説明

マイクロ波ドップラーセンサ

【課題】 ドップラーセンサ自身の持つノイズや蛍光灯などの影響によるノイズの影響を受けることなく高精度に動体を検出することができるマイクロ波ドップラーセンサを提供すること。
【解決手段】 局部発振器11からの出力信号を送信アンテナ13から出射し、対象物20からの反射波を受信アンテナ14で受信する。出力信号は、第1ミキサ12に直接注入し、第2位相器17を介して第2ミキサ18に注入する。反射波は、第1位相器16を介して第1ミキサに入力し、第2ミキサへは直接入力する。各位相器は位相を90度遅らせる。動体からの反射波は、ドップラー効果により周波数変調されるので、各ミキサから混合信号として出力されるドップラー信号は位相差が180度生じる。第2ミキサによる混合信号を負帰還増幅器19を用いて局部発振器11で生成される信号を振幅変調する。ノイズ等の不要な振幅性雑音成分は位相差が生じないため抑圧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波ドップラーセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的なホモダイン検波によるドップラーセンサの一例を示している。図1に示すように、局部発振器1の出力が、ミキサ2並びに送信アンテナ3に接続されている。また、ミキサ2には、受信アンテナ4にて受信した受信信号も入力され、そこにおいて受信信号と局部発振器1からの出力信号とが周波数混合される。さらに、そのミキサ2の出力が、動体検出判定部5に与えられ、動体の有無を判断するようになる。
【0003】
すなわち、送信アンテナ3から出射された出力信号は、その前方に位置する対象物6に到達し、そこで反射された反射波が受信アンテナ4で受信される。この受信アンテナ4で受信した受信信号の周波数つまり反射波の周波数は、対象物6が固定されているとすると、出力信号の送信周波数、つまり局部発振器1の発振周波数と同一となる。従って、ミキサ2の出力は、0Hz(直流)となる。
【0004】
一方、対象物6が移動する動体の場合、ドップラー効果により反射波の周波数は送信周波数と異なる。従って、動体である対象物6からの反射波を受信アンテナ4で受信した場合のミキサ2の出力は、所定周波数の交流信号となる。そして、その周波数は、対象物6の移動速度などに応じた値となり、例えば100Hzとなる。
【0005】
そこで、動体検出判定部5は、バンドパスフィルタ,増幅器並びにCPUなどから構成され、例えば、ミキサ2から出力される信号の周波数が、3Hzから200Hzの場合に、動体を検出したと判定するようにしている。そして、このようなドップラーセンサを応用した人体検知装置としては、例えば特許文献1等に開示されたものがある。
【0006】
係るドップラーセンサには、以下に示す問題がある。すなわち、マイクロ波ドップラーセンサでは、マイクロ波を生成する局部発振器にマイクロ波帯での発振を可能としたFET等の半導体が用いられている。このようなFETを用いた発振器は、一般的に振幅性雑音が多く含まれており、この振幅性雑音成分が検波出力であるミキサ2の出力、すなわちドップラー信号に現れることで動体検出判定部5ではSN比の劣化による誤動作が生じ、高精度に動体を検出することができない。
【0007】
別の問題として、ドップラーセンサを設置した付近に蛍光灯が存在した場合、その蛍光灯の放電により反射波が変調されるため、誤動作を生じる。つまり、商用電源周波数は50Hzとすると、蛍光灯の放電周期はその2倍の100Hzとなる。
【0008】
従って、蛍光灯が消灯しているときには、蛍光管は放電しないので単なる固定物となり、ミキサ2から出力される信号の周波数は0Hz(直流信号)になる。一方、蛍光灯が点灯している場合には、放電と非放電を繰り返すことになり、放電時の蛍光管の反射率と、非放電時の反射率の相違から、受信アンテナ4にて受信される信号は、振幅変調がかかる。さらに、実際には、放電による反射は、多方向から受信アンテナ4に入射するので、複雑な振幅変調となる。従って、ミキサ2から出力される信号は、固定物の場合の直流信号に係る振幅変調された変調波が重畳されることになる。そのため、動体からの反射によるものと同じ100Hz及びその高調波がミキサ2から出力されることになる。その結果、動体検出判定部5は、例えば、ミキサ2から100Hzの信号が出力された場合、正規の検出対象であるか、蛍光灯(蛍光管)からの反射波かを区別することができず、誤判定するおそれがある。
【0009】
係る問題を解決するためには、例えば、動体検出判定部5に不要な帯域を排除するため、適宜バンドパスフィルタ等のフィルタを設けることが考えられる。さらに、蛍光灯の影響を排除するには、振幅性雑音成分である100Hzだけを検出しないようにノッチフィルタを設けることが考えられるが、蛍光灯の影響を完全になくすためには、100Hzの高調波成分まで考慮しなければならず複雑なフィルタ等を設計しなければならない。しかし、このような構成をとったとしても局部発振器が元来持つ振幅性雑音成分は広帯域に分布しているため、必要する周波数帯にも振幅性雑音成分が存在し振幅性雑音成分を抑圧する根本的な解決策とはならない。
【0010】
この問題を解決するための従来技術としては、特許文献2がある。この特許文献2に開示された発明は、ドップラーセンサに2つミキサを設け、2つのミキサの出力の位相差を180度として差動増幅器に入力することで同相成分である雑音成分のみを抑圧し、逆相成分であるドップラー信号成分を伸張するようにしたものである。
【0011】
具体的には図2に示すように、所定周波数の出力信号を生成する信号生成手段11と、信号生成手段11で生成された出力信号を出力する送信アンテナ13と、送信アンテナ13から出力された出力信号の反射波を受信する受信アンテナ14と、前記反射波と前記出力信号とを周波数混合するミキサと、そのミキサから出力される混合信号に基づいて動体を検出する動体検出判定部15と、を備えたマイクロ波ドップラーセンサにおいて、前記ミキサを2個(第1ミキサ12および第2ミキサ18)設けるとともに、それら2個のミキサに対してそれぞれ前記反射波と前記出力信号を注入して周波数混合するようにし、前記2つのミキサ12,18への前記出力信号の各注入経路並びに、前記受信信号の各入力経路を流れる信号の位相を変更する位相器16,17を設け、前記2つのミキサから出力される混合信号の位相差が180度になるようにし、また、前記2つのミキサの出力を差動増幅器10で差動増幅する構成として振幅性雑音成分を抑圧するようにされている。
【特許文献1】特開2001−283347号公報
【特許文献2】特開2004−85396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献2の発明によれば、蛍光灯等の影響を排除することができる。しかし、係るドップラーセンサには、以下に示す問題がある。すなわち、蛍光灯等からの振幅性雑音成分の影響をなくすためには、差動増幅器の増幅段において2つのミキサ出力からの雑音成分レベルを正確に合わせ込む必要があるため、その調整が煩雑である。また、一度2つのミキサ出力からの雑音成分レベルを正確に合わせ込むことができても、ミキサ出力の経時変化や温度特性により雑音成分レベルの均衡が崩れることが考えられ、その場合、微量な不均衡でも振幅性雑音成分の抑圧性能が著しく悪化する。
【0013】
本発明は、上述した背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、上述した問題を解決し、簡単な構成でもって局部発振器内で発生しているノイズや蛍光灯などの外部ノイズの影響を受けることなく高いSN比のドップラー信号により動体検出部で高精度に動体を検出することができるマイクロ波ドップラーセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するため、本発明に係るマイクロ波ドップラーセンサは、所定周波数の出力信号を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段で生成された前記出力信号を出力する前記送信アンテナと、前記送信アンテナから出力された前記出力信号の反射波を受信する受信アンテナと、前記反射波と、前記出力信号を周波数混合するミキサと、前記ミキサから出力される混合信号に基づいて動体を検出する動体検出手段とを備えたマイクロ波ドップラーセンサを前提とし、前記ミキサを2個設けるとともに、それら2個のミキサに対してそれぞれ前記反射波と前記出力信号を注入して周波数混合するようにし、前記2つのミキサへの前記反射波の各注入経路並びに、前記受信信号の各入力経路のすくなくとも一箇所に、その経路を流れる信号の位相を変更する位相変更手段を設け、前記2つのミキサの一方の出力から前記信号生成手段に負帰還するための負帰還信号を生成する負帰還信号生成手段を設け、前記出力信号は前記負帰還信号を基に振幅変調されるように構成し、前記動体検出手段は、前記2つのミキサの他方の出力に接続されるようにした。
【0015】
そして、好ましくは、前記位相変更手段は、動体からの反射波を受信した場合に、前記2つのミキサから出力される混合信号の位相差が180度になるように構成することである。
【0016】
送信アンテナから出力された出力信号は、対象物で反射して戻ってくる。そして、その反射波が受信アンテナを介して受信される。このとき、対象物が移動する動体の場合、反射波は、ドップラー効果により周波数変調される。従って、反射波の周波数と出力信号の周波数が異なるため、ミキサから混合信号として出力されるドップラー信号は、所定の周波数からなる交流成分を含むものとなる。対象物が固定されている場合には、ドップラー効果が生じないので、反射波の周波数は出力信号と同じである。従って、ミキサから出力される混合信号は、0Hzとなる。この相違に基づき、動体検出手段は動体の有無を判定できる。
【0017】
そして、本発明では、一方のミキサの出力を局部発振器に負帰還し、信号生成手段に変調をかけることによって2つのミキサの出力において同相成分である振幅性雑音成分は抑圧され、逆相となるドップラー信号成分は伸張され、高いSN比を得ることができ、動体検出手段での動体検出の精度が向上する。点灯している蛍光灯からの反射波の場合、振幅性雑音成分であるので、位相差は生じない。よって、局部発振器内で発生している振幅性雑音成分や回路中に飛び込んできたノイズの場合も、同様に抑圧できる。
【0018】
さらにまた、負帰還信号には外部から回路中に飛び込む振幅性雑音成分や局部発振器等において発生する振幅性雑音成分を負帰還成分として含んでおり、その信号で信号生成手段の出力信号に振幅変調を行うため、ミキサ出力の経時変化や温度特性によって雑音のレベルが変化したとしても、動体検出は他方の1つのミキサの出力だけを利用しているため抑圧特性や伸張特性への影響を極めて少なくすることができる。
【0019】
従って、本発明では、ドップラー信号のSN比が高くなることで動体検出判定部での誤動作がなく、高精度に動体を検出することができる。そして、複雑なフィルタを設けること必要がないので、小型かつ簡単な回路構成を採ることができる。また、経時変化や温度特性によりミキサ出力の均衡が崩れることがなくなり安定したドップラー信号を得ることができる。
【0020】
そして、2つのミキサから出力される各混合信号のうち、少なくとも一方は位相変更手段により位相を変更(遅らせる/進める)して、2つの混合信号の位相差が180度となるように調整した場合には、逆相となるドップラー信号成分は2倍に伸張され、より高いSN比を得ることができ、動体検出判定部での動体検出の精度が向上する。なお、本発明では、位相差は必ずしも180度に限ることなく所定の値とすることができる。例えば90度とした場合にはドップラー信号成分は約1.4倍に伸張される。
【0021】
さらに好ましくは、前記送信アンテナと前記受信アンテナは、1つのアンテナにより構成されるように構成することである。送信アンテナ並びに受信アンテナを1つのアンテナで構成すると、発振器からアンテナに給電する導波管やマイクロストリップライン等の導波路に特定の距離を離してミキサを配置すると言った簡単な構造でマイクロ波ドップラーセンサを形成できる。さらに、位相差は2つのミキサ間の距離を変えることにより変更できるので、位相差の合わせ込み等、設計や製造も容易である。
【0022】
ここで、1つのアンテナとは、図5に示すように導波管の先端をホーン状にしたアンテナ3(ホーンアンテナ)のように、物理的に1個のものはもちろんのこと、図6に示す2枚のパターンからなるパッチアンテナのようなものも1つのアンテナに含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、動体からの反射波の場合には、2つの混合信号の位相差が生じ、固定物からの反射波の場合には位相差が生じないので、一方の混合信号の出力を負帰還信号として用い、局部発振器の出力に振幅変調をかけることで、振幅性雑音成分である局部発振器元来のノイズや点灯する蛍光灯からの反射波の影響による振幅性雑音成分、またノイズが直接ミキサ等の回路などに混入した場合等に発生する不要な振幅性雑音成分を抑圧することができる。さらに、同相であるドップラー信号成分は伸張されるため、ドップラー信号のSN比を高くでき、動体検出判定部において誤動作無く高精度に動体を検出することができる。また従来技術のように2つの混合信号を差動増幅器により増幅しないため経時変化や温度特性でミキサ出力の均衡が崩れたとしても影響を受けることがなく不要な振幅性雑音成分の抑圧性能が悪化することもない。また、複雑なフィルタ等を構成する必要なく、簡単な構成でもって振幅性雑音成分の影響を受けることなく高精度に動体を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図3は、本発明の第1の実施の形態を示している。図に示すように、局部発振器11の出力が第1ミキサ12並びに送信アンテナ13に接続されている。また、第1ミキサ12には、受信アンテナ14にて受信した受信信号も入力され、そこにおいて受信信号に基づく信号と局部発振器11から出力信号とが周波数混合される。受信アンテナ14と第1ミキサ12の間に第1位相器16を挿入配置し、当該受信信号をその第1位相器16を経由して第1ミキサ12に入力するようにしている。そして、第1ミキサ12において、第1位相器16にて位相が変えられた受信信号と、局部発振出力(送信信号)とが周波数混合される。第1位相器16は、位相を90度遅延させるものであり、具体的には、λ/4の線路長を持つパターンにより構成する。
【0025】
この第1ミキサ12で周波数混合された信号が動体検出判定部15に与えられ、動体の有無を判断するようになる。すなわち、後述するように、送信アンテナ13から出射された出力信号(マイクロ波)は、その前方に位置する対象物20に到達し、そこで反射された反射波が受信アンテナ14で受信される。この受信アンテナ14で受信した受信信号の周波数つまり反射波の周波数は、対象物20が固定されているとすると、出力信号の送信周波数、つまり局部発振器1の発振周波数と同一となる。従って、交流成分がなく、第1位相器16で位相が変えられた(90度遅延された)としても第1ミキサ12の出力は、0Hz(直流)となる。
【0026】
一方、対象物20が移動する動体の場合、ドップラー効果により反射波の周波数は送信周波数と異なる。従って、動体である対象物20からの反射波を受信アンテナ14で受信した場合の第1ミキサ12の出力は、所定周波数の交流信号となる。そこで、動体検出判定部15は、たとえば、第1ミキサ12から入力された信号の周波数が、所定周波数(特定の周波数あるいは所定範囲の周波数)の場合に、動体があると判定する。また、対象物20が固定物の場合には、第1ミキサ12の出力が0Hz(直流)、つまり、振幅が0となることから、出力レベルが一定以上の場合に動体があると判定することもできる。さらに、判定方法・アルゴリズムはこれらに限るものではなく、各種のものを適用できる。
【0027】
さらに、位相を90度遅延させる第2位相器17並びに第2ミキサ18を設け、局部発振器11の出力を第2位相器17を介して第2ミキサ18に与えるとともに、受信アンテナ14で受信した受信信号を第2ミキサ18に与えるようにしている。これにより、第2ミキサ18では、局部発振出力(送信信号)を第2位相器17にて位相が90度遅延された信号と、受信信号とが周波数混合される。この第2ミキサ18の出力は、負帰還信号を生成する負帰還増幅器19に入力される。
【0028】
負帰還増幅器19は、第2ミキサ18から与えられる入力信号の交流成分のみを通過させるためのコンデンサと差動アンプからなる。この差動アンプの反転入力端子にはコンデンサの出力が入力され、差動アンプの非反転入力端子には局部発振器11の基準電圧となる直流電圧が供給されるような構成となっている。このようにすることで負帰還増幅器19の出力は、局部発振器11の基準電圧を第2ミキサ18の逆相となる出力で変調した信号となり、局部発振器15を負帰還信号により振幅変調することとなる。
【0029】
次に、上述した構成の装置の作用・動作原理を説明しつつ、本発明のドップラーセンサの機能を説明する。局部発振器11から出力される信号は、送信アンテナ13から出射され、その前方に位置する対象物20に到達し、そこで反射された反射波が受信アンテナ14で受信される。
【0030】
この受信アンテナ14で受信した受信信号の周波数つまり反射波の周波数は、対象物20が固定されているとすると、出力信号の送信周波数、つまり局部発振器11の発振周波数と同一となる。また、対象物20が動体の場合には、ドップラー効果により、反射波の周波数は出力信号の送信周波数と異なる。なお、本実施の形態では、局部発振器11から出力される局部発振信号と反射波との周波数差は100Hzとする。
【0031】
従って、まず対象物20が動体とすると、第1ミキサ12では、局部発振器11からの信号が注入されるとともに、受信アンテナ14で受信したドップラー信号が第1位相器16にて位相が90度遅らされた信号が入力される。従って、第1ミキサ12の出力は、第1位相器16がない場合に比べて位相が90度遅れた信号が出力されることになる。
【0032】
一方、第2ミキサ18では、局部発振器11からの信号が第2位相器17を通過することにより位相が90度遅れ、係る位相遅れした信号が注入されるとともに、受信アンテナ14で受信したドップラー信号は、そのまま位相遅れを生じることなく第2ミキサ18に与えられる。従って、第2ミキサ18の出力は、第2位相器17がない場合に比べて位相が90度進んだ信号が出力されることになる。
【0033】
従って、第1ミキサ12と第2ミキサ18からそれぞれ出力される混合信号の位相差は、180度となる。よって、一方のミキサ(ここでは、第2ミキサ18)から出力される混合信号を、局部発振器11の基準電圧を正転入力とした負帰還増幅器の反転入力への入力とすることで局部発振器11の出力は振幅性雑音成分の逆相で振幅変調されることになり、振幅性雑音成分は抑圧される。なお、本実施の形態では、局部発振器11の駆動電圧に対して変調を加えることで局部発振器11の出力信号に振幅変調を与えるようにしたが、本発明は、係る構成に限定されるものではなく、局部発振器11の出力信号に対して振幅変調を与えるようにできる構成であればどのような構成でもよい。
【0034】
一方、対象物20が固定されている場合には、対象物20にて反射してもドップラー効果は起こらず、反射波の周波数は送信アンテナ13から出射された信号、つまり、局部発振器11から出力される信号の周波数と同一となる。従って、第1ミキサ12と第2ミキサ18の出力は0Hzとなる。よって、連続的な信号となるので、第1ミキサ12と第2ミキサ18の出力において、位相差は考える必要が無く、各出力の位相差は0とみなせ、振幅性雑音成分も発生しないため第1ミキサ12の出力は0となる。
【0035】
また、局部発振器11が元来もつ振幅性雑音成分や、第1ミキサ12と第2ミキサ18並びにその他の回路中に外部雑音や装置内部のCPUに起因する雑音が誘導して振幅性雑音成分となるようなことがある。これらの雑音は、受信アンテナ14で受信した信号に対する振幅変調と同様に扱えるため、局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により抑圧され、やはり、第1ミキサ12の出力は0となる。
【0036】
また、蛍光灯が点灯している場合を考えると、以下のようになる。商用電源(50Hz)で点灯している蛍光灯(蛍光管)の放電周期は、その2倍の100Hzとなる。そのため、蛍光灯で反射された反射波を受信アンテナ14で受信すると、第1ミキサ12と第2ミキサ18の出力は、局部発振器11から出力される信号に対し、係る100Hzの振幅変調がかかった信号となる。しかし、第1ミキサ12と第2ミキサ18の出力は同相であるので、局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により抑圧され、第1ミキサ12の出力は0となる。
【0037】
ここで、本発明の構成により抑圧される振幅性雑音成分について数式を用いて説明する。図4は、図3に記載の回路を振幅性雑音成分抑圧の説明のために特化して記載した等価構成図である。なお、図中において送信アンテナ13と受信アンテナ14は一体化して記載し、また第1ミキサ12と第2ミキサ18に位相差を180度として、そのための位相器は図示省略している。
【0038】
第1ミキサ12と第2ミキサ18はホモダイン検波器として動作し、それぞれIF1、IF2が出力される。IF2の出力は、負帰還増幅器19において局部発振器11作動のための基準電圧Vrefに反転して重畳され、局部発振器の駆動電源Vccとなる。
【0039】
局部発振器11内の動作を等価的に記載すると、局部発振器11に入力された電圧Vccは、局部発振器11内に存在する振幅性雑音成分であるところの等価雑音源VnとVccに含まれる帰還電圧VFBが混合(図中、変調器Mとして記載)する形となる。この変調器の出力は振幅制御電圧VGCとして局部発振器11を作動させ振幅変調した出力信号を生成している。
【0040】
局部発振器から第2ミキサまでの変調感度Kaと帰還電圧VFBは式(1),(2)の形で表すことができ、以下の式変形により抑圧効果は(7)式として表すことができる。(7)式からわかる様に、振幅性雑音成分によるIF2のノイズ成分は負帰還利得(Ka×Kb)分抑圧される。これは局部発振器11の振幅性雑音成分が抑圧されていることを示し、よって、IF1の振幅性雑音成分も抑圧される。
【数1】

ここで、負帰還なしの時に振幅性雑音成分によるIF2のノイズ(ΔVIF2′)は、(6)式のようになる。
【0041】
ΔVIF2′=Ka・ΔVn ……(6)

よって、負帰還による抑圧効果は、(7)式で表される。
【数2】

【0042】
一方、対象物20が動体の場合に生じる周波数変調されたドップラー信号を受信した場合には、IF1とIF2のドップラー信号成分は逆相であるため、IF1からは所定レベルの信号が出力される。一方、対象物20が一般の固定物の場合はもちろんのこと、点灯している蛍光灯であっても、IF1の出力は0となる。よって、動体検出判定部15は、IF1の出力が所定レベル以上の信号があるか否かにより、動体の有無を判断することができる。具体的には、比較器により構成することができる。
【0043】
そして、係る構成を採ると、雑音により振幅変調がされても、係る雑音に基づく部分は局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により抑圧されるので、ドップラー信号に雑音が重畳して振幅変調されても、IF1の出力はドップラー信号のみに基づく信号となる。その結果、動体検出判定部15は誤動作することなく高精度に判定処理をすることができる。
【0044】
ところで、上述した第1の実施の形態を実現するための装置構成としては、例えば図5に示すような導波管を用いたタイプと、図6に示すようなマイクロストリップラインを用いた平面回路で構成するタイプなどがある。すなわち、図5に示すように、導波管30の一端をホーン状に開口したアンテナ31にするとともに、他端を閉塞した構成を採る。アンテナ31は、送信アンテナと受信アンテナを兼用する。そして、係る他端に局部発振器11を設ける。そして、同一線路上に局部発振器11,第1ミキサ12,第2ミキサ18,アンテナ31(送信アンテナ,受信アンテナ)を設ける。このとき、隣接する機器間の距離は適宜に設定できるが、少なくとも第1ミキサ12,第2ミキサ18間の距離は、λ/4だけ離すようにする。これにより、図3に示した回路と等価な立体回路が構成される。
【0045】
また、図6に示すように、直線状のマイクロストリップライン40に対し、端から局部発振器11,第1ミキサ12,第2ミキサ18,アンテナ41(送信アンテナ,受信アンテナ)を設ける(少なくとも第1ミキサ12と第2ミキサ18と間の距離はλ/4だけ離す)ことにより、図3に示した回路と等価な平面回路が構成される。もちろん、具体的な回路構成は、図示したものに限られないのは言うまでもない。アンテナ41も、矩形状の2つのパターンから構成されるパッチアンテナとしたが、このパターン形状も各種のものを用いることができる。
【0046】
図5,図6に示す構成にすると、各素子等が直線状に形成された導波路(導波管30,マイクロストリップライン40)の適宜位置に配置された簡単な構成となるとともに、第1ミキサ12と第2ミキサ18との配置位置(距離)を調整することにより、位相差の調整が行える。
【0047】
図7は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態では、第1の実施の形態を基本とし、回路中に設ける位相器21の設置位置を異ならせている。すなわち、位相器21は、局部発振器11と第1ミキサ12との間に挿入配置する。そして、受信アンテナ14で受信した受信信号は、位相器21を介することなく第1ミキサ12と第2ミキサ18に入力するようにした。さらに、第2ミキサ18に対し、局部発振器11の局部発振信号も位相器21を介することなくそのまま注入している。そして、ここで用いる位相器21は、180度位相を遅らせる機能を持たせている。
【0048】
係る構成をとると、対象物20が動体の場合、受信アンテナ14で受信したドップラー信号はそのまま第1ミキサ12に入力されるが、局部発振器11から出力される局部発振信号は、180度位相が遅れて第1ミキサ12に注入される。そのため、第1ミキサ12の出力は、局部発振信号を基準に180度の位相差が生じる。一方、第2ミキサ18の出力は、2つの入力経路に位相器がないので、位相遅れはない。よって、第1ミキサ12と第2ミキサ18との出力の位相差は180度となり、いずれか一方のミキサ(ここでは、第2ミキサ18)の出力信号を負帰還信号とし、この信号を基に局部発振器11の出力信号の振幅を制御することで振幅性雑音成分を抑圧するようにしているので第1の実施の形態と同様に不要な振幅性雑音成分は抑圧される。
【0049】
なお、対象物20が固定物の場合には、位相差の遅れは関係ないため、点灯する蛍光灯か否かを問わず、局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により抑圧されるので、第1ミキサ12と第2ミキサ18の出力は共に0となる。よって、動体検出判定部15は、第1の実施の形態と同様に、第1ミキサ12の出力が所定レベル以上の信号があるか否かにより、動体の有無を判断することができる。なお、その他の構成並びに作用効果は、上述した第1の実施の形態と同様であるので、対応する部材に同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0050】
なおまた、位相を180度遅らす位相器21は、上述した実施の形態に限ることは無く、例えば図8に示すように、受信アンテナ14と第1ミキサ12との間に挿入してもよいし、さらには、第2ミキサ18側の経路に挿入してもよい。
【実施例】
【0051】
本発明の効果を実証するため、本発明に係るドップラーセンサを作成し実際の振幅性雑音成分の抑圧効果を測定した。図9は対象物20が固定されている場合における図4に記載のIF1とIF2の出力状態を表したものである。図9(a)は、負帰還増幅器19を削除した場合のIF1とIF2の出力を比較したものであり、IF1とIF2には振幅性製雑音成分が現れている。一方、図9(b)は、本発明を適用した場合のIF1とIF2の出力を比較したものでありIF1,IF2とも振幅性雑音成分が抑圧されていることが確認できる。なお、IF1とIF2から出力されるドップラー信号の位相差は180度となるように位相を設定している。
【0052】
図10は対象物20が移動(ドップラーセンサの前で金属板を前後させている)している場合におけるIF1とIF2の出力状態を表したものである。図10(a)は、本発明を適用せず、負帰還増幅器19を用いない場合のIF1とIF2の出力を比較したものであり、IF1とIF2の位相差はおよそ180度となり逆相で出力されていることがわかる。
【0053】
図10(b)は、本発明を適用した場合のIF1とIF2の出力を比較したものである。IF2の信号はIF2の出力を用いて局部発振器11へ負帰還をかけることで局部発振器11の出力信号を振幅変調しているため、局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により、ドップラー信号は抑圧され出力されない状態となる。また振幅性雑音成分も同様に負帰還信号に含まれているため、抑圧され、IF2の出力はドップラー信号成分、雑音成分共に抑圧されていることが確認できる。
【0054】
これに対し、IF1の出力は、IF2の出力を用いて局部発振器11へ負帰還をかけることで局部発振器11の出力信号を振幅変調しているため、局部発振器11で生成される信号に含まれる負帰還信号により、負帰還信号と同相であるドップラー信号成分は伸張し、逆相となる振幅性雑音成分が抑圧される。この結果、図10(a)のIF1の出力信号に比べて明らかにSN比が改善されていることが確認でき、本発明の効果の高さを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来例を示す図である。
【図2】引用文献1の実施の形態を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の等価構成図である。
【図5】第1の実施の形態を実際に構築する場合の立体回路の一例を示す図である。
【図6】第1の実施の形態を実際に構築する場合の平面回路の一例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態の変形例を示す図である。
【図9】本発明において移動物体が無い場合の効果を表す特性図である。
【図10】本発明において移動物体が存在する場合の効果を表す特性図である。
【符号の説明】
【0056】
11 局部発振器
12 第1ミキサ
13 送信アンテナ
14 受信アンテナ
15 動体検出判定部
16 第1位相器
17 第2位相器
18 第2ミキサ
19 負帰還増幅器
20 対象物
21 位相器
30 導波管
31 アンテナ
40 マイクロストリップライン
41 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の出力信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成された前記出力信号を出力する前記送信アンテナと、
前記送信アンテナから出力された前記出力信号の反射波を受信する受信アンテナと、
前記反射波と、前記出力信号を周波数混合するミキサと、
前記ミキサから出力される混合信号に基づいて動体を検出する動体検出手段とを備えたマイクロ波ドップラーセンサにおいて、
前記ミキサを2個設けるとともに、それら2個のミキサに対して、それぞれ前記反射波と前記出力信号を注入して周波数混合するようにし、前記2つのミキサへの前記出力信号の各注入経路並びに、前記反射波の各入力経路の少なくとも一箇所に、その経路を流れる信号の位相を変更する位相変更手段を設け、
前記2つのミキサの一方の出力から前記信号生成手段に負帰還するための負帰還信号を生成する負帰還信号生成手段を設け、前記出力信号は前記負帰還信号を基に振幅変調されるように構成し、
前記動体検出手段は、前記2つのミキサの他方の出力に接続されたことを特徴とするマイクロ波ドップラーセンサ。
【請求項2】
前記位相変更手段は、動体からの反射波であるドップラー信号を受信した場合に、前記2つのミキサから出力される混合信号の位相差が180度になるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波ドップラーセンサ。
【請求項3】
前記送信アンテナと前記受信アンテナは一つのアンテナにより構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ波ドップラーセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−121237(P2007−121237A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317411(P2005−317411)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(391001848)ユピテル工業株式会社 (238)
【Fターム(参考)】