説明

マグネトロンスパッタカソード、マグネトロンスパッタ装置及び磁性デバイスの製造方法

【課題】ターゲットが磁性体で厚かったり、ターゲットとして強磁性体を用いる場合であっても、ターゲットの表面に放電に必要な磁気トンネルを形成させるために十分な大きさの漏洩磁場を発生させることが可能なマグネトロンスパッタカソード、マグネトロンスパッタ装置及び磁性デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のマグネトロンスパッタカソードは、ターゲット10のスパッタ面10aに設けられた第2環状溝14と、ターゲット10の非スパッタ面10bに設けられた第3環状凸部23と、非スパッタ面10bの、第3環状凸部23の外側に設けられた第4環状溝24と、非スパッタ面10bの、第4環状溝24の外側に設けられた第4環状凸部25とを有するターゲットを備える。また、上記マグネトロンスパッタカソードは、非スパッタ面10b側に、第1磁石5、及び第1磁石5と極性の異なる第2磁石6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタカソード、マグネトロンスパッタ装置及び磁性デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GMR、TMRヘッドなどの磁気ヘッド製造プロセス、MRAM製造プロセス、高周波領域で使用可能な薄膜インダクタ製造プロセスなどにおいて、強磁性体材料を用いたスパッタリングプロセスが好んで用いられている。
【0003】
スパッタリングプロセスのような真空における製造プロセスでは、ターゲット交換によるメンテナンスの時間を極力少なくすることで稼働率を向上させ、製造コストを低減することが従来から重要視されてきた。このような理由から、スパッタリングターゲットそのものの厚みを増やすことでターゲット寿命を延命させ、稼働率を高める方法が模索されている。
【0004】
マグネトロンスパッタリングでは、スパッタリングターゲット放電面に閉回路状の磁気トンネルが形成できるように、スパッタリングターゲット後方にカソードマグネットを設置することが一般的である。
【0005】
上記スパッタリングプロセス、特に磁気ヘッド製造プロセスでは、鉄・コバルト合金やニッケル・鉄合金などの強磁性材料からなるスパッタリングターゲットが用いられている。これらの強磁性体ターゲットは透磁率や飽和磁束密度が非常に高いので、強磁性体材料から成るスパッタリングターゲットの後方にカソードマグネットを設置しても、ほとんどの磁力線が強磁性体ターゲット内部を通ってしまうため、ターゲット放電面には磁気トンネルを形成できず、十分な磁場強度が得られない。
【0006】
従来のスパッタリングカソードでは、上記のような問題を解決するため、ターゲット後方に載置されたカソードマグネットからターゲット前方へ磁力線を効率よく引き出すように、ターゲット形状を最適化する方法を採用している。
【0007】
特許文献1は、ターゲットを補助ターゲットならびに主ターゲットの複数領域に分割して補助ターゲットの高さを主ターゲットの高さよりも高くすることで、補助ターゲット間に磁場を閉じ込めさせる方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−509091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る方法を飽和磁束密度が高い材料、例えば鉄・コバルト合金(飽和磁束密度2.4テスラ)のターゲットに適用して、漏洩磁場強度を求めるシミュレーションを行ったが、主ターゲット内にほとんどの磁力線が入り込んでしまい、主ターゲットの表面に実質的に平行な磁場強度は非常に小さくなってしまった。
【0010】
このように、従来では、ターゲット寿命を長くして稼働率向上を図るためにターゲットの厚さを厚くすることが求められているが、ターゲットを厚くすればするほど、ターゲット放電面(スパッタ面)から漏洩する磁場は小さくなり、やがて該漏洩磁場は無くなる。すなわち、ターゲットの厚さを厚くすれば、ターゲットの寿命が延びるので、ターゲットの交換スパンも延びるので、稼働率は向上するが、ターゲットが厚くなることによりターゲットから漏洩する磁場が減少あるいは無くなってしまう。よって、従来では、ターゲット放電面に十分な磁場を形成することと、ターゲットの寿命を延ばすこととの双方を満たすには限界があった。
【0011】
さらに、従来では、ターゲットとして透磁率や飽和磁束密度が高い強磁性体を用いる場合は、特許文献1に記載の方法を用いたとしても、ターゲット放電面の表面に十分な磁場を漏洩させることは難しかった。
【0012】
そこで、本発明は、ターゲットが磁性体で厚かったり、ターゲットとして強磁性体を用いる場合であっても、ターゲットの表面に放電に必要な磁気トンネルを形成させるために十分な大きさの漏洩磁場を発生させることが可能なマグネトロンスパッタカソード、マグネトロンスパッタ装置及び磁性デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、マグネトロンスパッタカソードであって、ターゲットであって、前記ターゲットの第1面に設けられた第1環状溝と、前記第1面と反対側にある前記ターゲットの第2面において、前記第1環状溝に対向する位置に少なくとも設けられた第1環状凸部と、前記第2面の、前記第1環状凸部の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状溝と、前記第2面の、前記第2環状溝の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状凸部とを有するターゲット、前記ターゲットの前記第2面側であって、前記ターゲットの前記第1環状溝の内側に位置する第1磁石、及び、前記ターゲットの前記第2面側であって、前記ターゲットの前記第1環状溝の外側に位置し、かつ前記第1磁石と極性の異なる第2磁石を備え、前記第1環状溝、前記第2環状溝、前記第1環状凸部、および前記第2環状凸部は、前記第1磁石および前記第2磁石の間に位置することを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1磁石および該第1磁石を囲むように配置され、該第1磁石と異なる磁性の第2磁石を備えるカソードに設けられるように構成されたターゲットであって、前記第1磁石と対向すべき第1の領域と、前記第2磁石と対向すべき第2の領域と、前記ターゲットの第1面に設けられた第1環状溝と、前記第1面と反対側にある前記ターゲットの第2面において、前記第1環状溝に対向する位置に少なくとも設けられた第1環状凸部と、前記第2面の、前記第1環状凸部の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状溝と、前記第2面の、前記第2環状溝の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状凸部とを備え、前記第1環状溝、前記第2環状溝、前記第1環状凸部、および前記第2環状凸部は、前記第1の領域および前記第2の領域の間に位置することを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様は、マグネトロンスパッタ装置であって、上記第1の態様に記載のマグネトロンスパッタカソードと、排気手段と、プロセスガスを導入するためのガス導入手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様は、磁性デバイスの製造方法であって、上記第3の態様に記載のマグネトロンスパッタ装置を用いて磁性デバイスを製造することを特徴とする。
【0017】
こうすることにより、プラズマ空間側に設けられたターゲットの環状溝において径方向にトンネル状の磁力線を発生させることが可能になる。この磁力線と、環状溝の底面の電界によってプラズマが発生し、スパッタリングプロセスを行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ターゲット表面に実質的に平行な磁場を発生させることができるマグネトロンスパッタカソードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタカソードの構造を示す斜視断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るターゲットの上面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスパッタカソードの構造を示す横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るターゲットのエロージョンを説明する図である。
【図5】図1に示すターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスパッタカソードを説明する図である。
【図7】図6に示すターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るスパッタカソードを説明する図である。
【図9】図8に示すターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、ターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る、ターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る、ターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタカソードを備えるスパッタ装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1、図2及び図3を参照して、本発明に適用可能なマグネトロンスパッタカソードの構造について説明する。図1は、マグネトロンスパッタカソードの構造を示す斜視断面図である。図2は、ターゲットの上面図である。図3は、マグネトロンスパッタカソードの構造を示す横断面図である。
【0021】
図1に示すように、マグネトロンスパッタカソード40は、主なものとして円盤状ターゲット10、ターゲット10を取り付けるためのバッキングプレート3、ターゲット裏面中心部に位置するように設けられた円筒形状の第1磁石(例えばS極)5、及びターゲット裏面外周部に位置するように設けられ、第1磁石5とは極性の異なる環状の第2磁石(例えばN極)6を備えている。すなわち、ターゲット10は、その中心部に第1磁石5と対向させる領域10cと、上記中心部から径方向に所定距離だけ離れて、第2磁石と対向させる環状の領域10dとを有する。従って、ターゲット10がカソードに配置されると、第1磁石5上に領域10cが位置し、第2磁石6上に領域10dが位置することになる。
【0022】
なお、第1磁石5は、円筒形状であり、第2磁石は第1磁石5の周囲を空間30を隔てて包囲するように環状に配置されている。第1磁石5と第2磁石6は、極性が異なればよく、どちら一方がN極であれば、他方がS極になるように設定すればよい。例えば第1磁石5をS極とし、第2磁石6をN極とした場合、第2磁石6からターゲットの被スパッタ面を出て第1磁石5に向かう磁界は、ターゲット表面に実質的に平行になるように形成される。しかし、ターゲットとして強磁性材料を用いた場合、この磁界がターゲット内部を通ってしまい、ターゲット表面に実質的に平行な磁界を形成できない。そこで、本発明では、後述するようにターゲット形状を特徴付けている。
【0023】
バッキングプレート3は、ステンレス又は銅等からなり、ターゲット10とはインジウムでボンディングされている。また、バッキングプレート3は、ターゲット10とは反対側で、第1磁石5と第2磁石6を固定している。また、第1磁石5と第2磁石6は、バッキングプレート3とは反対側でヨーク7に固定されている。
【0024】
強磁性材料からなるターゲット10のスパッタ面(第1面)10aには、第1環状溝12と、第1環状溝12の外側に設けられた第2環状溝14と、第1環状溝12と第2環状溝14との間に設けられた第1環状凸部13とが形成されている。また、ターゲット10のスパッタ面(第1面)10aには、第1環状溝11の内側(中心側)に円状凸部11が形成されており、第2環状溝14の外側(外周側)に環状凸部15が形成されている。上記領域10cは円状凸部11に含まれ、上記領域10dは環状凸部15に含まれている。
【0025】
一方、ターゲット10の非スパッタ面(第2面)10bには、第1環状溝12に対向する第2面10bの位置に少なくとも設けられた第2環状凸部21と、第2環状凸部21の外側で、第1環状凸部13に対向する第2面10bの位置に設けられた第3環状溝22と、第3環状溝22の外側で、第2環状溝14に対向する第2面10bの位置に少なくとも設けられた第3環状凸部23と、第3環状凸部23の外側に設けられた第4環状溝24が形成されている。さらに、ターゲット10の非スパッタ面(第2面)10bには、円状凸部11に対する第2面の位置に設けられた円状凹部20、及び第4環状溝24の外側に設けられた第4環状凸部25が設けられている。
【0026】
このように、スパッタ面10aにおいて、領域10cと領域10dとの間に、第1環状溝12、第2環状溝14、および第1環状凸部13が形成されており、非スパッタ面10bにおいて、第3環状溝22、第4環状溝24、第2環状凸部21、第3環状凸部23、および第4環状凸部25が形成されている。
【0027】
図2に示すように、ターゲット10に形成された第1環状溝12及び第2環状溝14は、同軸Oを中心に形成されている。また、中心Oから第1環状溝12の溝幅の中心との距離(MR1)と、図2からは明らかではないが、中心Oと第2環状凸部21の凸幅の中心との距離(TR1)は、同一になるように設定されている。同様に、中心Oから第2環状溝14の溝幅の中心との距離(MR2)と、図2からは明らかではないが、中心Oと第3環状凸部23の凸幅の中心との距離(TR2)は、同一になるように設定されている。
【0028】
また、図3に示すように、第1環状溝12及び第2環状溝14の溝の深さDは、ぞれぞれの溝幅Wより小さくなるように形成されている。より好ましくは、第1環状溝12及び第2環状溝14の溝の深さDは、それぞれ10mm以下である。こうすることにより、溝の深さ方向に磁界が発生して、溝の側面が過度にスパッタされるのを防止することができる。
【0029】
また、図3に示すように、第2環状溝14と第4環状溝24との距離L(中心Oからの所定の径方向において、第2環状溝14の底面の最も外側部と第4環状溝24の底面の最も内側部との間の距離L)は、4mm以下であるように設定されている。これは、これ以上にすると、第2磁石6からの磁界がターゲット内から、ターゲット表面に出にくくなり、ターゲット表面で実質的に平行な磁界を得るのは困難になるためである。
【0030】
さらに、第1環状凸部13の凸幅は、第3環状溝22の溝幅より大きくなるように設定されている。こうすることで、図4に示すようにエロージョンを形成でき、ターゲットの利用効率を向上させることができる。第1環状凸部13の凸幅を、第3環状溝22の溝幅より小さくすると、エロージョンがターゲット側面を突き抜けて、側面のバッキングプレートがむき出しになってしまい、ターゲット交換頻度が高くなってしまう。
【0031】
(第1の実施例)
上述した図1、図2及び図3で示したターゲット10とカソード40を以下に示す大きさで作製した。
ターゲットの材質 鉄・コバルト合金
ターゲット10の直径 164mm
第1環状溝12幅×深さ 16mm×4mm
第2環状溝13幅×深さ 16mm×4mm
第2環状凸部21幅×高さ 10mm×10mm
第2環状凸部23幅×高さ 10mm×10mm
MR1=TR1 36mm
MR2=TR2 54mm
第2環状溝14と第4環状溝24との距離L 2mm
ターゲット10の厚みT 16mm
マグネット5、6の高さMT 30mm
マグネット材質 ネオジウム・鉄・ボロン合金(48MGOe)
本発明を適用することでターゲット上に水平磁場が発生していることを視覚的に説明すべく、上記ように作成したターゲット及びカソードを、モデリングし積分要素法によりシミュレーションした結果を図5に示す。なお、図5は、簡略のため、軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。図1〜3に示すターゲットおよびカソードを用いると、図5に示すような磁力線形状となり、本実施例により溝部(第1環状溝12上、および第2環状溝14上)において、底面と実質的に平行な磁力線が形成していることが確認された。また、その磁束密度はどちらの環状溝にも放電に必要な磁場500ガウス以上が得られることを確認した。
【0032】
このように、本実施例では、ターゲット10の、第1磁石5に対向する領域10cと第2磁石6に対向する領域10dとの間において、一方の磁石(図5では、第2磁石)と近接するように、第4環状凸部25と、該第4環状凸部25の、第2磁石6と反対側(第1磁石5側)に第4環状溝24が形成されている。従って、第2磁石6から発生した磁力線は、磁性体であるターゲット10の第4環状凸部25に吸い込まれる。しかしながら、第4環状凸部25の内側(第1磁石5側)には第4環状溝24が形成されているので、ターゲット10を構成する磁性体は上記第4環状溝24の部分で不連続になる。よって、第4環状凸部25から進入した磁力線のほとんどはターゲット10の領域50に集中する。磁性体に単位体積(単位面積)あたりの磁力線の最大通過数(「飽和磁力線数」と呼ぶことにする)は決まっているので、上記領域50に進入する磁力線の数が、上記飽和磁力線数よりも多くなれば、磁力線はターゲット10から漏洩することになる。この漏洩した磁力線のうち、スパッタ面10a側に漏れた磁力線により、スパッタ面10aに対して平行な磁場が形成される。
【0033】
すなわち、第4環状溝24が形成されていない場合は、第4環状凸部25からターゲット10内に進入した磁力線は、ターゲットを構成する磁性体が不連続ではないので、磁性体で磁力線が局所的に集中すること無く、磁性体中に形成される。よって、ターゲットが厚い場合は、磁力線をスパッタ面10aから漏洩させることは難しい。しかしながら、本実施例では、磁力線を吸い込む構造の第4環状凸部25の内側(第1磁石5側)に第4環状溝24を形成してターゲット10を構成する磁性体に不連続構造を作り、ターゲット内において磁力線を局所的に集中させている。磁力線を局所的に集中させることにより、スパッタに関わる領域である第3環状凸部23の厚さが厚くても、磁力線をスパッタ面10a側に漏洩させることができる。図4に示すように、第2環状凸部21や第3環状凸部23においてエロージョンが形成されるので、これらの厚さを厚くすることにより、ターゲットの寿命を延ばすことができる。すなわち、第2環状凸部21や第環状凸部3の厚さを厚くすることによって、ターゲット10の、寿命を考慮した実効的な厚さは厚くなる。よって、本実施例では、実効的にターゲット10の厚さを厚くしても、スパッタ面10aにおいて放電に必要な磁気トンネルを形成するのに十分な漏洩磁場を発生することができる。
【0034】
なお、本実施例では、スパッタ面10aの、第3環状凸部23に対向する面に第2環状溝14を形成しているので、領域50をより狭くすることができ、該領域50への局所的な磁力線の集中作用をより大きくすることができる。
【0035】
また、上述のように、本実施例では、第4環状凸部25および第4環状溝24を形成することにより、広い領域(第4環状凸部25)から進入した磁力線を、狭い領域(領域50)に導く構成となる。よって、ターゲットの磁性材料に関わらずターゲット10の領域50の飽和磁力線数を超えた磁力線を領域50に導くことができるので、ターゲット10を強磁性体で構成しても、磁力線を上記領域50から漏洩させることができる。よって、透磁率や飽和磁束密度が大きな強磁性体をターゲットとして用いても、第4環状凸部25の大きさや、第4環状溝24の深さ等を調節することにより、上記強磁性体の飽和磁力線数を超える磁力線を領域50に集中させることができる。従って、強磁性体をターゲットとして用いても、スパッタ面10aにおいて放電に必要な磁気トンネルを形成するのに十分な漏洩磁場を発生することができる。
【0036】
さて、通常、平行な磁力線が形成される距離(長さ)は、限られている。従って、例えば、第4環状溝24と第1磁石5との間のターゲット10部分が長い場合、第4環状溝24および第4環状凸部25とにより形成された磁場において、スパッタ面10aと平行では無い領域が形成されることがある。そこで、本実施例のように、第4環状溝24の内側(第1磁石5側)に所定の距離だけ離間して第3環状溝22を、第3環状凸部23を形成するように設けることが好ましい。このように、第3環状溝22を形成して再度磁力線を局所的に集中させることによって、上記と同様にして漏洩磁場を形成することができ、スパッタ面10aに平行な磁場を形成することができる。
【0037】
このように、本発明において重要なことは、ターゲットの磁石と対向する面において、ターゲット内において磁力線を局所的に集中させるための構造を設けることである。そのために、本実施例では、広い範囲で磁力線を通過させるように構成されたターゲット領域と、狭い範囲で磁力線を通過させるように構成されたターゲット領域とを形成しており、該構成を形成するために、第4環状凸部25および第4環状溝24を設けている。すなわち、ターゲット10の非スパッタ面10bにおいて、第4環状溝24を設けることによって、狭い範囲で磁力線が通過する領域50と、広い範囲で磁力線が通過する第4環状凸部25とが形成されることになるので、上述のように磁力線の局所的な集中が実現されるのである。
【0038】
また、本実施例では、厚いターゲットの一方の面において、第4環状溝24を通常の溝形成方法によって形成するだけで、厚い第3環状凸部23、および磁力線を広い領域で通過させることができる第4環状凸部25を形成することができる。よって、寿命を考慮した実効的なターゲット厚を厚くすることと、局所的な磁力線の集中とを簡便な方法で実現することができる。
【0039】
なお、本実施例では、ターゲットの磁石と対向する面において、ターゲット内において磁力線を局所的に集中させるための構造を設けることを本質としているので、磁力線を再度局所的に集中させるための構造(例えば、第3環状溝23)を設けなくてもよい(第2の実施例参照)。また、上記磁力線を再度局所的に集中させるための構造を設ける場合は、本実施例のように1つに限らず、2つ以上であっても良い。
【0040】
ここで、本実施例に係るターゲット10の作製方法を説明する。
本実施例では、平板のターゲット10のスパッタ面10aにカッタ等の機械加工によって、円筒状凸部11が形成されるように第1環状溝12を形成し、第1環状溝12から離間して第2環状溝14を形成する。これら溝形成により、第1環状溝12と第2環状溝14との間に残った部分が第1環状凸部13となり、第2環状溝14の外周部に残った部分が環状凸部15となる。
【0041】
次いで、ターゲット10の非スパッタ面10bにおいて、円筒状凸部11と対向する位置に、機械加工により円柱状の凹部を形成することにより、領域10cを形成する。次いで、非スパッタ面10bにおいて、第1環状凸部13と対向する位置に、機械加工により第3環状溝22を形成する。これにより残った部分が第2環状凸部21となる。次いで、非スパッタ面10bにおいて、第3環状溝22から離間した領域であって、環状凸部15と対向する領域に、機械加工により第4環状溝24を形成する。これにより残った部分が第3環状凸部23となる。なお、第4環状溝24は、第3環状凸部23の外側の壁面と、第2環状溝14の外側の壁面とが一致するように形成することが好ましい。このようにすることで、領域50を可能な限り狭くすることができる。次いで、非スパッタ面10bにおいて、第4環状溝24から離間して、機会加工により溝を形成することにより、領域10dを形成する。これにより残った部分が第4環状凸部25となる。
【0042】
(第2の実施例)
図6は、マグネトロンスパッタカソードの第2の実施例を説明する図である。図7は、図6に示すターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。なお、図7は、簡略のため、軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。
【0043】
本例におけるターゲットは、図1に示すターゲットと異なり、ターゲットのスパッタ面に形成された環状溝が一つで、ターゲットの非スタッパ面(ターゲットのスパッタ面と対向する面)に形成された環状凸部が一つである。すなわち、本実施例では、ターゲット10は、ターゲット10のスパッタ面10aに形成された第1環状溝12と、ターゲット10の非スパッタ面10bにおいて、第1環状溝12の外側に形成された第4環状溝24と、該非スパッタ面10bにおいて、第4環状溝24の外側に形成された第4環状凸部25とを備えている。
これは、ターゲット直径が140mm以下の場合には、このように溝を一つで形成しても、図7に示すように、溝部において、底面と実質的に平行な磁力線が形成していることが確認された。
【0044】
(第3の実施例)
図8はスパッタカソードの第3の実施例を説明する図である。図9は図8に示すターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。なお、図9は、簡略のため軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。本例では、図1に示すターゲットと異なり、ターゲットの内周側にある第1磁石5側で、かつ非スパッタ面10bに内側環状溝26と内側環状凸部27が設けられている。
【0045】
このように環状凸部をターゲットの内側に形成しても、図9に示すように、溝部において、底面と実質的に平行な磁力線が形成していることが確認された。
【0046】
(第4の実施例)
図10は、本実施例のターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。なお、図10は、簡略のため、軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。図1に示すターゲットと異なり、本例におけるターゲットには、第4環状凸部25がない。このように第4環状凸部25をターゲットに形成しない場合、図10に示すように、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成できない領域が存在するが、第3環状溝22により、ターゲット10内において、磁力線を局所的に集中させることができるので、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成される領域を形成することができる。
【0047】
すなわち、エロージョンが形成されスパッタが行われる第2環状凸部21の厚さを厚くすることにより、ターゲットの実効的な厚さを厚くしたり、ターゲットの材料として強磁性体を用いても、該第環状凸部21上にはスパッタ面10aと平行な磁場を形成することができる。
【0048】
(第5の実施例)
図11は、本実施例のターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。なお、図11には、簡略のため、軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。図1に示すターゲットと異なり、本例におけるターゲットには、第3環状溝22がない。このように第3環状溝22をターゲットに形成しない場合、図11に示すように、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成できない領域が存在するが、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成される領域を形成することもできる。
【0049】
(第6の実施例)
図12は、本実施例のターゲット及びカソードを、積分要素法によりシミュレーションした結果を説明する図である。なお、図12には、簡略のため、軸X−Xを通る断面図のうち、軸の半分側しか表示されていない。本例は、図6及び図7で示した第2の実施例と基本的構成は同一であるが、ターゲットの直径を140mm以上とした点で相違する。このようにターゲットの直径を140mm以上として、ターゲットのスパッタ面に形成された環状溝が一つで、ターゲットの非スタッパ面に形成された環状凸部が一つである場合、図12に示すように、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成できない領域が存在するが、溝部に底面と実質的に平行な磁力線が形成される領域を形成することもできる。
【0050】
図13を参照して、本発明に係るマグネトロンスパッタカソードを備えるスパッタ装置について、説明する。
スパッタ装置55は、排気系303と接続された処理チャンバ300と、処理チャンバ300に設けられた強磁性材料からなるターゲット10を載置するためのカソード40と、処理チャンバ300に不活性ガス(例えば、アルゴン)などのプロセスガスを導入するためのガス導入手段307と、処理チャンバ300に設けられた基板ホルダ301と、を備えている。また、カソード40には、DC電源321及び整合回路317を介して高周波電源320が接続されている。なお、本発明に係るマグネトロンスパッタカソードは、基板と対向させて配置するいわゆる静止対向成膜に用いられるため、ターゲットを回転させる回転機構は不要である。なお、スパッタ装置55は、主にTMR素子を有するMRAM、GMR素子やTMR素子を有する磁気ヘッドや磁気センサなどの磁性デバイスを製造するために用いられる。
【0051】
なお、本発明に適用可能なターゲット材料としては、鉄・コバルト合金、ニッケル・鉄合金などが挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
3 バッキングプレート
5 第1磁石
6 第2磁石
10 ターゲット
11 円状凸部
12 第1環状溝
13 第1環状凸部
14 第2環状溝
15 環状凸部
21 第2環状凸部
22 第3環状溝
23 第3環状凸部
24 第4環状溝
25 第4環状凸部
26 内側環状溝
27 内側環状凸部
40 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットであって、
前記ターゲットの第1面に設けられた第1環状溝と、
前記第1面と反対側にある前記ターゲットの第2面において、前記第1環状溝に対向する位置に少なくとも設けられた第1環状凸部と、
前記第2面の、前記第1環状凸部の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状溝と、
前記第2面の、前記第2環状溝の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状凸部と
を有するターゲット、
前記ターゲットの前記第2面側であって、前記ターゲットの前記第1環状溝の内側に位置する第1磁石、及び、
前記ターゲットの前記第2面側であって、前記ターゲットの前記第1環状溝の外側に位置し、かつ前記第1磁石と極性の異なる第2磁石を備え、
前記第1環状溝、前記第2環状溝、前記第1環状凸部、および前記第2環状凸部は、前記第1磁石および前記第2磁石の間に位置することを特徴とするマグネトロンスパッタカソード。
【請求項2】
前記ターゲットと、前記第1磁石及び前記第2磁石との間にバッキングプレートが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタカソード。
【請求項3】
前記第1環状溝と前記第2環状溝との間の距離は、4mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタカソード。
【請求項4】
前記第1環状溝の深さは、該第1環状溝の溝幅より小さいことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタカソード。
【請求項5】
第1磁石および該第1磁石を囲むように配置され、該第1磁石と異なる磁性の第2磁石を備えるカソードに設けられるように構成されたターゲットであって、
前記第1磁石と対向すべき第1の領域と、
前記第2磁石と対向すべき第2の領域と、
前記ターゲットの第1面に設けられた第1環状溝と、
前記第1面と反対側にある前記ターゲットの第2面において、前記第1環状溝に対向する位置に少なくとも設けられた第1環状凸部と、
前記第2面の、前記第1環状凸部の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状溝と、
前記第2面の、前記第2環状溝の外側または内側の少なくとも一方に設けられた第2環状凸部とを備え、
前記第1環状溝、前記第2環状溝、前記第1環状凸部、および前記第2環状凸部は、前記第1の領域および前記第2の領域の間に位置することを特徴とするターゲット。
【請求項6】
請求項1に記載のマグネトロンスパッタカソードと、
排気手段と、
プロセスガスを導入するためのガス導入手段と
を備えることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
前記ターゲットと、前記第1磁石及び前記第2磁石との間にバッキングプレートが設けられていることを特徴とする請求項6に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
請求項6に記載のマグネトロンスパッタ装置を用いて磁性デバイスを製造することを特徴とする磁性デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−222698(P2010−222698A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276689(P2009−276689)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】