説明

マニュアルトランスミッション

【課題】回転方向の逆転が、軸中心線から離して設けられつつ軸方向の力が作用しない中間歯車によってなされる、マニュアルトランスミッションを提供すること。
【解決手段】トルクを出力軸へ伝達する入力軸を備え、歯車対3が軸中心線6,7上の歯車4,5で形成されているとともに、軸中心線6,7が互いに所定の角度αで配置されており、歯車対3が円すい状の歯車4,5を有し、出力軸の回転方向の逆転が、逆転用歯車8,9に噛合している中間歯車1でなされ、逆転用歯車8,9が円すい状に形成されているマニュアルトランスミッションにおいて、中間歯車1を、円筒状に形成するとともに、当該中間歯車1の回転軸が逆転用歯車8,9との接線に対して平行となるよう逆転用歯車8,9に対して配置し、中間歯車1の回転軸及び逆転用歯車8,9の各軸中心線が共通の交点において交わるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切換可能な複数の歯車対の選択により回転数及びトルクを出力軸へ伝達可能な入力軸を備え、前記歯車対がその駆動側及び被駆動側それぞれに、共通の軸中心線上に配置された複数の歯車で形成されているとともに、前記軸中心線が互いに所定の角度をなすよう配置されており、前記歯車対がそれぞれ少なくとも1つの円すい状の歯車を有し、前記出力軸の回転方向の逆転が、前記軸中心線の一側に配置されつつ駆動側及び被駆動側に配置された逆転用歯車に噛合している中間歯車を介して、クラッチ装置の操作によってなされ、前記逆転用歯車のうち少なくとも1つが円すい状に形成されているマニュアルトランスミッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッションは、内燃機関の回転数及びトルクを当該マニュアルトランスミッションにおける切換可能な複数の歯車対の選択に合わせて変換し、原動機付き車両(以下単に「車両」という。)あるいは船舶の駆動するために、特に車両及び船舶において使用されている。ここで、切換可能な歯車対における駆動側と被駆動側それぞれの歯車が位置する軸中心線を互いに角度をなすよう配置するマニュアルトランスミッションの開発がなされており、これにより、これら軸中心線の位置をマニュアルトランスミッションの設置空間の制限により良好に合わせることが可能であるとともに、軸間の間隔を様々に設定することも可能である。したがって、切換可能な各歯車対を最適に形成することが可能である。これは、マニュアルトランスミッションのサイズの縮小又はギヤ比範囲の拡大によって達成されるものである。
【0003】
特許文献1には上記のようなマニュアルトランスミッションが開示されており、入力軸の回転数及びトルクは、切換可能な複数の歯車対の選択により変換されて出力軸へ伝達されるようになっている。ここで、これら歯車対は、駆動側及び被駆動側でそれぞれ共通の軸中心線上に配置されている。なお、被駆動側の軸中心線は出力軸の回転軸に一致している一方、駆動側の軸中心線は固定されたギヤ段を介して入力軸に連結されたカウンタシャフトによって定義されている。
【0004】
ところで、様々な軸間の間隔を得るために、両軸中心線及びカウンタシャフトと出力軸は互いに所定の角度をなすよう配置されている。また、角度をなすよう配置されても互いに対向する円筒状の歯車が噛合することが可能であるよう、切換可能な各歯車対は円すい状に形成された歯車を有している。さらに、両軸中心線から離して1つの中間軸が中間歯車に設けられており、この中間歯車は、駆動側ではカウンタシャフト上に配置された逆転用歯車に噛合し、被駆動側では出力軸上に配置された逆転用歯車に噛合し、更に出力軸上に設けられたクラッチ装置の操作時に出力軸の回転方向を逆転させる機能も果たす。これにより、マニュアルトランスミッションを搭載した車両の後進がなされることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第10151752号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それぞれ軸に対して平行に配置され、かつ、純粋に円筒状に形成された複数の歯車を有する複数の歯車対を備えたマニュアルトランスミッションにおいては、軸方向の力が相殺されるため中間歯車の軸方向支持が不要である一方、互いに傾斜して配置された軸中心線や中間歯車の外形形状及び両逆転用歯車に対する配置によって追加的な軸方向の力成分が生じてしまい、中間歯車の追加的な軸方向指示が必要となってしまう。そのため、マニュアルトランスミッションの生産コストが大きくなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、切換可能な複数の歯車対の軸中心線が互いに角度をなすよう配置され、かつ、回転方向の逆転が、軸中心線から離して設けられつつ軸方向の力が作用しない中間歯車によってなされる、マニュアルトランスミッションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、請求項1記載の発明によって達成される。また、各従属請求項は、本発明の好ましい実施形態に対応する。
【0009】
本発明は、中間歯車を、円筒状に形成するとともに、当該中間歯車の回転軸が逆転用歯車との接線に対して平行となるよう逆転用歯車に対して配置するという技術事項を含んでいる。円筒状の中間歯車と、逆転用歯車の回転軸に対して平行な接線により、追加的な軸方向の力成分が生じないとともに、純粋に傾斜した歯により生じる軸方向の力は、円筒状の歯車の場合と同様に、駆動側の噛合と被駆動側の噛合において互いに逆の力方向となるため、互いに相殺されることになる。
【0010】
したがって、このように構成することで、軸中心線を互いに角度をなすよう配置した場合でも、軸方向の力が生じない中間歯車を達成することができ、この箇所において追加的な軸方向支持を不要とすることが可能である。なお、中間歯車の回転軸及び逆転用歯車は、一点で交わるようになっている。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、両逆転用歯車を円すい状に形成したことを特徴としている。これにより、選択された円すい角に合わせて各逆転用歯車の軸方向の力成分に影響を与えることが可能である。そのため、両逆転用歯車に対して均等な配分を行うことができる。なお、軸中心線間に比較的大きな傾斜角を設定することも可能である。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、中間歯車及び逆転用歯車を共通の平面内に配置したことを特徴としている。これにより、出力軸の回転方向の逆転のための、軸方向にコンパクトな構造を達成することが可能である。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、中間歯車の駆動側の逆転用歯車との噛合と、中間歯車の被駆動側の逆転用歯車との噛合が互いに異なる平面内においてなされるよう構成したことを特徴としている。こうすることで、両平面内における占有空間をそれぞれ小さく維持することができるという利点が得られる。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、駆動側又は被駆動側に配置された逆転用歯車を、切換可能な歯車対の1つの歯車としたことを特徴としている。これにより、本発明によるマニュアルトランスミッションの生産コストの更なる削減を図ることが可能である。
【0015】
また、本発明の一実施形態は、入力軸と出力軸の間にカウンタシャフトを配置し、該カウンタシャフトを、固定されたギヤ段を介して入力軸に作用連結させるとともに、切換可能な歯車対を介して出力軸に作用連結させたことを特徴としている。ここで、前記入力軸と前記出力軸を互いに同軸に配置するのが好ましい。これにより、本発明によるマニュアルトランスミッションは、特に後輪駆動及び全輪駆動(四輪駆動)の車両に適したものとなる。
【0016】
さらに、本発明の一実施形態は、出力軸の回転方向を逆転させるための装置におけるクラッチ装置をシンクロ式のものとしたことを特徴としている。これにより、各逆転用歯車とこの逆転用歯車を支持する軸の間で起こり得る回転数差を除去することで、大きな劣化あるいは故障を防止することが可能である。
【0017】
なお、本発明の他の特徴は、添付図面に基づく後述の実施形態の説明において詳細に示されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切換可能な複数の歯車対の軸中心線が互いに角度をなすよう配置され、かつ、回転方向の逆転が、軸中心線から離して設けられつつ軸方向の力が作用しない中間歯車によってなされる、マニュアルトランスミッションを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるマニュアルトランスミッションにおける第1の実施形態に基づく中間歯車近傍の斜視図である。
【図2A】本発明によるマニュアルトランスミッションにおける中間歯車と2つの逆転用歯車の相互作用を示す図である。
【図2B】本発明によるマニュアルトランスミッションにおける中間歯車と2つの逆転用歯車の相互作用を示す図である。
【図3】本発明によるマニュアルトランスミッションにおける第2の実施形態に基づく中間歯車近傍の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
<実施の形態1>
図1には中間歯車1における本実施の形態によるマニュアルトランスミッションの斜視図が示されており、このマニュアルトランスミッションは、この中間歯車1の範囲において、不図示の出力軸及び部分的に図示したカウンタシャフト2を備えている。ここで、カウンタシャフト2は、切換可能な歯車対3を介して出力軸に連結されることが可能となっている。
【0022】
当業者にとって自明であるように、得るべきギヤ比の数に応じた数のギヤ段を出力軸とカウンタシャフト2の間に設ける必要があり、各歯車対が出力軸側又はカウンタシャフト側に配置されたクラッチ部材によって切り換えられ、適当なギヤ比が得られるようになっている。
【0023】
また、当業者にとって更に自明であるように、カウンタシャフト2は、マニュアルトランスミッションの構造に応じて、固定されたギヤ段を介してマニュアルトランスミッションの入力軸に作用連結されるか、又は直接入力軸によって形成されている。
【0024】
しかして、図1において、切換可能な歯車対3は駆動側に配置された歯車4及び被駆動側に設けられた歯車5を備えており、これら歯車4,5は、常に噛合しているとともに、それぞれの軸中心線6,7上に配置されている。ここで、これら軸中心線6,7は、それぞれ出力軸及びカウンタシャフト2の回転軸に一致しているとともに、互いに角度αをなすように配置されている。また、歯車4,5は、角度をもって傾斜していてもカウンタシャフト2から出力軸へ出力を伝達できるよう、それぞれ円すい状に形成されている。
【0025】
ところで、マニュアルトランスミッションを備えた車両の後進及びそのために必要な出力軸の回転方向の逆転を行えるよう、軸中心線6,7上には逆転用歯車8,9が配置されており、これら逆転用歯車8,9は、中間歯車1を介して互いに作用連結されている。また、出力軸の回転方向の逆転は、カウンタシャフト2からの出力を逆転用歯車8を介して中間歯車1へ伝達し、更にこの中間歯車1から出力軸上に配置された逆転用歯車9へ伝達することで達成される。
【0026】
逆転用歯車8,9も円すい状に形成されている一方、中間歯車1は円筒状の歯車として形成されており、この中間歯車1は、当該中間歯車1においていかなる軸方向の力成分も生じさせず、この箇所において軸方向支持が不要となるよう逆転用歯車8,9に対して配置されている。
【0027】
しかして、理解を助けるため、図2A及び図2Bには、中間歯車の逆転用歯車8,9との相互作用が図示されている。これら図2A及び図2Bにおいて、逆転用歯車8,9及び中間歯車1は、それぞれ円すいとして形成された代替用ローラ体10,11及び代替用ローラ体12で表現されている。特に図2Bにおける断面図から分かるように、中間歯車1の代替用ローラ体12は、その代替用ローラ体10,11との接点13,14が当該代替用ローラ体12の回転軸15と平行となるよう、代替用ローラ体10,11に対して配置されている。
【0028】
このような構成によれば、両逆転用歯車8,9によって中間歯車1に軸方向の力成分が作用することがない。ここでも、当業者にとって自明であるように、傾斜した歯によって生じる軸方向の力は、軸方向に平行なはすば歯車と同様に互いに相殺されるようになっている。
【0029】
なお、両逆転用歯車8,9の代替用ローラ体10,11の各回転軸16,17は、中間歯車1の代替用ローラ体12の回転軸15と交点18において交わるようになっている。
【0030】
<実施の形態2>
図3には中間歯車1’における本実施の形態によるマニュアルトランスミッションが示されており、実施の形態1との差異は、逆転用歯車8’と中間歯車1’の間の接触及び中間歯車1’と逆転用歯車9’の間の接触が一平面内でなされない点にある。これを可能とするため、中間歯車1’はそれに応じて延長させて形成されている。さらに、逆転用歯車8’は、切換可能な歯車対3’の駆動側歯車を形成しているとともに、これに対応して軸方向に延長させて形成されている。
【符号の説明】
【0031】
1,1’ 中間歯車
2 カウンタシャフト
3,3’ 歯車対
4 駆動側歯車
5 被駆動側歯車
6,7 軸中心線
8,8’,9 逆転用歯車
10,11,12 代替用ローラ体
13,14 接線
15,16,17 回転軸
18 交点
α 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切換可能な複数の歯車対(3;3’)の選択により回転数及びトルクを出力軸へ伝達可能な入力軸を備え、前記歯車対(3;3’)がその駆動側及び被駆動側それぞれに、共通の軸中心線(6,7)上に配置された複数の歯車(4,5;8’,5)で形成されているとともに、前記軸中心線(6,7)が互いに所定の角度(α)をなすよう配置されており、前記歯車対(3;3’)がそれぞれ少なくとも1つの円すい状の歯車(4,5;8’,5)を有し、前記出力軸の回転方向の逆転が、前記軸中心線(6,7)の一側に配置されつつ駆動側及び被駆動側に配置された逆転用歯車(8,9;8’,9)に噛合している中間歯車(1;1’)を介して、クラッチ装置の操作によってなされ、前記逆転用歯車(8,9;8’,9)のうち少なくとも1つが円すい状に形成されているマニュアルトランスミッションにおいて、
前記中間歯車(1;1’)を、円筒状に形成するとともに、当該中間歯車(1,1’)の回転軸(15)が前記逆転用歯車(8,9;8’,9)との接線(13,14)に対して平行となるよう前記逆転用歯車(8,9;8’9)に対して配置し、前記中間歯車(1,1’)の回転軸(15)及び前記逆転用歯車(8,9;8’9)の各軸中心線(16,17)が共通の交点(18)において交わるよう構成したことを特徴とするマニュアルトランスミッション。
【請求項2】
前記両逆転用歯車(8,9;8’9)を円すい状に形成したことを特徴とする請求項1記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項3】
前記中間歯車(1)及び前記逆転用歯車(8,9)を共通の平面内に配置したことを特徴とする請求項1又は2記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項4】
前記中間歯車(1’)の駆動側の前記逆転用歯車(8’)との噛合と、前記中間歯車(1’)の被駆動側の前記逆転用歯車(9)との噛合が互いに異なる平面内においてなされるよう構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項5】
駆動側又は被駆動側に配置された前記逆転用歯車(8’)を、切換可能な前記歯車対(3’)の1つの歯車としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項6】
前記入力軸と前記出力軸の間にカウンタシャフト(2)を配置し、該カウンタシャフト(2)を、固定されたギヤ段を介して前記入力軸に作用連結させるとともに、切換可能な前記歯車対(3)を介して前記出力軸に作用連結させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項7】
前記入力軸と前記出力軸を互いに同軸に配置したことを特徴とする請求項6記載のマニュアルトランスミッション。
【請求項8】
前記クラッチ装置をシンクロ式のものとしたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のマニュアルトランスミッション。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−520432(P2012−520432A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500164(P2012−500164)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051609
【国際公開番号】WO2010/105877
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】