説明

マルチワイヤ放電加工装置及びそれを用いた炭化ケイ素板の製造方法

【課題】ワイヤ放電加工装置において加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行う。
【解決手段】間隔をおいて配設された各ガイドローラ24A1〜24F1に間隔をあけて複数回巻き掛けられて複数条となり、複数の切断ワイヤ部分261を構成するワイヤ151と、ワイヤ151の各条に接し、ワイヤ151の送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤ151の各条に給電する回転電極200A1,200B1と、を含む第1の加工ユニット101と、同様の構成の第2の加工ユニット102とが左右に並べて配置され、各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152を巻き掛け方向に送りながら各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262とインゴット28との間で放電を行ってインゴット28を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤ放電加工装置の構造及びそのマルチワイヤ放電加工装置を用いて炭化ケイ素板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン等の円柱状インゴットからウェハを切り出す場合における切断手段として、砥粒を用いたワイヤソーが知られている。このワイヤソーは、複数のガイドローラ間に巻回された切断用ワイヤをその長手方向に高速駆動しながら、ワイヤに対してワークを切断送りすることにより、ワークから多数枚の薄片を同時に切り出すものである。
【0003】
しかし、このようなワイヤソーでは、ガイドローラ間に形成された複数本の切断ワイヤ部分に対し、加工用砥粒が混合された加工液(スラリー)を同時供給する必要があり、その取扱いは容易でない。また、ワイヤがワークに直接接触することによる断線を抑制するために比較的太いワイヤを使用する必要があり、切断加工代が大きくなってしまうという問題があった。さらに、従来のワイヤソーは、インゴットからウェハを切り出すのに長時間を要する場合もあり、加工時間短縮のニーズが高まっている。
【0004】
一方、近年、シリコンカーバイドが半導体の材料として注目されている。しかし、このシリコンカーバイドは硬質材料であるため、従来のワイヤソーでは、シリコンのインゴットを切断する以上の時間がかかってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、シリコンカーバイドのインゴットと切断用ワイヤとの間に電圧を断続的に印加し、各切断ワイヤ部分によってインゴットを放電加工の原理で切断する放電式ワイヤソーの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、単一の切断用ワイヤを複数のガイドローラに巻回することにより複数条の切断ワイヤ部分を形成し、通電部材を各条と接するように設け、各条と半導体インゴットとの間に電圧を印加して放電を発生させ、半導体インゴットを同時に3個以上に切断する方法が提案されている。
【0006】
一方、インゴットからウェハを高速で切り出すことが要請されている。この要請に対してワイヤをガイドローラに巻回する回数を増やして切断ワイヤ部分の条数を多くし、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加して各切断ワイヤ部分とワークとの間で同時に複数の放電を発生させることによって切断速度を上げることが考えられる。この場合、1本のワイヤをガイドローラに巻回して複数条のワイヤ切断部分を形成するので各切断ワイヤ部分は電気的に接続された状態となっている。このため、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加するには各切断ワイヤ部分同士の間を何らかの方法で絶縁することが必要となってくる。そこで、各切断ワイヤ部分同士の間でワイヤをコイル状にすることによって各切断ワイヤ部分間のインピーダンスを高くして電気的な絶縁状態とすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、互いに磁気的に絶縁されたコアの周囲にコイル状にしたワイヤを配置し、切断ワイヤ部分同士の間の電気的な絶縁をより高めようとすることが提案されている(例えば、特許文献3参照)
【0007】
特許文献2,3に記載された従来技術では、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加することが必要となるので、各条のワイヤにそれぞれ接する切断ワイヤ部分と同数の導体ブロックと絶縁ブロックとが交互に並べて配置され、各ブロックをボルトで締め付けて一体化された電極ユニットが提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、ワイヤが導電ブロックと擦れることによって導電ブロックが磨耗してしまうので、頻繁に導電ブロックを交換することが必要であった。このため、マルチワイヤ放電加工装置において、導電体を硬質の超硬合金とする方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、複数の切断ワイヤ部分を規定するローラに当接するスリップリングを設け、スリップリング及びローラを介して各切断ワイヤ部分に並列に通電する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−248719号公報
【特許文献2】特開2000−94221号公報
【特許文献3】特開2006−75952号公報
【特許文献4】特開2000−107941号公報
【特許文献5】特開2009−166211号公報
【特許文献6】特開平10−55508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1から6に記載されたような複数の切断ワイヤ部分を有するマルチワイヤ放電加工装置では、複数の切断ワイヤ部分は1本のワイヤを複数回ローラなどに巻きかけることによって形成されていることから、1本のワイヤが複数回ワークとの間で放電を行うこととなる。ワイヤ表面には放電のたびにワークの成分が付着するため、放電加工によってシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行うと、シリコンカーバイドの粉が付着した切断ワイヤ部分が次のワイヤ切断部分まで送られ、給電のために導電ブロックに接触すると、ワイヤ表面に付着したシリコンカーバイドの粉がいわば砥石のような働きをして、導電ブロックの表面を磨耗させてしまうという問題があった。シリコンカーバイドは非常に硬質であることから、特許文献5に記載された従来技術のような超硬合金であってもその表面が簡単に磨耗してしまい、導電ブロックを頻繁に交換することが必要となる。また、特許文献1から5に記載された従来技術では、ワイヤと導電ブロックの表面との間に滑りがあるため、ワイヤと導電ブロックとの間に瞬間的に隙間ができ、ワイヤと導電ブロックとの間で放電が発生し、この放電により導電ブロックが削られてしまう場合がある。このため、特許文献1から5に記載された従来技術では直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合のような長時間の加工を安定して行うことが難しいという問題があった。
【0011】
また、特許文献5に記載された従来技術のような超硬合金は電気伝導率が低いことから、ワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い材料を電極に用いた場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。また、直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合には、その加工時間が長時間となるため、切断ワイヤ部分を規定するローラに電気伝導率は高いが摩耗しやすい材料を用いると、加工中にローラが摩耗して切断ワイヤ部分とインゴットとの距離が変化し、放電が不安定となってしまう場合がある。このため、切断ワイヤ部分を規定するローラには電気伝導率が低く、ワイヤが巻き掛けられても摩耗が少ない硬度の高い材料が用いられるので、特許文献6に記載されたようにローラにスリップリングを介して放電加工電力を印加する場合にもワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い電極によってワイヤに直接給電する場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。更に、特許文献6に記載された従来技術では、スリップリングとローラとの接触による電気抵抗により更にワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い電極によってワイヤに直接給電する場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。
【0012】
また、特許文献1から5に記載された従来技術では、放電加工を行うパルス電力は、ワークを電源のプラス側に接続し、スイッチングトランジスタを介してワイヤを電源のマイナス側に接続してスイッチングトランジスタをオンオフさせることによってワークとワイヤとの間に放電加工パルスを印加するものである。しかし、放電加工パルスが印加されても放電が発生しない場合があると、電源系統内に設けられているコンデンサ等に前回の放電加工パルスの印加による電荷が残留してしまい、その後の放電が不安定となる場合がある。この場合には放電パルスを印加する周期を長くして、残留している電荷がある程度放電した状態になってから次の放電加工パルスを印加するようにする方法が考えられる。しかし、放電加工の速度は所定の時間における放電の回数、すなわち所定時間における放電加工パルスの印加回数によるので、残電荷の放電を待って次の放電加工パルスを印加していたのでは加工時間を短くできないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、ワイヤ放電加工装置において加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置は、間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を構成するワイヤと、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各切断ワイヤ部分とワークとの間で放電を行ってワークを加工することを特徴とする。
【0015】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各回転電極は、円筒状の導電体であること、としても好適である。
【0016】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各加工ユニットの各回転電極は同軸に配置されていること、としても好適であるし、各回転電極は、その各外輪の外側に各電極部材が取り付けられる各導電性軸受と、各導電性軸受の各内輪が電気的に絶縁されて同軸に取り付けられるシャフトと、各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される各給電部材と、を含んでいること、としても好適である。
【0017】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各回転電極は、各電極部材が絶縁して取り付けられる回転軸と、各回転電極の外面にそれぞれ押し付けられ、各電極部材にそれぞれ放電加工電力を供給する各接続電極と、を含んでいること、としても好適である。
【0018】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、隣接する各加工ユニットの各回転電極は各ワイヤの巻き掛け方向に位置をずらして交互に配置されていること、としても好適であるし、各回転電極は、その各外輪の外側に各電極部材が取り付けられる各導電性軸受と、各導電性軸受の各内輪が電気的に絶縁して取り付けられる複数のシャフトと、各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される各給電部材と、を含み、各シャフトは各加工ユニットの各ワイヤの巻き掛け方向に位置をずらして配置され、隣接する各加工ユニットの各導電性軸受と各電極部材とは、各シャフトに交互に取り付けられていること、としても好適である。
【0019】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各加工ユニットは、各回転電極のワイヤ送り方向の上流側または下流側または両側或いは各回転電極に対向して配置され、各加工ユニットの各ワイヤの各条を各回転電極に押しつける複数のアイドルローラを備えること、としても好適であるし、各アイドルローラは、各回転電極との間に各加工ユニットの各ワイヤの各条を挟みこむこと、としても好適である。
【0020】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各加工ユニットはそれぞれ複数の回転電極を含み、各回転電極は、切断ワイヤ部分が伸びる方向の切断ワイヤ部分の中央からワイヤ巻き掛け方向に沿って互いに反対方向に向かって等距離の位置に配置されていること、としても好適である。
【0021】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、放電加工電力は、放電加工パルスと、放電加工パルスと逆電圧で放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスと、を含む高周波パルスであること、としても好適である。
【0022】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備えること、としても好適であるし、各加工電源ユニットは、複数の主スイッチングトランジスタを含み、各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらして放電加工パルスを順次発生させること、としても好適であるし、各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタの個数は各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタの個数と同じかそれより多いこと、としても好適である。
【0023】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副スイッチングトランジスタとを含み、各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタがオフになってから各加工電源ユニットの次の主スイッチングトランジスタがオンとなるまでの間にオンオフし、各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタによって発生した放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを発生させること、としても好適である。
【0024】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタを含み、各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニット毎に共通で、各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタのオンオフの周期の各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタの個数分の一の周期でオンオフし、各放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを順次発生させること、としても好適である。
【0025】
本発明の炭化ケイ素板の製造方法は、間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を構成するワイヤと、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、スイッチングトランジスタを含み各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁されるマルチワイヤ放電加工装置を用い、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各切断ワイヤ部分と炭化ケイ素のインゴットとの間で放電を行って炭化ケイ素のインゴットから複数の炭化ケイ素板を切り出す炭化ケイ素板の製造方法であって、加工電源のスイッチングトランジスタをオンオフさせて高周波パルスを発生させ、この高周波パルスを放電加工用電力として供給すること、を特徴とする。
【0026】
本発明の炭化ケイ素板の製造方法において、マルチワイヤ放電加工装置の加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備え、各加工ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらして放電加工パルスを順次発生させること、としても好適である。
【0027】
本発明の炭化ケイ素板の製造方法において、各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副スイッチングトランジスタとを含み、各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、各加工電源ユニットの各副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタがオフになってから各加工電源ユニットの次の主スイッチングトランジスタがオンとなるまでの間にオンオフし、各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタによって発生した放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを発生させること、としても好適である。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、ワイヤ放電加工装置において加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極と切断ワイヤ部分とを示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極とワイヤの付着物とを示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の加工電源の構成を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の放電加工用の高周波パルスの波形を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の放電加工の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す斜視図である。
【図11】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図12】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図13】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の加工電源の構成を示す説明図である。
【図14】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の放電加工用の高周波パルスの波形を示す説明図である。
【図15】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の加工電源の構成を示す説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の放電加工用の高周波パルスの波形を示す説明図である。
【図17】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の加工電源の構成を示す説明図である。
【図18】本発明の他の実施形態におけるワイヤ放電加工装置の放電加工用の高周波パルスの波形を示す説明図である。
【図19】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、第1のワイヤ151が巻き掛けられて第1の切断ワイヤ部分261を含む第1の加工ユニット101と、第2のワイヤ152が巻き掛けられて第2の切断ワイヤ部分262を含む第2の加工ユニット102とが左右に並列に配置された構成となっている。第1の加工ユニット101は、送り出しモータ25Aによって回転駆動されて放電加工に用いられる黄銅、鉄線、タングステン線、モリブデン線などの金属線である第1のワイヤ151を送り出す送り出しボビン10Aと、滑りクラッチ22を介して取り付けられた巻き取りモータ25Hによって駆動されて第1のワイヤ151を巻き取る巻き取りボビン10Bと、第1のワイヤ151の送り経路を規定するプーリ11A〜11Iと、第1のワイヤ151の走行長さを調整して第1のワイヤ151の走行を安定させるダンサロール12と、第1のワイヤ151が巻き掛けられる面にゴム製の滑り止め部材が設けられ、速度モータ25Bによって駆動されて第1のワイヤ151の送り速度を規定する速度プーリ16と、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13Bと、出力トルクを調整することができるトルクモータ25Dによって駆動され、第1のワイヤ151が巻き掛けられている面にゴム製の滑り止め部材が取り付けられており、対向して設けられたクランプユニット19のクランプローラ19aとの間に第1のワイヤ151を挟みこんで送り方向に引っ張り、第1のワイヤ151に張力を掛ける張力プーリ18と、位置決めモータ25Gによって軸方向に移動するワイヤ整列ユニット21と、第1のワイヤ151が複数回巻き掛けられて複数の第1の切断ワイヤ部分261を構成する複数のガイドローラ24A1〜24F1を含むガイドローラ組と、第1のワイヤ151が巻き掛けられて回転する複数の回転電極200A1、200B1と、回転電極200A1,200B1の表面に第1のワイヤ151を押し付けるアイドルローラ300A1,300B1とを備えている。回転電極200A1,200B1は回転しないよう固定された各シャフトの周りに回転するよう構成されている。
【0031】
送り出しボビン10Aから図1に示す矢印Rの方向に繰出された第1のワイヤ151は、プーリ11A、ダンサロール12、プーリ11B,11C、速度プーリ16、プーリ11D、第1のワイヤ張力センサ13A、プーリ11E、11Fの順に巻き掛けられ、プーリ11Fを出た第1のワイヤ151は、多数のガイド溝をもつガイドローラ24A1から24F1、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1の外面にガイドローラ24A1、アイドルローラ300A1、回転電極200A1、ガイドローラ24B1,24C1、回転電極200B1、ガイドローラ24D1,24E1,24F1の順に巻きかけられる。ガイドローラ24F1を出た第1のワイヤ151は最初にガイドローラ24A1に巻きかけられている第1のワイヤ151の部分とガイドローラ24A1の軸方向にピッチPだけ離れた位置から再びガイドローラ24A1から24F1に巻きかけられていく。最初に巻きかけられた第1のワイヤ151の部分と、次に巻き掛けられた第1のワイヤ151の部分との各ガイドローラ24A1から24F1まで間の軸方向の間隔はいずれの場所でもピッチPとなっている。このように第1のワイヤ151はガイドローラ24A1から24F1、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1に複数回巻き掛けられる。そして、第1のワイヤ151はガイドローラ24A1から24F1、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1に複数回巻き掛けされた後、プーリ11G、第2のワイヤ張力センサ13B、プーリ11H、張力プーリ18、プーリ11I、ワイヤ整列ユニット21を通り、巻き取りボビン10Bに巻き取られる。
【0032】
図1に示すように本実施形態では、第1のワイヤ151はガイドローラ24A1から24F1に5回巻き掛けられており、第1のワイヤ151は5条となっている。ここで、巻き掛け回数は、第1の切断ワイヤ部分261を規定するガイドローラ24B1及び24C1に巻き掛けられている回数である。従って、第1のワイヤ151の最後の巻き掛けのように第1のワイヤ151がガイドローラ24F1からガイドローラ24A1に戻らずプーリ11Gに向って延びてもガイドローラ24B1及び24C1に巻きかけられているので、巻き掛け回数は1回と数える。つまり、巻き掛けの回数はガイドローラ24B1とガイドローラ24C1との間に張られている第1の切断ワイヤ部分261の本数となり、本実施形態では、第1の切断ワイヤ部分261は5本となる。なお、本実施形態では、説明のために第1のワイヤ151の巻き掛け回数は5回、条数は5条、第1の切断ワイヤ部分261は5本として説明するが、巻き掛け回数、条数はこれ以上であってもよいし、これより少ない巻き掛け回数、条数であってもよい。
【0033】
第2の加工ユニット102は先に説明した第1の加工ユニット101と同様の構成で、第2のワイヤ152の送りのために用いられる、送り出しボビン10Aと、巻き取りボビン10Bと、プーリ11A〜11Iと、ダンサロール12と、速度プーリ16と、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13Bと、トルクモータ25Dと、クランプユニット19、クランプローラ19aと、張力プーリ18と、位置決めモータ25Gと、ワイヤ整列ユニット21とは、第1のワイヤ151の送りのための各機器と独立して、例えば上下方向に並列に設置されている。ただし、図1では、これらの第2のワイヤ152の送りのために用いられる各機器については、図示を省略している。
【0034】
第2の加工ユニット102は、第2のワイヤ152が複数回巻き掛けられて複数の第2の切断ワイヤ部分262を構成する複数のガイドローラ24A2〜24F2を含むガイドローラ組と、第2のワイヤ152が巻き掛けられて回転する複数の回転電極200A2,200B2と、回転電極200A2,200B2の表面に第2のワイヤ152を押し付けるアイドルローラ300A2,300B2とを備えている。図1に示すように、第2の加工ユニット102の各ガイドローラ24A2〜24F2は第1の加工ユニット101の対応する各ガイドローラ24A1〜24F1と同軸で各ガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2の回転軸の方向に隣接して配置され、第2の加工ユニット102の各ガイドローラ24A2〜24F2と隣接する第1の加工ユニット101の対応する各ガイドローラ24A1〜24F1とは電気的に絶縁されている。また、第2加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2、アイドルローラ300A2,300B2も第1の加工ユニット101の対応する各回転電極200A1,200B1、対応する各アイドルローラ300A1,300B1と同軸で各回転電極200A1、200B1、200A2、200B2、各アイドルローラ300A1,300B1,300A2,300B2の回転軸の方向に隣接して配置され、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2、各アイドルローラ300A2,300B2と隣接する第1の加工ユニット101の対応する各回転電極200A1,200B1、各アイドルローラ300A1,300B1とは電気的に絶縁されている。
【0035】
図1では、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とを区別して記載するために、第1の加工ユニット101の図1に示す第1のワイヤ151の一番左端の条と第2の加工ユニット102の一番右側の条との間の各ガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2の回転軸方向の間隔はピッチPよりも広く描かれているが、本実施形態では、後で説明する図4に示すように、第1の加工ユニット101の図1に示す第1のワイヤ151の一番左端の条と第2の加工ユニット102の一番右側の条との間の各ガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2の回転軸方向の間隔はピッチPとなっている。ただし、この間隔はピッチPに限られず、これよりも広くても狭くてもよい。
【0036】
本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とによって加工されるワークであるシリコンカーバイトのインゴット28を各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262に向かって送るワーク送りユニット27と、各加工ユニット101,102に放電加工電力をそれぞれ供給する電源29と各加工ユニット101と、送りユニット27と電源29及び各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の送りのための各機器を制御する制御部80とを備えている。電源29は、後で説明する図5に示すように、第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する第1の加工電源ユニット29Rと、第2の加工ユニット102に放電加工電力を供給する第2の加工電源ユニット29Lとを備えている。
【0037】
図1に示すように、ガイドローラ24F1,24F2は共通のドローモータ25Cによって回転駆動され、ワーク送りユニット27はステッピングモータ25Eによって駆動されるよう構成されている。また、マルチワイヤ放電加工装置100の第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とは、それぞれダンサロール12の位置を検出する位置センサ31と、ワイヤの断線を検出する断線検出センサ32とを備えている。そして、各加工ユニット101,102のそれぞれの送り出しモータ25A、速度モータ25B、ドローモータ25C、トルクモータ25D、巻き取りモータ25Hは、ロータリーエンコーダを内蔵しており、その回転数を出力することができるモータである。また、各加工ユニット101,102の各位置決めモータ25F,25Gは、内部の回転子の回転角度を検出することができ、回転子の回転角度から各加工ユニット101,102のそれぞれのガイド17、ワイヤ整列ユニット21の位置を検出することができるよう構成されている。また、ワーク送りユニット27は、各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262で各ワイヤ151,152の送り方向と直交する方向に向かってインゴット28を移動させることができるよう配置され、ステッピングモータ25Eによって駆動されるよう構成されている。ステッピングモータ25Eは内部の回転子の回転角度を検出することができ、回転子の回転角度からインゴット28の位置を検出することができるよう構成されている。電源29の各加工電源ユニット29R,29Lは、それぞれプラス側出力線295によってインゴット28に接続され、各マイナス側出力線296R,296Lから分岐した各第1の回転電極接続線296A1,296B1、各第2の回転電極接続線296A2,296B2によってそれぞれ第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2に接続され、インゴット28と各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200A2,200B2との間に各加工ユニット101,102の各放電加工電力を給電するよう構成されている。
【0038】
本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100では、インゴット28及び各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200A2,200B2は電気伝導率が調整された純水または油系の加工液に浸漬されており、各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262とインゴット28の間の放電は水中で行われ、加工中にインゴット28全体の温度の上昇を抑えることができるよう構成されている。また、電気伝導率が調整された純水または油系の加工液を各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262とインゴット28の間にかける水掛によって加工中のインゴット28全体の温度の上昇を抑えることとしてもよい。
【0039】
各加工ユニット101,102の送り出しボビン10A、巻き取りボビン10Bを回転させる送り出しモータ25A、巻き取りモータ25Hと、速度プーリ16を回転させる速度モータ25Bと、ガイドローラ24F1,24F2を回転させるドローモータ25Cと、張力プーリ18を回転させるトルクモータ25Dと、ステッピングモータ25Eと、位置決めモータ25F,25Gと、電源29とは制御部80に接続され、制御部80の指令によって動作するよう構成されている。また、各加工ユニット101,102の第1、第2のワイヤ張力センサ13A,13Bと、ダンサロール12の位置を検出する位置センサ31と、ワイヤ15の断線を検出する断線検出センサ32とは制御部80に接続され、各検出信号は制御部80に入力されるよう構成されている。制御部80は、内部の信号処理用のCPUと制御用のプログラムやデータを格納するメモリを備えるコンピュータである。制御部80は各加工ユニット101,102にそれぞれ設けられた断線検出センサ32によって第1のワイヤ151、第2のワイヤ152の断線が検出された場合には、マルチワイヤ放電加工装置100の動作を停止する。
【0040】
図2に示す様に、以上のよう構成されたマルチワイヤ放電加工装置100において、第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151が図中の矢印Rの方向に送られると、ガイドローラ24A1〜24D1、各回転電極200A1,200B1、各アイドルローラ300A1,300B1は、第1のワイヤ151の巻きかけられている各面が第1のワイヤ151の送り方向と同方向となるように、各ガイドローラ24A1、回転電極200A1、各ガイドローラ24B1,24C1,回転電極200B1、ガイドローラ24D1はそれぞれ回転軸124A,203A,124B,124C,203B,124Dの周りに時計方向に回転し、各アイドルローラ300A1,300B1はそれぞれ回転軸301A,301Bの周りに反時計周りに回転する。各ガイドローラ24A1〜24D1、各アイドルローラ300A1,300B1はフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性の高い材料が用いられている。また、回転電極200A1,200B1の円筒形の電極部材201A1,201B1には電気伝導度の高い銅、銅タングステン等の銅合金、銀タングステン等の銀合金等の材料が用いられている。各回転電極200A1,200B1の円筒形の電極部材201A1,201B1は、その周速が第1のワイヤ151の送り速度と略同様となるように回転するので、第1のワイヤ151との相対速度が略ゼロであり、従来の固定式の電極のようなワイヤと電極との擦れが発生することはなく、電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも表面が磨耗してしまうことが抑制される。また、各電極部材201A1,201B1と第1のワイヤ151との間に滑りがないので第1のワイヤ15と電極部材201A1,201B1との間に瞬間的に隙間ができて第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1との間で放電が発生することが抑制され、第1のワイヤ151によって各電極部材201A1,201B1が削られてしまうことが抑制される。図2は第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151の巻き掛けと、各ガイドローラ24A1〜24D1、各回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1の回転について述べたが、図示しない第2の加工ユニット102のガイドローラ24A2〜24D2、各回転電極200A2,200B2もそれぞれ共通の回転軸124A,203A,124B,124C,203B,124Dの周りに時計方向に回転し、各アイドルローラ300A2,300B2もそれぞれ共通の回転軸301A,301Bの周りに反時計周りに回転し、各ガイドローラ24A2〜24D2、各アイドルローラ300A2,300B2は同様にフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性の高い材料が用いられている。回転電極200A2,200B2の円筒形の電極部材201A2,201B2には電気伝導度の高い銅、銅タングステン等の銅合金、銀タングステン等の銀合金等の材料が用いられている。第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2の円筒形の電極部材201A2,201B2は、その周速が第2のワイヤ152の送り速度と略同様となるように回転するので、第2のワイヤ152との相対速度も略ゼロであり、従来の固定式の電極のようなワイヤと電極との擦れが発生することはなく、電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも表面が磨耗してしまうことが抑制される。
【0041】
複数の切断ワイヤ部分261を有するマルチワイヤ放電加工装置100でシリコンカーバイド(炭化ケイ素)のインゴット28を切断する場合、ワイヤの表面には放電のたびにシリコンカーバイドの成分が粉70として付着する。図3に示すように、第1の加工ユニット101の放電加工ではインゴット28を第1の切断ワイヤ部分261に向って送りながら行うので、第1のワイヤ151とインゴット28との放電は第1のワイヤ151のインゴット28側とインゴット28の加工溝28aとの間で発生することが多い。このため、放電加工によって飛び散ったシリコンカーバイドの粉70は主に第1のワイヤ151のインゴット28側の表面に付着する。そこで、本実施形態ではシリコンカーバイドの粉70の付着が少ないインゴット28と反対側の第1のワイヤ151の表面が各電極部材201A1,201B1の表面に設けられた溝206A1,206B1に接するように各回転電極200A1,200B1を配置している。このため、放電加工によって第1のワイヤ151に付着したシリコンカーバイドの粉70が各電極部材201A1,201B1の溝206A1,206B1に接することが抑制され、電極部材201A1,201B1の溝206A1,206B1が磨耗することが抑制される。これによって、直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合のように長時間の放電加工を行う場合でも繁雑に電極を交換することなく、安定して第1のワイヤ151に放電加工電力を給電し、放電加工をすることができる。以上、図3では第1の加工ユニット101について説明したが、第2の加工ユニット102も同様である。
【0042】
図2に示すように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の第1の加工ユニット101では、回転電極200A1の矢印Rで示すワイヤの送り方向の上流側にアイドルローラ300A1が配置され、回転電極200A1のワイヤ送り方向の下流側に第1の切断ワイヤ部分261を構成するガイドローラ24B1が配置され、アイドルローラ300A1は、回転電極200A1の電極部材201A1への第1のワイヤ151の巻き掛け角度が角度θ1(rad)となるように配置されている。この場合、電極部材201A1の直径をDとすると、第1のワイヤ151は電極部材201A1に(θ1×D/2)の長さだけ接触する。また、第1のワイヤ151には張力Tが掛かっていることから、張力Tにより、F1=2×T×sin(θ1/2)、だけの力によって第1のワイヤ151が電極部材201A1の表面に押し付けられる。回転電極200B1も同様である。このように、本実施形態の各回転電極200A1,200B1は各電極部材201A1,201B1と第1のワイヤ151との接触長を長くとれると共に、第1のワイヤ151が各電極部材201A1,201B1に押し付けられるので、放電加工電力を第1のワイヤ151の各条に給電する際の電気抵抗或いはインピーダンスが少なく、電圧を低下させずに放電加工電力を供給することができる。そして、各回転電極200A1,200B1は第1のワイヤ151の送り方向と同方向に向かって回転するので各電極部材201A1,201B1と第1のワイヤ151との相対速度がほとんどない状態で第1のワイヤ151と接触する。このため、各電極部材201A1,201B1に電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも、接触距離が長く、第1のワイヤ151が押し付けられた状態でもその表面が磨耗することがなく、第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1との間に瞬間的に隙間ができて第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1との間で放電が発生することが抑制され、各電極部材201A1,201B1が削られてしまうことが抑制される。このため、長時間安定して第1のワイヤ151に放電加工電力を給電し、放電加工をすることができる。また、電源29から給電される放電加工電力の電圧を低下させずに第1のワイヤ151に給電することができ、放電加工速度が低下することを抑制することができる。以上、図2を参照して第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1との接触について説明したが、第2の加工ユニット102の第2のワイヤ152と各電極部材201A2,201B2との接触についても同様である。
【0043】
また、図2に示すように、第1の加工ユニット101の2つの隣り合う同一直径のガイドローラ24B1,24C1の間の直線の第1のワイヤ151は複数の第1の切断ワイヤ部分261を構成する。より詳細にはガイドローラ24B1の下端と24C1の上端との間の高さY1が第1の切断ワイヤ部分261の長さとなる。第1の切断ワイヤ部分261のY方向(上下方向)の中心は中心26C1である。各回転電極200A1,200B1は各回転中心205A,205B(各回転軸203A,203Bの中心)がそれぞれ第1の切断ワイヤ部分261の中心26C1からX方向(横方向)にX1で、Y方向のプラス側、マイナス側にそれぞれY2の位置となるように配置されている。また、各ガイドローラ24B1,24C1と各回転電極200A1,200B1の第1のワイヤ151の上流側と下流側とには第1の切断ワイヤ部分261の中心26C1を通る中心線28Dに対して上下対称で、中心26C1からのX方向の距離が同様となるような位置にアイドルローラ300B1が配置されている。このように、各回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1、ガイドローラ24B1,24C1を配置することにより、各回転電極200A1,200B1は第1の切断ワイヤ部分261の中心から第1のワイヤ151の巻きかけられる経路に沿って同一距離に配置され、第1の切断ワイヤ部分261に対して均等に放電加工電力を供給することができる。そして、インゴット28を切断する際には円筒状のインゴット28の中心28Cを第1の切断ワイヤ部分261のY方向の中心26C1に合わせて各中心26C1,28Cを通ってインゴット28の送り方向に延びる中心線28Dに沿って送って放電加工を行うので、放電加工の際に、インゴット28の上部と下部とを均等に加工することができる。以上、図2を参照して第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1の配置について説明したが、第2の加工ユニット102についても同様である。
【0044】
図4を参照しながら、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の回転電極200A1,200A2の支持構造について説明する。図4(a)に示すように、第1の加工ユニットの回転電極200A1,200A2は、マルチワイヤ放電加工装置100のベースに取り付けられて回転しない基盤250Aに固定された回転しない円筒状の絶縁シャフト203Aの外周にそれぞれ2つの導電性軸受である導電性ベアリング202A1,202A2を介して電極部材201A1,201A2が取り付けられたものである。電極部材201A1,201A2は、電気伝導率が良い銅等の材料で構成された円筒状の導電体である。導電性ベアリング202A1,202A2は、絶縁シャフト203Aの外周に固定される金属製の内輪211A1,211A2と、電極部材201A1,202A2の内面にそれぞれ嵌め込まれる金属製の外輪212A1,212A2と、内輪211A1,211A2と外輪212A1,212A2との間にそれぞれ挟みこまれ、周状に配置された金属製のボール213A1,213A2とによって構成されている。また、内輪211A1,211A2と外輪212A1,212A2との間には導電性グリス214A1,214A2が充填されている。絶縁シャフト203Aの基盤250Aには導電性ベアリング202A1の取り付けられている部分よりも直径が大きい段部210Aが設けられている。そして、段部210Aと一方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には金属製のカラー208Aが嵌めこまれ、カラー208Aの基盤250A側端と段部210Aと間には、後で図5を参照して説明する電源29の第1の加工電源ユニット29Rに接続される第1の給電端子220A1が接続され、金属製のカラー208Aの基盤250Aの反対側端は一方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1に接続されている。また、他方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には、カラー208Aよりも短い金属製のカラー208A1が取り付けられており、2つの導電性ベアリング202A1の各内輪211A1は、金属製のカラー208A,208A1によって第1の給電端子220A1に電気的に接続されている。金属製のカラー208A,208A1、第1の給電端子220A1は、第1の給電部材を構成する。
【0045】
また、絶縁シャフト203Aの中心には金属製の導電シャフト204Aが嵌めこまれている。そして、導電シャフト204Aの基盤250A側の端部には後で図5を参照して説明する電源29の第2の加工電源ユニット29Lに接続される第2の給電端子220A2が接続されている。また、導電シャフト204Aの基盤250Aと反対側の端部には金属製のエンドリング208A3が取り付けられている。エンドリング208A3の外周側は絶縁シャフト203Aの外周に嵌めあわされ、その軸方向の端面は1つの導電性ベアリング202A2の内輪211A2に接続されている。また、2つの導電性ベアリング202A2の各内輪211A2の間には金属製のカラー208A2によって電気的に接続されており、2つの導電性ベアリング202A2の各内輪211A2は、カラー208A2とエンドリング208A3によって第2の給電端子220A2に接続されている。金属製のカラー208A2とエンドリング208A3と導電シャフト204Aと第2の給電端子220A2は、第2の給電部材を構成する。
【0046】
また、絶縁シャフト203Aの外周で、互いに隣接する導電性ベアリング202A1の内輪211A1と導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には絶縁材料で形成された円筒状のスペーサ209が取り付けられ、互いに隣接する各回転電極200A1,200A2との間を電気的に絶縁するよう構成されている。
【0047】
第1の給電端子220A1から入力された放電加工電力の電流は、金属製のカラー208A,208A1から2つの導電性ベアリング202A1の内輪211A1、ボール213A1、外輪212A1を通って電極部材201A1に達し、電極部材201A1の外面に設けられた溝206A1に接触している第1のワイヤ151の各条に流れていく。また、導電性ベアリング202A1の内輪211A1と外輪212A1との間には導電性グリス214A1が充填されているので、内輪211A1に流れた電流は、導電性グリス214A1の中を流れて外輪212A1に達し、外輪212A1から電極部材201A1に達する。また、第2の給電端子220A2から入力された放電加工電力の電流は、導電シャフト204A、金属製のエンドリング208A3、カラー208A2から2つの導電性ベアリング202A2の内輪211A2、ボール213A2、外輪212A2を通って電極部材201A2に達し、電極部材201A2の外面に設けられた溝206A2に接触している第2のワイヤ152の各条に流れていく。また、導電性ベアリング202A2の内輪211A2と外輪212A2との間には導電性グリス214A2が充填されているので、内輪211A2に流れた電流は、導電性グリス214A2の中を流れて外輪212A2に達し、外輪212A2から電極部材201A2に達する。
【0048】
このように、導電性ベアリング202A1,202A2は電気抵抗或いはインピーダンスが低くなるように構成されているので、各給電端子220A1,220A2から回転する各電極部材201A1,201A2までに達するまで放電加工電力の電圧降下が少ない構造となっている。
【0049】
図4(b)に示すように各電極部材201A1,201A2の外面にはそれぞれ第1のワイヤ151、第2のワイヤ152を巻き掛けるV字型の溝206A1,206A2が設けられており、各溝206A1,206A2の間隔はそれぞれ各ワイヤ151,152の間隔と同様、ピッチPとなっている。また、電極部材201A1の図4(a)の左側端の第1のワイヤ151と電極部材201A2の図4(a)の右側端の第2のワイヤ152との間の間隔もピッチPとなっており、第1のワイヤ151の各条と第2のワイヤ152の各条とはピッチPの等間隔となるように配置されている。
【0050】
以上の実施形態では、電極部材201A1,201A2の外面に設けられた溝206A1,2006A2はV字形とすることとして説明したが、図4(c)に示すように、各ワイヤ151,152の外面に沿った半円形の溝207A1,207A2としても良い。この場合には、各ワイヤ151,152を線ではなく面でサポートするため、各回転電極200A1,200A2に巻き掛けられることによる各ワイヤ151,152の負荷を低減し、各ワイヤ151,152の断線を抑制することができる。
【0051】
以上説明した実施形態では、それぞれ1本の第1のワイヤ151が複数条に巻き掛けられる第1の加工ユニット101と1本の第2のワイヤ152が複数条に巻き掛けられる第2の加工ユニット102との2つの加工ユニットが左右に並列に配置された構成となっていることとして説明したが、加工ユニットの数は2つに限らず、それぞれ1本のワイヤが複数条に巻き掛けられる3つまたは4つ以上の加工ユニットを各加工ユニットの各ガイドローラ、各回転電極、各アイドルローラの各回転軸の方向に隣接して配置する様に構成してもよい。また、本実施形態では、第1の加工ユニット101の各ガイドローラ24A1〜24F1、アイドルローラ300A1,300B1は、第2の加工ユニット102の各ガイドローラ24A2〜24F2、アイドルローラ300A2,300B2とそれぞれ別個の部材であり、それぞれの回転軸方向に沿って同軸に隣接して互いに電気的に絶縁して配置されていることとして説明したが、各ガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2、各アイドルローラ300A1,300B1,300A2,300B2がフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性が高くかつ絶縁性材料で構成されている場合には、それぞれの回転軸に同軸に隣接して配置される各ガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2、各アイドルローラ300A1,300B1,300A2,300B2は別部材とせず、例えば、ガイドローラ24A1,24A2を一体とし図2に示す回転軸124Aの周囲に回転自在に取り付けるように、隣接する各部材を一体として各回転軸124A〜124D,301A,301Bの周りにそれぞれ回転可能に配置するようにしてもよい。
【0052】
図5を参照して、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100に用いられる放電加工用の電源29の構成と動作について説明する。図5に示すように、電源29は、第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する第1の加工電源ユニット29Rと、第2の加工ユニット102に放電加工電力を供給する第2の加工電源ユニット29Lとを含んでいる。
【0053】
第1の加工電源ユニット29Rは、主直流電源292a1と、主直流電源292a1と直列に接続され、主直流電源292a1の出力を入り切りする主スイッチングトランジスタ291a1と、主直流電源292a1と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧が主直流電源292a1よりも低い副直流電源294a1と、副直流電源294a1と直列に接続され、副直流電源294a1の出力を入り切りする副スイッチングトランジスタ293a1と、を備えている。各スイッチングトランジスタ291a1,293a1の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。主直流電源292a1のプラス側にはプラス側出力線295Rが接続され、主直流電源292a1のマイナス側にはマイナス側出力線296Rが接続されている。プラス側出力線295Rは共通のプラス側出力線295を介してインゴット28に接続され、マイナス側出力線296Rは第1の加工ユニットの2つの回転電極接続線296A1,296B1に分岐し、回転電極接続線296A1は回転電極200A1に接続され、回転電極接続線296B1は回転電極200B1に接続されている。従って、第1の加工電源ユニット29Rは各回転電極200A1,200B1に共通の電源であり、各回転電極200A1,200B1には共通の第1の加工電源ユニット29Rから同一の放電加工電力が給電される。
【0054】
第2の加工電源ユニット29Lは、第1の加工電源ユニット29Rと同様の構成となっており、主直流電源292a2と、主直流電源292a2と直列に接続され、主直流電源292a2の出力を入り切りする主スイッチングトランジスタ291a2と、主直流電源292a2と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧が主直流電源292a2よりも低い副直流電源294a2と、副直流電源294a2と直列に接続され、副直流電源294a2の出力を入り切りする副スイッチングトランジスタ293a2と、を備えている。各スイッチングトランジスタ291a2,293a2の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。主直流電源292a2のプラス側にはプラス側出力線295Lが接続され、主直流電源292a2のマイナス側にはマイナス側出力線296Lが接続されている。プラス側出力線295Lは共通のプラス側出力線295を介してインゴット28に接続され、マイナス側出力線296Lは第2の加工ユニットの2つの回転電極接続線296A2,296B2に分岐し、回転電極接続線296A2は回転電極200A2に接続され、回転電極接続線296B2は回転電極200B2に接続されている。従って、第2の加工電源ユニット29Lは各回転電極200A2,200B2に共通の電源であり、各回転電極200A2,200B2には共通の第1の加工電源ユニット29Lから同一の放電加工電力が給電される。
【0055】
図5に示すように、第1の加工電源ユニット29Rと第2の加工電源ユニット29Lとは共通の制御部80で制御されるが、第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1と第2の加工電源ユニット29Lの各スイッチングトランジスタ291a2,293a2は、各加工電源ユニット29R,29Lでそれぞれ独立に動作し、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とにはそれぞれ独立したタイミングで放電加工電力が供給される。第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1と第2の加工電源ユニット29Lの各スイッチングトランジスタ291a2,293a2は互いに同期してオンオフするように動作しても良いし、互いに同期せずにオンオフの周期をずらして動作させるようにしてもよい。
【0056】
図6を参照しながら、第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に供給される放電加工電力について説明する。図6に示すように、放電加工電力は、放電加工を行う放電加工パルス297と、放電加工後に電源系統内のコンデンサ等に残留している残電荷を除去するための放電加工パルス297と逆電圧の残留電荷除電パルス298とを含む高周波パルス299である。この高周波パルス299は次のように第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1を動作させることによって得られる。最初、各スイッチングトランジスタ291a1,293a1はオフとなっており、第1の加工電源ユニット29Rから出力はでていない。図6の時間t1に、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなると主直流電源292a1からの電流がプラス側出力線295Rから出力され、インゴット28と各回転電極200A1,200B1との間には放電加工パルス297の電圧V1が印加される。そして、時間Δt1の間だけ主スイッチングトランジスタ291a1のオン状態を継続した後、図6の時間t2に主スイッチングトランジスタ291a1をオフとする。すると、プラス側出力線295Rから出力されていた主直流電源292a1からの電流が停止し、インゴット28と各回転電極200A1,200B1との間の印加電圧はゼロとなり放電加工パルス297は停止する。そして、所定の時間Δt2の間だけ印加電圧をゼロの状態に保持した後、時間t3に副スイッチングトランジスタ293a1がオンとなると副直流電源294a1からの電流がマイナス側出力線296Rから出力され、インゴット28と各回転電極200A1,200B1との間にはマイナスの電圧V2の残留電荷除電パルス298が印加される。そして、時間Δt3の間だけ副スイッチングトランジスタ293a1のオン状態を継続した後、図6の時間t4に副スイッチングトランジスタ293a1をオフとする。すると、マイナス側出力線296Rから出力されていた副直流電源294a1からの電流が停止し、インゴット28と各回転電極200A1,200B1との間の印加電圧はゼロとなり残留電荷除電パルス298は停止する。そして残留電荷除電パルス298の停止後、時間Δt4後の時間t5に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなる。このように、主スイッチングトランジスタ291a1、副スイッチングトランジスタ293a1を交互にオンオフしてプラス側の高圧の放電加工パルス297とマイナス側の低圧の残留電荷除電パルス298とを出力する。図6に示すように高圧の放電加工パルス297の周期はΔt0であり、その周波数は数10kHzから数100kHzの高周波である。また、低圧の残留電荷除電パルス298の周波数は高圧の放電加工パルス297との周波数と同じ周波数である。なお、図6では、残留電荷除電パルス298停止の後、時間Δt4後の時間t5に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなることとして説明したが、残留電荷除電パルス298の停止直後に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなることとしてもよい。この場合には、高圧の放電加工パルス297の周期はΔt0が短くなるのでより高い周波数の放電加工パルス297とでき、放電加工の速度を上げることができる。以上、第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する場合について説明したが、第2の加工電源ユニット29Lから第2の加工ユニット102に供給される放電加工電力についても第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する場合と同様である。
【0057】
本実施形態では、各主直流電源292a1,292a2、各副直流電源294a1,294a2は電池等の単純な直流電源として説明したが、放電加工パルス297の電圧V1あるいは残留電荷除電パルス298の電圧V2をそれぞれ供給できるものであれば、例えば、コンデンサやトランスを用いて電力を蓄えておき、この蓄えた電力を直流電力として供給するようなものとしても良い。
【0058】
図1から図4を参照して説明したような構造を有し、図5、図6を参照して説明した放電加工用の電源29を備えている本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の動作について図7を参照しながら説明する。図7は、第1の加工ユニット101の回転電極200A1,200B1、第2の加工ユニット102の回転電極200A2,200B2、インゴット28と、第1の加工電源ユニット29R、第2の加工電源ユニット29Lの電気的な接続状態を模式的に表した図である。隣接する各回転電極200A1,200A2及び,各回転電極200B1,200B2は電気的に絶縁されており、第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1は1つのマイナス側出力線296Rに接続され、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2も1つのマイナス側出力線296Lに接続されていることから、各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200A2,200B2はそれぞれ第1のワイヤ151の各条及び第2のワイヤ152の各条に対してそれぞれ共通の電極となっている。また、第1の加工ユニット101の回転電極200A1,200B1は第1の切断ワイヤ部分261の中心26C1までの距離LA,LBが同一となるように配置されており、インゴット28は、その中心28Cと第1の切断ワイヤ部分261の中心26C1を含む面内でインゴット28の送り方向に沿って延びる中心線28Dに沿って送り方向に移動していくので、各回転電極200A1,200B1からインゴット28の中心28Cまでの距離も同一となっている。従って、第1の加工ユニット101の各切断ワイヤ部分261とインゴット28との間には同一の放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298が第1のワイヤ151の各条の2箇所から同時に印加されることとなる。同様に、第2の加工ユニット102の回転電極200A2,200B2は第2の切断ワイヤ部分262の中心26C2までの距離LA,LBが同一となるように配置されており、インゴット28は、その中心28Cと第2の切断ワイヤ部分262の中心26C2を含む面内でインゴット28の送り方向に沿って延びる中心線28Dに沿って送り方向に移動していくので、各回転電極200A2,200B2からインゴット28の中心28Cまでの距離も同一となっている。従って、第2の加工ユニット102の各切断ワイヤ部分262とインゴット28との間には同一の放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298が第2のワイヤ152の各条の2箇所から同時に印加されることとなる。
【0059】
図7に示すように、第1の加工電源ユニット29Rから放電加工パルス297がインゴット28に入力されると回転電極200A1と回転電極200B1を通して第1の切断ワイヤ部分261とインゴット28との間に同一の放電加工パルス297が印加される。回転電極200A1,200B1は電気抵抗あるいはインピーダンスが低くなるように構成されているので、このような高周波の放電加工パルス297が印加された場合でも、その電圧を低下させずに第1の切断ワイヤ部分261とインゴット28との間に放電加工パルス297が印加される。1つの放電加工パルス297が印加された際、放電は第1の切断ワイヤ部分261の中で、点aと点a´、点bと点b´、点cと点c´、点dと点d´、点eと点e´の間で示されるインゴット28の中に入り込んでいる部分と、インゴット28との間の距離が最も近くなる部分で1回だけ発生する。例えば、放電加工パルス297が入力された際に第1の切断ワイヤ部分261aの点a側とインゴット28との距離が他の第1の切断ワイヤ部分261bから261eよりも短い場合には、放電は第1の切断ワイヤ部分261aとインゴット28との間でのみ発生し、他の第1の切断ワイヤ部分261bから261eとインゴット28との間では放電は発生しない。この場合、電流はインゴット28から第1の切断ワイヤ部分261aに流れ、点aに近い側に配置されている回転電極200A1に流れる。この放電によって点aの近傍が削られると、第1の切断ワイヤ部分261aとインゴット28との距離が他の部分よりも大きくなるので、次の放電加工パルス297が印加された際には点aの近くではないところ、例えば、他の第1の切断ワイヤ部分261bの点b近傍で放電が発生する。このように第1の加工ユニット101では1つの放電加工パルス297によって電圧が印加される都度1回だけ放電が発生し、その放電は第1の切断ワイヤ部分261a〜261eとインゴット28との距離が一番近くなっている部分でランダムに発生するので、第1の切断ワイヤ部分261はインゴット28を送り方向に均等に切断していくことができる。
【0060】
また、同様に、第2の加工電源ユニット29Lから放電加工パルス297がインゴット28に入力されると回転電極200A2と回転電極200B2を通して第2の切断ワイヤ部分262とインゴット28との間に同一の放電加工パルス297が印加される。回転電極200A2,200B2は電気抵抗あるいはインピーダンスが低くなるように構成されているので、このような高周波の放電加工パルス297が印加された場合でも、その電圧を低下させずに第2の切断ワイヤ部分262とインゴット28との間に放電加工パルス297が印加される。1つの放電加工パルス297が印加された際、放電は第2の切断ワイヤ部分262の中で、点fと点f´、点gと点g´、点hと点h´、点iと点i´、点jと点j´の間で示されるインゴット28の中に入り込んでいる部分と、インゴット28との間の距離が最も近くなる部分で1回だけ発生する。例えば、放電加工パルス297が入力された際に第2の切断ワイヤ部分262fの点f側とインゴット28との距離が他の第2の切断ワイヤ部分262gから262jよりも短い場合には、放電は第2の切断ワイヤ部分262fとインゴット28との間でのみ発生し、他の第2の切断ワイヤ部分262gから262jとインゴット28との間では放電は発生しない。この場合、電流はインゴット28から第2の切断ワイヤ部分262fに流れ、点fに近い側に配置されている回転電極200A2に流れる。この放電によって点fの近傍が削られると、第2の切断ワイヤ部分262fとインゴット28との距離が他の部分よりも大きくなるので、次の放電加工パルス297が印加された際には点fの近くではないところ、例えば、他の第2の切断ワイヤ部分262hの点g近傍で放電が発生する。このように第2の加工ユニット102では1つの放電加工パルス297によって電圧が印加される都度1回だけ放電が発生し、その放電は第2の切断ワイヤ部分262f〜262jとインゴット28との距離が一番近くなっている部分でランダムに発生するので、第2の切断ワイヤ部分262はインゴット28を送り方向に均等に切断していくことができる。
【0061】
第1の加工電源ユニット29Rと第2の加工電源ユニット29Lとはそれぞれ独立して放電加工電力を第1、第2の加工ユニットの回転電極200A1,200B1,200A2,200B2に供給するので、インゴット28は第1の加工ユニット101の第1の切断ワイヤ部分261及び第2の加工ユニット102の第2の切断ワイヤ部分262において略同様に切り込まれていく。そして、第1の加工ユニット101の第1の切断ワイヤ部分261と第2の加工ユニット102の第2の切断ワイヤ部分262のそれぞれでインゴット28が切断され、切断が終了すると各加工ユニット101,102においてそれぞれ複数枚のシリコンカーバイド(炭化ケイ素)の薄板を製造することができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、電極を回転電極200A1,200B1,200A2,200B2とすると共に、各給電端子220A1,220A2から各回転電極200A1,200B1,200A2,200B2の電極部材201A1,201B1,201A2,201B2までの電気抵抗あるいはインピーダンスを少なくして高周波パルス299を印加してもその電圧を低下させずに各切断ワイヤ部分261,262とインゴット28との間に印加することができるので、加工速度の低下を抑制するとともに長時間の加工を安定して行うことができるという効果を奏する。また、各電極部材201A1,201B1,201A2,201B2と各ワイヤ151,152との間に滑りがないので各ワイヤ151,152と各電極部材201A1,201B1,201A2,201B2との間に瞬間的に隙間ができて各ワイヤ151,152と各電極部材201A1,201B1,201A2,201B2との間で放電が発生することが抑制され、各電極部材201A1,201B1,201A2,201B2が削られてしまうことが抑制されると共に、各ワイヤ151,152の張力コントロールを容易に行うことができるという効果を奏する。
【0063】
また、本実施形態では、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とを備え、加工ユニット101,102にそれぞれ独立して放電加工電力を供給する第1、第2の加工電源ユニット29R,29Lを備えていることから、第1の加工ユニット101、第2の加工ユニット102で同時にインゴット28の切断を行うことができ、短時間に多くの枚数のシリコンカーバイド(炭化ケイ素)の薄板を製造することができる。また、長いインゴット28の加工を行うことができるので、薄板製造の歩留まりを向上させることができる。本実施形態では、各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の巻き掛け回数が5回、条数が5条、各切断ワイヤ部分261,262が5本として説明したが、本発明は各加工ユニット101,102のガイドローラ、回転電極の回転軸方向長さを増やしてそれぞれの加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の巻き掛け回数が数10回、条数が数10条、各切断ワイヤ部分261,262が数10本の以上のマルチワイヤ放電加工装置にも適用でき、特に、このような多くの巻き掛け回数のマルチワイヤ放電加工装置に適用されるとその効果が更に顕著となる。
【0064】
図8、図9を参照しながら、本発明の他の実施形態について説明する。図1から図7を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付けて説明は省略する。図8に示すように、本実施形態では、第1、第2、第3の3つの加工ユニット101,102,103を備えており、各加工ユニット101,102,103はそれぞれ回転電極200A1,200A2,200A3と各回転電極200A1,200A2,200A3に対向するように配置された共通のアイドルローラ300Aとを含んでいる。各加工ユニット101,102,103は、それぞれ図1を参照して説明した、各ワイヤ151,152,153を送る送り出しボビン10A、巻き取りボビン10B、プーリ11A〜11I、ダンサロール12、速度プーリ16、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13B、トルクモータ25D、クランプユニット19、クランプローラ19a、張力プーリ18、位置決めモータ25G、ワイヤ整列ユニット21を備えている。また、各加工ユニット101,102,103は、各ワイヤ151,152,153が複数回巻き掛けられて複数の各切断ワイヤ部分261,262,263を構成する複数のガイドローラ24A1〜24F1,24A2〜24F2,24A3〜24F3を含む各ガイドローラ組と、を備えている。図8においては、これらの部品は図示を省略している。図8に示す実施形態では、各加工ユニット101,102,103の各ワイヤ151,152,153は3回ずつ各ガイドローラ組に巻きかけられて、各ワイヤ151,152,153は3条の構成となっている。
【0065】
図8、図9に示すように、回転電極200A1,200A2,200A3は共通の絶縁シャフト275の外周に円筒形の電極部材201A1,201A2,201A3が嵌め込まれている。各電極部材201A1,201A2,201A3は互いに離間しており、電気的に絶縁されている。絶縁シャフト275は2つのボールベアリング276によって基盤250Aに回転自在に取り付けられている。基盤250Aに取り付けられた共通の絶縁シャフト273には各電極アーム270A1,270A2,270A3が回転自在に取り付けられ、各電極アーム270A1,270A2,270A3の先端側にはローラ形状の接続電極271A1,271A2,271A3が回転自在に取り付けられている。各電極アーム270A1,270A2,270A3はそれぞれ図示しないスプリングによって先端の各接続電極271A1,271A2,271A3が各電極部材201A1,201A2,201A3に押し付けられるように付勢されている。そして、各電極アーム270A1,270A2,270A3は図示しない第1、第2、第3の加工電源ユニット29R,29C,29Lの各回転電極接続線296B1,296B2,296B3に接続され、各加工電源ユニット29R,29C,29Lからの放電加工電力は各電極アーム270A1,270A2,270A3から各接続電極271A1,271A2,271A3を介して電極部材201A1,201A2,201A3に供給される。各電極部材201A1,201A2,201A3、各接続電極271A1,271A2,271A3は電気伝導度の高い銅等の材料で構成されている。
【0066】
図8に示すように、共通のアイドルローラ300Aはフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性が高くかつ絶縁性材料で構成され、回転軸301Aの周りに回転自在に取り付けられている。また、アイドルローラ300Aの外周面には、図4を参照して説明したような各ワイヤ151,152,153が巻き掛けられるV字型の溝が設けられている。各ワイヤ151,152,153の各条は、各電極部材201A1,201A2,201A3とアイドルローラ300Aの外周面との間に挟まれて各電極部材201A1,201A2,201A3に押し付けられ、各電極部材201A1,201A2,201A3から放電加工電力が各ワイヤ151,152,153に供給されるよう構成されている。
【0067】
本実施形態も各回転電極200A1,200A2,200A3が各ワイヤ151,152,153との相対速度がほとんどない状態で各ワイヤ151,152,153に給電することができるので、各ワイヤ151,152,153と電極部材201A1,201A2,201A3との間にすべりがなく各電極部材201A1,201A2,201A3の磨耗を抑制できるとともに、アイドルローラ300Aによって各ワイヤ151,152,153を電極部材201A1,201A2,201A3との間に挟みこんでいるので各ワイヤ151,152,153と各電極部材201A1,201A2,201A3との間に瞬間的に隙間ができて各ワイヤ151,152,153と各電極部材201A1,201A2,201A3との間で放電が発生することが抑制され、長時間の加工を安定して行うことができる。
【0068】
また、各電極部材201A1,201A2,201A3の外周面にも、図4(b)または図4(c)を参照して説明したような各ワイヤ151,152,153が巻き掛けられるV字型の溝206A1,206A2,206A3或いは、半円形の溝207A1,207A2,207A3を設けるようにしてもよい。
【0069】
図10から図12を参照して本発明の他の実施形態について説明する。図1から図7を参照して説明した部分と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。図10に示すように、本実施形態は4つの加工ユニット101,102,103,104を備え、各切断ワイヤ部分261〜264にそれぞれ放電加工用電力を給電するそれぞれ回転電極1200A1,1200A2,1200A3,1200A4を備えている。各回転電極1200A1,1200A2,1200A3,1200A4は、絶縁部材で構成された共通のガイドローラ24Aと24Bとの間に設けられ、それぞれ複数の切断ワイヤ部分26aから26hに給電する複数の電極部材1209b,1209a,1215b,1215aを備えている。各電極部材1209b,1209a,1215b,1215aは回転可能な円筒形であり、その外面には各切断ワイヤ部分26a〜26hに延びる各ワイヤ151〜154が巻き掛けられている。本実施形態では、8本の切断ワイヤ部分26a〜26hは隣接する2本ずつが各加工ユニット101〜104の各切断ワイヤ部分261〜264となっている。図10の一番右側から2条の切断ワイヤ部分26a,26bは第1の加工ユニット101の第1の切断ワイヤ部分261であり、図10の一番右側から3,4条目の切断ワイヤ部分26c,26dは第2の加工ユニット102の第2の切断ワイヤ部分262であり、図10の一番右側から5,6条目の切断ワイヤ部分26e,26fは第3の加工ユニット103の第3の切断ワイヤ部分263であり、図10の一番右側から7,8条目の切断ワイヤ部分26g,26hは第4の加工ユニット104の第4の切断ワイヤ部分264である。第1の切断ワイヤ部分261に伸びる第1のワイヤ151は共通のガイドローラ24Aと24Bと、軸1202bの周りに回転する電極部材1209bに巻き掛けられており、第2の切断ワイヤ部分262に伸びる第2のワイヤ152はガイドローラ24Aと24Bと、電極部材1209bと各ワイヤ151〜152の送り方向に向かってずれ、軸1202aの周りに回転する電極部材1209aに巻き掛けられており、第3の切断ワイヤ部分263に伸びるワイヤ153はガイドローラ24Aと24Bと、電極部材1209bと同じ軸1202bの周りに回転する電極部材1215bに巻き掛けられており、第4の切断ワイヤ部分264に伸びるワイヤ154はガイドローラ24Aと24Bと、電極部材1209aと同じ軸1202aの周りに回転する電極部材1215aに巻き掛けられている。このように、それぞれ2条ずつの各切断ワイヤ部分261〜264は、それぞれワイヤ151〜154の長手方向に対して交互に位置をずらして配置された電極部材1209b,1209a,1215b,1215aに巻き掛けられている。
【0070】
図11に示すように、軸1202bの周りに回転する電極部材1209b,1215bに巻き掛けられている第1、第3の切断ワイヤ部分261,263は、軸1202aの周りに回転する電極部材1209a,1215aの間を通って各電極部材1209b,1215bの外面に接触した後、ガイドローラ24Bに巻きかけられる。また、逆に軸1202aの周りに回転する電極部材1209a,1215aに巻き掛けられている第2、第4の切断ワイヤ部分262,264は、ガイドローラ24Aから各電極部材1209a,1215aの外面に巻き掛けられた後、軸1202bの周りに回転する電極部材1209b,1215bの間を通ってガイドローラ24Bに巻きかけられる。
【0071】
図10に示す各電極部材1209b,1209a,1215b,1215aの各給電板1205b,1205a,1211b,1211aは、それぞれ図示しない第1〜第4の加工電源ユニット29R、29C1,29C2,29Lのマイナス側あるいはグランド側と接続され、各電極部材1209b,1209a,1215b,1215aは各ワイヤ151〜154の送りに従って回転し、各加工電源ユニット29R、29C1,29C2,29Lからの放電加工用電力を各加工ユニット101〜104の各切断ワイヤ部分261〜264にそれぞれ供給する。
【0072】
図12に示すように、軸1202aは中心軸1220aを持つ円柱で、基盤250Aと反対の先端側に直径の細くなっている段部が設けられており、段部の外周には絶縁材で構成された絶縁スリーブ1203aが軸1202aに嵌め込み固定されている。絶縁スリーブ1203aの外側の基盤250A側には軸1202aの段部と板状の給電板1205aとの間を絶縁するための絶縁カラー1204aが嵌めこみ固定されている。絶縁カラー1204aの軸1202a先端側には導電性の導電カラー1206aが嵌め込み固定されている。導電カラー1206aの外周には溝が設けてあり、その溝に板状の給電板1205aの内径側がはまり込み、給電板1205aが導電カラー1206aに固定されている。導電カラー1206aの軸1202aの先端側には導電性軸受けであるボールベアリング1207が嵌め込み固定されている。ボールベアリング1207は内輪1207aと、外輪1208aと、内輪1207aと外輪1208aとの間に接触するように設けられたボール1218aとを含んでいる。内輪1207a,外輪1208a、ボール1218aはすべて金属製であり、内輪1207aと外輪1208aとの間の空間には導電性のグリスが注入されている。このため、内輪1207aと外輪1208aとは電気的に接続された状態となっている。内輪1207aの基盤250A側の端面は、導電カラー1206aの軸1202aの先端側端面と接触しており、給電板1205aと外輪1208aとは電気的に接続された状態となっている。そして、外輪1208aの外周側には円筒状の電極部材1209aが嵌め込み固定され、電極部材1209aは外輪1208aと共に軸1202aの周りに回転するよう構成されている。電極部材1209aは銅、あるいはステンレス等の金属製であり外輪1208aと電気的に接続される。電極部材1209aの外周側には第2のワイヤ152が巻き掛けられる2本の半円断面の溝1217aが設けられており、給電板1205aから供給された高周波のパルス電流は、給電板1205aから導電カラー1206a、ボールベアリング1207の内輪1207a、ボール1218a、外輪1208a、回転している電極部材1209aの外面の溝1217aに接触している第2のワイヤ152に流れ、第2の切断ワイヤ部分262(26c,26d)に給電される。
【0073】
ボールベアリング1207の軸1202aの先端側には、絶縁スリーブ1203aに嵌め込み固定された絶縁カラー1210aが設けられ、絶縁カラー1210aの軸1202aの先端側には、先に説明したと同様、導電カラー1212aと、導電カラー1212aの外周に嵌め込み固定された給電板1211aと、導電カラー1212aの軸1202a先端側に導電カラー1212aと内輪1213aとが接触するよう絶縁スリーブ1203aに取り付けられたボールベアリング1213と、ボールベアリング1213の外輪1214aと、外輪1214aの外周に嵌め込み固定され、外輪1214aと共に軸1202aの周りに回転する電極部材1215aが取り付けられている。ボールベアリング1213の内輪1213aと外輪1214aとの間にはボール1219aが取り付けられており、内輪1213aと外輪1214aとの間には導電性グリスが注入されている。ボールベアリング1213の軸1202aの先端側にはエンドプレート1216aが取り付けられ、エンドプレート1216aによって絶縁スリーブ1203a、絶縁カラー1204a、1210a、導電カラー1206a,1212a、ボールベアリング1207,1213が軸1202aの段部に一体に固定されている。電極部材1215aの外周側には第4のワイヤ154が巻き掛けられる2本の半円断面の溝1217aが第4のワイヤ154の横方向のピッチPと同様のピッチPで設けられており、給電板1211aから供給された高周波のパルス電流は、給電板1211aから導電カラー1212a、ボールベアリング1213の内輪1213a、ボール1219a、外輪1214aから回転している電極部材1215aの外面の溝1217aに接触している第4のワイヤ154に流れ、第4の切断ワイヤ部分264(26g,26h)に給電される。
【0074】
給電板1205a、電極部材1209aと給電板1211a、電極部材1215aとは絶縁スリーブ1203a、絶縁カラー1204a,1210aによって相互に電気的に絶縁されているので、第2の切断ワイヤ部分262,第4の切断ワイヤ部分264にはそれぞれ独立に各加工電源ユニットから高周波のパルス電力を供給することができる。
【0075】
以上、軸1202aに取り付けられた電極部材1209a,1215aの構造について説明したが、中心軸1220bを持つ円柱の軸1202bに取り付けられた電極部材1209b,1215bも同様の構成となっている。図12では、軸1202bに取り付けられた各部品に対応する部品には同様の符号の最後にbを付して示す。
【0076】
図12に示すように、軸1202bに取り付けられた電極部材1215bは、軸1202aに取り付けられた電極部材1215a,1209aの間の給電板1211aの配置されている軸方向位置に配置され、電極部材1209bは電極部材1209aの基盤250A側の給電板1205aの配置されている軸方向位置に配置され、各部品はエンドプレート1216bによって軸1202bの段部に一体に固定されている。そして、各電極部材1209a,1215a,1209a,1215bの外周に設けられた各2本の溝1217a、1217bはピッチPで等間隔に配置されるよう構成されている。このように、電極部材1209a,1215aと電極部材1209b,1215bとを各ワイヤ151〜154の長さ方向に沿って位置をずらし、各電極部材1209a,1215aの給電板1205a,1210aの配置される位置に軸1202bに取り付けられる電極部材1209b,1215bを配置することによって、各電極部材1209a,1215a,1209b,1215bに設けられる溝1217a,1217bのピッチP、巻き掛けられた各ワイヤ151〜154の横方向のピッチPを狭くすることができ、インゴット28をより薄くスライスすることができる。
【0077】
図13を参照して、本発明の他の本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100に用いられる放電加工用の電源29の構成と動作について説明する。図1から図7を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。図13に示すように、電源29は、第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する第1の加工電源ユニット29Rと第2の加工ユニット102に放電加工電力を供給する第2の加工電源ユニット29Lとを含んでいる。第1の加工電源ユニット29Rは、それぞれ一組の主スイッチングトランジスタと主直流電源とこれと並列に接続された一組の副スイッチングトランジスタと副直流電源により構成される3つのA1系電源系統290A1、B1系電源系統290B1、C1系電源系統290C1が並列に接続されたものである。A1系電源系統290A1は、A1系主直流電源292A1と、A1系主直流電源292A1と直列に接続され、A1系主直流電源292A1の出力を入り切りするA1系主スイッチングトランジスタ291A1と、A1系主直流電源292A1と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧がA1系主直流電源292A1よりも低いA1系副直流電源294A1と、A1系副直流電源294A1と直列に接続され、A1系副直流電源294A1の出力を入り切りするA1系副スイッチングトランジスタ293A1と、を備えている。各A1系スイッチングトランジスタ291A1,293A1の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。B1系電源系統290B1、C1系電源系統290C1も同様の構成で、B1系電源系統290B1は、B1系主スイッチングトランジスタ291B1、B1系主直流電源292B1、B1系副スイッチングトランジスタ293B1、B1系副直流電源294B1、を備えており、C1系電源系統290C1は、C1系主スイッチングトランジスタ291C1、C1系主直流電源292C1、C1系副スイッチングトランジスタ293C1、C1系副直流電源294C1、を備えている。
【0078】
各系電源系統290A1,290B1,290C1の各系主直流電源292A1,292B1,292C1のプラス側(各系副直流電源294A1,294B1,294C1のマイナス側)は共通のプラス側出力線295Rに接続され、各系電源系統290A1,290B1,290C1の各系主直流電源292A1,292B1,292C1のマイナス側(各系副直流電源294A1,294B1,294C1のプラス側)は共通のマイナス側出力線296Rに接続されている。プラス側出力線295Rはインゴット28に接続され、マイナス側出力線296Rは回転電極接続線296A1と回転電極接続線296B1とに分岐し、それぞれ第1の加工ユニット101の回転電極200A1、回転電極200B1に接続されている。従って、第1の加工電源ユニット29Rは各回転電極200A1,200B1に共通の電源であり、各回転電極200A1,200B1には共通の第1の加工電源ユニット29Rから同一の放電加工電力が給電される。
【0079】
図14に示すように、第1の加工電源ユニット29Rから出力される放電加工電力は、放電加工を行う電圧V1の高圧の放電加工パルス297と、放電加工パルス297と逆電圧の残留電荷除電パルス298とを含む高周波パルス299である。残留電荷除電パルス298は放電加工後に電源系統内のコンデンサ等に残留している残電荷あるいは放電が発生しなかった場合にコンデンサ等に残留している残電荷を除電するための逆電圧パルスであり、放電加工パルス297よりも低い電圧V2である。この高周波パルス299は次のように各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1,293A1〜293C1を動作させることによって得られる。
【0080】
図14に示すように、最初、各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1,293A1〜293C1はオフとなっており、第1の加工電源ユニット29Rから出力はでていない。図14の時間t1に、A1系主スイッチングトランジスタ291A1がオンとなるとA1系主直流電源292A1からの電流がプラス側出力線295Rから出力され、各回転電極200A1,200B1とインゴット28との間にはA1系放電加工パルス297Aの電圧V1が第1の加工電源ユニット29Rから出力される放電加工パルス297として印加される。そして、時間Δt3の間だけA1系主スイッチングトランジスタ291A1のオン状態を継続した後、図14の時間t2にA1系主スイッチングトランジスタ291A1をオフとする。すると、プラス側出力線295Rから出力されていたA1系主直流電源292A1からの電流が停止し、各回転電極200A1,200B1とインゴット28との間の印加電圧はゼロとなりA1系放電加工パルス297Aは停止し、第1の加工電源ユニット29Rから出力される放電加工パルス297も停止する。そして、所定の時間Δt4の間だけ印加電圧をゼロの状態に保持した後、時間t3にA1系副スイッチングトランジスタ293A1がオンとなるとA1系副直流電源294A1からの電流がマイナス側出力線296Rから出力され、各回転電極200A1,200B1とインゴット28との間にはマイナスの電圧V2のA1系残留電荷除電パルス298Aが第1の加工電源ユニット29Rから出力される残留電荷除電パルス298として印加される。そして、時間Δt5の間だけA1系副スイッチングトランジスタ293A1のオン状態を継続した後、図14の時間t4にA1系副スイッチングトランジスタ293A1をオフとする。すると、マイナス側出力線296Rから出力されていたA1系副直流電源294A1からの電流が停止し、各回転電極200A1,200B1とインゴット28との間の印加電圧はゼロとなりA1系残留電荷除電パルス298Aは停止し、第1の加工電源ユニット29Rから出力される残留電荷除電パルス298も停止する。このように、A1系主スイッチングトランジスタ291A1、A1系副スイッチングトランジスタ293A1を交互にオンオフしてプラス側の高圧のA1系放電加工パルス297Aとマイナス側の低圧のA系残留電荷除電パルス298Aとを出力する。
【0081】
そしてA1系残留電荷除電パルス298Aの停止後、時間Δt6後の時間t5に今度はB1系主スイッチングトランジスタ291B1がオンとなり、先にA1系各スイッチングトランジスタ291A1,293A1と同様、B1系各スイッチングトランジスタ291B1,293B1がオンオフ動作して、図14に示す時間t5から時間t8までのB1系放電加工パルス297BとB系残留電荷除電パルス298Bを発生させ、第1の加工電源ユニット29Rからの放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298として出力する。そして、時間t9に今度はC1系主スイッチングトランジスタ291C1がオンとなり、先にA1系、B1系各スイッチングトランジスタ291A1,291B1,293A1,293B1と同様、C1系各スイッチングトランジスタ291C1,293C1がオンオフ動作して、図14に示す時間t9から時間t12までのC1系放電加工パルス297CとC系残留電荷除電パルス298Cを発生させ、第1の加工電源ユニット29Rからの放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298として出力する。
【0082】
そして、時間t13に再びA1系主スイッチングトランジスタ291A1がオンとなり、それ以降上記のA1系、B1系、C1系の各スイッチングトランジスタ291A1〜291C1,293A1〜293C1は、それぞれ順次オンオフを行って各系放電加工パルス297A〜297C、各系残留電荷除電パルス298A〜298Cを順次第1の加工電源ユニット29Rからの放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298として出力するサイクルを繰り返す。このように、それぞれ周期を時間Δt2だけをずらしてA1系、B1系、C1系の各スイッチングトランジスタを順次動作させ、3系統の出力を合わせて第1の加工電源ユニット29Rからの出力とすることにより、各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1、293A1〜293C1のオンの周期Δt1は第1の加工電源ユニット29Rから出力される放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298の周期Δt2の3倍となっている。また、周期Δt2は、第1の加工電源ユニット29Rから出力される高周波パルス299の周期となる。このため、各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1、293A1〜293C1の動作回数が低減され、従来よりも周波数が高い高周波の放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298を出力することができる。図14に示す第1の加工電源ユニット29Rから出力される高圧の放電加工パルス297の周期はΔt2であり、その周波数は数10kHzから数100kHzの高周波である。また、低圧の残留電荷除電パルス298の周波数は高圧の放電加工パルス297との周波数と同じ周波数である。
【0083】
本実施形態では、各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1、293A1〜293C1の動作回数が低減されるので、各系スイッチングトランジスタ291A1〜291C1、293A1〜293C1の温度上昇を抑制しながら高周波の放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298を出力することができ、安定した放電加工を行うことができる。
【0084】
なお、図14では、A1系残留電荷除電パルス298A停止後、時間Δt6後の時間t5にB1系主スイッチングトランジスタ291B1がオンとなることとして説明したが、各系の残留電荷除電パルス298A〜298Cが停止後すぐに次の系統の主スイッチングトランジスタ291A1〜291C1がオンとなるようにしてもよい。この場合には、高圧の放電加工パルス297の周期Δt1が時間Δt6だけ短くなるのでより高い周波数の放電加工パルス297とできる。
【0085】
以上、第1の加工電源ユニット29Rの構成と各トランジスタのスイッチング動作について説明したが、第2の加工電源ユニット29Lも同様の構成で同様の動作をする。第2の加工電源ユニット29Lの各素子、各直流電源は図13において添え字2を付加したものである。
【0086】
図15、図16を参照しながら本発明の他の実施形態について説明する。図13、図14を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。図15に示す実施形態は各加工電源ユニット29R,29Lをそれぞれ3つの各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1,291D2〜291F2と1つの副スイッチングトランジスタ293G1,293G2の4つのスイッチングトランジスタによって構成するようにしたものである。
【0087】
図15に示すように、第1の加工電源ユニット29Rは、それぞれ1つのスイッチングトランジスタと1つの直流電源を含む4つのD1系電源系統290D1、E1系電源系統290E1、F1系電源系統290F1、G1系電源系統290G1が並列に接続されたものである。D1系電源系統290D1からF1系電源系統290F1は、それぞれD1系からF1系の各系主直流電源292D1〜292F1と、各系主直流電源292D1〜292F1に直列に接続され、各系主直流電源292D1〜292F1の出力を入り切りする各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1を備えている。また、G1系電源系統290G1は、D1系からF1系の各系主直流電源292D1〜292F1とプラスマイナスの方向が逆になっているG1系副直流電源294G1と、G1系副直流電源294G1に直列に接続され、G1系副直流電源294G1の出力を入り切りするG1系副スイッチングトランジスタ293G1を備えている。各系スイッチングトランジスタ291D1〜291F1,293G1の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。
【0088】
各系電源系統290D1〜290F1の各系主直流電源292D1〜292F1のプラス側は共通のプラス側出力線295Rに接続され、各系主直流電源292D1〜292F1のマイナス側は共通のマイナス側出力線296Rに接続されている。また、G1系電源系統290G1はG1系副直流電源294G1のマイナス側が共通のプラス側出力線295Rに接続され、G1系副直流電源294G1のプラス側が共通のマイナス側出力線296Rに接続されている。プラス側出力線295Rはインゴット28に接続され、マイナス側出力線296Rは回転電極接続線296A1と回転電極接続線296B1とに分岐し、それぞれ第1の加工ユニット101の回転電極200A1、回転電極200B1に接続されている。従って、第1の加工電源ユニット29Rは各回転電極200A1,200B1に共通の電源であり、各回転電極200A1,200B1には共通の第1の加工電源ユニット29Rから同一の放電加工電力が給電される。
【0089】
図16に示すように、本実施形態の第1の加工電源ユニット29Rにおいて、D1系からF1系の各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1は、それぞれのオンオフの周期Δt1の1/3の時間Δt2ずつずれて順次オンし、そのオン時間は時間Δt3である。そして、G1系副スイッチングトランジスタ293G1はD1系からF1系の各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1のオンのタイミングと時間Δt3+Δt4だけずれたタイミングでオンし、時間Δt2と同じ長さの時間Δt7の周期でオンオフを繰り返している。ここで時間Δt2は、第1の加工電源ユニット29Rから出力される高周波パルス299の周期となる。つまり、G1系副スイッチングトランジスタ293G1は各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1の周期Δt1の1/3の周期でオンオフしている。このように、G1系副スイッチングトランジスタ293G1は各系主スイッチングトランジスタの周期Δt1の各系主スイッチングトランジスタの個数分の1の周期Δt7でオンオフを繰り返すものである。そして、1つのG1系副スイッチングトランジスタ293G1は、一の主スイッチングトランジスタ(例えば、291D1)がオフとなっている間になってから次のスイッチングトランジスタ(例えば、291E1)がオンとなるまでの間にオンオフし、一のスイッチングトランジスタ(例えば、291D1)によって発生した放電加工パルス(例えば、297D)に続く残留電荷除電パルス298Gを発生させるものである。
【0090】
以上、第1の加工電源ユニット29Rの構成と各トランジスタのスイッチング動作について説明したが、第2の加工電源ユニット29Lも同様の構成で同様の動作をする。第2の加工電源ユニット29Lの各素子、各直流電源は図15において添え字2を付加したものである。
【0091】
本実施形態も先に説明した実施形態と同様、各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1、293D1〜293F1の動作回数が低減され、従来よりも周波数が高い高周波の放電加工パルス297を出力することができると共に、その電圧、電流が低い残留電荷除電パルス298を1つの各系副スイッチングトランジスタ293G1,293G2によって発生させることによってスイッチングトランジスタの個数を削減し、より簡便な構成でマルチワイヤ放電加工装置100の加工速度を向上させることができる。
【0092】
図17、図18を参照しながら本発明の他の実施形態について説明する。図15、図16を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。図17に示す実施形態は各加工電源ユニット29R,29Lを3つの各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1,291D2〜291F2とそれぞれ2つのG1系,G12,H1,H2系副スイッチングトランジスタ293G1,293G2,293H1,293H2の5つのスイッチングトランジスタによって構成するようにしたものである。
【0093】
図17に示すように、第1の加工電源ユニット29Rは、それぞれ1つのスイッチングトランジスタと1つの直流電源を含む5つのD1系電源系統290D1、E1系電源系統290E1、F1系電源系統290F1、G1系電源系統290G1,H1系電源系統290H1が並列に接続されたものである。D1系電源系統290D1からF1系電源系統290F1は、それぞれD1系からF1系の各系主直流電源292D1〜292F1と、各系主直流電源292D1〜292F1に直列に接続され、各系主直流電源292D1〜292F1の出力を入り切りする各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1を備えている。また、G1系電源系統290G1,H1系電源系統290H1は、D1系からF1系の各系主直流電源292D1〜292F1とプラスマイナスの方向が逆になっているG1系、H1系副直流電源294G1,294H1と、G1系、H1系副直流電源294G1,294H1に直列に接続され、G1系、H1系副直流電源294G1,294H1の出力を入り切りするG1系、H1系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1を備えている。各系スイッチングトランジスタ291D1〜291F1,293G1,293H1の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。
【0094】
各系電源系統290D1〜290F1の各系主直流電源292D1〜292F1のプラス側は共通のプラス側出力線295Rに接続され、各系主直流電源292D1〜292F1のマイナス側は共通のマイナス側出力線296Rに接続されている。また、G1系、H1系電源系統290G1,290H1はG1系、H1系副直流電源294G1,294H1のマイナス側が共通のプラス側出力線295Rに接続され、G1系、H1系副直流電源294G1,294H1のプラス側が共通のマイナス側出力線296Rに接続されている。プラス側出力線295Rはインゴット28に接続され、マイナス側出力線296Rは回転電極接続線296A1と回転電極接続線296B1とに分岐し、それぞれ第1の加工ユニット101の回転電極200A1、回転電極200B1に接続されている。従って、第1の加工電源ユニット29Rは各回転電極200A1,200B1に共通の電源であり、各回転電極200A1,200B1には共通の第1の加工電源ユニット29Rから同一の放電加工電力が給電される。
【0095】
図18に示すように、本実施形態の第1の加工電源ユニット29Rは、D1系からF1系の各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1はそれぞれのオンオフの周期Δt1の1/3の時間Δt2ずつずれて順次オンし、そのオン時間は時間Δt3である。ここで時間Δt2は、第1の加工電源ユニット29Rから出力される高周波パルス299の周期である。そして、G1系、H1系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1は放電加工パルス297と時間Δt3+Δt4だけずれたタイミングで時間Δt2の2倍の長さ時間Δt8の周期で交互にオンオフを繰り返しており、各副スイッチングトランジスタ293G1,293H1のオンオフのタイミングは相互に時間Δt2だけずれている。つまり、G1系副スイッチングトランジスタ293G1は各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1の周期Δt1の2/3の周期Δt8でオンオフしている。
【0096】
つまり、G1系、H1系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1は、一のスイッチングトランジスタ(例えば、291D1)がオフになってから次のスイッチングトランジスタ(例えば、291E1)がオンとなるまでの間にオンオフし、一のスイッチングトランジスタ(例えば、291D1)によって発生した放電加工パルス(例えば、297D)に続く残留電荷除電パルス(例えば、298G)を発生させる動作を交互に繰り返すものである。そして、G1系、H1系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1は、各系主スイッチングトランジスタの周期Δt1の[(各系副主スイッチングトランジスタの個数)/(各系主スイッチングトランジスタの個数分)]の周期Δt8でオンオフを繰り返すものである。これにより、2つのG1系、H1系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1によって各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1がオフとなっている間に交互にそれぞれ低圧の残留電荷除電パルス298G,298Hを発生させるものである。
【0097】
以上、第1の加工電源ユニット29Rの構成と各トランジスタのスイッチング動作について説明したが、第2の加工電源ユニット29Lも同様の構成で同様の動作をする。第2の加工電源ユニット29Lの各素子、各直流電源は図17において添え字2を付加したものである。
【0098】
本実施形態も先に説明した実施形態と同様、各系主スイッチングトランジスタ291D1〜291F1、293D1〜293F1の動作回数が低減され、従来よりも周波数が高い高周波の放電加工パルス297を出力することができると共に、その電圧、電流が低い残留電荷除電パルス298を2つの各系副スイッチングトランジスタ293G1,293H1,293G2,293H2によって発生させることによってスイッチングトランジスタの個数を削減し、より簡便な構成でマルチワイヤ放電加工装置100の加工速度を向上させることができる。
【0099】
以上説明した各実施形態では、各加工ユニットの各回転電極は円筒形状として説明したが、回転電極の形状は円筒形に限らず、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電することができる形状であれば他の形状でもよい。以下、図19を参照して、円筒形状以外の形状の回転電極の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は一例であって、他の形状としてもよい。図1から図18を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。
【0100】
図19に示す第1の加工ユニット101は、回転軸124A〜124Dの周りにそれぞれ回転するガイドローラ24A〜24Dに第1のワイヤ151が複数回巻き掛けられ、ガイドローラ24Bと24Cとの間に複数本の切断ワイヤ部分261が形成されている。第1の加工ユニット101は、ベルト式電極2200A,2200Bの二つの電極を備えている。ベルト式電極2200Aは、回転軸2203A1の周りに回転する円筒形の電極部材2201A1と、回転軸2203A2の周りに回転する円筒形の電極部材2201A2と、各電極部材2201A1,2201A2との間に張り掛けられた導電性の無端ベルト2202Aとを備えている。同様に、ベルト式電極2200Bは、回転軸2203B1の周りに回転する円筒形の電極部材2201B1と、回転軸2203B2の周りに回転する円筒形の電極部材2201B2と、各電極部材2201B1,2201B2との間に張り掛けられた導電性の無端ベルト2202Bとを備えている。
【0101】
図19に示すように、各ガイドローラ24A〜24Dが時計回りに回転すると、第1のワイヤ151が図中の矢印Rの方向に向かって送られる。一方、ベルト式電極2200Aの電極部材2201A1,2201A2はそれぞれ回転軸2203A1,2203A2の周りに反時計方向に回転し、各電極部材2201B1,2201B2との間に張り掛けられた導電性の無端ベルト2202Aを反時計回りに回転させる。導電性の無端ベルト2202Aは、ガイドローラ24Bの表面に押しつけられるように配置され、ガイドローラ24Bとの間に複数条の第1のワイヤ151の各条を挟み込んでいる。また、ベルト式電極2200Bも同様の構成で、導電性の無端ベルト2202Bがガイドローラ24Cの表面に押しつけられるように配置され、ガイドローラ24Cとの間に複数条の第1のワイヤ151の各条を挟み込んでいる。導電性の無端ベルト2202A,2202Bは、それぞれ第1のワイヤ151の矢印Rの方向ヘの送り速度と略同等の速度で回転し、これにより、第1の加工ユニット101のベルト式電極2200A,2200Bは、第1のワイヤ151の送り方向と同じ方向に向かって各無端ベルト2202A,2200Bが回転して共通の放電加工電力を第1のワイヤ151の各条に給電する。
【0102】
本実施形態は、図1〜図7を参照して説明した実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態は、導電性の無端ベルト2202A,2202Bをガイドローラ24B,24Cに押しつけて第1のワイヤ151の各条をその間に挟み込むように構成することとして説明したが、例えば、ガイドローラ24A,24Bの間及びガイドローラ24C,24Dの間の第1のワイヤ151の近傍にそれぞれアイドルローラを配置し、導電性の無端ベルト2202A,2202Bを各アイドルローラに押しつけて第1のワイヤ151の各条をその間に挟み込むように構成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10A 送り出しボビン、10B 巻き取りボビン、11A〜11I プーリ、12 ダンサロール、13A,13B ワイヤ張力センサ、16 速度プーリ、17 ガイド、18 張力プーリ、19 クランプユニット、19a クランプローラ、21 ワイヤ整列ユニット、22 滑りクラッチ、24A1〜24F1,24A2〜24F2 ガイドローラ、25A 送り出しモータ、25B 速度モータ、25C ドローモータ、25D トルクモータ、25E ステッピングモータ、25F,25G 位置決めモータ、25H 巻き取りモータ、26a〜26h,261〜264,261a〜262h 切断ワイヤ部分、26C1,26C2,28C 中心、27 ワーク送りユニット、28 インゴット、28D 中心線、28a 加工溝、29 電源、29L,29R 加工電源ユニット、31 位置センサ、32 断線検出センサ、70 粉、80 制御部、100 マルチワイヤ放電加工装置、101〜104 加工ユニット、124A〜124D,203A,203B,301A,301B 回転軸、151〜154 ワイヤ、200A1〜200B2,1200A1〜1200A4,2200A,2200B 回転電極、201A1〜201B2,1209a,1215a,1209b,1215b,2201A1〜2201B2 電極部材、202A1,202A2 導電性ベアリング、203A,273,275 絶縁シャフト、204A 導電シャフト、205A,205B 回転中心、206A1〜207A2,1217a,1217b 溝、208A,208A1,208A2 カラー、208A3 エンドリング、209 スペーサ、210A 段部、211A1,211A2,1207a,1213a 内輪、212A1,212A2,1208a,1214a 外輪、213A1,213A2,1218a,1219a ボール、214A1,214A2 導電性グリス、220A1,220A2 給電端子、250A 基盤、270A1〜270A3 電極アーム、271A1〜271A3 接続電極、276,1207,1213 ボールベアリング、290A1〜290H1 電源系統、291a1,291a2,291A1〜291F2 主スイッチングトランジスタ、293a1,293a2,293A1〜293H2 副スイッチングトランジスタ、292A1〜292C2,292a1,292a2 主直流電源、294a1,294a2,294A1〜294H2 副直流電源、295,295L,295R プラス側出力線、296A1〜296B3 回転電極接続線、296L、296R マイナス側出力線、297,297A〜297C 放電加工パルス、298,298A〜298H 残留電荷除電パルス、299 高周波パルス、300A,300A1〜300B2 アイドルローラ、1202a,1202b 軸、1203a 絶縁スリーブ、1204a,1210a 絶縁カラー、1205b,1205a,1211b,1211a 給電板、1206a,1212a 導電カラー、1216a,1216b エンドプレート、1220a,1220b 中心軸,2202A,2202B 無端ベルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を構成するワイヤと、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、
各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、
各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、
各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁され、
各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各切断ワイヤ部分とワークとの間で放電を行ってワークを加工するマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、円筒状の導電体であること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工ユニットの各回転電極は同軸に配置されていること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、
その各外輪の外側に各電極部材が取り付けられる各導電性軸受と、
各導電性軸受の各内輪が電気的に絶縁されて同軸に取り付けられるシャフトと、
各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される各給電部材と、を含んでいること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、
各電極部材が絶縁して取り付けられる回転軸と、
各電極部材の外面にそれぞれ押し付けられ、各電極部材にそれぞれ放電加工電力を供給する各接続電極と、を含んでいること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
隣接する各加工ユニットの各回転電極は各ワイヤの巻き掛け方向に位置をずらして交互に配置されていること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、
その各外輪の外側に各電極部材が取り付けられる各導電性軸受と、
各導電性軸受の各内輪が電気的に絶縁して取り付けられる複数のシャフトと、
各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される各給電部材と、を含み、
各シャフトは各加工ユニットの各ワイヤの巻き掛け方向に位置をずらして配置され、
隣接する各加工ユニットの各導電性軸受と各電極部材とは、各シャフトに交互に取り付けられていること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工ユニットは、各回転電極のワイヤ送り方向の上流側または下流側または両側或いは各回転電極に対向して配置され、各加工ユニットの各ワイヤの各条を各回転電極に押しつける複数のアイドルローラを備えること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項9】
請求項8に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各アイドルローラは、各回転電極との間に各加工ユニットの各ワイヤの各条を挟みこむこと、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工ユニットはそれぞれ複数の回転電極を含み、
各回転電極は、切断ワイヤ部分が伸びる方向の切断ワイヤ部分の中央からワイヤ巻き掛け方向に沿って互いに反対方向に向かって等距離の位置に配置されていること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
放電加工電力は、放電加工パルスと、放電加工パルスと逆電圧で放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスと、を含む高周波パルスであること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項12】
請求項11に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備えること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項13】
請求項12に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工電源ユニットは、複数の主スイッチングトランジスタを含み、
各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらして放電加工パルスを順次発生させること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタの個数は各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタの個数と同じかそれより多いこと、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副スイッチングトランジスタとを含み、
各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、
各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタがオフになってから各加工電源ユニットの次の主スイッチングトランジスタがオンとなるまでの間にオンオフし、各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタによって発生した放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを発生させること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項16】
請求項12から14のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタを含み、
各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、
各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニット毎に共通で、各加工電源ユニットの副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタのオンオフの周期の各加工電源ユニットの主スイッチングトランジスタの個数分の一の周期でオンオフし、各放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを順次発生させること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項17】
間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を構成するワイヤと、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、スイッチングトランジスタを含み各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁されるマルチワイヤ放電加工装置を用い、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各切断ワイヤ部分と炭化ケイ素のインゴットとの間で放電を行って炭化ケイ素のインゴットから複数の炭化ケイ素板を切り出す炭化ケイ素板の製造方法であって、
加工電源のスイッチングトランジスタをオンオフさせて高周波パルスを発生させ、この高周波パルスを放電加工用電力として供給すること、
を特徴とする炭化ケイ素板の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の炭化ケイ素板の製造方法であって、
マルチワイヤ放電加工装置の加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備え、
各加工ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらして放電加工パルスを順次発生させること、
を特徴とする炭化ケイ素板の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の炭化ケイ素板の製造方法であって、
各加工電源ユニットは、それぞれ複数の主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副スイッチングトランジスタとを含み、
各加工電源ユニットの各主スイッチングトランジスタはタイミングをずらしてそれぞれ所定の周期でオンオフして放電加工パルスを順次発生させ、
各加工電源ユニットの各副スイッチングトランジスタは各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタがオフになってから各加工電源ユニットの次の主スイッチングトランジスタがオンとなるまでの間にオンオフし、各加工電源ユニットの一の主スイッチングトランジスタによって発生した放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスを発生させること、
を特徴とする炭化ケイ素板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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