説明

マグネシウム溶接線の製造方法

【課題】表面清浄性に優れるマグネシウム溶接線、及びこの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明溶接線は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる押出材などの母材に伸線加工を施した後、得られた伸線材の表面にシェービング加工を施して得られる。伸線後にシェービング加工を施すことで、伸線の際に利用する潤滑剤や被膜を効果的に除去すると共に、伸線加工中に生成された酸化物を効果的に除去することができる。そのため、得られた溶接線は、表面清浄性に優れる。伸線加工の潤滑剤には、洗浄や脱脂処理により除去が容易な油性潤滑剤や湿式潤滑剤を利用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなるマグネシウム溶接線、及びこの溶接線の製造方法に関するものである。特に、優れた表面清浄度を有し、溶接性に優れるマグネシウム溶接線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Mgは、比重(密度g/cm3、20℃)が1.74であり、構造用に利用される金属材料の中で最も軽い金属である。また、Mgは、高い導電性や振動吸収性などを有しており、これらの特性が求められる種々の分野において、軽量材料として期待される。近年、上記Mgを主成分とするマグネシウム基合金からなる圧延板材や押出棒材などの展伸材の開発に伴い、溶接の必要性が大きくなってきている。マグネシウム基合金からなる溶接線としては、特許文献1に記載のものがある。この溶接線は、押出材を引き抜くことにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3592310号公報、段落0087,0091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接線には、表面清浄性に優れることが望まれる。ここで、ダイスを用いて引き抜き加工を行う際、通常、被加工材とダイスとの摩擦抵抗を低減するべく、被加工材の表面に潤滑剤を塗布したり、ダイス内に潤滑剤を引き込みやすくするために被加工材の表面に造膜するなどの潤滑処理を施す。これら潤滑剤や被膜は、アルカリ洗浄などの洗浄を行うことで、ある程度除去され、加工材表面を清浄にすることができる。しかし、特に、造膜により形成された被膜は、洗浄により完全に除去することが困難であり、加工材の表面に潤滑剤や被膜が残存することがある。溶接線の表面に潤滑剤や被膜が残存した場合、表面清浄度が低下し、安定した溶接を行いにくい。
【0005】
一方、マグネシウム基合金は、一般に室温での塑性加工性が悪いため、250℃以上といった高温で塑性加工を実施する場合が多い。このような温度にて伸線加工を行った場合、Mgは、活性な金属であるため、マグネシウム基合金線材の表面に酸化物が生成される。そして、本発明者は、この酸化物により溶接性を低下させることがあるとの知見を得た。
【0006】
そこで、本発明の主目的は、優れた表面清浄性を有し、溶接性に優れるマグネシウム溶接線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記マグネシウム溶接線を製造するのに最適な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、線材(又は母材)表面に存在する潤滑剤や酸化物などを効果的に除去するための表面加工を施すことで上記目的を達成する。即ち、本発明マグネシウム溶接線は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる線材表面にシェービング加工が施されていることを特徴とする。また、このような溶接線は、以下の製造方法により製造することができる。即ち、本発明マグネシウム溶接線の製造方法は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる母材を用意する工程と、この母材に伸線加工を施す工程と、得られた伸線材の表面をシェービング加工する工程とを具えることを特徴とする。また、別の本発明マグネシウム溶接線の製造方法は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる母材を用意する工程と、この母材の表面をシェービング加工する工程と、得られた表面加工材に伸線加工を施す工程とを具えることを特徴とする。
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において「マグネシウム」とは、Mg及び不純物からなるいわゆる純マグネシウム、又は添加元素とMg及び不純物からなるマグネシウム基合金とする。添加元素としては、例えば、Al,Zn,Mn,Si,Cu,Ag,Y,Zrなどの元素群のうち、少なくとも1種の元素が挙げられる。上記元素群から選択される複数の元素を含有していてもよい。このような添加元素を含有させることで、本発明マグネシウム溶接線は、強度、伸び、高温強度、耐食性などにも優れる。添加元素の含有量は、合計で20質量%以下が望ましい。添加元素が20質量%超となると、鋳造時に割れなどが生じる原因となる。添加元素を含有したより具体的な組成としては、例えば、以下の組成が挙げられる。
I. Al:0.1〜12質量%を含み、残部がMg及び不純物
II. Al:0.1〜12質量%と、質量%でMn:0.1〜2.0%、Zn:0.1〜5.0%、Si:0.1〜5.0%からなる3元素群から選択された1種以上の元素とを含み、残部がMg及び不純物
III. 質量%でZn:0.1〜10%、Zr:0.1〜2.0%を含み、残部がMg及び不純物
なお、不純物は、有意的に添加しない元素のみとしてもよいし、有意的に添加する元素(添加元素)を含んでいてもよい。
【0009】
上記組成のマグネシウム基合金として、代表的な組成であるASTM記号におけるAZ系,AS系,AM系,ZK系などのマグネシウム基合金を利用してもよい。AZ系マグネシウム基合金は、例えば、AZ10,AZ21,AZ31,AZ61,AZ91など、AS系マグネシウム基合金は、例えば、AS21,AS41など、AM系マグネシウム基合金では、例えば、AM60,AM100など、ZK系マグネシウム基合金では、例えば、ZK40,ZK60などが挙げられる。
【0010】
本発明マグネシウム溶接線は、純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる母材に対して、シェービング加工及び伸線加工を施して製造する。母材としては、純マグネシウム又は上記組成のマグネシウム基合金を溶解して鋳造し、得られた鋳造材に圧延加工や押出加工などを施したものが挙げられる。より具体的には、鋳造材を圧延した圧延材、更にこの圧延材を押し出した押出材、鋳造材を押出した押出材、更にこの押出材を圧延した圧延材が挙げられる。圧延加工や押出加工は、公知の条件により行うとよい。また、市販の圧延材や押出材を利用してもよい。
【0011】
本発明においてシェービング加工は、旋削工具を用いて行ってもよいし、皮剥ぎダイスを用いて行ってもよい。旋削工具や皮剥ぎダイスは、公知のものを利用するとよい。皮剥ぎダイスを用いる場合、シェービング加工の対象となる被加工材が長尺であってもその全長に亘って容易にシェービング加工を施すことができる。シェービング加工により除去する量は、シェービング加工が施される被加工材の表面からの距離(深さ)が数十μm〜200μm程度までの領域が挙げられる。線材の線径によらず、被加工材の表面から深さ数十μm程度までの領域を少なくとも除去することで、被加工材の表面に残存する潤滑剤や被膜、酸化物などを除去し、表面清浄性の向上に効果がある。除去する量は多いほど、上記潤滑剤や被膜、酸化物などを十分に除去することができるが、多すぎると歩留まりが悪くなる。従って、生産性を考慮すると、除去する量の上限は、被加工材の表面から深さ200μm程度までの領域が適切である。このようなシェービング加工は、伸線加工前に施してもよいし、伸線加工途中(パス間)に施してもよいし、伸線加工後に施してもよいし、1回だけでなく複数回施してもよい。例えば、伸線加工前と伸線加工後の双方にシェービング加工を行ってもよい。即ち、本発明では、母材を伸線加工して、所定の径の伸線材とし、この伸線材にシェービング加工を施してもよいし、母材を伸線加工して、所定の径の伸線材とし、この伸線材にシェービング加工を施した後、更に伸線加工を施して所定の径の伸線材としてもよいし、母材をシェービング加工して、得られた表面加工材を伸線加工して所定の径の伸線材としてもよい。
【0012】
本発明において伸線加工は、伸線ダイスやローラダイスを用いて行うとよい。特に、伸線ダイスを用いて引き抜きを行うと、偏径差(線材の同一横断面における径の最大値と径の最小値との差)が小さく、寸法精度に優れる線材を容易に製造することができる。溶接線では、表面清浄性に優れることに加えて、寸法精度に優れることも望まれる。従って、伸線加工は、ローラダイスよりも伸線ダイスを用いて行うことが好ましい。また、伸線加工を行うことで組織を微細化し、強度や靭性にも優れる線材とすることができる。このような伸線加工は、所望の大きさの線材となるように、ダイス孔の大きさ(径)が異なるダイスを多段に用いて複数パスに亘って行うとよい。伸線加工条件は、加工温度への昇温速度:1℃/sec〜100℃/sec、加工温度:50℃以上200℃以下(好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上)、加工度:10%以上/パス、線速:1m/min以上、伸線加工後の冷却速度:0.1℃/sec以上が挙げられる。加工温度が高いほど、被加工材の伸線加工性を高めることができ、例えば、大きな加工度での加工が可能となる。また、複数パスに亘って伸線加工を行う場合、1パスごと又は複数パス(例えば、2〜3パス)ごとに中間熱処理を施し、伸線加工により線材に導入された歪みを回復させたり、再結晶された結晶粒の微細化を促進させてもよい。中間熱処理条件としては、加熱温度:100℃以上400℃以下(好ましくは150℃以上)、保持時間:5〜20分程度が挙げられる。或いは、加熱を行わず室温にて伸線加工を行ってもよい。室温にて伸線加工を行う場合は、1パスあたりの加工度を小さくしたり(合金組成にもよるが概ね15%以下、好ましくは10%以下)、伸線前に事前熱処理を施して結晶を微細化し、伸線加工性を高めてから伸線加工を行うようにすることが好ましい。伸線前に施す事前熱処理条件としては、加熱温度:200℃以上450℃以下(好ましくは250℃以上400℃以下)、保持時間:15〜60分程度が挙げられる。その他、室温での伸線加工条件は、線速:1m/min以上が挙げられる。
【0013】
上記伸線加工は、潤滑剤を用いて行うことが好ましい。潤滑剤は、金属石鹸を主体とする乾式潤滑剤としてもよいし、動植物油や鉱物油などを主体とする油性潤滑剤としてもよいし、油性潤滑剤を水に分散、乳化させた湿式潤滑剤としてもよい。乾式潤滑剤を用いる場合、ダイスに潤滑剤を引き込みやすくするために、伸線加工が施される被加工材の表面には造膜処理を施しておく。潤滑剤を用いて伸線加工を行った場合、伸線加工後、アルカリ洗浄などの洗浄や脱脂処理を行い、潤滑剤や被膜をできるだけ除去する。油性潤滑剤や湿式潤滑剤は、脱脂処理により容易に除去することができる。従って、伸線材の表面清浄性の向上を考慮すると、少なくとも最終伸線加工(最終の1パス)は、油性潤滑剤や湿式潤滑剤を用いて行うことが好ましく、伸線加工の全パスにおいて油性潤滑剤や湿式潤滑剤を用いてもよい。乾式潤滑剤を用いた伸線加工と、油性潤滑剤や湿式潤滑剤を用いた伸線加工とを組み合わせて行ってもよい。例えば、初期のパスでは、乾式潤滑剤を用い、終期のパスでは、湿式潤滑剤や油性潤滑剤を用いて伸線加工を行う、というように異なる潤滑剤を用いて伸線加工を行ってもよい。上記潤滑剤のうち、油性潤滑剤は、Mgと反応する恐れがある水分を含んでいないため、特に好ましい。
【0014】
上記のように本発明では、伸線加工とシェービング加工との順序を問わない。先に伸線加工を行い、最後にシェービング加工を施す場合、即ち、母材を伸線した伸線材にシェービング加工を施す場合、シェービング加工により、伸線工程において利用した潤滑剤や被膜などを十分に除去できることに加えて、伸線工程において被加工材表面に生成された酸化物も効果的に除去できる。また、シェービング加工前、或いはシェービング加工後に洗浄や脱脂処理を行うことで、より確実に潤滑剤などを除去することができる。従って、シェービング加工前に施す伸線加工は、湿式、乾式、油性のいずれの潤滑剤を用いて行ってもよい。このような製造方法により得られた本発明マグネシウム溶接線は、表面清浄性に特に優れた線材とすることができる。
【0015】
上記のように伸線加工後にシェービング加工を施すことで、表面清浄性に優れる溶接線を得ることができるが、シェービング加工が施される伸線材が長尺になってくると、皮剥ぎダイスが摩耗して、線径が変化する恐れがある。上述のように溶接線には、表面清浄性に加えて寸法精度に優れることも望まれる。そこで、伸線材にシェービング加工を施した後、この表面加工材に寸法調整の目的で1パスのみ伸線加工を行ってもよい。この寸法調整を目的とした伸線後に洗浄や脱脂処理により潤滑剤を容易にかつより確実に除去できるように、この伸線加工は、油性潤滑剤又は湿式潤滑剤を用いて行うことが好ましい。また、このシェービング加工後に施す伸線加工は、寸法調整を目的とするものであるため、加工度は小さくてよく、例えば、3〜10%程度でよい。このように低加工度であるため、室温でも十分に引き抜くことができる。マグネシウム基合金の組成によっては、室温であっても加工度を15%ぐらいまでに大きくすることもできる。室温で伸線加工を行う冷間加工の場合、加熱状態で伸線加工を行う温間加工や熱間加工と比較して、加熱により線材表面に新たに酸化物が生成されることを低減する。加熱状態で伸線加工を行う場合は、できる限り低温、例えば、50〜150℃程度とすることが好ましい。そして、伸線加工後、洗浄や脱脂処理を行うことで、表面清浄度及び寸法精度の双方に優れる溶接線を容易に得ることができる。
【0016】
上記のように最終の伸線加工後にシェービング加工を施して得られた本発明溶接線や、シェービング加工後、寸法調整の目的で伸線加工を1パス施した本発明溶接線は、表面側が主に加工されるため、この表面側が中央部側に比べて高硬度となる。具体的には、線材の表面から深さ50μmの位置におけるビッカース硬度が、同線材の中心部におけるビッカース硬度よりも10以上高くなっている。このように本発明溶接線は、最終工程でシェービング加工を施すことで表面が硬化した線材となっている。
【0017】
一方、シェービング加工は、上記のように伸線加工後に施してもよいが、伸線加工前や伸線加工途中に行ってもよい。例えば、押出材や圧延材などの母材にシェービング加工を施し、得られた表面加工材に伸線加工を行ってもよいし、押出材や圧延材などの母材にある程度伸線加工を施した後、シェービング加工を施し、この表面加工材に更に複数パスの伸線加工を行ってもよい。伸線加工前の母材(押出材や圧延材など)にシェービング加工を行うことで、圧延加工や押出加工などといった母材を形成する際に生成された酸化物を効果的に除去することができる。また、伸線加工途中の伸線材にシェービング加工を行うことで、シェービング加工までの伸線加工で生成された酸化物や、伸線加工の際に利用した潤滑剤などを効果的に除去することができる。伸線加工途中にシェービング加工を行う場合、伸線加工前にシェービング加工を行う場合のいずれも、特に、最終の伸線加工後に十分に洗浄や脱脂処理を行い、表面を清浄にする。また、洗浄や脱脂処理により潤滑剤などを容易にかつ十分に除去できるように、最終の伸線加工は、油性潤滑剤又は湿式潤滑剤を用いて行うことが好ましい。
【0018】
シェービング加工は、被加工材の径が大きい段階で行うほど、被加工材に対する除去量の割合が小さくなるため、歩留まりがよい。しかし、シェービング加工後に複数パスの伸線加工を行うと、伸線材の表面に潤滑剤や被膜、酸化物が残存され易い。特に、加工度を大きくするべく加熱して伸線加工を行ったり、伸線加工性を高めるために中間熱処理や事前熱処理などを行うことで酸化物が増加する。従って、シェービング加工後に複数パスの伸線加工を行う場合は、できるだけ低温(室温から150℃程度)で行うことが好ましい。或いは、上記のように50℃以上に加熱して加工度を高くして伸線加工を行う場合、伸線加工前又は伸線加工途中にシェービング加工を施すことに加えて、伸線加工後に適宜シェービング加工を施してもよい。特に、最終の伸線加工後にシェービング加工を施すと、上述のように伸線加工の際に生じた酸化物や伸線加工中に用いた潤滑剤などを十分除去することができる。このように複数回に亘りシェービング加工を施すことで、表面清浄性、寸法精度に優れる溶接線を得ることができる。
【0019】
本発明溶接線は、断面形状が円形状のものが好ましい。また、線径は、φ0.8〜4.0mm程度が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明マグネシウム溶接線は、シェービング加工により、伸線加工の際に用いられた潤滑剤や被膜、伸線加工の際に生成された酸化物を効果的に除去することができるため、優れた表面清浄度を有する。従って、本発明マグネシウム溶接線を利用することで安定して溶接を行うことができる。また、本発明マグネシウム溶接線は、寸法精度にも優れるため、巻取りリールを具える自動溶接機にも十分に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(試験例1)
AZ31相当合金(質量%で、Al:3.0%、Zn:1.0%、Mn:0.15%を含み、残部がMg及び不純物、組成は化学分析により調べた)からなる直径φ4.0mmの押出材を準備し、この押出材に以下の条件で伸線加工を施し、直径φ2.0mmの溶接線を作製した。伸線加工(引抜き)は、伸線ダイスを多段に用いて複数パスに亘って行った。また、伸線加工は、乾式潤滑剤又は油性潤滑剤を用いて行った。乾式潤滑剤には、金属石鹸を用いると共に、素材表面に造膜処理を施した。油性潤滑剤には、鉱物油を用いた。更に、2〜3パスごとに適宜中間熱処理(350℃×15分)を1〜3回程度施した。
【0022】
試料(a):直径φ2.2mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行い(加工温度:100〜150℃,加工度:10〜20%/1パス,加工温度への昇温速度:約1℃/sec,線速:10〜20m/min)、得られた伸線材にシェービング加工を施して、直径φ2.0mmにする。シェービング加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
試料(b):直径φ2.2mmまで油性潤滑剤を用いて伸線加工を行い(加工温度:100〜150℃,加工度:10〜20%/1パス,加工温度への昇温速度:約1℃/sec,線速:10〜20m/min)、得られた伸線材にシェービング加工を施して、直径φ2.0mmにする。シェービング加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
試料(c):直径φ2.3mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行い、得られた伸線材に直径φ2.1mmとなるようにシェービング加工を施し、得られた表面加工材に直径φ2.0mmとなるように油性潤滑剤を用いて伸線加工を1パス行う(加工温度:室温,加工度:9%)。直径φ2.3mmまでの伸線加工条件は、試料(a)と同様。油性潤滑剤を用いた伸線加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
試料(d):直径φ2.0mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行い、伸線加工後、線材表面をアルカリ洗浄すると共に、有機溶剤による脱脂処理を行う。伸線加工条件は、試料(a)と同様。
試料(e):直径φ2.0mmまで油性潤滑剤を用いて伸線加工を行い、伸線加工後、線材表面をアルカリ洗浄すると共に、有機溶剤による脱脂処理を行う。伸線加工条件は、試料(b)と同様。
試料(f):直径φ2.0mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行う。伸線加工後、洗浄を行わず、有機溶剤による脱脂処理のみ行う。伸線加工条件は、試料(a)と同様。
試料(g):直径φ2.0mmまで油性潤滑剤を用いて伸線加工を行う。伸線加工後、洗浄を行わず、有機溶剤による脱脂処理のみ行う。伸線加工条件は、試料(b)と同様。
試料(h):押出材にシェービング処理を施して直径φ3.8mmにし、得られた表面加工材を直径φ2.0mmまで油性潤滑剤を用いて伸線加工を行う。伸線加工条件は、試料(b)と同様。伸線加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
試料(i):直径φ3.0mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行い、得られた伸線材に直径φ2.8mmとなるようにシェービング加工を施し、得られた表面加工材に直径φ2.0mmとなるまで油性潤滑剤を用いて伸線加工を行う。乾式潤滑剤を用いた伸線加工条件は、試料(a)と同様、油性潤滑剤を用いた伸線加工条件は、試料(b)と同様。油性潤滑剤を用いた伸線加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
試料(j):押出材にシェービング処理を施して直径φ3.8mmにし、得られた表面加工材を直径φ2.2mmまで乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行い、得られた伸線材にシェービング加工を施して、直径φ2.0mmにする。伸線加工条件は、試料(a)と同様。シェービング加工後、有機溶剤による脱脂処理を行う。
【0023】
得られた溶接線に対して、溶接試験を行い、溶接性を評価した。本試験では、突き合わせ溶接による継手効率を測定し、この継手効率により、溶接線の溶接性を定量的に評価した。具体的には、外径φ25mm,肉厚1.5mm,引張強さ(TS)=265MPaのAZ31合金からなるパイプを準備し、上記(a)〜(j)の溶接線により、このパイプ同士をTIG溶接により溶接し、溶接されたパイプに引張試験を行って、継手効率(%)=(溶接された後のパイプのTS)/(溶接前のパイプのTS)を求めた。本試験では、肉盛り高さをφ28mmに統一した。また、溶接パイプは5本ずつ(n=5)作製し、溶接された後のパイプのTSは、この5本の平均TSを利用した。その結果を表1に示す。継手効率が高いほど、溶接性に優れる。また、得られた(a)〜(j)の溶接線の横断面において、表面から深さ50μmの地点のビッカース硬度(HV)(表面硬さ)と、中心部のビッカース硬度(HV)(中心硬さ)を測定すると共に、その差を求めた。その結果も表1に示す。なお、表1において(乾式)は、乾式潤滑剤を用いた伸線加工を示し、(油性)は、油性潤滑剤を用いた伸線加工を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すようにシェービング加工を行った試料(a),(b),(c),(h),(i),(j)は、シェービング加工を施していない試料と比較して高い継手効率を示している。なかでも、伸線加工後にシェービング加工を施した試料(a),(b),(j)やシェービング加工後に1パスのみ伸線加工を施した試料(c)は、継手効率が90%以上と特に優れている。また、表1の結果から、乾式潤滑剤を用いた伸線加工を行った試料よりも油性潤滑剤を用いた伸線加工の試料の方が、溶接性に優れていることがわかる。例えば、試料(c)は、シェービング加工後に1パスの伸線加工を行っているが、この伸線加工が油性潤滑剤を用いた加工であるため、その後の脱脂処理により線材表面を容易に清浄にすることができ、高い溶接性が得られている。更に、伸線加工後にシェービング加工を施した試料(a),(b),(j)やシェービング加工後に1パスのみ伸線加工を施した試料(c)では、表面側の硬さ(表面硬さ)と中心部側の硬さ(中心硬さ)の差が10以上と大きくなっており、表面が硬化していた。
【0026】
一方、シェービング加工を行っておらず、乾式潤滑剤を用いて伸線加工を行った試料(d),(f)は、極めて溶接性が悪く、継手効率が低い。この原因は、線材表面に残留する造膜処理による被膜や潤滑剤の影響であると考えられる。また、表1の結果から、これら被膜や潤滑剤は、脱脂処理に加えてアルカリ洗浄を行っても十分に除去しきれないことがわかる。試料(e),(g)は、油性潤滑剤を用いた伸線加工を行ったため、被膜や潤滑剤の残留による影響が少なく上記試料(d),(f)よりも溶接性がよいが、押出材の段階から存在する酸化物などが原因して、溶接性が低下していると考えられる。
【0027】
以上から、マグネシウム溶接線の製造にあたり、シェービング加工を行うことは溶接性の向上に極めて有効であることがわかる。
【0028】
(試験例2)
試験例1で用いたAZ31相当合金の押出材と同じ押出材(直径φ4.0mm)を準備し、試料(a),(b),(c)と同様の条件で直径φ1.2mmの溶接線を作製し(シェービング加工による除去量:伸線材の横断面において表面から深さ0.1mmまでの領域)、MIG自動溶接機にて溶接を実施した。その結果、いずれの溶接線も供給などに全くが問題なく、安定した溶接が可能であった。従って、シェービング加工を施した溶接線は、自動溶接機の使用も可能であることが確認された。
【0029】
(試験例3)
上記試験例1で用いたマグネシウム基合金と異なる組成からなる押出材(直径φ4.0mm)を用意し、試料(a),(c)と同様の条件で溶接線を作製した。以下に組成を示す。
(組成)
純マグネシウム相当材:99.9質量%以上のMgと不純物からなる
AM60合金相当材:質量%でAl:6.1%、Mn:0.44%を含み、残部がMgと不純物からなるマグネシウム基合金
AZ61合金相当材:質量%でAl:6.4%、Zn:1.0%、Mn:0.28%を含み、残部がMgおよび不純物からなるマグネシウム基合金
ZK60合金相当材:質量%でZn:5.5%、Zr:0.45%を含み、残部がMgおよび不純物からなるマグネシウム基合金
【0030】
そして、得られた溶接線を用いて、試験例1と同様に溶接試験を行い、継手効率により溶接性を評価してみた。すると、いずれの組成の溶接線においても、継手効率が90%以上であり、溶接性に優れていた。また、試験例1と同様に得られた溶接線の横断面において、表面硬さと中心硬さの差を求めてみると、いずれの溶接線も、同差が10以上であり、表面が硬化していた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明マグネシウム溶接線は、マグネシウム素材の溶接に好適に利用することができる。特に、本発明溶接線は、表面清浄度、寸法精度に優れており、自動溶接機にも十分利用することができ、安定した溶接を行うことができる。また、本発明溶接線の製造方法は、上記溶接性に優れる溶接線の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる線材表面にシェービング加工が施されていることを特徴とするマグネシウム溶接線。
【請求項2】
純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる線材の表面から深さ50μmの位置におけるビッカース硬度が、同線材の中心部におけるビッカース硬度よりも10以上高いことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム溶接線。
【請求項3】
純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる母材を用意する工程と、
前記母材に伸線加工を施す工程と、
得られた伸線材の表面をシェービング加工する工程とを具えることを特徴とするマグネシウム溶接線の製造方法。
【請求項4】
更に、シェービング加工後、得られた表面加工材に1パスの伸線加工を施すことを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム溶接線の製造方法。
【請求項5】
更に、シェービング加工後、得られた表面加工材に複数パスの伸線加工を施すことを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム溶接線の製造方法。
【請求項6】
純マグネシウム又はマグネシウム基合金からなる母材を用意する工程と、
前記母材の表面をシェービング加工する工程と、
得られた表面加工材に伸線加工を施す工程とを具えることを特徴とするマグネシウム溶接線の製造方法。
【請求項7】
最終パスの伸線加工は、油性潤滑剤を用いて伸線加工を行うことを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のマグネシウム溶接線の製造方法。

【公開番号】特開2011−245558(P2011−245558A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160232(P2011−160232)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【分割の表示】特願2005−82293(P2005−82293)の分割
【原出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】