説明

マスクブランク、転写用マスク、転写用マスクの製造方法および半導体デバイスの製造方法

【課題】高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを作製することを可能とする、マスクブランクを提供する。
【解決手段】転写用マスクを作製するために用いられるマスクブランクであり、透光性基板上に遮光膜とエッチングマスク膜とが順に積層した構造を有するマスクブランクであって、前記エッチングマスク膜は、クロムを含有する材料からなり、前記遮光膜は、タンタルを含有する材料からなり、前記遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に高酸化層が形成されており、前記高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有することを特徴とするマスクブランクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、そのマスクブランクを用いて製造された転写用マスクおよび製造方法、さらにその転写用マスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものである。また、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源波長の短波長化が必要となる。半導体デバイス製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0004】
転写用マスクとしては、透光性基板上にクロム系材料からなる遮光膜パターンを有するバイナリマスクが以前より知られている。
近年では、モリブデンシリサイド化合物を含む材料(MoSi系材料)を遮光膜として用いたArFエキシマレーザー用のバイナリマスク等も出現している(特許文献1)。また、タンタル化合物を含む材料(タンタル系材料)を遮光膜として用いたArFエキシマレーザー用のバイナリマスク等も出現している(特許文献2)。特許文献3では、タンタル、ニオブ、バナジウム、またはタンタル、ニオブ、バナジウムの少なくとも2つを含む金属を用いた遮光膜からなるフォトマスクに対して、酸洗浄または水素プラズマによる洗浄を行った場合、遮光膜が水素脆性化することがあることについて開示されている。またその解決手段として、遮光膜にパターンを形成後、遮光膜の上面および側面を気密に覆う水素阻止膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−78807号公報
【特許文献2】特開2009−230112号公報
【特許文献3】特開2010−192503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、転写用マスクに対するパターン位置精度の要求レベルが特に厳しくなってきている。従来、透光性基板上に遮光膜を備えるマスクブランクを用いて転写用マスクを作製する場合、遮光膜上に形成された有機系材料のレジストパターンをマスクとするドライエッチングを行うことで、遮光膜に転写パターンを形成していた。しかし、転写パターンの微細化が進んできており、DRAM hp32nmの世代においては、遮光膜上に形成されるメインパターンの線幅が128nm程度と微細である。さらに、DRAM hp32nmの世代では、SRAF(Sub Resolution Assist Feature)等の補助パターンの線幅は、50nm前後であり、非常に微細である。これらのような微細な線幅の転写パターンが形成された有機系材料のレジスト膜を用いて、遮光膜に対してドライエッチングを行って転写パターンを直接形成することは困難になってきている。この問題の解決手段として、特許文献1に記載されているような金属系材料のエッチングマスク膜(ハードマスク)が適用されてきている。
【0007】
例えば、モリブデンシリサイド系材料の遮光膜を有する転写用マスクの場合、透光性基板上に、モリブデンシリサイド系材料からなる遮光膜と、クロム系材料からなるエッチングマスク膜と、有機系材料からなるレジスト膜が積層したマスクブランクを用いて作製される。その転写用マスクの製造プロセスは、まず、従来と同様、レジスト膜に転写パターンを描画露光、現像等の所定の処理を行い、レジストパターンを形成する。次に、レジストパターンをマスクとして、エッチングマスク膜に対して塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜に転写パターンを形成する。続いて、転写パターンが形成されたエッチングマスク膜をマスクとして、遮光膜に対してフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜に転写パターンを形成する。最後に、エッチングマスク膜を除去し、洗浄等の所定の従来の処理を行って、転写用マスクができ上がる。
【0008】
このような製造プロセスが行えるのは、クロム系材料のエッチングマスク膜と、モリブデンシリサイド系材料の遮光膜とのドライエッチング特性が異なることにある。クロム系材料のエッチングマスク膜は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングが可能であるが、フッ素系ガスによるドライエッチングに対しては高い耐性を有している。これに対し、モリブデンシリサイド系材料の遮光膜は、フッ素系ガスによるドライエッチングが可能であるが、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対しては高い耐性を有している。このように、クロム系材料のエッチングマスク膜とモリブデンシリサイド系材料の遮光膜とは、互いに高いエッチング選択性を有している。なお、ここでいう「薄膜に対してドライエッチングが可能」とは、転写パターンを有するマスク膜をマスクとして、薄膜に対してドライエッチングを行ったときに、その薄膜に転写パターンが形成できるだけのエッチングレートを有することをいう。
【0009】
一方、タンタル系材料を用いた遮光膜の転写用マスクを製造する場合において、前記と同様に、透光性基板上に、タンタル系材料からなる遮光膜と、クロム系材料からなるエッチングマスク膜と、有機系材料からなるレジスト膜が積層したマスクブランクを用いることを検討した場合、タンタル系材料に特有の問題があることが判明した。酸素との結合が少ない(材料中の酸素含有量が少ない)タンタル系材料をドライエッチングする場合、フッ素系ガス、及び酸素を含有しない塩素系ガスのいずれのエッチングガスを用いることが可能である。これに対して、酸素との結合が多い(材料中の酸素含有量が多い)タンタル系材料の場合、フッ素系ガスのエッチングガスを用いたドライエッチングは可能である。しかしながら、酸素との結合が多い(材料中の酸素含有量が多い)タンタル系材料に対して、酸素を含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングを行う場合、転写パターンを形成するだけのエッチングレートが得られない。
【0010】
タンタル系材料をドライエッチングすることが可能なエッチングガスと、クロム系材料をドライエッチングすることが可能なエッチングガスとは全く同じではないため、前記のタンタル系材料の遮光膜と、クロム系材料のエッチングマスク膜との積層構造のマスクブランクを用いて転写用マスクを作製することは十分可能なように一見思える。転写パターンが形成されたクロム系材料のエッチングマスク膜をマスクとして、タンタル系材料の遮光膜をドライエッチングして、転写パターンを形成することは一応可能である。しかし、遮光膜に転写パターンを形成後、エッチングマスク膜を除去するときに、遮光膜の表面に悪影響を与えてしまったり、遮光膜のパターンエッジ部分が丸まってしまったりすることがあることが判明した。これは、エッチングマスク膜を、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングによって剥離する場合において発生する問題である。
【0011】
タンタル系材料は、塩素系ガスに対してドライエッチングされる特性を有している。そのため、タンタル系材料中の酸素含有量が比較的多い場合であっても、モリブデンシリサイド系材料の場合よりも、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対するタンタル系材料の耐性が低いために、この問題は生じる。遮光膜の表面が塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングの影響を受けてしまうと、露光光に対する表面反射率が設計値よりも上昇してしまったり、面内での表面反射率分布の均一性が低下してしまったりするため、転写用マスクとしての光学特性が悪化してしまう。また、遮光膜のパターンエッジ部分に丸まりが発生してしまうと、パターンのラインエッジラフネスの悪化を招き、転写性能が低下してしまう。
【0012】
そこで、本発明は、上述の問題点を鑑みてなされたものである。すなわち本発明の目的は、タンタル系材料の遮光膜と、クロム系材料のエッチングマスク膜とが積層したマスクブランクを用いて、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを作製することを可能とする、マスクブランクを提供することである。また、本発明の目的は、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクおよびその製造方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
本発明の構成1は、転写用マスクを作製するために用いられるマスクブランクであり、透光性基板上に遮光膜とエッチングマスク膜とが順に積層した構造を有するマスクブランクであって、
前記エッチングマスク膜は、クロムを含有する材料からなり、
前記遮光膜は、タンタルを含有する材料からなり、
前記遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に酸素含有量が60at%(原子%)以上である高酸化層が形成されていることを特徴とするマスクブランクである。本発明のマスクブランクを用いることにより、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを作製することが可能となる。
【0014】
(構成2)
本発明の構成2は、前記高酸化層は、酸素含有量が67at%以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランクである。高酸化層が、層中の酸素含有量が67at%以上であると、TaO結合が主体になるだけでなく、Taの結合状態の比率も高くなると考えられる。このような酸素含有量になると、「Ta」および「TaO」の結合状態は稀に存在する程度となり、不安定な「TaO」の結合状態は存在し得なくなってくる。
【0015】
(構成3)
本発明の構成3は、前記高酸化層のTa結合の存在比率は、前記遮光膜におけるTa結合の存在比率よりも高いことを特徴とする構成1または2のいずれかに記載のマスクブランクである。Ta結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa結合の存在比率を多くすることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。
【0016】
(構成4)
本発明の構成4は、前記遮光膜は、さらに窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含む遮光膜に窒素を含有させることで、タンタルの酸化を抑制することができる。
【0017】
(構成5)
本発明の構成5は、前記遮光膜は、透光性基板側から下層と上層とが順に積層した構造を有し、
前記高酸化層は、前記上層の前記下層側とは反対側の表層に形成されていることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランクである。このような構成とすると、上層を遮光膜の露光光に対する表面反射率を制御する機能を有する膜(反射防止膜)として機能させることができる。
【0018】
(構成6)
本発明の構成6は、前記上層の酸素含有量は、前記高酸化層の酸素含有量よりも少ないことを特徴とする構成5記載のマスクブランクである。この結果、上層で確保できる光学濃度を多くしつつ、遮光膜の全体膜厚をより薄くすることができ、遮光膜の表面反射率も低減することが可能となる。
【0019】
(構成7)
本発明の構成7は、前記上層の酸素含有量は、50at%以上であることを特徴とする構成6記載のマスクブランクである。タンタルを含有する材料である上層に酸素を50at%以上含有させた場合、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。このような酸素と未結合のタンタルが少ない上層は、酸素非含有の塩素系エッチングガスによるドライエッチングに対して耐性を有するようになる。
【0020】
(構成8)
本発明の構成8は、前記高酸化層のTa結合の存在比率は、前記上層におけるTa結合の存在比率よりも高いことを特徴とする構成5から7のいずれかに記載のマスクブランクである。Ta結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa結合の存在比率を多くすることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。
【0021】
(構成9)
本発明の構成9は、前記下層は、酸素の含有量が10at%未満であることを特徴とする構成5から8のいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含有する材料からなる下層の酸素含有量を大幅に抑えることで、酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングレートを高くすることができる。
【0022】
(構成10)
本発明の構成10は、前記下層は、窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成5から9のいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含む下層に窒素を含有させることで、タンタルの酸化を抑制することができる。
【0023】
(構成11)
本発明の構成11は、前記エッチングマスク膜は、酸素の含有量が40at%以上であることを特徴とする構成5から10のいずれかに記載のマスクブランクである。エッチングマスク膜中の酸素含有量が40at%以上であると、酸素非含有の塩素系ガスに対するエッチングレートが所定の値以上になる。この結果、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することが容易になる。
【0024】
(構成12)
本発明の構成12は、前記エッチングマスク膜は、膜厚が7nm以下であることを特徴とする構成11に記載のマスクブランクである。エッチングマスク膜の膜厚が、7nmまでであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することが容易になる。
【0025】
(構成13)
本発明の構成13は、構成1から12のいずれかに記載のマスクブランクを用いて製造された転写用マスクである。本発明のマスクブランクを用いることにより、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを得ることができる。
【0026】
(構成14)
本発明の構成14は、構成1から4のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、
ドライエッチングで前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記遮光膜に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0027】
(構成15)
本発明の構成15は、構成5から11のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜、エッチングマスク膜または上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成する工程と、
前記下層に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0028】
(構成16)
本発明の構成16は、構成12に記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記レジスト膜を除去する工程と、
前記転写パターンが形成されたエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成された上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成し、かつエッチングマスク膜を除去する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0029】
(構成17)
本発明の構成17は、構成13に記載の転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。本発明によれば、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスを得ることができる。
【0030】
(構成18)
本発明の構成18は、構成14から16のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。本発明によれば、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスを得ることができる。
【0031】
また、前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1A)
本発明の構成1Aは、転写用マスクを作製するために用いられるマスクブランクであり、透光性基板上に遮光膜とエッチングマスク膜とが順に積層した構造を有するマスクブランクであって、
前記エッチングマスク膜は、クロムを含有する材料からなり、
前記遮光膜は、タンタルを含有する材料からなり、
前記遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に高酸化層が形成されており、
前記高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有することを特徴とするマスクブランクである。本発明のマスクブランクを用いることにより、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを作製することが可能となる。
【0032】
(構成2A)
本発明の構成2Aは、前記高酸化層を除いた部分の遮光膜は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eV以下の束縛エネルギーで最大ピークを有することを特徴とする構成1A記載のマスクブランクである。高酸化層を除いた部分の遮光膜におけるTa4fのナロースペクトルをこのように制御することで、高酸化層を除いた部分の遮光膜におけるTaの存在比率を低減でき、遮光性能を高めることができる。
【0033】
(構成3A)
本発明の構成3Aは、前記遮光膜は、ケイ素を含有しない材料からなることを特徴とする構成1Aまたは2Aに記載のマスクブランクである。タンタルを含む遮光膜に、酸素および窒素と結合しやすい特性を有するケイ素を含有させないことで、タンタル元素の結合状態を制御しやすくなる。
【0034】
(構成4A)
本発明の構成4Aは、前記遮光膜は、さらに窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成1Aから3Aのいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含む遮光膜に窒素を含有させることで、タンタルの酸化を抑制することができる。
【0035】
(構成5A)
本発明の構成5Aは、前記遮光膜は、透光性基板側から下層と上層とが順に積層した構造を有し、
前記高酸化層は、前記上層の前記下層側とは反対側の表層に形成されていることを特徴とする構成1Aから3Aのいずれかに記載のマスクブランクである。このような構成とすると、上層を遮光膜の露光光に対する表面反射率を制御する機能を有する膜(反射防止膜)として機能させることができる。
【0036】
(構成6A)
本発明の構成6Aは、前記上層の酸素含有量は、前記高酸化層の酸素含有量よりも少ないことを特徴とする構成5A記載のマスクブランクである。この結果、上層で確保できる光学濃度を多くしつつ、遮光膜の全体膜厚をより薄くすることができ、遮光膜の表面反射率も低減することが可能となる。
【0037】
(構成7A)
前記高酸化層の酸素含有量は、67at%以上であり、前記高酸化層を除いた部分の上層における酸素含有量は、50at%以上であることを特徴とする構成6A記載のマスクブランクである。タンタルを含有する材料である高酸化層に酸素を67at%以上含有させた場合、理論上、Taの結合状態の比率が高くなる。また、タンタルを含有する材料である上層に酸素を50at%以上含有させた場合、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。このような酸素と未結合のタンタルが少ない上層は、酸素非含有の塩素系エッチングガスによるドライエッチングに対して耐性を有するようになる。
【0038】
(構成8A)
本発明の構成8Aは、前記高酸化層のTa結合の存在比率は、前記上層におけるTa結合の存在比率よりも高いことを特徴とする構成5Aから7Aのいずれかに記載のマスクブランクである。Ta結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa結合の存在比率を多くすることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。
【0039】
(構成9A)
本発明の構成9Aは、前記下層は、酸素の含有量が10at%未満であることを特徴とする構成5Aから8Aのいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含有する材料からなる下層の酸素含有量を大幅に抑えることで、酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングレートを高くすることができる。
【0040】
(構成10A)
本発明の構成10Aは、前記下層は、窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成5Aから9Aのいずれかに記載のマスクブランクである。タンタルを含む下層に窒素を含有させることで、タンタルの酸化を抑制することができる。
【0041】
(構成11A)
本発明の構成11Aは、前記エッチングマスク膜は、酸素の含有量が40at%以上であることを特徴とする構成5Aから10Aのいずれかに記載のマスクブランクである。エッチングマスク膜中の酸素含有量が40at%以上であると、酸素非含有の塩素系ガスに対するエッチングレートが所定の値以上になる。この結果、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することが容易になる。
【0042】
(構成12A)
本発明の構成12Aは、前記エッチングマスク膜は、膜厚が7nm以下であることを特徴とする構成11Aに記載のマスクブランクである。エッチングマスク膜の膜厚が、7nmまでであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することが容易になる。
【0043】
(構成13A)
本発明の構成13Aは、構成1Aから12Aのいずれかに記載のマスクブランクを用いて製造された転写用マスクである。本発明のマスクブランクを用いることにより、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを得ることができる。
【0044】
(構成14A)
本発明の構成14Aは、構成1Aから4Aのいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、
ドライエッチングで前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記遮光膜に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0045】
(構成15A)
本発明の構成15Aは、構成5Aから11Aのいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜、エッチングマスク膜または上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成する工程と、
前記下層に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0046】
(構成16A)
本発明の構成16Aは、構成12Aに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記レジスト膜を除去する工程と、
前記転写パターンが形成されたエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成された上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成し、かつエッチングマスク膜を除去する工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の製造方法により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを製造することができる。
【0047】
(構成17A)
本発明の構成17Aは、構成13Aに記載の転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。本発明によれば、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスを得ることができる。
【0048】
(構成18A)
本発明の構成18Aは、構成14Aから16Aのいずれかに記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。本発明によれば、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、タンタル系材料の遮光膜と、クロム系材料のエッチングマスク膜とが積層したマスクブランクを用いて、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクを作製することを可能とする、マスクブランクを得ることができる。また、本発明により、高精度の転写パターンを有し、光学特性が良好な遮光膜を有する転写用マスクおよびその製造方法を得ることができる。また、本発明のマスクブランクを用いた転写用マスクを用いることにより、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線のない半導体デバイスを製造することができる。
【0050】
具体的には、本発明のマスクブランクは、タンタルを含有する材料からなる遮光膜であり、その遮光膜の透光性基板とは反対側の表層に酸素含有量が60at%以上である高酸化層が形成され、その遮光膜の上にクロムを含有する材料からなるエッチングマスク膜が形成された構造となっている。このような構造のマスクブランクとすることにより、遮光膜に転写パターンを形成後、エッチングマスク膜を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで剥離しても、遮光膜パターンの光学特性が良好な転写用マスクを作製することができる。また、遮光膜に形成された転写パターンのラインエッジラフネスが良好な転写用マスクを製造することができる。またこのマスクブランクから製造された転写用マスクを用いて、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写することにより、半導体デバイス上に高精度でレジストパターンを形成することができる。
【0051】
また、具体的には、本発明のマスクブランクは、タンタルを含有する材料からなる遮光膜であり、その遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に高酸化層が形成され、その高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有するものであり、その遮光膜の上にクロムを含有する材料からなるエッチングマスク膜が形成された構造となっている。このような構造のマスクブランクとすることにより、遮光膜に転写パターンを形成後、エッチングマスク膜を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで剥離しても、遮光膜パターンの光学特性が良好な転写用マスクを作製することができる。また、遮光膜に形成された転写パターンのラインエッジラフネスが良好な転写用マスクを製造することができる。またこのマスクブランクから製造された転写用マスクを用いて、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写することにより、半導体デバイス上に高精度でレジストパターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における転写用マスクの製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における転写用マスクの製造工程を示す断面図である。
【図5】エッチングマスク膜中のクロム含有量および酸素含有量と塩素系ガスに対するエッチングレートとの関係を示す図である。
【図6】実施例におけるマスクブランクの遮光膜に対し、オージェ電子分光分析(AES)で分析した結果(深さプロファイル)を示す図である。
【図7】実施例におけるマスクブランクの遮光膜に対し、XPS分析を行った結果(Ta 4fナロースペクトル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の各実施の形態について説明する。
本発明者らは、タンタルを含有する材料からなる遮光膜上に、クロムを含有する材料からなるエッチングマスク膜が積層したマスクブランクを用いて、転写用マスクを作製する場合に生じる問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その問題とは、エッチングマスク膜を除去するときに行われる塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングによって、遮光膜のエッチングマスク膜側の表面が影響を受け、遮光膜の光学特性(表面反射率および光学濃度等)が悪化すること、および遮光膜のパターンエッジ部分に丸まりが発生し、パターンのラインエッジラフネスが悪化することである。その研究の結果、タンタルを含有する材料は、材料中の酸素含有量が少なくとも60at%(原子%)以上であれば、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が十分に高めることができ、この材料で形成された遮光膜は光学特性への影響およびパターンエッジの丸まりを抑制することができることが判明した。しかし、遮光膜は、所定値以上の光学濃度(例えば、光学濃度2.5以上等)を確保する必要がある。一方、転写パターンの微細化が進んできていることから、遮光膜の膜厚を薄くすることが求められている。遮光膜全体をそのような酸素含有量の高い材料で形成すると、所定値以上の光学濃度を確保するために遮光膜の膜厚を厚くする必要が生じる。
【0054】
以上のことを考慮し、本発明の第1の実施形態におけるマスクブランクは、転写用マスクを作製するために用いられるマスクブランクであり、透光性基板上に遮光膜とエッチングマスク膜とが順に積層した構造を有するマスクブランクであって、エッチングマスク膜はクロムを含有する材料からなり、遮光膜はタンタルを含有する材料からなり、遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に酸素含有量が60at%以上である高酸化層が形成されていることを特徴としている。
【0055】
マスクブランクおよび転写用マスクにおける薄膜は、結晶構造が微結晶、好ましくは非晶質であることが望まれる。このため、遮光膜内の結晶構造が単一構造にはなりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。すなわち、タンタルを含有する材料が高酸化層の場合、TaO結合、Ta結合、TaO結合およびTa結合が混在する状態(混晶状態)になりやすい。遮光膜中の所定の表層における、Ta結合の存在比率が高くなるにつれて、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が向上する傾向がある。また、遮光膜中の所定の表層における、Ta結合の存在比率が高くなるにつれて、水素侵入を阻止する特性、耐薬性、耐温水性およびArF耐光性もともに高くなる傾向がある。
【0056】
高酸化層が、層中の酸素含有量が60at%以上66.7at%未満であると、層中のタンタルと酸素の結合状態はTa結合が主体になる傾向が高くなると考えられ、一番不安定な結合のTaO結合は、層中の酸素含有量が60at%未満の場合に比べて非常に少なくなると考えられる。高酸化層が、層中の酸素含有量が66.7at%以上であると、層中のタンタルと酸素の結合状態はTaO結合が主体になる傾向が高くなると考えられ、一番不安定な結合のTaO結合およびその次に不安定な結合のTaの結合はともに非常に少なくなると考えられる。
【0057】
高酸化層が、層中の酸素含有量が67at%以上であると、TaO結合が主体になるだけでなく、Taの結合状態の比率も高くなると考えられる。このような酸素含有量になると、「Ta」および「TaO」の結合状態は稀に存在する程度となり、「TaO」の結合状態は存在し得なくなってくる。高酸化層が、層中の酸素含有量が71.4at%であると、実質的にTaの結合状態だけで形成されていると考えられる。高酸化層が、層中の酸素含有量が60at%以上であると、最も安定した結合状態の「Ta」だけでなく「Ta」および「TaO」の結合状態も含まれることになる。一方、一番不安定な結合のTaO結合が、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性、水素侵入を阻止する特性、耐薬性およびArF耐光性を低下させるような影響を与えない程度の非常に少ない量になるといえる高酸化層中の酸素含有量の下限値は、少なくとも60at%であると考えられる。
【0058】
高酸化層のTa結合の存在比率は、遮光膜におけるTa結合の存在比率よりも高いことが望ましい。Ta結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa結合の存在比率を多くすることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。また、水素侵入を阻止する特性、耐薬性、耐温水性などのマスク洗浄耐性およびArF耐光性も大幅に高まる。特に、高酸化層は、Taの結合状態だけで形成されていることが最も好ましい。なお、高酸化層は、窒素、その他の元素は、これらの作用効果に影響のない範囲であることが好ましく、実質的に含まれないことが好ましい。
【0059】
一方、透光性基板側とは反対側の表層に形成される高酸化層について、鋭意研究した結果、高酸化層を、X線電子分光分析(XPS分析)を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有するもので形成することによって、前記の諸問題を解決できることを突き止めた。高い束縛エネルギーを有する材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が向上する傾向がある。また、水素侵入を阻止する特性、耐薬性、耐温水性およびArF耐光性もともに高くなる傾向がある。タンタル化合物で最も高い束縛エネルギーを有する結合状態は、Ta結合である。前記のとおり、マスクブランクおよび転写用マスクにおける薄膜は、結晶構造が単一構造にはなりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。
【0060】
高酸化層中のTa結合の存在比率が高いほど、前記の諸特性は向上する。前記のように層中の酸素含有量を制御することによって、Ta結合の存在比率が高くなるように促すことも可能である。しかし、より確実にTa結合の存在比率が高い高酸化層を形成するには、実際に形成された高酸化層に対してX線電子分光分析を行い、Ta4fのナロースペクトルを観察することで制御した方がよい。例えば、スパッタ成膜装置の成膜条件、および高酸化層を形成する表面処理の処理条件等について、複数の条件を設定し、各条件で遮光膜の表層に高酸化層を形成したマスクブランクをそれぞれ製造する。各マスクブランクの高酸化層に対してX線電子分光分析を行い、Ta4fのナロースペクトルを観察して、束縛エネルギーの高い高酸化層を形成する条件を選定し、遮光膜の表層に、その選定された条件で形成した高酸化層を備えるマスクブランクを製造する。このようにして製造されたマスクブランクは、その遮光膜の表層に形成されている高酸化層におけるTa結合の存在比率が確実に高くなる。
【0061】
本発明のマスクブランクの高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有するものである。束縛エネルギーが23eV以下であるタンタルを含有する材料は、Ta結合が存在しにくくなるためである。本発明のマスクブランクの高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルにおける束縛エネルギーが、24eV以上であると好ましく、25eV以上であるとより好ましく、25.4eV以上であると特に好ましい。高酸化層の束縛エネルギーが25eV以上であると、高酸化層中におけるタンタルと酸素との結合状態は、Ta結合が主体となり、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。
【0062】
本発明のマスクブランクにおいて、高酸化層を除いた部分の遮光膜は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eV以下の束縛エネルギーで最大ピークを有することが好ましい。Ta4fのナロースペクトルにおける束縛エネルギーが高くなるほど、遮光膜中におけるタンタルと酸素との結合比率が高くなり、露光光に対する単位膜厚あたりの遮光膜の光学濃度が低下してしまう。このため、所定の光学濃度を確保するために必要な遮光膜の膜厚が厚くなるので好ましくない。前記高酸化層を除いた部分の遮光膜における束縛エネルギーの最大ピークは、22.6eV以下であるとより好ましく、22eV以下であるとさらに好ましい。
【0063】
本発明のマスクブランクにおいて、遮光膜は、ケイ素を含有しない材料からなることが好ましい。タンタルを含む遮光膜に、酸素および窒素と結合しやすい特性を有するケイ素を含有させないことで、特に高酸化層におけるタンタル元素と酸素との結合状態を制御しやすくすることができるためである。また、遮光膜に転写パターンを形成する際に行うドライエッチングにおけるエッチングガスに塩素系ガスを用いる場合においては、遮光膜中に塩素を含有させるとエッチングレートが大きく低下するため、好ましくない。
【0064】
本発明のマスクブランクの高酸化層は、厚さが1.5nm以上4nm以下であることが好ましい。高酸化層の厚さが1.5nm未満の場合には薄すぎて効果が期待できず、高酸化層の厚さが4nmを超えると表面反射率に与える影響が大きくなり、所定の表面反射率(露光光に対する表面反射率および各波長の光に対する反射率スペクトル)を得るための制御が難しくなる。また、高酸化層は、ArF露光光に対する光学濃度が非常に低いことから、遮光膜の膜厚を薄膜化する観点からはマイナスに働いてしまう。なお、遮光膜全体の光学濃度確保の観点と、水素侵入を阻止する特性、耐薬性およびArF耐光性の向上の観点との双方の観点のバランスを考慮すると、高酸化層の厚さは1.5nm以上3nm以下とすることがより望ましい。
【0065】
高酸化層の形成方法は、遮光膜が成膜された後のマスクブランクに対して、温水処理、オゾン水処理、酸素を含有する気体中での加熱処理、酸素を含有する気体中での紫外線照射処理およびOプラズマ処理等を行うことなどが挙げられる。
【0066】
前記遮光膜は、露光光に対して所定の光学濃度(OD)を有する必要がある。遮光膜の光学濃度は、ArFエキシマレーザーが露光光に適用される場合、その波長(約193nm)において、2.5以上は必要であり、2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。
【0067】
遮光膜を形成するタンタルを含有する材料としては、例えば、タンタル金属、タンタルに、窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる一以上の元素を含有し、水素を実質的に含有しない材料などが挙げられる。例えば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCNおよびTaBOCNなどが挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、タンタル以外の金属を含有させてもよい。
【0068】
マスクブランクの遮光膜は、タンタルと窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。タンタルは自然酸化しやすい材料である。タンタルは、酸化が進むと露光光に対する遮光性能(光学濃度)が低下する。また、遮光膜パターンを形成する観点において、タンタルは酸化が進んでいない状態の場合には、フッ素系ガスを含有するエッチングガス(フッ素系エッチングガス)、塩素系ガスを含有しかつ酸素を含有しないエッチングガス(酸素非含有の塩素系エッチングガス)のいずれによってもドライエッチング可能な材料であるといえる。しかし、遮光膜パターンを形成する観点において、酸化が進んだタンタルは、酸素非含有の塩素系エッチングガスによるドライエッチングが困難な材料であり、フッ素系エッチングガスのみによりドライエッチングが可能な材料といえる。タンタルに窒素を含有させることで、タンタルの酸化を抑制することができる。また、タンタルを含有する材料からなる遮光膜が透光性基板の主表面に接して形成されていることは、窒素を含有させることで露光光に対する裏面反射率を低減させつつ、酸素を含有させる場合に比べて光学濃度の低下を抑制できるため、好ましい。
【0069】
遮光膜中の窒素含有量は、光学濃度の観点から、30at%以下であることが好ましく、25at%以下であることがより好ましく、20at%以下であるとさらに好ましい。遮光膜中の窒素含有量は、5at%以上であることが好ましい。また、裏面反射率を40%未満とする必要がある場合には、遮光膜中の窒素含有量は7at%以上であることが望まれる。
【0070】
エッチングマスク膜を形成するクロムを含有する材料としては、例えば、クロムに、窒素、酸素、炭素およびホウ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料などが挙げられる。例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCNおよびCrBOCNなどが挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有させてもよい。エッチングマスク膜の膜厚は、転写パターンを精度よく遮光膜に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、4nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜の膜厚は、レジスト膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0071】
マスクブランクにおける透光性基板の材料としては、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラスおよび低熱膨張ガラス(SiO−TiOガラス等)などが挙げられる。特に、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)に対する透過率が高いため、好ましい。なお、本発明のマスクブランクおよび転写用マスクに適用される露光光については特に制約はなく、具体的には、ArFエキシマレーザー光、KrFエキシマレーザー光およびi線光等を挙げることができる。ArFエキシマレーザーを露光光に適用するマスクブランクおよび転写用マスクは、主表面の平坦度および薄膜で形成される転写パターンの位置精度などの要求レベルが非常に高いため、特に効果的である。
【0072】
本発明の第1の実施形態のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法は、エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、転写パターンが形成されたレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、遮光膜に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程とを有することを特徴としている。
【0073】
図1は、本発明の第1の実施形態におけるマスクブランク100の構成を示す断面図である。また、図2は、そのマスクブランク100を用いた転写用マスク200の製造方法の製造工程を示す断面図である。このマスクブランク100は、透光性基板1上に、遮光膜2とエッチングマスク膜3が積層しており、遮光膜2の透光性基板1側とは反対側(エッチングマスク膜3側)の表層に高酸化層22が形成された構成(高酸化層22を除いた遮光膜2は、遮光膜本体21)となっている。マスクブランク100の各構成の詳細については、前記のとおりである。以下、図2に示す製造工程にしたがって、転写用マスクの製造方法を説明する。
【0074】
まず、前記マスクブランク100のエッチングマスク膜3上に、レジスト膜4を成膜する(図2(b)参照)。次に、レジスト膜4に対して、所望の転写パターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、転写パターンを有するレジスト膜4(レジストパターン4a)を形成する(図2(c)参照)。続いて、レジストパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行い、エッチングマスク膜3に転写パターンを形成(エッチングマスクパターン3a)する(図2(d)参照)。次に、レジストパターン4aを除去し、さらにエッチングマスクパターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いるドライエッチングを行い、遮光膜2(高酸化層22および遮光膜本体21)に転写パターンを形成(遮光膜パターン2a)する(図2(e)参照)。なお、遮光膜2へのドライエッチングを行うときに、レジストパターン4aを残存させてもよい。その場合、遮光膜パターン2aを形成後にレジストパターン4aを除去する。そして、遮光膜パターン2aを形成した後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン3aを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、転写用マスク200を得る(図2(f)参照)。
【0075】
前記のとおりエッチングマスクパターン3aを除去するときに行われる塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行っても、遮光膜2の表面(高酸化層22)は高い耐性を有している。このため、製造された転写用マスク200の遮光膜パターン2aの表面反射率の面内均一性が高く、その他の光学特性も良好である。また、遮光膜パターン2aのラインエッジラフネスも良好である。特に、DRAM hp32nm相当の世代から適用が必須とされているダブルパターニング技術(狭義のダブルパターニング技術[DP技術]、ダブル露光技術[DE技術]等)が用いられる転写用マスクには、非常に高いパターン精度が求められているため、好適である。なお、遮光膜2に対し、フッ素系ガスを用いるドライエッチングを行って、遮光膜パターン2aを形成したが、塩素系ガスを用いるドライエッチングを適用してもよい。
【0076】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。例えば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CClおよびBCl等が挙げられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。例えば、CHF、CF、C、CおよびSF等が挙げられる。特に、CおよびFを含有するエッチングガスは、タンタルを含有する材料に対するエッチングレートが高い。一方、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0077】
なお、前記の転写用マスクの製造方法において、エッチングマスク膜3に転写パターンを形成した後、レジストパターン4aを除去してから、遮光膜2に転写パターンを形成するドライエッチングを行うことが好ましい。転写パターンのサイズが微細であることから、レジスト膜4の膜厚はできる限り薄くする方がよい。膜厚が薄いレジストパターン4aでエッチングマスク膜3をパターニングした後、レジストパターン4aを残した状態で、遮光膜2に対してドライエッチングを行うと、遮光膜2をエッチング中にレジストパターン4aが消失する恐れがある。ドライエッチングにおいては、有機系材料のレジストパターン4aが存在しているとそのレジストパターン4aがエッチングされるときに炭素及び/又は酸素が発生し、それらが遮光膜2をドライエッチングするときのエッチング環境に影響を与える。遮光膜2に対するドライエッチングの途上で、炭素及び/又は酸素を含有するレジストパターン4aが消失すると、途中でエッチング環境が変化してしまい、パターン精度(パターン側壁形状の精度や面内でのCD精度など)に悪影響を与える恐れがあり、好ましくない。
【0078】
また、エッチングマスク膜3をドライエッチングするときのエッチングガスと、遮光膜2をドライエッチングするときのエッチングガスは異なるため、別のエッチングチャンバーでエッチングを行うことが多い。レジストパターンに起因する炭素や酸素の発生は、ドライエッチング時に欠陥が発生する要因となり得る。このため、エッチングマスク膜3へのパターニングがされた後、レジストパターン4aを除去してから、遮光膜2をドライエッチングするエッチングチャンバー内にマスクブランク100を導入することが好ましい。
【0079】
本発明の第2の実施形態におけるマスクブランクは、第1の実施形態のマスクブランクにおける遮光膜を、透光性基板側から下層と上層とが積層する構造とし、高酸化層を上層の下層側とは反対側の表層に形成した構成としたものである。このような構成とすると、上層を遮光膜の露光光に対する表面反射率を制御する機能を有する膜(反射防止膜)として機能させることができる。高酸化層に関する具体的な構成および作用・効果については、第1の実施形態のマスクブランクにおけると同様である。また、透光性基板に関する具体的な構成についても、第1の実施形態のマスクブランクと同様である。
【0080】
上層の酸素含有量は、前記高酸化層の酸素含有量よりも少ないことが好ましい。遮光膜をこのような構成とすることにより、上層で確保できる光学濃度を多くしつつ、遮光膜の全体膜厚をより薄くすることができ、遮光膜の表面反射率も低減することが可能となる。上層は、表面反射率特性(ArF露光光に対する反射率および各波長の光に対する反射率スペクトル)の制御しやすさを考慮すると、上層中の酸素含有量は、60at%未満であることが好ましい。
【0081】
前記上層の酸素含有量は、50at%以上であることが望ましい。マスクブランクおよび転写用マスクにおける遮光膜は、結晶構造が微結晶好ましくは非晶質であることが望まれる。このため、遮光膜内の結晶構造が単一構造にはなりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。すなわち、タンタルを含有する材料の高酸化層の場合、酸素と未結合のTa、TaO結合、Ta結合、TaO結合およびTa結合が混在する状態(混晶状態)になりやすい。タンタルを含有する材料である上層に酸素を50at%以上含有させた場合、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。前記のような混晶状態であっても、酸素と未結合のタンタルが上層中に存在する比率を大幅に低くすることができる。そして、このような酸素と未結合のタンタルが少ない上層は、酸素非含有の塩素系エッチングガスによるドライエッチングに対して耐性を有するようになる。
【0082】
高酸化層の酸素含有量は、67at%以上であり、前記高酸化層を除いた部分の上層における酸素含有量は、50at%以上であることが好ましい。タンタルを含有する材料である上層に酸素を50at%以上含有させた場合、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。このような酸素と未結合のタンタルが少ない上層は、酸素非含有の塩素系エッチングガスによるドライエッチングに対して耐性を有するようになる。さらに、タンタルを含有する材料である高酸化層に酸素を67at%以上含有させると、理論上、Taの結合状態の比率が高くなる。上層の表層に、Taの結合状態の比率が高い高酸化層を設けることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスによるドライエッチングエッチングガスに対する上層の表面の耐性が大幅に高まる。特に、上層に反射防止機能を持たせる場合においては、クロム系材料のエッチングマスク膜を除去するドライエッチングを行った後の表面反射率の変化を抑制することができる。
【0083】
高酸化層のTa結合の存在比率は、上層におけるTa結合の存在比率よりも高いことが望ましい。Ta結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa結合の存在比率を多くすることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによるドライエッチングに対する耐性が大幅に高まる。
【0084】
また、前記下層は、酸素の含有量が10at%未満であることが望ましい。タンタルを含有する材料からなる下層の酸素含有量を大幅に抑えることで、酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングレートを高くすることができる。
【0085】
酸素含有量を50at%以上である上層と、酸素含有量が10at%未満の下層を組み合わせることで、レジスト膜のさらなる薄膜化を図ることができる。上層は酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングが困難であるのに対し、下層は酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングが十分に可能である。このため、転写パターンが形成された上層をマスクとして、酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングを行って、下層に転写パターンを形成することが可能である。このような遮光膜の構成の場合、上層および下層の両方に転写パターンを形成できるまでレジストパターンが残存することは必須ではなくなる。
【0086】
下層を形成する材料については、第1の実施形態のマスクブランクの遮光膜を形成する材料と同様である。また、上層を形成する材料については、タンタルと酸素を含有し、さらに窒素、ホウ素および炭素などを含有する材料が好ましい。例えば、TaO、TaON、TaBO、TaBON、TaCO、TaCON、TaBCOおよびTaBOCNなどが挙げられる。
【0087】
下層は、タンタルと窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。このような構成とすることによる作用・効果、および好適な窒素含有量については、第1の実施形態のマスクブランクの遮光膜と同様である。
【0088】
本発明の第2の実施形態のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法は、エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、転写パターンが形成されたレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、ドライエッチングで前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、前記遮光膜に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程と、を有することを特徴としている。
【0089】
図3は、本発明の第2の実施形態におけるマスクブランク101の構成を示す断面図である。また、図4は、そのマスクブランク101を用いた転写用マスク201の製造方法の製造工程を示す断面図である。このマスクブランク101は、透光性基板1上に、下層23および上層24を備えた遮光膜2と、エッチングマスク膜3とが積層しており、上層24の下層23側とは反対側(エッチングマスク膜3側)の表層に高酸化層242が形成された構成(高酸化層242を除いた上層24は、上層本体241)となっている。マスクブランク101の各構成の詳細については、前記のとおりである。以下、図4に示す製造工程にしたがって、転写用マスクの製造方法を説明する。
【0090】
まず、前記マスクブランク101のエッチングマスク膜3上に、レジスト膜4を成膜する(図4(b)参照)。次に、レジスト膜4に対して、所望の転写パターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、転写パターンを有するレジスト膜4(レジストパターン4a)を形成する(図4(c)参照)。続いて、レジストパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行い、エッチングマスク膜3に転写パターンを形成(エッチングマスクパターン3a)する(図4(d)参照)。次に、レジストパターン4aを除去し、さらにエッチングマスクパターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いるドライエッチングを行い、上層24(高酸化層242および上層本体241)に転写パターンを形成(上層パターン24a)する(図4(e)参照)。このとき、下層23はフッ素系ガスに対してもドライエッチングされる材料で形成されているため、下層23の上方が多少エッチングされるが特に問題にはならない。なお、上層24へのドライエッチングを行うときに、レジストパターン4aを残存させてもよい。その場合、遮光膜パターン2aを形成後にレジストパターン4aを除去する。
【0091】
続いて、エッチングマスクパターン3aまたは上層パターン24aをマスクとして、酸素非含有の塩素系ガスを用いるドライエッチングを行い、下層23に転写パターンを形成(下層パターン23a)する(図4(f)参照)。この工程により、下層パターン23aと上層パターン24a(高酸化層パターン242aおよび上層本体パターン241a)が積層した遮光膜パターン2aが形成される。さらに、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン3aを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、転写用マスク201を得る(図4(g)参照)。
【0092】
前記のとおりエッチングマスクパターン3aを除去するときに行われる塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるドライエッチングを行っても、遮光膜2の表面(高酸化層242)は高い耐性を有している。このため、製造された転写用マスク201の遮光膜パターン2aの表面反射率の面内均一性が高く、その他の光学特性も良好である。また、遮光膜パターン2aのラインエッジラフネスも良好である。特に、DRAM hp32nm相当の世代から適用が必須とされているダブルパターニング技術(狭義のダブルパターニング技術[DP技術]、ダブル露光技術[DE技術]等)が用いられる転写用マスクには、非常に高いパターン精度が求められているため、好適である。
【0093】
なお、前記第2の実施形態における転写用マスクの製造方法では、上層および下層に異なるエッチングガスを適用したが、上層および下層を同じエッチングガス(例えば、フッ素系ガス)でドライエッチングを行ってもよい。なお、前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスおよびフッ素系ガスに関しては、第1の実施形態の転写用マスクの製造方法と同様である。
【0094】
また、上層24(高酸化層242および上層本体241)に転写パターンを形成(上層パターン24a)する際に、エッチングマスク膜3をマスクとするのみならず、転写パターンが形成されたレジスト膜(レジストパターン4a)をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで上層24に転写パターンを形成することができる。その場合には、その後、転写パターンが形成されたレジスト膜(レジストパターン4a)、エッチングマスク膜(エッチングマスクパターン3a)または上層(上層パターン24a)をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで下層23に転写パターン(下層パターン23a)を形成することができる。下層23に転写パターン(下層パターン23a)を形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜3を除去することができる。
【0095】
クロムを含有するエッチングマスク膜について、酸素非含有の塩素系ガスに対するドライエッチングレートが速くなる条件を得るための実験を行った。具体的には、表1に示すクロム系材料のサンプル膜8種類について、酸素を含有しない塩素系ガス(Cl)を用いたドライエッチングを行い、各エッチングレートを求めた。その結果を図5に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
図5では、各サンプル膜の、酸素含有量と、酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートとの関係を■のプロットで、各サンプル膜のクロム含有量と塩素系ガスに対するエッチングレートとの関係を▲のプロットでそれぞれ示している。なお、図5中の■および▲の各プロットに付与されている記号は、サンプル膜の記号に対応している。この結果を見ると、酸素含有量と、酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートとの間には相関性が見られることがわかる。また、サンプル膜中に窒素および炭素を含有することの影響も低いこともわかる。他方、クロム含有量と酸素を含有しない塩素系ガスに対するエッチングレートとの間の相関性が低いことがわかる。
【0098】
また、図5に示される結果では、クロム系材料膜中の酸素含有量が40at%以上であると、酸素非含有の塩素系ガスに対するエッチングレートが8.0nm/min(分)以上になる。例えば、遮光膜の下層に転写パターンを形成するのに、酸素非含有の塩素系ガスによるドライエッチングを30秒だけ行う必要がある場合を考える。このとき、エッチングマスク膜を酸素含有量が40at%以上のクロム系材料で形成するとしたとき、4nmの膜厚までであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することができることになる。また、エッチングマスク膜を酸素含有量が45at%以上のクロム系材料で形成するとしたとき、5nmの膜厚までであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することができることになる。エッチングマスク膜を酸素含有量が50at%以上のクロム系材料で形成するとしたとき、6nmの膜厚までであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することができることになる。エッチングマスク膜を酸素含有量が60at%以上のクロム系材料で形成するとしたとき、7nmの膜厚までであれば、下層のドライエッチングと同時にエッチングマスク膜を除去することができることになる。
【0099】
実験したサンプル膜中で、最も酸素含有量が多いサンプル膜Hの場合でも、7.25nmの膜厚を超えると、前記条件の場合、エッチングマスク膜を下層のドライエッチングと同時に除去することは難しい。サンプル膜Hは、理論上の最も酸化した酸化クロムの酸素含有量に近い酸素含有量の膜である。以上のことから、第2の実施形態におけるマスクブランクにおいて、エッチングマスク膜は、7nm以下であることが望まれ、6nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。また、第2の実施形態におけるマスクブランクにおいて、クロム系材料からなるエッチングマスク膜は、転写パターンを形成したときのパターン側壁を所定以上の垂直度とするには、少なくとも4nm以上であることが望まれる。このことから、エッチングマスク膜は、酸素含有量が40at%以上であることが望まれる。また、エッチングマスク膜の酸素含有量が45at%以上であることが好ましく、50at%以上であるとより好ましく、60at%以上であるとさらに好ましい。
【0100】
前記各実施形態のマスクブランクの遮光膜は、上記の積層構造だけに限定されるものではない。遮光膜を、3層積層構造としてもよく、単層の組成傾斜膜としてもよく、上層と下層との間で組成傾斜した膜構成としてもよい。前記各実施形態のマスクブランクから製造される転写用マスクは、ラインエッジラフネスが良好であり、パターン精度にも優れる。このため、遮光膜パターンに非常に高い位置精度が求められるダブルパターニング技術(DP技術、DE技術等)が適用される転写用マスクセットを作製する場合、特に好適である。
【0101】
前記マスクブランクは、透光性基板と前記遮光膜との間に、透光性基板および遮光膜ともにエッチング選択性を有する材料(Crを含有する材料、例えば、Cr、CrN、CrC、CrO、CrONおよびCrC等)からなるエッチングストッパー膜および/またはエッチングマスク膜を形成してよい。さらに、透光性基板と遮光膜との間に、露光光に対して所定の位相シフト効果と透過率を有するハーフトーン位相シフト膜、または所定の透過率のみを有する光半透過膜を形成してもよい(この場合、遮光膜は遮光帯または遮光パッチ等を形成するために主に用いられる。)。
【0102】
各実施形態のマスクブランクから製造された転写用マスクの薄膜で形成された転写パターンの表層にも、酸素を60at%以上含有する高酸化層が形成されていることが望ましい。高酸化層およびタンタルを含有する材料の高酸化層などの態様および作用効果については、前記と同様である。
【実施例】
【0103】
次に、図1から図4を参照しながら各実施の形態にかかるマスクブランクおよび転写用マスクを製造した実施例を説明する。
【0104】
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
縦横の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面および主表面を所定の表面粗さ(自乗平均平方根粗さRqで0.2nm以下)に研磨し、所定の洗浄処理および乾燥処理を施した後、透光性基板の表層から水素を排除する加熱処理(500℃、40分)を行った。
【0105】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、タンタルターゲットを用い、XeとNとの混合ガスを導入し、反応性スパッタリングによりTaNからなる下層23(遮光層)を42nmの膜厚で成膜した。続いて、透光性基板1をスパッタ装置内に設置した状態を維持し、スパッタ装置内のガスをArとOとの混合ガスに入れ替え、反応性スパッタリングによりTaOからなる上層24(反射防止層)を9nmの膜厚で成膜した。以上の手順により、透光性基板上に、TaNからなる下層23と、TaOからなる上層24との積層構造のタンタル系材料の遮光膜2を形成した。
【0106】
次に、タンタル系材料の遮光膜2が形成された透光性基板1に対し、自然酸化が進行する前(例えば成膜後1時間以内)または成膜後自然酸化が進行しない環境下で保管した後、90℃の脱イオン水(DI Water:deionized water)に120分間浸漬し、温水処理(表面処理)を行った。温水処理を行った後の遮光膜に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った結果を図6に示す。この結果から、上層24の表層に厚さ2nmの高酸化層242が形成されていることが確認された。この高酸化層242の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。また、その他の層の組成は、下層(Ta:86at%、N:16at%)、高酸化層を除く部分の上層本体241(Ta:42at%,O:58at%)であった。なお、この遮光膜2の表面側での反射率(表面反射率)は、ArF露光光(波長193nm)において、25.1%であった。また、この遮光膜2の透光性基板1側での反射率は、ArF露光光において、38.2%であった。この遮光膜2は、ArF露光光に対するOD(光学濃度)が3.06であった。
【0107】
また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行った。遮光膜2のTa 4fのナロースペクトルを図7に示す。図7の結果では、遮光膜2の最表層のナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(Binding energy:25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、上層24の表層にTa結合を有する高酸化層が形成されているということがいえる。
【0108】
次に、遮光膜が形成された透光性基板を枚葉式DCスパッタ装置内に設置し、クロムターゲットを用い、Ar、COおよびNの混合ガスを導入し、反応性スパッタリングによりCrOCN(Cr:34at%,O:39at%,C:11at%,N:16at%)からなるエッチングマスク膜3(ハードマスク膜)を10nmの膜厚で成膜した。以上のようにして、透光性基板の主表面上に、TaNからなる下層23と、表層にタンタルの高酸化層242を含むTaOからなる上層24との積層構造の遮光膜2を備え、さらにCrOCNからなるエッチングマスク膜3が積層した実施例1のマスクブランク101を得た。
【0109】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例1のマスクブランク101を用い、以下の手順で実施例1の転写用マスク201を作製した。最初に、スピン塗布法によって、エッチングマスク膜3上に電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜4を膜厚60nmで形成した(図4(b)参照)。次に、レジスト膜4に対して、転写パターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、レジストパターン4aを形成した(図4(c)参照)。なお、電子線描画を行った転写パターンは、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したものの一方を用いた。次に、レジストパターン4aをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜3に転写パターン(エッチングマスクパターン3a)を形成した(図4(d)参照)。続いて、レジストパターン4aを除去した後、エッチングマスクパターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(CF)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜2の高酸化層242を含む上層24に転写パターン(上層パターン24a)を形成した(図4(e)参照)。このとき、下層23の上側も多少エッチングされた。さらに、エッチングマスクパターン3aまたは上層パターン24aをマスクとし、塩素系ガス(Cl)を用いたドライエッチングを行い、遮光層の下層23に転写パターン(下層パターン23a)を形成した(図4(f)参照)。最後に、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン3aを除去した(図4(g)参照)。以上の手順により、転写用マスク201(バイナリマスク)を得た。
【0110】
作製した実施例1の転写用マスク201は、遮光膜パターン2aの表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.2%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例1のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例1の転写用マスクセットを得た。
【0111】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例1の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0112】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
エッチングマスク膜3の材料をCrO(Cr:46at%,O:54at%)に、膜厚を6nmにそれぞれ変えたこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例2のマスクブランクを製造した。
【0113】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例2のマスクブランク101を用い、以下の手順で実施例2の転写用マスク201を作製した。最初に、スピン塗布法によって、エッチングマスク膜3上に電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜4を膜厚60nmで形成した(図4(b)参照)。次に、レジスト膜4に対して、転写パターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、レジストパターン4aを形成した(図4(c)参照)。なお、電子線描画を行った転写パターンは、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したものの一方を用いた。次に、レジストパターン4aをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜3に転写パターン(エッチングマスクパターン3a)を形成した(図4(d)参照)。続いて、レジストパターン4aを除去した後、エッチングマスクパターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(CF)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜2の高酸化層242を含む上層24に転写パターン(上層パターン24a)を形成した(図4(e)参照)。このとき、下層23の上側も多少エッチングされた。さらに、上層パターン24aをマスクとし、塩素系ガス(Cl)を用いたドライエッチングを行い、遮光層の下層23に転写パターン(下層パターン23a)を形成した。このとき、エッチングマスクパターン3aも塩素系ガス(Cl)を用いたドライエッチングによってすべて除去された(図4(g)参照)。以上の手順により、転写用マスク201(バイナリマスク)を得た。
【0114】
作製した実施例2の転写用マスク201は、遮光膜2の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.6%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例2のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例2の転写用マスクセットを得た。
【0115】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例2の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0116】
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
遮光膜2の上層24に高酸化層241を形成するプロセスを温水処理に代えて、オゾン水処理によって行うこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例3のマスクブランクを製造した。オゾン水処理(表面処理)は、オゾン濃度が50ppmで温度が25℃のオゾン含有水を適用し、処理時間15分の条件で行った。
【0117】
オゾン水処理を行った後の遮光膜2に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った。その結果、上層24の表層に厚さ2nmの高酸化層241が形成されていることが確認された。この高酸化層241の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。その他の遮光膜2の各層の組成および光学特性は、実施例1の遮光膜2と同様であった。また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行ったところ、遮光膜2の最表層におけるTa 4fのナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、上層24の表層にTa結合を有する高酸化層241が形成されているということがいえる。
【0118】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例3のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、実施例3の転写用マスクを作製した。作製した実施例3の転写用マスクは、遮光膜の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.3%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例3のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例3の転写用マスクセットを得た。
【0119】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例3の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0120】
(実施例4)
[マスクブランクの製造]
遮光膜2の上層24に高酸化層241を形成するプロセスを温水処理に代えて、加熱処理によって行うこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例4のマスクブランクを製造した。加熱処理(表面処理)は、大気中で140℃の加熱温度で、処理時間30分の条件で行った。
【0121】
加熱処理を行った後の遮光膜2に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った。その結果、上層24の表層に厚さ2nmの高酸化層241が形成されていることが確認された。この高酸化層241の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。その他の遮光膜2の各層の組成および光学特性は、実施例1の遮光膜2と同様であった。また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行ったところ、遮光膜2の最表層におけるTa 4fのナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、上層24の表層にTa結合を有する高酸化層241が形成されているということがいえる。
【0122】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例4のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、実施例4の転写用マスクを作製した。作製した実施例4の転写用マスクは、遮光膜の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.3%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例4のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例4の転写用マスクセットを得た。
【0123】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例4の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0124】
(実施例5)
[マスクブランクの製造]
遮光膜2の上層24に高酸化層241を形成するプロセスを温水処理に代えて、紫外線照射処理によって行うこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例5のマスクブランクを製造した。紫外線照射処理(表面処理)は、50mJ/cmのArFエキシマレーザー光を1cm/秒の走査速度で全面走査することで行った。
【0125】
紫外線照射処理を行った後の遮光膜2に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った。その結果、上層24の表層に厚さ2nmの高酸化層241が形成されていることが確認された。この高酸化層241の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。その他の遮光膜2の各層の組成および光学特性は、実施例1の遮光膜2と同様であった。また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行ったところ、遮光膜2の最表層におけるTa 4fのナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、上層24の表層にTa結合を有する高酸化層241が形成されているということがいえる。
【0126】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例5のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、実施例5の転写用マスクを作製した。作製した実施例5の転写用マスクは、遮光膜の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.2%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例5のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例5の転写用マスクセットを得た。
【0127】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例5の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0128】
(実施例6)
[マスクブランクの製造]
遮光膜2の上層24に高酸化層241を形成するプロセスを温水処理に代えて、酸素プラズマ処理によって行うこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例6のマスクブランクを製造した。酸素プラズマ処理(表面処理)は、酸素プラズマアッシングを行うためのレジスト剥離装置にマスクブランク101を導入し、処理時間5分の条件で行った。
【0129】
酸素プラズマ処理を行った後の遮光膜2に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った。その結果、上層24の表層に厚さ2nmの高酸化層241が形成されていることが確認された。この高酸化層241の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。その他の遮光膜2の各層の組成および光学特性は、実施例1の遮光膜2と同様であった。また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行ったところ、遮光膜2の最表層におけるTa 4fのナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、上層24の表層にTa結合を有する高酸化層241が形成されているということがいえる。
【0130】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例6のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、実施例6の転写用マスクを作製した。作製した実施例6の転写用マスクは、遮光膜の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において25.3%であり、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例6のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例6の転写用マスクセットを得た。
【0131】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例6の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0132】
(実施例7)
[マスクブランクの製造]
縦横の寸法が152mm×152mmで、厚さが6.25mの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面および主表面を所定の表面粗さ(自乗平均平方根粗さRqで0.2nm以下)に研磨し、所定の洗浄処理および乾燥処理を施した後、透光性基板の表層から水素を排除する加熱処理(500℃、40分)を行った。
【0133】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、タンタルターゲットを用い、XeとNとの混合ガスを導入し、反応性スパッタリングによりTaNからなる遮光膜2を49nmの膜厚で成膜した。以上の手順により、透光性基板1上に、TaNからなる遮光膜2を形成した。
【0134】
次に、タンタル系材料の遮光膜2が形成された透光性基板1に対し、自然酸化が進行する前(例えば成膜後1時間以内)または成膜後自然酸化が進行しない環境下で保管した後、90℃の脱イオン水(DI Water:deionized water)に120分間浸漬し、温水処理(表面処理)を行った。温水処理を行った後の遮光膜に対して、AES(オージェ電子分光法)を行った。その結果、遮光膜2の表層に厚さ2nmの高酸化層22が形成されていることが確認された。この高酸化層22の酸素含有量は、71.4at%〜67at%であった。また、高酸化層を除く部分の遮光膜本体21の膜組成は、Ta:77at%,N:23at%であった。なお、この遮光膜2は、ArF露光光に対するOD(光学濃度)が3.1であった。
【0135】
また、遮光膜2に対してXPS分析(X線光電子分光分析)を行った。遮光膜2の最表層におけるTa 4fのナロースペクトルに、Taの束縛エネルギー(25.4eV)の位置で高いピークが観察された。また、遮光膜2の表面から深さ1nmの深さの層におけるTa 4fのナロースペクトルのピークは、Taの束縛エネルギー(25.4eV)と、Taの束縛エネルギー(21.0eV)との間であり、Ta寄りにピークが観察された。これらの結果から、遮光膜2の表層にTa結合を有する高酸化層22が形成されているということがいえる。
【0136】
次に、遮光膜2が形成された透光性基板枚葉式DCスパッタ装置内に設置し、クロムターゲットを用い、ArとOとの混合ガスを導入し、反応性スパッタリングによりCrO(Cr:46at%,O:54at%)からなるエッチングマスク膜3(ハードマスク膜)を6nmの膜厚で成膜した。以上のようにして、透光性基板2の主表面上にタンタルの高酸化層22を含むTaNからなる遮光膜2を備え、さらにCrOからなるエッチングマスク膜3が積層した実施例7のマスクブランク100を得た。
【0137】
[転写用マスクの製造]
次に、実施例7のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例7の転写用マスク200を作製した。最初に、スピン塗布法によって、エッチングマスク膜3上に電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜4を膜厚60nmで形成した(図2(b)参照)。次に、レジスト膜4に対して、転写パターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、レジストパターン4aを形成した(図2(c)参照)。なお、電子線描画を行った転写パターンは、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したものの一方を用いた。次に、レジストパターン4aをマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜3に転写パターン(エッチングマスクパターン3a)を形成した(図2(d)参照)。続いて、レジストパターン4aを除去した後、エッチングマスクパターン3aをマスクとし、塩素系ガス(Cl)を用いたドライエッチングを行い、高酸化層22を含む遮光膜2に転写パターン(遮光膜パターン2a)を形成した(図2(e)参照)。最後に、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスクパターン3aを除去した(図2(f)参照)。以上の手順により、転写用マスク200(バイナリマスク)を得た。
【0138】
作製した実施例7の転写用マスク200は、遮光膜2の表面側における反射率(表面反射率)が、遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べてほとんど変化はなかった。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、十分に小さかった。さらに、遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、遮光膜パターン2aのエッジ部分の丸まりは許容範囲内であり、良好な結果であった。同様の手順で、この実施例7のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写可能な実施例7の転写用マスクセットを得た。
【0139】
[半導体デバイスの製造]
作製した実施例7の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線はなかった。
【0140】
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
遮光膜2の上層24を形成後、すぐにエッチングマスク膜3を形成した(高酸化層241を形成するプロセスを行わなかった)こと以外は、実施例1と同様の手順で比較例1のマスクブランクを製造した。
【0141】
[転写用マスクの製造]
次に、比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の転写用マスクを作製した。作製した比較例1の転写用マスクは、遮光膜2の表面側における反射率(表面反射率)がArF露光光(波長 193nm)において28.5%であり、同条件の実施例1において遮光膜2を成膜した段階のマスクブランクで測定した反射率と比べると、反射率の変化が大きかった。遮光膜2の面内での反射率分布についても悪化していることが確認された。また、ラインエッジラフネスを測定したところ、22nmノードで許容範囲を超えていた。遮光膜パターン2aの側壁部分に対して断面TEM観察を行ったところ、上層パターン24aのエッジ部分の丸まりについても許容範囲を超えていた。同様の手順で、この比較例1のマスクブランクを用いて、ダブルパターニング技術を用いて22nmノードの微細なパターンを2つの比較的疎な転写パターンに分割したもののうちのもう一方の転写パターンを有する転写用マスクを作製した。以上の手順により、2枚の転写用マスクを用いてダブルパターニング技術で露光転写することで、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写する比較例1の転写用マスクセットを得た。
【0142】
[半導体デバイスの製造]
作製した比較例1の転写用マスクセットを用い、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置を用い、ダブルパターニング技術を適用し、半導体デバイス上のレジスト膜に22nmノードの微細パターンを露光転写した。露光後の半導体デバイス上のレジスト膜に所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングし、回路パターンを形成した。半導体デバイスに形成した回路パターンを確認したところ、重ね合わせ精度不足に起因する回路パターンの配線短絡および断線がところどころ発生した。したがって、比較例1の転写用マスクセットは、22nmノードの微細なパターンを転写対象物に転写することができているとはいえない。
【符号の説明】
【0143】
1 透光性基板
2 遮光膜
2a 遮光膜パターン
3 エッチングマスク膜
3a エッチングマスクパターン
4 レジスト膜
4a レジストパターン
21 遮光膜本体
22,242 高酸化層
22a,242a 高酸化層パターン
23 下層
23a 下層パターン
24 上層
24a 上層パターン
241 上層本体
241a 上層本体パターン
100,101 マスクブランク
200,201 転写用マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用マスクを作製するために用いられるマスクブランクであり、透光性基板上に遮光膜とエッチングマスク膜とが順に積層した構造を有するマスクブランクであって、
前記エッチングマスク膜は、クロムを含有する材料からなり、
前記遮光膜は、タンタルを含有する材料からなり、
前記遮光膜の透光性基板側とは反対側の表層に高酸化層が形成されており、
前記高酸化層は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eVよりも大きい束縛エネルギーで最大ピークを有することを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記高酸化層を除いた部分の遮光膜は、X線電子分光分析を行ったときのTa4fのナロースペクトルが23eV以下の束縛エネルギーで最大ピークを有することを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記遮光膜は、ケイ素を含有しない材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記遮光膜は、さらに窒素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記遮光膜は、透光性基板側から下層と上層とが順に積層した構造を有し、
前記高酸化層は、前記上層の前記下層側とは反対側の表層に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記上層の酸素含有量は、前記高酸化層の酸素含有量よりも少ないことを特徴とする請求項5記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記高酸化層の酸素含有量は、67at%以上であり、前記高酸化層を除いた部分の上層における酸素含有量は、50at%以上であることを特徴とする請求項6記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記高酸化層のTa結合の存在比率は、前記上層におけるTa結合の存在比率よりも高いことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記下層は、酸素の含有量が10at%未満であることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記下層は、窒素を含有する材料からなることを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項11】
前記エッチングマスク膜は、酸素の含有量が40at%以上であることを特徴とする請求項5から10のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項12】
前記エッチングマスク膜は、膜厚が7nm以下であることを特徴とする請求項11に記載のマスクブランク。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランクを用いて製造された転写用マスク。
【請求項14】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、ドライエッチングで前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記遮光膜に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程と、
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項15】
請求項5から11のいずれかに記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜またはエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成されたレジスト膜、エッチングマスク膜または上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成する工程と、
前記下層に転写パターンを形成後、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングでエッチングマスク膜を除去する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項16】
請求項12に記載のマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法であって、
前記エッチングマスク膜上に転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記転写パターンを有するレジスト膜をマスクとし、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで前記エッチングマスク膜に転写パターンを形成する工程と、
前記レジスト膜を除去する工程と、
前記転写パターンが形成されたエッチングマスク膜をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで前記上層に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンが形成された上層をマスクとして、酸素を実質的に含有しない塩素系ガスを用いたドライエッチングで前記下層に転写パターンを形成し、かつエッチングマスク膜を除去する工程と
を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載の転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項18】
請求項14から16のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法で製造された転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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