マルチビーム露光走査方法及び装置並びに印刷版の製造方法
【課題】マルチビーム露光に伴う隣接ビームの熱の影響を効果的に低減し、微細形状など所望の形状を高精度に形成する。
【解決手段】出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程とを含むマルチビーム露光走査方法によって上記課題を解決する。
【解決手段】出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程とを含むマルチビーム露光走査方法によって上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチビーム露光走査方法及び装置並びに印刷版の製造方法に係り、特にフレキソ版などの印刷版の製造に好適なマルチビーム露光技術及びこれを適用した印刷版の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のレーザビームを同時に照射し得るマルチビームヘッドを用いて版材の表面に凹形状を彫刻する技術が開示されている(特許文献1)。このようなマルチビーム露光によって版を彫刻する場合、隣接ビームの熱の影響により、小点や細線などの微細形状を安定に形成することは大変困難である。
【0003】
かかる課題に対して、特許文献1では、版材の表面に形成されるビームスポット列における隣接ビームスポット間での相互の熱的影響を軽減するために、いわゆるインターレース露光を行う構成を提案している。即ち、特許文献1では、彫刻密度に対応する彫刻ピッチの2倍以上の間隔で版材表面に複数のレーザスポットを形成し、1回の露光走査で形成する走査線の間隔をあけ、各走査線間の走査線を2回目以降の走査で露光する方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−85927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、隣接ビームの影響を完全に低減するには、版材の面上でビーム位置の間隔をビーム径よりも十分に離す必要があり、実際には数画素(数ライン)分の走査線間隔をあける必要がある。そのため、結像光学系に用いるレンズの収差が問題となり、彫刻ピッチ間隔でヘッドを移動させて正確な走査線間隔のビーム列を形成するためには、光学系が複雑化するなど、実用上制限が多い。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、マルチビーム露光に伴う隣接ビームの熱の影響を効果的に低減し、微細形状など所望の形状を高精度に形成し得るマルチビーム露光走査方法及び装置並びにこれを適用した印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法は、出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出するようにしたので、熱の影響を低減して所望の形状を高精度に形成することができる。
【0009】
請求項2に示すように請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出する工程を備えたことを特徴とする。
【0010】
これにより、第2の領域については彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0011】
請求項3に示すように請求項1又は2に記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第1の領域は、前記彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域の周囲領域であることを特徴とする。
【0012】
これにより、目的の平面形状の周囲領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻を行うことができる。
【0013】
請求項4に示すように請求項1から3のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第2の領域は、前記第1の領域の周囲領域であることを特徴とする。
【0014】
これにより、精密に彫刻する必要の無い第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0015】
前記目的を達成するために請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドと、前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記記録媒体を少なくともN回主走査させる毎に1回副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0017】
請求項6に示すように請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記走査制御手段は、前記記録媒体を(N+1)回主走査させる毎に1回副走査させ、前記露光制御手段は、1回目の主走査において、前記第1の領域に対してはビームの射出は行わず、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させることを特徴とする。
【0018】
これにより、目的の平面形状の周囲領域への熱の影響を低減させることができる。
【0019】
前記目的を達成するために請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記記録媒体を1回主走査させる毎に1主走査ライン分だけ副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0021】
請求項8に示すように請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、N回の主走査後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする。
【0022】
これにより、版材の全面を効率よく彫刻することができる。
【0023】
前記目的を達成するために請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、前記記録媒体を外面又は内面に保持した円筒状のドラムと、前記露光手段又は前記ドラムを回転させることで、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記露光手段又は前記ドラムをN回転させる間にN主走査ライン分だけ一定速度で副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0025】
また、第1の領域に対しては使用しない出射口列があるため、ビームの射出に不具合がある出射口が存在する場合であっても、その出射口の存在しない出射口列を用いて第1の領域に対してビームを射出すればよく、生産性を落とさずに彫刻を行うことができる。
【0026】
請求項10に示すように請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、ドラムのN回転後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする。
【0027】
これにより、スパイラル露光と間欠送りを組み合わせて版材の全面を効率よく彫刻することができる。
【0028】
請求項11に示すように請求項5から10に記載のマルチビーム露光走査装置において、ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、前記出力制御手段は、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさを、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさよりも大きくすることを特徴とする。
【0029】
これにより、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの彫刻深さ、幅と、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの彫刻深さ、幅とを、均一にすることができ、それぞれの領域の連続性を保つことができる。
【0030】
請求項12に示すように請求項5から11に記載のマルチビーム露光走査装置において、第2露光走査制御手段は、前記第2の領域のうち前記第1の領域に近い領域ほど出射口から照射するビームの出力が小さくなるように制御することを特徴とする。
【0031】
これにより、第2の領域を適切に彫刻することができる。
【0032】
前記目的を達成するために請求項13に記載の印刷版の製造方法において、請求項1から4のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法によって、前記記録媒体に相当する版材の表面を彫刻することによって印刷版を得ることを特徴とする。
【0033】
請求項13に記載の発明によれば、熱の影響を低減した精密彫刻と彫刻効率を向上させた粗彫刻とを行った印刷版を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、マルチビーム露光に伴う隣接ビームの熱の影響を効果的に低減し、微細形状など所望の形状を高精度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置の構成図
【図2】露光ヘッド内に配置される光ファイバーアレイ部の構成図
【図3】光ファイバーアレイ部の光出射部の拡大図
【図4】光ファイバーアレイ部の結像光学系の概要図
【図5】光ファイバーアレイ部における光ファイバーの配置例と走査線の関係を示す説明図
【図6】本例の製版装置における走査露光系の概要を示す平面図
【図7】本例の製版装置における制御系の構成を示すブロック図
【図8】同一副走査位置における1回目の露光走査について示した図
【図9】同一副走査位置における2回目の露光走査について示した図
【図10】同一副走査位置における3回目の露光走査について示した図
【図11】同一副走査位置における4回目の露光走査について示した図
【図12】同一副走査位置における5回目の露光走査について示した図
【図13】スパイラル露光における露光制御について示した図
【図14】ビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を説明するための図
【図15】ビームの熱による彫刻の平面方向の影響を説明するための図
【図16】フレキソ版の製版工程の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0037】
<隣接ビームの熱の影響>
まず、マルチビーム露光で版を彫刻する際の、隣接ビームの熱の影響について説明する。
【0038】
図14(a)は、等光量の複数のビーム500A〜500Gを版材の走査方向に対して20度だけ傾斜させて配置した例を示す図である。この例では、各ビーム径はφ35μmであり、各ビームで露光するラインの間隔は10.58μmとなっている。本願出願人は、このように配置したビーム群を用いて版材を彫刻する実験を行い、ビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を調査した。
【0039】
まず、ビーム500Aとビーム500Cの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Cの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Cにより彫られる深さは、1つのビーム単独で(ビーム500Cのみで)彫った場合の深さよりも約1.5倍の比率となることが確認できた。
【0040】
同様に、ビーム500Aとビーム500Eの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Eの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Eにより彫られる深さは、1つのビーム単独で彫った場合の深さよりも約1.2倍の比率となることが確認できた。
【0041】
さらに、ビーム500Aとビーム500Gの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Gの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Gにより彫られる深さは、1つのビーム単独で彫った場合の深さよりも約1.1倍の比率となることが確認できた。
【0042】
このように、ビーム群を斜め方向に配列して複数のビームにより露光すると、先に走査したビームの熱が、次に走査されるビームによる彫刻の深さに影響を及ぼすことを確認した。
【0043】
また、図14(b)は、ビーム500A〜500Gと同様の2つのビーム500M、500Nを、版材の走査方向に対して直交するように4ライン分の間隔(42μm間隔)で配置した例を示す図である。上記と同様に、本願出願人はこのように配置したビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を調査した。
【0044】
その結果、ビーム500Mとビーム500Nの2つのビームを用いて同時に露光すると、各ビームによる彫刻の深さは、表面から50μmの深さまでは(表面から50μmの深さまで彫刻可能なビーム出力値では)、1つのビーム単独で露光して彫った場合と同じ深さとなることが確認できた。
【0045】
また、本願出願人は、ビームの熱による彫刻の版材の表面方向の影響についても調査した。図15(a)は、ビーム500Jの露光による版材の彫刻を示す図であり、版材の主走査とともにビーム500Jにより露光を行い、所定時間だけ露光を停止後、露光を再開した場合の露光停止前後の彫刻領域501J、502Jを示している。また、図15(b)は、主走査方向に対して直交する方向に配置された等光量の複数のビーム500H〜500Lの露光による版材の彫刻を示す図であり、版材の主走査とともにこれら複数のビームによって露光を行い、図15(a)の場合と同様の時間だけ露光を停止後、露光を再開した場合の露光停止前後の彫刻領域511H〜511L、512H〜512Lを示している。
【0046】
上記のように露光して得られた版材から、露光を停止した期間の領域(彫刻されていない領域)のそれぞれの幅W0(領域501Jと502Jとの距離)、W1(領域511Jと512Jとの距離)と、彫刻領域501J、502J、511J及び512Jの彫り込んだ深さ(50μmまで評価)を評価したところ、幅も深さも両者には差が無いという結果を得た。
【0047】
以上のように、本願出願人は、版材の走査方向に直交する方向に同時に射出されたビーム同士は、露光により発生した熱が隣接ビーム方向に伝わる前に隣接ビームの露光も終了しているため、版材の深さ方向、表面方向において相互の熱の干渉を全く受けないことを確認し、このことから、版材の走査方向に直交する方向に配置されたビーム群を用いることにより、1つのビーム単独で露光した場合と同じ彫刻性能が得られることを見出した。
【0048】
<マルチビーム露光走査装置の構成例>
図1は、本発明の実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置の構成図である。図示の製版装置11は、円筒形を有するドラム50の外周面にシート状の版材(「記録媒体」に相当)を固定し、該ドラム50を図1中の矢印R方向(主走査方向)に回転させると共に、版材Fに向けてレーザ記録装置10の露光ヘッド30から、該版材Fに彫刻(記録)すべき画像の画像データに応じた複数のレーザビームを射出し、露光ヘッド30を主走査方向と直交する副走査方向(図1矢印S方向)に所定ピッチで走査させることで、版材Fの表面に2次元画像を高速で彫刻(記録)するものである。ここでは、フレキソ印刷用のゴム版又は樹脂版を彫刻する場合を例に説明する。
【0049】
本例の製版装置11に用いられるレーザ記録装置10は、複数のレーザビームを生成する光源ユニット20と、光源ユニット20で生成された複数のレーザビームを版材Fに照射する露光ヘッド30と、露光ヘッド30を副走査方向に沿って移動させる露光ヘッド移動部40と、を含んで構成されている。
【0050】
光源ユニット20は、16個の半導体レーザ群21A、16個の半導体レーザ群21B、16個の半導体レーザ群21C、及び16個の半導体レーザ群21Dを備えており、各半導体レーザ群21A〜21Dの光は、それぞれ個別に16本の光ファイバー群22A、16本の光ファイバー群22B、16本の光ファイバー群22C、16本の光ファイバー群22Dを介し、さらに16本の光ファイバー群70A、16本の光ファイバー群70B、16本の光ファイバー群70C、16本の光ファイバー群70Dを介して露光ヘッド30の光ファイバーアレイ部300へと伝送される。
【0051】
本例では、半導体レーザ群21A〜21Dとしてブロードエリア半導体レーザ(波長:915nm)が用いられ、これら半導体レーザ群21A〜21Dは光源基板24A、24B、24C、24D上に並んで配置されている。
【0052】
各半導体レーザ群21A〜21Dは、それぞれ個別に光ファイバー群22A〜22Dの一端部にカップリングされ、その他端はそれぞれ16個ずつ備えられたFC型光コネクタ群25A、25B、25C、25Dのアダプタに接続されている。
【0053】
FC型光コネクタ群25A〜25Dを支持するアダプタ基板23A、23B、23C、及び23Dは、光源基板24A、24B、24C、及び24Dの一方の端部に垂直に取り付けられている。また、光源基板24A〜24Dの他方の端部には、半導体レーザ群21A〜21Dを駆動するLDドライバー回路(図1中不図示、図7の符号26)を搭載したLDドライバー基板27A、27B、27C、及び27Dが取り付けられている。各半導体レーザ群21A〜21Dは、それぞれ個別の配線部材群29A、29B、29C、29Dを介して、対応するLDドライバー回路に接続されており、各々の半導体レーザ群21A〜21Dは個別に駆動制御される。
【0054】
なお、本実施の形態では、レーザビームを高出力とするために、コア径の比較的大きな、多モード光ファイバーを光ファイバー群70A〜70Dに適用している。具体的には、本実施形態においては、コア径が105μmの光ファイバーが用いられている。また、半導体レーザ群21A〜21Dには、最大出力が10W程度のものを使用している。具体的には、例えば、JDSユニフェーズ社から販売されているコア径105μmで出力10W(6398-L4)のものなどを採用することができる。
【0055】
一方、露光ヘッド30には、複数の半導体レーザ群21A〜21Dから射出された各レーザビームを取り纏めて射出する光ファイバーアレイ部300が備えられている。光ファイバーアレイ部300の光出射部(図1中不図示、図2の符号280)は、半導体レーザ群21Aから導かれた16本の光ファイバー群70Aの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Bから導かれた16本の光ファイバー群70Bの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Cから導かれた16本の光ファイバー群70Cの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Dから導かれた16本の光ファイバー群70Dの出射端からなる列とが、縦4段に並んで配置された構造となっている(図3参照)。
【0056】
また、露光ヘッド30内には、光ファイバーアレイ部300の光出射部側より、コリメータレンズ32、開口部材33、及び結像レンズ34が、順番に並んで配設されている。コリメータレンズ32と結像レンズ34の組合せによって結像光学系が構成されている。開口部材33は、光ファイバーアレイ部300側から見て、その開口がファーフィールド(Far Field)の位置となるように配置されている。これによって、光ファイバーアレイ部300から射出された全てのレーザビームに対して同等の光量制限効果を与えることができる。
【0057】
露光ヘッド移動部40には、長手方向が副走査方向に沿うように配置されたボールネジ41及び2本のレール42が備えられており、ボールネジ41を回転駆動する副走査モータ(図1中不図示、図7の符号43)を作動させることによってボールネジ41上に配置された露光ヘッド30をレール42に案内された状態で副走査方向に移動させることができる。また、ドラム50は主走査モータ(図1中不図示、図7の符号51)を作動させることによって、図1の矢印R方向に回転駆動させることができ、これによって主走査がなされる。
【0058】
図2は光ファイバーアレイ部300の構成図であり、図3はその光出射部280の拡大図(図2のA矢視図)である。図3に示すように、光ファイバーアレイ部300の光出射部280は、縦4段に組み合わされた光ファイバーアレイユニット300A、300B、300C、及び300Dで構成され、各段にそれぞれ同じコア径105μmの光ファイバー70A〜70Dが16本ずつ並んで配置されている。
【0059】
光ファイバーアレイユニット300Aは、光ファイバー端部71AがL1=127μm間隔で所定方向に沿った直線状に配置されて構成された光ファイバー端部群301Aを有している。同様に、光ファイバーアレイユニット300B〜300Dは、光ファイバー端部71B、71C、71DがそれぞれL1=127μm間隔で所定方向に沿った直線状に配置されて構成された光ファイバー端部群301B〜301Dを有している。また、各光ファイバーアレイユニット300A〜300Dは、上記所定方向に平行になるように並列に配置されている。
【0060】
ここで、光ファイバーアレイ部300は、上記所定方向と直交する方向にL2=31.75μmだけ各光ファイバー端部71A〜71Dがそれぞれずらされて配置されるように光ファイバーアレイユニット300A〜300Dが配置されている。すなわち、光ファイバー端部71Aと71Bとは、それぞれL1間隔で配置されるとともに、光ファイバー端部71Bの中心は光ファイバー端部71Aの中心より上記所定方向と直交する方向(図3左方向)にL2だけずらされて配置される。同様に、光ファイバー端部71Cの中心は光ファイバー端部71Bの中心よりL2だけずらされ、光ファイバー端部71Dの中心は光ファイバー端部71Cの中心よりL2だけずらされて配置される。
【0061】
したがって、上記所定方向に直交する方向に各光ファイバー端部71A〜71Dを投影すると、全ての光ファイバー端部がL2間隔で配置されることになる。光ファイバーアレイ部300の光出射部280からは、これら複数本(16本×4)のレーザビームが射出される。
【0062】
図4は、光ファイバーアレイ部300の結像系の概要図である。図4に示すように、コリメータレンズ32及び結像レンズ34で構成される結像手段によって、光ファイバーアレイ部300の光出射部280を所定の結像倍率で版材Fの露光面(表面)FAの近傍に結像させる。本実施形態では、結像倍率は1/3倍とされており、これにより、コア径105μmの光ファイバー端部71A〜71Dから出射されたレーザビームLAのスポット
径は、φ35μmとなる。なお、ここでは結像倍率を固定としているが、結像倍率可変の露光レンズを使用してもよい。
【0063】
このような結像系を有する露光ヘッド30において、直線状に配置された光ファイバー端部71A(71B、71C、71D)の配置方向と副走査方向とを一致させることにより、図5に示すように、各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dで露光する走査線(主走査ライン)Kの間隔P2を10.58μm(副走査方向の解像度2400dpi相当)に設定することができる。
【0064】
上記構成の露光ヘッド30を用いることにより、光ファイバーアレイ部300の光ファイバー端部群301A〜301Dの4段で64ラインの範囲(1スワス分)を同時に走査して露光することができる。
【0065】
なお、本実施の形態の光ファイバーアレイ部300は、副走査方向に16個、主走査方向に4段の合計64個の光ファイバー端部を有しているが、これらの個数や段数については、露光ヘッドの大きさや光ファイバーのコア径等に応じて適宜決めればよい。
【0066】
図6は、図1に示した製版装置11における走査露光系の概要を示す平面図である。露光ヘッド30は、ピント位置変更機構60と、副走査方向への間欠送り機構90を備えている。
【0067】
ピント位置変更機構60は、露光ヘッド30をドラム50面に対して前後移動させるモータ61とボールネジ62を有し、モータ61の制御により、ピント位置を約0.1秒で約339μm移動させることができる。間欠送り機構90は、図1で説明した露光ヘッド移動部40を構成するものであり、図6に示すように、ボールネジ41とこれを回転させる副走査モータ43を有する。露光ヘッド30は、ボールネジ41上のステージ44に固定されており、副走査モータ43の制御により、露光ヘッド30をドラム50の軸線52方向に、約0.1秒で1スワス分(2400dpiの場合、10.58μm×64ch=677.3μm)の間欠送りができる。
【0068】
なお、図6において、符号46、47は、ボールネジ41を回動自在に支持するベアリングである。符号55はドラム50上で版材Fをチャックするチャック部材である。このチャック部材55の位置は、露光ヘッド30による露光(記録)を行わない非記録領域である。ドラム50を回転させながら、この回転するドラム50上の版材Fに対し、露光ヘッド30から64チャンネルのレーザビームを照射することで、64チャンネル分(1スワス分)の露光範囲92を隙間なく露光し、版材Fの表面に1スワス幅の彫刻(画像記録)を行う。そして、ドラム50の回転により、露光ヘッド30の前をチャック部材55が通過するときに(版材Fの非記録領域のところで)、副走査方向に間欠送りを行い、次の1スワス分を露光する。このような副走査方向の間欠送りによる露光走査を繰り返すことにより、版材Fの全面に所望の画像を形成する。
【0069】
本例では、シート状の版材F(記録媒体)を用いているが、円筒状記録媒体(スリーブタイプ)を用いることも可能である。
【0070】
<制御系の構成>
図7は、製版装置11の制御系の構成を示すブロック図である。図7に示すように、製版装置11は、彫刻すべき2次元の画像データに応じて各半導体レーザ21A〜21Dを駆動するLDドライバー回路26と、ドラム50を回転させる主走査モータ51と、主走査モータ51を駆動する主走査モータ駆動回路81と、副走査モータ43を駆動する副走査モータ駆動回路82と、制御回路80と、を備えている。制御回路80は、LDドライバー回路26、及び各モータ駆動回路(81、82)を制御する。
【0071】
制御回路80には、版材Fに彫刻(記録)する画像を示す画像データが供給される。制御回路80は、この画像データに基づき、主走査モータ51及び副走査モータ43の駆動を制御するとともに、各半導体レーザ21A〜21Dについて個別にその出力(レーザビームのパワー制御)を制御する。
【0072】
<第1の実施形態>
次に、マルチビーム露光系によって印刷版を製造する際の露光走査工程について説明する。本実施形態においては、図3に示す光ファイバーアレイ部300を有する露光ヘッド30を用いて、各副走査位置で(露光ヘッド30を移動させずに)5回ずつ露光走査する。ここでは、版材Fの表面に残すべき平面形状(印刷面)に対し、その周辺部を精密彫刻領域、さらにその周辺部を粗彫刻領域とし、粗彫刻領域は全ビームを用いて同時に露光走査し、精密彫刻領域は走査方向に対して直交する方向に配列されたビーム列毎に露光走査する。
【0073】
図8〜図12は、それぞれ同一副走査位置における1〜5回目の露光走査について示した図であり、各図(b)が各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dの露光制御を示しており、各図(a)は(b)に示す露光制御により彫刻された版材Fの断面を示している。ここでは、説明のためレーザビームの数を減じて示しており、また、版材Fに対して各レーザビーム100A〜100Dが相対的に図の上方向に主走査される形態で例示している。
【0074】
図9〜図11においては、各図(a)に示す版材Fの断面は、厳密にはレーザビーム100A〜100Dのどの走査線の断面かによって彫刻深さの程度が異なってくるが、ここでは各走査線における断面の平均的な彫刻深さを示すものとする。
【0075】
まず、当該副走査位置における1回目の露光走査は、図8(b)に示すように、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行う。図14で説明したように、斜め方向に配列された複数のビームにより露光すると、先に走査したビームの熱により、次に走査されるビームによる彫刻の深さの比率が大きくなる。したがって、このように彫刻することで、近接ビームの熱の流入を促進し、彫刻効率の向上を図ることができる。ここでは、1つのビームで彫刻する場合よりも、M倍だけ彫刻効率が向上するものとする。
【0076】
また、粗彫刻領域において、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御することにより、精密彫刻領域への熱の流入による不必要な彫刻を防止している。
【0077】
なお、1回目の露光走査は粗彫り工程として粗彫刻領域に対してのみ露光を行い、精密彫刻領域については露光を行わない。
【0078】
その結果、図8(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域のみが彫刻され、さらに、粗彫刻領域は精密彫刻領域に近づくにつれて彫刻深さが浅くなっている。粗彫刻領域をこのような断面形状にしておくことで、粗彫刻領域の表面積を増加させることができるので、その後の露光走査による精密彫刻領域への熱の流入を低減させることができる。
【0079】
2回目の露光走査は、図9(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、近接ビームの熱の流入を促進して彫刻効率の向上を図る。また、1回目の露光走査と同様に、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御する。
【0080】
さらに、精密彫刻領域においては、副走査方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、最下段に配列された光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。図14で説明したように、主走査方向に直交する方向(副走査方向)に同時に射出されるレーザビームは相互の熱の干渉を受けないため、このように制御することで、精密彫刻領域においてレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0081】
なお、このように彫刻した精密彫刻領域は、隣り合うレーザビームの熱の干渉を受けないことから、斜め方向に配列された複数のビームで同時に露光を行った粗彫刻領域に対して1/M倍の彫刻効率で彫刻されていることになる。したがって、精密彫刻領域に対して射出するレーザビーム100Dの出力は、粗彫刻領域に対して射出した際の出力のM倍とすることが望ましい。すなわち、副走査方向に配列された複数のビームだけで同時に露光する際には、斜め方向に配列された複数のビームで同時に露光することにより向上する彫刻効率の分だけレーザビームのパワーを上げることにより、一度の主走査において彫刻される彫刻深さと彫刻幅をどちらの場合も同様にすることができ、精密彫刻領域と粗彫刻領域の連続性を保つことができる。
【0082】
また、精密彫刻領域においても、印刷面に近づくほどレーザビーム100Dの出力を線形に下げるように制御する。このように制御することにより、印刷面への熱の流入による不必要な彫刻を防止する。
【0083】
その結果、図9(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域は1回目の断面よりも深く彫刻され、精密彫刻領域はレーザビーム101Dで走査した領域だけが彫刻されている。また、精密彫刻領域は、印刷面に近づくにつれて彫刻深さが浅くなっている。
【0084】
3回目の露光走査は、図10(b)に示すように、粗彫刻領域においては2回目と同様にレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行う。また、精密彫刻領域においては、副走査方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、上から3段目に配列された光ファイバー端部71Cから射出されるレーザビーム101Cだけを用いて露光走査する。2回目の露光走査と同様に、精密彫刻領域に対して射出するレーザビーム100Cの出力は、粗彫刻領域に対して射出した際の出力のM倍とすることが望ましい。また、印刷面に近づくほどレーザビーム100Cの出力を線形に下げるように制御する。したがって、3回目の露光走査では、粗彫刻領域においては効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはレーザビーム101Cで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0085】
その結果、図10(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域は2回目の断面よりもさらに深く彫刻され、精密彫刻領域はレーザビーム101Cで走査した領域だけが彫刻される。精密彫刻領域は、各走査線位置の断面を平均した結果、2回目の断面よりもさらに深く彫刻されていることになる。
【0086】
同様に、4回目の露光走査は、図11(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行い、精密彫刻領域においては上から2段目に配列されたレーザビーム101Bだけを用いて露光走査する。また、5回目の露光走査は、図12(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行い、精密彫刻領域においては最上段に配列されたレーザビーム101Aだけを用いて露光走査する。
【0087】
したがって、4回目、5回目の露光走査では、粗彫刻領域を効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはそれぞれ露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0088】
その結果、4回目では図11(a)、5回目では図12(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。図12(a)に示すように、精密彫刻領域は、最終的には印刷面に対して急峻なエッジ部分が形成されるように彫刻を行う。
【0089】
このようにドラム50の5回転で1スワス分の彫刻を完成させた後、非記録領域たるチャック部材55が露光ヘッド30の前を横切るときに、露光ヘッド30を副走査方向(図6において左方向)に間欠送りし、隣接する次の1スワス分の彫刻を行う位置に移動させる。そして、当該位置において、図8〜図12で示した露光走査を同様に行う。以後、上記の工程を繰り返し、版材F上の全面を露光する。
【0090】
以上のように、最終的に凸平面部として残す表面形状に対し、その周辺部においては1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出することで近接ビームの熱の流入を抑制して精密彫刻を可能とし、傾斜部の形状を適切に彫刻するとともに、さらにその周辺部においては全ての段の出射口列から同時にビームを射出することで近接ビームの熱の流入を促進させることにより彫刻効率を向上させることができる。
【0091】
なお、ビーム列毎に露光走査する際の列の順序は、上記の順に限定されるものではない。例えば、100A、100B、100C、100Dの順に露光走査してもよいし、その他の順序でもよい。
【0092】
また、1回目の粗彫り工程を省略することで、ドラム50の4回転で1スワス分の彫刻を完成させてもよい。
【0093】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、精密彫刻領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させたが、第2の実施形態では、精密彫刻領域に対して、予め定められた1つの段のレーザビームのみで露光するように制御する。
【0094】
このように露光するためには、ビーム列の段数だけ1ラインずつ露光走査する副走査送りと、第1の実施形態のような間欠送りとを組み合わせて副走査送りを行えばよい。
【0095】
本実施形態では、ドラム50の回転中に副走査方向に一定速度で露光ヘッド30を移動させて版材Fの表面をスパイラル(らせん)状に走査するスパイラル露光と、間欠送りとを組み合わせた露光方式を例に説明する。
【0096】
図13は、図3に示す光ファイバーアレイ部300を有する露光ヘッド30を用いてスパイラル露光と、間欠送りとを組み合わせた露光方式を採用した場合の、各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dの露光制御を示している。なお、図13は説明のためレーザビームの数を減じて示している。
【0097】
まず、1回目の露光走査は、図13(a)に示すように、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、近接ビームの熱の流入を促進し、彫刻効率の向上を図る。なお、第1の実施形態と同様に、粗彫刻領域においては精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御することが好ましい。
【0098】
また、精密彫刻領域においては、主走査方向に直交する方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、予め定められた光ファイバー端部から射出されるレーザビームだけを用いて露光走査する。図13の例では、最下段に配列された光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dを用いている。このように制御することで、精密彫刻領域においてレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0099】
その後、露光ヘッド30が副走査方向に所定の速度で移動していることにより各ビームはスパイラル状に走査され、主走査位置が図13(a)で彫刻を行った位置に来たときに、露光ヘッド30は副走査方向(図13右方向)に1ライン分だけ移動している。すなわち、露光ヘッド30は、ドラム50が1回転する間に1主走査ライン分(図5のP2=10.58μm)だけ副走査方向に一定速度で移動するように制御されている。
【0100】
したがって、2回目の露光においては、図13(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行う。また、精密彫刻領域においては、前回と同様に、予め定められた光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。したがって、粗彫刻領域においては効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0101】
3回目、4回目の露光についても、同様にスパイラル状に走査を行うとともに、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、精密彫刻領域においては予め定められた光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する(図13(c)、図13(d)参照)。
【0102】
その後、60ライン分(全チャンネル数64−スパイラル送り数4)だけ副走査方向に間欠送りを行い、再び4ライン送り分だけスパイラル露光を行う。上記の動作を繰り返して行うことにより、版材Fの全面を露光走査する。
【0103】
以上のように、最終的に凸平面部として残す表面形状に対し、その周辺部においてはあらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出することで近接ビームの熱の流入を抑制して精密彫刻を可能とし、傾斜部の形状を適切に彫刻するとともに、さらにその周辺部においては全ての段の出射口列から同時にビームを射出することで近接ビームの熱の流入を促進させることにより彫刻効率を向上させることができる。
【0104】
さらに、このスパイラル露光と間欠送りとを組み合わせた露光方式によれば、副走査方向に複数段配置されたレーザビームのうち、精密彫刻領域に使用している段のレーザビームの光源やファイバーの動作に支障が生じた場合であっても、それとは異なる段のレーザビームを精密彫刻領域用に設定することにより、精密彫刻領域への露光を同様に行うことができる。したがって、粗彫刻領域における彫刻効率は多少小さくなるが、生産性を落とさずに彫刻を行うことができるというメリットがある。
【0105】
また、各段を構成する光ファイバー端は精度良く等間隔に製造可能であるが、各段の横ずれ(図3の例では、光ファイバーアレイユニット300A、300B、300C、300Dのそれぞれの図面左右方向の位置ずれ)が製造等において生じる可能性があり、このような場合には、彫刻後の版材Fにスジムラが発生してしまう。しかし、本実施形態のスパイラル露光と間欠送りとを組み合わせた露光方式によれば、精密彫刻領域の各ラインの間隔はスパイラル露光の副走査精度で決まるため、各段の多少の横ずれは許容することができ、露光ヘッド30のコストアップを抑えることができるというメリットがある。
【0106】
なお、ビーム列の段数だけ1ラインずつ露光走査する副走査送りは、上記のスパイラル露光に限定されるものではなく、1回の主走査に対して1ライン分の副走査を行ってもよい。
【0107】
すなわち、図13(a)に示すように、1回目の露光を、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、精密彫刻領域に対してレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。
【0108】
図13(a)の位置での1度の主走査が終了後、図13(b)の位置へ1ライン分だけ副走査送りを行い、2回目の露光を行う。2回目の露光についても、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光し、精密彫刻領域に対してレーザビーム101Dだけを用いて露光する。
【0109】
同様に、図13(b)の位置での主走査が終了後、1ライン分だけ副走査送りを行い、図13(c)に示すように3回目の露光を行う。さらに主走査が終了後、1ライン分だけ副走査送りを行い、図13(d)に示すように4回目の露光を行う。
【0110】
その後、60ライン分(全チャンネル数64−1ラインずつ送り数4)だけ副走査方向に間欠送りを行い、再び4ライン分を1ラインずつ副走査しながら露光する。上記の動作を繰り返して行うことにより、版材Fの全面を露光走査する。
【0111】
以上のように副走査を行っても、精密彫刻領域に対して予め定められた1つの段のレーザビームのみで露光することが可能である。
【0112】
なお、第1、第2の実施形態では、円筒形のドラム50の外周面に装着された記録媒体に対して複数のレーザビームを射出したが、ドラムの内周面に装着された記録媒体に対して複数のレーザービームを射出するものであってもよい。また、ドラムを回転させるのではなく、ヘッド側を回転させる構成としてもよい。
【0113】
また、スパイラル露光以外の実施形態では、平面状の記録媒体に対して複数のレーザビームを射出する構成としてもよい。
【0114】
<フレキソ版の製造工程について>
次に、マルチビーム露光系によって印刷版を製造する際の露光走査工程について説明する。
【0115】
図16に製版工程の概要を示す。レーザ彫刻による製版に用いる生版700は、基板702の上に彫刻層704(ゴム層又は樹脂層)を有し、該彫刻層704の上に保護用のカバーフィルム706が貼着されている。製版加工時には、図16(a)に示すように、カバーフィルム706を剥離して彫刻層704を露出させ、該彫刻層704にレーザ光を照射することにより、彫刻層704の一部を除去して所望の3次元形状を形成する(図16(b)参照)。具体的なレーザ彫刻の方法については、図1〜図15で説明したとおりである。なお、レーザ彫刻中に発生するダストは、不図示の吸引装置によって吸引して回収する。
【0116】
彫刻工程が終了した後は、図16(c)に示すように、洗浄装置710による水洗浄を行い(洗浄工程)、その後、乾燥工程(不図示)を経てフレキソ版が完成する。
【0117】
このように、版自体を直接にレーザ彫刻する製版方式をダイレクト彫刻方式という。本実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置は、CO2レーザを用いるレーザ彫刻機に比べて低価格を実現できる。また、マルチビーム化によって、加工速度の向上を達成でき、印刷版の生産性が向上する。
【0118】
<他の応用例>
フレキソ版の製造に限らず、他の凸印刷版、或いは、凹印刷版の製造についても本発明を適用することができる。また、印刷版の製造に限らず、他の様々な用途の描画記録装置、彫刻装置について本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0119】
10…レーザ記録装置、11…製版装置、20…光源ユニット、21A,21B,21C,21D…半導体レーザ、22A,22B,22C,22D,70A,70B,70C,70D…光ファイバー、30…露光ヘッド、40…露光ヘッド移動部、50…ドラム、80…制御回路、300…光ファイバーアレイ部、F…版材、K…走査線(主走査ライン)
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチビーム露光走査方法及び装置並びに印刷版の製造方法に係り、特にフレキソ版などの印刷版の製造に好適なマルチビーム露光技術及びこれを適用した印刷版の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のレーザビームを同時に照射し得るマルチビームヘッドを用いて版材の表面に凹形状を彫刻する技術が開示されている(特許文献1)。このようなマルチビーム露光によって版を彫刻する場合、隣接ビームの熱の影響により、小点や細線などの微細形状を安定に形成することは大変困難である。
【0003】
かかる課題に対して、特許文献1では、版材の表面に形成されるビームスポット列における隣接ビームスポット間での相互の熱的影響を軽減するために、いわゆるインターレース露光を行う構成を提案している。即ち、特許文献1では、彫刻密度に対応する彫刻ピッチの2倍以上の間隔で版材表面に複数のレーザスポットを形成し、1回の露光走査で形成する走査線の間隔をあけ、各走査線間の走査線を2回目以降の走査で露光する方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−85927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、隣接ビームの影響を完全に低減するには、版材の面上でビーム位置の間隔をビーム径よりも十分に離す必要があり、実際には数画素(数ライン)分の走査線間隔をあける必要がある。そのため、結像光学系に用いるレンズの収差が問題となり、彫刻ピッチ間隔でヘッドを移動させて正確な走査線間隔のビーム列を形成するためには、光学系が複雑化するなど、実用上制限が多い。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、マルチビーム露光に伴う隣接ビームの熱の影響を効果的に低減し、微細形状など所望の形状を高精度に形成し得るマルチビーム露光走査方法及び装置並びにこれを適用した印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法は、出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出するようにしたので、熱の影響を低減して所望の形状を高精度に形成することができる。
【0009】
請求項2に示すように請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出する工程を備えたことを特徴とする。
【0010】
これにより、第2の領域については彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0011】
請求項3に示すように請求項1又は2に記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第1の領域は、前記彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域の周囲領域であることを特徴とする。
【0012】
これにより、目的の平面形状の周囲領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻を行うことができる。
【0013】
請求項4に示すように請求項1から3のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法において、前記第2の領域は、前記第1の領域の周囲領域であることを特徴とする。
【0014】
これにより、精密に彫刻する必要の無い第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0015】
前記目的を達成するために請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドと、前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記記録媒体を少なくともN回主走査させる毎に1回副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0017】
請求項6に示すように請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記走査制御手段は、前記記録媒体を(N+1)回主走査させる毎に1回副走査させ、前記露光制御手段は、1回目の主走査において、前記第1の領域に対してはビームの射出は行わず、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させることを特徴とする。
【0018】
これにより、目的の平面形状の周囲領域への熱の影響を低減させることができる。
【0019】
前記目的を達成するために請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記記録媒体を1回主走査させる毎に1主走査ライン分だけ副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0021】
請求項8に示すように請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、N回の主走査後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする。
【0022】
これにより、版材の全面を効率よく彫刻することができる。
【0023】
前記目的を達成するために請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置は、露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、前記記録媒体を外面又は内面に保持した円筒状のドラムと、前記露光手段又は前記ドラムを回転させることで、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、前記露光手段又は前記ドラムをN回転させる間にN主走査ライン分だけ一定速度で副走査させる走査制御手段と、前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、精密に彫刻すべき第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、それ以外の第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるようにしたので、第1の領域に対して熱の影響を低減した精密彫刻ができ、第2の領域に対して彫刻効率を向上させた粗彫刻を行うことができる。
【0025】
また、第1の領域に対しては使用しない出射口列があるため、ビームの射出に不具合がある出射口が存在する場合であっても、その出射口の存在しない出射口列を用いて第1の領域に対してビームを射出すればよく、生産性を落とさずに彫刻を行うことができる。
【0026】
請求項10に示すように請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置において、前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、ドラムのN回転後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする。
【0027】
これにより、スパイラル露光と間欠送りを組み合わせて版材の全面を効率よく彫刻することができる。
【0028】
請求項11に示すように請求項5から10に記載のマルチビーム露光走査装置において、ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、前記出力制御手段は、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさを、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさよりも大きくすることを特徴とする。
【0029】
これにより、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの彫刻深さ、幅と、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの彫刻深さ、幅とを、均一にすることができ、それぞれの領域の連続性を保つことができる。
【0030】
請求項12に示すように請求項5から11に記載のマルチビーム露光走査装置において、第2露光走査制御手段は、前記第2の領域のうち前記第1の領域に近い領域ほど出射口から照射するビームの出力が小さくなるように制御することを特徴とする。
【0031】
これにより、第2の領域を適切に彫刻することができる。
【0032】
前記目的を達成するために請求項13に記載の印刷版の製造方法において、請求項1から4のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法によって、前記記録媒体に相当する版材の表面を彫刻することによって印刷版を得ることを特徴とする。
【0033】
請求項13に記載の発明によれば、熱の影響を低減した精密彫刻と彫刻効率を向上させた粗彫刻とを行った印刷版を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、マルチビーム露光に伴う隣接ビームの熱の影響を効果的に低減し、微細形状など所望の形状を高精度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置の構成図
【図2】露光ヘッド内に配置される光ファイバーアレイ部の構成図
【図3】光ファイバーアレイ部の光出射部の拡大図
【図4】光ファイバーアレイ部の結像光学系の概要図
【図5】光ファイバーアレイ部における光ファイバーの配置例と走査線の関係を示す説明図
【図6】本例の製版装置における走査露光系の概要を示す平面図
【図7】本例の製版装置における制御系の構成を示すブロック図
【図8】同一副走査位置における1回目の露光走査について示した図
【図9】同一副走査位置における2回目の露光走査について示した図
【図10】同一副走査位置における3回目の露光走査について示した図
【図11】同一副走査位置における4回目の露光走査について示した図
【図12】同一副走査位置における5回目の露光走査について示した図
【図13】スパイラル露光における露光制御について示した図
【図14】ビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を説明するための図
【図15】ビームの熱による彫刻の平面方向の影響を説明するための図
【図16】フレキソ版の製版工程の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0037】
<隣接ビームの熱の影響>
まず、マルチビーム露光で版を彫刻する際の、隣接ビームの熱の影響について説明する。
【0038】
図14(a)は、等光量の複数のビーム500A〜500Gを版材の走査方向に対して20度だけ傾斜させて配置した例を示す図である。この例では、各ビーム径はφ35μmであり、各ビームで露光するラインの間隔は10.58μmとなっている。本願出願人は、このように配置したビーム群を用いて版材を彫刻する実験を行い、ビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を調査した。
【0039】
まず、ビーム500Aとビーム500Cの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Cの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Cにより彫られる深さは、1つのビーム単独で(ビーム500Cのみで)彫った場合の深さよりも約1.5倍の比率となることが確認できた。
【0040】
同様に、ビーム500Aとビーム500Eの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Eの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Eにより彫られる深さは、1つのビーム単独で彫った場合の深さよりも約1.2倍の比率となることが確認できた。
【0041】
さらに、ビーム500Aとビーム500Gの2つのビームを用いて2ライン間隔で露光し、ビーム500Gの彫刻の深さを確認したところ、ビーム500Gにより彫られる深さは、1つのビーム単独で彫った場合の深さよりも約1.1倍の比率となることが確認できた。
【0042】
このように、ビーム群を斜め方向に配列して複数のビームにより露光すると、先に走査したビームの熱が、次に走査されるビームによる彫刻の深さに影響を及ぼすことを確認した。
【0043】
また、図14(b)は、ビーム500A〜500Gと同様の2つのビーム500M、500Nを、版材の走査方向に対して直交するように4ライン分の間隔(42μm間隔)で配置した例を示す図である。上記と同様に、本願出願人はこのように配置したビームの熱による彫刻の深さ方向の影響を調査した。
【0044】
その結果、ビーム500Mとビーム500Nの2つのビームを用いて同時に露光すると、各ビームによる彫刻の深さは、表面から50μmの深さまでは(表面から50μmの深さまで彫刻可能なビーム出力値では)、1つのビーム単独で露光して彫った場合と同じ深さとなることが確認できた。
【0045】
また、本願出願人は、ビームの熱による彫刻の版材の表面方向の影響についても調査した。図15(a)は、ビーム500Jの露光による版材の彫刻を示す図であり、版材の主走査とともにビーム500Jにより露光を行い、所定時間だけ露光を停止後、露光を再開した場合の露光停止前後の彫刻領域501J、502Jを示している。また、図15(b)は、主走査方向に対して直交する方向に配置された等光量の複数のビーム500H〜500Lの露光による版材の彫刻を示す図であり、版材の主走査とともにこれら複数のビームによって露光を行い、図15(a)の場合と同様の時間だけ露光を停止後、露光を再開した場合の露光停止前後の彫刻領域511H〜511L、512H〜512Lを示している。
【0046】
上記のように露光して得られた版材から、露光を停止した期間の領域(彫刻されていない領域)のそれぞれの幅W0(領域501Jと502Jとの距離)、W1(領域511Jと512Jとの距離)と、彫刻領域501J、502J、511J及び512Jの彫り込んだ深さ(50μmまで評価)を評価したところ、幅も深さも両者には差が無いという結果を得た。
【0047】
以上のように、本願出願人は、版材の走査方向に直交する方向に同時に射出されたビーム同士は、露光により発生した熱が隣接ビーム方向に伝わる前に隣接ビームの露光も終了しているため、版材の深さ方向、表面方向において相互の熱の干渉を全く受けないことを確認し、このことから、版材の走査方向に直交する方向に配置されたビーム群を用いることにより、1つのビーム単独で露光した場合と同じ彫刻性能が得られることを見出した。
【0048】
<マルチビーム露光走査装置の構成例>
図1は、本発明の実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置の構成図である。図示の製版装置11は、円筒形を有するドラム50の外周面にシート状の版材(「記録媒体」に相当)を固定し、該ドラム50を図1中の矢印R方向(主走査方向)に回転させると共に、版材Fに向けてレーザ記録装置10の露光ヘッド30から、該版材Fに彫刻(記録)すべき画像の画像データに応じた複数のレーザビームを射出し、露光ヘッド30を主走査方向と直交する副走査方向(図1矢印S方向)に所定ピッチで走査させることで、版材Fの表面に2次元画像を高速で彫刻(記録)するものである。ここでは、フレキソ印刷用のゴム版又は樹脂版を彫刻する場合を例に説明する。
【0049】
本例の製版装置11に用いられるレーザ記録装置10は、複数のレーザビームを生成する光源ユニット20と、光源ユニット20で生成された複数のレーザビームを版材Fに照射する露光ヘッド30と、露光ヘッド30を副走査方向に沿って移動させる露光ヘッド移動部40と、を含んで構成されている。
【0050】
光源ユニット20は、16個の半導体レーザ群21A、16個の半導体レーザ群21B、16個の半導体レーザ群21C、及び16個の半導体レーザ群21Dを備えており、各半導体レーザ群21A〜21Dの光は、それぞれ個別に16本の光ファイバー群22A、16本の光ファイバー群22B、16本の光ファイバー群22C、16本の光ファイバー群22Dを介し、さらに16本の光ファイバー群70A、16本の光ファイバー群70B、16本の光ファイバー群70C、16本の光ファイバー群70Dを介して露光ヘッド30の光ファイバーアレイ部300へと伝送される。
【0051】
本例では、半導体レーザ群21A〜21Dとしてブロードエリア半導体レーザ(波長:915nm)が用いられ、これら半導体レーザ群21A〜21Dは光源基板24A、24B、24C、24D上に並んで配置されている。
【0052】
各半導体レーザ群21A〜21Dは、それぞれ個別に光ファイバー群22A〜22Dの一端部にカップリングされ、その他端はそれぞれ16個ずつ備えられたFC型光コネクタ群25A、25B、25C、25Dのアダプタに接続されている。
【0053】
FC型光コネクタ群25A〜25Dを支持するアダプタ基板23A、23B、23C、及び23Dは、光源基板24A、24B、24C、及び24Dの一方の端部に垂直に取り付けられている。また、光源基板24A〜24Dの他方の端部には、半導体レーザ群21A〜21Dを駆動するLDドライバー回路(図1中不図示、図7の符号26)を搭載したLDドライバー基板27A、27B、27C、及び27Dが取り付けられている。各半導体レーザ群21A〜21Dは、それぞれ個別の配線部材群29A、29B、29C、29Dを介して、対応するLDドライバー回路に接続されており、各々の半導体レーザ群21A〜21Dは個別に駆動制御される。
【0054】
なお、本実施の形態では、レーザビームを高出力とするために、コア径の比較的大きな、多モード光ファイバーを光ファイバー群70A〜70Dに適用している。具体的には、本実施形態においては、コア径が105μmの光ファイバーが用いられている。また、半導体レーザ群21A〜21Dには、最大出力が10W程度のものを使用している。具体的には、例えば、JDSユニフェーズ社から販売されているコア径105μmで出力10W(6398-L4)のものなどを採用することができる。
【0055】
一方、露光ヘッド30には、複数の半導体レーザ群21A〜21Dから射出された各レーザビームを取り纏めて射出する光ファイバーアレイ部300が備えられている。光ファイバーアレイ部300の光出射部(図1中不図示、図2の符号280)は、半導体レーザ群21Aから導かれた16本の光ファイバー群70Aの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Bから導かれた16本の光ファイバー群70Bの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Cから導かれた16本の光ファイバー群70Cの出射端からなる列と、半導体レーザ群21Dから導かれた16本の光ファイバー群70Dの出射端からなる列とが、縦4段に並んで配置された構造となっている(図3参照)。
【0056】
また、露光ヘッド30内には、光ファイバーアレイ部300の光出射部側より、コリメータレンズ32、開口部材33、及び結像レンズ34が、順番に並んで配設されている。コリメータレンズ32と結像レンズ34の組合せによって結像光学系が構成されている。開口部材33は、光ファイバーアレイ部300側から見て、その開口がファーフィールド(Far Field)の位置となるように配置されている。これによって、光ファイバーアレイ部300から射出された全てのレーザビームに対して同等の光量制限効果を与えることができる。
【0057】
露光ヘッド移動部40には、長手方向が副走査方向に沿うように配置されたボールネジ41及び2本のレール42が備えられており、ボールネジ41を回転駆動する副走査モータ(図1中不図示、図7の符号43)を作動させることによってボールネジ41上に配置された露光ヘッド30をレール42に案内された状態で副走査方向に移動させることができる。また、ドラム50は主走査モータ(図1中不図示、図7の符号51)を作動させることによって、図1の矢印R方向に回転駆動させることができ、これによって主走査がなされる。
【0058】
図2は光ファイバーアレイ部300の構成図であり、図3はその光出射部280の拡大図(図2のA矢視図)である。図3に示すように、光ファイバーアレイ部300の光出射部280は、縦4段に組み合わされた光ファイバーアレイユニット300A、300B、300C、及び300Dで構成され、各段にそれぞれ同じコア径105μmの光ファイバー70A〜70Dが16本ずつ並んで配置されている。
【0059】
光ファイバーアレイユニット300Aは、光ファイバー端部71AがL1=127μm間隔で所定方向に沿った直線状に配置されて構成された光ファイバー端部群301Aを有している。同様に、光ファイバーアレイユニット300B〜300Dは、光ファイバー端部71B、71C、71DがそれぞれL1=127μm間隔で所定方向に沿った直線状に配置されて構成された光ファイバー端部群301B〜301Dを有している。また、各光ファイバーアレイユニット300A〜300Dは、上記所定方向に平行になるように並列に配置されている。
【0060】
ここで、光ファイバーアレイ部300は、上記所定方向と直交する方向にL2=31.75μmだけ各光ファイバー端部71A〜71Dがそれぞれずらされて配置されるように光ファイバーアレイユニット300A〜300Dが配置されている。すなわち、光ファイバー端部71Aと71Bとは、それぞれL1間隔で配置されるとともに、光ファイバー端部71Bの中心は光ファイバー端部71Aの中心より上記所定方向と直交する方向(図3左方向)にL2だけずらされて配置される。同様に、光ファイバー端部71Cの中心は光ファイバー端部71Bの中心よりL2だけずらされ、光ファイバー端部71Dの中心は光ファイバー端部71Cの中心よりL2だけずらされて配置される。
【0061】
したがって、上記所定方向に直交する方向に各光ファイバー端部71A〜71Dを投影すると、全ての光ファイバー端部がL2間隔で配置されることになる。光ファイバーアレイ部300の光出射部280からは、これら複数本(16本×4)のレーザビームが射出される。
【0062】
図4は、光ファイバーアレイ部300の結像系の概要図である。図4に示すように、コリメータレンズ32及び結像レンズ34で構成される結像手段によって、光ファイバーアレイ部300の光出射部280を所定の結像倍率で版材Fの露光面(表面)FAの近傍に結像させる。本実施形態では、結像倍率は1/3倍とされており、これにより、コア径105μmの光ファイバー端部71A〜71Dから出射されたレーザビームLAのスポット
径は、φ35μmとなる。なお、ここでは結像倍率を固定としているが、結像倍率可変の露光レンズを使用してもよい。
【0063】
このような結像系を有する露光ヘッド30において、直線状に配置された光ファイバー端部71A(71B、71C、71D)の配置方向と副走査方向とを一致させることにより、図5に示すように、各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dで露光する走査線(主走査ライン)Kの間隔P2を10.58μm(副走査方向の解像度2400dpi相当)に設定することができる。
【0064】
上記構成の露光ヘッド30を用いることにより、光ファイバーアレイ部300の光ファイバー端部群301A〜301Dの4段で64ラインの範囲(1スワス分)を同時に走査して露光することができる。
【0065】
なお、本実施の形態の光ファイバーアレイ部300は、副走査方向に16個、主走査方向に4段の合計64個の光ファイバー端部を有しているが、これらの個数や段数については、露光ヘッドの大きさや光ファイバーのコア径等に応じて適宜決めればよい。
【0066】
図6は、図1に示した製版装置11における走査露光系の概要を示す平面図である。露光ヘッド30は、ピント位置変更機構60と、副走査方向への間欠送り機構90を備えている。
【0067】
ピント位置変更機構60は、露光ヘッド30をドラム50面に対して前後移動させるモータ61とボールネジ62を有し、モータ61の制御により、ピント位置を約0.1秒で約339μm移動させることができる。間欠送り機構90は、図1で説明した露光ヘッド移動部40を構成するものであり、図6に示すように、ボールネジ41とこれを回転させる副走査モータ43を有する。露光ヘッド30は、ボールネジ41上のステージ44に固定されており、副走査モータ43の制御により、露光ヘッド30をドラム50の軸線52方向に、約0.1秒で1スワス分(2400dpiの場合、10.58μm×64ch=677.3μm)の間欠送りができる。
【0068】
なお、図6において、符号46、47は、ボールネジ41を回動自在に支持するベアリングである。符号55はドラム50上で版材Fをチャックするチャック部材である。このチャック部材55の位置は、露光ヘッド30による露光(記録)を行わない非記録領域である。ドラム50を回転させながら、この回転するドラム50上の版材Fに対し、露光ヘッド30から64チャンネルのレーザビームを照射することで、64チャンネル分(1スワス分)の露光範囲92を隙間なく露光し、版材Fの表面に1スワス幅の彫刻(画像記録)を行う。そして、ドラム50の回転により、露光ヘッド30の前をチャック部材55が通過するときに(版材Fの非記録領域のところで)、副走査方向に間欠送りを行い、次の1スワス分を露光する。このような副走査方向の間欠送りによる露光走査を繰り返すことにより、版材Fの全面に所望の画像を形成する。
【0069】
本例では、シート状の版材F(記録媒体)を用いているが、円筒状記録媒体(スリーブタイプ)を用いることも可能である。
【0070】
<制御系の構成>
図7は、製版装置11の制御系の構成を示すブロック図である。図7に示すように、製版装置11は、彫刻すべき2次元の画像データに応じて各半導体レーザ21A〜21Dを駆動するLDドライバー回路26と、ドラム50を回転させる主走査モータ51と、主走査モータ51を駆動する主走査モータ駆動回路81と、副走査モータ43を駆動する副走査モータ駆動回路82と、制御回路80と、を備えている。制御回路80は、LDドライバー回路26、及び各モータ駆動回路(81、82)を制御する。
【0071】
制御回路80には、版材Fに彫刻(記録)する画像を示す画像データが供給される。制御回路80は、この画像データに基づき、主走査モータ51及び副走査モータ43の駆動を制御するとともに、各半導体レーザ21A〜21Dについて個別にその出力(レーザビームのパワー制御)を制御する。
【0072】
<第1の実施形態>
次に、マルチビーム露光系によって印刷版を製造する際の露光走査工程について説明する。本実施形態においては、図3に示す光ファイバーアレイ部300を有する露光ヘッド30を用いて、各副走査位置で(露光ヘッド30を移動させずに)5回ずつ露光走査する。ここでは、版材Fの表面に残すべき平面形状(印刷面)に対し、その周辺部を精密彫刻領域、さらにその周辺部を粗彫刻領域とし、粗彫刻領域は全ビームを用いて同時に露光走査し、精密彫刻領域は走査方向に対して直交する方向に配列されたビーム列毎に露光走査する。
【0073】
図8〜図12は、それぞれ同一副走査位置における1〜5回目の露光走査について示した図であり、各図(b)が各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dの露光制御を示しており、各図(a)は(b)に示す露光制御により彫刻された版材Fの断面を示している。ここでは、説明のためレーザビームの数を減じて示しており、また、版材Fに対して各レーザビーム100A〜100Dが相対的に図の上方向に主走査される形態で例示している。
【0074】
図9〜図11においては、各図(a)に示す版材Fの断面は、厳密にはレーザビーム100A〜100Dのどの走査線の断面かによって彫刻深さの程度が異なってくるが、ここでは各走査線における断面の平均的な彫刻深さを示すものとする。
【0075】
まず、当該副走査位置における1回目の露光走査は、図8(b)に示すように、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行う。図14で説明したように、斜め方向に配列された複数のビームにより露光すると、先に走査したビームの熱により、次に走査されるビームによる彫刻の深さの比率が大きくなる。したがって、このように彫刻することで、近接ビームの熱の流入を促進し、彫刻効率の向上を図ることができる。ここでは、1つのビームで彫刻する場合よりも、M倍だけ彫刻効率が向上するものとする。
【0076】
また、粗彫刻領域において、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御することにより、精密彫刻領域への熱の流入による不必要な彫刻を防止している。
【0077】
なお、1回目の露光走査は粗彫り工程として粗彫刻領域に対してのみ露光を行い、精密彫刻領域については露光を行わない。
【0078】
その結果、図8(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域のみが彫刻され、さらに、粗彫刻領域は精密彫刻領域に近づくにつれて彫刻深さが浅くなっている。粗彫刻領域をこのような断面形状にしておくことで、粗彫刻領域の表面積を増加させることができるので、その後の露光走査による精密彫刻領域への熱の流入を低減させることができる。
【0079】
2回目の露光走査は、図9(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、近接ビームの熱の流入を促進して彫刻効率の向上を図る。また、1回目の露光走査と同様に、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御する。
【0080】
さらに、精密彫刻領域においては、副走査方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、最下段に配列された光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。図14で説明したように、主走査方向に直交する方向(副走査方向)に同時に射出されるレーザビームは相互の熱の干渉を受けないため、このように制御することで、精密彫刻領域においてレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0081】
なお、このように彫刻した精密彫刻領域は、隣り合うレーザビームの熱の干渉を受けないことから、斜め方向に配列された複数のビームで同時に露光を行った粗彫刻領域に対して1/M倍の彫刻効率で彫刻されていることになる。したがって、精密彫刻領域に対して射出するレーザビーム100Dの出力は、粗彫刻領域に対して射出した際の出力のM倍とすることが望ましい。すなわち、副走査方向に配列された複数のビームだけで同時に露光する際には、斜め方向に配列された複数のビームで同時に露光することにより向上する彫刻効率の分だけレーザビームのパワーを上げることにより、一度の主走査において彫刻される彫刻深さと彫刻幅をどちらの場合も同様にすることができ、精密彫刻領域と粗彫刻領域の連続性を保つことができる。
【0082】
また、精密彫刻領域においても、印刷面に近づくほどレーザビーム100Dの出力を線形に下げるように制御する。このように制御することにより、印刷面への熱の流入による不必要な彫刻を防止する。
【0083】
その結果、図9(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域は1回目の断面よりも深く彫刻され、精密彫刻領域はレーザビーム101Dで走査した領域だけが彫刻されている。また、精密彫刻領域は、印刷面に近づくにつれて彫刻深さが浅くなっている。
【0084】
3回目の露光走査は、図10(b)に示すように、粗彫刻領域においては2回目と同様にレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行う。また、精密彫刻領域においては、副走査方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、上から3段目に配列された光ファイバー端部71Cから射出されるレーザビーム101Cだけを用いて露光走査する。2回目の露光走査と同様に、精密彫刻領域に対して射出するレーザビーム100Cの出力は、粗彫刻領域に対して射出した際の出力のM倍とすることが望ましい。また、印刷面に近づくほどレーザビーム100Cの出力を線形に下げるように制御する。したがって、3回目の露光走査では、粗彫刻領域においては効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはレーザビーム101Cで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0085】
その結果、図10(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。すなわち、粗彫刻領域は2回目の断面よりもさらに深く彫刻され、精密彫刻領域はレーザビーム101Cで走査した領域だけが彫刻される。精密彫刻領域は、各走査線位置の断面を平均した結果、2回目の断面よりもさらに深く彫刻されていることになる。
【0086】
同様に、4回目の露光走査は、図11(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行い、精密彫刻領域においては上から2段目に配列されたレーザビーム101Bだけを用いて露光走査する。また、5回目の露光走査は、図12(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dにより露光走査を行い、精密彫刻領域においては最上段に配列されたレーザビーム101Aだけを用いて露光走査する。
【0087】
したがって、4回目、5回目の露光走査では、粗彫刻領域を効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはそれぞれ露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0088】
その結果、4回目では図11(a)、5回目では図12(a)に示すように版材Fの表面が彫刻される。図12(a)に示すように、精密彫刻領域は、最終的には印刷面に対して急峻なエッジ部分が形成されるように彫刻を行う。
【0089】
このようにドラム50の5回転で1スワス分の彫刻を完成させた後、非記録領域たるチャック部材55が露光ヘッド30の前を横切るときに、露光ヘッド30を副走査方向(図6において左方向)に間欠送りし、隣接する次の1スワス分の彫刻を行う位置に移動させる。そして、当該位置において、図8〜図12で示した露光走査を同様に行う。以後、上記の工程を繰り返し、版材F上の全面を露光する。
【0090】
以上のように、最終的に凸平面部として残す表面形状に対し、その周辺部においては1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出することで近接ビームの熱の流入を抑制して精密彫刻を可能とし、傾斜部の形状を適切に彫刻するとともに、さらにその周辺部においては全ての段の出射口列から同時にビームを射出することで近接ビームの熱の流入を促進させることにより彫刻効率を向上させることができる。
【0091】
なお、ビーム列毎に露光走査する際の列の順序は、上記の順に限定されるものではない。例えば、100A、100B、100C、100Dの順に露光走査してもよいし、その他の順序でもよい。
【0092】
また、1回目の粗彫り工程を省略することで、ドラム50の4回転で1スワス分の彫刻を完成させてもよい。
【0093】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、精密彫刻領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させたが、第2の実施形態では、精密彫刻領域に対して、予め定められた1つの段のレーザビームのみで露光するように制御する。
【0094】
このように露光するためには、ビーム列の段数だけ1ラインずつ露光走査する副走査送りと、第1の実施形態のような間欠送りとを組み合わせて副走査送りを行えばよい。
【0095】
本実施形態では、ドラム50の回転中に副走査方向に一定速度で露光ヘッド30を移動させて版材Fの表面をスパイラル(らせん)状に走査するスパイラル露光と、間欠送りとを組み合わせた露光方式を例に説明する。
【0096】
図13は、図3に示す光ファイバーアレイ部300を有する露光ヘッド30を用いてスパイラル露光と、間欠送りとを組み合わせた露光方式を採用した場合の、各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dの露光制御を示している。なお、図13は説明のためレーザビームの数を減じて示している。
【0097】
まず、1回目の露光走査は、図13(a)に示すように、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、近接ビームの熱の流入を促進し、彫刻効率の向上を図る。なお、第1の実施形態と同様に、粗彫刻領域においては精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム100A〜100Dの出力を線形に下げるように制御することが好ましい。
【0098】
また、精密彫刻領域においては、主走査方向に直交する方向に4段に配列された各光ファイバー端部71A〜71Dから射出されるレーザビーム100A〜100Dのうち、予め定められた光ファイバー端部から射出されるレーザビームだけを用いて露光走査する。図13の例では、最下段に配列された光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dを用いている。このように制御することで、精密彫刻領域においてレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0099】
その後、露光ヘッド30が副走査方向に所定の速度で移動していることにより各ビームはスパイラル状に走査され、主走査位置が図13(a)で彫刻を行った位置に来たときに、露光ヘッド30は副走査方向(図13右方向)に1ライン分だけ移動している。すなわち、露光ヘッド30は、ドラム50が1回転する間に1主走査ライン分(図5のP2=10.58μm)だけ副走査方向に一定速度で移動するように制御されている。
【0100】
したがって、2回目の露光においては、図13(b)に示すように、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行う。また、精密彫刻領域においては、前回と同様に、予め定められた光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。したがって、粗彫刻領域においては効率よく彫刻するとともに、精密彫刻領域においてはレーザビーム101Dで露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
【0101】
3回目、4回目の露光についても、同様にスパイラル状に走査を行うとともに、粗彫刻領域においてはレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、精密彫刻領域においては予め定められた光ファイバー端部71Dから射出されるレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する(図13(c)、図13(d)参照)。
【0102】
その後、60ライン分(全チャンネル数64−スパイラル送り数4)だけ副走査方向に間欠送りを行い、再び4ライン送り分だけスパイラル露光を行う。上記の動作を繰り返して行うことにより、版材Fの全面を露光走査する。
【0103】
以上のように、最終的に凸平面部として残す表面形状に対し、その周辺部においてはあらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出することで近接ビームの熱の流入を抑制して精密彫刻を可能とし、傾斜部の形状を適切に彫刻するとともに、さらにその周辺部においては全ての段の出射口列から同時にビームを射出することで近接ビームの熱の流入を促進させることにより彫刻効率を向上させることができる。
【0104】
さらに、このスパイラル露光と間欠送りとを組み合わせた露光方式によれば、副走査方向に複数段配置されたレーザビームのうち、精密彫刻領域に使用している段のレーザビームの光源やファイバーの動作に支障が生じた場合であっても、それとは異なる段のレーザビームを精密彫刻領域用に設定することにより、精密彫刻領域への露光を同様に行うことができる。したがって、粗彫刻領域における彫刻効率は多少小さくなるが、生産性を落とさずに彫刻を行うことができるというメリットがある。
【0105】
また、各段を構成する光ファイバー端は精度良く等間隔に製造可能であるが、各段の横ずれ(図3の例では、光ファイバーアレイユニット300A、300B、300C、300Dのそれぞれの図面左右方向の位置ずれ)が製造等において生じる可能性があり、このような場合には、彫刻後の版材Fにスジムラが発生してしまう。しかし、本実施形態のスパイラル露光と間欠送りとを組み合わせた露光方式によれば、精密彫刻領域の各ラインの間隔はスパイラル露光の副走査精度で決まるため、各段の多少の横ずれは許容することができ、露光ヘッド30のコストアップを抑えることができるというメリットがある。
【0106】
なお、ビーム列の段数だけ1ラインずつ露光走査する副走査送りは、上記のスパイラル露光に限定されるものではなく、1回の主走査に対して1ライン分の副走査を行ってもよい。
【0107】
すなわち、図13(a)に示すように、1回目の露光を、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光走査を行い、精密彫刻領域に対してレーザビーム101Dだけを用いて露光走査する。
【0108】
図13(a)の位置での1度の主走査が終了後、図13(b)の位置へ1ライン分だけ副走査送りを行い、2回目の露光を行う。2回目の露光についても、粗彫刻領域に対してレーザビーム100A〜100Dの全てを用いて露光し、精密彫刻領域に対してレーザビーム101Dだけを用いて露光する。
【0109】
同様に、図13(b)の位置での主走査が終了後、1ライン分だけ副走査送りを行い、図13(c)に示すように3回目の露光を行う。さらに主走査が終了後、1ライン分だけ副走査送りを行い、図13(d)に示すように4回目の露光を行う。
【0110】
その後、60ライン分(全チャンネル数64−1ラインずつ送り数4)だけ副走査方向に間欠送りを行い、再び4ライン分を1ラインずつ副走査しながら露光する。上記の動作を繰り返して行うことにより、版材Fの全面を露光走査する。
【0111】
以上のように副走査を行っても、精密彫刻領域に対して予め定められた1つの段のレーザビームのみで露光することが可能である。
【0112】
なお、第1、第2の実施形態では、円筒形のドラム50の外周面に装着された記録媒体に対して複数のレーザビームを射出したが、ドラムの内周面に装着された記録媒体に対して複数のレーザービームを射出するものであってもよい。また、ドラムを回転させるのではなく、ヘッド側を回転させる構成としてもよい。
【0113】
また、スパイラル露光以外の実施形態では、平面状の記録媒体に対して複数のレーザビームを射出する構成としてもよい。
【0114】
<フレキソ版の製造工程について>
次に、マルチビーム露光系によって印刷版を製造する際の露光走査工程について説明する。
【0115】
図16に製版工程の概要を示す。レーザ彫刻による製版に用いる生版700は、基板702の上に彫刻層704(ゴム層又は樹脂層)を有し、該彫刻層704の上に保護用のカバーフィルム706が貼着されている。製版加工時には、図16(a)に示すように、カバーフィルム706を剥離して彫刻層704を露出させ、該彫刻層704にレーザ光を照射することにより、彫刻層704の一部を除去して所望の3次元形状を形成する(図16(b)参照)。具体的なレーザ彫刻の方法については、図1〜図15で説明したとおりである。なお、レーザ彫刻中に発生するダストは、不図示の吸引装置によって吸引して回収する。
【0116】
彫刻工程が終了した後は、図16(c)に示すように、洗浄装置710による水洗浄を行い(洗浄工程)、その後、乾燥工程(不図示)を経てフレキソ版が完成する。
【0117】
このように、版自体を直接にレーザ彫刻する製版方式をダイレクト彫刻方式という。本実施形態に係るマルチビーム露光走査装置を適用した製版装置は、CO2レーザを用いるレーザ彫刻機に比べて低価格を実現できる。また、マルチビーム化によって、加工速度の向上を達成でき、印刷版の生産性が向上する。
【0118】
<他の応用例>
フレキソ版の製造に限らず、他の凸印刷版、或いは、凹印刷版の製造についても本発明を適用することができる。また、印刷版の製造に限らず、他の様々な用途の描画記録装置、彫刻装置について本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0119】
10…レーザ記録装置、11…製版装置、20…光源ユニット、21A,21B,21C,21D…半導体レーザ、22A,22B,22C,22D,70A,70B,70C,70D…光ファイバー、30…露光ヘッド、40…露光ヘッド移動部、50…ドラム、80…制御回路、300…光ファイバーアレイ部、F…版材、K…走査線(主走査ライン)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、
前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程と、
を含むことを特徴とするマルチビーム露光走査方法。
【請求項2】
前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出する工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項3】
前記第1の領域は、前記彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域の周囲領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項4】
前記第2の領域は、前記第1の領域の周囲領域であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項5】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドと、
前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記記録媒体を少なくともN回主走査させる毎に1回副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項6】
前記走査制御手段は、前記記録媒体を(N+1)回主走査させる毎に1回副走査させ、
前記露光制御手段は、1回目の主走査において、前記第1の領域に対してはビームの射出は行わず、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させることを特徴とする請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項7】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記記録媒体を1回主走査させる毎に1主走査ライン分だけ副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項8】
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、N回の主走査後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項9】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、
前記記録媒体を外面又は内面に保持した円筒状のドラムと、
前記露光手段又は前記ドラムを回転させることで、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記露光手段又は前記ドラムをN回転させる間にN主走査ライン分だけ一定速度で副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項10】
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、ドラムのN回転後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項11】
ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、
前記出力制御手段は、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさを、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさよりも大きくすることを特徴とする請求項5から10に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項12】
ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、
前記露光制御手段は、前記第2の領域のうち前記第1の領域に近い領域ほど出射口から照射するビームの出力が小さくなるように制御することを特徴とする請求項5から11に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法によって、前記記録媒体に相当する版材の表面を彫刻することによって印刷版を得ることを特徴とする印刷版の製造方法。
【請求項1】
出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドから、記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査方法において、
前記露光ヘッドと前記記録媒体とを主走査方向にN回走査させる工程と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出する工程と、
を含むことを特徴とするマルチビーム露光走査方法。
【請求項2】
前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出する工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項3】
前記第1の領域は、前記彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域の周囲領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項4】
前記第2の領域は、前記第1の領域の周囲領域であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法。
【請求項5】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
出射口が副走査方向に間隔Pで配置された出射口列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)有する露光ヘッドであって、各出射口を主走査方向に投影したときに各投影出射口が間隔P/Nとなるように各段が配置された露光ヘッドと、
前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光ヘッドを前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記記録媒体を少なくともN回主走査させる毎に1回副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、1回の主走査毎にビームを出射する段を順に切り換えながら1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項6】
前記走査制御手段は、前記記録媒体を(N+1)回主走査させる毎に1回副走査させ、
前記露光制御手段は、1回目の主走査において、前記第1の領域に対してはビームの射出は行わず、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させることを特徴とする請求項5に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項7】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記記録媒体を1回主走査させる毎に1主走査ライン分だけ副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項8】
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、N回の主走査後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする請求項7に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項9】
露光ヘッドから記録媒体に向けて複数のビームを同時に照射し、前記記録媒体の表面を彫刻するマルチビーム露光走査装置において、
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの列を副走査方向と直交する主走査方向に等間隔にN段(Nは2以上の整数)照射可能な露光ヘッドと結像レンズとからなる露光手段であって、各照射ビームの位置から主走査方向に伸延させた主走査ラインの間隔がP/Nとなるように照射可能な露光手段と、
前記記録媒体を外面又は内面に保持した円筒状のドラムと、
前記露光手段又は前記ドラムを回転させることで、前記露光手段を前記記録媒体に対して主走査方向に相対的に主走査させる主走査手段と、
前記露光手段を前記記録媒体に対して副走査方向に相対的に副走査させる副走査手段と、
前記露光手段又は前記ドラムをN回転させる間にN主走査ライン分だけ一定速度で副走査させる走査制御手段と、
前記記録媒体の表面の彫刻せずに残すべき目的の平面形状の領域と、精密に彫刻すべき第1の領域と、それ以外の第2の領域のうち、前記第1の領域に対して、あらかじめ定められた1つの段の出射口列のみからビームを射出させ、前記第2の領域に対して、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させる露光制御手段と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム露光走査装置。
【請求項10】
前記記録媒体上の副走査方向に間隔Pで照射されるビームの数をTとすると、前記走査制御手段は、ドラムのN回転後に(T×N−N)主走査ライン分だけ副走査させることを特徴とする請求項9に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項11】
ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、
前記出力制御手段は、1つの段の出射口列のみからビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさを、全ての段の出射口列から同時にビームを射出させるときの各ビームの出力の大きさよりも大きくすることを特徴とする請求項5から10に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項12】
ビームの出力の大きさを制御する出力制御手段を備え、
前記露光制御手段は、前記第2の領域のうち前記第1の領域に近い領域ほど出射口から照射するビームの出力が小さくなるように制御することを特徴とする請求項5から11に記載のマルチビーム露光走査装置。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載のマルチビーム露光走査方法によって、前記記録媒体に相当する版材の表面を彫刻することによって印刷版を得ることを特徴とする印刷版の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−215273(P2011−215273A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81888(P2010−81888)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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