説明

マスカラ用繊維、マスカラ用繊維の製造方法、マスカラ化粧料およびマスカラ化粧料の製造方法

【課題】マスカラ用繊維、該マスカラ用繊維の製造方法、さらにはマスカラ化粧料およびマスカラ化粧料の製造方法。
【解決手段】繊維長が0.1mm〜5.0mmで単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、かつ該短繊維の両先端部が丸み付け加工をされてなるマスカラ用繊維。分割細化可能型複合繊維の溶出成分をあらかじめ易分割処理した後、所定の長さにカットし、さらに分割細化処理する。あるいは、単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単一成分繊維を所定の繊維束長さにカットし、カットされた繊維束中の短繊維の両端部の一部を溶解させる丸み付け処理に供する。上記マスカラ用繊維を1〜10重量%含有してなるマスカラ化粧料、また、上記マスカラ用繊維を含有させて用いるマスカラ化粧料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスカラ化粧料、すなわち、睫を濃く、長く見せるための化粧料において、短繊維を含有してなるマスカラ化粧料とその製造方法に関するものである。
【0002】
さらに詳しくは、睫の化粧において、睫の長さをより長くし、繊細で優美な外観形状を与え、すっきりとした美しい印象を持つ目元を得ることを従来のマスカラ以上に可能にすることができるマスカラ用繊維、マスカラ用繊維の製造方法、マスカラ化粧料およびマスカラ化粧料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、マスカラは、睫を上方にカールすることや、睫を太く長くすることで、目元をはっきりさせることによって、すっきりとした目元の美的外観の向上効果を奏するものである。
【0004】
一般的には、マスカラ用に供される基材として、例えばワックス類、粉体などが用いられてきた。
【0005】
該基材によれば、隣り合った睫を接着し、見かけ上は太く見せることはできるが、目元近傍において二次元的な面を成しているため、美しさに欠け、かつ隣り合った睫と接着して硬くなるために目元に違和感があった。また、長さにおいては、単に粉体を連ねているだけでは十分な睫長さが得られないという欠点があった。
【0006】
最近、これらの欠点を改善する手段としてマスカラ用基材として短繊維を含有させ、短繊維を含有したマスカラ化粧料について種々の提案がなされている(特許文献1−3)。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の提案では、太さが1〜7デニールの繊維を含有したアイメークアップ化粧料が提案されているが、この提案では、単繊維繊度が太く、重いため、十分な長さが得られず、アイメーク後に違和感が残り、外観においても優美さに欠けるという問題が残っている。
【0008】
また、特許文献2では、0.1〜8デニールの繊維を含有したアイメークアップ化粧料が提案されているが、短繊維の製造や形状に関する深い検討はなされておらず、いまだ改善の余地があると解されるものであった。
【0009】
また、特許文献3では、所定の長さに切り刻むということが提案されているが、短繊維の製造や形状に関する十分な検討はなされていないものであった。
【特許文献1】特開平7−179323号公報
【特許文献2】特開平9−263518号公報
【特許文献3】特開2004−269493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの各種検討によれば、マスカラ中に用いられている短繊維どおしの繋がりが良好な場合ほど、簡単に長くて優美な睫を形成することができて、見た目にも人毛と見間違う効果が得られることから有効であるとの知見を得た。
【0011】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、睫の化粧において、睫の長さをより長く見せることができて、繊細で優美な外観形状・印象を与え得て、すっきりとした目元を得ることのできるマスカラ用繊維、該マスカラ用繊維の製造方法、さらにはマスカラ化粧料およびマスカラ化粧料の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成する本発明のマスカラ用繊維は、以下の(1) の構成からなる。
(1)繊維長が0.1mm〜5.0mmで単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、かつ該短繊維の両先端部が丸み付け加工をされてなることを特徴とするマスカラ用繊維。
【0013】
また、かかる本発明のマスカラ用繊維は、より具体的に特に好ましくは、以下の(2) 〜(3) の構成からなる。
(2)短繊維の単繊維繊度が、0.005〜4.0デシテックスであることを特徴とする上記(1) 記載のマスカラ用繊維。
(3)短繊維が、ポリエステル系またはポリアミド系の合成繊維からなることを特徴とする上記(1) または(2) 記載のマスカラ用繊維。
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法は、以下の(4) の構成からなる。
(4)分割細化可能型複合繊維からなる単繊維の溶出成分をあらかじめ易分割処理に供した後、該分割細化可能型複合繊維を所定の長さにカットし、さらに溶出分割細化処理に供することを特徴とするマスカラ用繊維の製造方法。
【0015】
また、かかる本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法は、より具体的に特に好ましくは、以下の(5) 〜(8) の構成からなる。
(5)前記溶出分割細化処理で実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで前記分割細化可能型複合繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、少なくとも該非溶解性シートで側面外周が覆われている繊維束状態で、前記カットと前記溶出分割細化処理に供することを特徴とする上記(4) 記載のマスカラ用繊維の製造方法。
(6)分割細化可能型複合繊維として、易分割処理に供する前の単繊維繊度が1〜20デシテックスである分割細化可能型複合繊維を用いることを特徴とする上記(4) または上記(5) 記載のマスカラ用繊維の製造方法。
(7)分割細化可能型複合繊維が海島型複合繊維であり、かつ、易分割処理が溶出成分である海成分の脆化処理であることを特徴とする上記(4) 、(5) または(6) 記載のマスカラ用繊維の製造方法。
(8)海島型複合繊維の海成分が、スルホン酸基が導入されたアルカリ易溶型ポリエステルからなるものであり、かつ、易分割処理が酸性条件下における脆化処理であることを特徴とする上記(7) 記載のマスカラ用繊維の製造方法。
【0016】
また、上述した目的を達成する本発明の第2のマスカラ用繊維の製造方法は、以下の(9) の構成からなる。
(9)先端部丸み付け処理で実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで、単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単一成分繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、該非溶解性シートで側面外周が覆われている繊維束状態で所定の繊維束長さとするカットと、さらに該カットされた繊維束中の短繊維の両端部の一部を溶解させる前記先端部丸み付け処理に供することを特徴とするマスカラ用繊維の製造方法。
【0017】
また、上述した目的を達成する本発明のマスカラ化粧料は、以下の(10) の構成からなる。
(10)上記(1) 、(2) または(3) 記載のマスカラ用繊維を1〜10重量%含有してなることを特徴とするマスカラ化粧料。
【0018】
また、上述した目的を達成する本発明のマスカラ化粧料の製造方法は、以下の(11) の構成からなる。
(11)繊維長が0.1mm〜5.0mmで単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、かつ該短繊維の両先端部が丸み付け加工をされてなるマスカラ用短繊維を、マスカラ液に含有せしめることを特徴とするマスカラ化粧料の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明にかかるマスカラ用繊維、マスカラ用繊維の製造方法、マスカラ化粧料、あるいはマスカラ化粧料の製造方法によれば、睫の化粧において、睫の長さをより長くし、繊細で優美な外観形状・印象を与え、見栄えのある、すっきりとした目元を得ることができるというマスカラが得られる。
【0020】
特に、本発明によればマスカラ化粧料中に存在する短繊維どおしが一部重なって繋がりやすく、それも長く繋がりやすいのである。官能的な表現で言えば、睫へのマスカラののりが良好なものであり、より細く繊細ですっきりとした美しい目元の睫を醸すことができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、更に詳しく本発明について、説明する。
【0022】
本発明のマスカラは、睫の長さをより長くし、繊細で優美な外観形状・印象を与え、すっきりとした目元を得るために、特定の単繊維、太さ、長さ、形状等に好適な範囲があるとの知見に基づいて得られたものである。
【0023】
すなわち、本発明のマスカラに含有されるマスカラ用繊維は、太さにおいて単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、好ましくは0.005〜4.0デシテックス、より好ましくは0.01〜3.0デシテックスの極細繊維短繊維である。
【0024】
短繊維の太さ(単繊維繊度)が0.001デシテックス未満の場合は、マスカラを製造する過程において、繊維が細すぎるために、マスカラ内のブラシに絡みついて睫側に移動しないという問題があり、一方、3.0デシテックスを上回る場合には太すぎるため、重くなり、長い睫が得られにくく、塗った後に違和感が残るという評価を受ける場合があり好ましくない。
【0025】
また、本発明の短繊維の長さは、0.1〜5.0mmの範囲内であることが肝要で、好ましくは0.5〜4.0mm、さらに好ましくは1.0〜3.0mmの範囲内である。
【0026】
短繊維長が5.0mmを超えると繊維が長すぎるため、ブラシに絡みついて睫側に移動しないという問題があり、0.1mmを下回る場合には繊維長が短いため、繊維相互の繋がりが弱く長い睫が得られにくい。
【0027】
本発明のマスカラ用繊維は、上述した繊維長を有することに加えて、短繊維の単繊維繊度が0.001〜3.0デシテックスの短繊維で構成され、かつ該短繊維の両先端部は丸み付け加工をされて丸みを持っていることが特徴である。
【0028】
本発明で短繊維の両先端で丸み付け加工がされているとは、図1に示したように、短繊維1のカット端面を側面から顕微鏡で観察した場合に、釘の頭の如きバリ状のエッジ端が実質的に存在せず、端面で平坦面を有さないことを意味する。
【0029】
ちなみに、繊維を長さ方向と垂直な方向にカッター等で切断した場合は、通常、その切断端面は平坦な面状部が存在するものであり、また、該切断面を側面方向から見た場合に、図2に示したように、短繊維2の先端に釘の頭の形状の如き、バリ状のエッジ端3が見られるものである。
【0030】
ここで、図1は、本発明にかかる短繊維1の先端が丸み付け加工されている短繊維の一先端側の拡大顕微鏡写真をトレースした概略モデル図であり、図2は、短繊維の先端が丸み付け加工されていない短繊維2の一先端側の拡大顕微鏡写真をトレースした概略モデル図である。
【0031】
これに対して、本発明にかかる短繊維の両先端部においては、かかるバリ状のエッジ端はなく、また、断面が平坦な面部分を有するものではなく、丸みを帯びているものである。
【0032】
これらの構造を対比すると、図2に示したようなエッジ端が存在している場合には、短繊維どおしがその端部付近で上記バリ状のエッジ端が存在することから、それが邪魔をして、両短繊維がうまく重なり合って密着することができず、睫を長くしていくという作用効果をうまく実現することが難しいものであり、繊度が小さい繊維ほどその傾向が強い。それに対して、本発明のようにエッジ端が存在していない場合には、短繊維どおしがその端部付近でもうまく重なり合って密着することができて、睫を長くしていくという作用効果を良好に実現することができるものである。
【0033】
本発明において、丸みとは、繊維端において、最大直径部長さに対し、該最大直径部から最先端までの長さ比が0.01倍以上であり、好ましくは、0.1以上のものである。この長さ比が0.01倍を下回る場合には、本発明の所期の目的を達成し得る人毛様睫形状端を得ることが難しい。
【0034】
このように丸み付けをされた短繊維は、分割細化可能型の複合繊維の単繊維をただ単にカットしてから分割細化処理する方法では一般に得られないものであり、本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法のように、細化可能型複合繊維の単繊維をあらかじめ易分割処理を行った後、所定長にカットしてから溶出分割細化処理を行なうことによって得ることができる。
【0035】
以下、かかる本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法について説明をする。
【0036】
分割細化可能型の海島型複合繊維において、本発明者らは、単に、海島型複合繊維をカットしてから溶出分割細化処理を行い、本発明の短繊維を得ることを試みた。しかし、その結果は、カット作用によって海成分と島成分が融着することから、分割されない未分割の短繊維が多く発生して見られ、また分割された短繊維の端面の側面形状は、前述した図2に示したような釘の頭様のバリ形状のエッジ端となり、睫化粧において、該バリ状構造の存在が繊維相互の繋がり力の低下を招くことから不足し、期待にそった十分な長さの睫化粧が得られず品位の劣るものであった。加えて、表面外観品位においても、釘の頭様のバリ状のエッジ端が存在することから品位的に良くなく、優美な先端形状は得られないものであった。
【0037】
これらのバリ状のエッジ端の存在に基づく不都合は、特に、短繊維の単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの範囲の短繊維、より詳しくは短繊維の単繊維繊度が0.005〜4.0デシテックス、さらに詳しくは短繊維の単繊維繊度が0.01〜3.0デシテックスの範囲等の、より単繊維繊度が小さい(細い)短繊維であればあるほど大きなものとなり、特に、そのような単繊維繊度が小さい(細い)短繊維での該不都合の解決が望まれるものであった。
【0038】
すなわち、本発明の効果は、該単繊維繊度が細い、0.001〜5.0デシテックスの範囲の短繊維に対してより有効なものなのである。
【0039】
そして、分割細化可能型の複合繊維を、あらかじめ易分割処理を行ってから所定長にカットし、次いで、溶出分割処理を行うことによってのみ、前述した未分割という問題が解消され、単繊維の端面に丸みを持った短繊維が得られることがわかった。
【0040】
さらに、該短繊維をマスカラ液に含有して通常の睫の化粧をしたところ、長くて繊細な睫が得られ、隣り合った睫との接着が少ないため、硬くならず目元がくっきりとしたものが得られるのである。
【0041】
マスカラ化粧料に含有されるべき本発明にかかる短繊維の含有率は1〜10重量%であり、この範囲を外れる場合には、マスカラ液との量的バランスが良くなく、必ずしも目的とする優美な睫は得られない。
【0042】
本発明において短繊維を構成する素材は、特に限定されないが、外観や製造のしやすさなどの観点から、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸繊維などのポリエステル系繊維、あるいはポリアミド系繊維などの合成繊維が好ましく用いられる。本発明では、これらのポリマーをベースにした共重合体、あるいは複合および添加剤配合などによる改質素材も含まれる。
【0043】
次に、上述した本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法について説明するが、本発明のマスカラ用繊維の製造法はこれだけに限定されるものではない。
【0044】
すなわち、本発明の第1のマスカラ用繊維の製造方法は、分割細化可能型の単繊維繊度が1〜20デシテックスの海島型複合繊維の単繊維を、あらかじめ易分割処理を行ってから所定長にカットし、次いで、溶出分割処理することによって両端に丸み付け加工を施された単繊維を得ることを特徴とするものである。
【0045】
かかる本発明の第1のマスカラ用繊維の製造法に用いられるに好適な単繊維は、一成分の溶出処理により簡単に細化可能でかつ該溶出処理により短繊維の両先端の丸み付け加工がなされる複合繊維の単繊維である。
【0046】
このような複合繊維の例としては、海島型複合繊維が代表的なものである。海島型複合繊維は、島成分とその島成分を取り囲む形で配置された海成分で構成されており、最終的にはその海成分である一成分(溶出成分)を実質的に除去して細化するもので、島成分には、前述のようにポリエステル系の重合体や共重合体、あるいはポリアミド系の重合体や共重合体が好ましく用いられる。海成分も限定されるものではないが、スルホン酸基が導入された、アルカリ易溶型ポリエステルが挙げられる。海成分の好ましい割合は2〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%である。
【0047】
本発明の該第1のマスカラ用繊維の製造法では、この海成分である溶出成分を溶出分割処理で除去して島成分に細化する前に、主としてこの溶出成分に対して易分割処理を施すことがポイントとなる。
【0048】
該易分割処理の具体例としては、代表的には、海成分である溶出成分の脆化処理が挙げられる。海成分が前述のスルホン酸基が導入されたアルカリ易溶型ポリエステルの場合には、脆化処理として酸性条件下での加熱処理など工業的に容易な処理で易分割処理が可能である。
【0049】
酸としては、海成分が脆化する薬品を選べば良く、例えば、エチレンジアミン、エチレントリアミン、モノエタノールアミンなどのアミン類、酢酸、蟻酸、リンゴ酸、マレイン酸などの有機酸類、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛などの亜鉛塩類、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸類、過酸化水素、亜塩素酸ソーダなどの酸化剤などが挙げられるが、酢酸、蟻酸、リンゴ酸、マレイン酸などの有機酸類が好適である。
【0050】
酸性条件下での処理方法としては、処理浴のpHは、好ましくは2〜6、より好ましくは3〜5であり、処理温度は好ましくは80℃〜150℃、より好ましくは90〜140℃であり、また、処理時間は好ましくは20分〜60分、好ましくは30分〜50分である。
【0051】
本発明の第1のマスカラ用繊維の製造法では、このように易分割処理された短繊維(ないしはその束)は、次いで、溶出分割細化処理される。
【0052】
溶出細化処理剤としては、海成分を溶出するためアルカリ溶液を用いることができ、例えば、苛性ソーダ、苛性カリなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、あるいは炭酸ソーダ、炭酸カリなどの塩基性塩が挙げられる。溶出処理方法において、処理温度は好ましくは50℃〜130℃、より好ましくは60℃〜120℃である。また、処理時間は、完全に分割する条件を選べば良く、好ましくは10分〜90分、より好ましくは20分〜80分である。この溶出分割細化処理によって、同時に、短繊維の両先端部に丸み付けがなされることとなる。
【0053】
このように両先端部に丸みが形成されるメカニズムは、例えば、綛状態で易分割処理(脆化処理)することによりカットした際に海成分と島成分の界面が剥離し、その剥離した部分に溶出剤が浸入して丸みのある短繊維が得られると推定される。一方、綛状態で脆化処理を行わずに、カットし、次いで、溶出処理(脱海処理)を行うと、カット時に海成分と島成分が融着するため、未分割状態が発生したり、また分割された部分において丸みのないものとなってしまう。
【0054】
分割細化可能型複合繊維を、良好にカットと前記溶出分割処理に供するに際しては、好ましくは、分割細化可能型複合繊維からなる繊維束を、前記溶出分割処理では実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで該分割細化可能型複合繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、少なくとも該非溶解性シートで該側面の全外周が覆われている繊維束状態のままで、該カットと該溶出分割処理に供するのがよいものである。
【0055】
この本発明の第1の方法に基づいてマスカラ用短繊維を得るためには、代表的な具体例としては、次のような具体的手法が挙げられる。
【0056】
まず、細化可能型の複合繊維からなる単繊維糸として、単繊維繊度が1〜20デシテックスで、分割後の単繊維の単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックス、より効果的な点で好ましくは0.01〜4.0デシテックスとなる単繊維糸を用い、これにあらかじめ易分割処理を行ってから、単繊維長0.1〜5.0mmの所定のカット長に切断する。易分割処理は、pH4以下の条件で脆化処理する方法である。
【0057】
その後、好ましくは、フルイなどでミスカット屑等を除去する選別操作を行い、溶出分割処理してマスカラ用細化短繊維を得る。一般に染色は行わないが、必要に応じて行うこともできる。
【0058】
このような方法によって得られたマスカラ用繊維は、調合されたマスカラ液に1〜10重量%混入してマスカラ化粧料を得ることができる。該含有量は、該範囲を外れる場合には、目的とする長くて優美な睫外観形状を得ることができない。
【0059】
また、マスカラ液は、通常使われている液であれば、いかなる液でも用いることができ、特に限定されないが、例えば、ワックス成分や皮膜形成剤さらに着色剤などが用いられ、ワックスでは、カルナウバ、キャンデリラ、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、パラフィンなどのワックスを目的に応じて組み合わせることができる。
【0060】
皮膜形成剤のポリマーエマルジョンとしては、アクリル酸系、ポリ酢酸ビニル系、シリコン系などが挙げられるが、アクリル酸系が多く用いられる。
【0061】
着色剤としては顔料が多く用いられる。また、必要に応じて香料なども混ぜることができる。
【0062】
また、本発明のマスカラ用繊維は、上述した分割細化可能型の複合繊維を用いずとも、通常の溶融紡糸延伸プロセスやスーパードローと呼ばれる溶融紡糸延伸プロセス等によって、単一成分繊維として単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単繊維を得て、該繊維を用いることによっても製造することができる。
【0063】
その方法が前述した(9) の本発明の第2のマスカラ用繊維の製造方法であり、具体的には、先端部丸み付け処理で実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで、単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単一成分繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、該非溶解性シートで側面外周が覆われている繊維束状態で所定の繊維束長さとするカットと、さらに該カットされた繊維束中の短繊維の両端部の一部を溶解させる前記先端部丸み付け処理に供するものである。この方法は、単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単繊維を得るためのプロセスとして単一成分繊維を用いた点が第1の方法と相違するもので、その後の非溶解性シートで繊維束の側面外周を覆い、該状態でカットと両先端部の溶出(溶解)処理に供するという点以降は、第1の方法と同様である。
【0064】
以上の本発明の第1、第2の方法において、両先端部の丸み付け加工は、カットされた短繊維の全体を溶出処理液に完全に浸漬させることにより、両端を同時に処理することによって簡単に行うことができる。完全に浸漬させることなく片端のみをまず処理液に漬けて処理して、その後に他端を処理液に漬けて処理するという手法も採ることができるが、短繊維の短さ(繊維長0.1mm〜5.0mm)からすれば、完全に浸漬して両端を同時に丸み付け加工に供するという手法を採用する方が効率・効果的である。
【0065】
上述した本発明にかかるマスカラ用繊維を含有したマスカラは、睫の化粧において、繊細で長く、優美な睫を得ることができる。特に、前述した釘の頭の如きバリ状のエッジ端が存在していないために、短繊維どおしが一部重なって繋がりやすく、それも長く繋がりやすい。官能的な表現で言えば、睫へのマスカラののりが良好なものであり、すっきりとした美しい目元の睫を醸すことができるのである。
【実施例】
【0066】
〔マスカラ液の調合方法〕
下記の割合(重量%)の液を、マスカラ液として用いた。
【0067】
ポリアクリル酸エステルエマルジョン 50.0
ポリメタクリル酸 2.0
トリエタノールアミン 2.5
ブチレングリコール 3.0
塩化ナトリューム 0.5
防腐剤 適量
シリカ 2.0
顔料 1.0
香料 0.1
以上のような背後に加えて、精製水を加え全体で100重量%とした。
【0068】
〔評価方法〕
パネラーとして10人を選定し、使用感や使用前後の差を、「マスカラののりの良さ」、「マスカラの長さ」、「マスカラの優美性」および「マスカラの見栄え」の4項目として、さらに「総合」の項目を設け、それぞれについて以下の3段階の評価で行った。
○:8〜10人が、良いとの評価であったもの。
△:5〜7人が、良いとの評価であったもの。
×:0〜4人が、良いとの評価であったもの。
【0069】
実施例1
島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分がエチレン−5−ソジウムスルホイソフタレート単位を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートからなる海島繊維(単繊維繊度6.6デシテックス、島成分90重量%、海成分10重量%、島本数70本)の単繊維糸を綛取り機にかけ、55万デシテックスの太さのトウを得た。
【0070】
得られたトウをマレイン酸の水溶液中で処理し、海成分の脆化易分割処理を行い、十分洗ってから脱水した。
【0071】
次いで、ギロチンカッターで長さ2.0mmにカットした。得られた短繊維を水酸化ナトリウムの水溶液中で処理し、脱海分割細化処理を行った。得られた短繊維の両先端は丸みを持っていた。短繊維の両端部は、丸みを帯びており、かつ、平坦な断面を有さない形状であった。
【0072】
また、短繊維端において、最大長径部長さに対し、該部から最先端までの長さ比は、0.6倍であった。
【0073】
次いで、内容積10ccのマスカラ容器の中に調合されたマスカラ液8gと該繊維0.4g(5重量%)を混ぜてマスカラを作成した。
【0074】
該マスカラを用いて睫の化粧をしたところ、睫の長さは長くなっており、隣り合った睫との接着が少なく極めて繊細で優美な見栄えのする睫を得ることができた。評価した結果を表1に示す。
【0075】
実施例2
単繊維糸として、島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分がエチレン5ソジウムスルホイソフタレート単位を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートからなる海島繊維(単繊維繊度6.7デシテックス、島成分78重量%、海成分22重量%、島本数36本)の単繊維糸を用い、長さを2.0mmにカットしたこと以外は、実施例1と同様の加工を行なってマスカラを得た。
【0076】
単繊維の両先端部は、丸みを帯びシャープで鋭利なエッジがなく、かつ、平坦な断面を有さない形状であった。また、短繊維端において、最大長径部長さに対し、該部から最先端までの長さ比は0.8倍であった。
【0077】
該マスカラを用いて睫の化粧をしたところ、睫の長さは長くなっており、隣り合った睫との接着が少なく極めて繊細で優美な見栄えのする睫を得ることができた。評価した結果を表1に示す。
実施例3
ポリエチレンテレフタレートからなる56デシテックス×18フィラメントのマルチフィラメント糸を綛取り機にかけ、10万デシテックスの太さのトウを得た。得られたトウの側面を濾紙で紙巻きしてからギロチンカッターで繊維長2.0mmにカットした。
【0078】
次に、紙巻きされた短繊維トウを水酸化ナトリウムの水溶液中で処理した。次いで、紙を除去し、湯洗い、水洗し、アルカリ成分を完全に除去して乾燥した。
【0079】
得られた短繊維の両先端は丸みを持っており、平坦な断面を有さない形状であった。該短繊維端において、最大長径部長さに対し、該部から最先端までの長さ比は、0.8倍であった以外は実施例1と同様にして、マスカラ化粧料を作成した。
【0080】
該マスカラ化粧料を用いて睫の化粧をしたところ、睫の長さは長くなっており、隣り合った睫との接着が少なく、極めて繊細で優美な見栄えのする睫を得ることができた。評価した結果を表1に示す。
【0081】
比較例1
短繊維を含有しないマスカラ液のみのマスカラを用いて睫の化粧をしたところ、睫の長さは長くなっておらず、隣り合った睫との接着が多く見られ違和感のある貧相な睫であった。評価した結果を表1に示す。
【0082】
比較例2
ポリエチレンテレフタレートからなる56デシテックス×18フィラメントのマルチフィラメント糸を綛取り機にかけ、55万デシテックスの太さのトウとし、ギロチンカッターで繊維長2.0mmにカットした。
【0083】
得られた短繊維の両先端は、釘の頭状のエッジ端形状を有していた。この釘の頭状のエッジ端形状を有していたこと以外は、実施例1と同様にして、マスカラ化粧料を作成した。
【0084】
該マスカラ化粧料を用いて睫の化粧をしたところ、睫の長さは若干長くなっているが、違和感があり見栄えも不十分なものであった。評価した結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明にかかる短繊維の先端が丸み付け加工されている短繊維の一端側の拡大顕微鏡写真をトレースした概略モデル図である。
【図2】図2は、短繊維の先端が丸み付け加工されていない短繊維の一端側の拡大顕微鏡写真をトレースした概略モデル図である。
【符号の説明】
【0087】
1:短繊維
2:短繊維
3:バリ状のエッジ端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が0.1mm〜5.0mmで単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、かつ該短繊維の両先端部が丸み付け加工をされてなることを特徴とするマスカラ用繊維。
【請求項2】
短繊維の単繊維繊度が、0.005〜4.0デシテックスであることを特徴とする請求項1記載のマスカラ用繊維。
【請求項3】
短繊維が、ポリエステル系またはポリアミド系の合成繊維からなることを特徴とする請求項1または2記載のマスカラ用繊維。
【請求項4】
分割細化可能型複合繊維からなる単繊維の溶出成分をあらかじめ易分割処理に供した後、該分割細化可能型複合繊維を所定の長さにカットし、さらに溶出分割細化処理に供することを特徴とするマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項5】
前記溶出分割細化処理で実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで前記分割細化可能型複合繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、少なくとも該非溶解性シートで側面外周が覆われている繊維束状態で、前記カットと前記溶出分割細化処理に供することを特徴とする請求項4記載のマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項6】
分割細化可能型複合繊維として、易分割処理に供する前の単繊維繊度が1〜20デシテックスである分割細化可能型複合繊維を用いることを特徴とする請求項4または5記載のマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項7】
分割細化可能型複合繊維が海島型複合繊維であり、かつ、易分割処理が溶出成分である海成分の脆化処理であることを特徴とする請求項4、5または6記載のマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項8】
海島型複合繊維の海成分が、スルホン酸基が導入されたアルカリ易溶型ポリエステルからなるものであり、かつ、易分割処理が酸性条件下における脆化処理であることを特徴とする請求項7記載のマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項9】
先端部丸み付け処理で実質的に溶解されない素材からなる非溶解性シートで、単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの単一成分繊維からなる繊維束の側面外周を覆い、該非溶解性シートで側面外周が覆われている繊維束状態で所定の繊維束長さとするカットと、さらに該カットされた繊維束中の短繊維の両端部の一部を溶解させる前記先端部丸み付け処理に供することを特徴とするマスカラ用繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1、2または3記載のマスカラ用繊維を1〜10重量%含有してなることを特徴とするマスカラ化粧料。
【請求項11】
繊維長が0.1mm〜5.0mmで単繊維繊度が0.001〜5.0デシテックスの短繊維であり、かつ該短繊維の両先端部が丸み付け加工をされてなるマスカラ用短繊維を、マスカラ液に含有せしめることを特徴とするマスカラ化粧料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−200075(P2006−200075A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13726(P2005−13726)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】