説明

マスクアライメント法を用いたディスプレイの製造方法

【課題】ディスプレイ基板とマスクのアライメントプロセスを迅速/正確に行い、表示品位の高い大画面ディスプレイを提供する。
【解決手段】複数の画素パターンを有する基板110と、画素パターンに対応する穴部を有するマスク50を準備する第1工程と、マスクと基板とを位置合わせし、両者を固定する前の状態における穴部と画素パターンとの位置関係を測定する第2工程と、マスクと基板との位置関係を固定し、この状態における穴部と画素パターンとの位置関係を測定し、この位置関係と第2工程において測定した位置関係との間の位置ずれ量を算出する第3工程と、同一のマスクを他の基板に対して位置合わせを行う際に、前記位置ずれ量をフィードバックし、マスクと該他の基板との位置関係を補正する第4工程と、蒸着源より蒸着物をマスクの穴部を介して画素パターン上に被着させることにより、画素パターン上に蒸着物層114を形成する第5の工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下本明細書において、有機ELという。)や液晶等のディスプレイ基板に対して、マスクを介して蒸着物層を蒸着する際の、ディスプレイ基板とマスクのアライメント方法を利用したディスプレイの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ELや液晶等のディスプレイ基板の画素パターン上に蒸着物層を形成するため、ディスプレイ基板とマスクを位置合わせして蒸着物層を成膜する方法が一般に用いられている。成膜方法としては真空蒸着やスパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等が広く用いられる。また、ディスプレイ基板が液晶であれば、蒸着物層は例えば透明導電膜や被染色樹脂等であり、ディスプレイ基板が有機ELディスプレイ基板とすると、蒸着物層は例えば発光層、ホール又は電子輸送層等の有機層である。以下、簡単のためディスプレイ基板を有機ELディスプレイ基板として説明する。また、以下明細書において、ディスプレイ基板とマスクの位置合わせは単に位置合わせ又はアライメントあるいはマスクアライメントという。
【0003】
特に、フルカラー有機ELディスプレイを作製するための最も一般的な方法は、精巧なマスクを用い、RGBの各発光材料を画素パターンに従ってマスク蒸着によって塗り分ける方法である。フルカラー有機ELディスプレイはRGB(赤緑青)の各サブピクセルが規則正しく並ぶ画素パターンを有しており、マスクは画素パターンに対応する穴部を有している。マスクを用いた有機層の、RGBの各サブピクセルへの塗り分けは、以下のようにして行なわれる。
【0004】
即ち、図7(a)〜(g)に示すように、(1)基板全面蒸着用のマスクを介して、例えホール注入層を陽極の形成された基板一面に蒸着する。(2)同様に基板全面蒸着用のマスクを介して、例えばホール輸送層を基板一面に蒸着する。(3)各色サブピクセルごとに穴部のある精巧なマスクの穴部と赤色サブピクセルを位置合わせし、赤色光発光層を赤色サブピクセルに蒸着する。(4)上記精巧なマスクを微動させ、マスクの穴部と緑色サブピクセルを位置合わせし、緑色光発光層を緑色サブピクセルに蒸着する。(5)更に上記精巧なマスクを微動させ、マスクの穴部と青色サブピクセルを位置合わせし、青色光発光層を青色サブピクセルに蒸着する。(6)基板全面蒸着用のマスクを介して、例えば電子輸送層を基板一面に蒸着する。(7)同じく基板全面蒸着用のマスクを介して、陰極層を基板一面に蒸着する。
【0005】
【特許文献1】特開2003−306761号公報(段落[19]〜[20])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マスクと基板の位置合わせを行なう際は、一旦、両者を図2(a)のように離した状態で位置調整を行い、その後、図2(b)のようにディスプレイ基板110とマスク50を接触させ、しかる後、図2(c)のようにマグネットチャック12を用いて両者を密着させて双方の位置関係を固定することが行われる。これを以下に詳述する。
【0007】
ディスプレイ基板110とマスク50の位置関係を調整するためには、それぞれの面内でX、Y、θ方向に高い精度で調整するため、両者をそれぞれ独立に支持して微動させる必要がある。このとき、蒸着プロセスはディスプレイ基板110の下面に成膜することが多いので、図2(a)のように基板ホルダ16に端部でのみ支持されている。アライメント動作が終了すると基板は図2(b)に示すようにマスク上に静置される。この際、基板とマスクとは固定されていないため、両者は単に接触しているだけである。
【0008】
一方、成膜時にはディスプレイ基板110とマスク50を完全に密着させて固定した状態で回転させて一定膜厚の分布を確保するため、図2(c)に示すようにディスプレイ基板110はマスク50と一体化して固定する必要がある。ここでマグネットを用いて基板とマスクを密着させる際に、マスクの平面度ならびにマグネットチャックの平面度が十分でなければ接触状況が変化し、アライメントがずれる場合が生じる。特にマスクが300mm×400mm等、1200cm以上の面積を有する場合、マスクの平面度を高くすることが困難であり、特にアライメントがずれ易い。
【0009】
このように、アライメント完了時と成膜開始時でディスプレイ基板110とマスク50の固定状況が異なるために、せっかく高い精度で位置合わせした基板も実際に成膜するときは、ずれてしまっていることが多かった。
【0010】
このため従来マスクアライメントを行なう際には、アライメント動作完了時と成膜時との間に生じる上記のずれを抑えるために、アライメント機構の機械的精度を極めて高い精度で調整し、十分な精度が得られるようにしていた。しかし、特定のディスプレイ基板110とマスク50の組合わせでは十分に精度が得られても、どちらかが入れ替わると所望の精度が得られないことが多かった。また、ずれが生じた場合には最初からアライメントをやり直すことは可能であるが、同じアライメント方法を繰り返すだけであったため、再アライメント後に要求される精度が得られる確率は十分なものではなかった。
【0011】
このような状況下では、アライメントの要求精度を緩和する、アライメント回数を増やす、要求精度でアライメントできない基板は排除する、等の選択をする必要があった。そのため、表示品位、タクトタイム、コスト等の面で極めて不利であった。
【0012】
以上のように、従来技術では、現実的に量産過程で安定して所望の高精度のアライメントを行なうことは困難であった。
【0013】
マスクを用いた塗り分けを行なわず、インクジェット式ノズルでパターンを打ち分ける方法があるが、発光材料が高分子材料に限られ、発光効率、寿命、生産性等の問題がある。
【0014】
また、発光材料でのRGBの塗り分けを行なわず、白色発光にカラーフィルターを組合わせる手法や、高精細化した色変換層を用いて青色発光変換させる手法もあるが、いずれも発光効率、変換効率の問題が解決できていない。
【0015】
従って、フルカラー有機ELディスプレイの製造方法としては、現在もマスクによる塗り分けプロセスが広く用いられている。しかしこの場合、上述のようにマスクと基板のアライメント精度がディスプレイの表示品位やコスト、タクトタイム等に大きく影響する。即ち、アライメント動作完了時に高い精度でアライメントできていても、成膜開始までの間に位置ずれが生じることがあり、成膜パターンの位置精度の低下もしくはプロセス時間の増加等につながっていた。
【0016】
そこで本発明は、ディスプレイ基板とマスクのアライメントプロセスを迅速かつより正確に行い、表示品位の高い大画面ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のディスプレイの製造方法は、複数の画素パターンを有するディスプレイ基板と、前記画素パターンに対応する穴部を有するマスクと、を準備する第1の工程と、前記マスクと前記ディスプレイ基板とを位置合わせし、両者の位置関係を固定する前の状態における前記穴部と前記画素パターンとの位置関係を測定する第2の工程と、前記マスクと前記ディスプレイ基板との位置関係を固定し、この状態における前記穴部と前記画素パターンとの位置関係を測定し、該測定した位置関係と前記第2の工程において測定した位置関係との間の位置ずれ量を算出する第3の工程と、前記マスクと同一のマスクを他のディスプレイ基板に対して位置合わせを行う際に、前記第3の工程で算出した前記位置ずれ量をフィードバックし、前記マスクと該他のディスプレイ基板との位置関係を補正する第4の工程と、前記マスクの外側に配置された蒸着源より蒸着物を前記マスクの穴部を介して前記画素パターン上に被着させることにより、該画素パターン上に蒸着物層を形成する第5の工程と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、前記ディスプレイは有機ELディスプレイであり、前記蒸着物層は有機層であり得る。
【0019】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、前記有機層は、赤色光、緑色光及び青色光を発光する有機層を含んでもよい。
【0020】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、前記マスクの面積は1200cm以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、前記マスクは磁性体材料により形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の有機ELディスプレイの製造方法は、前記マスクの穴部は30〜250ppiの密度でマトリックス状に配列されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマスクアライメント法を用いたディスプレイの製造方法は、表示品位を落とすことなく、迅速にかつ正確にRGBパターンの塗り分けを可能とし、製造装置の機械的精度に対する要求を緩和して、高品質な大画面有機ELディスプレイを低コストで供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のディスプレイの製造方法に使用するマスクアライメント機構付き蒸着装置は、上記図2のような公知の装置であってよく、例えば図1に断面を示すマスクアライメント機構付き蒸着装置1を使用する。従って図中で共通の構成要素の符号はすべて同じものを用いる。
【0025】
図1において、マスクアライメント機構付き蒸着装置1は、図示しない昇降装置に上端部で接続する支持ロッド10と、支持ロッド10に下端部で接続するマグネットチャック12と、マグネットチャック12の斜め下方に設置された基板ホルダ16と、基板ホルダ16に開けられた穴を通して昇降可能に設置されたマスクホルダ14と、マグネットチャック12の上方に設置された複数のCCDカメラ18を含んで構成される。
【0026】
本発明のマスクアライメントの工程及び蒸着工程中、マスク50はマスクホルダ14に縁部を載置される。また、基板110は基板ホルダ16に載置され、その端部が基板ホルダ16に支持される。基版110とマスク50には、通常精密な位置合わせのためのアライメントマークが記入されている。CCDカメラ18は、基板110とマスク50の所定のアライメントマークがそれぞれ所定の相対位置関係にあるかを確認する。
【0027】
マスクホルダ14及び基板ホルダ16は、マスク50と基版110のアライメントマークを精密に位置あわせするため、それぞれの平面内でX、Y、θ方向に高い精度で独立に移動、回転することができる。
【0028】
マスク50はニッケル・コバルト合金又は42アロイを例とする鉄・ニッケル合金等の磁性体材料により形成されており、マスクの穴部は30〜250ppi(pixcel per inch)の密度でマトリックス状に配列されているいる。一方、マグネットチャック12は、例えば永久磁石であり、基版110を介してマスク50に磁場を与えて、吸着することが出来るため、基板110とマスク50を密着させることができる。図示しない昇降装置は支持ロッド10を介してマグネットチャック12を昇降させ得る。マグネットチャック12は、例えば成膜時にはディスプレイ基板110と磁性体のマスク50を完全に密着させて固定し、マスク50の穴部のエッジ付近に位置する基板110に対して画素パターンを一定膜厚に形成するのに有用である。
【0029】
次に、本発明に係るマスクアライメント法を用いたディスプレイの製造方法について説明する。
【0030】
本願発明者達は数々の実験により、基板とマスクの組み合わせを同一とすると、アライメントのずれのベクトルが比較的高い精度で再現できることを確認した。そこで、一度アライメントが終了した後、成膜開始状態でのずれのパラメータ(ΔXm,ΔYm,Δθm)を測定し、この分だけアライメント原点に補正をかけて再アライメントする。
【0031】
また、本願発明者達は、上記ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmは、アライメントステージ及びマスク50に固有の値を示し、基板の個性には依存しないことを発見した。従って、各マスク50の位置ずれ量(ΔXm,ΔYm,Δθm)を予め測定しておくことで、マスクIDごとに上記アライメントの補正が可能となる。
【0032】
このような本実施形態のアライメント法を用いたディスプレイの製造方法は、以下の5つの工程を少なくとも有する。
【0033】
(1)複数の画素パターンを有するディスプレイ基板110と、画素パターンに対応する穴部を有するマスク50を準備する。
【0034】
(2)マスク50とディスプレイ基板110とをCCDカメラ18を用いて位置合わせし、両者の位置関係を固定する前の状態における上記穴部と上記画素パターンとの位置関係を測定する。
【0035】
(3)第2の工程における位置合わせ終了後、マスク50とディスプレイ基板110との位置関係をマグネットチャック等の固定手段を用いて固定し、この状態における上記穴部と上記画素パターンとの位置関係を測定する。続いて測定した位置関係と第2の工程において測定した位置関係との間の位置ずれ量(ΔXm,ΔYm,Δθm)を算出する。
【0036】
(4)マスク50と同一のマスクを、ディスプレイ基板110とは別のディスプレイ基板に対して位置合わせを行う際に、第3の工程で算出した位置ずれ量(ΔXm,ΔYm,Δθm)をフィードバックし、マスク50と上記別のディスプレイ基板との位置関係を補正する。即ち、もともと(Xd、Yd、θd)の位置にマスク50をアライメントする予定であるならば、(Xd−ΔXm、Yd−ΔYm、θd−Δθm)にディスプレイ基板を移動させる。
なお、このディスプレイ基板の移動が完了すれば、マグネットチャック等の固定手段を用いてディスプレイ基板110とマスク50との位置関係を固定するために両者を密着させる。その際に(ΔXm,ΔYm,Δθm)がずれるので、密着の工程を経てディスプレイ基板は(Xd、Yd、θd)の位置に動く。これにより、もともと所望していた相対位置関係に基板110とマスク50がアライメントされる。
【0037】
(5)マスク50の外側に配置された蒸着源より蒸着物をマスク50の穴部を介して上記画素パターン上に被着させることにより、当該画素パターン上に蒸着物層を形成する。
【0038】
上記位置ずれ量ΔXm,ΔYm,ΔθmをマスクIDごとに抽出する方法は、例えば以下のようにする。即ち、
A)新しいマスクが導入されるごとに1度テストランを行い、事前に上記位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmを測定しておく。
B)マスク蒸着ステージごとにレーザ変位計等を利用したアライメントモニタを設置し、オンラインフィードバックがかかるようにする。
【0039】
また、上記B)で位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmをフィードバックする方法は、以下のような手順をとる。
1)マスクIDを読んで、それに対応した事前抽出済みの位置ずれ量をメモリから読み出す。
2)予定移動位置に上記位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmを加味した仮想位置を指定する。
3)CCDカメラで現在位置を読み取り、仮想位置に対しての位置ずれ量を計算する。
4)仮想位置に対して基板を移動させる。
5)マグネットチャックを行い、蒸着可能な状態にする。
6)予定移動位置に対して基板が正しく動いているか予定移動位置とマスクとの位置ずれ量をCCDカメラで再確認してOKであれば蒸着を開始する。
【0040】
以下具体例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0041】
マスクと基板をチャンバーに搬入してから蒸着を開始するまでに、図5のフローチャートに表されるようなアライメント工程が考えられる。従来において、CCDカメラを用いて高精度な位置合わせをしているにもかかわらず、蒸着開始段階でマスクと基板の位置ずれがおきてしまう工程は12番目の工程である。
【0042】
(1)図3(a)のようにマスク50を搬入する。
(2)図3(b)のようにディスプレイ基板110を搬入する。
(3)図3(c)のようにマスク50上にディスプレイ基板110を置く。
(4)CCDカメラ18によりマスク50とディスプレイ基板110のアライメントマークを認識し、両者の相対位置を測定する。
(5)(4)で測定したマスク50とディスプレイ基板110の相対位置から、両者の位置のずれを検出する。
(6)(5)で検出した位置のずれからディスプレイ基板110の移動すべき移動量を計算する。
(7)図3(d)のようにディスプレイ基板110を若干(100μm〜1mm程度)持ち上げる。
(8)図4(a)のようにディスプレイ基板110を(6)で計算した移動量に応じてマスク50の上方でマスク50と基板110がお互いに非接触状態にて移動させる。
(9)図4(b)のようにマスク50上にディスプレイ基板110を置く。
(10)CCDカメラ18によりマスク50とディスプレイ基板110のアライメントマークを認識し、両者の相対位置を測定する。
(11)(10)で測定したマスク50とディスプレイ基板110の相対位置から、両者の位置のずれを検出する。
【0043】
ここで、(11)で検出されたマスク50と基板の位置のずれがアライメント精度の許容範囲内であれば、次の(12)のステップに行き、許容範囲外であれば(6)のステップに戻る。
【0044】
(12)図4(c)のようにマグネットチャック12などの固定手段を用いてディスプレイ基板110とマスク50との位置関係を固定し、すなわちディスプレイ基板110とマスク50とを密着させ、ディスプレイ基板110に対してそのまま蒸着できるように準備する。
(13)CCDカメラ18によりマスク50とディスプレイ基板110のアライメントマークを認識し、両者の相対位置を測定する。
(14)で測定したマスク50とディスプレイ基板110の相対位置から、両者の位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmを検出する。
【0045】
ここで、(14)で検出されたマスクと基板の位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmがアライメント精度の許容範囲内であれば、(15)の工程に進んで蒸着を開始し、許容範囲外であれば基板チャックを外して(4)のステップに戻る。
ステップ(4)に戻る場合、再び、マスク50とディスプレイ基板110との位置合わせを行うことになるが、この場合、ステップ(6)においてステップ(14)で検出したマスクと基板の位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmを加味してディスプレイ基板110の移動すべき移動量を計算する。そして、ステップ(8)においては、ステップ(6)で計算された移動量に基づいてディスプレイ基板110を移動させる。この場合、ステップ(14)で検出された位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmが加味されてディスプレイ基板110が移動されているため、ステップ(11)で測定されるアライメント精度は許容範囲内である可能性が高くなる。そして、位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmは同一のマスクであれば、他のディスプレイ基板に対しても利用可能であるため、アライメントのやり直しの回数を減らし、ディスプレイの生産性を向上させるとともに、製造コスト削減に供することができる。特にマスクの面積が300mm×400mm等、1200cm以上である場合、マスク自体の平面度が特に失われやすく、ステップ(12)の際に生じる位置ずれ量が大きくなりやすいが、このような場合、特に本発明は有用である。
【0046】
従来の場合、工程11でマスクと基板の位置のずれがアライメント精度の許容範囲内であるにもかかわらず、工程12で両者の位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmが生じていた。この工程12での位置ずれの分は、アライメント誤差として、(A)アライメントの要求精度を緩和する、(B)アライメントの回数を増やす、(C)要求精度でアライメントできない基板は排除する、等の処置がとられていた。
【0047】
しかし、本実施例のアライメント法では、各マスクごとに位置ずれ量ΔXm,ΔYm,Δθmを予め考慮して、所望の位置から上記ずれ量分を補正して位置合わせを行なった。
【0048】
図6は、本発明のアライメント法による補正を行なった場合(以後、補正後と記す)と、補正を行なわなかった場合(以後、補正前と記す)のアライメント誤差を表す棒グラフである。全て同一のマスクを用いて、61枚の基板について、補正前と補正後のアライメント誤差を調べた。
【0049】
一般的にアライメントのずれの許容量は±5μm以下とされており、従来技術では計測されたアライメントのずれの平均値が略この値であった。しかし図6より明らかなように、補正後のアライメント誤差は、補正前のアライメント誤差より大幅に改善され、61枚中60枚のアライメントについて要求精度である5μm以内を満たした。即ち、本発明のアライメント方法を用いることにより、98%の確率で5μm以下の値を得ることができ、平均では2μm以下に抑えることができた。
【0050】
このように、本発明は位置ずれのベクトルの変動の主たる原因がマスク及びそのフレームの平坦性、平行度等にあることを突き止め、同一のマスクを用いた場合には、基板が異なってもずれのベクトルの変動が比較的小さいことに着目した。そして、マスクを交換した直後の初回に得た位置ずれ(ΔXm,ΔYm,Δθm)を記録しておき、2枚目以降の基板の際に最初からこの値を用いて補正を行なった。その結果再アライメントの必要がほとんどなくなり、アライメントプロセスにかかる時間を大幅に短縮することに成功した。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のマスクアライメント法を用いたディスプレイの製造方法は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。ディスプレイは有機EL、液晶ディスプレイに限らず、製造工程にマスクアライメント法を用いた成膜を行なうすべてのディスプレイが含まれる。また、本明細書で成膜は真空蒸着やスパッタリング、CVDを含む広い範囲の成膜を意味し、マスクアライメント法を用いたすべての成膜が本発明の範囲に含まれる。更に本発明のマスクアライメント法に用いるマスクは特に限定されず、金属製以外のマスクも含み得る。上記実施例においてマスクと基板をアライメントする際に例として基板を動かす方法を挙げたが、これもマスクを動かす方法を採用しても同様の効果が得られる。
【0052】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明で用いるマスクアライメント法は、基板とマスクを精密に位置合わせして蒸着物層を成膜する必要のある、すべての工程に利用可能であり、本発明のディスプレイの製造方法は、精細で高画質のすべてのディスプレイの製造方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のディスプレイ製造法に用いるディスプレイ及びマスクを装着したマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。
【図2】(a)ディスプレイ基板及びマスクを装着したマスクアライメント機構付き蒸着装置の、ディスプレイ基板とマスクを離した場合の断面図である。(b)ディスプレイ基板及びマスクを装着したマスクアライメント機構付き蒸着装置の、ディスプレイ基板とマスクを接触させた場合の断面図である。(c)ディスプレイ基板及びマスクを装着したマスクアライメント機構付き蒸着装置の、ディスプレイ基板とマスクを密着させた場合の断面図である。
【図3】(a)マスク50を装着した場合のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。(b)ディスプレイ基板をマスクホルダに取り付けた状態のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。(c)ディスプレイ基板とマスクを密着させた場合のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。(d)ディスプレイ基板とマスクを離した場合のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。
【図4】(a)ディスプレイ基板を移動状態を示すマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。(b)ディスプレイ基板とマスクを密着させた場合のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。(c)マグネットチャックでディスプレイ基板とマスクを密着固定させた場合のマスクアライメント機構付き蒸着装置の断面図である。
【図5】本発明のディスプレイの製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明のアライメント補正の効果を示す棒グラフである。
【図7】(a)ホール注入層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(b)ホール輸送層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(c)赤色光発光層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(d)緑色光発光層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(e)青色光発光層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(f)電子輸送層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。(g)陰極層を蒸着する場合の、マスク及び有機ELディスプレイの断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1:マスクアライメント機構付き蒸着装置
10:支持ロッド
12:マグネットチャック
14:マスクホルダ
16: 基板ホルダ
18:CCDカメラ
50:マスク
110:ディスプレイ基板
112:隔壁
114:有機層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素パターンを有するディスプレイ基板と、前記画素パターンに対応する穴部を有するマスクと、を準備する第1の工程と
前記マスクと前記ディスプレイ基板とを位置合わせし、両者の位置関係を固定する前の状態における前記穴部と前記画素パターンとの位置関係を測定する第2の工程と、
前記マスクと前記ディスプレイ基板との位置関係を固定し、この状態における前記穴部と前記画素パターンとの位置関係を測定し、該測定した位置関係と、前記第2の工程において測定した位置関係との間の位置ずれ量を算出する第3の工程と、
前記マスクと同一のマスクを他のディスプレイ基板に対して位置合わせを行う際に、前記第3の工程で算出した前記位置ずれ量をフィードバックし、前記マスクと該他のディスプレイ基板との位置関係を補正する第4の工程と、
前記マスクの外側に配置された蒸着源より蒸着物を前記マスクの穴部を介して前記画素パターン上に被着させることにより、該画素パターン上に蒸着物層を形成する第5の工程と、を備えたことを特徴とするディスプレイの製造方法。
【請求項2】
前記ディスプレイは有機ELディスプレイであり、前記蒸着物層は有機層である、請求項1に記載のディスプレイの製造方法。
【請求項3】
前記有機層は、赤色光、緑色光及び青色光を発光する有機層を含む、請求項2に記載のディスプレイの製造方法。
【請求項4】
前記マスクの面積は1200cm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のディスプレイの製造方法。
【請求項5】
前記マスクは磁性体材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のディスプレイの製造方法。
【請求項6】
前記マスクの穴部は30〜250ppiの密度でマトリックス状に配列されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−12597(P2006−12597A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187973(P2004−187973)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(599142729)奇美電子股▲ふん▼有限公司 (19)
【Fターム(参考)】