説明

マクロパーティクルの計測方法と装置、表面処理方法と装置、および前記表面処理方法を用いて製造された製品

【課題】光っているマクロパーティクルのみならず、光っていないマクロパーティクルについても計測すること、さらにマクロパーティクルの速度分布のみならず、マクロパーティクルの粒度分布や帯電状態(正・負・中性)を計測する。
【解決手段】マクロパーティクルが通過可能な孔を有する電極をマクロパーティクルの移動方向と垂直に配置して、1つ以上の無電界空間および電界空間を形成させ、マクロパーティクルに外部光源より光を照射して粒径を計測すると共に、マクロパーティクルが無電界空間および電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測し、それに基づいてマクロパーティクルの無電界空間内における速度および電界空間内における速度変化を求め、粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測すると共に、速度および速度変化に基づいて、マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロパーティクルの計測方法と装置、表面処理方法と装置、および前記表面処理方法を用いて製造された製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材上に膜を形成させる技術など表面処理技術において、PVD法やCVD法などの蒸着法がよく用いられている。
【0003】
例えば、PVD法の一種である真空アーク蒸着法は、プラズマ密度が高いため膜応力の制御が容易であり、また基材と膜との間の界面に基材と膜の混合層を形成することにより極めて密着性が高い膜を形成することができるという特徴を有している。しかし、その一方で、陰極からマクロパーティクルと呼ばれる数ミクロン以上の巨大粒子が発生し易く、このマクロパーティクルがプラズマに混じって飛来し膜中に混入すると、膜剥離が生じ易くなるという欠点も有している。
【0004】
このため、マクロパーティクルを計測、モニターリングして、装置の運転条件の制御や管理、また定期的なメンテナンスを行う必要がある。
【0005】
マクロパーティクルの発生を計測する具体的な方法の一例として、パルス真空アーク放電によって発生するカーボンマクロパーティクルについて、光っているマクロパーティクルの軌道をCCDカメラで撮影し、その移動距離や移動方向などからマクロパーティクルの速度分布や角度分布を算出することにより、マクロパーティクルの速度計測が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thomas Schulke、Andre Anders、「Velocity distribution of carbon macroparticles generated by pulsed vacuum arcs」、Plasma Sources Sci. Technol.8 (1999) 567−571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の方法を含め従来の計測方法は、光っているマクロパーティクルについて計測することはできるものの、大半の光っていないマクロパーティクルについて計測することが不可能であった。また、マクロパーティクルの速度分布を計測することはできるものの、マクロパーティクルの粒度分布や帯電状態(正・負・中性)について計測することが不可能であった。
【0008】
このように、従来の計測方法の場合、光っているマクロパーティクルについてのみ計測しているため、得られる光情報が余りにも少なく、マクロパーティクルを効率的、効果的に削減させる対策を立てることが困難であった。また、PVD装置やCVD装置などの表面処理装置においてマクロパーティクルの発生をモニターリングしていても、モニターリング機能が不十分であるため、マクロパーティクルの増加を素速く検知することができず、マクロパーティクルが増加した状態のまま表面処理が続行され、膨大な損失を発生させる恐れがあった。
【0009】
このため、本発明は、光っているマクロパーティクルのみならず、光っていないマクロパーティクルについても計測すること、さらにマクロパーティクルの速度分布のみならず、マクロパーティクルの粒度分布や帯電状態(正・負・中性)を計測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、各請求項毎に説明する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測方法であって、
前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する電極を前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置して、1つ以上の無電界空間および1つ以上の電界空間を形成させ、
移動する前記マクロパーティクルに外部光源より光を照射して、前記マクロパーティクルの粒径を計測すると共に、前記マクロパーティクルが前記無電界空間および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測し、
計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を求め、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測すると共に、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する
ことを特徴とするマクロパーティクルの計測方法である。
【0012】
マクロパーティクルはその大きさ(粒径)や帯電状態により、無電界空間内および電界空間内における速度および速度変化が異なる。このため、本請求項の発明のように、無電界空間および電界空間内における速度および速度変化を求めることにより、マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測することができる。
【0013】
具体的には、無電界空間内ではマクロパーティクルは等速度運動をしているため、マクロパーティクルが無電界空間内に予め定められた距離の始端と終端を通過する時刻を外部光源より照射した光を用いて計測することにより、移動時間を求めることができ、さらにこの移動時間と移動距離とから無電界空間内においてマクロパーティクルが移動する速度を求めることができる。そして、多くのマクロパーティクルについてこの速度を求めることにより、マクロパーティクルの速度分布を計測することができる。
【0014】
一方、電界空間内ではマクロパーティクルは電界からの影響を受けるため、加速度運動して移動する速度が変化する。そこで、マクロパーティクルが電界空間内に予め定められた所定距離の始端と終端を通過する時刻を外部光源より照射した光を用いて計測して移動時間を求めることにより、電界空間内においてマクロパーティクルが移動する際の速度変化(加速度)を求めることができる。
【0015】
そして、電界空間内におけるマクロパーティクルの速度変化は、マクロパーティクルの帯電状態と関係している。このため、多くのマクロパーティクルについてその速度変化を求めることにより、マクロパーティクルの帯電状態を計測することができる。
【0016】
また、マクロパーティクルに外部光源より光を照射して、多くのマクロパーティクルについて粒径を計測することにより、マクロパーティクルの粒度分布を計測することができる。
【0017】
そして、本請求項の発明においては、これらの計測に際して、上記のように、移動するマクロパーティクルに対して外部光源より光を照射する方法を採用している。このため、光っていないマクロパーティクルに対しても計測することが可能となり、従来の計測方法に比べて遙かに多くの光情報を得ることができる。
【0018】
このように、本請求項の発明によれば、マクロパーティクルについての多くの光情報に基づいて、より高い精度でマクロパーティクルの速度分布、粒度分布、帯電状態の計測を行うことができるため、この計測結果に基づきマクロパーティクルの削減対策を検討することにより、マクロパーティクルの発生を効率的、効果的に削減させることができる。
【0019】
また、これらの計測はin−situ計測することができるため、マクロパーティクルに対するモニターリング機能が大きく向上し、マクロパーティクルの増加を素速く検知することが可能となる。この結果、的確に表面処理の運転、停止を行うことができる。
【0020】
なお、電極はマクロパーティクルの移動方向に間隔を置いて複数設けた方が好ましいが、シース電界を利用する場合には、1つであっても良い。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測方法であって、
前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する第1電極および第2電極を、所定の間隔を隔てて前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置することにより、前記第1電極よりも上流側に無電界空間を形成させると共に、前記第1電極と前記第2電極との間に電界空間を形成させ、
移動する前記マクロパーティクルに外部光源より光を照射して、前記マクロパーティクルの粒径を計測すると共に、前記マクロパーティクルが前記無電界空間内および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測し、
計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を求め、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測すると共に、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する
ことを特徴とするマクロパーティクルの計測方法である。
【0022】
本請求項の発明は、2つの電極を設けることにより1つの電界空間を形成して計測を行うものであり、簡易に正確で効率的に上記の優れた計測を行うことができる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、
前記第1電極にはプラズマ電位を設定し、前記第2電極には前記第1電極の電位よりも低いあるいは高い電位を設定し、
前記外部光源から前記マクロパーティクルへの光の照射は、前記マクロパーティクルが移動する経路の前記第1電極から所定距離手前の位置、前記第1電極に設けられた孔の位置、前記第2電極に設けられた孔の位置の3点で行う
ことを特徴とする請求項2に記載のマクロパーティクルの計測方法である。
【0024】
本請求項の発明は、前項の発明をより具体的に規定するものであり、これら3点でマクロパーティクルの光情報を取得することにより、容易にかつ精度高く、マクロパーティクルの計測を行うことができる。
【0025】
請求項4に記載の発明は、
前記外部光源が、レーザーであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法である。
【0026】
レーザーは、指向性および透過性に優れているため、外部光源として好ましい。
【0027】
請求項5に記載の発明は、
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光をCCDカメラにより受光して計測することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法である。
【0028】
CCDカメラは、光に対する感度が高く、ノイズが少ないため、高い精度の光情報を取得することができる。
【0029】
請求項6に記載の発明は、
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光が、散乱光であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法である。
【0030】
散乱光を用いることにより、通常のレーザー散乱光計測システムを利用して、容易に光情報を取得することができる。
【0031】
請求項7に記載の発明は、
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光が、回折光であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法である。
【0032】
回折光を用いることにより、通常のレーザー回折光計測システムを利用して、容易に光情報を取得することができる。
【0033】
請求項8に記載の発明は、
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測装置であって、
前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置され、前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する複数の電極と、
前記電極により1つの無電界空間および1つまたは2つ以上の電界空間を形成させる複数の電源と、
移動する前記マクロパーティクルに光を照射する複数の外部光源と、
光を照射された前記マクロパーティクルからの光を受光する複数の受光手段と
が備えられており、
さらに、前記受光手段により受光された光に基づいて前記マクロパーティクルの粒径を計測する粒径計測手段と、
前記マクロパーティクルが前記無電界空間および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測する時間計測手段と、
前記時間計測手段により計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を算出する速度および速度変化算出手段と、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測する粒度分布計測手段と、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する速度分布および帯電状態計測手段と
が備えられていることを特徴とするマクロパーティクルの計測装置である。
【0034】
本請求項の発明は、請求項1に記載のマクロパーティクルの計測方法を備えたマクロパーティクルの計測装置であり、前記したように、より高い精度でマクロパーティクルの速度分布、粒度分布、帯電状態の計測を行うことができ、マクロパーティクルの発生を効率的、効果的に削減させることができる。
【0035】
また、高いモニターリング機能により、マクロパーティクルの増加を素速く検知して、的確に表面処理の運転、停止を行うことができる。
【0036】
請求項9に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法を用いて、表面処理前、表面処理中、表面処理後の少なくとも1回、マクロパーティクルの計測を行うことを特徴とする表面処理方法である。
【0037】
表面処理前、表面処理中、表面処理後の少なくとも1回、マクロパーティクルの計測を行うことにより、マクロパーティクルの発生を効率的、効果的に削減させて、高品質の表面処理を安定して行うことができる。
【0038】
請求項10に記載の発明は、
請求項8に記載のマクロパーティクルの計測装置を備えていることを特徴とする表面処理装置である。
【0039】
前記したマクロパーティクルの計測装置を備えることにより、マクロパーティクルの発生を効率的、効果的に削減させることができると共に、マクロパーティクルのモニターリングを的確に行うことができる。この結果、高品質の表面処理を安定して行うことができる。
【0040】
請求項11に記載の発明は、
請求項9に記載の表面処理方法を用いて表面処理されていることを特徴とする製品である。
【0041】
マクロパーティクルの発生が、効率的、効果的に削減されると共に、マクロパーティクルのモニターリングが的確に行われているため、高品質に表面処理された製品を安定して提供することができ、機械、自動車、家電製品などの部品として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、光っているマクロパーティクルのみならず、光っていないマクロパーティクルについても計測することができる。また、マクロパーティクルの速度分布のみならず、マクロパーティクルの粒度分布や帯電状態を計測することができる。
【0043】
そして、この計測結果に基づきマクロパーティクルの削減対策を検討することにより、マクロパーティクルの発生を効率的、効果的に削減させることができる。
【0044】
また、これらの計測はin−situ計測することができるため、マクロパーティクルに対するモニターリング機能が大きく向上し、マクロパーティクルの増加を素速く検知することが可能となり、的確に表面処理の運転、停止を行うことができる。
【0045】
そして、このマクロパーティクルの計測方法を用いて表面処理することにより、高品質に表面処理された製品を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るマクロパーティクルの計測方法を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るマクロパーティクルの計測方法を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るマクロパーティクル計測装置を備えた真空アーク蒸着装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態につき、具体的に説明する。
【0048】
1.マクロパーティクルの計測方法の概要
最初に、本実施の形態に係るマクロパーティクルの計測方法の概要について説明する。図1は、本実施の形態に係るマクロパーティクルの計測方法を模式的に示す図であり、本実施の形態においてはマクロパーティクルをin−situ計測している。
【0049】
図1において、20は図上を右から左に移動するマクロパーティクルである。そして、31はマクロパーティクル20の移動方向の手前側に設けられた第1電極であり、32は第1電極31からマクロパーティクル20の移動方向に沿って所定の距離(L)を隔てて設けられた第2電極である。図1に示すように、第1電極31および第2電極32は、マクロパーティクル20の移動方向に対して垂直に設けられており、各電極の中央部にはマクロパーティクル20が通過可能な孔31a、32aが設けられている。
【0050】
第1電極31および第2電極32には、外部電源より電圧が印加されている。具体的には、第1電極31にはその電位がプラズマ電位と同じになる電圧が、また第2電極32には第1電極31よりV(ボルト)低い電位になる電圧が印加されている。なお、プラズマ電位については、予めシングルプローブ法により測定しておく。
【0051】
そして、第1電極31の手前側の所定距離(L)の地点A、第1電極31の孔31aの入口地点B、第2電極32の孔32aの出口地点Cでは、通過するマクロパーティクル20に対して、図示しない外部光源よりレーザー光35a、36a、37aが照射されている。照射された各レーザー光はマクロパーティクル20と衝突した後、散乱光35b、36b、37bを生じる。
【0052】
各散乱光は、図示しないCCDカメラにより検出され、レーザー散乱光計測システムによって、通過するマクロパーティクル20の粒径が計測され、さらに粒径分布が計測される。
【0053】
2.マクロパーティクルの計測方法の原理
次に、本実施の形態に係るマクロパーティクルの計測方法の原理について説明する。移動するマクロパーティクル20は、第1電極31の孔31aの手前側では、この空間が無電界空間であるため、等速度運動をする。
【0054】
しかし、第1電極31と第2電極32の間には電界空間が形成されているため、この空間を移動するマクロパーティクル20は加速度運動をする。例えば、マクロパーティクル20が正イオンの場合には加速され、負イオンの場合には減速される。中性の場合には電界空間からの影響を受けないため、前記した等速度運動をするが、ここでは、加速度を0と考え、この場合も加速度運動をするとして考える。
【0055】
具体的には、地点A、B、Cにおいて、レーザー散乱光が計測された時間をそれぞれt(sec)、t(sec)、t(sec)とし、第1電極31の右側で等速度運動をするマクロパーティクル20の速度をv(m/sec)とし、第2電極32を通過した直後のマクロパーティクル20の速度をv(m/sec)とした場合、下記の(1)式が成り立つ。そして、この計測に基づき、マクロパーティクル20の速度分布が計測される。
【0056】
【数1】

【0057】
また、第1電極31と第2電極32の間における加速度運動の加速度をa(m/sec)とすると、下記の(2)式が成り立つ。
【0058】
【数2】

【0059】
この結果、上記(1)式および(2)式より、加速度aは(3)式として求められる。
【0060】
【数3】

【0061】
さらに、マクロパーティクル20の質量をm(kg)、価数をZ、電気素量をe(C)とすると、第1電極31と第2電極32との間における運動方程式は、下記の(4)式のようになる。
【0062】
【数4】

【0063】
従って、(3)式および(4)式より、(5)式が成り立つ。
【0064】
【数5】

【0065】
一方、レーザー散乱光計測によって得られたマクロパーティクル20の粒径(直径)をd(m)、マクロパーティクル20の密度をρ(kg/m)とすると、マクロパーティクル20の質量m(kg)は、下記の(6)式によって求めることができる。
【0066】
【数6】

【0067】
よって、(5)式および(6)式よりマクロパーティクル20の価数Zは、下記の(7)式により求めることができる。
【0068】
【数7】

【0069】
この(7)式を用いることにより、マクロパーティクル20の帯電状態について、価数のみならず、マクロパーティクル20が正、負、中性のいずれであるかも算出することができる。
【0070】
即ち、例えば、Z=3であった場合、マクロパーティクル20は正イオンでその価数は3となる。そして、Z=−5であった場合、マクロパーティクル20は負イオンでその価数は5となる。また、Z=0であった場合、マクロパーティクル20は中性粒子ということになる。
【0071】
以上のように、本計測方法を用いることにより、第1電極31および第2電極32間を通過するほぼ全てのマクロパーティクル20を対象として、マクロパーティクル20の粒度、速度のみならず、帯電状態、すなわち正、負、中性のいずれであるかを計測し、さらにイオンの場合はその価数までをin−situ計測することができる。
【0072】
このため、後述するように本計測方法を表面処理装置に適用した場合、マクロパーティクルの発生源を特定しやすくなり、重点的、効率的なメンテナンスが可能になる。さらにモニターリング機能が大きく向上するため、表面処理装置の安定した運用が可能になる。
【0073】
3.他の形態
前記の形態においては、A、B、Cの3地点でレーザー散乱光の計測を行っているが、実際のレーザー散乱光計測においては、レーザーやCCDカメラなどの設置における制限や、CCDカメラによる検出のサンプリングレートが有限の値であることから、第1地点Aでの計測は可能であっても、第1電極31の入口付近の第2地点Bや第2電極32の出口付近の第3地点Cでは計測ができない場合がある。
【0074】
そこで、本形態においては、前記の形態における第2地点B、第3地点Cに替えて、新たな第2地点Dおよび第3地点Eを設けることにより、同様の計測を行っている。
【0075】
図2は、本形態に係るマクロパーティクルの計測方法を模式的に示す図であり、図1に示した第2地点Bよりも手前側に第2地点Dを設け(第1地点Aとの距離:L)、さらに、第1電極31と第2電極32の間で図1に示した第3地点Cよりも手前側に第3地点Eを設けている(第1電極31との距離:L)。
【0076】
地点A、D、Eにおいて、レーザー散乱光が計測された時間をそれぞれt(sec)、t(sec)、t(sec)とし、第1電極31の右側で等速度運動をするマクロパーティクル20の速度をv(m/sec)とし、第2電極32を通過した直後のマクロパーティクル20の速度をv(m/sec)とすると、第1の実施の形態と同様に、下記の(8)式および(9)式が成り立つ。
【0077】
【数8】

【0078】
【数9】

【0079】
このように、レーザー散乱光計測を電極31、32の近傍で行なえない場合であっても、前記の形態の場合と同様に、マクロパーティクル20の粒度分布、速度分布、耐電状態を計測することができる。
【0080】
4.マクロパーティクルの計測方法を表面処理装置に適用した例
次に、上記したマクロパーティクルの計測方法を表面処理装置に適用した例として、真空アーク蒸着装置を示す。
【0081】
図3は、本実施の形態に係る真空アーク蒸着装置を模式的に示す図であり、図3に示すように、真空アーク蒸着装置10は、真空チャンバ11と、マクロパーティクルの計測装置30とを備えている。
【0082】
真空チャンバ11は、図示しないターボ分子ポンプ、ロータリーポンプなどの排気系によって所定の真空度にまで真空排気される。その後、基材13と蒸発材料で構成された陰極12との間に、図示しない直流電源によってアーク放電を開始させてプラズマ15を発生させる。これにより、陰極12から蒸発材料を蒸発させて基材13に成膜を行なう。
【0083】
具体的な一例として、陰極12の蒸発材料としてチタンを用い、真空チャンバ11内に窒素ガスを導入することにより、基材13上には窒化チタンが成膜される。
【0084】
真空チャンバ11は、レーザー光を透過可能で、かつ、散乱光又は回折光を透過可能なビューポート14を有している。
【0085】
真空アーク蒸着法は、プラズマ密度が高いため、膜応力の制御が容易であり、また基材13と成膜層との間の界面に混合層を形成することによって、極めて密着性の高い膜の形成が可能になる。
【0086】
一方、陰極12からは、マクロパーティクルが発生し易く、このマクロパーティクルがプラズマ15に混じって飛来し、膜中に混入することによって膜剥離を生じやすくなるという欠点があるため、真空アーク蒸着装置の運転条件の制御や管理、定期的なメンテナンスが必要になり、マクロパーティクルを計測するモニターリング機能が必要になる。
【0087】
具体的には、マクロパーティクルの計測装置30を用いてマクロパーティクル20を計測し、所定のマクロパーティクル数以下であれば、成膜を実施する。
【0088】
マクロパーティクルの計測装置30は、上記したように、第1電極31と、第2電極32と、第1電極31に電圧を印加する第1電源33と、第2電極32に電圧を印加する第2電源34とを備えている。
【0089】
第1電極31および第2電極32は、マクロパーティクル20が通過可能な孔31a、32a(図1参照)を有する板状の電極で、互いに所定の間隔を隔てて配置されている。
【0090】
第1電極31は、基材13の近傍であってビューポート14を通して真空チャンバ11の外部から光を照射可能な位置に配置されている。第2電極32は、第1電極31からマクロパーティクル20の進行方向、すなわち陰極12から基材13に向かう方向に所定の間隔を隔てて配置されている。
【0091】
第1電源33は、第1電極31に対してプラズマ電位になる電圧が印加され、第2電源34は、第2電極32に対して第1電極31よりも高い電位になる電圧が印加される。
【0092】
マクロパーティクル計測装置30は、さらに、第1〜第3のレーザー光源35、36、37と、第1および第2のCCDカメラ38、39とを備えており、第1および第2のCCDカメラ38、39はコンピュータ40に接続されている。
【0093】
コンピュータ40には、前記したt、t、tなどを計測する時間計測手段、速度および速度変化を算出する速度および速度変化算出手段、粒度分布を計測する粒度分布計測手段、速度分布および帯電状態を計測する速度分布および帯電状態計測手段がプログラムとして予め内蔵されている。
【0094】
第1〜第3のレーザー光源35、36、37は、真空チャンバ11のビューポート14を通してマクロパーティクル20に光を照射するものであり、マクロパーティクル20が反射する反射光(例えば、散乱光、回折光)は、第1および第2のCCDカメラ38、39によって撮影してマクロパーティクル20の粒径が計測される。
【0095】
そして、上記のように、(1)式および(7)式、あるいは(8)式および(9)式を用いてマクロパーティクルの速度分布および帯電状態が算出される。
【0096】
クルマクロパーティクル20の計測後、マクロパーティクル20の発生量が所定のマクロパーティクル数以下であれば成膜を実施することになるが、成膜中は、マクロパーティクル数を常時、あるいは一定時間間隔などで計測を行ない、成膜中のマクロパーティクルの発生量を監視する。
【0097】
成膜前におけるマクロパーティクル20の計測によってマクロパーティクル20が所定のマクロパーティクル数以上であれば、成膜を行なわないで真空アーク蒸着装置10のメンテナンスを行なうことになるが、マクロパーティクル数の推移をデータベース化することによって、メンテナンスサイクルなどは予測することが可能になり、効率的な装置管理、生産管理ができる。
【0098】
また、真空アーク蒸着装置10において、マクロパーティクル20の発生源は陰極12が主な発生源になるが、真空チャンバ11の内壁などに付着堆積した膜が剥がれた場合も発生の原因となる。
【0099】
通常、これらのマクロパーティクル20は、真空チャンバ11内のプラズマ15空間を経て基材13に到着して付着すると考えられ、マクロパーティクル20がプラズマ15空間を運動する場合、プラズマ15中の電子が付着して負に帯電する。
【0100】
そして、マクロパーティクル20の移動時間(移動距離)が長いほど、負に帯電していくため、負に帯電したマクロパーティクル20は基材13から比較的遠い位置に発生個所がある可能性が高い。
【0101】
逆に、正に帯電したマクロパーティクル20は、基材13から遠い位置が発生個所であれば、基材13までの運動中にプラズマ中の電子が付着して負に帯電することになると考えられる。このため、正に帯電したマクロパーティクル20が正に帯電したままで計測されれば、マクロパーティクル20は基材13から比較的近い位置で発生している可能性が高くなる。
【0102】
このように、マクロパーティクル20がどのように帯電しているかをモニターリングすることにより、マクロパーティクル20の発生箇所をある程度特定することが可能となる。このため、真空アーク蒸着装置10を重点的かつ効率的にメンテナンスすることができ、成膜プロセスを、効率的かつ高い生産性の下で運用できるようになる。
【0103】
以上、真空アーク蒸着装置を例に挙げて説明したが、本実施の形態において示したマクロパーティクルの計測は、他のPVD法やCVD法などの他の蒸着装置や半導体エッチング装置など、マクロパーティクルが発生し得る表面処理装置全てに対して適用可能である。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 真空アーク蒸着装置
11 真空チャンバ
12 陰極
13 基材
14 ビューポート
15 プラズマ
20 マクロパーティクル
30 マクロパーティクルの計測装置
31 第1電極
31a 第1電極の孔
32 第2電極
32a 第2電極の孔
33 第1電源
34 第2電源
35 第1レーザー光源
36 第2レーザー光源
37 第3レーザー光源
35a、36a、37a レーザー光
35b、36b、37b 散乱光
38 第1のCCDカメラ
39 第2のCCDカメラ
40 コンピュータ
A 第1地点
B、D 第2地点
C、E 第3地点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測方法であって、
前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する電極を前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置して、1つ以上の無電界空間および1つ以上の電界空間を形成させ、
移動する前記マクロパーティクルに外部光源より光を照射して、前記マクロパーティクルの粒径を計測すると共に、前記マクロパーティクルが前記無電界空間および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測し、
計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を求め、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測すると共に、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する
ことを特徴とするマクロパーティクルの計測方法。
【請求項2】
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測方法であって、
前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する第1電極および第2電極を、所定の間隔を隔てて前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置することにより、前記第1電極よりも上流側に無電界空間を形成させると共に、前記第1電極と前記第2電極との間に電界空間を形成させ、
移動する前記マクロパーティクルに外部光源より光を照射して、前記マクロパーティクルの粒径を計測すると共に、前記マクロパーティクルが前記無電界空間内および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測し、
計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を求め、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測すると共に、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する
ことを特徴とするマクロパーティクルの計測方法。
【請求項3】
前記第1電極にはプラズマ電位を設定し、前記第2電極には前記第1電極の電位よりも低いあるいは高い電位を設定し、
前記外部光源から前記マクロパーティクルへの光の照射は、前記マクロパーティクルが移動する経路の前記第1電極から所定距離手前の位置、前記第1電極に設けられた孔の位置、前記第2電極に設けられた孔の位置の3点で行う
ことを特徴とする請求項2に記載のマクロパーティクルの計測方法。
【請求項4】
前記外部光源が、レーザーであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法。
【請求項5】
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光をCCDカメラにより受光して計測することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法。
【請求項6】
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光が、散乱光であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法。
【請求項7】
前記マクロパーティクルに照射された外部光源からの光が、回折光であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法。
【請求項8】
プラズマ源により発生するプラズマに含まれるマクロパーティクルを計測するマクロパーティクルの計測装置であって、
前記マクロパーティクルの移動方向と垂直に配置され、前記マクロパーティクルが通過可能な孔を有する複数の電極と、
前記電極により1つの無電界空間および1つまたは2つ以上の電界空間を形成させる複数の電源と、
移動する前記マクロパーティクルに光を照射する複数の外部光源と、
光を照射された前記マクロパーティクルからの光を受光する複数の受光手段と
が備えられており、
さらに、前記受光手段により受光された光に基づいて前記マクロパーティクルの粒径を計測する粒径計測手段と、
前記マクロパーティクルが前記無電界空間および前記電界空間内において所定距離を移動するために要した時間を計測する時間計測手段と、
前記時間計測手段により計測されたそれぞれの移動距離および移動時間に基づいて、前記マクロパーティクルの前記無電界空間内における速度および前記電界空間内における速度変化を算出する速度および速度変化算出手段と、
前記粒径に基づいて、前記マクロパーティクルの粒度分布を計測する粒度分布計測手段と、
前記速度および速度変化に基づいて、前記マクロパーティクルの速度分布および帯電状態を計測する速度分布および帯電状態計測手段と
が備えられていることを特徴とするマクロパーティクルの計測装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のマクロパーティクルの計測方法を用いて、表面処理前、表面処理中、表面処理後の少なくとも1回、マクロパーティクルの計測を行うことを特徴とする表面処理方法
【請求項10】
請求項8に記載のマクロパーティクルの計測装置を備えていることを特徴とする表面処理装置。
【請求項11】
請求項9に記載の表面処理方法を用いて表面処理されていることを特徴とする製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−230080(P2012−230080A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100017(P2011−100017)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】