説明

マンガン乾電池およびその製造方法

【課題】製造過程においてセパレータ表面に形成されている糊材層の剥離を低減するとともに、セパレータ内やセパレータと正負極との間に気泡が残留するのを抑制し、高率放電特性に優れたマンガン乾電池を提供する。
【解決手段】負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータ3Aを改良したマンガン乾電池である。セパレータ3Aは、浸液速度が1000sec/0.05ml以下の原紙20、その負極缶4側の表面に形成されたデンプンを含む糊材層21、および原紙20の正極合剤層1側の表面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層22からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン乾電池に関し、さらに詳しくはマンガン乾電池の糊材層を有するセパレータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイレート機器用の電源として電池が用いられる機会が増えており、マンガン乾電池についても高率放電特性の向上が望まれている。
糊材層を有するセパレータを用いたマンガン乾電池の代表例が例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、マンガン乾電池のセパレータとして、浸液速度が400sec/0.05ml以下、気密度が200〜700sec/100mlである原紙(クラフト基紙)に糊材を塗布したものを用いている。ここで、浸液速度は、0.05mlの水を15mmの高さから滴下したときに水滴が全て紙中に吸収されるまでの時間を表す。従って、浸液速度の数値が小さいほど浸液速度が高く、浸液速度の数値が大きいほど浸液速度が低くなる。
【0003】
このようにセパレータに用いる原紙の浸液速度をより高くし、気密度をより低くすることにより、セパレータへの電解液の吸収速度を向上させ、電池の開路電圧を迅速に安定させるのである。
この糊材は原紙の片面に塗布され、この塗布面が有底円筒形の負極缶に対向するようにセパレータが配置される。このセパレータを介して、電解液を含む正極合剤が負極缶内に充填される。次に、正極合剤中に集電体である炭素棒が挿入され、この炭素棒の押し込みにより正極合剤中の電解液が外部に滲みだし、セパレータに吸収される。
【0004】
セパレータに上記のような浸液速度の高い原紙を用いると、原紙内に存在する気泡が電解液と置換されて負極缶とセパレータとの間から抜け出すよりも前に、電解液が負極缶側の糊材の層に達し、糊材の糊化が進行する。その結果、原紙内で電解液が気泡を取り込んだ状態となる。正極合剤に炭素棒を差し込んだ際に、気泡がセパレータと正極合剤との間に多く存在すると、セパレータが浮き上がり易くなる。また、セパレータと正極合剤および負極缶との間に気泡が残留するため、セパレータと正極合剤および負極缶との界面に存在する電解液の量が不充分となり、電池の放電特性、特に高率放電特性が低下しやすいという問題がある。
この高率放電特性の低下は、セパレータの浮き上がりがない従来程度の浸液速度の原紙からなるセパレータを用いた場合であっても起こる。
【0005】
この問題に対しては、セパレータの原紙の両面にデンプンを主体とする糊材層を形成することにより、正極合剤側の糊材層の存在によって、電解液の負極缶側への移行を遅らせ、セパレータの浮き上がりや高率放電特性の低下を抑制することも考えられる。
【0006】
しかし、高温で保存した場合、正極合剤側のデンプンが変質し、抵抗体となるため、電池の保存性能の低下を来すという問題がある。また、セパレータの両面にデンプン層があることから種々の弊害が生じる。すなわち、デンプン層は、剥離して粉状に脱落しやすいので、電池の組立工程におけるセパレータの供給、負極缶への挿入工程などにおいて、セパレータに塗布されたデンプンを主体とする糊材層の剥がれが多くなり、工程トラブルを発生しやすくなる。
【特許文献1】特許第3106807号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、製造過程においてセパレータ表面に形成されている糊材層の剥離を低減するとともに、セパレータ内やセパレータと正負極との間に気泡が残留するのを抑制し、高率放電特性に優れたマンガン乾電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1のマンガン乾電池は、亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の負極缶側の表面に形成されたデンプンを含む糊材層、および前記原紙の正極合剤側の表面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2のマンガン乾電池は、亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の両面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層、および前記負極缶側のポリビニルアルコールを含む糊材層の表面に形成されたデンプンを含む糊材層からなることを特徴とする。
前記ポリビニルアルコールを含む糊材層のポリビニルアルコール量が、0.1〜10g/m2であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明は、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙をポリビニルアルコールを含む糊材に含浸させた後、乾燥させて前記原紙の両面にポリビニルアルコールを含む糊材層が形成されたシート状中間体を得る工程(1)、前記中間体の片面にデンプンを含む糊材を塗布した後、乾燥させて、前記中間体の片面にデンプンを含む糊材層が形成されたセパレータを得る工程(2)、前記セパレータを、前記デンプンを含む糊材層が形成された側が負極缶と対向するように、負極缶の内面に配する工程(3)、電解液を含む正極合剤を、前記セパレータを介して負極缶内に充填する工程(4)、および前記負極缶内に充填された前記正極合剤中に炭素棒を挿入する工程(5)を含む第2のマンガン乾電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
電池反応をより長く持続させるには、負極亜鉛の近傍に常に電解液が存在することが必要である。本発明のマンガン乾電池は、セパレータの原紙が負極缶(亜鉛)と接する面に電解液の保持能力、すなわち保持量および保持力の優れたデンプンを含有する糊材層を有する。これによって、負極亜鉛の近傍に常に電解液が存在することとなる。
【0012】
また、セパレータの原紙が正極合剤と接する面に糊材層を有する。この糊材層の存在によって、正極合剤からしみ出す電解液が、原紙の全面にわたりいっきに負極缶側へ移行するのを時間的に緩和する。これにより原紙中に存在する気泡が抜けやすくなる。この正極合剤側の糊材層として、電池内で劣化しにくく、塗布膜として剥離し難く、粉状に脱落し難いポリビニルアルコールを用いている。このため、保存特性の劣化を抑制するとともに高率放電特性を向上し、工程でのトラブルも改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るマンガン乾電池の最大の特徴は、浸液速度が1000sec/0.05ml以下の原紙を用い、負極缶側表面にデンプンを含む糊材層が形成され、および正極合剤側の表面にポリビニルアルコール(以下、PVAと表す)を含む糊材層が形成されたセパレータを用いた点である。
すなわち、本発明の第1のマンガン乾電池は、亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の負極缶側の表面に形成されたデンプンを含む糊材層、および前記原紙の正極合剤側の表面に形成されたPVAを含む糊材層からなる。
【0014】
また、本発明に係る第2のマンガン乾電池は、亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の両面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層、および前記負極缶側のPVAを含む糊材層の表面に形成されたデンプンを含む糊材層からなる。
【0015】
マンガン乾電池の製造工程において、前記のように糊材層を形成したセパレータを負極缶の内面に配した後、電解液を含む正極合剤を充填する。そして、この正極合剤中に炭素棒を挿入する。このとき、セパレータの原紙は浸液速度が高いが、原紙の両面に糊材層が形成されているため、電解液が負極缶側に達するまでに、気泡が外部に抜ける時間を十分に確保することができる。
【0016】
したがって、セパレータ内、セパレータと正極合剤との間、およびセパレータと負極缶との間に気泡が残留することなく、電解液がセパレータに吸収される。このため、得られたマンガン乾電池は、優れた高率放電特性を発揮することができる。
【0017】
セパレータは、原紙の正極合剤側の面の糊材層にPVAを用いている。正極合剤側の糊材層にデンプンを用いると、高温保存時に変質して、抵抗体となるため、電池の保存性能の低下を来すという問題があるが、PVAは、そのような不都合を生じない。PVAは、保存中に徐々に電解液に溶解するから、抵抗体として作用しない。保存により、正極合剤側のPVAが溶解しても、電解液の保持に関しては、負極缶側の糊材層が担うので、不都合はない。
【0018】
また、デンプン層は、剥離して粉状に脱落しやすいので、電池の組立工程におけるトラブルを発生しやすいが、デンプンは原紙の片面のみに形成するから、そのようなトラブルは大幅に軽減することができる。
【0019】
セパレータ原紙に糊材層を形成するには、デンプンに接着剤、例えば酢酸ビニルを主とする接着剤を少量加え、これをアルコール系溶媒、例えばメタノールに溶解し、原紙に塗布し、乾燥する。アルコール系溶媒の代わりに水を用いることもできる。その際は、結着剤にはPVAのような水と相性のよいものを使用する。塗着量は10〜40g/m2が好ましい。10g/m2未満であると、放電反応に必要な電解液を十分保持することができない。40g/m2を超えると、糊材が過剰となり、デンプン層の剥離、脱落などのトラブルが発生しやすくなる。
【0020】
一方、PVAは、水に溶解し、これを原紙に塗布し、乾燥することにより形成することができる。塗着量は0.1〜10g/m2が好ましい。0.1g/m2未満であると、正極合剤層からしみ出す電解液が、原紙の全面にわたりいっきに負極缶側へ移行するのを時間的に緩和する効果が得られない。10g/m2を超えると、負極缶側の糊材層への電解液のまわりが遅くなり、電池の開路電圧が迅速に安定しない。そのため、製造直後の電圧のばらつきが大きくなり、無エージングでの製品電池の良否判断が困難になるといったトラブルが発生する。
【0021】
本発明のマンガン乾電池の一実施の形態を図1に示す。図1は、本発明のマンガン乾電池の一部を断面にした正面図である。
負極缶4は、金属亜鉛または亜鉛合金を有底円筒形状に成型したものである。負極缶4内には、負極缶4の側面にセパレータ3および底面に底紙13を設置した後、正極合剤1が収納される。正極合剤1上には鍔紙9を設置する。鍔紙9は、板紙を環状に打ち抜いて得られ、炭素棒に嵌合する中心孔を有する。正極合剤1の中央部には、カーボン材料を焼成し、撥水処理がされた炭素棒2が差し込まれる。セパレータ3は、浸液速度が1000sec/0.05ml以下の原紙と、この原紙の負極缶側の表面に形成されたデンプンを含む糊材層、および原紙の正極合剤側の表面に形成されたPVAを含む糊材層からなる。
【0022】
負極缶4の開口部を封口する封口体5は、ポリエチレンもしくはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、またはナイロンなどのポリアミド系樹脂で構成され、中央部に炭素棒2が挿入される中心孔が設けられている。負極缶4の開口端を内側に屈曲させた後、封口体5を炭素棒2に嵌合させる。
【0023】
負極缶4の外周には、絶縁を確保するための熱収縮性を有する樹脂チューブ8が配されており、樹脂チューブ8の上端部は、封口体5の外周部上面を覆っている。樹脂チューブ8の下端部は、負極缶4の底面に配置したブリキ板製の負極端子板6の鍔部をシールリング7を介して覆っている。シールリング7は、パラフィンを含浸した板紙をリング状に打ち抜いたものである。
【0024】
炭素棒2の頂部にはブリキ板製の正極端子板11が取り付けられている。正極端子板11は、炭素棒を嵌合するキャップ状部分と、平板状の鍔部を有する。その平板状の鍔部の外側に、樹脂製の絶縁リング12が配されている。
筒状のブリキ板からなる金属外装缶10は、樹脂チューブ8の外側に配置され、その上端部および下端部は内側に折り曲げられて、それぞれ絶縁リング12および樹脂チューブ8の端部を締め付けている。
【0025】
本発明に係る第1のマンガン乾電池では、以下の製造工程によりセパレータを作製し、セパレータに電解液を含ませる。
工程A:浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙の一方の面にはデンプンを含む糊材を、他方の面にはPVAを含む糊材それぞれ塗布した後、乾燥して、原紙の一方の面にデンプンを含む糊材層および他方の面にPVAを含む糊材層が形成されたセパレータ3を得る。
【0026】
工程B:セパレータを、デンプンを含む糊材層が形成された側が負極缶と対向するように、負極缶の内面に配する。
工程C:電解液を含む正極合剤を、セパレータを介して負極缶内に充填する。正極合剤には、例えば、活物質の二酸化マンガン、導電材のアセチレンブラック、および電解液の混合物が用いられる。電解液には、塩化亜鉛水溶液が用いられる。
【0027】
工程D:負極缶内に充填された正極合剤中に炭素棒を挿入する。このとき炭素棒で正極合剤が外側に押されるため、正極合剤中の電解液がセパレータ側にしみ出す。1000sec/0.05ml以下の浸液速度の高い原紙を用いても、正極合剤と原紙との間に糊材層が存在するため、電解液が負極缶側の糊材層に浸透するまでに、セパレータ内および正極合剤とセパレータとの間に存在する気泡が負極缶側の糊材と負極缶との間に達し、この間より上方に抜ける時間を確保することができる。このため、セパレータ内、ならびにセパレータと正極合剤との間、およびセパレータと負極缶との間には、気泡が残留しない。
このようにして得られたマンガン乾電池は、正負極とセパレータとの界面に気泡が残留しないため、電解液が十分存在し、優れた高率放電特性が得られる。
【0028】
ここで、上記第1のマンガン乾電池の製造方法におけるセパレータの作製方法(工程A)の一例を図6に示す。
工程Aは、図6に示すように、糊材の塗布工程aおよび乾燥工程bからなる。
ローラー31に取り付けられたロール状の原紙20は、塗布工程aに送り出され、原紙20は一対のローラー32aおよび32bの間を通過する。このとき、一対のローラー32aおよび32bのうちの一方のローラー32aの表面は糊材34が塗布された状態である。このため、ローラー32aに原紙1が接触する際に、糊材34が原紙20のローラ32a側の面に塗布される。
【0029】
ローラー33は、糊材34が収納された容器37中において、ローラー33の下部は糊材34中に配されている。ローラー33はローラー32aに接触しており、ローラー32aおよび33の回転により、ローラー33上の糊材が、ローラー32a上へ塗布される。
【0030】
一対のローラー32aおよび32bの間を通過した原紙20は、乾燥工程bにおいて、原紙20の両側に配され、加熱されたローラー35aおよび35bに接触する。このため、ローラー35aおよび35bを通過する際に、糊材が加熱・乾燥され、糊材層が形成される。そして、ローラー36により糊材層が形成された原紙20が巻き取られる。
そして、上記において、原紙の一方の面に対しては糊材34にデンプンを含む糊材を用い、原紙の他方の面に対しては糊材34にPVAを含む糊材を用いることにより、上記セパレータが得られる。容器中のPVAを含む糊材の温度は、例えば20〜80℃であり、好ましくは約50℃である。容器中のデンプンを含む糊材の温度は、例えば10〜40℃であり、好ましくは約25℃である。
【0031】
また、本発明に係る第2のマンガン乾電池では、以下の製造工程によりセパレータを作製し、セパレータに電解液を含ませる。
工程(1):浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙をPVAを含む糊材に含浸させた後、乾燥させて原紙の両面にPVAを含む糊材層が形成されたシート状中間体を得る。
工程(2):上記工程(1)の後、上記中間体の片面にデンプンを含む糊材を塗布した後、乾燥させて上記中間体の片面にデンプンを含む糊材層が形成されたセパレータを得る。
工程(3):上記セパレータを、デンプンを含む糊材層が形成された側が負極缶と対向するように、負極缶の内面に配する。
工程(4):電解液を含む正極合剤を、セパレータを介して負極缶内に充填する。
工程(5):負極缶内に充填された正極合剤中に炭素棒を挿入する。
【0032】
ここで、上記第2のマンガン乾電池の製造方法におけるセパレータの作製方法(工程(1)および(2))の一例を図7に示す。
上記工程(1)は、PVAを含む糊材の含浸工程cおよび乾燥工程dからなる。
ローラ41に取り付けられたロール状の原紙20が含浸工程cに送り出される。含浸工程cでは、容器47内に収納されたPVAを含む糊材44中に2つのローラ43aおよび43bが配置され、原紙20がローラ43aおよび43bにより糊材44中を通過して原紙20に糊材44が含浸される。容器47中のPVAを含む糊材の温度は、例えば20〜80℃であり、好ましくは約50℃である。
乾燥工程dでは、糊材44が両面に塗布された原紙20を100〜200℃に加熱したローラ45aおよび45bに接触させて、この原紙20を加熱・乾燥する。好ましくは加熱温度は約150℃である。一対のローラー45aおよび45bが原紙20の両側に配されるため、原紙20の両面に形成されたPVAを含む糊材44を効率よく乾燥させることができる。これにより、原紙20の両面にPVAを含む糊材層が形成されたシート状中間体が得られる。
【0033】
上記工程(2)は、デンプンを含む糊材の塗布工程eおよび乾燥工程fからなる。
上記工程(1)の後、シート状中間体は、塗布工程eにおいて、一対のローラー52aおよび52bの間を通過する。このとき、一対のローラー52aおよび52bのうちの一方のローラー52aの表面はデンプンを含む糊材54が塗布された状態である。このため、ローラー52aにシート状中間体が接触する際に、糊材54がシート状中間体のローラー52a側の面に塗布される。
【0034】
ローラー53は、デンプンを含む糊材54が収納された容器57中において、その下部は糊材54中に配されている。容器57中のデンプンを含む糊材の温度は、例えば10〜40℃であり、好ましくは約25℃である。ローラー53はローラー52aに接触しており、ローラー52aおよび53の回転により、ローラー53上の糊材が、ローラー52a上へ塗布される。
【0035】
一対のローラー52aおよび52bの間を通過した原紙20は、乾燥工程fにおいて、さらにローラー55aおよび55bに接触する。ローラー55aおよび55bの温度は、それぞれ100〜200℃に加熱されている。好ましくは加熱温度は約150℃である。
このため、ローラー55aおよび55bに接触する際に、糊材が塗布された原紙が加熱・乾燥され、原紙の一方の面にデンプンを含む糊材層が形成され、セパレータが得られる。そして、ローラー56によりセパレータが巻き取られる。工程(3)〜(5)は上記工程B〜Dと同じである。
【0036】
また、本発明は、上記第2のマンガン乾電池の製造方法において、セパレータにおける糊材層の形成方法として原紙を糊材中に含浸させる方法(含浸方式)を用いた点に特徴を有する。
本発明の第1のマンガン乾電池の製造方法における工程Aでは、上記のように原紙の片面(正極合剤側)のみにPVAを塗布する。このため、PVAの塗布量が例えば5g/cm2未満と少ないと、塗布むらを生じて、正極合剤中に炭素棒を挿入する際にセパレータが若干浮上がる場合がある。これに対して、上記第2のマンガン乾電池の製造方法では、工程(1)において、PVAを含む糊材を原紙に含浸させるため、上記のような塗布むらを生じることなく、PVAを含む糊材を原紙に確実に塗布することができる。このため、PVAの塗布量が少ない場合でも、正極合剤中に炭素棒を挿入する際にセパレータはほとんど浮き上がることがない。このような点から、本発明の第2のマンガン乾電池の製造方法のほうが、本発明の第1のマンガン乾電池の製造方法よりも好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本願発明は以下の実施例に限定されない。
《実施例1および2、ならびに比較例1〜10》
表1に示す仕様のセパレータを用いて上記第1の単3形マンガン乾電池を作製した。
正極合剤1、負極缶4および両者間に介在させたセパレータ3の要部の構造を図2、4、および5に示す。図2は実施例1および2、ならびに比較例3および6の構造を示す。ここに用いたセパレータ3Aは、セパレータの原紙クラフト20、原紙20の負極缶側の表面に塗布したデンプンを主とする糊材層21、および原紙20の正極合剤側の表面に塗布したPVAからなる糊材層22から構成されている。
【0038】
図4は比較例1、4、7および9の構造を示す。セパレータ3Cは、セパレータの原紙クラフト20、および原紙20の負極缶側の表面に塗布したデンプンを主とする糊材層21から構成されている。
図5は比較例2、5、8および10の構造を示す。セパレータ3Dは、セパレータの原紙クラフト20、およびその両面に塗布したデンプンを主とする糊材層21から構成されている。
【0039】
ここで、セパレータの原紙は、いずれも厚さ70μmであり、浸液速度は表1に示すように異なる。
正極合剤には、二酸化マンガンとアセチレンブラックと塩化亜鉛の30重量%水溶液からなる電解液とを、重量比50:10:40の割合で混合したものを用いた。
【0040】
セパレータ3Aにおけるデンプンを含む糊材層21およびPVAを含む糊材層22を、上記図6と同じPVAを含む糊材およびデンプンを含む糊材の塗布工程aおよび乾燥工程bを経て形成した。すなわち、PVAを含む糊材層22を塗布方式により形成した。
また、セパレータ3Cおよび3Dにおけるデンプンを含む糊材層21を、上記図6と同じデンプンを含む糊材の塗布工程aおよび乾燥工程bを経て形成した。
糊材34がPVAを含む糊材の場合、糊材34にはPVA10重量部を水90重量部に溶解したものを用い、糊材34の温度を約50℃とした。
糊材34がデンプンを含む糊材の場合、糊材34には糊材架橋デンプン50重量部と酢酸ビニルを主とする結着剤10重量部とをアルコール系溶媒40重量部に溶かしたものを用い、糊材34の温度を約25℃とした。
乾燥工程bのローラ35aおよび35bの温度を約150℃とした。
糊材層21の塗着量は20g/m2とし、糊材層22の塗着量は5g/m2とした。
【0041】
《実施例3および4》
セパレータ3Aの代わりに、図3に示すセパレータ3Bを用いて上記第2の単3形マンガン乾電池を作製した。
セパレータ3Bは、セパレータの原紙クラフト20と、原紙20の両側に形成されたPVAを含む糊材層22aおよび22bと、原紙20の負極側缶側に形成された糊材層22a表面に形成されたデンプンを含む糊材層21とから構成されている。
【0042】
セパレータ3Bにおけるデンプンを含む糊材層21ならびにPVAを含む糊材層22aおよび22bを、上記図7と同じPVAを含む糊材の含浸工程cおよび乾燥工程d、ならびにデンプンを含む糊材の塗布工程eおよび乾燥工程fを経て形成した。すなわち、PVAを含む糊材層20aおよび20bを含浸方式により形成した。
実施例3および4の原紙20には、それぞれ実施例1および2と同じものを用いた。
糊材44には、PVA10重量部を水90重量部に溶解したものを用い、糊材44の温度を約50℃とした。
糊材54には、架橋デンプン50重量部と酢酸ビニルを主とする結着剤10重量部とをアルコール系溶媒40重量部に溶かしたものを用い、糊材の温度を約25℃とした。
乾燥工程dのローラ45aおよび45b、ならびに乾燥工程fのローラ55aおよび55bの温度を約150℃とした。
糊材層21の塗着量は20g/m2とし、糊材層22aおよび22bの塗着量は5g/m2とした。
【0043】
[評価]
(1)正極合剤への炭素棒の挿入時におけるセパレータの浮き上がり
上記工程Dまたは工程5において、炭素棒を正極合剤へ挿入した際のセパレータの浮き上がりの有無を調べた。このとき、セパレータの上端部が負極缶の開口端部から1mm以上はみだしたものを浮き上がり有りと判断した。炭素棒の挿入前におけるセパレータの上端と負極缶の開口端との距離(図2および3に示すh)は、1.5mmとした。
【0044】
(2)放電性能
放電性能は、以下のようにして求めた、初度(電池作製3日後)および45℃で3カ月保存後の放電持続時間で表した。
各電池を5個ずつ用意し、3.9Ωで連続放電し、終止電圧0.9Vに達するまでの放電持続時間を測定した。そして、5個の電池における放電持続時間の平均値を求めた。
上記の評価はいずれも20℃の雰囲気下で実施した。これらの評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
正極合剤側に糊材層を有しないセパレータを用いた比較例1および4の電池は、セパレータ原紙の浸液速度が低く、気泡がある程度抜けるのに要する時間が確保されるため、セパレータが大きく浮き上がるほどの気泡は残留しなかった。しかし、セパレータ原紙の浸液速度が低く、初度において、セパレータと正極合剤または負極缶との間に電解液が十分確保できていない箇所(依然として気泡が少量残留しているため)があるため、放電性能は実施例1〜4に比べて若干低い。
同じく正極合剤側に糊材層を有しないセパレータを用いた比較例7および9は、原紙の浸液速度が高いため、気泡が抜ける前に、電解液が負極缶側の糊材に吸収された。このため、気泡が残留し、炭素棒挿入時にセパレータが浮き上がった。
【0047】
これらに対して、両面に糊材層を有するセパレータを用いた比較例2、5、8および10の電池は、正極合剤内、および正極合剤とセパレータとの間に気泡が多く残留しないため、実施例1〜4と同様に炭素棒挿入時にセパレータの浮き上がりはなかった。しかし、浸液速度の低い原紙を用いた比較例2および5の電池は、セパレータと、正極合剤または負極缶との間に依然として気泡が少量残留しているため、放電性能は、初度において実施例1〜4に比べて若干低い。
比較例3および6の電池においても、正極合剤側面のPVAからなる糊材の効果により、正極合剤内、および正極合剤とセパレータとの間に気泡が多く残留することがないため、炭素棒挿入時にセパレータの浮き上がりはなかった。しかし、浸液速度の低い原紙を用いているため、放電性能は初度においては実施例1〜4に比べて若干低い。
【0048】
次に、セパレータの浮き上がりおよび初度の放電性能に問題のなかった実施例1〜4、並びに比較例8および10の電池について、保存後の放電性能を比較する。浸液速度の同じ原紙を用いた実施例1および3は比較例8より、また実施例2および4は比較例10よりそれぞれ優れている。正極合剤側の糊材層にデンプンを用いた比較例8および10の電池は、高温保存により、正極合剤側のデンプンが変質して、抵抗体として作用するためか、保存後の放電性能が落ちることとなった。すなわち、正極合剤中の酸化作用を有する二酸化マンガンの影響により、デンプンが加水分解して電解液が離しょうし、抵抗膜のように働くことが考えられる。一方、PVAは、保存中に徐々に電解液中に溶解するので、抵抗体としては作用しない。
【0049】
以上のように、本発明によれば、正極合剤へ炭素棒を挿入する際にセパレータが浮き上がったり、セパレータ内やセパレータと正負極との間に気泡が残留したりするなどの不都合を生じさせず、初度および保存後においても放電性能の優れたマンガン乾電池が得られる。
【0050】
《実施例5〜12》
セパレータ作製時においてPVAの塗着量およびPVA糊材層の形成方法を表2に示すように組み合わせてマンガン乾電池を作製した。このとき、PVA糊材層の形成方法が塗布方式の場合、実施例1と同様の方法を用い、PVA糊材層の形成方法が含浸方式の場合、実施例3と同様の方法を用いた。
【0051】
そして、正極合剤への炭素棒の挿入時(工程Dまたは工程5)におけるセパレータの浮き上がり具合を調べた。なお、炭素棒の挿入前におけるセパレータの上端部から負極缶の開口端部までの距離(図2および3に示すh)は、1.5mmとした。
その結果を実施例1および3の結果とともに表2に示す。表2中の◎は、セパレータの上端部から負極缶の開口端部までの距離hが1.1〜1.5mmであった場合、○はセパレータの上端部から負極缶の開口端部までの距離hが0.6〜1.0mmであった場合、△はセパレータの上端部から負極缶の開口端部までの距離hが0.1〜0.5mmであった場合を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
いずれの場合も正極合剤への炭素棒の挿入時におけるセパレータの浮上がりによる不具合は生じなかった。特に、PVA糊材層を含浸方式で形成した実施例3、6、8、10および12では、PVAの塗着量に関係なく、セパレータの浮上がりはほとんど生じないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように本発明のマンガン乾電池は、高率放電特性に優れているため、ハイレート機器等の電源に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のマンガン乾電池の一部を断面にした正面図である。
【図2】本発明の実施例1および2のマンガン乾電池の要部の断面図である。
【図3】本発明の実施例3および4のマンガン乾電池の要部の断面図である。
【図4】比較例のマンガン乾電池の要部の断面図である。
【図5】他の比較例のマンガン乾電池の要部の断面図である。
【図6】本発明の第1のマンガン乾電池の製造方法におけるセパレータの作製工程の一例を示す図である。
【図7】本発明の第2のマンガン乾電池の製造方法におけるセパレータの作製工程の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 正極合剤
2 炭素棒
3 セパレータ
4 負極缶
5 封口体
6 負極端子
7 シールリング
8 樹脂チューブ
9 鍔紙
10 金属外装缶
11 正極端子板
12 絶縁リング
13 底紙
20 原紙
21、22a 負極缶側の糊材層
22、22b 正極合剤側の糊材層
31、32a、32b、33、35a、35b、41、43a、43b、45a、 45b、52a、52b、53、55a、55b、56 ローラー
34、44、54 糊材
37、47、57 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、
前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の負極缶側の表面に形成されたデンプンを含む糊材層、および前記原紙の正極合剤側の表面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層からなることを特徴とするマンガン乾電池。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールを含む糊材層のポリビニルアルコール量が、0.1〜10g/m2である請求項1記載のマンガン乾電池。
【請求項3】
亜鉛を含む有底円筒形の負極缶、前記負極缶に収納される正極合剤、および前記負極缶と正極合剤との間に配されるセパレータを具備し、
前記セパレータが、浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙、前記原紙の両面に形成されたポリビニルアルコールを含む糊材層、および前記負極缶側のポリビニルアルコールを含む糊材層の表面に形成されたデンプンを含む糊材層からなることを特徴とするマンガン乾電池。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールを含む糊材層のポリビニルアルコール量が、0.1〜10g/m2である請求項3記載のマンガン乾電池。
【請求項5】
浸液速度1000sec/0.05ml以下の原紙をポリビニルアルコールを含む糊材に含浸させた後、乾燥させて前記原紙の両面にポリビニルアルコールを含む糊材層が形成されたシート状中間体を得る工程(1)、
前記中間体の片面にデンプンを含む糊材を塗布した後、乾燥させて、前記中間体の片面にデンプンを含む糊材層が形成されたセパレータを得る工程(2)、
前記セパレータを、前記デンプンを含む糊材層が形成された側が負極缶と対向するように、負極缶の内面に配する工程(3)、
電解液を含む正極合剤を、前記セパレータを介して負極缶内に充填する工程(4)、および
前記負極缶内に充填された前記正極合剤中に炭素棒を挿入する工程(5)を含むマンガン乾電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−73501(P2007−73501A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215836(P2006−215836)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】