説明

マレイン酸を水素化して1,4−ブタンジオールとするための改善された触媒

【課題】マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体を触媒的に水素化して、1,4−ブタンジオールおよびテトラヒドロフランとするための改善された触媒を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、炭素担体上の、パラジウム、銀、レニウム、および鉄から本質的になる触媒が提供される。本発明の他の実施態様は、1,4−ブタンジオールを生成するためのこのような触媒を生成する方法であって、この方法は、(i)炭素担体を酸化剤に接触させて炭素担体を酸化する工程;(ii)パラジウム、銀、レニウム、および鉄の金属源に炭素担体を接触させる工程を包含する1以上の含浸工程による、含浸工程;(iii)各含浸工程の後に、含浸された炭素担体を乾燥して溶媒を除去する工程;および(iv)還元条件下で、周囲温度から約100℃と約350℃との間の温度まで、含浸された炭素担体を加熱する工程、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体を水素化して1,4−ブタンジオールおよびテトラヒドロフランとするための、改善された触媒に関する。この触媒は、炭素担体に担持された、パラジウム、銀、レニウム、および鉄を含有する。マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体を水素化して1,4−ブタンジオールおよびテトラヒドロフランとするためのプロセスにおけるこの触媒の使用は、反応生成物に対しての全体としての活性が高いことによって、そして1,4−ブタンジオールの収率が高く、副生成物γ−ブチロラクトンの形成が最小限であることによって特徴付けられる。
【背景技術】
【0002】
(従来の技術)
テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、および1,4−ブタンジオールが、無水マレイン酸および関連した化合物の接触水素化により得られることは周知である。テトラヒドロフランは、天然樹脂および合成樹脂にとって有用な溶媒であり、そして多くの化学製品およびプラスチックの製造において重要な中間体である。γ−ブチロラクトンは、酪酸化合物、ポリビニルピロリドン、およびメチオニンの合成のための中間体である。γ−ブチロラクトンは、アクリレートポリマーおよびスチレンポリマーにとって有用な溶媒であり、そして塗料除去剤および繊維助剤の有用な成分でもある。1,4−ブタンジオール(1,4−ブチレングリコールとしても知られている)は、溶媒、湿潤剤、可塑剤および薬剤のための中間体、ポリウレタンエラストマーのための架橋剤、テトラヒドロフランの製造における前駆体として有用であり、そしてテレフタレートプラスチックの製造に用いられる。
【0003】
本発明において特に重要なのは、無水マレイン酸、マレイン酸および関連した化合物を水素化して、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、および1,4−ブタンジオールとするのに有用な、炭素担体に担持されたパラジウム、銀、レニウム、および鉄を含む水素化触媒である。
【0004】
特許文献1は、炭素担体に担持された、パラジウムおよびレニウムからなる水素化触媒を用いる、カルボン酸、ラクトン、または無水物の水素化を教示している。特許文献2および特許文献3は、炭素担体に担持された、パラジウムおよびレニウムを含有する触媒の存在下で、マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体を水素化することによって、テトラヒドロフランおよび1,4−ブタンジオールを製造するプロセスを教示している。ここでは、パラジウムおよびレニウムは、平均パラジウム結晶サイズが約10nm〜25nmであり、そして平均レニウム結晶サイズが2.5nm未満である微結晶の形態で存在していた。この触媒の調製は、炭素担体上にパラジウム種を析出および還元し、その後、パラジウムが含浸した炭素担体上に、レニウム種を析出および還元することによって特徴付けられる。
【0005】
特許文献4は、炭素担体に担持された、レニウム、パラジウム、およびパラジウムと合金化し得る少なくとも1つの他の金属を含有する触媒を用いて、カルボン酸またはそれらの無水物を接触水素化して、対応するアルコールおよび/またはカルボン酸エステルとするためのプロセスを教示している。パラジウムと合金化し得る好ましい金属は銀であるが、金、銅、ニッケル、ロジウム、錫、コバルト、アルミニウム、マンガン、ガリウム、鉄、クロム、および白金も教示される。この触媒の調製は、炭素担体上にパラジウムと銀とを同時に析出させ、その後、高温(600℃)加熱処理することによって特徴付けられる。次いで、パラジウム/合金金属が含浸した炭素担体上にレニウムを析出させる。次いで、得られた触媒を還元する。
【0006】
特許文献5は、担体に担持された、パラジウムおよびレニウム、ならびにロジウム、コバルト、白金、ルテニウム、鉄、ツリウム、セリウム、イットリウム、ネオジム、アルミニウム、プラセオジム、ホルミウム、ハフニウム、マンガン、バナジウム、クロム、金、テルビウム、ルテチウム、ニッケル、スカンジウム、およびニオブからなる群から選択される1つ以上の金属を含む水素化触媒を開示している。
【0007】
一般に、マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体の水素化において、上述の触媒は、1,4−ブタンジオールよりもテトラヒドロフランおよびγ−ブチロラクトンを多く生成する傾向がある。
【特許文献1】英国特許第1,534,232号明細書
【特許文献2】米国特許第4,550,185号明細書
【特許文献3】米国特許第4,609,636号明細書
【特許文献4】米国特許第4,985,572号明細書
【特許文献5】国際公開第92/02298号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、1,4−ブタンジオール生成を最大化し、かつγ-ブチロラクトン生成を最小化するプロセスおよび触媒である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭素担体上にパラジウム、銀、レニウム、および鉄を含む触媒であり、そして水素化可能な前駆体を、水素含有ガスと接触させて、触媒的に水素化する工程を包含する、1,4−ブタンジオールを生成するプロセスにおけるこの触媒の使用である。
【0010】
本発明の他の実施態様は、1,4−ブタンジオールを生成するためのこのような触媒を生成する方法であって、この方法は、
(i)炭素担体を酸化剤に接触させて炭素担体を酸化する工程;
(ii)パラジウム、銀、レニウム、および鉄の金属源に炭素担体を接触させる工程を包含する1以上の含浸工程による、含浸工程;
(iii)各含浸工程の後に、含浸された炭素担体を乾燥して溶媒を除去する工程;および
(iv)還元条件下で、周囲温度から約100℃と約350℃との間の温度まで、含浸された炭素担体を加熱する工程、を包含する。
【0011】
本発明の触媒は、炭素担体上の、パラジウム、銀、レニウム、および鉄から本質的になる。
【0012】
1つの実施態様において、上記触媒は、約0.1から約20重量%の間のパラジウム、約0.1から約20重量%の間の銀、約0.1から約20重量%の間のレニウム、および約0.1から約5重量%の間の鉄を含み、好適には、上記触媒は、約2から4重量%の間のパラジウム、約2から4重量%の間の銀、約5から9重量%の間のレニウム、および約0.2から0.6重量%の間の鉄を含む。
【0013】
本発明の、1,4−ブタンジオールを生成するプロセスは、水素化可能な前駆体を、水素含有ガス、および炭素担体上に担持されるパラジウム、銀、レニウム、および鉄を含む水素化触媒と接触させて、触媒的に水素化する工程を包含する。
【0014】
1つの実施態様において、上記水素化可能な前駆体は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸エステル、コハク酸エステル、γ−ブチロラクトン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好適には、上記水素化可能な前駆体は、マレイン酸、コハク酸、またはγ−ブチロラクトンの少なくとも1つである。
【0015】
さらに他の実施態様において、上記触媒は、約0.1から約20重量%の間のパラジウム、約0.1から約20重量%の間の銀、約0.1から約20重量%の間のレニウム、および約0.1から約5重量%の間の鉄を含み、好適には、上記触媒は、約2から4重量%の間のパラジウム、約2から4重量%の間の銀、約5から9重量%の間のレニウム、および約0.2から0.6重量%の間の鉄を含む。
【0016】
さらに他の実施態様において、水素と水素化可能な前駆体との比は、約5:1から約1000:1の間である。
【0017】
さらに他の実施態様において、上記水素含有ガスの圧力は、約20気圧から400気圧の間である。
【0018】
さらに他の実施態様において、上記接触時間は、約0.1分から20時間の間である。
【0019】
本発明の、1,4−ブタンジオールを生成するための触媒を生成する方法は、(i)炭素担体を酸化剤に接触させて炭素担体を酸化する工程;(ii)パラジウム、銀、レニウム、および鉄の金属源に炭素担体を接触させる工程を包含する1以上の含浸工程による、含浸工程;(iii)各含浸工程の後に、含浸された炭素担体を乾燥して溶媒を除去する工程;および(iv)還元条件下で、周囲温度から約100℃と約350℃との間の温度まで、含浸された炭素担体を加熱する工程、を包含する。
【0020】
1つの実施態様において、上記炭素担体を、パラジウム、銀、レニウム、および鉄の前記金属源で含浸する工程とほぼ同時に、該炭素担体を酸化剤と接触させる。
【0021】
他の実施態様において、上記酸化剤は、硝酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過塩素酸、および酸素からなる群から選択される。
【0022】
さらに他の実施態様において、工程(iv)の後、上記触媒を、水素化可能な前駆体および水素と接触させ、周囲温度から約40℃と約250℃との間の温度にまで加熱する。
【0023】
さらに他の実施態様において、上記水素化可能な前駆体は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、無水コハク酸、コハク酸ジメチル、γ−ブチロラクトン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
本発明の、テトラヒドロフラン、および1,4−ブタンジオールを生成するプロセスは、水素化可能な前駆体を、炭素担体に担持された、パラジウム、銀、レニウム、および鉄を含む水素化触媒と接触させて触媒的に水素化する工程を包含し、上記触媒は、(i)炭素担体を、酸化剤に接触させて炭素担体を酸化する工程;(ii)パラジウム、銀、レニウム、および鉄の金属源に炭素担体を接触させる工程を包含する1以上の含浸工程による、含浸工程;(iii)各含浸工程の後に、含浸された炭素担体を乾燥して溶媒を除去する工程;および(iv)還元条件下で、周囲温度から約100℃と約350℃との間の温度まで、含浸された炭素担体を加熱する工程、によって調製される。
【0025】
1つの実施態様において、上記水素化可能な前駆体は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸エステル、コハク酸エステル、γ−ブチロラクトン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好適には、上記水素化可能な前駆体は、マレイン酸、コハク酸、またはγ−ブチロラクトンのうちの少なくとも1つである。
【0026】
さらに他の実施態様において、上記触媒は、約0.1から約20重量%のパラジウム、約0.1から約20重量%の銀、約0.1から約20重量%のレニウム、および約0.1から約5重量%の鉄を含み、好適には、上記触媒は、約2から4重量%のパラジウム、約2から4重量%の銀、約5〜9重量%のレニウム、および約0.2から0.6重量%の鉄を含む。
【0027】
さらにの実施態様において、水素の水素化可能な前駆体に対する比は、約5:1から約1000:1の間である。
【0028】
さらにの実施態様において、上記水素含有ガスの圧力は約20から400気圧の間である。
【0029】
さらにの実施態様において、上記接触時間は、約0.1分から20時間の間である。
【0030】
さらにの実施態様において、上記酸化剤は、硝酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過塩素酸、および酸素からなる群から選択される。
【発明の効果】
【0031】
マレイン酸、無水マレイン酸、または他の水素化可能な前駆体を触媒的に水素化して、1,4−ブタンジオールおよびテトラヒドロフランとするための改善された触媒を発見した。この水素化触媒は、炭素担体上に、パラジウム、銀、レニウム、および鉄を含む。本発明によれば、1,4−ブタンジオール生成を最大化し、かつγ-ブチロラクトン生成を最小化するプロセスおよび触媒が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(発明の実施の形態)
水素化可能な前駆体の水素化において、炭素担体に担持された、パラジウム、レニウム、銀、および鉄を含む触媒を用いることによって、高い収率の1,4−ブタンジオールおよび低い収率のテトラヒドロフランを与え、γ−ブチロラクトンの形成が最少化される。
【0033】
(反応物)
本発明のプロセスにおいては、少なくとも1つの水素化可能な前駆体が、触媒の存在下で水素含有ガスと反応する。本明細書中で用いられる「水素化可能な前駆体」は、水素化されると1,4−ブタンジオールを生成する、任意のカルボン酸、またはそれらの無水物、カルボン酸エステル、ラクトン、またはそれらの混合物である。代表的な水素化可能な前駆体には、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、コハク酸、コハク酸ジメチルなどのコハク酸エステル、マレイン酸ジメチルなどのマレイン酸エステル、γ−ブチロラクトン、またはそれらの混合物が包含される。好ましい水素化可能な前駆体は、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、無水コハク酸、またはそれらの混合物である。
【0034】
最も好ましい、水素化可能な前駆体はマレイン酸である。マレイン酸は、典型的に、酸素含有ガス中で触媒の存在下にて、n-ブタンまたはベンゼンを反応させ、気相においてn-ブタンまたはベンゼンを酸化して無水マレイン酸とし、次いで、水でクエンチして無水マレイン酸を回収し、水溶液中にマレイン酸を生成することによって得られる。n-ブタンまたはベンゼンの酸化は、典型的に、約300℃から600℃の温度で、かつ約0.5〜20気圧(50〜2000kPa)の圧力で行われる。
【0035】
典型的には、水素(H2)含有ガスは、希釈ガスを含有しない、市販の純粋水素である。しかし、水素含有ガスは、水素(H2)に加えて、窒素(N2)、任意の気体状炭化水素(例えば、メタン)、および気体状炭素酸化物(例えば、一酸化炭素、二酸化炭素)も含有し得る。
【0036】
(触媒)
本発明に用いられる触媒は、炭素担体に担持された、パラジウム、銀、レニウム、および鉄を含有する。本発明に使用される炭素は、少なくとも200m2/gのBET表面積、好ましくは500m2/g〜1500m2/gの範囲のBET表面積を有する。
【0037】
触媒組成物は、約0.1重量%〜約20重量%のパラジウム、好ましくは約2重量%〜約8重量%のパラジウム、より好ましくは約2重量%〜約4重量%のパラジウム;約0.1重量%〜約20重量%の銀、好ましくは約1重量%〜約8重量%の銀、より好ましくは約2重量%〜約4重量%の銀;約0.1重量%〜約20重量%のレニウム、好ましくは約1重量%〜約10重量%のレニウム、より好ましくは約5重量%〜約9重量%のレニウム;および約0.01重量%〜約10重量%の鉄、好ましくは約0.1重量%〜約5重量%の鉄、より好ましくは約0.2重量%〜約0.6重量%の鉄を含有する。パラジウムの銀に対する比率は、10:1と1:10との間である。触媒組成物はまた、IA族、IIA族、およびVIII族から選択される一種または複数種の金属を取り込むことによってさらに改変され得る。
【0038】
本発明の触媒は、炭素担体を酸化し(ただし、この処理工程は任意のものである)、続いて、パラジウム、銀、レニウム、または鉄化合物の少なくとも1つを含む1つ以上の溶液によって、単一または複数の含浸工程で炭素担体を含浸することによって簡便に調製され得る。
【0039】
好ましくは、炭素担体は、金属の析出前に、まず酸化剤に炭素担体を接触させることによって酸化される。この手法により調製された触媒は、酸化されていない炭素担体で調製される触媒に比べて活性および選択率において劇的な改善を示す。硝酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過塩素酸、および酸素などの多くの酸化剤が、このプロセスにおいて有効であり得る。相の酸化剤が好ましい。上昇させた温度における硝酸が、この手順において特に有効であることが見いだされている。気相の酸化剤としては、任意の酸素含有ガス(例えば、大気)が挙げられる。気相の酸化剤を、約200℃以上の温度で、かつ大気圧付近またはそれ以上の圧力にて炭素担体に接触させる。必要に応じて、鉄、ニッケル、パラジウム、レニウム、銀、金、銅、ロジウム、錫、コバルト、マンガン、ガリウム、および白金などの1つ以上の金属を酸化剤と混合し、その後、酸化剤による炭素担体の前処理の間に炭素担体上に析出し得る。
【0040】
前述したように、本発明の触媒は、パラジウム、銀、レニウム、または鉄化合物の少なくとも1つを含む1つ以上の溶液によって、単一または複数の含浸工程で炭素担体を含浸することによって調製される。本明細書中で用いられる場合、炭素担体の含浸とは、炭素担体が充填され、染み込まされ(imbued)、浸透され、飽和され、または被覆されることを意味する。含浸溶液は、必要に応じて、1つ以上の金属化合物の可溶化を補助する錯化剤を含有し得る。含浸溶液はまた、必要に応じて、炭素担体と接触する前にまたは接触する時点で(insitu)酸化剤と合わされ得る。各含浸工程後、触媒を乾燥して、キャリア溶媒を除去する。乾燥温度は約80℃と約150℃との間である。
【0041】
パラジウム化合物、銀化合物、レニウム化合物、および鉄化合物の溶液は、溶液中に担体材料を浸漬または懸濁することにより、もしくは炭素上にその溶液を噴霧することにより、炭素に付与することができる。パラジウム化合物を含有する溶液は、典型的には、必要量のパラジウムを含む触媒生成物を与える量のパラジウム化合物を含有する水溶液である。パラジウム化合物は、硝酸パラジウム、あるいは塩化物、炭酸塩、カルボン酸塩、酢酸塩、アセチルアセトネート、またはアミンなどのパラジウム化合物であり得る。銀化合物を含有する溶液は、典型的には、必要量の銀を含む触媒生成物を与える量の銀化合物を含有する水溶液である。パラジウム化合物および銀化合物は、熱分解可能で、かつ金属に還元可能であるべきである。レニウム化合物を含有する溶液は、典型的には、必要量のレニウムを含む触媒生成物を与える量のレニウム化合物を含有する水溶液である。レニウム化合物は、典型的には、過レニウム酸、過レニウム酸アンモニウム、または過レニウム酸アルカリ金属である。鉄化合物を含有する溶液は、典型的には、必要量の鉄を含む触媒生成物を与える量の鉄化合物を含有する水溶液である。鉄化合物は、典型的には、硝酸第二鉄であるが、他の適切な鉄含有化合物には、酢酸第一鉄、酢酸第二鉄、塩化第一鉄、フマル酸第一鉄、およびフマル酸第二鉄が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0042】
含浸溶液(または、複数の含浸溶液)は、必要に応じて、1つ以上の金属化合物の可溶化を補助するために、金属錯化剤を含み得る。含浸溶液にアセトニトリルを添加することによって、単一の工程で、Pd、Ag、およびRe化合物を添加することが可能となる。硝酸または他の酸化剤もまた含浸溶液に添加され得る。
【0043】
パラジウム、銀、レニウム、および鉄で含浸し、そして乾燥した後、触媒は、還元条件下、含浸した炭素担体を周囲温度(すなわち典型的には、室温)から、約120℃と約350℃との間の温度、好ましくは約150℃と約300℃との間の温度まで加熱することによって活性化される。水素または水素と窒素との混合物を、触媒と接触させて、接触還元に簡便に用い得る。含浸された炭素担体の還元は、炭素担体がパラジウム、銀、レニウム、および鉄で含浸された後に初めて還元される。複数の含浸工程および複数の乾燥を行う場合には、触媒の還元は最終的な乾燥の後に行う。
【0044】
本発明の触媒におけるパラジウムは、平均微結晶サイズが100オングストローム(10nm)未満の微結晶形態で存在する。より詳細には、本明細書において使用するような炭素担体に担持された、パラジウム/銀/レニウムの新たに還元したサンプルを、X線回析(XRD)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)によって分析すると、触媒中のパラジウム含有粒子(すなわち、パラジウムの粒子、パラジウムおよび銀の粒子、またはパラジウムおよびレニウムの粒子)は、細かく分散し、約50オングストローム(5nm)未満の平均微結晶サイズを有する。本明細書中で用いられるように、「粒子サイズ分布」および「平均粒径」とは、本明細書において参考として援用されるJ.R.Anderson "Structure of Metal Catalysts"(Academic Press、1975)(358-359頁)において定義されるものと同様とする。
【0045】
最後に、本明細書において記載される触媒の調製は、米国特許第4,985,572号に教示されるような、乾燥工程の間に除去せねばならない大量の過剰の水を用いず、また高温度(すなわち、約600℃)での処理工程も採用しない。
【0046】
本明細書に記載の触媒調製の完了時には、触媒中に鉄が存在する。しかし、触媒を還元条件に曝し(例えば、マレイン酸の水素化の間)、次いで再度試験すると、鉄も鉄化合物も検出され得ない。しかし、触媒は本明細書に記載のように、パラジウム、銀、レニウムをなおも含有しているが、鉄化合物なしで調製される炭素上に担持されたPd/Ag/Re触媒と比較して、マレイン酸を1,4−ブタンジオールとする水素化において、より優れた結果をもたらす。
【0047】
(プロセス)
このプロセスを行うための方法は、水素化触媒の存在下で水素化可能な前駆体を水素含有ガスと反応させる工程と、蒸留により反応生成物を回収し、そして精製する工程とを包含する。
【0048】
本発明の液相水素化は、撹拌タンク反応器または固定床反応器において、従来の装置および技術を用いて行われ得る。単一または複数段階の反応器を使用し得る。必要とされる触媒の量は広範に変化し、そして、反応器の大きさおよび設計、接触時間などの多くのファクターに依存する。
【0049】
水素含有ガスは、通常、他の反応物質に対して化学量論的にかなり過剰な水素で、連続的に供給される。未反応の水素は、再循環流として反応器に戻され得る。前駆体溶液(例えば、マレイン酸溶液)は、希釈溶液から最大溶解度レベル付近までの範囲の濃度、典型的には約30重量%〜約50重量%の濃度で連続的に供給される。
【0050】
好ましくは、水素化工程は、約50℃〜350℃の温度および約20〜400気圧の水素圧で、水素と水素化可能な前駆体との比(H2/P)が5:1と1000:1との間で、0.1分〜20時間の接触時間で行われる。最大の1,4−ブタンジオールを生成するための反応温度は約50℃〜250℃、より好ましくは約80℃〜200℃である。
【0051】
反応生成物である、1,4−ブタンジオール、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、またはそれらの混合物は、好都合には分別蒸留によって分離される。例えば、無水コハク酸またはコハク酸などの、少量で形成される副生成物または未反応の供給物(feed)は、必要に応じて水素化段階に戻される。γ−ブチロラクトンもまた、水素化反応器に再循環され得る。
【0052】
本発明のプロセスを用いて、より詳細には本明細書に記載の水素化触媒を用いて、マレイン酸が単純な反応で事実上定量的に変換される。達成される1,4−ブタンジオールおよびテトラヒドロフランの収率は、約80モル%以上、典型的に約90モル%以上であり、収量の大部分が1,4−ブタンジオールである。反応副生成物には、n−ブタノール、n−酪酸、n−プロパノール、プロピオン酸、メタン、プロパン、n−ブタン、一酸化炭素、および二酸化炭素が包含され得る。しかし、利用できない副生成物の形成はわずかである。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供される。
【0054】
(比較例A) 炭素上に担持されたPdAgReの調製
45gの濃硝酸(70重量%)を、脱イオン水で50ccにまで希釈した。この溶液を使用して、74.6gのCECA 1.5mm ACL40炭素押出物を含浸した。含浸の間、フラスコを時折冷却した。混合物を、80分間放置し、次いで、130℃にて3時間乾燥した。この手順を35分の放置時間および16時間の乾燥時間で繰り返した。
【0055】
35.1gの硝酸パラジウム溶液(8.5重量% Pd)、11.95gの過レニウム酸(53.3重量% Re)溶液、および7.9gの濃硝酸(70重量%)を、脱イオン水で50ccまで希釈した。次いで、ACL40を、Pd+Re溶液で徐々に含浸した。含浸の間、フラスコを時折冷却した。混合物を、2時間放置し、次いで130℃にて2時間乾燥した。
【0056】
4.7gの硝酸銀、および7.9gの濃硝酸を、脱イオン水で50ccまで希釈した。次いで、PdRe/ACL40を、フラスコを時折冷却しながら、硝酸銀溶液で徐々に含浸した。混合物を3.5時間放置し、次いで130℃にて64時間乾燥させた。得られた触媒は、3.3重量% Pd/3.3重量% Ag/7.1重量% Reであった。
【0057】
(実施例1)炭素上に担持されたPdAgReFeの調製
45gの濃硝酸(70重量%)、および1gの硝酸第二鉄(Fe(NO3)3.9H2O)を脱イオン水で50ccまで希釈した。この溶液を使用して、74.6gのCECA 1.5mm ACL40炭素押出物を含浸した。含浸の間、時折フラスコを冷却した。混合物を、65分放置し、次いで、130℃にて2時間乾燥した。この手順を、65分の放置時間および2.4時間の乾燥時間で繰り返した。
【0058】
35.1gの硝酸パラジウム溶液(8.5重量% Pd)、11.95gの過レニウム酸(53.3重量% Re)溶液、および7.9gの濃硝酸(70重量%)を、脱イオン水で50ccまで希釈した。次いで、ACL40を、Pd/Re溶液で徐々に含浸した。含浸の間、フラスコを時折冷却した。混合物を、2.5時間放置し、次いで130℃にて2.25時間乾燥した。
【0059】
4.7gの硝酸銀、および7.9gの濃硝酸を、脱イオン水で50ccまで希釈した。次いで、PdRe/ACL40を、フラスコを時折冷却しながら、硝酸銀溶液で徐々に含浸した。混合物を80分間放置し、次いで130℃にて69時間乾燥させた。得られた触媒は、3.3重量% Pd/3.3重量% Ag/7.1重量% Re/0.3重量% Feであった。
【0060】
(実施例2) 水性マレイン酸の水素化および触媒試験
比較例Aおよび実施例1の触媒をそれぞれ、加熱されたHastelloy C276管を用いて連続的に接続した2つのHastelloy C276反応器において試験した。反応器は、内径が0.516インチであり、それぞれ1/8インチ軸HastelloyC276サーモウェルに備え付けた。
【0061】
反応器に充填する前に、それぞれの触媒を、50/70メッシュ石英チップと混合した(触媒1g当たり0.625gの石英)。20cc(12.15g)の触媒を、第1の反応器に入れ、40cc(24.3g)を第2の反応器に入れた。試験の前に、触媒を大気圧にて、水素気流(400sccm)中で、以下の温度勾配にて還元した:
5時間かけて室温から30℃まで
2時間かけて30℃から100℃まで
11時間かけて100℃から230℃まで
230℃を5時間維持
反応器を、水素を再循環させて操作した。少量の水素を通気させて、濃縮できない(non-condensable)ガスが蓄積するのを予防した。液体供給物中のマレイン酸濃度は、35.5重量%であった。触媒試験のプロセス条件は、以下のプロセス条件の通りであった:
圧力=2500 psig
2/マレイン酸供給比=88
2補給(make-up):再循環比=0.083
第1の反応器:
平均設定温度=100℃
LHSV=1.6h-1
第2の反応器:
平均設定温度=153−162℃
LHSV=0.8h-1
表1は、PdAgRe/CおよびPdAgReFe/C触媒の試験結果の概要である。
【0062】
【表1】

【0063】
表1は、BDO収率が、PdAgReFe/Cの場合に顕著に高いことを示している。表1はまた、鉄含有触媒(実施例1)が、鉄非含有種(比較例)よりも活性であることを示す。これは、低い反応温度における全体の良好な変換率により明白である。
【0064】
本発明は本明細書で示した実施例によって限定されるべきでないことが理解されるべきである。これらは、単に実施可能性を説明するために提供されたものであり、そして必要ならば、触媒、金属源、炭素担体、濃度、接触時間、固形物担持量、供給原料、反応条件、および生成物の選択は、本明細書中で開示し、そして記載した本発明の意図から逸脱することなく、提供した明細書の開示全体から決定され得、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲内の改変および変法を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体上の、パラジウム、銀、レニウム、および鉄から本質的になる触媒。

【公開番号】特開2007−181829(P2007−181829A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26179(P2007−26179)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【分割の表示】特願平9−347597の分割
【原出願日】平成9年12月17日(1997.12.17)
【出願人】(595017584)ザ スタンダード オイル カンパニー (8)
【氏名又は名称原語表記】The Standard Oil Company
【Fターム(参考)】