説明

マルチキャスト配信システム、帯域管理サーバ、および、マルチキャスト配信方法

【課題】共有セグメントに複数のマルチキャスト配信ルータが接続される構成において、クエリアの障害回復時におけるフローの切り戻し処理による配信断や重複配信を抑制しつつ、配信ルータのリソース競合による輻輳を回避すること。
【解決手段】帯域管理サーバ7は、新規フローの視聴要求の転送信号を受信すると、新規フローの使用帯域が余剰帯域以下のときには、新規フローの視聴要求に従って、ルータR1に新規フローを割り当て、新規フローの使用帯域が余剰帯域より大きく、かつ、実質余剰帯域以下のときには、切戻候補フローを切り戻すようにルータR1に指示した後、新規フローの視聴要求に従って、ルータR1に新規フローを割り当て、新規フローの使用帯域が実質余剰帯域より大きいときには、ルータR1に対して、新規フローの視聴要求を拒否する旨を通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチキャスト配信システム、帯域管理サーバ、および、マルチキャスト配信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IP(Internet Protocol)ルータとIPホスト区間のIPマルチキャストの配信制御を行うプロトコルとして、IGMP(Internet Group Management Protocol)/MLD(Multicast Listener Discovery)が存在する。また、その中でも、配信フローの送信元IPアドレス(以下、Sアドレス)と、宛先IPアドレス(以下、Gアドレス)との両方(以下、(S,G))をフローIDとして指定して制御を行うSSM(Source-Specific Multicast)方式に対応したプロトコルとして、非特許文献1に記載のIGMPv3(IPv4)や、非特許文献2に記載のMLDv2(IPv6)が存在する。
IGMPv3/MLDv2では、ホストからフローのフローIDと配信状態(join/leave)を示すレポートメッセージを送信し、ルータがレポートメッセージを受信することを契機に、フローの配信を開始/停止する。
【0003】
IPルータがIGMP/MLDを用いてIPマルチキャストの配信制御を行うときに、複数のIPルータを単一の共有セグメント(イーサネット(登録商標)のLAN(Local Area Network)など)に冗長接続する構成(冗長構成)もある。
ここで、冗長構成の全てのルータがレポートメッセージを受信して配信を開始すると、共有セグメント内に同一フローが重複配信される。重複配信により、共有セグメントの帯域利用効率が低下するので、一度に配信可能なフロー種別数が減少する点や、フローを重複受信するホストに悪影響を及ぼすこともある。
【0004】
そこで、IGMPv3/MLDv2には、クエリアの選択メカニズムが備わっている。すなわち、冗長構成で複数のルータが存在する場合、その中の一台(以下、クエリア)のみ配信制御を行う。クエリアの選択は、他のルータから受信するGQ(General Query)の送信元のIPアドレスと自インタフェースのIPアドレスを大小比較し、自アドレスの方が小さいルータがクエリアになることで行われる。一方、非クエリアは、共有セグメントへのフローの配信を停止する。
クエリアは、QI(Query Interval)時間間隔で周期的にGQを送信する。端末は自らのjoinをレポート応答する。非クエリアは、タイマ上限値(以下、OQPT)を超過するまでにGQを受信すれば、非クエリアの状態を維持して配信制御を行わない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IETF、“Internet Group Management Protocol, Version 3”、[online]、[平成23年4月11日検索]、インターネット(URL:http://www.rfc-editor.org/rfc/rfc3376.txt)
【非特許文献2】IETF、“Multicast Listener Discovery Version 2 (MLDv2) for IPv6”、[online]、[平成23年4月11日検索]、インターネット(URL:http://www.rfc-editor.org/rfc/rfc3810.txt)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、クエリア(第1ルータ)に障害が発生した場合、非クエリア(第2ルータ)はクエリアからGQを受信しなくなる。そして、非クエリア(第2ルータ)は、GQを受信しなくなる時間が所定時間(OQPT)を超過すると、自身がクエリア状態へ遷移し、配信制御を代行する。なお、非クエリアが複数存在する場合、前記のクエリア選択メカニズムにより、障害が発生したクエリア(第1ルータ)を除いたルータ群のうちのアドレスが最小となる1台のルータがクエリア状態へ遷移する。
【0007】
そして、第1ルータの障害の回復後には、第1ルータがGQの送信を再開することで、第2ルータから第1ルータへとクエリア(配信制御)を切り戻す。クエリアへと復帰した第1ルータは、ホストからjoinを受信したことを契機に、配信を再開する。このように配信ルータへの切戻し制御が完了する。
【0008】
しかし、これらの従来のクエリアの切り戻し技術(IGMPv2/IGMPv3/MLDv2)には、第1ルータが復旧した場合、第2ルータが代行配信しているフローを無条件に自動で切り戻す。
具体的には、障害が回復した際の第1ルータは、SQ(Startup Query:起動してからQI/4(デフォルト125/4秒)後に送信)またはGQ(起動してからQI(デフォルト125秒)後に送信)を第2ルータに送信する。受信した第2ルータは、配信中の全てのフローを速やかに停止する。
第1ルータは、自送信のSQもしくはGQに対するレポートが返却されるか、ホストによるjoinを受信すると、第2ルータのフロー配信状態にかかわらず、そのフロー配信を開始するので、無条件に全てのフローを自動一括で切り戻す。
【0009】
この切戻し制御に関連するルータおよびホスト間の制御タイミングや制御順序が正確に時間同期しておらず、第2ルータによる配信停止と第1ルータによる配信開始、ホストによるjoinが実行される順序と時間を保障した制御ができないため、配信断および重複配信が発生する。
つまり、障害が発生した際、第2ルータは自らの障害検出タイマがタイムアウトするまで待機するので、タイムアウトを待つ間に配信断が発生する。また、2台以上のルータが障害を検出し、新たなクエリアが1台に収束するまで同一フローに対する重複配信が発生する。
【0010】
よって、過剰に切り戻すと、配信断や重複配信の影響範囲が拡大してしまう。一方、切り戻すべきフローの切り戻しを行わないと、新規フローのjoinが特定のルータに集中することで、パスおよびノードの配信リソースが不足し、リソース競合による輻輳が発生する。
【0011】
そこで、本発明は、共有セグメントに複数のマルチキャスト配信ルータが接続される構成において、クエリアの障害回復時におけるフロー切り戻し処理による配信断や重複配信を抑制しつつ、配信ルータのリソース競合による輻輳を回避することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、ホストにマルチキャストのフローを配信する配信ルータと、その配信ルータがフローの配信に使用する帯域を管理する帯域管理サーバとを有するマルチキャスト配信システムであって、複数台の前記配信ルータと1台以上の前記ホストとが共有セグメントに接続され、その共有セグメントに送信されるパケットが、前記共有セグメントに接続される前記配信ルータおよび前記ホストがそれぞれ受信可能であり、前記帯域管理サーバが、新規フローの視聴要求を前記ホストから受信した前記配信ルータである第1ルータから、その視聴要求の転送信号を受信すると、前記帯域管理サーバ内の記憶手段から、前記第1ルータが既に配信している既存フローごとの使用帯域と、前記第1ルータの帯域上限とを読み取り、前記帯域上限から前記既存フローの使用帯域の総和を減じた結果である余剰帯域を求め、前記既存フローごとに、その既存フローを他の前記配信ルータに切り戻す候補である切戻候補フローか、他の前記配信ルータに切り戻す候補でない切戻候補外フローかのいずれかに分類し、前記余剰帯域に前記切戻候補フローの使用帯域を加算した結果である実質余剰帯域を求め、前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域以下のときには、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域より大きく、かつ、前記実質余剰帯域以下のときには、前記切戻候補フローを前記第1ルータから前記第1ルータとは別の前記配信ルータである第2ルータへと切り戻すように前記第1ルータに指示した後、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、前記新規フローの使用帯域が前記実質余剰帯域より大きいときには、前記第1ルータに対して、前記新規フローの前記視聴要求を拒否する旨を通知することを特徴とする。
【0013】
これにより、第1ルータへの切り戻し指示が必要なときに限定されるので、不要な切り戻し制御を実施しないことで、配信断や重複配信の影響範囲を抑制しつつ、必要な切り戻し制御を実施することで、配信ルータのリソース競合による輻輳を回避することができる。
【0014】
本発明は、前記帯域管理サーバ内の記憶手段には、前記既存フローごとに、その既存フローを切り戻すか否かを選択するための優先度が対応づけられており、前記既存フローごとに前記切戻候補フローか前記切戻候補外フローかを分類する処理において、前記新規フローの優先度より高い優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補外フローとし、前記新規フローの優先度以下の優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補フローとすることを特徴とする。
【0015】
これにより、高い品質と信頼性が要求されるフローに高い優先度を付すことで、そのフローを特に切り戻しに伴う不安定な状況から守ることができる。
【0016】
本発明は、前記帯域管理サーバが、マルチキャストのフローごとの優先度を対応づける処理として、前記視聴要求の転送信号に含まれているフローの識別子とそのフローの優先度とを読み取り、フローごとの優先度を対応づけることを特徴とする。
【0017】
これにより、視聴者(ホスト)の側でフローの優先度を設定でき、とくに切り戻しを発生させたくないフローに対する安定したフロー配信処理を享受することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、共有セグメントに複数のマルチキャスト配信ルータが接続される構成において、クエリアの障害回復時におけるフローの切り戻し処理による配信断や重複配信を抑制しつつ、配信ルータのリソース競合による輻輳を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に関するマルチキャスト配信システムを示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に関する新規フローの割当(ケース1,2)を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に関する新規フローの割当(ケース3)を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に関する新規フローの割当(ケース4)を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に関する帯域管理サーバを示す構成図である。
【図6】本発明の一実施形態に関する配信ルータを示す構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に関する帯域管理サーバの新規フロー割当処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に関するマルチキャスト配信システムの配信制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、マルチキャスト配信システムを示す構成図である。このマルチキャスト配信システムは、例えば、地上デジタル放送のIP再送信サービスなどのような高品質で高信頼性を求められる通信システムへと適用される。
マルチキャストの配信フローは、配信サーバ1(S1,S2,…)から送信され、マルチキャスト配信網2、リンク3、配信ルータ4(R1,R2,R3,…)、共有セグメント5を経由し、ホスト6(H1,H2,H3,…)に配信される。
これらのマルチキャスト配信システムの各装置は、CPU(Central Processing Unit)とメモリとハードディスク(記憶手段)とネットワークインタフェースを有するコンピュータとして構成され、このコンピュータは、CPUが、メモリ上に読み込んだプログラムを実行することにより、各処理部を動作させる。
【0022】
共有セグメント5は、配信ルータ4とホスト6との間の信号を伝送するためのネットワークである。仮想パス(P1〜P3)は、各配信ルータ4と共有セグメント5とを接続するリンクごとの帯域を管理するためパスである。
制御管理網8は、配信ルータ4と帯域管理サーバ7間の信号を伝送するためのネットワークであり、1台の帯域管理サーバ7と、3台の配信ルータ4(R1,R2,R3)とを接続する。
【0023】
共有セグメント5上に流れる主な信号として、配信ルータ4から送信されるクエリと、ホスト6から送信されるレポートとがある。
制御管理網8上に流れる主な信号として、レポート(視聴要求、脱退要求)の内容を転送する各種の転送信号と、配信ルータ4間の配信フローの切り戻しを指示するための切戻指示とがある。
なお、これらの図1に例示した信号以外にも、ネットワーク上に流れる信号が存在する(後記する図8のフローチャートにて、明らかにする)。
【0024】
以下、図2〜図4を参照して、図1の配信ルータ4(R1)が通信に使用する仮想パスP1の容量や使用状況に応じた、切り戻しの4つのケースを説明する。
図2は、新規フローの割当(ケース1,2)を示す説明図である。
【0025】
図2(a)は、ケース1(自身の余剰帯域に余裕がある場合)を示す。
まず、図2(a)の左側に示すように、仮想パスP1の帯域上限の範囲内で、配信ルータ4(R1)が自ら配信担当となる分のフロー(図面では最下段のフロー)と、配信ルータ4(R2)が配信担当となる分のフローを配信代行している分(図面では下から2段目のフロー)と、配信ルータ4(R3)が配信担当となる分のフローを配信代行している分(図面では下から3段目のフロー)と、をそれぞれ配信ルータ4(R1)が配信している。
【0026】
その状況で、図2(a)の右側に示すように、新規フローの視聴要求を受けると、配信ルータ4(R1)は、以下の計算式により、仮想パスP1の余剰帯域を計算する。
(余剰帯域)=(帯域上限)−(仮想パスP1で配信している3つのフローの帯域分)
そして、(余剰帯域)≧(新規フローの使用帯域)であるときには、仮想パスP1で配信している3つのフローに対する切り戻し処理を行わずに、そのまま4つめのフローとして、新規フローの使用帯域を仮想パスP1に上乗せする(図2(a)の太線枠を参照)。これにより、ケース1では、切り戻し処理を発生させないので、既存の配信中フローに対して配信断や重複配信を発生させずに済む。
【0027】
図2(b)は、ケース2(自身の実質余剰帯域に余裕がない場合)を示す。
仮想パスP1で配信している3つのフローそれぞれについて、フローの優先度が設定されている。そして、配信ルータ4(R1)は、新規フローの視聴要求を受けると、その新規フローの優先度と、仮想パスP1内の既存のフローの優先度とを比較することにより、仮想パスP1内の既存のフローを、切戻候補フローか切戻候補外フローかのいずれかに分類する。
例えば、図2(b)では、自身の配信担当分のフローと、他の配信担当分のフローのうちの新規フローの優先度(低優先)より高い優先度を有するフローとを切戻候補外フローに分類する。
【0028】
そして、配信ルータ4(R1)は、以下の計算式により、実質余剰帯域を計算する。
(実質余剰帯域)=(余剰帯域)+(切戻候補フローの使用帯域)
図2(b)では、切戻候補フローが仮想パスP1には存在しないので、(実質余剰帯域)=(余剰帯域)である。
さらに、(実質余剰帯域)<(新規フローの使用帯域)であるときには、仮想パスP1で配信している全ての切戻候補フローを他の配信ルータ4へと切り戻しても、仮想パスP1の余剰帯域が不足するので、切戻候補フローを切り戻すことなく、新規フローの視聴要求を受付拒否する。これにより、ケース2では、切り戻し処理を発生させないので、既存の配信中フローに対して配信断や重複配信を発生させずに済む。また、既存の配信中フローと新規のフローとのリソース競合を発生させないため、既存の配信中フローの品質を維持できる。
【0029】
図3は、ケース3(自身の実質余剰帯域と他ルータに余裕がある場合)を示す。図2(b)との違いは、新規フローの優先度が高くなっている(低優先から中優先へ)ことである。
よって、(切戻候補フロー)=(R2の配信担当分のフロー)であり、(切戻候補外フロー)=(R3の配信担当分のフロー)+(R1の配信担当分)である。
さらに、(余剰帯域)<(新規フローの使用帯域)であり、かつ、(実質余剰帯域)≧(新規フローの使用帯域)であるので、仮想パスP1内の既存のフローを切り戻ししないで仮想パスP1へ新規フローを割り当てると溢れるが、既存のフローを切り戻して仮想パスP1の余剰帯域を増やすことにより、新規フローを割り当てることができる。
【0030】
そのとき、配信ルータ4(R1)は、切戻候補フロー(R2の配信担当分のフロー)を切り戻し可能か否かを、切戻先である配信ルータ4(R2)の仮想パスP2の余剰帯域に切戻候補フロー分の余裕があるか否かで、判定する。ケース3では、(仮想パスP2の余剰帯域)≧(切戻候補フロー分の使用帯域)であるので、切戻候補フローを切り戻し可能である。
そして、配信ルータ4(R1)は、切戻候補フロー(R2の配信担当分のフロー)を仮想パスP2に切り戻したことにより、仮想パスP1の余剰帯域を実質余剰帯域の分まで増加させた後、新規フローを仮想パスP1へと割り当てる。これにより、ケース3では、切り戻し処理を最小限(切戻候補フローだけ)で済ますために、フローの切り戻し処理による配信断や重複配信の影響範囲を抑制しつつ、配信リソースの競合による輻輳を回避することができる。
【0031】
図4は、ケース4(他ルータに余裕がない場合)を示す。図3との違いは、仮想パスP2の余剰帯域に余裕がないことである。図3と同様に、既存のフローを切り戻して仮想パスP1の余剰帯域を増やすことにより、新規フローを割り当てることができる状況であるが、既存のフローを切り戻し先(仮想パスP2)が混雑しているために、切り戻しができない。
この場合、配信ルータ4(R1)は、ケース2と同様に、切戻候補フローを切り戻すことなく、新規フローの視聴要求を受付拒否する。これにより、ケース4では、切り戻し処理を発生させないので、配信断や重複配信を発生させずに済む。また、既存の配信中フローと新規のフローとのリソース競合を発生させないため、既存の配信中フローの品質を維持できる。
【0032】
図5は、帯域管理サーバ7を示す構成図である。帯域管理サーバ7は、単体のサーバとして構成してもよいし、他装置(配信ルータ4など)に帯域管理サーバ7の各構成要素を内蔵(併合)してもよい。
帯域管理サーバ7は、制御管理網8(図1参照)と接続する制御管理網接続インタフェース71と、制御管理網8とフレーム送受信を行う制御管理網フレーム転送部72と、配信系リソースの管理と切戻し制御の管理を行う帯域管理回路73とから構成される。
制御管理網接続インタフェース71は、一般的な物理レイヤを司り、イーサネットの場合はPHY機能部に相当する。送信用の送信IF部711と、受信用の受信IF部712がある。
制御管理網フレーム転送部72は、一般的なデータリンク層を司り、イーサネットの場合は、MAC機能部に相当する。送信用のフレーム送信部721と、受信用のフレーム受信部722がある。
【0033】
帯域管理回路73は、帯域管理サーバ7の中枢部であり、制御管理網8を介して収容する全ての配信ルータ4の配信リソースを管理する。帯域管理回路73は、ルータ連携部731と、フロー転送テーブル732と、フロー帯域管理テーブル733と、フロー優先度管理テーブル734と、仮想パス帯域管理テーブル735と、仮想パス計算部736と、フロー受付判定部737と、切戻し制御部738とを有する。
【0034】
ルータ連携部731は、帯域管理回路73の各処理部を代理し、配信ルータ4と配信状態や視聴要求、切戻制御用の各信号(切戻指示、切戻応答)を交換し合う。
仮想パス計算部736は、フロー転送テーブル732と、フロー帯域管理テーブル733と、フロー優先度管理テーブル734とから取得した情報をもとに仮想パスの現在の利用帯域を計算し、仮想パス帯域管理テーブル735とフロー受付判定部737に渡す。
【0035】
フロー受付判定部737は、ルータ連携部731から取得するフローごとの配信制御の要求(視聴要求転送信号/脱退要求転送信号)と、仮想パス計算部736から取得する仮想パスの上限帯域および利用帯域を比較照合し、視聴要求のリソースを確保/開放可能であるかを判定し、ルータ連携部731に結果(視聴応答/脱退応答)を通知する。なお、仮想パスの上限帯域と仮想パスの利用帯域との具体的な説明は、後記する仮想パス帯域管理テーブル735(表3)にて、明らかにする。
また、フロー受付判定部737は、空きリソースの確保が必要となる際は、切戻対象フローを選定し、切戻し制御部738に切戻対象フロー(フローID、切り戻し元のルータID、切り戻し先のルータID)を通知する。
切戻し制御部738は、フロー判定部737からの指示を受けて、ルータ連携部731を介し、関連する配信ルータ4に切戻対象フローの切戻しを指示する。また、ルータ連携部731を介し、切戻しに関連する配信ルータ4から制御状態(完了/失敗)を受信し、フロー受付判定部737に結果を返す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1は、フロー転送テーブル732を示す。
フロー転送テーブル732は、ルータ連携部731から取得する起動時におけるフローごとのフローID(S,G)と、そのフローの配信状態(配信中/停止中)と、各状況における配信担当や配信代行を示す列(正常時、二重障害時、障害復旧後)とを対応づけて構成される。
なお、フロー転送テーブル732の各パラメータは、以下の計算式により計算される。
n=共有セグメント5内の正常な(障害発生していない)配信ルータ4の台数
f=S+G
g=mod[f,n]
R=g(g≠0)またはn(g=0)
【0038】
フロー転送テーブル732は、初期生成された後、全ての配信ルータ4から取得したフロー転送テーブル439(図6で後記)の情報が新規にエントリ登録される。そして、フロー転送テーブル732は、ルータ連携部731から取得する配信制御要求(視聴要求転送信号/脱退要求転送信号)が受付可能となった場合は、自テーブル内の登録情報を更新する。
フロー転送テーブル732は、仮想パス計算部736からの閲覧要求に従って、自身のデータを仮想パス計算部736に提供する。なお、図2(a)などで説明した自身の配信担当分か他の配信担当分かを判定するときには、フロー転送テーブル732の「障害復旧後」列の「切戻後」の値(ルータID)と、「現在」の値(ルータID)とが一致するフローを、自身の配信担当分とし、不一致のフローを、他の配信担当分とする。
【0039】
【表2】

【0040】
表2は、フロー帯域管理テーブル733およびフロー優先度管理テーブル734を示す。
フロー帯域管理テーブル733は、フローIDごとに、そのフローが使用する帯域を必要帯域として対応づける。
フロー優先度管理テーブル734は、フローIDごとに、そのフローに割り当てられている切り戻しの優先度(FEC:Forwarding Equivalence Class)を対応づける。
表2の両テーブルは、初期生成されると、フロー転送テーブル732から取得したフローIDのリストを、それぞれ両テーブルのレコードの左列にコピーする。そして、両テーブルのレコードの右列は、帯域管理サーバ7の管理者などにより設定される。
【0041】
【表3】

【0042】
表3は、仮想パス帯域管理テーブル735を示す。仮想パス帯域管理テーブル735は、各仮想パスに割り当てられている帯域に関する集計情報を保持する。
例えば、表3の1〜3行目には、仮想パスP1に割り当てられているフローを優先度ごとに集計した配信中帯域(30,30,35)と、仮想パスP1の優先度ごとの帯域上限(30,30,40)とが対応づけられている。なお、優先度ごとに集計した配信中帯域とは、仮想パスP1に割り当てられている各フローについて、フロー優先度管理テーブル734を参照して各フローの優先度を特定した後、その優先度が同一であるフロー群をグルーピングし、そのグルーピングしたフローの使用帯域の総和である。
同様に、表3の4行目には、仮想パスP1に割り当てられている全フローを集計した配信中帯域(95)と、仮想パスP1の帯域上限(100)とが対応づけられている。
これらの帯域に関する集計情報は、仮想パス計算部736によって計算され、要求がある際には仮想パス計算部736に登録情報を渡される。
なお、仮想パス帯域管理テーブル735内には、集計した帯域の数値だけを格納してもよいし、その帯域の数値を構成する各フロー成分を帯域の数値と併せて格納してもよい。
【0043】
図6は、配信ルータ4を示す構成図である。配信ルータ4は、マルチキャスト配信網2と接続するMC配信網接続インタフェース41と、マルチキャスト配信網2とフレーム送受信を行うMC配信網フレーム転送部42と、フロー配信制御を司る転送制御回路43と、共有セグメント5とフレーム送受信を行う共有セグメントフレーム転送部44と、共有セグメント5と接続する共有セグメント接続インタフェース45と、制御管理網8とフレーム送受信を行う制御管理網フレーム転送部46と、制御管理網8と接続する制御管理網接続インタフェース47と、から構成される。
【0044】
MC配信網接続インタフェース41と共有セグメント接続インタフェース45、制御管理網接続インタフェース47は、一般的な物理レイヤを司り、イーサネットの場合、PHY機能部に相当する。送信用の送信IF部412、451、472と、受信用の受信IF部411、452、471とがある。
MC配信網フレーム転送部42と共有セグメントフレーム転送部44、制御管理網フレーム転送部46は、一般的なデータリンク層を司り、イーサネットの場合、MAC機能部に相当する。送信用のフレーム送信部422、441、462と、受信用のフレーム受信部421、442、461とがある。
【0045】
転送制御回路43は、IPマルチキャストの制御を行うための制御部である。転送制御回路43は、配信管理部431と、MC配信網連携部432と、ルータ管理部433と、ルータ状態検出部434と、ルータ管理テーブル435と、帯域管理サーバ連携部436と、切戻し制御部437と、フロー判定部438と、フロー転送テーブル439と、配信フィルタ部440とを有する。
【0046】
配信管理部431は、従来のIGMP/MLDプロトコルの制御を行う。
MC配信網連携部432は、上位網における配信制御を行う。例えば、従来のPIM(Protocol Independent Multicast)−SSMなどのマルチキャストルーティングプロトコルに相当する。
ルータ管理部433は、共有セグメント5に接続されるルータを検出する。例えば、既存MLDv2におけるクエリア選択メカニズム(他のルータからのGQ受信による送信元IPアドレスの検出)などが挙げられる。検出したルータ情報はルータ管理テーブル435に書き込む。また、要求があれば、ルータ管理テーブル435から登録情報を読み出してフロー判定部438に渡す。さらに、ルータ状態検出部434から特定ルータの障害通知を受けた場合は、ルータ管理テーブル435の登録情報を更新する。
【0047】
ルータ状態検出部434は、ルータの状態(正常/障害/復旧)を検出する。例えば、既存MLDv2におけるクエリア選択メカニズム(OQPT超過タイムアウトによるクエリアの障害判定、旧クエリアからのGQ(全ルータの中で最小となる送信元IPアドレス)再受信による復旧判定)などが挙げられる。障害からの復旧を検出した場合は、ルータ管理部433へ通知する。
帯域管理サーバ連携部436は、配信ルータ4を代表して、帯域管理サーバ7と制御信号(視聴要求転送信号/脱退要求転送信号、視聴応答/脱退応答、切戻指示/切戻応答)を交換し合う。
【0048】
切戻し制御部437は、フロー判定部438からの指示により、他ルータと切戻し制御信号を交換し合い、特定フロー(群)単位の切戻し制御を行う。切戻指示には、切戻対象フローのIDや切戻しに関連するルータ(IPアドレス)、制御状態(指示、完了)などの情報が含まれており、これらの情報を基に切戻し元と切戻し先のルータが連携して制御を行う。また、切戻し制御の結果(正常完了、異常終了など)は、フロー判定部438に対して返却する。
【0049】
フロー判定部438は、配信フィルタ部440に設定するフィルタを制御する。配信管理部431やルータ管理部433、フロー転送テーブル439を読出し、フロー単位に自ルータの配信制御ポリシ(フローの透過/廃棄)を導出し、フロー転送テーブル439にエントリ(フローIDとその配信状態)を登録/削除/更新を行う。
フロー転送テーブル439は、フロー判定部438から取得した情報が保持されており、要求があればフロー判定部438へ登録情報を渡す。
配信フィルタ部440は、マルチキャスト配信網2から配信されるマルチキャストフローを共有セグメント5に透過転送するか転送廃棄するかを制御するパケットフィルタリング手段を有する。
【0050】
【表4】

【0051】
表4は、ルータ管理テーブル435を示す。ルータ管理テーブル435は、最左列が示すルータIDごとに、そのルータが接続される共有セグメント5の各状態(障害ルータが存在しない「正常」状態、1台の障害ルータが存在する「単一障害」状態、2台の障害ルータが存在する「二重障害」状態)における、最左列が示すルータIDのクエリア順位を示す。これにより、特定ルータの障害が発生した系を想定して、障害時における配信ルータ4の割当ても予め決定しておくことで、フロー(群)単位に現在の配信ルータ4と切戻し先の配信ルータ4が事前に把握できる。
【0052】
なお、クエリア順位とは、共有セグメント5の正常なルータ間においてIPアドレスが小さい順に割り当てられる順位である。既存IGMPv3/MLDv2におけるクエリア選択メカニズムにおいては、クエリア順位が最小である(1位である)配信ルータ4が、全てのフローに対する配信担当(クエリア)として選別される。
一方、表1で説明したように、フローIDごとに、クエリア順位そのものではなく、クエリア順位とフローIDから計算されるハッシュ値(表1のf列の値)とをもとに、障害復旧後列の配信制御ルータを決定してもよい。
【0053】
図7は、帯域管理サーバの新規フロー割当処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、視聴要求転送信号を受信したことを契機に、帯域管理サーバ7によって実行される(後記する図8のS103も参照)。以下、視聴要求転送信号の転送元である視聴要求で指定される新規に視聴を要求するフローを、新規フローとし、自身の配信ルータ4を「R1」として、説明する。
【0054】
S11として、図2で説明したように、各帯域量の集計処理(余剰帯域、実質余剰帯域)を実行する。具体的には、帯域管理サーバ7は、仮想パス帯域管理テーブル735を参照して、視聴要求転送信号の送信元IPアドレスに対応する仮想パスP1を確認し、その仮想パスP1の帯域の利用状況(優先度ごと、または、全優先度共通)を計算する。
ここで、フロー転送テーブル732の「障害復旧後」列を参照することで、切戻候補フローか切戻候補外フローかの分類が可能である。例えば、仮想パスP1の切戻候補フローは、以下の通りである。
仮想パスP1の配信担当分フロー(S,G)=(現在列=1&切戻後=1)のフロー=(1,3)、(2,11)、(3,100)
仮想パスP2の配信担当分フロー(S,G)=(現在列=1&切戻後=2)のフロー=(1,1)、(1,4)、(2,12)
仮想パスP3の配信担当分フロー(S,G)=(現在列=1&切戻後=3)のフロー=(1,2)、(2,10)
【0055】
S12として、図2(a)で説明したように、自身の余剰帯域があるか否かを判定する。S12でYesなら、S13として、図2(a)でケース1として説明したように、新規フローを自身の仮想パスP1に割り当てる。具体的には、以下のように各テーブルを更新する。
・フロー転送テーブル732に対して、新規フローのレコードを追加する。そのレコードの配信状態を「配信中」とする。
・フロー帯域管理テーブル733およびフロー優先度管理テーブル734に対して、新規フローのレコードを追加する。
・仮想パス帯域管理テーブル735の仮想パスP1のレコードに対して、配信中帯域列の値に新規フローの使用帯域分を加算(積上げ)する。
【0056】
S12でNoなら、S14として、図2(b)で説明したように、自身の実質余剰帯域があるか否かを判定する。S14でNoなら、図2(b)でケース2として説明したように、新規フローを受付拒否する(S15)。
【0057】
S14でYesなら、図3のケース3、または、図4のケース4に該当する。よって、S21として、S11で分類したフロー転送テーブル732内の切戻候補フロー(フローの集合)から、1つの切戻対象フローを選択する。なお、このS21は繰り返し実行されるので、前回以前に未選択の切戻候補フローから、今回の切戻対象フローを選択する。ここで、未選択の切戻候補フローのうちの優先度が低いフローほど、先に選択されることとしてもよい。
もし、S21で切戻対象フローが存在しない(選択する候補が切戻候補フローには存在しない)ときには(S22,No)、図4のケース4に該当するように、新規フローを受付拒否する(S23)。
【0058】
切戻対象フローが存在する(S22でYes)なら、その切戻対象フローの切り戻し先の他ルータの帯域に余裕があるか否かを、仮想パス帯域管理テーブル735を参照することで判定する(S24)。なお、S24の判定処理として、切戻対象フローの切り戻し先の他ルータの台数は、1台としてもよいし、複数台としてもよい。切り戻し先が複数台存在するときには、そのうちの少なくとも1台の帯域に余裕があるときに、S24でYesとなる。一方、S24でNoなら、別の切戻対象フローを選択するため、S21に戻る。
【0059】
S24でYesなら、S21で選択した切戻対象フローを切り戻し先の他ルータに切り戻すことで、自身の余剰帯域を増加させる(図3のケース3)。そして、処理をS11へ戻す。この切り戻し処理に伴い、以下のように各テーブルを更新する。
・フロー転送テーブル732の切戻対象フローのレコードについて、障害復旧後の「現在」列を、切り戻し先の他ルータとして更新する。
・仮想パス帯域管理テーブル735の配信中帯域について、切り戻し元の自ルータの仮想パスP1の配信中帯域から切戻対象フロー分を減算し、切り戻し先の他ルータの仮想パスP2の配信中帯域に切戻対象フロー分を加算する。
【0060】
図8は、マルチキャスト配信システムの配信制御を示すフローチャートである。この図8の処理を開始する前として、配信ルータ4(R1)だけが正常で、配信ルータ4(R2)と配信ルータ4(R3)が配信障害となっていた状態から、配信ルータ4(R2)と配信ルータ4(R3)の障害が回復した状態へと遷移した後を想定する。
【0061】
S100として、帯域管理サーバ7は、配信が想定される全てのフローに関するレコードを、あらかじめ帯域管理サーバ7内の各テーブル(フロー転送テーブル732、フロー帯域管理テーブル733、フロー優先度管理テーブル734、仮想パス帯域管理テーブル735)に設定する。
各テーブルの設定は、一般的な外部インタフェースを用いたOSS(Operations Support System)などの通信サービス提供に関わる設備・運用をサポートするシステムによる設定も可能である。
【0062】
S101として、ホスト6から新規フローに対する視聴要求(Join)が送信される。共有セグメント5を介して全ての配信ルータ4(R1〜R3)がその視聴要求を受信し、フロー転送テーブル439を参照することで、フローIDから自ルータが配信すべきかを判定する。その結果、新規フローの配信候補は、配信ルータ4(R1)となり、配信ルータ4(R2)および配信ルータ4(R3)は、配信候補から外れる。
S102として、新規フローを配信すべき配信ルータ4(R1)は、新規フローの配信状態が「停止中」であるときに、帯域管理サーバ7に対して、視聴要求転送信号(Join-Relay)により配信許可を問い合わせる。
【0063】
S103として、帯域管理サーバ7は、図7のフローチャートを実行することで、新規フローの配信候補である配信ルータ4(R1)に対応する仮想パスP1の配信帯域を計算し、新規フローの配信帯域が確保できるかを判定する。この図8の説明では、ケース3であるときを例示する。図7のS25で配信ルータ4(R2)への切り戻しが可能である切戻対象フローを選択する。
【0064】
S104として、S103で選択された切戻対象フローごとに関連するルータ群(図の例では、配信ルータ4(R1)が切戻し元と配信ルータ4(R2)が切戻し先)へ切戻指示を送信する。
S105として、切戻指示を受信したルータ群は、切戻しフローの情報(フローIDなど)や制御の状態(配信停止/配信開始など)を相互に交換し合いつつ、連携して切り戻し制御(切戻し元配信ルータ4(R1)における切戻対象フローの配信停止と、切戻し先配信ルータ4(R2)における切戻対象フローの配信開始)を実行する。
S106として、切戻しに関連するルータ群は、切戻し制御が完了した場合、帯域管理サーバ7に対して、制御の結果(正常終了/異常終了など)を示す切戻応答を返却する。
【0065】
S107として、帯域管理サーバ7は、切戻しに関連するルータ群から切戻応答を受信した場合、切戻し完了後の仮想パスP1に対する積み上げ帯域を再計算し、新規フローの配信帯域を確保可能である場合(図7のS12でYes)、視聴要求転送信号の送信元ルータ(R1)に対し、新規フローに対する視聴要求を許可する視聴応答(Join-OK)を返却する。
S108として、視聴応答を受信した配信ルータ4(R1)は、既存のIGMP/MLDプロトコルなどの処理に従い、新規フローに対するマルチキャスト配信を開始する。
【0066】
S121として、配信ルータ4(R1)は、脱退要求(Leave)をホスト6から受信すると、以下の3条件を全て満たすとき、S122として、脱退要求転送信号(Leave-Relay)を帯域管理サーバ7に送信する。
・条件「脱退対象フローが自ルータの配信フローである」
・条件「脱退対象フローが既に配信中である」
・条件「共有セグメント内に他に受信中のホスト6が存在しない」
【0067】
S123として、帯域管理サーバ7は、脱退対象フローの脱退処理を行う。具体的には、脱退要求転送信号を受信すると、フロー転送テーブル732を参照し、脱退対象フローを配信しているルータインタフェースと仮想パスを確認すると、その確認したルータのIPアドレスと脱退要求転送信号の受信元IPアドレスとが一致するかを確認する。
正常処理(一致する場合)として、仮想パス帯域管理テーブル735の脱退対象フローに対応する仮想パスの帯域分を積下げ、受信した脱退要求転送信号の送信元ルータに脱退応答(Leave-OK)を返信し(S124)、フロー転送テーブル732において、脱退対象フローのエントリを脱退状態に設定/削除する。
異常処理(一致しない場合)として、受信した脱退要求転送信号の送信元ルータを含む全ルータに対し、フローの配信状態を確認して、脱退対象フローを含む何れかの配信フローに重複配信が生じているときには、その旨を送信元ルータにエラーとして通知する。
【0068】
以上、図8について説明した。なお、S100として、帯域管理サーバ7は、S102の視聴要求転送信号内で指定される各フローの属性情報(優先度や配信帯域)を取得し、フロー帯域管理テーブル733やフロー優先度管理テーブル734に設定してもよい。
【0069】
例えば、各フローの属性情報(優先度や配信帯域)と、その属性情報に対応する手がかり情報とをあらかじめ配信ルータ4やホスト6や帯域管理サーバ7で対応づけておき、新規フローの手がかり情報を参照して、対応する属性情報(優先度や配信帯域)を取得し、その取得した属性情報をフローIDと対応づけて脱退要求転送信号に付加する。
【0070】
新規フローの手がかり情報とは、例えば、以下のフローである。
・QoSパラメータ(IPのTOS値(DSCP値)、イーサネットのCOS値など)として所定値が設定されている新規フロー
・(S,G)アドレスもしくは(S,G)アドレス群として所定値が設定されている新規フロー
・GアドレスもしくはGアドレス群として所定値が設定されている新規フロー
・SアドレスもしくはSアドレス群として所定値が設定されている新規フロー
・視聴者(ホスト6)の数が所定値より少ない新規フロー
・配信状態が「停止中」である新規フロー
【0071】
新規フローの手がかり情報をもとに、各フローの属性情報(優先度や配信帯域)を設定する処理は、例えば、以下の装置によって行われる。
・ホスト6が、手がかり情報をもとに属性情報を特定し、その属性情報を視聴要求に付加する。配信ルータ4は、受信した視聴要求に付加された属性情報をそのまま視聴要求転送信号に付加する。
・配信ルータ4が、属性情報が付加されていない視聴要求を受信すると、手がかり情報をもとに属性情報を特定する。そして、配信ルータ4は、自身が特定した属性情報を視聴要求転送信号に付加する。
・帯域管理サーバ7は、属性情報が付加されていない視聴要求転送信号を配信ルータ4から受信すると、手がかり情報をもとに属性情報を特定する。
【0072】
以上説明した本実施形態では、配信ルータ4がマルチキャストの配信制御を行うにあたり、共有セグメント5に複数の配信ルータ4が冗長接続されるマルチキャスト配信システムを提供する。そして、配信ルータ4の障害回復後に、その配信ルータ4が配信するフローを他ルータから切り戻しするときに、切り戻しするフローを帯域管理サーバ7が管理する。
帯域管理サーバ7は、複数の配信ルータ4それぞれのフローの配信能力(余剰帯域)を仮想パスとして管理し、図2〜図4のように、仮想パスを溢れさせることなく、かつ、切り戻しを実施するパスの本数を最小化するように、切戻対象フローを選択する。
【0073】
これにより、切戻候補外フローとして、高い品質と信頼性が要求されるフローは切戻しを行わないことで、配信系全体としての配信容量を需要に応じて確保しつつ、高品質かつ高信頼フローの切戻しに伴う配信断や重複配信を回避できる。例えば、フローを代行配信しているパスの配信帯域およびノードの配信容量(配信データのコピー性能およびバッファ量の上限、装置の転送容量など)に余剰がある場合、元の配信ルータ4が復旧しても必ずしもすぐには切り戻す必要はない。
【0074】
さらに、切戻対象フローか切戻候補外フローかの分類において、フローごとの優先度を用いることにより、ネットワークの運用において、フローを選択したきめ細かい制御(例えば、管理者によるトラヒックの制御ポリシやサービス要求によるフローの品質および信頼のレベルに応じた制御)を行うことで、帯域設計の観点から管理者がネットワーク内の各パスを流れるトラヒック量を制御できる。
【符号の説明】
【0075】
1 配信サーバ
2 マルチキャスト配信網
3 リンク
4 配信ルータ
5 共有セグメント
6 ホスト
7 帯域管理サーバ
8 制御管理網
41 MC配信網接続インタフェース
42 MC配信網フレーム転送部
43 転送制御回路
44 共有セグメントフレーム転送部
45 共有セグメント接続インタフェース
46 制御管理網フレーム転送部
47 制御管理網接続インタフェース
71 制御管理網接続インタフェース
72 制御管理網フレーム転送部
73 帯域管理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホストにマルチキャストのフローを配信する配信ルータと、その配信ルータがフローの配信に使用する帯域を管理する帯域管理サーバとを有するマルチキャスト配信システムであって、
複数台の前記配信ルータと1台以上の前記ホストとが共有セグメントに接続され、その共有セグメントに送信されるパケットは、前記共有セグメントに接続される前記配信ルータおよび前記ホストがそれぞれ受信可能であり、
前記帯域管理サーバは、
新規フローの視聴要求を前記ホストから受信した前記配信ルータである第1ルータから、その視聴要求の転送信号を受信すると、
前記帯域管理サーバ内の記憶手段から、前記第1ルータが既に配信している既存フローごとの使用帯域と、前記第1ルータの帯域上限とを読み取り、前記帯域上限から前記既存フローの使用帯域の総和を減じた結果である余剰帯域を求め、
前記既存フローごとに、その既存フローを他の前記配信ルータに切り戻す候補である切戻候補フローか、他の前記配信ルータに切り戻す候補でない切戻候補外フローかのいずれかに分類し、前記余剰帯域に前記切戻候補フローの使用帯域を加算した結果である実質余剰帯域を求め、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域以下のときには、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域より大きく、かつ、前記実質余剰帯域以下のときには、前記切戻候補フローを前記第1ルータから前記第1ルータとは別の前記配信ルータである第2ルータへと切り戻すように前記第1ルータに指示した後、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記実質余剰帯域より大きいときには、前記第1ルータに対して、前記新規フローの前記視聴要求を拒否する旨を通知することを特徴とする
マルチキャスト配信システム。
【請求項2】
前記帯域管理サーバ内の記憶手段には、前記既存フローごとに、その既存フローを切り戻すか否かを選択するための優先度が対応づけられており、
前記既存フローごとに前記切戻候補フローか前記切戻候補外フローかを分類する処理において、前記新規フローの優先度より高い優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補外フローとし、前記新規フローの優先度以下の優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補フローとすることを特徴とする
請求項1に記載のマルチキャスト配信システム。
【請求項3】
前記帯域管理サーバは、マルチキャストのフローごとの優先度を対応づける処理として、前記視聴要求の転送信号に含まれているフローの識別子とそのフローの優先度とを読み取り、フローごとの優先度を対応づけることを特徴とする
請求項2に記載のマルチキャスト配信システム。
【請求項4】
ホストにマルチキャストのフローを配信する配信ルータと、その配信ルータがフローの配信に使用する帯域を管理する帯域管理サーバとを有するマルチキャスト配信システムに用いられる帯域管理サーバであって、
複数台の前記配信ルータと1台以上の前記ホストとが共有セグメントに接続され、その共有セグメントに送信されるパケットは、前記共有セグメントに接続される前記配信ルータおよび前記ホストがそれぞれ受信可能であり、
前記帯域管理サーバは、
新規フローの視聴要求を前記ホストから受信した前記配信ルータである第1ルータから、その視聴要求の転送信号を受信すると、
前記帯域管理サーバ内の記憶手段から、前記第1ルータが既に配信している既存フローごとの使用帯域と、前記第1ルータの帯域上限とを読み取り、前記帯域上限から前記既存フローの使用帯域の総和を減じた結果である余剰帯域を求め、
前記既存フローごとに、その既存フローを他の前記配信ルータに切り戻す候補である切戻候補フローか、他の前記配信ルータに切り戻す候補でない切戻候補外フローかのいずれかに分類し、前記余剰帯域に前記切戻候補フローの使用帯域を加算した結果である実質余剰帯域を求め、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域以下のときには、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域より大きく、かつ、前記実質余剰帯域以下のときには、前記切戻候補フローを前記第1ルータから前記第1ルータとは別の前記配信ルータである第2ルータへと切り戻すように前記第1ルータに指示した後、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記実質余剰帯域より大きいときには、前記第1ルータに対して、前記新規フローの前記視聴要求を拒否する旨を通知することを特徴とする
帯域管理サーバ。
【請求項5】
前記帯域管理サーバ内の記憶手段には、前記既存フローごとに、その既存フローを切り戻すか否かを選択するための優先度が対応づけられており、
前記既存フローごとに前記切戻候補フローか前記切戻候補外フローかを分類する処理において、前記新規フローの優先度より高い優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補外フローとし、前記新規フローの優先度以下の優先度が対応付けられた前記既存フローを前記切戻候補フローとすることを特徴とする
請求項4に記載の帯域管理サーバ。
【請求項6】
前記帯域管理サーバは、マルチキャストのフローごとの優先度を対応づける処理として、前記視聴要求の転送信号に含まれているフローの識別子とそのフローの優先度とを読み取り、フローごとの優先度を対応づけることを特徴とする
請求項5に記載の帯域管理サーバ。
【請求項7】
ホストにマルチキャストのフローを配信する配信ルータと、その配信ルータがフローの配信に使用する帯域を管理する帯域管理サーバとを有するマルチキャスト配信システムが実行するマルチキャスト配信方法であって、
複数台の前記配信ルータと1台以上の前記ホストとが共有セグメントに接続され、その共有セグメントに送信されるパケットは、前記共有セグメントに接続される前記配信ルータおよび前記ホストがそれぞれ受信可能であり、
前記帯域管理サーバは、
新規フローの視聴要求を前記ホストから受信した前記配信ルータである第1ルータから、その視聴要求の転送信号を受信すると、
前記帯域管理サーバ内の記憶手段から、前記第1ルータが既に配信している既存フローごとの使用帯域と、前記第1ルータの帯域上限とを読み取り、前記帯域上限から前記既存フローの使用帯域の総和を減じた結果である余剰帯域を求め、
前記既存フローごとに、その既存フローを他の前記配信ルータに切り戻す候補である切戻候補フローか、他の前記配信ルータに切り戻す候補でない切戻候補外フローかのいずれかに分類し、前記余剰帯域に前記切戻候補フローの使用帯域を加算した結果である実質余剰帯域を求め、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域以下のときには、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記余剰帯域より大きく、かつ、前記実質余剰帯域以下のときには、前記切戻候補フローを前記第1ルータから前記第1ルータとは別の前記配信ルータである第2ルータへと切り戻すように前記第1ルータに指示した後、前記新規フローの前記視聴要求に従って、前記第1ルータに前記新規フローを割り当て、
前記新規フローの使用帯域が前記実質余剰帯域より大きいときには、前記第1ルータに対して、前記新規フローの前記視聴要求を拒否する旨を通知することを特徴とする
マルチキャスト配信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−253549(P2012−253549A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124294(P2011−124294)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】