説明

マイクロ流路チップ

【課題】非使用時には流路容積がゼロであるが、使用時には圧力を印加して膨隆させることにより或る容積の流路を形成し得る非接着薄膜層部分を有するマイクロ流路チップにおいて、非接着薄膜層部分を効率的に膨隆させる。
【解決手段】相互に接着された第1の基板13と第2の基板15とからなり、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17が形成されており、前記第1の基板には大気に向かって開口するポート5が配設されており、前記非接着薄膜層の端部の少なくとも一方は前記ポートに連接されているマイクロ流路チップであって、前記第2の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板19を有し、前記下敷板は前記第2の基板との界面側に、前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層側に向かって延びる凹部21を有し、前記凹部の幅は前記非接着薄膜層の幅よりも広い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流路チップに関する。更に詳細には、本発明は、該非接着層部分を比較的低圧でも膨隆させることができるマイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロ流路チップ」又は「マイクロ流体デバイス」などと呼ばれる。
【0003】
マイクロ流路チップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流路チップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
特開2001−157855号公報(特許文献1)に記載されるような従来のマイクロ流路チップ100は、例えば、図19に示されるように、エラストマータイプのシリコン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)などの材料からなる第1の基板102に少なくとも1本の、中空状のマイクロチャネル104が形成されており、この中空状マイクロチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきポート105,106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又はPDMS)からなる第2の基板108が接着されている。この第2の基板108の存在により、ポート105,106及びマイクロチャネル104の底部が封止される。
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような従来のマイクロ流路チップ100の場合、半導体の製造に多用される、いわゆる光リソグラフィー法を応用した方法で製造されるが、その製造コストは比較的高かった。また、ポート105からポート106に液体などの媒体を送る場合、その流れを制御するために中空状マイクロチャネル104の途中にマイクロバルブなどの流体制御素子を配設することがある{例えば、特開2001−304440号公報(特許文献2),図3参照}。しかし、このようなマイクロバルブは構造が複雑であるため、その形成は容易ではなく、実際に配設するとなればマイクロ流路チップ100の製造コストを一層増大させることとなる。
【0006】
前記のような従来のマイクロ流路チップの問題点を解決するため、本発明者らは非使用時には流路容積がゼロであるが、使用時には圧力を印加して膨隆させることにより或る容積の流路を形成し得る非接着層部分を有するマイクロ流路チップを国際出願した。この出願は国際公開WO2007/094254号公報(特許文献3)に公開されている。図20は、このマイクロ流路チップ100Aの概要平面図と断面図である。図20のマイクロ流路チップ100Aは、従来のマイクロ流路チップ100と同様に、第1の基板102と第2の基板108とからなり、第1の基板102には液体又は気体などの媒体の入出力口となるべきポート105及び106が配設されている。第1の基板102と第2の基板108は非接着薄膜層110及びポート105,106以外の部分では、互いに接着している。非接着薄膜層110は従来のマイクロ流路チップ100におけるマイクロチャネル104となるべき部分である。しかし、通常は、ポート105とポート106は非接着薄膜層110により遮断されているので、液体又は気体などの媒体を一方のポートから他方のポートに送ることはできない。
【0007】
マイクロ流路チップ100Aでは、図21(A)に示されるように、液体又は気体の導入部となるべきポート105の開口部にアダプター114を配設し、このアダプター114に送入チューブ116を接続する。送入チューブ116の他端は図示されていないが適当な原液供給手段及び/又は加圧手段(例えば、マイクロポンプ又はシリンジなど)に接続されている。ポート105内に目的の液体が注入されたら、送入チューブ116から気体(例えば、空気)を高圧(例えば、10kPa〜100kPa)で送入する。又は、ポート105内に目的の液体を陽圧を印加しながら注入すると、図21(B)に示されるように、非接着薄膜層110に対応する第1の基板部分だけが僅かに膨隆し、マイクロチャネルとして機能し得る空隙118が生じ、ポート105内の液体及び/又は気体をポート106に移送することができる。第1の基板102の非接着薄膜層110に対応する上部外面を指などで圧迫すると、膨隆空隙118は簡単に閉塞される。従って、図20のマイクロ流路チップ100Aでは、従来のマイクロバルブなどのような特別な構成要素を配設しなくても、マイクロバルブと同等の作用効果を発揮させることができる。
【0008】
ポートの数が2〜4個程度であれば、各ポートにアダプター114を接続して送液及び/又は加圧などの作業を行うのにたいして不便は無いが、ポートの数が数十個にもなるとアダプター114の接続作業だけでも長時間を要し、分析作業の効率を低下させる。また、図20のマイクロ流路チップ100Aを用いる自動分析装置を実現させるためにも、アダプター114に依らずに多数個のポートに同時に送液及び/又は加圧を行うことができるマイクロ流路チップの開発が求められてきた。
【特許文献1】特開2001−157855号公報
【特許文献2】特開2001−304440号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/094254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、第1の基板及び第2の基板とからなり、両基板の接合界面に、非使用時には流路容積がゼロであるが、使用時には圧力を印加して膨隆させることにより或る容積の流路を形成し得る非接着薄膜層部分を有するマイクロ流路チップにおいて、マイクロ流路チップの上面に着脱可能な硬質材料からなり、当該マイクロ流路チップの複数個のポートに一度に送入チューブをセッティングすることができる加圧・送液支援部材を使用する際に、前記非接着層部分を必要十分なだけ膨隆させることができるマイクロ流路チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としての請求項1の発明は、相互に接着された第1の基板と第2の基板とからなり、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第1の基板には大気に向かって開口するポートが配設されており、前記非接着薄膜層の端部の少なくとも一方は前記ポートに連接されているマイクロ流路チップであって、
前記第2の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第2の基板との界面側に、前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層側に向かって延びる凹部を有し、前記凹部の幅は前記非接着薄膜層の幅よりも広いことを特徴とするマイクロ流路チップである。
【0011】
この発明によれば、下敷板に形成された凹部の存在により、ポートの配設されていないPDMS基板が下敷板の凹部内に凹むように変形することができる。この変形により両基板間の非接着薄膜層端部に隙間が発生し、この隙間を通して比較的低圧でも非接着薄膜層に対応する基板部分を膨隆させ、マイクロチャネルとして機能する空隙を発生させることができる。
【0012】
前記課題を解決するための手段としての請求項2の発明は、前記凹部は前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層の長さの一部だけに向かって延びている請求項1記載のマイクロ流路チップ請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0013】
この発明によれば、下敷板の凹部がポートよりも非接着薄膜層方向に偏って形成されているので、非接着薄膜層に対応する基板部分を一層容易に膨隆させることができる。
【0014】
前記課題を解決するための手段としての請求項3の発明は、前記凹部は前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層の全長に亘って延びている請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0015】
この発明によれば、下敷板の凹部が非接着薄膜層全体に及んでいるので、非接着薄膜層を膨隆させたときに凹部の深さに相当する十分な大きさのマイクロチャネルとして機能する空隙を発生させることができる。
【0016】
前記課題を解決するための手段としての請求項4の発明は、前記第1の基板はポリジメチルシロキサン(PDMS)と恒久接着可能な硬質材料からなり、前記第2の基板はPDMSからなる請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0017】
この発明によれば、第1の基板が硬質材料から形成されているので、ポートにO−リング付きの加圧送入用の押さえ蓋を強力に押し付けても基板が撓んでシール性が損なわれるような不都合な事態は起こらない。
【0018】
前記課題を解決するための手段としての請求項5の発明は、前記第1の基板及び第2の基板の両方ともPDMSからなる請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0019】
この発明によれば、第1の基板及び第2の基板を最も確実に恒久接着させることができる。
【0020】
前記課題を解決するための手段としての請求項6の発明は、前記PDMS製の第1の基板の上面に、硬質材料からなる上敷板が更に配設されている請求項5記載のマイクロ流路チップである。
【0021】
この発明によれば、PDMS製の第1の基板のポートにO−リング付きの加圧送入用の押さえ蓋を強力に押し付けるとPDMS製基板が撓んでシール性が損なわれることがあるが、PDMS製基板の上に硬質材料の上敷板を配置することにより押さえ蓋を強力に押し付けてもシール性が損なわれることがない。
【0022】
前記課題を解決するための手段としての請求項7の発明は、前記下敷板は金属類、プラスチック類、ゴム類、ガラス類、セラミックス類、木材類及び合成紙類からなる群から選択される一つの材料から形成されていて、前記第2の基板の下面側に接着されているか又は着脱可能に配置される請求項1記載のマイクロ流路チップである。
【0023】
この発明によれば、下敷板が自ら変形し難い材料から形成されているので、上部の基板を撓ませることなく確実に保持することができる。また、下敷板を第2の基板の下面側に着脱可能に配置させれば、下敷板を使い回しでき、経済的である。
【0024】
前記課題を解決するための手段としての請求項8の発明は、上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポート及び、第2の基板にまで貫通して前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第3の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第3の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、かつ、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも広いことを特徴とするマイクロ流路チップである。
【0025】
この発明によれば、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と共に流体制御素子生成用非接着薄膜層を併用することにより、上部側からマイクロチャネルを部分的に閉塞することができる。
【0026】
前記課題を解決するための手段としての請求項9の発明は、上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポート及び第2の基板にまで貫通して前記流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第3の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第3の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、かつ、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも狭いことを特徴とするマイクロ流路チップである。
【0027】
この発明によれば、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と共に流体制御素子生成用非接着薄膜層を併用することにより、下部側からマイクロチャネルを部分的に閉塞することができる。
【0028】
前記課題を解決するための手段としての請求項16の発明は、上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板と、第4の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の第1の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第3の基板及び第4の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の第2の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第3の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記第2の基板にまで貫通して前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポートと、前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポートと、前記第3の基板にまで貫通して前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第3のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第4の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第4の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第3のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第3の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも狭いことを特徴とするマイクロ流路チップである。
【0029】
この発明によれば、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と共に、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の上部側及び下部側に流体制御素子生成用非接着薄膜層を併用することにより、上部側又は下部側からマイクロチャネルを部分的に閉塞することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のマイクロ流路チップによれば、従来のアダプター式の加圧送入手段に代えて、全てのポートに一度に加圧送入手段を接続するためのO−リング付きの押さえ蓋の使用が可能になる。これにより、各ポートに個別にアダプター式の加圧送入手段を接続させていたときに比べて、分析作業の効率が飛躍的に向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は本発明によるマイクロ流路チップの或る実施態様の部分概要断面図である。図2は図1に示されたマイクロ流路チップの使用状態を示す部分概要断面図である。図1に示されるように、本発明のマイクロ流路チップ1では、図21に示されるような従来のアダプター114の代わりに、マイクロ流路チップ1の上面全体を覆う「押さえ蓋」3を使用する。押さえ蓋3は硬質な金属、プラスチック、ガラス、セラミックスなどの材質からなる平板状の部材である。押さえ蓋3には、マイクロ流路チップ1のポート5の位置に対応する位置にO−リング又はX−リング7が配設されており、このO−リング又はX−リング7の内径側に連通する貫通穴9と、この貫通穴9に連通するチューブ接続穴11が配設されている。チューブ接続穴11には送入チューブ116が挿入され、固定されている。図示されていないが、チューブ接続穴11には公知慣用の継ぎ手を配設し、この継ぎ手に送入チューブ116を接続することもできる。このような構造の押さえ蓋3を使用することによりマイクロ流路チップ1が何個のポートを有していても、各ポートに対し一遍に送入チューブ116を接続できることとなる。O−リング又はX−リング7の材料は、ポート5との間のシール性を確保できる材料であれば全て使用できる。従って、金属類、プラスチック類、ゴム類、セルロース類など任意の材料を使用できる。押さえ蓋3はマイクロ流路チップ1の上面に着脱可能に当接される。従って、図示されていないが、マイクロ流路チップ1の配置箇所が常に一定であれば、押さえ蓋3をヒンジ機構に保持させ、開閉可能な型締め機構等でマイクロ流路チップ1の上面に押圧しながら当接させ、使用後には型締め機構を解放し、ヒンジ機構に保持された押さえ蓋3を跳ね上げて使用済みマイクロ流路チップ1を新品と交換することができる。
【0032】
図1に示される本発明のマイクロ流路チップ1は、第1の基板13及び第2の基板15が何れもポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムから形成されている。第1の基板13と第2の基板15との接着界面の所定箇所には非接着薄膜層17が形成されている。ポート5はこの非接着薄膜層17の一方の端部に連接している。
【0033】
本発明のマイクロ流路チップ1の特徴は、第2の基板15の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板19が配設されていることであり、また、この下敷板19の第2の基板15との界面側に所定のサイズの凹部21が形成されていることである。下敷板19は金属類、プラスチック類、ゴム類、ガラス類、セラミックス類、木材類及び合成紙類などから形成できる。成型の容易なプラスチック製であることが好ましい。下敷板19の厚さ自体は本発明の必須要件ではないが、一般的に、0.1mm〜3mmの範囲内の厚さであることが好ましい。下敷板19の厚さが0.1mm未満では機械的強度が低すぎるばかりか、所定の深さを有する凹部21を形成することができない。一方、下敷板19の厚さが3mm超では下敷板19としての必要な機能が全て満たされ、単に不経済となるだけである。
【0034】
本発明で使用する下敷板19において、凹部21はポート5に対して非接着薄膜層17側に偏位して形成することが好ましい。凹部21をポート5と同じ位置に形成すると所期の効果を得るのが困難となる。凹部21の深さは非接着薄膜層17に対応する位置の第1の基板13又は第2の基板15を膨隆させたときに形成される空隙の高さ程度であればよい。また、凹部21の幅は非接着薄膜層17の幅よりも大きいことが好ましい。凹部21の幅が非接着薄膜層17の幅よりも小さいと所期の効果を得るのが困難となる。
【0035】
本発明で使用する下敷板19は第2の基板15の下面側に固着されていてもよいし、或いは、第2の基板15の下面側に着脱可能に配置させることもできる。何度でも再使用できるので、第2の基板15の下面側に着脱可能に配置させることが好ましい。
【0036】
図2を参照する。押さえ蓋3を第1の基板13に当接させ、送入チューブ116から空気などの気体を加圧送入すると、下敷板19の凹部21に対応する箇所の第2の基板15が凹部21内に向かって押し下げられ、その結果、第1の基板13と第2の基板15との界面に微小な隙間が生じ、その隙間を通して高圧空気が第1の基板13と第2の基板15との界面に侵入することにより、非接着薄膜層17に対応する箇所の第1の基板13が膨隆され、マイクロチャネルとして機能すべき空隙18を形成させることができる。凹部21がポート5と同じ位置に形成されていると第1の基板13と第2の基板15との界面に微小な隙間を発生させるのが困難である。また、凹部21の幅が非接着薄膜層17の幅と同一であるか又は小さいと第1の基板13と第2の基板15との界面に微小な隙間を発生させるのが困難であるばかりか、非接着薄膜層17に対応する箇所の第1の基板13を十分に膨隆させることができない。
【0037】
第1の基板13及び第2の基板15が共にPDMSから形成されているマイクロ流路チップにおいて、第1の基板13の上面にO−リング又はX−リング7付きの押さえ蓋3を当接させて送入チューブ116から空気などの気体を加圧送入しても、非接着薄膜層17に対応する箇所の第1の基板13を膨隆させることはできない。これは、第1の基板13及び第2の基板15の両方共PDMS(ゴム)同士であり、PDMS(ゴム)同士をO−リングで押さえるので、上部のPDMS基板を膨隆させることができないためと思われる。ところが、第2の基板15の下面側に、凹部が形成された下敷板を配置させると、PDMS(ゴム)同士でも、比較的低い圧力で非接着薄膜層17に対応する箇所の第1の基板13を膨隆させることができることが発見された。
【0038】
図3は本発明のマイクロ流路チップの別の実施態様の部分概要断面図である。第1の基板13がPDMS製である場合、押さえ蓋3を第1の基板13に押圧するとPDMS製の第1の基板13が撓んでO−リング7のシール不良を起こすことがある。この問題点を解決するため、図3に示されるマイクロ流路チップ1Aでは、第1の基板13の上面側にポート5に対応する位置に貫通孔23を有する上敷板25を配置した。上敷板25は下敷板19と同様な、金属類、プラスチック類、ガラス類、セラミックス類などの硬質材料から形成できる。成型の容易なプラスチック製が好ましい。上敷板25を配置することによりO−リング7のシール不良は全く起こらなくなったが、非接着薄膜層17に対応する箇所の第1の基板13を膨隆させることができなくなった。そこで、この問題を解決するため、下敷板19の凹部21をポート5の一部にかかり、かつ、非接着薄膜層17の全長にわたるように延伸させて形成した。これにより、送入チューブ116から加圧空気などを送入すると、図4に示されるように、非接着薄膜層17に対応する位置の第2の基板15が凹部21内に沈み込むように膨隆し、第1の基板13と第2の基板15との界面に、マイクロチャネルとして機能する空隙18を発生させることが可能になった。上敷板25は第1の基板13の上面に接着されていてもよいし、あるいは、第1の基板13の上面に対して着脱可能に配置されていてもよい。
【0039】
図5は本発明のマイクロ流路チップの更に別の実施態様の概要断面図である。図6は図5におけるVI-VI線に沿った断面図である。図6では説明の便宜上、押さえ蓋3も一緒に図示されている。図5及び図6に示されるマイクロ流路チップ1Bは、第1の基板13の上面側にPDMS製の第3の基板33を有し、第3の基板33の上面側に上敷板25が配置される。第1の基板13と第2の基板15との界面にはマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17が形成されており、第1の基板13と第3の基板33との界面にはバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27が形成されている。バルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27はマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の一部又は全部を覆うように形成されている。下敷板19に形成される凹部21はバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27及びマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の形状に対応するように形成されている。マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17はポート5及び29に連通しており、バルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27はポート31に連通している。ポート5,29及び31にはそれぞれ送入チューブ116−1、116−3及び116−2が接続されたO−リング7が当接される。
【0040】
図7は図6に示される本発明のマイクロ流路チップ1Bの動作状態を示す概要断面図であり、図8は図7におけるVIII−VIII線に沿った部分概要拡大断面図である。図7及び図8を参照する。ポート5に対応する送入チューブ116−1から加圧空気を送入すると、非接着薄膜層17の位置に対応する第2の基板15の部分が凹部21内に向かって膨隆し、マイクロチャネルとなるべき空隙18が生成するが、ポート31に対応する送入チューブ116−2から加圧空気を送入すると、非接着薄膜層27の位置に対応する第1の基板13の部分が凹部21内に向かって膨隆し、圧迫用空隙37が生成され、この圧迫用空隙37がマイクロチャネルとなるべき空隙18を押し潰して閉塞する。その結果、非接着薄膜層27の位置に対応する第1の基板13はバルブなどの流体制御素子として機能することができる。バルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27を、マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の上部側に配設する場合、この非接着薄膜層27の位置に対応する下敷板の凹部21の幅は、非接着薄膜層27の幅よりも広いことが好ましい。その理由は、圧迫用空隙37がマイクロチャネルとなるべき空隙18を十分に押し潰して閉塞するには、下敷板の凹部21の幅を十分にとることにより発生する圧迫用空隙37の幅も十分に広くなり下部の非接着薄膜層17の全幅を覆うことができるからである。
【0041】
別法として、図9に示されるように、バルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27は、マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の下部側に配設することもできる。図10は図9に示されたマイクロ流路チップ1Cの動作状態を示す概要断面図であり、図11は図10におけるXI−XI線に沿った部分概要拡大断面図である。図10及び図11を参照する。ポート5に対応する送入チューブ116−1から加圧空気を送入すると、非接着薄膜層17の位置に対応する第1の基板13の部分が凹部21内に向かって膨隆し、第1の基板13と第3の基板33との界面にマイクロチャネルとなるべき空隙18が生成するが、ポート31に対応する送入チューブ116−2から加圧空気を送入すると、非接着薄膜層27の位置に対応する第2の基板15の部分が凹部21内に向かって膨隆し、第1の基板13と第2の基板15との界面に圧迫用空隙37が生成され、この圧迫用空隙37が第1の基板13を第3の基板33に向かって押圧することによりマイクロチャネルとなるべき空隙18を押し潰して閉塞する。その結果、非接着薄膜層27の位置に対応する第1の基板13はバルブなどの流体制御素子として機能することができる。バルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27を、マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の下部側に配設する場合、この非接着薄膜層27の位置に対応する下敷板の凹部21の幅は、非接着薄膜層27の幅よりも狭くてもよい。その理由は、圧迫用空隙37が第1の基板13を第3の基板33に向かって押圧することによりマイクロチャネルとなるべき空隙18を押し潰して閉塞するので、凹部21内に第2の基板15を押し込める必要性が低いためである。しかし、マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の下部側に配設する場合、この非接着薄膜層27の位置に対応する下敷板の凹部21の幅を非接着薄膜層27の幅よりも広くしても、狭い場合と同様な効果が得られる。
【0042】
図12は本発明のマイクロ流路チップの更に他の実施態様の概要断面図である。このマイクロ流路チップ1Dはマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の上部側と下部側の両側にバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27−U及び27−Dを有する。例えば、上敷板25と第3の基板33との界面に上部側非接着薄膜層27−Uを配設し、第1の基板13と第3の基板33との界面に非接着薄膜層17を配設し、第1の基板13と第2の基板15との界面に下部側非接着薄膜層27−Dを配設することができる。上部側非接着薄膜層27−Uと下部側非接着薄膜層27−Dはその端部が上下で重畳しあうこともできる。
【0043】
図13は本発明のマイクロ流路チップの更に別の実施態様の概要断面図である。図1及び図3に示されたマイクロ流路チップ1は第1の基板13及び第2の基板15が共にPDMSなどのシリコーンゴム製であったが、図13のマイクロ流路チップ1Eでは、PDMS製の第1の基板13の代わりに、PDMS製の第2の基板15と恒久接着可能な、例えばガラスなどの硬質材料からなる第1の基板13’を使用する。言うまでもなく、PDMSと恒久接着可能であればガラス以外の硬質材料(例えば、プラスチックなど)も当然使用できる。これにより、図3に示されるような硬質材料からなる上敷板25の使用を省くことができる。
【0044】
従って、図6及び図9に示されたマイクロ流路チップ1B及び1Cなどのようにバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27を有するマイクロ流路チップは図14及び図15に示されるような構成になる。
【0045】
図14を参照する。図14に示されるマイクロ流路チップ1Fは、上から順に、ガラス又はプラスチックなどの硬質材料からなる第1の基板13’と、PDMS製の第2の基板15と、PDMS製の第3の基板33と、下敷板19とからなる。第1の基板13’と第2の基板15との界面にバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27が配設されており、第2の基板15と第3の基板33との界面にマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17が配設されている。従って、このマイクロ流路チップ1Fでは、第3の基板33が下敷板19の凹部21に向かって膨隆して生成されるマイクロチャネルとなるべき空隙に対して、非接着薄膜層27の位置に対応する第2の基板15の部分が凹部21内に向かって膨隆し、その結果、マイクロチャネルとなるべき空隙を押し潰して閉塞する。下敷板19はPDMS製の第3の基板33に対して固着されていてもよく、あるいは着脱可能に配置されていてもよい。
【0046】
図15を参照する。図15に示されるマイクロ流路チップ1Gは、上から順に、ガラス又はプラスチックなどの硬質材料からなる第1の基板13’と、PDMS製の第2の基板15と、PDMS製の第3の基板33と、下敷板19とからなる。第1の基板13’と第2の基板15との界面にマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17が配設されており、第2の基板15と第3の基板33との界面にバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27が配設されている。従って、このマイクロ流路チップ1Gでは、非接着薄膜層27の位置に対応する第3の基板33の部分が凹部21内に向かって膨隆し、第2の基板15と第3の基板33との界面に圧迫用空隙が生成され、この圧迫用空隙が第2の基板15を第1の基板13’に向かって押圧することにより、第1の基板13’と第2の基板15との界面に生成されるマイクロチャネルとなるべき空隙を押し潰して閉塞する。
【0047】
図16は、図12に示されるマイクロ流路チップ1Dと同様に、マイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17の上部側及び下部側の両側にバルブなどの流体制御素子生成用の非接着薄膜層27−U及び27−Dを有するマイクロ流路チップ1Hを示す。このマイクロ流路チップ1Hでは、上から順に、ガラス又はプラスチックなどの硬質材料からなる第1の基板13’と、PDMS製の第2の基板15と、PDMS製の第3の基板33と、PDMS製の第4の基板39と、下敷板19とからなる。第1の基板13’と、PDMS製の第2の基板15との界面に上部側非接着薄膜層27−Uを配設し、第2の基板15と第3の基板33との界面に非接着薄膜層17を配設し、第3の基板33と第4の基板39との界面に下部側非接着薄膜層27−Dを配設することができる。上部側非接着薄膜層27−Uと下部側非接着薄膜層27−Dはその端部が上下で重畳しあうこともできる。下敷板19はPDMS製の第4の基板39に対して固着されていてもよく、あるいは着脱可能に配置されていてもよい。
【0048】
前記の各実施態様では、下敷板19に形成される凹部21の断面は垂直な壁面を有するように図示されているが、これに限定されない。例えば、図17(A)に示されるような法面状であることもできるし、或いは図17(B)に示されるような曲面状であることもできる。
【0049】
図18は本発明のマイクロ流路チップにおいて、非接着薄膜層17に対して上部側非接着薄膜層27−Uと下部側非接着薄膜層27−Dの具体的配設パターンの一例を示す概要平面透視図である。ポート5−1,5−2及び5−3は空気及び/又は液体類を加圧送入するために使用される。ポート29は空気抜き、液溜めなど様々な目的に使用される。図中の実線で囲まれた砂点(ドット)で表示されている部分はマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層17を示す。破線で表示されている部分は下敷板の凹部21を示す。一点鎖線で表示されている部分は流体制御素子生成用の上部側非接着薄膜層27−Uを示す。また、二点鎖線で表示されている部分は流体制御素子生成用の下部側非接着薄膜層27−Dを示す。各上部側非接着薄膜層27−U1及び27−U2には、加圧空気送入用のポート31−U1及び31−U2がそれぞれ連接されている。同様に、各下部側非接着薄膜層27−D1及び27−D2には、加圧空気送入用のポート35−D1及び35−D2がそれぞれ連接されている。例えば、ポート5−1から液体をポート29に送る場合、ポート31−U1及びポート31−U2から加圧空気を送入して各上部側非接着薄膜層27−U1及び27−U2に対応する非接着薄膜層17−2及び17−3を押し潰して、ポート5−2及び5−3側に液体が流れない込まないようにしてから、液体送入作業を行う。このように上部側非接着薄膜層27−U1及び27−U2と下部側非接着薄膜層27−D1及び27−D2を適切に組み合わせて使用することにより、液体類を目的のポートに正確に送達することができる。図18に示されるように、非接着薄膜層17−1,17−2及び17−3の合流点付近では上部側非接着薄膜層27−U1及び27−U2と下部側非接着薄膜層27−D1が相互に重畳している。これは液体の封止効果を高めるためである。言うまでもなく、図示された態様以外の配設パターンレイアウトも実施可能である。例えば、ポート29を中心にして、非接着薄膜層17−1,17−2,17−3及び17−4と、上部側非接着薄膜層27−U1及び27−U2と下部側非接着薄膜層27−D1及び27−D2の組合せパターンを複数個配列させることもできる。
【0050】
前記の各実施態様において、各基板の厚さは説明のため縮尺を無視して誇張的に図示されているが、一般的に、100μm〜3mmの範囲内の厚さを有する。厚さが100μm未満では薄すぎて基板の取り扱いが困難になり、マイクロ流路チップ製造の作業性が低下する。一方、厚さが3mm超では、基板の加圧膨隆に高い圧力が必要になり、チップ自体が高圧で破壊される恐れがあるので好ましくない。
【0051】
非接着薄膜層17及び27は基板接合界面の何れか一方又は両方に形成させることができる。非接着薄膜層の膜厚、形成材料及び形成方法などは前掲の国際公開WO2007/094254号公報に詳細に記述されている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上、本発明のマイクロ流路チップの好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、O−リング付きの押さえ蓋を使用せず、従来のアダプター式の加圧送入手段を接続して使用することもできる。
【0053】
本発明によれば、マイクロ流路チップを使用した分析作業の効率が飛躍的に向上するので、その実用性及び経済性が飛躍的に高められる。その結果、本発明のマイクロ流路チップは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産、警察鑑識など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロ流路チップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロ流路チップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明によるマイクロ流路チップの或る実施態様の部分概要断面図である。
【図2】図1に示されたマイクロ流路チップの使用状態を示す部分概要断面図である。
【図3】本発明のマイクロ流路チップの別の実施態様の部分概要断面図である。
【図4】図3に示されたマイクロ流路チップの非接着薄膜層部分の膨隆状態を示す部分概要断面図である。
【図5】本発明のマイクロ流路チップの更に別の実施態様の概要断面図である。
【図6】図5におけるVI-VI線に沿った断面図である。
【図7】図6に示される本発明のマイクロ流路チップ1Bの動作状態を示す概要断面図である。
【図8】図7におけるVIII−VIII線に沿った部分概要拡大断面図である。
【図9】本発明のマイクロ流路チップの更に他の実施態様の概要断面図である。
【図10】図9に示される本発明のマイクロ流路チップ1Cの動作状態を示す概要断面図である。
【図11】図10におけるXI−XI線に沿った部分概要拡大断面図である。
【図12】本発明のマイクロ流路チップの更に他の実施態様の概要断面図である。
【図13】本発明のマイクロ流路チップの更に別の実施態様の概要断面図である。
【図14】本発明のマイクロ流路チップの更に他の実施態様の概要断面図である。
【図15】本発明のマイクロ流路チップの更に別の実施態様の概要断面図である。
【図16】本発明のマイクロ流路チップの更に他の実施態様の概要断面図である。
【図17】下敷板に形成される凹部の別の実施態様の部分概要断面図であり、(A)は法面状、(B)は曲面状の壁面を示す。
【図18】本発明のマイクロ流路チップにおいて、非接着薄膜層17に対して上部側非接着薄膜層27−Uと下部側非接着薄膜層27−Dの具体的配設パターンの一例を示す概要平面透視図である。
【図19】(A)は従来のマイクロ流路チップの一例の概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った断面図である。
【図20】(A)は国際公開WO2007/094254号公報に記載された、非使用時には流路容積がゼロであるが、使用時には圧力を印加して膨隆させることにより或る容積の流路を形成し得る非接着薄膜層部分を有するマイクロ流路チップの概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った断面図である。
【図21】(A)は図20(B)に示されたマイクロ流路チップのポートに加圧送入用のアダプターを接続させた状態を示す部分概要断面図であり、(B)はアダプターから気体を加圧送入して非接着薄膜層部分を膨隆させ、流路として機能する空隙を発生させた状態を示す部分概要断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H 本発明のマイクロ流路チップ
3 押さえ蓋
5,29,31,35 ポート
7 O−リング
9 貫通穴
11 チューブ接続穴
13,13’ 第1の基板
15 第2の基板
17 マイクロチャネル生成用非接着薄膜層
18 マイクロチャネル用空隙
19 下敷板
21 凹部
23 貫通孔
25 上敷板
27 流体制御素子生成用非接着薄膜層
33 第3の基板
37 空隙
100,100A 従来のマイクロ流路チップ
102
105,106 ポート
104 マイクロチャネル
108 第2の基板
110 マイクロチャネル生成用非接着薄膜層
114 アダプター
116 送入チューブ
118 マイクロチャネル用空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に接着された第1の基板と第2の基板とからなり、少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第1の基板には大気に向かって開口するポートが配設されており、前記非接着薄膜層の端部の少なくとも一方は前記ポートに連接されているマイクロ流路チップであって、
前記第2の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第2の基板との界面側に、前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層側に向かって延びる凹部を有し、前記凹部の幅は前記非接着薄膜層の幅よりも広いことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記凹部は前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層の長さの一部だけに向かって延びている請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記凹部は前記ポートの中心部に達しない位置から前記非接着薄膜層の全長に渡って延びている請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン(PDMS)と恒久接着可能な硬質材料からなり、前記第2の基板はPDMSからなる請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記第1の基板及び第2の基板の両方ともPDMSからなる請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記PDMS製の第1の基板の上面に、硬質材料からなる上敷板が更に配設されている請求項5記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記下敷板は金属類、プラスチック類、ゴム類、ガラス類、セラミックス類、木材類及び合成紙類からなる群から選択される一つの材料から形成されていて、前記第2の基板の下面側に接着されているか又は着脱可能に配置される請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポート及び、第2の基板にまで貫通して前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第3の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第3の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、かつ、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも広いことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項9】
上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポート及び第2の基板にまで貫通して前記流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第3の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第3の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、かつ、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも狭いことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記第1の凹部は前記第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の全長に渡って延びている請求項8又は9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
前記第2の凹部は前記第2のポートの中心部に達しない位置から前記流体制御素子生成用非接着薄膜層の長さの一部だけに向かって延びている請求項8又は9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項12】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン(PDMS)と恒久接着可能な硬質材料からなり、前記第2の基板はPDMSからなり、前記第3の基板はPDMSからなる請求項8又は9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項13】
前記第1の基板、第2の基板及び第3の基板が全てPDMSからなる請求項8又は9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項14】
前記PDMS製の第1の基板の上面に、硬質材料からなる上敷板が更に配設されている請求項13記載のマイクロ流路チップ。
【請求項15】
前記下敷板は金属類、プラスチック類、ゴム類、ガラス類、セラミックス類、木材類及び合成紙類からなる群から選択される一つの材料から形成されていて、前記第3の基板の下面側に接着されているか又は着脱可能に配置される請求項8又は9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項16】
上から順に、相互に接着された第1の基板と、第2の基板と、第3の基板と、第4の基板とからなり、前記第1の基板及び第2の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の第1の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第2の基板及び第3の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上のマイクロチャネル生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第3の基板及び第4の基板のうち少なくとも一方の基板の接着面側に1本以上の第2の流体制御素子生成用の非接着薄膜層が形成されており、前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第2の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層は前記第3の基板を間に挟んで前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の少なくとも一部分と重畳するように形成されており、前記第1の基板には、前記第2の基板にまで貫通して前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第1のポートと、前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第2のポートと、前記第3の基板にまで貫通して前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する大気に向かって開口する第3のポートが配設されているマイクロ流路チップであって、
前記第4の基板の下面側に自ら変形し難い材料からなる下敷板を有し、前記下敷板は前記第4の基板との界面側に、前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第1の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第2のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第2の凹部と、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳しない部分の前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の端部の少なくとも一方が連接する第3のポートの中心部に達しない位置から前記重畳しない部分の前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層側に向かって延びる第3の凹部とを有し、前記第1の凹部の幅は前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも広く、マイクロチャネル生成用非接着薄膜層と重畳する部分の第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の幅よりも狭いことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項17】
前記第1の凹部は前記第1のポートの中心部に達しない位置から前記マイクロチャネル生成用非接着薄膜層の全長に渡って延びている請求項16に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項18】
前記第2の凹部は前記第2のポートの中心部に達しない位置から前記第1の流体制御素子生成用非接着薄膜層の長さの一部だけに向かって延びている請求項16に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項19】
前記第3の凹部は前記第3のポートの中心部に達しない位置から前記第2の流体制御素子生成用非接着薄膜層の長さの一部だけに向かって延びている請求項16に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項20】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン(PDMS)と恒久接着可能な硬質材料からなり、前記第2の基板、前記第3の基板及び前記第3の基板はPDMSからなる請求項16に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項21】
前記下敷板は金属類、プラスチック類、ゴム類、ガラス類、セラミックス類、木材類及び合成紙類からなる群から選択される一つの材料から形成されていて、前記第4の基板の下面側に接着されているか又は着脱可能に配置される請求項16に記載のマイクロ流路チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−151717(P2010−151717A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332008(P2008−332008)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】