説明

マイクロ波浸炭炉及び浸炭方法

【課題】マイクロ波を用い、無電極且つ大気圧下で浸炭を行えるようにしたマイクロ波浸炭炉と、その浸炭炉による鉄鋼材料の浸炭処理方法を提供する。
【解決手段】マイクロ波が導入されるマイクロ波照射室に、少なくともArとOを含む雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給機構と、浸炭後の被処理物を冷却媒体により冷却するための急冷機構とを備え、マイクロ波照射室に鉄鋼材料よりなる被処理物と浸炭に必要な炭素源が配備されるようにした。炭素源は固体又はガスにて供給される。被処理物と炭素源及びArとOを含む雰囲気ガスの存在下でマイクロ波を照射し、炭素源と酸素の反応とそれに伴うCOの発生及び励起によりArプラズマを発生させ、炭素イオンを生成させて被処理物を浸炭する。その後、冷却媒体により被処理物を急冷して焼入れを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を加熱源とする浸炭炉に係り、また、その浸炭炉を用いて鉄鋼材料を浸炭処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、マイクロ波は食品の加熱、乾燥及び殺菌等に用いられるほか、高分子材料の固化やセラミックスの焼成などに用いられている。マイクロ波とは、一般に周波数が300MHz〜300GHzの電磁波のことをいう。食品に含まれる水などの極性分子、高分子、セラミックスなどのいわゆる誘電体の加熱の場合、マイクロ波の電界が大きな役割を果している。他方、ごく最近、マイクロ波が金属粉末あるいは金属塊を加熱できることが報告されている。
【0003】
マイクロ波を金属材料に照射する研究は1990年代頃から着手されている。特にマイクロ波による表面改質処理に関する研究は活発である。マイクロ波を利用して、表面改質する技術として特許文献1〜4がある。これらは、主としてマイクロ波によりプラズマを発生させるための装置に関する発明である。マイクロ波によりプラズマを発生させる手法は、主として電極を設ける手法がとられており、装置の構成自体が極めて重要な技術的因子となる。無電極プラズマ発生に関しては特許文献5があるが、やはり装置自体は複雑な構成となる。また、マイクロ波による表面改質処理は窒化や成膜への応用が主であり、特殊な温度パターンを必要とする浸炭・焼入れプロセスをカバーしていない。
【0004】
従来の浸炭プロセスは、主に固体浸炭、ガス浸炭、プラズマ浸炭などである。これらの中で、プラズマ浸炭法は他のプロセスに比べて処理時間が速い。但し、その雰囲気は、プラズマが発生しやすい減圧雰囲気にする必要があり、プロセス及び設備が複雑となりがちである。また、従来のプラズマ浸炭法は、加熱自体は従来どおりのヒータ加熱となるため、プロセス時間の大きな割合を占める昇温プロセスに関して、その他の手法と比較して時間的優位差がない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−235464号公報
【特許文献2】特開平9−235686号公報
【特許文献3】特開2004−14631号公報
【特許文献4】特開2003−62452号公報
【特許文献5】特開2005−196980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、従来のマイクロ波による表面改質処理は浸炭処理をカバーしていない。
【0007】
本発明の目的は、マイクロ波を用い、無電極且つ大気圧下で浸炭を行えるようにしたマイクロ波浸炭炉と、その浸炭炉による鉄鋼材料の浸炭処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マイクロ波を加熱源とし、無電極かつ大気圧でプラズマを発生させて浸炭処理を行うマイクロ波浸炭炉であって、マイクロ波が導入されるマイクロ波照射室と、前記マイクロ波照射室に少なくともArとOを含む雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給機構と、浸炭後の被処理物を冷却媒体により冷却するための急冷機構とを備え、前記マイクロ波照射室に鉄鋼材料よりなる被処理物と浸炭に必要な炭素源が配備されることを特徴とするマイクロ波浸炭炉にある。
【0009】
また、本発明は、マイクロ波を加熱源に用いて、鉄鋼材料よりなる被処理物に浸炭処理を施す方法であって、被処理物と炭素源及びArとOを含む雰囲気ガスの存在下でマイクロ波を照射し、炭素源と酸素の反応とそれに伴うCOの発生及び励起によりArプラズマを発生させ、炭素イオンを生成させて被処理物を浸炭し、その後、冷却媒体により被処理物を急冷して焼入れを行うことを特徴とするマイクロ波浸炭方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、マイクロ波を加熱源に用いて、無電極かつ大気圧で浸炭を行う浸炭炉と、その浸炭炉を用いて鉄鋼材料を浸炭処理する方法が提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の浸炭炉は極めて単純な作りであり、炉にプラズマを発生させるための電極を用いない。プラズマの発生は主として、マイクロ波照射下における化学反応とガスの励起により生じる。
【0012】
従来のマイクロ波照射設備は、浸炭処理を目的とするものではないため、浸炭焼入れ処理を施すために必要な急冷機構を具備していない。本発明は、マイクロ波浸炭炉に焼入れ処理を目的とした急冷機構を備えている。本発明の浸炭炉と浸炭方法を用いることにより、従来法に比べ、その処理時間を飛躍的に速めることが可能である。また、マイクロ波特有の選択加熱性により、基材の温度上昇を抑えながら浸炭することができる。本発明では、温度に対して組織変化が激しい超微細結晶組織材料を、結晶組織の変化を殆んど生じさせることなく浸炭処理することができる。
【0013】
本発明は、鉄鋼材料の浸炭処理に適用される。鉄鋼材料の浸炭処理品は、一般に耐摩耗性を付与することを目的とし、電力・化学などのプラント構成部品、電力設備構成部品、鉄道・船舶・陸運・航空・宇宙などの運輸に関る機械構成部品、家電製品用部品、建設機械用部品、金型、工作機械用部品、機械締結部品、医療用部品などに使用されている。本発明は、従来の浸炭処理品が適用される技術分野全体に適用することができる。
【0014】
マイクロ波加熱は、従来のプラズマ浸炭法に比べ局所的な加熱が可能であり,エネルギーを対象物に集中できるため、極めて高速に昇温をすることができる。また、マイクロ波の照射によって発生するプラズマは、浸炭処理を行う時に表面のクリーニングおよび炭素イオンの生成など、極めて有用である。従来のプラズマ浸炭は、減圧雰囲気において電極を用いてプラズマを発生させる。本発明では、マイクロ波を照射し、電極を用いず、代わりに雰囲気を制御することによって、大気圧下でプラズマを発生させることができる。前述の通り、マイクロ波によって大気圧下でプラズマを発生させる表面処理装置には特許文献1等がある。これらの従来装置と比べ、本発明の浸炭炉は、マイクロ波を加熱源とすること、電極を用いないこと、浸炭専用の設備であり浸炭後直ぐに焼入れするための急冷設備が備えられている点に特徴がある。
【0015】
マイクロ波によって金属を加熱することができる。マイクロ波の磁場がその効果に大きな役割を担うと考えられ、金属材料でも磁性材料はその効果が顕著である。鉄鋼材料は磁性材料であり、マイクロ波によって加熱されやすい。他方、浸炭される炭素原子は電場に強く励起される。すなわち、鉄とカーボンは位相の異なる波、すなわち、電場と磁場によって揺さぶられる。この作用により、マイクロ波照射下における鉄中のカーボンの拡散速度は、従来のヒータ加熱に比べて速くなり、浸炭処理時間を従来よりも短縮することができる。
【0016】
更に、マイクロ波加熱の場合、試料以外の炉壁などは加熱されていないため、急峻に試料を冷却することができる。また、マイクロ波浸炭炉では、昇温,浸炭,冷却のいずれの工程も、従来と比較し時間を短縮することができる。
【0017】
マイクロ波は、一般に普及しているマグネトロンによる2.45GHzの周波数で、充分に鉄鋼の加熱および浸炭を行うことができる。但し、マイクロ波の照射モードをシングルモードとした場合は、浸炭する試料の大きさなどから周波数を1GHz程度とした方が、電磁界領域が広くなり好ましい。照射モードをシングルモードとした場合には、エネルギーを小領域に集中することができるため、高速加熱に有利である。対象物が小型かつ少量である場合には、シングルモード炉によって処理することにより、更にプロセスを高速化することができ、対象物のサイズおよび生産量によっては極めて高い生産性を実現することができ、大きな利点がある。
【0018】
一方、周波数を30GHz程度とした場合には、金属材料の高温酸化が抑制される効果がある。浸炭処理では、試料の結晶粒界の酸化が大きな課題でもあり、高温酸化が抑制されることにより、極めて高品質な浸炭処理が可能となる。上記の理由から、マイクロ波の周波数は1GHz〜30GHzの範囲が好ましい。
【0019】
浸炭処理を行った試料は、浸炭処理後に焼入れを行わなければならない。焼入れは鉄のマルテンサイト変態を利用した硬化処理であり、γ変態温度に加熱した鉄鋼を一定以上の冷却速度で冷却することにより焼入れを行うことができる。焼きが入ったか否かの判断は、処理後の硬さが処理前の硬さの2倍以上になっているか否かで判断される。通常のプラズマ浸炭あるいはガス浸炭などでは、冷却は、加圧されたHeなどの不活性ガスを炉内に導入することによって行うことが多い。本発明のマイクロ波浸炭炉では、加熱されているのが試料近傍のみであり、炉壁などは加熱されず、かつ大気圧で処理されるため、加熱後直ぐに炉を開放して試料をハンドリングすることが可能である。炉に隣接して、冷却室を設けることで油冷による焼入れなど行うこともできる。更に、冷却媒体が水の場合、水を直接炉内に導入して冷却することも可能である。炉内が水に濡れても、マイクロ波を照射することにより、水を直ちに蒸発させることが可能であり、次ぎの処理に支障の無い状態に直ちに復元することができる。
【0020】
本発明のマイクロ波浸炭炉は、マイクロ波の照射に起因した雰囲気ガスの化学反応と、ガスの励起によりプラズマを発生させる。従って、炉内に電極を設置する必要はない。
【0021】
本発明の浸炭方法は、炉内に炭素源と被処理物の鉄鋼材料があり、雰囲気にAr及び酸素の混合ガスを用いることで実現できる。この状態でマイクロ波を照射することにより、大気圧下においても容易にプラズマが発生する。酸素は炭素と反応しCOを生成する。COは極性分子であり、マイクロ波が照射されることで励起される。炭素源と酸素による反応と、それに伴うCOの発生と当該ガスの励起により、Arプラズマの発生が誘発される。Arはプラズマとなったときに、鉄鋼試料表面をスパッタして金属活性面を露出させる効果がある他、炭素イオンを生成する効果がある。炭素イオンが金属活性面に接触することで浸炭が生じる。
【0022】
COは試料表面の還元と、試料表面に炭素を供給する役割も担う。炭素源と酸素の反応により発生するCOの量が微量である場合には、雰囲気ガスに外部からCOガス或いは/及び炭化水素系ガスを導入すると、浸炭の効率が良くなり、浸炭処理速度を更に速めることができる。また、雰囲気にHを加えることにより、極めて迅速に表面酸化膜の還元が進み、プロセス時間を短縮することができる。従って、浸炭方法の雰囲気はArとOの混合ガスあるいは、これにCOと炭化水素系ガス及びHの少なくとも一種を混合した雰囲気にすることが望ましい。但し、Hと炭化水素系ガスを用いる場合、Oガスは爆発限界以下の低濃度に抑える必要があり、扱いが難しくなるため、可能な限りAr,O,COのみで処理することが好ましい。
【0023】
炭素源は、固体又はガスにて供給される。固体の炭素源の場合は、例えばカーボン粉末を鉄鋼試料にコーティング或いはスプレーによって密着あるいは接触させることが望ましい。ガスを炭素源として用いる場合は、COと炭化水素系ガスの少なくとも一方を雰囲気ガスに含有させることが望ましい。
【0024】
炭素源を鉄鋼試料の表面に密着或いは接触させた場合、Cの供給を迅速に進めることができる。これは、炭素源と酸素の反応により発生するCOガスが効率的に試料表面に供給されること、および炭素源と試料表面の直接接触により原子拡散が進行するためである。特に、マイクロ波照射下では、炭素源の方が、試料よりも加熱されやすいため、試料温度を低く抑えたままで炭素源側が優先的に加熱され、鉄鋼試料側の温度を低く抑えることができる。この時、鉄鋼試料側を冷却しながら処理を行えば、鉄鋼試料内部の温度上昇を極めて低い水準に抑制することが可能であり、たとえば熱的な組織変化あるいは劣化が生じやすい超微細結晶鉄鋼材料の浸炭処理を行う上で有用である。ここで、超微細結晶鉄鋼材料とは結晶粒径が1μm以下の鉄鋼材料である。結晶粒径が1μm以下の超微細結晶鉄鋼材料では、結晶粒微細化強化により、靭性を損なうことなく1000MPa以上に高強度化することも可能である。但し、超微細結晶鉄鋼材料は、γ変態する領域に加熱すると急激に結晶成長が生じ、普通の鋼に戻る。本発明では、基材の温度を低く抑えたまま、かつ短時間で浸炭処理を施すことができるので、超微細結晶鉄鋼材料の結晶粒粗大化を抑制し、基材の機械的特性を損なうことなく表面処理ができる。
【実施例1】
【0025】
本発明によるマイクロ波浸炭炉の一実施例としてマルチモード炉を図1に示す。図1の浸炭炉は、マイクロ波照射機能が内蔵されたマイクロ波照射炉100を備え、その炉にArとOを含む雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給管101と、冷却ガス供給管102が設置されている。マイクロ波照射炉100の内部には、マイクロ拡散用ファン103と、サセプター104と、サセプターのマニピュレート用ロッド105と、冷媒噴霧ノズル106が設置されている。マイクロ波照射炉の炉壁の一部には温度測定用窓107が設けられている。また、マイクロ波照射炉に隣接して冷却室108が併設されており、マイクロ波照射炉と冷却室はゲート109で繋がっている。このゲートの動作はマイクロ波の出力系と連動する構成であり、ゲートが開く前にマイクロ波の出力はオフになる。従って、冷却室108には任意の液体を入れることが可能である。また、冷媒噴霧時にもマイクロ波の出力がオフになる構成となっている。浸炭後に焼入れを行うための急冷機構としては、冷却ガス供給手段と冷却室のどちらか一方を設けるだけで十分であるが、本実施例では両方を備えて任意に選択できるようにしている。
【0026】
図1に示す構成の浸炭炉を用いて、浸炭実験を行った。照射するマイクロ波の波長は2.45GHzとした。浸炭処理を行う試料150はISO:18CrMo4に類似する成分組成の鉄鋼材料SCM415とし、SCM415の表面にカーボン粉末を塗布した。また、カーボンをサセプター104として試料を覆うように設置した。マイクロ波の一部はカーボンを励起し、発熱したカーボンの輻射熱が試料の昇温をアシストしている。炉内には90%Arと10%Oの混合ガスをフローさせた。浸炭処理条件は温度900℃、保持時間3分とした。
【0027】
当該セッティングで最大6kWのマイクロ波を照射した。目標温度には10分で到達した。マイクロ波照射中は、炉内全体にプラズマの発生が認められた。目標温度に達した後、所定の時間保持し、その後、直ちに冷却室108に試料150を落下させた。ここでは試料を冷却室に落下させたが、落下させずに、冷媒噴霧ノズル106からHeガスを吹付けて焼入れ処理を行ってもよい。なお、冷媒噴霧ノズルから冷媒を吹付けるときは、サセプターを移動して、冷媒が直接試料に当たるようにするとよい。
【0028】
焼入れ処理後の表面近傍の硬さ分布を表1に示す。僅か3分の処理でも表面から約200μmまで硬さの向上が認められ、浸炭焼入れが施されていることが分かった。本プロセスにおいて、試料をセットしてから取り出すまでの所要時間は約15分であった。通常のプラズマ浸炭あるいはガス浸炭では、試料をセットしてから取り出すまでに数時間を要するのに対し、本発明では極めて短時間に浸炭処理を行うことができた。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
本発明の別の実施例として、シングルモード浸炭炉の例を図2に示す。図2の浸炭炉は、雰囲気ガスの供給前に真空排気することが可能な容器200を備え、その容器にArとOを含む雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給管201と、ガス冷媒供給管202、液冷媒供給管203が設置されている。容器の一部にはマイクロ波(MW)導入用のアルミナ製の窓204が設けられている。また、容器200に隣接して冷却室205が併設されており、容器と冷却室はゲート206で繋がっている。シングルモードの場合、マルチモード炉とは異なり、マイクロ拡散用ファンを省略できる。ガス冷媒供給管と液冷媒供給管の両方を備えたのは、どちらかを任意に選択できるようにするためである。本実施例の装置の場合、マルチモード炉に比べ、容積が小さく、強電磁界領域を作れることから、より高速の加熱が可能である。図3にサセプターを入れずに強磁場中でSCM415を加熱した時の温度とマイクロ波照射時間との関係を示した。マイクロ波の出力は2kWとした。サセプターが無くても100℃/分以上の加熱速度を実現できていることがわかる。シングルモード炉では、サセプター等を用いれば、3kWの出力でも、鉄基材料を約900℃まで5分以内に加熱することが可能である。
【実施例3】
【0031】
超微細結晶フェライト鋼の浸炭焼入れを、図2のシングルモード炉を用いて行った。超微細結晶フェライト鋼の結晶粒径と硬さの関係を図4に示す。この試料の結晶粒径と強度の関係はホールペッチの関係で表すことができ、超微細結晶フェライト鋼の硬さは結晶粒微細化強化により発現されている。浸炭処理に用いた超微細結晶フェライト鋼の硬さは、約400HVである。
【0032】
試料のセッティング状況を図5に示す。試料にはサセプター兼炭素源を接触させた。また、試料の背面側は、Cu製の試料ホルダを介して液体窒素を満たした容器壁面に密着させ、試料温度の上昇を防止するようにした。雰囲気は90%Ar−10%O混合ガスとし、浸炭処理条件は900℃,20分とした。目標温度に達した後、所定の時間保持し、その後、マイクロ波の出力を落とした。焼入れは、Cu製の試料ホルダを介した液体窒素による冷却で行った。
【0033】
焼入れ処理後の表面近傍の硬さ分布を表2に示す。表面から約500μmの深さまで、硬さの向上が認められ、浸炭焼入れができていることが分かった。また、超微細結晶フェライト鋼の基材における硬さは、処理前に比べ殆んど低下することなく、基材内部は結晶粒の粗大化が抑制されていることがわかった。
【0034】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例を示すマルチモード浸炭炉の概略構成図。
【図2】本発明の他の実施例を示すシングルモード浸炭炉の概略構成図。
【図3】図2の装置を用い、サセプターを入れずに強磁場中でSCM415を加熱した時の温度とマイクロ波照射時間との関係を示す線図。
【図4】超微細結晶フェライト鋼の結晶粒径と硬さの関係を示す線図。
【図5】図2の装置における試料のセッティング状況を示す概略図。
【符号の説明】
【0036】
100…マイクロ波照射炉、101…雰囲気ガス供給管、102…冷却ガス供給管、103…マイクロ拡散用ファン、104…サセプター、105…マニピュレート用ロッド、106…冷媒噴霧ノズル、107…温度測定用窓、108…冷却室、109…ゲート、150…試料、200…容器、201…雰囲気ガス供給管、202…ガス冷媒供給管、203…液冷媒供給管、204…窓、205…冷却室、206…ゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を加熱源とし、無電極かつ大気圧でプラズマを発生させて浸炭処理を行うマイクロ波浸炭炉であって、マイクロ波が導入されるマイクロ波照射室と、前記マイクロ波照射室にArとOを含む雰囲気ガスを供給する雰囲気ガス供給機構と、浸炭後の被処理物を冷却媒体により冷却するための急冷機構とを備え、前記マイクロ波照射室に鉄鋼材料よりなる被処理物と浸炭に必要な炭素源が配備されることを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項2】
請求項1において、前記急冷機構として前記マイクロ波照射室に隣接して冷却室を備えたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項3】
請求項1において、前記急冷機構として前記マイクロ波照射室にガス状の冷却媒体を供給する冷却ガス供給機構を備えたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項4】
請求項1において、前記雰囲気ガス供給機構からArとOに加えてCOと炭化水素系ガスの少なくとも一方が供給されるようにしたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項5】
請求項1において、前記雰囲気ガス供給機構からArとOに加えてHが供給されるようにしたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項6】
請求項4において、前記雰囲気ガス供給機構から更にHが供給されるようにしたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項7】
請求項1において、前記マイクロ波照射室に固体の炭素源を表面部分に備えた被処理物が配備されることを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項8】
請求項1において、前記マイクロ波の周波数が1GHz以上、30GHz以下であることを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項9】
請求項1において、前記マイクロ波照射室としてマイクロ波照射機構が内蔵されたマイクロ波照射炉を備えたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項10】
請求項9において、前記マイクロ波照射炉の炉内にマイクロ波拡散用ファンを備えたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項11】
請求項9において、前記マイクロ波照射炉の内部にサセプターを備えたことを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項12】
請求項1において、前記マイクロ波照射室の一部にマイクロ波導入窓を有することを特徴とするマイクロ波浸炭炉。
【請求項13】
マイクロ波を加熱源に用いて、鉄鋼材料よりなる被処理物を浸炭処理する方法であって、被処理物と炭素源及びArとOを含む雰囲気ガスの存在下でマイクロ波を照射し、炭素源と酸素の反応とそれに伴うCOの発生及び励起によりArプラズマを発生させ、炭素イオンを生成させて被処理物を浸炭し、その後、冷却媒体により被処理物を急冷して焼入れを行うことを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項14】
請求項13において、前記雰囲気ガスとしてArとO及び、COと炭化水素系ガスの少なくとも一方を含むことを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項15】
請求項13において、前記雰囲気ガスとしてArとO及びHを含むことを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項16】
請求項14において、前記雰囲気ガスとして更にHを含むことを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項17】
請求項13において、前記炭素源が固体又はガスであり、固体がカーボン粉末、ガスがCO又は炭化水素系ガスよりなることを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項18】
請求項13において、前記被処理物が結晶粒径1μm以下で引張強度1000MPa以上の鉄鋼材料よりなることを特徴とするマイクロ波浸炭方法。
【請求項19】
請求項13において、前記マイクロ波の周波数が1GHz以上、30GHz以下であることを特徴とするマイクロ波浸炭方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−31539(P2008−31539A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208142(P2006−208142)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】