説明

マイクロ流体素子内の熱融解曲線を生成する方法および装置

本発明は、マイクロ流体技術を使用して分子融解曲線を生成する新規な方法および素子を提供する。特に、本発明による素子および方法はPCR増幅生成物を分析するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体素子上の生体物質の特性決定に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、マイクロ流体素子上の生体物質の熱的性質を判定することを対象とする。
【背景技術】
【0002】
化学的または生化学的な分析、検定、合成、または調製を実施する場合、検定される物質または成分に対して、測定、分取、転写、希釈、混合、分離、検出、培養など、多数の個別の操作が行われる。マイクロ流体技術は、これらの操作を微細化し、統合して、1つまたは少数のマイクロ流体素子内で実行することができるようにする。
【特許文献1】米国特許第5,942,443号
【特許文献2】WO98/45481号
【特許文献3】米国特許第6,670,153号
【特許文献4】米国特許公開公報第2002/0197630号
【特許文献5】米国特許第5,965,410号
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【特許文献6】WO99/39190号
【特許文献7】WO00/45170号
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【特許文献8】米国特許第6,303,343号
【特許文献9】米国特許第6,403,338号
【特許文献10】米国特許公開公報第2005/0042639号
【特許文献11】WO96/04547号
【特許文献12】WO98/46438号
【特許文献13】WO98/49548号
【特許文献14】WO96/94547号
【特許文献15】米国特許第5,800,690号
【特許文献16】米国特許第5,271,724号
【特許文献17】米国特許第5,277,566号
【特許文献18】米国特許第5,375,979号
【特許文献19】WO94/05414号
【特許文献20】WO97/02347号
【特許文献21】WO97/02357号
【特許文献22】米国特許出願第09/238,467号
【特許文献23】米国特許出願第09/245,627号
【非特許文献39】Parce et al.,の"PREVENTION OF SURFACE ADSORPTION IN MICROCHANNELS BY APPLICATION OF ELECTRIC CURRENT DURING PRESSUE-INDUCED FLOW"、(1999年5月11日出願、代理人整理番号01−78−0)
【非特許文献40】H. Garrett Wada et al.の"FOCUSING OF MICROPARTICLES IN MICROFLUIDIC SYSTEMS"、(代理人整理番号01−505−0、1999年5月17出願)
【特許文献24】米国特許第5,955,028号
【特許文献25】米国特許第6,071,478号
【特許文献26】米国特許第6,399,023号
【特許文献27】米国特許第6,399,025号
【非特許文献41】The Photonics Design and Application Handbook, books 1, 2, 3 and 4, Laurin Publishing Co.,の年刊、Berkshire Common, P.O. Box 1146, Pittsfield, Mass
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、Parce et al.の米国特許第5,942,443号(名称「High Throughput Screening Assay Systems in Microscale Fluidic Devices」)、およびKnapp et al.のWO98/45481号(名称「Closed Loop Biochemical Analyzers」)に記載されているものなど、マイクロ流体システム内で生物学的検定を行う先駆的なマイクロ流体方法が開発されてきた。それに加えて、温度を媒介とした反応を行うためのマイクロ流体素子が、Sternの米国特許第6,670,153号において検討されている。
【0004】
多くの科学分野において特に重要な生物学的検定の1つのタイプは、様々な分子間での結合の検出および定量化である。例えば、多数の化合物または分子のスクリーニングを行って、それらがどのように互いに結合しているか、あるいはそれらが特定の標的分子にどのように結合しているかを判定することは、多くの研究分野において特に重要である。例えば、分子の大規模ライブラリのスクリーニングは、薬学研究において利用されることが多い。生成化合物の蓄積から成る「組合せ」ライブラリのスクリーニングを特定の受容体に対して行って、可能な配位子の存在を試験し、何らかの可能な配位子の結合を定量化することができる。
【0005】
分子間の結合の特性を決定する様々な方法が存在する。それらの方法の多くは熱量分析を伴う。等温熱量測定(ITC)および示差走査熱量測定(DSC)はそのような方法の例である。結合反応の熱的パラメータを測定することにより、熱量測定を使用して、ある分子に別の分子が結合するときに起こる分子の熱変性の変化を検出することによって、分子間の結合の存在を試験することができる。分子の熱変性の変化(分子融解曲線において表現されるようなものであり得る)は、分子の配座の状態を選択するためにのみ結合する指標色素の蛍光を通して監視することができる。あるいは、場合によっては、分子間の結合は、分子の1つにおける固有の蛍光の変化によって判定することができる。
【0006】
分子間の結合の特性決定は、核酸の特性決定においても重要なツールである。例えば、Knapp et al.は、米国特許公開公報第2002/0197630号(名称「Systems for High Throughput Genetic Analysis」)において、融解曲線分析を使用して一塩基多型(SNP)を検出することについて議論している。分子融解曲線(および分子融解曲線間の差)も、核酸間のシーケンスの差を検出し分析するのに使用することができる。核酸の熱変性曲線は、例えば、熱的パラメータ、指標色素/分子の蛍光、蛍光偏光、誘電性などを測定することによって監視することができる。
【0007】
当該技術にとって歓迎される追加は、最小限の化合物および試薬を使用して、マイクロ流体素子に対する迅速な結合検定を行うことを可能にするプロセスであろう。本発明は、分子融解曲線を使用して結合検定を行う方法およびマイクロ流体素子を提供することによって、これらおよび他の特徴を記載し提供する。本発明のこれらおよび他の特徴は、以下を精査することによって明白になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マイクロ流体素子内における分子融解曲線を使用して結合検定を実施する方法、システム、キット、および素子を提供する。検定される分子(1つまたは複数)は素子内のマイクロチャネルを貫流させることができ、分子(1つまたは複数)は、任意に、例えば、蛍光指標分子および/または検定される分子の結合相手を構成する追加の分子に暴露される。次に、対象の分子は加熱(および/または冷却)され、一連の温度にわたって分子の検出可能な性質が測定される。結果として得られるデータから、対象の分子の結合親和性を判定し定量化することを可能にする熱的性質曲線(1つまたは複数)が構築される。
【0009】
1つの態様では、マイクロ流体素子内の少なくとも1つの分子の熱的性質曲線を生成する方法が提供される。この方法は、分子(1つまたは複数)をマイクロチャネル内に流す工程と、マイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)を加熱する工程と、加熱中に分子(1つまたは複数)の少なくとも1つの検出可能な性質を検出する工程と、そのようなデータから分子(1つまたは複数)の熱的性質曲線を生成する工程とを含む。提供される方法は、例えば、分子の伸展(unfolding)もしくは変性によって、またはその1つもしくは複数の追加の物理的性質を変更することによって、温度変化に応答して、ならびに結合の結果として起こる、1つまたは複数の分子の少なくとも1つの物理的性質、例えば蛍光の変化を観察することを伴う。
【0010】
この方法は、タンパク質、酵素、核酸(二本鎖もしくは一本鎖のどちらか)、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、基質、抗体、抗原、ポリペプチドなどを含む多数のタイプの分子と、1つまたは複数の追加の分子もしくは部分との相互作用に適用可能である。本発明の方法は、2つ以上の分子の複合体、例えば、別の酵素、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、基質に複合された酵素、または他のそのような組合せを含む分子にも適用可能である。
【0011】
本発明の方法では、流動は、一般的に、例えば、目的の分子(1つまたは複数)をマイクロ流体素子の少なくとも1つのマイクロチャネルを介して運搬することを含む。この流動は、正圧もしくは負圧を使用することにより、動電学と正圧もしくは負圧の両方により、重力により、毛管作用により、膜を拡張することによって流体を置換することで、または向心力により、動電学的に行うことができる。流動は、1つまたは複数のマイクロチャネルを介して分子(1つまたは複数)を同時にまたは連続して運搬することを伴う場合がある。あるいは、本発明の方法は、第1の分子を1つのマイクロチャネルに貫流させ、1つまたは複数の他の分子を第2のマイクロチャネルに貫流させることを必要とする場合があり、例えば、様々なマイクロチャネルは互いに交差する。
【0012】
本発明による方法では、加熱は、選択された時間の間、分子(1つまたは複数)の温度を上げることを含む。この時間は、例えば、約0.1秒〜約1.0分以上、約0.1秒〜約10秒以上、または約0.1秒〜約1.0秒以上(それらの間のすべての時間を含む)に及ぶことができる。任意に、加熱は、第1の分子に第2の分子を接触させた後の選択された時点において、分子(1つまたは複数)の温度を上げることを伴う場合がある。この選択された時点は、例えば、第1の分子をマイクロチャネルに貫流させた後、約0.1秒〜約1.0分以上、約0.1秒〜約10秒以上、または約0.1秒〜約1.0秒以上(それらの間のすべての時間を含む)であることができる。さらに、この方法の温度制御は、分子(1つまたは複数)の温度を、例えば、約10℃〜約100℃以上、約10℃〜約90℃以上、または約10℃〜約60℃以上(これらの間のすべての温度を含む)の選択された温度に設定することを必要とする場合がある。
【0013】
本発明による他の方法では、加熱は、分子(1つまたは複数)の温度を継続的に上昇させることによって、分子(1つまたは複数)の温度を上げることを含む。例えば、分子(1つまたは複数)の温度は、0.1℃/秒〜1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇させることができる。あるいは、分子(1つまたは複数)の温度は、0.01℃/秒〜0.1℃/秒の範囲の速度などのより遅い速度で、あるいは1℃/秒〜10℃/秒の範囲の速度などのより速い速度で継続的に上昇させることができる。
【0014】
分子の加熱は、任意に、ジュール加熱、非ジュール加熱のどちらか、またはジュール加熱と非ジュール加熱の両方によって、マイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)の温度を上げることを含む。一実施形態では、ジュール加熱は、選択可能な電流をマイクロチャネルに流し、それによって温度を上げることによって行われる。ジュール加熱は、マイクロチャネルの全長にわたって、またはマイクロチャネルの選択された部分にわたって生じることができる。ジュール加熱は、選択可能な電流を、マイクロチャネルの第1の断面を含む第1の部分と第2の断面を含む第2の部分とに流すことによって、マイクロチャネルの選択された部分に印加することができる。さらに、第1の断面は第2の断面よりも大きなサイズのものであり、それによって、第2の断面は第1の断面よりも高い電気抵抗を有し、したがって、選択可能な電流が印加されたとき、第1の断面よりも高温になる。ジュール加熱のレベルは、選択可能な電流、電気抵抗、または電流と抵抗の両方を変えることによって制御することができる。ジュール加熱に使用される選択可能な電流は、直流、交流、または直流と交流の組合せを含むことができる。例えば、米国特許第5,965,410号を参照のこと。
【0015】
任意に、本発明の方法において使用される加熱は、例えば、内部もしくは外部の熱源を適用することによる非ジュール加熱を含む。一実施形態では、内部もしくは外部の熱源は加熱ブロックを含む。ジュール加熱と同様に、非ジュール加熱は、任意に、マイクロチャネルの全長にわたって、またはマイクロチャネルの選択された部分にわたって生じる。例えば、マイクロチャネルの1つまたは複数の領域は、1つまたは複数の加熱素子に近接することができる。
【0016】
本発明による加熱方法は、マイクロチャネルの一部分の長さに沿って温度勾配を適用することも包含する。マイクロチャネルの長さの一端における温度は第1の選択された温度に制御され、その長さの他端における温度は第2の選択された温度に制御され、それにより、第1および第2の選択された温度間の温度範囲の両端に及ぶ継続的な温度勾配が作成される。マイクロチャネルの部分を通る流体の定常状態の流れが確立されると、温度勾配がその流体内に確立される。ジュール加熱が使用されるとき、その長さに沿って断面積が継続的かつ単調に変わるようにしてチャネルを製作し、次にその長さを通じて単一の電流を印加することによって、マイクロチャネルの長さに沿って温度勾配を確立することができる。非ジュール加熱が採用されるとき、マイクロチャネルの長さに沿って温度勾配を確立する1つの方法は、熱ブロックをマイクロチャネルと接触させ、加熱または冷却素子を使用して、マイクロチャネルの長さ方向に対応する方向でそのブロックにわたる温度勾配を確立するものである。
【0017】
本発明の別の態様では、対象の分子(1つまたは複数)の性質を検出する方法は、結合の相対量に応じて決まる分子(1つまたは複数)からの蛍光または放射光のレベルを検出することを含む。1つの構成では、蛍光の検出は、第1の分子および第2の分子を伴い、第1の分子は蛍光指標色素または蛍光指標分子であり、第2の分子は検定される標的分子である。一実施形態では、蛍光指標色素または蛍光指標分子は、第2の分子上の疎水性もしくは親水性の残基に結合することによって、第2の分子に結合または会合する。検出方法は、任意に、蛍光指標色素または蛍光指標分子を励起して、励起蛍光指標色素または励起蛍光指標分子を作成し、励起された蛍光指標色素または蛍光指標分子の発光もしくは消光の事象を識別し測定することをさらに含む。
【0018】
蛍光の検出を伴う方法の具体的な一実施形態では、タンパク質またはポリペプチドを含む分子を伴う。この実施形態では、検出方法は、タンパク質またはポリペプチド中のトリプトファンなどのアミノ酸残基を励起し、それによって励起されたトリプトファン残基を作成することをさらに必要とする。励起されたトリプトファン残基の発光または消光の事象の識別および測定は、検定される分子(1つまたは複数)の性質を検出するのに使用される。
【0019】
蛍光または放射光の検出に加えて、あるいはそれとは別に、検定される分子(1つまたは複数)の性質の検出は、任意に、例えば、蛍光偏光、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光寿命画像顕微法、分子ビーコン、蛍光相関分光法(FCS)、円二色性などを伴う、例えば蛍光分光法を使用することを含んでもよい。同様に、マイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)を伴うシステムの熱的パラメータの変化を監視することができる(例えば、熱容量の変化が検出され測定される)。それに加えて、誘電性の変化を追跡し測定することができる。検定される分子(1つまたは複数)の性質を検出するさらに別の方法は、分子(1つまたは複数)のUV吸光度を監視することを含む。
【0020】
本発明の方法の別の態様は、熱的性質曲線を生成することを含む。熱的性質曲線を生成する一実施形態は、蛍光指標色素もしくは蛍光指標分子を含む1つの分子と、酵素、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、基質、タンパク質、ポリペプチド、核酸(二本鎖もしくは一本鎖のどちらか)、抗体、抗原、または酵素複合体の1つあるいは複数を含む少なくとも第2の分子とを提供することを含む。温度に応じて決まる、第2の分子の存在下における第2の分子の蛍光が測定され、結果として得られるデータは熱的性質曲線を生成するのに使用される。
【0021】
熱的性質曲線を生成する追加の実施形態は、温度の変化による別の分子(1つまたは複数)の物理的性質の変化に相関または比例する、1つの分子の蛍光の変化を測定することを含む。さらなる実施形態は、温度に応じて決まる、第2の分子の存在下における第1の分子の蛍光を測定することによって、熱的性質曲線の制御曲線を生成することを含み、第1の分子は蛍光指標色素もしくは分子であり、第2の分子は、タンパク質、ポリペプチド、酵素、酵素複合体、核酸(一本鎖もしくは二本鎖のどちらか)、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、抗体、抗原、あるいは基質である。
【0022】
別の実施形態では、本発明の方法は、第1の分子が、酵素、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、基質、タンパク質、ポリペプチド、核酸(二本鎖もしくは一本鎖のどちらか)、抗体、抗原、あるいは酵素複合体を含む第2の分子の存在下にあるとき、タンパク質、ポリペプチド、酵素、もしくは酵素複合体を含有するトリプトファンを含む第1の分子上のトリプトファンの蛍光から熱的性質曲線を生成することを含む。温度に応じて決まる、第2の分子の存在下で第1の分子中に存在するトリプトファン残基の蛍光が測定され、結果として得られるデータは熱的性質曲線を生成するのに使用される。本発明のこの実施形態において熱的性質曲線を生成する追加の要素は、第2の分子融解温度を測定することを含む。任意に、トリプトファン残基の蛍光の変化は、温度の変化による第2の分子の物理的性質の変化に相関または比例する。任意に、熱的性質曲線の制御曲線は、温度に応じて決まる、第2の分子が存在しない状態での第1の分子のトリプトファン残基の蛍光を測定することによって生成される。
【0023】
さらに別の実施形態では、本発明による方法は、第1の分子および少なくとも第2の分子が、タンパク質、ポリペプチド、酵素、酵素複合体、核酸(二本鎖および一本鎖の両方)、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、抗体、抗原、あるいは基質である場合に熱的性質曲線を生成することを含む。これらの実施形態では、熱的性質曲線の生成は、第1の分子が少なくとも第2の分子の存在下にあるとき、温度に応じて決まる、マイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)を含むシステムの熱的パラメータの変化を測定することを含む。追加の実施形態は、第2の分子が存在しない状態で、温度に応じて決まる、システムの総自由エネルギーの変化を測定することによって、制御曲線を生成することを必要とする。
【0024】
任意の一実施形態では、本発明は、Tが既知である分子(1つまたは複数)、例えば、ビオチン、ビオチン−4−フルオレセイン、フルオレセイン−ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンの、あるいは、シーケンスおよび/またはTが既知である相補的二本鎖核酸(任意に、FRETドナー/受容体・消光剤の対の場合と同様に、各鎖に異なるように標識付けされるか、別の方法として、一本鎖状態への移行を示すように標識付けされる)の熱的性質曲線を生成することによって、マイクロ流体チャネル内の基準温度を確立する方法を含む。
【0025】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの流体のマイクロチャネルを収容する本体構造を有するマイクロ流体素子、試薬をマイクロチャネル内へ、またそこを通して制御可能に移動させる流体方向システム、マイクロチャネル内の試薬を制御可能に加熱する少なくとも1つのエネルギー源、マイクロチャネルに流体連結された、蛍光指標色素または蛍光指標分子の供給源、マイクロチャネルに流体連結された、検定される1つまたは複数のサンプル分子の供給源、蛍光指標色素または蛍光指標分子の励起源、1つまたは複数のサンプル分子の物理的性質の変化を検出する、本体構造に近接した検出器、ならびに、検出器からのデータを取得し、かつそのデータから熱融解曲線および制御曲線を構築するための命令セットを含む、検出器に動作可能に連結されたコンピュータを含むマイクロ流体システムを含む。
【0026】
別の実施形態では、本発明の統合システムまたはマイクロ流体素子は、動作中、マイクロチャネルに添加される1つまたは複数の試薬の選択、マイクロチャネルに添加される1つまたは複数の試薬の量、1つまたは複数の試薬がマイクロチャネルに添加される時間、ならびに、1つまたは複数の試薬がマイクロチャネルに添加される速度を制御可能に決定する流体方向システムを含む。
【0027】
別の実施形態では、本発明の統合システムまたはマイクロ流体素子は、動作中、ジュール加熱、非ジュール加熱、またはジュール加熱と非ジュール加熱の両方のいずれかによって、マイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)の温度を上げる少なくとも1つのエネルギー源を含む。
【0028】
本発明の統合システムまたはマイクロ流体素子におけるジュール加熱は、選択可能な電流を少なくとも1つのマイクロチャネルに流し、それによって温度を上げることを含む。ジュール加熱は、マイクロチャネルの全長にわたって均一に、またはマイクロチャネルの異なる部分において異なるレベルで適用することができる。マイクロチャネルの異なる部分を加熱する1つの方法は、それとは異なって、選択可能な電流をマイクロチャネルの少なくとも第1の部分とマイクロチャネルの少なくとも第2の部分とに流すことを含み、その際、マイクロチャネルの第1の部分は第1の断面積を含み、マイクロチャネルの第2の部分は第2の断面積を含む。第1の断面積は、一般的に、第2の断面積よりも大きく、第2の部分は第1の部分よりも高い電気抵抗を有することになり、したがって、選択可能な電流が印加されたとき、第1の部分内におけるよりも多くの熱が発生する。あるいは、チャネルの断面積を温度勾配は、チャネルの横断面積を継続的かつ単調に変えることによって、チャネルの長さにわたって温度勾配を確立することができる。ジュール加熱のレベルは、選択可能な電流、チャネル内の流体の電気抵抗、または電流と抵抗の両方を変えることによって制御される。選択可能な電流は、直流、交流、または直流と交流の組合せを含んでもよい。
【0029】
任意に、本発明の統合システムまたはマイクロ流体素子は、内部または外部の熱源を介した非ジュール加熱を含む。いくつかの実施形態では、内部または外部の熱源は、加熱ブロック、ペルチエ素子、抵抗加熱素子、熱電冷却器、熱を伝導もしくは対流によって伝達する気体もしくは液体の1つまたは複数を含んでもよい。ジュール加熱と同様に、非ジュール加熱は、任意に、マイクロチャネルの全長にわたって均一な温度を、マイクロチャネルの異なる部分内において異なる温度を、あるいはマイクロチャネルの長さに沿って継続的に変化する温度を生じさせることができる。
【0030】
本発明の別の実施形態では、統合システムまたはマイクロ流体素子は、任意に、別の分子の1つもしくは複数の疎水性アミノ酸残基、1つもしくは複数の親水性アミノ酸残基、またはそれらの組合せに結合することができる、少なくとも1つの蛍光指標色素あるいは蛍光指標分子を提供する。例えば、蛍光指標色素または蛍光指標分子は、例えば、1−アナリノ−ナフタレン−8−スルホナートを含む。別の実施形態では、蛍光指標色素または蛍光指標分子は、別のメカニズムによって、1つもしくは複数の核酸ポリマーに挿入または結合することができる。さらに別の実施形態では、蛍光指標分子は少なくとも1つのトリプトファン残基を含む。
【0031】
様々な実施形態では、本発明による統合システムまたはマイクロ流体素子は、高スループットのフォーマット、低スループットのフォーマット、または多重フォーマットを含んでもよい。本発明の多くの実施形態では、蛍光指標色素または蛍光指標分子を励起させる励起源は光源を含む。例えば、光源は、タングステンハロゲン電球、キセノンアーク灯、水銀灯、レーザー、LED、または光ファイバー・ケーブルの1つもしくは複数を含んでもよい。統合システムのいくつかの実施形態は、マイクロ流体素子内のマイクロチャネルの長さに沿った複数の位置で蛍光を励起する光源のアレイを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、統合システムは、Tが既知である分子(1つまたは複数)、例えば、ビオチン、ビオチン−4−フルオレセイン、フルオレセイン−ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンの、あるいは、シーケンスおよび/またはTが既知である相補的二本鎖核酸(任意に、FRETドナー/受容体・消光剤の対の場合と同様に、各鎖に異なるように標識付けされるか、別の方法として、一本鎖状態への移行を示すように標識付けされる)の熱的性質曲線を生成することによって、システム内のマイクロ流体素子のマイクロ流体チャネル内における基準温度を決定する。
【0033】
本発明による統合システムは、光ファイバー・プローブ、電荷結合素子、蛍光イメージング・カメラ、光電子増倍管、フォトダイオード、または蛍光偏光センサといったタイプの光検出器の1つもしくは複数を含んでもよい。システムはまた、マイクロ流体素子内のマイクロチャネルの長さに沿った複数の位置から発する光信号を測定する光検出器のアレイを含んでもよい。それに加えて、本発明による統合システムは、熱電対、抵抗感温体、もしくはサーミスターなどの接触感温体、または、IR温度計もしくは光高温計などの非接触感温体といったタイプの感温体の1つもしくは複数を含んでもよい。システムはまた、マイクロ流体素子内のマイクロチャネルの長さに沿った複数の位置で温度を測定するために、感温体のアレイを含んでもよい。光検出器は、任意に、励起された蛍光指標色素もしくは分子からの蛍光または発光を検出する能力を有するか、任意に、少なくとも1つのマイクロチャネル内の分子(1つまたは複数)を含むシステムの熱的パラメータの変化を検出する能力を有する。
【0034】
1つもしくは複数の標的非依存性および/または標的依存性の検定を行って、本発明の予めスクリーニングされたライブラリを作成するキットも、本発明の1つの特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明による方法および素子は、分子融解曲線を生成することによって様々な生体物質を迅速に特性決定することができる。例えば、二本鎖DNA分子の分子融解曲線は、分子中の塩基対の数、GC含量、および理想的なワトソン・クリック型塩基対からの変化の量に関する情報を提供することができる。分子融解曲線は、1つもしくは複数の試験分子と1つもしくは複数の標的分子との間の結合の度合いを示すために使用することもできる。「結合」とは、例えば受容体と配位子の相互作用だけではなく、例えば核酸同士のハイブリダイゼーション相互作用も含み、特異的相互作用および非特異的相互作用の両方を含むことができる。試験分子が標的分子に結合する場合、それらの結合は本発明によって定量化することができる。本明細書の方法および素子は順応性があり、異なるタイプの化合物および分子に適用することができる。例えば、標的分子および試験分子は両方とも、例えば、タンパク質(酵素性であるか否かに関わらず)、酵素、核酸(例えば、一本鎖、二本鎖、もしくは三本鎖の分子を含む、DNAおよび/またはRNA)、配位子、ペプチド核酸、補助因子、受容体、基質、抗体、抗原、ポリペプチド、単量体もしくは多量体のタンパク質(ホモマーもしくはヘテロマーのどちらか)、合成オリゴヌクレオチド、組換えDNA分子もしくは染色体DNAの部分、二次構造、三次構造、もしくは四次構造を有することができるタンパク質/ペプチド/受容体/などの部分もしくは一部などの任意の1つまたは複数であることができる。標的分子は、任意に、例えば、補酵素、補助因子、脂質、リン酸基、オリゴ糖、または配合団とも相互作用する。
【0036】
簡潔には、本発明の方法および素子は、分子融解曲線の構築および比較を可能にする。分子融解曲線は、代案として、「熱融解曲線(thermal melting curves)」、「熱融解曲線(thermal melt curves)」、「熱的性質曲線」、「熱変性曲線」、または「熱的プロファイル曲線」として記載される。したがって、分子融解曲線の生成を伴う分析は、分子融解分析、熱融解分析(thermal melting analysis)、熱融解分析(thermal melt analysis)、熱的性質分析、熱変性分析、または熱的プロファイル分析として説明することもできる。そのような分析では、試験される標的分子(1つまたは複数)のサンプルは、マイクロ流体素子内の1つまたは多数のマイクロチャネル内に流される。任意に、標的分子は次に、標的分子との、および/または蛍光指標色素もしくは分子などの指標との可能な結合能力に関してスクリーニングされた、1つまたは複数の試験分子と接触させられる。本発明の任意の実施形態により、対象の多数の変形例すべての、例えば、熱の適用、流速、試薬の組成、結合条件、およびタイミングの複数の構成が可能になる。
【0037】
試験分子が標的分子および/または標識化合物と相互作用すると、本発明は、制御可能な形で反応条件を所望の温度に設定する(一連の温度にわたって継続的に、もしくは個別の温度点まで非継続的にのどちらか)。分子の選択された物理的性質がマイクロ流体素子内で測定され、熱的性質曲線が測定値から作成される。熱的性質曲線は、例えば、温度誘発性の変性、または分子が熱に晒されたときに生じる伸展に基づく。変性は、例えば、核酸鎖の巻戻り(uncoiling)、解撚(untwisting)、伸展、解離などによる、二次構造、三次構造、または四次構造の損失を含むことができる。標的分子と試験分子が、例えば受容体と配位子の相互作用と同様に互いに結合したとき、標的分子の配座は安定し、温度誘発性の変性のパターンは変更またはシフトされる。標的分子のみを加熱して得られた熱的性質曲線と、標的分子および試験分子(1つまたは複数)を組み合わせて加熱して得られた熱的性質曲線との比較によって、標的分子と試験分子(1つまたは複数)との間の任意の結合を判定し定量化することが可能になる。本発明の適応性により、任意に、両方の熱的性質曲線をマイクロ流体素子内で同時に実行するとともに、任意に、結合検定の複数の構成を同時に(例えば、pH、温度勾配(1つまたは複数)などの反応パラメータを異ならせて)実行することが可能になる。
【0038】
多数のタイプの分子を、本発明の方法、素子、およびシステムによって検定することができる。例えば、受容体と配位子、抗体と抗原、および酵素と基質の相互作用などを含む、タンパク質間結合反応を検査することができる。それに加えて、例えば、アミノ酸ベースの分子と核酸ベースの分子との間の相互作用を検査することができる。同様に、ペプチド核酸(PNA)などの人工分子を、例えば、PNAと核酸または他の分子との相互作用において監視することができる。また、ハイブリダイゼーション・プローブと、例えば一塩基多型(SNP)を含む核酸との間の相互作用のスクリーニングを、本発明を使用することによって達成することができる。本発明によって任意に検定される分子相互作用のタイプの例については、例えば、Weber, P. et al., (1994) "Structure-based design of Synthetic Azobenzene Ligands for Streptavidin" J Am Chem Soc 16:2717-2724、Brandts, J. et al., (1990) American Laboratory, 22:3041+、Gonzalez, M. et al., (1997) "Interaction of Biotin with Streptavidin", J Biol Chem, 272(17):11288-11294、Chavan, A. et al., (1994) "Interaction of nucleotides with acidic fibroblast growth factor (FGF-1) Biochem, 33(23):7193-7202、Morton, A. et al., (1995) "Energetic origins of specificity of ligand binding in an interior nonpolar cavity of T4 lysozyme." Biochem, 34(27):8564-8575、Kleanthous, C. et al., (1991) "Stabilization of the shikimate pathway enzyme dehydroquinase by covalently bound ligand" J Biol Chem, 266(17):10893-10898、Pilch, D. et al., (1994) "Ligand-induced formation of nucleic acid triple helices." Proc Natl Acad Sci USA, 91(20):9332-9336、ならびに、Barcelo, F. et al. (1990) "A scanning calorimetric study of natural DNA and antitumoral anthracycline antibiotic-DNA complexes." Chem Biol Interact, 74(3):315-324を参照のこと。
【0039】
分子の物理的性質の変化(1つまたは複数)の実際の検出は、対象となる特定の分子および反応に応じて多数の方法で検出することができる。例えば、分子の変性は、検定中の分子からの蛍光または発光を追うことによって追跡することができる。蛍光の度合いまたは変化は、検定される分子の配座における変化の程度と相関または比例する。本発明の方法および素子により、例えば、レーザー、光などを使用して、検定に関与する分子を励起する様々な方法が可能になる。蛍光は、検定される分子に固有のものであり得、例えば、分子中のトリプトファン残基から発するか、あるいは、検定される分子に固有ではないものであり得、例えば、マイクロ流体素子内の検定混合物に添加された蛍光体から発する。蛍光または発光の変化(1つまたは複数)は、任意に、所望の検定に特異的な必要性に従って多数のやり方で検出することができる。例えば、電荷結合素子が素子の任意部品として利用される。
【0040】
蛍光または発光の変化は標的分子の配座の変化を示し、そこから熱的性質曲線が構築される。標的分子が試験分子の存在下にあるときの熱的性質曲線の変位またはシフトにより、試験分子と標的分子(1つまたは複数)の間の結合の検出および定量化が可能になる。
【0041】
本発明において分子の配座の変化を検出する別の任意の方法は、誘電性の測定によるものである。分子が結合し、配座が変化すると、それらの誘電性も変わる。これらの変化は、定量化し、分子相互作用のパラメータを決定するのに使用することができる。
【0042】
本発明において検定されている標的分子の配座の変化を検出する任意のやり方は、熱量測定によるものである。検定中の分子が温度誘発性の変性を起こすと、熱容量の変化が測定される。蛍光法と同様に、分子間の結合は、標的分子のみを用いて行われた検定からの熱的性質曲線と、標的分子および試験分子(1つまたは複数)の組合せを用いて行われた検定からの熱的性質曲線とを比較することによって、検出され定量化される。
【0043】
熱的性質曲線
温度変化に応答した標的分子(1つまたは複数)の伸展、解離、もしくは変性は、多くの応用例において、例えば、指定の条件下で特定のタンパク質の安定性を判定する際、または、核酸を同定する際、核酸中のSNPを検出する際などにおいて有用であり得る。標的分子の分子変性、解離、または伸展の測定は、熱的性質曲線を構築するために使用される。他の応用例では、基礎的な熱的性質曲線の変化を使用して、例えば、特定の配位子もしくは他の分子が標的分子に結合するかを試験することができる。例えば、特定の配位子の特定の受容体への結合は、熱的性質曲線によって調査することができる。例えば、Gonzalez, M. et al., (1997) "Interaction of Biotin with Streptavidin" J Biol Chem, 272(17): 11288-11294を参照のこと。それに加えて、熱的性質曲線を用いて、特定のオリゴヌクレオチドの互いへのハイブリダイゼーションを実証することができる。例えば、Clegg, R. et al. (1994) "Observing the helical geometry of double-stranded DNA in solution by fluorescence resonance energy transfer." Proc Natl Acad Sci USA 90(7):2994-2998を参照のこと。
【0044】
結合による安定化
熱的性質曲線は、温度変化による分子の配座の変化に基づく。上述したように、分子、例えばタンパク質および核酸は、一連の温度にわたって伸展、解離、または変性を示す。温度に応じて決まる、所与の標的分子の伸展などの測定により、その分子の熱的性質曲線が生成される。例えば配位子(例えば、核酸またはタンパク質など)の標的分子への結合は、分子の安定化に、ひいてはその熱的性質曲線の変化に結び付き得る。例えば、Gonzalez, M. et al., (1997) "Interaction of Biotin with Streptavidin" J Biol Chem, 272(17):11288-11294、Schellman, J. (1975) Biopolymers, 14:999-1018、Barcelo, F. et al., (1990) "A scanning calorimetric study of natural DNA and antitumoral anthracycline antibiotic-DNA complexes." Chem Biol Interactions, 74(3):315-324、Schellman, J. (1976) Biopolymers, 15:999-1000、ならびに、Brandts, J. et al. (1990) "Study of strong to ultratight protein interactions using differential scanning calorimetry" Biochem 29:6927-2940を参照のこと。
【0045】
換言すれば、試験分子の標的分子への、例えば配位子への結合は、結合を伴わないであろう異なる形での標的分子の変性(または解離、伸展など)を引き起こす。この性質は、当然ながら、多くの応用例において、例えば、標的分子に対する複数の配位子の相対的な結合親和性を判定する際、または、例えば本明細書に記載されるような、突然変異タンパク質の結合親和性を判定する際に非常に有用であり得る。熱的性質曲線の生成において、「T」は、「中間点温度」、すなわち変性または伸展の反応が半分だけ完了する温度を示す。
【0046】
本発明のいくつかの態様では、上述のものに類似の熱的性質曲線の構築は、マイクロ流体チャネル内の溶液が晒される基準温度を決定するのに使用することができる。より具体的には、本発明の実施形態により、マイクロ流体チャネル内の流体の基準温度を、容易に測定することができるチャネル外の物理的パラメータの値と相関させることが可能になる。多くの応用例の場合、例えば配位子などの結合を試験するための、例えば、PCRおよび/または熱的性質曲線の構築の場合、マイクロ流体素子のチャネルもしくはチャンバなどのマイクロ流体エレメント内における正確な温度制御が必要である。既知の分子(例えば、ストレプトアビジン/ビオチン−フルオレセインなど)に対して生成された融解曲線を使用して、マイクロ流体エレメント内の温度を監視し校正することは非常に有効であるが、それは、例えば、単純で安価な物質を使用して温度を決定することが可能になり、プロセスが実質的に不可逆的であるか、もしくは任意に可逆的であり(下記参照)、異なる融解温度を有する異なる分子を使用して微調整することが可能であり(下記参照)、かつ、マイクロ流体素子内にセンサを置く必要がなくなるためである。基準温度が相関される物理的パラメータは、チャネル内の温度に相関する物理的パラメータでなければならない。例えば、物理的パラメータは、マイクロ流体エレメントに隣接するマイクロ流体素子の外面における温度、エレメント内の流体に印加される、流体をジュール加熱する電流、あるいは、マイクロ流体エレメントと熱接触している熱ブロックの温度であることができる。
【0047】
本発明のいくつかの任意の実施形態では、ストレプトアビジンおよびビオチン−フルオレセインなどの分子は、基準温度を決定することによってマイクロ流体素子内の温度を校正するのに使用される。約74℃の融解温度を有する遊離ストレプトアビジン(SA)は、任意に、4つの分子(例えば、ビオチン−フルオレセインの)と結合し、それにより、SAの融解温度が急激に約108℃になる。ストレプトアビジンに結合されたとき、フルオレセインは実質的に消光される(すなわち、蛍光を放射しない)。しかし、ストレプトアビジン分子が変性されたとき(すなわち、マイクロチャネル内の熱によって)、ビオチン−フルオレセイン接合体が放出され、したがって蛍光を検出することができる。ビオチン−フルオレセインをSAに結合するため、SAは、任意に、余分なビオチン−フルオレセイン接合体の存在下で培養される。飽和後、未結合のビオチン−フルオレセインは、例えばサイズろ過によって除去される。このSA−ビオチン−フルオレセイン複合体の融解温度は、例えば、加熱された蛍光光度計または他の同等の検出器において判定される。次に、SA−ビオチン−フルオレセイン複合体は、任意に、本発明の素子のマイクロチャネル(すなわち、標的の基準温度を有する)に貫流される。SA−ビオチン−フルオレセイン・システムからの適切な蛍光が、基準温度であるようにプログラムされたマイクロチャネルの長さに沿った位置で(または別の便利な位置で)検出された場合、チャネル内で予め定められた基準温度に到達したということである。適切なフルオレセイン蛍光が検出されない場合、マイクロチャネル内で適切な基準温度に達しなかったということである。様々な実施形態では、温度はまた、任意に、高温(例えば、100℃)から低温(例えば、40℃)まで一定の比率で下降させられる一方、終点(または他の便利な位置)の蛍光が監視される。それに加えて、融解温度が異なる一連のプローブ(下記参照)を一連のマイクロチャネルに装填することができる。このようにして、温度校正は、任意に一連の温度にわたってマッピングされる。
【0048】
異なる性質を備えた市販のビオチン・フルオレセイン接合体は、任意に、上述の温度決定/校正(例えば、ビオチン−4−フルオレセインおよびフルオレセイン−ビオチン)において利用される。そのような接合体は、主としてリンカーの長さによって異なる。それに加えて、ビオチン−4−フルオレセインは、非常に迅速にSAに(または、任意にアビジン(AV)もしくはニュートラアビジン(NA)、(5−(N−(5−(N−(6−(ビオチノイル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ペンチル)チオウレジルに)結合する一方、フルオレセイン(フルオレセイン−ビオチンとも呼ばれる)は、リンカーからの立体障害に起因して、非常に緩慢に結合する(余分が存在する場合であっても、飽和に達するのに10時間以下の時間がかかる)。変性後(すなわち、上昇した温度による)、AV/SA/NAは任意に再生する。したがって、ビオチン−4−フルオレセインを使用することで、その迅速な結合時間を伴って、任意に、温度監視/校正検定が可逆的になる(すなわち、ビオチン−4−フルオレセインは比較的短い時間でSAに再結合するので、検定は(例えば、異なる温度範囲または増減速度において)任意に反復可能である)。しかし、結合時間が比較的長いため、フルオレセイン−ビオチンの使用により、少なくとも数時間の期間にわたって検定は実質的に不可逆的になる。
【0049】
任意の実施形態では、監視/校正方法は、例えば、異なる融解温度をそれぞれ有する、AV、SA、またはNAを使用することによって修正される。それに加えて、ビオチン−4−フルオレセインまたはフルオレセイン−ビオチンの選択は、任意に、融解温度に影響を及ぼす。天然のビオチンは、任意に、AVなどに対して最大の安定性を与え、それにビオチン−4−フルオレセインおよびフルオレセイン−ビオチンが続く。さらに、他の任意の実施形態では、尿素などの変性剤またはグアニジンHClが温度測定/校正に添加される。そのような変性剤濃度の滴定は、任意に、所望の融解温度への校正の微調整をもたらす。変性剤による変性の温度のあらゆる減衰が、校正において任意に試験され、考慮される。
【0050】
熱的性質曲線の実施例
図3は、単に例示として、配位子結合による熱的性質曲線のシフトを示す模擬図を提供する。この図は、温度に応じて決まる検出可能な性質(例えば、余分な熱容量)をプロットする。十分に説明されるように、変性を示すため、他の変化、例えば、指標色素または分子の蛍光、固有の蛍光などが任意に追跡される。
【0051】
ピーク302は、追加分子、例えば配位子が分子Xと接触していない場合の分子Xの熱的性質曲線を表す。ピーク302のTは、95℃付近に集中しており、分子Xの変性または伸展が半分だけ完了する融解温度を表す。
【0052】
ピーク304は、分子Xと、例えば分子Xに結合する配位子である、分子Yとを足したときの熱的性質曲線を表す。分子Yと結合したときの分子XのTは「シフト」し、115℃付近に集中している。
【0053】
ピーク306は、分子Xと、例えば分子Xに結合する代替の配位子である、分子Zとを足したときの熱的性質曲線を表す。分子Zと結合したときの分子XのTは「シフト」し、133℃付近に集中している。
【0054】
本発明の方法/素子の使用の別の実施例が、図4A、5、および6に示される。二本鎖DNAオリゴヌクレオチドの鎖の間における解離の追跡は、図4A、5、および6に示されるように、一連の温度にわたって放射された蛍光を測定することによって行われる。当該分野において良く知られているように、例えば組成が異なるため、異なる二本鎖核酸(図4A、5、および6に使用される二本鎖DNAなど)は異なる温度で解離する。例えば1つの鎖がSNPを含有することによって、2つの会合した鎖が完全に一致しない場合、解離温度プロファイル(すなわち、熱的性質曲線)は、2つの完全に一致する鎖を融解することによって生じる曲線/プロファイルとは異なる。
【0055】
図5および6に示されるグラフを作成するため、FRET(以下のFRETについての考察を参照)を使用して一連の温度にわたる解離を追うことができるようにして、35塩基対のDNAオリゴヌクレオチド(二本鎖)が設計された。オリゴヌクレオチドは、ミネソタ州ベセル(Bethel)のOligos Etc. Inc.(www.oligosetc.com)によって合成され、次のシーケンスを有していた。
3’ GTAGG TTCCT CATCG ACACA GTAGT CCGGG CGGCG 5’(フルオレセイン)
5’ CATCC AAGGA GTAGC TGTGT CATCA GGCCC GCCGC 3’(TAMRA)
【0056】
当然ながら、同様のオリゴヌクレオチドは、当業者には良く知られている多数の商用供給源から容易に入手可能であり、当業者によって容易に合成することもできる。本発明の方法および素子は、特定の核酸のシーケンスまたは長さを使用することに制約されないことが理解されるであろう。換言すれば、考えられる核酸シーケンス/組合せはすべて本発明において利用することができ、上述のオリゴヌクレオチド・シーケンスは限定的と見なされるべきではない。したがって、本発明による方法および素子は、例えば、PCRによって精製され増幅された患者サンプルから得たDNAを分析するため、診断用途に使用することができる。
【0057】
この実施例では、オリゴヌクレオチド鎖の半分の上のフルオレセインはFRETドナーの働きをし、オリゴヌクレオチド鎖の他方の半分の上のTAMRA(6−カルボキシテトラメチルローダミン)はFRET受容体の働きをする(以下の、類似の測定に有用な他の可能な発光体/受容体対を参照)。結果として、DNAが二本鎖の配座のとき(また、したがって、フルオレセインがTAMRAの近傍にあるとき)、フルオレセインからの蛍光はTAMRAに転写される。温度が上昇するにつれて、2つの鎖は分離し(やはり、例えば、使用されるオリゴヌクレオチドの特定のシーケンスに応じた特定の温度)、したがってフルオレセインとTAMRAを分離させ、それによって、蛍光発光をフルオレセインから検出することが可能になる。
【0058】
上記に列挙されたオリゴヌクレオチドの融解曲線を、図4aに示されるようなマイクロ流体チップ400において監視した。オリゴヌクレオチドは、−4psiでマイクロチャネル402を貫流させた。チャネル402およびその内容物を、チャネル402に沿って約20mm延びる厚さ3000Åの金属トレースである、抵抗加熱素子404に電流を流すことによって加熱した。フルオレセイン部分を、波長485nmのエネルギーで励起し、結果として得られた放射蛍光を波長520nmで測定した。そのような測定は、チャネル402の中心に配置した対物レンズによって行った。チャネル402内の温度は、30秒間初期温度で保持し、次に、1℃/秒の速度で95秒間上昇させて第2の温度にした(温度範囲については、図5および6のグラフを参照)。次に、温度を、やはり1℃/秒の速度で95秒間下降させて、初期温度に戻した。そのような循環を合計3回繰り返した。温度および蛍光のプロファイル(線500および線502によってそれぞれ表される)が図5に示される。結果として得られた融解曲線が図6に示される。一致しない核酸鎖を調べることに加えて、既知の二本鎖核酸のTは計算することができるため、図4Aにおける上述の実施例によって生成されるような熱融解曲線を利用して、マイクロチャネル内の流体物質または他の類似のマイクロ素子の初期温度を測定/確認することができる。換言すれば、例えば、類似のやり方で標識付けされた、Tが既知である二本鎖DNAオリゴヌクレオチドが、マイクロ流体素子内でそれに対して生成された融解曲線を有する場合、そのマイクロ流体素子において温度Tに達するのに必要な条件を決定することができる。換言すれば、Tはそのマイクロ流体素子の基準温度として役立ち得る。
【0059】
既知の組成の標識付けされたオリゴヌクレオチドに対する熱的性質曲線の構築を実証する上述の実施例が、図4Aに概略的に示されるようなマイクロ流体チップにおいて実施されたとしても、そのような熱的性質曲線(および、実際には、本明細書に記載の熱的性質曲線のいずれか)は、任意に、無数の異なる配置/構成のマイクロ流体チップにおいて実施されることが理解されるであろう。例えば、同様の熱的性質曲線、または、やはり基本的には本明細書に記載の任意の熱的性質曲線は、任意に、図4Bに示されるようなチップにおいて行われる。図4Bに示されるように、分子は、任意に主要チャネル410を貫流する。チャネル410は、交点470および480において2つの大きな電気アクセス・チャネル450および460と流体連通している。例えば、特定の色素、マーカーなど(例えば、タンパク質中の疎水性アミノ酸領域にのみ結合する色素など)を導入するための横断チャネル440は、主要チャネル410と流体連通している。電気アクセス・チャネル450および460は充填されたレザーバ490と流体連通しており、交点470と480の間の主要チャネルに電流を流す(以下の、マイクロチャネル内における電流の使用による加熱、すなわちジュール加熱の説明を参照)。電気アクセス・チャネル450および460の電気抵抗は、主要チャネル410の電気抵抗よりも低い。主要チャネルの加熱領域は交点470および480によって規定され、任意に、問題の検定における特定の加熱/流動の必要性に応じて、異なる実施形態では長さおよび深さが異なるものである。検定される分子(例えば、タンパク質およびそのタンパク質に対する推定上の結合分子)は、サンプル装填用の供給源を通して主要チャネルに導入される。主要チャネル内の加熱領域(すなわち、470と480の間)に入る際、各分子および推定上の結合剤はその領域を通る際に(段階的または継続的に)加熱される。さらに、この領域では、検定条件に適した検出システム(例えば、蛍光を測定する光検出器、下記参照)は、熱的性質曲線(任意に、推定上の結合分子が、例えば主要チャネル内で試験されるタンパク質分子に添加されない場合、制御または校正曲線を含む)を構築するため、温度範囲にわたって分子の任意の物理的性質(例えば、蛍光)を測定し、そのような読取値をコンピュータに伝達するように位置付けられる。本発明によるマイクロ流体素子および統合システムの他の実施例は、以下の「統合システムの実施例」のセクションにおいて提供される。
【0060】
熱的性質曲線を構築するのに使用される検出可能な性質
熱的性質曲線を構築する際、分子の変性/伸展を判定するため、問題の分子の物理的性質が測定されなければならない。この物理的性質の変化は変化する温度に応じて決まるものとして測定され、分子の配座の変化に比例/相関する。例えば、熱量分析、すなわち熱容量の変化を測定して、分子の温度誘発性の変性を示すことができる。例えば、Weber, P. et al., (1994) "Structure-based design of Synthetic Azobenzene Ligands for Streptavidin" J Am Chem Soc 16:2717-2724を参照のこと。分子の折畳み/配座の変化を示すために測定することができる追加の物理的性質としては、例えば、蛍光もしくは発光の存在、蛍光もしくは発光の変化、または蛍光もしくは発光の偏光の変化など、様々なスペクトル現象が挙げられる。これらの性質は、一連の温度にわたって測定し、マイクロ流体素子内の検査における標的分子(1つまたは複数)の伸展/変性の変化に相関させることができる。
【0061】
熱量測定
本発明の一実施形態は、熱量測定を使用して、標的分子が温度の変化に晒されたときの熱力学的パラメータの変化を測定する。例えば、示差走査熱量測定(DSC)は、任意に、分子の相対的安定性を測定するのに使用される。本発明においてDSCを使用して、標的分子を含有するサンプルはマイクロ流体素子内の一連の温度にわたって加熱される。加熱プロセスの間のある時点において、標的分子は、熱を吸収あるいは放出する、物理的または化学的変化(例えば、変性)を起こす。次に、そのプロセスの間の熱変化(1つまたは複数)が、プロセス全体についての総熱量またはエンタルピーの変化(ΔH)を表す曲線の下の面積で、温度に応じて決まるものとしてプロットされる。当業者であれば、結果として得られるプロットを使用して、例えば、熱容量変化(ΔCp)、T(すなわち、変性または伸展反応が半分だけ完了する中間点温度)などを決定することができる。例えば、Gonzalez, M. et al., (1997) "Interaction of Biotin with Streptavidin", J Biol Chem, 272(17): 11288-11294を参照のこと。
【0062】
上記の手順は、任意に、標的分子、例えば配位子に結合する可能性がある試験分子(または複数の試験分子)を付加して繰り返される。次に、標的分子およびその推定上の結合剤分子(1つまたは複数)を加熱することによって生成される熱的性質曲線が、標的分子を単独で加熱することによって生成される熱的性質曲線と比較される。2つの熱的性質曲線の比較は、例えば、試験分子が実際に標的分子に結合しているかを明らかにすることができる。分子が互いに結合している場合、試験分子の存在下で検定された標的分子の熱的性質曲線は、標的分子単独の熱的性質曲線に比べて「シフト」される。熱的性質曲線のこのシフトは、標的分子の熱変性における結合依存性の変化によるものである。結合によって標的分子が安定する。例えば、Gonzalez, M. et al., (1997) "Interaction of Biotin with Streptavidin", J Biol Chem, 272(17):11288-11294、ならびに、Barcelo, F. et al. (1990) "A scanning calorimetric study of natural DNA and antitumoral anthracycline antibiotic-DNA complexes." Chem Biol Interact, 74(3):315-324を参照のこと。
【0063】
電流
本発明の別の実施形態は、印加電流の測定を使用して、温度に応じて決まる標的分子の変性/伸展を追跡する。ジュール加熱は「クランプ」モードで適用することができる。特定の温度(1つまたは複数)を維持するのに必要な電流の量は、検査中の分子(すなわち、個々にかつ組合せで)が素子内の温度を通して循環されるときに測定される。
【0064】
蛍光
本発明の別の実施形態は、分光法を使用して、標的分子が温度の変化に晒されたときの標的分子の変性/伸展を追跡するために、蛍光または光の変化を測定する。例えば蛍光による分光測定法は、分子の熱誘発性の変性/伸展を検出する有用な方法である。分子の変性(例えば、固有の蛍光、多数の蛍光指標色素もしくは分子、蛍光偏光、蛍光共鳴放射移動など)を検出する、蛍光が関与する多くの異なる方法が利用可能であり、本発明の任意の実施形態である。これらの方法は、標的分子の内部蛍光性、または外部蛍光、すなわち分析に関与する追加の指標分子の蛍光のどちらかを利用することができる。
【0065】
固有蛍光
標的分子の変性/伸展の度合い(標的分子がアミノ酸ベースの場合)を測定する任意の方法は、例えば、トリプトファン残基の固有の蛍光を監視することによるものである。他の芳香族アミノ酸残基は、トリプトファンに加えて、固有の蛍光を示し、本発明において任意に利用される。標的分子が温度の上昇による伸展を起こすと、タンパク質構造の内部に事前に埋めた様々なトリプトファンまたは他の分子を、分子(1つまたは複数)を取り囲む溶媒に暴露させることができる。例えばトリプトファン残基の暴露のこの変化は、標的分子の蛍光における対応する変化に結び付く。放射の量子収量は、標的分子のシーケンスおよび配座に応じて減少あるいは増加する。標的分子が伸展する際、通常は分子の固有の放射においてレッド・シフトがあり、それも、任意に配座の変化を検出するのに使用することができる。例えば、Ropson, I. et al. (1997) "Fluorescence spectral changes during the folding of intestinal fatty acid binding protein" Biochem, 36(38):8594-8601を参照のこと。この方法から観察される固有の蛍光の変化は、温度に応じて決まるものとして測定され、熱的性質曲線を構築するのに使用される。上述したように、試験分子(1つまたは複数)の標的分子への結合は、熱的性質曲線をシフトさせ、結合の事象を判定し定量化/定性化するのに使用される。
【0066】
蛍光指標色素および分子
標的分子の変性/伸展の度合いを測定する別の方法は、標的分子および目的の任意の試験分子とともにマイクロ流体素子に添加された、指標色素または分子の蛍光を監視することによるものである。「蛍光指標色素」または「蛍光指標分子」は、標的分子が伸展もしくは変性したら、あるいは例えば変性によって標的分子の配座が変化する前に標的分子に結合することができ、かつ、例えば指定の波長の光によって励起された後、蛍光エネルギーまたは光を放射する、蛍光分子または化合物(すなわち、蛍光体)を指す。「蛍光指標色素」および「蛍光指標分子」はすべての蛍光体を含む。
【0067】
例えば、分子上の特定の領域に特異的に結合する蛍光色素は、任意に、本発明のマイクロ流体素子において、温度による標的分子の分子伸展/変性を監視するのに使用される。そのような蛍光色素群の一例は、分子の疎水性領域に特異的に結合する色素から成る。その群の色素の例示的な、ただし非限定的な一例は、1−アニリノ−8−ナフタレンスルホナート(ANS)である。ANSは、極性環境において低い蛍光を有するが、例えば、未変性折畳みタンパク質の内部領域に見られるような無極領域に結合するとき、その蛍光収量は大幅に増強される。例えば、マイクロ流体素子内の温度を上昇させるのに伴って発生するように、標的分子は変性されるので、それらが変性され、それによって、例えば水などの溶媒がANSの蛍光に達し、それを消光することが可能になる。あるいは、ANSは、他のやり方においても、本発明のマイクロ流体素子において調査される特定の分子/反応/などに応じて、温度誘発性の配座の変化を監視するのに使用することができる(例えば、タンパク質の変性の経路は、ANSが結合し蛍光することができる疎水性領域を作成することができ、あるいは、変性によって、ANSが結合することができる疎水性タンパク質小滴を作成することが可能になり、ANSはタンパク質上の結合部位のための配位子と競合するので、ANS蛍光を監視することができる)。例えば、Schonbrunn, E. et al. (2000) "Structural basis for the interaction of the fluorescence probe 8-anilino-1-naphthalene sulfonate (ANS) with the antibiotic target MurA" Proc Natl Acad Sci USA 97(12):6345-6349、ならびに、Ory, J. et al. (1999) "Studies of the Ligand Binding Reaction of Adipocyte Lipid Binding Protein Using the Fluorescent Probe 1,8-Anilinonaphthalene-8-Sulfonate" Biophys 77:1107-1116を参照のこと。他の様々な疎水性蛍光色素などが、マイクロ流体素子内で検定される標的分子上の他の特定の等級の領域に結合する、かつ任意に本発明において具体化される蛍光色素として、当該分野において良く知られている。
【0068】
本発明のマイクロ流体素子に使用される別の任意の色素タイプは、核酸の鎖内に挿入するものである。そのようなタイプの色素の典型例は臭化エチジウムである。結合検定に臭化エチジウムを使用する一例としては、例えば、試験分子が核酸標的分子に結合することによる、臭化エチジウムからの蛍光放射の減少を監視することが挙げられる(臭化エチジウム置換検定)。例えば、Lee, M. et al., (1993) "In vitro cytotoxicity of GC sequence directed alkylating agents related to distamycin" J Med Chem 36(7):863-870を参照のこと。変性の測定において核酸挿入剤を使用することは、当業者には良く知られている。例えば、Haugland (1996) Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals Published by Molecular Probes, Inc., Eugene, ORを参照のこと。
【0069】
挿入以外のメカニズムによって核酸に結合する色素も、本発明の実施形態において使用することができる。例えば、二本鎖DNAの副溝を結合する色素を使用して、温度による標的分子の分子伸展/変性を監視することができる。適切な副溝結合色素の例は、オレゴン州ユージーン(Eugene)のMolecular Probes, Inc.によって販売されている色素のサイバー・グリーン系である。例えば、Haugland (1996) Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals Published by Molecular Probes, Inc., Eugene, ORを参照のこと。サイバー・グリーン色素は、任意の二本鎖DNA分子に結合する。サイバー・グリーン色素が二本鎖DNAに結合すると、蛍光発光の強度が増加する。温度の上昇によってより多数の二本鎖DNAが変性されるにつれて、サイバー・グリーン色素信号は減少する。
【0070】
蛍光偏光
本発明の他の実施形態は蛍光偏光を利用する。蛍光偏光(FP)は、目的の分子間のハイブリダイゼーション形成を検出する有用な方法を提供する。この方法は、特に、核酸間のハイブリダイゼーション検出、例えば、一塩基多型(SNP)の監視に適用可能である。
【0071】
一般に、FPは、例えば、試験分子および標的分子を含む分子間の結合の事象の前、その間、および/またはその後に、蛍光色素などの蛍光標識の回転速度を監視することによって動作する。要するに、試験分子の標的分子への結合は、通常、分子の1つの上にある結合標識の回転速度の減少をもたらし、結果としてFPの変化につながる。
【0072】
例えば、蛍光分子が偏光光源を用いて励起されると、分子は固定面内で蛍光を放射し、例えば、分子が間隙を介して固定されているという条件で放射光も偏光される。しかし、分子は一般的に間隙を介して回転し混転しているので、蛍光がその中で放射される面は、分子の回転とともに変化する(分子の回転拡散とも呼ばれる)。換言すれば、放射された蛍光は一般に偏光が解消される。分子が溶液中でより高速で回転するほど、その偏光はさらに解消される。反対に、分子が溶液中でより低速で回転するほど、その偏光の解消はより少なくなるか、またはさらに偏光される。所与の分子の偏光値(P)は、分子の「回転相関時間」、すなわち、約68.5°の角度で分子が回転するのにかかる時間の量に比例する。回転相関時間がより少ないほど、分子はより高速で回転し、観察される偏光はより少なくなる。回転相関時間がより多いほど、分子はより低速で回転し、観察される偏光はより多くなる。回転緩和時間は、粘性(η)、絶対温度(T)、モル体積(V)、および気体定数(R)に関連する。回転相関時間は、一般に、回転相関時間=3ηV/RTという式に従って計算される。上記式から分かるように、温度および粘性が一定に維持された場合、回転緩和時間、およびしたがって偏光値は、分子体積に直接関連する。したがって、分子がより大きいほど、その蛍光偏光値はより高くなり、反対に、分子がより小さいほど、その蛍光偏光値はより低くなる。
【0073】
本発明における蛍光結合検定を行う際、比較的高速の回転相関時間を有する一般的に小さな蛍光標識分子、例えば、配位子、抗原などが使用されて、はるかに少ない回転相関時間を有するはるかに大きな分子、例えば、受容体タンパク質、抗体などに結合する。小さな標識分子のより大きな分子への結合により、標識付けられた種、すなわち、遊離した未結合の標識分子の複合体の上の標識付けられた複合体の、回転相関時間が著しく増加する(回転の量が減少する)。これは、検出可能な偏光のレベルに対して対応する効果を有する。具体的には、標識付けられた複合体は、未結合の標識分子よりもはるかに高い蛍光偏光を示す。
【0074】
Nikiforov and Jeong "Detection of Hybrid Formation between Peptide Nucleic Acids and DNA by Fluorescence Polarization in the Presence of Polylysine" (1999) Analytical Biochemistry 275:248-253に加えて、蛍光偏光および/または分子生物学におけるその使用を考察する他の参照文献としては、Perrin "Polarization de la lumiere de fluorescence. Vie moyenne de molecules dans l'etat excite" (1926) J Phys Radium 7:390、Weber (1953) "Rotational Brownian motion and polarization of the fluorescence of solutions" Adv Protein Chem 8:415、Weber (1956) J Opt Soc Am 46:962、Dandliker and Feigen (1961), "Quantification of the antigen-antibody reaction by the polarization of fluorescence" Biochem Biophys Res Commun 5:299、Dandliker and de Saussure (1970) (Review Article) "Fluorescence polarization in immunochemistry" Immunochemistry 7:799、Dandliker W. B., et al. (1973), "Fluorescence polarization immunoassay. Theory and experimental method" Immunochemistry 10:219、Levison S. A., et al. (1976), "Fluorescence polarization measurement of the hormone-binding site interaction" Endocrinology 99:1129、Jiskoot et al. (1991), "Preparation and application of a fluorescein-labeled peptide for determining the affinity constant of a monoclonal antibody-hapten complex by fluorescence polarization" Anal Biochem 196:421、Wei and Herron (1993), "Use of synthetic peptides as tracer antigens in fluorescence polarization immunoassays of high molecular weight analytes" Anal Chem 65:3372、Devlin et al. (1993), "Homogeneous detection of nucleic acids by transient-state polarized fluorescence" Clin Chem 39:1939、Murakami et al. (1991) "Fluorescent-labeled oligonucleotide probes detection of hybrid formation in solution by fluorescence polarization spectroscopy" Nuc Acids Res 19:4097、Checovich et al. (1995), "Fluorescence polarization--a new tool for cell and molecular biology" (product review), Nature 375:354-256、Kumke et al. (1995), "Hybridization of fluorescein-labeled DNA oligomers detected by fluorescence anisotropy with protein binding enhancement" Anal Chem 67(21):3945-3951、ならびに、Walker, J. et al. (1996), "Strand displacement amplification (SDA) and transient-state fluorescence polarization detection of mycobacterium tuberculosis DNA" Clinical Chemistry 42(1):9-13が挙げられる。
【0075】
蛍光共鳴エネルギー移動
本発明のさらに別の任意の実施形態は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使用して、温度に応じて決まる標的分子の配座の変化(および、標的分子と結合することができる試験分子との相互作用)を追跡する。FRETは、ドナー発光体から受容体発光体へのエネルギーの距離依存性の移動に依存する。受容体発光体が励起されたドナー発光体に近接している場合、ドナー発光体の励起は受容体発光体に移動させることができる。これは、ドナー発光体の強度のそれに付随する減少と、受容体発光体の発光強度の増加とを引き起こす。励起移動の効率は、とりわけ2つの発光体間の距離に依存するので、この技術は、配座の変化を検出するときに生じるような、非常に小さな距離を測定するのに使用することができる。この技術は、結合反応、タンパク質間の相互作用、例えば、抗体に結合する目的のタンパク質、ならびに2つの標識付けられた分子の近接度を変更する他の生物学的事象の測定に特に適している。多くの適切な相互作用的な標識が知られている。例えば、蛍光性ラベル、色素、酵素性ラベル、および抗体ラベルはすべて適切である。相互作用的な蛍光性標識の対の例としては、テルビウム・キレートとTRITC(テトラローダミン・イソチオシアネート)、ユーロピウム・クリプテートとアロフィコシアニン、DABCYLとEDANS、および当業者には知られている他の多くのもの(例えば、カルボキシフルオレセイン、ヨードアセトアミドフルオレセイン、およびフルオレセイン・イソチオシアネートなどのドナー蛍光体と、ヨードアセトアミドエオシン、およびテトラメチルローダミンなどの受容体蛍光体)が挙げられる。同様に、2つの熱量測定標識(calorimetric labels)は、第3の色を生じる組合せをもたらし、例えば、青色発光が黄色発光に近接していると緑色発光が観察される。蛍光性の対に関しては、互いを消光することが知られている多数の発光体がある。蛍光消光は、一般的には蛍光発光スペクトルを変えることなく、蛍光量子収率を低減する二分子から成るプロセスである。消光は、一時的な励起状態相互作用(動的消光)によって、あるいは、例えば非蛍光性の基底状態の種を形成することによって得ることができる。自己消光は、ある発光体が別の発光体によって消光されることであり、高濃度、標識付けの密度、または標識の近接が生じたときに起こる傾向がある。FRETは、ある発光体の発光がそれに近接している(発光の観察可能な変化が起こるのに十分な近さで)別の発光体の励起に結合される、距離依存性の励起状態相互作用である。いくつかの励起発光体は相互作用して、変更された発光スペクトルを示す励起状態のダイマー(例えば、ピレンsn−2アシル鎖を有するリン脂質類似体)であるエキシマーを形成する。例えば、Haugland (1996) Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals Published by Molecular Probes, Inc., Eugene, OR. e.g., at chapter 13、ならびに、Selvin, P. (2000) "The renaissance of fluorescence resonance energy transfer" Nat Struct Biol 7(9):730-734を参照のこと。
【0076】
分子ビーコン
本発明の他の任意の実施形態は、温度に応じて決まる標的分子/試験分子の配座変化に続いて、分子ビーコンを使用する。分子ビーコンは、特定の核酸の存在を報告するのに使用することができるプローブ(すなわち、本発明における試験分子)である。それらは、検定されている核酸ハイブリッドを隔離することが望ましくないか、あるいは不可能である状況において特に有用である。
【0077】
構造上、分子ビーコンは、特定の核酸シーケンスの中央「ループ」部分を有し、一方が蛍光部分を有し他方が消光部分を有する2つの相補的な端部領域(互いにアニールされた)がその側面に位置する、ヘアピン状の核酸分子である。ループ領域は、標的または特定の核酸シーケンスに対して相補的である。分子ビーコンがその適当な標的分子の存在下になく、そのヘアピン状の配座であるとき、蛍光部分および消光部分は、蛍光が消光され、エネルギーが熱として放射されるのに十分に近接している。しかし、分子ビーコンがその適当な標的分子に接近しているときは、その内部ループ領域が標的の核酸シーケンスに結合するように配座が変わる。これにより、蛍光部分が消光部分から離れる方向に動き、その結果、蛍光が回復する。異なる発光体を使用することにより、分子ビーコンは様々な異なる色で作ることができる。DABCYL(非蛍光性の発色団)は、通常、分子ビーコン内における万能の消光剤として役立つ。分子ビーコンは非常に特異的であることができ、したがって、例えば、本発明において、分子間の単一ヌクレオチドの違いを検出するのに使用することができる。例えば、Tyagi, S. et al. (1996) "Molecular beacons: probes that fluoresce upon hybridization" Nat Biotech 14:303-308、ならびに、Tyagi, S. et al. (1998) "Multicolor molecular beacons for allele discrimination" Nat Biotech 16:49-53を参照のこと。
【0078】
円二色性
本発明の別の任意の実施形態は、円二色性(CD)を使用して、温度に応じて決まる標的分子/試験分子の配座の変化を追う。CDは、右円偏光光と左円偏光光との間の分子によって吸光度の差を測定する、一種の光吸収分光法である。CDは、ポリペプチドおよびタンパク質の構造に対する感度が非常に高い。CDの適用および技術の概説については、例えば、Woody, R. (1985) "Circular Dichroism of Peptides" in The Peptides 7:14-114, Academic Press、ならびに、Johnson, W. (1990) "Protein Secondary Structure and Circular Dichroism: A Practical Guide" Proteins 7:205-214を参照のこと。分子融解曲線を構築するため、本発明は、任意に、CDを使用して、温度の変化によって引き起こされる標的分子と試験分子の配座の変化を追う。
【0079】
誘電性
本発明の任意の実施形態は、誘電性の測定を使用して、分子の配座の変化(例えば配位子・受容体の結合の場合のように、例えば、分子間の相互作用によって生じるもの)を検出および/または追跡することを含む。
【0080】
誘電性の変化を測定するのに使用される1つの非限定的な任意の装置は、固体の基質に結合された標的分子から成る。次に、結合された標的分子に信号が伝導され(例えば、電磁エネルギーの特定の波長)、次に固有の信号応答が測定される。信号応答は、結合された標的分子の固有の誘電性によって変調される。試験分子が結合された標的分子と相互作用する場合、固有の信号応答は変更される。信号応答のこの変更を使用して、標的分子に対する試験分子の親和性および特異性を決定することができる。
【0081】
それに加えて、この方法は、例えば標的分子のアロステリック部位における試験分子の結合と、標的分子の特性決定された相互作用部位における試験分子の結合とを区別することができる。換言すれば、非特異的結合は特異的結合とは明確に異なる「サイン」を生じる。この検出法の例およびさらなる詳細については、例えば、Smith et al.のWO99/39190号、Hefti et al.のWO00/45170号、ならびに、Hefti, J. et al. "Sensitive detection method of dielectric dispersions in aqueous-based, surface-bound macromolecular structures using microwave spectroscopy" Applied Phys Letters, 75(12):1802-1804を参照のこと。
【0082】
UV吸光度
本発明の任意の実施形態は、UV吸光度の測定を使用して、核酸分子の変性を検出および/または追跡し、かつ/または核酸の総量を定量化することを含む。一本鎖核酸分子のUV吸光度の値は、二本鎖核酸分子の吸光度の値よりも大きいので、UVは、変性の程度を測定するのに使用することができる。
【0083】
本発明の統合システム、方法、およびマイクロ流体素子
配座の変化の実際の検出および熱的性質曲線の構築に加えて、本発明のマイクロ流体素子は、多数の任意の変形実施形態、例えば、流体運搬、温度制御、蛍光検出、および加熱も含む。
【0084】
用語「マイクロ流体素子」は、一般にミクロンからサブミクロンの規模で製作される流体チャネルまたはチャンバ、例えば、一般的に、約1mm未満の範囲の少なくとも1つの断面寸法を有するチャネルまたはチャンバを有する素子を指す。マイクロ流体素子内のチャネルは、「マイクロ流体チャネル」と呼ばれる場合もある。マイクロ流体チャネルは、一般的に、マイクロ流体素子の内部にある閉チャネルである。多くのマイクロ流体素子では、チャネルは、第1の平面的な基質の表面上に溝を製作し、次に、その表面に第2の平面的な基質を付着させることによってそれらの溝を閉じることによって形成される。総合システム、すなわちマイクロ流体システムは、マイクロ流体素子と適合する。多くのマイクロ流体システムでは、マイクロ流体素子は、カートリッジなどの取外し可能な構成要素である。本発明によるマイクロ流体素子は、検査中の特定の実験などにおいて存在する条件と適合性をもつ材料から製作することができる。そのような条件としては、pH、温度、イオン濃度、圧力、および電界の印加が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、十分に記載されるように、言及されたシステムは、温度制御を利用して、本明細書の方法に従って熱融解曲線を提供することができる。したがって、材料は、あらゆる選択された温度において特定の性質をもたらすように選択することができる。素子の材料は、素子内で実施される実験の成分に対して不活性であることによっても選択される。そのような材料としては、意図される用途に応じて、ガラス、石英、シリコン、およびポリマー基材、例えば、プラスチックが挙げられるが、それらに限定されない。
【0085】
本明細書に具体的に示される素子およびシステムは、一般に、少数もしくは1つの特定の作業を行うことに関して記載されるが、これらのシステムの順応性によって、追加の作業をこれらの素子に容易に統合することが可能になっていることが、本開示から容易に理解されるであろう。例えば、記載の素子およびシステムは、任意に、本明細書に具体的に記載される作業の上流および下流の両方で、事実上あらゆる多数の作業を行うための、構造、試薬、およびシステムを含む。そのような上流の作業としては、サンプル処理および調製作業、例えば、細胞分離、抽出、精製、増幅、細胞活性化、標識付け反応、希釈、分取などが挙げられる。融解曲線を生成する、本発明による作業の上流の作業を行うマイクロ流体素子の概略図が、図7に示される。マイクロ流体素子700はマイクロ流体チャネル710を含む。チャネル710を貫流する一般的な方向は、素子の上面図にある矢印によって示される。上流の作業は素子の領域Aにおいて行われ、融解曲線は下流領域Bにおいて生成される。図7に示される概要における1つの特に有利な応用例は、サンプルの精製および/または核酸の増幅を行って、領域Aにおいて目的の核酸分子を隔離し増幅し、下流の領域Bにおいて、隔離されかつ/または精製された目的の核酸分子を、領域Bの融解曲線を使用して特性決定するものである。使用することができる増幅反応の例としては、PCRおよびLCRが挙げられる。上流領域Aにおいて増幅を実施するため、その領域内で、適切な増幅試薬が目的の核酸と混合されなければならない。例えば、核酸分子がDNA分子であり、増幅反応がPCRである場合、増幅試薬は、適切なプライマー、熱安定性ポリメラーゼ、およびヌクレオチドを含む。下流の作業は、任意に、例えば、サンプル成分の分離、成分の標識付け、検定および検出作業、動電学もしくは圧力に基づく成分の注入など、類似の作業を含む。
【0086】
本発明による統合マイクロ流体システムは、マイクロチャネル内の流体および場合によっては粒子の移動を方向付ける、流体運搬システムなどの他の特徴を含むことができる。流体運搬システムは、恐らくは、当該分野において知られている任意の流体移動メカニズム(例えば、マイクロチャネル内の流体圧力を調整する流体圧力源、マイクロチャネル内の電圧もしくは電流を調整する動電コントローラ、重力流モジュレータ、マイクロチャネル内の磁界を調整する磁気制御素子、またはそれらの組合せ)を使用することができる。
【0087】
本発明のマイクロ流体素子は、並行流動流体コンバータ(parallel stream fluidic converter)、すなわち、試薬の少なくとも1つの直列流を、素子内の反応部位(1つまたは複数)に試薬を並列に送達するための、試薬の並列流に変換することを容易にするコンバータなどの流体操作素子も含むことができる。例えば、本明細書のシステムは、任意に、チャネル間の流れの切替えを制御し、かつ/または、マイクロチャネル内の、例えば分析もしくは培養チャネル内の圧力/真空レベルを制御するため、バルブ・マニホルドおよび複数のソレノイド・バルブを含む。流体操作素子の別の例としては、例えば、マイクロタイター・プレートからサンプル(1つまたは複数)を吸引するため、また、複数のチャネル、例えば並列の反応もしくは検定チャネルの1つにそれを送達するために、任意に使用される毛管が挙げられる。それに加えて、分子などは、任意に、1つもしくは複数のチャネルそれぞれと、マイクロウェル・プレートなどのサンプルもしくは粒子の供給源とに流体連結された1つのピペッター毛管を介して、マイクロ流体素子の1つもしくは複数のチャネルに装填される。
【0088】
本発明では、細胞、タンパク質、抗体、酵素、基質、緩衝液などの材料は、任意に、例えば、目的の成分の存在を検出することができるように、化合物の活性を判定することができるように、または、例えば酵素の活性に対する修飾物質の効果を測定することができるように、監視および/または検出される。検出された信号測定値に応じて、任意に、後に続く流体の操作、例えば、特定の成分を詳細に検定して、例えば熱融解曲線の分析に基づいて、例えば運動性の情報を判定するか否かに関する決定がなされる。
【0089】
本明細書に記載のシステムは、任意に、素子内の流体運搬、流量、および方向を制御する追加の器具類、システムによって行われる作業の結果を検出もしくは感知する検出器具類、プログラムされた命令に従って制御器具類に命令し、検出器具類からデータを受け取り、データを分析、格納、および解釈し、データおよび解釈を容易にアクセス可能な報告形式で提供するプロセッサ、例えばコンピュータと併せて、上述したようなマイクロ流体素子を含む。
【0090】
温度制御
本発明の実施形態は、温度制御を使用して、融解曲線検定のため、分子の融解または変性を実現する。本発明による総合システムは、温度を制御して、例えば熱循環反応(例えば、PCR、LCR)における反応パラメータを制御し、または試薬の性質を制御することもできる。一般に、かつ本発明の実施形態では、様々な加熱方法を使用して、小型化された流体システム内の温度制御をもたらすことができる。そのような加熱方法としては、ジュール加熱および非ジュール加熱の両方が挙げられる。非ジュール加熱法は、マイクロ流体素子の内部にあって、すなわちマイクロ流体素子の構造に統合するか、または外部にあって、すなわち、マイクロ流体素子とは別個であるが、マイクロ流体システムの一部であることができる。非ジュール加熱は、光子線、流体を通しての伝導性または対流性の加熱および冷却(例えば、液体を素子内のチャネルに流すか、または素子の1つもしくは複数の外面を気体もしくは液体と接触させる)、レーザー、電磁界、電子線、熱電加熱器、炉、抵抗性薄膜、抵抗加熱コイル、ペルチエ加熱器、ならびに熱電加熱器または冷却器によって実施することができる。それらの非ジュール加熱法の多くは、伝導によってマイクロ流体素子と熱エネルギーをやり取りする、マイクロ流体素子の外面と熱接触している熱伝導性材料のブロックである、熱ブロックと併せて使用することができる。熱伝導性材料のブロックは、ブロック内の温度変化によってマイクロ流体チャネル内の温度変化が生じるという点で、マイクロ流体素子の内部にあるマイクロ流体チャネルと「熱接触」している。熱ブロックの温度は、上記に列挙した非ジュール加熱法の1つまたは複数を使用して操作することができる。例えば、熱ブロックの温度は、熱ブロックと熱接触している抵抗性加熱器を流れる電流を制御することによって、またはペルチエ素子を流れる電流を制御することによって操作することができる。マイクロ流体素子と相互作用するシステム内の、またはマイクロ流体素子自体の中のコントローラを使用して、対象の温度を調節することができる。これらの実施例は非限定的であり、他の多数のエネルギー源を利用して、マイクロ流体素子内の流体温度を上げることができる。
【0091】
非ジュール加熱部は、マイクロ流体素子のチップの外部部分に直接付着させることができる。あるいは、非ジュール加熱部は、マイクロ流体素子の構造に統合することができる。いずれの場合も、非ジュール加熱は、マイクロ流体素子内のチップの選択された部分にのみ任意に適用されるか、または、任意に、マイクロ流体素子のチップ全体を加熱し、チップ全体にわたって均一な温度分布をもたらす。
【0092】
エネルギー・シンクを使用することにより、様々な方法を使用してマイクロ流体システム内の流体温度を下げることができる。エネルギー・シンクは、ヒート・シンクまたは化学シンクであることができ、フラッド、時間変動性、空間変動性、または連続的であることができる。ヒート・シンクは、特に、流体噴出口、液体噴出口、気体噴出口、極低温流体、過冷却液体、熱電冷却手段、例えば、ペルチエ素子または電磁界を含むことができる。エネルギー・シンクは、任意のジュールまたは非ジュール加熱法を使用して加熱もされている、マイクロ流体素子の領域を冷却するのに使用することができる。例えば、液体冷却の形態のエネルギー・シンクを図10のマイクロ流体素子100の裏面に適用して、加熱領域130の温度を下げることができ、金属トレース150を使用して、加熱領域130の温度を上げることができる。エネルギー・シンクをジュールまたは非ジュール加熱法と併せて使用することで、熱循環の間に、マイクロ流体素子がより急速に温度を変えることができる。
【0093】
一般に使用されるほとんどの非ジュール加熱法は、熱エネルギーをマイクロ流体素子に供給し、そのエネルギーを素子内のチャネルには直接供給しない。例えば、上記に列挙した非ジュール加熱法の多くは、マイクロ流体素子の外面に熱を送達するので、それらの方法においては、熱は、チャネル内の流体に達する前に、マイクロ流体素子の本体を介して伝導されなければならない。例えば、熱ブロックを使用する実施形態では、マイクロ流体チャネル内に収容された流体の温度変化をもたらすには、ブロックとマイクロ流体素子の間の界面を介して、マイクロ流体素子の本体を介して、かつチャネルの内面を介して、熱がブロックとの間で交換されることを必要とする。様々な界面およびマイクロ流体素子の本体を介して熱を伝導することが必要なため、熱慣性が作り出される場合があり、それによって、熱ブロックが加熱または冷却される時間と、加熱または冷却が素子のマイクロチャネル内の温度に影響する時間との間に遅延が起こる。さらに、非ジュール加熱法のほとんどは、マイクロ流体素子の本体全体を均一に加熱するものではなく、例えば、熱が素子の1つの表面のみに加えられることがあり、または、素子の1つの表面が加熱され、素子の別の表面が冷却されることがあるので、マイクロ流体素子の本体内に温度のばらつきがあることは非常に一般的である。換言すれば、マイクロ流体素子のチャネル内の温度は、素子の外面の1つまたは複数の温度と異なることがある。
【0094】
熱慣性によるチャネル内の温度応答における遅延、ならびに表面温度とチャネル温度の間のオフセットにより、素子のチャネル内にある流体の非常に正確な温度制御が厄介になる可能性があるが、それは、温度測定素子をマイクロチャネル内に置くことが一般的に非常に困難なためである。マイクロ流体チャネル内の基準温度を決定する上述の方法を使用して、温度オフセットを定量化することができる。応答時間の遅延は、定量化し、したがって、多数のやり方で補償することができる。遅延を定量化する1つの方法は図8に示される。ほとんどの蛍光体によって生じる蛍光の量は温度によって変わるので、チャネル内の蛍光の相対量はチャネル内の相対温度の指標であり得る。図8に示されるように、マイクロ流体素子の外面の温度820は、その表面を直接加熱し冷却することによって特徴的なパターンで変化し得る。図8の特徴的なパターンは正弦波である。素子の表面に適用される温度変化のパターンにより、その表面と熱接触している素子内のチャネルの温度変化において類似のパターンが生じる。それらのチャネル内の蛍光体によって生じる蛍光の量は温度によって変わるので、パターンはやはり、チャネルから発する蛍光の量として再現される。したがって、図8の実施形態では、マイクロ流体素子の外面の温度の正弦波的変化により、チャネルから発する正弦波的な蛍光の変化810が生じる。図8に示される実施形態では、チャネル内の物質の蛍光は、物質の温度が上昇するにつれて減少する。熱慣性によって引き起こされる遅延は、表面上で温度が最高であるときとチャネル内で温度が最高であるときとの間のオフセット830を作り出す(最小蛍光値によって示される)。したがって、表面の温度を正弦波的に変化させ、チャネル内の正弦波的な蛍光応答を監視することで、熱慣性によって生じる時間遅延を定量化することが可能になる。図8に示される方法は、蛍光が温度によって増加するか減少するかに関わらず、蛍光が温度によって変わる任意の蛍光化合物で有効である。さらに、認識可能な特徴を有する温度変化の他の任意のパターンを使用して、時間遅延を測定することができる。例えば、パターンは、正弦波ではなく階段関数またはパルスであることができる。遅延を定量化する別のやり方は、予め定められた温度で融解する融解点プローブが融解した時点で、マイクロ流体素子の表面の温度を測定するものである。素子の表面上で測定された温度オフセットと、素子のチャネル内の流体温度とを定量化する1つの方法は、上述の方法を使用して、Tが既知である分子の融解曲線を生成し、チャネル内の温度がTであるときのマイクロ流体素子の表面における温度を判定することによって、基準温度を決定するものである。
【0095】
ジュール加熱法では、チャネル内の流体を流れる電流は、流体の電気抵抗によってエネルギーを散逸することによって熱を生じる。電力は、電流が流体を流れるにつれて散逸し、時間に応じて決まるエネルギーとして流体に入って、流体を加熱する。次の数式は、一般に、電力、電流、および流体抵抗の間の関係を説明する。POWERが、流体中に散逸する電力であり、Iが、流体を流れる電流であり、Rが、流体の電気抵抗であるとき、POWER=IRである。
【0096】
上述の式は、電流(「I」)に対する散逸した電力(「POWER」)と抵抗(「R」)との関係を規定する。流体を移動させることを対象とする本発明の実施形態のいくつかでは、電力の一部は流体をチャネルに流す運動エネルギーになる。ジュール加熱は、チャネル内の流体を加熱する電力の選択された一部、またはマイクロ流体素子の選択されたチャネル領域(1つまたは複数)を使用し、チャネル内電極を利用することができる。例えば、米国特許第5,965,410号を参照のこと。このチャネル領域は、チャネル構造の他のチャネル領域よりも断面が狭いか、または小さい場合が多い。小さな断面によって流体の抵抗がより大きくなり、そのため、電流が流れるにつれて流体の温度が上昇する。あるいは、電流は、電圧を増加させることによってチャネルの長さに沿って増加させることができ、そのため流体中に散逸する電力量も増加して、それに対応して流体温度が増加する。
【0097】
ジュール加熱により、例えば加熱することが望ましくない他の領域を加熱することなく、本発明の素子の別個のマイクロ流体エレメント内、例えば、1つもしくは複数の別個のチャネル内の、温度および/または加熱を正確に局所制御することが可能になる。マイクロ流体エレメントは、それらが中に製作されるマイクロ流体素子全体の質量に比べて非常に小さいので、そのような熱は実質的に局所的なままであり、例えば、他の流体エレメントに影響する前に素子内に、かつ素子から散逸する。換言すれば、比較的大規模な素子は、中に収容された別個の流体エレメントのためのヒート・シンクとして機能する。
【0098】
マイクロチャネルの領域の流体または物質の温度を選択的に制御するため、本発明のジュール加熱電源は、いくつかの任意のやり方で電圧および/または電流を印加することができる。例えば、電源は任意に直流(すなわち、DC)を印加し、それは、マイクロチャネルの1つの領域を流れ、別の領域内の流体および物質を加熱するため、断面がより小さい同じマイクロチャネルのその第2の領域に入る。この直流は、領域間に印加された任意の電圧または電界を補足して、物質が各領域を出入りするようにするため、大きさを選択的に調節することができる。物質の移動に悪影響を及ぼさずに、領域内の物質を加熱するため、交流(すなわち、AC)を電源によって選択的に印加することができる。流体を加熱するのに使用される交流は、流体が素子の様々な領域を出入りするようにするため、領域間に印加される任意の電圧または電界を補足するように選択的に調節することができる。AC電流、電圧、および/または周波数は、例えば、流体を実質的に移動させずに流体を加熱するように調節することができる。あるいは、電源は、電流および/もしくは電圧のパルスまたはインパルスを印加することができ、それは、1つのマイクロチャネルを流れ、別のマイクロチャネル領域に入って、所与の時点で適時領域内の流体を加熱する。このパルスは、物質、例えば流体または他の物質が様々な領域を出入りするようにするため、領域間に印加される任意の電圧または電界を補足するように、選択的に調節することができる。パルスの幅、形状、および/または強度は、例えば、流体または物質を実質的に移動させることなく流体を加熱するか、あるいは物質を加熱すると同時に流体または物質を移動させるように調節することができる。さらにまた、電源は、任意に、用途に応じて、DC、AC、およびパルスの任意の組合せを印加する。マイクロチャネル(1つまたは複数)自体は、任意に、そこに流される電流の加熱効果と、電流から流体へのエネルギーの熱移動とを向上させる、所望の断面(例えば、直径、幅、もしくは深さ)を有する。
【0099】
電気エネルギーは、任意に、マイクロ流体素子に収容された流体内の温度を直接制御するのに使用されるので、本発明は、任意に、本明細書に示されるような、動電物質搬送システムを使用するマイクロ流体システムに利用される。具体的には、同じ電気コントローラ、電源、および電極を、材料運搬の制御と同時に温度を制御するのに容易に使用することができる。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態では、素子は、帯域加熱を使用することにより、複数の温度帯を規定する。そのような一例の装置が、Kopp, M. et al. (1998) "Chemical amplification: continuous-flow PCR on a chip" Science 280(5366): 1046-1048に記載されている。そこに記載されている装置は、PCRの変性、アニーリング、およびプライマー延長温度に対応する、3つの温度帯を有するチップから成る。温度帯は、3つの温度帯を3つの異なる熱ブロックと熱接触させることによって作成することができ、3つの熱ブロックはそれぞれ異なる温度で維持される。チップの形に製作されたチャネルは、20サイクルのPCRを達成するため、各帯域を複数回通過する。チップを通る流体の流量を変えることにより、Kopp et al.はPCRのサイクル時間を変えることができた。本発明に使用される素子はKoppによって記載されているものに類似し得るが、一般的に大幅な点で異なる。例えば、Koppによって行われた反応は20サイクルに限定されており、それが彼らの実験に使用されるチップの固定の態様であった。本発明によれば、反応は、任意に、あらゆるサイクル数を含む(例えば、検定される特定の分子のパラメータに依存する)。また、本発明は、例えば、PCRの代わりに標的/試験分子を変性および/または再生するため熱循環を利用する。マイクロ流体素子内の温度制御のさらなる例については、例えば、Kopf-Sillの米国特許第6,303,343号(名称「Inefficient Fast PCR」)、ならびに、Knapp, M., et al.の米国特許第6,403,338号(名称「Microfluidic systems and methods of genotyping」)を参照のこと。
【0101】
上述の温度制御方法は、ストップト・フロー形式または連続フロー形式のどちらかで融解曲線分析を実施するために使用することができる。ストップト・フロー形式では、流れがマイクロチャネル内で停止される一方、そのチャネル内の温度が、所望の融解曲線を生成するのに必要な温度範囲を通して増減される。チャネル内の温度の増減の制御は、ジュールまたは非ジュール加熱法のいずれかを、場合によってはエネルギー・シンクと併せて使用して達成することができる。ストップト・フロー形式において融解曲線を生成するのに必要な流れを停止することで、一般的に、マイクロ流体素子内のいかなる場所でも流れが停止される。したがって、ストップト・フロー形式の融解分析を、融解曲線分析の上流または下流のどちらかで連続フロー・プロセスと統合することは困難である。したがって、例えば、ストップト・フロー形式の融解曲線分析を、米国特許公開公報第2002/0197630号および同第2005/0042639号に記載されている連続フローPCRプロセスと統合することは困難である。したがって、特に、融解曲線分析の上流または下流のプロセスが連続フロー・プロセスであるとき、連続フロー形式で融解曲線分析を行うことができることは有利である。
【0102】
ストップト・フロー形式を使用する実施形態では、温度の制御された増減は、分子(1つまたは複数)の温度を継続的に上昇させることによって、分子(1つまたは複数)の温度を上げることを含む。例えば、分子(1つまたは複数)の温度は、0.1℃/秒〜1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇させることができる。あるいは、分子(1つまたは複数)の温度は、0.01℃/秒〜0.1℃/秒などのより低速で、あるいは1℃/秒〜10℃/秒などのより高速で継続的に上昇させることができる。
【0103】
融解曲線分析は、マイクロチャネルの長さに沿って(すなわち、流れの方向に平行)温度勾配を適用することによって、連続フロー形式で行うことができる。融解曲線分析が、分析されている分子が第1の温度から第2の温度に及ぶ温度範囲に晒されることを必要とする場合、マイクロチャネルの長さの一端における温度は第1の温度に制御され、長さの他端における温度は第2の温度に制御され、したがって、第1および第2の選択された温度の間の温度範囲にわたる連続的な温度勾配が作成される。マイクロチャネルの一部を通る流体の定常状態の流れが確立されると、対応する温度勾配がその流体内に確立される。ジュール加熱が使用されるとき、長さに沿って断面積が継続的かつ単調に変わるようにチャネルを製作し、次にその長さに単一の電流を印加することによって、マイクロチャネルの長さに沿って温度勾配を確立することができる。上述の非ジュール加熱法のほぼいずれか1つを、場合によってはエネルギー・シンクと併せて使用して、チャネルの長さ全体にわたる温度勾配を確立することができる。例えば、熱ブロックを、温度勾配をその全体に確立すべきマイクロチャネルの長さと接触させることができ、2つの別個のペルチエ素子をブロックの2つの端部に置き、それによって、マイクロチャネルの長さ方向に対応する方向で、ブロック全体にわたって温度勾配を確立することができる。
【0104】
温度の所望の範囲に及ぶ温度勾配がマイクロチャネルの長さ全体にわたって確立されるとき、融解曲線を生成するために必要なのは、チャネルに沿った複数の地点において、結合または変性を示す物理的性質、例えば蛍光を測定することのみである。蛍光の場合、これは、光アレイが、チャネルの長さに沿った複数の地点で蛍光をサンプリングするように、光検出器のアレイをチャネルと光学的に連通させることによって達成することができる。正確な融解曲線、特に、Tの正確な判定を行うことができるように、温度軸に沿って正確な曲線を生成するため、熱検出器のアレイも使用して、マイクロチャネルの長さに沿った温度のばらつきを測定するべきである。連続フロー形式の融解曲線分析を行うことができる、2つのマイクロ流体システムの概略図が、図9A、9B、および9Cに示される。図9Aに示されるシステムでは、光検出器アレイ910および熱検出器アレイ920は両方とも、マイクロ流体素子900の上に配置される。図9Bに示されるシステムでは、光検出器アレイ910はマイクロ流体素子900の上に配置され、熱検出器アレイ920はマイクロ流体素子の下に配置される。図9Cは、光アレイおよび熱アレイが、熱勾配が適用されているマイクロ流体チャネル915の長さ905をどのようにサンプリングするかを概略的に示す。マイクロチャネル915のその長さ905の中では、ハッシュ・マーク950(部分集合のみが指示されている)のそれぞれがチャネル915を横切る位置で温度および蛍光の測定がなされる。温度は、マイクロチャネルの長さ905に沿って、融解曲線中の最低温度から融解曲線の最高温度まで単調に変化するので、また、蛍光読取値はそれぞれ、温度読取値それぞれと同じ位置で取られるので、チャネルに沿った複数の地点それぞれにおいて取られる組み合わされた蛍光/温度データは、融解曲線中のデータ点となる。
【0105】
図9A〜9Cに示される実施形態では、分析されている分子(1つまたは複数)の温度は、分子(1つまたは複数)を含む流体が、熱勾配が適用されているマイクロ流体チャネル915の長さに沿って流れる結果として、継続的に上昇されるか、または制御可能に増減される。温度勾配が適用されるチャネルの長さに沿って流れる結果として、分子(1つまたは複数)の温度が継続的に上昇される実施形態では、分子(1つまたは複数)の温度が継続的に上昇される速度は、温度勾配、チャネルの幾何学形状(例えば、チャネルの断面積)、または分子(1つまたは複数)を含む流体の流量の1つまたは複数を変化させることによって制御することができる。チャネルを通る流体の流量を変化させることにより、分子(1つまたは複数)の温度を、0.1℃/秒〜1℃/秒の範囲の速度、0.01℃/秒〜0.1℃/秒の範囲の速度、または1℃/秒〜10℃/秒の範囲の速度を含む様々な速度で、継続的に上昇させることができる。
【0106】
光検出器アレイに使用することができるタイプの光検出器は、「検出器」セクションにて後述される。様々な異なるタイプの感温体を熱検出器アレイに使用することができる。例えば、アレイ内の検出器はそれぞれ、熱電対、抵抗感温体、もしくはサーミスターなどの接触感温体、または、IR温度計もしくは光高温計などの非接触感温体であることができる。検出器がマイクロチャネル内の流体を直接サンプリングする場合を除いて、測定された温度とチャネル内の温度との間の差を補償するため、上述の方法を使用することが必要なことがある。
【0107】
上述のことから分かるように、本発明は、考慮される分子の特定の必要性に応じて、多くの異なる配置で構成することができる。例えば、温度サイクル・パターンは多数のやり方で配置することができる。いくつかの非限定例としては、温度が複数帯域を通して循環する(例えば、標的分子が主として未変性である温度から、標的分子が主として変性される温度まで上昇する)領域を、分子の様々な混合物が貫流するようにアレイを構成するとともに、信号(例えば、蛍光、誘電性など)を継続的に監視するもの、分子のTを測定し、温度をそこで保持することによって熱/流れのアレイを構成するとともに、信号中のあらゆる配位子誘発性の変化(例えば、蛍光、誘電性などの変化)を監視するもの、ならびに、Tから温度を循環させ、信号中のあらゆる配位子誘発性の変化(例えば、蛍光などの変化)を監視するもの(そのような方法は発泡の問題を回避するのに有用である)が挙げられる。やはり、上述の非限定例は、本発明の様々な構成/実施形態の例に過ぎない。
【0108】
流体流れ
様々な制御器具類は、任意に、例えば、圧力に基づく、もしくは動電学的制御によって、本発明の素子内の流動物質および/または物質の運搬および方向を制御するため、上述のマイクロ流体素子と併せて利用される。
【0109】
本発明のシステムでは、流体方向システムは、マイクロ流体素子を介して、サンプル(例えば、試験分子および標的分子)、試薬(例えば、基質)などの運搬、流れ、および/または移動を制御する。例えば、流体方向システムは、任意に、分子の1つまたは複数のサンプルの移動を、分子が任意に培養される第1のマイクロチャネル内へと方向付ける。また、任意に、1つまたは複数のサンプルの同時のまたは継続的な移動を、検出領域内へと、かつ任意に、例えば試薬レザーバを出入りするように方向付ける。
【0110】
流体方向システムは、任意に、複数のサンプルの本発明の素子内への装填およびそこからの取出しも方向付ける。流体方向システムはさらに、任意に、それらの移動を反復して繰り返して、例えば、数千のサンプルの高スループットのスクリーニングをもたらす。あるいは、流体方向システムは、より少ない反復の程度、または低スループットのスクリーニング(例えば、観察中の特定の分析が、例えば高スループットの形式が非生産的になる長い培養時間を必要とするときに適用される)での移動を繰り返し、あるいは、流体方向システムは、検定の特定の要件に応じて、高スループットの形式および低スループットのスクリーニングを利用する。それに加えて、本発明の素子は、任意に、所与の時間内で分析されるサンプルの量を増加させるため、例えば、スクリーニング用の単一のコントローラに連結されたチャネルの一連の多重ピペッター素子または多重システムを使用することによって、多重形式を使用して高スループットのスクリーニングを達成する。
【0111】
マイクロ流体チャネルを通る粒子の運搬または移動を達成する1つの方法は、動電学的物質運搬によるものである。一般に、動電学的物質運搬および方向システムは、構造に印加される電界内における荷電化学種の電気泳動移動度に依存するシステムを含む。そのようなシステムは、より具体的には、電気泳動物質運搬システムと称される。
【0112】
本明細書にて使用されるような動電学的物質運搬システムとしては、物質に電界を印加することによって、マイクロチャネルを収容する構造内で物質を運搬し方向付け、それにより、マイクロチャネルおよび/またはマイクロチャンバを通して、かつその中で物質を移動させるシステムが挙げられ、例えば、カチオンは陰極に向かって動き、アニオンは陽極に向かって動く。カソードまたはアノードに向かう、もしくはそこから離れる方向への流体の移動により、流体中に懸濁された粒子(または、さらには流体がその上を流れる粒子)の移動を生じさせることができる。同様に、粒子は荷電することができ、その場合、粒子は、逆に荷電された電極に向かって動く(実際には、一方向の流体の流れを達成し、一方で逆方向の粒子の流れを達成することが可能である)。本発明のいくつかの実施形態では、流体は不動または流動的であることができる。
【0113】
本発明の任意の電気泳動の応用例の場合、動電運搬システムの内部チャネルの壁は、任意に、荷電または非荷電状態である。一般的な動電運搬システムは、ガラス、荷電ポリマー、および非荷電ポリマーで作られる。内部チャネルは、任意に、チャネルの表面電荷を変更する材料でコーティングされる。様々な動電コントローラは、例えば、RamseyのWO96/04547号、Parce et al.のWO98/46438号、および、Dubrow et al.のWO98/49548号、ならびに本明細書にて言及される様々な他の参照文献に記載されている。
【0114】
適切な電界を提供するため、マイクロ流体素子のシステムは、任意に、様々なマイクロチャネルおよびマイクロチャンバそれぞれに同時に選択可能な電圧レベルを印加し、かつ接地を含むことができる電圧コントローラを含む。そのような電圧コントローラは、任意に、選択可能な電圧レベルを得るため、複数の分圧器および複数の継電器を使用して実施される。あるいは、複数の独立した電圧源が使用される。電圧コントローラは、複数の流体導管(例えば、マイクロチャネルなど)それぞれの中に配置または製作された電極を通して、素子の流体導管それぞれに電気的に接続される。一実施形態では、複数の電極は、マイクロチャネル(1つまたは複数)内の電界の方向を切り替え、それによって被検体がマイクロチャネルの物理的長さよりも長い距離を移動するように位置付けられる。動電運搬を使用して、相互接続されたチャネル構造内の物質の移動を制御することは、例えば、RamseyのWO96/94547号に記載されている。代表的なコントローラは、米国特許第5,800,690号に記載されている。調整電圧は、素子の様々な流体領域に同時に印加されて、所望の流体流れ特性、例えば、廃棄物レザーバへの標識付けされた成分の連続的または不連続的な流れに影響を与える(例えば、規則的なパルス電界は、サンプルを移動方向に振動させる)。特に、様々な領域において印加される電圧の調整により、素子の相互接続されたチャネル構造を通して流体の流れを移動させ方向付けることができる。
【0115】
上述の制御器具類は、任意に、目的の領域の下流にある物質の動電学的な注入または抜取りをもたらして、上流の流量を制御するのにも使用される。上述のものと同じ器具類および技術は、流体を下流のポートに注入して、流れ制御要素として機能させるのにも使用される。
【0116】
本発明は、任意に、例えば、動電方法が望ましくない状況で利用可能な、他の運搬方法も含む。例えば、流体の運搬および方向付け、サンプルの導入および反応などは、任意に、サンプル混合中の動電学的偏倚を避けるため、全体的にもしくは部分的に、圧力に基づくシステム内で実施される。高スループットのシステムは、一般的に、圧力誘発性のサンプル導入を使用する。圧力に基づく流れは、動電運搬も使用されるシステムにおいても望ましい。例えば、圧力に基づく流れは、任意に、生成物が電気泳動的に分離されるシステム内に試薬を導入し、そこで反応させるために使用される。本発明では、分子は任意に装填され、他の試薬は、例えば動電学的流体制御を使用して、かつ/または圧力下で、マイクロチャネルに貫流される。
【0117】
圧力は、任意に、本発明のマイクロスケールの素子、例えば、マイクロチャネル、マイクロチャンバ、領域、またはレザーバに適用されて、様々な技術のいずれかを使用して流体移動を達成する。流体の流れ、ならびに、細胞もしくは分子を含む、流体内に懸濁または溶解された物質の流れは、任意に、例えば、ピストン、圧力隔膜、真空ポンプ、プローブなどを使用して、流体置換に基づくものなど、圧力に基づくメカニズムによって規制されて、マイクロ流体システム内のある部位において液体を置換し、圧力を上下させる。圧力は、任意に、空気圧式、例えば加圧気体であり、または、液圧式、例えば加圧液体を使用し、あるいは、容積式メカニズム、例えば、物質レザーバに嵌入されたプランジャを使用して、物質をチャネルもしくは他の導管に貫流させ、あるいは、それらの力の組合せである。内部供給源としては、微細加工ポンプ、例えば、当該分野において説明されている、隔膜ポンプ、熱ポンプ、ラム波ポンプなどが挙げられる。例えば、米国特許第5,271,724号、同第5,277,566号、および同第5,375,979号、ならびに、PCT公開公報WO94/05414号、およびWO97/02347号を参照のこと。
【0118】
いくつかの実施形態では、圧力源は、マイクロチャネルの一端においてレザーバまたはウェルに適用されて、流動物質をチャネルに貫流させる。任意に、圧力は、チャネル終端の複数のポートに印加することができ、または、単一の圧力源を主要なチャネル終端に使用することができる。任意に、圧力源は、主要チャネルの下流の終端に、または複数のチャネルの終端に適用される真空源である。圧力または真空源は、任意に、素子またはシステムの外部に供給され、例えば、チャネルの入口もしくは出口に封止可能に適合された外部真空もしくは圧力ポンプであり、あるいは、素子の内部にあり、例えば、素子に統合され、チャネルに動作可能に連結された微細加工ポンプであり、あるいは、素子の外部および内部の両方にある。微細加工ポンプの例は、当該分野において広く説明されている。例えば、国際公開公報WO97/02357号を参照のこと。
【0119】
これらの印加される圧力または真空は、チャネルの長さ全体にわたって圧力差を発生させて、流体を駆動してそこに流す。本明細書に記載される相互接続されたチャネル・ネットワークでは、容積単位の差圧流量は、任意に、複数のポートにおいて異なる圧力または真空を印加することによって、あるいは、共通の廃棄物ポートにおいて単一の真空を印加し、様々なチャネルを適切な抵抗で構成して、所望の流量をもたらすことによって達成される。システムの例は、1999年1月28日出願の米国特許出願第09/238,467号に記載されている。本発明では、例えば、真空源は、任意に、様々なチャネルに異なる圧力レベルを印加して、チャネル間で流れを切り替える。上述したように、これは、任意に、複数の供給源を用いて、または単一の供給源を、複数の電子制御バルブ、例えばソレノイド・バルブを含むバルブ・マニホルドに接続することによって行われる。
【0120】
ストップト・フロー形式を使用して融解曲線が生成される実施形態では、融解曲線がその中で生成されているマイクロチャネル内の流れが完全に停止されて、分析されているサンプルの完全性を維持することが重要である。光退色によって生じるサンプルの蛍光特性の変化を使用して、マイクロチャネルを通る流れが完全に停止されているかを判定することができる。流れている液体における光退色の量は、停滞している流体における光退色の量よりも少ないが、これは単に、流れている液体中の蛍光部分が、励起光に暴露される時間が短く、それらの部分が検出帯域を移動しているためである。したがって、光退色のレベルは、蛍光部分を含む流体がマイクロチャネル内で移動しているか静止しているかを示す。例えば、マイクロ流体チャネル内で流れを完全に停止させる、すなわちゼロ流量を生じさせるのに必要な正確な推進力が未知の場合、正確な推進力を包含する範囲の推進力をチャネルに適用することができる。マイクロ流体チャネル内の流体が蛍光体を含有する場合、かつ、蛍光体を励起するのに使用される光が、蛍光体を光退色させるのに十分な強度のものである場合、チャネルを通る流体の流量がゼロのとき、最大量の蛍光体の光退色が起こる。光退色の量を最大限にすることで、蛍光体によって生じる蛍光の量が最小限になる。したがって、ゼロ流量に相当する推進力は、蛍光の最小量を生じさせる推進力である。
【0121】
流体静力、ウィッキング力、および毛管力も、任意に、本発明の酵素、基質、修飾因子、またはタンパク質混合物などの物質の継続的な流体流れのための、流体圧力を供給するのに使用される。例えば、Alajoki et al.の米国特許出願第09/245,627号(名称「METHOD AND APPARTUS FOR CONTINUOUS LIQUID FLOW IN、MICROSCALE CHANNELS USING PRESSURE INJECTION、WICKING AND ELECTROKINETIC INJECTION」、代理人整理番号017646-0070010、1999年2月5日出願)を参照のこと。ウィッキング/毛管法を使用する際、吸着剤または分岐毛管構造が、圧力が印加される領域と流体接触され、それによって、流体が、吸着剤または分岐毛管構造に向かって移動される。毛管力は、任意に、本発明の動電学的な、または圧力に基づく流れと併せて使用される。毛管作用はチャネルを通して物質を引張る。例えば、灯芯が任意に加えられて、マイクロスケールのチャネルまたは毛管内に固定された多孔質マトリックスを通して流体が引張られる。
【0122】
本発明は、任意に、例えば、Parce et al.,の"PREVENTION OF SURFACE ADSORPTION IN MICROCHANNELS BY APPLICATION OF ELECTRIC CURRENT DURING PRESSUE-INDUCED FLOW"、(1999年5月11日出願、代理人整理番号01−78−0)に記載されているような、流体に基づく流れの間、材料の吸着を低減するメカニズムを含む。概して、圧力に基づく流れの間の、成分、タンパク質、酵素、マーカー、および他の物質の、チャネル壁または他のマイクロスケール構成要素への吸着は、流れの間、交流などの電界を物質に印加することによって低減することができる。あるいは、吸着による流量変化が検出され、圧力または電圧を変えることによって流量が調節される。
【0123】
本発明はまた、任意に、標識付け試薬、酵素、修飾因子、および他の成分を、マイクロスケール流路の中心に集中させるメカニズムを含み、これは、例えば、H. Garrett Wada et al.の"FOCUSING OF MICROPARTICLES IN MICROFLUIDIC SYSTEMS"、(代理人整理番号01−505−0、1999年5月17出願)に記載されているように、例えば圧力に基づく流れにおいて、流れの速度を規制することによって検定のスループットを増加させるのに有用である。概して、サンプル物質は、流体流れを反対側のチャネルから主要チャネルに集中させることによって、または他の流体操作によって、チャネルの中心に集中する。
【0124】
代替実施形態では、本発明のマイクロ流体システムは、遠心機内で回転する遠心ローター素子に組み込むことができる。流体および粒子は、重力および求心/遠心圧力によって素子を通って移動する。
【0125】
本発明の素子および方法における流体流れまたは粒子流れは、任意に、上述の技術のいずれか1つを単独で、または組合せで使用して達成される。一般的には、関与するコントローラ・システムは、本明細書に記載されるようなマイクロ流体素子またはシステム・エレメントを受け入れるように、またはそれらと適合するように適切に構成される。例えば、コントローラは、任意に、本発明の素子が取り付けられて、コントローラと素子の間の適切な適合を容易にするステージを含む。一般的には、ステージは、入れ子状のウェル、整列ピンおよび/または穴、非対称の縁部構造(適切な素子の位置合せを容易にする)など、適切な取付け/位置合せ構造要素を含む。多くのそのような構成が、本明細書にて言及される参照文献に記載されている。
【0126】
検出
一般に、マイクロ流体素子内の検出システムは、例えば、光センサ、温度センサ、圧力センサ、pHセンサ、導電率センサなどを含む。これらのタイプのセンサはそれぞれ、本明細書に記載のマイクロ流体システムに容易に組み込まれる。これらのシステムでは、そのような検出器は、マイクロ流体素子、または素子の1つもしくは複数のマイクロチャネル、マイクロチャンバ、または導管の中に、あるいはそれらに隣接して置かれるので、検出器は、素子、チャネル、またはチャンバと感覚的に連通している。特定の要素または領域に「近接する」という語句は、本明細書で使用されるとき、一般に、検出器が対象とする、マイクロ流体素子、マイクロ流体素子の一部、またはマイクロ流体素子の一部の内容物の性質を、検出器が検出することができるような検出器の位置を指す。例えば、マイクロスケールのチャネルと感覚的に連通しているpHセンサは、そのチャネル内に配置された流体のpHを判定することができる。同様に、マイクロ流体素子の本体と感覚的に連通している温度センサは、素子自体の温度を判定することができる。
【0127】
様々な分子/反応特性を、本発明のマイクロ流体素子において検出することができる。例えば、一実施形態は蛍光または発光を検出する。別の実施形態は、検定に関与する熱的パラメータ(例えば、熱容量など)の変化を検出する。
【0128】
本発明における検出システムの例としては、例えば、本明細書に記載されるマイクロ流体システムに組み込まれる、マイクロ流体素子のマイクロチャネルおよび/またはマイクロチャンバ内の物質の光学的性質を検出する光学検出系を挙げることができる。そのような光学検出系は、一般的に、マイクロ流体素子のマイクロスケール・チャネルに隣接して置かれ、任意に、素子のチャネルまたはチャンバ全体にわたって配置される光検出用の窓または帯域を通してチャネルと感覚的に連通している。
【0129】
本発明の光学検出系は、例えば、チャネル内の物質から放射された光、物質の透過率または吸光度、ならびに物質のスペクトル特性、例えば蛍光、化学発光を測定することができるシステムを含む。検出器は、任意に、蛍光造影(fluorographic)成分、比色成分、および放射性成分などの標識化合物を検出する。検出器のタイプとしては、任意に、分光光度計、フォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード、顕微鏡、シンチレーション計数器、カメラ、ダイオード・アレイ、撮像システム、光電子増倍管、CCDアレイ、走査検出器、ガルボ・スキャナ(galvo-scanners)、フィルムなど、ならびにそれらの組合せが挙げられる。検出可能な信号を放射するタンパク質、抗体、または他の成分は、検出器を越えて流すことができ、あるいは、検出器をアレイに対して動かして、分子位置を判定することができる(または、検出器は、CCDアレイの場合などは、チャネル領域に対応する空間位置の数を同時に監視することができる)。適切な検出器の例は、当業者に知られている様々な商用供給源から広く入手可能である。光学部品の一般的供給源については、The Photonics Design and Application Handbook, books 1, 2, 3 and 4, Laurin Publishing Co.,の年刊、Berkshire Common, P.O. Box 1146, Pittsfield, Massも参照のこと。
【0130】
上述したように、本発明の素子は、マイクロ流体素子が一般的にそうであるように、信号、例えば蛍光をそこで監視する検出用の窓または帯域を含む。この検出用の窓または帯域は、任意に、検定結果の視覚的または光学的な観察と検出、例えば、比色、蛍光分析、もしくは放射性の応答、または、比色成分、蛍光分析成分、もしくは放射性成分の変化の観察を可能にする、透明なカバーを含む。
【0131】
本発明の別の任意の実施形態は、蛍光相関分光法および/または共焦点ナノ蛍光分析技術(confocal nanofluorimetric techniques)を使用して、マイクロ流体素子内の分子からの蛍光を検出することを伴う。そのような技術は、容易に利用可能(例えば、Evotec, Hamburg, Germany)であり、共焦点レンズの照射焦点領域を通って拡散する分子からの蛍光を検出することを伴う。観察された任意の光子バーストの長さは、分子によって共焦点において費やされる時間に対応する。この領域を通過する分子の拡散係数を使用して、例えば、結合の度合いを測定することができる。分析に使用される様々なアルゴリズムを使用して、例えば、明るさ、蛍光寿命、スペクトル・シフト、FRET、消光特性などの変化に基づいて、個々の分子からの蛍光信号を評価することができる。
【0132】
上述したように、本発明の素子および方法のセンサまたは検出部分は、任意に、多数の異なる装置を含むことができる。例えば、蛍光は、例えば、光電子増倍管、電荷結合素子(CCD)(すなわち、CCDカメラ)、フォトダイオードなどによって検出することができる。
【0133】
光電子増倍管は本発明の任意の態様である。光電子増倍管(PMT)は、光(光子)を電子信号に変換する素子である。PMTによる各光子の検出は、より大きくより測定が容易な電子のパルスに増幅される。PMTは、多くの研究所用途および環境において一般に使用されており、当業者には良く知られている。
【0134】
本発明の別の任意の実施形態は電荷結合素子を含む。CCDカメラは、非常に少量の電磁エネルギー(例えば、本発明の発光体によって放射されるようなもの)であっても検出できるという点で非常に有用である。CCDカメラは、光子がウェハに衝突すると自由電子を放出する、半導体シリコン・ウェハから作られる。電子の出力は、ウェハに衝突する光子の量に直線的に正比例する。これにより、画像の明るさと観察された事象の実際の明るさとの間の相関が可能になる。CCDカメラは、非常にかすかな事象であっても検出することができ、広範囲のスペクトルにわたって動作することができ、かつ非常に明るい事象と非常に弱い事象の両方を検出することができるので、蛍光発光のイメージングに非常に適している。CCDカメラは、当業者に良く知られており、いくつかの適切な例としては、とりわけ、Stratagene (La Jolla, Calif.)、Alpha-Innotech (San Leandro, Calif.)、およびApogee Instruments (Tucson, Ariz.)によって製造されたものが挙げられる。
【0135】
本発明のさらに別の任意の実施形態は、フォトダイオードを使用して、マイクロ流体素子の分子からの蛍光を検出するものを含む。フォトダイオードは入射光子を吸収し、それによってフォトダイオード中の電子がダイオード中の領域全体に拡散し、その結果、素子全体にわたって測定可能な電位差が生じる。この電位は測定することができ、入射光の強度と直接関連する。
【0136】
いくつかの態様では、検出器は、蛍光物質または化学発光物質などの物質から放射される光の量を測定する。そのため、検出システムは、一般的に、検出用の窓または帯域を通って伝送される、光に基づく信号を集め、その信号を適切な光検出器に伝送する収集光学系を含む。倍率、フィールド径、および焦点距離が変わる顕微鏡の対物レンズは、この光学縦列の少なくとも一部として容易に利用される。検出システムは、一般的に、検出した光データを、分析、格納、およびデータ操作のためにコンピュータに伝送するため、アナログ・デジタルまたはデジタル・アナログ変換器を通して、コンピュータ(より詳細に後述される)に連結される。
【0137】
標識が付けられた細胞、または蛍光指標色素もしくは分子などの蛍光物質の場合、検出器は、任意に、蛍光物質を活性化させる適切な波長で光を生じる光源、ならびに、チャネルまたはチャンバに収容された物質に光源を方向付ける光学系を含む。光源は、レーザー、レーザー・ダイオード、およびLEDを含む、適切な波長を供給する任意の数の光源であることができる。他の光源は、任意に、他の検出システムに利用される。例えば、光散乱/透過率の検出スキームなどのための広帯域光源である。一般的には、光選択パラメータは当業者に良く知られている。
【0138】
検出器は、個別のユニットとして存在することができるが、好ましくは、コントローラ・システムとともに単一の機器に統合される。これらの機能を単一のユニットに統合することで、コントローラ、検出器、およびコンピュータの間で情報を伝送する少数または単一の通信ポートを使用できるようになることにより、これらの機器をコンピュータ(後述)と接続することが容易になる。検出システムとコンピュータ・システムとの統合は、一般的に、検出器信号情報を、検定結果情報、例えば、基質の濃度、生成物の濃度、目的の化合物の存在などに変換するソフトウェアを含む。
【0139】
本発明の別の態様では、本発明における分子の物理的変化の監視は、熱量検出システムを使用して達成される。熱量検定では、分子が温度の変化によって伸展すると、熱容量の変化が測定される。滴定熱量測定および/または示差走査熱量測定は、任意に、本発明において、標的分子に対する試験分子の熱的パラメータを決定するのに使用される。例えば、Brandts, J. et al. (1990) "Study of strong to ultratight protein interactions using differential scanning calorimetry" Biochem 29(29):6927-6940を参照のこと。熱量測定素子は、多数の供給源から入手可能であり、それらの校正および使用は当業者には良く知られている。
【0140】
コンピュータ
上述したように、流体方向システムおよび/または検出システムのどちらかもしくは両方は、プログラムされたもしくはユーザ入力の命令に従ってそれらの機器の動作を命令し、それらの機器からデータおよび情報を受け取り、かつ、この情報を解釈し、操作し、ユーザに報告するように機能する、適切にプログラムされたプロセッサまたはコンピュータに連結される。そのため、コンピュータは、一般的に、これらの機器の一方または両方(例えば、必要に応じて、アナログ・デジタルもしくはデジタル・アナログ変換器を含む)に適切に連結される。
【0141】
コンピュータは、任意に、例えばGUI内の、セット・パラメータ・フィールドへのユーザ入力の形態、あるいは、例えば、様々な異なる特定の動作に対して予めプログラムされた、予めプログラムされた命令の形態の、ユーザ命令を受け取る適切なソフトウェアを含む。次に、ソフトウェアは、流体方向および運搬コントローラの動作を命令して、所望の動作を実施するため、これらの命令を適切な言語に変換する。
【0142】
例えば、コンピュータは、任意に、例えば様々な相互接続されたチャネルを介して、流体の流れを制御するように流体方向システムに指示するのに使用される。流体方向システムは、任意に、複数の分子の少なくとも第1のメンバーを複数のチャネルの第1のメンバー内へ移動するように方向付け、それと同時に、複数の分子の少なくとも第2のメンバーを1つもしくは複数の検出チャネル領域内へ移動するように方向付ける。流体方向システムはまた、複数の分子の少なくとも第1のメンバーを複数のチャネル内へ移動するように方向付け、それと同時に、複数の分子の少なくとも第2のメンバーを培養する。さらに、複数の分子の少なくとも第1のメンバーを1つもしくは複数の検出チャネル領域内へと移動するように方向付け、それと同時に、複数の分子の少なくとも第2のメンバーを培養する。
【0143】
チャネル切替えの協調により、システムは、所望の時間間隔で、例えば、1分超過、約60秒以下ごと、約30秒以下ごと、約10秒以下ごと、約1.0秒以下ごと、もしくは約0.1秒以下ごとに、複数の分子の少なくとも1つのメンバーを複数のマイクロチャネル内へ、かつ/または1つのメンバーを検出領域内へと移動するように方向付ける。各サンプルは、上述したような適切なチャネル切替えにより、所望の時間、例えば、約0.1分以下〜約60分以下の間、複数のチャネル内に残っている。例えば、サンプルは、任意に、例えば20分間の選択された培養時間の間、チャネル内に残っている。
【0144】
次に、コンピュータは、例えば、流量、温度、印加電圧などを監視し制御する際のプログラミングに従って、システム内に含まれる1つもしくは複数のセンサ/検出器からデータを受け取り、データを解釈し、それをユーザが理解できる形式で供給するか、またはそのデータを使用してさらなるコントローラ命令を開始する。
【0145】
本発明では、コンピュータは、一般的に、チャネル内の物質を監視し制御するソフトウェアを含む。例えば、ソフトウェアは、上述したように、チャネルの切替えを指示して、流れを制御し方向付ける。それに加えて、ソフトウェアは、任意に、動電学的に、または圧力によって調整される、物質の注入もしくは抜取りを制御するのに使用される。注入または抜取りは、上述したように流量を調整するのに使用される。コンピュータは、一般的に、例えば、コントローラまたは流体方向システムがチャネル間で流れを切り替えて、高スループット形式を達成するための命令も提供する。
【0146】
それに加えて、コンピュータは、任意に、検出システムからの信号(1つまたは複数)を逆重畳するソフトウェアを含む。例えば、逆重畳は、例えば、基質および生成物が検出可能な異なる標識を含むとき、両方とも検出された2つの異なるスペクトル特性を区別する。
【0147】
任意のコントローラまたはコンピュータは、任意に、ブラウン管(「CRT」)ディスプレイ、平面パネル・ディスプレイ(例えば、能動マトリックス液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ)などである場合が多いモニタを含む。マイクロ流体素子から作成されたデータ、例えば結合検定からの熱的性質曲線は、任意に、電子形態でモニタ上に表示される。それに加えて、マイクロ流体素子から集められたデータ、例えば熱的性質曲線、または他のデータは、印刷形態で出力することができる。データは、印刷形態または電子形態(例えば、モニタに表示されるような)のどちらであっても、様々なまたは複数の形式、例えば、曲線、ヒストグラム、一連の数値、表、グラフなどであることができる。
【0148】
コンピュータ回路群は、例えば、マイクロプロセッサ、メモリ、インターフェース回路など、多数の集積回路チップを含むボックス内に置かれる場合が多い。ボックスは、任意に、ハード・ディスク・ドライブ、フロッピー(登録商標)・ディスク・ドライブ、書込み可能CD−ROMなどの高容量リムーバブル・ドライブ、および他の一般的な周辺要素も含む。キーボードまたはマウスなどの入力装置は、任意に、ユーザからの入力、ならびに、関連するコンピュータ・システムにおいて比較されるか、あるいは別の方法で操作される一連のユーザ選択を行う。
【0149】
統合システムの実施例
図1のパネルA、B、およびC、ならびに図2は、本明細書の方法を実行するのに任意に使用される、統合システムの実施例に関する追加の詳細を提供する。本発明による統合システムは、機器200とインターフェース接続された、カートリッジまたはカセットなどの交換可能な構成要素である、マイクロ流体素子100を含む。図1および2に示されるマイクロ流体素子は、主要チャネル104が中に配置された本体構造102を含む。サンプルまたは成分の混合物は、任意に、例えば、レザーバ114(もしくはシステム内の別の地点)において真空を印加することにより、または適切な圧力勾配を適用することにより、ピペッター120からレザーバ114に向かって流される。したがって、ピペッターは流体流路における最も上流の地点を表し、レザーバ114は流体流路における最も下流の地点を表す。あるいは、真空は、例えばレザーバ108および112において、またはピペッター・チャネル120を介して印加される。本明細書に記載されるような、緩衝液、基質溶液、酵素溶液、試験分子、蛍光指標色素もしくは分子などの添加物質は、任意に、ウェル、例えば108または112から、主要チャネル104内へと流される。これらのウェルからの流れは、任意に、流体圧力を調整することにより、または記載されるような動電学的アプローチにより(あるいはそれらの両方により)行われる。流体が、例えばレザーバ108から、主要チャネル104に添加されると、流量が増加する。流量は、任意に、流体の一部を主要チャネル104から流れ低減チャネル106または110内へと流すことによって低減される。図1に示されるチャネルの配置は、本発明にて使用するのに適切かつ利用可能である多数のうち、1つの可能な配置に過ぎない。追加の代替例は、例えば、本明細書に記載のマイクロ流体エレメント、例えば流れ低減チャネルを、本明細書にて参照される特許および特許出願に記載されている他のマイクロ流体素子と組み合わせることによって考案することができる。
【0150】
サンプルおよび物質は、任意に、列挙したウェルから、または本体構造の外部の供給源から流される。図示されるように、統合システムは、任意に、マイクロ流体システムの外部の物質供給源にアクセスする、例えば本体102から突出するピペッター・チャネル120を含む。一般的に、外部供給源は、マイクロリットル皿または他の便利な格納媒体である。例えば、図2に示されるように、ピペッター・チャネル120は、プレートのウェル内に、サンプル物質(例えば、試験分子および/もしくは標的分子)、緩衝液、基質溶液、蛍光指標色素または分子、酵素溶液などを含む、マイクロウェル・プレート208にアクセスすることができる。
【0151】
マイクロ流体素子100とインターフェース接続する機器200は、チップ内のチャネルに流体を貫流させる推進力の供給、マイクロ流体素子のチャネル内の条件(例えば、温度)の監視および制御、チップから発する信号の検出、チップ内への流体の導入とチップからの流体の抽出、ならびに場合によっては他の多くのものといった、様々な異なる機能を行うことができる。本発明による機器200は、一般的にコンピュータ制御されるので、様々なタイプのマイクロ流体素子とインターフェース接続するように、かつ/または特定のマイクロ流体素子内で所望のプロセスを実施するようにプログラムすることができる。マイクロ流体素子は、一般的に、米国特許第5,955,028号、同第6,071,478号、同第6,399,023号、および同第6,399,025号に記載されている方法で機器とインターフェース接続する。
【0152】
検出器206は、チャネル104と感覚的に連通していて、例えば、検出領域を貫流する標識が付けられた物質、熱容量または他の熱的パラメータの変化などから得られる信号を検出する。検出器206は、任意に、検出することが望ましい素子のチャネルまたは領域のいずれかに連結される。検出器206は、コンピュータ204に動作可能に連結され、それは、例えば、上述の命令のいずれかを使用して、または、例えば、濃度、分子量、もしくは同一性などを判定する、例えば任意の他の命令セットを使用して、検出器206によって検出された信号情報をデジタル化し、格納し、操作する。
【0153】
流体方向システム202は、例えば、システムのウェルにおいて、またはシステムのチャネルを介して、あるいは、チャネル104もしくは上述の他のチャネルに流体連結された真空結合部において、電圧、圧力、もしくはそれら両方を制御する。任意に、図示されるように、コンピュータ204は流体方向システム202を制御する。一連の実施形態では、コンピュータ204は、信号情報を使用して、マイクロ流体システムに関するさらなるパラメータを選択する。例えば、マイクロウェル・プレート208からのサンプル中に目的の成分が存在することを検出する際、コンピュータは、任意に、目的の成分の電位モジュレータをシステムに追加することを指示する。
【0154】
温度制御システム210は、システムのウェルにおいて、または本明細書に記載のシステムのチャネルを介して、ジュールおよび/または非ジュール加熱を制御する。任意に、図示されるように、コンピュータ204は温度制御システム210を制御する。一連の実施形態では、コンピュータ204は、信号情報を使用して、マイクロ流体システムに関するさらなるパラメータを選択する。例えば、チャネル104内のサンプルにおける所望の温度を検出する際、コンピュータは、任意に、例えば、潜在的な結合分子(すなわち、試験分子)または蛍光指標色素もしくは分子をシステムに追加することを指示する。
【0155】
モニタ216は、マイクロ流体素子によって作成されたデータ、例えば、結合検定から作成された熱的性質曲線を表示する。任意に、図示されるように、コンピュータ204はモニタ216を制御する。それに加えて、コンピュータ204は、プリンタ、電子データ記憶装置などの追加の構成要素に接続され、それらを指示する。
【0156】
図2のシステムに使用することができる特定のマイクロ流体素子100の一例が、図10に示される。このマイクロ流体素子は、連続フローPCRおよび融解曲線分析の両方を行うことができる。素子の連続フローPCR部分の動作は、米国特許公開公報第2002/0197630号および同第2005/0042639号に詳細に記載されている。要するに、連続フローPCRプロセスは、分布チャネル105内への圧力勾配を使用して、ピペッターを介してDNAサンプル(例えば、ゲノムDNA)をチップ100上に載せるため、図1および2のチップ設計概略図に示されるようなマイクロ流体ピペッター・チップを使用することを伴う。連続フローの下では、流れ作業で、サンプルを、最初に、共通の試薬チャネル106を介してオンチップ試薬レザーバからの共通の試薬と混合し、次に、8個の別個の分析チャネル110〜118内への8個の均等な部分標本に分割した。各部分標本は、チャネル特異性のチップ・レザーバから供給される遺伝子座特異性の試薬と混合して反応混合物を形成し、次に、増幅マイクロチャネル110〜118に近接した金属トレースを含む加熱領域130に貫流させて、チップ100の制御された加熱領域を提供した。チャネル110〜118内へチャネル特異性の試薬を添加することで、試薬がすべて増幅の直前に分析チャネルに添加される、オンチップ「ホット・スタート」を規定する洗練されたマイクロ流体方法がもたらされる。領域の温度は、加熱領域130のチャネル内のPCR条件に対して適切に循環される(温度設定点および各滞留時間が制御される)。加熱されたチャネルの長さおよび流体速度は、PCRサイクル全体が、通常は25〜40サイクルである所望の数を満たすように選択される(ただし、短いサイクル時間および多いサイクル数を有する非効率的なPCRアプローチも使用することができる)。
【0157】
PCR増幅の後、検出領域135内の8個のチャネルの長さの中で融解曲線分析を行うことによって、アンプリコンを特性決定することができる。いくつかの実施形態では、融解曲線分析は、検出領域135を横切るチャネル内の流れを停止させ、次に、上述の温度制御方法のいずれかを使用することにより、検出領域135内の温度を増減することによって行うことができる。変性の程度は、上述の検出可能な性質のいずれかを使用して監視することができる。代替実施形態では、融解曲線分析は、検出領域135を横切る8個のチャネルそれぞれの長さに沿って実施される、連続フロー形式の融解曲線分析を使用して行うことができる。図9A〜9Cに示される実施形態において説明されるように、アンプリコンの融解曲線分析は、アンプリコンを含有する流体を、熱勾配がその長さに沿って与えられたマイクロ流体チャネルに貫流させることによって、連続フロー・プロセスで行うことができる。したがって、連続フロー形式の融解曲線分析は、検出領域135を横切る8個のチャネルの長さに沿って温度勾配を適用することによって、図10に示される素子において行うことができる。
【0158】
実例となる一実施形態では、連続フロー形式の融解曲線分析は、図11A〜Dに示されるインターフェース・モジュール1100を含む統合システム内に素子を置くことによって、図10に示されるマイクロ流体素子において行うことができる。インターフェース・モジュール1100は、基部1105および二つ折り型の蓋1110を含む。インターフェース・モジュール1100は、図10のマイクロ流体素子を、全体として図11Aの円形範囲1120内にある基部1105の受入れ領域内に受け入れるように構成される。マイクロ流体素子が、基部の受入れ領域1120の上に置かれると、蓋1110が閉じられるので、様々なチャネル(例えば、110〜118)の終端にあるウェルの少なくともいくつか(例えば、160、170、180)は、蓋上のインターフェース素子1115を係合する。これらのインターフェース素子は、マイクロ流体素子のチャネルに流体を貫流させる、電圧または圧力などの推進力を供給する。蓋1110上の他のインターフェース素子1115は、マイクロ流体素子の加熱領域130内で抵抗加熱素子として使用される、金属トレースの終端150と電気的に接触する。ベース・プレート1105の受入れ領域1120は、マイクロ流体素子の異なる領域の温度を独立に操作する、複数の温度制御システムを含むことができる。図11A〜11Dの実施形態における温度制御システムは、図11B〜11Dにさらに詳細に示される。1つの温度制御システムは、マイクロ流体素子が受入れ領域1120上に置かれ、蓋1110を閉じることによって適所で保持されると、封止された流路を形成する流体通路1130を含む。流体通路1130が、マイクロ流体素子の加熱領域130の直下にあるように、インターフェース・モジュール1100が形成される。PCRに必要な熱循環は、金属トレースに電流を流して、加熱領域130を通過するチャネル110〜118の部分を加熱し、それと交互に、マイクロ流体素子の裏面に流体を接触させて、チャネルのその部分を迅速に冷却することによって達成される。第2の温度制御システムは、熱融解分析が行われるマイクロ流体素子の部分135と、廃棄物ウェル180を収容するマイクロ流体素子の部分との温度を別個に制御するのに使用される。第2の温度制御システムは、廃棄物ウェル180と反対側のマイクロ流体素子の裏面の部分に接触する第1の熱ブロック1140と、マイクロ流体素子の分析部分135の下にある、マイクロ流体素子の裏面の部分に接触する第2の熱ブロック1145とを含む。図11Dの分解組立図で最も良く分かるように、第1の熱ブロック1140は第1の熱電冷却素子1144(すなわち、ペルチエ素子)と熱接触しており、第2の熱ブロック1145は第2の熱電冷却素子1142と熱接触している。2つの熱電冷却素子1142および1144は独立に制御することができるので、マイクロ流体素子の分析部分135と廃棄物ウェル180部分とを独立に温度制御する。
【0159】
実例となる一実施形態では、第1の熱電冷却素子1144を使用して、マイクロ流体素子の廃棄物ウェル180領域の温度が25℃の一定温度に制御される。第2の熱電冷却素子1142は、マイクロ流体素子の分析領域135の温度を、0.1℃/秒〜1.0℃/秒を包括する範囲内の速度で60℃から95℃まで上昇させるのに使用されるので、分析領域135内のチャネルの中のアンプリコンに対して、ストップト・フロー式の熱融解分析を行うことができる。
【0160】
マイクロ流体素子の廃棄物ウェルおよび分析領域の独立した温度制御を容易にするインターフェース・モジュール1100の1つの特徴は、第1の熱ブロック1140および第2の熱ブロック1145が空隙によって分離されており、それが、第1および第2の熱ブロック間の伝熱を妨げることである。2つの熱ブロック1140および1145は空隙によって分離されるが、2つの熱電加熱器1142および1144は両方とも、共通のヒート・シンク1150に付着される。共通のヒート・シンク1150を使用することで、分析領域135の温度設定点が廃棄物ウェル180領域の温度設定点よりも高い実施形態において、別個のヒート・シンクを使用する場合よりも利益が得られる。廃棄物ウェル部分を25℃の一定温度で維持するため、一般的に、熱はマイクロ流体素子のその部分から除去されるが、熱融解分析を行うのに必要な温度に達するように、マイクロ流体素子の分析部分には熱が加えられなければならないため、これらの利益が発生する。ヒート・シンク1150は、一方の熱電冷却器から熱を除去し、他方の熱電冷却器に熱を加えるので、温度は30℃程度で安定する傾向がある。加熱または冷却された物体とヒート・シンクとの間で熱勾配が最小限になったとき、熱電冷却器は最も良好に作動するので、このことによってシステム全体の効率が向上する。図11A〜11Dに示されるシステムが動作するとき、マイクロ流体素子の2つの領域の温度は独立に制御することができる。共通のヒート・シンクを使用することは特に有利なことがあるが、異なる熱電冷却器に対して別個のヒート・シンクを使用することも、本発明の実施形態と適合性をもつ。
【0161】
図11A〜11Dに示される機器および図10に示されるマイクロ流体素子を、二本鎖DNAに結合したときに蛍光を発するDNA結合部位色素サイバー・グリーンIの存在下で、ゲノムDNAからの85塩基対の標的を増幅するのに使用した。マイクロ流体素子において、増幅生成物を、約0.1℃/秒の速度で60℃から95℃への熱勾配に晒した。図12Aは、時間に伴う熱傾斜(下)および蛍光信号の変化(上)を示す。図12Aの上側部分の囲み領域は、DNA熱融解の領域である。図12Bは、図12Aの囲み領域について、温度に応じて決まる、蛍光の陰性変化(dF)を温度変化(dT)で割ったものをプロットしている。このプロットの単一ピークにおける温度は、DNA変性曲線の中間点における温度、すなわち85塩基対の標的に関するT値を表す。
【0162】
検定キット
本発明は、本発明の結合検定を実施するキットも提供する。具体的には、これらのキットは、一般的に、本発明の検定を行うマイクロ流体素子、システム、モジュール、およびワークステーションを含む。キットは、任意に、ロボット要素(例えば、追跡ロボット、ロボット電機子など)、プレート処理素子、流体処理素子、およびコンピュータ(例えば、入力装置、モニタ、CPUなどを含む)などを含むがそれらに限定されない、本発明の多重モジュール・ワークステーションの組立ておよび/または作業用の追加の構成要素を含有する。
【0163】
一般に、本明細書に記載されるマイクロ流体素子は、任意に、素子の機能を行うための試薬を含むようにパッケージ化される。例えば、キットは、任意に、本発明の検定を行うため、記載したマイクロ流体素子のいずれかを、検定構成要素、緩衝液、試薬、酵素、血清タンパク質、受容体、サンプル物質、抗体、基質、制御物質、スペーサー、不混和性流体などとともに含むことができる。予めパッケージ化された試薬の場合、キットは、任意に、測定せずに検定方法に組み込むことができる状態の、予め測定された、または予め適量に分けられた試薬、例えば、キットのエンドユーザによって容易に再構成することができる、予め測定された流体部分標本、または予め秤量もしくは予め測定された固体試薬を含む。
【0164】
そのようなキットはまた、一般的に、素子および試薬を使用するための適切な指示書と、試薬が素子自体の中に予め配置されていない場合は、試薬を素子のチャネルおよび/またはチャンバに導入するための適切な指示書とを含む。後者の場合、これらのキットは、任意に、物質をマイクロ流体システムに導入するための特別な補助的素子、例えば、適切に構成されたシリンジ/ポンプなどを含む(一実施形態では、素子自体が、物質を素子内のチャネルおよびチャンバに導入するための電気ピペッターなどのピペッター要素を含む)。前者の場合、そのようなキットは、一般的に、素子のチャネル/チャンバ内に必要な試薬が予め配置されたマイクロ流体素子を含む。一般に、そのような試薬は、長期保管の間の、例えば漏出による劣化または他の損失を防ぐように、安定化された形態で供給される。格納されるべき試薬に対して、化学的安定剤(すなわち、酵素阻害剤、殺菌剤/静菌薬、抗凝血剤)の含有、例えば固体の支持体上で不動化させることによる、物質の物理的安定化、マトリックス(すなわち、ビード、ゲルなど)内への閉込め、凍結乾燥など、多数の安定化プロセスが広く使用される。
【0165】
本発明のキットの要素は、一般的に、単一のパッケージまたは一連の関連するパッケージ内にまとめてパッケージ化される。パッケージは、任意に、本明細書に記載の方法に従って、1つまたは複数の標的依存性の検定を実施するための書面による指示書を含む。キットは、任意に、マイクロ流体素子、システム、もしくは試薬要素を保持する包装材または容器も含む。
【0166】
上述の考察は、一般に、本明細書に記載の発明の態様および実施形態に適用可能である。さらに、請求される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法および素子に対して任意に変形がなされ、また、本発明は、任意に、以下のものを含む多数の異なる用途に利用される。
1つもしくは複数の焦点を当てた細胞または粒子を含む生化学系に対する、複数の試験化合物それぞれの効果を試験するため、少なくとも第1の基質を含み、第1のチャネルおよび第1のチャネルと交差する第2のチャネルを有し、チャネルの少なくとも1つが、0.1〜500μmの範囲の少なくとも1つの断面積を有する、マイクロ流体システムを使用すること。
生化学系が前記チャネルの1つを実質的に継続的に貫流して、例えば、複数の試験化合物の連続的な試験を行う、本明細書に記載されるようなマイクロ流体システムを使用すること。
マイクロチャネル内の反応を調整するため、本明細書に記載されるようなマイクロ流体素子を使用すること。
チャネル内の流れを調整または達成するため、本明細書に記載されるようなマイクロ流体素子内への動電学的注入を使用すること。
例えば素子のチャネル内の物質の流れを調整、集束、または達成するため、本明細書に記載されるようなマイクロ流体素子内の、灯芯、動電学的注入、および圧力に基づく流れエレメントの組合せを使用すること。
本明細書に記載のマイクロ流体システムまたは気質のいずれか1つを利用する検定。
【0167】
上述の発明を、明瞭にし理解する目的である程度詳細に記載してきたが、本開示を読むことにより、本発明の真の範囲から逸脱することなく形態および詳細を様々に変更できることが、当業者には明白であろう。例えば、上述の技術および装置はすべて様々な組合せで使用することができる。本明細書に列挙されるすべての出版物、特許、特許出願、または他の文書は、個々の出版物、特許、特許出願、または他の文書がそれぞれ、あらゆる意味で参照により個々に組み込まれたものと同じ程度において、それらの全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】パネルA、B、およびCは、本発明の要素を含むマイクロ流体システムの一例の概略上面図、側面図、および斜視図である。
【図2】コンピュータ、検出器、および温度コントローラを含むシステムの概略図である。
【図3】例えば配位子の結合によるシフトを示す熱的性質曲線の一例の模擬図である。
【図4】パネルAおよびBは、熱的性質曲線の構築の際に使用することができるマイクロ流体チップの例の概略図である。
【図5】温度範囲全体にわたって発光された蛍光を示す、二本鎖オリゴヌクレオチドの熱解離から生成された図である。
【図6】二本鎖オリゴヌクレオチドの熱解離から生成されたデータから構築された熱的性質曲線の図である。
【図7】本発明によるマイクロ流体素子の概略図である。
【図8】測定された温度および蛍光信号の時間における変化を示す図である。
【図9A】本発明のいくつかの実施形態において使用されてもよいマイクロ流体システムの一部の概略図である。
【図9B】本発明のいくつかの実施形態において使用されてもよいマイクロ流体システムの一部の概略図である。
【図9C】本発明のいくつかの実施形態において使用されてもよいマイクロ流体システムの一部の概略図である。
【図10】連続フローPCRと、それに続いてアンプリコンの融解曲線分析を行うことができるマイクロ流体素子を示す図である。
【図11A】図10のマイクロ流体素子とインターフェース接続する統合システムの一部を示す図である。
【図11B】図10のマイクロ流体素子とインターフェース接続する統合システムの一部を示す図である。
【図11C】図10のマイクロ流体素子とインターフェース接続する統合システムの一部を示す図である。
【図11D】図10のマイクロ流体素子とインターフェース接続する統合システムの一部を示す図である。
【図12A】図10に示されるマイクロ流体素子を使用したDNA熱変性(熱融解)実験からのデータ例を示す図である。
【図12B】図10に示されるマイクロ流体素子を使用したDNA熱変性(熱融解)実験からのデータ例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流部分および下流部分を有する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを有するマイクロ流体素子を提供することと、
核酸および増幅試薬を含む流体を、前記チャネルの前記上流部分から前記下流部分へ流れるようにして、前記マイクロ流体チャネルに導入することと、
前記核酸が増幅するように、前記上流部分内の温度を循環させることと、
前記下流部分内において、前記核酸の変性を引き起こすのに十分な高温を含む一連の温度に前記流体を晒すことと、
前記下流部分内における前記核酸の変性の程度を示す、前記流体から発する検出可能な性質を測定することとを含む、マイクロ流体素子内にて核酸の熱融解分析を行う方法。
【請求項2】
前記核酸がDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流体を前記マイクロ流体チャネルに導入する前記工程が、前記マイクロ流体素子から延びるピペッターを介して流体を導入する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記流体が、前記マイクロ流体チャネルに適用される圧力差によって、前記上流部分から前記下流部分へ流れるように誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記上流部分内の温度を循環させる前記工程が、前記上流部分の異なる領域を異なる温度に制御し、それによって、前記流体が前記上流部分の前記異なる領域を貫流すると、前記流体の温度が循環するようにする工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記上流部分の前記異なる領域を異なる温度に制御する前記工程が、前記異なる領域の断面を変化させ、前記上流部分内の前記流体に電流を流すことによって前記上流部分をジュール加熱し、それによって、前記電流が前記異なる領域を異なる温度に加熱するようにする工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記上流部分の前記異なる領域を異なる温度に制御する前記工程が、異なる温度の熱ブロックを前記上流部分の前記異なる領域と熱接触させる工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
温度を循環させる前記工程が、前記上流部分全体の温度を循環させ、それによって、前記流体が前記上流部分を貫流するに従って晒される温度サイクルの数が、前記流体が前記上流部分を貫流するのにかかる時間の量によって決まるようにする工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記上流部分全体の温度を循環させることが、前記上流部分をジュール加熱するのに使用される電流を変化させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記上流部分全体の温度を循環させることが、非ジュール加熱法を使用して前記上流部分の温度を変化させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記非ジュール加熱法が、前記上流部分を熱ブロックと熱接触させることを含み、前記熱ブロックの温度を変化させることによって温度が循環する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非ジュール加熱法が、前記上流部分と熱接触している抵抗加熱素子に電流を流すことを含み、前記抵抗加熱素子を流れる前記電流を変化させることによって温度が循環する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記抵抗加熱素子が前記マイクロ流体素子の表面上に製作される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記非ジュール加熱法が、エネルギー・シンクを前記上流部分と熱接触させることをさらに含む、請求項12の方法。
【請求項15】
前記増幅がPCRの使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅試薬が、プライマー、熱安定性ポリメラーゼ、およびヌクレオチドを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記増幅がLCRの使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記下流部分内において一連の温度に前記流体を晒す前記工程が、前記下流部分内で流体の流れを停止し、前記下流部分内に含まれる静止した前記流体の温度を変化させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記流体の温度を変化させる前記工程が、前記流体の温度を継続的に上昇させる工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記流体の温度が0.1℃/秒から1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇させられる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記流体の温度が0.01℃/秒から0.1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇させられる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記流体の温度が1℃/秒から10℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇させられる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記流体の温度がジュール加熱を使用して継続的に上昇させられる、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記流体の温度が非ジュール加熱を使用して継続的に上昇させられる、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記非ジュール加熱が、前記下流部分と熱接触している熱ブロックを使用して前記下流部分を加熱することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記検出可能な性質が蛍光を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記蛍光がFRETまたは分子ビーコンによって発生する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記蛍光が蛍光色素によって発生し、前記蛍光色素によって発生する蛍光の量が前記核酸の熱変性の程度を示す、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記蛍光色素が挿入色素である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記蛍光色素が臭化エチジウムである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記蛍光色素が副溝結合色素である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記蛍光色素がサイバー・グリーン色素である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記下流部分内において一連の温度に前記流体を晒す前記工程が、前記流体を前記下流部分に継続的に貫流させ、その際前記下流部分内の温度がその長さに沿って継続的に変化し、それによって、前記下流部分を貫流する前記流体の温度を前記下流部分の長さに沿って継続的に変化させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記下流部分の長さに沿って温度を変化させる前記工程が、前記チャネルの長さに沿って温度を継続的に上昇させる工程を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記下流部分の長さに沿った温度の変化が線形である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記下流部分の長さに沿った温度の線形の変化と前記流体の流量とが、前記下流部分の長さに沿って流れる前記流体の温度が0.1℃/秒から1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇するように調節される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記下流部分の長さに沿った温度の線形の変化と前記流体の流量とが、前記下流部分の長さに沿って流れる前記流体の温度が0.01℃/秒から0.1℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇するように調節される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記下流部分の長さに沿った温度の線形の変化と前記流体の流量とが、前記下流部分の長さに沿って流れる前記流体の温度が1℃/秒から10℃/秒の範囲の速度で継続的に上昇するように調節される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記下流部分が、前記チャネルの前記下流部分の長さ方向に対応する方向で温度が継続的に変化する熱ブロックと熱接触している、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記熱ブロックの温度変化が、前記熱ブロックの第1の位置および第2の位置をそれぞれ第1のペルチエ素子および第2のペルチエ素子と熱接触させることによって発生し、前記第1のペルチエ素子が第1の温度に制御され、前記第2のペルチエ素子が第2の温度に制御され、それによって、前記第1の位置と前記第2の位置の間の温度が第1の温度と第2の温度の間で継続的に変化する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記下流部分の長さに沿った温度変化が、前記下流部分の断面をその長さに沿って継続的に変化させ、前記下流部分を貫流する前記流体に電流を流すことによって発生する、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記検出可能な性質を測定する前記工程が、前記下流部分の長さに沿った複数の位置で前記検出可能な性質を測定し、それによって、複数の温度において流体から発する前記検出可能な性質を測定する工程を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記検出可能な性質が蛍光偏光である、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
前記検出可能な性質がUV吸光度である、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
前記検出可能な性質が、熱容量、電気抵抗、および誘電性の群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
が既知である分子を含む流体をチャネルに貫流させることと、
前記チャネル内の温度と相関する物理的パラメータを変化させることと、
前記パラメータに応じて決まる前記分子の検出可能な性質の値を測定することによって、前記分子の熱的性質曲線を生成することと、
前記分子のTに対応する前記熱的性質曲線の地点における前記検出可能な性質および前記パラメータの値を決定することとを含む、マイクロ流体素子のチャネル内の基準温度に対応する物理的パラメータの値を決定する方法。
【請求項47】
が既知である前記分子が既知のシーケンスを有する核酸である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記核酸がDNAである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記物理的パラメータが、前記チャネルと熱接触している熱ブロックの温度である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記物理的パラメータが、前記流体をジュール加熱するために前記流体に印加される電流である、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記物理的パラメータが、前記チャネルと熱接触している抵抗加熱素子に印加される電流である、請求項46に記載の方法。
【請求項52】
前記抵抗加熱素子が前記マイクロ流体素子の表面上に製作される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記流体が、前記チャネルに適用される圧力差によって前記チャネルを貫流するように誘導される、請求項46に記載の方法。
【請求項54】
前記検出可能な性質が蛍光を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項55】
前記蛍光がFRETまたは分子ビーコンによって発生する、請求項46の方法。
【請求項56】
前記蛍光が蛍光色素によって発生し、前記蛍光色素によって発生する蛍光の量が、Tが既知である前記分子の熱変性の程度を示す、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記蛍光色素が挿入色素である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記蛍光色素が臭化エチジウムである、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記蛍光色素が副溝結合色素である、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記蛍光色素がサイバー・グリーン色素である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記分子が、ビオチン、ビオチン−4−フルオレセイン、フルオレセイン−ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、およびニュートラアビジンの群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項62】
蛍光体を含む流体をマイクロ流体素子内のチャネルに貫流させることであって、前記蛍光体によって発生する蛍光の量が温度とともに変化することと、
前記マイクロ流体素子の外面の温度を変化させることであって、その変化が認識可能な特徴を有するパターンを含み、前記外面の温度の変化が前記チャネル内の温度の対応する変化を生み出し、前記チャネル内の温度の変化が前記蛍光体によって発生する蛍光の量の対応する変化を生み出すことと、
前記チャネル内の前記蛍光体によって発生する前記蛍光を測定することと、
前記外面における前記認識可能な特徴の組付けと、前記蛍光体によって発生する蛍光における前記認識可能な特徴の出現との間の時間遅延を測定することによって、前記外面の温度変化と蛍光の量の変化との間の時間のオフセットを決定し、それによって、前記時間のオフセットが熱慣性を示すようにすることとを含む、マイクロ流体素子の熱慣性を判定する方法。
【請求項63】
前記パターンが正弦波である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記認識可能な特徴が前記正弦波の極大である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
一連の推進力を適用して、蛍光体を含む流体が、ゼロ流量を含む流量の範囲でマイクロチャネルを貫流するようにすることと、
前記蛍光体を光退色させるのに十分な強度の光で前記蛍光体を励起することと、
前記流量の範囲内の複数の流量において、前記マイクロチャネル内の前記蛍光体から発する蛍光の量を測定することと、
前記蛍光体から発する蛍光の量が最小限になる流量を決定し、それによって、その流量を前記ゼロ流量とすることとを含む、
マイクロチャネル内の流体が流動しているか停滞しているかを判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12A】
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【図12B】
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【公表番号】特表2009−525759(P2009−525759A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554429(P2008−554429)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/003802
【国際公開番号】WO2007/092643
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(508241004)カリパー ライフ サイエンシズ,インコーポレイテッド (4)
【出願人】(507028217)キヤノン ユー.エス. ライフ サイエンシズ, インコーポレイテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】CANON U.S. LIFE SCIENCES, INC.
【住所又は居所原語表記】9800 Medical Center Drive Suite A−100 Rockville,Maryland 20850 U.S.A.
【Fターム(参考)】