説明

マイクロ波利用装置

【課題】周波数可変可能なマイクロ波発生手段を用い、被加熱物の均一な加熱の促進と高い加熱効率とを両立させたマイクロ波利用装置を提供する。
【解決手段】加熱室10の下方に被加熱物を載置する載置板12、左右の壁面に傾斜壁面領域13、14を形成し略中央に放射手段13a、14aを配する。加熱室10の下側に半導体素子を用いて構成した電圧可変型の周波数可変機能を備えた発振部20と初段増幅部21と並列動作の主増幅部23、24とからなるマイクロ波発生手段19を配し、出力を放射手段に導く。駆動電源31、32から主増幅部23、24への電力供給ラインに電力を供給または停止する切換手段34、35、マイクロ波発生手段19の二つの出力には、それぞれ反射電力を抽出する電力結合器27、28を配し、発振周波数を可変制御中に生じる反射電力のエネルギでもって切換手段を動作させ、無駄な消費電力を削減し被加熱物の均一な加熱を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数可変機能を有するマイクロ波発生手段を用いて被加熱物を誘電加熱するマイクロ波利用装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来この種の代表的なマイクロ波利用装置として、マイクロ波加熱装置である電子レンジがある。この電子レンジに搭載されているマイクロ波発生手段としてのマグネトロンは、その形状に対する出力が大きく、さらにその動作効率が70%強という高い特徴がある。
【0003】
一方、マグネトロンは発振周波数を自在に制御することができず、またマグネトロン自身の発振周波数が被加熱物を含む負荷側のインピーダンスの影響を受ける。このため、不適当な発振周波数での動作によって加熱室内に生じる定在波により被加熱物には不均一な加熱を生じる場合がある。
【0004】
マグネトロンの発振周波数を可変制御するものとして、同軸型のマグネトロンなどがあるが、
形状が大きいことや高価なことにより、電子レンジ用途には適さない。
【0005】
一方、近年の移動体通信の発展に伴う旺盛なマイクロ波回路技術の進化、あるいはSiC材料やGaN材料などの新しい半導体材料を利用した半導体素子そのものの技術革新などが進み、半導体素子を用いたマイクロ波発生手段が半導体製造に用いられるプラズマ処理装置などに実用化され始めている。
【0006】
この半導体素子により構成されるマイクロ波発生手段は、電圧制御型発振器や容量制御型発振器を発振源に使用することで、発振周波数を可変制御することが容易である。周波数自励式の固体化発振部を用い、加熱室への給電部分のインピーダンスに応じて発振周波数を制御して最適な整合状態を形成し効率的に加熱を行うというものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
また、複数の放射アンテナを有し、被加熱物からのマイクロ波の反射波に基づいて、放射アンテナを選択的に動作させて加熱効率を高めるというものがある(たとえば、特許文献2参照)。
【0008】
この装置は、それぞれの放射アンテナに送受信切換スイッチを設け、また被加熱物側から受信する反射波の振幅と位相情報が検出できるようにしている。この検出情報に基づいて、加熱にとって非効率な放射アンテナへのマイクロ波伝送を停止させることで効率的に加熱をするというものである。
【特許文献1】特開昭59−165399号公報
【特許文献2】特開2000−357583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発振周波数を制御して給電部分のインピーダンス整合を図ることは、加熱室の共振状態を探索して、その周波数を見つけることであり、加熱室内に生じる共振状態はひとつとは限らないので、探索して抽出した周波数が被加熱物を効果的に均一に加熱できるとは限らない課題がある。
【0010】
また、放射アンテナを複数配置し、被加熱物に応じてそれぞれの放射アンテナからの反射波情報に基づいて動作させるべき放射アンテナを選択する方法は、被加熱物を多方面から加熱するという観点では均一化促進に寄与するであろうが、放射されたマイクロ波によって加熱室内には特定の定在波が生じるため、厚みのある被加熱物に対しては特定の定在波による加熱分布が加わり、加熱の均一化が阻害される課題がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、周波数可変可能なマイクロ波発生手段を用い、被加熱物の均一な加熱の促進と高い加熱効率とを両立させたマイクロ波利用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマイクロ波利用装置は、被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記放射手段からマイクロ波発生手段側に反射するそれぞれの反射波のエネルギによって動作する複数の切換手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、周波数可変に伴う切換手段の動作により放射手段が選択されるものである。
【0013】
これにより、被加熱物の加熱に最適な周波数を探索中に各放射手段から反射する反射波のエネルギによって切換手段が自動的に動作し、動作する切換手段の数を最小にするように発振周波数を可変制御させることで、加熱室内にマイクロ波発生手段が発生するマイクロ波を最大効率で供給することができる。
【0014】
また、マイクロ波発生手段の発振周波数を変化させる過程において反射波の大きい放射手段からのマイクロ波放射は自動的に放射が中断されるので、加熱室内に供給されるマイクロ波の大部分は、被加熱物の加熱に有効に作用することになり常時加熱効率を高く維持できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロ波利用装置は、周波数可変可能なマイクロ波発生手段を用い、被加熱物の均一な加熱の促進と高い加熱効率とを両立させた装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明は、被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記放射手段からマイクロ波発生手段側に反射するそれぞれの反射波のエネルギによって動作する複数の切換手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、周波数可変に伴う切換手段の動作により放射手段が選択されるものであり、これにより被加熱物の加熱に最適な周波数を探索中に各放射手段から反射する反射波のエネルギによって切換手段が自動的に動作し、動作する切換手段の数を最小にするように発振周波数を可変制御させることで、加熱室内にマイクロ波発生手段が発生するマイクロ波を最大効率で供給することができる。また、マイクロ波発生手段の発振周波数を変化させる過程において反射波の大きい放射手段からのマイクロ波放射は自動的に放射が中断されるので、加熱室内に供給されるマイクロ波の大部分は、被加熱物の加熱に有効に作用することになり常時加熱効率を高く維持できる。
【0017】
第2の発明は、特に第1の発明のマイクロ波発生手段は、半導体素子を用いた発振部と増幅部とで構成し、複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部を備えたものであり、これにより放射手段と増幅部とをそれぞれ一対として作用
させることができ、マイクロ波周波数可変制御時に反射波が大きい放射手段に接続された増幅部の動作を制御することで反射波による異状な増幅動作の回避および増幅部の破損を回避できる。
【0018】
第3の発明は、被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記複数の放射手段のそれぞれからマイクロ波発生手段側に伝送するマイクロ波反射電力を検出する手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、前記マイクロ波発生手段は半導体素子を用いた発振部と前記複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部とで構成し、所定量を超える反射電力になると対象の放射手段に接続された増幅部の駆動電力を減少あるいは停止させるように制御したものであり、これにより周波数可変制御時に反射波が大きい放射手段に接続された増幅部の動作を反射電力量に応じて動作させることができ、増幅部の半導体素子の異常動作や熱的破壊を回避しつつ複数の放射手段からの放射を継続させて被加熱物の均一加熱が図れる。
【0019】
第4の発明は、被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、前記マイクロ波発生手段は半導体素子を用いた発振部と前記複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部とで構成し、前記複数の放射手段のそれぞれからマイクロ波発生手段側に伝送するマイクロ波反射電力によって動作する切換手段を前記増幅部の駆動電力供給線路に設け、所定量を超える反射電力によって前記切換手段を作動させて、対象の放射手段に接続された増幅部の駆動電力供給を停止するように制御したものであり、これにより反射電力が所定量を超過すると増幅部に供給する電力が自動的に切断され、増幅部の半導体素子の異常動作や熱的破壊を確実に回避させることができる。
【0020】
第5の発明は、特に第1、第3、第4のいずれか1つの発明の複数の放射手段は、被加熱物を載置する載置手段の方向にマイクロ波を放射するように構成したものであり、これにより被加熱物にマイクロ波を直接入射し、加熱を促進できる。
【0021】
第6の発明は、特に第1、第3、第4のいずれか1つのの発明の複数の放射手段は、それぞれ異なる共振周波数を有したものであり、これにより周波数可変制御を行っている過程において、反射電力が少ない放射手段を存在させ、連続的に加熱を実行させることができる。
【0022】
第7の発明は、マイクロ波発生手段は、複数の発生源を有し、それぞれの発生源の発生周波数はオーバーラップさせない構成としたものであり、これにより複数の発生源の周波数可変を同時に進行させることができ、最適な周波数の選択を短時間に実行できる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態におけるマイクロ波利用装置の構成図、図2は図1のマイクロ波発生手段の構成図である。
【0025】
図1〜図2において、被加熱物を収納する加熱室10は、被加熱物を出し入れする扉(図示していない)を一面に配し、それ以外の壁面は金属材料で構成し、供給されるマイク
ロ波を内部に閉じ込めるように構成している。加熱室10内の下方には、加熱室底壁面11と所定の間隔をもって被加熱物を載置する低誘電損失材料からなる載置板12を配する。また加熱室10の左右の壁面は、加熱室10の内外方向に絞り加工を施して載置板12の方向に傾斜させた壁面領域13、14を形成している。
【0026】
この傾斜壁面領域13、14をそれぞれ加熱室10の外側から覆う金属壁面15、16を設け、傾斜壁面領域と金属壁面とによって、導波管形状17、18を構成している。また、傾斜壁面領域13、14の略中央に放射手段である長方形形状の開口13a、14aを配する。
【0027】
加熱室10の下側には、半導体素子を用いて構成したマイクロ波発生手段19を配する。このマイクロ波発生手段19は、電圧可変型の周波数可変機能を備えた発振部20と、発振部20の出力を一次増幅する初段増幅部21と、初段増幅部21の出力を2分配する分配部22と、分配されたマイクロ波をそれぞれ増幅する並列動作の主増幅部23、24とから構成している。また、主増幅部23、24のそれぞれの出力は、同軸線路25、26を伝送させて導波管17、18に導いている。そして、導波管17、18に導かれたマイクロ波は開口13a、14aから加熱室10内の載置板12の方向に放射させている。
【0028】
マイクロ波発生手段19の二つの出力には、それぞれ反射電力を抽出する電力結合器27、28を配する。また、発振部20の駆動電源29、初段増幅部21の駆動電源30、主増幅部23、24のそれぞれの駆動電源31、32と、これら駆動電源の動作を制御する制御手段33を配する。また駆動電源31、32の主増幅部23、24への電力供給ラインに電力を供給または停止する切換手段34、35を配する。
【0029】
電力結合器27、28は、結合度が約10dBとし、反射電力の約1/10の電力量を抽出する。この電力信号はそれぞれ、検波ダイオード36、37で整流化しコンデンサ38、39で平滑処理している。コンデンサ38、39の一端には、抵抗40、41を介して切換手段34、35を接続している。なお、抵抗42、43、44は、伝送してくる電力信号を熱損失させる抵抗である。
【0030】
また、マイクロ波発生手段19からの発熱を放熱させる放熱手段45を配する。
【0031】
以上のように構成されたマイクロ波利用装置について、以下その動作と作用を説明する。
【0032】
まず被加熱物を加熱室10に収納し、その加熱条件を操作部(図示していない)から入力し、加熱開始キーを押す。加熱開始信号46を受けた制御手段33の制御信号によりマイクロ波発生手段19が動作を開始する。制御手段33は、駆動電源29を動作させて発振部20に電力を供給する。この時、発振部20の初期の発振周波数は、たとえば2450MHzに設定する電圧信号を供給し、発振が開始する。以降、駆動電源30を動作させて初段増幅部21を動作させ、次に駆動電源31、32をそれぞれ動作させて主増幅部23、24を動作させる。これにより、各主増幅部23、24はそれぞれ200Wから300Wのマイクロ波電力を出力する。
【0033】
このマイクロ波は、同軸線路25、26を伝送して導波管17、18に導かれ開口13a、14aから被加熱物が載置された方向に放射される。加熱室10内に放射されたマイクロ波は、一部が直接被加熱物に入射し被加熱物に吸収され、残りは加熱室10の壁面で反射を繰り返しながら加熱室10内を伝搬する。加熱室10内を伝搬するマイクロ波は、伝搬経路に被加熱物があれば、被加熱物はマイクロ波エネルギをさらに吸収する。加熱室10内に供給されるマイクロ波エネルギが被加熱物に100%吸収されると加熱室10か
らの反射電力は無くなるが、被加熱物の種類・形状・量が被加熱物を含む加熱室10の電気的特性を決定し、マイクロ波発生手段19の出力インピーダンスと加熱室10のインピーダンスとに基づいて、加熱室10側から同軸線路25、26を逆方向に伝送する反射電力が生じる。
【0034】
電力結合器27、28は、この同軸線路25、26をマイクロ波発生手段19側に伝送する反射電力信号と結合し、反射電力量が大きくなり切換手段34、35のコイルを励磁する電圧レベルに到達すると切換手段が作動して、関連する主増幅部23、24への電力供給を遮断する。制御手段33は、主増幅部23、24に電力供給がなされているかどうかの信号を取り込む。
【0035】
また、制御手段33は、所定の時間間隔とステップ(たとえば、10ミリ秒で1MHz)でもって発振部20の発振周波数を変化させる。この周波数は初期2450MHzから上限値(たとえば2500MHz)に向かって高くし、上限値に到達すると、下限値(たとえば2400MHz)に向かって下げ、下限値に到達すると上限値に向かって高くするように制御する。
【0036】
この発振周波数の変化により、反射電力の量も変化し、反射電力が所定量を超過すると対応する主増幅部の動作が自動的に停止するが、周波数の可変制御を継続させることで、反射電力が所定値を下回ると再び対応する主増幅部に電力が供給されてその主増幅部が動作し、マイクロ波エネルギが加熱室10に供給される。
【0037】
この動作により、反射電力が大きい場合は、主増幅部が動作を停止するので、無用な電力消費を回避し、高い加熱効率で被加熱物を加熱させることができる。また、周波数を可変可能な帯域全体に渡って変化させて加熱を行うことで、加熱室10内での定在波の発生を回避し、被加熱物の均一な加熱を促進させることができる。
【0038】
また、反射電力による主増幅部の半導体素子の異常動作や熱的破壊を確実に回避させることができ、信頼性の高い半導体素子を用いたマイクロ波発生手段を提供できる。
【0039】
なお、周波数可変の速度は、すべての主増幅部が動作している場合は、速度を遅くし(たとえば1秒で1MHz)、すべての主増幅部が動作を停止している場合は、速度を早くする(たとえば2ミリ秒で1MHz)など、いろいろな可変制御方法を採っても構わない。また、周波数可変範囲も被加熱物や加熱条件に応じて選択指定しても構わない。
【0040】
(実施の形態2)
図3〜図5は、本発明の第2の実施の形態のマイクロ波利用装置の構成図である。
【0041】
本実施の形態が第1の実施の形態と相違する点は、放射手段50、51を共振周波数を有する構成としたことと、反射電力の信号の大きさに基づいて主増幅部23、24の駆動電源52、53の出力電圧を制御するようにしたものである。図3〜図5において、第1の実施の形態と同一構成あるいは略同一機能のものは同一番号で示す。
【0042】
図3において、加熱室10の左右壁面に形成した傾斜壁面領域13、14と金属壁面15、16とによって、導波管形状17、18を構成している。傾斜壁面領域13、14の加熱室10側に共振周波数を有する放射手段50、51を配する。この放射手段50、51は、図4に上面構成図を示すように、略正方形形状で低誘電損失材料からなる基板50a、51aの片面に円形形状の金属板50b、51bを蒸着して構成している。
【0043】
そして、放射手段50は、共振周波数がたとえば2435MHz、他方の放射手段51
の共振周波数がたとえば2465MHzに調整している。また、図4における記号「×」50c、51cはそれぞれの円形金属板50b、51bへのマイクロ波の給電位置を示し、この位置に一端を接続固定するとともに他端が導波管17、18内に延在する金属棒を配している。
【0044】
なお、傾斜壁面領域13、14の金属壁面には、金属棒を貫通させる穴を配する。また、基板50a、51aの円形金属板と反対側の面は、金属板を全面に蒸着している。そしてこの全面蒸着した金属板にも金属棒を貫通させる穴を配する。
【0045】
またなお、共振周波数の高い放射手段51は、共振周波数の低い放射手段50と略同一の直径からなる円形金属板をベースとし、円形の中心と給電位置51cとを結ぶ線が円形の周囲と交わる点を基準として円縁に切欠51dを施すことで所望の共振周波数に高めている。
【0046】
図5において、方向性結合器54、55は、結合度が約30dBとし、反射電力の約1/1000の電力量を抽出する。この電力信号はそれぞれ、検波ダイオード56、57で整流化しコンデンサ58、59で平滑処理し、制御手段60に入力している。
【0047】
以上のように構成されたマイクロ波利用装置について、以下その動作と作用を説明する。
【0048】
まず被加熱物を加熱室10に収納し、その加熱条件を操作部(図示していない)から入力し、加熱開始キーを押す。加熱開始信号61を受けた制御手段60の制御信号によりマイクロ波発生手段19が動作を開始する。制御手段60は、駆動電源29を動作させて発振部20に電力を供給する。この時、発振部20の初期の発振周波数は、たとえば2450MHzに設定する電圧信号を供給し、発振が開始する。以降、駆動電源30を動作させて初段増幅部21を動作させ、次に駆動電源52、53をそれぞれ動作させて主増幅部23、24を動作させる。これにより、各主増幅部23、24はそれぞれ200Wから300Wのマイクロ波電力を出力する。
【0049】
このマイクロ波は、同軸線路25、26を伝送して導波管17、18に導かれ放射手段50、51から被加熱物が載置された方向に放射される。加熱室10内に放射されたマイクロ波は、一部が直接被加熱物に入射し被加熱物に吸収され、残りは加熱室10の壁面で反射を繰り返しながら加熱室10内を伝搬する。加熱室10内を伝搬するマイクロ波は、伝搬経路に被加熱物があれば、被加熱物はマイクロ波エネルギをさらに吸収する。加熱室10内に供給されるマイクロ波エネルギが被加熱物に100%吸収されると加熱室10からの反射電力は無しになるが、被加熱物の種類・形状・量が被加熱物を含む加熱室10の電気的特性を決定し、マイクロ波発生手段19の出力インピーダンスと加熱室10のインピーダンスとに基づいて、加熱室10側から同軸線路25、26を逆方向に伝送する反射電力が生じる。
【0050】
方向性結合器54、55は、この同軸線路25、26をマイクロ波発生手段19側に伝送する反射電力信号と結合し、反射電力量に比例した電圧信号を制御手段60に入力する。
【0051】
また、制御手段60は、前述の第1の実施の形態にて説明したのと同様の周波数可変制御信号を駆動電源29に出力する。
【0052】
この発振周波数の変化により、反射電力の量も変化する。制御手段60は、入力される反射電力に対応した信号とを比較する基準レベルを2つ有している。そして、反射電力が
基準レベルのひとつである第一の所定量を超過すると制御手段60は、主増幅部23、24の駆動電源52、53の出力電圧を低下させる制御を行う。これにより、対応する主増幅部は増幅率が低下し、低い出力を呈する。また、第一の所定量よりも大きい第二の所定量を超過すると制御手段60は、主増幅部23、24の駆動電源52、53の動作を停止するように制御を行う。このような主増幅部の動作の変化に係わらず制御手段60は周波数の可変制御を継続させることで、反射電力信号レベルに応じた制御指令を駆動電源52、53に出力し、その駆動電力に対応して主増幅部が動作し、マイクロ波エネルギが加熱室10に供給される。
【0053】
この動作により、反射電力の大きさに対応して主増幅部を動作させるので、反射電力による主増幅部の半導体素子の異常動作や熱的破壊を確実に回避させることができ、信頼性の高い半導体素子を用いたマイクロ波発生手段を提供できる。また主増幅部は反射電力の大きさに応じた動作をさせることで無用な電力消費を回避し、高い加熱効率で被加熱物を加熱させることができる。さらには、周波数を可変可能な帯域全体に渡って変化させて加熱を行うことで、加熱室10内での定在波の発生を回避し、被加熱物の均一な加熱を促進させることができる。
【0054】
(実施の形態3)
図6は、本発明の第3の実施の形態のマイクロ波利用装置のマイクロ波発生手段まわりの構成図である。
【0055】
本実施の形態が第1あるいは第2の実施の形態と相違する点は、発振源を複数備えた点にある。
【0056】
すなわち、図6において、第1の発生源であるマイクロ波発生手段70と、第2の発生源であるマイクロ波発生手段71とを有し、それぞれのマイクロ波発生手段70、71は、第1の実施の形態で説明した構成をベースとしている。相違する点は、それぞれの発振部72、73の周波数可変範囲がオーバーラップしない可変範囲となるように構成としている点である。すなわち、発振部72の周波数可変範囲は、たとえば2400〜2450MHzとし、発振部73の周波数可変範囲は、たとえば2450〜2500MHzとしている。また、それぞれのマイクロ波発生手段の駆動電源を制御する第1の制御手段74と第2の制御手段75を配し、さらに全体を制御する制御手段76を配する。
【0057】
以上のように構成された複数の発生源を備えたマイクロ波利用装置について、以下その動作と作用を説明する。
【0058】
制御手段76は、加熱開始信号77を受けて第1の制御手段74と第2の制御手段75に動作開始信号を出力し、各制御手段74、75からの制御信号により、マイクロ波発生手段70、71がそれぞれ動作を開始する。前述したような動作開始時の一連の制御により、各主増幅部78、79、80、81はそれぞれ約200Wのマイクロ波電力を出力する。なお、発振部72、73の初期発振周波数は、それぞれたとえば2425MHz、2475MHzとしている。また周波数可変は、それぞれの可変範囲の上限に向かって変化させた後、下限に向かって変化させ、さらに上限に向かって変化させる制御を継続する。
【0059】
発生したマイクロ波は、4本の同軸線路をそれぞれ伝送し4個の放射手段(図示していない)から加熱室内に放射される。このとき、加熱室内には異なる周波数のマイクロ波が伝搬する状態となっている。また、加熱室側から同軸線路を逆方向に伝送する反射電力に結合する電力結合器82、83、84、85により、反射電力が所定値を超えた場合、対象の主増幅部への電力供給が停止する。このような主増幅部の動作の変化に係わらず各制御手段74、75は周波数の可変制御を継続させることで、反射電力レベルに応じてそれ
ぞれの主増幅部が動作し、マイクロ波エネルギが加熱室に供給される。
【0060】
この動作により、反射電力が所定値を超えると対象の主増幅部の動作を停止させるので、反射電力による主増幅部の半導体素子の異常動作や熱的破壊を確実に回避させることができ、信頼性の高い半導体素子を用いたマイクロ波発生手段を提供できる。また主増幅部は反射電力の大きさに応じた動作をさせることで無用な電力消費を回避し、高い加熱効率で被加熱物を加熱させることができる。さらには、加熱室内に異なる周波数のマイクロ波を供給して加熱を行うことで、加熱室内での定在波の発生を回避し、被加熱物の均一な加熱をさらに促進させることができる。
【0061】
なお、放射手段は、第1および第2の実施の形態で説明した放射手段を様々に組合せて利用できる。また、たとえば左右と上下の4つの壁面に放射手段を配設する構成とすることもできる。また、周波数の可変のスピードは、それぞれの発振源で異ならした制御を採ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように本発明によれば、周波数可変可能なマイクロ波発生手段を用い、被加熱物の均一な加熱の促進と高い加熱効率とを両立させたマイクロ波利用装置の構成としたことにより、市販の電子レンジのごとき食品加熱はもとより、洗浄装置、乾燥装置、半導体製造装置などの工業分野での加熱装置にも展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1のマイクロ波利用装置の構成図
【図2】同マイクロ波利用装置のマイクロ波発生手段の構成ブロック図
【図3】本発明の実施の形態2のマイクロ波利用装置の構成図
【図4】同マイクロ波利用装置の放射手段の構成図
【図5】同マイクロ波利用装置のマイクロ波発生手段の構成ブロック図
【図6】本発明の実施の形態3のマイクロ波発生手段の構成ブロック図
【符号の説明】
【0064】
10 加熱室
12 載置板(載置手段)
13、14 傾斜壁面(傾斜壁面領域)
13a、14a 放射手段
19、70、71 マイクロ波発生手段
20 発振部(周波数可変)
21、23、24 増幅部
23、24、78、79、80、81 並列駆動の増幅部
27、28、82、83、84、85 電力結合器(反射電力と結合)
33、60、74、75、76 制御手段
34、35 切換手段
50、51 共振周波数の異なる放射手段
54、55 方向性結合器(反射電力と結合)
72、73 発振周波数がオーバーラップしない発振部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記放射手段からマイクロ波発生手段側に反射するそれぞれの反射波のエネルギによって動作する複数の切換手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、周波数可変に伴う切換手段の動作により放射手段が選択されるマイクロ波利用装置。
【請求項2】
マイクロ波発生手段は、半導体素子を用いた発振部と増幅部とで構成し、複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部を備えた請求項1に記載のマイクロ波利用装置。
【請求項3】
被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記複数の放射手段のそれぞれからマイクロ波発生手段側に伝送するマイクロ波反射電力を検出する手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、前記マイクロ波発生手段は半導体素子を用いた発振部と前記複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部とで構成し、所定量を超える反射電力になると対象の放射手段に接続された増幅部の駆動電力を減少あるいは停止させるように制御したマイクロ波利用装置。
【請求項4】
被加熱物が収納される加熱室と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を発生させる周波数可変機能付マイクロ波発生手段と、前記加熱室へ供給するマイクロ波を放射する複数の放射手段と、前記マイクロ波発生手段が発生する周波数を可変制御する制御手段とを有し、前記マイクロ波発生手段は半導体素子を用いた発振部と前記複数の放射手段にそれぞれ伝送させるマイクロ波を出力する並列動作の増幅部とで構成し、前記複数の放射手段のそれぞれからマイクロ波発生手段側に伝送するマイクロ波反射電力によって動作する切換手段を前記増幅部の駆動電力供給線路に設け、所定量を超える反射電力によって前記切換手段を作動させて、対象の放射手段に接続された増幅部の駆動電力供給を停止するように制御したマイクロ波利用装置。
【請求項5】
複数の放射手段は、被加熱物を載置する載置手段の方向にマイクロ波を放射するように構成した請求項1、3、4のいずれか1項に記載のマイクロ波利用装置。
【請求項6】
複数の放射手段は、それぞれ異なる共振周波数を有した請求項1、3、4のいずれか1項に記載のマイクロ波利用装置。
【請求項7】
マイクロ波発生手段は、複数の発生源を有し、それぞれの発生源の発生周波数はオーバーラップさせない構成としたマイクロ波利用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−317458(P2007−317458A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144798(P2006−144798)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】