説明

マルファン症候群及び関連疾患を治療するための方法及び組成物。

本発明は、マルファン症候群及び関連する疾患を治療及び予防する方法及び組成物を提供する。本発明は更に、マルファン症候群並びに関連する病気、疾患及び症状の治療及び予防のための医薬組成物及びキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年10月25日出願の米国仮出願第60/729,976号の優先権を主張し、その全内容が参照として本明細書中に明確に取り込まれている。
【0002】
(政府の支援)
以下の本発明の少なくとも一部分は、NIH Grant No.ARO41135によって支援されたものである。従って、政府は本発明に対してある特定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
マルファン症候群(MFS)は、常染色体優性遺伝による結合組織の全身性疾患であり、人口5,000人当たり約1人の有病率である(Pyeritz, R.E. & McKusick, V.A. (1979) N Eng J Med. 300, 772-777)。この症候群は、人種選択性を示さず、そして両性が同等に発症する。症例の25%が突然変異によって発症すると推定されている。この疾患が高い浸透率を示す一方、家族間の臨床的なばらつきが大きく、支配的である(Pyeritz, R.E. et al. (1979) British Defects Orig Artic Ser. 15, 155-178)。臨床所見のばらつきに加えて、疾患の特異的な生物化学的又は遺伝的なマーカーが無いことが、はっきりとしない症例のイライラした診断となり、疾患の有病率の大きな最小評価をもたらしてきた。
【0004】
この疾患の主要な特徴は、視覚、骨格及び心臓血管系に関係する。大動脈起始部の拡張、解離及び破裂、肺動脈拡張、僧帽弁及び大動脈弁の不全に伴う粘液腫性の弁変化、及び進行性心機能不全を含む心臓血管病変は、MFSにおける死亡の主要原因である。未治療のMFSに関係する致命的な事象の大部分が、成人期初期に起こる。1972年における患者72人の予想検討(prospective study)において、死亡平均年齢は32歳であった(Murdoch, et al. (1972) N Engl J Med. 286, 804-808)。
【0005】
マルファン症候群における平均余命の最近の再評価では、早期診断及び正確な医療及び手術管理がこの状況を大きく改善していることを示唆している(Silverman, D.I. et al. (1995) Am J Cardiol. 75, 157-160)。それにもかかわらず、MFSは、大きな死亡率を伴い、選択された部分集団は、治療が無効であり早期の死亡を示している(Morse, R.P. et al. (1990) Pediatrics. 86, 888-895; Sisk, H.E. et al. (1983) Am J Cardiol. 52, 353-358)。幼児期に診断された54人の患者の考察において、Morseらは、89%が重症の心臓病変を有しており、その心臓病は標準的な治療実施にもかかわらず進行性であった(22%が幼児期に、16%が1歳前に死亡した)と報告した。マルファン症候群のより古典的な形態では、患者の90%以上がその生涯で、大動脈起始部の予防的外科修復を必要とされる心血管系「事象」を有するようになるか、又は大動脈解離によって死亡すると予測されている(Gillinov, A.M., et al. (1997) Ann Thorac Surg. 64, 1140-1144; disccusion 1144-1145; Pyeritz, R.E. (1993) Semin Thorac Cardiovasc Surg. 5, 11-16; Silverman, D.I. et al. (1955) J Am Coll Cardiol. 26, 1062-1067; Gott, V.L. et al. (1999) N Engl J Med. 340, 1307-1313)。眼及び骨格の有病率を定量化するのは容易ではない(Maumenee, I.H. et al. (1981) Trans Am Ophthalmol Soc. 79, 684-733; Magid, D., et al. (1990) AJR Am J Roentgenol. 155, 99-104; Sponseller, P.D., et al., (1955) J Bone Joint Surg Am. 77, 867-876)。MFSのおよそ60%の人が、最適な管理のためにしばしば手術が必要な無水晶体症である、水晶体転位を有している。網膜剥離及び緑内障は、悲惨な視力障害を起こす可能性がある。
【0006】
骨格関与の症状は、MFSの殆ど全ての人において明らかである。進行性の前胸部奇形又は脊柱側弯症は、心肺不全を起こす可能性があって、一般に外科的整復が必要である。関節不安定性は、身体障害を起こす可能性があって、早期の関節炎を起こしやすい。肺疾患は、最も一般に自然気胸を発症し、MFS患者の4〜11%に確認されている(Wood, J.R., et al. (1984) Thorax. 39, 780-784; Hall, J.R., et al. (1984) Ann Thorac Surg. 37, 500-504)。病理所見は、進行性であり従来は破壊的変化を伴う肺気腫と同等に扱われていた、広範な固定性の閉塞性気道疾患を伴うか又は伴わない上葉水疱を包含している(Lipton, R.A., et al. (1971) Am Rev Respir Dis. 104, 924; Dominguez, R., et al. (1987) Pediatr Radiol. 17, 365-369)。MFS患者の大部分は、適切なカロリーを摂取し、呼吸不良の徴候がないにもかかわらず、骨格筋量及び脂肪蓄積において顕著な欠乏を示す(Behan, W.M., et al. (2003) J Neurol Neurosurg Psychiatry. 74, 633-638; H.H., et al. (1973) Neurology. 23, 1257-1268; Gross, M.L., et al. (1980) J Neurol Sci. 46, 105-112; Joyce, D.A., et al. (1984) Aust N Z J Med. 14, 495-499)。低下した強度及び緊張度を含む骨格筋障害の徴候が、罹患した患者の小集団で観察され、そして低下した機能的遂行、呼吸機能不全、眼球不均衡、及び脊柱後弯症及び脊柱側弯症を含む骨格の発達変化の一因となっている。
【0007】
増えつつある課題は、多くの人が、早期大動脈起始部解離の素因を切り抜け、下行の胸部及び腹部大動脈の解離の素因を含む既に認められている加齢関連の表現型を乗り切っているという現在のMFSの「新規な」自然病歴を規定することである。従って、MFSの多くの人の寿命を増加させることができ、進歩したものの、多くの患者の生活の質の面を改善するためには、まだまだ多くの機会がある。
【0008】
1991年に、従来のポジショナルキャンディデート(positional-candidate)分析は、フィブリリン1をコードする染色体15q21.1上のFBN1遺伝子において突然変異を生ずる疾患を実証したことによって頂点に達した。(Dietz, H.C., et al. (1991) Nature. 352, 337-339)。その時以来、マルファン症候群の多くのマウスモデルが作成されて、特徴付けられている。この検討は、疾患の原因の理解に大きな変革をもたらし、そしてマルファン症候群の多系統の病因の治療について画期的な方策をもたらした。
【0009】
マルファン症候群の特徴の多くが、一般の人々に共通であって、莫大な健康保険の負担をもたらしている。これらは、大動脈瘤(人口全体の1〜2%)、僧帽弁逸脱(約7%)、肺気腫(11%)、脊柱側弯症(0.5%)、白内障(30%)、関節炎(一般的)及び筋障害(遺伝性及び後天性の多くに共通)を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、マルファン症候群並びに関連する病気、疾患及び症状、例えばTGF−βの異常発現に関連する病気、疾患及び症状を治療する方法及び組成物が、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、TGF−β拮抗薬が、マルファン症候群並びにマルファン症候群に関連する病気、疾患及び症状、例えばTGF−βの異常発現に関連する病気、疾患及び症状を効果的に治療するということの発見に基づいている。
【0012】
従って、一態様では、本発明は、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与すること、それにより対象を治療することを含んでなる、TGFβの異常な発現又は活性によって特徴付けられる疾患又は障害を有するか又はその進行のリスクがある対象を治療する方法を提供する。
【0013】
一実施態様では、疾患又は障害は、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である。関連する実施態様では、疾患又は障害は、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である。特定の実施態様では、眼疾患は、白内障、近視、緑内障及び網膜剥離よりなる群から選ばれる。関連する実施態様では、疾患又は障害は、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害、例えば筋ジストロフィーである。特定の実施態様では、疾患又は障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0014】
別の実施態様では、疾患又は障害は、肺の疾患又は障害、例えば肺気腫、気胸及びCOPD(慢性閉塞性肺疾患)である。別の実施態様では、疾患又は障害は、関節炎である。
【0015】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤は、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0016】
一実施態様では、薬剤は、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤は、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0017】
一実施態様では、本発明は、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与し、それにより対象を治療する、マルファン症候群又はマルファン関連の疾患を有する対象を治療する方法を提供する。
【0018】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤は、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0019】
一実施態様では、薬剤は、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤は、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0020】
別の態様では、本発明は、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与し、それにより対象を治療する、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する対象を治療する方法を提供する。
【0021】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤は、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0022】
一実施態様では、薬剤が、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0023】
その他の態様では、本発明は、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与し、それにより対象を治療する、関節炎を有する対象を治療する方法を提供する。
【0024】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤は、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0025】
一実施態様では、薬剤が、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0026】
別の態様では、本発明は、医薬組成物がTGFβの活性又は発現を調節する薬剤を包含するところの、TGFβの異常な発現によって特徴付けられる疾患又は障害を治療するための医薬組成物を提供する。
【0027】
一実施態様では、疾患又は障害は、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である。関連する実施態様では、疾患又は障害は、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である。特定の実施態様では、眼疾患は、白内障、近視、緑内障及び網膜剥離よりなる群から選ばれる。関連する実施態様では、疾患又は障害は、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害、例えば筋ジストロフィーである。特定の実施態様では、疾患又は障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0028】
別の実施態様では、疾患又は障害は、肺の疾患又は障害、例えば肺気腫、気胸及びCOPDである。別の実施態様では、疾患又は障害は、関節炎である。
【0029】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤は、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0030】
一実施態様では、薬剤は、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤は、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0031】
別の態様では、本発明は、医薬組成物がTGFβの活性又は発現を調節する薬剤及び使用説明書を包含するところの、TGFβの異常な発現によって特徴付けられる疾患又は障害を治療するためのキットを提供する。
【0032】
一実施態様では、疾患又は障害は、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である。関連する実施態様では、疾患又は障害は、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である。特定の実施態様では、眼疾患は、白内障、近視、緑内障及び網膜剥離よりなる群から選ばれる。関連する実施態様では、疾患又は障害は、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害、例えば筋ジストロフィーである。特定の実施態様では、疾患又は障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0033】
別の実施態様では、疾患又は障害は、肺の疾患又は障害、例えば肺気腫、気胸及びCOPDである。
別の実施態様では、疾患又は障害は、関節炎である。
【0034】
一実施態様では、薬剤は、TGFβ拮抗薬、例えば低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である。特定の実施態様では、抗体は、中和抗体である。別の実施態様では、薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである。特定の実施態様では、siRNA又はshRNAは、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である。
【0035】
一実施態様では、薬剤は、アンジオテンシン受容体、例えば1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である。特定の実施態様では、薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)のような、1型アンジオテンシン受容体拮抗薬である。
【0036】
(発明の詳細な説明)
本発明は、TGF−β拮抗薬が、マルファン症候群並びにマルファン症候群に関連する疾患及び疾患を効果的に治療するということの発見に基づいている。従って、本発明は、マルファン症候群並びに関連する疾患及び疾患を治療する方法及び組成物を提供する。
【0037】
(本発明の薬剤)
本発明は、TGF−βの発現又は活性を調節する薬剤、又はTGF−βの活性又は発現を制御するタンパク質及び/又は核酸を提供する。一実施態様では、薬剤は、TGF−β拮抗薬である。特定の実施態様では、薬剤は、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARBs)、例えばロサルタン(Cozaar)、イルベサルタン(Avapro)、バルサルタン(Diovan)又はカンデサルタン(Atacand)である。
【0038】
本明細書で用いられる、「TGF−β拮抗薬」は、細胞内又は生理系内の何れかで、TGF−βの量又は活性を減少させることができる何れかの分子である。拮抗薬の例は、生物活性を阻害する化合物、分子又は薬剤を包含する。拮抗薬分子の例は、これらに限定されないが、ペプチド、低分子化合物、抗体、アンチセンス核酸、siRNA核酸、アプタマー及びその他の結合剤を包含する。TGF−βの量及び活性を減少させる能力は、何れのメカニズムによっても限定されるものではない。例えば、TGF−β拮抗薬は、転写、翻訳、プロセッシング又は輸送の段階でTGF−βの発現を阻害することができる分子、TGF−βの安定性又は前駆分子の活性な成熟形態への変換に影響することができる分子、一つ又はそれ以上の受容体(タイプI、タイプII又はタイプIII)と結合するTGF−βの能力に影響することができる分子、又はTGF−βのシグナル伝達を妨げることができる分子であってよい。
【0039】
様々なTGF−β拮抗薬及びその製造方法は、当該技術分野で公知であって、その多くのものが現在開発中である。使用される特定のTGF−β拮抗薬には、有効なTGF−β拮抗薬の何れかが本発明の方法において有用であるならば、限定される特性はない。本発明の方法で有用な一つの特定なTGF−β拮抗薬は、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である。このような拮抗薬の更なる例は、TGF−βの一つ又はそれ以上の異性体に対するモノクローナル及びポリクローナル抗体(米国特許第5,571,714号及びPCT特許出願第WO97/13844号)、TGF−β受容体、その断片、その誘導体及びTGF−β受容体に対する抗体(米国特許第5,693,607号、同第6,008,011号、同第6,001,969号及び同第6,010,872号、及びPCT特許出願第WO92/00330号、同第WO93/09228号、同第WO95/10610号及び同第WO98/48024号)、潜伏関連ペプチド(同第WO91/08291号)、大きい潜在型TGF−β(large latent TGF-β)(同第WO94/09812号)、フェチュイン(米国特許第5,821,227号)、デコリン、及びビグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン(lumican)及びエンドグリンのようなその他のプロテオグリカン(米国特許第5,583,103号、同第5,654,270号、同第5,705,609号、同第5,726,149号、5,824,655号、同第5,830,847号、同第6,015,693号、及びPCT特許出願第WO91/04748号、同第WO91/10727号、同第WO93/09800号及び同第WO94/10187号)を包含する。
【0040】
このような拮抗薬の更なる例は、ソマスタチン(PCT特許出願第WO98/08529号)、マンノース−6−リン酸又はマンノース−1−リン酸(米国特許第5,520,926号)、プロラクチン(PCT特許出願第WO97/40848号)、インスリン様成長因子II(PCT特許出願第WO98/17304号)、IP−10(PCT特許出願第WO97/00691号)、arg−gly−asp含有ペプチド(米国特許第5,958,411号及びPCT特許出願第WO93/10808号)、植物、カビ及び細菌の抽出物(ヨーロッパ特許出願第813875号、日本特許出願第8119984号及び米国特許第5,693,610号)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(米国特許第5,683,988号、同第5,772,995号、同第5,821,234号及び同第5,869,462号、及びPCT特許出願第WO94/25588号)、及びSMADs及びMADs(ヨーロッパ特許出願第EP874046号、PCT特許出願第WO97/31020号、同第WO97/38729号、同第WO98/03663号、同第WO98/07735号、同第WO98/07849号、同第WO98/45467号、同第WO98/53068号、同第WO98/55512号、同第WO98/56913号、同第WO98/53830号及び同第WO99/50296号、及び米国特許第5,834,248号、同第5,807,708号及び同第5,948,639号)及びSki及びSno(G. Vogel, Science 286:665(1999) and Stroschein et al., Science 286:771-74 (1999))を含む、TGF−βシグナル送達に関連するその他のタンパク質の宿主、及びTGF−βの活性を阻害する能力を保持する上記分子の何れかの断片及び誘導体を包含する。
【0041】
TGF−β受容体及びTGF−β受容体のTGF−β結合の断片、特に溶解性断片は、本発明の方法において有用なTGF−β拮抗薬である。TGF−β受容体及びそれらをコードする核酸は、当該技術分野で公知である。1型TGF−β受容体をコードする核酸の配列は、GENBank登録番号L15436及びDonahoeらの米国特許第5,538,892号に開示されている。2型TGF−β受容体の核酸配列は、GENBank登録番号AW236001;AI35790;AI279872;AI074706;及びAA808255で公表されている。3型TGF−β受容体の核酸配列も、GENBank登録番号NM003243;AI887852;AI817295;及びAI681599で公表されている。
【0042】
本発明の方法で有用な薬剤は、例えばアンチセンス、リボザイム又はRNA干渉技術での核酸分子、例えばTGF−β核酸配列の一部に対応するsiRNA分子であってよい。
【0043】
アンチセンスポリヌクレオチドは、mRNA転写物へのハイブリダイゼーションによる複写を直接阻止することにより、又は遺伝子のこのような転写物を分解することによって作用することができる。アンチセンス分子は、発現ベクター中のプロモータの下流領域として、アンチセンス方向に遺伝子の少なくとも1つの機能部分を用いて、遺伝子組み換え技術により作成することができる。化学的に修飾した塩基又は連鎖は、分解を減少するか体内半減期を増加することによって、アンチセンスポリヌクレオチドを安定化するために用いることができる(例えば、メチルホスホネート、ホスホロチオエート、ペプチド核酸)。アンチセンス分子の配列は、翻訳開始部位と相補的にすることができる(例えば、標的の核酸配列の−10と+10の間)。
【0044】
リボザイムは、RNA転写物又はゲノムの特異的な開裂を触媒的に実施する。作用のメカニズムは、相補的な細胞性又はウィルス性RNAへの配列特異的なハイブリダイゼーション、それに続くエンドヌクレアーゼ的切断を包含する。阻害は、エンドヌクレアーゼH活性に依存している場合もしていない場合もある。リボザイムは、標的RNAに相補的な一つ又はそれ以上の配列を、更にRNA開裂に関与する触媒的な配列(例えば、ハンマーヘッド型、ヘアピン型、アックスヘッド型モチーフ)も含む。例えば、対象RNA中の潜在的なリボザイム開裂部位は、最初に対象のRNAを、トリヌクレオチド配列であるGUA、GUU及びGUCを含むリボザイム開裂部位を求めて走査することにより同定される。同定されると、開裂部位を含有する対象RNAの領域に対応する約15〜約20のリボヌクレオチドのオリゴヌクレオチドは、候補オリゴヌクレオチド配列が不適切であるとすることができる2次構造のような、予測される構造的な特徴について評価することができる。次いで候補配列の適切性を、標的RNAをハイブリダイズして開裂する能力によって評価することができる。リボザイムは、遺伝子組み換えによって産生されるか又は化学合成される。
【0045】
siRNAは、RNA干渉(RNAi)を介在する少なくとも20〜25塩基対の二本鎖RNAを示す。標的RNAに対応する二重鎖siRNAは、らせん構造の分離転写、対立極性を有する一対のプロモーターからの共役転写、又は少なくとも部分的に自己相補的配列を有している一本鎖RNAのアニーリングによって形成することができる。また、少なくとも約15〜約23の塩基対の二重鎖オリゴリボヌクレオチドは、耐性のある修飾塩基による幾つかの置換により、化学的に合成できる(例えば、2つのリボヌクレオチドの3’オーバーハングを有する二重鎖の21個のリボヌクレオチド)。しかしながら、siRNA配列の中心におけるミスマッチは、干渉を無効にする。RNA干渉によって標的となる領域は、好ましくは遺伝子のコード領域として、転写しなければならない。干渉は、21〜23個の塩基対の離れた部位で標的RNAを開裂させる細胞因子(例えば、リボヌクレアーゼIII)に依存していると思われ、開裂部位の位置は、ガイドsiRNAの3’末端よりも5’末端によって規定されると思われる。少量のsiRNAによる刺激は、RNA依存性のRNAポリメラーゼによる増幅後に、干渉を誘発することができる。
【0046】
一態様では、TGF−β拮抗薬は、TGF−βがその受容体、又はF(ab)断片、Fv断片のようなその断片と結合するのを阻害する抗体、一本鎖抗体、及びTGF−βに結合する能力を保持するその他の形態の「抗体」である。本発明の一態様では、抗体が提供される。本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子及びイムノグロブリン分子の免疫学的に活性な部位、すなわち、TGF−βのような、抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子、を示す。イムノグロブリン分子の免疫学的に活性な部位の例は、抗体をペプシンのような酵素で処理して産生できる、F(ab)及びF(ab’).sub2断片を含む。本発明は、TGF−βに結合するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を提供する。本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、TGF−βの特定エピトープと免疫反応することができる一種類の抗原結合部位のみを含有する抗体分子の集団を示す。従って、モノクローナル抗体組成物は、一般に免疫反応する特定のTGF−βタンパク質に対して単一の結合親和性を示す。
【0047】
抗TGF−βのポリクローナル抗体は、適当な対象をTGF−β免疫原で免疫化して、上記のように調製することができる。免疫化した対象における抗TGF−β抗体力価は、固定化TGF−βを用いる酵素免疫吸着測定(ELISA)によるような、標準的な技術によって長期間観察することができる。必要により、TGF−βに対する抗体分子を、哺乳動物から(例えば、血液から)単離して、プロテインAクロマトグラフィーのような、公知技術によって更に精製して、IgG画分を得ることができる。免疫後の適当な時期、例えばTGF−β抗体力価が最高である時に、抗体産生の細胞は、対象から得られ、そして以下の技術のような標準的な技術によってモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。技術として、最初にKohlerとMilstein(Nature 256:495-497, 1975)によって記載されたハイブリドーマ技術(「Brown et al. (1981) J. Immunol. 127:539-46」、「Brown et al. (1980) J. Biol. Chem. 255:4980-83」、「Yeh et al. (1976) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:2927-31」及び「Yeh et al. (1982) Int. J. Cancer 29:269-75」も参照されたい)、より最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al. (1983) Immunol Today 4:72)、EBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al. (1985), Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)又はトリオーマ技術がある。モノクローナル抗体ハイブリドーマを産生する技術は、公知である(一般に、「Kenneth, R.H. in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, N.Y. (1980)」、「Lerner, E.A. (1981) Yale J. Biol. Med., 54:387-402」、「Gefter, M.L. et al. (1977) Somatic Cell Genet. 3:231-36」を参照されたい)。つまり、不死の細胞株(一般に、骨髄腫)を、上記のようなTGF−β免役原で免疫化した哺乳動物から得られるリンパ球(一般に、脾細胞)に融合して、得られる細胞の培養上澄液を、TGF−βに結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定するためにスクリーニングする。
【0048】
リンパ球と不死の細胞株を融合するために用いられる多くの公知の手順の何れかを、抗TGF−βモノクローナル抗体を産生する目的で適用することができる(例えば、「Galfre, G. et al. (1977) Nature 266:55052」、「Gefter et al. Somatic Cell Genet., supra」、「Lerner (1981) supra」、「Kenneth, Monoclonal Antibodies, supra」を参照されたい)。さらに、当業者は、有用であるそのような方法の多くの変法があることを理解できるであろう。一般には、不死の細胞株(例えば、骨髄腫細胞株)は、リンパ球と同じ哺乳動物種由来のものである。例えば、マウスのハイブリドーマは、本発明の免疫原性調製物で免疫化されたマウス由来のリンパ球を不死のマウス細胞株で融合することにより作製することができる。好ましい不死の細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有する培地(「HAT培地」)に感受性があるマウス骨髄腫細胞株である。多くの骨髄腫細胞株の何れか、例えばP3−NS1/1−Ag4−1、P3−x63−Ag8.653又はSp2/O−Ag14の骨髄腫細胞株は、標準的な技術に従って融合パートナーとして使用することができる。これらの骨髄腫細胞株は、市販されている。一般に、HAT感受性のマウス骨髄腫細胞株は、ポリエチレングリコール(「PEG])を用いてマウス脾細胞と融合させる。次いで融合して得られるハイブリドーマ細胞は、融合していない及び非生産的な融合の骨髄腫細胞を死滅させるHAT培地を用いて選択する(融合していない脾細胞は、形質転換されないので数日後に死亡する)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISA試験を用いて、TGF−βに結合する抗体についてハイブリドーマ培養上澄液をスクリーニングすることによって検出することができる。
【0049】
モノクローナル抗体分泌のハイブリドーマを調製する代替法として、抗TGF−βモノクローナル抗体が、組換えのコンビナトリアルイムノグロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージ提示ライブラリー)をTGF−βでスクリーニングしてTGF−βに結合するイムノグロブリンブンライブラリーメンバーを単離することにより、同定及び単離することができる。ファージ提示ライブラリーを作成及びスクリーニングするキットが、市販されている(例えば、「Pharmacia Recombinant Phage Antibody System, Catalog No.27-9400-01」及び「Stratagene SURFZAP.TM. Phage Display Kit, Catalog No.240612」)。さらに、抗体提示ライブラリーを作成してスクリーニングするのに特に使用可能な方法及び試薬の例は、例えば、Ladnerらの米国特許第5,223,409号、KangらのPCT国際特許出願第WO92/18619号、DowerらのPCT国際特許出願第WO91/17271号、WinterらのPCT国際特許出願第WO92/20791号、MarklandらのPCT国際特許出願第WO92/15679号、BreitlingらのPCT国際特許出願第WO93/01288号、McCaffertyらのPCT国際特許出願第WO92/01047号、GarrardらのPCT国際特許出願第WO92/09690号、LadnerらのPCT国際特許出願第WO90/02809号、「Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9:1370-1372」、「Hay et al. (1992) Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85」、「Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281」、「Griffiths et al. (1993) EMBO J. 12:725-734」、「Hawkins et al. (1992) J. Mol. Biol. 226:889-896」、「Clarkson et al. (1991) Nature 352:624-628」、「Gram et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3576-3580」、「Garrad et al. (1991) Bio/Technology 9:1373-1377」、「Hoogenboom et al. (1991) Nuc. Acid Res. 19:4133-4137」、「Barbas et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7978-7982」及び「McCafferty et al. (1990) Nature 348:552-554」に見い出すことができる。
【0050】
さらに、標準的な組換えDNA技術を用いて作成できるヒト及び非ヒト部分の両方を包含する、キメラ及びヒト化モノクローナル抗体のような組換え抗TGF−β抗体は、本発明の範囲内である。このようなキメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、例えば以下に記載の方法を用いる、当該技術分野で公知の組換えDNA技術によって産生することができる。Robinsonらの国際特許出願第PCT/US86/02269号、Akiraらの欧州特許出願第184,187号、Taniguchiの欧州特許出願第171,496号、Morrisonらの欧州特許出願第173,494号、NeubergerらのPCT国際特許出願第WO86/01533号、Cabillyらの米国特許第4,816,567号、Cabillyらの欧州特許出願第125,023号、「Better et al. (1988) Science 240:1041-1043」、「Liu et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443」、「Liu et al. (1987) J. Immunol. 139:3521-3526」、「Sun et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218」、「Nishimura et al. (1987) Canc. Res. 47:999-1005」、「Wood et al. (1985) Nature 314:446-449」、「Shaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559」、「Morrison, S.L. (1985) Science 229:1202-1207」、「Oi et al. (1986) Bio Techniques 4:214」、Winterの米国特許第5,225,539号、「Jones et al. (1986) Nature 321:552-525」、「Verhoeyan et al. (1988) Science 239:1534」及び「Beidler et al. (1988) J. Immunol. 141:4053-4060」を参照されたい。
【0051】
抗TGF−β抗体(例えば、モノクローナル抗体)は、アフィニティークロマトグラフィー又は免疫沈殿のような標準的な技術によって、TGF−βを単離するために用いることができる。抗TGF−β抗体は、細胞由来の天然のTGF−βの精製、及び組換え技術によって産生された宿主細胞中に発現したTGF−βの精製を促進する。さらに、抗TGF−β抗体は、TGF−βタンパク質の発現量及びパターンを評価するためにTGF−βタンパク質(例えば、細胞溶解物又は細胞の上清中)を検出するのに用いることができる。抗TGF−β抗体は、臨床検査手順の一部として、例えば、所定の治療計画の効果を確認するために、組織中のタンパク質レベルを診断的に監視するために用いることができる。抗体を検出可能な物質と結合させること(すなわち、物理的に結合させる)によって、検出を促進することができる。検出可能な物質の例には、各種の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質及び放射性物質が含まれる。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼが含まれ、適切な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジンビオチンが含まれ、適切な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセイン イソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミン フルオレセイン、塩化ダンシル又はフィコエリトリンが含まれ、発光物質の例には、ルミノールが含まれ、生物発光物質の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが含まれ、そして適切な放射性物質の例には、125I、131I、35S又はHが含まれる。
一実施態様では、本発明の抗体は、TGF−β中和抗体である。
【0052】
(本発明の医薬組成物)
本明細書に記載の薬剤は、本明細書に開示されている病気、疾患及び症状の治療のための医薬組成物に製剤化することができる。「医薬組成物」という言葉は、哺乳類、例えばヒトに投与するのに適している調製物を含む。本発明の方法に用いられる化合物を医薬品として哺乳類、例えばヒトに投与する場合、それ自体を、又は例えば、0.1〜99.5%(好ましくは、0.5〜90%)の有効成分を薬学的に許容される担体と組み合わせて含有する医薬組成物として投与するとができる。
【0053】
「薬学的に許容される担体」という語句は、当該技術分野で認められ、本発明の化合物を哺乳類に投与するのに適している、薬学的に許容される物質、組成物又は賦形剤を含む。担体は、対象の薬剤を身体の一つの組織又は部分から、身体の別の組織又は部分へ運搬又は輸送するのに関与する、液体又は固体の充てん剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又はカプセル化剤を含む。それぞれの担体は、製剤のその他の成分と適合し、そして患者に有害でないという意味の「許容」でなければならない。薬学的に許容される担体として提供できる物質の幾つかの例は、乳糖、ブドウ糖及び蔗糖のような糖類、トウモロコシ澱粉及び馬鈴薯澱粉のような澱粉類、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロースのようなセルロース及びその誘導体、粉末化トララガントゴム、麦芽、ゼラチン、タルク、ココアバター及び坐剤用ワックスのような賦形剤、落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイル及び大豆油のような油類、ポリエチレングリコールのようなグリコール類、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールのようなポリオール類、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルのようなエステル類、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのような緩衝剤、アルギン酸、パイロジェンフリーの水、生理食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、リン酸緩衝溶液、及び医薬製剤中で用いられるその他の非毒性適合性物質を含む。
【0054】
湿潤剤、乳化剤、及びラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウムのような滑沢剤、さらに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味、香味及び着香剤、保存剤及び抗酸化剤も組成物中に存在させることができる。
【0055】
薬学的に許容される抗酸化剤の例は、アスコルビン酸、システイン塩酸、硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(13HT)、レクチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤、及びクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート化剤を含む。
【0056】
本発明の製剤は、経口、経鼻、局所、経皮、口腔、舌下、直腸内、膣内及び/又は非経口投与に適しているものを包含する。製剤は、便利よく単位用量形態にすることができ、そして薬学の技術分野で公知の何れかの方法で製造することができる。単回用量形態で製造するために担体物質と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に治療効果を生み出す化合物の量であろう。通常、この量は、100パーセント中約1%〜99%の活性成分、好ましくは約5%〜約70%、最も好ましくは約10%〜約30%の範囲である。
【0057】
これらの製剤又は組成物を製造する方法は、本発明の化合物を担体及び随意に1つ又はそれ以上の副成分と、会合させる工程を含む。一般に、製剤は、本発明の化合物を液体の担体、微粉化した固体の担体、又はその両方と均一且つ密に会合させ、次いで必要により生成物を成形することによって製造される。
【0058】
経口投与に適している本発明の製剤は、活性成分として本発明の化合物の所定量を含有する、カプセル、オブラート錠(cachet)、丸剤、錠剤、トローチ剤(芳香基材、通常は蔗糖及びアラビア又はトラガカントガムを用いる)、粉末剤、顆粒剤の形態として、又は水性又は非水性液体の溶液又は懸濁液として、又は水中油型又は油中水型の乳剤として、又はエリキシル又はシロップとして、又はトローチ(ゼラチン及びグリセリン、又は蔗糖及びアラビアゴムのような内部基材を用いる)及び/又はうがい薬等とすることができる。本発明の化合物は、ボーラス、舐剤又はペーストとしても投与することができる。
【0059】
経口投与用の本発明の固体投薬形態(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉末剤、顆粒剤等)においては、活性成分は、クエン酸ナトリウム、第二リン酸カルシウム、及び/又は以下の何れかのような、1つ又はそれ以上の薬学的に許容される担体と混合する。担体として、澱粉類、乳糖、蔗糖、ブドウ糖、マンニトール及び/又はケイ酸のような充てん剤又は増量剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギニン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、蔗糖及び/又はアラビアゴムのような結合剤、グリセロールのような保湿剤、寒天、炭酸カルシウム、馬鈴薯又はタピオカ澱粉、アルギン酸、いくつかのケイ酸塩及び/又は炭酸ナトリウムのような崩壊剤、パラフィンのような溶液遅延剤、四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤、例えば、セチルアルコール及びグリセロールモノステアレートのような湿潤剤、カオリン及びベントナイト粘土のような吸収剤、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びそれらの混合物のような滑沢剤、及び着色剤がある。カプセル、錠剤及び丸剤の場合には、医薬組成物は、緩衝剤も包含していてもよい。同じようなタイプの固形組成物は、ラクトース又は乳糖のような、さらに高分子量のポリエチレングリコール等のような賦形剤を用いる軟及び硬充てんゼラチンカプセルに、充てん剤として用いることもできる。
【0060】
錠剤は、1つ又はそれ以上の補助成分を任意に用いて、圧縮又は成型によって作ることができる。圧縮錠は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を用いて製造することができる。成型錠は、不活性な液体希釈剤で湿潤させた粉末化化合物の混合物を適当な機械中で成型することによって製造することができる。
【0061】
錠剤、及び糖衣錠、カプセル、丸剤及び顆粒剤のような本発明の医薬組成物のその他の固形投与形態は、割線を入れてもよく、又は医薬製剤技術分野で公知の腸溶コーティング剤及びその他のコーティング剤のような、コーティング剤及びシェルを用いて製造することができる。これらは、例えば、所望の放出プロフィールをもたらす様々の割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアを用いて、その活性成分の遅延又は制御放出をもたらすように、製剤化することもできる。これらは、例えば、細菌保持フィルターで濾過するか、又は使用直前に無菌水又はその他の無菌の注射用溶剤に溶解できる無菌固形組成物の形態に、殺菌剤を組み込むことによって、滅菌することができる。これらの組成物は、乳白剤を含有していてもよく、そして活性成分(複数を含む)のみ、又は好ましくは、胃腸管のある部分に、任意の遅延方式で、放出する組成物であってもよい。使用できる包埋組成物の例は、重合物質及びワックスを含む。活性成分を、適切な場合には、一つ又はそれ以上の上記賦形剤と共に、マイクロカプセル化形態とすることもできる。
【0062】
本発明組成物を経口投与するための液体投薬形態は、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤を包含する。活性成分に加えて、液体投薬形態は、例えば、水又はその他の溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油類(特に、綿実、落花生、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール類及びソルビタンの脂肪酸エステル、及びこれらの混合物のような、溶解剤及び乳化剤のような、当該技術分野で通常用いられている不活性希釈剤を含有していてもよい。
【0063】
不活性希釈剤に加えて、この経口用の組成物は、湿潤剤、乳化及び懸濁化剤、甘味、香味、着色、着香及び保存剤のような、補助剤を包含していてもよい。
【0064】
懸濁液は、活性組成物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル類、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天及びトラガカントゴム、及びこれらの混合物を含有することができる。
【0065】
直腸内又は膣内投与用の本発明の医薬組成物の製剤は、坐薬として提供することができ、これは1つ又はそれ以上の本発明化合物を、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、坐薬用ワックス又はサリチル酸塩を含む適切な非刺激性賦形剤又は担体の1つ又はそれ以上と混合して製造することができ、そしてこれは室温では固体であるが、体温では液体であるので、直腸又は膣腔で溶解し、活性化合物を放出することになる。
【0066】
膣内投与に適している本発明の製剤は、当該技術分野で適切であると知られている担体を含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又はスプレーの製剤も包含する。
【0067】
本発明の化合物の局所又は経皮投与用の投薬形態は、粉末剤、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を包含する。活性化合物は、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体、及び必要により保存剤、緩衝剤又は高圧ガスと混合することができる。
【0068】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、本発明の活性化合物に加えて、動物性又は植物性の脂質、油類、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガラントゴム、セルロース誘導体、ポリエチレグリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、又はこれらの混合物のような、賦形剤を含有していてもよい。
【0069】
粉末剤及びスプレーは、本発明の活性化合物に加えて、乳糖、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミド粉末、又はこれらの物質の混合物のような賦形剤を含有することができる。スプレーは、例えば、クロロフルオロ炭化水素類、及びブタン及びプロパンのような揮発性の非置換炭化水素類の通常の高圧ガスを更に含有することができる。
【0070】
経皮パッチは、体内へ本発明化合物の制御放出をもたらすという更なる利点を有している。このような投薬形態は、化合物を適切な媒体に溶解又は懸濁することによって作成することができる。吸収促進剤を、皮膚を介する化合物の流れを増加させるために用いることもできる。このような流れの速度を、流速制御膜を備えるか又は活性化合物をポリマーマトリックス又はゲルに分散させるかの何れかによって制御することができる。
【0071】
眼科製剤である、眼軟膏、粉末剤、溶液等も、本発明の範囲内であると意図されている。
【0072】
非経口投与に適している本発明の医薬組成物は、本発明の1つ又はそれ以上の化合物と、1つ又はそれ以上の薬学的に許容される滅菌した等張の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョン、又は使用直前に滅菌注射用溶液又は分散液に再構築できる滅菌粉末と組み合わせて包含し、またそれは、抗酸化剤、緩衝剤、製剤を対象となる服用者の血液と等張にする溶質、又は懸濁化若しくは増粘剤を含有していてもよい、。
【0073】
本発明の医薬組成物において使用できる適切な水性又は非水性担体の例は、水、エタノール、(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレグリコール等のような)ポリオール類及びこれらの適当な混合物、オリーブ油のような植物油、及びオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステル類を含む。例えば、レクチンのようなコーティング物質の使用により、分散液の場合には所望の粒度を維持することにより、そして界面活性剤の使用により、適切な流動性を保持することができる。
【0074】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤のような補助剤も含有することができる。微生物の作用の防止には、各種の抗菌及び抗カビ剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の含有によって保証される。砂糖、塩化ナトリウム等の等張化剤を組成物に含有させることも望ましい。さらに、注射可能な医薬形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンのような吸収を遅延させる薬剤の含有によってもたらされる。
【0075】
いくつかの場合では、薬剤の効果を引き延ばすために、皮下又は筋内注射から薬剤の吸収を遅くすることが望ましい。これは、水への溶解度が低い結晶性又は無結晶性物質の液体懸濁液の使用によって達成される。薬剤の吸収速度は、その溶解速度によって決まる、すなわち、結晶の大きさ及び結晶形態によって決めることができる。非経口投与される薬剤形態の遅延吸収は、薬剤を油性賦形剤に溶解又は懸濁させることによって達成される。
【0076】
注射可能なデポー形態は、ポリ乳酸−ポリグリコール酸(polyglycolide)のような生物分解性ポリマーに対象化合物のマイクロカプセルのマトリックスを形成することによって作成できる。薬剤のポリマーに対する比、及び使用される特定のポリマーの性質によって、薬剤放出の速度を制御することができる。その他の生物分解性ポリマーの例は、ポリオルトエステル及びポリ酸無水物を含む。注射可能なデポー製剤は、薬剤を、身体組織に適合するリポソーム又はマイクロエマルジョン中に封入することによって製造できる。
【0077】
本発明の製剤は、経口、非経口、局所又は直腸内に投与することができる。これらは勿論、それぞれの投与経路に適した形態で投与される。例えば、これらは、錠剤又はカプセル形態で、注射、吸入、眼ローション、軟膏、坐薬、その他によって、注射、輸液、吸入による投与で;ローション又は軟膏によって局所的に;そして坐薬によって直腸内に投与される。経口投与が、好ましい。
【0078】
本明細書で用いられる「非経口投与」及び「非経口で投与された」という語句は、腸内及び局所投与以外の、通常は注射による投与の方法を意味し、これらに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、 嚢下、くも膜下、脊髄内及び胸骨内注射及び輸液を包含する。
【0079】
本明細書で用いられる「全身投与」、「全身に投与された」、「非経口投与」及び「非経口で投与された」という語句は、直接中枢神経系に投与しないで、患者の全身に入り、次いで代謝及びその他の処理を受けるようにする、化合物、薬剤又はその他の物質の投与、例えば皮下投与を意味する。
【0080】
これらの化合物は、経口、経鼻、例えばスプレーによる、直腸内、膣内、腹腔内、槽内(intracistemally)及び局所を含む、適切な投与経路で、粉末、軟膏、頬側及び舌下でのドロップとして、治療のためにヒト及びその他の動物に投与できる。
【0081】
選択された投与経路に関わらず、適当な水和物の形態で用いることができる本発明の化合物及び/又は本発明の医薬組成物は、当業者に公知の通常の方法で薬学的に許容される投薬形態に製剤化することができる。
【0082】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、患者には毒性ではなく、特定患者へ望ましい治療応答をもたらすのに有効な活性成分の量、組成物、投与方法を得るように変えることができる。
【0083】
選択される用量レベルは、用いられる本発明の特定化合物、又はそのエステル、塩若しくはアミドの活性、投与の経路、投与回数、使用される特定化合物の排泄速度、治療の期間、使用される特定化合物と組み合わせて用いられる薬剤、化合物及び/又は物質、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般健康状態及び病歴、及び医学分野で公知のこのような因子、を含む多くの因子によって決まるであろう。
【0084】
当該技術分野で通常の技能を有する医師又は獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師又は獣医師は、医薬組成物中の使用される本発明化合物の用量を望ましい治療効果が達成されるのに必要なレベルより低いレベルから始めて、望ましい効果が達成されるまで徐々に用量を増やすであろう。
【0085】
一般に、本発明化合物の適切な1日用量は、治療効果を生ずる最も低い用量である、化合物の量であろう。このような有効用量は、一般に上記の因子によって決まるであろう。一般に、適用される鎮痛効果のために使用する場合、患者への本発明化合物の静脈内及び皮下用量は、約0.0001〜約100mg/体重kg/日、より好ましくは約0.01〜約50mg/体重kg/日、そして更に好ましくは約1.0〜約100mg/体重kg/日である。有効量は、本明細書で説明する病気、障害又は疾患を治療する量である。
【0086】
所望により、活性化合物の1日有効用量を、1日を通して適当な間隔、2、3、4、5、6回又はそれ以上に分けた容量を適当な間隔で、単位投薬形態であってもよいが、投与することができる。
【0087】
本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、化合物を医薬組成物として投与することが好ましい。
【0088】
本発明の典型的な実施態様では、医薬組成物が、ロサルタン(MerckによってCozaarとして市販されている)である。
【0089】
(治療方法)
本明細書で用いられる「マルファン症候群又は関連する病気、疾患及び症状」という用語は、マルファン症候群、又はマルファン症候群を引き起こす生化学的事象、例えば異常なTGFβの発現又は活性化に起因しているか又は関連している、多数の病気、障害又は疾患の何れかを意味するように意図されている。疾患の例は、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患を包含する。眼疾患の例は、白内障、近視、緑内障、及び網膜剥離を含む。更に、マルファン症候群又は関連する病気、疾患及び症状は、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィーのような、筋ジストロフィーを含む。疾患又は障害は、肺の疾患又は障害、例えば肺気腫、気胸、及びCOPDであり得る。
【0090】
「治療(処置)した」、「治療(処置)する」又は「治療(処置)」という用語は、マルファン症候群又は関連する病気、障害若しくは疾患に関連するか又は起因する、少なくとも1つの症状の低減又は改善を含む。例えば、治療は、疾患又は障害の1つ又は数種の症状の低減、又は疾患又は障害、例えばマルファン症候群の完全な根絶であってよい。
【0091】
「対象」という用語は、マルファン症候群又はそれに関連する病気、障害若しくは疾患に罹るか又は苦しむ可能性のある、生物、例えば原核生物又は真核生物を包含することを意図している。対象の例は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット、及び遺伝子組み換え非ヒト動物を含む。ある態様では、対象は、ヒト、例えマルファン症候群、又はそれに関連する病気、障害若しくは疾患に罹っている、罹るリスクがある、又は潜在的に罹る可能性があるヒトである。
【0092】
本発明の薬剤及び医薬組成物は、異常なTGF−β活性又は発現に関連する病気、障害又は疾患を治療又は予防するために対象に投与することができる。一態様では、薬剤及び医薬組成物は、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する病気、障害若しくは疾患を治療又は予防するために用いられる。
【0093】
一態様では、薬剤又は医薬組成物は、本明細書で説明の疾患又は障害を治療又は予防するために医薬供給者によって決められた投与計画を用いて、有効量を投与される。薬剤又は医薬組成物は、本明細書に記載の及び当業者に公知の種々の方法で投与することができる。
【0094】
一態様では、本発明は、TGF−βの発現又は活性を調節する薬剤を対象に投与することによって、対象における異常な又は不要なTGF−β発現又は活性に関連する疾患又は障害を予防する方法を提供する。TGF−βの異常な発現又は活性が引き起こすか又はこれに起因する疾患のリスクがある対象は、例えば、本明細書に記載の診断又は予後アッセイの何れか又はこれらを組み合わせて、同定することができる。予防薬剤の投与は、TGF−β異常に特有な症状の発現前に、疾患又は障害を予防又はその進行を遅延するようにできる。
【0095】
本発明のその他の態様は、治療目的のためにTGF−β発現又は活性を調節する方法に関する。従って、例示的な態様では、本発明の調節方法は、細胞を、1つ又はそれ以上のTGF−βの活性を調節する薬剤と接触させることを含む。TGF−βタンパク質の活性を調節する薬剤は、核酸又はタンパク質、TGF−β抗体、TGF−β拮抗薬、核酸分子又は小分子化合物のような、本明細書に記載のような薬剤であってよい。一態様では、薬剤は、TGF−β活性の1つ又はそれ以上を阻害する。そのような阻害薬剤の例は、アンチセンスTGF−β核酸分子、抗TGF−β抗体及びTGF−β拮抗薬を含む。このような調節方法は、インビトロで(例えば、細胞を薬剤と培養して)、また或いは、インビボで(例えば、薬剤を対象に投与して)実施することができる。そのように、本発明は、TGF−βの異常な又は不要な発現又は活性によって特徴付けられる疾患又は障害、例えばマルファン症候群又は関連する疾患又は障害に罹っている患者を治療する方法を提供する。一態様では、方法がTGF−βの発現又は活性を調節する薬剤又は薬剤の組み合わせを投与することを含んでいる。
【0096】
本発明は更に、本発明の薬剤又は医薬組成物及び使用説明書を包含するキットを提供する。一態様では、本発明のキットは、TGF−βの異常な発現又は活性によって特徴付けられる疾患及び障害を治療するためのものである。関連する態様では、TGF−βに関連する疾患又は疾患は、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する疾患又は障害である。
【0097】
本発明は、開示される実施例に限定されるように解釈されるものではなく、むしろ、本発明は、本明細書に提供される何れか及び全ての適用を含み、そして当業者での均等な変更の全てを包含するように解釈すべきあることは、認識されるであろう。
【実施例1】
【0098】
実施例1は、マルファン症候群並びに関連する疾患及び障害が増加したTGFβシグナル伝達によって特徴付けられていることを明らかにする。
フィブリリン1欠損マウスにおける過剰なTGFβシグナル伝達に起因する肺胞中隔形成の障害
A)フィブリリン1欠損マウスの初期末梢気腔中隔形成の障害
大多数の画像がmgD/mgDマウス由来を示したにもかかわらず、同一の所見が、mgD/+、mgR/mgR、mgR/+、C1049G+及びC1039G/C1039G株で観測された(以下を参照のこと、データは示していない)。MFSにおける閉塞性肝疾患及び気胸が、構造的に不完全でありそれによる生体力学的に病的な組織に作用する、慢性的な生理的ストレスの結果を現しているというのが、一般に広まっている古典的な見解であった。顕著に、フィブリリン1が欠損している出生後9日目(D9)の肺の病理組織実験(制御した膨張の後)は、著しい末梢気腔の拡大を明らかにした。精密な形態学的分析は、1日目からヘテロ接合体及びホモ接合体の肺の両方において末梢気腔の拡大を示した(図1)。注意深い組織学的分析は、破壊又は炎症の何れの証拠も示さず、むしろ始原的な肺胞中隔の欠損を示した(矢印、図1)。これらのデータは、古典的な破壊的肺気腫よりも、肺胞中隔の初期欠損と整合している。追加の検討では、フィブリリン1欠損マウスの発育中の肺にあるエラスチン含量が正常であること、及びわずかにある肺胞中隔の先端への局在が正常であることを実証した。また、上皮(SPC)及び間葉(SM−actin)分化の両方のマーカーの分布が正常であることを示した。
【0099】
B)フィブリリン1欠損肺におけるTGFβの過剰活性化及びシグナル伝達
肺の発生プログラムを損傷する潜在的なメカニズムを考慮すると、フィブリリン1の欠損がTGFβの異常調節をもたらすと考えられる。この仮定は、以下に関する予備知識、1)潜在的な大型複合体のマトリックス金属イオン封鎖、2)LTBPとマイクロフィブリルの共局在化、そしてより最近の3)フィブリリンとLTBP1の間の直接の生化学的相互作用の実証、に由来している。このモデルをテストするために、野生型(+/+)及びフィブリリン1欠損(−/−)の肺を、遊離及び活性TGFβ1に特異的なポリクローナル抗体で染色した。図2Aに示されたデータは、変異体(−/−)肺において免疫反応性物質が劇的に増加したことを実証している。一方、免疫組織化学及びウェスタン分析の両方で、LAPが大量に減少しており、これはTGFβが産生されるよりも活性化が増大したことを示している。増加した遊離TGFβが、この発育状況において、増加したシグナル伝達に転換されるか否かについて確認するために、TGFβ反応性プロモーター要素(CAGAボックス)の縦列反復からGFPの発現を促進する、遺伝子組み換えレポーター対立遺伝子を作製した。先の検討が、この要素のTGFβへの完全な特異性を示している(BMP又はアクチビンと比較して)。図2Bに示されたデータは、野生型(+/+)に比べて、レポータートランス遺伝子(Tg)を包含するヘテロ接合体(+/−)及びホモ接合体(−/−)Fbn1標的マウスにおいて、それぞれ4倍及び25倍のTGFβシグナル伝達(GFPシグナル)の増加を示している。
【0100】
C)TGFβシグナル伝達の停止によるFbn1標的マウスにおける肺の表現型の救済
ED17及び19において、妊娠雌親をTGFβ中和抗体(Nab;TGFβ1及び2に特異的)又は無関係のIgG対照で処理した。ED7における仔の分析は、ヘテロ接合の標的マウスの両方において肺中隔形成の用量依存的な救済を明らかにし、結果は形態計測によって確認された(それぞれ、図3A及びB)。重要なことは、処理した野生型マウスが上記の生理学的中隔形成を示し、TGFβが肺胞中隔形成の負の生理学的調節因子であることを実証した。この効果は、フィブリリン1欠損マウスにおいて大きく強調され、MFSの肺疾患の発症においてTGFβシグナル伝達が過剰であることを確認した。
【0101】
D)発育中の中隔形成の欠陥の明白な肺気腫への進行
mgDホモ接合体より長生きしているmgR/mgRマウスの分析は、肺疾患の自然な経過の観察を可能とした。ED6〜9において、こららのマウスは、上記で示したものと同じ所見を示す。出生後6ヶ月までに、変異マウスの肺は、組織破壊、炎症並びにMMP2及びMMP9の増加した発現を伴って広範囲の気腔拡張を示した(図4,データを示していない)。このことは、発育異常が、遅発性で見掛け後天性の肺疾患の素因をもたらすことを示す。
【0102】
変化したTGFβシグナル伝達の他の組織への関連性
過剰なTGFβシグナル伝達は、多くの組織におけるMFSの疾病原因と関係がある。
A)房室(AV)弁
図5Aのように、フィブリリン1欠損マウスにおけるAV弁の出生後の後天性粘液腫状変化を示した。心エコー検査は、僧帽弁の逸脱及び逆流を含む機能変化を明らかにした。これらの変化は、増加した遊離TGFβ、増加したTGFβシグナル伝達(pSmad2の核集積から明らかなように)、増加した細胞増殖及び減少したアポトーシス(それぞれKi67及びTUMEL染色でマークした)と関連している(図5B、C)。TGFβNAbの出産前投与は、弁の長さ及び厚みの点で両方を維持救済し、因果関係を明らかにした(図5D)。突然変異性弁尖の発現プロファイリングは、bIGH3、EDN1及びTIMP1を含むTGFβ応答遺伝子の上方調節を示した。多数の骨形成タンパク質(BMP2、4及び6)の増加した発現もあった。
【0103】
B)骨格筋
MFS患者の多くは、筋緊張低下に関連すると思われる著しい骨格筋形成不全を有している。この所見についての分子的機序は、全く明らかにされていない。我々は、実験した全ての筋肉群において、線維サイズの一般的な減少及び広範な変化、増加した筋内膜のコラーゲン、及び脂肪湿潤による細胞脱落を含む、年齢依存性変化を見出した(図6A)。MFS患者の筋生検で、同一の変化が見られた。また、これらの変化は、増加した遊離TGFβ、増加したTGFβシグナル伝達及びTGFβ応答遺伝子(例えば、ペリオスチン)の増加した発現と関連していた。フィブリリン1欠損マウスは、障害の誘発後(カルディオトキシンの注射18日後)に著しい筋肉再生障害を示した(図6B)。理論的には、これは、衛生細胞(SCs)、すなわち、正常な筋肉再生に必須である常在性筋幹細胞の、数が減少した又は増殖が減少したの何れかに関連しているであろう。我々は、SCsの正常な指数を見出した(C−met染色によって印を付けた)が、SCs増殖の劇的な減少も見出した(M−カドヘリン染色によって印を付けた;図6C)。この応答は、TGFβNAbの投与後に、完全に正常な状態となった。これには、障害に応答する修復増殖、減少したpSmad2及びペリオスチンの発現、及び良好な再生の直接的な証拠となる中心核の筋線維による筋構築の正常化を包含する(図6B、C)。NAbを長期投与されているマウスは、正常な定常状態の筋構築を示した(図6D)。精密な形態計測によって、全ての視覚的印象を確認した。
【0104】
C)TGFβ及びその他の組織
増加したTGFβは、上行大動脈(図7)、増殖板内の肥大性の軟骨細胞、及び硬膜を含むその他の組織中でも確認された。出産直後のごく短く予想可能な時間間隔で起こる、肺胞中隔形成又はAV弁改造、又は急速に誘発でき量的に評価できる筋肉の再生とは異なって、骨の異常増殖、動脈瘤の形成及び硬膜嚢の拡張は、潜行的に発症して継続的な(全滅的ではなく)表現型を示す。一連の遺伝子操作及び/又は薬理学的操作を、長期にわたるそれらの発育を観察するために用いた。これらの検討を以下に概説する。
【0105】
TGFβシグナル伝達の薬理学的操作
インビボでTGFβシグナル伝達の臨床的に意義のある阻害を達成する、1型アンジオテンシンII(AT1)受容体遮断薬(例えば、ロサルタン)の能力を記載する多数の文献がある。慢性腎疾患及び心筋症を含む多くの病状に対して、ロサルタンの抗線維化作用は、TGFβの阻害と直接に結び付けられており、薬剤使用による血行動態の結果とは無関係に存在している。TGFβ拮抗作用の指標は、遊離TGFβの血漿濃度の低下、TGFβシグナル伝達系の細胞内開始の減少、及びTGFβ応答遺伝子の組織発現の減少を含んでいる。我々は、ロサルタンによる治療が、血行動態ストレスの低減及びTGFβから生じる病原性事象の減弱の両方によって、動脈瘤の特別な防止がもたらされたと思われる。7週齢のC1039G/+マウスを無作為に、3つの処置群(各群は、n≧7)に分け、プラセボ、ロサルタン(50mg/kg)又はプロプラノロール(40mg/kg)で処置した。各処置群における用量を、比較可能な血行動態的効果が確認できるように滴定した。3つの独立した大動脈起始部の測定値は、3つの時点(起点、処置2ヶ月及び4ヶ月)の各々の収縮期長軸エコー画像から得た(図8A)。全ての分析は、遺伝子型と処置群に対して盲検で実施した。処置4ヶ月間での大動脈の増殖は、プラセボ(0.44±0.09)に比べて、ロサルタン群(0.03±0.07mm;p<0.0001)及びプロプラノロール群(0.22±0.06;p<0.001)で有意に減少した。ロサルタン群における増殖は、プロプラノロール群で見られるものよりも低く(p<0.01)、そして野生型マウスで見られるものと区別がつかない。
【0106】
プロプラノロール処置は、弾性マトリックス構造を改善しなかったのに対して、ロサルタン処置のマウスでは、全ての組織学的パラメータが正常になった(図8C、D)。予備検討は、TGFβ中和抗体の投与が同様な保護をもたらす(p<0.02)ことを示した。ロサルタンは、肺胞中隔形成(図8E)及び筋肉の再生及び構造(図8F)を含む表現型のその他の状態も救済する。標準的な治療(βアドレナリン作用性/ACE遮断;図8Gで示されている代表的な患者)にも関わらず、大動脈増殖が侵攻性の速度の若い患者(n=8)において、顕著なロサルタン応答が見られた。ロサルタンの効果が、血圧低下特性と厳密に関係しないという直接の証拠として、ロサルタンと同じ抗高血圧効果をもたらすプロプラノロールの用量での処置では何れのパラメータにも改善が無く(図8B〜E)、そしてTGFβ中和抗体では、マウスにおいて同様な救済を達成できることが示された(図8H、I)。このことは、疾病病因の疑問から派生するMFSに対する最初の治療方針であり、そして疾患の徴候の初期予防についての最初の可能性を示している。
【0107】
その他の組織の処置
ロサルタンは、マルファン表現型におけるその他の組織変化に対する著しい効果も有している。(先に観察されている肺胞中隔形成についての、2週間の時間枠を越えた)約2ケ月齢に処置開始した動物を含む処置マウスの肺は、末梢気腔径が正常になることを示した(図9A)。ロサルタンは、カルディオトキシンによる損傷誘発後、4日及び18日の両方で、骨格筋の定常状態の構造を正常にし、筋肉再生の正常な開始をもたらした(図9B、C)。
【0108】
その他の疾患の処置
過剰なTGFβの活性及びシグナル伝達が、その他の形態の筋肉疾患の原因となることも確認された。上記の実験に、ジストロフィン遺伝子の分裂に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーモデル(MDXマウス)を使用した。pSmad2の増加した核集積及びペリオスチンの増加した発現の確認によって、このマウスモデルにおける過剰なTGFβシグナル伝達が実証された。重要なことは、これらの同じ異常が、その他のTGFβの抑制性のファミリーメンバーである、ミオスタチンを欠損しているMDXマウスに観察されたということである。次いで、MDXマウスにおける不完全な筋肉再生(損傷後、新生仔ミオシンの染色で劇的な欠乏により示される)が、TGFβ中和抗体の投与後に劇的に救済される(図10)。
【実施例2】
【0109】
1型アンジオテンシンII受容体遮断剤による多発性筋萎縮状態におけるTGF−β誘発の筋肉再生障害の軽減
マウス
マウスの全てのプロトコールは、ジョンホプキンス大学医学部の動物管理使用委員会(Animal Care and Use Committee) によって承認されている。Fbn1の突然変異を包含するマウス株の作製は、既に記載されている(Judge, D.P. et al. (2004) J Clin Invest 114, 172-81)。全ての分析を、同腹仔間で正当な比較をできるように、この突然変異をC57BL/6J素性のマウスに戻し交配(>9回)した後、雄マウスで実施した。マウスを過剰量のハロタン(Sigma-Aldrich)吸入又は頸椎脱臼によって犠牲にした。Fbn1C1039G/+マウスにおける筋肉再生実験のために、100μlのカルディオトキシン(10μMのクロクビコブラ毒;Calbiochem, La Jolla, CA)(Goetsch, S.C. et al. (2003) Physiol Genomics 14, 261-71; Cohn, R.D. et al. (2002) Cell 110, 639-48)を、TGFβ中和抗体で処置したか又は処置していない何れかの、野生型及びFbn1C1039G/+マウス(各群、n=6)の前脛骨筋に、4ケ月齢で投与した。引き続き、損傷後の4、7、18及び28日目にマウスを分析した。mdxマウスにおける再生実験のために、TGFβ中和抗体で処置したか又は処置していない何れかの、野生型及びmdxマウス(各群、n=6)の前脛骨筋に、9ケ月齢で150μlのカルディオトキシンを投与して、投与後の4日及び18日目に骨格筋を分析した。
【0110】
TGFβ中和抗体処置
野生型及びFbn1C1039G/+マウスに、TGFβ中和抗体(R&D Systems)を、7週齢時に開始して、2週間に1回腹腔内投与した。この抗体は、PBS(pH7.4)で希釈して、体重1kg当たり1mg又は10mgの用量で投与した。ウサギIgG(10mg/kg;Zymed Laboratories Inc.)を同様な方法で投与して、陰性対照とした。マウスは、処置の2ヶ月後に犠牲にし、組織学的及び形態学的分析のために遺伝子型毎に少なくとも6匹用いた。
【0111】
ロサルタン処置
野生型及びFbn1C1039G/+マウスに、7週齢でロサルタン(飲料水中に0.6g/L;n=5)又はプラセボ(n=10)の経口処置を始めた。マウスは、6ヶ月間の経口投与を続けて、その後犠牲にした。筋肉再生実験のために、フィブリリン欠損及び9月齢のmdxマウスをカルディオトキシンを投与する前に14日間ロサルタンで処置した。マウス(n=4)に、カルディオトキシン誘発の損傷後の全期間にわたってロサルタン処置を続けた。ロサルタン処置の長期的な利点を観察するために、雄及び雌のmdxマウス(各群、n=6)に、6週齢でロサルタン処置を開始した。年齢を揃えた野生型及びmdxマウス(プラセボ処置群)を対照群として揃えた。処置の6ヶ月後に、前肢及び後肢の握力を、自動握力計(Columbus Instruments, Columbus, OH)を用いて評価した。前肢及び後肢の握力検査の実験は、10日間の最小回復期間を確保した異なる日々に実施した。全ての最大の力(ニュートンで)は、既述のように電気ひずみ計を用い、体重で補正して測定した(Wagner, K.R. et al. (2002) Ann Neurol 52, 832-6)。各々の動物から2分以内に、5つの測定値を得た。各々の動物の最高測定値の上位3点を平均して握力の値を得た。疲労の程度を示す疲労度は、最初の2回の引く力(握力)と最後の2回の引く力を比較、つまり1回目と2回目の引く力の合計と4回目と5回目の引く力の合計の間の減少によって計算した。同様に、5ヶ月の処置後の6月齢のフィブリリン1欠損マウス(Fbn1mgR)(Pereira, L. et al. (1997) Nat Genet 17, 218-22)で、機能測定を実施した。
【0112】
組織学及び骨格筋形態測定
形態学的分析のために、骨格筋を冷イソペンタン中で瞬間冷凍して、トラガカントゴム(Sigma Aldrich, USA)に埋め込んだ。続いて、10μmの切片を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。10日齢の野生型(n=3)及びFbn1C1039G/C1039Gマウス(n=6)の前脛骨筋の規定した範囲(9mm)内の筋線維を数えて、総計850〜1500本の線維で前脛骨筋の断面内の最短の線維の軸を測定することにより、線維の直径を確定した。Fbn1C1039G/+マウスから得た前脛骨筋の損傷を受けずに再生する筋線維の断面積は、分析した筋線維の総数(850〜1500)の百分率の分布として表した(Horsley, V. et al (2003) Cell 113, 483-94)。骨格筋の切片を、前脛骨筋の中腹部の同一解剖学的領域に沿って、採取した。前脛骨筋の中腹部分の50領域にある、c−met、M−カドヘリン及びミオゲニンの陽性細胞の数を、40倍の対物レンズで点数化した。遺伝子型当たり少なくとも6匹の動物を点数化して、全ての分析は遺伝子型と処置群に対して研究者が盲検で実施した。
【0113】
全ての画像は、Eclipse E400顕微鏡(Nikon Inc.)を用いて取り込み、そして断面積はIPLABソフトウェア(Scanalytics, Fairfax, VA)を用いて測定した。カルディオトキシン誘発後の新生仔のミオシン陽性の線維を、トキシン誘発の筋肉(n=4)当たり900〜1240本の線維を数えて、定量化した。トキシン誘発マウス(n=4)における線維性の組織形成の定量化のために、ビメンチンを免疫蛍光染色して実施した。前脛骨筋全体からの5つの切片を、低倍率で検査して、ビメンチン陽性領域を、一般に公開されてるNIH Scion画像ソフトウェアを用いて総筋肉領域の割合として算出した。同様に、ワン・ギーソン染色及びビメンチンの染色した切片を、NIH Scionソフトウェアを用いて、長期間のロサルタン処置のマウス、プラセボ処置のmdxマウス及び野生型マウス(各群、n=6)の横隔膜筋及び腓腹筋における総筋肉領域に対する線維の割合を描写するために用いた。中心部に位置する細胞核の割合を求めるために、各々のマウス(各群、n=6)の横隔膜筋当たりの総1100〜1300筋線維及び各々のマウス(各群、n=6)の腓腹筋当たりの総1900〜2200筋線維を算定した。
【0114】
統計分析
全ての値は、平均値±SEMで表している。2つの群間の有意性を決定するために、対応のないスチューデントt検定を用いて比較を行った。複数群の分析は、P<0.05を統計的有意に考える、一方向ANOVAを用いて実施した。
【0115】
免疫蛍光測定
既述(Cohn, R.D. et al. (2002) Cell 110, 639-48)のようにして免疫蛍光測定検討を実施した。衛星細胞の染色は、4%のパラホルムアルデヒド中に固定した凍結切片で実施し、次いで0.3%のトリトンXを含有するPBS中で15分間洗浄し、引き続き5%のウシ血清アルブミンで遮断した。この検討では次の抗体を用いた。抗体としては、抗pSmad2/3ヤギポリクローナル、抗c−metウサギポリクローナル及び抗ミオゲニンウサギポリクローナル(全てが、「Santa Cruz Biotechnology Inc.」から入手);抗pSmad2ウサギポリクローナル(#3104, Cell Signal)、抗ラミニニルラットポリクローナル、抗ジストロフィンウサギポリクローナル、抗トロンボスポンジン−1ウサギポリクローナル及び抗ペリオスチンウサギポリクローナル(全てが、Abcamから入手);抗フィブリリン1ウサギポリクローナル(pAb9543)(Judge, D.P. et al. (2004) J Clin Invest 114, 172-81);抗ビメンチンヤギポリクローナル(Sigma)及び抗ベータ−サルコグリカンマウスモノクローナル、抗発育ミオシンマウスモノクローナル(Novocastra)である。抗α−ジストログリカン抗体IIH6は、Dr.Kevin(Campbell,Iowa)によって寛大に提供された。抗ウサギ、抗ラット、抗マウスIgM及びIgG1の二次Alexa fluorロバ抗体及び抗ヤギ共役抗体(Molecular probes)は、室温で1時間処理した。細胞核をDAPIで5分間染色し、逆位のカバーガラスをガラススライド上に、Cytoseal(Vector Laboratories)を用いて取り付けた。
【0116】
骨格筋の再生及び修復は、非常に複雑であり、筋肉衛星細胞の活性が主導する過程がほんの一部だけ解明されている。骨格筋の可塑性に関するメカニズムの解明は、筋肉再生の調節及び増強が、骨格筋の変性疾患を含む多種の筋疾患患者に潜在的な利益をもたらすものとして、広く関心が持たれている。TGFβは、そのシグナルをSMAD細胞内シグナル伝達カスケードを介して変換するサイトカインファミリーに属している(Heldin, C.H., et al. (1977) Nature 390, 465-71)。骨格筋において、TGFβが筋形成時に筋細胞分化を阻害するというインビボでの証拠がある(Allen, R.E. & Boxhorn, L.K. (1987) J Cell Physiol 133, 567-72; Martin, J.F., Li, L. & Olson, E.N. (1992) J Biol Chem 267, 10956-60; Zhu, S., et al. (2004) Circ Res 94, 617-25; Olson, E.N. et al. (1986) J Cell Biol 103, 1799-805; Liu, D., Kang, J.S. & Derynck, R. (2004) Embo J 23, 1557-66)。また、TGFβは、損傷、炎症又は疾患に応答する線維症の形成に関わっている(Li, Y. et al. (2004) Am J Pathol 164, 1007-19; Salvadori, C., et al. (2005) Muscle Nerve 31, 192-8; Gosselin, L.E. et al. (2004) Muscle Nerve 30,645-53;Leask, A. & Abraham, D.J. (2004) Faseb J 18, 816-27)。しかしながら、遺伝性の筋障害性疾患のその他の態様における、TGFβの病原性役割は確認されていない。
【0117】
フィブリリン1欠損マウスにおける筋障害の進行でのTGFβシグナル伝達の潜在的な役割を研究するために、マウスFbn1遺伝子のエクソン25に標的の突然変異(C1039G)を有している動物を試験した(Judge, D.P. et al. (2004) J Clin Invest 114, 172-81)。この突然変異は、ヒトマルファン症候群を引き起こす最も一般的な突然変異、すなわち、EGF様ドメインにおけるシステイン置換の代表的なものである。C1039G突然変異のホモ接合性のマウス(Fbn1C1039G/C1039G)は、衰弱した外見を有し、大動脈解離に引き続いて10〜14日の間に死亡する。10日齢の野生型及びホモ接合型突然変異同腹仔群の分析では、体重における有意な相違(4.13g±0.5g対2.86g±0.41g;p<0.005)を示し、これは実験した全ての骨格筋群(大腿四頭筋、横隔膜筋、腓腹筋、前脛骨筋、ヒラメ筋及び二頭筋)における構造異常に関連している。異常は、筋線維サイズにおける顕著な減少(18.5μm±2対13.3±1.5、p<0.001;図15a)及び線維数の減少(1504±26の線維数対1380±25の線維数、p<0.001;図15aに補足)、そして間質組織及び筋線維束間の脂肪の増加(図15b)を含む。これらの知見は、筋肉発育不全及び筋肉形成不全の両方の証拠をもたらした。C1039G突然変異のヘテロ接合のマウス(Fbn1C1039G/+)は、ヒトMFSの優性の性質を再利用して、肺、心血管及び骨格系において表現型発現を示した。フィブリリン1への免疫組織化学的染色は、Fbn1C1039G/+マウス(図15c)及びMFS患者(n=4;図15d)の骨格筋における筋内膜の発現の減少を明らかにした。両方の一連サンプルにおいて線維サイズ及び筋内膜の線維症における有意な変化が観察された(図11a、図15c)。
【0118】
Fbn1C1039G/+マウスの骨格筋を、リン酸化Smad2/3(pSmad2/3)を免疫組織化学的に染色することによりTGFβシグナル伝達の増加を評価した。リガンド活性のTGFβ受容体は、核小体に転座し、標的遺伝子の応答を介在するSmad4とのヘテロマー複合体を形成するSmad2及び3のリン酸化を誘発する(Heldin, C.H., et al. (1997) Nature 390, 465-71)。pSmad2/3の核集積が、野生型同腹仔に比べると、Fbn1C1039G/+マウスの筋線維で観察された(図11a、図16a)。リン酸処理の組織切片には、核の染色が観察されなかった(データは示していない)。TGFβシグナル伝達が増加する更なる証拠が、TGFβによって誘発され、そして再生骨格筋中に発現することが知られているタンパク質である、ペリオスチンの発現の分析から導き出された(Horiuchi, K. et al. (1999) J Bone Miner Res 14, 1239-49; Goetsch, S.C. et al. (2003) Physiol Genomics 14, 261-71)。野生型マウスとは反対に、Fbn1C1039G/+動物は、成熟した損傷のない骨格筋中にペリオスチンの筋細胞膜の発現を示した(図11a)。
【0119】
過剰なTGFβシグナル伝達とFbn1C1039G/+マウスにおける筋疾患の進行との間の因果関係を確認するために、TGFβ中和抗体(TGFβ NAb)1mg/kg又は10mg/kgの腹腔内投与を7週齢に開始して、インビボにおける全身的なTGFβの拮抗作用をもたらした。これに加えて、10mg/kgのウサギIgGでのプラセボ注射を、野生型及びFbn1C1039G/+マウスに投与した。TGFβのイソ型1及び2の両方は、インビボ及びインビトロでこの抗体によって中和される(Ng, C.M. et al. (2004) J Clin Invest 114, 1586-92; Neptune, E.R. et al. (2003) Nat Genet 33, 407-11)。
【0120】
組織学的及び形態学的評価は、TGFβ NAbでの2ヶ月の処置後の突然変異動物において、用いた用量に関係なく、筋肉形態が異常になるのを防止することを明らかにした(図11a)。何れの用量でも、野生型の骨格筋の形態に影響はなかった(データを示していない)。更に、TGFβ NAb処置のFbn1C1039G/+マウスにおいて、pSmad2/3の核集積及び筋細胞膜のペリオスチン染色の何れも観察されなかった(図11a)。これらのデータは、MFSのマウスモデルにおいて、無調節なTGFβシグナル伝達と骨格筋疾患との間の因果関係を明らかにしている。
【0121】
フィブリリン1欠損マウス及びMFS患者の骨格筋内に多数の萎縮性及び開裂性線維が存在していることは、異常及び/又は不完全な筋肉再生を示唆している(図11a、15d)。TGFβが骨格筋疾患を引き起こすという潜在的なメカニズムを更に研究するために、蛇毒カルディオトキシンによって誘発される損傷に対する骨格筋の応答を評価した。カルディオトキシン注射の4日後の野生型骨格筋の分析では、多数の再生した筋線維の証拠が明らかにされた(図11b)。一方、Fbn1C1039G/+マウスの骨格筋は、再生の遅延及び散在する新生の筋線維のみを示した(図11b)。
【0122】
カルディオトキシン注射の18日後には、野生型マウスでは筋肉再生が十分であるのに対し、Fbn1C1039G/+マウスでは、異常な筋肉修復を示す線維症の病巣領域を有する多数の小さい線維を確認した(図11b)。カルディオトキシン注射時及びその2週間後のTGFβ NAbの全身投与は、損傷の4日目及び18日目における前脛骨筋の組織学的及び形態学的分析によって示されるように、Fbn1C1039G/+マウスの筋肉再生能力を有意に改善した(図11b)。全ての動物群は、カルディオトキシン注射の4日後に、pSmad2/3の核集積及びペリオスチンの免疫組織化学的発現を示した。この知見は、筋肉再生の最初の5日以内にTGFβ1及びペリオスチンの発現が一時的に増加するという従前の見解と一致している(Goetsch, S.C. et al. (2003) Physiol Genomics 14, 261-71)。pSmad2/3の核集積及びペリオスチンの発現が損傷の18日後のFbn1C1039G/+マウスに存続しているのに対して、野生型及びTGFβNAb処置のFbn1C1039G/+マウスでは観察されなかった(図11b)。これらのデータは、筋肉の損傷及び修復に伴うTGFβシグナル伝達の生理的な急上昇の過剰及び/又は延長は、再生を制限し、ついに筋疾患となることを示唆している。
【0123】
損傷に応答して破損した筋線維を十分に再配置することができないことを前提として、我々は、増加したTGFβシグナル伝達が、骨格筋に特異的な細胞集団である、衛星細胞の能力を変えるか否かについて研究した。筋肉再生の過程において、衛星細胞は、正常な休止状態を終わらせて増殖を始める。数回の増殖後、衛星細胞の大部分は、分化及び融合して、新しい筋線維を形成するか又は損傷した線維を修復する。休止衛星細胞に関するマーカーである、c−metの分析では、損傷前の野生型マウスにおける衛星細胞の数(54±8細胞/フィールド)とFbn1C1039G/+マウスにおける数(48±7細胞/フィールド)において有意な数の違いは示されなかった。これに対して、毒誘発の損傷の48時間後では、M−カドヘリン(増殖している衛星細胞のマーカー)の免疫組織化学的評価は、前脛骨筋内の陽性染色の衛星細胞の数が、野生型(38±9細胞/フィールド)又はTGFβ NAb処置のFbn1C1039G/+マウス(36±6細胞/フィールド;p<0.001)と比べると、Fbn1C1039G/+マウスの数(19±4細胞/フィールド)が少ないことを明らかにした(図17b)。衛星細胞の増殖及び分化に関連することが知られている筋細胞調節因子(Jin, Y. et al. (2000) Acta Neuropathol (Berl) 99, 619-27)であるミオゲニンの発現は、カルディオトキシン誘発の72時間後に、前脛骨筋内の数を野生型(63±7細胞/フィールド)又はTGFβ NAbで処置したFbn1C1039G/+マウス(59±6細胞/フィールド;p<0.002)と比べると、Fbn1C1039G/+マウスの数(42±7細胞/フィールド)で同様な減少を示した(図17b及びc)。纏めると、これらの知見は、増大したTGFβシグナル伝達は、衛星細胞の増殖及び分化を阻害することによって、正常に機能しない筋肉再生を引き起こすことを明らかにする。これらの知見は、MFSにおける先天性の筋疾患及び生涯にわたる筋肉量の増加が不能であることの両方を説明できるかもしれない。
【0124】
次いで、慢性腎疾患及び心筋症を含むその他の病態において、臨床的に重要なTGFβの拮抗作用をもたらすことが示されている(Lavoie, P. et al. (2005) J Hypertens 23, 1895-1903; Lim, D.S. et al. (2001) Circulation 103, 789-91)、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)拮抗薬であるロサルタンが、Fbn1欠損マウスにおいて、定常の構造及び筋肉再生に影響を及ぼすか否かについて検討した。高血圧の治療に広く用いられている薬剤であるロサルタンは、全ての年齢群でひときわ優れた耐性プロフィールを有しており、そしてMFSマウスモデルにおいて大動脈瘤を予防することができる。ロサルタンによる長期処置(6ヶ月)は、Fbn1C1039G/+マウスにおいて筋肉定常構造を十分に正常化した(図12)。表現型の救済は、成熟骨格筋におけるTGFβシグナル伝達の停止及びインビボにおける改善された筋肉機能に関連していた(図12、図16a及びb)。更に我々は、Fbn1C1039G/+マウスにおいてカルディオトキシン誘発の損傷前のロサルタン投与が、筋肉再生を顕著に改善することを見出した(図12)。
【0125】
増大するTGFβ活性が、多くの遺伝性及び後天性の筋肉疾患における線維症と関連するという記述があり、そしてドコリン(TGFβの拮抗薬)の投与が、mdxマウスの横隔膜筋内のTGFβ活性及びコラーゲン含量を低減できることが示されている(Salvadori, C., etal. (2005) Muscle Nerve 31, 192-8; Gosselin, L.E. et al. (2004) Muscle Nerve 30, 645-53; Yamazaki M et al. (1994) Am J Pathol. 144, 221-226)。しかしながら、これらの疾患における筋肉再生障害をもたらす増大したTGFβ活性の病原性寄与は、実証されていない。筋ジストロフィーの幾つかの形態を含む多くの変性筋疾患の発病における一つのメカニズムは、長期にわたる衛星細胞の能力及び筋肉再生の減退に関係する。TGFβが、これらの作用の注目すべき仲介の候補として浮上する。この証拠として、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの動物モデルである、ジストロフィン欠損mdxマウスの骨格筋内でのpSmad2/3の核集積及びペロオスチンの筋細胞膜の発現を見い出した(Reimann, J. et al. (2000) Neuromuscul Disord 10, 276-82)(図13a)。これらのデータの解釈における一つの複雑な因子は、TGFβスーパーファミリーのその他のメンバーであるミオスタチンも、pSmad2/3カスケードを介してシグナル伝達することである(Philip, B. et al. (2005) Cell Signal 17, 365-75; Zhu, X., et al. (2004) Cytokine 26, 262-72)。
【0126】
ミオスタチン−null/mdx動物において、pSmad2/3核及びペリオスチン発現で増加し続けることを示すことにより、この可変性を除去することができた(図13a)。ミオスタチンは、動物及びヒトにおいて、衛星細胞活性の負の制御因子であり、有意な筋肥大を引き起こす機能を喪失させる。ミオスタチンの拮抗作用は、ジストロフィン欠損mdxマウス34において筋肉の表現型を改善することが示されているが、TGFβとは異なって、ミオスタチンの発現が、筋ジストロフィーにおいて(恐らく不十分であるが、生理的な代償を試みる成分として)減少することを、種々の系統の証拠が示している。従って、ミオスタチン拮抗作用を目的とした治療方法は、平行の経路を標的とすることによって幾つかの利点をもたらすかも知れないが、TGFβ拮抗作用は、疾患の発症に直接寄与すると思われる経路を標的としている。
【0127】
我々は、9ヶ月齢のmdxマウスの再生能力に対するTGFβNAb及びロサルタンの影響力をテストした。損傷の4日後に、野生型マウスは、活性な再生に関するマーカーである新生仔ミオシンを発現する多数の筋線維を示した(前脛骨筋当たり689±19の新生仔ミオシン陽性線維、図13b)。mdxマウスは、新生仔ミオシン陽性線維が非常に少ない状態での応答で、有意な機能的な障害を示した(前脛骨筋当たり268±12新生仔ミオシン陽性線維)(図13b)。明らかに、TGFβNAb又はロサルタンで処置すると、mdxマウスは再生の回復を立証した(それぞれ、前脛骨筋当たり556±22及び513±14の新生仔ミオシン陽性線維;p<0.002)(図13b)。18日後に、野生型マウスは、完全な再生を示したのに対し、mdxマウスは広範囲の組織の線維化を示した。また、TGFβNAb又はロサルタン処置のmdxマウスは、減少したビメンチン発現によって示されるように、線維化が減少して改善された筋肉の修復を示した(図13b)。
【0128】
ロサルタンの投与による表現型の利点が、TGFβシグナル伝達カスケードの阻害によってもたらされるということを立証するために、1型アンジオテンシンII受容体(ATR1)の下流にある標的タンパク質の免疫蛍光分析を実施した。トロンボスポンジン1(TSP1)が、ATR1を介するアンジオテンシンII誘発のTGF−β活性の強力な介在物質として作用するということが最近明らかにされている(Zhou Y, et al. (2006) Biochem Biophys Res Commun. 339, 633-641)。野生型マウスは、骨格筋に有意量のTSP1を発現しなかった(図14a)。それと対照的に、我々は、mdxマウスの横隔膜筋及びその他の筋肉にTSP1の強力な筋細胞膜の発現を見出したのに対し、ロサルタン処置のmdxマウスはTSP1の非常に減少した発現を示した(図14a)。更に、処置したmdxマウスは、有意なpSmad2の核集積又はペリオスチンの筋細胞膜の発現を示さなかった(図14a)。AT1受容体の活性化は、ユビキチン介在のタンパク質分解及びそれに続くタンパク質合成の阻害による骨格筋破壊を誘発することが示唆されている(Delafontaine P & M., A. (2006) Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 9, 220-224)。mdxマウスにおけるプロテアソーム活性及びユビキチン介在のタンパク質分解の阻害が、ジストロフィン及びジストロフィン−糖タンパク質複合体のその他のタンパク質の増大した発現と関連するということが明らかにされている(Assereto S et al. (2006) Am J Physiol Cell Physiol. 290, C577-582)。従って、ロサルタン処置のmdxマウス及び処置していないmdxマウスにおけるジストロフィン、α−ジストログリカン及びβ−サルコグリカンの発現を検討した。予想通り、プラセボ処置のmdxマウスは、ジストロフィンの欠如、及びα−ジストログリカン及びβ−サルコグリカンの筋細胞膜の発現の有意な減少を示した(図18a)。同一の知見が、ロサルタン処置マウスにおいて観察され、これはロサルタンが、ユビキチン介在のタンパク質分解に何の影響もないことを示唆している。これらのデータは共に、ロサルタンの処置は、TGFβシグナル伝達カスケードを阻害するが、代わりのタンパク質分解が介在する経路には影響を及ぼさないことを実証している。
【0129】
我々は、ロサルタンによる長期処置が、mdxマウスの定常状態の構造及びインビボにおける筋肉機能に有益な影響をもたらすか否かについて究明した。mdxマウスで、変性と再生の周期に関連する活性な筋肉が壊死する時期である、6週齢にロサルタン処置を開始した(Cohn, R.D. et al. (2002) Cell 110, 639-48)。6ヶ月のロサルタン処置後の、横隔膜筋(mdxマウスにおいて最も深刻な影響を受ける骨格筋である)(Salvadori, C., et al. (2005) Muscle Nerve 31, 192-8; Cohn, R.D. et al. (2002) Cell 110, 639-48)及び腓腹筋を含む種々の筋肉群の分析では、mdxマウスにおいて疾患の進行の大きな減弱が明らかにされた。腹膜筋における組織線維化の評価は、プラセボ処置のマウスにおいて総筋肉領域の32%±5が線維化しているのに対して、処置のマウスで18%±4に減少していることを明らかにした(図14b、p<0.03)。組織線維化量の同様な減少が、ロサルタン処置のmdxマウスの腓腹筋で検出された(図14b)。更に、我々はロサルタン処置マウスの横隔膜筋及び腓腹筋において、回復した表現型の根拠となる増大した再生能力の間接的な指標である、中央に局在化する核を含有する筋肉線維の割合の増加を見出した(図14b)。筋細胞膜の漏損及び破棄の指標である、血清のクレアチンキナーゼ(CK)レベルの分析は、処置及び未処置のmdxマウスの間では何れの有意差も示さなかった(図18b)。ロサルタンが筋細胞膜を安定化すること、又は収縮誘発の損傷から筋肉線維を保護することを、我々が期待しないのも驚くべきことではない。
【0130】
mdxマウスにおけるロサルタン処置の機能的な利点を更に評価するために、我々は、雄及び雌のマウスで、前肢及び後肢の握力テストを実施した。マウスの握力テストは、筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(ヨロヨロするマウス、SOD−1欠損マウス)及びダウン症候群のモデルにおいてインビボ筋肉機能データを観察する方法として、既に用いられている(Connolly AM, et al. (2001) Neuromuscul Disord. 11:703-12; Payne ET et al. (2006) Muscle Nerve. 33, 66-77; Hantai D et al. (1995) J Neurol Sci. 129, 122-126; Costa AC et al. (1999) Physiol Behav. 68, 211-220)。6ヶ月の処置後に、ロサルタンで処置した雄及び雌のmdxマウスは、処置していないmdxマウスと比べて、前肢及び後肢握力の増加を示した(図14c;図18c)。
【0131】
更に、ロサルタン処置のマウスは、反復の課題の応答では、有意に小さい筋肉疲労を示した。機能的改善に関する我々の知見を筋肉の形態と関連付けるために、我々は、指伸筋、ヒラメ筋及び前脛骨筋の組織を評価した。横隔膜筋及び腓腹筋で見られたように、ロサルタン処置のマウスは、プラセボ処置の群と比較すると、改善された定常状態の構造を示した(図18c)。遺伝的に定義されるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのマウスモデルにおける、改善された筋肉構造、再生能力、更に強さ且つ減少した疲労の組み合わせは、これらの障害を治療するロサルタンの治療的な潜在能力を際立たせている。
【0132】
過剰なTGFβシグナル伝達が、異なったメカニズムではあるが、マルファン症候群における多数の組織の病変を進行させることが明らかにされている。骨格筋において、我々は、先に推測したように、増大したTGFβ活性は遅発性の線維化を単純に促進しないが、より重要なことに、遺伝的に定義されている筋疾患の多種の形態において、筋肉の構造及び性能を維持するために不可欠な工程である、筋肉を再生するための衛星細胞の生理的な応答を妨げることを示す。ロサルタンは、mdxマウスにおける潜在的な筋肉の脆弱性には対応しないが、このマウスモデルにおける筋肉の再生及び機能を永続的に改善することの観察は、ロサルタンが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の生活の質を改善して死を遅らせるであろうという推測を支持している。
【実施例3】
【0133】
At1拮抗薬であるロサルタンによるマルファン症候群のマウスモデルにおける大動脈瘤の予防
我々は、マルファン症候群の主要な生命にかかわる症状である、MFS関連の大動脈瘤におけるTGF−βの役割を明らかにしようとした。フィブリリン1の上皮細胞増殖因子様ドメインにおける、システイン置換をコードするFbn1対立遺伝子、Cys1039Gly(C1039G)に関してヘテロ接合するマウス(Fbn1C1039G/+)(C. M. Ng et al. (2004) J. Clin. Invest. 114, 1586; D.P. Judge et al. (2004) J. Clin. Invest. 114, 172; K.B. Jones et al., (2005) Spine 30,291)を検討した。この突然変異体は、MFSをもたらす最も一般的な種類の突然変異を示している。Fbn1C1039G/+マウスの大動脈起始部は、早くも2週齢には明らかに進行性の拡張を受ける。7週齢までには、突然変異マウスの大動脈起始部は、野生型マウスのそれよりも大きくなる(1.82±0.14mm対1.59±0.11mm、p<0.05)。このサイズの相違は、年齢に伴ってより顕著になる(8ヶ月齢の大動脈起始部、2.47±0.33mm対1.82±0.11mm;p<0.0001)。
【0134】
14週齢のFbn1C1039G/+マウスの組織学的分析では、弾性線維が断片化及び混乱状態の大動脈中膜の異常な肥厚が明らかにされた。さらに、Fbn1C1039G/+マウスは、増大したTGF−βシグナル伝達の間接的なマーカーである、コラーゲン沈着の増大を示した(P. Rossi et al. (1988) Cell 52, 405; W. Schlumberger (1991) Arterioscler. Thromb 11, 1660)。TGF−βシグナル伝達よって誘発されるSmad2のリン酸化及び引き続く核転座(pSmad2)(C. H. Heldin et al. (1997) Nature 390, 465)が、野生型マウスに比べて、Fbn1C1039G/+マウスの大動脈中膜で顕著に増加した。同様な変化が、MFS患者由来の大動脈試料で観察された(L. Loeys et al. (2005) Nat. Genet. 37, 275)。
【0135】
過剰なTGF−βシグナル伝達が、進行性大動脈起始部肥大の因果的役割を果たすか否かを検討するために、大動脈起始部の動脈瘤の形成後にTGF−β NAbで、出生後のマウスを処置した(図19)。腹腔内注射による処置を、7週齢で開始して8週間続けた。Fbn1C1039G/+マウスに、低用量のTGF−β NAb(1mg/体重kg;図19C及びG)、高用量のTGF−β NAb(10mg/体重kg;図19D及びH)、又はプラセボ(10mg/kgのウサギIgG;図19B及びF)を2週間毎に投与した。組織学的分析では、プラセボ群に比べて、TGF−β NAb処置マウスで弾性線維の断片化の減少及び大動脈中膜におけるTGF−βシグナル伝達の減少が明らかになった(図19A〜H)。MFSの人間においては、大動脈起始部の直径及び肥大速度が、命に関わる大動脈解離のリスクと直接比例している(V. L. Gott et al. (1999) N. Engl. J. Med. 340, 1307)。
【0136】
心エコー図は、野生型マウスのベースラインでの大動脈起始部の直径(1.57±0.05mm)が、3つのFbn1C1039G/+マウス処置群より小さい(プラセボ:1.75±0.15mm、NAb(10mg/kg):1.80±0.11mm、NAb(1mg/kg):1.86±0.15mm、であり、野生型マウスと比べた各々の処置群で、p<0.0001である)ことを明らかにした。8週間の処置後に実施した心エコー図による評価では、野生型マウス及びTGF−β NAb処置群の何れの間でも、大動脈起始部の増殖速度に差異がなかった(p=0.11)。これに対して、プラセボ処置マウスの大動脈起始部の増殖速度は、野生型(p<0.0001)及びNAb処置マウス(p<0.03)の何れよりも大きかった(図19I)。8週間後には、NAb処置のFbn1C1039G/+マウスの大動脈壁の厚みは、未処置の野生型マウスのそれと区別がつかず(p=0.91)、そしてプラセボ群のそれより小さかった(p<0.01、図19J)。Fbn1C1039G/+マウスの大動脈の壁構造は、野生型マウスに比べて破壊していた(p<0.0001)が、NAb処置の突然変異マウスでは改善されていた(p<0.001、図19K)。これらのデータは、過剰なTGF−βシグナル伝達が、MFSのマウスモデルにおいて大動脈瘤の形成を助長すること、そしてTGF−βの拮抗作用が効果ある治療方法となることを示している。
【0137】
1型アンジオテンシンII受容体(AT1)拮抗薬であるロサルタンが、血圧を下げて、大動脈瘤患者に望ましい効果をもたらすばかりではなく、慢性腎不全及び心筋症の動物モデルにおいてTGF−βの拮抗作用を誘発する(P. Lavoie et al. (2005) J. Hypertens. 23, 1895; D. S. Lim et al.(2001) Circulation 103, 789)ことから、我々は、ロサルタンに注目した。我々のマウスモデルにおける出産前の投与プロトコールを用いて、我々は、ロサルタンの効果を、大動脈の増殖速度を遅くするためにMFS患者に広く用いられている代表的なβアドレナリン遮断薬であるプロプラノロールの効果と比較した(J. Shores (1994) N. Engl. J. Med. 330, 1335)。ロサルタン及びプロプラノロールの用量は、両群において心拍数の10〜20%減少及び血圧の10〜20%減少を含む、インビボにおける比較可能な血行力学的効果を達成するように滴定した。
【0138】
妊娠のFbn1C1039G/+マウスに、飲料水中のロサルタン(0.6g/リットル)、プロプラノロール(0.5g/リットル)又はプラセボを、妊娠の2週間時点に開始して与えた。母親への処置を授乳の間中続けて、離乳後は仔に継続して与えた。10ヶ月でマウスを犠牲にした。弾性線維の断片化が、プラセボ及びプロプラノロール処置のマウスの両方で観察されたが、ロサルタン処置のマウスでは観察されなかった(図20A〜D)。処置しなかった野生型動物の平均の大動脈の厚みは、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウスよりも小さかった(p<0.0001)が、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスのそれとは区別がつかなかった(p=0.24、図20E)。プロプラノール処置のマウスの大動脈の厚みは、プラセボ群のそれと区別がつかなかった(p=0.19)。同様に、大動脈の壁構造は、プラセボ群に比べてロサルタン処置のFbn1C1039G/+動物で正常化された(p<0.0001)が、プロプラノロールによる影響を受けなかった(p=0.16、図20F)。プラセボ及びプロプラノロール処置の突然変異マウスにおいて、顕著な大動脈拡張があったのに対して、ロサルタン処置の突然変異マウスは、野生型同腹仔と区別がつかなかった。
【0139】
MFSは通常の出生後に診断されること、そしてAT1拮抗薬は妊娠中に禁忌である(S. G. Spence et al. (1995) Teratology 51, 367)ことから、我々は、処置を出生後の大動脈瘤の形成後に開始すれば、ロサルタンは異常な大動脈起始部の増殖を軽減又は阻止できるか否かについて検討した。7週齢時に、動脈瘤を心エコーで確定した後に、Fbn1C1039G/+マウスに飲料水中のプラセボ、プロプラノロール(0.5g/リットル)又はロサルタン(0.6g/リットル)を与えた。ベースライン心エコー図は、Fbn1C1039G/+マウスの何れの処置群の間にも大動脈起始部サイズに相違がないことを示した(プラセボ:1.83±0.11mm、プロプラノロール:1.92±0.27mm、ロサルタン:1.84±0.08mm;p=0.5)。しかしながら、処置前は、Fbn1C1039G/+マウスの大動脈の直径は、処置していない野生型マウスよりも常に大きかった(1.59±0.11mm;p<0.002)。
【0140】
処置の6ヶ月間の2週間毎に、個々のマウスについて、3回のそれぞれ独立した大動脈起始部の測定を実施した。8ヶ月齢でマウスを犠牲にした。プロプラノロール及びプラセボとは対照的に、ロサルタンの処置は、弾性線維の断片化を阻止し(図21、A〜D)、そしてpSmad2の核集積の減少によって示されるように、大動脈中膜におけるTGF−βのシグナル伝達を鈍らせた(図21、E〜H)。この期間での大動脈起始部の増殖速度は、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウスよりも、野生型マウスにおいて小さかった。プロプラノロール処置のFbn1C1039G/+マウスは、プラセボ処置の動物よりも大動脈起始部の遅い増殖速度を示した(p<0.001)が、この増殖速度は未処置の野生型マウスよりも大きい値を維持していた(p<0.04)。
【0141】
対照的に、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスにおける大動脈起始部の増殖速度は、野生型群のものと区別がつかなかった(p=0.55、図21I)。更に、処置終了時の大動脈起始部の絶対直径は、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスと未処置の野生型同腹仔において同じであった(p=0.32)。プロプラノールは、プラセボと比較すると、大動脈壁の厚み及び弾性線維構造の何れにおいても認識できる程の効果を有していなかったので、その有利な効果は大動脈起始部の増殖速度を遅らせることに限定される。対照的に、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスは、野生型マウスと比較して完全に正常化し、プラセボ処置のマウスと比べて3つのパラメータ全てにおいて改善を示した(図21,I〜K)。我々は、プロプラノールによるβ−アドレナリン遮断効果は、このMFSモデルにおいて大動脈の増殖速度を減少させるが、大動脈壁構造の進行する劣化、又は継続的な大動脈の異常な拡張を防止するものではないと結論を出した。これと対照的に、ロサルタンによるAT1遮断効果は、Fbn1C1039G/+マウスの大動脈壁において表現異常の完全な修正を達成するものと思われる。
【0142】
先の検討において、低形質Fbn1対立遺伝子をホモ接合したマウスの異なった型が、肺胞中隔形成の障害による末梢気腔の拡大を示すことが実証された(E. R. Neptune et al. (2003) Nat. Genet. 33, 407)。この異常は、増大したTGF−βシグナル伝達と関連し、TGF−β NAbの出産前投与によって予防された。ロスタリンは出生後に投与した場合にこの肺表現型を改善できるか否か(MFS患者に特に関連がある)を究明するために、我々は、Fbn1C1039G/+マウスを、ロサルタンで7週齢時に処置を開始した。6ヶ月の処置後に、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウスが、野生型のプラセボ処置のマウス(平均肺胞径:41.3±15μm、p<0.001)と比べて低下した肺胞中隔形成に起因する末梢気腔の拡大(平均肺胞径:84.3±15μm)を示した(図22)。ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスは、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウスと比べて、末梢気腔径の減少を示した(平均肺胞径:41.3±5μm、p<0.001;図22)。
【0143】
AT1拮抗作用は、TGF−βシグナル伝達又はその他の分子病原性事象に関するメカニズムとは対照的に、構造的に損傷のある大動脈壁に起こる血流力学的なストレスの増加した鈍化の効力によって、βアドレナリン遮断薬より優れた予防効果をもたらす可能性がある。この仮説に対して4つの証拠があり、第1に、ロサルタン及びプロプラノロールの用量が比較可能な血流力学効果をもたらすように滴定されている。第2に、NAbによるTGF−βシグナル伝達の分離された拮抗作用が、同様な予防をもたらす。第3に、pSmad2の核染色の分析が、Nab処置のマウスで見られるがプロプラノロール処置のマウスでは見られない事象である、ロサルタンがFbn1C1039G/+マウスの大動脈壁においてTGF−βシグナル伝達に拮抗することを示した(図21,G及びH)。第4に、ロサルタンが、改善された血流力学に関連するのがふさわしくない事象である、肺の疾患の症状を改善する(図22)ことを、我々が本明細書で明らかにしている。
【0144】
AT1遮断作用がTGF−βシグナル伝達に拮抗するメカニズムは、依然として不明である。At1受容体経由のシグナル伝達は、TGF−βリガンド及び受容体の発現を増大させて、TGF−βの強力な活性化因子であるトロンボスポンジン1の発現も誘発する(A. D. Everett (1994) Hypertension 23, 587; G. Wolf et al. (1999) J. Mol. Med. 77, 556; N. Fukuda et al. (2000) Am. J. Hypertens. 13, 191; T. Naito et al., (2004) Am. J. Physiol. Renal Physiol. 286, F278)。血管壁では、AT1シグナル伝達が、文脈依存であるかも知れないが、血管平滑筋細胞(VSMCs)の増殖及び血管壁の線維化を促進する(E. G. Nabel et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90, 10759)。鳥類系統では、神経堤及び中胚葉由来のVSMCs(それぞれ、N−及びM−VSMCs)が、前者で見られる細胞増殖及び線維化、及び後者で見られる増殖阻害によって、TGF−β1に別々に応答する(P. F. Gadson Jr. et al. (1997) Exp. Cell Res. 230, 169; S. Topouzis et al. (1996) Dev. Biol. 178, 430)。この異なった応答が、N−VSMCsが豊富な血管部分である大動脈の起始部の、MFSにおいて拡張及び解離を受けやすい特異な性質を説明できるかもしれない。肺の大動脈起始部もN−VSMCsが豊富であって、肺循環の圧力が低いにもかかわらず、MFSでは拡張をしばしば示す(G. J. Nollen et al. (2002) Heart 87, 470)。
【0145】
2型アンジオテンシンII受容体(AT2)を介するシグナル伝達が、AT1シグナル伝達によって促進される多くの効果に拮抗する(E. S. Jones et al. (2004) J. Mol. Cell. Cardiol. 37, 1023)ならば、特定のAT1拮抗作用は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤によってもたらされる、AT1/AT2の二重遮断作用に対して望ましいであろう。この仮説と一致して、Daughertyらは、アンジオテンシンII誘発の腹部大動脈瘤の形成が、apoE−/−マウスにおいて、AT1拮抗薬で治療することによって阻止することができるが、選択的AT2ブロッカーによる処置では頻度及び重症度の両方が促進されることを見出した(A. Daugherty et al. (2001) Br. J. Pharmacol. 134, 865)。Nagashimaらは、MFS患者由来の血管壁移植片及び培養したVSMCにおいてアポトーシスの増加を観察して、AT1ではなくAT2阻害がこの作用を減少させることを示した(H. Nagashima et al. (2001) Circulation 104, I282)。これらの試料は、現行の大動脈起始部手術の閾値とは大きく異なる、7〜9cm範囲の動脈瘤由来のものであった。我々のマウスモデルでは、大動脈瘤の初期及び中間期において増大したアポトーシスを検出していない。アンジオテンシンIIは、Smad2依存性のシグナル伝達及びTGF−β非依存性のVSMCsの線維化を促進し、この作用は選択的AT1遮断作用によって阻害することができる(J. Rodriguez-Vita et al. (2005) Circulation 2059)。従って、TGF−βリガンド依存性のシグナル伝達がMFSにおける大動脈瘤の発症にとって重要であると思われるが、並列したpSmad2介在のシグナル伝達カスケードの拮抗作用は、ロサルタンによる防護に寄与しているかもしれない。
【0146】
ロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome;TGFBR1又はTGFBR2の突然変異に起因する)及び動脈ねじれ症候群(GLUT10の突然変異に起因する)を含むその他の大動脈瘤症候群患者の大動脈壁における過剰なTGF−βシグナル伝達の説明は、ロサルタンが、ヒト血管障害の治療に広く関わっていることを示唆する(B.L. Loeys et al. (2005) Nat. Genet. 37, 275)。
【0147】
ロサルタンは、最近成人及び子供の両方で高血圧の治療及び卒中の予防に広く用いられている。全ての年齢群におけるこの薬剤の優れた耐性プロフィールを考慮すると、MFS患者において前向き臨床治験が必要であると我々は判断する。更にこの検討は、ポストゲノムシークエンシング時代における疾病遺伝子の高度な同定が、医薬に顕著な影響をもたらすであろうことを保証する実例である。しかしながら、疾病遺伝子の発見は、動物モデルを作製すること、病因を調べること、そして予期せぬ疾病メカニズム及び合理的な治療戦略を引き出すことの過程における、必須の第1の工程である。
【0148】
(引例による取り込み)
本願を通して引用されている、引例、特許、出願中の特許及び公開特許の内容は、本明細書に引例として明確に取り込まれている。
【0149】
(均等物)
当業者は、通常の実験のみを用いて、本明細書に記載されている発明の特定な態様に多くの均等物を認識又は確定することができるであろう。このような均等物は、本発明の特許請求の範囲の範囲内であると意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】図1A〜Bは、フィブリリン1欠損マウスが、初期の末梢気腔中隔形成の障害を有することを示す。フィブリリン1欠損の出生後9日目(D9)の肺の病理組織試験(制御した膨張後)は、著しい末梢気腔の拡大を示した。形態学的分析は、1日目からヘテロ接合体及びホモ接合体の肺の両方において末梢気腔の拡大を示した。組織学的分析は、破壊及び炎症の何れの証拠も示さず、むしろ原始肺胞中隔の欠損を示した(矢印の先を参照されたい)。
【図2】図2A〜Bは、変異体(−/−)の肺において免疫反応性物質が劇的に増加したことを示している。図2Bに示したデータは、野生型(+/+)に比べて、レポータートランス遺伝子(Tg)を包含するヘテロ接合体(+/−)及びホモ接合体(−/−)Fbn1標的のマウスにおいて、TGFβシグナル伝達(GFPシグナル)がそれぞれ4倍及び25倍増加したことを明示する。
【図3】図3A〜Bは、ED7における仔の分析が、ヘテロ接合及びホモ接合fbn1標的のマウスの両方において、肺中隔形成の用量依存的な救済を示すことを明らかにする。結果は、形態計測によって確認された。
【図4】図4は、変異マウスの肺が、組織破壊、炎症並びにMMP2及びMMP9の増加した発現を伴った広範囲の気腔拡張を示したことを明示する。
【図5−1】図5A〜Dは、フィブリリン1欠損マウスにおけるAV弁の出生後の後天性粘液腫状変化を示している。心エコー検査は、僧帽弁の逸脱及び逆流を含む機能変化を明らかにした。
【図5−2】図5A〜Dは、フィブリリン1欠損マウスにおけるAV弁の出生後の後天性粘液腫状変化を表している。心エコー検査は、僧帽弁の逸脱及び逆流を包含する機能変化を明らかにした。これらの変化は、増加した遊離TGFβ、増加したTGFβシグナル伝達(pSmad2の核集積から明らかなように)、増加した細胞増殖及び減少したアポトーシス(それぞれKi67及びTUMEL染色でマークした)と関連している(図5B、C)。TGFβNAbの出産前投与は、弁の長さ及び厚みの点で両方を維持救済し、因果関係を明らかにした(図5D)。
【図6】図6A〜Dは、MFS患者が、筋緊張低下に関連する著しい骨格筋形成不全を有していることを示す。実験した全ての筋肉群において、線維サイズの一般的な減少及び広範な変化、増加した筋内膜のコラーゲン、及び脂肪湿潤による細胞脱落を含む、年齢依存性変化を見出した(図6A)。フィブリリン1欠損マウスは、損傷の誘発後(カルディオトキシンの注射18日後)に著しい筋肉再生障害を示した(図6B)。SCsの正常な指数(C−met染色によって印を付けた)が、SCs増殖の劇的な減少となることが見い出された(M−カドヘリン染色によって印を付けた;図6C)。この応答は、TGFβNAbの投与後に、完全に正常な状態となった。これには、障害に応答する修復増殖、減少したpSmad2及びペリオスチンの発現、及び良好な再生の直接的な証拠となる中心核の筋線維による筋構築の正常化を包含する(図6B、C)。NAbを長期投与されたマウスは、正常な定常状態の筋構造を示した(図6D)。
【図7】図7は、フィブリリン1欠損のマウスの上行大動脈における増加したTGFβを明示する。
【図8−1】図8A〜Hは、ロサルタンによる処置がマルファン症候群及び関連する疾患に有効であることを示す。7週齢のC1039G/+マウスを無作為に、3つの処置群(各群は、n≧7)に分け、プラセボ、ロサルタン(50mg/kg)又はプロプラノロール(40mg/kg)で処置した。各処置群における用量を、比較可能な血行動態的効果を確認できるように滴定した。3つの独立した大動脈起始部の測定値は、3つの時点(起点、処置2ヶ月及び4ヶ月)の各々の収縮期長軸エコー画像から得た(図8A)。全ての分析は、遺伝子型と処置群に対して盲検で実施した。処置4ヶ月間での大動脈の増殖は、プラセボ(0.44±0.09)に比べて、ロサルタン群(0.03±0.07mm;p<0.0001)及びプロプラノロール群(0.22±0.06;p<0.001)で有意に減少した(図8B)。ロサルタン群における増殖は、プロプラノロール群で見られるものよりも低く(p<0.01)、そして野生型マウスで見られるものと区別がつかない。
【図8−2】図8A〜Hは、ロサルタンによる処置がマルファン症候群及び関連する疾患に有効であることを示す。7週齢のC1039G/+マウスを無作為に、3つの処置群(各群は、n≧7)に分け、プラセボ、ロサルタン(50mg/kg)又はプロプラノロール(40mg/kg)で処置した。各処置群における用量を、比較可能な血行動態的効果を確認できるように滴定した。3つの独立した大動脈起始部の測定値は、3つの時点(起点、処置2ヶ月及び4ヶ月)の各々の収縮期長軸エコー画像から得た(図8A)。全ての分析は、遺伝子型と処置群に対して盲検で実施した。処置4ヶ月間での大動脈の増殖は、プラセボ(0.44±0.09)に比べて、ロサルタン群(0.03±0.07mm;p<0.0001)及びプロプラノロール群(0.22±0.06;p<0.001)で有意に減少した(図8B)。ロサルタン群における増殖は、プロプラノロール群で見られるものよりも低く(p<0.01)、そして野生型マウスで見られるものと区別がつかない。プロプラノロール処置は、弾性マトリックス構造を改善しなかったのに対して、ロサルタン処置マウスでは、全ての組織学的パラメータが正常になった(図8C、D)。検討は、TGFβ中和抗体の投与が同様な保護をもたらす(p<0.02)ことを示した。ロサルタンは、肺胞中隔形成(図8E)及び筋肉の再生及び構造(図8F)を含む表現型のその他の状態も救済する。
【図8−3】図8A〜Hは、ロサルタンによる処置がマルファン症候群及び関連する疾患に有効であることを示す。7週齢のC1039G/+マウスを無作為に、3つの処置群(各群は、n≧7)に分け、プラセボ、ロサルタン(50mg/kg)又はプロプラノロール(40mg/kg)で処置した。各処置群における用量を、比較可能な血行動態的効果を確認できるように滴定した。3つの独立した大動脈起始部の測定値は、3つの時点(起点、処置2ヶ月及び4ヶ月)の各々の収縮期長軸エコー画像から得た(図8A)。全ての分析は、遺伝子型と処置群に対して盲検で実施した。処置4ヶ月間での大動脈の増殖は、プラセボ(0.44±0.09)に比べて、ロサルタン群(0.03±0.07mm;p<0.0001)及びプロプラノロール群(0.22±0.06;p<0.001)で有意に減少した(図8B)。ロサルタン群における増殖は、プロプラノロール群で見られるものよりも低く(p<0.01)、そして野生型マウスで見られるものと区別がつかない。プロプラノロール処置は、弾性マトリックス構造を改善しなかったのに対して、ロサルタン処置マウスでは、全ての組織学的パラメータが正常になった(図8C、D)。検討は、TGFβ中和抗体の投与が同様な保護をもたらす(p<0.02)ことを示した。ロサルタンは、肺胞中隔形成(図8E)及び筋肉の再生及び構造(図8F)を含む表現型のその他の状態も救済する。標準的な治療(βアドレナリン作用性/ACE遮断;図8Gで示されている代表的な患者)にも関わらず、大動脈増殖が侵攻性の速度の若い患者(n=8)において、顕著なロサルタン応答が見られた。ロサルタンの効果が、血圧低下特性と厳密に関係しないという直接の証拠として、ロサルタンと同じ抗高血圧効果をもたらすプロプラノロールの用量での処置では何れのパラメータにも改善が無く(図8B〜E)、そしてTGFβ中和抗体では、マウスにおいて同様な救済を達成できることが示された(図8H)。
【図9】図9A〜Cは、約2ケ月齢(先に観測されている肺胞中隔形成についての2週間の時間枠を越えて)に処置開始した動物を含む、処置マウスの肺は、末梢気腔径が正常になることを示した(図9A)。ロサルタンは、骨格筋の定常状態の構造を正常にし、カルディオトキシンによる損傷誘発後、4日後及び18日後の両方で筋肉再生の正常な開始を可能にもした(図9B、C)。
【図10】図10は、MDXマウスにおける不完全な筋肉再生(損傷後の新生仔ミオシンの染色で劇的な欠乏により示される)が、TGFβ中和抗体の投与後に劇的に救済されたことを明示する。
【図11A】図11A〜Bは、Fbn1C1039G/+マウスにおいて、大腿四頭筋のヘマトキシリン及びエオシン染色が、線維サイズの顕著な変化(上方レベルに)を表すことを示す。小さく開裂した線維(アステリクシス)、中央に核形成する線維、及び筋内膜の厚みに注目されたい。インビボにおけるTGFβ拮抗作用は、Fbn1C1039G/+マウスにおける筋傷害性の構造を逆転させる。増大したTGFβシグナル伝達の証拠(下の2枚の図)を示す。pSmad2/3の免疫蛍光染色は、野生型マウスに比べて、Fbn1C1039G/+マウスにおいて増大した核染色を示した。下の図は、野生型の成熟骨格筋と比較した、Fbn1C1039G/+マウスにおけるペリオスチンの筋細胞膜の発現が増大する連続切片を示す。TGFβ中和抗体で処置したFbn1C1039G/+マウスにおいては、pSmad2/3の核発現及びペリオスチンの筋細胞膜の発現の何れも検出されなかった。前脛骨の筋線維の断面積(μmでの筋線維XSA)分析は、野生型マウス(平均線維サイズ、2622±55μm)と比較すると、Fbn1C1039G/+マウス(平均線維サイズ、1698±49μm;p<0.005)で減少すること、そしてTGFβ NAbでの処置(平均線維サイズ、2443±41μm)で回復することを明らかにした。
【図11B】図11A〜Bは、Fbn1C1039G/+マウスにおいて、大腿四頭筋のヘマトキシリン及びエオシン染色が、線維サイズの顕著な変化(上方レベルに)を表すことを示す。(B)Fbn1C1039G/+マウスにおける筋肉再生障害を示す。注射後のカルディオトキシン誘発の障害では、4日間のTGFP NAbで処置された野生型及びFbn1C1039G/+マウスにおいて中央に局在化した核を持つ新たな筋線維の形成がもたらされる。一方、処置されないFbn1C1039G/+マウスでは、新しい筋線維は殆ど形成されない(上の図)。再生時に増殖が抑止されたと思われる、多数の小線維(*)が、カルディオトキシン注射の18日後のFbn1C1039G/+マウスで観察された。これと対照的に、TGFβ中和抗体で処置された野生型及びFbn1C1039G/+マウスでは殆どの筋肉線維が、処置されない突然変異同腹仔と比べると、線維サイズの増大及び相対的な均質性を有して、再生が首尾良く完了している。処置されないFbn1C1039G/+動物におけるpSmad2/3及びペリオスチンの持続的発現に対して、野生型及び処置のFbn1C1039G/+マウスでは、核pSmad2/3及び筋細胞膜のペリオスチンの染色に有意な差異は観察されなかった。カルディオトキシン注射の18日後の前脛骨筋の断面積(μmでの筋線維XSA)の分析は、Fbn1C1039G/+マウスの平均線維サイズ(1145±69μm)の減少、そしてそれがTGFP NAbでの処置で救済される(2092±47μm;野生型マウスの平均線維サイズ、2389±51μm;p<0.005)ことを示す。
【図12】図12は、野生型マウス及びプラセボ及びロサルタンで出生後処置されたFbn1C1039G/+マウスにおける、定常状態の骨格筋構造(大腿四頭筋)及びpSmad2/3の核集積を表している(上図)。形態学的分析は、ロサルタンの処置で回復するFbn1C1039G/+マウスの筋肉細胞の断面積の減少を明らかにした(野生型平均線維サイズ:2741±69μm、Fbn1C1039G/+:1746±39μm、Fbn1C1039G/++ロサルタン:2527±58μm、p<0.009)。野生型及びプラセボ又はロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスにおいて、カルディオトキシンによる損傷誘発の4日及び18日後の筋肉構造及び新生仔ミオシンの発現(下図)を示す。
【図13A】図13A〜Bは、(A)ジストロフィン欠損のmdxマウス及びジストロフィンとミオスタチンの両方が欠損しているマウス(mdx/mstn−/−;右図)における、増大したpSmad2/3の核集積及びペリオスチンの筋細胞膜の発現を示し、そして(B)TGFβ NAbで処置されたmdxマウスにおける改善された再生能力を示す。
【図13B】図13A〜Bは、(A)ジストロフィン欠損のmdxマウス及びジストロフィンとミオスタチンの両方が欠損しているマウス(mdx/mstn−/−;右図)における、増大したpSmad2/3の核集積及びペリオスチンの筋細胞膜の発現を示し、そして(B)TGFβ NAbで処置されたmdxマウスにおける改善された再生能力を示す。 代表的な切片は、カルディオトキシ注射の4日後に、活発な再生のマーカーである、新生仔ミオシンを染色して作成する(上図)。野生型マウスは、活発に再生している多数の細胞を示し、これに対してmdxマウスは散在する再生する繊維のみを示す。これと対照的に、TGFβ NAb又はロサルタン処置のマウスは、野生型マウスで見られるのと同様な活発な再生を示した(上から2番目の図)。カルディオトキシン注射の18日後に、野生型マウスは、ビメンチン逆染色(緑色)で示されるように線維化を殆ど示さない。これと対照的に、mdxマウスは広範囲の線維化を示し、一方のTGFb NAb又はロサルタンで処置されたマウスは線維化の顕著な減少を示す(下の2つの図)。グラフは、筋肉組織の総面積と比べた線維化した領域の割合を示す。
【図14A】図14A〜Cは、1型アンジオテンシンII受容体の下流にある標的タンパク質の免疫蛍光分析を示す。 野生型の横隔膜の骨格筋は、トロンボスポンジン1(TSP1)の弱い発現のみを示す。処置していないmdxマウスの横隔膜において、増大した筋細胞膜の発現が検出される。これと対照的に、ロサルタン処置のマウスは、トロンボスポンジン1の大幅に減少した発現を示す(上図)。更に、ロサルタンによる処置は、pSmad2の核集積(中図)及びペリオスチンの筋細胞膜の発現(下図)の減少をもたらす。四角内は、結合組織におけるpSmad2の核内増大を示す。
【図14B−1】図14A〜Cは、1型アンジオテンシンII受容体の下流にある標的タンパク質の免疫蛍光分析を示す。(B)長期のロサルタン処置は、9ヶ月齢のmdxマウスにおいて、筋障害性疾患の進行を軽減する。上段は、野生型、mdx及びロサルタン処置のmdxマウスからの、ワン・ギーソン染色した代表的な横隔膜切片を示す。ロサルタン処置のマウスは、処置していないmdxマウスよりも有意に低い線維化(辺=150μm)を示す。2段目の図は、線維化面積の定量(左)(野生型:4%±1、mdx:32%±5、mdxロサルタン:18%±4)及び横隔膜における中央に局在化する核の割合(右)(野生型:2%±0.5、mdx:35%±5、mdxロサルタン:48%±6)を示す。
【図14B−2】(B)長期のロサルタン処置は、9ヶ月齢のmdxマウスにおいて、筋障害性疾患の進行を軽減する。 野生型、mdx及びロサルタン処置のmdxマウスからの、ワン・ギーソン染色した腓腹筋を3段目の図に示す(辺=100μm)。対応する線維化(野生型:4%±2、mdx:75%±6.4、mdxロサルタン:89%±5.8)及び中央に局在化する核(野生型:2%±0.5、mdx:25%±5、mdxロサルタン:36%±6)の定量分析を下図に示す。
【図14C−1】図14A〜Cは、1型アンジオテンシンII受容体の下流にある標的タンパク質の免疫蛍光分析を示す。(C)ロサルタン処置のmdxマウスの機能分析を示す。 ロサルタン処置のmdxマウスは、処置していないmdxマウスと比べた場合、6ヶ月後に後肢握力の改善を実証した(Nで最高握力として測定、上のグラフ、m=雄、f=雌、各群のn=6、左上図)(1.89±0.23N[雄]/1.79±0.14N[雌]対1.45±0.19N[雄]/1.39±0.14N[雌]、それぞれ、:p<0.002及び**:p<0.001)。更に、ロサルタン処置のマウスは、反復の課題の応答では、有意に少ない筋肉疲労を示した(16.2%±5[雄]/17.1%±4[雌]対39.5%±6[雄]/37.6%±6[雌]、それぞれ、:p<0.008及び**:p<0.005、右上図)。
【図14C−2】(C)ロサルタン処置のmdxマウスの機能分析を示す。 9ヶ月齢の野生型、mdx、及びロサルタン処置のmdxマウスの、対応する長趾伸筋(EDL)、ヒラメ筋(SOL)、前脛骨筋(TA)のヘマトキシリン及びエオシン染色した代表的な切片は、ロサルタン処置のmdxマウスの骨格筋において、有意に低い形態学的損傷を示す。
【図15−1】図15A〜Dは、Fbn1C1039G/C1039Gマウスにおいて総体重が有意に減少することを示す(A)。筋肉線維の平均数及び平均直径が、Fbn1C1039G/C1039Gマウスにおいて線維数及びサイズの両方が減少することを示し、±SEMで表す。
【図15−2】(B)Fbn1C1039G/C1039Gマウスにおける重度の筋肉形成不全及び筋肉発育不全を示す。ヘマトキシリン及びエオシン染色は、年齢が同じ野生型同腹仔と比べると、10日でFbn1C1039G/C1039Gマウスの骨格筋(大腿四頭筋)線維のサイズが、小線維及び増大する線維間の間質組織を伴って変化することを明らかにした。1辺は、40μmを示す。(C)ヘテロ接合Fbn1C1039G/+マウスにおいて、フィブリリン1欠損は、骨格筋障害をもたらす。フィブリリン1の免疫組織化学的染色は、野生型同腹仔と比べると、Fbn1C1039G/+マウスにおいて筋内膜及び筋周膜の発現の減少を明らかにする。
【図15−3】(D)5歳のマルファン症候群患者におけるフィブリリン1の筋内膜の発現の減少(MFS、広背筋)を示す。骨格筋障害の徴候の何れも有していない5歳の少年と比べると、線維のサイズ及び筋内膜の厚みの減少及び有意な変化に注目されたい。1辺は45μmを示す。
【図16A】図16A〜Dは、核マーカーDAPIとの組み合わせ染色から明らかな、Fbn1C1039G/+マウスにおけるpSmad2/3発現の核増強を示す(A)。
【図16B】(B)フィブリリン1欠損マウスにおいて、カルディオトキシン注射の18日後の前脛骨筋の低出力画像が、減少した筋肉線維のサイズを強調している。
【図16C】(C)ロサルタン処置のフィブリリン1欠損マウスの骨格筋において、トロンボスポンジン1(TSP1)及びペリオスチンの発現の減少を示す。
【図16D】(D)ロサルタン処置の機能的な利点を示す。長期のロサルタン処置は、フィブリリン1欠損(Fbn1mgR/mgR)の6ヶ月齢マウスにおいて、機能的な欠損を救済する。データは、Nで示した前肢握力及びパーセントで示す疲労を表す。6ヶ月齢で、Fbn1mgR/mgRマウスは、同じ年齢の野生型マウスと比べると、有意に減少した筋力を示した(1.39ニュートン[N]±0.16対1.93N±0.12)。更に、Fbn1mgR/mgRマウスは、反復の課題に応答では過剰な筋肉疲労を示した(28%±2.5対3%±0.8)。ロサルタン処置の5ヶ月後に、Fbn1mgR/mgRマウスは、処置していないFbn1mgR/mgR同腹仔と比べると、改善された前肢握力(1.87N±0.15)及び減少した疲労(9%±1.8)を示した。機能検討に用いたマルファン症候群のマウスモデルは、正常値の約15%のレベルで正常フィブリリン1を発現する、低形質Fbn1対立遺伝子(Fbn1mgR/mgR47にホモ接合である。このマウス系列は、加速速度が21、49、50であるにもかかわらず、C1039Gマウスで見られる大動脈、肺及び弁の病変を繰り返す。機能的な欠損を監視し、それを回復する能力を向上させることは、骨格筋についても同様である。
【図17A】図17A〜Cは、野生型及びFbn1C1039G/+マウスにおいて、静止状態の衛星細胞のマーカーである、c−met陽性筋肉線維の数に差異がないことを明らかにする。
【図17B−1】(B)Fbn1C1039G/+マウスにおける撹乱した衛星細胞の機能を示す。カルディオトキシン注射の48時間及び72時間後に、Fbn1C1039G/+マウスは、野生型及びTGFβ NAb処置のFbn1C1039G/+マウスと比べると、有意に少ないM−カドヘリン及びミオゲニン陽性細胞核を示す。組み合わせた画像は、M−カドヘリンとDAPI染色の核(紫色)の同所局在を示し、ラミニン1染色が、基底膜を区別することを示す。
【図17B−2】(B)Fbn1C1039G/+マウスにおける撹乱した衛星細胞の機能を示す。カルディオトキシン注射の48時間及び72時間後に、Fbn1C1039G/+マウスは、野生型及びTGFβ NAb処置のFbn1C1039G/+マウスと比べると、有意に少ないM−カドヘリン及びミオゲニン陽性細胞核を示す。組み合わせた画像は、M−カドヘリンとDAPI染色の核(紫色)の同所局在を示し、ラミニン1染色が、基底膜を区別することを示す。
【図17C】(C)ミオゲニン陽性細胞は、核マーカーDAPIと同所局在する。
【図18−1】図18A〜Cは、野生型、mdx及びロサルタン処置のmdxマウスにおける、ジストロフィン、α−ジストログリカン(α−DG)及びβ−サルコグリカン(β−SG)の免疫蛍光発現を表す。処置した及び処置しないmdxマウスに、ジストロフィンは存在しない(は、復帰変異体の線維を示す)。更に、α−ジストログリカン及びβ−サルコグリカンの筋細胞膜の発現は、野生型マウスと比べると、両方の動物群で減少する。
【図18−2】(b)野生型、mdx及びロサルタン処置のmdxマウス(各群、n=6)におけるクレアチンキナーゼのレベル。処置対未処置のmdxマウスが、有意な血清クレアチンキナーゼの上昇を示し、両者の間に統計的有意差は存在しない。(c)6ヶ月後、ロサルタン処置のmdxマウス(mdx L)は、処置されないmdxマウスと比べると、全面的に改善された前肢握力を示す(最大力(N)として測定した、上のグラフ、m=雄、f=雌、各群のn=6)(1.64±0.29(N)[雄]/1.41±0.15(N)[雌]対1.25±0.15(N)[雄]/1.32±0.12(N)[雌]、p<0.004及びp<0.008)。更に、ロスタリン処置のマウスは、反復の課題に応答した筋肉疲労が有意に小さいことを示した(16.3%±5[雄]/15.2%±6[雌]対36.3%±6.5[雄]/34.7%±5.7[雌]N;p<0.003及びp<0.009)。
【図19−1】図19A〜Hは、TGF−β NAbでの出生後の処置を示し、未処置の野生型マウス[(A)及び(E)]、及びプラセボ[(B)及び(F)]、1mg/kgのTGF−β NAB[(C)及び(G)]及び10mgのTGF−β NAB[(D)及び(H)]で処置したFbn1C1039G/+マウスにおける上行大動脈の特徴を示す。(A)〜(D)において、ベルホーエフ・ワン・ギーソン(Verhoeff's-van Gieson:VVG)染色が、野生型マウス(A)で観察される正常な弾性線維構造と比べると、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウス(B)における弾性線維構造の広範な破壊及び大動脈中膜の肥厚(矢印で表した)を明らかにする。両方のパラメーターの改善が、NAb処置のFbn1C1039G/+マウスで見られる[(C)及び(D)]。スケールバーは、40μmである。(E)〜(H)において、免疫組織化学(IH)が、TGF−βシグナル伝達のマーカーである、核のpSmad2(矢印が、典型的な陽性核を示す)を明示する。野生型マウス(E)に比べて、プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウス(F)において増加したpSmad2が観察される。正常になったpSmad2染色が、NAb処置のFbn1C1039G/+マウスで観察される[(G)及び(H)]。スケールバーは、50μmである。
【図19−2】(I)心エコー図で測定した処置2ヶ月間の平均大動脈起始部の増殖(±SD)を示す。プラセボ処置のFbn1C1039G/+マウスに比べて、NAb処置のマウスにおける増殖速度の減少に注目されたい。:p<0.0001、**:p<0.03、:p<0.11、††:p=1.0。(J)遺伝子型と処置群に対して盲検で実施の観察者によって測定された、4つの代表的な切片の近位上行の大動脈中膜の平均厚み(±SD)を示す。NAb処置のFbn1C1039G/+マウスにおいて、厚みが完全に正常になったことに注目されたい。:p<0.01、:p=0.91、††:p=0.38。(K)近位上行大動脈の平均大動脈の壁構造の点数(±SD)。遺伝子型と処置群に対して盲検で実施の3人の別々の観察者が、4つの代表的な領域の弾性線維構造を、1(完全に無傷の弾性のラメラ層)から4(広範な断片化)までの段階に点数化した。NAb処置のFbn1C1039G/+マウスにおける改善に注目されたい。:p<0.007、**:p<0.0001、***:p<0.001、:p=0.21。
【図20−1】図20A〜Dは、ロサルタン及びプロプラノロールでの出生前処置を示す。(A〜D)VVG染色が、野生型マウス(A)及びロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウス(D)において、無傷の弾性の線維構造及び正常な上行大動脈壁の厚み(矢印)を明らかにする。プラセボ及びプロプラノロール処置のFbn1C1039G/+マウス[(B)及び(C)]において、顕著な弾性線維の破壊及び壁肥厚が現れる。スケールバーは、40μmである。
【図20−2】(E)10ヶ月の処置後の平均大動脈の厚み(±SD)を示す。プラセーボ又はプロプラノロール処置を受けたマウスと比べると、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスにおける壁の厚みが十分に正常になっていることに注目されたい。:p<0.0001、**:p<0.002、:p=0.24、††:p=0.19。(F)処置後の平均大動脈の壁構造の点数(±SD)を示す。ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスにおける改善に、注目されたい。:p<0.02、**:p<0.0001、:p=0.16。
【図21−1】図21A〜Kは、ロサルタン及びプロプラノロールによる出生後の処置結果を示す。大動脈壁のVVG染色[(A)〜(D)]及びpSmad2免疫染色[(E)〜(H)]を示す。野生型(A)及びロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウス(D)においては、弾性ラメラ構造が無傷であり、大動脈中膜が正常な厚みである。プラセボ及びプロプラノロール処置のFbn1C1039G/+マウス[(B)及び(C)]は、弾性線維の広範な断片化及び大動脈中膜の肥厚(矢印)を有している。スケールバーは、50μmである。野生型(E)及びロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウス(H)においては、核のpSmad2染色が減少している。pSmad2の核の染色(代表的な陽性細胞が矢印で示されている)の顕著な増加が、プラセボ(F)及びプロプラノロール(G)処置のFbn1C1039G/+マウスで見られる。スケールバーは、40μmである。
【図21−2】図21A〜Kは、ロサルタン及びプロプラノロールによる出生後の処置結果を示す。(I)処置6ヶ月間の平均の大動脈起始部の増殖(±SD)を示す。プロプラノロール処置のFbn1C1039G/+マウスにおける大動脈起始部の増殖はプラセーボのものより少ないが、野生型マウスで見られるものより大きいままであることに注目されたい。ロサルタン処置は増殖速度を正常化する。:p<0.0001、**:p<0.001、***:p<0.02、:p=0.55。
【図21−3】図21A〜Kは、ロサルタン及びプロプラノロールによる出生後の処置結果を示す。(J)平均の大動脈壁の厚み(±SD)を示す。ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスにおける大動脈壁の厚みは、プラセーボ及びプロプラノール処置のマウスに比べると減少しており、そして野生型マウスで見られるそれと区別が付かない。:p<0.002、**:p<0.0001、***:p<0.05、:p=0.67、††:p=0.17。
【図21−4】図21A〜Kは、ロサルタン及びプロプラノロールによる出生後の処置結果を示す。(K)平均の大動脈の壁構造(±SD)を示す。ロサルタン処置によって十分な正常化がもたらされたことに注目されたい。:p<0.002、**:p<0.0001、***:p<0.05、:p=0.20、††:p=0.47。
【図22−1】図22A〜Dは、Fbn1C1039G/+マウスにおける肺疾患の出生後のロサルタン処置結果を示す。野生型マウス(A)における肺の組織学的分析は、正常な気腔径を示し、プラセーボ処置のFbn1C1039G/+マウス(B)は、広範な末梢気腔の拡張(例が、矢印で表されている)を示す。スケールバーは、500μmである。
【図22−2】図22A〜Dは、Fbn1C1039G/+マウスにおける肺疾患の出生後のロサルタン処置結果を示す。末梢気腔径が、ロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウス(C)で減少している。スケールバーは、500μmである。
【図22−3】図22A〜Dは、Fbn1C1039G/+マウスにおける肺疾患の出生後のロサルタン処置結果を示す。(D)気腔径のマーカーである平均肺胞径が、処置していない野生型及びロサルタン処置のFbn1C1039G/+マウスよりも、プラセーボ処置のFbn1C1039G/+マウスで大きい。:p<0.01、**:p<0.001。
【図23A】図23A〜Bは、それぞれ、TGF−βの核酸配列(配列番号:1)及びポリペプチド配列(配列番号:2)を示す。
【図23B】図23A〜Bは、それぞれ、TGF−βの核酸配列(配列番号:1)及びポリペプチド配列(配列番号:2)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与すること、
それにより、対象を治療すること、
を含有してなる、異常なTGFβ発現又は活性によって特徴付けられる疾患又は障害を有するか又はその進行のリスクがある対象を治療する方法。
【請求項2】
疾患又は障害が、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疾患又は障害が、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
眼疾患が、白内障、近視、緑内障及び網膜剥離よりなる群から選ばれる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
疾患又は障害が、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
疾患又は障害が、筋ジストロフィーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
疾患又は障害が、肺の疾患又は障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
肺の疾患又は障害が、肺気腫、気胸及びCOPDよりなる群から選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
疾患又は障害が、関節炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、中和抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与すること、
それにより、対象を治療すること、
を含有してなる、マルファン症候群又はマルファン関連の疾患を有する対象を治療する方法。
【請求項20】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、中和抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与すること、
それにより、対象を治療すること、
を含有してなる、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する対象を治療する方法。
【請求項29】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体が、中和抗体である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
TGFβの活性又は発現を調節する薬剤の有効量を対象に投与すること、
それにより、対象を治療すること、
を含有してなる、関節炎を有する対象を治療する方法。
【請求項38】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体が、中和抗体である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
医薬組成物が、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤を含有している、異常なTGFβ発現によって特徴付けられる疾患又は障害を治療するための医薬組成物。
【請求項47】
疾患又は障害が、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
疾患又は障害が、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である、請求項47に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記眼疾患が、白内障である、請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項50】
疾患又は障害が、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項51】
疾患又は障害が、筋ジストロフィーである、請求項50に記載の医薬組成物。
【請求項52】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項51に記載の医薬組成物。
【請求項53】
疾患又は障害が、肺の疾患又は障害である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項54】
疾患又は障害が、関節炎である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項55】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項56】
前記TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項55に記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記抗体が、中和抗体である、請求項56に記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項59】
siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項49に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項60に記載の医薬組成物。
【請求項62】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項61に記載の医薬組成物。
【請求項63】
医薬組成物が、TGFβの活性又は発現を調節する薬剤び使用説明書を含んでなる、異常なTGFβ発現によって特徴付けられる疾患又は障害を治療するためのキット。
【請求項64】
疾患又は障害が、マルファン症候群又はマルファン症候群に関連する臨床症状である、請求項63に記載のキット。
【請求項65】
疾患又は障害が、動脈瘤、大動脈瘤、弁疾患、肺気腫、筋障害、脊柱側弯症又は眼疾患である、請求項64に記載のキット。
【請求項66】
前記眼疾患が、白内障、近視、緑内障及び網膜剥離よりなる群から選ばれる、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
疾患又は障害が、筋肉の増殖、維持又は再生に関連する疾患又は障害である、請求項63に記載のキット。
【請求項68】
疾患又は障害が、筋ジストロフィーである、請求項67に記載のキット。
【請求項69】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項68に記載のキット。
【請求項70】
疾患又は障害が、肺の疾患又は障害である、請求項63に記載のキット。
【請求項71】
疾患又は障害が、関節炎である、請求項63に記載のキット。
【請求項72】
前記薬剤が、TGFβ拮抗薬である、請求項63に記載のキット。
【請求項73】
前記TGFβ拮抗薬が、低分子化合物、ペプチド、抗体、scFV又はFab断片である、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
前記抗体が、中和抗体である、請求項73に記載のキット。
【請求項75】
薬剤が、TGFβに特異的なsiRNA又はshRNA、又はTGFβシグナル経路のレギュレータである、請求項65に記載のキット。
【請求項76】
前記siRNA又はshRNAが、配列番号:1に示されている核酸分子に特異的である、請求項75に記載のキット。
【請求項77】
前記薬剤が、アンジオテンシン受容体に結合する薬剤である、請求項63に記載のキット。
【請求項78】
前記薬剤が、1型アンジオテンシンII受容体(AT1)に結合する薬剤である、請求項77に記載のキット。
【請求項79】
前記薬剤が、2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)である、請求項78に記載のキット。
【請求項80】
2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール・一カリウム塩(ロサルタンカリウム)及び使用説明書を含んでなる、マルファン症候群を治療するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B−1】
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【図14B−2】
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【図14C−1】
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【図14C−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17A】
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【図17B−1】
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【図17B−2】
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【図17C】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図21−1】
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【図21−2】
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【図21−3】
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【図21−4】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図22−3】
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【図23A】
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【図23B】
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【公表番号】特表2009−513663(P2009−513663A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537953(P2008−537953)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/041846
【国際公開番号】WO2007/050793
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(505045908)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (21)
【Fターム(参考)】