説明

ミトコンドリア機能を調節する物質を同定する方法

本発明は、apoEの毒性型をコードする核酸を含む単離された細胞を提供する。本発明はさらに、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる化合物を同定するためのスクリーニング法を提供する。本発明はさらに、本発明のスクリーニング法を実行するために用いられるキットを提供する。本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質と、apoE関連障害の処置におけるそのような物質の使用とを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、その出願の全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2005年12月7日に提出された米国特許仮出願第60/748,661号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトアポリポタンパク質(apo)Eは、アミノ酸299個の34kDaタンパク質であり、3つの主なイソ型、apoE2、apoE3、およびapoE4を有する(1-4)。apoE4は、アルツハイマー病(AD)の主要な危険因子である(5-7)。散発性および家族性ADの症例の40〜65%において見いだされるapoE4対立遺伝子は、疾患の発生を増加させて、発症年齢を低下させる(7,8)。
【0003】
生化学、細胞生物学、トランスジェニック動物、およびヒト試験により、ADの発病に対するapoE4の関与を説明するいくつかの可能性があるメカニズムが示唆された。これらには、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの沈着およびクリアランスの調節、ならびにプラークの形成(9-15)、Aβによって引き起こされるシナプスおよびコリン作動神経欠損の調節(16)、加齢および興奮毒性関連神経変性の加速(17)、抗酸化防御システムおよびミトコンドリア機能の障害(18-21)、ニューロンシグナル伝達経路の調節障害(22)、タウのリン酸化の変化および神経原線維もつれ形成(23-28)、脳におけるサイトゾルアンドロゲン受容体レベルの枯渇(29,30)、Aβ誘導ライソゾーム漏出およびニューロン細胞におけるアポトーシスの増強(31)、ならびにAβ過剰産生に連鎖したエンドソーム異常の促進(32-34)が含まれる。これらのapoE4媒介有害効果のメカニズムはほとんどわかっていない。
【0004】
apoEは、apoEの生物活性カルボキシル末端切断型を生成するニューロン特異的キモトリプシン様セリンプロテアーゼによって切断されうることが示されている(25、27、28)。断片は、年齢および性別をマッチさせた対照よりAD患者の脳においてより高レベルで見いだされ(27)、apoE4は、apoE3より切断に対する感受性が高い。培養ニューロン細胞において発現される場合、または培養において外因性に加えられる場合、apoE4断片は、神経毒であり、細胞死に至る(25)。トランスジェニックマウスにおいて発現される場合、それらはAD様の神経変性および行動学上の欠損を引き起こす(27)。
【0005】
アルツハイマー病は、現在のところ治療法がない潜行性で進行性の神経障害である。アルツハイマー病に関する適当な処置がないために、この神経障害に関する新規処置法が必要である。本発明は、apoE4に関する障害を処置するために用いられる物質を同定する方法を提供する。
【0006】
文献
Huang et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:8838-8843;米国特許第6,046,381号。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、apoEの毒性型をコードする核酸を含む単離された細胞を提供する。本発明はさらに、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる化合物を同定するためのスクリーニング法を提供する。本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質、およびapoE関連障害の処置におけるそのような物質の使用を提供する。
【0008】
定義
本明細書において用いられるように、「apoE4関連障害」は、個体における細胞、血清、間質液、脳脊髄液、または任意の他の体液におけるapoE4の存在によって引き起こされる任意の障害;神経毒性apoE4ポリペプチドによって影響を受ける任意の生理的プロセスまたは代謝事象;apoE4の存在を特徴とする任意の障害;細胞または体液におけるapoE4の存在によって引き起こされる障害の症状;細胞または体液におけるapoE4の存在によって引き起こされる障害に関連する現象;およびapoE4の存在によって引き起こされる任意の障害の続発症である。apoE4関連障害には、apoE4関連神経障害および高い血清脂質レベルに関連する障害が含まれる。apoE4関連神経障害には、散発性アルツハイマー病;家族性アルツハイマー病;卒中後の転帰不良;外傷性頭部損傷後の転帰不良;および脳虚血が含まれるがこれらに限定されるわけではない。apoE4関連神経障害に関連する現象には、神経細線維もつれ、アミロイド沈着;記憶低下;および認知機能の低減が含まれるがこれらに限定されるわけではない。高い血清脂質レベルに関連するapoE4関連障害には、アテローム性動脈硬化症、および冠動脈疾患が含まれるがこれらに限定されるわけではない。そのようなapoE4関連障害に関連する現象には、高い血清コレステロールレベルが含まれる。
【0009】
本明細書において用いられるように、「処置」、「処置する」等の用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患もしくはその症状の完全もしくは部分的な防止に関して予防的であってもよく、および/または疾患および/または疾患に帰因しうる有害な効果の部分的または完全な治癒に関して治療的であってもよい。本明細書において用いられるように、「処置」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を扱い、これには(a)疾患に対する素因を有する可能性があるが、まだ疾患を有すると診断されていない被験者において疾患が発生することを防止する段階;(b)疾患を阻害する、すなわちその発達を停止させる段階;および(c)疾患を軽減する、すなわち疾患の退縮を引き起こす段階が含まれる。
【0010】
本明細書において互換的に用いられる「個体」、「被験者」、および「患者」という用語は、ネズミ、サル、ヒト、農場哺乳動物、スポーツ哺乳動物、および哺乳動物ペットが含まれるがこれらに限定されるわけではない哺乳動物を指す。
【0011】
本発明を詳しく記述する前に、記述の特定の態様は当然変化する可能性があることから、本発明はそれらに限定されないと理解すべきである。同様に、本明細書において記述される用語は、特定の態様のみを記述する目的のためであって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に限って限定されるであろうことから、制限的に解釈してはならないと理解すべきである。
【0012】
値の範囲が提供されている場合、本文が特にそうでないことを述べている場合を除き、その範囲の上限と下限のあいだの、下限の値の単位の10分の1までのそれぞれの介在する値、およびその記載の範囲における任意の他の記載または介在する値は、本発明に含まれると理解すべきである。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立してより小さい範囲に含まれてもよく、同様に、記載の範囲における任意の具体的に除外された限界を条件として本発明に含まれる。記載の範囲に1つまたは双方の限界が含まれる場合、それらの含まれる限界のいずれかまたは双方を除外する範囲も同様に本発明に含まれる。
【0013】
特に定義されていなければ、本明細書において用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を以下に記述する。本明細書において言及した刊行物は全て、刊行物が引用される内容と結びつけて方法および/または材料を開示および記述するために参照により本明細書に組み入れられる。
【0014】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの」、「および」、および「その」には、本文が明らかにそうでないことを指示している場合を除き、複数形の指示が含まれる。このように、たとえば、「毒性のapoEポリペプチド」という言及には、そのようなポリペプチドの複数が含まれ、「指標物質」という言及には、当業者に公知の1つまたは複数の指標物質およびその同等物に対する言及が含まれる等である。さらに、特許請求の範囲は、いかなる選択的な要素も除外するように草案される可能性があることに注意されたい。そのため、この声明は、特許請求の範囲の要素の引用と結びつけて「唯一」、「のみ」等のような排他的用語を用いるための、または「負の」制限を用いるための先行基礎として役立つと意図される。
【0015】
本明細書において考察される刊行物は、本出願の提出日以前にその開示が単になされたために提供される。本明細書のいかなる開示も、先行発明に基づいて、本開示がなされた日付を早める権利が本発明者にはないと自認したと解釈されるべきではない。さらに、提供された出版日は、実際の出版日と異なる可能性があり、それらは個々に確認される必要があるかもしれない。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、apoEの毒性型をコードする核酸を含む単離細胞を提供する。本発明はさらに、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる化合物を同定するためのスクリーニング法を提供する。本発明はさらに、本発明のスクリーニング法を行う際に用いられるキットを提供する。本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質、およびapoE関連障害の処置におけるそのような物質の使用を提供する。
【0017】
単離細胞
本発明は、apoEの毒性(たとえば、神経毒性)型をコードする核酸を含む単離細胞を提供する。細胞は典型的に、毒性のapoEポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および毒性のapoEポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結した調節要素を含む核酸を含む。細胞は、毒性のapoEポリペプチドを産生して、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質を同定するためのスクリーニング法において有用である。
【0018】
毒性のapoEポリペプチドによるミトコンドリアの完全性および/または機能障害には、以下の1つまたは複数が含まれる:1)一次ニューロンの樹状突起におけるミトコンドリア数の低減;2)一次ニューロンの樹状突起におけるミトコンドリアの大きさの低減;3)ミトコンドリアの膜電位の低減;4)ミトコンドリア運動性の低減;5)ミトコンドリアの前方移動速度の低減;および6)ミトコンドリアの大きさの低減。
【0019】
apoEポリペプチドのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、当技術分野において公知である。ヒトapoE4は、図6およびSEQ ID NO: 1において記載されるアミノ酸配列を有する。たとえば、Rall et al. (1982) J. Biol. Chem. 257:4171-4178;およびWeisgraber et al. ((1994) Adv. Protein Chem. 45:240-302を参照されたい。他の種からのapoEポリペプチドの配列は、図7Aおよび7Bにおいて描写される。これらの配列も同様に、Weisgraber et al.((1994)前記)において提供される。いくつかの態様において、apoEポリペプチドは、完全長のapoE4ポリペプチドである。いくつかの態様において、apoEポリペプチドは、apoE4ポリペプチドの毒性断片である。
【0020】
図7Aおよび7Bは、10種からのアポリポタンパク質Eのアミノ酸配列の比較を描写する。配列はヒトapoE4に対して整列されている。Hu、ヒト(Rall et al. (1982) J. Biol. Chem. 257:4171-4178; SEQ ID NO:1);Ba、ヒヒ(Hixson et al. (1988) Genomics 2:315-323; SEQ ID NO:2);CynM、カニクイザル(Marotti et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17:1778; SEQ ID NO:3);Rt、ラット(McLean et al. (1983) J. Biol. Chem. 258:8993-9000; SEQ ID NO:4);Mo、マウス(Rajavashisth et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:8085- 8089; SEQ ID NO:5);GP、モルモット(Matsushima et al. (1990) Nucl. Acids Res. 18:202; SEQ ID NO:6);Rb、ウサギ(Lee et al. (1991) J. Lipid Res. 32:165-171; SEQ ID NO:7);Cow、ウシ(Chan and Li (1991) Curr. Opin. Lipidol. 2:96-103; SEQ ID NO:8);Dog、イヌ(Luo et al. (1989) J. Lipid Res. 30:1735-1746;およびWeisgraber et al. (1980) Biochem. Biophys. Res. Commun. 95:374-380; SEQ ID NO:9);SeaL、アシカ(Davis et al. (1991) J. Lipid Res. 32:1013-1023; SEQ ID NO: 10)。空欄はヒト配列との同一性を示す;ダッシュ(-)はヒト配列との相同性を最大限にするために挿入された欠失を示す。一文字アミノ酸名称を用いる。A、アラニン;C、システイン;D、アスパラギン酸;E、グルタミン酸;F、フェニルアラニン;G、グリシン;H、ヒスチジン;I、イソロイシン;K、リジン;L、ロイシン;M、メチオニン;N、アスパラギン;P、プロリン;Q、グルタミン;S、セリン;V、バリン;W、トリプトファン;Y、チロシン。*、イヌの配列はアミノ末端伸長部:DVQPEPELERELEP(SEQ ID NO:11)を含む;†、アシカの配列はアミノ末端伸長部:DVEPESPLEENLEPEL+EPKR(それぞれSEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:13)を含む。
【0021】
マウスapoE遺伝子の配列は、Genbankアクセッション番号D00466において見いだされる。様々な霊長類apoE遺伝子配列は、GenBankアクセッション番号AF200508、AF200507、AF200506、およびAH009953(Hylobates lar、またはテナガザル);AH009952、AF200503、AF200504、およびAF200505(Pongo pygmaeus、またはオランウータン);AH009951、AF200500、AG200501、およびAF200502(Gorilla gorilla);AH009950、AF200497、AF200498、AF200499(Pan troglodytes、またはチンパンジー)において見いだされる。
【0022】
適した発現ベクターには、バキュロウイルスベクター、バクテリオファージベクター、プラスミド、ファージミド、コスミド、フォスミド、細菌人工染色体、ウイルスベクター(たとえば、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV40、単純ヘルペスウイルス等に基づくウイルスベクター)、P1に基づく人工染色体、酵母プラスミド、酵母人工染色体、および関心対象の特異的宿主に対して特異的な任意の他のベクターが含まれるがこれらに限定されるわけではない。様々な適した発現ベクターが当業者に公知であり、多くは市販されている。以下のベクターを一例として提供する;真核宿主細胞に関して:pXT1、pcDNA3.1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLSV40(Pharmacia)。しかし、宿主細胞と適合性である限り、任意の他のプラスミドまたは他のベクターを用いてもよい。
【0023】
利用する宿主/ベクター系に応じて、構成的および誘導型プロモーター、転写エンハンサー要素、転写ターミネーター等を含む多くの任意の適した転写および翻訳制御要素を発現ベクターにおいて用いてもよい(たとえば、Bitter et al. (1987) Methods in Enzymology, 153:516-544を参照されたい)。いくつかの態様において、調節要素には、それによって機能的に連結したapoEポリペプチドコード核酸のニューロン細胞特異的発現が起こる調節要素が含まれる。ニューロン細胞特異的調節要素(プロモーター、エンハンサー等を含む)は当業者に公知である。ニューロン細胞特異的調節要素の例には、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)遺伝子(Hannas-Djebarra et al. (1997) Brain Res. Mol. Brain Res. 46:91-99)、およびたとえばEMBL HSENO2、X51956を参照されたい;PDGF遺伝子;Th1遺伝子(たとえば、マウスThy1.2(Caroni et al. (1997) J. Neurosci. Methods 71:3-9);ニューロフィラメント遺伝子(たとえば、NF-L、NF-M、およびNF-L);グリアフィラメント酸性タンパク質(GFAP)遺伝子;ミエリン塩基性タンパク質遺伝子;微小管関連タンパク質遺伝子;シナプトフィシン遺伝子;チロシンヒドロキシラーゼ遺伝子等からの要素が含まれる。このように、たとえば適したニューロン細胞特異的調節領域には、たとえばNSEプロモーター;PDGFプロモーター;芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター;ニューロフィラメントプロモーター(たとえば、GenBank HUMNFL, L04147を参照されたい);シナプシンプロモーター(たとえば、GenBank HUMSYNIB, M55301を参照されたい);thy-1プロモーター(たとえば、Chen et al. (1987) Cell 51:7-19を参照されたい);セロトニン受容体プロモーター(たとえば、GenBank S62283を参照されたい);チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(たとえば、Nucl. Acids. Res. 15:2363-2384 (1987)およびNeuron 6:583-594 (1991)を参照されたい);GnRHプロモーター(たとえば、Radovick et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:3402-3406 (1991)を参照されたい);L7プロモーター(たとえば、Oberdick et al., Science 248:223-226 (1990)を参照されたい);DNMTプロモーター(たとえば、Bartge et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3648-3652 (1988)を参照されたい);エンケファリンプロモーター(たとえば、Comb et al., EMBO J. 17:3793-3805 (1988)を参照されたい);ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター;GFAPプロモーター;およびCMVエンハンサー/血小板由来増殖因子-βプロモーター(たとえば、Liu et al. (2004) Gene Therapy 11 :52-60を参照されたい)が含まれる。
【0024】
いくつかの態様において、毒性のapoEポリペプチドコードヌクレオチド配列は誘導型プロモーターに機能的に連結する。適した誘導型プロモーターには、バクテリオファージλのpL;Plac;Ptrp;Ptac(Ptrp-lacハイブリッドプロモーター);イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導型プロモーター、たとえばlacZプロモーター;テトラサイクリン誘導型プロモーター;アラビノース誘導型プロモーター、たとえばPBAD(たとえば、Guzman et al. (1995) J. Bacteriol. 177:4121-4130を参照されたい);キシロース誘導型プロモーター、たとえばPxyl(たとえば、Kim et al. (1996) Gene 181 :71-76を参照されたい);GAL1プロモーター;トリプトファンプロモーター;lacプロモーター;アルコール誘導型プロモーター、たとえばメタノール誘導型プロモーター、エタノール誘導型プロモーター;ラフィノース誘導型プロモーター;熱誘導型プロモーター、たとえば熱誘導型λPLプロモーター;熱感受性リプレッサーによって制御されるプロモーター(たとえば、CI857抑制λに基づく発現ベクター;たとえばHoffmann et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 177(2):327-34を参照されたい)等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0025】
さらに、発現ベクターは、多くの態様において、真核細胞培養のための、ジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン抵抗性のような形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質を提供するために1つまたは複数の選択マーカー遺伝子を含むであろう。
【0026】
apoEコードヌクレオチド配列は、典型的にapoEポリペプチドコードヌクレオチド配列の発現と、真核細胞におけるapoEポリペプチドの産生とを提供する発現ベクターに含まれる。広く多様な配列が当技術分野において公知であり、本明細書において特に詳しく述べる必要はない。ベクターには、プラスミド;コスミド;ウイルスベクター;人工染色体(YAC、BAC等);ミニ染色体等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。ベクターは、たとえば、Short Protocols in Molecular Biology, (1999) F. Ausubel, et al., eds., Wiley & Sonsを含む、当業者に周知の多数の刊行物において十分に記述されている。ベクターは、本発明の核酸の発現を提供してもよく、本発明の発現ベクターの繁殖を提供してもよく、またはその双方であってもよい。
【0027】
遺伝子改変宿主細胞を生成するために、毒性のapoEポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む構築物を、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、酢酸リチウムの存在下での熱ショック等が含まれるがこれらに限定されるわけではない確立された技術を用いて、宿主細胞に安定または一過性に導入する。安定な形質転換のために、核酸にはさらに、選択マーカー、たとえばネオマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性、カナマイシン耐性等のようないくつかの周知の任意の選択マーカーが含まれてもよい。
【0028】
毒性のapoEポリペプチド
本明細書において用いられるように、「毒性のapoEポリペプチド」という用語には、神経毒性であるおよび/またはミトコンドリア完全性の障害を誘導するおよび/またはミトコンドリア機能の障害を誘導する完全長のapoEポリペプチドと共にapoEポリペプチドの断片が含まれる。いくつかの態様において、毒性のapoEポリペプチドは、毒性のapoE4ポリペプチド、またはapoE4ポリペプチドの毒性断片である。
【0029】
毒性のapoEポリペプチドには、典型的に少なくとも:1)apoEポリペプチドの脂質結合領域、たとえばSEQ ID NO: 1またはその変種のアミノ酸241〜約272位;および2)apoEポリペプチドの受容体結合領域、たとえばSEQ ID NO: 1またはその変種のアミノ酸135〜約150位が含まれ、ならびに機能的な神経保護性のカルボキシル末端部分、たとえばSEQ ID NO: 1またはその変種のアミノ酸273〜299位を欠損する。脂質結合部分は、SEQ ID NO: 1のI250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む。I250、F257、W264、およびV269は、様々なapoEポリペプチドの脂質結合領域において高度に保存されている。受容体結合部分は、SEQ ID NO: 1のR142、K146、およびR147に対応するアミノ酸を少なくとも含む。R142、K146、およびR147は、様々なapoEポリペプチドの受容体結合領域において高度に保存されている。先に述べたように、いくつかの態様において、適した毒性のapoEポリペプチドは、典型的にapoEポリペプチドのアミノ酸273〜299位を欠損し、たとえばSEQ ID NO: 1において記載されるアミノ酸配列のアミノ酸273〜299位を欠損する。
【0030】
たとえば、いくつかの態様において、適した毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸1〜272位に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のI250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む脂質結合領域を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のR142、K146、およびR147に対応するアミノ酸を少なくとも含む受容体結合領域を含み、ならびに毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端部分を欠損する。
【0031】
適した毒性のapoEポリペプチドには、たとえばSEQ ID NO: 1のapoEポリペプチド、またはその変種のアミノ酸1〜272位;アミノ酸10〜272位;アミノ酸15〜272位;アミノ酸25〜272位;アミノ酸50〜272位;アミノ酸75〜272位;アミノ酸100〜272位;アミノ酸125〜272位;またはアミノ酸135〜272位を含むポリペプチドが含まれるがこれらに限定されるわけではない。たとえば、適した毒性のapoEポリペプチドには、SEQ ID NO: 1の対応する部分(たとえば、SEQ ID NO: 1のアミノ酸1〜272位;アミノ酸10〜272位;アミノ酸15〜272位;アミノ酸25〜272位;アミノ酸50〜272位;アミノ酸75〜272位;アミノ酸100〜272位;アミノ酸125〜272位;またはアミノ酸135〜272位)に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むapoEポリペプチドの、アミノ酸1〜272位;アミノ酸10〜272位;アミノ酸15〜272位;アミノ酸25〜272位;アミノ酸50〜272位;アミノ酸75〜272位;アミノ酸100〜272位;アミノ酸125〜272位;またはアミノ酸135〜272位を含むポリペプチドが含まれるがこれらに限定されるわけではなく、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のI250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む脂質結合領域を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のR142、K146、およびR147に対応するアミノ酸を少なくとも含む受容体結合領域を含み、ならびに毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端部分を欠損する。
【0032】
他の態様において、適した毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸1〜299位に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のI250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む脂質結合領域を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のR142、K146、およびR147に対応するアミノ酸を少なくとも含む受容体結合領域を含み、ならびに毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端部分を含み、カルボキシル末端部分は神経保護活性を欠損し、たとえばL279、K282、およびQ284に対応する少なくともアミノ酸残基は、カルボキシル末端部分が神経保護的ではないように変異されている。
【0033】
たとえば、いくつかの態様において、適した毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸1〜299位に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のI250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む脂質結合領域を含み、毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のR142、K146、およびR147に対応するアミノ酸を少なくとも含む受容体結合領域を含み、ならびに毒性のapoEポリペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端部分を含み、カルボキシル末端部分は、少なくともL279Q、K272A、およびQ284A変異を含む。
【0034】
毒性のapoEポリペプチドにはまた、毒性のapoEポリペプチドタンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端にインフレームで融合した毒性のapoEポリペプチドと異種タンパク質(「融合パートナー」)とが含まれる融合タンパク質が含まれる。適した融合パートナーには、精製を容易にするペプチドおよびポリペプチド、たとえば(His)n、たとえば6His;エピトープタグ、たとえばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、血液凝集素(HA、たとえばCYPYDVPDYA;SEQ ID NO: 15)、FLAG(たとえば、DYKDDDDK;SEQ ID NO: 16)、c-myc(たとえば、CEQKLISEEDL;SEQ ID NO: 17)等を提供するペプチドおよびポリペプチド;検出シグナル、たとえば検出可能な産物を生成する酵素(たとえば、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)またはそれ自身検出可能であるタンパク質、たとえば蛍光タンパク質(たとえば、緑色蛍光タンパク質)、花虫綱の種の蛍光タンパク質(たとえば、Matz et al. (1999) Nat. Biotechnol. 17:969-973を参照されたい)等を提供するペプチドおよびポリペプチドが含まれる。
【0035】
いくつかの態様において、宿主細胞は、1)先に記述された毒性のapoEポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、および2)ミトコンドリア指標ポリペプチド、たとえばミトコンドリア指標ポリペプチドのミトコンドリア局在を提供するアミノ酸配列を含む、検出シグナルを生成するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、によって遺伝子改変される。検出シグナルを生成する適したポリペプチドには、蛍光タンパク質、たとえば天然に存在するヌクレオチド配列のコドンがより厳密にマッチするヒトコドンバイアスに変化しているGFPの「ヒト化」型;アエコリア・ビクトリア(Aequoria victoria)に由来するGFPまたはその誘導体、たとえばClontech, Inc.から市販されている強化GFPのような「ヒト化」誘導体;たとえばWO 99/49019およびPeelle et al. (2001) J. Protein Chem. 20:507-519において記述されるようなレニラ・レニフォルミス(Renilla reniformis)、レニラ・ムレリ(Renilla mulleri)、またはプチロサルクス・グエルニイ(Ptilosarcus guernyi)のようなもう1つの種からのGFP;「ヒト化組み換え型GFP(hrGFP)(Stratagene)が含まれるがこれらに限定されるわけではない緑色蛍光タンパク質(GFP);米国特許第6,969,597号において記述される蛍光タンパク質;たとえばMatz et al. (1999) Nature Biotechnol. 17:969-973において記述されるような花虫綱の種からの多様な任意の蛍光および着色タンパク質;等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。適した蛍光タンパク質には、たとえばDsRedが含まれる。たとえば、Geoffrey S. Baird et al. "Biochemistry, mutagenesis, and oligomerization of DsRed, a red fluorescent protein from coral" PNAS, Oct. 24, 2000, vol. 97, No. 22 pp. 11984-11989を参照されたい。DsRedポリペプチドおよび変種はまた、米国特許出願第2005/0244921号および米国特許第6,969,597号において記述されている。DsRed2をコードする例示的な非制限的なヌクレオチド配列を図11に提供する。
【0036】
ミトコンドリア局在シグナルには、ヒトサイトメガロウイルスタンパク質pUL37sのミトコンドリア局在シグナル(米国特許第6,902,885号を参照されたい);yUnglpのミトコンドリア局在シグナル(Chatterjee and Singh (2001) Nucl. Acids Res. 29:4935-4940を参照されたい);仮性狂犬病ウイルスセリン/トレオニンキナーゼUs3ミトコンドリア局在シグナル(Calton et al. (2004) Virus Genes 29:131を参照されたい);および配列:

のペプチド(SEQ ID NO:25;たとえばGenBankアクセッション番号NP_003353;ホモサピエンスウラシルDNAグリコシラーゼ前駆体を参照されたい)が含まれる。他のミトコンドリア局在シグナルが当技術分野において公知であり、本発明において用いることができる。
【0037】
宿主細胞
適した宿主細胞には、霊長類細胞および不死化細胞株が含まれる哺乳動物細胞が含まれる。適した哺乳動物細胞株には、ヒト細胞株、非ヒト霊長類細胞株、齧歯類(たとえば、マウス、ラット)細胞株等が含まれる。適した哺乳動物細胞株には、HeLa細胞(たとえば、American Type Culture Collection (ATCC) No. CCL-2)、CHO細胞(たとえば、ATCC Nos. CRL9618、CCL61、CRL9096)、293細胞(たとえば、ATCC No. CRL-1573)、Vero 細胞、NIH 3T3細胞(たとえば、ATCC No. CRL-1658)、Huh-7細胞、BHK細胞(たとえば、ATCC No. CCL10)、PC12細胞(ATCC No. CRL1721)、COS 細胞、COS-7細胞(ATCC No. CRL1651)、RAT1細胞、マウスL細胞(ATCC No. CCLI.3)、ヒト胎児腎(HEK)細胞(ATCC No. CRL1573)、HLHepG2細胞等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0038】
いくつかの態様において、特に重要であるのは、apoEを通常産生する哺乳動物細胞、およびapoEをその環境に通常取り込む細胞である。そのような細胞の例には、ニューロン細胞、小グリア細胞、および星状細胞が含まれる。不死化ニューロン細胞、小グリア細胞、および星状細胞も同様に重要である。適した不死化細胞には、neuro2A細胞;B103;PC12;NT2等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。PC12細胞は、American Type Culture Collection(ATCC)からATCC寄託番号CRL-1721として入手可能である。Neuro-2a細胞はATCCからATCC寄託番号CCL-131として入手可能である。
【0039】
いくつかの態様において、細胞はニューロン細胞またはニューロン様細胞である。細胞はヒト、非ヒト霊長類、マウス、もしくはラット起源となりえて、またはヒト、非ヒト霊長類、ラット、もしくはマウス以外の哺乳動物に由来しうる。適した細胞株には、ヒトグリア細胞株、たとえばSVGp12(ATCC CRL-8621)、CCF-STTG1(ATCC CRL-1718)、SW 1088(ATCC HTB-12)、SW 1783(ATCC HTB-13)、LLN-18(ATCC CRL-2610)、LNZTA3WT4(ATCC CRL-11543)、LNZTA3WT11(ATCC CRL-11544)、U-138 MG(ATCC HTB-16)、U-87 MG(ATCC HTB-14)、H4(ATCC HTB-148)、およびLN-229(ATCC CRL-2611);ヒト髄芽細胞腫由来細胞株、たとえばD342 Med(ATCC HTB-187)、Daoy(ATCC HTB-186)、D283 Med(ATCC HTB-185);ヒト腫瘍由来ニューロン様細胞、たとえばPFSK-1(ATCC CRL-2060)、SK-N-DZ(ATCCCRL-2149)、SK-N-AS(ATCC CRL-2137)、SK-N-FI(ATCC CRL-2142)、IMR-32(ATCC CCL-127)等;マウスニューロン細胞株、たとえばBC3H1(ATCC CRL-1443)、EOC1(ATCC CRL-2467)、C8-D30(ATCC CRL-2534)、C8-S(ATCC CRL-2535)、Neuro-2a(ATCC CCL-131)、NB41A3(ATCC CCL-147)、SW10(ATCC CRL-2766)、NG108-15(ATCC HB-12317);ラットニューロン細胞株、たとえばPC-12(ATCC CRL-1721)、CTX TNA2(ATCC CRL-2006)、C6(ATCC CCL-107)、F98(ATCC CRL-2397)、RG2(ATCC CRL-2433)、B35(ATCC CRL-2754)、R3(ATCC CRL-2764)、SCP(ATCC CRL-1700)、OA1(ATCC CRL-6538)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0040】
スクリーニング法
ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質を同定するためのスクリーニング法を提供する。そのように同定された物質は、apoE関連障害を処置するための候補物質である。
【0041】
いくつかの態様において、アッセイはミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる化合物を同定するためのインビトロ細胞に基づくスクリーニング法である。いくつかの態様において、本発明のスクリーニングアッセイは、毒性のapoEポリペプチドまたはその毒性断片を産生する真核細胞を試験物質に接触させる段階;およびもしあれば、ミトコンドリアの完全性および/または機能に及ぼす試験物質の効果を決定する段階を含む。いくつかの態様において、本発明のスクリーニングアッセイは、そのサイトゾルに毒性のapoEポリペプチドまたはその毒性断片を含む真核細胞を試験物質に接触させる段階、およびもしあれば、ミトコンドリアの完全性および/または機能に及ぼす試験物質の効果を決定する段階を含む。試験物質の非存在下でのミトコンドリアの完全性および/または機能と比較して、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害が低減すれば、試験物質がミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させることを示している。重要な試験物質は、試験物質の非存在下でのミトコンドリア機能apoE誘発障害のレベルと比較して、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれより多く低減させる物質である。
【0042】
「候補物質」、「試験物質」、「作用物質」、「物質」、および「化合物」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。候補物質は、多数の化学的クラスを含み、典型的に合成、半合成、または天然に存在する無機もしくは有機分子を含む。候補物質には、合成または天然の化合物の大きいライブラリにおいて見いだされる物質が含まれる。たとえば、合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall, UK)、ComGenex(South San Francisco, CA)、およびMicroSource(New Milford, CT)から市販されている。まれな化学ライブラリは、Aldrich(Milwaukee, Wis.)から入手可能である。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形での天然化合物のライブラリはPan Labs(Bothell, WA)から入手可能であるか、または容易に産生可能である。
【0043】
候補物質は、50より大きく約10,000ダルトン未満の、たとえば約50ダルトン〜約100ダルトン、約100ダルトン〜約500ダルトン、約500ダルトン〜約1000ダルトン、約1000ダルトン〜約5000ダルトン、または約5000ダルトン〜約10,000ダルトンの分子量を有する低分子の有機または無機化合物であってもよい。候補物質は、タンパク質との構造相互作用、特に水素結合にとって必要な官能基を含んでもよく、少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基が含まれてもよく、官能化学基少なくとも2つを含んでもよい。候補物質は、環状炭素または複素環構造および/または上記の官能基の1つまたは複数によって置換された芳香族または多環式芳香族構造を含んでもよい。候補物質はまた、ペプチド、糖質、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、またはその組み合わせが含まれる生体分子において見いだされる。
【0044】
本発明のアッセイには対照が含まれ、適した対照には、試験物質の非存在下での試料(たとえば、試験細胞を含む試料)が含まれる。一般的に、様々な濃度に対する異なる反応を得るために、複数のアッセイ混合物を異なる物質濃度によって同時に行う。典型的に、これらの濃度の1つは、陰性対照、すなわちゼロ濃度または検出レベル未満として役立つ。
【0045】
スクリーニングは、公知の薬理学的に活性な化合物およびその化学類似体、または合理的ドラッグデザインを通して作製された物質のような未知の特性を有する新規物質に向けられてもよい。有効な候補物質は、表現型によって、すなわちapoE関連障害に関する適した動物モデルにおける特定の認知行動の停止または逆転によって同定されうる。
【0046】
本発明のアッセイ法において効果を有する物質を、周知のアッセイを用いて、細胞障害性、生物学的利用率等に関してさらに試験してもよい。本発明のアッセイ法において効果を有する物質を、構造類似体を産生するために、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような定方向または無作為および/または定方向化学改変に供してもよい。そのような構造類似体には、生物学的利用率を増加させる、および/または細胞障害性を低減させる類似体が含まれる。当業者は広く多様な構造類似体を容易に想像して生成することができ、それらを生物学的利用率の増加および/または細胞障害性の低減、および/または血液-脳関門の通過能のような所望の特性に関して試験することができる。
【0047】
多様な他の試薬をスクリーニングアッセイに含めてもよい。これらには、最適なタンパク質-タンパク質結合を促進する、および/または非特異的もしくはバックグラウンド相互作用を低減させるために用いられる塩、中性タンパク質、たとえばアルブミン、洗浄剤等のような試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤等のような、アッセイの効率を改善する試薬を用いてもよい。必要な結合を提供する成分の混合物を任意の順序で加える。任意の適した温度、典型的に4〜40℃でインキュベーションを行う。インキュベーション期間は、最適な活性に関して選択されるが、迅速なハイスループットスクリーニングを促進するように最適化されてもよい。典型的に0.1〜1時間で十分であろう。
【0048】
候補物質は、トリパンブルー色素排除、MTT([3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド])アッセイ等のような周知のアッセイを用いて、アッセイにおいて用いられる細胞に対して示す可能性がある任意の細胞障害活性に関して査定される。有意な細胞障害活性を示さない物質は候補物質であると見なされる。
【0049】
スクリーニング法において用いられる細胞は、多くの態様において、毒性のapoEポリペプチドを産生する細胞である。他の態様において、毒性のapoEポリペプチドは、外因性に提供され、たとえば細胞は適した培地に存在し、毒性のapoEポリペプチドは培地に加えられ、細胞は培地から毒性のapoEポリペプチドを取り込む。多くの態様において、細胞はニューロン細胞であり、多くの態様において細胞はニューロン細胞株である。ニューロン細胞株は、当技術分野において周知であり、neuro-2A細胞;B103;PC12;NT2等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。適したニューロン細胞株は先に記載されている。いくつかの態様において、細胞は本発明の宿主細胞である。
【0050】
いくつかの態様において、先に記述された毒性のapoEをコードするヌクレオチド配列が含まれる核酸を、毒性のapoEコード核酸が細胞において一過性または安定に発現されるように、細胞に導入される。
【0051】
他の態様において、完全長のapoEをコードするヌクレオチド配列が含まれる核酸を細胞に導入して、産生される完全長のapoEポリペプチドは、細胞においてタンパク質溶解切断を受けて、サイトゾルにおいて毒性のapoEポリペプチドを生じる。
【0052】
他の態様において、細胞を、毒性のapoEポリペプチド(「外因性の毒性のapoEポリペプチド」)に接触させる。細胞は外因性の毒性のapoEポリペプチドを培地から取り込む。外因性の毒性apoEポリペプチドの取り込みを促進するために、毒性のapoEポリペプチドを、真核細胞における取り込みを促進する化合物と混合することができる。そのような化合物には、超低密度リポタンパク質(VLDL)、たとえばβ-VLDL;リン脂質/apoE複合体;陽イオン脂質;ポリエチレングリコール;ポリ乳酸-グリコール酸コポリマー;デキストラン等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0053】
多くの態様において、決定する段階は、ミトコンドリア機能および/または完全性の指標である指標物質に細胞を接触させる段階を含む。指標物質には、多くの態様において、蛍光色素が含まれる。適した指標物質には、ジヒドロローダミン123;MitoTracker(登録商標)ミトコンドリア機能指標Orange CM-H2 TMRos;MitoTracker(登録商標)ミトコンドリア機能指標CMTMRos;MitoTracker(登録商標)ミトコンドリア機能指標Red CM-H2XRos;MitoTracker(登録商標)ミトコンドリア機能指標Red CMXRos;ローダミン123;5,5',6,6'-テトラクロロ-1,1',3,3'-テトラエチルベンズイミダゾリルカルボシアニンヨウ化物;テトラメチルローダミン、エチルエステル、過塩素酸塩;およびテトラメチルローダミン、メチルエステル、過塩素酸塩が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0054】
もしあれば、ミトコンドリアの完全性および/または機能に及ぼす試験物質の効果は、いくつかの態様において、実施例1において記述されるように指標物質における変化を検出することによって決定される。
【0055】
リアルタイム撮像造影
いくつかの態様において、本発明のスクリーニングアッセイは、先に記述したようにサイトゾルにおいて毒性のapoEポリペプチドが含まれ、検出シグナルを提供するミトコンドリア指標タンパク質がミトコンドリアに含まれる細胞を接触させる段階を伴う。これらの態様において、ミトコンドリアの完全性および/または機能に及ぼす試験物質の効果は、もしあればリアルタイム撮像によって細胞を分析することによって決定される。リアルタイム撮像は、たとえば実施例2において記述されるようにミトコンドリア運動性の変化を検出することができる。検出シグナルを提供するタンパク質は、先に記述されたとおりである。多くの態様において、ミトコンドリア指標タンパク質は、先に記述したようにミトコンドリア局在シグナルを含む。
【0056】
インビボでの評価
ミトコンドリア機能のapoE誘発障害を低減させる試験物質は、apoE関連障害を処置するための候補物質である。同定された候補物質は、apoE関連障害の動物モデルを用いて、二次スクリーニングにおいてインビボ有効性に関してさらに評価することができる。そのような二次スクリーニングは、動物モデルにおいて容易に査定することができる学習障害、痴呆、または認知障害に関連する任意の現象を使用することができる。スクリーニングには、以下が含まれるがこれらに限定されるわけではない現象の査定が含まれうる:1)記憶および学習に関連する行動学的症状の査定;ならびに2)辺縁系、連合新皮質、および基底前脳系(神経変性は、たとえば脳組織におけるシナプトフィシン発現の検出によって測定することができる)(たとえば、Games et al. Nature 373:523-7 (1995)を参照されたい)。これらの現象は、単独または任意の組み合わせでスクリーニングアッセイにおいて査定されてもよい。
【0057】
一般的に、スクリーニングには対照値(たとえば、試験化合物の非存在下で試験動物における神経および/または行動学的欠損の程度)が含まれるであろう。陽性である、すなわちapoE媒介障害の処置において有益である可能性があると見なされる試験物質は、神経および行動学的欠損、ならびに関連障害に対して実質的な効果を有する物質であろう。
【0058】
これらの現象、およびapoE関連障害を処置するための候補物質に関して期待される効果を査定するための方法は、当技術分野において公知である。たとえば、アルツハイマー病(AD)に及ぼす効果に関して化合物を試験するための様々なスクリーニングアッセイにおいてトランスジェニック動物を用いるための方法は、1996年12月19日に公表されたWO 9640896;1996年12月19日に公表されたWO 9640895;1995年5月4日に公表されたWO 9511994において見いだされる。これらの現象の査定の例を以下に提供するが、これは制限的であることを意味しない。
【0059】
行動学試験
学習および記憶の欠損を査定するためにデザインされた行動学試験を使用することができる。そのような試験の例は、モーリスの水迷路である(Morris Learn Motivat 12:239-260 (1981))。この技法において、水面下に浅く水に沈んだ回避プラットフォームを備えた、水を満たした円形のプールに動物を入れる。近位の視覚的手がかりに向かって誘導することによって動物がそれを見つけることができるように、視覚的マーカーをプラットフォーム上につける。または、プラットフォームの位置を記すための公式のてがかりが存在しない、より複雑な形の試験を動物に行う。この形では、動物は、遠位の視覚的手がかりに対するプラットフォームの位置を学習しなければならない。または、もしくはさらに、記憶および学習欠損は、記憶障害を引き起こすための3つの走路パネルを用いて試験することができる(4つの選択点で3つのパネルのゲートの2つの不正確なパネルを通過する試み)(Ohno et al. Pharmacol Biochem Behav 57:257-261 (1997))。
【0060】
治療物質
本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる治療物質と共に、物質を含む薬学的組成物を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、適した物質は、毒性のapoEポリペプチドとミトコンドリアとの相互作用を阻害するペプチドである。これらの組成物には、物質の望ましい使用に従って選択される緩衝液が含まれてもよく、意図される使用に適当な他の物質が含まれてもよい。当業者は、適当な緩衝液を容易に選択することができ、広く多様な緩衝液は当技術分野において公知であり、意図される使用にとって適している。いくつかの例において、組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含みえて、多様な賦形剤が当技術分野において公知であり、本明細書において詳細に考察する必要はない。薬学的に許容される賦形剤は、たとえばA. Gennaro (1995) "Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 19th edition, Lippincott, Williams, & Wilkinsを含む多様な刊行物において十分に記述されている。
【0061】
適した物質には、50より大きく約10,000ダルトン未満の、たとえば約50ダルトン〜約100ダルトン、約100ダルトン〜約500ダルトン、約500ダルトン〜約1000ダルトン、約1000ダルトン〜約5000ダルトン、または約5000ダルトン〜約10,000ダルトンの分子量を有する低分子の有機または無機化合物であってもよい。適した物質は、タンパク質との構造相互作用、特に水素結合にとって必要な官能基を含んでもよく、少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基が含まれてもよく、官能化学基の少なくとも2つを含んでもよい。適した物質は、環状炭素または複素環構造および/または上記の官能基の1つまたは複数によって置換された芳香族または多環式芳香族構造を含んでもよい。候補物質はまた、ペプチド、糖質、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、またはその組み合わせが含まれる生体分子において見いだされる。
【0062】
適した物質には、SEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位、アミノ酸275〜299位、アミノ酸280〜299位、アミノ酸273〜295位、アミノ酸275〜295位、アミノ酸280〜299位、またはアミノ酸280〜295位の枝と、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであって、ペプチド断片がSEQ ID NO: 1のL279、K282、およびQ284に対応するアミノ酸を少なくとも含み、およびアミノ酸15個〜アミノ酸17個、アミノ酸17個〜アミノ酸19個、アミノ酸19個〜アミノ酸21個、アミノ酸21個〜アミノ酸23個、アミノ酸23個〜アミノ酸25個、アミノ酸25個〜アミノ酸27個、アミノ酸27個〜アミノ酸30個、アミノ酸30個〜アミノ酸35個、アミノ酸35個〜アミノ酸40個、またはアミノ酸約40個〜アミノ酸約50個の長さを有するペプチドが含まれるがこれらに限定されるわけではない。適した物質には、apoEポリペプチドのアミノ酸273〜299位、アミノ酸275〜299位、アミノ酸280〜299位、アミノ酸273〜295位、アミノ酸275〜295位アミノ酸280〜299位、アミノ酸280〜295位等を含むペプチド、たとえばSEQ ID NO: 1のアミノ酸273〜299位に対応するアミノ酸を含む断片が含まれるがこれらに限定されるわけではなく、ペプチド断片は、SEQ ID NO: 1のL279、K282、およびQ284に対応するアミノ酸を少なくとも含む。
【0063】
例示的な非制限的なペプチドには、以下が含まれる:

【0064】
ペプチドには、天然に存在する、および天然に存在しないアミノ酸が含まれうる。ペプチドは、ペプチドに特殊な特性を伝えるために、D-アミノ酸、D-およびL-アミノ酸の組み合わせ、および様々な「デザイナー」アミノ酸(たとえば、β-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸、およびNα-メチルアミノ酸等)を含んでもよい。さらに、ペプチドは環状ペプチドであってもよい。ペプチドには、特定のコンフォメーションモチーフを導入するために非古典的アミノ酸が含まれてもよい。任意の公知の非古典的アミノ酸を用いることができる。非古典的アミノ酸には、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキシレート;(2S,3S)-メチルフェニルアラニン、(2S,3R)-メチル-フェニルアラニン、(2R,3S)-メチルフェニルアラニン、および(2R,3R)-メチル-フェニルアラニン;2-アミノテトラヒドロナフタレン-2-カルボン酸;ヒドロキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキシレート;β-カルボリン(DおよびL型);HIC(ヒスチジンイソキノリンカルボン酸);およびHIC(ヒスチジン環状ウレア)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。LL-Acp(LL-3-アミノ-2-プロペニドン-6-カルボン酸)、β-ターン誘導ジペプチド類似体;β-シート誘導類似体;β-ターン誘導類似体;α-へリックス誘導類似体;γ-ターン誘導類似体;Gly-Alaターン類似体;アミド骨格同配体;テトラゾール等が含まれるがこれらに限定されるわけではない、アミノ酸類似体およびペプチド模倣体を、特異的二次構造を誘導またはそれらに都合がよいようにペプチドに組み入れてもよい。
【0065】
いくつかの態様において、本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質と、少なくとも1つの他の治療物質とを含む組成物を提供する。ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質と共に処方されうる治療物質には、Aricept(ドネペジル)、Exelon(リバスチグミン)、メトリフォネート、およびタクリン(Cognex)が含まれるがこれらに限定されるわけではないアセチルコリンエステラーゼ阻害剤;イブプロフェンおよびインドメタシンが含まれるがこれらに限定されるわけではない非ステロイド性抗炎症薬;Celebrexのようなシクロオキシゲナーゼ-2(Cox2)阻害剤;およびセレジレン(EldeprylまたはDeprenyl)のようなモノアミンオキシダーゼ阻害剤が含まれるがこれらに限定されるわけではないADを有する個体を処置するために用いられる物質が含まれるがこれらに限定されるわけではない。キモトリプシン様セリンプロテアーゼの任意の公知の阻害剤を、ADを処置するために用いられるもう1つの治療物質と共に処方することができる。上記の物質のそれぞれの用量は当技術分野において公知であり、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質と共に薬学的調製物において用いることができる。たとえば、Ariceptは一般的に、1日あたり50 mgを6週間経口投与され、個体に良好に認容されれば、その後1日あたり10 mgを投与される。
【0066】
薬学的に許容される賦形剤は当業者に公知であり、たとえばA. Gennaro (1995) "Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 19th edition, Lippincott, Williams, & Wilkinsが含まれる多様な刊行物において十分に記述されている。
【0067】
本発明は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質を含む薬学的製剤を含む製剤を提供する。一般的に、製剤は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質の有効量を含む。「有効量」は、所望の結果、たとえばミトコンドリア運動性障害の低減、ミトコンドリア機能障害の低減、ミトコンドリア完全性の低減、学習、記憶等の改善を生じるために十分な用量を意味する。一般的に、望ましい結果は、対照と比較してミトコンドリアの完全性および/または機能の少なくとも増加である。ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質は、以下により詳細に記述されるように、血液-脳関門を回避するように送達されてもよい。ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質は、以下により詳細に記述されるように、物質が血液-脳関門を通過することができるように処方および/または改変されてもよい。
【0068】
製剤
本発明の方法において、活性物質は、ミトコンドリアの完全性および/または機能の障害の望ましい低減、任意のapoE4関連神経障害の低減等が起こりうる任意の簡便な手段を用いて宿主に投与されてもよい。
【0069】
このように、物質を、治療的投与のために多様な製剤に組み入れることができる。より具体的には、本発明の物質を適当な薬学的に許容される担体または希釈剤と共に薬学的組成物に処方することができ、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、軟膏、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、およびエアロゾルのような固体、半固体、液体、または気体様剤形で調製物に処方してもよい。
【0070】
薬学的投与剤形において、物質は薬学的に許容される塩の形で投与されてもよく、またはそれらは単独もしくは他の薬学的に活性な化合物と適当に会合すると共に組み合わせて用いてもよい。以下の方法および賦形剤は単なる例であって、決して制限ではない。
【0071】
経口調製物に関して、物質は、錠剤、粉剤、顆粒剤、またはカプセル剤を作製するために単独または適当な添加剤と共に、たとえば乳糖、マンニトール、コーンスターチ、またはジャガイモデンプンのような通常の添加剤;結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤;タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;および望ましければ、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、および芳香剤と共に用いることができる。
【0072】
物質は、植物油または他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステル、またはプロピレングリコールのような水性または非水性溶媒において、および望ましければ溶解剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤、および保存剤のような通常の添加剤と共に、それらを溶解、懸濁、または乳化させることによって、注射用調製物に処方することができる。
【0073】
物質は、吸入によって投与されるエアロゾル製剤において利用することができる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等のような加圧された許容される噴霧剤に処方することができる。
【0074】
さらに、乳化基剤または水溶性基剤のような多様な基剤と混合することによって、物質を坐剤に作製することができる。本発明の化合物は、坐剤によって直腸投与することができる。坐剤には、体温で融解するが、室温では固化しているカカオバター、カルボワックスおよびポリエチレングリコールのような媒体が含まれうる。
【0075】
それぞれの投与単位、たとえば小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤、または坐剤が1つまたは複数の阻害剤を含む組成物の規定量を含む、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤のような経口または直腸投与のための単位投与剤形を提供してもよい。同様に、注射または静脈内投与のための単位投与剤形は、滅菌水、生理食塩液、またはもう1つの薬学的に許容される担体における溶液として阻害剤を組成物に含んでもよい。
【0076】
本明細書において用いられるように、「単位投与剤形」という用語は、各単位が、薬学的に許容される希釈剤、担体、または媒体と会合して望ましい効果を生じるために十分な量で計算された本発明の化合物の既定量を含む、ヒトおよび動物被験者の単位用量として適した物理的に個別の単位を指す。本発明の新規単位投与剤形に関する明細は、使用される特定の化合物、達成される効果、および宿主における各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0077】
他の投与様式も同様に、本発明と共に用いられるであろう。たとえば、本発明の物質は、坐剤において、およびいくつかの場合においてエアロゾルおよび鼻腔内組成物において処方されうる。坐剤の場合、媒体の組成物には、ポリアルキレングリコール、またはトリグリセリドのような従来の結合剤および担体が含まれるであろう。そのような坐剤は、約0.5%〜約10%(w/w)、好ましくは約1%〜約2%の範囲で活性成分を含む混合物から形成されてもよい。
【0078】
鼻腔内製剤には通常、鼻粘膜に対する刺激を引き起こさず、または線毛の機能を有意に妨害しない媒体が含まれるであろう。水、水性生理食塩液、または他の公知の物質のような希釈剤を本発明と共に使用することができる。鼻腔内製剤はまた、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムのような、しかしこれらに限定されない保存剤を含んでもよい。鼻粘膜による本発明のタンパク質の吸収を増強するために界面活性剤が存在してもよい。
【0079】
本発明の物質は、注射剤として投与することができる。典型的に、注射用組成物は液体溶液または懸濁液として調製され;注射前に液体媒体における溶液または懸濁液として適した固体剤形も同様に調製してもよい。調製物はまた乳化してもよく、または活性成分をリポソーム媒体に封入してもよい。
【0080】
適した賦形剤媒体は、たとえば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノール等、およびその組み合わせである。さらに、望ましければ、媒体は、湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤のような補助物質の微量を含んでもよい。そのような投与剤形を調製するための実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかであろう。たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 17th edition, 1985;Remington: The Science and Practice of Pharmacy, A.R. Gennaro, (2000) Lippincott, Williams & Wilkinsを参照されたい。投与される組成物または処方は、いずれにせよ、処置される被験者における望ましい状態を達成するために適切な物質の量を含むであろう。
【0081】
媒体、アジュバント、担体、または希釈剤のような薬学的に許容される賦形剤は、公共に容易に入手可能である。その上、pH調節剤および緩衝剤、等張調節剤、安定化剤、湿潤剤等のような薬学的に許容される補助物質は公共に容易に入手可能である。
【0082】
apoE関連障害を処置する方法
本発明は、個体におけるapoE関連障害を処置する方法を提供する。方法は一般的に、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質の有効量をapoE関連障害を有する個体に投与する段階を伴う。
【0083】
ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質の「有効量」は、物質の非存在下でミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害レベルと比較して、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、またはそれより多く低減させる量である。
【0084】
いくつかの態様において、本発明は、アルツハイマー病を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、本発明はミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質を投与する段階を伴う。
【0085】
用量
用いる用量は、達成される臨床目標に応じて変化する可能性があるが、適した用量範囲は、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質の約1μg〜約1,000μg、または約10,000μgまでを提供する範囲であり、これを1回の投与で投与することができる。または、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質の標的用量は、物質の投与後最初の24〜48時間以内に採取した宿主血液試料において約0.1〜1000μM、約0.5〜500μM、約1〜100μM、または約5〜50μMの範囲であると見なされうる。
【0086】
当業者は、用量レベルが、特異的化合物、症状の重症度、および副作用に対する患者の感受性の関数として変化しうることを容易に認識するであろう。所定の化合物に関する好ましい用量は、当業者によって多様な手段によって容易に決定される。
【0087】
投与経路
ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させる物質は、インビボおよびエクスビボ法と共に、全身投与経路および局所投与経路を含む任意の利用可能な方法および薬物送達にとって適した経路を用いて個体に投与される。
【0088】
通常のおよび薬学的に許容される投与経路には、鼻腔内、筋肉内、気管内、腫瘍内、皮下、皮内、局所適用、静脈内、直腸内、鼻内、経口、および他の非経口投与経路が含まれる。投与経路は、望ましければ物質および/または所望の効果に応じて組み合わせる、または調節してもよい。組成物は1回用量または複数回用量で投与することができる。
【0089】
物質は、全身または局所経路を含む通常薬の送達にとって適した任意の利用可能な通常の方法および経路を用いて宿主に投与することができる。一般的に、本発明によって企図される投与経路には、腸内、非経口、または吸入経路が含まれるが必ずしもこれらに限定されない。
【0090】
吸入投与以外の非経口投与経路には、局所、経皮、皮下、筋肉内、眼窩内、包内、脊椎内、胸骨内、および静脈内経路、すなわち消化管以外による任意の投与経路が含まれるが必ずしもこれらに限定されるわけではない。非経口投与は、物質の全身または局所送達をもたらすために行うことができる。全身送達が望ましい場合、投与は典型的に、薬学的調製物の侵襲性または全身吸収局所または粘膜投与を伴う。
【0091】
物質はまた、経腸投与によって被験者に送達されうる。経腸投与経路には、経口および直腸(たとえば坐剤を用いる)送達が含まれるが必ずしもこれらに限定されるわけではない。
【0092】
皮膚または粘膜を通しての物質の投与法には、適した薬学的調製物の局所塗布、経皮伝搬、注射、および表皮投与が含まれるが必ずしもこれらに限定されるわけではない。経皮伝搬の場合、吸収促進剤またはイオントフォレーシスが適した方法である。イオントフォレーシス伝搬は、数日間またはそれより長い期間、傷のない皮膚を通しての電気パルスを通して連続的にその産物を送達する、市販の「パッチ」を用いて成就されてもよい。
【0093】
処置とは、宿主に罹患する病理的状態に関連した症状の少なくとも改善を意味し、改善は、パラメータの程度、たとえばapoE4関連神経障害およびそれに関連する疼痛のような処置される病理的状態に関連する症状の少なくとも低減を指すために広い意味で用いられる。そのため、処置にはまた、病理的状態またはそれに関連する少なくとも症状が完全に阻害される、たとえば宿主がもはや病理的状態に苦しまないように、または病理的状態の特徴を示す少なくとも症状に苦しまないように発生を防止または停止、たとえば終止させる状況が含まれる。
【0094】
多様な宿主(「宿主」という用語は、本明細書において「被験者」および「患者」という用語と互換的に用いられる)が、本発明の方法に従って処置可能である。一般的に、そのような宿主は、「哺乳動物」または「哺乳綱」であり、これらの用語は、肉食目(たとえば、イヌおよびネコ)、齧歯目(たとえば、マウス、モルモット、およびラット)、および霊長類(たとえば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む哺乳綱内の生物を記述するために広く用いられる。多くの態様において、宿主はヒトであろう。
【0095】
経口または注射用用量での活性物質の単位用量を有するキットが提供される。そのようなキットにおいて、単位用量を含む容器のほかに、関心対象の病理的状態を処置するために薬物の使用および付随する恩典を記述する情報を提供する添付文書が存在するであろう。好ましい化合物および単位用量は、本明細書において先に記述された用量である。
【0096】
血液-脳関門の通過
血液-脳関門は、全身循環から脳および脊髄への多くの治療物質の取り込みを制限する。血液-脳関門を通過する分子は、主な2つのメカニズムを用いる:自由拡散;および促進された輸送。血液-脳関門が存在するために、中枢神経系(CNS)における所定の治療物質の有益な濃度を達成するには、薬物送達戦略を用いる必要がある可能性がある。CNSへの治療物質の送達は、いくつかの方法によって達成されうる。
【0097】
1つの方法は、神経外科技術に依存する。事故の犠牲者または様々な型の痴呆に苦しむ患者のような、重篤な患者の場合、外科的介入はその付随するリスクにもかかわらず正当化される。たとえば、治療物質は、薬物の脳室内または鞘内注射のようなCNSへの直接物理的導入によって送達されうる。脳室内注射は、たとえばOmmayaリザーバーのようなリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進されてもよい。導入法はまた、再充填可能な、または生体分解性の装置によって提供されてもよい。もう1つのアプローチは、血液脳関門の透過性を増加させる物質による血液-脳関門の破壊である。例には、マンニトールのような拡散性の不良な物質、エトポシドのような脳血管透過性を増加させる薬剤、またはロイコトリエンのような血管活性物質の動脈内注入が含まれる。Neuwelt and Rappoport (1984) Fed. Proc. 43:214-219;Baba et al. (1991) J. Cereb. Blood Flow Metab. 11 :638-643;およびGennuso et al. (1993) Cancer Invest. 11 :638-643。
【0098】
さらに、処置を必要とする領域に薬剤を局所投与することが望ましい可能性があり、これはたとえば、手術の際の局所注入、注射、カテーテルによる、またはシラスティックメンブレンのようなメンブレンもしくは繊維を含む多孔性、非多孔性、またはゼラチン様材料であるインプラントによって達成されてもよい。
【0099】
治療化合物はまた、化学改変を含む薬理学的技術または血液-脳関門を通過するであろう類似体のスクリーニングを用いて送達されうる。化合物は、分子の疎水性を増加させるように、分子の真の電荷もしくは分子量を減少させるように、または血液-脳関門を超えて通常輸送される物質に類似するように分子を改変するように改変されてもよい。Levin (1980) J. Med. Chem. 23:682-684;Pardridge (1991) in: Peptide Drug Delivery to the Brain;およびKostis et al. (1994) J. Clin. Pharmacol. 34:989-996。
【0100】
リポソームのような疎水性環境における薬物の封入も同様に、CNSに薬物を送達するために有効である。たとえば、WO 91/04014は、通常血液-脳関門を超えて輸送される分子が加えられるリポソーム内に薬物が封入されるリポソーム送達系を記述している。
【0101】
血液-脳関門を通過する薬剤を処方するもう1つの方法は、シクロデキストリンに薬物を封入することである。J-シクロデキストリン、K-シクロデキストリン、およびその誘導体が含まれるがこれらに限定されるわけではない、血液-脳関門を通過する任意の適したシクロデキストリンを用いてもよい。一般的に、米国特許第5,017,566号、同第5,002,935号、および同第4,983,586号を参照されたい。そのような組成物にはまた、米国特許第5,153,179号によって記述されるグリセロール誘導体が含まれてもよい。
【0102】
送達はまた、治療物質を輸送可能な物質に共役させることによって新規キメラ輸送可能な治療物質を生じることによって得てもよい。たとえば、血管作用性腸管ペプチド類似体(VIPa)は、血液-脳関門を通してVIPa-Mab共役体の取り込みを促進する特異的担体分子トランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(Mab)に対する共役後に限ってその血管作用効果を発揮した。Pardridge (1991);およびBickel et al. (1993) Proc. Natl. Acad Sci. USA 90:2618-2622。いくつかの他の特異的輸送系が同定されており、これらには、インスリン、またはインスリン様増殖因子IおよびIIを輸送するための系が含まれるがこれらに限定されるわけではない。他の適した非特異的担体には、ピリジニウム、脂肪酸、イノシトール、コレステロール、およびグルコース誘導体が含まれるがこれらに限定されるわけではない。それによって中枢神経系に入った場合に、薬物が担体から切断されて活性薬を放出する、特定のプロドラッグが記述されている。米国特許第5,017,566号。
【0103】
本発明の治療物質による処置にとって適した被験者
多様な被験者が、本発明の方法によって同定された物質の処置にとって適している。適した被験者には、apoE関連障害を有する、apoE関連障害を発症するリスクを有する、apoE関連障害を有してapoE関連障害の再発のリスクを有する、またはapoE関連障害から回復しつつある任意の個体、特にヒトが含まれる。
【0104】
そのような被験者には、アルツハイマー病を有すると診断されている個体;1つまたは複数の卒中を経験した個体;外傷性頭部損傷を経験した個体;高い血清コレステロールレベルを有する個体;脳組織にAβ沈着を有する個体;1つまたは複数の心事象を有したことがある個体;心手術を受ける予定の被験者;および多発性硬化症を有する被験者が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0105】
実施例
以下の実施例は、本発明の作成法および使用法に関する完全な開示および記述を当業者に提供するために述べられ、本発明者らが本発明であると見なす範囲を制限すると意図されず、以下の実験が、行われた全てまたは唯一の実験であることを表すと意図されない。用いた数値(たとえば、量、温度等)に関しては精度を期するように努力したが、何らかの実験誤差および逸脱は容赦されるべきである。特に明記していなければ、割合は重量での割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。標準的な省略語が用いられ得、たとえばbp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;sまたはsec、秒;min、分;hまたはhr、時間;aa、アミノ酸;kb、キロベース;bp、塩基対;nt、ヌクレオチド;i.m.、筋肉内;i.p.、腹腔内;s.c.、皮下;等である。
【0106】
実施例1:ミトコンドリアの完全性および機能に及ぼすapoEポリペプチドの効果
方法
試薬
最小基本培地(MEM)、Opti-MEM、およびFBSは、Life Technologies(Rockville, MD)から得た。ポリクローナルヤギ抗ヒトapoEは、Calbiochem(San Diego, CA)から得た。apoEの脂質結合領域を特異的に認識するモノクローナル抗体(3H1)は、Karl H. Weisgraber(Gladstone Institutes)から得た。フルオレセインまたはテキサスレッドに共役させた抗ウサギ、抗マウス、および抗ヤギIgGはVector Laboratories(Burlingame, CA)から得た。MitoTracker Deep Red 633は、Invitrogen(Carlsbad, CA)から得た。ミトコンドリア局在シグナルペプチド(DsRed2-Mito)に融合させた赤色蛍光タンパク質をコードするcDNA構築物は、BD Biosciences(Mountain View, CA)から得た。
【0107】
cDNA構築物
野生型(WT)またはN末端切断apoE4をそのシグナルペプチドと共にコードするPCR産物を、サイトメガロウイルスプロモーターを含むpcDNA 3.1(+)ベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。シグナルペプチド-緑色蛍光タンパク質(GFP)-apoE4融合タンパク質をコードするPCR産物も同様にベクターにサブクローニングした。様々な変異またはC末端切断を有するapoE4をコードするcDNA構築物は、pcDNA-apoE4またはpcDNA-GFP-アポE4構築物からQuikChangeキット(Stratagene)によって作製した。構築物は全て、配列分析によって確認した。
【0108】
細胞培養およびトランスフェクション
10%FBSを含むMEMにおいて37℃で維持したマウス神経芽細胞腫Neuro-2a細胞(American Type Culture Collection)を、Lipofectamine 2000(Invitrogen)(25)を用いてapoE4 cDNA構築物に一過性にトランスフェクトした。apoE4発現レベルは、細胞溶解物および培地の抗apoE-ウェスタンブロッティングによって決定した。神経毒性であるapoE4の切断型および変異型は、完全長のapoE4より約15〜30%低いレベルで発現された。その潜在的により弱い抗体反応を除外するために、それらの型のapoE4をGFPによってタグをつけて、その発現レベルをフローサイトメトリーによって決定した。この場合も、その発現レベルは完全長のapoE4より約15〜30%低かった。このように、結果は、過剰発現によるものではない。
【0109】
免疫細胞化学および共焦点顕微鏡
様々なapoE4 cDNAを一過性にトランスフェクトしたNeuro-2a細胞を無血清MEMにおいて18〜24時間生育させて、3%パラホルムアルデヒドにおいて固定して、Streptolysis-O(STP-O, Sigma)500単位によってBBII緩衝液(75 mM酢酸カリウム、25 mM Hepes、pH 7.2)において(細胞質膜に関して)、または0.5%Tween-20によってPBSにおいて(細胞質膜および細胞内オルガネラ膜に関して)(51)によって室温で45分間可溶化した後、ポリクローナル抗apoE(1:4000)またはモノクローナル抗体抗apoE(3H1、1:200)およびフルオレセイン共役二次抗体(Vector Laboratories)(25)によって染色した。標識細胞をVectaShield(Vector Laboratories)に載せて、Optiphot-2顕微鏡(Nikon)に搭載したRadiance 2000レーザー走査共焦点システム(Bio-Rad)によって調べた。変異または切断を有するGFP-apoE4をコードするcDNA構築物を一過性にトランスフェクトしたNeuro-2a細胞を、共焦点顕微鏡によって直接分析した。いくつかのNeuro-2a細胞に、様々なapoE cDNA構築物と、ミトコンドリア局在シグナルペプチド(DsRed2-Mito, BD Biosciences)に融合させた赤色蛍光タンパク質をコードする構築物とを同時トランスフェクトさせて、免疫蛍光ポリクローナル、またはモノクローナル抗apoEによって染色し、共焦点顕微鏡によって分析した。
【0110】
細胞の生存
24ウェルプレートにおいて生育させたNeuro-2a細胞に、様々なapoE4またはGFP-apoE4 cDNA構築物を無血清Opti-MEMにおいて一過性にトランスフェクトさせた。細胞の生存をトランスフェクション後48時間目にMTT比色アッセイ(52)によって推定した。
【0111】
ミトコンドリア機能/完全性のフローサイトメトリー分析
6ウェルプレートにおいて生育させたNeuro-2a細胞に様々なGFP-apoE4 cDNA構築物を一過性にトランスフェクトした。培養培地をトランスフェクション後48時間目に吸引して、MitoTracker Deep Red 633(10%FBSを含むMEMにおいて100 nM)を37℃で15分間加えた。無血清MEMによって洗浄後、細胞をトリプシン処理してPBS 1 mlに浮遊させて、遠心して(5分、1200 rpm)PBSによって2回洗浄し、PBS 1 mlに浮遊させて、メッシュキャップを通して5 ml試験管に濾過した。apoE4発現レベルを表すGFPの蛍光強度およびミトコンドリア完全性/機能レベルを表す(53)MitoTracker Deep Red 633の蛍光強度を、フローサイトメトリー(BD Biotechnology)によって分析した。非トランスフェクトNeuro-2a細胞を陰性対照とした。
【0112】
統計分析
結果を平均値±SDとして報告する。差をt検定または分散分析によって評価した。
【0113】
結果
脂質結合領域はapoE4断片関連神経毒性にとって必要である
Neuro-2a細胞における様々なapoE4断片の神経毒性を査定するために、MTTアッセイを用いた。apoE4(1-272)の発現は、完全長のapoE4より35%大きい細胞死を引き起こし;脂質結合領域(アミノ酸241〜272位)を除去するためにカルボキシル末端をアミノ酸240位または191位までさらに切断すると、神経毒性は消失した(図1a)。異なる種を超えて保存されるこの領域の4つの変異(I250A、F257A、W264R、およびV269A)(54)も同様に神経毒性を消失させた(図1b)。
【0114】
1つのC末端変異によって完全長のapoE4は神経毒性となる
apoE4(1-272)は、完全長のapoE4より神経毒性が強く、このことは27C末端アミノ酸が断片関連神経毒性に対して保護することを示唆している。この領域における3つのアミノ酸(L279、K282、およびQ284)は10の種において高度に保存される(54)。この神経保護作用におけるその重要性を査定するために、WT apoE4のそれぞれの部位(L279Q、K282A、またはQ284A)に変異を導入した。それぞれの変異によって、完全長のapoE4は、apoE4(1-272)と同程度の神経毒性となった(図1c)。
【0115】
神経毒性は、脂質および受容体結合領域の双方を必要とする
脂質結合領域のみが神経毒性であるか否かを決定するために、apoE4のアミノ酸241〜272位のみを発現するNeuro-2a細胞を分析した。神経毒性を認めなかった(図1d)。N末端領域も同様に神経毒性にとって必要であるか否かを決定するために、細胞に進行的により長いN末端切断を有するapoE4(1-272)をコードするcDNA構築物をトランスフェクトした。神経毒性は、受容体結合領域(アミノ酸135〜150位)を除去した切断の場合に限って消失した(図1e)。
【0116】
受容体結合領域における陽性荷電アミノ酸は神経毒性にとって肝要である
受容体結合領域は陽性荷電アミノ酸(アルギニンおよびリジン)(1-4)の集団を含む。apoE4断片関連神経毒性におけるその重要性を調べるために、二重(K146AおよびR147A)および三重(R142A、K146A、およびR147A)変異をapoE4(1-272)に導入した。三重変異は、apoE4(1-272)の神経毒性効果を消失させ、二重変異はこれを低減させた(図1f)。
【0117】
図1
apoE4断片における脂質および受容体結合領域は、MTTアッセイによって決定した場合に、協調して神経毒性を引き起こすように作用する。(a)WT apoE4、apoE4(1-272)、apoE4(1-240)、またはapoE4(1-191)をトランスフェクトした細胞の生存。(b)WT apoE4、apoE4(1-272)、または4つの変異(I250A、F257A、W264R、およびV269A)を有するapoE4(1-272)をトランスフェクトした細胞の生存。(c)WT apoE4、apoE4(1-272)、または1つの変異(L279Q、K282A、またはQ284A)を有するapoE4をトランスフェクトした細胞の生存。(d)WT apoE4、apoE4(1-272)、またはapoE(241-272)をトランスフェクトした細胞の生存。(e)WT apoE4、apoE4(1-272)、apoE4(87-272)、apoE(127-272)、またはapoE(171-272)をトランスフェクトした細胞の生存。(J)WT apoE4、apoE4(1-272)、または二重変異(K146AおよびR147A)、もしくは三重変異(R142A、K146A、およびR147A)を有するapoE4(1-272)をトランスフェクトした細胞の生存。値は、トランスフェクションの48時間後のアッセイ3〜6個の平均値±SDである。*p<0.05対WT apoE4。
【0118】
apoE4断片は分泌経路を逃れて細胞骨格成分およびミトコンドリアと相互作用する
神経毒性のメカニズムを研究するために、Neuro-2a細胞における完全長または切断型apoE4の細胞内局在を免疫蛍光染色によって査定した。完全長のapoE4は典型的に、小胞体およびゴルジ体に存在したが(図2a)、apoE4(1-272)は、いくつかの細胞において細胞内糸状封入体を形成し、他の細胞において顆粒状の分布を有し(図2b)、Neuro-2a細胞における切断型apoE4の誤局在を示唆した。細胞内糸状封入体は、既に報告されているように(25,26)リン酸化タウおよびリン酸化神経フィラメントタンパク質を含むことから、断片のいくつかは分泌経路を逃れて、細胞骨格成分と相互作用したはずである。apoE4(1-272)およびDsRed2-Mitoの双方を発現する細胞において、顆粒関連apoE4断片はミトコンドリアに存在した(図2c)。
【0119】
図2
免疫細胞化学および共焦点顕微鏡によって決定した様々な型のapoE4の細胞内分布。(a)WT apoE4をトランスフェクトして、Tween-20によって透過性にし、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した細胞。(b)apoE(1-272)によってトランスフェクトして、Tween-20によって透過性にして、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した細胞。(c)apoE(1-272)およびDsRed2-Mito(原版では赤色;白黒画像では明るく示される)を同時トランスフェクトして、STP-Oによって透過性にして、抗apoE(原版では黄色;白黒画像では明るく示される)によって染色した細胞。融合画像はapoE4(1-272)とミトコンドリアとの同時局在を示す。
【0120】
ミトコンドリアの誤局在は脂質および受容体結合領域を必要とする
脂質結合領域のみを含むapoE(171-272)と、受容体結合領域のみを含むapoE4(1-240)の細胞内位置を研究した。いずれもミトコンドリアには存在せず、その細胞内分布は、完全長のapoE4の分布と類似であった(図3a〜f)。ミトコンドリア誤局在はまた、脂質結合領域における四重変異[E4(1-272)-AARA] および受容体結合領域における三重変異[E4(1-272)-3A]によっても消失した(図3g〜j)。
【0121】
図3
脂質および受容体結合領域は協調して作用してapoE4断片のミトコンドリア誤局在を引き起こす。WT apoE4(a)、apoE(171-272) (c)、apoE4(1-240) (e)、脂質結合領域において4つの変異(I250A、F257A、W264R、およびV269A)を有するapoE4(1-272)-AARA(g)、または受容体結合領域において3つの変異(R142A、K145A、およびR146A)を有するapoE4(1-272)-3A(i)をトランスフェクトした細胞を、0.5%Tween-20(a、c、e、g、およびI)によって透過性にして、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した。DsRed2-Mito(原版では赤色;白黒画像では明るく示される)と先に言及した様々なapoE4構築物とを同時トランスフェクトした細胞を、STP-O(b、d、f、h、およびj)500単位によって透過性にして、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した。次に、細胞を、緑色のみ(a、c、e、g、およびi)、または赤色と緑色の双方(b、d、f、h、およびj)に関して共焦点顕微鏡によって分析した。
【0122】
受容体結合領域は分泌経路を逃れるために必要であり、脂質結合領域はミトコンドリア相互作用を媒介する。脂質および受容体結合領域の機能を詳細に分析するために、N末端分泌シグナルペプチドを2つの領域の1つのみを含む断片から除去する効果を査定した。サイトゾルにおいて直接発現された場合、脂質結合領域のみを含むapoE(171-272)は、ミトコンドリアと相互作用したが(図4aおよび4b)、シグナルペプチドを有する同じ断片は分泌経路において保持され、ミトコンドリアと相互作用しなかった(図3cおよび3d)。さらに、受容体結合領域の三重変異によって、シグナルペプチドを有するapoE4(1-272)は分泌経路に留まり、このようにミトコンドリアと相互作用しなかった(図3iおよび3j)。受容体結合領域のみを含むapoE4(1-191)は、サイトゾルにおいて直接発現された場合でも、ミトコンドリアと相互作用しなかった(図4cおよび4d)。
【0123】
図4
受容体結合領域は分泌経路を逃れるために必要であり、脂質結合領域はミトコンドリア相互作用を媒介する。シグナルペプチドを有しないapoE(171-272)(a)またはシグナルペプチドを有しないapoE4(1-191)(c)でトランスフェクトした細胞を0.5%Tween-20によって透過性にして、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した。DsRed2-Mito(赤色)とこれらの2つのapoE4構築物のいずれかを同時トランスフェクトした細胞をSTP-O(bおよびd)500単位によって透過性にして、抗apoE(原版では緑色;白黒画像では明るく示される)によって染色した。細胞は先に記述されたとおりに分析した。
【0124】
脂質および受容体結合領域は共に、ミトコンドリア機能/完全性を障害する。ミトコンドリアに及ぼすapoE4断片の効果を研究するために、様々なapoE4構築物をトランスフェクトしたNeuro-2a細胞をMitoTracker Deep Red 633と共にインキュベートして、蛍光強度をミトコンドリア機能/完全性の手段としてフローサイトメトリーによって分析した(53)(図5)。蛍光強度は、完全長のapoE4を発現する細胞よりapoE4(1-272)またはapoE(127-272)を発現する細胞において25%低かった(図5A)。通常の膜電位を有する機能的ミトコンドリアのみがMitoTracker Deep Red 633を有効に取り込んで保存することができることから、この知見は、脂質および受容体結合領域の双方を有するapoE4断片のみがミトコンドリア機能/完全性を障害しうることを示唆している。重要なことに、この効果は発現レベルに依存した(図5B)。免疫細胞化学データと一致して、2つの領域の1つのみを含むapoE4断片および脂質結合領域において四重変異を有する、または受容体結合領域において三重変異を有する断片は、ミトコンドリア機能/完全性に対して有意な効果を有しなかった(図5)。
【0125】
図5
apoE4断片における脂質および受容体結合領域は、MitoTracker Deep Red 633染色およびフローサイトメトリーによって決定した場合に、共にミトコンドリア機能障害を引き起こすように作用する。(a)ミトコンドリア機能/完全性に及ぼす類似のレベルで発現された様々な型のapoE4の効果。(b)ミトコンドリア機能/完全性に及ぼす効果は、GFPの蛍光強度(FI)によって測定した場合にapoE4断片の発現レベルに依存する。値は、3〜6アッセイの平均値±SDである。*p<0.05対WT apoE4、E4(171-272)およびE4(1-272)-3A。E4(1-272)-3Aは、受容体結合領域において三重変異を有するapoE4(1-272)である。
【0126】
実施例2
分化したPC12細胞におけるミトコンドリア運動性の低速度撮影記録
PC12細胞(図8A)を神経生長因子(NGF、40 ng/ml)によって分化させて、7日後にdsRed-Mitoをトランスフェクトして、さらに3〜7日間分化させて、さらに神経突起を生長させた(図8B)。dsRed2-Mitoを発現する10〜15日分化したPC12細胞の神経突起におけるミトコンドリアの低速度撮影蛍光画像(図8C)を室温で12フレーム/分で15分間記録した。ミトコンドリアの運動性を定量するために、画像配列をNIH ImageJソフトウェア(図8DおよびE)によって分析した。対照として、分化したPC12細胞からのミトコンドリアを分析した。
【0127】
図8 未分化および分化PC12細胞およびその神経突起におけるミトコンドリアの低速度撮影記録
未分化PC12細胞(A)および40 ng/ml NGFによって10日間分化後(B)の位相差顕微鏡写真。(C)ミトコンドリアを表すdsRed2-Mitoの蛍光顕微鏡写真(逆転シグナル)。(DおよびE)PC12細胞の神経突起におけるミトコンドリアの低速度撮影記録。数値は、対照条件(Dにおける1および2)および繰り返し脱分極後(Eにおける3)の移動するミトコンドリアを示す。DおよびEにおける底部の軌跡は、個々のミトコンドリアの移動を要約する。
【0128】
一次海馬ニューロンに関して報告されたように、ミトコンドリアの約23%が移動し、約77%が静止したままであった(図9A)。
【0129】
神経活性に対する運動反応を査定するために、細胞をKCl(90 mM、4×3分、4×10分洗浄)によって繰り返し脱分極させた(42, 94)。移動するミトコンドリアの百分率は44%低減した(図9A)。前方方向(成長錐体)への真の移動距離および平均移動速度(移動距離/15分)はいずれも、劇的に低減された(図9Bおよび9C)。後方の運動性(体方向)には有意な変化を認めなかった。ほとんどのミトコンドリアは一定速度で移動しなかったことから、平均速度は真の移動速度を反映していない可能性がある。したがって、移動速度も同様に計算した(ミトコンドリアが移動している時間あたりの移動距離)。ミトコンドリア移動速度は変化しなかった(図9D)。
【0130】
ミトコンドリアの形態および分布を査定するために、ミトコンドリア指数(所定の神経突起/神経突起の長さにおけるミトコンドリア長さの付加)を決定した。脱分極はミトコンドリア指数を22.5%低減させ、分子モーター(ダイニンおよびキネシン)のカルシウム依存的連動または開放により、おそらく高エネルギー需要領域に向かう再分布を反映した。
【0131】
対照的に、テトロドトキシン(TTX、1μM)による神経活性の阻害は、ミトコンドリア指数に影響を及ぼすことなく、ミトコンドリア動力学を増加させた(図9A〜D)。このように、本発明者らの低速度記録アプローチは十分に確立され、先に記述されたように確認される。
【0132】
図9 ミトコンドリア運動性の活性依存的変化
(A)様々な条件における移動するミトコンドリアの百分率。(B)15分間でのミトコンドリアの真の移動距離[(前方距離−後方距離)/n]。(C)平均前方移動速度(前方移動距離/15分)。(D)前方移動速度(前方移動距離/移動にかかった時間)。A〜Dにおいて、独立した2回の実験における細胞14個からのミトコンドリア198個および細胞8個からのミトコンドリア126個をそれぞれ、対照およびKCl脱分極に関して分析した;TTX(1μM、1時間プレインキュベーション)に関して、1回の実験において細胞4個からのミトコンドリア38個を分析した。値は平均値±SEMである。*p<0.05、***p<0.001対対照(t検定)。
【0133】
ミトコンドリア運動性に及ぼす外因性のapoEイソ型およびapoE4断片の効果
apoE4およびapoE4(1-272)(7.5μg/ml培養培地、24時間インキュベーション)はいずれも、移動するミトコンドリアの百分率、前方方向でのその真の移動距離および平均速度(図10A〜C)を有意に減少させたが、後方方向では減少させなかった。ApoE4(1-272)はまた、移動速度を低減させ(図10D)、断片が分子モーターおよび/または細胞骨格通路を障害することを示唆している。対照的に、ミトコンドリア運動性は外因性のapoE3(図8A〜D)によって影響を受けず、おそらくカルシウム流入の制御におけるイソ型特異的差を反映している(10)。さらに、apoE4およびapoE4(1-272)は、ミトコンドリアの長さの平均値を有意に低減させたがapoE3は低減させなかった(図10E)。最後に、apoEイソ型はミトコンドリア指数を有意に減少させた(apoE4(1-272)>apoE4>apoE3)(図10F)。
【0134】
図10 ミトコンドリア運動性および形態に及ぼすapoEイソ型およびapoE4断片の効果
分化したPC12細胞を、7.5μg/ml apoEイソ型またはapoE4(1-272)断片と共に37℃で24時間インキュベートした。ミトコンドリアの動力学を、移動するミトコンドリアの百分率(A)、15分間に移動した真の距離(B)、平均前方移動速度(C)、前方移動速度(D)、平均ミトコンドリア長(E)、およびミトコンドリア指数(F)として分析した。A〜Fにおけるデータは独立した2回の実験からである。A〜Dにおいて、対照、細胞14個からn=198;apoE3、細胞9個からn=159;apoE4、細胞4個からn=52;およびapoE4(1-272)、細胞6個からn=101。E〜Fにおいて、対照、細胞10個からn=229;apoE3、細胞10個からn=326;apoE4、細胞6個からn=214;およびapoE4(1-272)、細胞11個からn=304。値は平均値±SEMである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001対対照(t検定)。
【0135】
参考文献




【0136】
実施例3:ニューロン培養物におけるアポリポタンパク質E4およびその断片によるミトコンドリア動力学およびシナプス形成のニューロン活性依存的障害
方法
試薬
TTXおよびNGFは、Alomone Labs(Jerusalem, Israel)から得た。AP5はTocris Bioscience(Ellisville, MO)から得た。ニモジピンおよび他の全ての化学物質はSigma(St. Louis, MO)から得た。組み換え型apoE3およびapoE4は、Dr. Karl Weisgraber(Gladstone Institutes, San Francisco, CA)からの寄贈であった。チトクロームcのミトコンドリアターゲティング配列を有するミトコンドリアマーカーpCMV-DsRed2-Mitoは、Clontech(Mountain View, CA)から得た。pPDGF-EGFP-β-アクチン構築物(Morales 2001)はDr. Yukiko Goda(University College London, London, UK)からの寄贈であった。プラスミドは全て、Qiagen(Valencia, CA)からのPlasmid Maxi Kitによって精製した。
【0137】
細胞培養およびトランスフェクション
PC12細胞は、5%ウマ血清、2.5%仔ウシ胎児血清、および1 mM L-グルタミン(全てInvitrogen, Carlsbad, CAから)を添加したダルベッコ改変イーグル培地において維持した。PC12細胞を、ポリ-L-リジンをコーティングした30mmカバーガラスに播種して(25×104個)、40 ng/ml NGFを添加した2.5%ウマ血清を含む通常の増殖培地において分化させて、トランスフェクションの3〜8日後に実験のために用いた。
【0138】
新生仔ラットからの大脳皮質または海馬を解剖して、パパイン(10単位ml-1;30分間;Worthington Biochemical, Lakewood, NJ)およびトリプシン阻害剤(10 mg ml-1、15分)によって処置した。解剖したニューロンをポリ-L-リジンをコーティングした12mmのカバーグラス(Fisher Scientific, Hampton, NH)(8×105個/cm2)に載せた。2時間後、細胞を、B27、1 mM L-グルタミン、および100μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を添加したNeurobasal培地に移した。ニューロンを培養10日後にルーチン的にトランスフェクトして、トランスフェクション後5〜7日目に実験のために用いた。細胞は5%CO2の37℃の湿潤インキュベーターにおいて維持した。
【0139】
分化したPC12細胞および一次ニューロンを、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてdsRed2-Mito構築物にトランスフェクトさせるか、またはdsRed2-MitoとpPDGF-EGFP-β-アクチン構築物に同時トランスフェクトさせた。Lipofectamine 2000 3μlと共にDNA(2μg)を、ルーチン的にトランスフェクションおよび同時トランスフェクションのために用いた。
【0140】
apoE細胞株の生成
PC12 Tet-on細胞(Clontech, Mountain View, CA)を、様々な型のapoEをコードするpTRE構築物(Gladstoneで生成)およびピューロマイシン選択マーカー構築物(Clontech)によって同時トランスフェクトした。ApoE発現レベルを抗apoEウェスタンブロッティングによって定量したところ、同等であることが見いだされた。
【0141】
ニューロンの活性化および阻害
ニューロンの活性化に関して、分化したPC12細胞または一次ニューロンをKCl(90 mM)によって各3分間4回脱分極させて、様々な型のapoEの存在下または非存在下で10分間の洗浄によって分離した。ニューロンの阻害に関して、分化PC12細胞または一次ニューロンを、様々な型のapoEの存在下または非存在下で1μM TTXと共に4〜24時間インキュベートした(Li et al.(2004) Cell) 119:873)。
【0142】
共焦点顕微鏡
様々な型のapoEによって処置した培養一次ニューロンを氷冷4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液において20分間固定して、Vectashield (Vector Laboratories Burlingame, CA)に載せた。一次ニューロンにおけるEGFPおよびdsRed蛍光のデジタル画像を、BX60顕微鏡(Olympus, Melville, NY)に搭載したBio-Rad Radiance 2000 scanhead (Bio-Rad, Hercules, CA)を備えたレーザー走査型共焦点顕微鏡によって60倍の油浸対物レンズで収集した。
【0143】
低速度撮影蛍光顕微鏡
NGFによって13〜16日間分化させたPC12細胞の神経突起におけるdsRed蛍光のデジタル画像を、40倍の空気対物レンズおよびuniblitz電動シャッター(Vincent Associates, Rochester, NY)を備えたNikon Eclipse TE300顕微鏡(Melville, NY)に搭載したOrca II冷却CCDカメラ(Hamamatsu, Bridgewater, NJ)によって12フレーム/分で15分間捕獲した。記録のあいだ、細胞を、1 mM L-グルタミン、2.5%仔ウシ胎児血清および2.5%ウマ血清を添加したCO2非依存的培地(Invitrogen)において室温で維持した。
【0144】
画像分析
画像はNIH ImageJソフトウェア(インターネット上でrsb.info.nih.gov/ij/において入手可能)によって分析した。マニュアルトラッカープラグインを用いてミトコンドリアの移動を追跡および分析した。
【0145】
統計分析
t検定を統計分析のために用いた。
【0146】
結果
apoE4およびその断片は一次ニューロンにおいて樹状突起棘密度を低減させる
樹状突起棘密度に及ぼす外因性のapoEの効果を査定するために、インビトロで14〜17日間培養したラット一次皮質および海馬ニューロンを、異なる型のapoE(7.5μg/ml)と共に24時間インキュベートした。実験の4〜6日前、細胞に、樹状突起棘において豊富な細胞骨格タンパク質であるEGFPタグ化β-アクチン(EGFP-β-アクチン)をトランスフェクトした。EGFP-β-アクチン発現は、ニューロンの機能またはシナプスの形態(EK751)を障害しない。apoE3は、樹状突起棘密度を皮質ニューロンにおいて20±6%、海馬ニューロンにおいて11±4%増加させたが、apoE4は対照と比較してそれぞれ13±5%および19±5%減少させた;その上、apoE4はapoE3と比較して27±5%および28±4%低減させた(図12)。棘の密度は、apoE4(1-272)と共にインキュベートした一次ニューロンにおいて最も大きい程度に低減され、対照に対して45±3%低減およびapoE3処置ニューロンに対して55±3%低減を引き起こした。apoE4(1-272)は、樹状突起の枝および分岐点の数を同様に有意に低減させた。ニューロン複雑度(たとえば、樹状突起領域および樹状突起伸長の長さ)の他の測定値は、いかなる型のapoEによっても影響を受けなかった。樹状突起棘密度のこれらの低減は、apoE4およびapoE4断片がシナプス形成またはシナプス維持を障害することを示唆している。
図12Aおよび12B
apoE4およびその断片は、ラット一次皮質および海馬ニューロンにおける樹状突起棘密度を低減させる
(a)様々な型のapoE(7.5μg/ml)の存在下または非存在下で(対照)24時間インキュベートしたラット一次皮質および海馬ニューロン(インビトロで16日)の樹状突起におけるシナプスEGFP-β-アクチン蛍光の共焦点顕微鏡画像。尺度のバー=5μm。(b)樹状突起伸長1μmあたりの棘の数。黒いバー、皮質ニューロン(各条件に関して細胞19〜23個の樹状突起20〜30個)。白いバー、海馬ニューロン(各条件に関して細胞10〜12個の樹状突起10〜15個)。値は平均値±SEMである。*P<0.05、***P<0.001対対応する対照:P<0.001対対応するE3(t検定)。
【0147】
apoE4およびその断片は、PC12細胞におけるミトコンドリア動力学を障害する
シナプス形成は、通常のミトコンドリア動力学および機能を必要とし、apoE4およびその断片はミトコンドリア機能障害を引き起こす。apoE4およびその断片によって引き起こされたシナプス形成の障害は、ミトコンドリア動力学の障害に関連することが決定された。高度に分化したニューロンは、広範な樹状突起領域を有し、したがってシナプス密度および活性依存的なシナプス形成は、樹状突起伸長部におけるミトコンドリアの適当な分布および機能に重大に依存する。ミトコンドリアは、核周辺で生成され、ニューロンの伸長に向かって分子モーターキネシンによって輸送される動的オルガネラである。この移動を定量するために、神経生長因子(NGF)によって分化され、ミトコンドリアマーカーdsRed2-Mito(図13a〜c)をトランスフェクトしたPC12細胞の神経突起におけるミトコンドリア動力学の蛍光低速度撮影記録のために顕微鏡アプローチが確立された。15分間の記録期間のあいだ、ミトコンドリアの約23%が移動していた(図13d);平均速度は0.67±0.13μm/分であった。KCl(4×、90 mM)42,46による繰り返し脱分極によるニューロンの活性化は、移動するミトコンドリアの百分率、真の距離、および平均速度を低減させたが(図13d〜f)、移動の速さ(移動速度)には有意な影響を及ぼさなかった(図13g)。ニューロンの活性化はまた、神経突起/神経突起の長さにおけるミトコンドリアの長さの付加として計算されるミトコンドリア指数を22.5%低減させ、おそらく分子モーター(ダイニンおよびキネシン)のカルシウム依存的連動または開放による高エネルギー需要42領域に向かう再分布をおそらく反映している。対照的に、テトロドトキシン(TTX、1μM)との1時間のプレインキュベーションによってニューロン活性が阻害されると、ミトコンドリアの動力学は増加した(図13d〜g);ミトコンドリア指数は影響を受けなかった。類似のミトコンドリア動力学は一次ニューロンにおいて報告されている。
【0148】
図13A〜G 分化したPC12細胞の神経突起におけるミトコンドリア動力学における活性依存的変化
未分化PC12細胞(a)およびNGF(40 ng/ml)によって10日間分化させたPC12細胞(b)の位相差顕微鏡写真。(c)ミトコンドリアを表す(b)(逆転シグナル)のdsRed-Mito蛍光の顕微鏡写真。(d)15分間の記録の間の様々な条件下での運動性のミトコンドリアの百分率。(e)15分間の記録の間のミトコンドリアの真の移動距離[(前方移動距離)−(後方移動距離)/n]。(f)前方平均移動速度(前方移動距離/15分)。(g)前方移動速度(前方移動距離/移動時間)。d〜gにおいて、2回の独立した実験において細胞14個からのミトコンドリア198個および細胞8個からのミトコンドリア126個をそれぞれ、対照およびKCl脱分極に関して分析した;実験1回における細胞4個からのミトコンドリア138個をTTX処置に関して分析した(1μM、1時間プレインキュベーション)。値は平均値±SEMである。*P<0.05、***P<0.001対対照(t検定)。
【0149】
次に、分化したdsRed2-MitoトランスフェクトPC12細胞を様々な型のapoE(7.5μg/ml、CSFにおけるレベルと類似)と共に24時間インキュベートすることによって、外因性のapoEの効果を査定した。運動性のミトコンドリアの百分率は、対照の場合よりapoE4処置細胞において28±7%低く、apoE4(1-272)処置細胞では37±5%低かった(図14a)。真の移動距離はapoE4によって60±7%低減し、apoE4(1-272)によって73±4%低減した(図14b)。平均前方移動速度は37±10%(apoE4)および57±6%(断片)低減した(図14c);後方速度は影響を受けなかった(示していない)。興味深いことに、apoE4(1-272)のみが移動速度を低減させた(13±3%)(図3d)。apoE3は、ミトコンドリアの動力学を有意に変化させなかった(図14a〜d)。さらに、apoE4およびapoE4(1-272)はいずれも、ミトコンドリアの長さの平均値を低減させたが、apoE3は低減させなかった(図14e)。最後に、apoEの3つの型は全てミトコンドリア指数を減少させた[apoE4(1-272)>apoE4>apoE3](Fig. 4f)。
【0150】
図14A〜F apoE4およびその断片はミトコンドリアの運動性(a〜d)を低減させて、ミトコンドリアの形態を変化させる(e〜f)
分化したPC12細胞を様々な型のapoE(7.5μg/ml)の存在下または非存在下で(対照)、37℃で24時間インキュベートした。ミトコンドリアの動力学を、移動するミトコンドリアの百分率(a)、15分間に移動した真の距離(b)、平均前方移動速度(c)、前方移動速度(d)、平均ミトコンドリア長(e)、およびミトコンドリア指数(f)として分析した。a〜fにおけるデータは、独立した2回の実験からのデータである。a〜dにおいて、対照:細胞14個からのn=198;apoE3:細胞9個からのn=159;apoE4:細胞4個からのn=52;およびapoE4(1-272):細胞6個からのn=101。e〜fにおいて、対照:細胞10個からのn=229;apoE3:細胞10個からのn=326;apoE4:細胞6個からのn=214、およびapoE4(1-272):細胞11個からのn=304。値は平均値±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001対対照;P<0.05対対応するE3(t検定)。
【0151】
ニューロンはまた、多様な病理生理学的条件でapoEを発現し、ニューロンapoE4はタンパク質分解を受けて神経毒性断片を生成する。したがって、様々な型のapoEの低レベル(約200 pg apoE/μg細胞タンパク質)を安定に発現する分化したPC12細胞においてミトコンドリア動力学に及ぼす内因性のapoEの効果を決定した(図15a)。運動性のミトコンドリアの百分率はapoE4によって35±7%低減し、apoE4(1-272)によって57±8%低減したが、apoE3によって影響を受けなかった(図15b, c)。このように、内因性のapoE4およびその断片は、これらの型のapoEを外因性に適用した場合よりかなり大きい程度にミトコンドリア動力学を障害した。
【0152】
図15A〜C
内因性のapoE4およびその断片は、様々な型のapoEを安定に発現するPC12細胞におけるミトコンドリア動力学を障害する。比較可能なレベルで様々な型のapoEを安定に発現するPC12細胞(a)をNGF(40 ng/ml)によって10日間分化させた後、dsRed2-Mito構築物をトランスフェクトした。ミトコンドリア動力学を、移動するミトコンドリアの百分率(b)および15分間に移動した真の距離(c)として分析した。対照:細胞4個からのn=31;apoE3:細胞4個からのn=26;apoE4:細胞4個からのn=22;およびapoE4(1-272):細胞4個からのn=21。値は平均値±SEMである。**P<0.01、***P<0.001対対照(分化した非トランスフェクトPC12細胞);P<0.001対対応するE3(t検定)。
【0153】
apoE4およびその断片は、電圧により開くカルシウムチャンネルまたはNMDA受容体を通してカルシウム収入を増加させることによって、ミトコンドリア動力学を障害しない
繰り返しKCl脱分極は、L型の電位感受性カルシウムチャンネル(L-VSCC)およびNMDA受容体の活性化42によりカルシウム流入を誘発することによって、ミトコンドリア動力学を変化させる。増強されたカルシウム流入が動力学に及ぼすapoE4およびapoE4(1-272)の有害な効果の原因であるか否かを決定するために、分化したPC12細胞を、異なる型のapoEおよびL-VSCCアンタゴニストであるニモジピン(5μM)およびNMDA受容体アンタゴニスト2-アミノ-5-ホスホノバレレート(AP5、50μM)と共に24時間インキュベートした。ミトコンドリア運動性は一般的に双方のアンタゴニストによって処置した細胞において約30%増加して、異なる型のapoEの効果の差は有意なままであった(図16)。
【0154】
図16 カルシウム流入の遮断はミトコンドリア運動性の障害に影響を及ぼさない
分化したPC12細胞を様々な型のapoE(7.5μg/ml)の存在下または非存在下で(対照)、L型カルシウムチャンネル遮断剤ニモジピン(5μM)およびNMDA受容体アンタゴニストAP5(50μM)(斜線のバー)の非存在下(白色のバー)または存在下(斜線のバー)において37℃で24時間インキュベートした。ミトコンドリアの運動性は、15分間の記録のあいだに移動するミトコンドリアの百分率として分析した。対照:細胞5個からのn=61;apoE3:細胞4個からのn=71;apoE4:細胞4個からのn=46;およびapoE4(1-272):細胞5個からのn=56。値は平均値±SEMである。**P<0.01、***P<0.001対対応する対照;P<0.05対対応するE3;†††P<0.001対対応するE3(t検定)。
【0155】
apoE4およびその断片はニューロンの活性化に反応してミトコンドリア運動性を障害する
ミトコンドリアの運動性は、ニューロンの活性化の効果と類似である、外因性および内因性のapoE4およびapoE4(1-272)の双方によって減弱される(図13d〜f)ことから、apoE4(1-272)によるおよび程度は低いものの完全長のapoE4による持続的な「ニューロンの活性化」は、さらなるニューロンの刺激に対するミトコンドリアの反応性を障害するという仮説が立てられた。ニューロンの刺激に反応できないことは、シナプス形成を低減させ、学習および記憶の欠損に至る。この仮説を調べるために、分化したPC12細胞を異なる型のapoE(7.5μg/ml)によって24時間処置して、KClによる繰り返し脱分極によって誘導されたニューロン活性化に対するミトコンドリアの反応性を査定した。apoE3による処置後、ニューロン活性化に反応する運動性のミトコンドリアの百分率は58±6%低減された(図17a)。しかし、この反応の程度は、apoE4による処置後に30%に低減され、apoE4(1-272)によってほぼ消失した(図17a)。
【0156】
apoE4およびその断片は活性依存的シナプス形成を障害する
一次皮質ニューロンによる類似の実験において、活性依存的シナプス形成に及ぼす効果を査定するために樹状突起棘密度を定量した。ニューロンの活性化に反応して、棘密度は対照と比較してapoE4によって48±11%およびapoE4(1-272)によって49±10%低減した(図17b)。これらの低減は、ニューロン活性化の非存在下でapoE4およびその断片によって処置したニューロンにおける低減と同等であった(図13)。
【0157】
図17Aおよび17B apoE4およびその断片は、活性依存的ミトコンドリア動力学およびシナプス形成を障害する
(a)分化したPC12細胞を様々な型のapoE(7.5μg/ml、白いバー)の存在下または非存在下(対照)で37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、いくつかの細胞を90 mM KClによって繰り返し脱分極させて(各3分間を4回、10分間の洗浄をあいだに行って)(黒いバー)、ミトコンドリア動力学を分析した。非脱分極に関して、対照:細胞14個からn=198;apoE3:細胞9個からn=159;apoE4:細胞4個からn=52;およびapoE4(1-272):細胞6個からn=101。KCl脱分極に関して、対照:細胞4個からn=48;apoE3:細胞4個からn=31;apoE4:細胞3個からn=26;およびapoE4(1-272):細胞5個からn=40。(b)一次皮質ニューロンを様々な型のapoE(7.5μg/ml)の存在下または非存在下(対照)で24時間インキュベートして、aと同様に繰り返し脱分極させて、樹状突起伸長部1μmあたりの棘の数を分析した(各条件に関して細胞10〜15個の樹状突起10〜15個)。値は平均値±SEMである。***P<0.001対(a)での非脱分極条件および**P<0.01対対照または(b)でのE3(t検定)。
【0158】
ニューロン阻害は、apoE4およびその断片によって誘発されるミトコンドリア動力学およびシナプス形成における欠損を救済する
ミトコンドリア動力学およびシナプス形成における欠損がニューロン活性に依存するか否かをさらに調べるために、本発明者らは、一次ニューロンを様々な型のapoEおよびニューロン活性を阻害するTTXと共に24時間インキュベートした。ミトコンドリア動力学(図18a)または樹状突起棘密度(図18b)において有意差は認められなかった。
【0159】
図18Aおよび18B ニューロン阻害は、ミトコンドリア動力学およびシナプス形成における欠損を救済する
(a)分化したPC12細胞を様々な型のapoE(7.5μg/ml)の存在下または非存在下(対照)で1μM TTXの存在下で37℃で24時間インキュベートした。ミトコンドリアの動力学を、移動するミトコンドリアの百分率として分析した。対照:細胞4個からn=45;apoE3:細胞6個からn=42;apoE4:細胞7個からn=32;およびapoE4(1-272):細胞8個からn=87。(b)一次皮質ニューロンを様々な型のapoE(7.5μg/ml)と共に1μM TTXの存在下で24時間インキュベートした。樹状突起の伸長1μmあたりの棘の数を分析した(各条件に関して細胞10〜11個の樹状突起10〜12個)。値は平均値±SEMである。
【0160】
apoE4およびその断片は、一次ニューロンの樹状突起におけるミトコンドリアの数、大きさ、および分布を低減させる
活性依存的シナプス形成およびシナプス機能は、適当なミトコンドリア局在を必要とすることから、様々な型のapoE処置に反応した樹状突起伸長物におけるミトコンドリアの数および分布を分析した。樹状突起の棘は、apoE3処置細胞または対照よりapoE4処置細胞においてかなり少ないミトコンドリアを有し、apoE4(1-272)によって処置した細胞ではさらに少なかった。ミトコンドリア分布の分布を定量するために、樹状突起伸長物1μmあたりミトコンドリアによって占有される面積を計算した。この面積はapoE3処置細胞よりapoE4処置細胞では25±6%小さかった(図19A)。低減はapoE4(1-272)を処置した細胞ではさらにより大きかった(44±9%)。さらに、apoE4(1-272)は、apoE3およびapoE4と比較して樹状突起ミトコンドリアの大きさの平均値を25%低減させ(図19B)、apoE4断片がミトコンドリアの分裂を刺激する、またはミトコンドリアの断片化を引き起こすことを示唆している。
【0161】
図19Aおよび19B apoE4およびその断片は一次皮質ニューロンの樹状突起におけるミトコンドリアの占有面積を低減させる
ミトコンドリア占有面積(樹状突起伸長物1μmあたりミトコンドリアによって占有される面積)(a)および条件あたり細胞6個の樹状突起におけるミトコンドリアの大きさの分布(b)。(a)における値は平均値±SEMである。**P<0.01、***P<0.001対E3(t検定)。(c)apoE4(1-272)を処置した細胞におけるミトコンドリアの大きさ(Mito-size)の分布は、apoE3またはapoE4によって処置した細胞の分布とは有意に異なった(P<0.05、直線回帰分析、ペアソン相関係数)。
【0162】
本発明は、その特異的態様を参照して記述してきたが、様々な変更を行ってもよく、同等物を置換してもよく、それらも本発明の真の趣旨および範囲に含まれることは当業者によって理解されるべきである。さらに、特定の状況、材料、問題の組成物、プロセス、プロセスの段階または複数の段階を本発明の目的、趣旨および範囲に適合させるために多くの改変を行ってもよい。そのような改変は全て、本明細書に添付される特許請求の範囲の範囲内であると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1A〜1Fは、ニューロン細胞の生存に及ぼすapoE4の効果を描写する。
【図2】図2A〜Cは、様々な型のapoE4の細胞内分布を描写する。
【図3】図3A〜Jは、apoE4断片のミトコンドリア誤局在を描写する。
【図4】図4A〜Dは、apoEポリペプチドとミトコンドリアとの相互作用に及ぼす受容体結合領域の効果を描写する。
【図5】図5Aおよび5Bは、ミトコンドリア機能障害に及ぼす脂質結合領域および受容体結合領域の効果を描写する。
【図6】ヒトapoE4(SEQ ID NO: 1)のアミノ酸配列を描写する。
【図7】図7Aおよび7Bは、様々なapoEポリペプチドのアミノ酸配列を描写する。
【図8】図8A〜Eは、未分化および分化PC12細胞、ならびにその神経突起におけるミトコンドリアの低速度撮影記録を描写する。
【図9】図9A〜Dは、ミトコンドリア運動性における活性依存型変化を描写する。
【図10】図10A〜Fは、ミトコンドリア運動性および形態に及ぼすapoEイソ型およびapoE4断片の効果を描写する。
【図11】DsRed2ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を提供する。
【図12】図12AおよびBは、ラット一次皮質および海馬ニューロンにおける樹状突起棘に及ぼすapoE4およびその断片の効果を描写する。
【図13】図13A〜Gは、分化したPC12細胞の神経突起におけるミトコンドリア動力学の活性依存的変化を描写する。
【図14】図14A〜Fは、ミトコンドリア運動性および形態に及ぼすapoE4およびその断片の効果を描写する。
【図15】図15A〜Cは、様々な型のapoEを安定に発現するPC12細胞におけるミトコンドリア動力学に及ぼす内因性のapoE4およびその断片の効果を描写する。
【図16】ミトコンドリア運動性のapoE誘発障害に及ぼすカルシウム流入遮断の効果を描写する。
【図17】図17Aおよび17Bは、活性依存型ミトコンドリア動力学およびシナプス形成に及ぼすapoE4およびその断片の効果を描写する。
【図18】図18Aおよび18Bは、ミトコンドリア動力学およびシナプス形成の欠損に及ぼすニューロン阻害の効果を描写する。
【図19】図19Aおよび19Bは、一次皮質ニューロンの樹状突起におけるミトコンドリアの占有に及ぼすapoE4およびその断片の効果を描写する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ミトコンドリアの完全性および/または機能のアポリポタンパク質E(apoE)神経毒性ポリペプチド誘発障害を低減させる物質を同定する方法:
サイトゾルにおいて毒性のapoEポリペプチドを含み、ミトコンドリアにおいて検出シグナルを提供する指標ポリペプチドを含む真核細胞を、試験物質に接触させる段階;ならびに
ミトコンドリアの完全性および/または機能に及ぼす試験物質の効果をもしあれば決定する段階であって、試験物質の非存在下でのミトコンドリアの完全性および/または機能と比較して、ミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害が低減すれば、試験物質がミトコンドリアの完全性および/または機能のapoE誘発障害を低減させることが示される段階。
【請求項2】
決定する段階が、ミトコンドリア運動性の変化を検出するための細胞のリアルタイム撮像を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
真核細胞がニューロン細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ニューロン細胞が一次ニューロンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ニューロン細胞が不死化ニューロン細胞株である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
真核細胞が毒性のapoEポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターによって遺伝子改変されており、ヌクレオチド配列が真核宿主細胞において機能的なプロモーターに機能的に連結している、請求項1記載の方法。
【請求項7】
毒性のapoEポリペプチドが、apoE4の少なくとも脂質結合領域と受容体結合領域とを含み、機能的な神経保護性のカルボキシル末端ドメインを欠損する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
毒性のapoEポリペプチドが、SEQ ID NO: 1に記載される配列のアミノ酸135〜150位およびアミノ酸241〜272位に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、該毒性のapoEポリペプチドがSEQ ID NO: 1に記載される配列のR142、K146、R147、I250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
毒性のapoEポリペプチドが、SEQ ID NO: 1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端ドメインを欠損する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
毒性のapoEポリペプチドが、SEQ ID NO: 1に記載の配列のアミノ酸273〜299位に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するカルボキシル末端部分を含み、SEQ ID NO: 1のL279、K282、およびQ284に対応するアミノ酸が、カルボキシル末端ドメインが神経保護活性を欠損するように変異している、請求項7記載の方法。
【請求項11】
apoEポリペプチドが、apoEポリペプチドと融合パートナーとを含む融合タンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
融合パートナーが、酵素、蛍光タンパク質、およびエピトープタグから選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
指標ポリペプチドがミトコンドリア局在シグナルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
毒性のアポリポタンパク質Eポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、プロモーターに機能的に連結しているヌクレオチド配列を含む核酸、ならびに
i)検出シグナルを提供する指標ポリペプチド、およびii)指標に融合したミトコンドリア局在シグナル、をコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を含む、単離真核細胞。
【請求項15】
ニューロン細胞である、請求項14記載の真核細胞。
【請求項16】
ニューロン細胞が一次ニューロンである、請求項15記載の細胞。
【請求項17】
ニューロン細胞が不死化ニューロン細胞株である、請求項15記載の細胞。
【請求項18】
毒性のapoEポリペプチドがapoE4の少なくとも脂質結合領域および受容体結合領域を含み、機能的な神経保護性のカルボキシル末端ドメインを欠損する、請求項14記載の細胞。
【請求項19】
毒性のapoEポリペプチドが、SEQ ID NO: 1に記載される配列のアミノ酸135〜150位およびアミノ酸241〜272位に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、毒性のapoEポリペプチドがSEQ ID NO: 1に記載される配列のR142、K146、R147、I250、F257、W264、およびV269に対応するアミノ酸を少なくとも含む、請求項18記載の細胞。
【請求項20】
apoEポリペプチドまたは毒性断片が、SEQ ID NO: 1に記載されるアミノ酸配列のアミノ酸273〜299位に対応するカルボキシル末端ドメインを欠損する、請求項18記載の細胞。
【請求項21】
毒性のapoEポリペプチドが、SEQ ID NO: 1に記載される配列のアミノ酸273〜299位に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するカルボキシル末端部分を含み、SEQ ID NO: 1のL279、K282、およびQ284に対応するアミノ酸が、カルボキシル末端ドメインが神経保護活性を欠損するように変異している、請求項18記載の細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2009−518047(P2009−518047A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544581(P2008−544581)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/047180
【国際公開番号】WO2007/067809
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508101797)
【Fターム(参考)】