説明

マイクロ流路チップ及びそれを用いた生体高分子の処理方法

【課題】高速に、しかもその場で高分子、例えば遺伝子の前処理や遺伝子診断を行なうことができる、マイクロ流路チップとこれを用いた生体高分子の処理方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流路チップ1は、溶液導入口2A,2Bと溶液排出口4Aとを有するマイクロ流路2と、マイクロ流路2に設けられるマイクロピラー2Pと、マイクロピラー2Pと溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブ5とを備え、マイクロピラー5は、溶液導入口2Aから導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆され、ハイドロゲルバルブ5は高分子材料からなり溶液のpHの変化により開閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップとこのマイクロ流路チップを用いて生体高分子の精製や洗浄などの処理を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には遺伝子の精製及び抽出キットが開示されており、市販されて広く利用されている(例えば、Qbiogene(株)製、Geneclean)。例えば、カートリッジ内で繊維状のシリカ(酸化シリコン)に遺伝子を固定し、洗浄液を導入して不純物を除去する製品などがある。これらは、例えば遺伝子診断の前処理に不可欠な作業である。また、感染症などの診断には、医師など医療スタッフの感染を防ぎ、かつ簡便で迅速な診断を実現するため、採血から診断までの機能を集積した一つのマイクロ流路などからなるチップ、即ち、バイオチップ内の閉じた系で行なうことが求められている。
【0003】
非特許文献1には遺伝子診断用バイオチップが報告されており、上記のキットなどを用いて遺伝子の前処理を行った後にチップ内に試料を導入して診断を行っている。これらのデバイスをワンチップに集積化し、遺伝子の前処理と診断をもバイオチップ内で連続的に行なうには、前処理工程を微細な流路内で行なうデバイスを設置する必要がある。
【0004】
【特許文献1】米国特許 6,027,750公報
【非特許文献1】民谷栄一、「バイオ分子デバイス」、応用物理、第74巻、第7号、pp.903−909、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオチップの遺伝子前処理デバイスと診断デバイスの流路を接続し、かつ、精製・抽出前の遺伝子が診断デバイスに入り込まないためには、前処理工程中に遺伝子を固定し、診断デバイスとの接続部分をバルブなどで閉じ、かつ処理後には固定していた遺伝子を脱離し、接続部分のバルブを開くシステムを構築する必要があるが、現状では得られていない。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、マイクロ流路チップのマイクロ流路内に高分子、例えば、DNAなどを固定させるマイクロピラーと、pHの変化によって開閉が可能なハイドロゲルバルブを設置することにより、高速に、しかもその場で高分子、例えば、遺伝子の前処理や遺伝子診断を行なうことができる、マイクロ流路チップ及びそれを用いた生体高分子の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、遺伝子前処理デバイスをマイクロ流路からなるバイオチップ内に設置するシステムを鋭意開発する中で、アルミナ(酸化アルミニウム)のゼータ電位が酸性で正、アルカリ性で負を示すことに着目し、遺伝子は負の電荷を有するため、酸性溶液で遺伝子の前処理を行なう間、遺伝子をアルミナで被覆したマイクロピラーに固定し、処理後にアルカリ溶液を導入することで遺伝子を脱離でき、かつ、pHの変化により体積が変化するハイドロゲルに着目し、酸性溶液中で遺伝子を固定して前処理を行なう間ハイドロゲルが体積膨張して流路を塞ぎ遺伝子を閉じ込め、アルカリ溶液で遺伝子を脱離する際にハイドロゲルが収縮して流路を開き、遺伝子を通過できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のマイクロ流路チップは、溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と、マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと、マイクロピラーと溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブと、を備え、マイクロピラーは、溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆されており、ハイドロゲルバルブは高分子材料からなり、溶液のpHの変化により開閉することを特徴とする。この構成によれば、マイクロ流路内に高分子などを含む溶液を導入し、マイクロピラーの表面を被覆する材料のゼータ電位を利用して、高分子をマイクロピラーに固定し、さらに、溶液のpHによりハイドロゲルバルブを開閉することで、高分子などの洗浄や精製処理などをマイクロ流路チップ内で行なうことができる。
【0009】
本発明の第2のマイクロ流路チップは、溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と、マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと、マイクロピラーと溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブと、からなる洗浄部と、洗浄部の溶液導入口に接続される被検査物導入部と、洗浄部の溶液導入口に接続される溶液導入部と、洗浄部の溶液排出口に接続される診断部と、を備え、マイクロピラーは、溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆されており、ハイドロゲルバルブは高分子材料からなり、溶液のpHの変化により開閉することを特徴とする。この構成によれば、さらに、マイクロ流路の溶液排出口に接続される診断部を設けているので、マイクロ流路内で処理された高分子などの診断や検査を、チップ内で行なうことができる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、溶液が酸性の場合には、マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位は正電位であり、かつ、ハイドロゲルバルブが閉状態となり、溶液がアルカリ性の場合には、マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位が負電位であり、かつ、ハイドロゲルバルブが開状態となる。マイクロピラーを被覆する材料は、好ましくは、アルミナである。マイクロピラーは、好ましくは、生体高分子を固定する形状及び寸法を有する。溶液が酸性である場合には、マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位が正電位であるので、溶液に含まれている負の電荷を有する物質をマイクロピラーに固定することができる。この状態では、ハイドロゲルバルブが閉状態であるので、この溶液に上記物質の洗浄液を導入することで洗浄を行なうことができる。溶液を酸性にすれば、マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位が負電位となるので、上記物質が脱離し、かつ、ハイドロゲルバルブが開状態であるので、溶液排出口から洗浄した物質を回収することができる。
【0011】
本発明のマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法は、上記のマイクロ流路チップを用い、マイクロ流路に生体高分子を含む溶液を流入し、マイクロピラーに生体高分子を固定し、溶液で処理した生体高分子を溶液排出口から排出して、生体高分子の精製や洗浄等の処理を行なうことを特徴とする。本発明のマイクロ流路チップを用いることで、複雑な設備の導入をすることなく、生体高分子をその場に導入することによって、例えばDNAの精製や洗浄を、高速に行なうことができる。
【0012】
本発明のマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法は、上記の診断物質を備えたマイクロ流路チップを用い、マイクロ流路に被検査物と溶液を導入し、マイクロピラーに生体高分子固定し、溶液で処理された生体高分子を溶液排出口から排出して、処理された生体高分子診断部で診断することを特徴とする。本発明のマイクロ流路チップを用いることで、複雑な設備の導入をすることなく、生体高分子をその場に導入することによって、例えばDNAの精製や洗浄を行なった後、遺伝子診断や検査を高速で実施することができる。
【0013】
上記構成において、好ましくは、ハイドロゲルバルブを閉にして、生体高分子の遺伝子をマイクロ流路内で抽出し、遺伝子をマイクロピラーに固定して精製処理を行ない、ハイ
ドロゲルバルブを開にして、精製した遺伝子を溶液排出口へ排出する。好ましくは、生体高分子は血漿からなり、遺伝子はウイルスに由来した遺伝子である。上記構成によれば、生体高分子、例えばDNA内のウイルスに由来した遺伝子の洗浄や精製、さらには、遺伝子診断などの診断や検査をマイクロ流路チップ内で行なうことができる。したがって、ウイルスが感染症由来であっても、操作者が、安全に各種の遺伝子検査や診断を行なうことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマイクロ流路チップ及びそれを用いた生体高分子の処理方法によれば、例えば、遺伝子の精製や洗浄などの前処理を行なうことができる。
本発明の診断部を備えたマイクロ流路チップ及びそれを用いた生体高分子の処理方法によれば、例えば、遺伝子の精製や洗浄などの前処理を行ない、抽出した遺伝子の診断を行なうことができる。特に、本発明の方法は、末梢血などの全血試料から抽出された遺伝子を、マイクロ流路内のマイクロピラーに固定し、洗浄液を注入することによってその場で精製し、同一チップ内の遺伝子診断デバイスに前処理した遺伝子のみを輸送して遺伝子診断を行なうことができる。したがって、採血から診断までをワンチップ化することができる。このため、患者自身の手で簡単に遺伝子診断を行なうシステムも実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流路チップについて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流路チップの構成を模式的に示すもので、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X方向に沿う断面図、(C)は(A)のY−Y方向に沿う断面図、(D)は(A)のY−Y方向に沿う断面図である。図1(A)に示すように、本発明のマイクロ流路チップ1は、マイクロ流路2が形成される基板3とこの基板3に対向して下側に設けた基板4とから構成されている。基板4は、マイクロ流路2を形成しない基板であり、マイクロ流路2の排出口2Cと連接する貫通孔4Aが設けられ、貫通孔4A以外の領域は、マイクロ流路2内に導入される生体高分子などを含む溶液が漏れないように密着して固定されている。
図1(B)に示すように、基板3においては、基板4と対向する面側に、深さをdとしたマイクロ流路2が形成されている。マイクロ流路2には、マイクロピラー2Pと、その右側端部に設けられる溶液導入口2Aと、その左側端部に設けられる溶液排出口2Dと、を備えている。マイクロ流路2内のマイクロピラー2Pと溶液排出口2Dとの間にはハイドロゲルバルブ5が設けられている。さらに、必要に応じて、基板3のマイクロ流路2には、溶液導入口2Bを複数設けてもよい。図1には、第2の溶液導入口2Bを備え、この溶液導入口2Bへの溶液を出し入れするためのキャピラリバルブ6を設けた場合を示している。
【0016】
本発明のマイクロ流路チップ1は、溶液を用いた各種の化学反応を行なうマイクロリアクタや所謂バイオチップとして用いることができる。例えば、DNA(デオキシリボ核酸)などの生体高分子を含んだ溶液を精製したり、遺伝子診断を行なう場合の前処理に使用することができる。以下の説明においては、本発明のマイクロ流路チップ1は、特に断らない限りは、遺伝子の前処理を行なうものとして説明する。
【0017】
図1(C)に示すように、マイクロピラー2Pは、マイクロ流路2の幅W、流路方向の長さLの範囲に、所定の寸法の複数の柱を格子状に所定の間隔Spで配列している。マイクロピラー2Pは、その形状や寸法には特に制限はないが、例えば、円柱形状とすることができる。円柱形状以外には、複数の平面により構成される多角柱(例えば四角柱、六角柱、八角柱等)形状、楕円柱形状とすることもでき、これらの形状の二つ以上を組み合わ
せた形状とすることもできる。例えば、一部が円柱状であり、残りを多角柱とすることができる。マイクロ流路2の底は通常、平坦であるが、曲面(凸面や凹面)とすることもできる。マイクロピラー2Pは、後述するように、基板3にマイクロ流路2を形成する際に、柱にしない基板領域をエッチングすることで、同時に形成することができる。この場合には、マイクロピラー2Pを構成する各柱の高さは、マイクロ流路2の深さdとなる。
【0018】
マイクロピラー2Pの形状や寸法は、溶液に含まれマイクロピラー2Pに固定されるべき物質により決定すればよい。溶液に含まれる物質が、遺伝子である場合には、遺伝子の種類、形状及び寸法などを考慮して、マイクロピラー2Pの側壁に遺伝子が固定され、脱離できるように適宜決定される。遺伝子が前処理時に固定され、かつ、処理後に脱離できるようにするためには、例えばマイクロピラー2Pの側壁上には、ゼータ電位が酸性溶液中では正の値を示し、アルカリ溶液中では負の値を示すという特徴を有する材料を用いればよい。マイクロピラー2P自体がこの性質を有していない場合には、上記ゼータ電位が得られる材料でマイクロピラー2Pを被覆すればよい。このような材料としては、アルミナ膜(Al)などが挙げられる。アルミナと同様の反応が得られる物質としては、pH値に対するゼータ電位の応答の幅はアルミナよりも小さいが、市販のキットでも利用されているシリカ(酸化シリコン)があげられる。ここで、ゼータ電位について説明する。アルミナのような固体が電解質溶液中に存在するとき、固体表面から液中の無限遠における電位を0とした時の、固体表面近傍のすべり面と呼ばれる位置の電位をゼータ電位と呼ぶ。すべり面は固体表面に形成される電気二重層の外側に位置するが、電気二重層の厚みは通常10nm以下と非常に薄い。このため、本発明のようなマイクロピラー2Pの側壁に形成されるアルミナ膜の場合には、マイクロピラー2P表面の電位と考えてよい。
【0019】
マイクロピラー2Pが円柱状の場合、その寸法は、例えば、直径Dpを1〜30μm程度とし、マイクロピラー2P同士の間隔を1〜30μm程度とすればよい。マイクロピラー2Pの高さは、マイクロ流路2の深さdに準じ、10〜300μm程度とすることができる。但し、マイクロピラー2Pの寸法は、上述のように、マイクロピラー2P表面に固定し、前処理しようとする遺伝子の慣性半径とマイクロピラー間隔Spに対する好適な比を考慮して適宜決定することが望ましい。
【0020】
マイクロ流路2が1本の場合、マイクロピラー2Pの数は特に制限はないが、例えば、直径10μm、間隔10μm、高さ60μmの円柱状ピラーを縦横に配列する場合、幅Wを200〜1000μmとし、長さLを500〜2000μmとした場合には、柱数を250〜5000本とすることができる。マイクロ流路チップ1内に複数のマイクロ流路2を形成した場合、各マイクロ流路2に上記配列のマイクロピラー2Pを配置することができる。
【0021】
図1(D)に示すように、マイクロ流路2の流路方向に対して直交する方向(Y−Y方向、適宜に、縦方向と呼ぶ)に所定の寸法の複数のハイドロゲルバルブ5を、所定の間隔Shで配列している。ハイドロゲルバルブ5は、pHの変化により膨張と収縮が生じる高分子材料を用いたバルブである。各ハイドロゲルバルブ5の形状や寸法には特に制限はない。ハイドロゲルバルブ5の形状は、例えば円柱形状とすることができ、円柱形状以外には、複数の平面により構成される多角柱形状(例えば四角柱、六角柱、八角柱等)、楕円柱形状とすることもできる。これらの形状の二つ以上を組み合わせた形状であってもよく、一部が円柱形状であり、残りが多角柱形状としてもよい。
【0022】
溶液に遺伝子が含まれ、遺伝子をハイドロゲルバルブ5を介して封鎖又は通過させる場合には、遺伝子の状態を考慮して適宜決定される。遺伝子前処理時にハイドロゲルバルブ5が閉じ、かつ、処理後にハイドロゲルバルブ5が開くようにするためには、例えば、酸性溶液中では体積膨張し、アルカリ溶液中では体積収縮するという特徴を有する高分子材
料を用いてハイドロゲルバルブ5を製作すればよい。
【0023】
ハイドロゲルバルブ5を縦方向に複数個配列した円柱形状の場合、その1つのハイドロゲルバルブ5の寸法は、例えば、直径Dgを50〜200μm程度とし、ハイドロゲルバルブ5同士の間隔Shを10〜100μm程度とすればよい。ハイドロゲルバルブ5の高さdはマイクロ流路2の深さに準じ、10〜300μm程度とすることができる。但し、ハイドロゲルバルブ5の寸法は、上述のように、ハイドロゲルバルブによって封鎖もしくは開放される遺伝子に対する好適な比を考慮して適宜決定できる。
【0024】
1つのマイクロ流路2が有するハイドロゲルバルブ5の数は、特に制限はないが、例えば、直径80μm、間隔10μm、高さ60μmの円柱状ハイドロゲルバルブ5を縦方向に複数個配列する場合、幅Wが200〜1000μmのマイクロ流路2内に、2〜10個配置することができる。マイクロ流路チップ1内に複数のマイクロ流路2を形成した場合、各マイクロ流路2に上記配列のハイドロゲルバルブ5を配置することができる。
【0025】
本発明のマイクロ流路チップ1の基板3,4に用いる材料としては、例えば、石英、シリコン、ガラス、ポリマーから成る基板が挙げられ、これらの基板を加工することで、マイクロ流路2やマイクロピラー2Pを製作することができる。あるいは、上記基板3,4に堆積した絶縁体の単層膜あるいは多層膜又はそれらを複数組み合わせたもの等を挙げることができる。
【0026】
以上説明したように、本発明のマイクロ流路チップ1によれば、基板3,4の内部にマイクロ流路2を有し、このマイクロ流路2内にはマイクロピラー2Pとハイドロゲルバルブ5とを有しており、後述するように、マイクロピラー2Pの側壁に酸性溶液に含まれている生体高分子、例えばDNAを固定し、この状態でハイドロゲルバルブを閉状態とすることができる。上記生体分子としてはDNA以外には、オリゴヌクレオチド、RNA、抗体、ペプチドなどが挙げられる。この状態から、溶液をアルカリ性にすれば、マイクロピラー2Pの側壁からDNAを脱離させ、ハイドロゲルバルブ5を開状態として溶液排出口からDNAを回収することができる。
【0027】
次に、本発明のマイクロ流路チップ1の製造方法について説明する。
最初に、Siなどから基板3をマスク材で被覆する。次に、このマスク材を公知のフォトリソグラフィ法により、マイクロ流路2及びマイクロピラー5を形成する領域だけを開口する。この場合、露光は紫外線露光等を使用することができる。
次に、基板3のマイクロ流路2及びマイクロピラー5を形成する領域だけをマイクロ流路2の所定の深さdとなるように上記マスクを用いて、選択エッチングを行なう。引き続き、マイクロ流路2内に高分子材料を用いて、ハイドロゲルバルブ5を所定の形状に形成する。高分子材料としては光照射で重合する材料を用いることができる。次に、基板3及びガラスなどからなる基板4の所定箇所に挿通する貫通孔を形成する。
最後に、上記Si基板3にマイクロ流路2を形成しないガラス基板4を貼り合わせることでマイクロ流路チップ1を製造することができる。このように、マイクロ流路チップ1は、半導体作製工程技術であるフォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを利用して製造することができる。
【0028】
次に、本発明のマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法について説明する。
マイクロピラー2Pの表面がアルミナ膜で被覆され、ハイドロゲルバルブ5に触れる溶液が酸性で閉状態となり、アルカリ性で開状態になるものとする。
マイクロ流路2に生体高分子を含む酸性溶液を流入し、マイクロピラー2Pに生体高分子を固定し、ハイドロゲルバルブ5を閉にして、生体高分子をマイクロ流路2内で洗浄や遺伝子抽出などの処理を行なうことができる。
次に、上記溶液をアルカリ性溶液とすれば、マイクロピラー2Pに固定され洗浄した生体高分子や抽出された遺伝子を、マイクロピラー2Pから脱離させることができる。この脱離した生体高分子を、溶液排出口4Aから排出することで、生体高分子の洗浄や遺伝子抽出などの処理を行なうことができる。この場合、生体高分子を含む酸性溶液は、キャピラリバルブ6を介して溶液導入口2Bへ導入することができる。洗浄や遺伝子抽出用の溶液又はアルカリ性溶液は、溶液導入口2Aから導入することができる。
【0029】
生体高分子は、全血から抽出した血漿であってもよい。ここで、全血とは血液であり、血漿と血球とからなる。遺伝子は目的に応じて適宜に選定すればよい。このような遺伝子がウイルスに由来した遺伝子であってもよい。ウイルスは感染症ウイルスでもよく、HIV,肝炎,インフルエンザ等のウイルスが挙げられる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップについて説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップの構成を示す断面模式図である。図2に示すように、本発明のマイクロ流路チップ10は、図1に示したマイクロ流路チップ1を洗浄部1とし、さらに、洗浄部1の第1の溶液導入口2Aに接続される被検査物導入部12と、洗浄部1の第2の溶液導入口2Bに接続される溶液導入部14と、洗浄部1の溶液排出口4Aに接続される診断部16と、を設けて構成されている。検査物導入部14からは、生体高分子、例えば、生体の全血や血漿15などを導入することができる。検査物導入部14から導入される生体の全血15などは、溶液導入部12から導入される溶液13で洗浄したり、前処理を行なうことができる。診断部16は、各種の診断を行なうための診断キットや検査を行なうための検査キットが接続される。他の構成は、図1に示すマイクロ流路チップと同じであるので説明は省略する。
【0031】
本発明のマイクロ流路チップ10によれば、洗浄部1に導入される被検査物15を、洗浄部1の第2の溶液導入口2Aに接続される溶液導入部12から導入される溶液13で洗浄したり、又は遺伝子18を抽出して診断部16で診断することができる。したがって、被検査物15が生体組織である場合には、生体組織を洗浄部で前処理をして、診断部で診断をするという一連の工程を一つのチップ内で行なうことができる。
【0032】
次に、本発明のマイクロ流路チップ10の製造方法について説明する。
本発明のマイクロ流路チップ10は、マイクロ流路チップ1を製作した後で、別途製作した被検査物導入部12と溶液導入部14と診断部16とを接続することにより製作することができる。上記の追加する被検査物導入部12と溶液導入部14と診断部16とは、フォトリソグラフィ技術、ドライエッチング技術などの半導体作製工程技術を利用して作製することができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法について説明する。
マイクロピラー2Pの表面がアルミナ膜で被覆され、ハイドロゲルバルブ5が酸性で閉状態となり、アルカリ性で開状態になるものとする。マイクロ流路2に被検査物15と酸性溶液13を導入し、マイクロピラー2Pに生体高分子を固定し、精製や遺伝子抽出の処理を行なう。次に、溶液13をアルカリ性溶液13とすることで、処理した生体高分子や抽出した遺伝子をマイクロピラーから脱離して、溶液排出口4Aから排出し、診断部16で処理した生体高分子や抽出した遺伝子を診断することができる。
【0034】
上記生体高分子の処理方法として、被検査物15を全血に含まれている血漿とし、洗浄部1で血漿15から遺伝子を抽出してこの抽出した遺伝子を診断部で遺伝子診断をする場合について、さらに詳しく説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップ10を用いた遺伝子診断方
法について説明する模式図である。被検査物導入部12には、血球・血漿分離デバイスが接続されており、キャピラリバルブ6を介して、全血から分離された血漿がマイクロ流路2の第1の溶液導入口2Bに導入される。被検査物導入部12からは、第1の溶液導入口に設けたキャピラリバルブ2Aを介して、ウイルス遺伝子抽出液13Aがマイクロ流路2の第1の溶液導入口2Bに導入され、マイクロ流路2内でウイルス20から遺伝子18を抽出する。
【0035】
続いて、キャピラリバルブ2Aから遺伝子固定溶液13Bを導入し、マイクロピラー2P上に未精製遺伝子18を固定する。上記工程に利用される溶液は、何れも酸性であるので、酸性で体積膨張するハイドロゲルバルブ5がマイクロ流路2を封鎖し、下流の遺伝子診断デバイス16への未精製遺伝子18の流入を防ぐことができる。
【0036】
続いて、キャピラリバルブ2Aから遺伝子精製液13Cを導入し、未精製の遺伝子18に付着した不純物を除去する。精製終了後、最後に、遺伝子溶離液13Dを用いて、精製済みの遺伝子24をマイクロピラー2Pから溶離する。遺伝子溶離液13Dはアルカリ性であるため、アルカリ性のためにハイドロゲルバルブ5が体積収縮してマイクロ流路2が開き、遺伝子検査デバイス16に精製済みの遺伝子24を輸送、すなわち回収することができる。上記の方法によって、全血からの血漿分離と遺伝子検査までを一つのマイクロ流路チップ10内で行なうことができる。
【0037】
本発明のマイクロ流路チップ10を用いた生体高分子の処理方法によれば、生体の末梢血などの全血試料から抽出された血漿15を、マイクロ流路2内で血漿から遺伝子20を抽出し、抽出した遺伝子20をマイクロ流路2内のマイクロピラー2Pに固定し、精製した遺伝子24だけを診断することができる。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
実施例1として、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流路チップ1を製作した。図4(A)〜(F)は、実施例1のマイクロ流路チップ1を製作する際の製作工程を模式的に示す断面図である。図4(A)に示すように、シリコン基板3上に、スパッタリング法によって膜厚約100nmのクロム(Cr)膜30を堆積した。このクロム膜30の表面上に、ポジ型フォトレジスト(東京応化工業株式会社製、OFPR800)を塗布した。次に、紫外線露光によって、マイクロピラーパターンを含むマイクロ流路のフォトレジストパターン32を形成した。
図4(B)に示すように、フォトレジストパターン32をマスクとし、硝酸第2セリウムアンモニウム系エッチャントを用いたウェットエッチング技術によりクロム膜30が露出した部分を選択的にエッチングした。
【0039】
次に、図4(C)に示すように、ボッシュエッチング法によるドライエッチング技術を用いて、シリコン基板3が露出した部分を選択的にエッチングし、マイクロ流路2及びマイクロピラー2Pを形成した。レジスト剥離液を用いて、フォトレジストパターン32を除去し、ウェットエッチング技術などを用いてクロム膜30を完全に除去した。この工程で製作したマイクロピラー2Pの高さは約100μmであり、マイクロピラー2P間の間隔は約15μmである。ここで、ボッシュエッチング法とは、シリコンエッチングのためのガス放電とマイクロピラーとなるシリコン側壁を保護するためのガス放電とを繰り返し行ない、深い溝を形成するドライエッチング方法である。シリコン側壁の保護膜となるポリマーはCF系ガスの放電により形成される。
【0040】
次に、図4(D)に示すように、シリコン基板3の裏面から、サンドブラスト法などを用いて、溶液導入用の貫通孔を形成した。このようにして形成したマイクロ流路2及びマ
イクロピラー2Pの表面には、トリメチルアルミニウム及び過酸化水素を用いた原子層堆積法により厚さが40nmのアルミナ膜34を堆積した。
【0041】
次に、図4(E)に示すように、シリコン基板3のマイクロ流路及びマイクロピラーを形成した面に陽極接合技術を用いて、ガラス基板4を貼り合わせた。
【0042】
最後に、図4(F)に示すように、マイクロ流路2内にハイドロゲルバルブ5を形成した。具体的には、ハイドロゲルバルブは、2−(ジメチルアミノ)メタクリル酸エチル、2−メタクリル酸ハイドロキシエチレン、メタクリル酸エチレングリコールからなる混合溶液に、アルキルフェノン系光重合開始剤(Ciba社製、Irgacure651)を添加したものをマイクロ流路内に入れ、紫外線露光によって、バルブパターンを形成し、ハイドロゲルバルブ5を形成した。ハイドロゲルバルブ5は、直径約80μmの円柱を間隔約10μmで、マイクロ流路2の流路方向に対して縦方向に配列した。以上の工程により実施例1のマイクロ流路チップ1を製作した。
【0043】
図5は、実施例1のマイクロ流路チップ1において、マイクロピラー2Pの断面を観察した電子顕微鏡像を示す図である。図5から明らかなように、ボッシュエッチング法によりシリコン基板3内には、高さ約100μm、幅約15μmの高アスペクト比のマイクロピラー2Pが形成されていることが分かる。さらに、マイクロピラー2Pの四角(□)で囲んだ領域の矢印で示す拡大図からは、マイクロピラー2Pの表面には、厚さが40nmのアルミナ膜34が均一に堆積されていることが分かる。これから、マイクロピラー側壁に均一にアルミナ膜で被覆できることが分かり、マイクロピラー2Pの広い面積上に、例えば大量の遺伝子の固定を行なうことができる。
【0044】
図6は、実施例1のマイクロ流路チップ1において、マイクロピラー2Pに被覆したアルミナ膜34のゼータ電位を測定した結果を示す図である。図6において、横軸がpH値を示し、縦軸がゼータ電位を示している。図6から明らかなように、低いpH値、すなわち酸性の時はゼータ電位が正電位を示し、高いpH値、すなわちアルカリ性の時は負電位を示す傾向にあることが確認できた。
【実施例2】
【0045】
マイクロ流路チップ1を用いて、生体高分子の処理としてDNA遺伝子の蛍光修飾を行なった。マイクロ流路チップにおいては、マイクロ流路2の深さを約60μmとし、マイクロピラー2Pの直径を約10μmとし、その間隔を約10μmとした以外は、実施例1と同様のマイクロ流路チップ1を用いた。
【0046】
上記マイクロ流路チップに、長さが約50μmのDNA(T4DNA、日本ジーン株式会社製、166kbps(bpは塩基数))を、酸性又はアルカリ性の溶液に浸し、蛍光
体(Invitrogen株式会社製、YOYO−1)で修飾した。
【0047】
上記DNAを含む酸性又はアルカリ性溶液と蛍光体をマイクロ流路チップ1に導入する場合、上記溶液が酸性のときには、DNAがマイクロピラー2Pの表面に被覆されたアルミナ膜34に固定され、かつ、ハイドロゲルバルブ5は膨張し、バルブが閉状態であることが確認できた。一方、上記溶液がアルカリ性の場合には、DNAがマイクロピラー2Pの表面に被覆されたアルミナ膜34から脱離し、かつ、ハイドロゲルバルブ5は収縮してバルブが開状態に移行することが確認できた。
【0048】
アルミナ膜で被覆したマイクロピラー2Pに対するDNAの付着度を調べた。酸性及びアルカリ性の各溶液を、マイクロ流路チップ1のマイクロ流路2に導入した後、マイクロ流路チップ1全体を回転させた後に、マイクロピラー2P上に残留したDNAを蛍光顕微
鏡で観察し、その蛍光強度によりマイクロピラー2PへのDNA付着度を評価した。ここで、マイクロ流路チップ1の回転は、次のようにして行なった。テフロン(登録商標)製の皿に電動モーターを接続した器具を作製し、この皿の上にマイクロ流路チップ1を固定し、毎分約4000回転で回転させた。
図7は、実施例2における、マイクロピラー2Pを設けたマイクロ流路2の平面を蛍光顕微鏡で観察した蛍光顕微鏡像を示す図であり、(A)は酸性(pH値5)溶液の場合を示し、(B)はアルカリ性(pH値10)の溶液の場合を、(C)は蛍光強度を示す。図
7(A)及び(B)において、それぞれ、左側が溶液導入後を、矢印(→)の右側が回転後を示している。各図において、マイクロ流路2の左側の格子状部がマイクロピラー2Pを設けた場所である。
図7(A)から明らかなように、DNAを含む溶液が酸性の場合には、溶液導入後及び回転後も蛍光が確認でき、DNAがマイクロピラー2P上に固定されていることが確認されるのに対し、図5(B)に示すように、DNAを含む溶液がアルカリ性の場合には、回転後に殆ど蛍光強度が無くなっていることが分かり、DNAがマイクロピラー2Pから脱離していることが判明した。
【0049】
図7(C)は、DNAを含むpH値の異なる溶液を用いて、上記と同様の試験をした後のマイクロピラー2P領域の蛍光強度を測定した結果を示しており、横軸がpH値、縦軸が蛍光強度を示している。図から、pH値が上がるにしたがって回転後の蛍光強度が下がっていることが確認できた。
これにより、DNAの蛍光修飾処理において、アルミナ膜34で被覆されたマイクロピラー2PへのDNAの固定及び脱離が、溶液のpH値を選択することで制御できることが判明した。
【0050】
図8は、実施例2におけるハイドロゲルバルブ5の光学顕微鏡像を示すもので、それぞれ、(A)は溶液の導入前を、(B)はpH値が4の酸性標準溶液の導入後を、(C)はpH値が12のアルカリ性標準溶液の導入後を示している。
図8(A)から明らかなように、溶液を導入していないときは、ハイドロゲルバルブは、その直径が約80μmの円柱が間隔約10μmで縦に配列していることが分かる。図8(B)から明らかなように、酸性標準溶液の導入により、ハイドロゲルバルブが体積膨張し、その直径が約100μmとなり、ハイドロゲルバルブが閉じた状態となることが分かる。一方、図8(C)から明らかなように、アルカリ性標準溶液を導入した場合には、ハイドロゲルバルブが体積収縮して直径約90μmとなり、バルブが開いた状態となることが分かった。このことから、DNAの洗浄工程において、用いる溶液のpH値を調整することによりハイドロゲルバルブの開閉が制御できることが判明した。
【0051】
これにより、マイクロ流路チップ1のマイクロ流路2内が酸性溶液にさらされる遺伝子前処理工程において、遺伝子はアルミナをコートしたマイクロピラー上に固定され、処理後にアルカリ溶液である遺伝子溶離液によって遺伝子を脱離することが判明した。
【実施例3】
【0052】
実施例1のマイクロ流路チップ1を洗浄部とし、洗浄部1の第1の溶液導入口に接続される被検査物導入部には、全血から血漿を分離するデバイスを接続し、洗浄部の第2の溶液導入口にはマイクロ流路からなる溶液導入部を接続し、洗浄部の溶液排出口には遺伝子診断用バイオチップを接続して、実施例3のマイクロ流路チップ10を製作した。全血は血漿と血球とからなる。この全血から血漿を分離するデバイスはマイクロ流路を有するチップであり、マイクロ流路の途中に血球を取り込む複数の微細なチャンバーが配列されている。全血をマイクロ流路に導入して、高速回転させて比重の違いにより全血から血漿のみを抽出した。
【実施例4】
【0053】
実施例3のマイクロ流路チップ10を使用して、全血から血漿を抽出してその中に含まれている遺伝子を抽出し、遺伝子診断を図4で説明した方法で行なった。実施例3と同じ全血から血漿を分離するデバイスを使用し、キャピラリバルブ6を介して全血から分離された血漿をマイクロ流路2の第1の溶液導入口2Bに導入した。
溶液導入部12からは、第1の溶液導入口に設けたキャピラリバルブ2Aを介して、ウイルス遺伝子抽出液13A(島津製作所社製、Ampdirect)をマイクロ流路2の第1の溶液導入口2Aに導入し、マイクロ流路2内でウイルス20から遺伝子18を抽出した。
【0054】
続いて、キャピラリバルブ2Aから遺伝子固定溶液13B(Qbiogene社製、GENECLEAN Turbo Salt Solution)を導入し、マイクロピラー2P上に未精製遺伝子18を固定した。上記の各溶液は酸性であるので、酸性で体積膨張するハイドロゲルバルブ5がマイクロ流路2を閉じ、マイクロ流路2に接続されている遺伝子診断部への未精製遺伝子18の流入を防ぐことができた。
【0055】
続いて、キャピラリバルブ2Aから遺伝子精製液13C(Qbiogene社製、GENECLEAN Turbo Wash Solution)を導入し、未精製遺伝子18に付着した不純物を除去した。精製終了後、最後に、遺伝子溶離液13D(Qbiogene社製、GENECLEAN Turbo Elution Solution)を用いて、精製済み遺伝子24をマイクロピラー2Pから溶離した。遺伝子溶離液はアルカリ性であるため、アルカリ性でハイドロゲルバルブ5が体積収縮し、マイクロ流路2が開き、遺伝子検査デバイス16に精製済み遺伝子24を輸送、すなわち回収することができた。上記の方法によって、全血からの血漿分離と遺伝子検査までを一つのマイクロ流路チップ10内で実施できた。
【0056】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、本実施の形態では、マイクロ流路チップ及びそれを用いた生体高分子の処理方法として、遺伝子の抽出やその精製や抽出した遺伝子の診断について説明したが、他の高分子、生体高分子の反応や精製、さらには、診断や検査に使用することなども本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の遺伝子ウォッシングデバイスは、感染症などを遺伝子レベルで迅速に診断できるDNAチップなど、医療器具の一部として将来需要が高まると考えられる。また、作製には従来技術のフォトリソグラフィをはじめとした半導体微細加工技術を利用しているため、大量生産が容易で、安価な使い捨てチップとすることが期待されることから産業化も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流路チップの構成を模式的に示すもので、それぞれ、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X方向に沿う断面図、(C)は(A)のY−Y方向に沿う断面図、(D)は(A)のY−Y方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップの構成を示す断面模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流路チップを用いた遺伝子診断方法を説明する模式図である。
【図4】(A)〜(F)は、実施例1のマイクロ流路チップを製作する際の製作工程を模式的に示す断面図である。
【図5】実施例1のマイクロ流路チップにおいて、マイクロピラーの断面を観察した電子顕微鏡像を示す図である。
【図6】実施例1のマイクロ流路チップにおいて、マイクロピラーに被覆したアルミナ膜のゼータ電位を測定した結果を示す図である。
【図7】実施例2における、マイクロピラーを設けたマイクロ流路の平面を蛍光顕微鏡で観察した蛍光顕微鏡像の図であり、(A)は酸性(pH値5)溶液の場合を、(B)はアルカリ性(pH値10)の溶液の場合を、(C)は蛍光強度を示す。
【図8】実施例2におけるハイドロゲルバルブの光学顕微鏡像を示す図であり、それぞれ、(A)は溶液の導入前を、(B)はpH値が4の酸性標準溶液の導入後を、(C)はpH値が12のアルカリ性標準溶液の導入後を示している。
【符号の説明】
【0059】
1,10:マイクロ流路チップ
2:マイクロ流路
2A,2B:溶液導入口
2C:排出口
2P:マイクロピラー
3,4:基板
5:ハイドロゲルバルブ
6:キャピラリバルブ
12:被検査物導入部
13:溶液
13A:ウイルス遺伝子抽出液
13B:遺伝子固定溶液
13C:遺伝子精製液
14:溶液導入部
15:全血(血漿)
16:診断部
18:遺伝子(未精製遺伝子)
24:精製済み遺伝子
30:クロム膜
32:フォトレジストパターン
34:アルミナ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と、該マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと、該マイクロピラーと上記溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブと、を備え、
上記マイクロピラーは、上記溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆されており、
上記ハイドロゲルバルブは高分子材料からなり、上記溶液のpHの変化により開閉することを特徴とする、マイクロ流路チップ。
【請求項2】
溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と、該マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと、該マイクロピラーと上記溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブと、からなる洗浄部と、
上記洗浄部の溶液導入口に接続される被検査物導入部と、
上記洗浄部の溶液導入口に接続される溶液導入部と、
上記洗浄部の溶液排出口に接続される診断部と、を備え、
上記マイクロピラーは、上記溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆されており、
上記ハイドロゲルバルブは高分子材料からなり、上記溶液のpHの変化により開閉することを特徴とする、マイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記溶液が酸性の場合には、前記マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位が正電位であり、かつ、前記ハイドロゲルバルブが閉状態となり、
前記溶液がアルカリ性の場合には、前記マイクロピラーを被覆する材料のゼータ電位が負電位であり、かつ、前記ハイドロゲルバルブが開状態となることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記マイクロピラーを被覆する材料が、アルミナであることを特徴とする、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記マイクロピラーは、生体高分子を固定する形状及び寸法を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と、該マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと、該マイクロピラーと上記溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブと、を備え、上記マイクロピラーを上記溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆し、上記ハイドロゲルバルブを高分子材料から形成し、上記溶液のpHの変化により開閉するようにマイクロ流路チップを構成するとともに、このマイクロ流路チップを用いて生体高分子を処理する方法であって、
上記マイクロ流路に生体高分子を含む溶液を流入し、上記マイクロピラーに上記生体高分子を固定し、上記溶液で処理した生体高分子を上記溶液排出口から排出して、生体高分子の精製,洗浄等の処理を行なうことを特徴とする、生体高分子の処理方法。
【請求項7】
溶液導入口と溶液排出口とを有するマイクロ流路と該マイクロ流路に設けられるマイクロピラーと該マイクロピラーと上記溶液排出口との間に設けられるハイドロゲルバルブとからなる洗浄部と、該洗浄部の溶液導入口に接続される被検査物導入部と、上記洗浄部の溶液導入口に接続される溶液導入部と、上記洗浄部の溶液排出口に接続される診断部と、を備え、上記マイクロピラーを上記溶液導入口から導入される溶液のpHによりゼータ電位が変化する材料で被覆し、上記ハイドロゲルバルブを高分子材料から形成し、上記溶液のpHの変化により開閉するようにマイクロ流路チップを構成するとともに、このマイク
ロ流路チップを用いて生体高分子を処理する方法であって、
上記マイクロ流路に上記被検査物と上記溶液を導入し、上記マイクロピラーに生体高分子を固定し、上記溶液で処理した生体高分子を上記溶液排出口から排出し、上記処理した生体高分子を上記診断部で診断することを特徴とする、生体高分子の処理方法。
【請求項8】
前記ハイドロゲルバルブを閉にして、前記生体高分子の遺伝子を前記マイクロ流路内で抽出し、該遺伝子を前記マイクロピラーに固定して精製処理を行ない、
前記ハイドロゲルバルブを開にして、上記精製した遺伝子を前記溶液排出口へ排出することを特徴とする、請求項6又は7に記載のマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法。
【請求項9】
前記生体高分子が血漿からなり、前記遺伝子がウイルスに由来した遺伝子であることを特徴とする、請求項6又は7に記載のマイクロ流路チップを用いた生体高分子の処理方法。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−39541(P2008−39541A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213108(P2006−213108)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季 第53回応用物理学関係連合講演予稿集 第0分冊・第3分冊」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】