説明

マイクロ流体システムの流入口と毛細管チャネルとの接続

本発明はマイクロ流体システムに関する。より詳細には本発明は、毛細管チャネル(14)及び流体を受ける流入口(12)を有するマイクロ流体システム、並びに、毛細管(14)を充填する方法に関する。流体を受ける流入口(12)、毛細管チャネル(14)、余剰流体を外へ出す流出口(20)、及び、前記流入口(12)と前記毛細管チャネル(14)とをつなぐ貯蔵室(10)を有するマイクロ流体システムが供される。前記貯蔵室(10)は、前記流入口(12)から前記流出口(20)への第1流路、及び、前記流入口(12)から前記毛細管チャネル(14)の入口への第2流路を形成する。流体が前記流入口(12)にて圧力を受けた状態で受けられるときに、前記毛細管チャネル(14)の入口(22)での圧力を減少させる効果を生じさせるため、前記第1流路の流体抵抗は十分に低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体システムの分野に関し、より具体的には、毛細管チャネル及び流体を受け取る流入口を有するマイクロ流体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学及び技術の分野における顕著な進歩は、マイクロ流体技術を利用してきたことによる。
【0003】
「マイクロ流体」という語は一般に、少なくとも1つの断面寸法−たとえば深さ、幅、又は直径−が1mm未満となるように作られるチャネル及びチャンバを有するシステム又はデバイスを指称するのに用いられる。たとえば、マイクロ流体チャネル及びチャンバは、非常に少量の材料の輸送、混合、分離、及び/又は検出を可能にする流体チャネルネットワークを形成する。マイクロ流体デバイスは特に有利である。その理由は、マイクロ流体デバイスは、自動化可能な高スループット処理で小さな試料サイズの様々な測定−たとえば化学測定、光学測定−を実行することを可能にするからである。
【0004】
マイクロ流体デバイスにおいて用いられるチャネルサイズと流体体積が小さいため、大きなスケールでの流体流において重要ではないが、マイクロ流体デバイス内部の流体竜に影響を及ぼす因子が存在する。たとえば流体の物理的特性−たとえば表面張力、粘度等−は、マイクロスケールの流れが有するものよりも、流体の機構にはるかに大きな影響を及ぼしうる。
【0005】
特許文献1では、外部から注入される流体を貯蔵する入口貯蔵チャンバを有するマイクロ流体システムが知られている。流れのチャネルは、貯蔵チャンバと反応チャンバとを接続する。流体を動かすのに必要な駆動力は、自然の毛細管現象から生じる。そのためマイクロ流体システムは、外部駆動力を必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0133101A1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロ流体デバイスにおいては一般的に、当該デバイスは自律的に液体で満たされることが望ましい。つまり充填速度は、完全に又は少なくとも主として、当該デバイス及び流体−たとえば試料液体−の特性によって決定されることが望ましい。一旦充填処理が引き起こされると、充填速度はユーザーによる影響を受け得ないことが望ましい。
【0008】
たとえばマイクロ流体分析デバイスを用いるとき、典型的には、当該マイクロ流体分析デバイスのスケールよりもはるかに大きく、かつ適合しない体積の試料が取得される。たとえば試料流体は、マイクロ流体システムのフロントエンドユニット又はモジュールにおいて取得されて良い。前記フロントエンドユニット又はモジュールは圧力駆動であって良い。
【0009】
当該マイクロ流体システムの圧力駆動部分と毛細管駆動部分との間の接続に係る界面現象を排除することが望ましい。毛細管駆動部分に導入されるべき流体に加えられた圧力から当該マイクロ流体デバイスの毛細管駆動部分を切り離すことも望ましい。流体が自律的に充填される、圧力のかかった流体を受け取る流入口と毛細管チャネルを有するマイクロ流体システムを実現することもまた望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの懸念のうちの1つ以上を良好に解決するため、本発明の第1態様では、
− 流体を受け取る流入口、
− 毛細管チャネル、
− 余剰流体を外へ出す流出口、及び
− 前記毛細管チャネルと前記流入口とをつなぐ貯蔵室、
を有するマイクロ流体システムであって、
前記貯蔵室は、前記流入口から前記流出口への第1流路を形成し、
前記貯蔵室は、前記流入口から前記毛細管チャネルの入口への第2流路を形成し、
流体が前記流入口にて圧力を受けた状態で受けられるときに、前記毛細管チャネルの入口での圧力を減少させる効果を生じさせるため、前記第1流路の流体抵抗は十分に低い。
【0011】
前記圧力の減少は前記貯蔵室の構造によって実現される。具体的には、前記圧力は、能動圧力減少手段なしで減少する。
【0012】
圧力駆動の流体が受ける流体力学的抵抗は、流速で圧力差を除した値である。つまりRhydr=ΔP/Φである。流体力学的抵抗の単位はPa・s/m3である。所与の前記流体の特性では、前記流体力学的抵抗は、前記貯蔵室又は毛細管チャネルの構造パラメータに完全に依存する。たとえば長方形の断面を有する貯蔵室の流路−すなわち一般的にはチャネル−の流体力学的抵抗は略Rhydr=12ηL/h3w(1-0.63(h/w))となる。ここで、ηは流体の動的粘性、Lはチャネル長、hはチャネル高さ、wはチャネル幅で、h≦wである。
【0013】
よって一般的には、十分小さな流体力学的抵抗は、十分大きな流路すなわちチャネルの断面によって実現可能である。
【0014】
「断面」という語は断面積を意味する。この断面積は、流体によって充填されうる面積である。つまり具体的には、各対応する流路すなわちチャネルに沿った流体流にとって最大の利用可能な面積である。この面積は、所与の断面において連続的であっても良いし、又は2つ以上の独立した部分から構成されても良い。たとえば貯蔵室が有孔性フィルタ材料によって充填されるとき、前記フィルタ材料が流体によって変位するため、断面は減少する。さらにフィルタ材料が貯蔵室の内壁を形成するため、断面積は分割されても良い。
【0015】
第1流路に沿った貯蔵室の流体力学的抵抗が、第1流路に沿った断面のサイズと幾何学形状に依存するので、寸法は、断面の幾何学形状に依存して選ばれて良い。貯蔵室の寸法を適切に選ぶ−具体的には、毛細管チャネル及び/又は貯蔵室の第2流路の寸法に対して、貯蔵室の第1流路の寸法を選ぶ−ことによって、たとえば流入口からの、貯蔵室を充填する圧力駆動流体流が、毛細管チャネルへ入り込むのを防止することができる。たとえば、毛細管チャネルの抵抗に対して貯蔵室の抵抗は無視できるので、流体は、毛細管チャネルを充填せずに、単純に通り過ぎる。余剰流体は、流出口から貯蔵室を飛び出す。よって第1流路−具体的には、第1流路と第2流路の共通部分の上流である前記第1流路の部分−の流体力学的抵抗が十分小さいため、毛細管チャネルの入口で圧力が減少する。よって毛細管チャネルは自律的に充填されうる。「毛細管チャネルを充填する」という語は、毛細管チャネルを完全又は少なくとも所定の限界−たとえばマイクロ流体デバイスの位置−にまで充填することを意味する。
【0016】
第1流路に沿った流体力学的抵抗の進展は非常に局所的に変化して良く、かつたとえば必ずしも直線的ではない。たとえば第1流路の少なくとも1つ以上の部分では、各部分の流体力学的抵抗は十分に小さく、それにより流体力学的抵抗の全体的効果は、毛細管チャネルの入口での圧力を減少させることである。たとえば第1流路の断面は、流入口から流出口への進路に従って変化する。つまり第1流路の少なくとも1つ以上の部分では、断面は十分に大きく、それにより全体としては、第1流路に沿って変化する断面の効果は、十分に小さな流体力学的抵抗を供する、つまり毛細管チャネルの入口での圧力を減少させることである。
【0017】
たとえば第1流路は、流入口から流出口への進路において、ある断面プロファイルを有する。流体が圧力を受けた状態で流入口にて受け取られるときに、毛細管チャネルの入口での圧力を減少させるため、この断面プロファイルは十分大きくなっている。このことは、第1流路の流体力学的抵抗が十分小さいことを示唆している。特に第1流路は、ある断面プロファイルを有する。流体が圧力を受けた状態で流入口にて受け取られるときに、毛細管チャネルの入口での圧力を減少させるため、この断面プロファイルは、流入口から流出口までの第1流路において、少なくとも局所的に十分大きくなっている。
【0018】
たとえば毛細管チャネルは、毛管力によって流体を輸送する毛細管チャネルである。たとえばマイクロ流体システムはマイクロ流体デバイスを有する。たとえば毛細管チャネルは、流体をマイクロ流体システムへ輸送する毛細管チャネルである。
【0019】
たとえば流入口は、圧力を受けた流体を受け取る流入口である。圧力の減少又は圧力の切り離しにより、マイクロ流体システムへの試料流体の圧力駆動による供給は、毛細管チャネルの充填に無視できる程度の効果しか有しない。さらに充填は、マイクロ流体システムの向き、つまりたとえば該マイクロ流体システムを有するハンドヘルドデバイスの向きに依存しない。
【0020】
流出口はたとえば逃がしベントである。たとえば流出口は外部に対して開放されている。
【0021】
たとえば第2流路は、第1流路と共通する上流部分を少なくとも有する。つまり第1流路は、部分的又は全体的に第2流路を含む。たとえば流入口から流出口までの第1流路の進路において、第2流路の下流部分は支流に入って良い。
【0022】
以降では、第1流路の流体力学的抵抗−これは十分小さい−を有する貯蔵室に係る複数の設計例について説明する。
【0023】
たとえば第1流路の共通部分の上流端部、つまり毛細管チャネルの入口での圧力を減少させるため、第1流路の一部分−毛細管チャネルの入口の下流及び/又は第1流路と第2流路との共通部分の下流の部分−の流体力学的抵抗は、十分小さくて良い。たとえば毛細管チャネルの入口は、第1流路と第2流路との共通部分の下流端部に備えられて良い。あるいは、第1流路と第2流路は、第1流路と第2流路との共通部分の下流で分岐しても良い。いずれの場合でも、毛細管チャネルの入口での圧力は、第1流路と第2流路との共通部分の下流端部での圧力以下である。十分に小さな流体力学的抵抗は、十分大きな断面プロファイルによって実現可能である。
【0024】
それに加えて及び/又はあるいはその代わりに、第1流路と第2流路との共通部分の第1流路の下流から分岐する第2流路の一部分は、たとえば第1流路と第2流路との共通部分の流体力学的抵抗、及び/又は、第1流路と第2流路との共通部分の下流である第1流路の共通部分の流体力学的抵抗よりも大きな流体力学的抵抗を有して良い。よって第1流路−具体的には第1流路の下流部分−の流体力学的抵抗は、第2流路の前記部分−第1流路と第2流路との共通部分の下流である−が、毛細管チャネルの入口での圧力を減少させることを可能にするのに十分な程度小さい。また第1流路と第2流路との共通部分の共通部分の下流である第1流路の共通部分の流体力学的抵抗は、毛細管チャネルの入口で必要な程度に圧力を減少させるため、さらに十分小さくて良い。
【0025】
「圧力減少」という語は圧力の切り離し−つまり毛細管チャネルの入口で加圧されていない流体が供されるように圧力を減少させること−を含んで良い。
【0026】
たとえば圧力減少は、流体が圧力を受けた毛細管チャネルへ入り込むのを防止するための圧力減少である。
【0027】
圧力の減少又は切り離しは、毛細管チャネルの自律的充填を可能にする。圧力を受けた貯蔵室へ入り込む流体は、チャネルへ入り込もうとはせず、チャネル入口を通り抜けて流出口へ向かって流れる。
【0028】
よって貯蔵室は、流入口にて圧力を受けた流体が受け取られるときに毛細管チャネルの入口にて加圧されていない流体を供する圧力減少チャンバ−たとえば圧力切り離しチャンバ−であって良い。
【0029】
たとえば貯蔵室の第1流路及び/又は第2流路はマイクロ流体流路ではない。特に、前記流路は、各方向において1mmよりも大きな断面寸法を有して良い。よってたとえば、貯蔵室は、少なくとも1つの毛細管チャネルに供される多量の流体を保持することができる。
【0030】
本発明の有用な詳細は従属請求項において示される。
【0031】
一の実施例では、第1流路の流体力学的抵抗は、第2流路及び毛細管チャネルの流体力学的抵抗よりも小さい。たとえば特に、第1流路と第2流路の共通部分の上流である第1流路の部分に係る流体力学的抵抗は、第1流路と第2流路の共通部分の上流である第2流路の部分及び/又は毛細管チャネルに係る流体力学的抵抗よりも小さい。たとえば、第1流路の流体力学的抵抗は、第1流路と第2流路の共通部分の上流である第2流路の部分及び/又は毛細管チャネルに係る流体力学的抵抗よりも小さい。
【0032】
たとえば、流入口は毛細管チャネルへの入口の上流に備えられ、かつ流出口は毛細管チャネルの入口の下流に備えられている。たとえば毛細管チャネルは貯蔵室の第1流路から分岐している。たとえば流入口から流出口への第1流路は貯蔵室の一部を有する。前記貯蔵室の一部は、入口の上流から流出口まで延在し、かつ、毛細管チャネルよりも小さな流体力学的抵抗及び/又は前記毛細管チャネルよりも大きな断面を有する。
【0033】
たとえば流出口は、毛細管チャネルの入口よりも大きな断面を有する。
【0034】
一の実施例では、圧力が減少することで、毛細管チャネルを実質的に毛管力によって充填することが可能となる。具体的には、圧力が減少することで、主として毛管力によって、又は毛管力のみによって、毛細管チャネルを充填することが可能となる。よって毛細管チャネルは、流体流入口に印加される圧力から切り離される。
【0035】
たとえばマイクロ流体システムはマイクロ流体デバイスをさらに有する。毛細管チャネルは、流体をマイクロ流体デバイスへ輸送するように備えられる。たとえば毛細管チャネルは、毛管力によって流体を輸送するように備えられる。よって自律的な毛細管チャネルの充填と流体の輸送が供される。毛管力による流体の輸送は、チャネルと試料流体の特性にのみ依存するので、自律的充填を実現する非常に確かな方法である。別な作動又は排気デバイスが設けられても良い。一般的には、マイクロ流体システムは、2つ以上の毛細管チャネルを有して良く、かつ1つの毛細管チャネル当たり2つ以上のマイクロ流体デバイスを有して良い。(複数の)毛細管チャネルは、1つ以上のマイクロ流体デバイスを含むマイクロ流体ネットワーク用の入力を形成して良い。
【0036】
一の実施例では、毛細管チャネルの入口は、第1流路と第2流路の共通部分からの流体によって濡れることができる。たとえば毛細管チャネルの入口は、第1流路を流れ、かつ/あるいは第1流路を充填する流体によって濡れるように、貯蔵室にて備えられている。具体的には、毛細管チャネルの入口は、貯蔵室−特に第1流路と第2流路の共通部分−からの加圧されていない流体によって濡れることができる。つまり毛細管チャネルの入口を濡らすのに圧力は必要とされない。たとえば第1流路と第2流路の共通部分が流体によって充填されるとき、第2流路の残りの上流部分は流体によって濡れることができる。よって、流体は、濡れることによって、第1流路と第2流路の共通部分から毛細管チャネルの入口まで輸送することができる。
【0037】
一の実施例では、毛細管チャネルの入口は、第1流路と第2流路の共通部分の上流及び/又は流入口の上流である第2流路の部分中に存在する流体による圧力によらず濡れることができる。具体的には、毛細管チャネルの入口には濡れる上での障壁(wetting barrier)は存在しない。よって毛細管チャネルは、加圧されていない流体によって自律的に充填されうる。
【0038】
一の実施例では、毛細管チャネルの入口を取り囲み、かつその入口を形成する、貯蔵室の内側表面領域は、実質的に均一の濡れ性を有する。たとえば、第2流路に沿って連続的に延在する貯蔵室の壁は、第2流路に沿って実質的に均一に濡れることが可能で、かつ前記内側表面領域を含む。よって、毛細管チャネルの入口を取り囲む内側表面領域に到達する加圧されていない流体は、毛細管チャネルの入口を自律的に濡らし、かつ毛管力によって前記毛細管チャネルに入り込む。
【0039】
一の実施例では、フィルタ材料は、毛細管チャネルの入口から第1流路を隔離する。よって第2流路の少なくとも一部は、フィルタ材料を流れ抜ける。つまり、第1流体から区別される第2流路の一部は、フィルタ材料によって形成される。フィルタ材料は、第2流路の前記部分の断面積を減少させる。さらにフィルタ材料は、第2流路の前記部分の濡れ性を改善させることができる。たとえばフィルタ材料は、濡れることによって、毛細管チャネルの入口の方向へ流体を輸送するように備えられて良い。たとえば、貯蔵室の第1部分は第1流路を形成し、貯蔵室の第2部分は、フィルタ材料を含み、かつ、第1流路と第2流路の共通部分の上流である第2流路の一部分を形成して良い。フィルタ材料はまた、第1流路内−具体的には第1流路と第2流路の共通部分内−に存在しても良い。フィルタ材料は、貯蔵室の壁と一体化するように形成されて良い。
【0040】
たとえば毛細管チャネルの入口から第1流路を隔離するフィルタ材料は、第2流路の流体力学的抵抗を増大させる。第1流路と第2流路の共通部分の下流である第1流路の一部にフィルタ材料が存在しないことで、第1流路の流体力学的抵抗は、毛細管チャネルの入口での圧力減少を生じさせるのに十分な程度に低くすることができる。しかも毛細管チャネルの入口から第1流路を隔離するフィルタ材料は、流体中の気泡が毛細管チャネルの入口に到達するのを防止することができる。
【0041】
一の実施例では、第1流路は、流体中に含まれる気泡によって通過可能である。よって流体中に存在する気泡は、流出口を介して除去することができる。これにより、毛細管チャネルへの流体の供給が助けられる。
【0042】
一の実施例では、第1流路と第2流路の共通部分は受動圧力バルブを有する。「受動バルブ」という語は、流体による氾濫を起こすのにあるレベルの圧力を必要とする流路の一部を表す。受動圧力バルブが氾濫するとき、その流体力学的抵抗への寄与は無視できる。受動圧力バルブは、たとえば毛細管チャネルの自律的充填が引き起こされる前に、流入口を介して貯蔵室へ流体を供給するように備えられたフロントエンドユニット内に適切な最小量の流体が存在することを保証する。よってある限界範囲内では、毛細管チャネルの自律的充填は、たとえば試料流体の量又はユーザーの行為の速度には依存しない。たとえば、マイクロ流体システムのフロントエンドユニットは、試料取得ユニット及び/又は試料流体浄化ユニットであって良い。たとえばマイクロ流体システムは、フロントエンドユニット内の適切な最小量の試料流体の存在をユーザーに示す表示器を有して良い。
【0043】
一の実施例では、受動圧力バルブは表面濡れ性バリアを有する。表面濡れ性バリアとはつまり、周囲の表面の濡れ性とは異なる−具体的には周囲の表面の濡れ性よりも低い−濡れ性を有する領域である。表面濡れ性バリアはたとえば、流体が極性流体であるときには疎水性バリアである。
【0044】
一の実施例では、受動圧力バルブは、構造濡れ性バリアを有する。構造濡れ性バリアとはたとえば、構造によって流体表面のピン留めを行うバリアである。たとえば構造濡れ性バリアは、90°よりも大きな開口角を有する壁の端部を有して良い。具体的には、バリアは、対向する壁の端部を有して良い。各端部は90°よりも大きな開口角を有する。流体メニスカスが、90°よりも大きな開口角を有するように構造上画定された端部に到達する場合、その濡れた表面に対する接触角は、もはや一定ではなくなる。駆動圧力が印加されていない限り、メニスカスは、毛細管圧力がゼロの状態で、端部に固定すなわちピン留めされる。よってピン留め効果は、貯蔵室の充填挙動の制御に利用されて良い。液体前方部は、突破圧力に到達するまで、あるいは、他の液体前方部が、反対方向からそのバリアに到達して固定された前記の前方部と結合するまで、ピン留めバリアで固定される。
【0045】
一の実施例では、第1流路と第2流路の共通部分の下流である第1流路の一部分は受動圧力バルブを有する。それにより受動圧力バルブまでの貯蔵室の完全な充填を助けることができる。受動圧力バルブの突破圧力は、毛細管チャネルが依然として実質的に毛管力によって充填されうることを保証するのに十分な程度に低くすることができる。流体があまりに高すぎる圧力を受けた状態で受け取られる場合、受動圧力バルブは、流体が突破して、流出口、たとえばすなわち貯蔵室のさらに下流部分に到達することを可能にする。
【0046】
一の実施例では、さらなる毛細管チャネルの入口は貯蔵室に備えられて良く、前記貯蔵室は、流入口から前記さらなる毛細管チャネルへの入口までの第3流路を形成し、前記第3流路は前記第1流路と共通する上流部を少なくとも有する。たとえば第3流路は、第1流路及び第2流路と共通する上流部を有して良い。一の実施例では、第1毛細管チャネルへの入口と他の毛細管チャネルへの入口とは、受動圧力バルブによって隔離される。これは、第1毛細管チャネルへの入口に関する、第1流路と第2流路の共通部分内存在する受動圧力バルブについて上で説明した利点と同じ利点を有する。一の実施例では、さらなる毛細管チャネルの一連の入口が、貯蔵室に備えられ、かつたとえば、各対応する受動圧力バルブによって隔離されて良い。それにより一連の毛細管チャネルをそれぞれ、自律的に充填することが可能となる。
【0047】
本発明の第2態様では、毛細管チャネルを充填する方法が供される。当該方法は、
− 圧力を受けた状態で貯蔵室の流入口で流体を受け取る手順、
− 前記流入口から前記貯蔵室の流出口まで延在する前記貯蔵室の第1流路へ前記流体を流れさせる手順、
− 前記流入口から前記毛細管チャネルの入口まで延在する前記貯蔵室の第2流路を介して、前記貯蔵室に備えられた前記毛細管チャネルの入口に到達するように、前記流体を流れさせる手順、及び、
− 十分小さな前記第1流路の流体力学的抵抗によって前記毛細管チャネルの入口での前記流体の圧力を減少させる手順、
を有する。
【0048】
前記圧力の減少は、前記貯蔵室の構造によって実現される。具体的には、前記圧力は、能動圧力減少手段によることなく減少する。
【0049】
たとえば前記第2流路は、前記第1流路と共通する上流部分を少なくとも有する。前記毛細管チャネルの入口に到達する流体は、前記毛細管チャネルに入り込んで良い。たとえば前記毛細管チャネルは毛管力によって充填される。
【0050】
本発明の上記及び他の態様は、以降で説明される実施例を参照することで明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明によるマイクロ流体システムの典型的な貯蔵室と毛細管チャネルを図示している。
【図2】図1のマイクロ流体デバイスを示す図である。
【図3】フィルタを有するマイクロ流体デバイスの代替実施例を図示している。
【図4】図3のマイクロ流体デバイスを示す図である。
【図5】フィルタを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例である。
【図6】疎水性表面濡れ性バリアを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例の毛細管チャネルを充填する様子を図示している。
【図7】疎水性表面濡れ性バリアを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例の毛細管チャネルを充填する様子を図示している。
【図8】疎水性表面による濡れ性バリアを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例の毛細管チャネルを充填する様子を図示している。
【図9】構造による濡れ性バリアを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例を図示している。
【図10】除泡チャンバを有するマイクロ流体デバイスのさらなる実施例の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1では、マイクロ流体システムの流入口12と毛細管チャネル14とを接続する貯蔵室10の構造上の構成が概略的に図示されている。当該貯蔵室は、側壁16及び上壁と底壁18による長方形の断面を有する。図1では、上壁は図示目的のため示されていない。
【0053】
流入口12は貯蔵室10の前壁に備えられている。流出口20は貯蔵室10の後壁に備えられている。たとえば流入口12及び流出口20はそれぞれ、貯蔵室10の断面積よりも小さい断面積を有する。流入口12はたとえば、試料流体の捕獲又は浄化用のフロントエンドモジュールと接続する。試料流体は、流入口12で貯蔵室10によって受け取られて、貯蔵室10を充填し始める。
【0054】
一の側壁16では、毛細管チャネル14の入口22が備えられる。貯蔵室10の内壁16と18−入口22を取り囲む領域24を含む−は、実質的に均一の濡れ性を有する。たとえば試料流体は、貯蔵室10の壁とある接触角をなす水性流体である。毛細管チャネル14は、毛管力による流体の輸送を可能にするように設計される。
【0055】
貯蔵室10が入口22にまで充填されるとき、その流体は、入口22と接触して、入口22を濡らす。余剰の試料流体は、流出口20を介して貯蔵室10から出て行く。
【0056】
毛細管チャネル14の断面は、流入口12から流出口20への流体流の方向と垂直な貯蔵室10の断面よりもはるかに小さい。毛細管チャネル14の流体力学的抵抗に対して貯蔵室10の流体力学的抵抗は無視できるので、圧力を受けた状態で受け取られる流体は、圧力を受けた状態で毛細管チャネル14へ入り込むよりはむしろ、入口22を通過するように流れる。よって貯蔵室10の小さい流体力学的抵抗が圧力減少の効果を生じさせる。これにより、加圧流体が毛細管チャネル14へ入り込むのを防止することが可能となる。よって、毛細管チャネル14の入口22は、貯蔵室10からの加圧されていない流体によって濡れることができる。従って毛細管チャネル14は、毛管力のみによって自律的に充填される。
【0057】
図2は、図1の貯蔵室10及び毛細管チャネル14を内蔵するマイクロ流体システムを概略的に図示している。矢印は、フロントエンドユニット26から流入口12を介して貯蔵室10へ向かう流体流、貯蔵室10から入口22と毛細管チャネル14を介してマイクロ流体デバイス28へ向かう流体流、及び、貯蔵室10から流出口の外へ出る流体流を示している。たとえば貯蔵室10のフロントエンドユニット26から流入口12への流体の流れは、圧力駆動であって良い。マイクロ流体デバイス28はたとえば、流体での化学測定、光学測定、若しくは他の測定を行うセンサ又は分析手段を有する。
【0058】
図1及び図2から分かるように、貯蔵室10は、均一の断面積を有する流入口12から流出口20までの第1流路を形成する。流出口20はたとえば、外部に対して大気解放されている。さらに貯蔵室10は、毛細管チャネル14の流入口12から入口22までの第2流路を形成する。この例では、前記第2流路は前記第1流路の上流部と一致する。この例では、前記第1流路−特に入口22と流出口20との間で延在する前記第1流路の後半部−は、流体が圧力を受けて流入口12で受け取られるときに、入口22での圧力を減少させるのに十分な低さの流体力学的抵抗を有する。フロントエンドユニット26によって保証することが可能な、ある圧力限界範囲内では、貯蔵室10さえも、流入口12の圧力と入口22の圧力とを切り離す。よって貯蔵室10は圧力切り離しチャンバである。
【0059】
貯蔵室10が流入口から出力口へのチャネルを形成しているとはいえ、このチャネルはマイクロ流体チャネルではなく、かつ流入口12から流出口20への毛細管輸送は存在しない。チャネルの流体力学的抵抗が断面の寸法に強く依存するので、貯蔵室10の流体力学的抵抗が毛細管チャネル14の流体力学的抵抗に対して無視できるようにするため、貯蔵室10及び毛細管チャネル14の断面寸法は、容易に調節可能である。
【0060】
図3は、貯蔵室が、第2部分10bの上部に備えられた第1部分10aを有するマイクロ流体システムの実施例を図示している。前記貯蔵室の第1部分10aは、第1部分10aの一端で上壁18に備えられる流入口12から、第1部分10aの後壁に備えられる流出口20への第1流路を形成する。前記第1流路は長方形の断面を有する。
【0061】
前記貯蔵室の第2部分10bは、流入口12に対向する長方形開口部30を介して第1部分10aと接続する。第2部分10bは円筒形状を有する。長方形開口部30は第2部分10bの上壁に備えられている。毛細管チャネル14の入口22は、第2部分10bの側壁に備えられている。
【0062】
前記貯蔵室の第2部分10bは、フィルタの有孔性フィルタ材料で充填される。前記貯蔵室は、流入口12から、第1部分10aと、開口部30と、フィルタ材料32を介して、毛細管チャネル14の入口22へ向かう第2流路を形成する。前記第1流路及び前記第2流路は、それぞれの上流開始地点で、短い共通部分を有する。
【0063】
フィルタ材料32は、長方形開口部30から入口22へ向かう前記第2流路の下流部分の流体力学的抵抗を増大させる。よって流体が流入口12にて圧力を受けた状態で受け取られるとき、前記貯蔵室の第1部分10aに沿った流入口12から流出口20への第1流路の流体力学的抵抗が比較的小さいことで、入口22の圧力が切り離される。よって前記貯蔵室は、毛細管チャネル14での毛管流から入力圧力を切り離すための圧力切り離しチャンバである。
【0064】
フィルタ材料32は、有孔性構造であるため、優れた流体吸収体である。よって開口部30を介して第2部分10bへ入り込む流体は、毛細管チャネル14の入口22へ輸送される。毛細管チャネル14の入口22は、前記貯蔵室−特にフィルタ材料32によって充填された貯蔵室−からの加圧されていない流体によって濡れることができる。
【0065】
図4は図3の流体回路を概略的に図示している。前記貯蔵室の第1部分10aは、流入口12から流出口20への第1流路を形成する。前記第1流路の上流部分は、流入口12から、前記貯蔵室の第2部分内のフィルタ材料32を介して、毛細管チャネル14の入口22までの第2流路と一致する。フィルタが存在するため、回路は、小さな圧力で駆動する流れにとって特に適している。
【0066】
図5は、図3の実施例と同様の別な実施例を図示している。しかし上部流入口12から後壁の流出口20への第1流路を形成する第1部分10aは、前記貯蔵室の第2部分10bのフィルタ材料32内に空孔を形成する。流入口12で受け取られて前記空孔に沿って流れる流体は、前記空孔の側壁と後壁にてフィルタ材料32を濡らす。フィルタ材料32は飽和するまで濡れる。前記流体は、毛細管チャネル14の入口22を濡らす。余剰流体は、前記第1流路に沿って、フィルタ材料32を通過して流出口20へ向かって流れる。図3及び図4に図示されているように、流入口12から流出口20へ導く前記第1流路と流入口12から毛細管チャネル14の入口22へ導く前記第2流路とは、上流部分を共有する。図3及び図4に図示されているように、フィルタ材料32は、入口22から前記第1流路を切り離す。
【0067】
図5の実施例では、前記第1流路、前記第2流路、及び毛細管チャネル14は一の面内に存在し、かつたとえばそれぞれ共通の上壁の高さを有する。よってその構造は、基材−たとえば底部プレート−内に貯蔵室10及び毛細管チャネル14を形成し、かつ、上壁を形成して流入口12を有する上部プレートで前記底部プレートを覆うことによって、単純に製造することができる。たとえば前記底部プレートはプラスチック材料で作られる。あるいはその代わりに、前記基材は、様々な物質(たとえばアルミニウム、銅、又は鉄)、シリコン、又はガラスで作られて良い。さらに前記基材はプリント回路基板であって良い。前記上部プレートは、前記基材と同一の材料で作られても良いし、それとは異なる材料で作られても良い。
【0068】
図5の構造に代わって、前記貯蔵室の第1部分10aは、フィルタ材料32内に空孔を形成することなく、前記基板又は基材内に形成されても良い。たとえば第1部分10aは、入口22に対向する前記貯蔵室の第2部分の側部に備えられて良いし、又はそれとは異なる側部位置に備えられても良い。空孔を含まない円盤形状又は円筒形状のフィルタ材料22の製造は容易である。
【0069】
図6〜8は、図2の実施例に類似した、貯蔵室10と毛細管チャネル14を有するマイクロ流体システムの別な実施例を図示している。しかし第1疎水性表面による濡れ性バリア34が、上流である前記第1流路と第2流路の共通部分に備えられている。第2疎水性表面による濡れ性バリア36は、流出口20へ導く前記第2流路の下流に備えられている。バリア34と36は疎水性の栓を形成する。前記疎水性の栓は受動的圧力バルブを構成する。貯蔵室10の内壁の領域34と36では、表面エネルギーが貯蔵室10の内壁の周囲とは異なる。
【0070】
たとえばバリア34と36は、貯蔵室10の底部壁と上部壁の疎水性表面領域によって形成されて良い。バリア34と36は次のように製造されて良い。最初に前記貯蔵室の壁の全面積が、その表面を親水化させるための表面処理方法によって処理される。前記表面処理方法とはたとえば、プラズマ、吸収、若しくは化学法、又は他の既知方法である。続いて、疎水性領域はたとえば、前記壁の対応する部分上のポリマーコーティング−たとえばテフロン(登録商標)コーティング−を擦ることによって調製される。この結果、各異なる表面エネルギーに基づいた表面濡れ性バリアとなる。
【0071】
流入口12で受け取られた流体38は、最初に、該流体を阻止する第1バリア34の上流で貯蔵室10の一部を濡らす。前記流体がある突破圧力となったとき、図7に図示されたような突破が実現され、かつ前記流体は第1バリア34を通り抜けることができる。
【0072】
ここで前記流体は、さらに前記第2流路に沿って流れ、かつ、バリア34と36との間に設けられた毛細管チャネル14の入口22を濡らす。毛細管チャネル14の入口22は、前記貯蔵室からの加圧されていない流体によって濡れることができる。よって図8に図示されているように、毛細管チャネル14は自律的に充填可能となる。たとえば前記流体は最大第2バリア36まで前記貯蔵室を充填して良い。第2バリア36は、第1バリア34と同一又は異なる突破圧力を必要としても良い。突破圧力は、たとえば毛細管チャネル14の充填に影響しないように十分小さい。
【0073】
図9は、図2の実施例と類似する、貯蔵室を有するマイクロ流体システムの別な実施例を図示している。しかし2つの毛細管チャネル14が貯蔵室10の側壁16に備えられている。図6で、受動圧力バルブは表面による濡れ性バリア34によって形成されるのとは対照的に、図9では、受動圧力バルブは構造による濡れ性バリア40によって形成される。
【0074】
構造による濡れ性バリア40の各々は、貯蔵室10の対向する壁−たとえば側壁16−内に形成された端部42によって形成される。端部42は90°よりも大きな開口角を有する。図9に図示されているように、流体38のメニスカスは、端部42に固定すなわちピン留めされる。このピン留め効果は、貯蔵室10の濡れ性挙動を制御するのに用いられる。突破圧力に到達するまで、流体38は、毛管圧力がゼロの状態でバリア40にて固定される。前記毛細管チャネルの入口22は、貯蔵室10からの実質的に加圧されていない流体によって濡れることができる。前記突破圧力はたとえば、毛細管チャネル14の充填に影響しない程度に十分低い。
【0075】
図9に図示されているように、第1側壁16は鋸の歯構造を有する。前記鋸の歯構造は、各歯上の毛細管チャネル14への入口を有する。構造による濡れ性バリアのピン留め効果のため、一連の毛細管チャネル14は次々と自律的に充填可能となる。
【0076】
図4〜8及び9のバリアは、毛細管チャネル14の充填開始前に、十分な量の流体がバリア前方の貯蔵室内に存在することを保証することによって、気泡の存在しない毛細管チャネルの充填を可能にする。よって自律的な気泡の存在しない毛細管チャネルの充填が実現可能となる。よって毛細管チャネルの充填は、ある限界範囲内では、ユーザーの行為の速度に依存しない。たとえばたとえ十分な試料流体が、流体を流入口12へ供給する試料取得ユニット内で収集されるとしても、たとえばユーザーによって交換されるように流体収集手段をゆっくり圧縮することで、流体の供給がゆっくりと行われる恐れがある。これにより、自律的な充填の開始が速すぎる場合には、流体の不足が生じる恐れがある。受動的圧力バルブを有する貯蔵室は、自動的充填が速すぎる時期に開始されるのを防止することができる。
【0077】
図10は、図4と同様の本発明によるマイクロ流体システムを有するハンドヘルド装置の一部を図示している。たとえば当該ハンドヘルド装置は、スワブによって収集された流体を分析するハンドヘルド装置である。たとえば流体は唾液である。スワブから唾液を解放するためには、力が必要となる。たとえばスワブは、図10の円筒形装置の左側の受け取り開口部43内に唾液を解放するように押される。流体は、第1フィルタ44によって濾過され、かつフィルタ44を介して貯蔵室10へ入り込む。よってフィルタ44は貯蔵室10の流入口12に設けられる。流体がスワブから圧力によって解放されるので、その流体は圧力を受けた状態で流入口12にて受け取られる。貯蔵室10の対向する端部には、廃棄物チャンバ46への流出口20が備えられる。よって貯蔵室10の第1部分10aは、流入口12から流出口20への第1流路を形成する。前記第1流路の断面積が大きいため、流体の圧力は減少する。貯蔵室10の第1部分10aは、第1流路に沿って均一の断面積を有する一方で、貯蔵室10の第2部分10bは、第1部分10aの側壁内であって第1部分10aと隣り合う配置をとる。第2部分10bはフィルタのフィルタ材料32で充填される。フィルタ材料32は、貯蔵室10の第1部分10aの外壁と基板すなわち基材48との間に形成される毛細管チャネル14の入口22から、第1流路を分離する。貯蔵室10の第1部分10aの外壁と基板すなわち基材48との間に毛細管チャネル14は形成される。フィルタ材料32はたとえば、有孔性の疎水性材料であるため、水性流体によって容易に飽和する。たとえばフィルタはガラスファイバーパッドである。
【0078】
貯蔵室10の第1部分10aの流体力学的抵抗が小さく、かつ貯蔵室10の第2部分10b内のフィルタ材料32の流体力学的抵抗が相対的に大きいため、毛細管チャネル14の入口22での圧力は、流入口12での圧力から切り離される。従って毛細管チャネル14は自律的に流体によって充填される。
【0079】
さらに、流入口12で受け取られる流体に含まれるおそれのある気泡は、フィルタ材料32を通過して、流出口10で貯蔵室10を飛び出して、廃棄物チャンバ46へ向かう。よって貯蔵室10は、圧力切り離しチャンバであるだけでなく、除泡チャンバでもある。毛細管チャネル14の入口22が貯蔵室10の第1流路から完全に分離しているので、気泡が入口22へ到達しないことが保証される。さらに流入口12から、廃棄物チャンバ46への流出口20へ向かう第1流路を形成する貯蔵室10の第1部分10aの断面が均一であることで、廃棄物チャンバ46への気泡の流路が連続することが保証される。
【0080】
たとえばフィルタ材料32には、少なくとも1種類の物質−たとえば化学物質−を入れることで、そのフィルタ材料32を通過する流体中にその物質を溶解させて良い。
【0081】
貯蔵室10は、流入口12から、フィルタ材料32を介して、毛細管チャネル14の入口22までの第2流路を形成する。前記第1流路と第2流路は共通の上流部分を有するので、流体がフィルタ材料32に到達するときに、ある量の流体が貯蔵室10内に存在することが保証される。これにより気泡が存在しないように毛細管チャネル14が充填される。充填処理は、ユーザーの行為の速度にも収容された試料流体の量にも依存しない。
【0082】
毛細管チャネル14の入口22が濡れることが保証されるので、貯蔵室10が充填されるときには、毛細管チャネル14の充填は、当該マイクロ流体システムの向きに対して独立となり得る。当該マイクロ流体システムがハンドヘルドデバイスの一部であるとき、毛細管チャネル14を介して充填されるマイクロ流体デバイスによって実行される分析結果は、ハンドヘルドデバイスがどのように保持されるのかに依存しない。
【0083】
本発明は、図面と上述の説明によって図示及び記載されてきたが、このような図示及び記載は、例示であって限定と解されてはならない。本発明は開示された実施例に限定されない。
【0084】
本発明のマイクロ流体システムは、たとえばDNA解析(たとえばポリメラーゼ鎖反応、高スループットシークエンシング)、プロテオミクス、インクジェットプリンタ、血液−細胞分離装置、生化学アッセイ、化学合成、遺伝子解析、薬物スクリーニング、電気クロマトグラフィ、表面マイクロマシニング、レーザーアブレーション、及び迅速な病気のポイントオブケア診断等様々なシステム及び処理に適用されて良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を受け取る流入口、
毛細管チャネル、
余剰流体を外へ出す流出口、及び
前記毛細管チャネルと前記流入口とをつなぐ貯蔵室、
を有するマイクロ流体システムであって、
前記貯蔵室は、前記流入口から前記流出口への第1流路を形成し、
前記貯蔵室は、前記流入口から前記毛細管チャネルの入口への第2流路を形成し、
流体が前記流入口にて圧力を受けた状態で受けられるときに、前記毛細管チャネルの入口での圧力減少効果を生じさせるため、前記第1流路の流体抵抗は十分に低い、
マイクロ流体システム。
【請求項2】
前記第1流路の流体力学的抵抗は、前記第2流路及び毛細管チャネルの流体力学的抵抗よりも小さい、請求項1に記載のマイクロ流体システム。
【請求項3】
前記圧力減少により、前記毛細管チャネルを実質的に毛管力によって充填することが可能となる、請求項1又は2に記載のマイクロ流体システム。
【請求項4】
前記毛細管チャネルの入口は、前記第1流路と第2流路の共通部分からの流体によって濡れることができる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項5】
前記毛細管チャネルの入口を取り囲み、かつ前記毛細管チャネルの入口を形成する、前記貯蔵室の内側表面領域は、実質的に均一の濡れ性を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項6】
フィルタ材料が、前記毛細管チャネルの入口から前記第1流路を隔離する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項7】
前記第1流路は、前記流体中に含まれる気泡によって通過可能である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項8】
前記第1流路と第2流路の共通部分が受動圧力バルブを有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項9】
前記受動圧力バルブは表面濡れ性バリアを有する、請求項8に記載のマイクロ流体システム。
【請求項10】
前記受動圧力バルブは構造濡れ性バリアを有する、請求項8又は9に記載のマイクロ流体システム。
【請求項11】
前記第1流路と第2流路の共通部分の下流である前記第1流路の一部分は受動圧力バルブを有する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のマイクロ流体システム。
【請求項12】
毛細管チャネルを充填する方法であって:
圧力を受けた状態で貯蔵室の流入口で流体を受け取る手順;
前記流入口から前記貯蔵室の流出口まで延在する前記貯蔵室の第1流路へ前記流体を流れさせる手順;
前記流入口から前記毛細管チャネルの入口まで延在する前記貯蔵室の第2流路を介して、前記貯蔵室に備えられた前記毛細管チャネルの入口に到達するように、前記流体を流れさせる手順;及び、
十分小さな前記第1流路の流体力学的抵抗によって前記毛細管チャネルの入口での前記流体の圧力を減少させる手順;
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−508894(P2012−508894A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543868(P2011−543868)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054986
【国際公開番号】WO2010/055466
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】