説明

マルチワイヤ放電加工装置及びそれを用いた炭化ケイ素板の製造方法

【課題】ワイヤ放電加工装置の加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行う。
【解決手段】間隔をおいて配設された各ガイドローラ24A〜24Hに間隔をあけて複数回巻き掛けられて複数条となり、第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bを構成するワイヤ151と、その各条に接し、その送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤ151の各条に給電する回転電極200A1〜200C1と、を含む第1の加工ユニット101と、同様の構成の第2の加工ユニット102とが左右に並べて配置され、各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152を巻き掛け方向に送りながら各加工ユニット101,102の各上側、下側切断ワイヤ部分261A〜262Bと各インゴット28A,28Bとの間で放電を行って各インゴット28A,28Bを切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤ放電加工装置の構造及びそのマルチワイヤ放電加工装置を用いて炭化ケイ素板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン等の円柱状インゴットからウェハを切り出す場合における切断手段として、砥粒を用いたワイヤソーが知られている。このワイヤソーは、複数のガイドローラ間に巻回された切断用ワイヤをその長手方向に高速駆動しながら、ワイヤに対してワークを切断送りすることにより、ワークから多数枚の薄片を同時に切り出すものである。
【0003】
しかし、このようなワイヤソーでは、ガイドローラ間に形成された複数本の切断ワイヤ部分に対し、加工用砥粒が混合された加工液(スラリー)を同時供給する必要があり、その取扱いは容易でない。また、ワイヤがワークに直接接触することによる断線を抑制するために比較的太いワイヤを使用する必要があり、切断加工代が大きくなってしまうという問題があった。さらに、従来のワイヤソーは、インゴットからウェハを切り出すのに長時間を要する場合もあり、加工時間短縮のニーズが高まっている。
【0004】
一方、近年、シリコンカーバイドが半導体の材料として注目されている。しかし、このシリコンカーバイドは硬質材料であるため、従来のワイヤソーでは、シリコンのインゴットを切断する以上の時間がかかってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、シリコンカーバイドのインゴットと切断用ワイヤとの間に電圧を断続的に印加し、各切断ワイヤ部分によってインゴットを放電加工の原理で切断する放電式ワイヤソーの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、単一の切断用ワイヤを複数のガイドローラに巻回することにより複数条の切断ワイヤ部分を形成し、通電部材を各条と接するように設け、各条と半導体インゴットとの間に電圧を印加して放電を発生させ、半導体インゴットを同時に3個以上に切断する方法が提案されている。
【0006】
一方、インゴットからウェハを高速で切り出すことが要請されている。この要請に対してワイヤをガイドローラに巻回する回数を増やして切断ワイヤ部分の条数を多くし、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加して各切断ワイヤ部分とワークとの間で同時に複数の放電を発生させることによって切断速度を上げることが考えられる。この場合、1本のワイヤをガイドローラに巻回して複数条のワイヤ切断部分を形成するので各切断ワイヤ部分は電気的に接続された状態となっている。このため、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加するには各切断ワイヤ部分同士の間を何らかの方法で絶縁することが必要となってくる。そこで、各切断ワイヤ部分同士の間でワイヤをコイル状にすることによって各切断ワイヤ部分間のインピーダンスを高くして電気的な絶縁状態とすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、互いに磁気的に絶縁されたコアの周囲にコイル状にしたワイヤを配置し、切断ワイヤ部分同士の間の電気的な絶縁をより高めようとすることが提案されている(例えば、特許文献3参照)
【0007】
特許文献2,3に記載された従来技術では、各切断ワイヤ部分それぞれに放電加工電力を印加することが必要となるので、各条のワイヤにそれぞれ接する切断ワイヤ部分と同数の導体ブロックと絶縁ブロックとが交互に並べて配置され、各ブロックをボルトで締め付けて一体化された電極ユニットが提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、ワイヤが導電ブロックと擦れることによって導電ブロックが磨耗してしまうので、頻繁に導電ブロックを交換することが必要であった。このため、マルチワイヤ放電加工装置において、導電体を硬質の超硬合金とする方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、複数の切断ワイヤ部分を規定するローラに当接するスリップリングを設け、スリップリング及びローラを介して各切断ワイヤ部分に並列に通電する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−248719号公報
【特許文献2】特開2000−94221号公報
【特許文献3】特開2006−75952号公報
【特許文献4】特開2000−107941号公報
【特許文献5】特開2009−166211号公報
【特許文献6】特開平10−55508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1から6に記載されたような複数の切断ワイヤ部分を有するマルチワイヤ放電加工装置では、複数の切断ワイヤ部分は1本のワイヤを複数回ローラなどに巻きかけることによって形成されていることから、1本のワイヤが複数回ワークとの間で放電を行うこととなる。ワイヤ表面には放電のたびにワークの成分が付着するため、放電加工によってシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行うと、シリコンカーバイドの粉が付着した切断ワイヤ部分が次のワイヤ切断部分まで送られ、給電のために導電ブロックに接触すると、ワイヤ表面に付着したシリコンカーバイドの粉がいわば砥石のような働きをして、導電ブロックの表面を磨耗させてしまうという問題があった。シリコンカーバイドは非常に硬質であることから、特許文献5に記載された従来技術のような超硬合金であってもその表面が簡単に磨耗してしまい、導電ブロックを頻繁に交換することが必要となる。また、特許文献1から5に記載された従来技術では、ワイヤと導電ブロックの表面との間に滑りがあるため、ワイヤと導電ブロックとの間に瞬間的に隙間ができ、ワイヤと導電ブロックとの間で放電が発生し、この放電により導電ブロックが削られてしまう場合がある。このため、特許文献1から5に記載された従来技術では直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合のような長時間の加工を安定して行うことが難しいという問題があった。
【0011】
また、特許文献5に記載された従来技術のような超硬合金は電気伝導率が低いことから、ワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い材料を電極に用いた場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。また、直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合には、その加工時間が長時間となるため、切断ワイヤ部分を規定するローラに電気伝導率は高いが摩耗しやすい材料を用いると、加工中にローラが摩耗して切断ワイヤ部分とインゴットとの距離が変化し、放電が不安定となってしまう場合がある。このため、切断ワイヤ部分を規定するローラには電気伝導率が低く、ワイヤが巻き掛けられても摩耗が少ない硬度の高い材料が用いられるので、特許文献6に記載されたようにローラにスリップリングを介して放電加工電力を印加する場合にもワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い電極によってワイヤに直接給電する場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。更に、特許文献6に記載された従来技術では、スリップリングとローラとの接触による電気抵抗により更にワイヤの各条に給電する電圧が低下し、電気伝導度の高い電極によってワイヤに直接給電する場合に比較してインゴットの切断速度が低下してしまうという問題があった。
【0012】
また、特許文献1から5に記載された従来技術では、放電加工を行うパルス電力は、ワークを電源のプラス側に接続し、スイッチングトランジスタを介してワイヤを電源のマイナス側に接続してスイッチングトランジスタをオンオフさせることによってワークとワイヤとの間に放電加工パルスを印加するものである。しかし、放電加工パルスが印加されても放電が発生しない場合があると、電源系統内に設けられているコンデンサ等に前回の放電加工パルスの印加による電荷が残留してしまい、その後の放電が不安定となる場合がある。この場合には放電パルスを印加する周期を長くして、残留している電荷がある程度放電した状態になってから次の放電加工パルスを印加するようにする方法が考えられる。しかし、放電加工の速度は所定の時間における放電の回数、すなわち所定時間における放電加工パルスの印加回数によるので、残電荷の放電を待って次の放電加工パルスを印加していたのでは加工時間を短くできないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、ワイヤ放電加工装置において加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置は、間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を複数組構成するワイヤと、各組の切断ワイヤ部分のワイヤ長手方向の両側にそれぞれ配置され、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する複数の回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各組の切断ワイヤ部分と各ワークとの間で放電を行って各ワークを加工することを特徴とする。
【0015】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各回転電極は、円筒状の導電体であること、としても好適であるし、各加工ユニットの切断ワイヤ部分の各組は、ワイヤの長手方向に並べて配置され、各回転電極は、ワイヤ送り方向に沿って最上流側にある第1の切断ワイヤ部分組のワイヤ送り方向上流側に配置される第1の回転電極と、ワイヤ送り方向に沿って最下流側にある第2の切断ワイヤ部分組のワイヤ送り方向下流側に配置される第2の回転電極と、ワイヤ送り方向に沿って切断ワイヤ部分の各組の中間にそれぞれ設けられる第3の回転電極と、を含んでいること、としても好適である。
【0016】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、各回転電極は、各組の切断ワイヤ部分の中央からワイヤ巻き掛け方向に沿って互いに反対方向に向かって等距離の位置に1つずつ配置されていること、としても好適であるし、各加工ユニットは、各回転電極のワイヤ送り方向の上流側または下流側または両側或いは各回転電極に対向して配置され、各加工ユニットのワイヤの各条を各回転電極に押しつける複数のアイドルローラを備えること、としても好適であるし、各アイドルローラは、各回転電極との間に各加工ユニットのワイヤの各条を挟みこむこと、としても好適である。
【0017】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、その外輪の外側に各回転電極が取り付けられる各導電性軸受と、各導電性軸受の内輪が電気的に絶縁されて同軸に取り付けられるシャフトと、各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される給電部材と、を含んでいること、としても好適であるし、各回転電極が絶縁して取り付けられる回転軸と、各回転電極の外面にそれぞれ押し付けられ、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する各接続電極と、を含んでいること、としても好適である。
【0018】
本発明のマルチワイヤ放電加工装置において、放電加工電力は、放電加工パルスと、放電加工パルスと逆電圧で放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスと、を含む高周波パルスであること、としても好適であるし、加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備えること、としても好適である。
【0019】
本発明の炭化ケイ素板の製造方法は、間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を複数組構成するワイヤと、各組の切断ワイヤ部分のワイヤ長手方向の両側にそれぞれ配置され、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する複数の回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁されるマルチワイヤ放電加工装置を用い、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各組の切断ワイヤ部分と各炭化ケイ素のインゴットとの間で放電を行って各炭化ケイ素のインゴットから複数の炭化ケイ素板を切り出す炭化ケイ素板の製造方法であって、加工電源のスイッチングトランジスタをオンオフさせて高周波パルスを発生させ、この高周波パルスを放電加工用電力として供給すること、を特徴とする。
【0020】
本発明の炭化ケイ素板の製造方法において、各炭化ケイ素のインゴットの各組の切断ワイヤ部分と交差する方向の位置を異ならせること、としても好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ワイヤ放電加工装置において加工速度を向上させると共に長時間の加工を安定して行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極と切断ワイヤ部分とを示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極とワイヤの付着物とを示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の加工電源の構成を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の放電加工用の高周波パルスの波形を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の放電加工の状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極の支持構造を示す説明図である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるマルチワイヤ放電加工装置の回転電極と切断ワイヤ部分とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、第1のワイヤ151が巻き掛けられて第1の上側切断ワイヤ部分261Aと第1の下側切断ワイヤ部分261Bとを含む第1の加工ユニット101と、第2のワイヤ152が巻き掛けられて第2の上側切断ワイヤ部分262Aと第2の下側切断ワイヤ部分262Bとを含む第2の加工ユニット102とが左右に並列に配置された構成となっている。第1の加工ユニット101は、送り出しモータ25Aによって回転駆動されて放電加工に用いられる黄銅、鉄線、タングステン線、モリブデン線などの金属線である第1のワイヤ151を送り出す送り出しボビン10Aと、滑りクラッチ22を介して取り付けられた巻き取りモータ25Hによって駆動されて第1のワイヤ151を巻き取る巻き取りボビン10Bと、第1のワイヤ151の送り経路を規定するプーリ11A〜11Iと、第1のワイヤ151の走行長さを調整して第1のワイヤ151の走行を安定させるダンサロール12と、第1のワイヤ151が巻き掛けられる面にゴム製の滑り止め部材が設けられ、速度モータ25Bによって駆動されて第1のワイヤ151の送り速度を規定する速度プーリ16と、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13Bと、出力トルクを調整することができるトルクモータ25Dによって駆動され、第1のワイヤ151が巻き掛けられている面にゴム製の滑り止め部材が取り付けられており、対向して設けられたクランプユニット19のクランプローラ19aとの間に第1のワイヤ151を挟みこんで送り方向に引っ張り、第1のワイヤ151に張力を掛ける張力プーリ18と、位置決めモータ25Gによって軸方向に移動するワイヤ整列ユニット21と、第1のワイヤ151が複数回巻き掛けられて複数の第1の上側切断ワイヤ部分261Aと第1の下側切断ワイヤ部分261Bとを構成する複数のガイドローラ24A〜24Hを含むガイドローラ組と、第1のワイヤ151が巻き掛けられて回転する3つ回転電極200A1,200B1,200C1と、各回転電極200A1,200B1,200C1の表面に第1のワイヤ151を押し付ける各アイドルローラ300A1,300B1,300C1と、を備えている。各回転電極200A1,200B1,200C1は回転しないよう固定された各シャフトの周りに回転するよう構成されている。図1に示すように、回転電極200A1は、第1のワイヤ151の送り方向に沿って上流側にある第1の上側切断ワイヤ部分261Aの第1のワイヤ151の送り方向上流側に配置され、回転電極200B1は、第1のワイヤ151の送り方向に沿って下流側にある第1の下側切断ワイヤ部分261Bの第1のワイヤ151の送り方向下流側に配置され、回転電極200C1は、第1のワイヤ151の送り方向に沿って第1の上側切断ワイヤ部分261Aと第1の下側切断ワイヤ部分261Bとの中間に配置されている。
【0024】
送り出しボビン10Aから図1に示す矢印Rの方向に繰出された第1のワイヤ151は、プーリ11A、ダンサロール12、プーリ11B,11C、速度プーリ16、プーリ11D、第1のワイヤ張力センサ13A、プーリ11E、11Fの順に巻き掛けられ、プーリ11Fを出た第1のワイヤ151は、多数のガイド溝をもつガイドローラ24Aから24H、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1,300C1の外面に、ガイドローラ24A、アイドルローラ300A1、回転電極200A1、ガイドローラ24B,24G、アイドルローラ300C1、ガイドローラ24H,24C、回転電極200B1、アイドルローラ300B1、ガイドローラ24D,24E,24Fの順に巻きかけられる。回転電極200C1はアイドルローラ300C1との間に第1のワイヤ151を挟みこんでいる。各ガイドローラ24Aから24Hは第1の加工ユニット101、第2の加工ユニット102との間で共通である。ガイドローラ24Fを出た第1のワイヤ151は最初にガイドローラ24Aに巻きかけられている第1のワイヤ151の部分とガイドローラ24Aの軸方向にピッチPだけ離れた位置から再びガイドローラ24Aから24Hに巻きかけられていく。最初に巻きかけられた第1のワイヤ151の部分と、次に巻き掛けられた第1のワイヤ151の部分との各ガイドローラ24Aから24Hまで間の軸方向の間隔はいずれの場所でもピッチPとなっている。このように第1のワイヤ151はガイドローラ24Aから24H、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1,300C1に複数回巻き掛けられ、回転電極200C1に複数回接する。そして、第1のワイヤ151はガイドローラ24Aから24H、回転電極200A1,200B1、アイドルローラ300A1,300B1,300C1に複数回巻き掛けされ、回転電極200C1に複数回接した後、プーリ11G、第2のワイヤ張力センサ13B、プーリ11H、張力プーリ18、プーリ11I、ワイヤ整列ユニット21を通り、巻き取りボビン10Bに巻き取られる。
【0025】
図1に示すように本実施形態では、第1のワイヤ151はガイドローラ24Aから24Hに5回巻き掛けられており、第1のワイヤ151は5条となっている。ここで、巻き掛け回数は、第1の上側切断ワイヤ部分261Aを規定するガイドローラ24B及び24G並びに第1の下側切断ワイヤ部分261Bを規定するガイドローラ24H及び24Cに巻き掛けられている回数である。従って、第1のワイヤ151の最後の巻き掛けのように第1のワイヤ151がガイドローラ24Fからガイドローラ24Aに戻らずプーリ11Gに向って延びてもガイドローラ24B〜24Cに巻きかけられているので、巻き掛け回数は1回と数える。つまり、巻き掛けの回数はガイドローラ24Bとガイドローラ24Gとの間に張られている第1の上側切断ワイヤ部分261Aの本数並びにガイドローラ24Hとガイドローラ24Cとの間に張られている第1の下側切断ワイヤ部分261Bの本数となり、本実施形態では、第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bはそれぞれ5本となる。なお、本実施形態では、説明のために第1のワイヤ151の巻き掛け回数は5回、条数は5条、第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bはそれぞれ5本として説明するが、巻き掛け回数、条数はこれ以上であってもよいし、これより少ない巻き掛け回数、条数であってもよい。
【0026】
第2の加工ユニット102は先に説明した第1の加工ユニット101と同様の構成で、第2のワイヤ152の送りのために用いられる、送り出しボビン10Aと、巻き取りボビン10Bと、プーリ11A〜11Iと、ダンサロール12と、速度プーリ16と、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13Bと、トルクモータ25Dと、クランプユニット19、クランプローラ19aと、張力プーリ18と、位置決めモータ25Gと、ワイヤ整列ユニット21とは、第1のワイヤ151送りのための各機器と独立して、例えば上下方向に並列に設置されている。ただし、図1では、これらの第2のワイヤ152の送りのために用いられる各機器については、図示を省略している。
【0027】
第2の加工ユニット102は、第2のワイヤ152が複数回巻き掛けられて複数の第2の上側、下側切断ワイヤ部分262A,262Bを構成する共通のガイドローラ24A〜24Hを含むガイドローラ組と、第2のワイヤ152が巻き掛けられて回転する複数の回転電極200A2,200B2,200C2と、回転電極200A2,200B2,200C2の表面に第2のワイヤ152を押し付けるアイドルローラ300A2,300B2,300C2とを備えている。図1に示すように、第2加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2、アイドルローラ300A2,300B2,300C2も第1の加工ユニット101の対応する各回転電極200A1,200B1,200C1、対応する各アイドルローラ300A1,300B1,300C1と同軸で各回転電極200A1、200B1、200C1、200A2、200B2、200C2、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1,300A2,300B2,300C2の回転軸の方向に隣接して配置され、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2、各アイドルローラ300A2,300B2,300C2と隣接する第1の加工ユニット101の対応する各回転電極200A1,200B1,200C1、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1とは電気的に絶縁されている。
【0028】
図1では、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とを区別して記載するために、第1の加工ユニット101の図1に示す第1のワイヤ151の一番左端の条と第2の加工ユニット102の一番右側の条との間の各ガイドローラ24A〜24Hの回転軸方向の間隔はピッチPよりも広く描かれているが、本実施形態では、後で説明する図4に示すように、第1の加工ユニット101の図1に示す第1のワイヤ151の一番左端の条と第2の加工ユニット102の一番右側の条との間の各ガイドローラ24A〜24Hの回転軸方向の間隔はピッチPとなっている。ただし、この間隔はピッチPに限られず、これよりも広くても狭くてもよい。
【0029】
本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とによって加工されるワークである2つのシリコンカーバイトのインゴット28A,28Bを各加工ユニット101,102の各上側切断ワイヤ部分261A,262A及び各下側切断ワイヤユニット261B,262Bに向かって送る送りユニット27A,27Bと、各加工ユニット101,102に放電加工電力をそれぞれ供給する電源29と各加工ユニット101と、ワーク送りユニット27A,27Bと電源29及び各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の送りのための各機器を制御する制御部80とを備えている。電源29は、後で説明する図5に示すように、第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する第1の加工電源ユニット29Rと、第2の加工ユニット102に放電加工電力を供給する第2の加工電源ユニット29Lとを備えている。
【0030】
図1に示すように、ガイドローラ24Fはドローモータ25Cによって回転駆動され、ワーク送りユニット27A,27Bはそれぞれステッピングモータ25EA,25EBによって駆動されるよう構成されている。また、マルチワイヤ放電加工装置100の第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とは、それぞれダンサロール12の位置を検出する位置センサ31と、ワイヤの断線を検出する断線検出センサ32とを備えている。そして、各加工ユニット101,102のそれぞれの送り出しモータ25A、速度モータ25B、ドローモータ25C、トルクモータ25D、巻き取りモータ25Hは、ロータリーエンコーダを内蔵しており、その回転数を出力することができるモータである。また、各加工ユニット101,102の各位置決めモータ25F,25Gは、内部の回転子の回転角度を検出することができ、回転子の回転角度から各加工ユニット101,102のそれぞれのガイド17、ワイヤ整列ユニット21の位置を検出することができるよう構成されている。また、各ワーク送りユニット27A,27Bは、各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bで各ワイヤ151,152の送り方向と直交する方向に向かって各インゴット28A,28Bを移動させることができるよう配置され、各ステッピングモータ25EA,25EBによって駆動されるよう構成されている。各ステッピングモータ25EA,25EBは内部の回転子の回転角度を検出することができ、回転子の回転角度から各インゴット28A,28Bの位置を検出することができるよう構成されている。電源29の各加工電源ユニット29R,29Lの各プラス側出力線295R,295Lは共通のプラス側出力線295からそれぞれインゴット接続線295A,295Bによって各インゴット28A,28Bに接続され、各マイナス側出力線296R,296Lから分岐した各第1の回転電極接続線296A1,296B1,296C1、各第2の回転電極接続線296A2,296B2,296C2によってそれぞれ第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1,200C1、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2に接続され、各インゴット28A,28Bと各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2との間に各加工ユニット101,102の各放電加工電力を給電するよう構成されている。
【0031】
本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100では、各インゴット28A,28B及び各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2は電気伝導率が調整された純水または油系の加工液に浸漬されており、各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261A,262A,261B,262Bと各インゴット28A,28Bとの間の放電は水中で行われ、加工中に各インゴット28A,28B全体の温度の上昇を抑えることができるよう構成されている。また、電気伝導率が調整された純水または油系の加工液を各加工ユニット101,102の各切断ワイヤ部分261,262とインゴット28の間にかける水掛によって加工中のインゴット28全体の温度の上昇を抑えることとしてもよい。
【0032】
各加工ユニット101,102の送り出しボビン10A、巻き取りボビン10Bを回転させる送り出しモータ25A、巻き取りモータ25Hと、速度プーリ16を回転させる速度モータ25Bと、ガイドローラ24Fを回転させるドローモータ25Cと、張力プーリ18を回転させるトルクモータ25Dと、ステッピングモータ25EA,25EBと、位置決めモータ25F,25Gと、電源29とは制御部80に接続され、制御部80の指令によって動作するよう構成されている。また、各加工ユニット101,102の第1、第2のワイヤ張力センサ13A,13Bと、ダンサロール12の位置を検出する位置センサ31と、ワイヤ15の断線を検出する断線検出センサ32とは制御部80に接続され、各検出信号は制御部80に入力されるよう構成されている。制御部80は、内部の信号処理用のCPUと制御用のプログラムやデータを格納するメモリを備えるコンピュータである。制御部80は各加工ユニット101,102にそれぞれ設けられた断線検出センサ32によって第1のワイヤ151、第2のワイヤ152の断線が検出された場合には、マルチワイヤ放電加工装置100の動作を停止する。
【0033】
図2に示す様に、以上のよう構成されたマルチワイヤ放電加工装置100において、第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151が図中の矢印Rの方向に送られると、ガイドローラ24A〜24H、各回転電極200A1,200B1,200C1、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1は第1のワイヤ151の巻きかけられている各面あるいは第1のワイヤ151が接する各面が第1のワイヤ151の送り方向と同方向となるように、各ガイドローラ24A、回転電極200A1、各ガイドローラ24B,24G,回転電極200C1、各ガイドローラ24H,24C、回転電極200B1、ガイドローラ24Dはそれぞれ回転軸124A,203A,124B,124G,203C,124H,124C,203B,124Dの周りに時計方向に回転し、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1はそれぞれ回転軸301A,301B,301Cの周りに反時計周りに回転する。各ガイドローラ24A〜24D、24G,24H、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1はフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性の高い絶縁材料が用いられている。また、回転電極200A1,200B1,200C1の円筒形の電極部材201A1,201B1,201C1には電気伝導度の高い銅、銅タングステン等の銅合金、銀タングステン等の銀合金等の材料が用いられている。各回転電極200A1,200B1,201C1の円筒形の電極部材201A1,201B1,201C1は、その周速が第1のワイヤ151の送り速度と略同様となるように回転するので、第1のワイヤ151との相対速度が略ゼロであり、従来の固定式の電極のようなワイヤと電極との擦れが発生することはなく、電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも表面が磨耗してしまうことが抑制される。また、各電極部材201A1,201B1,201C1と第1のワイヤ151との間に滑りがないので第1のワイヤ151と電極部材201A1,201B1,201C1との間に瞬間的に隙間ができて第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1,201C1との間で放電が発生することが抑制され、第1のワイヤ151によって各電極部材201A1,201B1,201C1が削られてしまうことが抑制される。図2は第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151の巻き掛けと、各ガイドローラ24A〜24H、各回転電極200A1,200B1,200C1、アイドルローラ300A1,300B1,300C1の回転について述べたが、図示しない第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2もそれぞれ共通の回転軸203A,203B,203Cの周りに時計方向に回転し、各アイドルローラ300A2,300B2,300C2もそれぞれ共通の回転軸301A,301B,301Cの周りに反時計周りに回転する。各ガイドローラ24A〜24H、各アイドルローラ300A2,300B2,300C2は同様にフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性の高い絶縁材料が用いられ、回転電極200A2,200B2,200C2の円筒形の電極部材201A2,201B2,201C2には電気伝導度の高い銅、銅タングステン等の銅合金、銀タングステン等の銀合金等の材料が用いられている。第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2の円筒形の電極部材201A2,201B2,201C2は、その周速が第2のワイヤ152の送り速度と略同様となるように回転するので、第2のワイヤ152との相対速度も略ゼロであり、従来の固定式の電極のようなワイヤと電極との擦れが発生することはなく、電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも表面が磨耗してしまうことが抑制される。
【0034】
複数本のワイヤ151,152で構成される第1、第2の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bを有するマルチワイヤ放電加工装置100でシリコンカーバイド(炭化ケイ素)の各インゴット28A,28Bを切断する場合、ワイヤの表面には放電のたびにシリコンカーバイドの成分が粉70として付着する。図3に示すように、第1の加工ユニット101の放電加工では各インゴット28A,28Bを第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bに向って送りながら行うので、第1のワイヤ151と各インゴット28A,28Bとの放電は第1のワイヤ151の各インゴット28A,28B側と各インゴット28A,28Bの加工溝28aとの間で発生することが多い。このため、放電加工によって飛び散ったシリコンカーバイドの粉70は主に第1のワイヤ151の各インゴット28A,28B側の表面に付着する。そこで、本実施形態ではシリコンカーバイドの粉70の付着が少ない各インゴット28A,28Bと反対側の第1のワイヤ151の表面が各電極部材201A1,201B1,201C1の表面に設けられた溝206A1,206B1,206C1に接するように各回転電極200A1,200B1,200C1を配置している。このため、放電加工によって第1のワイヤ151に付着したシリコンカーバイドの粉70が各電極部材201A1,201B1,201C1の溝206A1,206B1,206C1に接することが抑制され、電極部材201A1,201B1,201C1の溝206A1,206B1,206C1が磨耗することが抑制される。これによって、直径の大きなシリコンカーバイド等の硬質材料のスライスを行う場合のように長時間の放電加工を行う場合でも繁雑に電極を交換することなく、安定して第1のワイヤ151に放電加工電力を給電し、放電加工をすることができる。以上、図3では第1の加工ユニット101について説明したが、第2の加工ユニット102も同様である。
【0035】
図2に示すように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の第1の加工ユニット101では、回転電極200A1の矢印Rで示すワイヤの送り方向の上流側にアイドルローラ300A1が配置され、回転電極200A1のワイヤ送り方向の下流側に第1の上側切断ワイヤ部分261Aを構成するガイドローラ24Bが配置され、アイドルローラ300A1は、回転電極200A1の電極部材201A1への第1のワイヤ151の巻き掛け角度が角度θ1(rad)となるように配置されている。この場合、電極部材201A1の直径をDとすると、第1のワイヤ151は電極部材201A1に(θ1×D/2)の長さだけ接触する。また、第1のワイヤ151には張力Tが掛かっていることから、張力Tにより、F1=2×T×sin(θ1/2)、だけの力によって第1のワイヤ151が電極部材201A1の表面に押し付けられる。回転電極200B1も同様である。このように、本実施形態の各回転電極200A1,200B1は各電極部材201A1,201B1と第1のワイヤ151との接触長を長くとれると共に、第1のワイヤ151が各電極部材201A1,201B1に押し付けられる。また、回転電極200C1はアイドルローラ300C1との間に第1のワイヤ151を挟みこんで、第1のワイヤ151と電極部材201C1との間の接触力を保持するようにしている。このため、放電加工電力を各電極部材201A1,201B1,201C1から第1のワイヤ151の各条に給電する際の電気抵抗或いはインピーダンスが少なく、電圧を低下させずに放電加工電力を供給することができる。そして、各回転電極200A1,200B1,200C1は第1のワイヤ151の送り方向と同方向に向かって回転するので各電極部材201A1,201B1,201C1と第1のワイヤ151との相対速度がほとんどない状態で第1のワイヤ151と接触する。このため、各電極部材201A1,201B1,201C1に電気伝導度の高い銅等の材料を用いた場合でも、接触状態がよく、第1のワイヤ151が押し付けられた状態でもその表面が磨耗することがなく、第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1,201C1との間に瞬間的に隙間ができて第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1,201C1との間で放電が発生することが抑制され、各電極部材201A1,201B1,201C1が削られてしまうことが抑制される。このため、長時間安定して第1のワイヤ151に放電加工電力を給電し、放電加工をすることができる。また、電源29から給電される放電加工電力の電圧を低下させずに第1のワイヤ151に給電することができ、放電加工速度が低下することを抑制することができる。以上、図2を参照して第1の加工ユニット101の第1のワイヤ151と各電極部材201A1,201B1,201C1との接触について説明したが、第2の加工ユニット102の第2のワイヤ152と各電極部材201A2,201B2,201C2との接触についても同様である。
【0036】
また、図2に示すように、第1の加工ユニット101の第1の上側切断ワイヤ部分261A,第1の下側切断ワイヤ部分261Bはそれぞれ第1の加工ユニット101のY方向の中心線101Cの上下に対称に配置され、第1の加工ユニット101の回転電極200C1は中心線101Cの上で、各第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261BからX方向に距離X2の位置に配置され、アイドルローラ300C1は中心線101Cの上で回転電極200C1との間に第1のワイヤ151を挟みこむことができるよう、回転電極200C1と対向するように配置されている。第1の加工ユニット101の2つの隣り合う同一直径のガイドローラ24B,24Gの間の直線の第1のワイヤ151は複数の第1の上側切断ワイヤ部分261Aを構成し、ガイドローラ24H,24Dの間の直線の第1のワイヤ151は複数の第1の下側切断ワイヤ部分261Bを構成する。そして、ガイドローラ24Bの下端と24Gの上端との間の高さY1が第1の上側切断ワイヤ部分261Aの長さで、ガイドローラ24Hの下端と24Dの上端との間の高さY1が第1の下側切断ワイヤ部分261Bの長さとなる。第1の上側切断ワイヤ部分261AのY方向(上下方向)の中心は中心26CA1であり、第1の下側切断ワイヤ部分261BのY方向(上下方向)の中心は中心26CB1であり、各中心26CA1,26CB1は、第1の加工ユニット101の中心線101CからY方向に対称に距離Y3の位置に配置されている。また、第1の上側切断ワイヤ部分261Aの第1のワイヤ151の上流側に配置された回転電極200A1は、回転中心205A(回転軸203A)が第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1からX方向(横方向)にX1、Y方向のプラス側にY2の位置で第1の加工ユニット101の中心線101Cからプラス方向にY4の位置となるように配置され、第1の下側切断ワイヤ部分261Bの第1のワイヤ151の下流側に配置された回転電極200B1は、回転中心205B(回転軸203B)が第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1からX方向(横方向)にX1、Y方向のマイナス側にY2の位置で第1の加工ユニット101の中心線101Cからプラス方向にY4の位置となるように配置されている。また、各アイドルローラ300A1,300B1は、それぞれ第1の加工ユニット101の中心線101CからY方向に対称の位置で、各第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bの各中心26CA1,26CB1からそれぞれ等距離に配置されている。つまり、各回転電極200A1,200B1、200C1アイドルローラ300A1,300B1,300C1、ガイドローラ24A〜24D,24G,24Hを第1の加工ユニット101の中心線101Cの上下に対称に配置されている。
【0037】
また、回転電極200C1から第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1までの第1のワイヤ151に沿った距離と、回転電極200A1から第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1までの第1のワイヤ151に沿った距離とは同一であり、回転電極200C1から第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1までの第1のワイヤ151に沿った距離と、回転電極200B1から第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1までの第1のワイヤ151に沿った距離とは同一であり、回転電極200C1から第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1までの第1のワイヤ151に沿った距離と、回転電極200C1から第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1までの第1のワイヤ151に沿った距離とが同一となるように、距離X1,X2,Y2,Y3,Y4が選択されている。従って、各回転電極200A1,200C1は第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1から第1のワイヤ151の巻きかけられる経路に沿って同一距離に配置され、第1の上側切断ワイヤ部分261Aに対して均等に放電加工電力を供給することができ、各回転電極200B1,200C1は第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1から第1のワイヤ151の巻きかけられる経路に沿って同一距離に配置され、第1の下側切断ワイヤ部分261Bに対して均等に放電加工電力を供給することができる。そして、各インゴット28A,28Bを切断する際には円筒状の各インゴット28A,28Bの各中心28CA,28CBを第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261BのY方向の中心26CA1,26CB1に合わせて各中心26CA1,26CB1,28CA,28CBを通ってインゴット28A,28Bの送り方向に延びる中心線28DA,28DBに沿って送って放電加工を行うので、放電加工の際に、各インゴット28A,28Bの上部と下部とをそれぞれ均等に加工することができる。以上、図2を参照して第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1の配置について説明したが、第2の加工ユニット102についても同様である。
【0038】
図4を参照しながら、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の回転電極200A1,200A2の支持構造について説明する。図4(a)に示すように、第1の加工ユニットの回転電極200A1,200A2は、マルチワイヤ放電加工装置100のベースに取り付けられて回転しない基盤250Aに固定された回転しない円筒状の絶縁シャフト203Aの外周にそれぞれ2つの導電性軸受である導電性ベアリング202A1,202A2を介して電極部材201A1,201A2が取り付けられたものである。電極部材201A1,201A2は、電気伝導率が良い銅等の材料で構成された円筒状の導電体である。導電性ベアリング202A1,202A2は、絶縁シャフト203Aの外周に固定される金属製の内輪211A1,211A2と、電極部材201A1,202A2の内面にそれぞれ嵌め込まれる金属製の外輪212A1,212A2と、内輪211A1,211A2と外輪212A1,212A2との間にそれぞれ挟みこまれ、周状に配置された金属製のボール213A1,213A2とによって構成されている。また、内輪211A1,211A2と外輪212A1,212A2との間には導電性グリス214A1,214A2が充填されている。絶縁シャフト203Aの基盤250Aには導電性ベアリング202A1の取り付けられている部分よりも直径が大きい段部210Aが設けられている。そして、段部210Aと一方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には金属製のカラー208Aが嵌めこまれ、カラー208Aの基盤250A側端と段部210Aと間には、後で図5を参照して説明する電源29の第1の加工電源ユニット29Rに接続される第1の給電端子220A1が接続され、金属製のカラー208Aの基盤250Aの反対側端は一方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1に接続されている。また、他方の導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には、カラー208Aよりも短い金属製のカラー208A1が取り付けられており、2つの導電性ベアリング202A1の各内輪211A1は、金属製のカラー208A,208A1によって第1の給電端子220A1に電気的に接続されている。金属製のカラー208A,208A1、第1の給電端子220A1は、第1の給電部材を構成する。
【0039】
また、絶縁シャフト203Aの中心には金属製の導電シャフト204Aが嵌めこまれている。そして、導電シャフト204Aの基盤250A側の端部には後で図5を参照して説明する電源29の第2の加工電源ユニット29Lに接続される第2の給電端子220A2が接続されている。また、導電シャフト204Aの基盤250Aと反対側の端部には金属製のエンドリング208A3が取り付けられている。エンドリング208A3の外周側は絶縁シャフト203Aの外周に嵌めあわされ、その軸方向の端面は1つの導電性ベアリング202A2の内輪211A2に接続されている。また、2つの導電性ベアリング202A2の各内輪211A2の間には金属製のカラー208A2によって電気的に接続されており、2つの導電性ベアリング202A2の各内輪211A2は、カラー208A2とエンドリング208A3によって第2の給電端子220A2に接続されている。金属製のカラー208A2とエンドリング208A3と導電シャフト204Aと第2の給電端子220A2は、第2の給電部材を構成する。
【0040】
また、絶縁シャフト203Aの外周で、互いに隣接する導電性ベアリング202A1の内輪211A1と導電性ベアリング202A1の内輪211A1との間には絶縁材料で形成された円筒状のスペーサ209が取り付けられ、互いに隣接する各回転電極200A1,200A2との間を電気的に絶縁するよう構成されている。
【0041】
第1の給電端子220A1から入力された放電加工電力の電流は、金属製のカラー208A,208A1から2つの導電性ベアリング202A1の内輪211A1、ボール213A1、外輪212A1を通って電極部材201A1に達し、電極部材201A1の外面に設けられた溝206A1に接触している第1のワイヤ151の各条に流れていく。また、導電性ベアリング202A1の内輪211A1と外輪212A1との間には導電性グリス214A1が充填されているので、内輪211A1に流れた電流は、導電性グリス214A1の中を流れて外輪212A1に達し、外輪212A1から電極部材201A1に達する。また、第2の給電端子220A2から入力された放電加工電力の電流は、導電シャフト204A、金属製のエンドリング208A3、カラー208A2から2つの導電性ベアリング202A2の内輪211A2、ボール213A2、外輪212A2を通って電極部材201A2に達し、電極部材201A2の外面に設けられた溝206A2に接触している第2のワイヤ152の各条に流れていく。また、導電性ベアリング202A2の内輪211A2と外輪212A2との間には導電性グリス214A2が充填されているので、内輪211A2に流れた電流は、導電性グリス214A2の中を流れて外輪212A2に達し、外輪212A2から電極部材201A2に達する。
【0042】
このように、導電性ベアリング202A1,202A2は電気抵抗或いはインピーダンスが低くなるように構成されているので、各給電端子220A1,220A2から回転する各電極部材201A1,201A2までに達するまで放電加工電力の電圧降下が少ない構造となっている。
【0043】
図4(b)に示すように各電極部材201A1,201A2の外面にはそれぞれ第1のワイヤ151、第2のワイヤ152を巻き掛けるV字型の溝206A1,206A2が設けられており、各溝206A1,206A2の間隔はそれぞれ各ワイヤ151,152の間隔と同様、ピッチPとなっている。また、電極部材201A1の図4(a)の左側端の第1のワイヤ151と電極部材201A2の図4(a)の右側端の第2のワイヤ152との間の間隔もピッチPとなっており、第1のワイヤ151の各条と第2のワイヤ152の各条とはピッチPの等間隔となるように配置されている。
【0044】
以上の実施形態では、電極部材201A1,201A2の外面に設けられた溝206A1,2006A2はV字形とすることとして説明したが、図4(c)に示すように、各ワイヤ151,152の外面に沿った半円形の溝207A1,207A2としても良い。この場合には、各ワイヤ151,152を線ではなく面でサポートするため、各回転電極200A1,200A2に巻き掛けられることによる各ワイヤ151,152の負荷を低減し、各ワイヤ151,152の断線を抑制することができる。
【0045】
以上説明した実施形態では、それぞれ1本の第1のワイヤ151が複数条に巻き掛けられる第1の加工ユニット101と1本の第2のワイヤ152が複数条に巻き掛けられる第2の加工ユニット102との2つの加工ユニットが左右に並列に配置された構成となっていることとして説明したが、加工ユニットの数は2つに限らず、それぞれ1本のワイヤが複数条に巻き掛けられる3つまたは4つ以上の加工ユニットを各加工ユニットの各ガイドローラ、各回転電極、各アイドルローラの各回転軸の方向に隣接して配置する様に構成してもよい。また、本実施形態では、第1の加工ユニット101の各アイドルローラ300A1,300B1,300C1は、第2の加工ユニット102の各アイドルローラ300A2,300B2,300C2はとそれぞれ別個の部材であり、それぞれの回転軸方向に沿って同軸に隣接して互いに電気的に絶縁して配置されていることとして説明したが、各アイドルローラ300A1,300B1,300C1,300A2,300B2,300C2は別部材とせず、隣接する各部材を一体として各回転軸301A,301B,301Cの周りにそれぞれ回転可能に配置するようにしてもよい。
【0046】
図5を参照して、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100に用いられる放電加工用の電源29の構成と動作について説明する。図5に示すように、電源29は、第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する第1の加工電源ユニット29Rと、第2の加工ユニット102に放電加工電力を供給する第2の加工電源ユニット29Lとを含んでいる。
【0047】
第1の加工電源ユニット29Rは、主直流電源292a1と、主直流電源292a1と直列に接続され、主直流電源292a1の出力を入り切りする主スイッチングトランジスタ291a1と、主直流電源292a1と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧が主直流電源292a1よりも低い副直流電源294a1と、副直流電源294a1と直列に接続され、副直流電源294a1の出力を入り切りする副スイッチングトランジスタ293a1と、を備えている。各スイッチングトランジスタ291a1,293a1の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。主直流電源292a1のプラス側にはプラス側出力線295Rが接続され、主直流電源292a1のマイナス側にはマイナス側出力線296Rが接続されている。プラス側出力線295Rは共通のプラス側出力線295からインゴット接続線295A,295Bを介して各インゴット28A,28Bに接続され、マイナス側出力線296Rは第1の加工ユニットの3つの回転電極接続線296A1,296B1,296C1に分岐し、回転電極接続線296A1は回転電極200A1に接続され、回転電極接続線296B1は回転電極200B1に接続され、回転電極接続線296C1は回転電極200C1に接続されている。従って、第1の加工電源ユニット29Rは各回転電極200A1,200B1,200C1に共通の電源であり、各回転電極200A1,200B1,200C1には共通の第1の加工電源ユニット29Rから同一の放電加工電力が給電される。
【0048】
第2の加工電源ユニット29Lは、第1の加工電源ユニット29Rと同様の構成となっており、主直流電源292a2と、主直流電源292a2と直列に接続され、主直流電源292a2の出力を入り切りする主スイッチングトランジスタ291a2と、主直流電源292a2と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧が主直流電源292a2よりも低い副直流電源294a2と、副直流電源294a2と直列に接続され、副直流電源294a2の出力を入り切りする副スイッチングトランジスタ293a2と、を備えている。各スイッチングトランジスタ291a2,293a2の各ゲートは制御部80に接続され、制御部80の指令によってオンオフするよう構成されている。主直流電源292a2のプラス側にはプラス側出力線295Lが接続され、主直流電源292a2のマイナス側にはマイナス側出力線296Lが接続されている。プラス側出力線295Lは共通のプラス側出力線295からインゴット接続線295A,295Bを介して各インゴット28A,28Bに接続され、マイナス側出力線296Lは第2の加工ユニットの3つの回転電極接続線296A2,296B2,296C2に分岐し、回転電極接続線296A2は回転電極200A2に接続され、回転電極接続線296B2は回転電極200B2に接続され、回転電極接続線296C2は回転電極200C2に接続されている。従って、第2の加工電源ユニット29Lは各回転電極200A2,200B2,200C2に共通の電源であり、各回転電極200A2,200B2,200C2には共通の第1の加工電源ユニット29Lから同一の放電加工電力が給電される。
【0049】
図5に示すように、第1の加工電源ユニット29Rと第2の加工電源ユニット29Lとは共通の制御部80で制御されるが、第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1と第2の加工電源ユニット29Lの各スイッチングトランジスタ291a2,293a2は、各加工電源ユニット29R,29Lでそれぞれ独立に動作し、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とにはそれぞれ独立したタイミングで放電加工電力が供給される。第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1と第2の加工電源ユニット29Lの各スイッチングトランジスタ291a2,293a2は互いに同期してオンオフするように動作しても良いし、互いに同期せずにオンオフの周期をずらして動作させるようにしてもよい。
【0050】
図6を参照しながら、第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に供給される放電加工電力について説明する。図6に示すように、放電加工電力は、放電加工を行う放電加工パルス297と、放電加工後に電源系統内のコンデンサ等に残留している残電荷を除去するための放電加工パルス297と逆電圧の残留電荷除電パルス298とを含む高周波パルス299である。この高周波パルス299は次のように第1の加工電源ユニット29Rの各スイッチングトランジスタ291a1,293a1を動作させることによって得られる。最初、各スイッチングトランジスタ291a1,293a1はオフとなっており、第1の加工電源ユニット29Rから出力はでていない。図6の時間t1に、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなると主直流電源292a1からの電流がプラス側出力線295Rから出力され、各インゴット28A,28Bと各回転電極200A1,200B1,200C1との間には放電加工パルス297の電圧V1が印加される。そして、時間Δt1の間だけ主スイッチングトランジスタ291a1のオン状態を継続した後、図6の時間t2に主スイッチングトランジスタ291a1をオフとする。すると、プラス側出力線295Rから出力されていた主直流電源292a1からの電流が停止し、各インゴット28A,28Bと各回転電極200A1,200B1,200C1との間の印加電圧はゼロとなり放電加工パルス297は停止する。そして、所定の時間Δt2の間だけ印加電圧をゼロの状態に保持した後、時間t3に副スイッチングトランジスタ293a1がオンとなると副直流電源294a1からの電流がマイナス側出力線296Rから出力され、各インゴット28A,28Bと各回転電極200A1,200B1,200C1との間にはマイナスの電圧V2の残留電荷除電パルス298が印加される。そして、時間Δt3の間だけ副スイッチングトランジスタ293a1のオン状態を継続した後、図6の時間t4に副スイッチングトランジスタ293a1をオフとする。すると、マイナス側出力線296Rから出力されていた副直流電源294a1からの電流が停止し、各インゴット28A,28Bと各回転電極200A1,200B1,200C1との間の印加電圧はゼロとなり残留電荷除電パルス298は停止する。そして残留電荷除電パルス298の停止後、時間Δt4後の時間t5に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなる。このように、主スイッチングトランジスタ291a1、副スイッチングトランジスタ293a1を交互にオンオフしてプラス側の高圧の放電加工パルス297とマイナス側の低圧の残留電荷除電パルス298とを出力する。図6に示すように高圧の放電加工パルス297の周期はΔt0であり、その周波数は数10kHzから数100kHzの高周波である。また、低圧の残留電荷除電パルス298の周波数は高圧の放電加工パルス297との周波数と同じ周波数である。なお、図6では、残留電荷除電パルス298の停止の後、時間Δt4後の時間t5に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなることとして説明したが、残留電荷除電パルス298の停止直後に再度、主スイッチングトランジスタ291a1がオンとなることとしてもよい。この場合には、高圧の放電加工パルス297の周期はΔt0が短くなるのでより高い周波数の放電加工パルス297とでき、放電加工の速度を上げることができる。以上、第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する場合について説明したが、第2の加工電源ユニット29Lから第2の加工ユニット102に供給される放電加工電力についても第1の加工電源ユニット29Rから第1の加工ユニット101に放電加工電力を供給する場合と同様である。
【0051】
本実施形態では、各主直流電源292a1,292a2、各副直流電源294a1,294a2は電池等の単純な直流電源として説明したが、放電加工パルス297の電圧V1あるいは残留電荷除電パルス298の電圧V2をそれぞれ供給できるものであれば、例えば、コンデンサやトランスを用いて電力を蓄えておき、この蓄えた電力を直流電力として供給するようなものとしても良い。
【0052】
図1から図4を参照して説明したような構造を有し、図5、図6を参照して説明した放電加工用の電源29を備えている本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100の動作について図7を参照しながら説明する。図7は、第1の加工ユニット101の回転電極200A1,200B1,200C1、第2の加工ユニット102の回転電極200A2,200B2,200C2、各インゴット28A,28Bと、第1の加工電源ユニット29R、第2の加工電源ユニット29Lの電気的な接続状態を模式的に表した図である。隣接する各回転電極200A1,200B2,200C2及び,各回転電極200B1,200B2,200C2は電気的に絶縁されており、第1の加工ユニット101の各回転電極200A1,200B1,200C1は1つのマイナス側出力線296Rに接続され、第2の加工ユニット102の各回転電極200A2,200B2,200C2も1つのマイナス側出力線296Lに接続されていることから、各加工ユニット101,102の各回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2はそれぞれ第1のワイヤ151の各条及び第2のワイヤ152の各条に対してそれぞれ共通の電極となっている。また、第1の加工ユニット101の回転電極200A1,200C1は第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中心26CA1までの距離LA,LBが同一となるように配置され、第1の加工ユニット101の回転電極200B1,200C1は第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中心26CB1までの距離LA,LBが同一となるように配置されており、各インゴット28A,28Bは、その中心が第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bの各中心26CA1,26CB1を含む面内で送り方向に移動していくので、各回転電極200A1,200C1からインゴット28Aの中心までの距離及び各回転電極200C1,200B1からインゴット28Bの中心までの距離もそれぞれ同一となっている。従って、第1の加工ユニット101の第1の上側切断ワイヤ部分261Aとインゴット28A、第1の下側切断ワイヤ部分261Bとインゴット28Bとの間には同一の放電加工パルス297、残留電荷除電パルス298が第1のワイヤ151の各条の3箇所から同時に印加されることとなる。以上、第1の加工ユニット101について説明したが、第2の加工ユニット102についても同様である。
【0053】
図7に示すように、第1の加工電源ユニット29Rから放電加工パルス297が各インゴット28A,28Bに入力されると回転電極200A1,200B1,200C1を通して第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bと各インゴット28A,28Bとの間に同一の放電加工パルス297が印加される。回転電極200A1,200B1,200C1は電気抵抗あるいはインピーダンスが低くなるように構成されているので、このような高周波の放電加工パルス297が印加された場合でも、その電圧を低下させずに第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bと各インゴット28A,28Bとの間に放電加工パルス297が印加される。1つの放電加工パルス297が印加された際、放電は第1の上側切断ワイヤ部分261Aの中でインゴット28Aの中に入り込んでいる部分とインゴット28Aとの間、又は、第1の下側切断ワイヤ部分261Bの中でインゴット28Bの中に入り込んでいる部分とインゴット28Bとの間のいずれか一方の距離が最も近くなる部分で1回だけ発生する。例えば、放電加工パルス297が入力された際に第1の上側切断ワイヤ部分261Aの点a側とインゴット28Aとの距離が他の第1の上側切断ワイヤ部分261A及び第1の下側切断ワイヤ部分261Bとインゴット28Bとの距離のいずれよりも短い場合には、放電は第1の上側切断ワイヤ部分261Aとインゴット28Aの点a近傍との間でのみ発生し、他の第1の上側切断ワイヤ部分261Aとインゴット28Aとの間、および、第1の下側切断ワイヤ部分261Bとインゴット28Bとの間では放電は発生しない。この場合、電流はインゴット28Aから第1の上側切断ワイヤ部分261Aに流れ、インゴット28Aの点aに近い側に配置されている回転電極200A1に流れる。この放電によって点aの近傍が削られると、第1の上側切断ワイヤ部分261Aと点a近傍のインゴット28Aとの距離が他の部分よりも大きくなるので、次の放電加工パルス297が印加された際には点aの近くではないところ、例えば、他の第1の上側切断ワイヤ部分261Aのインゴット28Aの点b近傍あるいは、第1の下側切断ワイヤ部分261Bのインゴット28Bの点p近傍で放電が発生する。このように第1の加工ユニット101では1つの放電加工パルス297によって電圧が印加される都度1回だけ放電が発生し、その放電は第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bと各インゴット28A,28Bとの距離が一番近くなっている部分でランダムに発生する。そして、第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bは各インゴット28A,28Bを送り方向に均等に切断していくことができる。以上、第1の加工ユニット101のインゴット28A,28Bの放電加工について説明したが、第2の加工ユニット102についても同様である。
【0054】
第1の加工電源ユニット29Rと第2の加工電源ユニット29Lとはそれぞれ独立して放電加工電力を第1、第2の加工ユニットの各回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2に供給するので、各インゴット28A,28Bは第1の加工ユニット101の第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261B及び第2の加工ユニット102の第2の上側、下側切断ワイヤ部分262A,262Bにおいて略同様に切り込まれていく。そして、第1の加工ユニット101の第1の上側、下側切断ワイヤ部分261A,261Bと第2の加工ユニット102の第2の上側、下側切断ワイヤ部分262A,262Bのそれぞれで各インゴット28A,28Bが切断され、切断が終了すると各加工ユニット101,102においてそれぞれ複数枚のシリコンカーバイド(炭化ケイ素)の薄板を製造することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置100は、電極を回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2とすると共に、各給電端子220A1,220A2から各回転電極200A1,200B1,200C1,200A2,200B2,200C2の電極部材201A1,201B1,201C1,201A2,201B2,201C2までの電気抵抗あるいはインピーダンスを少なくして高周波パルス299を印加してもその電圧を低下させずに各切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bから各インゴット28A,28Bとの間に印加することができるので、加工速度の低下を抑制するとともに長時間の加工を安定して行うことができるという効果を奏する。また、各電極部材201A1,201B1,201C1,201A2,201B2,201C2と各ワイヤ151,152との間に滑りがないので各ワイヤ151,152と各電極部材201A1,201B1,201C1,201A2,201B2,201C2との間に瞬間的に隙間ができて各ワイヤ151,152と各電極部材201A1,201B1,201C1,201A2,201B2,201C2との間で放電が発生することが抑制され、各電極部材201A1,201B1,201C1,201A2,201B2,201C2が削られてしまうことが抑制される。
【0056】
また、本実施形態では、第1の加工ユニット101と第2の加工ユニット102とを備え、各加工ユニット101,102にそれぞれ独立して放電加工電力を供給する第1、第2の加工電源ユニット29R,29Lを備えていることおよび、各加工ユニット101,102がそれぞれ上側、下側切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bを備えており、各上側ワイヤ切断部分261A,262Aでインゴット28Aの切断を行うことができ、各下側ワイヤ切断部分261B,262Bでインゴット28Bの切断を行うことができることから、第1の加工ユニット101、第2の加工ユニット102で同時に2つのインゴット28A,28Bの切断を行うことができ、効率的に多くの枚数のシリコンカーバイド(炭化ケイ素)の薄板を製造することができる。また、長いインゴット28A,28Bの加工を行うことができるので、薄板製造の歩留まりを向上させることができる。本実施形態では、各加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の巻き掛け回数が5回、条数が5条、各切断ワイヤ部分261,262が5本として説明したが、本発明は各加工ユニット101,102のガイドローラ、回転電極の回転軸方向長さを増やしてそれぞれの加工ユニット101,102の各ワイヤ151,152の巻き掛け回数が数10回、条数が数10条、各上側、下側切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bが数10本の以上のマルチワイヤ放電加工装置にも適用でき、特に、このような多くの巻き掛け回数のマルチワイヤ放電加工装置に適用されるとその効果が更に顕著となる。なお、本実施形態では、各加工ユニット101,102はそれぞれ上側、下側の2つの切断ワイヤ部分261A,261B,262A,262Bを備えることとして説明したが、各加工ユニット101,102は3つあるいはそれ以上の数の切断ワイヤ部分を各ワイヤ151,152の長手方向に並べて配置し、各切断ワイヤ部分の中間にそれぞれ回転電極を配置するよう構成してもよい。この様により多くの切断ワイヤ部分を配置した場合には、より多くのインゴットを同時に加工することができ、効率的に炭化ケイ素板の切り出しをすることができる。
【0057】
本実施形態の電源29の各加工電源ユニット29R,29Lは、それぞれ1つの主直流電源と、主直流電源と直列に接続され、主直流電源の出力を入り切りする1つの主スイッチングトランジスタと、主直流電源と並列で、プラスマイナスの方向が逆でその電圧が主直流電源よりも低い1つの副直流電源と、副直流電源と直列に接続され、副直流電源の出力を入り切りする1つの副スイッチングトランジスタと、を備えることとして説明したが、各加工電源ユニット29R,29Lは複数の主直流電源と、主スイッチングトランジスタと、副直流電源と、副スイッチングトランジスタと、を備えるように構成してもよい。この場合、主スイッチングトランジスタと主直流電源の各数は副スイッチングトランジスタと副直流電源の各数とそれぞれ同数であってもよいし、主スイッチングトランジスタと主直流電源の各数が副スイッチングトランジスタと副直流電源の各数よりも多くなっていてもよい。
【0058】
本実施形態では、2つのインゴット28A,28Bを同時に第1、第2の上側、下側切断ワイヤ部分261A,262A,261B,262Bに向って送るようにして説明したが、2つのインゴット28A,28Bを送り方向にずらして送るようにしてもよい。例えば、第1、第2の上側切断ワイヤ部分261A,262Aに向って先にインゴット28Aを送り、インゴット28Aが半分程度切断され、第1、第2の上側切断ワイヤ部分261A,262Aがインゴット28Aの中心近傍まで入り込んできたら、インゴット28Bを第1、第2の下側切断ワイヤ部分261B,262Bに向って送り込んでいくようにしてインゴット28A,28Bの加工を行うようにしてもよい。この場合、第1、第2のワイヤ151,152が図1に示すローラ11Fからガイドローラ24A〜24Hのガイドローラ組に巻き掛けられてから、ローラ11Gに向ってガイドローラ組から出て行くまでの間に各インゴット28A,28Bと近接した状態にある時間が短くなることから、放電加工において各ワイヤ151,152の損傷が少なくなり、放電加工中の各ワイヤ151,152の切断が抑制されるという効果を奏する。
【0059】
図8、図9を参照しながら、本発明の他の実施形態について説明する。図1から図7を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付けて説明は省略する。図8に示すように、本実施形態では、第1、第2、第3の3つの加工ユニット101,102,103を備えており、各加工ユニット101,102,103はそれぞれ回転電極200A1,200A2,200A3と各回転電極200A1,200A2,200A3に対向するように配置された共通のアイドルローラ300Aとを含んでいる。各加工ユニット101,102,103は、それぞれ図1を参照して説明した、各ワイヤ151,152,153を送る送り出しボビン10A、巻き取りボビン10B、プーリ11A〜11I、ダンサロール12、速度プーリ16、第1のワイヤ張力センサ13A、第2のワイヤ張力センサ13B、トルクモータ25D、クランプユニット19、クランプローラ19a、張力プーリ18、位置決めモータ25G、ワイヤ整列ユニット21を備えている。また、各加工ユニット101,102,103の各ワイヤ151,152,153は共通の複数のガイドローラ24Aから24Hに複数回巻き掛けられている。図8においては、これらの部品は図示を省略している。図8に示す実施形態では、各加工ユニット101,102,103の各ワイヤ151,152,153は3回ずつ各ガイドローラ組に巻きかけられて、各ワイヤ151,152,153は3条の構成となっている。
【0060】
図8、図9に示すように、回転電極200A1,200A2,200A3は共通の絶縁シャフト275の外周に円筒形の電極部材201A1,201A2,201A3が嵌め込まれている。各電極部材201A1,201A2,201A3は互いに離間しており、電気的に絶縁されている。絶縁シャフト275は2つのボールベアリング276によって基盤250Aに回転自在に取り付けられている。基盤250Aに取り付けられた共通の絶縁シャフト273には各電極アーム270A1,270A2,270A3が回転自在に取り付けられ、各電極アーム270A1,270A2,270A3の先端側にはローラ形状の接続電極271A1,271A2,271A3が回転自在に取り付けられている。各電極アーム270A1,270A2,270A3はそれぞれ図示しないスプリングによって先端の各接続電極271A1,271A2,271A3が各電極部材201A1,201A2,201A3に押し付けられるように付勢されている。そして、各電極アーム270A1,270A2,270A3は図示しない第1、第2、第3の加工電源ユニット29R,29C,29Lの各回転電極接続線296B1,296B2,296B3に接続され、各加工電源ユニット29R,29C,29Lからの放電加工電力は各電極アーム270A1,270A2,270A3から各接続電極271A1,271A2,271A3を介して電極部材201A1,201A2,201A3に供給される。各電極部材201A1,201A2,201A3、各接続電極271A1,271A2,271A3は電気伝導度の高い銅等の材料で構成されている。
【0061】
図8に示すように、共通のアイドルローラ300Aはフッ素系材料、ナイロン系材料、セラミックス等耐磨耗性が高くかつ絶縁性材料で構成され、回転シャフト301Aの周りに回転自在に取り付けられている。また、アイドルローラ300Aの外周面には、図4を参照して説明したような各ワイヤ151,152,153が巻き掛けられるV字型の溝が設けられている。各ワイヤ151,152,153の各条は、各電極部材201A1,201A2,201A3とアイドルローラ300Aの外周面との間に挟まれて各電極部材201A1,201A2,201A3に押し付けられ、各電極部材201A1,201A2,201A3から放電加工電力が各ワイヤ151,152,153に供給されるよう構成されている。
【0062】
本実施形態も各回転電極200A1,200A2,200A3が各ワイヤ151,152,153との相対速度がほとんどない状態で各ワイヤ151,152,153に給電することができるので、各ワイヤ151,152,153と電極部材201A1,201A2,201A3との間にすべりがなく各電極部材201A1,201A2,201A3の磨耗を抑制できるとともに、アイドルローラ300Aによって各ワイヤ151,152,153を電極部材201A1,201A2,201A3との間に挟みこんでいるので各ワイヤ151,152,153と各電極部材201A1,201A2,201A3との間に瞬間的に隙間ができて各ワイヤ151,152,153と各電極部材201A1,201A2,201A3との間で放電が発生することが抑制され、長時間の加工を安定して行うことができる。
【0063】
また、各電極部材201A1,201A2,201A3の外周面にも、図4(b)または図4(c)を参照して説明したような各ワイヤ151,152,153が巻き掛けられるV字型の溝206A1,206A2,206A3或いは、半円形の溝207A1,207A2,207A3を設けるようにしてもよい。
【0064】
図10を参照しながら、本発明の他の実施形態について説明する。図1から図9を参照して説明した実施形態と同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。本実施形態は、加工ユニット101の中心線101Cの上に配置された回転電極200C1の第1のワイヤ151の送り方向上流側と下流側とに中心線101Cに対して対称となるように、アイドルローラ301C1,301D1を配置したものである。アイドルローラ301C1,301D1は、第1のワイヤ151の回転電極201C1への巻き掛け角度が図2で説明した回転電極201A1,201B1への第1のワイヤ151の巻き掛け角度のθ1と同様の角度となるように配置されている。また、各アイドルローラ301C1,301D1は、回転電極201C1と第1の上側切断ワイヤ部分261Aとの距離及び回転電極201A1と第1の上側切断ワイヤ部分261Aとの第1のワイヤ151の送り方向に沿った距離が等しく、かつ、回転電極201C1と第1の下側切断ワイヤ部分261Bとの距離及び回転電極201B1と第1の下側切断ワイヤ部分261Bとの第1のワイヤ151の送り方向に沿った距離が等しくなるように配置されている。また、本実施形態では、2つのインゴット28A,28Bは共通のワーク送りユニット27によって各切断ワイヤ部分261A,261Bに向って送られる。本実施形態も先に図1から図7を参照して説明した実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では1つのワーク送りユニット27で同時に2つのインゴット28A,28Bを送ることから、より簡便な構成とすることができる。
【符号の説明】
【0065】
10A 送り出しボビン、10B 巻き取りボビン、11A〜11I プーリ、12 ダンサロール、13A,13B ワイヤ張力センサ、16 速度プーリ、17 ガイド、18 張力プーリ、19 クランプユニット、19a クランプローラ、21 ワイヤ整列ユニット、22 滑りクラッチ、24A〜24H ガイドローラ、25EA,25EB 送り出しモータ、25B 速度モータ、25C ドローモータ、25D トルクモータ、25E ステッピングモータ、25F,25G 位置決めモータ、25H 巻き取りモータ、261A〜264B 切断ワイヤ部分、26CA1,26CB1,28CA,28CB 中心、27A,27B ワーク送りユニット、28A,28B インゴット、28D,101C 中心線、28a 加工溝、29 電源、29L,29R 加工電源ユニット、31 位置センサ、32 断線検出センサ、70 粉、80 制御部、100 マルチワイヤ放電加工装置、101〜103 加工ユニット、124A〜124D,203A〜203C,301A〜301C 回転軸、151〜153 ワイヤ、200A1〜200C2 回転電極、201A1〜201C2 電極部材、202A1〜202C2 導電性ベアリング、203A,273,275 絶縁シャフト、204A 導電シャフト、205A〜205C 回転中心、206A1〜207A2 溝、208A,208A1,208A2 カラー、208A3 エンドリング、209 スペーサ、210A 段部、211A1,211A2 内輪、212A1,212A2 外輪、213A1,213A2 ボール、214A1,214A2 導電性グリス、220A1,220A2 給電端子、250A 基盤、270A1〜270A3 電極アーム、271A1〜271A3 接続電極、276 ボールベアリング、291a1,291a2 主スイッチングトランジスタ、293a1,293a2 副スイッチングトランジスタ、292a1,292a2 主直流電源、294a1,294a2 副直流電源、295,295L,295R プラス側出力線、295A,295B インゴット接続線、296A1〜296C2 回転電極接続線、296L、296R マイナス側出力線、297 放電加工パルス、298 残留電荷除電パルス、299 高周波パルス、300A,300A1〜300D1 アイドルローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を複数組構成するワイヤと、各組の切断ワイヤ部分のワイヤ長手方向の両側にそれぞれ配置され、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する複数の回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、
各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、
各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、
各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁され、
各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各組の切断ワイヤ部分と各ワークとの間で放電を行って各ワークを加工するマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、円筒状の導電体であること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工ユニットの切断ワイヤ部分の各組は、ワイヤの長手方向に並べて配置され、
各回転電極は、ワイヤ送り方向に沿って最上流側にある第1の切断ワイヤ部分組のワイヤ送り方向上流側に配置される第1の回転電極と、ワイヤ送り方向に沿って最下流側にある第2の切断ワイヤ部分組のワイヤ送り方向下流側に配置される第2の回転電極と、ワイヤ送り方向に沿って切断ワイヤ部分の各組の中間にそれぞれ設けられる第3の回転電極とを含んでいること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極は、各組の切断ワイヤ部分の中央からワイヤ巻き掛け方向に沿って互いに反対方向に向かって等距離の位置に1つずつ配置されていること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各加工ユニットは、各回転電極のワイヤ送り方向の上流側または下流側または両側或いは各回転電極に対向して配置され、各加工ユニットのワイヤの各条を各回転電極に押しつける複数のアイドルローラを備えること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各アイドルローラは、各回転電極との間に各加工ユニットのワイヤの各条を挟みこむこと、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
その外輪の外側に各回転電極が取り付けられる各導電性軸受と、
各導電性軸受の内輪が電気的に絶縁されて同軸に取り付けられるシャフトと、
各導電性軸受の各内輪にそれぞれ電気的に接続される給電部材と、を含んでいること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
各回転電極が絶縁して取り付けられる回転軸と、
各回転電極の外面にそれぞれ押し付けられ、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する各接続電極と、を含んでいること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
放電加工電力は、放電加工パルスと、放電加工パルスと逆電圧で放電加工パルスに続く残留電荷除電パルスと、を含む高周波パルスであること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項10】
請求項9に記載のマルチワイヤ放電加工装置であって、
加工電源は、放電加工パルスを発生させる少なくとも1つの主スイッチングトランジスタと少なくとも1つの主直流電源と、放電加工後の残電荷を除去するために放電加工パルスと逆電圧の残留電荷除電パルスを発生させる少なくとも一つの副スイッチングトランジスタと少なくとも1つの副直流電源と、を含み、各加工ユニットにそれぞれ放電加工電力を供給する複数の加工電源ユニットを備えること、
を特徴とするマルチワイヤ放電加工装置。
【請求項11】
間隔をおいて配設された複数のガイドローラを含むガイドローラ組と、各ガイドローラの長手方向に間隔をあけてガイドローラ組に複数回巻き掛けられて複数条となり、ガイドローラ組のうちの一対の隣り合うガイドローラ間で互いに離間した複数の切断ワイヤ部分を複数組構成するワイヤと、各組の切断ワイヤ部分のワイヤ長手方向の両側にそれぞれ配置され、ワイヤの各条に接し、ワイヤの送り方向と同じ方向に向かって回転して共通の放電加工電力をワイヤの各条に給電する複数の回転電極と、を含む複数の加工ユニットと、各回転電極にそれぞれ放電加工電力を供給する加工電源と、を備え、各加工ユニットの各ガイドローラは各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各ガイドローラは互いに電気的に絶縁され、各加工ユニットの各回転電極は各回転軸の方向に隣接して同軸に配置され、隣接する各加工ユニットの各回転電極は互いに電気的に絶縁されるマルチワイヤ放電加工装置を用い、各加工ユニットの各ワイヤを巻き掛け方向に送りながら各加工ユニットの各組の切断ワイヤ部分と各炭化ケイ素のインゴットとの間で放電を行って各炭化ケイ素のインゴットから複数の炭化ケイ素板を切り出す炭化ケイ素板の製造方法であって、
加工電源のスイッチングトランジスタをオンオフさせて高周波パルスを発生させ、この高周波パルスを放電加工用電力として供給すること、
を特徴とする炭化ケイ素板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の炭化ケイ素板の製造方法であって、
各炭化ケイ素のインゴットの各組の切断ワイヤ部分と交差する方向の位置を異ならせること、
を特徴とする炭化ケイ素板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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