説明

ミネラル成分が調整された塩、ミネラル成分が調整されたミネラル水及び当該塩及びミネラル水を得るための海水処理方法

【課題】 CaとMgの含有量が調整された、嗜好性の高く且つ品質にばらつきがない塩を提供するとともに、Caの含有量が多いミネラル水を提供する。また、当該塩及びミネラル水を得るための海水処理方法を提供する。
【解決手段】 海水から塩及びミネラル水を得るための海水処理方法であって、(工程1)逆浸透膜法により海水を濃縮する工程であって、NF膜に透過させる工程と、RO膜により濃縮する工程を行うことにより海水から第一濃縮水を得る工程、(工程2)前記第一濃縮水を、水分を蒸発させる蒸発法により濃縮して第二濃縮水を得る工程、(工程3)前記第二濃縮水に脱水処理を行うことにより、塩とミネラル水に分離する工程を順に行うことを特徴とする海水処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜法を利用することによりミネラル成分が調整された塩、逆浸透膜法を利用することによりミネラル成分が調整されたミネラル水及び当該塩及びミネラル水を得るための海水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天日塩方式で得られた塩(以下、天日塩と称す)及びミネラル水(にがり)が注目されている。天日塩方式とは、塩田等に海水を散布して、太陽光により水分を蒸発させる方法である(例えば、下記特許文献1参照)。そして、太陽光である程度水分を蒸発させた後、遠心分離等により、天日塩とミネラル水に分離する。
【0003】
天日塩が注目されている理由は、天日塩が、イオン交換膜製塩法等により人工的に作られた塩と異なり、ミネラル成分を多く含有するからである。塩はNaClを主成分とするが、NaClだけでは塩辛くなってしまう。しかしながら、天日塩のようにNaCl以外のミネラル成分を含有することで、味が豊かになり、嗜好性に優れた塩となる。
【0004】
天日塩に含まれるミネラル成分としては、MgとCaを挙げることができる。
Mgは苦味成分であるが、塩中に一定の割合で含まれることにより、豊かな味の塩となる。
また、Caはそれ自体は無味であるが、塩中に一定の割合で含まれることにより、塩辛さや苦さを抑え、まろやかな味の塩となる。
【0005】
しかしながら、塩を天日塩方式で製塩する場合、使用する海水や天候等によって、ミネラル成分の含有量が変化してしまうといった問題が生じる。上記したように、ミネラル成分は塩の味を決めるのに重要な役割を果たすため、ミネラル成分の含有量が変化することによって、塩の味も変化する。つまり、天日塩方式で製塩された塩は、品質にばらつきが生じてしまう。
【0006】
一方、天日塩方式により得られたミネラル水が注目されている理由も、種々のミネラル成分を多く含有するからである。このようなミネラル水は、飲料水や健康食品等の添加剤として広く利用されている。
しかしながら、天日塩方式でミネラル水を得ようとした場合、Caが海水を処理する工程においてCaSO4として析出してしまう。そのため、得られたミネラル水はCaの含有量が少ないものとなる。Caは筋肉や神経細胞を守り、体内のバランスを保つ役割を果たすものであり、体内に有用な成分であるため、ミネラル水においてもCaの含有量を増加させることが望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平11−139823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、CaとMgの含有量が調整された、嗜好性の高く且つ品質にばらつきがない塩を提供するとともに、Caの含有量が多いミネラル水を提供することを解決課題とする。また、当該塩及びミネラル水を得るための海水処理方法を提供することも解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、海水から得られた塩であって、100g当たりのMgの含有量が310mg以上500mg以下に調整され、100g当たりのCaの含有量が130mg以上330mg以下に調整されていることを特徴とする塩に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、海水から得られたミネラル水であって、1L当たりのCaの含有量が10000mg以上に調整されていることを特徴とするミネラル水に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、海水から塩及びミネラル水を得るための海水処理方法であって、下記の工程1乃至3を順に行うことを特徴とする海水処理方法に関する。
(工程1)逆浸透膜法により海水を濃縮する工程であって、NF膜に透過させる工程と、RO膜により濃縮する工程を行うことにより海水から第一濃縮水を得る工程
(工程2)前記第一濃縮水を、水分を蒸発させる蒸発法により濃縮して第二濃縮水を得る工程
(工程3)前記第二濃縮水に脱水処理を行うことにより、塩とミネラル水に分離する工程。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記工程1として、前記RO膜により濃縮する工程を行った後、前記NF膜に透過させる工程を行うことを特徴とする請求項3記載の海水処理方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記NF膜に透過させる工程を2回以上行うことを特徴とする請求項4記載の海水処理方法に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記工程1として、前記NF膜に透過させる工程を行った後、前記RO膜により濃縮する工程を行うことを特徴とする請求項3記載の海水処理方法に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記工程1乃至3を行った後に、下記工程4を行うことを特徴とする請求項3乃至6いずれか記載の海水処理方法に関する。
(工程4)前記ミネラル水を蒸発法によりさらに濃縮することで濃縮ミネラル水を得る工程。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記第二濃縮水のボーメ比重値が、27.0以上28.0以下であることを特徴とする請求項3乃至7いずれか記載の海水処理方法に関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記海水が海洋深層水であることを特徴とする請求項3乃至8いずれか記載の海水処理方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、海水から得られた塩であって、100g当たりのMgの含有量が310mg以上500mg以下に調整され、100g当たりのCaの含有量が130mg以上330mg以下に調整されていることにより、嗜好性の高い塩となる。また、当該塩はCa、Mgの含有量が調整されているため、天日塩と異なり、ばらつきのない均一な品質を維持することができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、海水から得られたミネラル水であって、1L当たりのCaの含有量が10000mg以上に調整されていることにより、健康面での付加価値が大きいものとなり、飲料水等の添加剤として好適に利用可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、NF膜に透過させる工程と、RO膜により濃縮する工程を行うことにより海水から第一濃縮水を得る工程(工程1)を有することで、SO4を除去することができ、それにより、Caの多い塩及びミネラル水を得ることができる。
さらに、工程1で得た第一濃縮水に対して、水分を蒸発させる蒸発法により濃縮して第二濃縮水を得る工程(工程2)及び第二濃縮水に脱水処理を行い、塩とミネラル水に分離する工程(工程3)を行うことにより、Ca及びMgの調整された塩及びCaが調整されたミネラル水を得ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、工程1として、RO膜により濃縮する工程を行った後、NF膜に透過させる工程を行うことにより、海水の淡水化処理の際に排水として排出される、RO膜により濃縮された海水を有効利用することができる。そのため、作業効率を向上させることができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、NF膜に透過させる工程を2回以上行うことにより、より確実にSO4を除去することができ、それにより、Caの多い塩及びミネラル水を得ることができる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、工程1として、NF膜に透過させる工程を行った後、RO膜により濃縮する工程を行うことにより、良好な生産効率を実現することができる。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、工程1乃至3を行った後に、ミネラル水を蒸発法によりさらに濃縮することで濃縮ミネラル水を得る工程(工程4)を行うことにより、ミネラル水1L当たりのCaの含有量をより多くすることができる。
また、Naの含有量を抑えることもできる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、第二濃縮水のボーメ比重値が、27.0以上28.0以下であることにより、100g当たりのMgの含有量が310mg以上500mg以下、100g当たりのCaの含有量が130mg以上330mg以下である塩を得ることができる。
さらに、Caの1L当たりの含有量が10000mg以上のミネラル水を得ることができる。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、海水が海洋深層水であることにより、多くの種類のミネラル成分を含んだ塩を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る塩及びミネラル水について説明する。
本発明に係る塩は、海水から得られた塩であって、100g当たりのMgの含有量が310mg以上500mg以下に調整され、100g当たりのCaの含有量が130mg以上330mg以下に調整された塩である。
一方、海水中の塩分濃度は、場所等によっても異なるが、約3.5%であり、その塩分中のMgは、MgCl2やMgSO4の形で含まれている。そして、Mg自体の比率は、塩分全体の4%前後である。また、CaはCaSO4の形で含まれており、Ca自体の比率は、塩分全体の2%前後である。つまり、本実施例に係る塩は、Mg及びCaの含有量が、海水中の塩分における含有量と同程度である。このような含有量であることにより、嗜好性の高い味の塩となる。
【0028】
本実施例に係る塩において調整されたMg、Caについて具体的に説明する。
塩の中に含有されるMgは苦味成分であり、Mgが含有されることによって、塩の味が豊かになる。また、Caはそれ自体無味であるが、Caが含有されることにより、NaClの塩辛さ等を抑え、まろやかな味となる。このような役割を果たすMgやCaが本実施例のような含有量であることにより、嗜好性の高い塩となる。
さらに、本願発明者らの実験的知得により、上記両成分の配合量の組み合わせ(バランス)が食味的、栄養成分的に望ましいことがわかった。
仮に、Mgの100g当たりの含有量が310mg以上500mg以下の場合でも、Caの100g当たりの含有量が130mg未満の場合、塩辛さや苦味が際立ち、まろやかな味とならず好ましくなく、逆にCaの100g当たりの含有量が330mgより多い場合は、味が薄くなってしまうので好ましくないため、結局いずれの場合も好ましくない。
また、Caの100g当たりの含有量130mg以上330mg以下の場合でも、Mgの100g当たりの含有量が310mg未満の場合、味に豊かさがなくなり、好ましくなく、逆に、Mgの100g当たりの含有量が500mgより多い場合、苦味が強くなりすぎて好ましくないため、結局いずれの場合も好ましくない。
【0029】
さらに、本発明に係る塩は、天日塩方式により得られる塩とは異なり、MgやCaの含有量が調整され、バランスが予め保たれているため、味のばらつきが生じず、均一な品質の塩となる。つまり、MgやCaの含有量が規格外の所謂不良製品が発生することを防ぐことができる。そのため、製品歩留りの向上や、不良製品の抜き取り等の手間の削減を図ることができ、生産効率を向上させることができる。
【0030】
また、本発明に係るミネラル水は、海水から得られるミネラル水であって、1L当たりのCaの含有量が10000mg以上である。当該含有量は、天日塩方式により得られたミネラル水等の100倍以上である。
Caは筋肉や神経細胞を守り、体内のバランスを保つ役割を果たすものであるため、含有量が10000mg以上であることにより、健康面での付加価値が高いものとなる。そのため、飲料水の添加剤等にも好適に利用することができる。
さらに、上記したように、Caは味をまろやかにする作用も有するため、この点からも、飲料水の添加剤等として好適であるといえる。
【0031】
塩及びミネラル水を得るために用いる海水としては、海洋深層水が好ましい。海洋深層水とは概ね100m以深の海水であり、細菌やウイルスの混入が少なく、且つCaやMg以外にも多くの種類のミネラル成分を含む。海洋深層水がこれらの成分を多く含む理由は、表層水と比較して水温が低く、加えて、水温変動も少ないためである。
海洋深層水を用いることにより、得られた塩及びミネラル水も多くの種類のミネラル成分が含有されることとなるからである。
【0032】
次いで、本発明に係る海水処理方法の実施例について、図面を参照しつつ説明する。
本実施例に係る海水処理方法は、海水から塩とミネラル水を得る方法であり、図1は本実施例に係る海水処理方法のフローを示した図である。本実施例に係る海水処理方法を図1を用いて説明する。
まず、逆浸透膜法により海水10を濃縮して第一濃縮水11とする工程1を行う。
逆浸透膜法とは、水分及び一定の大きさ以下のミネラル成分のみを透過させる逆浸透膜により海水を濃縮する方法であり、具体的には海水に圧力をかけて逆浸透膜に透過させることで、逆浸透膜を透過した透過水と、水分が減少して濃縮された濃縮水に分離する方法である。なお、工程1では、逆浸透膜として、RO(Reverse Osmosis)膜及びNF(Nano Filtration)膜を用いる。
具体的には、工程1は、海水10をRO膜を用いて濃縮させ、RO濃縮水12を得る工程1aと、工程1a後に、NF膜に透過させ、NF透過水13を得る工程1bよりなる。
工程1終了後、第一濃縮水11を蒸発法により濃縮し、第二濃縮水14を得る工程2を行う。その後、第二濃縮水14に脱水処理を施す工程3を行うことで、第二濃縮水14を塩15とミネラル水16に分離することができる。
【0033】
さらに、工程1乃至3により得られたミネラル水16を再度濃縮し、析出物を除くことで濃縮ミネラル水17を得る工程4を行う。
以下、工程1乃至4について順に説明する。
【0034】
(工程1)
工程1は、海水10をRO膜を用いて濃縮させてRO膜濃縮水12を得る工程1aと、RO膜濃縮水12をNF膜に透過させてNF膜透過水13を得る工程1bとからなる。
【0035】
図2は、工程1を行うための逆浸透膜装置100の構成を示した説明図であり、以下、逆浸透膜装置100を説明することで、工程1について説明する。
逆浸透膜装置100はRO膜処理部21と、NF膜処理部22よりなる。
【0036】
RO膜処理部21には、海水10が供給され、濃縮される。
海水10の濃縮は、RO膜処理部21に設けられたRO膜21aを用いて、逆浸透法により行われる。
【0037】
RO膜21aは平均孔径0.5nm程度の半透明膜であり、水は透過するが、その他の分子等は透過しにくいため、海水10を濃縮するのに適している。
【0038】
また、RO膜処理部21に供給される海水10としては、海洋深層水が好ましい。海洋深層水は種々のミネラル成分が豊富に含有されているため、本実施例により得られた塩及びミネラル水も、種々のミネラル成分を豊富に含有することになるからである。
【0039】
海水10の供給はRO膜処理用ポンプ21bにより行われる。RO膜処理用ポンプ21bは、海水10を必要な圧力で供給することができるものであればよく、例えば、多段型ポンプやプランジャー型ポンプ等を挙げることができる。
【0040】
NF膜処理部22は、RO膜処理部21により濃縮されたRO膜濃縮水12をNF膜22aに透過させることで、NF膜透過水13とする。NF膜透過水13は、第一濃縮水11として工程2に供されるものである。
【0041】
NF膜22aは、平均孔径5nm程度の半透明膜であり、水、低分子量有機物、一価イオン等は透過させるが、中高分子量有機物や多価イオン等は透過しにくいという性質を有するものである。
NF膜22aを透過しにくい物質としてはSO4が挙げられる。SO4がNF膜22aを透過しにくいため、RO膜濃縮水12をNF膜22aに透過させることで、得られたNF膜透過水13はSO4の含有量が大幅に減少したものとなる。
一般的にCaはSO4と結合してCaSO4として析出するが、NF膜透過水13は、SO4の含有量が少ないため、CaはSO4と結合することができず、後の濃縮過程等でも、イオンの状態で濃縮水内に存在することとなる。そのため、Caの含有量の多い塩及びミネラル水を得ることができる。
【0042】
RO膜濃縮水12のNF膜処理部22への供給は、NF膜処理用ポンプ22bにより行われる。NF膜処理用ポンプ22bは必要な圧力でRO膜濃縮水12を供給できるものであればよく、RO膜処理用ポンプ21bと同様のものを例示することができる。
【0043】
なお、本実施例では工程1aを行うことでRO膜濃縮水12を得ているが、RO膜濃縮水12は、海水の淡水化を行う際に多量に排出されるものである。従って、RO膜濃縮水として、当該排水を使用することもでき、当該実施例は、RO膜濃縮水の有効利用の観点からも優れた方法であるといえる。
【0044】
また、上記実施例では、RO濃縮水12を、NF膜処理部22のNF膜22aに1回のみ透過しているが、複数回透過させてもよい。
図3は、RO膜処理部21によりRO濃縮水12を得、その後、NF膜処理部22のNF膜22aに2回透過させた場合の構成を示した説明図を示す。便宜上、NF膜22aに1回透過させた後の透過水をRO透過水13aとし、2回透過させた後の透過水をRO透過水13bと称す。
NF膜22aに2回透過させることにより、1回目の透過で除去しきれなかったSO4を除去することができ、後の濃縮工程等でCaが析出することをより確実に防ぐことができる。さらに、NF膜22aに2回透過させたとしても、MgやCaの含有量は減少しない。そのため、後の工程を経て得られた塩においても、Mg、Caの含有量の多い、嗜好性の高い塩を得ることができ、且つCaの含有量の多いミネラル水を得ることもできる。
なお、図3ではNF膜22aへの透過を2回行っているが、NF膜22aの透過を2回以上行ってもよい。2回以上透過させることにより、より確実にSO4を除去することができ、また、MgやCaの含有量も減少しない。そのため、Ca、Mgの含有量の多い塩及びCaの含有量の多いミネラル水を得ることができる。
【0045】
また、工程1は、図4に示すように、海水10を、最初にNF膜処理部22によりNF膜透過水13aとした後、NF膜透過水13aをRO膜処理部21に供給することにより、RO膜濃縮水12aとしても良い。これにより、図2で示した実施例よりも生産効率を向上させることができる。この場合、RO濃縮水12aが第一濃縮水11となる。
また、最初のNF膜22aへの透過を複数回行った後、RO膜21aにより濃縮させてもよい。NF膜22aへの透過を複数回行ったとしても、Mg、Caの含有量は減少せず、さらに、より確実にSO4を除去し、後の濃縮工程等でのCaの析出を防ぐことができる。そのため、Ca、Mgの含有量の多い塩を得つつ、Caの含有量の多いミネラル水を得ることができる。
【0046】
(工程2)
次いで、工程2について説明する。
工程2は、工程1により得られた第一濃縮水11を、蒸発法により濃縮し、第二濃縮水14とする工程である。
蒸発法とは、海水に熱エネルギーをくわえて水分を蒸発させることにより濃縮する方法である。
この時、第二濃縮水14は、ボーメ比重値(以下、Be’と示すこともある)が27.0以上28以下となるように濃縮することが好ましい。ボーメ比重値とは、海水処理工程等で濃縮水の濃度を示す単位として用いられるものであり、ボーメ比重値が大きい程、濃度が高いといえる。
Be’が27.0以上28以下であることにより、第二濃縮水14におけるNaの含有量が減少し、且つMg,Ca等の成分の含有量が増加する。つまり、全ミネラル成分におけるMg、Caの含有量が増加することとなる。
このような第二濃縮水14を後の工程で塩とミネラル水に分離した場合、塩はMgが310mg以上500mg以下、Caが130mg以上330mg以下となる。また、ミネラル水1L当たりのCaの含有量が10000mg以上となる。このように、工程2においてBe’を調整することにより、Mg、Ca等のミネラル成分が調整された塩及び、Caが調整されたミネラル水を得ることができる。
【0047】
図5は工程2を実施するための蒸発法濃縮装置200を示す図である。
蒸発法濃縮装置200は、攪拌蒸発缶31、冷却装置32、凝縮水回収タンク33より構成される。
【0048】
攪拌蒸発缶31は第一濃縮水11を濃縮するためのものである。
攪拌蒸発缶31へのNF膜浸透水の供給は、供給ホース34より行われる。このとき、供給ホース34に取り付けられた流量計34aにより流量が計測され、目的量が供給される。
攪拌蒸発缶31は、外側缶31aと内側缶31bの二重構造となっており、外側缶31aと内側缶31bの間に蒸気ボイラー35から送られる熱源蒸気が通ることで、缶内の濃縮海水を加熱する構造となっている。このとき、第一濃縮水11は、海水濃度が均一になるように攪拌棒31cにより攪拌される。攪拌棒31cの回転速度はインバータ制御により任意に設定することができる。また、攪拌蒸発缶31上部には、缶内の状況が確認できるように点検口(図示せず)が取り付けられており、缶内での析出・付着状況及び第一濃縮水11の攪拌状態を観察できるようになっている。
【0049】
冷却装置32は、攪拌蒸発缶31内で発生した蒸気を冷却するものである。蒸気は真空ポンプ36により冷却装置32へ供給される。蒸気は冷却装置32により冷却されることで、凝縮された凝縮水となる。
【0050】
凝縮水回収タンク33は、冷却装置32により冷却された凝縮水を回収するためのタンクである。凝縮水回収タンク33の上部の蓋にはフロート式レベルセンサ33aが取り付けられており、タンク内の液面を連続的に計測することができる。
【0051】
濃縮により得られた第二濃縮水14は攪拌蒸発缶31の下部の排出口37より外気圧下に戻された後排出される。そして、工程3に供される。
なお、攪拌蒸発缶31内の温度と圧力は、フロート式レベルセンサ33aのデータと共に、コンピュータにより管理される。
【0052】
(工程3)
次いで、工程3について説明する。
工程3は、工程2により濃縮された第二濃縮水14を、塩15とミネラル水16に分離する工程である。
具体的には、第二濃縮水14を脱水することで、塩15を得ることができる。また、脱水処理で除かれた水分がミネラル水16となる。
【0053】
この時、第二濃縮水のBe’が27.0以上28.0以下の場合、得られた塩は、100g当たりの各成分の含有量が、Mgが310mg以上500mg以下、Caが130mg以上330mg以下となり、嗜好性の高い塩を得ることができる。
また、第二濃縮水のBe’を調整することにより、Mg及びCaの含有量を均一にすることもでき、塩の品質のばらつきを抑えることができる。つまり、Mg及びCaの含有量が規格外となった所謂不良製品が発生することを防ぐことができる。
さらに、第二濃縮水のBe’が27.0以上28.0以下の場合、得られたミネラル水は、Caの含有量が1L当たり10000mg以上となる。これにより、健康面での付加価値が向上し、飲料水等の添加剤として好適に利用可能なものとなる。
【0054】
第二濃縮水14の脱水としては特に限定されないが、例えば、遠心分離機で行う方法が挙げられる。遠心分離機により脱水することで、高い脱水効率を実現することができる。
【0055】
(工程4)
工程4は、工程3で得られたミネラル水16を蒸発法により再度濃縮することにより濃縮ミネラル水17を得る工程である。このとき、析出物が析出する場合は、当該析出物は取り除けばよい。
工程4を行うことにより、1L当たりのCaの含有量をより多くすることができる。
また、Naの含有量を減らすこともできる。Naは取り過ぎると高血圧を引き起こす等の問題があるため、Naを減らすことは、健康面での付加価値をさらに向上させることにもつながる。
具体的には、濃縮倍率を1.5倍以上とすることが好ましい。これにより、Na成分の含有量を十分に低くすることができる。
ミネラル水16の濃縮方法としては、工程2と同様の装置で行うことができる。
【0056】
また、濃縮ミネラル水17は液体状であるが、乾燥させて粉末状ミネラルとして利用しても良い。但し、濃縮ミネラル水を乾燥させて粉末状とした場合、当該粉末は吸湿性が高い状態となる。このような状態の場合、使用前に空気中の水分を吸収するため、使用時に使い勝手が悪くなる。
そのため、粉末化したミネラルをコーティング剤でコーティングすることが好ましい。これにより、粉末状ミネラルの吸湿性を抑えることができる。なお、コーティング剤としては、グルタミン酸ソーダ、ブドウ糖等の糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0057】
濃縮ミネラル水17を粉末化する方法としては、高温低圧下に濃縮ミネラル水を噴霧させて、熱風で乾燥させる方法が挙げられる。
また、粉末状ミネラルをコーティングする方法としては、高温低圧下において粉末状ミネラルを飛散させ、飛散させた粉末状ミネラルにコーティング剤を噴霧させて吹き付けることで行うことができる。
【0058】
(試験例)
以下、本発明の海水処理方法に係る試験例を示すことで、本発明の効果をより明確なものとする。
【0059】
(試験例1)
まず、NF膜とRO膜による処理により、海水内の成分がどのように変化するかを検証する。なお、以下の試験例において、NF膜としては、東レ株式会社製、SU−610を用い、RO膜としては東レ株式会社製、SU−810を用いた。また、処理前の海水としては、Be’3.4の海洋深層水を用いた。
【0060】
表1は、NF膜による処理後、RO膜による処理を行う過程(図4参照)(以下、NF→RO過程と称す)で、処理前の海水10と、海水10をNF膜22aに透過させたNF膜透過水13aと、NF膜透過水13aをRO膜21aにより濃縮したRO膜濃縮水12aについて、各成分の含有量を測定した結果を示した表である。測定した成分は、Na、Mg、Ca、SO4であり、単位はmg/Lで示している。
【0061】
【表1】

【0062】
表1におけるNF膜透過水13aの欄のSO4の値は、測定ができないほど含有量が少ないことを示す。つまり、海水10をNF膜22aに透過させることにより、SO4の大半を除去することができることがわかる。
また、RO膜濃縮水12aの欄の値が示すように、NF膜透過水をRO膜21aにより濃縮したとしても、RO膜濃縮水のSO4は海水の約1/4程度である。一方、SO4以外の成分については、処理前の海水よりも増加している。
つまり、海水をNF膜に透過させた後、RO膜により濃縮することで、SO4の含有量の比率を他の成分に比して非常に小さくすることができることがわかる。これにより、後の濃縮過程でCaがSO4と結合して、析出することを防ぐことができる。そのため、当該方法で得た濃縮水を用いることで、Caの含有量が多い塩及びミネラル水を得ることができる。
【0063】
表2は、RO膜による処理後、NF膜による処理を行う過程(図2参照)(以下、RO→NF過程と称す)で得たNF膜透過水13の各成分の含有量を測定した結果を示した表である。なお、含有量を測定した成分は、Na、Mg、Caであり、単位はmg/Lで示している。
また、表3は、表1のRO膜濃縮水12aと表2のNF膜透過水13について、Naを1としたときのMg、Caの比率を示した表である。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表2に示すように、NF膜透過水13の各成分の含有量は、表1に示すRO膜濃縮水12aの各成分の含有量より若干低い値を示したが、海水10よりは十分に濃縮されている。また、表3より、成分比率は、NF→RO過程でも、RO→NF過程でも略同一の値を示している。つまり、RO→NF過程は、NF→RO過程より、濃縮水の生産効率が若干落ちるものの、十分に利用可能なであるといえる。加えて、RO→NF過程には、海水の淡水化に伴い排水となるRO膜濃縮水を利用することも可能であるため、RO膜濃縮水の有効利用といった観点からも優れている。
【0067】
(試験例2)
次いで、逆浸透膜法による処理(工程1)後、蒸発法による処理(工程2)をすることで、含有される成分がどのように変化するかを検証する。
なお、蒸発法による処理は、濃縮水を大気圧下にて100℃で加熱することにより行った。そして、CaSO4が生じるBe’24まで濃縮した後、析出したCaSO4を除いてBe’28まで再度濃縮した。また、サンプリングは4時間ごとに500mlずつ行った。
【0068】
図6はRO→NF過程を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図であり、図7はNF→RO過程を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図である。また、図8はRO膜による処理後、NF膜による処理を2回行う過程(以下、RO→NF→NF過程と称す)を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図である。さらに、比較例として、図9にRO膜のみ透過させた海水を蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示す。なお、図6乃至9において、(a)がNa、(b)がMg、(c)がCaの含有量を夫々示し、縦軸が含有量(mg/L)、横軸がBe’値である。
【0069】
図6乃至9を比較すると、本発明の実施例でもある図6乃至8については、すべての成分において同じ挙動を示している。従って、まず、図6乃至8について説明する。
【0070】
図6乃至8の(a)に示すように、NaについてはBe’25付近をピークとし、それ以上では減少している。
また、図6乃至8の(b)及び(c)に示すように、Mg、Caの成分についてはBe’25付近から含有量が増大している。
つまり、図6乃至8では、Be’25付近から、Naの含有量が減少し、且つMg,Caの成分の含有量が増加している。そのため、全ミネラル成分におけるMg、Caの含有量が増加することとなる。
【0071】
一方、比較例である図9についてみると、(a)及び(b)は図6乃至8と同様の挙動を示しているが、(c)に示すCaについては、Be’12付近をピークに含有量が減少し始め、Be’28以上では検出できない程少ない含有量となっている。
【0072】
図5乃至8を図9と比較することにより、NF膜とRO膜による処理を含む工程1を行った後に蒸発法で濃縮することで、Caが大きく増大することがわかる。これは、工程1において海水をNF膜に透過させることで、SO4が減少したため、CaがSO4と結合して析出せずに残っていたからだと考えられる。
【0073】
また、図8において、NF膜に2回透過させたにも関わらず、NF膜に1回しか透過させていない図6及び図7と同じ挙動を示した。つまり、NF膜に2回透過させたとしても、Mg、Caについては変化しないことがわかる。そのため、NF膜に2回透過させたとしても、Ca、Mgの多い塩及びミネラル水を得ることができるといえる。
【0074】
(試験例3)
次いで、工程3において第二濃縮水を脱水処理により分離して得た塩の品質について検証する。
図10は、工程3の脱水処理を経ることで得られた塩の成分の含有量を示した図であり、縦軸に含有量(mg/100g)、横軸に第二濃縮水のBe’値を示す。
また、図中(a1)乃至(a3)が工程1でRO→NF過程を経た場合の含有量を示し、(b1)乃至(b3)がNF→RO過程を経た場合の含有量を示す。そして、(a1)乃至(a3)、若しくは(b1)乃至(b3)は順にNa、Mg、Caを示す。
【0075】
また、表4は、本発明に係る塩におけるNa、Mg、Caの最適な含有量を示したものであり、図10中における当該含有量の範囲は破線で挟まれた範囲である。
【0076】
【表4】

【0077】
図10に示す如く、NF→RO過程、RO→NF過程によらず、各成分とも同様の傾向を示す。そして、Be’が27.0以上28以下の範囲において、表1に示した含有量を満たすこともわかる。つまり、工程2において、蒸発法でBe’が27.0以上28以下の範囲に濃縮することで、MgとCaの含有量が最適な値に調整された塩を生産可能であるといえる。
【0078】
(試験例4)
次いで、工程4において、ミネラル水及び濃縮ミネラル水の各成分の含有量について検証する。
図11は工程1でNF→RO過程を経たときのミネラル水(以下、NF→ROミネラル水とする)を濃縮した場合の含有量と、既存もミネラル水を濃縮した場合の含有量を比較したものであり、(a)がCa、(b)がNa、(c)がK、(d)がMgを示す。また(a1)(b1)(c1)(d1)がNF→ROミネラル水を示し、(a2)(b2)(c2)(d2)が既存のミネラル水を示す。なお、図11中、縦軸が含有量(mg/L)、横軸が濃縮倍率を示し、NF→ROミネラル水については、実験の関係上、濃縮率は1倍、1.4倍、1.5倍のみを測定した。
【0079】
図11(a)で示す如く、既存のミネラル水は、Caを殆ど含有しないのに比して、NF→ROミネラル水は濃縮しなくても、1L当たり10000mg以上の含有量を有し、濃縮するほどに、当該含有量が向上していくことがわかる。当該結果より、本発明に係るミネラル水は、健康面での付加価値の高いものであるといえる。
また、図11(b)に示すように、Naは濃縮するほど減少していくことがわかる。Naは高血圧の原因にもなることから、当該結果からも、本発明に係るミネラル水が健康面での付加価値の高いものであるといえる。
【0080】
なお、表5は、NF→ROミネラル水を濃縮した場合の各成分の含有比率を示すものであり、具体的には、Na成分を1としたときの他の成分の含有比率を示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5からも、工程3の脱水処理により得られたミネラル水が、工程4においてさらに濃縮することで、Na以外の成分の含有量が増大する、つまり、Naの含有量が減少することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により得られる塩は、食塩として使用され、様々な料理に好適に利用可能である。
また、本発明により得られるミネラル水は、飲料水の添加剤や健康食品として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】海水処理方法のフローを示した図である。
【図2】工程1を行うための逆浸透膜装置の構成を示した説明図である。
【図3】工程1において、NF膜を2回透過する場合の逆浸透膜装置の構成を示した説明図である。
【図4】工程1を行うための逆浸透膜装置の違う構成を示した説明図である。
【図5】工程2を実施するための蒸発法濃縮装置を示す図である。
【図6】RO→NF過程を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図である。
【図7】NF→RO過程を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図である。
【図8】RO→NF→NF過程を経た後に蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示した図である。
【図9】RO膜のみ透過させた海水を蒸発法により濃縮したときの各成分の含有量の変化を示す図である。
【図10】工程3の脱水処理を経ることで得られた塩の成分の含有量を示した図である。
【図11】NF→ROミネラル水を濃縮した場合のCa含有量と、既存もミネラル水を濃縮した場合のCaの含有量を比較した図である。
【符号の説明】
【0085】
1 工程1
2 工程2
3 工程3
4 工程4
10 海水
11 第一濃縮水
14 第二濃縮水
15 塩
16 ミネラル水
17 濃縮ミネラル水
21a RO膜
22a NF膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水から得られた塩であって、100g当たりのMgの含有量が310mg以上500mg以下に調整され、100g当たりのCaの含有量が130mg以上330mg以下に調整されていることを特徴とする塩。
【請求項2】
海水から得られたミネラル水であって、1L当たりのCaの含有量が10000mg以上に調整されていることを特徴とするミネラル水。
【請求項3】
海水から塩及びミネラル水を得るための海水処理方法であって、下記の工程1乃至3を順に行うことを特徴とする海水処理方法
(工程1)逆浸透膜法により海水を濃縮する工程であって、NF膜に透過させる工程と、RO膜により濃縮する工程を行うことにより海水から第一濃縮水を得る工程
(工程2)前記第一濃縮水を、水分を蒸発させる蒸発法により濃縮して第二濃縮水を得る工程
(工程3)前記第二濃縮水に脱水処理を行うことにより、塩とミネラル水に分離する工程。
【請求項4】
前記工程1として、前記RO膜により濃縮する工程を行った後、前記NF膜に透過させる工程を行うことを特徴とする請求項3記載の海水処理方法。
【請求項5】
前記NF膜に透過させる工程を2回以上行うことを特徴とする請求項4記載の海水処理方法。
【請求項6】
前記工程1として、前記NF膜に透過させる工程を行った後、前記RO膜により濃縮する工程を行うことを特徴とする請求項3記載の海水処理方法。
【請求項7】
前記工程1乃至3を行った後に、下記工程4を行うことを特徴とする請求項3乃至6いずれか記載の海水処理方法
(工程4)前記ミネラル水を蒸発法によりさらに濃縮することで濃縮ミネラル水を得る工程。
【請求項8】
前記第二濃縮水のボーメ比重値が、27.0以上28.0以下であることを特徴とする請求項3乃至7いずれか記載の海水処理方法。
【請求項9】
前記海水が海洋深層水であることを特徴とする請求項3乃至8いずれか記載の海水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−156173(P2008−156173A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348455(P2006−348455)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(398025432)室戸海洋深層水株式会社 (3)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】