説明

マスクおよびその製造方法

【課題】チップが固定されていた支持基板を好適に回収して再利用することのできるマスクおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】複数のチップ20を保持する支持基板30を有するマスク10において、支持基板30には、クロム膜からなるアライメントマーク33、34が保護膜で覆われている。このため、複数のチップ20のいずれかに不具合が発見されたときには、チップ20を除去して支持基板30を好適な状態で回収し、回収した支持基板30を用いて再度マスク10を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板上に蒸着法、スパッタ法あるいは化学気相法により成膜するパターンに対応する開口部が形成されたマスク、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置を製造するにあたって、開口部を備えたマスクを被処理基板に重ね、この状態で真空蒸着法、スパッタ法、化学気相法により成膜を行うことがある。例えば、電気光学装置として有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELという)装置を製造するにあたって、発光用の有機EL材料(有機機能層)を所定形状に形成する際にフォトリソグラフィ技術を利用すると、パターニング用のレジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機材料が水分や酸素に触れると劣化が起こる。このため、有機機能層を形成するには、レジストマスクを必要としないマスク蒸着法が適している。
【0003】
しかしながら、被処理対象基板が大きい場合には、マスクも大きく形成しなければならないが、このようなマスクを高精度に製作することは非常に困難である。また、マスクが金属製である場合、マスクが大きい場合には成膜時の熱膨張を無視できず、成膜精度が低下するという問題点がある。
【0004】
そこで、開口部が形成されたシリコン製の複数のチップを支持基板に固定してマスクを構成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は、支持基板は、成膜精度の面から支持基板には平面度の高いものが求められることから高価であるにもかかわらず、複数のチップのいずれかに不具合が発生した場合には、支持基板も含めてマスクが廃棄されており、成膜コストを増大させる原因となっている。
【0006】
ここに、本願発明者は、複数のチップのいずれかに不具合が発見されたときには、チップを除去して支持基板を回収し、回収した支持基板を用いて再度マスクを製造することにより、成膜コストを低減することを提案するものである。
【0007】
しかしながら、チップをウエットエッチングにより支持基板上から除去する際、シリコンを溶解可能なエッチング液としては、その種類が限定されてしまい、その結果、支持基板に形成されていたアライメントマークも溶解されてしまうという新たな問題点が発生してしまう。また、チップをウエットエッチングにより支持基板上から除去する際、アライメントマークがマスクとして作用し、支持基板に不要な凹凸を形成してしまう結果、回収した支持基板をマスクの製造に再利用できなくなるという問題点もある。さらに、アライメントマークを凹部により形成した場合も、チップをウエットエッチングにより支持基板上から除去する際、支持基板が溶解して凹部の変形し、機能しなくなるという問題点がある。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、チップが固定されていた支持基板を好適に回収して再利用することのできるマスクおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解消するために、本発明では、被処理基板上に成膜するパターンに対応する開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを有するマスクにおいて、前記支持基板には、アライメントマークが形成されているとともに、当該アライメントマークは保護膜で覆われていることを特徴とする。
【0010】
本発明において、被処理基板上に成膜するパターンに対応する開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを有するマスクの製造方法において、前記支持基板にアライメントマークを形成するアライメントマーク形成工程と、前記アライメントマークの上層に保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記支持基板に前記複数のチップを固定するチップ固定工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、以下の工程を行うことによって、複数のチップのいずれかに不具合が発見されたときには、チップを除去して支持基板を回収し、回収した支持基板を用いて再度マスクを製造することができるので、成膜コストを低減することができる。ここで、支持基板では、アライメントマークが保護膜で覆われている。このため、チップをエッチングにより支持基板上から除去する際、アライメントマークが残るので、アライメントマークをそのまま利用することができる。それ故、支持基板を好適な状態で回収することができるので、マスクの製造に再利用することができる。
【0012】
また、前記アライメントマークを金属膜などの薄膜により構成した場合でも、アライメントマークが保護膜で覆われていれば、チップをウエットエッチングにより支持基板上から除去する際、アライメントマークおよび支持基板がエッチング液に晒されないので、アライメントマークが支持基板上でマスクとして作用して支持基板に不要な凹凸を形成してしまうことを回避できる。それ故、支持基板を好適な状態で回収することができるので、マスクの製造に再利用しても、新品と同等の品質を備えたマスクを製造することができる。
【0013】
本発明においては、前記チップ固定工程の後、前記複数のチップのいずれかに不具合を発見したときに前記複数のチップをエッチングにより前記支持基板から除去するチップ除去工程を行い、該チップ除去工程で前記複数のチップが除去された支持基板に対して別のチップを固定することができる。
【0014】
本発明において、前記チップ除去工程において前記保護膜が除去されたときには、再度、前記アライメントマークの上層に前記保護膜を形成し、しかる後に、前記チップ除去工程で前記複数のチップが除去された支持基板に対して別のチップを固定する。
【0015】
本発明において、前記保護膜は、透明膜であることが好ましい。保護膜が透明であれば、アライメントの際、カメラを介してアライメントマークを認識するのに支障がない。このような保護膜としては、シリコン酸化膜(SiO2)、シリコン酸窒化膜(SiON)、シリコン窒酸化膜(SiNO)、シリコン窒化膜(Si34)、ITO(Indium Tin Oxide/インジウムスズ酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide/インジウム亜鉛酸化物)のうちのいずれかを用いることができる。このような保護膜は、スパッタ法、化学気相法、パルスレーザデポジション(PLD)法などにより成膜することができる。本発明において、前記保護膜がITO膜である場合、膜厚を30nmから200nmとすることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記保護膜は、前記チップ除去工程で用いるエッチング液に対する溶解性が前記チップよりも低いことが好ましい。このように構成すると、保護膜は、分厚く形成しなくても十分な保護機能を発揮する。
【0017】
本発明において、前記チップ除去工程で用いるエッチング液が水酸化カリウム水溶液であって、前記保護膜はシリコン酸化膜である場合、前記保護膜は、前記支持基板の再生回数の1回当たりの膜厚が1μm以上であることが好ましい。また、本発明において、前記チップ除去工程で用いるエッチング液がテトラメチル酸化アルミニウム水溶液であって、前記保護膜はシリコン酸化膜である場合、前記保護膜は、前記支持基板の再生回数の1回当たりの膜厚が0.5μm以上であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るマスクを説明する前に、マスクを用いて成膜が行われる有機EL装置の構成例を説明する。
【0019】
(有機EL装置の構成例)
図1は、本発明を適用した有機EL装置の要部断面図である。図1に示す有機EL装置1は、表示装置や、電子写真方式を利用したプリンタに使用されるラインヘッドとして用いられるものであり、複数の有機EL素子3を配列してなる発光素子群3Aを備えている。有機EL装置1が、発光層7で発光した光を画素電極4側から出射するボトムエミッション方式の場合には、素子基板2側から発光光を取り出す。このため、素子基板2としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。また、素子基板2上には、画素電極4に電気的に接続された駆動用トランジスタ5a(薄膜トランジスタ)などを含む回路部5が、発光素子群3Aの下層側に形成されており、その上層側に有機EL素子3が形成されている。有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極4と、この画素電極4からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層6と、有機EL物質からなる発光層7(有機機能層)と、電子を注入/輸送する電子注入層8と、陰極9とがこの順に積層された構造になっている。
【0020】
このような有機EL装置1を製造するには、素子基板2に対して成膜工程、レジストマスクを用いてのパターニング工程などといった半導体プロセスを利用して各層が形成されるが、正孔輸送層6、発光層7、電子注入層8などの有機機能層は、水分や酸素により劣化しやすい。このため、発光層7などの有機機能層を形成する際、さらには、陰極9を形成する際、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行うと、レジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機機能層が水分や酸素により劣化してしまう。そこで、本形態では、発光層7などの有機機能層を形成する際、さらには陰極9を形成する際には、マスク蒸着法を利用して、素子基板2に所定形状の薄膜を形成し、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行わない。このマスク蒸着法では、大型基板(素子基板2/被処理基板)の所定位置にマスクを重ねた状態で蒸着を行う。発光層7を形成する場合には、低分子有機EL材料を加熱、蒸発させ、マスクの開口部を介して大型基板2Aの下面に発光層7をストライプ状に形成する。正孔輸送層6、電子注入層8、陰極9などの形成も略同様に行う。
【0021】
(マスクの構造)
図2は、本発明を適用したマスクの概略斜視図である。図2に示すマスク10は、マスク蒸着に用いるマスクであり、ベース基板をなす支持基板30に、複数のチップ20を取り付けた構成を有している。本形態では、チップ20はシリコンからなるものとする。各チップ20は、それぞれアライメントされて支持基板30に陽極接合や接着剤などの方法で接合されている。接着剤としては、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤などを用いることができる。
【0022】
支持基板30には、開口部が長方形の貫通穴からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられており、チップ20には、長孔形状の開口部22が複数一定間隔で平行に設けられている。複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。
【0023】
ここで、チップ20の開口部22は、被処理基板の被成膜面に形成される薄膜パターンの形状に対応した形状となっている。なお、マスク10は、被処理基板に対する被成膜領域と同一サイズを有している構成、および被成膜領域よりも小さなサイズを有している構成のいずれであってもよい。後者の場合には、マスク10を用いて被成膜領域の所定領域に成膜を行った後、マスク10をずらしながら複数回、成膜することにより、被成膜領域全体への成膜を行う。また、後者の場合、複数枚のマスク10を用いて、被成膜領域全体への成膜を行ってもよい。
【0024】
本形態において、チップ20は、面方位(100)を有する単結晶シリコンや、面方位(110)を有する単結晶シリコン等をフォトリソグラフィ技術、ウエットエッチング、ドライエッチングなどを用いて、貫通溝からなる開口部22を形成することにより、製造される。また、複数のチップ20の各々にはアライメントマーク24が少なくとも2ヶ所形成されている。これらのアライメントマーク24は、支持基板30にチップ20を固定する際の位置合わせに使用される。アライメントマーク24は、フォトリソグラフィ技術または結晶異方性エッチングなどにより形成される。
【0025】
支持基板30の構成材料は、チップ20の構成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数をもつ材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」又は「橈み」の発生を抑えることができる。但し、本形態では、支持基板30としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英などからなる透明基板が用いられている。
【0026】
支持基板30には、例えば、対角線上に第1のアライメントマーク33が形成されている。第1のアライメントマーク33は、マスク10を使用して蒸着などを行うときに、マスク10の位置合わせを行うためのものである。なお、チップ20に第1のアライメントマーク33を形成してもよい。
【0027】
また、支持基板30には、成膜の際にマスク10の位置合わせを行うための第1のアライメントマーク33に加えて、支持基板30にチップ20を貼り合わせる際、チップ20側のアライメントマーク24と位置合わせされる第2のアライメントマーク34が開口領域32の周りに形成されている。
【0028】
これらのアライメントマーク33、34は、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチングにより、クロム(Cr膜)などの金属膜(薄膜)で形成することができる。また、アライメントマーク33、34は、支持基板30に対して、レーザ照射や、ドライエッチングあるいはウエットエッチオングにより、凹部として形成することもできる。
【0029】
さらに、本形態のマスク10では、支持基板30の表面には、その全面に保護膜35が形成されている。ここで、保護膜35は、アライメントマーク33、34の上層側に形成されており、アライメントマーク33、34は保護膜35で覆われた状態にある。
【0030】
本形態では、アライメントの際、カメラを介してアライメントマーク33、34を認識できるように、アライメントマーク33、34は、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン窒酸化膜、シリコン窒化膜などのシリコン系薄膜や、ITO、IZOなどの導電性透明膜などといった透明膜によって構成されている。このような透明膜は、スパッタ法、化学気相法、パルスレーザデポジション(PLD)法などにより成膜することができる。
【0031】
(マスクの製造方法)
図3は、本発明を適用したマスクの製造方法を示す工程図である。図3を参照して、マスクの製造方法を説明する前に、チップ20の製造方法の一例、および支持基板の製造方法の一例を簡単に説明しておく。
【0032】
(チップの製造方法)
まず、チップ20を製造するには、例えば、面方位(110)のシリコンウエハーを用意し、熱酸化法により耐エッチングマスク材となる酸化シリコン膜のシリコンウエハーの表面に形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて、酸化シリコン膜をパターニングし、耐エッチングマスク材を形成する。次に、テトラメチル酸化アルミニウムなどの有機系の水酸化物、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの無機系の水酸化物などを用いたアルカリ水溶液を用いてシリコンウエハーに結晶異方性エッチングを行い、貫通溝からなる開口部22を形成する。しかる後に、緩衝ふっ酸溶液を用いて酸化シリコン膜を除去し、チップ20を作成する。
【0033】
(支持基板の製造方法)
支持基板30を製造するには、ガラス材料などを所定形状に切り出した後、開口領域32を形成する。開口領域32を形成するには、その材料がガラス基板であれば、ブラスト法により削る方法、または、フォトリソグラフィ技術およびふっ酸を用いたウエットエッチングにより形成する方法がある。また、支持基板30が42アロイなどの金属材料からなる場合は、フォトリソグラフィ技術とウエットエッチングとで開口領域32を形成してもよく、複数の金属材料を溶接により組み立てて製造してもよく、切削加工又は鋳造により製造してもよい。
【0034】
次に、図3に示すアライメントマーク形成工程ST10において、フォトリソグラフィ技術を用いて、アライメントマーク33、34を形成する。より具体的には、まず、支持基板30の表面にクロム(Cr)膜を例えば、約100nmの厚さにスパッタ成膜した後、ポジレジストを塗布し、30分間プリベークを行い、レジストを乾燥させる。次に、フォトマスクを介してレジストを露光した後、現像し、さらに20分間、ポストベークを行い、レジストパターンを形成する。次に、硝酸第二セリウムアンモニウムと水とを1:1で配合したクロムエッチング液を用い、レジストパターンをマスクにしてクロム膜をウエットエッチングする。その後、レジストを除去することにより、支持基板30上の所定位置にアライメントマーク33、34を形成する。
【0035】
次に、図3に示す保護膜形成工程ST20において、支持基板30の表面に、例えば、スパッタ法により、厚さが30nmから200nmのITO膜、例えば、厚さが約150nmのITO膜を保護膜35として形成する。その結果、アライメントマーク33、34は保護膜35で覆われた状態となる。
【0036】
(マスクの組み立て工程)
次に、図3に示すチップ接合工程ST30(チップ固定工程)において、支持基板30の第2のアライメントマーク34と、チップ20のアライメントマーク24を利用して、複数枚のチップ20を各々、位置合わせしながら、支持基板30上の所定位置に固定する。本形態では、チップ20を各々、支持基板30上の所定位置にエポキシ系の接着剤により固定する。このようにしてマスク10が完成する。
【0037】
(マスクの再生方法)
このようにしてマスク10を製造した後、検査工程において、あるいは成膜工程での使用により、複数のチップ20のいずれかに損傷などの不具合が発生した場合には、図3のチップ除去工程ST40でエッチングを行い、複数のチップ20を溶解させて除去する。ここで行うエッチングは、例えば、3%の水酸化カリウム水溶液を用い、その液温は80℃である。水酸化カリウム水溶液は、テトラメチル酸化アルミニウムなどの有機系の水酸化物の水溶液に比較して、シリコンに対する溶解速度が高いので、短時間でチップ20を溶解させることができる。
【0038】
但し、水酸化カリウム水溶液は、ガラスに対する溶解速度がシリコンに対する溶解速度よりも低いものの、ガラスに対する溶解速度が比較的高い。このため、チップ20をエッチングにより除去する際、支持基板30も溶解するので、保護膜45がない場合には、アライメントマーク33、34がマスクとして働き、支持基板30に不要な凹凸が形成されてしまい、このような凹凸がマスク10に形成されていると、アライメントの妨げになる。しかるに本形態では、アライメントマーク33、34が保護膜35で覆われているので、アライメントマーク33、34がマスクとして働いて上記の不具合を発生させることを回避できる。それ故、支持基板30に不要な凹凸が形成されず、再度の使用が可能となる。また、チップ20を除去する際、水酸化カリウム水溶液を用いたウエットエッチングを採用することも可能になる。
【0039】
次に、図3に示す接着剤除去工程ST50において、支持基板30に付着している接着剤を除去する。これにより、支持基板30に再度、チップ20を接合する際、チップ20を平滑かつ正確に接合することができる。本形態では、エポキシ系接着剤を用いたので、硫酸と過酸化水素水の混合液に支持基板30を浸漬して接着剤を除去する。
【0040】
次に、図3に示すチップ接合工程ST30(チップ固定工程)において、チップ20を除去した支持基板30に対して、アラメントマーク24、34により、新たなチップ20を位置合わせしながら、支持基板30上の所定位置に固定する。その際も、チップ20を各々、支持基板30上の所定位置にエポキシ系の接着剤により固定する。このようにして、再生した支持基板30を用いたマスク10が完成する。
【0041】
ここで、チップ除去工程ST40を行った際、支持基板10のアラメントマーク33、34は保護膜35で覆われていたので、損傷していない。従って、支持基板10にアラメントマーク33、34を形成し直し必要はない。
【0042】
また、チップ除去工程ST40を行った際、保護膜35が損傷していない場合には、図4に点線で示すように、チップ除去工程ST40でチップ20を除去した支持基板10に対してチップ接合工程ST30を行い、チップ除去工程ST40を行った際、保護膜35が損傷した場合には、図4に一点鎖線で示すように、チップ除去工程ST40でチップ20を除去した支持基板10に対して、保護膜形成工程ST20を行った後、チップ接合工程ST30を行う。
【0043】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、被処理基板上に成膜するパターンに対応する開口部22が形成された複数のチップ20と、複数のチップ20を保持する支持基板30とを有するマスク10において、支持基板30には、アライメントマーク33、34が形成されているとともに、アライメントマーク33、34は保護膜35で覆われている。このため、複数のチップ20のいずれかに不具合を発見したときに複数のチップ20をエッチングにより支持基板30から除去し、この支持基板30を再利用してマスク10を製造しようとした際、支持基板30を損傷させずに回収することができる。
【0044】
すなわち、水酸化カリウム水溶液などのように、チップ20および支持基板30の双方に溶解性を有するエッチング液でチップ20を溶解させる際、本形態では、アライメントマーク33、34の上層に保護膜35が形成されているので、アライメントマーク33、34および支持基板30がエッチング液に晒されないので、アライメントマーク33、34がマスクとして働いて支持基板30に不要な凹凸を発生させることがない。また、アライメントマーク33、34が消失することもない。それ故、高価な支持基板30を再利用してマスク10を安価に提供することができるので、成膜コストを低減することができる。
【0045】
また、保護膜35によってアライメントマーク33、34および支持基板30を保護できるので、シリコンに対する溶解速度の高い水酸化カリウム水溶液でチップ20を溶解、除去することができる。それ故、テトラメチル酸化アルミニウム水溶液でチップ20を溶解、除去する場合と比較して、支持基板30を効率よく回収することができる。
【0046】
[その他の実施の形態]
本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記形態では、チップ除去工程ST40で用いるエッチング液が水酸化カリウム水溶液であって、保護膜35はシリコン酸化膜であったが、チップ除去工程ST40で用いるエッチング液がテトラメチル酸化アルミニウム水溶液であってもよい。なお、保護膜35の厚さについては、チップ除去工程ST40で用いるエッチング液が水酸化カリウム水溶液であって、保護膜35はシリコン酸化膜である場合、保護膜35は、支持基板30の再生回数の1回当たりの膜厚が1μm以上であることが好ましい。また、本発明において、チップ除去工程ST40で用いるエッチング液がテトラメチル酸化アルミニウム水溶液であって、保護膜35がシリコン酸化膜である場合、保護膜35は、支持基板30の再生回数の1回当たりの膜厚が0.5μm以上であることが好ましい。
【0047】
また、上記形態では、アライメントマーク33、34がクロム膜(薄膜)により形成されていたが、アライメントマーク33、34が支持基板30に対する凹部として形成されている場合に本発明を適用しても効果的である。すなわち、保護膜35がない状態でチップ除去工程ST40を行うと、支持基板30の溶解により、アライメントマーク33、34としての凹部が変形してしまうが、本発明を適用すれば、保護膜35によって、アライメントマーク33、34としての凹部の変形を防止することができる。
【0048】
さらに、上記形態では、マスク蒸着用のマスクを例に説明したが、スパッタ用のマスクあるいは化学気相成膜用のマスクに本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用した有機EL装置の一例を示す要部断面図である。
【図2】本発明を適用したマスクの斜視図である。
【図3】本発明を適用したマスクに用いた支持基板の説明図である。
【図4】本発明を適用したマスクの製造方法、および再生した支持基板を用いてマスクを製造する方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0050】
10・・マスク、20・・チップ、30・・支持基板、33,34・・アライメントマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板上に成膜するパターンに対応する開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを有するマスクにおいて、
前記支持基板には、アライメントマークが形成されているとともに、当該アライメントマークは保護膜で覆われていることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記アライメントマークは、薄膜からなることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記保護膜は、透明膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記保護膜には、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン窒酸化膜、シリコン窒化膜、ITO膜およびIZO膜のうちのいずれかが用いられていることを特徴とする請求項2に記載のマスク。
【請求項5】
被処理基板上に成膜するパターンに対応する開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを有するマスクの製造方法において、
前記支持基板にアライメントマークを形成するアライメントマーク形成工程と、
前記アライメントマークの上層に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記支持基板に前記複数のチップを固定するチップ固定工程と、
を有することを特徴とするマスクの製造方法。
【請求項6】
前記アライメントマークは、薄膜からなることを特徴とする請求項5に記載のマスクの製造方法。
【請求項7】
前記チップ固定工程の後、
前記複数のチップのいずれかに不具合を発見したときに前記複数のチップをエッチングにより前記支持基板から除去するチップ除去工程を行い、
該チップ除去工程で前記複数のチップが除去された支持基板に対して別のチップを固定することを特徴とする請求項5または6に記載のマスクの製造方法。
【請求項8】
前記チップ除去工程において前記保護膜が除去されたときには、再度、前記アライメントマークの上層に前記保護膜を形成し、
しかる後に、前記チップ除去工程で前記複数のチップが除去された支持基板に対して別のチップを固定することを特徴とする請求項7に記載のマスクの製造方法。
【請求項9】
前記保護膜は、前記チップ除去工程で用いるエッチング液に対する溶解性が前記チップよりも低いことを特徴とする請求項7または8に記載のマスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−88463(P2008−88463A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267865(P2006−267865)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】