説明

マグネシウムおよびマグネシウム合金基材の改良されたジンケート処理のための組成物および方法

マグネシウムおよびマグネシウム合金基材をジンケート処理するための改良された組成物および方法。約8から約11のpHを有し、かつ亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および還元剤を含む、水性ジンケート処理組成物。マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって、非電解水性ジンケート処理組成物を、基材上に亜鉛酸塩を析出させるに充分な時間浸漬する工程、を含む、方法。マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって、亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオンを含み、そして約8から約11の範囲のpHを有する水性非電解組成物を調製する工程;該組成物に、該マグネシウムまたはマグネシウム合金基材上への亜鉛酸塩の析出を向上させるに充分な量の還元剤を添加する工程;および該基材を該組成物中に、該亜鉛酸塩を該基材上に析出させるに充分な時間浸漬する工程;を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムおよびマグネシウム合金から形成される基材に適用するものとしてのジンケート処理(zincating)の分野に関する。より詳細には、本発明は、このような基材に亜鉛酸塩コーティングを付与するための改良された組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属メッキ分野において、長く知られているものに、マグネシウムおよびマグネシウム合金の基材が他の金属でメッキされるのに最も困難な金属基材の1つである。マグネシウムおよびマグネシウム合金製基材の上に様々な金属の信頼性ある良好なコーティングを得るために、多くの組成物および方法が用いられてきた。しかし、このようにして得られたコーティングは、基材上に形成される層の品質という観点、要求される方法の複雑さという観点、またはその両方から充分に満足し得るものではなかった。形成される層の品質は、マグネシウムまたはマグネシウム合金の基材に与えられる密着性、被覆の完全性、外観または保護の1つまたはそれ以上の点で不充分であった。
【0003】
マグネシウムおよびマグネシウム合金の基材が他の金属でメッキされるには大変困難な金属基材であるという事実により、このような基材をジンケート処理するための改良された組成物および方法が長年の要求である。この動機付けと多くの試みにも関わらず、この長く感じられ続けているニーズは満足されず、未だそのまま残存している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、マグネシウムまたはマグネシウム合金の基材上に強固に密着した金属コーティングを提供するという問題の解決を提供するものであり、マグネシウムおよびマグネシウム合金基材をジンケート処理するための改良された組成物および方法を提供することによるものである。提供される亜鉛酸塩コーティングは、従来のジンケート処理組成物および方法の使用により得られるものに対して著しく向上されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、1つの実施態様では、本発明は、約8〜約11のpHを有し、かつ亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および還元剤を含む、水性ジンケート処理組成物に関する。
【0006】
別の実施態様では、本発明は、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって:
該基材を非電解水性ジンケート処理組成物中に、該基材上に亜鉛酸塩を析出させるに充分な時間浸漬する工程を含み、
ここで、該組成物が亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオンおよび還元剤を含み、かつ約8〜約11の範囲のpHを有する、方法に関する。
【0007】
別の実施態様では、本発明は、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって:
亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および約8〜約11の範囲のpHを含む水性非電解組成物を調製する工程;
該組成物に、該マグネシウムまたはマグネシウム合金基材上の亜鉛酸塩の析出を向上させるに充分な量の還元剤を添加する工程;ならびに
該基材を該組成物中に、該亜鉛酸塩を該基材上に析出させるに充分な時間浸漬する工程;を含む、方法に関する。
【0008】
1つの実施態様では、該錯形成剤は、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、リン酸塩、またはそれらの2つまたはそれ以上の混合物として提供される。
【0009】
1つの実施態様では、該塩は、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンまたはアンモニウムカチオン、あるいはそれらの混合物を含む。
【0010】
1つの実施態様では、該亜鉛イオンは、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、クエン酸亜鉛、またはスルホン酸亜鉛の1つまたはそれ以上として提供される。
【0011】
1つの実施態様では、該フッ化物イオンは、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、フッ化アンモニウム、またはフッ化水素アンモニウムの1つまたはそれ以上として提供される。
【0012】
1つの実施態様では、該還元剤は、次亜リン酸塩、ボラン化合物、水素化ホウ素、ヒドラジン、アルキルおよび/またはアリール置換されたヒドラジン、亜リン酸塩、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ホルムアルデヒド、次亜リン酸、および亜リン酸の1つまたはそれ以上として提供される。
【0013】
1つの実施態様では、該組成物は:
約0.005M〜約1.5Mの亜鉛イオン、
約0.01M〜約2Mの錯形成剤、
約0.0025M〜約1.5Mのフッ化物イオン、および
約0.005M〜約1.5Mの還元剤、を含む。
【0014】
1つの実施態様では、該亜鉛酸塩の析出および/または少なくとも1つの特性は、還元剤の不在における同様の方法と比較して向上している。
【0015】
1つの実施態様では、該還元剤の量は、該基材上に析出した該亜鉛酸塩の少なくとも1つの特性を向上させるに充分であり、ここで、該少なくとも1つの特性は、
明度(brightness)、色彩、輝度(shininess)、該基材に対する密着性、および厚みの均一さの1つまたはそれ以上を含む。
【発明の効果】
【0016】
したがって、本発明は、マグネシウムおよびマグネシウム合金の基材を他の金属でメッキするための調製において、このような基材のジンケート処理のための改良された組成物および方法の長年の要求に対して満足し得る解決に取り組み、そして提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示および特許請求の範囲を通じ、範囲および比の数値限定は組み合わせてもよく、かつ全ての範囲は、単位の増加(unit increment)において全ての部分範囲を包含するものとする。
【0018】
本開示および特許請求の範囲を通じ、代替物の列挙において、本開示は各々の列挙された代替物と他の列挙における各々の代替物との全ての可能な組み合わせを包含するものとし、その結果、全ての可能な代替物のあらゆる組合わせが本発明の開示の範囲内にあるものとする。さらに、列挙された代替物の群でなるいかなる個々の要素も、その列挙から削除されてもよく、かつこのような削除から生じるあらゆるサブコンビネーションが、本発明の開示の範囲内にあるものとする。
【0019】
<基材>
本発明に係る組成物および方法が適用される基材は広範な物品を包含し、共通してそれらはマグネシウムまたはマグネシウム合金から形成されている。マグネシウム合金は、例えば、ISO 16220:2005、ASTM B94-07 Standard Specification for Magnesium-Alloy Die Castings、および種々の他の工業、軍事および/または政府規格にて定義されている。本明細書にて使用されるように、用語「マグネシウム」および「マグネシウム合金」とは、当該分野において理解されるようにこれらの材料を包含するものとして定義する。
【0020】
以下のマグネシウム合金は、例示であって限定されることのない目的のみをもって提供され、理解すべきことは、本発明は一般にマグネシウムと全てのマグネシウム合金とに対して適用可能である。多くのマグネシウム合金は、一次合金金属を指し示す略称によって識別される。例えば、アルミニウムが頻繁に存在し、多くのマグネシウム合金には「A」で始まる名称が付けられている。したがって、マグネシウム合金としては、例えば、マグネシウム合金AZ91A、−B、−C、−D、および−Eのような合金が挙げられ、これらは、アルミニウムを8.1%〜9.7%、亜鉛を0.35%〜1%、および変動量のマンガン、シリコン、銅、ニッケル、鉄および他の微量元素を含有する。多くの他のマグネシウムの合金が公知であるが、AZ91合金は特に重要である。上記の通り、多くの公知のマグネシウム合金が存在し、前述のものは例示的なサンプルとしてのみ表すものである。本発明は、特に他に示されていない限りは、全てのマグネシウム合金に適用され得るものとみなす。
【0021】
<組成物>
本発明の実施態様によれば、マグネシウムおよびマグネシウム合金をジンケート処理するために用いられる組成物は水性ジンケート処理組成物であり、該組成物は約8〜約11のpHを有し、かつ亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および還元剤を含有する。
【0022】
上記範囲に加えて、1つの実施態様では、このpHは約9〜約11の範囲であり、そして他の実施態様では、このpHは約9.5〜約10.5の範囲である。この文脈において、「約」は、各々特定された値から+/−して0.1のpH単位のpH範囲を含む。pHは、適切なpHメータをジンケート処理組成物の操作温度で使用することにより測定される。
【0023】
1つの実施態様では、亜鉛イオンは、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、クエン酸亜鉛またはスルホン酸亜鉛の1つまたはそれ以上として提供される。他の水溶性亜鉛の塩も使用され得る。
【0024】
1つの実施態様では、錯形成剤は、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、リン酸塩、あるいはそれらの2つまたはそれ以上の混合物として提供される。1つの実施態様では、ピロリン酸塩はカリウムカチオン、ナトリウムカチオン、またはアンモニウムカチオン、あるいはそれらの混合物を含む。1つの実施態様では、錯形成剤は、ピロリン酸四カリウムであるかまたはそれを含有し、そして別の実施態様では、錯形成剤は、ピロリン酸四ナトリウムであるかまたはそれを含有し、そして別の実施態様では、錯形成剤は、ピロリン酸四アンモニウムであるかまたはそれを含有する。もちろん、他の錯形成剤が用いられてもよいが、前述のリンをベースとする錯形成剤が有用であることが見出された。
【0025】
1つの実施態様では、フッ化物イオンは、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、フッ化アンモニウム、またはフッ化水素アンモニウムの1つまたはそれ以上として提供される。他の可溶性フッ化物の塩もまた使用され得る。
【0026】
1つの実施態様では、亜鉛とフッ化物がフッ化亜鉛として添加され、この使用は、組成物に添加される他のイオンの数を最小化する。
【0027】
1つの実施態様では、還元剤は、次亜リン酸塩、ボラン化合物、水素化ホウ素、ヒドラジン、アルキルおよび/またはアリール置換されたヒドラジン、亜リン酸塩、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ホルムアルデヒド、次亜リン酸、ならびに亜リン酸の1つまたはそれ以上として提供される。1つの実施態様では、還元剤は、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ジメチルアミノボラン(DMAB)、または硫酸ヒドロキシルアミン(HAS)のうちの1種またはそれらの組み合わせである。適切または好適な場合には、この還元剤は、水のような溶媒中の溶液として添加されてもよい。
【0028】
具体的に列挙された成分の濃度範囲は適切に調整され得る。
【0029】
1つの実施態様では、亜鉛イオンは、約0.005モル/リットル(M)〜約1.5Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.01M〜約1Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.1M〜約0.5Mの濃度範囲で、そして1つの実施態様では約0.3Mの濃度範囲で、適切な亜鉛塩または水酸化亜鉛の形態にて添加される。
【0030】
1つの実施態様では、錯形成剤は、約0.01M〜約2Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.1M〜約1Mの濃度範囲で、そして1つの実施態様では約0.25M〜約0.75Mの濃度範囲で、そして1つの実施態様では約0.6Mの濃度範囲で、ピロリン酸四カリウム、または本明細書中に開示されている他の錯形成剤の1つなどの適切な化合物の形態にて添加される。
【0031】
1つの実施態様では、フッ化物イオンは、約0.0025M〜約1.5Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.01M〜約1Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.05M〜約0.5Mの濃度範囲で、そして1つの実施態様では約0.12Mの濃度範囲で、適切なフッ化物の塩の形態またはフッ化水素として添加される。
【0032】
1つの実施態様では、還元剤は、約0.005M〜約1.5Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.01M〜約1Mの濃度範囲で、1つの実施態様では約0.25M〜約0.75Mの濃度範囲で、そして1つの実施態様では約0.6Mの濃度範囲で、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、または本明細書中に開示されている他の還元剤の1つなどの適切な化合物の形態にて添加される。
【0033】
1つの実施態様では、本発明の改良されたジンケート処理組成物は:
約0.005M〜約1.5Mの亜鉛イオン、
約0.01M〜約2Mの錯形成剤、
約0.0025M〜約1.5Mのフッ化物イオン、および
約0.005M〜約1.5Mの還元剤
を含有する。
【0034】
1つの実施態様では、リットル当たりのグラム数(g/l)で表現すると、本発明の改良されたジンケート処理組成物は:
約1g/l〜約50g/lの亜鉛イオン、
約20g/l〜約240g/lの錯形成剤、
約0.05g/l〜約50g/lのフッ化物イオン、および
約1g/l〜約50g/lの還元剤
を含有する。
【0035】
当業者に認識されるように、ジンケート処理組成物中の適切な成分濃度は、前述の一般的なガイドライン、選択された特定の成分(すなわち、どの亜鉛塩、どのフッ化物、どの錯形成剤、およびどの還元剤か)、所望の方法、従事者の知識、および特定の基材、所望のその後の電気メッキ、ならびに所望製品の特徴に基づいて決定され得る。
【0036】
<方法>
本発明によれば、ジンケート処理方法は非電解にて行われる。本発明の実施態様においては、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法には、基材を非電解組成物中で、該基材上に亜鉛酸塩を析出させるに充分な時間浸漬する工程を包含し、ここで、該組成物は、亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオンおよび還元剤を含有し、かつ約8〜約11、あるいは上述するような他の範囲のpHを有する。1つの実施態様では、錯形成剤は上述の任意のものであり得る。1つの実施態様では、亜鉛イオンは上述した形態の任意のもので提供され得る。1つの実施態様では、フッ化物イオンは上述した形態の任意のもので提供され得る。1つの実施態様では、還元剤は上述した形態の任意のもので提供され得る。1つの実施態様では、ジンケート処理組成物は、約0.005M〜約1.5Mの亜鉛イオン、約0.01M〜約2Mの錯形成剤、約0.0025M〜約1.5Mのフッ化物イオン、および約0.005M〜約1.5Mの還元剤を含有し、あるいは他の場合は上述したような濃度範囲内で含有する。
【0037】
本発明によれば、本方法で開示組成物を使用した結果として、亜鉛酸塩の析出および/または少なくとも1つの特性が、還元剤の不在の際の同様の方法と比較して向上する。使用する還元剤の量は、基材上に析出する亜鉛酸塩の少なくとも1つの特性が向上させるに充分であるように選択される。本発明の実施態様によれば、この少なくとも1つの特性としては、明度、色彩、輝度、該基材に対する密着性、および厚みの均一さの1つまたはそれ以上が挙げられる。
【0038】
本発明の実施態様によれば、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法は、
亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および約8から約11の範囲のpHを有する、水性非電解組成物を調製する工程;
該組成物に、該マグネシウムまたはマグネシウム合金基材上への亜鉛酸塩の析出を向上させるに充分な量の還元剤を添加する工程;および
該基材を該組成物中に、該亜鉛酸塩を該基材上に析出させるに充分な時間浸漬する工程;
を包含する。
【0039】
1つの実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約1分〜約60分の間処理され、そして別の実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約5分〜約30分の間処理され、そして別の実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約10分の間処理される。
【0040】
1つの実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約20℃〜約95℃の温度にて処理され、そして別の実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約50℃〜約85℃の温度にて処理され、そして別の実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材は、ジンケート処理組成物で約65℃〜約70℃の温度にて処理される。
【0041】
種々の実施態様では、マグネシウムまたはマグネシウム合金基材を、液体ベースの組成物を固形基材に付与するための任意の公知の方法によってジンケート処理組成物に接触させてもよく、このような方法としては、例えば、浸漬(immersing)、ディッピング(dipping)、スプレー、ワイピング、ブラッシング、フラッジング、カスケージング、ローラーコーティング、またはフローコーティング、あるいは上記の任意の2つまたはそれ以上の組み合わせが挙げられる。
【0042】
本実施態様によれば、一般的な本発明と同様に、使用される還元剤の量は、基材上に析出される亜鉛酸塩の少なくとも1つの特性を向上させるに充分であるように選択され、この少なくとも1つの特性としては、明度、色彩、輝度、該基材に対する密着性、および厚みの均一さの1つまたはそれ以上が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下の限定されない実施例については、本発明のある実施態様を説明するために提供される。これらの実施例については単なる例示であることを意図しており、そして理解されるように、本実施例は本発明を理解するために提供され、かつ本実施例は本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0044】
以下の組成物を、示した数のグラムまたはミリリットルでなる各列挙成分を水中に溶解し、1リットルの最終容量にまで希釈することにより調製する。したがって、液体を容量で使用かつ添加する場合を除き、全ての濃度はグラム/リットルである。示したように、水素化ホウ素ナトリウムおよびジメチルアミノボランを、以下に示すように市販の溶液から、示した容量で添加する。実施例9および10を除く、全ての実施例において、pHを、65℃の温度で設定された10.3に調整する。実施例9および10のpHについては、還元剤溶液の添加で到達した値に維持させる。すなわち、これらの実験について各々pHは65℃の温度で設定された10.7および10.8である。全ての実験を65℃〜70℃の範囲における温度で実施する。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1=米国特許第2,526,544号に開示された組成物
TKPP=ピロリン酸四カリウム
ZnSO=硫酸亜鉛・7水和物(ZnSO・7HO)
Hypo=次亜リン酸ナトリウム水和物(NaHPO・xHO)
NaBH=水素化ホウ素ナトリウム、12質量%水溶液@pH約12〜12.5
DMAB=ジメチルアミノボラン、10質量%水溶液@pH約11.5
HAS=硫酸ヒドロキシルアミン
【0047】
乾燥成分は、乾燥質量基準でかつ供給業者から得たままのもので、新たなジンケート処理組成物に添加する;NaBHまたはDMABの水溶液を、商業供給業者から受領したままで用いる。これらの成分の全ては市販により容易に入手可能である。
【0048】
前述のジンケート処理組成物を、非電解ジンケート処理方法で、ACT Test Panel Technologies, Hillsdale, MI, USAから得たAZ91マグネシウム合金パネルを用いてテストし、その後、電解シアン化銅ストライクにかける。各パネルの片面を、600グリッドのサンドペーパーで研磨して滑らかかつ平坦な表面を得、一方の他方の面は、ACTから受領した状態のままとする。各テストパネルを、以下の方法にかける:
【0049】
処理: 時間(分) 温度(℃) 濃度
EXPT PrepAlloy Cleaner L 10 65 10%
EXPT PrepAlloy AE 2 室温 15%
EXPT PrepAlloy ACT-1 3 45 50%
上記表に記載したジンケート処理 10 65 上記の通り
シアン化銅ストライク 5 60 従来通り
濯ぎ 0.5〜0.75 室温 水道水
【0050】
各々のテストパネルを外観について評価し、銅ストライクおよび濯ぎに続いて標準ナイフおよびテープテストに従った密着性テストにかける。ナイフおよびテープテストでは、銅ストライクおよび濯ぎに続いて、新たにメッキした表面を、ナイフのエッジでクロスハッチのグリッドパターンにスクラッチする。平行なナイフの切り込みは約3mm間隔であり、そして付与した層を通り抜けてマグネシウムまたはマグネシウム合金基材まで貫通させる。カットによる破片を除去する。次に、粘着テープ(例えば、Permacel 99または3M Scotch 720 Film Fiber Tape、ともに市販の梱包テープ)を切り込みのグリッドパターンに貼り、しっかりとプレスし、次いで流れる動きで滑らかに除去する。銅層の剥離を調べ記録する。以下の表に記載する結果はサンプル基材の両面にあてはまる。
【0051】
結果:
実施例 亜鉛酸塩析出物の外観
1 スポンジタイプの析出物とともにブリスター領域を有するダークグレー
2 明るい青味がかったグレーで、均一な亜鉛酸塩析出物。
3 明るい青味がかったグレーで、均一な亜鉛酸塩析出物。
4 明るい青味がかったグレーで、均一な亜鉛酸塩析出物。
5 明るい青味がかったグレーで、薄い亜鉛酸塩析出物の半均一な領域
6 明るい青味がかったグレーで、均一な亜鉛酸塩析出物。
7 明るい青味がかったグレーで、均一な亜鉛酸塩析出物。
8 明るい青味がかったグレーで、薄い亜鉛酸塩析出物の半均一な領域
9 青味がかったグレーで、半均一な亜鉛酸塩析出物;かなりのガス発生
(ジンケート処理浴内でのほんの5分の浸漬)
10 青味がかったグレーの析出物、均一な亜鉛酸塩析出物
(ジンケート処理浴内でのほんの5分の浸漬)。
【0052】
実施例 ナイフおよびテープテストの密着性結果
1 亜鉛酸塩との弱い固着、シアン化銅の電着は不可
2 ok、剥離なし
3 ok、剥離なし
4 ok、剥離なし
5 ok、剥離なし、グレーで、幾分薄い亜鉛酸塩の1つまたは2つの領域
6 ok、剥離なし
7 ok、剥離なし
8 ok、剥離なし、グレーで、幾分薄い亜鉛酸塩の1つまたは2つの領域
9 ok、剥離なし
10 ok、剥離なし
【0053】
上記実施例に示したように、本発明の実施態様によるジンケート処理方法は、その後に付与された金属層の優れた外観および密着性を提供する。
【0054】
示されるように、本願明細書と特許請求の範囲を通じ、開示した範囲および比の数値限定について組み合わされ得、全ての当てはまる値を含むとみなす。さらに、全ての数値は、修飾語「約」が特に明言されていようとなかろうと、この用語による前提がなされているものとみなす。
【0055】
本発明の原理を、ある特定の実施態様に関連して説明し、図示する目的で提供するが、それらの種々の改変は本願明細書を読む当業者にとって明らかなものであると理解すべきである。したがって、本明細書中に開示された発明については、添付の特許請求の範囲の範囲内に収まるようにこのような改変が網羅されていると意図することを理解すべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約8から約11のpHを有し、かつ亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオンおよび還元剤を含む、水性ジンケート処理組成物。
【請求項2】
前記錯形成剤が、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、リン酸塩、あるいはそれらの2つまたはそれ以上として提供される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記塩が、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンまたはアンモニウムカチオン、あるいはそれらの混合物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記亜鉛イオンが、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、クエン酸亜鉛、またはスルホン酸亜鉛の1つまたはそれ以上として提供される、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記フッ化物イオンが、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、フッ化アンモニウム、またはフッ化水素アンモニウムの1つまたはそれ以上として提供される、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記還元剤が、次亜リン酸塩、ボラン化合物、水素化ホウ素、ヒドラジン、アルキルおよび/またはアリール置換されたヒドラジン、亜リン酸塩、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ホルムアルデヒド、次亜リン酸、ならびに亜リン酸の1つまたはそれ以上として提供される、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が:
約0.005Mから約1.5Mの前記亜鉛イオン、
約0.01Mから約2Mの前記錯形成剤、
約0.0025Mから約1.5Mの前記フッ化物イオン、および
約0.005Mから約1.5Mの前記還元剤、
を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって:
該基材を非電解水性ジンケート処理組成物中に、該基材上に亜鉛酸塩を析出させるに充分な時間浸漬する工程、を含み、
ここで、該組成物が、亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および還元剤を含み、かつ約8から約11の範囲のpHを有する、方法。
【請求項9】
前記錯形成剤が、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、リン酸塩、あるいはそれらの2つまたはそれ以上を含むとして提供される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記塩が、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンまたはアンモニウムカチオン、あるいはそれらの混合物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記亜鉛イオンが、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、クエン酸亜鉛、またはスルホン酸亜鉛の1つまたはそれ以上として提供される、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記フッ化物イオンが、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、フッ化アンモニウム、またはフッ化水素アンモニウムの1つまたはそれ以上として提供される、請求項8から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記還元剤が、次亜リン酸塩、ボラン化合物、水素化ホウ素、ヒドラジン、アルキルおよび/またはアリール置換されたヒドラジン、亜リン酸塩、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ホルムアルデヒド、次亜リン酸、ならびに亜リン酸の1つまたはそれ以上として提供される、請求項8から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が:
約0.005Mから約1.5Mの前記亜鉛イオン、
約0.01Mから約2Mの前記錯形成剤、
約0.0025Mから約1.5Mの前記フッ化物イオン、および
約0.005Mから約1.5Mの前記還元剤、
を含む、請求項8から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記亜鉛酸塩の前記析出および/または少なくとも1つの特性が、前記還元剤の不在における同様の方法と比較して向上している、請求項8から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記還元剤の量が、前記基材上に析出した前記亜鉛酸塩の少なくとも1つの特性を向上させるに充分であり、ここで、該少なくとも1つの特性が、明度、色彩、輝度、該基材に対する密着性、および厚みの均一さの1つまたはそれ以上を含む、請求項8から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
マグネシウムまたはマグネシウム合金基材をジンケート処理するための非電解方法であって:
亜鉛イオン、錯形成剤、フッ化物イオン、および約8から約11の範囲のpHを含む、水性非電解組成物を調製する工程;
該組成物に、該マグネシウムまたはマグネシウム合金基材上への亜鉛酸塩の析出を向上させるに充分な量の還元剤を添加する工程;および
該基材を該組成物中に、該亜鉛酸塩を該基材上に析出させるに充分な時間浸漬する工程;
を含む、方法。
【請求項18】
前記還元剤の量が、前記基材上に析出した前記亜鉛酸塩の少なくとも1つの特性を向上させるに充分であり、ここで、該少なくとも1つの特性が、明度、色彩、輝度、該基材に対する密着性、および厚みの均一さの1つまたはそれ以上を含む、請求項17に記載の方法。

【公表番号】特表2013−508553(P2013−508553A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535252(P2012−535252)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/052771
【国際公開番号】WO2011/049818
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(503037583)アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (55)
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】