説明

マニピュレータの操作評価装置及びこれを備えたパワーアシスト装置

【課題】マニピュレータの操作性を客観的に評価することのできる操作評価装置と、これを備えたパワーアシスト装置を提供する。
【解決手段】操作者により操作される操作部1、2と、該操作部1、2の操作入力に基づいて複数の動作を行う動作部11とを備えたマニピュレータに於いて、前記操作部1、2によるマニピュレータの操作性を評価するための操作評価装置であって、前記動作部11を基準位置から目標位置にまで到達させる一の動作を行わせるために要した操作部1、2の操作時間と、前記動作部11が到達した位置と目標位置との差と、前記操作部1、2の操作入力に、前記動作部11に他の動作を行わせるための操作入力が付加された場合に於いて該付加された操作入力量とを評価要素としてマニピュレータの操作性を評価する評価手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者によるマニピュレータの操作性を評価するための操作評価装置、及びこれを備えたパワーアシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人間に代わって人の力では行うことができない作業や危険な作業を行う作業装置として、マニピュレータが存在する。かかるマニピュレータは、通常、人が操作する操作部と、操作部への操作入力に応じて作動する動作部と、操作部への操作入力に基づき動作部を駆動する駆動機構とを備えている。駆動機構は、操作者によりなされた操作部への操作入力に基づいて動作部を駆動する。
【0003】
また、上述のマニピュレータの中には、人間が操作する力を増幅して動作部に動作させるためのパワーアシスト型のマニピュレータがある。更に、この種のパワーアシスト型のマニピュレータとしては、例えば重量物搬送等に用いられる大型のマニピュレータも存在する(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、この種の産業機械等に於いては、その操作性を評価するために各種の操作評価装置が開発されている。例えば、自動車の運転操作を評価するものや(特許文献2参照)、宇宙ロボットの遠隔操作を評価する装置である(特許文献3参照)。その評価結果は、機械の改善のための貴重な資料等として有効利用されており、操作性の向上に大いに貢献している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−145464号公報
【特許文献2】特開2003−220872号公報
【特許文献3】特開平6−182681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マニピュレータの操作に関して、その操作性を評価するような装置は存在しないのが実情であり、操作者の操作感等に基づいて改善を行うに止まっていた。このため、マニピュレータが有する特性を考慮した専用の操作評価装置の開発が強く要請されていたのである。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マニピュレータの操作性を客観的に評価することのできる操作評価装置と、これを備えたパワーアシスト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るマニピュレータは、操作者により操作される操作部と、該操作部の操作入力に基づいて複数の動作を行う動作部とを備えたマニピュレータに於いて、前記操作部によるマニピュレータの操作性を評価するための操作評価装置であって、前記動作部を基準位置から目標位置にまで到達させる一の動作を行わせるために要した操作部の操作時間と、前記動作部が到達した位置と目標位置との差と、前記操作部の操作入力に、前記動作部に他の動作を行わせるための操作入力が付加された場合に於いて該付加された操作入力量と、を評価要素としてマニピュレータの操作性を評価する評価手段を備えたものである。
【0009】
このような操作評価装置では、マニピュレータの各動作部を基準位置から目標位置に動作させるように操作者により操作部が操作される。そして、その操作に要した操作時間、動作部が到達した位置と目標位置との差、及び動作部に他の動作を行わせるための操作入力が付加された場合に於いて該付加された操作入力量とを評価要素として、評価手段によりマニピュレータの操作性が評価される。かかる評価結果に基づいて、操作部の一連の操作に於ける操作性の良否を客観的に評価できるばかりではなく、これを考慮した操作部の適切な改善によって、操作性の更なる向上を図ることが可能になる。
【0010】
また、前記評価要素に、操作者による操作部の操作感を加えて評価してもよい。
【0011】
実際の操作による数値的な評価要素だけではなく、このように操作者の操作感という主観的な評価要素を加味することにより、評価手段による操作性の評価をより現実の操作に即したものとすることができる。
【0012】
更に、前記評価手段は、前記評価要素を演算処理する演算部と、該演算部による処理データを所定の評価値として出力する評価部とを備えるようにしても構わない。
【0013】
この場合、操作部の操作によって生じた各評価要素は、評価手段の演算部により演算処理された後、その処理データは評価部により所定の評価値とされて出力される。これにより、操作部の操作性を評価値に基づいて定量的に評価することができる。
【0014】
また、前記評価手段は、任意の評価要素又は全評価要素について評価し得るように構成してもよい。
【0015】
このように、任意又は全評価要素について選択的に評価できるようにすれば、例えば改善すべき事項等に関連する評価要素のみについて評価することにより、より適切な評価結果を得ることができて、改善の便宜に大いに供し得ることになる。
【0016】
更に、前記評価部による評価値は、処理データの演算によって算出された人の消費エネルギとしてもよい。この場合の消費エネルギは、評価要素たる目標位置との差と操作入力量とを乗じた数値を、予め設定した操作部の操作基準時間から操作時間を減じた数値で除して算出されるものである。
【0017】
これによると、評価値が人の消費エネルギという客観的数値として算出されるために、より定量的な評価結果を得ることができる。
【0018】
また、前記評価部は、改善すべき操作事項に対応する前記特定の評価要素について、重み係数を乗じて人の消費エネルギを算出するように構成することも可能である。
【0019】
このように、特定の評価要素に重み係数を乗じて人の消費エネルギを算出させることにより、改善すべき操作部の操作性について最適な改善を図ることが可能になる。
【0020】
更に、前記人の消費エネルギを前記操作感で除した数値を評価値としてもよい。
【0021】
このように、人の消費エネルギを操作感で除したものを評価値とすることにより、操作者の操作感を十分に反映した適切な評価を得ることができる。
【0022】
また、操作評価装置には、前記評価を視覚的及び/又は聴覚的に認識し得る提示手段を備えさせても構わない。
【0023】
これによると、視覚的や聴覚的な提示手段による提示に基づいて、操作者等は操作性の評価を簡易且つ的確に認識することができる。
【0024】
更に、前記操作部は、操作者が把持可能な操作ハンドルと、該操作ハンドルを手で把持しつつ指で操作可能な操作レバーとを備えるようにしてもよい。
【0025】
これによると、操作ハンドル及び操作レバーについて、その操作性を評価することができる。
【0026】
また、本発明に係るパワーアシスト装置は前記マニピュレータを備えるものである。
【0027】
このことにより、操作性に優れたマニピュレータを備えたパワーアシスト装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、マニピュレータの操作性の良否を客観的に評価することができる。また、この評価結果に基づいて、操作部等のマニピュレータの各部を改善することにより、操作性の更なる向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るパワーアシスト装置の一実施形態を図面に従って説明する。図1は操作部1が装着された一方のパワーアシスト装置Aを示す模式図であり、図2は操作部2が装着された他方のパワーアシスト装置Bを示す模式図である。尚、これら各パワーアシスト装置A、Bの主要部分は略同様に構成されており、操作部1、2のみが相違している。従って、同様の構成からなる各構成部材については同様の符号を付して、以下説明することとする。
【0030】
上記各図に示すように、パワーアシスト装置A、Bは、設置面に固定される支持台3と、該支持台3に前後に所定間隔を有して立設された支柱4と、該支柱4の上端部に第1回動関節5を介して回動自在に設けられたアーム6と、該アーム6の先端部に直動関節7及び第2回動関節8を介して伸縮自在且つ回動自在に設けられたハンド9と、該ハンド9の先端部に設けられたフィンガー10とを備えている。かかるアーム6、ハンド9及びフィンガー10が動作部11を構成している。また、前記各操作部1、2は直動関節7に固定されている。
【0031】
前記直動関節7は、アーム6の先端部に固定される固定部7aと、伸縮するように固定部7aにスライド自在に嵌入される可動部7bとからなっている。また、直動関節7の下方位置に前記各操作部1、2が配されている。
【0032】
前記フィンガ−10は、ハンド7の先端部に固定されるフィンガー本体10aと、該フィンガー本体10aに交差させて対向配置される一対の把持部10b、10cとを有しており、開閉自在となるべく一方の把持部10cは他方の把持部10b側にスライド移動するように構成されている。
【0033】
<操作部>
次に、一方のパワーアシスト装置Aの操作部1について説明する。操作部1は、図1に示すように、前記アーム6及びハンド8を操作するための操作ハンドル20と、フィンガー10を操作するための操作レバー21と、該操作レバー21及び操作ハンドル20が取付けられる操作盤22とを備えている。
【0034】
操作ハンドル20は、左右水平方向に延びる棒状のハンドル本体23と、該ハンドル本体23の基端部にフランジ24を介して取付けられて、前記操作盤22に固定される6軸力覚センサ25とからなっている。この力覚センサ25は、ハンドル本体23に作用した上下、前後及び回動方向の操作力の大きさ、方向等を検知することが可能である。
【0035】
操作レバー21は、前後方向に配された板状のレバー本体26と、該レバー本体26の後部側上面に設けられた筒状体27と、該筒状体27の前方に位置する前記レバー本体26の前方側上面に設けられた歪ゲージ28とを備えている。筒状体27には、操作者が手でハンドル本体23を把持した状態で、その指先を挿入することも可能である。歪ゲージ28は、指によりレバー本体26に上下方向の力が作用すると、その力の大きさ及び方向を検知することができる。
【0036】
次に、他方のパワーアシスト装置Bの操作部2について説明する。操作部2も同様、図2に示すように、アーム6及びハンド9を操作するための操作ハンドル40と、フィンガー10を操作するための操作レバー41と、該操作レバー41及び操作ハンドル40が取付けられる操作盤42とを備えている。
【0037】
操作ハンドル40は、左右水平方向に延びる棒状のハンドル本体43と、該ハンドル本体43の基端部にフランジ44を介して取付けられて、前記操作盤42に固定される力覚センサ45とからなっている。力覚センサ45は前記一方の操作部1と同様のものである。ハンドル本体43の略中央部には、これに略直交させて補助棒46が上下方向に設けられており、この点は前記操作部1のハンドル本体23と相違する。
【0038】
操作レバー41は、上下方向に配した板状のレバー本体47と、その上部側に所定間隔を有して対向配置された上下一対の押圧片48、49と、下部側に所定間隔を有して対向配置された一対の押圧補助片50、51と、前記レバー本体47の前面に設けられた歪ゲージ52とからなり、上側の押圧補助片50は内向きに延長されて、操作盤42に固定されている。尚、実際に操作をするに当たっては、例えば操作者がハンドル本体43を把持しつつ、その人差指を押圧片48、49間に挿入すると共に、押圧補助片50、51間に親指を挿入して、前記フィンガー10の開閉操作を行う。また、補助棒46は人差指と中指間で挟むように保持される。尚、歪ゲージ52は人差し指により各押圧片48、49に力が作用すると、その力及び方向を検知することができる。
【0039】
<駆動装置・力覚提示装置>
図3に示すように、アーム6の直動関節7は直動関節駆動装置60により駆動され、第1回動関節5は第1回動関節駆動装置61により夫々駆動される。ハンド9の第2回動関節8は第2回動関節駆動装置62により駆動され、フィンガー10はフィンガー駆動装置63により駆動される。また、直動関節7の動作に基づいて操作部1、2の操作ハンドル20、40に力覚を提示する直動関節力覚提示装置64と、第1回動関節5の動作に基づいて操作部1、2の操作ハンドル20、40に力覚を提示する第1回動関節力覚提示装置65と、第2回動関節8の動作に基づいて操作部1、2の操作ハンドル20、40に力覚を提示する第2回動関節力覚提示装置66と、フィンガー10の動作に基づいて操作レバー21、41に力覚を提示するフィンガー力覚提示装置67とを備えている。
【0040】
直動関節駆動装置60は、操作部1又は操作部2に於ける操作ハンドル20、40の操作入力を演算処理する演算部120からの電気信号に応じて、直動関節7を伸縮させる。即ち、操作者により操作ハンドル20、40の前後方向に加えられた力に追従するようにして、直動関節駆動装置60は直動関節7の可動部7bを前後方向に移動させる。
【0041】
各回動関節駆動装置61、62は、操作部1又は操作部2に於ける操作ハンドル20、40の操作入力を演算処理する演算部120からの電気信号に応じて、各回動関節5、8を回動させる。即ち、操作ハンドル20、40のハンドル本体23、43に作用した上下鉛直方向の力の大きさに応じて、第1回動関節5が上下方向に所定角度回動する。また、ハンドル本体23、43に作用した前後方向の回動力の大きさに応じて、第2回動関節8が上下方向に所定角度回動する。
【0042】
フィンガー駆動装置63は、操作部1又は操作部2の操作入力を演算処理する演算部120からの電気信号に応じて、フィンガー10の把持部10b、10cを開閉させる。即ち、操作部1では、操作者が操作レバー21の筒状体27内に指を挿入した状態で、その上面部側を押し上げると、把持部10cが把持部10bから離反するように移動して開放される。一方、筒状体27の下面部側を押し下げると、把持部10cが把持部10bに接近するように移動して閉鎖される。また、他方の操作部2では、例えば操作者の人差指で上側の押圧片48を押し上げると把持部10b、10cが開放されるように離反し、下側の押圧片49を押し下げると把持部10b、10cが閉鎖されるように接近することになる。
【0043】
直動関節力覚提示装置64は、直動関節7の伸縮動作に応じた伸縮長さに基づく力覚を操作部1、2に伝達する。具体的には、直動関節力覚提示装置64は、操作ハンドル20、40を、直動関節7の伸縮長さに応じた長さ分だけ前後方向に変位させる。これにより、各操作部1、2の操作ハンドル20、40に、直動関節7の伸縮に応じた力覚が提示される。
【0044】
各回動関節力覚提示装置65、66は、各回動関節5、8の回動動作に応じた回動角度に基づく力覚を第1及び第2操作部1、2の操作ハンドル20、40に伝達する。具体的には、第1回動関節力覚提示装置65は、操作ハンドル20、40を第1回動関節5の回動角度に応じた長さ分だけ、その回動方向に対応する上下何れかの方向に変位させる。また、第2回動関節力覚提示装置66は、操作ハンドル20、40を第2回動関節8の回動角度に応じた角度分だけ、その回動方向に回動させる。これにより、第1及び操作部1、2の各操作ハンドル20、40に回動関節5、8の回動動作に応じた力覚が提示される。
【0045】
フィンガー力覚提示装置67は、把持部10cの開閉動作に応じたその移動量に基づく力覚を操作レバー21、41に伝達する。具体的には、フィンガー力覚提示装置67は、操作レバー21、41を、把持部10cの移動量に応じた長さ分だけ上下方向に変位させる。これにより、各操作部1、2の操作レバー21、41に、把持部10cの移動量に応じた力覚が提示される。
【0046】
尚、これらの各力覚提示装置64乃至67は、基本的には同様に構成されており、また従来より存在する公知のものである。このため具体的な説明は省略し、一例としてパワーアシスト装置Bの直動関節力覚装置64について、その概略を説明するに止める。
【0047】
即ち、直動関節力覚装置64は、図4に示すように、ピストンロッド70がリンク機構71等を介して直動関節7の可動部7bに接続された第1油圧シリンダ72と、ピストンロッド73がリンク機構74等を介して操作ハンドル40のハンドル本体43に接続された第2油圧シリンダ75とを有している。また、第1油圧シリンダ72の押側ポートと第2油圧シリンダ75の引側ポートとは第1配管76により接続される一方で、第1油圧シリンダ72の引側ポートと第2油圧シリンダ75の押側ポートとは第2配管77により接続されている。かかる直動関節力覚装置64は、直動関節7が伸縮すると駆動されて、各油圧シリンダ72、75及びリンク機構71、74を介して前記ハンドル本体43が前方又は後方に変位する。これにより、直動関節7に於ける力覚が操作者に提示されることになる。このように、アーム6の伸縮動作に於ける力覚を享受することができるために、良好な操作性を確保することが可能となる。
【0048】
<操作評価装置>
操作評価装置90は、図3に示すように、操作入力に関してパワーアシスト装置A、Bの力覚センサ25、45により変換された信号を演算して、操作入力データ及びパワーアシスト装置A、Bの各動作部11の位置データ等を処理するための演算部91と、該演算部91からの各データを所定の評価値に変換して出力するための評価部92とを備えている。演算部91からは、演算処理された前記動作部11の位置情報や、速度情報等がモニタ等の提示手段93により操作者に出力表示される。また、評価部92から出力された評価値も同様に提示手段93に出力表示される。これにより、操作者は操作性の評価を簡易且つ的確に認識することができる。
【0049】
実際に各操作部1、2についての操作評価をするに当たり、その評価要素としたのは、アーム6の第1回動関節5による上下回動操作、アーム6の直動関節7による前後伸縮操作、ハンド9の第2回動関節8による上下回動操作、フィンガー10の開閉操作に於いて、動作部11であるアーム6、ハンド9及びフィンガー10を夫々目標位置に到達させるために要した操作時間と、実際に到達した位置と目標位置までの差と、前記何れかの操作中に他の操作を行わせるための操作入力が付加された場合に於いて、この付加された操作入力量と、操作終了後に於ける操作者の操作感である。
【0050】
評価部92による評価値は、人の消費エネルギとして出力される。かかる人の消費エネルギは、他の操作により付加された操作入力量と目標位置までの差を乗じたものを、基準操作時間として設定した60秒から実際の操作時間を減じた値で除して算出される。また、人の消費エネルギを操作感で除した数値も評価値として算出される。
【0051】
<操作基準>
前記アーム6の上下回動操作については、例えば図1に示すように、先端部側周面にマーカー100を有して前記第2回動関節8の回動軸8aに突設された棒状体101と、その側方に配され、且つ上下方向に所定間隔を有して一対の基準マーカー102、103を有するポール104を基準にして行う。また、アーム6の伸縮操作については、例えば直動関節7の固定部7aに前後方向に所定間隔を有して設けられた一対の基準マーカー105、106と、可動部7bに設けたマーカー107とを基準にして行う。更に、ハンド9の上下回動操作については、第2回動関節8の回動軸8aに設けられたマーカー108と、回動軸8aを回動自在に保持する関節本体8bの端面に所定間隔を有して同心円上に設けられた一対の基準マーカー109、110を基準にして行う。また、フィンガー10の開閉操作については、フィンガー本体10aの一側面に所定間隔を有して設けられた一対の基準マーカー111、112と、可動する一方の把持部10cの側面に設けられたマーカー113とを基準にして行う。これらは、操作者が全て目視できるように構成されている。
【0052】
尚、各操作を開始するに際して、パワーアシスト装置A、Bの基準となる各部の配置は、図1及び図2に示すように、アーム6及びハンド9が水平であり、この状態で第2回動関節8の回動軸8aに設けた棒状体101は、ポール104の基準マーカー102、103の中間位置に配され、第2回動関節8の回動軸8aに設けたマーカー108は、関節本体8bの基準マーカー109、110の中間位置に配される。また、直動関節7の可動部7bのマーカー107は、固定部7aの基準マーカー105、106の中間位置に配される。更に、フィンガー10の一方の把持部10cのマーカー113は、フィンガー本体10aの基準マーカー111、112の中間位置に配される。
【0053】
<操作手順>
先ず、操作者は操作ハンドル23、43を手で把持しつつ、これを引上げるように力を加えてアーム6を上向きに回動させる。そして、第2回動関節8に設けた棒状体101のマーカー100と、ポール104の上側の基準マーカー102とが一致した時点で、操作ハンドル23、43への入力を停止する。かかる操作に要した操作時間は、演算部120により演算処理された後、電気信号として操作評価装置90の演算部91に送られる。その後、マーカー100を元の中間位置に戻すように操作ハンドル23、43に下向きの力を加える。次に、操作ハンドル23、43を引き下げるように力を加えて、マーカー100と下側の基準マーカー103とが一致した時点で入力を停止する。かかる操作に要した操作時間も同様に、演算部120により演算処理される。このようにして処理された両操作時間は、操作評価装置90の演算部91に送られて合計され、これが操作時間についての実測値として秒単位で出力される。
【0054】
また、実際の操作に於いては、マーカー100が基準マーカー102、103にまで到達しなかったり、或いはこれを越えてしまうような場合もある。この場合は、その差が角度差として演算部120により演算処理され、その演算値が絶対値として操作評価装置90の演算部91に送られて合計される。これが目標位置との差についての実測値としてラジアン単位で出力される。更に、その演算結果に基づいて実際に到達したマーカー100の位置や操作ハンドル23、43の操作速度等の情報が提示手段に送られて出力表示される。
【0055】
更に、操作者が実際には操作ハンドル23、43を鉛直方向に上下動させたつもりでいても、通常は前後方向や回動方向の力が同時に付加入力されてしまう。このような入力は、作業の正確性を期す上で好ましいものではないため、極力排除すべきものである。この点を考慮して、アーム6の回動操作に於ける評価には、他の操作、即ちアーム6の前後伸縮操作、ハンド9の上下回動操作及びフィンガー10の開閉操作に於いて、アーム6の回動させるべく操作ハンドル20、40に付加された上下方向の力が計測される。即ち、かかる操作入力量(以下、「他の操作により付加された操作入力量」という)が演算部120により演算処理され、これらの他の操作により付加された操作入力量は、操作評価装置90の演算部91で合計された後に1/100を乗じて、これが他の操作により付加された操作入力量についての実測値としてニュートン単位で出力される。
【0056】
尚、アーム6の前後伸縮操作、ハンド9の上下回動操作、及びフィンガー10の開閉操作についても、同様にして操作時間、目標位置までの差、及び他の操作により付加された操作入力量に関する演算値が、操作評価装置90の演算部91で更に演算処理されて実測値が算出される。但し、アーム6の前後伸縮操作とフィンガーの開閉操作に於ける目標位置までの差については、距離差としてミリ単位で出力されることになる。
【0057】
また、一連の操作についての計測が終了した後に、各操作部1、2の操作性に関して操作者がどのように感じたかという操作感についても、ここでは評価要素の一つとしている。具体的には、操作感を6段階に分けて「非常に良い」を6点、「どちらかと言うと良い」を5点、「少し良い」を4点、「良くも悪くもない」を3点、「少し悪い」を2点、「どちらかと言うと悪い」を1点、「非常に悪い」を0点と設定し、操作感に関する評価値としている。
【0058】
以上のような操作を、パワーアシスト装置A、Bについて、10人の操作者に対して実施した計測結果を図5乃至図8に示す。図5は操作時間を示し、図6は目標位置までの差を示しており、同図(a)がパワーアシスト装置Aに関するもので、同図(b)がパワーアシスト装置Bに関するものである。また、図7は他の操作により付加された操作入力量を示し、図8(a)はパワーアシスト装置Aに関する操作感で、同図(b)はパワーアシスト装置Bに関する操作感を示す。更に、同図(c)は各操作要素についての平均値を示している。尚、図5、図6及び図7中、P乃至Sは動作部11の各操作を示している。即ち、Pがアーム6の第1回動関節5による上下回動操作で、Qがアーム6の直動関節7による前後伸縮操作であり、Rがハンド9の第2回動関節8による上下回動操作で、Sがフィンガー10の開閉操作である。また、各図に於ける平均値は操作評価装置90の演算部91により算出されて、評価部92に送られることになる。
【0059】
次に、以上の計測結果について検討する。先ず図5から操作時間について考察すると、パワーアシスト装置Aの平均操作時間が33.4秒であるのに対して、パワーアシスト装置Bの平均操作時間が29.0秒となっている。従って、操作時間に関してはパワーアシスト装置Bの方が優位であることが分かる。
【0060】
また、図6から目標位置との差について考察すると、両装置A、B共に、ハンド9の回動操作に於いてこの値が大きくなっている。特にパワーアシスト装置Bの操作ハンドル40のハンドル本体43については、改善の必要があると考えられる。
【0061】
更に、図7から他の操作により付加された操作入力量について考察すると、ハンド9の回動操作(R)に対して、他の操作により付加される操作入力量が極めて大きくなっている。特に、パワーアシスト装置Bに於いて顕著であり、これはハンドル本体43に補助棒46を設け、且つ該補助棒46を人差指と中指で挟むようにして操作するために、他の操作に際してハンドル本体43を前後方向に回動させる力が入力され易いためであると考えられる。また、パワーアシスト装置Bでは、指を操作レバー41に接触させた状態で、全操作が行われるのに対して、パワーアシスト装置Aに於いては、操作ハンドル20の操作時には指を操作レバー21から離脱した状態で行われるために、他の操作により付加される入力量が軽減されたものと考えられる。
【0062】
更に、図8から操作感について考察すると、パワーアシスト装置Aの平均値が26点で、パワーアシスト装置Bの平均値が38点となり、後者の方が操作感が良いと評価されている。また、操作者全員が非常に良いと評価した場合の合計点60点(6点×10人)を100に設定した場合、パワーアシスト装置Aが43で、パワーアシスト装置Bが63となり、両者にそれほどの差異はないものの、後者は半数以上の操作者が良いと評価していることになる。
【0063】
以上から、目標位置までの差及び他の操作により付加された操作入力量は、パワーアシスト装置Aの方が良好であるのに対して、操作時間及び操作感に関してはパワーアシスト装置Bの方が良好であることが分かる。このように、各評価要素については両装置共に一長一短があるために、かかる計測結果だけでは、総合的に何れの装置A、Bの操作性が良いのかを客観的に判断することは困難である。
【0064】
そこで、操作評価装置90の評価部92により出力される評価値を利用して判断を行う。即ち、図8(c)に表された各評価要素の平均値を基づいて、上述のように評価部92により算出された人の消費エネルギを評価値として定量化を図ることにより、操作性の良否を判断するのである。
【0065】
かかる評価値を比較すると、パワーアシスト装置Aについては61.5となり、パワーアシスト装置Bについては79.2となった。これによると、パワーアシスト装置Aの方が操作性が良好であると判断することができる。更に、この結果に操作者の操作感を加味した場合の評価値は、パワーアシスト装置Aが1.43となり、パワーアシスト装置Bが1.25となった。これによると若干ではあるが、パワーアシスト装置Bの操作性の方が良好であるということができる。このように、人の消費エネルギを操作感で除したものを評価値とすることにより、操作者の操作感を十分に反映した適切な評価を得ることができる。
【0066】
以上のような結果から操作性を判断すると、操作系が人の操作感という主観的要素をも重視する必要がある場合にはパワーアシスト装置Bを採用する一方、操作系がさほど良好な操作感を要求されないような場合は、パワーアシスト装置Aを採用すべきであるという結論を得ることができた。
【0067】
このように、単なる計測結果だけの比較では総合的な操作性の良否を判断し難い場合にも、各計測結果を人の消費エネルギという所定の評価値でもって定量化を図ることにより、操作性を客観的に評価することができる。このような評価結果に基づいて、操作部1、2という操作系を中心としてパワーアシスト装置A、Bの各部を改善することにより、より操作性に優れたパワーアシスト装置A、Bを開発することが可能になる。
【0068】
また、本実施形態に係る操作評価装置90は、全体が非常に簡易な構成からなるために、その製作も安価に且つ容易に行えるという実用的な利点もある。
【0069】
<他の実施形態>
尚、上記実施形態に於いては、操作評価装置90による評価要素の一つとして操作感を加えている。しかるに、これを省略して操作部1、2の操作時間、各動作部11が到達した位置と目標位置との差、及び他の操作により付加された操作入力量とを評価要素として評価を行うようにしてもよい。その他、例えば操作者の操作経験等を評価要素に加えることも可能である。
【0070】
また、上記実施形態では、操作評価装置90を演算部91と評価部92とで構成しているが、これらは一体的に構成することも可能である。更には、操作評価装置90の演算部91に演算部120を組込むように一体的に構成してもよい。
【0071】
更に、上記実施形態に於いては、パワーアシスト装置A、Bの動作部11が備える全操作について評価を行っているが、必ずしも全操作について評価する必要はない。例えば、操作されない動作部11を有するような特定の作業については、その操作に関する評価は適宜省略することが可能である。
【0072】
また、上記実施形態では、所定の計算式に基づいて算出された人の消費エネルギを評価値としているが、本発明は決してこれに限定されるものではない。各評価要素に基づいて評価を定量化できるものであれば、他の計算式により算出したものを評価値としても構わない。
【0073】
更に、特定の操作に関して改善の要請があるような場合は、かかる操作に対応する評価要素に関しては重み係数を乗じて人の消費エネルギ等を算出するように構成することも可能である。これによれば、改善要請が十分に反映された評価を得ることができる。
【0074】
また、前記評価部92による評価値は、必ずしも上記実施形態のように視覚的及び聴覚的に認識し得る提示手段により提示しなくてもよい。かかる提示手段は必要に応じて設ければよい。
【0075】
更に、上記実施形態に於ける各操作部1、2は、操作者が把持可能な操作ハンドル20、40と、該操作ハンドル20、40を把持しつつ指で操作可能な操作レバー21、41とを備えているが、この操作部1、2の構成も決してこれに限定されるものではない。
【0076】
また、各評価要素についての具体的な計測単位も、上記実施形態のものに限定されない。
【0077】
その他、前記操作基準や操作手順、或いはパワーアシスト装置A、Bの各部の形状等の具体的な構成も、本発明の意図する範囲内に於いて任意に設計変更自在である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明は、マニピュレータについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーアシスト装置の構成を示す図である。
【図2】他のパワーアシスト装置の構成を示す図である。
【図3】操作部、駆動装置、力覚装置及び操作評価装置の関係を示すブロック図である。
【図4】直動関節力覚提示装置の詳細図である。
【図5】各操作に要した操作時間を表した表である
【図6】(a)及び(b)は各操作に於いて目標位置までの差を示した表である。
【図7】各操作に於いて他の操作により付加された操作入力量を示した表である。
【図8】(a)及び(b)は操作者の操作感を示した表で、(c)は各評価要素についての平均値を示した表である。
【符号の説明】
【0080】
1 操作部
2 操作部
11 動作部
20 操作ハンドル
21 操作レバー
40 操作ハンドル
41 操作レバー
91 演算部
92 評価部
93 提示手段
A パワーアシスト装置
B パワーアシスト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者により操作される操作部と、該操作部の操作入力に基づいて複数の動作を行う動作部とを備えたマニピュレータに於いて、前記操作部によるマニピュレータの操作性を評価するための操作評価装置であって、
前記動作部を基準位置から目標位置にまで到達させる一の動作を行わせるために要した操作部の操作時間と、
前記動作部が到達した位置と目標位置との差と、
前記操作部の操作入力に、前記動作部に他の動作を行わせるための操作入力が付加された場合に於いて該付加された操作入力量と、を評価要素としてマニピュレータの操作性を評価する評価手段を備えてなることを特徴とするマニピュレータの操作評価装置。
【請求項2】
前記評価要素に、操作者による操作部の操作感を加えた請求項1記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項3】
前記評価手段が、
前記評価要素を演算処理する演算部と、
該演算部による処理データを所定の評価値として出力する評価部と、を備えた請求項1又は2記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項4】
前記評価手段が、任意の評価要素又は全評価要素について評価し得るように構成された請求項1乃至3の何れか一つに記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項5】
前記評価部による評価値が、処理データの演算によって算出された人の消費エネルギからなり、且つ該消費エネルギは、評価要素たる目標位置との差と操作入力量とを乗じた数値を、予め設定した操作部の操作基準時間から操作時間を減じた数値で除して算出するように構成された請求項3又は4記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項6】
前記評価部は、改善すべき操作事項に対応する前記特定の評価要素について、重み係数を乗じて人の消費エネルギを算出するように構成された請求項5記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項7】
前記人の消費エネルギを前記操作感で除した数値を評価値とした請求項5又は6記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項8】
前記評価値を視覚的及び/又は聴覚的に認識し得る提示手段を備えさせた請求項1乃至7の何れか一つに記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項9】
前記操作部に、操作者が把持可能な操作ハンドルと、該操作ハンドルを手で把持しつつ指で操作可能な操作レバーとを備えさせた請求項1乃至8の何れか一つに記載のマニピュレータの操作評価装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一つに記載のマニピュレータの操作評価装置を備えたパワーアシスト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−162621(P2010−162621A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4885(P2009−4885)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】