説明

マイクロ総合分析システム

【課題】
流体制御検出装置に検査チップを組み込んで必要な情報を自動的に検出するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、マイクロポンプから供給される微少量の流体を常に安定した状態で送液することができるマイクロ総合分析システムを提供する目的とする。
【解決手段】
前記検査チップ内に予め収容された試薬と検体とを合流させ、合流部の下流域に形成された検出部で自動的に検査対象を検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、
前記検査チップ本体内の作動流体流れ方向の上流側に、流体の流れ速度などの情報を得るための検出装置を設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬との混合などが微細流路内で行われる検査チップを流体制御検出装置内に組み込んで検査チップ内の必要とされる情報を自動的に検知するマイクロ総合分析システムに関するもので、詳しくは、マイクロポンプによって送られる微少量の流体を安定して送液することを可能とするマイクロ総合分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・
チップ(Lab-on-chips)、バイオチップなどとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産物製造分野などでその応用が期待されている。
【0004】
とりわけ遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作などが必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムとしての検査チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることができるので、その恩恵は多大と言える。
【0005】
臨床検査を始めとする各種検査を行う現場では、場所を選ばず迅速に結果を出すこれらの検査チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視されている。一方、検査チップではそのサイズ、形態からの厳しい制約を受けるため、シンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが要求される。
【0006】
マイクロポンプとしては、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、例えば、特許文献1に開示されているように、ピエゾポンプを用いることが好適である。
【0007】
図10(a)、(b)は、マイクロポンプとして好適に使用されているピエゾポンプの一例を示した断面図とその上面図である。このマイクロポンプには、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47、および第2液室49が形成された基板42と、基板42上に積層された上側基板41と、上側基板41上に積層された振動板43と、振動板43の加圧室45と対向する側に積層された圧電素子44と、圧電素子44を駆動するための駆動部40とが設けられている。
【0008】
この例では、基板42として、感光性ガラス基板を用い、エッチングを行なうことにより、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47および第2液室49を形成している。
【0009】
ガラス基板である上側基板41を、基板42上に積層することにより、第1液室48、第1流路46、第2液室49および第2流路47の上面が形成される。上側基板41の加圧室45の上面に当たる部分は、エッチングなどにより加工され貫通している。
【0010】
上側基板41の上面には、薄板ガラスからなる振動板43が積層され、その上に、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスなどからなる圧電素子44が積層されている。
【0011】
このようなマイクロポンプでは、駆動部40からの駆動電圧により、圧電素子44とこれに貼付された振動板43が振動し、これにより加圧室45の体積が増減する。第1流路46と第2流路47とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路よりも第2流路の方が長くなっており、第1流路46では、差圧が大きくなると、流路の出入り口及びその周辺で渦を巻くように乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路47では、流路の長さが長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。
【0012】
例えば、圧電素子44に対する駆動電圧により、加圧室45の内方向へ素早く振動板43を変位させて大きい差圧を与えながら加圧室45の体積を減少させ、次いで加圧室45から外方向へゆっくり振動板43を変位させて小さい差圧を与えながら加圧室45の体積を増加させると、液体は同図のB方向へ送液される。逆に、加圧室45の外方向へ素早く振動板43を変位させて大きい差圧を与えながら加圧室45の体積を増加させ、次いで加圧室45から内方向へゆっくり振動板43を変位させて小さい差圧を与えながら加圧室45の体積を減少させると、液体は同図のA方向へ送液される。
【0013】
このように、ピエゾポンプによれば、例えば、ポンプの駆動電圧および周波数を変えることによって、液体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。
【特許文献1】特開2001−322099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、生体物質と試薬などが収容された検査チップを、上記のマイクロポンプなどを備えた流体制御検出装置内に組み込んで、作動流体の移動に伴って合流させ、合流後の検査チップ内の必要とされる情報を光学的検出手段により自動的に検知するようにしたマイクロ総合分析システムでは、試料の必要量を極少量とし必要とされる試薬量も少なくて良く、これに加えて短時間で適正な分析を終了させることが求められている。
【0015】
このような要求に答えるには、マイクロポンプによる作動流体の送液の安定化を図らなければならない。
しかしながら、例えば、検査チップ内に、外部のマイクロポンプから作動流体を供給するような場合に、圧力変化、流路抵抗などの圧電素子44による影響の他に、マイクロポンプとの間の接続が確実に行われていないと、液漏れが発生して下流に流れる流体が一定速度で流れなかったり、時間当たりの流量に過不足が生じたりする場合があった。
【0016】
このように、マイクロ総合分析システムでは、流速、流量などが一定に保持されていないと、分析結果に悪影響を及ぼす虞がある。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、流体制御検出装置に検査チップを組み込んで必要な情報を光学的検出手段により自動的に検出するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、マイクロポンプから供給される微少量の流体を常に安定した状態で送液することができるマイクロ総合分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係るマイクロ総合分析システムは、
少なくとも2つの基板で本体が構成される検査チップ内に、作動流体を供給することにより、前記検査チップ内に予め収容された試薬と検体とを合流させ、合流部の下流域に形成された検出部で光学的検出手段により自動的に検査対象を検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、
前記検査チップ本体内の作動流体の流れ方向の上流側に、作動流体の流れ速度などの情
報を得るための検出装置を設けたことを特徴としている。
【0018】
このような本発明によれば、検出装置の検出結果に基づいて種々の設定条件を調整することができる。
さらに、前記検出装置は、流量センサーであっても良い。
【0019】
このように、流量センサーを設ければ、マイクロポンプから供給されてくる流体を電気的に検知することができるので、これに基づいて単位時間当たりの流量を調整することができる。
【0020】
また、前記流量センサーは、
前記作動流体の流れる流路内もしくはその流路の近傍にヒーターを配設した電気回路を備え、このヒーターの上流側から前記作動流体が流れてきたときの前記ヒーターの加熱状態からの冷却の度合いを、前記電気回路の電気抵抗値の変化で測定し、その検出結果に基づいて前記作動流体の流速を測定するセンサーであっても良い。
【0021】
さらに、本発明では、
前記検出装置は、流体のメニスカスを利用したセンサーであっても良い。
また、本発明では、前記メニスカスを利用したセンサーは、
前記作動流体の流れる流路内に所定距離離間して配置された2つの電気回路を備え、
前記作動流体が上流側から流れてきて前記一方の電気回路の一対の電極間を通過したときと、その作動流体がさらに流れて前記他方の電気回路の一対の電極間を通過したときとの時間差に基づいて、前記作動流体の流速が測定されるセンサーであることが好ましい。
【0022】
ここで、本発明では、前記メニスカスを利用したセンサーは、
前記作動流体の流れる流路内に配置された電気回路と、この電気回路の上流側に設けられた疎水性バルブと、を備え、
前記疎水性バルブの上流側から流れてきた前記作動流体が前記疎水性バルブを通過した後、さらに流れて前記電気回路の一対の電極間を通過したことを検知することにより、前記作動流体の流速が測定されるセンサーであることが好ましい。
【0023】
また、本発明では、前記メニスカスを利用したセンサーは、
複数個併設された流路間に配置された電極同士が直列でつながれた一つの電気回路を備え、
この電気回路の各流路内の各一対の電極のうち、最後の一対の電極間に作動流体が流れることにより、全ての流路間に作動流体が流れたことが検出されるセンサーでも良い。
【0024】
さらに、本発明では、前記検査対象を検査する光学的検知手段を移動可能に構成するとともに、この移動可能な光学的検知手段により、前記検査対象を検査することの他に、前記作動流体のメニスカスの通過を検出することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るマイクロ総合分析システムによれば、マイクロポンプから供給される流体の流れが安定していないとしても、流体の流れ速度などの情報を検出装置で検知できるので、その結果に基づいて流量を調整したり、あるいはピエゾポンプなどの圧力駆動源の調整を行い、安定した送液を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施例に係るマイクロ総合分析システムを示したものである。
このマイクロ総合分析システム10は、樹脂製の一枚のチップからなる検査チップ1と、この検査チップ1を所定位置にセットして、必要な情報を検査する流体制御検出装置2とから構成されている。
【0027】
検査チップ1は、例えば、血液または喀痰などから抽出された遺伝子検体を注入することにより、チップ内でICAN法などによる遺伝子増幅反応およびその検出を自動的に行い複数の遺伝子について同時に遺伝子診断ができるように構成されたものである。この検査チップ1は、縦横の長さが数センチのチップであり、このチップ内に例えば、2〜3μL程度の血液検体を滴下し、その後、流体制御検出装置2内に装着するだけで、自動的に増幅反応およびその検出ができる構成となっている。
【0028】
検査チップ1は、プラスチック樹脂、ガラス、シリコーン、セラミックスなどの適宜な部材を組み合わせた積層体により形成されるもので、好ましくは、加工が容易で安価、かつ焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂によって形成される。
【0029】
例えばポリスチレン樹脂は、成型性に優れ、ストレプトアビジンなどを吸着する傾向が強く、微細流路上に検出部位を容易に形成することができる。また、蛍光物質または呈色反応の生成物などを光学的に検出するために、検査チップ1の表面は透明となっていることが必要である。
【0030】
このような検査チップ1の構造を概略的に示せば、図2に示したように構成されている。
すなわち、検査チップ1は、血液などの検体が収容される検体収容部3と、例えば遺伝子増幅反応に用いる試薬が収容される試薬収容部4と、この検体収容部3から分岐して接続された液通路3aと、試薬収容部4に一端が接続された液通路4aと、これら液通路3aおよび液通路4aとがY字流路を介して接続された微細流路6などを有しており、各微細流路6の途中に検査流体検出部7が構成されている。そして、この検査流体検出部7では、例えば、LEDなどの発光素子8aと受光素子8bなどからなる光学的検出装置によって必要な情報が検出される。なお、検査流体検出部7の下流側には、検出後の混合流体を貯留するための廃液収容部が形成されている。
【0031】
このような検査チップ1は、ディスポーサブルとして用いられるが、検体収容部3内に検体あるいは作動用の流体を外部から供給できるように、検体収容部3に開口3bが形成されている。同様に、試薬収容部4も、外部から試薬あるいは作動用の流体を供給できるように、開口4bが形成されている。また、本実施例では、開口4bを介して外部から作動流体が供給される構造となっている。なお、検体収容部3から廃液収容部までに至る各液通路には、エアー抜きなどのためにスリットが形成されることにより、流体が流れるように構成されている。
【0032】
ところで、このような検査チップ1には、後に詳述する流体制御検出装置2に組み込まれたマイクロポンプを介して検体収容部3および試薬収容部4内にそれぞれ作動流体が導入される。そして、検体収容部3内に導入された作動流体により、検体収容部3内の検体が分岐通路3a内に配送される。また、流体制御検出装置2内のマイクロポンプを介して試薬収容部4内に作動流体が導入されると、その作動流体により、試薬が液通路4aからY字通路へ配送される。このようにして、液通路3aあるいは液通路4a内から供給されてくる検体と試薬とが1つの通路内で合流され、各微細流路6内で所定の反応が行われる。
【0033】
一方、図1に示したように、検査チップ1が着脱自在に装着される検査装置としての流体制御検出装置2は、任意の場所で検査を行うことができるように、軽量小型化が達成さ
れている。また、パネル面に検査チップ1を挿入するための入口14と、検出結果を外方に表示するための表示部18とが形成されている。入口14には、検査チップ1を載置して装置本体12の内方へ案内するための検査チップ搬送トレイ22が装置本体12の内方に向かって出没自在に配置され、この検査チップ搬送トレイ22を矢印方向に手で操作するか、あるいは図示しない制御盤からボタン操作を行うことにより、この搬送トレイ22の移動とともに検査チップ1が装置本体12の内方に案内される構造となっている。つまり、装置本体12の所定位置に配置された検査チップ接続部と、検査チップ1のマイクロポンプ接続部とがドッキングされ、そこから作動流体の供給が検査チップ1側に行われて、装置本体12内で検査対象の検出が行われるようになっている。
【0034】
流体制御検出装置2の装置本体12内には、図3および図4に示したように、上記検査チップ1内に作動流体を供給するマイクロポンプを備えたポンプユニット26と、検査チップ1内の混合液の情報を検知する検出ユニット8と、検査チップ1の試薬収容部や反応部などの所定部位における温度を所定の温度に設定する温度制御ユニット38などからなる主要検出ユニット60が具備されている。また、ポンプユニット26の下流には、検査チップ接続部64が形成され、この検査チップ接続部64から検査チップ1側に作動用の流体が供給される。
【0035】
さらに、ポンプユニット26の上流側には、マイクロポンプの駆動を制御するポンプ制御装置28と、作動流体31を貯留する作動流体貯留タンク30とが設けられている。
上記マイクロポンプとしてはピエゾポンプが用いられることが好ましい。
【0036】
このようなピエゾポンプによれば、ポンプの駆動電圧および周波数を変えることにより液体の送液方向、送液速度を制御することができる。
主要検出ユニット60では、ポンプ制御装置28からの指令信号に従って、作動流体貯留タンク30から作動流体31がポンプユニット26に供給され、このポンプユニット26のマイクロポンプから、下流に設けられた検査チップ接続部64を介して検査チップ1側に作動流体31が供給され、この作動流体31が検体収容部3または試薬収容部4へ供給される。
【0037】
その後、図2に示したように、検体収容部3内の検体と、試薬収容部4内の試薬とがY字流路を介して合流して混合され、微細流路6内の温度制御ユニット38により所定の温度に昇温され、反応が促進され、しかる後、検出ユニット8により反応が検出される。
【0038】
本実施例によるマイクロ総合分析システム10では、検査チップ1を流体制御検出装置2内に組み込んだときに、液通路などを連通させ、さらに液漏れなどが生じないようにするため、検査チップ1側のマイクロポンプ接続部1aと、流体制御検出装置2側の検査チップ接続部64とを密接に接続する必要がある。
【0039】
また、本実施例によるマイクロ総合分析システム10は、流体制御検出装置2側から検査チップ1側に、ポンプユニット26から供給される作動流体の流れ速度などの情報を得るための検出装置が具備されている。
【0040】
本実施例のマイクロ総合分析システムは上記のように構成されているが、以下に、本発明の要旨であるマイクロポンプの出力あるいはマイクロポンプ接続部における液漏などの影響を検知するための検出装置について、さらに具体的に説明する。
【0041】
図5は、さらに具体的な検査チップ80を示したもので、特に試薬を調合する部分のみを抜き出して示している。
この検査チップ80では、試薬供給用の3本の流路a,b,cが並列的に形成されてい
る。3種類の試薬A,B,Cは、試薬挿入用の開口72,74,76などから流路a,b,c内に供給され、予め所定量が注入される。そして、この検査チップ80では、図外のマイクロポンプから導出される作動流体が開口82,84,86に供給されると、予め貯留されている各試薬A,B,Cが独立した流路a,b,cを介して下流側に送液され、その後、合流部52で3試薬A,B,Cが合流された後、微細流路d内において効率良く混合され、さらに下流側で図外の検体収容部に収容された生体物質などの検体と混合されるものである。
【0042】
このような検査チップ80では、開口82,84,86から供給される作動流体の速度などを検出するために、各流路a,b,cに、それぞれ検出装置Eが具備されている。
この検出装置Eは、例えば、開口82,84,86のやや下流側に設けることが好ましい。このような位置に検出装置Eを設ければ、必要な情報を効果的に得ることができる。
【0043】
また、検出装置Eは、図5に示した位置の他に、流体制御検出装置2内のマイクロポンプの出口付近(図10における第2液室49の位置)などに設けることもできる。このように、流体制御検出装置2内に検出装置Eを設けておけば、検査チップ1に作動流体を流す前にマイクロポンプ出力の不具合が検知できるので、検査チップ、試薬、検体などを無駄にしなくて済む。また、マイクロポンプ出力の不具合があったときのメンテナンス(例えば外部から吸引機構でマイクロポンプ内の作動流体を強制吸引することで異物や気泡を排除する)動作が必要かどうかを、検査チップを設置する前に知ることができ、かつメンテナンス動作が有効だったかどうかも確認できるというメリットがある。
【0044】
この検出装置Eは、マイクロポンプから送られてくる作動用流体の流れ速度などの情報を検知するためのものであるが、検出装置Eとしては、必要に応じてどのような機構を利用してもよい。例えば、光学的検出手段、あるいは電気的検出手段など公知の手段で検出することができる。
【0045】
図6は検出装置Eとして流量センサー90を設ける場合の例を示したものである。
この流量センサー90は、流路92内あるいは流路92の近傍に、電熱線ヒーター94を配置して該ヒーターを加熱し、作動流体31が流路92内を流れると、その流速が速いほど電熱線ヒーター94が良く冷却されて電気抵抗値が下がることを利用した流量センサーである。
【0046】
ここで、電気抵抗値の変化は、一定電圧の電圧源96を用いて通電し、電流計98で電流量の変化を測定することで求められる。電熱線は、ニッケル・クロム系の合金やタングステンなどのワイヤーを用いるか、もしくは、基板上に金属薄膜(クロム、金、白金など)を、スパッタなどで成膜することで作成できる。この金属薄膜を流路92内に作成する場合は、液体に直接触れて漏電することを防止するために、その上にSiO2などの絶縁膜を保護膜として成膜することが望ましい。
【0047】
このように、本実施例によれば、検出装置Eからの検出結果により、流速を調整することができるので、常に安定した送液を実行することができる。これにより、試薬の必要量を極少量とし、適正な混合比率で検査対象を検査することに寄与する。
【0048】
図7は他の検出装置Eとして、流体のメニスカスを利用したメニスカスセンサー20を示したものである。
このメニスカスセンサー20は、流路92内に一対の電極24a、24bを備えた電気回路を配置し、作動流体31がその部分を流れると、電極24a、24b間が通電してメニスカスが通過したことを検知する方法である。この図7のように、検知部を所定距離離間して2つ配置すると、その時間差で流速を測定することができる。
【0049】
図8は、さらに他のメニスカスセンサー70を示したものである。
このメニスカスセンサー70は、流路92の上流側に疎水性の流体ストッパー(疎水性バルブ)54が介在されている。そして、作動流体31のメニスカス31aが一旦、疎水性バルブ54で止められた後にマイクロポンプで送液を行うという方法を用いれば、図8に示したように、流路92内の電気回路が一つだけであってもメニスカス31aが疎水性バルブ54から一対の電極24a,24bまでの移動に要する時間が測れるので、流量などを測定することができる。
【0050】
図9は、さらに他のメニスカスセンサー50を示したものである。
ここで、メニスカスセンサーの使用目的の一つに、何らかの原因の不具合が発生して当初の目的よりも流れが遅くなってしまった場合に、不具合が発生したという事実のみ判れば良い場合もある。そのような場合、複数ある流路92の全てにメニスカスセンサーを設けるとコスト的に高くなるので、図9に示したように、例えば、各流路92内の対向電極24a、24b同士を直列につなぎ、電流計98の数を一つにすることもできる。このようなメニスカスセンサー50を用いると、各流路92内の作動流体31のうち最も遅いものが検出部に到達する時間を測れるので、全ての流路92が正常がどうかを一つの電気回路で検知することができる。
【0051】
さらに、検出装置Eは上記各実施例に限定されない。例えば、流路92が透明であれば、メニスカスの通過を光学的に検出することもできる。このような光学的検出装置は、LEDとホトダイオードで構成できる。
【0052】
なお、本発明のマイクロ総合分析システムは、遺伝子増幅検査などの結果も光学的に検出するものであるため、その光学的検出手段(図2における発光素子8aと受光素子8b)と、検査チップとの相対位置関係を可動式に設定すれば、検査対象検出用の光学的検出手段を、メニスカスセンサーにも併用することができる。また、このような相対位置可動手段は、検査チップを搬送するための移動手段と兼用させる構成でも良い。
【0053】
さらに、検出装置Eによる検知結果がある許容範囲を越えたのであれば、警報装置などにより、音により警告を発することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は本発明の一実施例によるマイクロ総合分析システムの斜視図である。
【図2】図2は図1に示したマイクロ総合分析システムに使用される検査チップと検査方法の概略を説明する図である。
【図3】図3は図1に示した流体制御検出装置の内部に具備された主要検出ユニットに検査チップがドッキングされたときの概略断面図である。
【図4】図4は図3に示した主要検出ユニットの概略斜視図である。
【図5】図5は本実施例による検査装置が具備された他の検査チップにおける試薬調合部分のみを抜き出して示した平面図である。
【図6】図6は本発明に係るマイクロ総合分析システムに採用された検出装置の具体例として、流量センサーを示した概略図である。
【図7】図7は本発明に係るマイクロ総合分析システムに採用されたの検出装置の具体例として、メニスカスセンサーを示した概略図である。
【図8】図8は、さらに他のメニスカスセンサーを示した概略図である。
【図9】図9は、さらに他のメニスカスセンサーを示した概略図である。
【図10】図10は従来のマイクロ総合分析システムに具備されたマイクロポンプの一例としてピエゾポンプの概略を示した説明図で、図10(a)は断面図、図10(b)はその上面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 検査チップ
2 流体制御検出装置
3 検体収容部
3a 流路
4 試薬収容部
4a 流路
20 メニスカスセンサー
31 作動流体
50 メニスカスセンサー
54 疎水バルブ
70 メニスカスセンサー
90 流量センサー
92 流路
94 ヒーター
96 電圧源
98 電流計
E 検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの基板で本体が構成される検査チップ内に、作動流体を供給することにより、前記検査チップ内に予め収容された試薬と検体とを合流させ、合流部の下流域に形成された検出部で光学的検出手段により自動的に検査対象を検査するようにしたマイクロ総合分析システムにおいて、
前記検査チップ本体内の作動流体の流れ方向の上流側に、作動流体の流れ速度などの情報を得るための検出装置を設けたことを特徴とするマイクロ総合分析システム。
【請求項2】
前記検出装置は、流量センサーであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項3】
前記流量センサーは、
前記作動流体の流れる流路内もしくはその流路の近傍にヒーターを配設した電気回路を備え、このヒーターの上流側から前記作動流体が流れてきたときの前記ヒーターの加熱状態からの冷却の度合いを、前記電気回路の電気抵抗値の変化で測定し、その検出結果に基づいて前記作動流体の流速を測定するセンサーであることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項4】
前記検出装置は、流体のメニスカスを利用したセンサーであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項5】
前記メニスカスを利用したセンサーは、
前記作動流体の流れる流路内に所定距離離間して配置された2つの電気回路を備え、
前記作動流体が上流側から流れてきて前記一方の電気回路の一対の電極間を通過したときと、その作動流体がさらに流れて前記他方の電気回路の一対の電極間を通過したときとの時間差に基づいて、前記作動流体の流速が測定されるセンサーであることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項6】
前記メニスカスを利用したセンサーは、
前記作動流体の流れる流路内に配置された電気回路と、この電気回路の上流側に設けられた疎水性バルブと、を備え、
前記疎水性バルブの上流側から流れてきた前記作動流体が前記疎水性バルブを通過した後、さらに流れて前記電気回路の一対の電極間を通過したことを検知することにより、前記作動流体の流速が測定されるセンサーであることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項7】
前記メニスカスを利用したセンサーは、
複数個併設された流路間に配置された電極同士が直列でつながれた一つの電気回路を備え、
前記作動流体が上流側から流れてきた場合に、前記電気回路の各流路内の各一対の電極のうち、最後の一対の電極間に作動流体が流れることにより、全ての流路間に作動流体が流れたことが検出されるセンサーであることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項8】
前記検査対象を検査する光学的検知手段を移動可能に構成するとともに、この移動可能な光学的検知手段により、前記検査対象を検査することの他に、前記作動流体のメニスカスの通過を検出することを特徴とする請求項1または4に記載のマイクロ総合分析システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−275734(P2006−275734A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94611(P2005−94611)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】