形状は、楕円形であることが好ましい。
本発明では、とくに短軸長と長軸長の比率を1:√2とした楕円形断面とすることで、ファブリ・ペロ共振器を模擬することができ、好適で且つ堅固な場をなす電磁界集中領域を形成することができる。
【0011】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、開口部は、短軸から周方向の一方に向けてマイクロ波の波長で略半波長以上、離れた位置に設けられていることが好ましい。
本発明では、開口部を短軸から周方向の一方に向けてマイクロ波の波長で略半波長以上離れた位置とすることで、空胴部内の短軸付近に形成されるマイクロ波の電磁界分布に乱れを生じさせることなく、エネルギーが集中した状態で安定したモードを維持することができ、これにより開口部から加熱に有効なマイクロ波の放射を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、開口部は、空胴部の周方向に延びる開口幅がマイクロ波の波長で略1波長であることが好ましい。
本発明では、短軸から周方向の一方に向けてマイクロ波の波長で略半波長から略1.5波長の間に開口部を配置することで、空胴部内の電磁界分布を安定状態に保ち、且つより加熱に有効なマイクロ波を開口部から放射することができる。
【0013】
また、本発明に係るマイクロ波を用いた誘電加熱装置では、空胴体には、開口部を加熱対象物に当接させた状態で、その当接部の周囲を覆う遮蔽部材が設けられていてもよい。
この場合、開口部から放射される加熱対象物に対して供給されるマイクロ波が遮蔽部材によって遮蔽されるから、マイクロ波の空気中への漏出を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマイクロ波を用いた誘電加熱装置によれば、空胴部の短軸付近にマイクロ波のエネルギーを集中させ、好適な電磁界集中領域を形成するとともに、空胴部に形成された安定した電磁界を崩さない位置に開口部を設けることで、その空胴部から一定強度のマイクロ波を開口部から加熱対象物に向けて放射させることができ、マイクロ波の供給の安定性を確保することで加熱対象物を簡単な構造で効率よく加熱することができ、エネルギー効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態による誘電加熱装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す誘電加熱装置の破断断面図である。
【図3】実施例1による誘電加熱装置における空胴部内に形成されるマイクロ波の電磁界分布を示す写真である。
【図4】実施例1の試験3におけるアスファルト舗装の表面温度分布を示す写真である。
【図5】(a)〜(f)は、実施例2における供試体の表面温度分布を示す写真である。
【図6】本実施の形態の変形例による電磁界分布を示す図である。
【図7】本実施の形態の変形例による誘電加熱装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0017】
図1に示す誘電加熱装置1は、マイクロ波のエネルギーを加熱対象物K(図2参照)に与えて加熱溶融するためのものである。加熱対象物Kとしては、例えば既設のアスファルト舗装体の表層を構成するアスファルト混合物が挙げられ、加熱対象物Kを現場で再生処理する施工等が適用対象となる。つまり、加熱対象物Kの要補修箇所に誘電加熱装置1を持ち込み、その現場において再生処理を行う際に用いられる。
【0018】
図2に示すように、誘電加熱装置1は、断面形状が楕円形をなす空胴部2を有する空胴体3と、空胴部2の内部にマイクロ波Mを供給するためのマイクロ波発振器(以下、単に「発振器4」という)と、一端が発振器4に接続されていて他端が空胴部2に連通して設けられた導波管5と、空胴部2の外周の一部に開口して形成された開口部6とを備えて概略構成されている。すなわち、発振器4から発振されるマイクロ波Mが導波管5を介して空胴体3内(空胴部2)に伝達され、さらに空胴体3の開口部6から加熱対象物Kに向けてマイクロ波Mを放射するように構成されている。
ここで、楕円形状をなす空胴部2において、楕円中心Oを通る楕円短軸を符号yとし、同じく楕円長軸を符号xとして以下説明する。
【0019】
発振器4は、例えば1kWの電源により周波数2.45GHzのマイクロ波Mを発振させ、そのエネルギーを導波管5を通じて空胴部2の内部に伝達するためのものである。
【0020】
導波管5は、スタブ整合器を含むものが採用されている。そして、この導波管5の空胴部2に対する取付け位置は、楕円形断面をなす空胴部2の楕円短軸y付近にマイクロ波Mのエネルギーが集中する状態において、電界強度が強い部分(後述する電磁界集中領域Tに相当)を避けた位置であって、空胴部2の楕円中心Oを挟んで開口部6に対してほぼ対称の位置となっている。そして、導波管5は、発振器4より発振される2.45GHzのマイクロ波Mが進行可能な適宜な幅寸法に設定されている。導波管5が電磁界集中領域Tを避けた位置に設けられているので、電磁界集中領域Tが導波管5によって供給されるマイクロ波Mの影響を受けることがなく安定した状態となり、開口部6より放射されるマイクロ波Mの強度が一定となる。
【0021】
空胴体3は、一定の厚さをもつとともに、短軸長Y1と長軸長X1との比率(アスペクト比)が略1:√2となる楕円形状に形成された空胴部2を有している。例えば、空胴部2の厚さ寸法(図1に示す符号D)は、マイクロ波Mの1波長以下の寸法をなしている。そして、空胴体3の内面は、安定した電磁界を形成するうえで銅、アルミニウムなどの導電性、耐熱性を有する金属製の材料であることが好ましく、例えば金属箔の部材で被覆されている。なお、空胴体3の外周面の材質は、金属製の部材である必要はない。
【0022】
空胴部2では、内部に発振器4から伝達されるマイクロ波Mの電界の向きを空胴部2の厚さD方向(図1)に一致させ、そのマイクロ波Mのエネルギーが楕円短軸y付近に集中した状態、すなわちマイクロ波Mの電磁界分布が楕円短軸y付近に集中する領域(共振による電磁界集中領域T)を形成することで、電磁界を安定させる構成となっている。具体的には電磁界集中領域Tは、楕円短軸y付近に、その楕円短軸y方向に沿って一定の間隔をもってほぼ同一の大きさの複数個(ここでは7個)のピーク(電界の強い部分)が配列する電磁界分布となっている。
【0023】
なお、共焦点条件とは、楕円短軸y付近を近似する2個の対向する放物線が楕円中心Oにそれらの焦点をもつものである。この条件を満足する楕円を断面として有する空胴部2は、電界が断面垂直方向になるように使用する場合、断面垂直方向に均一で、且つ、楕円短軸y付近にエネルギーが集中するモードを発生させ易い構成となり、空胴部2の内部に安定したモードの電磁界分布が形成される。
【0024】
空胴体3に形成される開口部6は、楕円短軸yから周方向の一方(図2では周方向で時計回りの方向)に向けてマイクロ波Mの波長で略半波長の位置から略1.5波長の位置までであり、つまり開口幅(図2に示す符号W1)が1波長程度となっている。つまり、開口部6は、空胴部2内の電磁界の集中が乱れない位置、すなわち電磁界集中領域Tの形成を妨げたり、変動を与えたりしない位置に配置されている。ここで、図2の符号W2は、上述した楕円短軸yから開口部6までの長さ寸法である。
なお、開口部6の位置および開口幅W1を適宜寸法に調整することにより、空胴部2内の電磁界を安定した状態(つまり、マイクロ波Mのエネルギーが楕円短軸y付近に集中した状態)に保ちつつ、開口部6からマイクロ波Mを安定して放射させることができる。そして、開口部6が加熱対象物Kに接することで、その加熱対象物Kに空胴部2を介してマイクロ波Mのエネルギーが与えられて加熱されるようになっている。
【0025】
次に、誘電加熱装置1の作用について、図面に基づいてさらに具体的に説明する。
図2に示すように、誘電加熱装置1において、空胴体3の開口部6を加熱対象物Kの加熱面に当てた状態とし、発振器4から導波管5を介して空胴部2にマイクロ波Mが供給されると、そのマイクロ波Mは一旦、楕円形断面をなす空胴部2内に蓄えられた後、開口部6からマイクロ波Mが放射され、そのエネルギーを加熱対象物Kに供給する。
つまり、空胴部2内におけるマイクロ波の電界の向きを空胴部2の厚さ方向(紙面に垂直となる方向)に一致させ、空胴部2の楕円短軸y付近に電磁波を集中させることで、好適な電磁界集中領域Tを形成して蓄えた状態とする。
【0026】
このとき、空胴部2の短軸長Y1と長軸長X1との比率が1:√2となる楕円形断面とすることで、ファブリ・ペロ共振器を模擬することができ、空胴部2の楕円短軸y付近に電磁界のエネルギーが集中し易くなるとともに、電磁界分布が安定しその崩れが抑えられることから、好適で且つ堅固な場をなす電磁界集中領域Tを形成することができる。すなわち、導波管5と加熱対象物Kとの間にQ値(共振状態を示す周知の値)の高い空胴部2を介挿させることで、加熱対象物Kのコンディションに左右されない崩れ難い電磁界分布を実現することが可能となる。
【0027】
これにより、一定強度のマイクロ波Mを開口部6から外部へ放射させることができ、マイクロ波供給の安定性を確保することでき、加熱対象物Kに対して効率よく加熱することができる。しかも、開口部6を備え空胴部2を有する空胴体3を導波管5に装備するといった簡単な構造により実現することができる。
【0028】
ここで、加熱対象物Kがアスファルト舗装体の表層を構成するアスファルト混合物である場合には、アスファルト混合物内部の水分にマイクロ波Mが吸収され、その水分や骨材が直接加熱されることでその周囲のアスファルトも間接的に加熱し、アスファルト混合物が溶融して軟化状態となる。そのため、アスファルト自体の過熱による熱劣化を防ぐことが可能となり、マイクロ波加熱の直接加熱方式という特性を効果的に発揮することができる。また、例えば、アスファルト舗装体の表層下部に金属板や金網を敷設することで、加熱効率を高めるようにしてもよい。
【0029】
なお、開口部6を加熱対象物Kに当接させた状態で、空胴体3の周囲の加熱対象物Kを簡易なシート状の遮蔽部材等(図示省略)で覆うことで、開口部6から放射して加熱対象物K内に供給されたマイクロ波Mが外方の空気中に漏出するのを抑制することができ、その放射したマイクロ波Mのエネルギーの全てが加熱対象物Kに供給されて加熱することが可能となるので、エネルギー効率の向上を図ることができる。
【0030】
さらに誘電加熱装置1を図示しない車両に装備することで、開口部6を加熱対象物Kに当てた状態のまま移動自在な構造としてもよい。この場合、装置自体を任意に横移動させ、この横移動とともに開口部6の位置を移動させることで、所定面積の加熱領域全体にわたって加熱することが可能となる。
【0031】
また、上述した誘電加熱装置1を用いて、アスファルト舗装体の再生処理を現場で行う方法について簡単に説明する。
先ず、空胴体3の開口部6を加熱対象となるアスファルト舗装体の表面に当てるようにして設置する。そして、このアスファルト舗装体の表層をマイクロ波により例えば80℃程に加熱し、柔らかくする。これにより、加熱したアスファルト表層がほぐし易くなり、切削が容易になるとともに、切削音が小さくなるといった施工上の利点が得られる。
つまり、本再生処理による作業は、標準的な作業手順とほぼ同様であり、従来の加熱装置である間接加熱方式の路面ヒータに代えて誘電加熱装置1を使用し、この誘電加熱装置1による加熱により溶解して柔らかい状態となった舗装表層を誘電加熱装置1の後方に配置されたカッタで掻きほぐし、それをミキサに投入して新規アスファルト混合物や再生用添加材料などと混合して舗装表層部に排出し、スクリードによって敷き均し、その後、転圧ローラによって締め固めるといった一連の作業手順により再生処理が行われる。
【0032】
上述のように本実施の形態によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置1では、空胴部2の楕円短軸y付近にマイクロ波Mのエネルギーを集中させ、好適な電磁界集中領域Tを形成するとともに、空胴部2に形成された安定した電磁界を崩さない位置に開口部6を設けることで、その空胴部2から一定強度のマイクロ波Mを開口部6から加熱対象物Kに向けて放射させることができ、マイクロ波Mの供給の安定性を確保することで加熱対象物Kを簡単な構造で効率よく加熱することができ、エネルギー効率の向上を図ることができる。
【実施例】
【0033】
次に、上述した実施の形態によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、上述した誘電加熱装置を使用し、屋外のアスファルト舗装面にマイクロ波を照射して加熱し、その加熱面の温度(℃)をサーモグラフィーで測定した。ここで、使用した誘電加熱装置は、空胴部の厚さ寸法が5.5cm、長軸半径が314mm、短軸半径が222mm、開口部の短軸からの距離が54mmであり、開口部の幅寸法が130mmである。そして、表1に示すように、試験1ではマイクロ波出力を1kWとし、加熱時間180秒で行い、試験2ではマイクロ波出力を2kWとし、加熱時間90秒で行い、試験3ではマイクロ波出力2.5kWとし、加熱時間60秒で行った。そして、装置の周囲のアスファルト舗装面は、遮蔽部材となるアルミ板で覆った状態で試験した。
図3は、本実施例1による条件下における空胴部内のマイクロ波の電磁界分布の状態を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、試験の結果、加熱面の最高温度は、試験1で165℃、試験2で200℃、試験3で195℃となった。なお、図4は、試験3におけるサーモグラフィーで測定した表面温度分布の結果を示す写真であり、中央部分Pの最高温度が195℃となっている。
このように、本実施例1では、試験1〜3のいずれも、アスファルト溶融に必要な80℃程度を大きく上回る温度で安定して加熱することが可能であることが確認できた。
【0037】
(実施例2)
実施例2は、屋内実験によるものであり、上述した誘電加熱装置を使用し、アスファルト混合物からなる供試体に対してマイクロ波を照射して加熱し、その加熱面の温度(℃)をサーモグラフィーで測定した。
ここで、使用した誘電加熱装置は、上述した実施例1と同様で、空胴部の厚さ寸法が5.5cm、長軸半径が314mm、短軸半径が222mm、開口部の短軸からの距離が54mmであり、開口部の幅寸法が130mmである。そして、マイクロ波の入射電力を2.7kWとし、反射電力が60Wであり、このときの漏れが0.2mW/cmであり、初期温度20℃の供試体に対して60秒間加熱した。供試体は、縦300mm×横300mm×厚さ50mmの板状のものを3枚積層させ、細かい真鍮の金網で覆った構造とした。
【0038】
図5は、実施例2におけるサーモグラフィーで測定した表面温度分布の結果を示す写真であり、(a)が表面(加熱面)側の1枚目の供試体表面、(b)が1枚目の供試体裏面、(c)が2枚目の供試体表面、(d)が2枚目の供試体裏面、(e)が3枚目の供試体表面、(f)が3枚目の供試体裏面を示している。図5(a)に示すように、供試体の1枚目の表面温度の最高温度は200℃程度まで上昇していることが確認できた。また、1枚目から3枚目の供試体裏面側になるにしたがって漸次温度が低くなっているが、2枚目の供試体表面(図5(c))の温度は100℃程度あり、2枚目の供試体裏面(図5(d))の温度でも60℃程度あることが確認できる。
このことから、本実施例2では、供試体の表面から60〜70mmまでの深さまでは、アスファルト溶融に必要な80℃程度の温度に安定して加熱することが可能であることが確認できた。
【0039】
以上、本発明によるマイクロ波を用いた誘電加熱装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では、図2に示すようにほぼ同一の大きさの7個のピークが楕円短軸y方向に配列した電磁界分布の例を示しているが、これに限定されることはない。例えば、図6に示す変形例のように、楕円短軸y方向で導波管5側から離れるにしたがって順次電磁界集中領域Tの幅寸法が広がるような電磁界分布であってもかまわない。要は、電磁界分布にばらつきが無く、楕円短軸y付近にエネルギーが集中した状態であり、且つ開口部6の影響を受けて分布が乱れない状態であればよいのである。
【0040】
また、本実施の形態では空胴部2の平面視形状を楕円形としているが、楕円形であることに限定されることはなく、円形、或いは楕円を僅かに外れるような形状であってもかまわない。但し、円の場合には楕円短軸yの向きを特定することができないので、電磁界集中領域Tの向きを固定することが難しい。つまり、空胴部2の形状に僅かな変化が生じたときに、電磁界集中領域Tの向きが変わる可能性があるため、円形断面より楕円形断面の方が確実に電磁界集中領域Tを安定させることができる。
【0041】
さらに、本実施の形態の誘電加熱装置1の使用方法として、図7に示すように、導波管5に回動自在な複数(図7では2つ)の可動部5a、5bを設け、路面(加熱対象物の加熱面)の凹凸形状に追従して空胴体3を上下に移動させることが可能な構造として用いるようにしてもよい。
【0042】
さらにまた、空胴部2の厚さ寸法D、アスペクト比、開口部6の開口幅W1などの構成は、本実施の形態に限定されることはなく、上述した空胴部2内の電磁界を安定させることができ、加熱対象物Kを所望温度で加熱させることができる範囲で任意に設定することができる。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 誘電加熱装置
2 空胴部
3 空胴体
4 発振器
5 導波管
6 開口部
K 加熱対象物
M マイクロ波
T 電磁界集中領域
D 空胴部の厚さ寸法
W1 開口幅
y 空胴部の楕円短軸
x 空胴部の楕円長軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物にマイクロ波のエネルギーを与えて加熱するマイクロ波を用いた誘電加熱装置であって、
断面形状が楕円形又は円形をなす空胴部を有する空胴体と、
前記空胴部に導波管を介してマイクロ波を供給するマイクロ波発振器と、
前記空胴部の短軸付近の周の一部に形成された開口部と、
を備え、
前記空胴部は、前記マイクロ波の電界の向きが前記空胴部の断面に対して直交する方向の厚さ方向に一致するとともに、前記短軸付近に前記マイクロ波のエネルギーが集中する共振状態を形成する構成とされたことを特徴とするマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項2】
前記空胴部の断面形状は、楕円形であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記短軸から周方向の一方に向けて前記マイクロ波の波長で略半波長以上、離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項4】
前記開口部は、前記空胴部の周方向に延びる開口幅が前記マイクロ波の波長で略1波長であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。
【請求項5】
前記空胴体には、前記開口部を前記加熱対象物に当接させた状態で、その当接部の周囲を覆う遮蔽部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロ波を用いた誘電加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165407(P2011−165407A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24716(P2010−24716)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPO (130)
【Fターム(参考)】