説明

マグネシウム基複合材

【課題】 希土類元素を含有するマグネシウム合金をマトリックスとする複合材において、耐熱強度を付与する添加元素の強化材との反応を抑制し、マグネシウム基複合材の疲労強度が向上し、強度と剛性を兼ね備えたマグネシウム基複合材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 プリフォームを構成する強化材を、マトリックス中の希土類元素酸化物を含む金属酸化物層で被覆したものであるマグネシウム基複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム基複合材に関するものであって、強化材を酸化物層で被覆させたマグネシウム基複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、金属材料の中で軽量であり、かつ、資源的にも豊富であるため、マグネシウム合金として材料開発が行われている。しかし、耐食性や耐熱性、剛性という点ではアルミニウムに劣るという欠点を有する。耐食性及び耐熱性(高温疲労強度)を改善する手法として希土類元素との合金がある(例えば、WE54、WE64(Mg−Y−Nd−Zr))。しかし、これらの希土類元素との合金は剛性が劣る。一方、剛性を向上させる手法として複合化があり、繊維、ウィスカ、セラミックス及び金属間化合物などの強化材と複合化させることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の強化材は、ホウ酸アルミニウムウィスカの表面にSi皮膜層を形成させることによって、マトリックス金属との反応を抑制することができるため、ウィスカによる補強効果を十分に発揮させることが可能となる。
【特許文献1】特許第2952069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、耐熱性の向上するマグネシウム合金をマトリックスとして含有する場合、特許文献1の強化材を用いても界面での反応が顕著で強化材の間隙に希土類元素を存在させることができず、耐熱性(高温疲労強度)を向上させることができない。また、同様に強化材として公知であるアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、炭化ケイ素ウィスカを用いてプリフォーム(強化構造材)とし、加圧含浸法で複合化させる場合、マグネシウム合金中に含有する希土元素は、複合化後は、繊維表面に多数存在するが、強化繊維の間隙には存在せず、高温疲労強度を向上できない。したがって、剛性と高温疲労強度の両立する複合素材は得ることができなかった。
【0005】
上記の課題に鑑み、希土類元素を含有するマグネシウム合金をマトリックスとする複合材において、耐熱強度を付与する添加元素のマトリックス金属との反応を抑制することにより、力学的強度が向上したマグネシウム基複合材(以下、複合材とする)及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
より具体的には本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームを、複合化されて得られたマグネシウム基複合材であって、前記強化材は、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆されているものであるマグネシウム基複合材。
【0008】
(1)の発明によれば、マグネシウム合金のマトリックス中に希土類元素を含有させたことによって、複合材の耐食性、耐熱性を向上させることが可能となる。更に、プリフォームに用いる強化材を、マトリックス中の希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆したことによって、複合化の過程で希土類元素の強化材との反応を抑制することができる。同時に、この希土類元素を強化材である繊維の隙間にも存在させることが可能となるため、マトリックス全体に均一に希土類元素を分布させることができ、複合材の疲労強度を向上させることができる。これにより、剛性と高温疲労強度を兼ね備えた複合材が得られる。ここで、本発明における「剛性」とは、物体に外力を加えて変形しようとするとき、物体がその変形に抵抗する程度をいい、強度及び伸びを指す。
【0009】
(2) 前記希土類酸化物は、酸化イットリウムである(1)に記載のマグネシウム基複合材。
【0010】
(2)の発明によれば、希土類酸化物を酸化イットリウムとしたことによって複合材の疲労強度をより向上させることが可能となる。イットリウムは、マグネシウム材の疲労強度への寄与が高いため、少量の添加でも高い疲労強度の複合材を得ることができる。
【0011】
(3) 前記強化材は、アルミナ繊維である(1)又は(2)に記載のマグネシウム基複合材。
【0012】
(3)の発明によれば、強化材をアルミナ繊維にしたことによって、複合材の疲労強度をより向上させることが可能となる。アルミナ繊維は、繊維径の比較的太いものが入手できるため、含浸性を考慮すると均質な欠陥のない複合体をつくりやすい。
【0013】
(4) 希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームを、複合化して得られたマグネシウム基複合材からなる部品の製造方法であって、前記強化材の表面を、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆して金属酸化物層を形成する保護膜形成工程と、前記金属酸化物層が形成された強化材からプリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、加圧含浸法により前記プリフォームを、前記マグネシウム合金を含浸して、マグネシウム基複合材を得る含浸工程と、恒温鍛造する鍛造工程と、を有するマグネシウム基複合材からなる部品の製造方法。
【0014】
(5) 希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームを、複合化して得られたマグネシウム基複合材の製造方法であって、前記強化材の表面を、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆して金属酸化物層を形成する保護膜形成工程と、前記金属酸化物層が形成された強化材からプリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、加圧含浸法により前記プリフォームに、希土類元素を含有させた前記マグネシウム合金を含浸する含浸工程と、を有するマグネシウム基複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るマグネシウム基複合材によれば、プリフォームを構成する強化材を、マグネシウム合金中に含有されている希土類元素を含む金属酸化物層で被覆したことによって、複合化の際にマグネシウム基複合材の疲労強度に寄与する希土類及び微量元素の減少を抑えることが可能となり、複合材の疲労強度を向上させることが可能となり、疲労強度と剛性を兼ね備えた複合材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0017】
本発明は、希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとしたマグネシウム基複合材であって、プリフォームの強化材として、マトリックスに含有されている希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆されているものを用いたマグネシウム基複合材である。ここで「マグネシウム合金」とは、マグネシウムを基にする合金の総称をいい、Mg−Al系、Mg−Zn系、Mg−希土類元素系等が挙げられるが、本発明では特にMg−希土類元素系をいう。また、本発明に係るマグネシウム合金は、「微量元素」を含む。この微量元素は、マグネシウム合金又は複合材を製造する際に不可避成分として含有される元素をいう。
【0018】
また「強化材」とは、プリフォームを構成する繊維、粒子、ウィスカ等をいう。具体的には、アルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、二酸化チタン、炭化ケイ素ウィスカ等公知のものが挙げられるが、アルミナ繊維を用いることが好ましい。「希土類元素の酸化物」には、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、及びアクチノイドの酸化物が挙げられるが、複合時の反応性が最も高い元素や、少量の添加でも効果を奏するイットリウム、ランタノイド(特にガドリニウム、ネオジム)の酸化物等である事が好ましい。これらは少なくとも1種類以上含有されており、2種類以上含有されていてもよい。希土類元素の酸化物の被覆方法としては、プリフォームをつくるときに被膜を形成する。当該酸化物は、プリフォーム繊維重量に対して5〜20重量%程度の濃度のゾルを水に加え、後に焼成して希土類元素酸化物の被膜を得る。マトリックス中の希土類元素との割合は特に限定されず、繊維表面に被膜が形成されていればよい。被膜の厚みは強度の出る実績で5nm以上あればよい。
【0019】
また、プリフォームの作製方法としては、強化材と溶媒(水)中で分散させ、この中にバインダーと希土類元素のゾルを入れて、溶媒をある程度除去してウェットな状態でプレス成形して乾燥させるか、又は溶媒をフィルタープレスにより除去すると同時に成形して乾燥する方法により形成される。成形後1000℃程度で焼成し、表面に希土類元素の酸化物被覆膜を有するプリフォームを形成する。複合化方法としては、加圧含浸法を用いることが好ましい。このとき溶湯温度は700〜730℃であることが好ましく、加圧力は100MPaであることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
〔試料1の作製〕
アルミナ短繊維と酸化イットリウムのゾルを水に分散させ、この溶媒をフィルタープレスにより除去すると同時に成形し、乾燥後、1000℃で焼成してY被覆膜が形成された体積分率20%のプリフォームを得た。このプリフォームを750℃で1時間予熱した後、鋳型内に入れ、720〜730℃のMg−Gd系合金(Zr0.6質量%,Y3.1質量%,Gd10.2質量%,Nd1質量%)の溶湯を供給した。この溶湯を100MPaまで加圧し、3分間圧力を保持しながら完全に凝固させて金型から取り出し、室温まで冷却した。
【0022】
〔試料2の作製〕
マトリックスのマグネシウム合金にWE54(Zr0.5質量%,Y5.2質量%,Nd2質量%)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で作製した。
【0023】
<比較例1>
〔試料3の作製〕
アルミナ繊維からなる強化材を、水に分散させ、水をフィルタープレスにより除去すると同時に成形し、乾燥させて体積分率10%のプリフォーム得た。このプリフォームを750℃で1時間予熱した後、鋳型内に入れ、700〜730℃のマグネシウム合金AZ91(Al8.51質量%,Zn0.92質量%)の溶湯を供給した。この溶湯を100MPaまで加圧含浸し、3分間圧力を保持しながら完全に凝固させて金型から取り出し、室温まで冷却した。
【0024】
〔試料4の作製〕
ホウ酸アルミニウムウィスカを使用し、更にマトリックス中の金属元素との反応を防止するために表面にスピネル(MgAl)を被覆し(水酸化マグネシウム(MgOH)粒子及びアルミナ(Al)粒子を付着させて焼成)体積分率20%のプリフォームを使用した。また、マトリックスにはWE54を使用した以外は試料3と同様の方法で作製した。
【0025】
〔試料5の作製〕
試料4に使用したホウ酸アルミニウムウィスカの表面を窒化処理したものを強化材として使用した以外は試料3と同様の方法で作製した。
【0026】
〔試料6の作製〕
強化材にアルミナ短繊維を用い、体積分率20%のプリフォームを作成し、マトリックスにMg−Gd系合金を使用した以外は、試料3と同様の方法で作製した。
【0027】
〔成分分布測定〕
実施例1の試料1、及び比較例1のそれぞれの試料中の、希土類元素及び他の金属元素の複合化前後の分布を測定した。測定にはX線マイクロアナライザー(日本電子製 JXA8900)を使用し、以下の条件で測定した。測定結果を表1に示す。
加速電圧:15KV
照射電流:0.1μA(成分分析:Y,Gd)
0.5μA(成分分析:Zr,Nd マッピング時)
マッピング画素サイズ:0.2μm×0.2μm
マッピング画素数:500×500画素
測定領域:100μm×100μm
【0028】
〔力学試験〕
実施例1及び比較例1のそれぞれの試料の力学特性を検討した。引張試験は、ダンベル状にくり抜いた試料を、250℃のもと、歪速度0.02/min(引張速度:1mm/min)で引張試験機(島津製作所製)を用いて行った。また疲労試験は、ダンベル状にくり抜いた試料を、繰り返し条件30Hzで油圧サーボ疲労試験機(鷺宮製)を用いて行った。その結果を表1に示す。また参考例として強化材を添加していないマグネシウム合金(WE54及びMg−Gd系)の疲労試験結果も行った。
【0029】
【表1】

【0030】
試料1,2は、マトリックス中の希土類元素(ガドリニウム、イットリウム、ネオジム)を強化材の繊維間隙に、均質に存在させることができた。また、複合材の力学特性は大きく改善し、高い疲労強度を示した。これより、酸化イットリウムを被覆することによって、複合化の際にマグネシウム合金中の希土類元素と繊維との反応を抑制することが可能であることが示唆された。一方、試料3は、マトリックスであるアルミニウム、亜鉛と、繊維表面との反応はほとんどなく、複合化後の成分分布は均質であることが示された。しかし、繊維同士の結合が強すぎるため、伸びは低い値を示した。またマトリックスの耐熱強度が低いため、250℃疲労強度は、35MPaと低い値であった。また、試料4,5は、マトリックスに耐熱性の高いWE54、強化材の表面を被覆したにもかかわらず、複合化後の繊維の間隙のマトリックスに希土類元素の存在が認められず繊維表面に確認された。そのため複合材の力学特性は低い値を示した。試料6も同様に、強化繊維の間隙ではイットリウムの存在が認められなかった。また、参考例の合金では、複合化されていないため十分な高温疲労強度は得られなかった。
【0031】
試料1及び試料5,6を金型に入れ、加圧パンチをして鍛造した。このときの鍛造温度490℃、金型温度300℃であった。その後実施例3と同様の条件で引張試験及び疲労試験を行った。その結果を表2に示す。これより鍛造後の複合材は、鍛造前よりも高い力学特性が得られることがわかった。
【0032】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームを、複合化されて得られたマグネシウム基複合材であって、
前記強化材は、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆されているものであるマグネシウム基複合材。
【請求項2】
前記希土類酸化物は、酸化イットリウムである請求項1に記載のマグネシウム基複合材。
【請求項3】
前記強化材は、アルミナ繊維である請求項1又は2に記載のマグネシウム基複合材。
【請求項4】
希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームを、複合化されて得られたマグネシウム基複合材からなる部品の製造方法であって、
前記強化材の表面を、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆して金属酸化物層を形成する保護膜形成工程と、
前記金属酸化物層が形成された強化材からプリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、
加圧含浸法により前記プリフォームを、前記マグネシウム合金を含浸して、マグネシウム基複合材を得る含浸工程と、
恒温鍛造する鍛造工程と、
を有するマグネシウム基複合材からなる部品の製造方法。
【請求項5】
希土類元素と微量元素とからなるマグネシウム合金をマトリックスとして、強化材で構成されたプリフォームに、複合化されて得られたマグネシウム基複合材の製造方法であって、
前記強化材の表面を、前記希土類元素の酸化物を含む金属酸化物層で被覆して金属酸化物層を形成する保護膜形成工程と、
前記金属酸化物層が形成された強化材からプリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、
加圧含浸法により前記プリフォームに、希土類元素を含有させた前記マグネシウム合金を含浸する含浸工程と、
を有するマグネシウム基複合材の製造方法。

【公開番号】特開2006−2210(P2006−2210A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179198(P2004−179198)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】