説明

ムコール菌症、及びその他の真菌疾患の治療のためのワクチン組成物、及び方法

本発明は、ムコール菌症を含む真菌疾患、又は状態を治療し、及び予防するための治療的な組成物、及び方法を提供する。本発明の治療的な方法、及び組成物は、FTRポリペプチド、又はポリペプチドの抗原性断片を有するワクチン組成物;FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチドに実質的に相補的なヌクレオチド配列を含むベクター;アンチセンス;低分子干渉RNA、又はFTRの抗体阻害剤を含む。本発明のワクチン組成物は、アジュバントを更に含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、一部において、NIAIDによって授与されたNIH助成金011671の下で米国政府支援によりなされた。米国政府は、本発明に特定の権利を有し得る。
【0002】
本発明は、一般に感染性疾患に対して対象にワクチン接種をするための組成物、及び方法に関し、並びにより詳細には、日和見真菌疾患に対して対象にワクチン接種をするための組成物、及び方法に関する。
【0003】
250,000の公知の真菌種のうちの約180は、ヒト、及び動物における疾患(真菌症)を生じさせることが認識されている。真菌の一部、例えば、全身性病原体ヒストプラスマカプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、及びコクシジオイデスイミティス(Coccidioides immitis)は、全ての曝露された対象において感染を確立することができる。その他、カンジダ属(Candida)、アセルギルス(Asergillus)種、及び接合菌綱(Zygomycetes)などは、日和見病原体であり、通常、欠陥のある宿主のみにおいて疾患を生じさせる。綱接合菌綱、目ケカビ目(Mucorales)の真菌は、ヒトにおける潜在的に致命的な真菌感染であるムコール菌症を生じさせることができる。目ケカビ目に属する菌類は、少なくとも6つの科に分けられ、その全てがムコール菌症を生じさせることができる(W. E. Dismukes、P. G. Pappas、及びJ. D. Sobel(編)、Clinical Mycology、Oxford University Press、New York(2003)のIbrahimらの文献、Zygomycosis、241-251ページ;Kwon-Chung, K. J.、及びJ. E. Bennettの文献、Mucormycosis、524-559ページ、Medical Mycology、Lea & Febiger、Philadelphia(1992)、及びRibesらの文献、ヒト疾患における接合菌綱(Zygomycetes in Human Disease)、Clin Microbiol Rev 13:236-301(2000))。しかし、科ケカビ科に属する真菌、及び特に種リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)(リゾープス・アリズス(Rhizopus arrhizus))は、遙かに一般的な感染の原因である(Ribesらの文献、上記)。クンニンハメラ科のクンニンハメラ属(Cunninghamella)種による感染により、ムコール菌症の症例が増加していることが、また報告されている(Cohen-Abboらの文献、Clinical Infectious Diseases 17:173-77(1993);Kontoyianisらの文献、Clinical Infectious Diseases 18:925-28(1994);Kwon-Chungらの文献、American Journal of Clinical Pathology 64:544-48(1975)、及びVenturaらの文献、Cancer 58:1534-36(1986))。ケカビ目の残りの4つの科は、あまり頻繁にはない疾患の原因である(Bearerらの文献、Journal of Clinical Microbiology 32:1823-24(1994);Kamalam、及びThambiah、Sabouraudia 18:19-20(1980);Kemnaらの文献、Journal of Clinical Microbiology 32:843-45(1994);Lyeらの文献、Pathology 28:364-65(1996)、及びRibesらの文献、(上記))。
【0004】
ムコール菌症の媒体は、ほぼ一様に免疫無防備状態宿主に影響を及ぼす(Spellbergらの文献、Clin. Microbiol. Rev. 18:556-69(2005))。ムコール菌症に対する主なリスク因子は、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)として公知のケトアシドーシスにおける抑制されない真性糖尿病、代謝性アシドーシスのその他の形態、コルチコステロイドでの治療、器官又は骨髄移植、好中球減少、外傷及び火傷、悪性血液疾患、及び血液透析を受けている対象におけるデフェロキサミンキレート化-療法を含む。
【0005】
最近の報告は、この20年にわたって報告されたムコール菌症の症例数の著しい増加を示した(Gleissnerらの文献、Leuk. Lymphoma45(7):1351-60 (2004))。また、ムコール菌症の発病率の驚くべき上昇が、主要な移植センターにおいてあった。例えば、Fred Hutchinson Cancer Centerにおいて、Marrらの文献は、1985-1989年から1995-1999年までの症例数が2倍以上多いことを記述した(Marrらの文献、CHn. Infect. Dis. 34(7):909-17 (2002))。同様に、Kontoyiannisらの文献、は、同様の期間にわたって移植対象におけるムコール菌症の発病率が2倍以上多いことを記述した(Kontoyiannisらの文献、Clin. Infect. Dis. 30(6):851-6(2000))。老化している米国人口における糖尿病の罹患率、癌、及び臓器移植の増加を考慮すると、ムコール菌症の発病率の上昇は、近い将来の間、変わらず続くことが予想される。
【0006】
浸潤性のムコール菌症のために利用できる療法は、根底にある疾病素質を逆転させる試み、感染した領域の緊急の、広範囲にわたる外科的壊死組織切除、及び補助的抗真菌薬療法を含む(Edwards, J., Jr.の文献、Zygomycosis、1192-1199ページ。P. Hoeprich、及びM. Jordan(編)、感染性疾患(Infectious Disease)、第4版J. B. Lippincott社、Philadelphia(1989);Ibrahimらの文献、(2003)、上記;Kwon-Chung、及びBennett(上記);Sugar, A. M.の文献、ムコール菌症、及び関連種の薬剤(Agent of Mucormycosis and Related Species)、2311-2321ページ。G. Mandell、J. Bennett、及びR. Dolin(編)、感染疾患の原理、及び実務(Principles and Practices of Infectious Diseases)、第4版、Churchill Livingstone、New York(1995))。
【0007】
現在では、アンホテリシンB(AmB)が、浸潤性ムコール菌症の治療のために承認された唯一の抗真菌性薬剤のままである(同上)。真菌は、AmBに比較的耐性であるので、高用量が必要とされ、これは、頻繁に腎毒性、及びその他の有害作用を生じさせる(Sugar、上記)。また、感染した病巣の外科的除去(鼻脳ムコール菌症である対象における目の切除)がない場合、抗真菌薬療法単独での治癒はまれである(Edwards, J.の文献(1989)、上記;Ibrahimらの文献、(2003)、上記)。外科的な壊死組織切除を高用量AmBと組み合わせるときでも、ムコール菌症に関連する死亡率は、50%を超える(Sugar、上記)。播種性疾患である対象では、死亡率が100%に近づく(Husainらの文献、Clin Infect Dis 37:221-29(2003))。この容認できないほど高い死亡率、及び高度に外観を傷つける外科的療法の極度の罹患率のため、浸潤性ムコール菌症を治療し、及び予防するための新たなストラテジーを開発することは避けられない。
【0008】
真菌感染に対する素因における根底にある因子の1つは、高い血清鉄レベルである。利用できる血清鉄が上昇した対象は、ムコール菌症に高感受性である。鉄は、増殖、及び病原性のために、実質的にすべての微生物病原体に必要とされる。哺乳動物の宿主において、血清鉄は、トランスフェリンなどの担体タンパク質に高度に結合されるので、ごくわずかな血清鉄しか微生物が利用できない。血清鉄の隔離が病原性真菌に対する主要な宿主防衛機構であるが、外来性鉄キレート剤、例えばデフェロキサミンで治療された対象は、浸潤性ムコール菌症の発病率が著しく増加し、>80%の死亡率と関連する。デフェロキサミンは、ヒト宿主の観点からはキレーターであるが、これは、シデロホアとして作用して以前に利用できない鉄を病原性真菌に供給することによって対象をムコール菌症にさせる。
【0009】
従って、ムコール菌症発生のリスクを減少させ、有害作用のない有効な療法を提供することができる化合物、及び方法のための需要が存在する。本発明は、この需要を満たし、同様に関連した利点も提供する。
【発明の概要】
【0010】
この開示において概説した実施態様に従って、本発明は、FTRポリペプチド、又はポリペプチドの抗原性断片、及び医薬として許容し得る担体を含むワクチン組成物を提供する。加えて、本発明は、FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチドに実質的に相補的なヌクレオチド配列、転写プロモーター、及び転写ターミネーターを有するベクターであって、プロモーターは、FTRヌクレオチド配列に作動可能に連結され、かつFTRヌクレオチド配列は、転写ターミネーターに作動可能に連結されるベクター、並びに医薬として許容し得る担体を含むワクチン組成物を提供する。本発明のワクチン組成物は、アジュバントを更に含むことができる。
【0011】
加えて、本発明は、FTR配列の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチドRNAi配列;FTRポリペプチド、若しくはこれらの断片に特異的に結合する抗体、又はその抗体断片;からなる群から選択されるFTRのアンチセンス、低分子干渉RNA、又は抗体阻害剤、並びに医薬として許容し得る賦形剤、又は担体を含む、その必要のある対象における真菌状態を治療し、又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0012】
加えて、本発明は、真菌状態を有する、又は有することに感受性の高い対象にFTRポリペプチド、又はこれらの免疫原性断片の免疫原性の量を投与することを含む、真菌状態を治療し、又は予防する方法を提供する。加えて、本発明は、その必要のある対象における真菌状態を治療し、又は予防する方法であって、FTRのアンチセンス、低分子干渉RNA、又は抗体阻害剤に前記真菌を曝露することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Genbank cDNAアクセッション番号AY344587である、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)高親和性鉄パーミアーゼヌクレオチド配列(配列番号:1)を示す。
【図2】Genbankタンパク質ID番号AAQ24109.1である、リゾープス・オリゼ高親和性鉄パーミアーゼポリペプチド配列(配列番号:2)を示す。
【図3】それぞれ、鵞口瘡カンジダ(C. albicans)、及びS.セレビジエ(S. cerevisiae)のFTRと46%、及び44%の同一性を有するR.オリゼ(R. oryzae)のFTRのアミノ酸配列の整列(a)、及びデンドログラム(b)を示す。アミノ酸配列整列でのボックスは、鉄との直接の相互作用に関与する保存されたREGLEモチーフを示す。
【図4】利用できる血清鉄が上昇した条件における接合菌綱による鉄の取り込みの機構を示す。
【図5】様々な濃度の鉄を含む培地において増殖したR.オリゼのFTR発現を示す。
【図6】FTR発現ベクターで形質転換したS.セレビジエftr 1突然変異体の増殖を示す。
【図7】野生型S.セレビジエによる鉄の取り込みと比較した、FTR発現ベクターで形質転換したS.セレビジエftr 1突然変異体、及び空ベクターで形質転換したS.セレビジエftr 1突然変異体による高親和性鉄の取り込みを示す。*P<0.05。
【図8】非糖尿病の感染した、及び糖尿病の感染していないマウスと比較したR.オリゼに感染した糖尿病マウス(n = 10)のパーセント生存を示す。
【図9】TaqManアッセイによって定まるパーセント生存とR.オリゼ(5×104胞子)の腎臓量との間の時間的関連、又は逆相関を示す。
【図10】5×103のR.オリゼ胞子に感染し、及び1)デフェラシロクス(経口的に与えられる);2)デフェラシロクス+飽和FeCl3(i.p投与;3)4日間の静脈内LAmB;及び4)偽薬で治療されたDKAマウスのパーセント生存(n=20)(A)、並びに組織真菌量(n= 11)(B)を示す。感染していないDKAマウス、及びFeCl3で治療した感染していないものを負の対照として含めた。*p<0.05対偽薬、又はデフェラシロクス+鉄。
【図11】DKAマウスを使用する血行性に播種性のムコール菌症モデルにおけるFTRの発現を示す。マウスには、尾静脈を介してR.オリゼ 99-880の105の胞子を感染させた。示した時点にて、感染した脳を取り出して、次いで総RNAをリアルタイム-RT-PCR解析のために使用した(時点当たりのn=4マウス)。感染していないマウスからの脳を負の対照として役に立てた。値は、平均的+ SDとして表してある。
【図12】FTRプロモーターの制御下でGFPを発現するR.オリゼに感染したDKAマウスの脳におけるFTRの発現を示す。(A)R.オリゼに感染した脳のH & E染色法;(B)GFPに対するウサギポリクローナル抗体で染色し、次いでFITC抱合抗-ウサギ抗体で対比染色した脳切片;及び(C)感染時において非蛍光R.オリゼを示すDIC共焦点イメージ。矢印は、感染した脳における真菌成分を意味する。倍率、X 400。
【図13】空のプラスミド(C)で形質転換したR.オリゼと比較した、RNA-干渉プラスミド(T1、及びT3-T5)で形質転換したR.オリゼにおけるFTRの発現の欠如を示すRT-PCRアッセイのアガロースゲル電気泳動結果を示す。18s rDNAを増幅するプライマーは、ターゲティングFTRにおけるRNA干渉の特異性を証明する対照として役立てた。
【図14】空のプラスミド(対照株、2.9×103胞子)で、又はFTRのRNAiプラスミドターゲティング発現(FTR-i、4.1×103胞子)で形質転換したR.オリゼをi.v.感染したDKAマウス(n=8)のパーセント生存を示す。*、Log Rank試験によるP<O.001。
【図15】アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)高親和性鉄パーミアーゼヌクレオチド配列を示す。
【図16】カンジダ・グイリエルモンジイ(Candida guilliermondii)高親和性鉄パーミアーゼヌクレオチド配列を示す。
【図17】アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)高親和性鉄パーミアーゼヌクレオチド配列を示す。
【図18】カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)高親和性鉄パーミアーゼヌクレオチド配列を示す。
【図19】リゾープス属(Rhizopus)rFTR1pのらせん形束タンパク質の概念上のモデル、及びリゾープス属(Rhizopus)種の細胞外状況から原形質への鉄の転位置を示す。
【図20】精製した合成/組換えrFTR1pを示すSDS-PAGEの結果を示す。大腸菌(E. coli)を6X-Hisタグを付けた合成rFTR1を発現するプラスミドで、又は空のプラスミドで形質転換した。rFTR1pをNi-アガロースカラムによって精製して、rFTR1pクローンにおける28kDの予想されるサイズにて検出されたが、大腸菌を空のプラスミドで形質転換したときには検出されなかった。
【図21】R.オリゼ(2.5×107胞子)を感染し、及びrFTR1pのいずれか、又は空のプラスミドで免疫したマウスから収集した血清で処理したDKAマウス(n=8)の生存を示す。*、Log Rank試験によるP<O.007。
【図22】FTR1がR.オリゼを静脈内に感染させたDKAマウスにおいて発現されることを示す。パネル(A)は、FTR1プロモーター、又は構成的に発現されるACT1プロモーターによって駆動されるリポーター遺伝子GFPを含むプラスミドで形質転換して、鉄が豊富、又は鉄枯渇させた条件において培養したR.オリゼのFACS解析を示す。空のプラスミドで形質転換したR.オリゼ M16を負の対照として使用した。パネル(B)は、FTR1がFTR1pの制御下でGFPを発現するR.オリゼに感染したDKAマウスの脳において発現されることを示す。抗GFP Ab染色法については、組織切片をGFPに対するウサギポリクローナル抗体で染色し、次いでFITC抱合抗-ウサギ抗体で対比染色した。DICについては、感染時において、共焦イメージは非蛍光R.オリゼを示している。矢印は、感染した脳における真菌成分を意味する。倍率、×400。
【図23】破壊カセットをFTR1座位に組み込むが、FTR1の完全な除去を達成することができなかったことを示す。パネル(A)は、本発明者らがFTR1破壊を達成するために使用したストラテジーを概説する。PyrF(998bp)を、それぞれFTR1-5'UTR、及びFTR1-3'UTRの606、及び710bp断片に隣接する選択可能なマーカーとして使用した。パネル(B)は、代表的な推定上のftr1ヌル突然変異体(KO)における破壊カセットの組み込みを示すが、野生型(WT)では示さないゲル電気泳動(5'UTR、及び3'UTRを参照されたい)。プライマーFTR1 P11、及びFTR1 P12を、推定上のftr1ヌル突然変異体からでなく野生型のみからのFTR1 ORFから503bpを増幅するために使用した(FTR1を参照されたい)。2094bpの予想されるバンドをもつ形質転換されたプラスミドの再環状化(reciculization)可能性について試験するためのプライマーPyrF P9、及びPyrF P18も使用した(自己ライゲーションを参照されたい)。パネル(C)鉄が制限された、又は鉄が豊富な培地での鉄の異なる供与源で培養したR.オリゼ野生型、PyrFを補完したR.オリゼ、又は推定上のftr1ヌル突然変異体の増殖速度の比較。増殖は、10、又は1000μMの(鉄が豊富)FeC13、若しくはFeSO4、又は100μMのフェリオキサミンを含む培地について48時間後に測定し、一方で、増殖は、100μMヘムを補充した培地について72時間後に測定した。値は、cm/hで、固体増殖培地上の菌糸体の直径増殖の増大として表してある。*野生型、又はPyrFを補完したR.オリゼ株と比較したP<0.05。パネル(D)鉄が豊富な培地(1000μM FeCl3)上の推定上のヌル突然変異体の1回の精製後のFTR1の増幅の欠如、及び96時間の間鉄枯渇させた培地(すなわち、100μMフェリオキサミン)上の増殖後の同じ単離体からのFTR1の増幅を示すゲル電気泳動。アクチン(600bp)の増幅をDNA充填のための対照に使用した。
【図24】多核R.オリゼにおけるFTR1の完全な破壊の欠如の確認を示す。パネル(A)単一の胞子での複数の核の存在を示す腫大したR.オリゼ胞子のDAPI染色。矢印は、核を意味する。元の倍率、×1000。パネル(B)鉄が豊富な培地(1000μM FeC13)上の推定上のヌル突然変異体の14回の継代後のFTR1の増幅の欠如、及び96時間の間鉄枯渇させた培地(すなわち、100μMフェリオキサミン)上の増殖後の同じ単離体からのFTR1の増幅を示すゲル電気泳動。アクチン(600bp)の増幅を使用して、鋳型として使用したDNAの完全性、及びPCR阻害剤の非存在を確認した。パネル(C)推定上のFTR1における破壊カセットの組込み(7380bpバンドは、鉄が豊富な培地において増殖した推定上のFTR1から抽出されるDNA試料にのみ存在する)、及びFTR1コピーのほぼ完全な除去(鉄が豊富な培地において増殖した推定上のFTR1から抽出されるDNA試料における1960bpの欠如)を確認するサザンブロット。
【図25】コピー数の減少により、R.オリゼが鉄を取り込む能力が損われることを示す。パネル(A)PyrFを補完したR.オリゼ株と、又は鉄枯渇させた培地において増殖した同じ突然変異体と比較して推定上のftr1ヌル突然変異体におけるコピー数の減少を示す定量的PCR。パネル(B)FTR1産物に対する増幅特異性を示すqPCRチューブから採取した試料のゲル電気泳動。パネル(C)推定上のFTR1突然変異体は、R.オリゼ野生型、又はPyrFを補完したR.オリゼ株と比較して59Feを取得する能力の減少を示した。野生型、PyrFを補完したR.オリゼ、又は推定上のFTR1突然変異体による59Fe取り込み。出芽した胞子を0.1μM 59FeC13と共にインキュベートした(高親和性鉄パーミアーゼが誘導される濃度(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176 (2004))。*R.オリゼ野生型、又はPyrFを補完したR.オリゼ株と比較してP<0.05。データ(3回の別々の実験からn= 9)は、中央値+四分位数間範囲として表してある。
【図26】どのようにFTR1コピー数の減少により、DKAマウスモデルにおけるR.オリゼ病原性を減少させるかを示す。パネル(A)推定上のftr1ヌル突然変異体の代表がYPD、又はCSM-URA培地上でPyrFを補完したR.オリゼに匹敵する増殖を示した。パネル(B)R.オリゼ野生型(4.3×103)を、PyrFを補完したR.オリゼ株(4.8×103胞子)を、又は推定上のftr1ヌル突然変異体(3.0×103胞子)をi.v.で感染させたマウス(n=8)の生存。*野生型、又はPyrF補完株と比較したP<0.0005。パネル(C)R.オリゼ野生型(4.3×103胞子)を、PyrFを補完したR.オリゼ株(5.1×103胞子)、又は推定上のftr1ヌル突然変異体(5.3×103胞子)鼻腔内に感染させたマウス(n= 9)の生存。*野生型、又はPyrF補完株と比較したP=O.04。
【図27】どのようにFTR1発現の阻害により、R.オリゼがインビトロにおいて59Feを取り込む能力を減少させるかを示す。(A)空のプラスミド(C、対照)で形質転換したR.オリゼと比較した、RNA-干渉プラスミド(T1、及びT3-T5)で形質転換したR.オリゼにおけるFTR1の発現の欠如を示すRT-PCR。18s rDNAを増幅するプライマーを、開始試料の完全性、及びPCR阻害剤の欠如を示すための対照として役立てた。(B)RNAi形質転換体の代表は、YPD、又はCSM-URA培地上で空のプラスミドで形質転換したR.オリゼ M16に相当する増殖を示した。(C)野生型、空のプラスミドで形質転換したR.オリゼ M16、又はRNAi形質転換体のものによる59Fe取り込み。出芽している胞子を0.1μM 59FeCl3(高親和性鉄パーミアーゼが誘導される濃度(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176 (2004))と共にインキュベートした。*R.オリゼ野生型、又は空のプラスミドで形質転換したR.オリゼM16と比較したP<0.05。データ(3回の独立した実験からn= 9)は、中央値±四分位数間範囲として表してある。
【図28】どのようにFTR1発現の阻害により、DKAマウスモデルにおけるR.オリゼの病原性を減少させるか、及び抗FTR1p血清での受身免疫により、DKAマウスをR.オリゼ感染から保護するかを示す。パネル(A)空のプラスミド(対照株、2.9×103胞子)で、又はFTR1(FTR1-i、4.1×103胞子)のRNAiプラスミドターゲティング発現で形質転換したR.オリゼをi.v.感染したマウス(n=8)の生存。*P<0.001。パネル(B)空のプラスミド(対照株、2.8×103胞子)で、又はFTR1(FTR1-i、7.6×103胞子)のRNAiプラスミドターゲティング発現で形質転換したR.オリゼを鼻腔内感染させたマウス(n=9)の生存。*P<0.02。パネル(C)空のプラスミド(対照株、4.2×103胞子)で、又はFTR1(FTR1-i、5.1×103胞子)のRNAiプラスミドターゲティング発現で形質転換したR.オリゼをi.v.感染したマウス(n=8)の腎臓、又は脳真菌量。*対照株と比較したP<0.0006、及び\、P<0.04。データは、中央値+四分位数間範囲として表してある。y軸は、アッセイの最低検出限界を反映する。(D)R.オリゼ(2.5×107胞子の意図された接種材料、及び9×103胞子の実際の吸入された接種材料)で鼻腔内感染し、及びFTR1p、又は空のプラスミドクローンから収集したタンパク質のいずれかで免疫したマウスから収集した血清で治療したマウス(n=8)の生存。*P<0.007。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の詳細な説明
本発明は、病原性真菌、特異的にムコール菌症の発症に関与するものの高親和性鉄パーミアーゼ(FTR)を直接、及び/又は間接的に阻害する組成物、並びに方法の使用に向けられる。高親和性鉄パーミアーゼは、真菌における鉄の取り込みを担う分子であり;従って、この分子のターゲティング、及び阻害は、真菌が周囲環境において利用可能な鉄を取り込み、及び/又は使用する能力を妨げるだろう。高親和性鉄パーミアーゼの阻害は、真菌病原体において鉄飢餓を生じて、これらの増殖、及び/又は病原性を妨げるだろう。例えば、R.オリゼにおけるFTRポリペプチドは、任意の公知のヒトタンパク質とほとんど相同性を有しない。例えば、ヒトプロテオームの相同性検索では、5つのタンパク質の全てについて、30.4、e= 9.0の整列スコアで、R.オリゼのFTRタンパク質に対して極めて限定された相同性をもつ5つのオープンリーディングフレームを同定した。これらのタンパク質のうちの3つは、82を含むコイルドコイルドメイン(すなわち、EAW66982;AAH33726.1;及びNP 079001.2)を含み、1つは、CCDC82タンパク質(すなわち、AAH18663.1)、及び名前の付いていないタンパク質(すなわち、BAB15683.1)である。ベンチマークとして、その他の生物と比較した真菌から独特の配列の同定のための標準的なBLAST検索e値は、10-8にセットされ、rFTR1pがヒトプロテオームに有意な相同性を有さないことを示す。従って、FTRをターゲットし、及び阻害する際の現在の発明の組成物、及び方法は、真菌病原体における鉄レベルに影響を及ぼすだけで、宿主には及ぼさず、ムコール菌症に対して有効かつターゲットされた療法を構成する。
【0015】
一つの実施態様において、本発明は、ワクチンなどの免疫原性組成物に向けられる。免疫原性組成物は、対象においてムコール菌症に対する保護を与える真菌FTRポリペプチド、又はこれらの抗原性断片の有効な用量を含む。本発明のワクチン組成物は、宿主体液性、及び/又は細胞を媒介した真菌FTRに対する免疫応答を誘導する。別の実施態様において、本発明の組成物は、ワクチン組成物の免疫原性を押し上げることができるアジュバントを更に含む。
【0016】
更に別の実施態様において、本発明は、例えば、siRNAなどのFTR分子の阻害剤を含む。FTR阻害剤は、FTR転写、又は翻訳レベルを阻害するためにFTR分子の一部に十分に相補的な配列を含む1つ以上のsiRNAを発現するベクターを含む。例えば、実施例9に記載されているように、R.オリゼのFTRに対する干渉RNAを調製し、これらが、これらの真菌におけるFTR発現を阻害することを示した。DKAマウスにおいて、抗FTR siRNAを有するR.オリゼ形質転換体が野生型R.オリゼよりも病原性でなかったことを証明した。
【0017】
本明細書に使用される、「FTR」という用語は、R.オリゼ、A. フミガーツス、C.グイリエルモンジイ(C. guilliermondii)、黄色コウジ菌(A flavus)、及びC.トロピカリス(C. tropicalis)のFTRなどの、しかし限定されない病原性真菌における鉄の輸送を担う膜タンパク質である高親和性鉄パーミアーゼ;並びに同じものをコードする核酸をいう。図3において示し、及び実施例1において記述したように、例えば、R.オリゼ、鵞口瘡カンジダ、及びS.セレビジエからのFTRは、複数のタンパク質配列相同性の領域をもち、39%以上のパーセント同一性を共有する。R.オリゼのFTRのヌクレオチド配列は、例えば、図1(配列番号:1)に示してあり、対応するアミノ酸配列は、図2(配列番号:2)に示してある。FTRのヌクレオチド配列は、A. フミガーツスのものが図15に示してある;C.グイリエルモンジイのものが図16に示してある;黄色コウジ菌のものが図17に示してある;及びC.トロピカリスのものが図18に示してある。本明細書の全体にわたって、「FTR発現」、又は「FTRを発現すること」という用語は、FTR核酸、又はFTRポリペプチドの普通の発現を示すために使用することができる。
【0018】
一般に、核酸は、RNA、例えばmRNA、若しくは前mRNA、又はcDNA、及びゲノムDNAなどのDNAである。FTR核酸は、例えば、FTRポリペプチド、又は免疫原性のこれらの断片に対応する核酸分子(RNA、mRNA、cDNA、又はゲノムDNA、一本鎖、又は二本鎖のいずれか)をいう。DNA分子は、二本鎖、又は一本鎖であることができ;一本鎖RNA、又はDNAは、コード、若しくはセンス鎖、又は非コード、若しくはアンチセンス鎖のいずれかであることができる。核酸分子、又はヌクレオチド配列は、遺伝子のコード配列の全体、又は一部を含むことができ、イントロン、及び非コード3'、及び5'配列(例えば、プロモーター、調節性、ポリ-A伸長、又はエンハンサー配列を含む)などのさらなる非コード配列を更に含むことができる。加えて、核酸分子、又はヌクレオチド配列は、別の配列、例えば、ポリペプチドの単離、又は精製における援助ポリペプチドをコードする標識、マーカー、又は配列に融合することができる。このような配列は、選択マーカーをコードするもの(例えば、抗生物質の耐性遺伝子、又はリポーター配列)、ヒスチジンの反復をコードするもの(HISタグ)、及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質をコードするものを含むが、限定されない。核酸分子、又はヌクレオチド配列は、化学的に、又は組換え手段によって合成される核酸分子、又はヌクレオチド配列を含むことができ、このような核酸分子、又はヌクレオチド配列は、組換えDNAプロセスにおいて、及び遺伝的に操作されたタンパク質合成システム内で使用するために適している。
【0019】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって共有結合で連結された2つ以上のアミノ酸の鎖をいう。本発明の状況において、関心対象の特定のポリペプチドは、抗原性エピトープを有するアミノ酸部分列である。抗原性エピトープは、当該技術分野において周知であり、ポリペプチドの免疫原性特性を実質的に担い、及び免疫応答を引き起こすことができる配列、及び/又は構造決定因子を含む。FTRポリペプチドの機能ドメインは、また本発明の範囲内に入ることが考えられる。例えば、鉄と相互作用するREGLEモチーフは、本発明の1つの例示的な機能ドメインである。別の例示的な機能ドメインは、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)のFTRの完全な機能のために必要とされるFTRの細胞表面EXXEモチーフである(Stearmanらの文献、Science 271:1552- 1557 (1996))。ポリペプチドは、また、例えば、グリコシル化、タンパク質分解性切断、脂質化、シグナルペプチド切断、プロペプチド切断、リン酸化、及びその他を含むことができる成熟、又は翻訳後修飾プロセスを受ける。
【0020】
本明細書に使用される「免疫原性」、又は「抗原性」という用語は、T細胞、及び/又はB細胞抗原受容体によって認識されるタンパク質の部分をいう。免疫原性部分は、一般に少なくとも5アミノ酸残基、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、及び更により好ましくは少なくとも30アミノ酸残基のFTRポリペプチド、又はその変異体を含む。好ましい免疫原性部分は、小さなN、及び/又はC末端断片(例えば、5-30アミノ酸、好ましくは10-25アミノ酸)を含むことができる。
【0021】
ポリペプチド変異体は、標的ポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸変化を含む。FTRのポリペプチド変異体は、FTRポリペプチドに対して少なくとも約39%、より好ましくは少なくとも約50%、及び更に好ましくは少なくとも約70%の同一性を示すことができる。ポリヌクレオチド変異体は、通常置換、挿入、欠失、又は転位などの突然変異によって生じる、同定されたポリヌクレオチドからのいくらかの成分がずれた実質的に相同的なポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチド変異体は、好ましくは同定されたポリヌクレオチドに対して少なくとも約60%(10、又はより多くのヌクレオチドをもつ断片について)、より好ましくは少なくとも約70%、80%、又は90%、及び更に好ましくは少なくとも約95%、98%、又は99%の同一性を示す。
【0022】
FTRポリペプチドに関して本明細書に使用される「断片」という用語は、FTRアミノ酸配列の部分を有するポリペプチドをいうことが意図される。有用な断片は、ポリペプチドの生物学的活性の1つ以上を保持するものを含む。このような生物活性断片は、例えば、長さ4、6、10、15、20、25、30、40、50、100、又はそれ以上のアミノ酸を含む広範囲の長さを有することができる。活性に加えて、生物活性断片は、また、例えば、当該技術分野において周知の方法を使用してポリペプチド配列の解析によって同定されたモチーフ、ドメイン、又はセグメントによって特徴づけることができる。このような領域は、例えば、シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通セグメント、リガンド結合領域、Znフィンガードメイン、及び/又はグリコシル化部位を含むことができる。
【0023】
本明細書に使用される「ワクチン」という用語は、動物を感染性疾患から保護するために動物に投与することができる組成物をいう。ワクチンは、感染性疾患に対して、動物における免疫応答を誘導する、又は増加させることによって疾患から守る。本発明のワクチンでの治療に受け入れる例示的な感染性疾患は、ムコール菌症である。ワクチンによって媒介される保護は、対象が、例えばFTR、又はこれらの免疫原性部分、若しくは断片に曝露されたときに、宿主において体液性、及び/又は細胞を媒介した免疫を誘導することができる。
【0024】
「アジュバント」という用語は、一般に抗原の部位にて、又はその近くで抗原と共に送達されることによって抗原に対する免疫応答を増強する能力をもつ組成物を意味するために意図される。免疫応答を増大する能力は、免疫を媒介した保護の増大によって明らかにされる。体液性免疫増強は、例えば、抗原に対して生じた抗体の力価の増大によって決定することができる。細胞性免疫の増強は、例えば、陽性皮膚試験、細胞毒性T細胞アッセイ、IFN-γ、又はIL-2のためのELISPOTアッセイによって測定することができる。アジュバントは、当該技術分野において周知である。例示的なアジュバントは、例えば、Freud完全アジュバント、Freud不完全アジュバント、アルミニウムアジュバント、MF59、及びQS21を含む。
【0025】
本明細書に使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分をいう。抗体は、当業者に公知の多様な技術のいずれによって調製することもできる(例えば、Harlow、及びLaneの文献、抗体:実験室マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)、Cold Spring Harbor Laboratory 、Cold Spring Harbor, N. Y., 1988を参照されたい)。本発明は、本発明のポリペプチド、又はその断片、若しくは変異体に特異的に結合するポリクローナル、及びモノクローナル抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体は、例えば、本発明のポリペプチド、又はその断片、若しくは変異体の特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位の1種のみを含む抗体分子の集団を含む。モノクローナル抗体は、1つ以上の治療的薬剤に結合することができる。これに関して適した薬剤は、分化誘導因子、薬物、毒素、及びその誘導体を含む。治療的薬剤は、直接、又は間接的に(例えば、リンカー基を経て)いずれかで、適切なモノクローナル抗体に結合する(例えば、共有結合性に結合する)ことができる。
【0026】
「ベクター」、「クローニングベクター」、及び「発現ベクター」という用語は、核酸を宿主細胞に導入することができる媒体を意味する。ベクターは、伝播、若しくは核酸を収容するために、又はコードされた配列のポリペプチド発現のために使用することができる。多種多様なベクターが当該技術分野において公知であり、例えば、プラスミド、ファージ、及びウイルスを含む。例示的ベクターは、例えば、Sambrookらの文献、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory 、New York(2001);Ausubelらの文献、分子生物学の現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、John Wiley and Sons、Baltimore、MD(1999)において記述されたものを見いだすことができる。
【0027】
本明細書に使用される「抗体阻害剤」という用語は、標的抗原(すなわち、FTR)の生物学的活性、又は機能を減少させる抗体をいう。活性、又は機能のこのような減少は、例えば、細胞成分(例えば、膜局在化)と関連して、又は細胞プロセス(例えば、鉄輸送)に関連して、又は細胞の全体のプロセス(例えば、細胞増殖、又は生存)に関連していることができる。細胞増殖に対する言及において、阻害作用は、殺真菌性(真菌の死滅)、又は静真菌性(すなわち、真菌の増殖を止め、又は少なくとも遅らせること)であることができる。後者は、真菌の増殖を遅らせ、又は予防し、その結果、所与の時間にわたって阻害されない真菌と比較して、より少ない真菌類が生じる。分子の観点から、このような阻害は、FTR分子の転写、及び/又は翻訳のレベルの減少、又はその除去、又はFTR分子の活性の減少、若しくは除去と同等に考えることができる。
【0028】
本明細書に使用される「治療すること」、又は「治療」という用語は、真菌状態を指し示す臨床的症候の寛解を意味することが意図される。臨床的症候の寛解は、例えば、治療前のレベルと比較して、又は真菌状態である個体と比較して、治療された個体における真菌状態の少なくとも1つの症候の低減、又は減少を含む。また、「治療」という用語は、真菌状態と関連する病的状態、慢性合併症、又は日和見真菌感染の重症度の減少を含むことが意図される。このような病的状態、慢性合併症、又は日和見感染は、ムコール菌症に関して以下で例証してある。ムコール菌症、並びにその他のこのような病的状態、慢性合併症、及び日和見感染は、また、例えば、Merck Manual、第16版、1992、及びSpellbergらの文献、Clin. Microbio. Rev. 18:556-69(2005))において記述されたものを見いだすことができる。
【0029】
本明細書に使用される「予防すること」、又は「予防」という用語は、真菌状態を指し示す臨床的症候に前もって対処することを意味することが意図される。このような前もって対処することには、例えば、状態の明白な症候の発症より前の、又は状態の診断より前の、真菌類による感染のリスクのある個体における正常な生理的指標の維持を含む。従って、「予防すること」という用語は、個体を真菌状態の発生から守るためのこれらの予防的治療を含む。また、個体における真菌状態を予防することは、真菌状態の発症を阻害する、又は抑えることを含むことが意図される。状態の発症を阻害する、又は抑えることは、例えば、上記のもの、及び/又は当該技術分野において周知のものなどの異常な生理的指標、又は臨床的症候の発生を阻害する、又は抑えることを含む。従って、真菌状態の有効な予防は、正常な体温、重量、心理的状態の維持、並びに真菌状態になった個体における病変、又はその他の病理学的徴候がなくなることを含むだろう。真菌状態になった個体は、例えば、AIDS、窒素過剰血、真性糖尿病、気管支拡張症、気腫、TB、リンパ腫、白血病、若しくは火傷である個体、又は真菌状態の罹病歴がある個体を含む。また、状態の発症を阻害する、又は抑えることは、例えば、1つ以上の病理学的状態、慢性合併症、又は真菌状態と関連する日和見感染に対する感受性の進行を阻害する、又は抑えることを含む。
【0030】
本明細書に使用される「真菌状態」という用語は、真菌疾患、感染、又は表在真菌症(すなわち、皮膚、毛髪、爪、及び粘膜の真菌疾患;例えば、白癬、又は酵母感染)、皮下真菌症(すなわち、皮下組織、筋膜、及び骨の真菌疾患;例えば、足菌腫、黒色真菌症、又はスポロトリクム症)、及び全身性真菌症(すなわち、一般に、原因のカビによって産生される風媒性胞子の吸入により生じる深在性真菌感染;例えば、接合菌症、ムコール菌症、コクシジオイデス、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症、又はパラコクシジオイデス症)を含むコロニー形成をいう。
【0031】
本明細書に使用される、「接合菌症」という用語は、目ケカビ目、及びハエカビ目に含まれる、綱接合菌綱の真菌によって生じる真菌状態を意味するために意図される。ハエカビ目は、ハエカビ菌症(entomophthoromycosis)として公知の皮下、及び皮膚粘膜感染症の原因であり、主に開発途上国における免疫適格宿主を苦しめている。接合菌症は、またムコール菌症ともいわれ、2つの用語は、真菌感染の同様のタイプをいうために同義的に使用される。
【0032】
本明細書に使用される、「ムコール菌症」という用語は、目ケカビ目の真菌によって生じる真菌状態を意味するために意図される。ムコール菌症は、開発途上国、又は先進工業国のいずれにおいてもほぼ一様に免疫無防備状態宿主に影響を及ぼす致命的な真菌感染である。目ケカビ目に属する菌類は、少なくとも6科に分けられ、その全てが、皮膚、及び深在性の感染症を生じさせ得る。科ケカビ科に属する種は、任意のその他の科よりもムコール菌症である患者から頻繁に単離される。ケカビ科の中で、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)(リゾープス・アリズス(Rhizopus arrhizus))は、感染の一般的な原因である。同様の範囲の感染症を生じさせるケカビ科のその他の例示的な種は、例えば、リゾープス・ミクロスポルス・バール・リゾポホルミス(Rhizopus microsporus var. rhizopodiformis)、アブシディア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)、アポフィソマイセス・エレガンス(Apophysomyces elegans)、ケカビ属種、リゾムコル・プシルス(Rhizomucor pusillus)、及びクンニンハメラ属(Cunninghamella)種(クンニンハメラ科)を含む。ムコール菌症は、当該技術分野において周知であり、例えば、リノセレブラル(rinocerebral)ムコール菌症、肺ムコール菌症、胃腸ムコール菌症、播種性ムコール菌症、骨ムコール菌症、縦隔ムコール菌症、気管ムコール菌症、腎臓ムコール菌症、腹膜ムコール菌症、上方大静脈ムコール菌症、又は外耳炎ムコール菌症を含む。
【0033】
目ケカビ目に属する菌類は、現在コアネホラ科(Choanephoraceae);クンニンハメラ科;ケカビ科;マイコトファ科(Mycotyphaceae);フィコマイセタ科(Phycomycetaceae);ピロバラ科(Pilobolaceae);サクセナエア科(Saksenaeaceae);シンセファラストラ科(Syncephalastraceae);及びウンベロプシダ科(Umbelopsidaceae)の科に分けられる。各々のこれらの真菌科は、1つ以上の属からなる。例えば、目ケカビ目(科ケカビ科)に属する菌類は、アブシディア属(Absidia)(例えば、A. corymbifera);アクチノムコール属(Actinomucor)(例えば、A. elegans);アミロマイセス属(Amylomyces)(例えば、A.ロウキシイ);アポフィソマイセス属(Apophysomyces);バックウセラ属(Backusella)(例えば、B.シルシナ(B. circina));ベンジャミニエラ属(Benjaminiella)(例えば、B.マルチスポラ(B. multispora));ケトクラジウム属(Chaetocladium)(例えば、C.ブレフェジイ(C. brefeldii));シルシネラ属(Circinella)(例えば、C.アンガレンシス(C. angarensis));コケロマイセス属(Cokeromyces)(例えば、C.レクルバツス(C. recurvatus));ジクラノホラ属(Dicranophora)(例えば、D.フルバ(D. fulva));エリソマイセス属(Ellisomyces)(例えば、E.アノムルス(E. anomalus);ヘリコスチルム(Helicostylum)(例えば、H.エレガンス(H. elegans));ヒホムコル属(Hyphomucor)(例えば、H.アッサメンシス(H. assamensis));カーコマイセス属(Kirkomyces)(例えば、K.コーデンシス(K. cordensi));ケカビ属(Mucor)(例えば、Mアムフィビオルム(M amphibiorum));パラシテラ属(Parasitella)(例えば、P.パラシチカ(P. parasitica));フィロホラ属(Philophora)(例えば、P.アガリシナ(P. agaricina));ピライラ属(Pilaira)(例えば、P.アノマラ(P. anomala));ピレラ属(Pirella)(例えば、P.シルシナンス(P. circinans));リゾムコル属(Rhizomucor)(例えば、R.エンドフィチカス(R. endophyticus));リゾポドプシス属(Rhizopodopsis)(例えば、R.ジャベンシス(R. javensis));リゾープス属;スポロジニエラ属(Sporodiniella)(例えば、S.ウムベラータ(S. umbellata));シジギテス属(Syzygites)(例えば、S.メガロカルパス(S. megalocarpus));タムニジウム属(Thamnidium)(例えば、T.エレガンス(T. elegans));サーモムコル属(Thermomucor)(例えば、T.インジカエ-シューダチカエ(T. indicae-seudaticae));及びザイゴリンチュス属(Zygorhynchus)(例えば、Z.カリフォルニエンシス(Z. californiensis))の属に更に分類されている。属リゾープス属は、例えば、R.アジゴスポルス(R. azygosporus);R.カエスピトスス(R. caespitosus);R.ホモタリカス(R. homothallicus);R.オリゼ;及びR.シッペレ(R. schipperae)種からなる。
【0034】
コアネホラ科は、真菌属ブラケスレア属(Blakeslea)(例えば、B.モノスポラ(B. monospora)、コアネホラ属(例えば、C.ククルビタルム(C. cucurbitarum))、ギルベルテラ属(Gilbertella)(例えば、G.ハイナネンシス(G. hainanensis))、及びポイトラシア属(Poitrasia)(例えば、P.シルシナンス(P. circinans))からなる。クンニンハメラ科は、属クラムドブシダ属(Chlamydoabsidia)(例えば、C.ペデニイ(C. padenii));クンニンハメラ属(Cunninghamella)(例えば、C.アンタルクチカ(C. antarctica));ゴングロネラ属(Gongronella)(例えば、G.ブトレリ(G. butleri));ハルテロマイセス属(Halteromyces)(例えば、H.ラジアツス(H. radiatus));及びヘセルチネラ属(Hesseltinella)(例えば、H.ベシクロサ(H. vesiculosa))からなる。マイコトファ科は、真菌属マイコトファ属(Mycotypha)(例えば、M.アフリカナ(M. africana))からなる。フィコマイセタ科は、真菌属フィコマイセス属(Phycomyces)(例えば、P.ブラケスリーヌス(P. blakesleeanus))、及びスピネルス属(Spinellus)(例えば、S.チャリベウス(S. chalybeus))からなる。ピロバラ科は、真菌属ピロボルス属(Pilobolus)(例えば、P.ロンギペス(P. longipes))、及びウタロマイセス属(Utharomyces)(例えば、U.エパロカウルス(U. epallocaulus))からなる。サクセナエア科は、真菌属アポフィソマイセス属(例えば、A. エレガンス(A. elegans))、及びサクセナエア属(Saksenaea)(例えば、S.バシホルミス(S. vasiformis))からなる。シンセファラストラ科は、真菌属ジチョトモクラジウム属(Dichotomocladium)(例えば、D.エレガンス(D. elegans));フェネロマイセス属(Fennellomyces)(例えば、F.ギガセルラリス(F. gigacellularis));マイコクラヂュス属(Mycocladus)(例えば、M.ブラケスリーヌス(M. blakesleeanus));ファスコロマイセス属(Phascolomyces)(例えばP.アーチクロスス(P. articulosus));プロトミコクラウヂュス属(Protomycocladus)(例えば、P.ファイサラバデンシス(P. faisalabadensis));シンセファラストルム属(Syncephalastrum)(例えば、S.モノスポルム(S. monosporum));タムノスチルム属(Thamnostylum)(例えばT.ルクノウェンセ(T. lucknowense));ザイカエ属(Zychaea)(例えば、Z.メキシカーナ(Z. mexicana))からなる。最後に、ウンベロプシダ科は、真菌属ウンベロプシス属(Umbelopsis)(例えば、U.アンフラリス(U. angularis))からなる。
【0035】
本明細書に使用される、「医薬として許容し得る担体」という用語は、任意の、及びすべての医薬品等級の溶媒、緩衝液、油、脂質、分散培地、コーティング、等張性、及び吸収促進剤、並びに活性成分と適合性であ同様のものを含む。これらの医薬として許容し得る担体は、投与、例えば、注射、鼻腔投与、経口投与、その他の選ばれた様式に適した広範囲の医薬品等級の材料から調製することができる。本発明の目的のためには、「医薬の」、又は「医薬として許容し得る」という用語は、無毒の公知の技術によって製剤化される組成物を更にいい、必要に応じて、ヒトに問題なく投与することができる担体、又は添加剤と共に使用される。特定の実施態様において、「医薬として許容し得る」という用語は、動物における、及び特にヒトにおける使用について、連邦政府、又は州政府の規制機関によって承認されたこと、政府、又は米国局方、又はその他の一般に認識された局方に収載されたことを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒体をいう。このような製薬的担体は、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ごま油等の石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む水、及び油等の滅菌液であり得る。医薬組成物が静脈内に投与されるときに、水は、好ましい担体である。生理食塩水溶液、及び水性デキストロース、及びグリセロール溶液は、また、特に注射可能な溶液のために、液体担体として使用することができる。適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、胡粉、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアリン酸、滑石、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0036】
本明細書に使用される「免疫原性の量」という用語は、ポリペプチド、又はポリペプチドを発現する感染性媒体に対して宿主免疫応答を誘導することができる、本発明のポリペプチド、又はその断片、若しくは変異体の特定のエピトープの有効量をいう。この量は、一般にワクチンの用量当たり20μg〜10mgの抗原の範囲であり、治療される対象、抗体を合成する対象の免疫系の能力、及び望まれる保護の程度に依存する。必要とされる免疫原の正確な量は、例えば、抗体滴定などの種々の方法によって算出することができる。有効量という用語は、所望の結果を提供するために十分である化合物、又は組成物の量をいう。従って、ワクチンを記述するために使用される、有効量は、防御免疫応答を生じ、又は誘発するために十分である化合物、又は組成物(例えば、抗原)の量をいう。免疫学的組成物に関する有効量は、反応が保護的であるか否かにかかわらず、免疫応答を誘発するために十分である量である。
【0037】
本発明は、一部において、FTR遺伝子産物が血行性伝播、又はムコール菌症において、R.オリゼなどの真菌病原体の完全な病原性のために必要とされるという発見に関する。その上、ムコール菌症を有する宿主におけるFTRポリペプチド形成の阻害は、生存を延長させた。本明細書に記述したように、FTR1機能の抑止により、鉄の取り込みの減弱、及びインビボでの病原性の減弱を生じ、また抗FTR1p抗体での受動免疫は、感染したマウスにおける生存を著しく向上させた。本明細書において開示されるように、FTR1に対する受動免疫療法は、これらの致命的な感染症の結果を改善するための生存可能なストラテジーである。
【0038】
従って、ムコール菌症、又はその他の真菌疾患を治療する際にFTR分子、及び/又はその機能の有効な阻害のための、異なる組成物が本明細書において開示される。これらの阻害性組成物は、FTRの機能を効率的にターゲットし、及び阻害することができるワクチン、アンチセンス、siRNA、抗体、又は任意のその他の組成物を含む。このような組成物は、感染した組織における真菌の増殖を減少させ、及び/又は予防し、該生物の死を生じさせるだろう。本発明の組成物は、また発症を減少させ、及び/又は感染が生じるのを予防するために、予防的状況において有用である。加えて、本明細書に開示したFTR阻害性組成物のいずれも、例えば、アンホテリシン B、又は鉄キレート剤を含むその他の公知の抗真菌薬療法で、更に補い、及び/又は組み合わせることができる。例示的な鉄キレート剤は、デフェリプロン、及びデフェラシロクスを含む。
【0039】
1つの態様において、本発明は、FTRポリペプチド、又はポリペプチドの抗原性断片、若しくは変異体を有するワクチン組成物を提供する。ワクチン組成物は、またアジュバントを含むことができる。特定の実施態様において、本発明のワクチン組成物は、図2に示したFTRポリペプチド(配列番号:2)、又はFTRポリペプチドの抗原性断片(例えば、REGLEモチーフ)、医薬として許容し得る担体、及び/又はアジュバントを有する。
【0040】
同様に、ワクチン組成物は、図15-18に示したヌクレオチドに対応するFTRポリペプチドを有する。本発明のワクチン組成物の製剤は、体液性(中和抗体)、及びエフェクター細胞を媒介した真菌病原体のFTRに対する免疫応答の両方の特異的な刺激によって対象における防御免疫を誘導するのに有効である。本発明のワクチン組成物は、また、例えば、ムコール菌症などの真菌感染症の治療、又は予防において使用される。
【0041】
本発明のワクチンは、FTR抗原の免疫保護量を含むだろうし、当該技術分野において周知の方法によって調製される。ワクチンの調製は、例えば、M. F. Powell、及びM. J. Newman編、「ワクチンデザイン(サブユニット、及び補助アプローチ)(Vaccine Design (the subunit and adjuvant approach))」、Plenum Press(1995);A. Robinson、M. Cranage、及びM. Hudson編(「ワクチンプロトコル(分子医学 における方法)(Vaccine Protocols (Methods in Molecular Medicine)」)Humana Press(2003);及びD. Ohagan編、「ワクチンアジュバント:調製方法、及び研究プロトコル(分子医薬における方法)(Vaccine Ajuvants: Preparation Methods and Research Protocols (Methods in Molecular Medicine))」、Humana Press(2000)に一般に記述されている。
【0042】
FTRポリペプチド、及びそのペプチド断片、又は変異体は、免疫原性エピトープを含むことができ、これは当該技術分野において公知の方法を使用して同定することができ、例えば、Geysenらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998 (1984))において記述される。簡潔には、何百もの重複した短いペプチド、例えば、ヘキサペプチドを、標的ポリペプチド(すなわち、FTR)の全てのアミノ酸配列をカバーして合成することができる。一方でこれらの合成のために使用される固体支持体になおも付着されたペプチドを、次いで多様な抗血清を使用してELISA法によって抗原性について試験する。FTRタンパク質に対する抗血清は、公知の技術、Kohler、及びMilsteinの文献、Nature 256:495-499(1975)によって得ることができ、抗原性を減少させるためにヒト化することができ、例えば、米国特許第5,693,762号を参照され、又は再編成されていないヒト免疫グロブリン遺伝子を残すトランスジェニックマウスにおいて産生することができ、例えば、米国特許第5,877,397号を参照されたい。一旦無処置のタンパク質に対して生じた抗体と反応性のヘキサペプチドを有するエピトープが同定されたら、ペプチドをC、及び/又はN末端の両方にてあらゆる位置、及び/又は伸長にてアミノ酸置換によって特異性について更に試験することができる。このようなエピトープ有するポリペプチドは、典型的には配列番号:2の少なくとも6〜14アミノ酸残基を含み、例えば、当該技術分野において周知の方法を使用してポリペプチド合成によって、又はFTRポリペプチドを分解することによって産生することができる。本発明に基づいた免疫原として使用される分子に関して、当業者は、FTRポリペプチドを、免疫原性ワクチンとして必須な品質を失わずに切断すること、又は断片化することができることを認識するであろう。例えば、FTRポリペプチドは、免疫原としての分子の機能特性を保存しつつC末端からの切断によってN末端断片を生じるように切断することができる。同様に、C末端断片は、免疫原としての分子の機能特性を保存しつつN末端からの切断によって産生することができる。本明細書に提供された教示、及び指針に従ったその他の修飾を本発明に従って行って、その他のFTRポリペプチド機能断片、その免疫原性断片、変異体、類似体、又は誘導体を作製すること、及び天然のタンパク質で本明細書に記述された治療的に有用な特性を達成することができる。
【0043】
本発明のワクチン組成物は、更に従来の医薬品担体を含む。適切な担体は、当業者に周知である。これらのワクチン組成物は、液体単位投与量形態に調製することができる。その他の随意の成分、例えば、医薬品等級の安定剤、緩衝液、保存剤、賦形剤、及び同様のものは、当業者が容易に選択することができる。しかし、組成物は、使用前に凍結乾燥することができ、再構成することができる。或いは、ワクチン組成物は、投与、例えば、鼻腔内投与、経口投与、その他の選ばれた様式に適した任意の様式に調製することができる。医薬として許容し得るワクチンの調製は、pH、等張、安定性、及び同様のものに対する十分な考慮がなされ、当該技術分野の技術の範囲内である。
【0044】
ワクチンが更にアジュバント物質を含む場合、本発明のワクチン組成物の免疫原性は、更に増強することができる。ワクチンのためのアジュバント効果を達成する種々の方法は、公知である。一般的な原理、及び方法は、「アジュバントの理論、及び実際の適用(The Theory and Practical Application of Adjuvants)」、1995、Duncan E. S. Stewart-Tull(編)、John Wiley & Sons Ltd, ISBN 0-471-95170-6において、また「ワクチン:新世代 免疫学的アジュバント(Vaccines: New Generationn Immunological Adjuvants)」、1995、Gregoriadis Gらの文献、(編)、Plenum Press、New York, ISBN 0-306-45283-9において詳述され、両方とも本明細書において参照として本明細書に組み込まれる。
【0045】
好ましいアジュバントは、樹枝状細胞などの抗原提示細胞(APC)によるワクチンの分子の取り込みを促進し、及びこれらの細胞を活性化する。非限定的な例は、免疫ターゲティングアジュバント;毒素、サイトカイン、及びミコバクテリウム誘導体などの免疫調節するアジュバント;油製剤;重合体;ミセル形成するアジュバント;サポニン;免疫賦活性複合体マトリックス(ISCOM(登録商標)マトリックス);粒子;DDA(ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド);アルミニウムアジュバント;DNAアジュバント;及びカプセル化するアジュバントらなる群より選択される。リポソーム製剤は、またアジュバント効果を与えることが公知であり、従って、リポソームアジュバントは、本発明に従って含まれる。
【0046】
本発明の別の態様は、図1、15-18に示した、FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチドに実質的に相補的なヌクレオチド配列(例えば、配列番号:1)、転写プロモーター、及び転写ターミネーターを含むベクターを有するワクチン組成物であって;プロモーターは、FTRヌクレオチド配列に作動可能に連結され、かつFTRヌクレオチド配列は、転写ターミネーターに作動可能に連結されるワクチン組成物に関する。例えば、DNAワクチンの調製は、M. Saltzman、H. Shen、及びJ. Brandsma(編)「DNA ワクチン(分子医学における方法)(DNA Vaccines (Methods in Molecular Medicine))」、Humana Press(2006);H. Ertl編、「DNAワクチン(DNA Vaccines)」、Kluwer Academic/ Plenum Publishers(2003)において一般に記述されている。一つの実施態様において、ワクチン組成物は、医薬として許容し得る担体、及び/又はアジュバントを更に含む。アジュバントとDNAワクチンの組み合わせは、ヒトにおいてより強力かつより多くの特異的免疫応答を誘導することが示された(Hokeyらの文献、Springer Semin Immun 28:267-279(2006))。一般に、DNAワクチンの作用強度は、さらなる免疫刺激を提供することができるアジュバントと組み合わせたときに、増加する。例えば、MIP-lαなどの、例えばケモカインは、DNAワクチンのためのアジュバントとして使用されるときに、専門の抗原提示細胞(APC)を含む多様な細胞を免疫化部位に補充する能力を有する。比較的低レベルのAPCがある筋肉などの部位に対するAPCの要求は、筋肉内注射のためのDNAワクチンの作用強度を非常に増加させるだろう。例えば、GM-CSFなどのサイトカインは、DNAワクチンのためのアジュバントとして使用されたときに、樹枝状細胞を補充し、及び免疫化部位にてこれらの生存を促進する。例えば細胞死を誘導するFasなどの分子アジュバントは、またDNAワクチンの作用強度、及び有効性を増加させることができる。アジュバントによって媒介されるアポプトーシス、及び壊死は、より多くの抗原をAPCに提供することが示された。例えばポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLG)、及び熱ショックタンパク質などのその他の分子は、またDNAワクチンのためのアジュバントとして作用することが示された。アジュバントを、例えば無処置の分子などの無処置の分子として、又はこのような分子を発現するベクター;例えば、GM-CSFを発現するプラスミドとしてDNAワクチンと組み合わせることができることは、当業者に周知である。
【0047】
ムコール菌症などの真菌感染症に感受性の対象のワクチン接種に加えて、本発明のワクチン組成物は、免疫治療的に、多様な真菌感染に罹患しているる対象を治療するのに使用することができる。従って、アジュバントとの組み合わせで本明細書に記述されたFTRポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び/又は抗体組成物の1つ以上を含み、及び予防的、又は治療的使用の目的のために作用するワクチンは、また本発明の範囲内である。ある実施態様において、本発明のワクチンは、体自身の免疫系を誘導して、真菌のFTR分子を探し出し、及び阻害するだろう。
【0048】
本発明の別の態様は、FTR配列の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチドRNAi配列;FTRヌクレオチド配列、ポリペプチド、又はこれらの断片に特異的に結合する抗体、又はその抗体断片からなる群から選択されるアンチセンス、低分子干渉RNA、又はFTRの抗体阻害剤;及び医薬として許容し得る賦形剤、又は担体を有する真菌状態を治療し、又は予防するための医薬組成物に関する。一つの実施態様において、医薬組成物は、更にアジュバントを含む。
【0049】
本発明のアンチセンス核酸分子は、遺伝子工学の当該技術分野に公知の手順によって酵素ライゲーション反応を使用して構築した、配列番号:1のヌクレオチド配列、図15-18、これらの相補的な鎖、及び/又はその部分、若しくは変異体を使用してデザインすることができる。例えば、アンチセンス核酸分子(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、遺伝子の制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、又は転写開始領域)とハイブリダイズするようにデザインされた天然に存在するヌクレオチド、又は多様に修飾されたヌクレオチドを使用して化学的に合成して、三重らせん形成を介してFTR遺伝子の発現を阻害することができる。或いは、アンチセンス核酸分子は、遺伝子の転写物(すなわち、mRNA)とハイブリダイズするようにデザインすることができ、従って、リボソームへの転写物の結合を阻害することによってFTRの翻訳を阻害する。アンチセンス法、及びプロトコルは、例えば、C. Stein、A. Krieg編、「適用されたアンチセンスオリゴヌクレオチド技術(Applied Antisense Oligonucleotide Technology)」Wiley-Liss、Inc.(1998);又は米国特許第5,965,722号;第6,339,066号;第6,358,931号;及び第6,359,124号において一般に記述されている。
【0050】
本発明は、また、配列番号:1、図15-18、又はこれらの相補的な鎖から選択されるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列に高ストリンジェンシー状態下でハイブリダイズする断片、部分、若しくは変異体を含む核酸、又はヌクレオチド配列を、アンチセンス分子として提供する。本発明の核酸断片は、少なくとも約12、一般には、少なくとも約15、18、21、又は25ヌクレオチドであり、及び40、50、70、100、200、又はそれ以上の長さのヌクレオチドであることができる。以下に記述した抗原性ポリペプチドをコードするより長い断片、例えば、長さが30、又はそれ以上のヌクレオチドは、抗体の生成のためなどに、特に有用である。
【0051】
本発明に有用である特定の小さな核酸分子は、低分子干渉RNA(siRNA)として公知である二重鎖RNAの短いひと配列である。これらの干渉RNA(RNAi)は、インビボにおいてFTR遺伝子機能の選択的な阻害ができる。本発明において、RNAiは、ムコール菌症感染のDKAマウスモデルにおけるFTR発現をノックダウンするために使用されており、それを行う際に、これは感染に対する生存、及び保護に対して劇的な効果を示す。RNAiアプローチは、ウイルス感染と戦うための生得的な細胞の反応に依存する。このプロセスにおいて、二重鎖mRNAは、ダイサーRNaseによって認識され、及び切断され21-23のヌクレオチド長のRNAiひと配列を生じる。これらのRNAiは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれ、及び巻き戻される。次いで、単一アンチセンス鎖がRISCを相補的な配列を含むmRNAへ導いて、mRNAのヌクレオチド鎖の切断を生じる、Elbashirらの文献、(Nature 411;494-498 (2001))を参照されたい。それ故、この技術は、真菌病原体が感染している対象において、インビボにおけるFTR mRNAのターゲティング、及び分解のための手段を提供する。
【0052】
本発明は、阻害抗体(モノクローナル、又はポリクローナル)、及びFTR機能に結合し、及び阻害ができるその抗原結合性断片を更に提供する。本発明の抗体阻害剤は、FTR、又はその部分、断片、変異体に結合すること、及びタンパク質機能(すなわち、鉄輸送)を妨げること、又は阻害することができる。更にまた、このような抗体は、FTRに結合すること、及び真菌膜の中でのタンパク質の適当な局在化、又はコンフォメーションを妨げること、又は阻害することができる。抗体、又はその抗原結合性断片は、それがFTRポリペプチドと検出可能なレベルにて反応し、及び同様の条件下で無関係なポリペプチドと検出可能的に反応しない場合、本発明のFTRポリペプチドに「特異的に結合する」、「免疫学的に結合する」、及び/又は「免疫学的に反応性である」といわれる。
【0053】
加えて、ヒト、及び非ヒト部分の両方を含むキメラ、並びにヒト化抗体などの組換え抗体は、標準的な組換えDNA技術を使用して作製することができ、本発明の範囲内である。また、Fab、F(ab')などの断片は、「抗体」という用語の範囲内で含まれる。ムコール菌症の原因となる病原性真菌において、本発明のFTR特異的なモノクローナル抗体は、FTR、又はこれらの機能的断片に特異的な結合活性を有する。
【0054】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、ファージディスプレイ、及びコンビナトリアル抗体技術、又はこれらの組み合わせなどの方法を使用して調製することができる。モノクローナル抗体の産生のための技術、及びプロトコルは、例えば、Harlow、及びlane編、「抗体:研究室マニュアル(Antibodies: A laboratory Manual)」、Cold Spring harbor Laboratory Press(1999);Harlowらの文献、抗体の使用:研究室マニュアル(Using Antibodies:A Laboratory Manual)、Cold Spring harbor Laboratory Press(1999);C. Borrebaeck編、抗体工学:実践ガイド(Antibody Engineering:Practical Guide)、W. H. Freeman、及びCo., Publishers、pp. 130-120(1991)において一般に記述されている。
【0055】
その上、本明細書において同定されたFTRヌクレオチド配列の一部、又は断片、又は変異体(及び対応する完全な遺伝子配列)は、ポリヌクレオチド試薬として種々の方法において使用することができる。例えば、これらの配列は、解析、特性付け、又は治療的使用のために組換えポリペプチドを同定し、及び発現するために使用することができる。配列は、更に、以下に記述したスクリーニング、及び/又は診断アッセイにおける試薬として使用することができ、またスクリーニング、及び/又は診断アッセイにおける使用のためのキット(例えば、診断キット)の成分として含めることができる。
【0056】
FTRを阻害する際の本発明の組成物は、接合菌症、及びムコール菌症を含む広く多様な真菌感染に罹患している対象に適用することができる。本発明の組成物は、その他の抗真菌薬(例えば、アンホテリシン、デフェリプロン、デフェラシロクス)を更に補うことができる。或いは、本発明の組成物は、(例えば、能動免疫を介して)ムコール菌症、又はその他の真菌感染を発症するリスクが高い全ての対象に予防的に適用することができる。これは、現在の抗真菌薬、及び外科的壊死組織切除治療の観点において、ムコール菌症の高い死亡率、及び罹患率を考慮すると過剰処置とは考えられないだろう。
【0057】
更に、本発明は、また免疫原性FTRポリペプチド、又はFTR阻害性ヌクレオチド(例えば、RNAi、アンチセンス分子)を産生することができる宿主細胞に向けられる。「宿主細胞」という用語は、特定の対象細胞に対してだけでなく、前述の細胞の子孫、又は潜在的子孫をもいうことが理解される。宿主細胞は、任意の原核生物(例えば大腸菌)、又は真核生物細胞(例えば、酵母、昆虫細胞、又はCHO、若しくはCOS細胞などの哺乳動物細胞)であることができる。その他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。このような免疫原性の阻害性分子を発現するベクターは、従来のトランスフェクション、又は形質転換技術を介して原核生物、又は真核生物細胞に導入することができる(Sambrookらの文献、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor, N. Y., 1989を参照されたい)。
【0058】
別の本発明の態様に従って、上記の組成物のいずれかを、真菌状態を治療し、又は予防するために使用することができる。真菌状態は、病原性真菌によって引き起こされる異常な状態、又は感染である。本発明の方法によって寛解させることができる真菌状態の症候は、例えば、熱、冷え、寝汗、食欲不振症、体重減少、倦怠感、鬱病、及び肺、皮膚、又はその他の病変を含む。その他の症候、又は特徴徴候は、例えば、原発性病巣からの播種、急性、又は亜急性症候、進行性肺炎、真菌血症、肺外播種徴候、慢性髄膜炎、細網内皮系(肝臓、脾臓、骨髄)の全般的な関与としての進行性の播種性のヒストプラスマ症、及び単一、又は複数の皮膚病変としてのブラストミセス症を含む。真菌状態である個体の有効な治療は、例えば、治療される個体における1つ以上のこのような症候の減少を生じるだろう。真菌状態の多数のその他の臨床的症候が、当該技術分野において周知であり、また本明細書に記述した本発明の方法を使用する真菌状態の重症度のある程度の寛解、又は減少として使用することができる。
【0059】
真菌状態の診断は、例えば、痰、尿、血液、骨髄、又は感染した組織からの検体から原因となる真菌を単離することによって確認することができる。例えば、真菌感染は、真菌に侵入する特有の形状の特徴に基づいた高信頼度で組織病理学的に、及び/又は免疫組織化学によって、及び抗原を同定するために選択的な同様のもので診断することができる。感染の活性の評価は、また多くの異なる部位から採取される培養、熱、白血球数、特定の関与する器官に関連した臨床的、及び研究室パラメーター(例えば、肝臓機能検査)、並びに免疫血清学的試験に基づくことができる。積極的な喀痰培養の臨床的重要性は、また組織浸潤の確認によって実証することができる。
【0060】
ヒト、及び動物の真菌感染、又は真菌症は、例えば、皮膚の外層に影響を及ぼす表在性の真菌感染;カンジダ・アルビカンスによって生じるものなどの口(鵞口瘡)、膣、及び肛門の領域を含む粘膜の真菌感染、及び例えば、リゾープス・オリゼによって生じるものなどの重篤な、たいてい致命的な疾患を生じさせることができる、皮膚のより深い層、及び内部臓器に影響を及ぼす真菌感染を含む。真菌感染は、当該技術分野において周知であり例えば、接合菌症、ムコール菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症(cryptococcosis)、カンジダ症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス症(coccidiomycosis)、パラコクシジオイデス症、フサリウム症(fusariosis)(硝子藻菌類症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症、又はスポロトリクム症を含む。これらの、及びその他の真菌感染は、例えば、Merck Manual、第16版、1992、及びSpellbergらの文献、Clin. Microbio. Rev. 18:556-69(2005)において記述されたものを見いだすることができる。
【0061】
属カンジダ属(Candida)(カンジダ症)の真菌によって生じる真菌の状態は、例えば皮膚、及び口、呼吸器路、及び/又は膣の粘膜において生じ得るし、並びに特に免疫無防備状態個体において血流に侵入し得る。カンジダ症は、カンジダ症(candidosis)、又はカンジダ症(manioiasis)としてまた当該技術分野において公知である。属カンジダ属(Candida)の例示的な種は、例えば、鵞口瘡カンジダ(Candida albicans)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、及びカンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)を含む。
【0062】
属コウジカビ属(Aspergillus)によって生じる真菌疾患は、例えば、喘息、嚢胞性線維形成、及び副鼻腔炎患者に影響を及ぼすアレルギー性アスペルギルス症;癌患者、化学療法を受けている患者、及びAIDS患者などにおいて免疫が弱められた患者における発病率の増加を示す急性浸潤性アスペルギルス症;体の全体にわたって広範囲にわたる播種性の浸潤性アスペルギルス症、及び耳、及びその他の臓器の炎症、及び病巣によって特徴づけられる日和見コウジカビ属感染を含む。コウジカビ属は、約200真菌の属である。浸潤性の疾患を生じさせるアスペルギルス種は、例えば、アスペルギルス・フミガーツス、及びアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)を含む。アレルギー疾患を生じさせるアスペルギルス種は、例えば、アスペルギルス・フミガーツス、及びアスペルギルス・クラバツス(Aspergillus clavatus)を含む。その他の例示的なコウジカビ属感染性の種は、例えば、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、及びアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)を含む。
【0063】
例えば、雑菌性カビ真菌によって生じる接合菌症、及びムコール菌症などの真菌状態は、リノセレブラルムコール菌症、肺ムコール菌症、胃腸ムコール菌症、播種性ムコール菌症、骨ムコール菌症、縦隔ムコール菌症、気管ムコール菌症、腎臓ムコール菌症、腹膜ムコール菌症、上方大静脈ムコール菌症、又は外耳炎ムコール菌症を含む。ムコール菌症を生じさせる感染性媒体は、例えば、リゾープス・オリゼ(リゾープス・アリズス)、リゾープス・ミクロスポルス・バール・リゾポホルミスなどのリゾープス属からの種;又は例えば、アブシディア・コリムビフェラなどのアブシディア属からの種;又は例えば、アポフィソマイセス・エレガンスなどのアポフィソマイセス属からの種;又は例えばムコール・アムフィビオルム(Mucor amphibiorum)などのケカビ属からの種;又は例えばリゾムコル・プシルスなどのリゾムコル属からの種;又は例えばクンニンハメラ・ベルトェチアエ(Cunninghamella bertholletiae)などのクンニンハメラ属(クンニンハメラ科)からの種を含む目ケカビ目のものである。
【0064】
ムコール菌症、及びその他の真菌疾患の治療におけるFTR分子、並びに/又はその機能の有効な阻害について、種々の方法が本明細書に記述されている。これらの阻害方法は、FTRを効率的にターゲットし、及びその機能を阻害することができるワクチン、アンチセンス、siRNA、抗体、又は任意のその他の組成物を含む。このような方法は、鉄を病原性生物に供給する際に機能する主な鉄輸送体を阻害することによって、感染した組織における真菌の増殖を減少させ、又は妨げるだろう。可溶性FTRポリペプチド、又はその機能的断片、若しくは変異体を使用した鉄輸送の免疫療法阻害は、次の理由により、この状況において有用である。
(i)現在利用できる抗真菌薬療法でさえ、ムコール菌症と関連する罹患率、及び死亡率は、例えば、増大し続ける;(ii)抗真菌薬耐性の発病率の上昇は、抗真菌薬薬剤の使用の増加と関連する;iii)重篤な接合菌症、ムコール菌症、カンジダ症、又はアスペルギルス症のリスクのある患者の集団は、例えば、明確に定義されており、非常に大きく、例えば、手術後の患者、移植患者、癌患者、低出産体重児、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)、及び代謝性アシドーシスのその他の形態である対象、コルチコステロイドでの治療を受けている対象、好中球減少がある対象、外傷、火傷、及び悪性血液疾患のある対象、及びデフェロキサミンキレート化-療法、又は血液透析を受けている対象を含む;並びにiv)高い割合で重篤な真菌感染を発症する患者は、好中球減少性ではなく、従って、ワクチン、又は競合的ポリペプチド、若しくは化合物阻害剤に反応し得る。これらの理由により、接合菌綱、又はカンジダ属(Candida)は、例えば、受動免疫療法、能動免疫療法、又は受動、若しくは能動免疫療法の組み合わせのための真菌の標的である。
【0065】
力学的に、FTRポリペプチドは、酵母における銅オキシダーゼと物理的に複合体形成し、ほとんど同時に第二鉄を酸化工程へ輸送する。DKAである対象において、低pH状態は、トランスフェリン(T)を含む血清担体分子からの第二鉄(Fe3+)のプロトンを媒介した置換を生じさせる。図4を参照されたい。次いで、Fe3+は、細胞表面にて第一鉄(Fe2+)に還元される。対照的に、デフェロキサミン(D)は、トランスフェリンから直接鉄をキレート化して、フェリオキサミン(鉄-デフェロキサミン複合体)を生じる。次いで、フェリオキサミンは、真菌、例えば接合菌綱の表面上の未同定の受容体に結合する。次いで、真菌は、細胞表面における還元によってフェリオキサミンから第一鉄を遊離する。両方の場合において、第一鉄は、銅オキシダーゼ(Cu-オキシダーゼ)によって第二鉄へ再び酸化する。
【0066】
従って、FTRを阻害する際の本発明の方法は、接合菌症、及びムコール菌症を含む広く多様な真菌感染に罹患している対象に適用することができる。本発明の方法は、その他の抗真菌薬薬剤(例えば、アンホテリシン、デフェリプロン、デフェラシロクス)を更に補うことができる。或いは、本発明の方法は、(例えば、能動免疫を介して)ムコール菌症、又はその他の真菌感染を発症するリスクが高い全ての対象に予防的に適用することができる。これは、現在の抗真菌薬、及び外科的壊死組織切除治療の観点において、ムコール菌症の高い死亡率、及び罹患率を考慮すると過剰処置とは考えられないだろう。
【0067】
従って、1つの態様において、本発明は、播種性ムコール菌症、又はその他の真菌疾患を治療し、又は予防する方法を提供する。本方法は、医薬として許容し得る媒体中の、図2に示したFTRポリペプチド(配列番号:2)、又はポリペプチドの抗原性、若しくは免疫原性断片、又はその変異体を有するワクチンの免疫原性の量を投与することを含む。ワクチンの調製は、M. F. Powell、及びM. J. Newman編、「ワクチンデザイン(サブユニット、及び補助アプローチ)(Vaccine Design (the subunit and adjuvant approach))」、Plenum Press(1995);A. Robinson、M. Cranage、及びM. Hudson編(「ワクチンプロトコル(分子医学 における方法)(Vaccine Protocols (Methods in Molecular Medicine)」)Humana Press(2003);及びD. Ohagan編、「ワクチンアジュバント:調製方法、及び研究プロトコル(分子医薬における方法)(Vaccine Ajuvants: Preparation Methods and Research Protocols (Methods in Molecular Medicine))」、Humana Press(2000)に一般に記述されている。
【0068】
FTRポリペプチド、又はポリペプチドの抗原性、若しくは免疫原性断片、又はその変異体は、リゾープス・オリゼ(リゾープス・アリズス)、リゾープス・ミクロスポルス・バール・リゾポホルミス、アブシディア・コリムビフェラ、アポフィソマイセス・エレガンス、ケカビ属種、リゾムコル・プシルス、及びクンニンハメラ属種(クンニンハメラ科);又は鵞口瘡カンジダ、カンジダ・クルセイ、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・グラブラタ、及びカンジダ・パラプシロシスなどの異なるカンジダ属種;又はアスペルギルス・フミガーツス、クロコウジカビ(Aspargillus niger)、アスペルギルス・フラバス、アスペルギルス・テレウス、及びアスペルギルス・ニデュランスなどの異なるアスペルギルス属種に由来することができる。本発明のワクチンの投与は、対象における真菌病原体の増殖、及び/又は病原性の阻害を生じるだろう。
【0069】
例えば、S.セレビジエ、及び鵞口瘡カンジダのものとR.オリゼのFTRの配列相同性は、実施例1において下記に更に記載してある。本明細書において提供される教示、及び指針を考慮すると、本発明のワクチン、及び方法は、ムコール菌症、又は同様にその他の真菌感染の治療に適用することができることが当業者には理解されるだろう。同様に、本明細書に記述した教示、及び方法を考慮すると、当業者は、また本発明のワクチン、及び方法は、また、真菌、細菌、及び同様のものを含む本明細書に記述したFTRタンパク質と同様の免疫原性、配列、及び/又は構造的相同性をもつ鉄パーミアーゼポリペプチドを有するその他の病原体に適用することができることを理解するだろう。
【0070】
ワクチン組成物は、投薬量製剤と適合性の様式で、及びアジュバントの有無にかかわらず予防的に有効であろうような量で投与される。投与される量は、一般に用量につき1〜10mg、好ましくは1〜1000μgの抗原の範囲であり、治療される対象、対象の免疫系が抗体を合成する能力、及び所望の防護度に依存する。投与されることが必要とされる活性成分の正確な量は、当業者の判断に依存することができ、それぞれの対象に特有であり得る。その上、それぞれのワクチンの用量におけるポリペプチドの量は、免疫保護反応を誘導する免疫原性の量として選択される。特に有用な免疫原性の量は、有意な、有害な副作用がないFTRポリペプチドの量を含む。このような量は、ワクチン接種のために選択されるFTRポリペプチドの免疫原性の強度に応じて変化するだろう。FTRポリペプチド、又はこれらの免疫原性断片の有用な免疫原性の量は、例えば約1-1000μgの範囲である用量を含む。特定の実施態様において、FTRポリペプチド、又はこれらの免疫原性断片の有用な免疫原性の量は、約2-100μgを含み、特に有用な用量範囲は、例えば5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、35、及び40μgを含む約4-40μgの範囲、並びに上記の例証された量の間の全ての値であることができる。以前に例証したように、本発明の選択されたFTRポリペプチドワクチンのための最適な免疫原性の量は、対象における抗体価、及びその他の免疫応答の決定などの当該技術分野において周知の方法を使用して確認することができる。最初のワクチン接種の後、対象は、約3-4週においてブーストを受ける。ワクチン送達方法は、例えば、S. Cohen、及びH. Bernstein編、「タンパク質、及びワクチンの送達のための微粒子系(薬物、及び医薬品科学)(Microparticulate Systems for the Delivery of Proteins and Vaccines (Drugs and The Pharmaceutical Sciences))、Vol. 77、Marcel Dekker、Inc.(1996)において更に記述されている。リポソーム中のカプセル化は、例えば、Fullertonの文献、米国特許第4,235,877号によって記述されている。巨大分子に対するタンパク質の抱合は、例えば、Likhiteの文献、米国特許第4,372,945号によって、及びArmorらの文献、米国特許第4,474,757号によって開示されている。
【0071】
更にまた、本発明のワクチン組成物は、抗原性FTR分子をコードするDNAワクチンを含む。上述したように、例えば、DNAワクチンの調製は、M. Saltzman、H. Shen、及びJ. Brandsma(編)「DNA ワクチン(分子医学における方法)(DNA Vaccines (Methods in Molecular Medicine))」、Humana Press(2006);H. Ertl編、「DNAワクチン(DNA Vaccines)」、Kluwer Academic/ Plenum Publishers(2003)において一般に記述されている。DNAワクチンは、多様な発現系によって対象の宿主細胞に導入することができる。これらの発現系は、原核生物、哺乳動物、及び酵母発現系を含む。例えば、1つのアプローチは、宿主細胞を接種するために、新たな遺伝子材料を組み込んでいるワクシニアウイルスなどのウイルスベクターを利用することである。或いは、遺伝子材料は、ベクターに組み込むことができ、又は「裸の」ポリヌクレオチドとして、すなわち単に精製したDNAとして宿主細胞に直接送達することができる。加えて、DNAは、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)などの減弱された細菌に安定してトランスフェクトすることができる。対象が形質転換されたサルモネラ(Salmonella)と共に経口的にワクチン接種されるとき、細菌は、腸(すなわち、二次リンパ組織)のパイエル板へ輸送され、次いでこれが免疫応答を刺激する。加えて、DNAワクチンは、例えばリポソームなどの脂質単層、二重層、又は小嚢などの多様な周知の送達媒体によってを送達することができる。細胞を透過性にするために一般に使用されるサポニン、及びブロック共重合体などの媒体も、DNAワクチンと共に使用することができる。前述のように、本発明のDNAワクチン組成物は、医薬として許容し得る担体、及び/又はアジュバントを含むことができる。
【0072】
本明細書に記述したDNAワクチン組成物は、本発明によって想定される多様な経路によって投与することができる。このような経路は、鼻腔内、経口、直腸、膣、筋肉内、皮内、及び皮下投与を含む。
【0073】
非経口投与のためのDNAワクチン組成物は、本明細書に記述したような無菌の水性、若しくは非水性の溶液、懸濁液、又は乳濁液、タンパク質ワクチン、及びアジュバントを含む。組成物は、液体、スラリー、又は使用前に無菌の注射可能な媒体に溶解することができる無菌の固体の形態であることができる。非経口投与は、好ましくは筋肉内である。筋肉内接種は、筋肉内への注射器を介した注射を含む。この注射は、注射器、又は相当する手段を経ることができる。ワクチン組成物は、医薬として許容し得る担体、及び/又はアジュバントを含むことができる。或いは、本発明のワクチン組成物は、粘膜経路を介して、適切な用量で、及び液体の形態で投与することができる。経口投与については、ワクチン組成物は、適切な担体と共に液体、又は固体の形態で投与することができる。
【0074】
本発明は、また、その必要のある対象における真菌状態を治療し、又は予防する方法であって、FTRに対するアンチセンスに対して前記真菌を暴露することを含む、前記方法を提供する。一つの実施態様において、アンチセンスは、FTRヌクレオチド配列の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む。別の実施態様において、アンチセンスのヌクレオチド配列は、FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的である。
【0075】
本発明に従って使用されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは固体相合成の周知の技術を介して都合よく、及びルーチンで作製することができる。このような合成用の機器は、Applied Biosystemsを含むいくつかのベンダーにより販売されている。このような合成のための任意のその他の手段も、また使用することができるが、オリゴヌクレオチドの実際の合成は、十分に当業者の才能の範囲内である。ホスホロチオアート、及びアルキル化された誘導体などのその他のオリゴヌクレオチドを調製するために同様の技術を使用することも周知である。前述のように、アンチセンス核酸分子(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、遺伝子の制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、又は転写開始領域)とハイブリダイズするようにデザインされた天然に存在するヌクレオチド、又は多様に修飾されたヌクレオチドを使用して化学的に合成して、三重らせん形成を介してFTR遺伝子の発現を阻害することができる。或いは、アンチセンス核酸分子は、FTRの転写物(すなわち、mRNA)とハイブリダイズするようにデザインすることができ、従って、リボソームへの転写物の結合を阻害することによってFTRの翻訳を阻害する。アンチセンス法、及びプロトコルは、例えば、C. Stein、A. Krieg編、「適用されたアンチセンスオリゴヌクレオチド技術(Applied Antisense Oligonucleotide Technology)」Wiley-Liss、Inc.(1998);又は米国特許第5,965,722号;第6,339,066号;第6,358,931号;及び第6,359,124号において一般に記述されている。
【0076】
本発明のアンチセンス組成物は、当該技術分野において公知の多様な手段で、その必要のある対象に送達することができる。例えば、放出できる形態でアンチセンス組成物を含むポリスチレン微小粒子、生物分解可能な粒子、リポソーム、又は微小泡などの微小粒子を、注射を介した組織への組成物の直接の配達のために使用することができる。本発明のいくつかの実施態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、B型肝炎ウイルスなどのウイルスベクターにおいて(例えば、Jiらの文献、J. Viral Hepat. 4:167 173 (1997))参照されたい;アデノ随伴ウイルス(例えば、Xiaoらの文献、Brain Res. 756:76 83(1997)参照されたい);又はHVJ(センダイウイルス)-リポソーム遺伝子到達系(例えば、Kanedaらの文献、Ann. N. Y. Acad. Sci. 811:299 308(1997)を参照されたい);「ペプチドベクター」(例えば、Vidalらの文献、CR Acad. Sci III 32:279 287(1997)を参照されたい);エピソーム、又はプラスミドベクターにおける遺伝子として(例えば、Cooperらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:6450 6455(1997)、Yewらの文献、Hum Gene Ther. 8:575 584 (1997)を参照されたい);ペプチド-DNA凝集体の遺伝子として(例えば、Niidomeらの文献、J. Biol. Chem. 272:15307 15312(1997)を参照されたい);「裸のDNA」として(例えば、米国特許第5,580,859号、及び米国特許第5,589,466号を参照されたい);脂質ベクター系において、(例えば、Leeらの文献、Crit Rev Ther Drug Carrier Syst. 14:173 206(1997)を参照されたい);リポソームをコーティングした重合体(Marinらの文献、米国特許第5,213,804号、Can 25、1993に発行;Woodleらの文献、米国特許第5,013,556号は、Can 7、1991年に発行);カチオン性リポソーム(Epandらの文献、米国特許第5,283,185号は、1994年2月1日に発行;Jessee, J. A.の文献、米国特許第5,578,475号、1996年11月26日に発行;Roseらの文献、米国特許第5,279,833号、1994年1月18日に発行;Gebeyehuらの文献、米国特許第5,334,761号、1994年8月2日に発行);気体充填マイクロスフェア(Ungerらの文献、米国特許第5,542,935号、1996年8月6日に発行)、リガンドターゲットされたカプセル化された巨大分子(Lowらの文献、米国特許第5,108,921号、1992年4月28日に発行;Curielらの文献、米国特許第5,521,291号、Can 28、1996年に発行;Gromanらの文献、米国特許第5,554,386号、1996年9月10日に発行;Wuらの文献、米国特許第5,166,320号、1992年11月24日に発行)を含むが限定されない、その他の系で調製すること、及び送達することができる。
【0077】
本発明は、また、その必要のある対象における真菌状態を治療し、又は予防する方法であって、FTRに対して低分子干渉RNAに前記真菌を曝露することを含む、前記方法を提供する。一つの実施態様において、FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチドRNAi配列は、FTRヌクレオチド配列、又はこれらの断片に対する結合ができるものを使用する。
【0078】
また、低分子干渉RNA(siRNA)として公知の二本鎖RNA(dsRNA)は、RNA干渉(RNAi)として公知のプロセスによって、多くの生物において配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングを誘導する。本発明において、実施例9に記載されているように、RNAiを調製して、ムコール菌症感染のDKAマウスモデルにおけるFTR発現をノックダウンするために使用されており、それを行う際に、これは感染に対する生存、及び保護に対して劇的な効果を示す。
【0079】
siRNAは、通常医薬組成物として投与される。投与は、公知の方法によって実施することができ、この場合核酸は、インビトロ、若しくはインビボにおいて所望の標的細胞に導入される。一般に使用される遺伝子導入技術は、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、及びマイクロインジェクション、及びウイルス法(Grahamらの文献、Virol. 52, 456 (1973);McCutchanらの文献、J. Natl. Cancer Inst. 41、351(1968);Chuらの文献、Nucl. Acids Res. 15, 1311 (1987);Fraleyらの文献、J. Biol. Chem. 255、10431(1980);Capecchiの文献、Cell 22、479(1980);及びカチオン性リポソーム(Feignerらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci USA 84、7413(1987))を含む。市販のカチオン脂質製剤は、例えばTfx 50(商標)(Promega)、又はLipofectamin2000(商標)(Invitrogen)である。
【0080】
本発明は、また、その必要のある対象における真菌状態を治療し、又は予防する方法であって、FTRの抗体阻害剤を含む、前記方法を提供する。一つの実施態様において、FTRの抗体阻害剤は、FTRヌクレオチドポリペプチド、又はこれらの断片に特異的に結合する抗体、又は抗体断片である。
【0081】
以前に記述したように、FTRの抗体阻害剤は、FTR結合し、及びその機能の阻害ができる。本発明の抗体阻害剤は、FTR、その一部、断片、又は変異体に結合することができ、タンパク質機能(すなわち、鉄輸送)を妨げ、又は阻害する。これらの抗体は、例えば、タンパク質の適当な膜局在化、析重ね、又はコンフォメーションにネガティブに影響を及ぼすことによってFTR、及びその基質結合能力を阻害することができる。
【0082】
本発明の抗体は、当該技術分野において公知の任意の適切な方法によって産生することができる。FTRに対するポリクローナル抗体は、当該技術分野において周知の種々の手順によって産生することができる。例えば、抗原性FTRペプチドを、ウサギ、マウス、ラット、その他を含むが,限定されない種々の宿主動物に投与して、抗原に対して特異的なポリクローナル抗体を含む血清の産生を誘導することができる。種々のアジュバントを、宿主種に応じて、免疫学的応答を増加させるために使用することができ、フロイント(完全、及び不完全)、酸化アルミニウム三水和物などのミネラルゲル、ミョウバン(アルヒドロゲル)、リゾレシチンなどの表面活性物質、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、スカシガイ(keyhole limpet)ヘモシアニン、ジニトロフェノール、並びにBCG(カルメット‐ゲラン菌)、及びコリネバクテリウム・パルブム(corynebacterium parvum)などの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むが、限定されない。このようなアジュバントは、また当該技術分野において周知である。
【0083】
本発明の抗体を産生するために適したFTRペプチド抗原は、周知の技術に従ってデザインし、構築し、及び使用することができる。例えば、抗体;実験室マニュアル(ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL)、第5章、75-76ページ、Harlow & Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory (1988);Czernikの文献、Methods In Enzymology、201:264-283 (1991);Merrifieldの文献、J. Am. Chem. Soc. 85:21-49 (1962))を参照されたい。本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマの使用、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はこれらの組み合わせを含む当該技術分野において公知の広く多様な技術を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野において公知のものを含むハイブリドーマ技術を使用して産生することができ、例えば、Harlowらの文献、抗体;実験室マニュアル(ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL)Cold Spring Harbor Laboratory Press、第2版1988);Hammerlingらの文献、Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier、N. Y., 1981)において教示される(前記参照文献は、これらの全体が引用により組み込まれる)。
【0084】
本発明の抗体は、また当該技術分野において公知の種々のファージディスプレイ法を使用して産生することができる。ファージディスプレイ法において、機能的抗体ドメインは、これらをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面上に示される。特定の実施態様において、このようなファージは、レパートリー、又はコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒト、又はマウス)から発現される抗原結合ドメインを提示するために利用することができる。関心対象の抗原を結合する抗原結合ドメインを発現するファージは、抗原、例えば標識抗原、又は固体の表面、若しくはビーズに結合され、若しくは捕獲された抗原を使用して選択すること、又は同定することができる。これらの方法において使用されるファージは、典型的にはファージ遺伝子III、又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに組換えで融合されたFab、Fv、又は二硫化物安定化されたFv抗体ドメインをもつファージから発現されるfd、及びM13結合ドメインを含む線状ファージである。本発明の抗体を作製するために使用することができるファージディスプレイ法の例は、米国特許第5,698,426号;第5,223,409号;第5,403,484号;第5,580,717号;第5,427,908号;第5,750,753号;第5,821,047号;第5,571,698号;第5,427,908号;第5,516,637号;第5,780,225号;第5,658,727号;第5,733,743号、及び第5,969,108号に開示されたものを含み;それぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
本発明の抗体は、当該技術分野において公知の任意の方法によって、免疫特異性結合についてアッセイすることができる。使用することができる免疫アッセイは、ほんの少し例を挙げれば、ウエスタンブロット、放射免疫アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈澱アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散法アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線アッセイ、蛍光免疫アッセイ、タンパク質A免疫アッセイなどの技術を使用する競合的、及び非競合的アッセイ系を含むが、限定されない。このようなアッセイ法は、ルーチンで、及び当該技術分野において周知である。例えば、Sambrook、Fitsch及びManiatisの文献、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.(1989)を参照されたい。
【0086】
特異的結合は、例えば、親和性(Ka、又はKd)、会合速度(Kon)、解離割合(Koff)、結合活性、又はこれらの組み合わせを含む当業者に公知の多様な測定のいずれかによって決定することができる。本発明の抗体は、またFTRに対するこれらの結合親和性に関して記述すること、又は特定することができる。好ましい結合親和性は、5×10-2M、10-2 M、5×10-3M、10-3 M、5×10-4M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、107M、5×10-8 M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、又は10-15M未満の解離定数、若しくはKdであるものを含む。
【0087】
本発明の抗体をFTR阻害剤として使用することができる例示的なアプローチは、体において局所的に、又は全身的に、又は例えば補体(CDC)によって、若しくはエフェクター細胞(ADCC)によって媒介される抗体の直接の細胞毒性によりFTRポリペプチドに結合すること、及び阻害することを含む。本発明の抗体は、その他のモノクローナル、又はキメラ抗体と、又は例えば抗体と相互作用するエフェクター細胞の数、若しくは活性の増大に役立つリンフォカイン、又は造血性増殖因子(IL-2、IL-3、及びIL-7など)と組み合せて都合よく利用することができる。
【0088】
本発明の抗体は、単独、又は例えば抗真菌療法などの治療のその他のタイプと組み合わせて投与することができる。一つの実施態様において、FTR阻害剤抗体は、療法、又は予防のためにヒト患者に投与される。
【0089】
種々の送達系が公知であり、本発明の抗体阻害剤、例えばリポソーム中のカプセル化、微小粒子、マイクロカプセル、能力がある組換え細胞を投与するために使用することができる。導入方法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路を含むが、限定されない。
【0090】
化合物、又は組成物は、任意の便利な経路によって、例えば注入、又はボーラス注射によって、上皮、又は皮膚粘膜裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸、及び腸管の粘膜、その他)を介した吸収によって投与することができ、その他の生物活性薬と共に投与することができる。投与は、全身性、又は局部的であることができる。肺投与もまた、例えば吸入器、又は噴霧器の使用、及びエアロゾル化剤を伴う製剤により使用することができる。
【0091】
抗体については、対象に投与される投薬量は、典型的には0.1mg/kg〜100mg/kg(対象の体重)である。好ましくは、対象に投与される投薬量は、0.1mg/kgと20mg/kg(対象の体重)の間、より好ましくは、1mg/kg〜10mg/kg(対象の体重)である。一般に、ヒト化、又はヒト抗体は、ヒト体内で、外来ポリペプチドに対する免疫応答のため、その他の種からの抗体よりも長い半減期を有する。従って、より低い投薬量のヒト化抗体、及びより少ない頻繁の投与がたいてい可能である。更に、本発明の抗体の投薬量、及び投与の頻度は、修飾など(例えば、脂質化)によって抗体の取り込み、及び組織透過(例えば、脳内へ)を増強することによって減少させることができる。
【0092】
薬学的投薬量形態において、ワクチン、アンチセンス、siRNA、及び抗体を含む本発明の組成物は、単独で、又は適切な結合で、並びに互いと、又はその他の薬学的に活性な化合物と組み合せて使用することができる。薬剤の投与は、経口、頬側、経鼻、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、皮下、静脈内、動脈内、心臓内、脳室内、頭蓋内、気管内、及び髄腔内投与、その他を含む種々の方法で、又は別途移植、又は吸入によって達成することができる。従って、本組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐薬、浣腸、注射、吸入剤、及びエアロゾルなどの固体、半固体、液体、又はガス状の形態の製剤に製剤化することができる。以下の方法、及び賦形剤は、単に例示的であり、及びいかなる様式でも限定しない。
【0093】
本明細書に開示した治療様式のいずれかを組み合わせて、真菌感染に罹患している、又は真菌感染を発症するリスクのある対象に投与することができる(予防的ワクチン接種、又は治療)。併用療法において、例えば、対象には最初に本発明のワクチンを受けさせて真菌に対する免疫応答を生じさせ、次いで、真菌のFTRをターゲットすることができるアンチセンス、siRNA、及び/又は抗体を受けさせて、真菌治療を更に増強することができる。治療の一つの実施態様において、本発明のワクチンは、例えばムコール菌症などの真菌状態を治療し、又は予防するためにFTRに対するアンチセンス、siRNA、及び/又は抗体と組み合わせて使用される。別の実施態様において、本発明の抗体は、真菌状態を治療するために、アンチセンス、及び/又はsiRNAと組み合わせて使用される。
【0094】
本発明の組成物は、単独、又は組み合わせのいずれかにおいて、真菌療法のために利用できる1つ以上の方法、又は組成物を更に組み合わせることができる。一つの実施態様において、本発明の組成物は、真菌感染を治療するための外科的方法と共同して使用することができる。更に別の実施態様において、本発明の組成物は、真菌状態を治療するために、薬物、又は放射線治療と組み合わせて使用することができる。本発明の組成物との併用療法のために有用である抗真菌性薬物は、アンホテリシンB、例えばデフェラシロクス、デフェリプロン、POSACONAZOLE(登録商標)、FLUCONAZOLE(登録商標)、ITRACONAZOLE(登録商標)、及び/又はKETOCONAZOLE(登録商標)などの鉄キレート剤を含むが、限定されない。真菌感染を治療するための併用療法において有用な放射線は、例えば、真菌感染を治療するために有用な特定波長、及びエネルギーをもつ近赤外線などの電磁放射線を含む。併用療法において、化学療法、又は照射は、典型的には、有効な抗真菌性免疫応答の形成が治療前の潜在的残留効果によって損なわれないような方法でのワクチンの投与によって行われる。
【0095】
併用療法のさらなる実施態様において、本発明の組成物は、免疫サイトカイン治療と組み合わせることができる。理論によって拘束されることは望まないが、例えば、免疫応答を促進するサイトカインが感染の部位に存在するときに、例えば、ワクチンは、感染に対してより有効な免疫応答を生じると考えられる。例えば、有用な免疫サイトカインは、IL-2、又はIL-12などのTh1反応を誘発するものである。併用療法の間、例えば、対象は、最初に本発明のワクチンを受けて、真菌感染に対して免疫応答を生じ、次いで真菌をターゲットすることができる免疫サイトカインを受けさせて、感染と戦う際に免疫応答を補助する。好ましい免疫サイトカインは、典型的には、例えば、例えばFTRなど真菌の表面抗原特徴を認識する抗体部分を有する。免疫サイトカインは、典型的にはまた、IL-2、IL-12、又は優先してTh1反応に向けるその他などのサイトカイン部分を有する。本発明に適した免疫サイトカインは、米国特許第5,650,150号に記述されており、その内容は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0096】
併用療法の別の実施態様において、本発明の組成物の組み合わせは、例えば混合物として同時に、別々に、しかし、同時に、若しくは並行して、;又は順次投与することができる。これは、組み合わせた薬剤が治療的混合物として共に投与される体裁、及びまた、組み合わせた薬剤が別々に、しかし、同時に投与される、例えば同じ個体内に別々の静脈内ラインを通るような手順を含む。「組み合わせでの」投与は、最初に示された化合物、又は薬剤の一方、続く2番目の別々の投与を更に含む。別の特異的実施態様において、本発明の組成物は、日和見真菌感染を予防的に治療し、予防し、及び/又は診断するために、アンホテリシンB、デフェラシロクス、デフェリプロン、POSACONAZOLE(登録商標)、FLUCONAZOLE(登録商標)、ITRACONAZOLE(登録商標)、及び/又はKETOCONAZOLE(登録商標)との任意の組み合わせで使用される。
【0097】
従って、本発明は、本発明の1つ以上の化合物、又は医薬組成物の有効量の対象に対する投与による、治療、阻害、及び予防の方法を提供する。好ましい態様において、本発明の組成物は、実質的に精製される(例えば、これらの効果を制限し、又は望ましくない副作用を生じる物質が実質的にない)。対象は、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌ、その他などの動物を含むが、限定されない、好ましくは動物、及び好ましくは哺乳動物、及び最も好ましくはヒトである。
【0098】
上で議論したように、種々の送達系が公知であり、本発明の組成物を投与するために使用することができる。組成物は、任意の便利な経路によって、例えば注入、又はボーラス注射によって、上皮、又は皮膚粘膜裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸、及び腸管粘膜、その他)を介した吸収によって投与することができ、その他の生物活性薬と共に投与することができる。投与は、全身性、又は局部的であることができる。
【0099】
特定の実施態様において、治療の必要のある領域に局所的に本発明の医薬化合物、又は組成物を投与することが望ましいであろう;これは、例えば、及び限定はされないが、外科手術の間の局部的な注入、局所的な適用、例えば手術後の創傷被覆材での抱合の際に、注射によって、カテーテルの手段によって、坐薬の手段によって、又はインプラントの手段によって達成することができ、前記インプラントは、多孔性、非多孔性、若しくはサイラスティック膜などの膜を含むゼラチン状材料、又は繊維である。好ましくは、本発明の、ワクチン、又は抗体を含む、タンパク質を投与するときに、タンパク質を吸収しない材料を使用するように注意をしなければならない。別の実施態様において、化合物、又は組成物は、リポソームにおいて送達することができる。更に別の実施態様において、化合物、又は組成物は、放出制系において送達することができる。
【0100】
ある実施態様において、組成物は、ヒトに静脈内投与するために適応された医薬組成物としてルーチン手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張性水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、組成物は、また可溶化剤、及びリグノカインなどの注射の部位における疼痛を和らげる局所的麻酔薬を含むことができる。一般に、成分は、活性薬剤の量を示すアンプルなどの密閉して封をした容器中に、例えば乾燥凍結乾燥粉末、又は水を含まない濃縮物として、別々に供給されるか、又は単位剤形において共に混合されるかいずれかで供給される。組成物が注入によって投与される場合、これらは、無菌の医薬品等級水、又は生理食塩水を含む注入瓶に分けることができる。組成物が注射によって投与される場合、成分を投与前に混合することができるように、注射、又は生理食塩水のための滅菌水のアンプルを提供することができる。
【0101】
本発明の化合物は、また中性、又は塩形態として製剤化することができる。医薬として許容し得る塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、その他に由来するものなどのアニオンと形成されるもの、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン、その他に由来するものなどのカチオンと形成されるものを含む。
【0102】
真菌疾患、又は状態を治療、阻害、及び予防するのに有効であろう本発明の化合物、又は組成物の量は、標準的な臨床的技術によって決定することができる。加えて、インビトロアッセイを、最適な投薬量範囲を同定するのを補助するために、任意に使用することができる。製剤に使用するための正確な用量は、また投与の経路、及び疾患、又は状態の重傷度に依存するだろうし、当業者の判断、及びそれぞれの対象の環境に従って決定されるべきである。有効な用量は、インビトロ、又は動物モデル試験系に由来する用量反応曲線から推定することができる。
【0103】
以下の実施例は、播種性ムコール菌症の予防的手段、又は治療の基礎としてのFTRの治療的な有用性を例証する。実施例1は、FTRのクローニング、及び同定を記述する。実施例2は、鉄枯渇させた条件下でのR.オリゼにおけるFTR発現を記述する。実施例3は、S.セレビジエftr 1ヌル突然変異体におけるFTR発現を記述する。実施例4は、S.セレビジエftr 1ヌル突然変異体におけるFTR機能を記述する。実施例5は、ムコール菌症の動物モデルの開発を記述する。実施例は、R.オリゼに対するDKAマウスの感受性に対する血清鉄利用能の効果を記述する。実施例7は、R.オリゼに感染したDKAマウスにおけるインビボでのFTRの発現を記述する。実施例8は、FTRポリペプチド、及びその他のタンパク質に対するその相同性を記述する。実施例9は、ムコール菌症の血行性播種のDKAマウスモデルにおけるR.オリゼの病原性におけるFTR遺伝子産物の役割を記述する。
【0104】
本発明の種々の実施態様の活性に実質的に影響を及ぼさない修飾も、また本明細書において提供された本発明の定義内に含まれるものと理解される。従って、以下の実施例は、本発明を例証するが、限定しないことが意図される。
【0105】
実施例1
FTRのクローニング、及び同定
本実施例は、S.セレビジエ、及び鵞口瘡カンジダの高親和性な鉄パーミアーゼにかなりの配列相同性を示したR.オリゼのFTRのクローニング、及び同定を記述する(図3)。
【0106】
以下は、本実施例に記述した手順に使用される材料、及び方法を記述する。本発明に従って、当該技術分野の技術内の従来の分子生物学、細菌学、及び組換えDNA技術を使用することができる。このような技術は、文献において完全に説明される。例えばSambrook、Fitsch、及びManiatisの文献、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.(1989)を参照されたい。
【0107】
リゾープス・オリゼ99-880は、Fungus Testing Laboratory(San Antonioのテキサス大学ヘルスサイエンスセンター)から得た。この株は、鼻脳型ムコール菌症の糖尿病患者における脳膿瘍から単離された。
【0108】
R.オリゼのFTRをクローニングするために、本発明者らは、S.セレビジエFTRの保存された領域からデザインした縮重プライマーを使用し、R.オリゼゲノムDNAから0.6kbの断片を増幅した。この断片は、S.セレビジエFTRと43%の相同性を示し、かつEcoRIで切断したR.オリゼゲノムDNAの2.0kbの断片とハイブリダイズした。本発明者らは、このPCRで産生した断片を使用し,λ-ファージにおいて作製したR.オリゼゲノムライブラリーをスクリーニングした。それぞれが異なる制限酵素での処理によって2kbの断片を含んだ5つの異なるプラークを単離した。この2.0kbのゲノムクローンの配列解析から、イントロンを欠いた1101bpの単一のオープンリーディングフレームが明らかになった。GenBankデータベースにおけるその他のタンパク質と推定上のFTRポリペプチドの比較から、鵞口瘡カンジダ、及びS.セレビジエそれぞれからの公知の真菌の高親和性鉄パーミアーゼと46%、及び44%の同一性が明らかになった(Fuらの文献、FEMS Micorbiol. Lett. 235:169-176(2004))。FTRポリペプチドの予想アミノ酸配列の複数の領域は、S.セレビジエ、及び鵞口瘡カンジダからのFTRの推定上の膜貫通ドメインと有意な相同性を示した。重要なことに、グルタミン酸残基が鉄と直接相互作用することが考えられる推定上のREGLEモチーフは、3つの生物からのFTRポリペプチドの予想アミノ酸配列において保存されており、タンパク質の疎水性領域に包埋されていた。加えて、EcoRI、DraI、又はEcoRI + DraIで切断して、FTRのORFでプローブするR.オリゼゲノムDNAのサザンブロット解析により、FTRの遺伝子地図が確認された。低ストリンジェンシー下でFTRのORFを使用したR.オリゼ gDNAのサザンブロット解析からは任意のその他のバンドが明らかにならず、従って、FTRが遺伝子ファミリーのメンバーでないことを示した(データ示さず)。
【0109】
実施例2
鉄が枯渇した条件下でのR.オリゼにおけるFTRの発現
本実施例は、FTRが、鉄が枯渇した条件下でより高レベルに発現することを示す。
高親和性鉄パーミアーゼの発現は、通常、鉄が制限された環境において誘導され、鉄が豊富な環境において抑制される。FTRポリペプチドが高親和性鉄パーミアーゼとして機能することを検証するために、本発明者らはFeCl3の異なる濃度に対するFTR発現を調べた。R.オリゼ菌糸体を濾過によって収集して、鉄キレート剤、1mMフェロジン、及び100μMの2,2'ビピリジルを補充したジャガイモデキストロースブロス(PDB)に接種するために使用して、鉄の飢餓を誘導した。菌糸体を、予め鉄をキレートしたPDBへ移して、種々の濃度のFeCl3を補充して、選択した間隔で37℃にてインキュベートした。予想通りに、生物がFeCl3の欠損した培地に曝露されたときに、FTRの発現は、全ての時点にて誘導された。FeCl3の添加により、曝露の5分後という早い時期に、FTR発現の迅速な抑制が生じた。更に、50μM FeCl3と比較して350μM FeCl3でのFTR mRNAにおけるより顕著で急速な減少と共に、FTR発現のこの抑制は用量依存的にみえた。これらの結果と一致して、菌糸体を鉄に富む培地(PDB)において増殖したときに、FTR発現は、検出不可能な程度であった。これらの結果は、FTRが鉄が枯渇した環境において誘導され、鉄が豊富な環境において抑制されること、及びその転写は、培地における鉄の量によって厳密に調節されることを示す(図5)。この厳密な転写制御は、酵母において報告されており、細胞内の鉄濃度における変化に対する転写活性化の感受性による可能性が高い。このような厳密な制御により、おそらく生物が過剰な鉄によって生じる毒性を回避することができる。注目すべきは、これらの結果は、また、これらの宿主における遊離鉄の濃度は、FTRの発現を誘導することを示した最高の濃度(すなわち50μM)数桁未満であることが予想されるので、利用できる血清の鉄を上昇させた宿主においてさえ、FTRがインビボにおいて発現する可能性があることを示す(下記参照されたい)。例えば、本発明者らは、DKAマウスがこれらの血清において7.29μMの利用できる鉄を有することを見いだした(下記参照されたい)。加えて、Artisらの文献は、DKAの対象から収集される血清が12.4μMの利用できる鉄を含むことを証明した(Artisらの文献、Diabetes 31(12):1109-14 (1982))。
【0110】
実施例3
S.セレビジエftr1ヌル突然変異体におけるFTRの発現
本実施例は、S.セレビジエftr1ヌル突然変異体におけるR.オリゼFTRの発現が、S.セレビジエが鉄が枯渇した環境において増殖する能力を回復することを示す。
【0111】
FTRがS.セレビジエFTRに機能的に等しいかどうか決定するために、本発明者らは、FTRが、S.セレビジエftr1ヌル突然変異体の鉄依存的な増殖欠損を救うことができるかどうか試験した。S.セレビジエを、誘導性GAL1プロモーターの制御下の(すなわちガラクトースの存在においてのみ発現する)FTRを含むプラスミドで形質転換した。ガラクトースを含む鉄制限培地(50μM鉄)で培養したときに、FTRで形質転換したS.セレビジエは、増殖した。対照的に、FTRで形質転換した細胞を、グルコースを含むプレート上で培養したときには、増殖は認められず、これは、GAL1プロモーターの活性化、及びそれ故FTRの転写を誘導することができなかった(図6)。予想通りに、ベクター単独を有するS.セレビジエ形質転換体(負の対照)は、ガラクトースの存在下においてさえ、鉄が枯渇した培地上では増殖しなかった。全てのS.セレビジエ形質転換体は、グルコース、又はガラクトースを含む鉄が豊富なプレート(350μM鉄)上で同程度によく増殖して、これは、S.セレビジエの低親和性鉄パーミアーゼの存在による可能性が高く、これは、鉄が豊富な環境において機能すると考えられる(図8)。
【0112】
実施例4
FTRは、S.セレビジエftr1ヌル突然変異体の鉄の取り込みを補完する
本実施例は、R.オリゼのFTRがS.セレビジエにおいて機能的なポリペプチドをコードすることを示す。
【0113】
FTRで媒介されるS.セレビジエftr1突然変異体の増殖救出は、増加した鉄の取り込みによるものであることを確認するために、本発明者らは、GAL1プロモーター下のR.オリゼ FTRで形質転換したS.セレビジエの59Fe取り込みの動態を空のベクターを含む形質転換体と比較した。59FeCl3が0.1μM(高親和性鉄パーミアーゼだけが活性である濃度)にて供給されたときに、空のベクターで形質転換したftr1ヌル突然変異体細胞は、細胞内鉄の蓄積を示さなかった。対照的に、S.セレビジエftr1ヌル突然変異体へのFTRの導入により、野生型菌株によって示される量の48-60%の間に鉄の取り込みが回復した(図7)。
【0114】
概要として、実施例3、及び4において、本発明者らは、鉄が枯渇した培地中でR.オリゼにおいて発現し、鉄が豊富な培地において抑制され、鉄が乏しい培地において鉄を取り込む突然変異体の能力を救うことによって、S.セレビジエの高親和性鉄パーミアーゼヌル突然変異体の増殖欠損を補完する遺伝子(FTR)をクローン化したことを示した。まとめると、これらのデータは、R.オリゼ遺伝子がS.セレビジエにおいて機能的に発現することができるので、FTRポリペプチドが高親和性R.オリゼ鉄パーミアーゼをコードして、またS.セレビジエにおけるFTRポリペプチドの産生を容認することを強く示す。
【0115】
実施例5
ムコール菌症の動物モデルの開発
任意の疾患の病原性を研究するために、関連する臨床的因子を再現する動物モデルを開発することは必須である。本実施例は、本発明者らがムコール菌症に関連する動物モデル(血行性に播種性のR.オリゼ感染のDKAマウスモデル)を開発したことを示す。
【0116】
本発明者らは、腹膜内に投与するストレプトゾトシンの単一注射を使用することによって、血行性に播種性のムコール菌症のDKAマウスモデルを首尾よく開発した。DKAの対象は、高いリスクでムコール菌症を発症するので、本発明者らは、このモデルを選んだ。予想通りに、本発明者らは、正常なマウスよりもDKAであるマウスがR.オリゼ感染に感受性であることを見いだした。104胞子の静脈内投与の7日後に、全てのDKAマウスが死んだが、感染した非糖尿病性マウスの40%が生存した(図8)。
【0117】
感染の重症度を評価するために、本発明者らは、組織コロニー計数を、A. フミガーツスの動物モデルにおける疾患の進行を決定するために元来は開発された定量的PCRに基づいた(qPCR)(TaqMan)アッセイと比較した。菌糸構造は、組織ホモジナイゼーションによって破壊されて、真菌の死、及び不正確に器官真菌量を低く見積もることになるので、コロニー計数方法は、カビの組織真菌量を決定するのには信頼できないため、TaqMan技術を開発した。実際に、予想されるように、コロニー計数は、R.オリゼでの感染の間に増加せず、死亡率と相関しなかった。対照的に、R.オリゼの18s rDNAを増幅するようにデザインされたプライマーを使用するqPCRに基づいた(TaqMan)技術を、組織のR.オリゼ総量を定量化するために使用したときに、組織真菌量における増大と死亡の開始との間の一時的な相関が見いだされた(図9)。これらの結果は、本発明者らの予備結果と一致し、R.オリゼの様々な接種原でスパイクしたマウス組織は、直線状の範囲の検出を示した。従って、このqPCR-アッセイは、DKAマウスモデルにおけるムコール菌症の進行を評価するための、感度良く信頼できる方法である。このアッセイは、疾患の病原性における鉄代謝の役割を解明するために利用されるだろう。
【0118】
実施例6
R.オリゼに対するDKAマウスの感受性における血清鉄の有効性の効果
本実施例は、R.オリゼに対するDKAマウスの感受性が、利用できる血清鉄の増加に一部起因することを示す。
【0119】
利用できる鉄により、糖尿病性マウスがR.オリゼ感染に対してより感受性となることを確認するために、本発明者らは、Artisらの文献、(1982、上記)の方法を使用して、DKAマウスにおける血清鉄のレベルを正常なマウスのものと比較した。ヒトにおいて見いだされる結果と一致して、DKAマウス(n=11)は、正常なマウスよりおよそ5倍高いレベルの利用できる血清鉄の濃度を有した[中央値(第75の四分位、第25の四分位値)]= 7.29(11.8、4.3)μM対1.69(2.3、1.3)μM、Wilcoxon Rank Sumによるp = 0.03)。これらのデータは、本発明者らのDKAマウスモデルの臨床的関連を強調する。
【0120】
R.オリゼの病原性における利用できる血清鉄の増加の役割を確認するために、本発明者らは、R.オリゼ感染に対するDKAマウスの感受性における鉄キレートの効果を調べた。マウスは、R.オリゼの胞子を尾部-静脈を経て感染させた。マウスは、感染後の日より始めて7日間、1日2回(bid)、0.5%のヒドロキシプロピルセルロース中の1、3、又は10mg/kgのデフェラシロクス(鉄過剰負荷の対象を治療するための新しくFDAが承認した鉄キレート剤)で経口胃管による強制栄養によって治療した。負の対照マウスは、ヒドロキシプロピルセルロース担体(偽薬)、又は飽和塩化第二鉄(腹腔内投与)を加えたデフェラシロクスで治療した。さらなる負の対照は、塩化第二鉄で治療した感染していないマウスからなった。全ての用量にて与えられるデフェラシロクスは、対照と比較して、生存を著しく向上させた(図10A)。この改良された生存は、本発明者らが高用量のリポソーム型アンホテリシンB(LAmB)を、感染を治療するために使用したときにこのモデルで得た生存に匹敵した。組織真菌量におけるデフェラシロクスの効果を決定するために、DKAマウスを上記のように静脈感染させた。マウスをデフェラシロクス(10mg/kg、一日二回)、飽和塩化第二鉄を加えたデフェラシロクス、又は偽薬で治療した。治療は、感染の16時間後に始めて、3日間毎日投与した。腎臓、及び脳を4日目に取り出し、ホモジナイズして、定量的に培養した。偽薬、又は飽和塩化第二鉄を加えたデフェラシロクスで治療したマウスと比較して、デフェラシロクスは、脳、及び腎臓の両方(一次標的器官)において10倍を超える真菌量の減少を生じた(図10B)。組織病理学によって、デフェラシロクスで治療したマウスの腎臓は、目に見える菌糸を有さなかったが、偽薬、又は飽和塩化第二鉄を加えたデフェラシロクスで治療したマウスの腎臓は、広範囲に繊維状の真菌を有した。更にまた、飽和鉄で治療したマウスは、感染部位への好中球流入が著しく存在せず、その一方で、好中球流入は、デフェラシロクスで治療したマウスの腎臓において顕著であった(データ示さず)。デフェラシロクスが、FeCl3の飽和用量を有するマウスに投与されたときの保護の反転は、更に、保護機構が鉄のキレート化のためであるということを証明した。注目すべきは、これらの結果は、デフェリプロン(リゾープス属によるシデロホアとして使用されない別のキレート化剤)が、動物をリゾープス属感染から保護したことを示す本発明者らの以前の研究と一致し、鉄の有効性とR.オリゼの関連を確認する。これらの結果は、ムコール菌症の病原性における鉄の独特の重要性を更に確認した。
【0121】
実施例7
DKAマウスにおけるインビボでのFTRの発現
本実施例は、R.オリゼのFTRがDKAマウスにおいてインビボで発現されることを示す。
【0122】
FTRポリペプチドがムコール菌症の病原性において役割を果たすためには、これが感染の間に発現されなければならない。本発明者らは、リアルタイムRT-PCRに基づいたアプローチを使用して、尾静脈注射を介してR.オリゼの105胞子を感染させた糖尿病性ケトン酸(DKA)マウスの脳において、FTRポリペプチドの発現を調査した。脳は、このモデルにおける一次標的器官であるため、これを選択した。マウスを感染後24、又は48時間で屠殺し、脳を収集して、即時に液体窒素で急速凍結した後、粉砕、及びフェノールでRNA抽出した。未感染のDKAマウスから収集した脳を平行して処理して、負の対照として役立てた。ゲノムDNAの混入を除去するためのDNase処理、及び逆転写(Ambion RETROscript(登録商標)系)の後、SYBR-Green法、及びABI(登録商標)プリズム7000サイクラーを使用したリアルタイムPCRによってcDNAを解析した。遺伝子発現を、R.オリゼ ACTl、又は18S rRNA発現に対して規準化した。FTRは、4匹の感染マウスの脳において感染の48時間後に発現されたが、24時間後に発現されないことが判明した(図11)。18S rRNA、及びACTl遺伝子の両方の発現がこれらの組織において検出されたので、感染の24時間後にFTR発現が無いことは、感染したマウスの脳におけるより低い真菌成分の存在に起因することはない。遅発性のFTRポリペプチド発現(すなわち、感染の24時間後でなく48時間後の発現)のパターンは、胞子が接種材料の準備中に鉄が豊富な培地上で増殖したので、24時間後の真菌成分が十分に鉄枯渇されなかったという事実によって、説明することができる。感染後48時間に、真菌胞子が脳において増殖し始めたので、R.オリゼは宿主から鉄を除去するためにFTRポリペプチドを発現し始めた。予想通りに、感染していないマウスからの脳は、FTRポリペプチドの発現を示さなかった。
【0123】
これらの結果は、FTRポリペプチドが感染の間に発現して、ムコール菌症の病原性に関与することを明らかに示す。
【0124】
活性のある感染の間のインビボでのFTRの発現を確認するために、本発明者らは、FTR発現のためのリポーター系としてGFPを使用した。R.オリゼを、FTRプロモーターを含む2kbの断片の下流にクローン化したGFPを含むプラスミドで形質転換した。この株は、インビトロにおける鉄枯渇中で増殖するときに、緑に蛍光を発したが、鉄が豊富な環境では発しなかった(データ示さず)。DKAマウスを、鉄が豊富な状態下で増殖したこのR.オリゼ株の1×105胞子に感染させた。感染後48時間でマウスを屠殺して、脳を収集して、10%の亜鉛ホルマリンにおいて固定した。脳のパラフィン切片を抗GFPポリクローナルウサギAbで染色して、抗ウサギFITC抱合Abで対比染色した。図14に示したように、FTRpの制御下でGFPを発現するR.オリゼに感染したマウスの脳における真菌成分は、緑の蛍光を発し、従って、FTRポリペプチドが活性な感染の間に発現され、ムコール菌症の病原性に関与するという本発明者らの初期の所見を確認した。
【0125】
実施例8
FTRポリペプチド、及び公知のタンパク質に対するその相同性
本実施例は、R.オリゼのFTRポリペプチドが、任意の公知のヒトタンパク質と、ほとんど、又は全く相同性がないことを示す。
【0126】
自己免疫応答の誘導の可能性を最小限にするために、ヒトワクチンとして利用されるタンパク質ワクチンは、多数のヒトタンパク質と有意な相同性を持たないことが望ましい。FTRポリペプチドとヒトタンパク質との間の相同性の可能性を調査するために、PubMed BLAST検索を行って、FTRポリペプチドのアミノ酸16-368(すなわち、意図されたFTRポリペプチドワクチンにおけるアミノ酸)をヒトプロテオームと比較した。検索により、5つのタンパク質の全てについて、30.4、e=9.0の整列スコアをもつ極めて限定された相同性をもつ5つのオープンリーディングフレームが同定された。これらのタンパク質のうちの3つは、82を含むコイルドコイルドメインであり(すなわち、EAW66982;AAH33726.1;及びNP_079001.2)、1つはCCDC82タンパク質(すなわち、AAH 18663.1)、及び名前の付いていないタンパク質(すなわち、BAB 15683.1)である。ベンチマークとして、その他の生物と比較した真菌からの独特の配列の同定のための標準的なBLAST検索e値は、10-8にセットしてあり、R.オリゼのFTRはヒトプロテオームに有意な相同性を有さないことをを示す。
【0127】
実施例9
血行性播種、又はムコール菌症のDKAマウスモデルにおけるR.オリゼの病原性におけるFTR遺伝子産物の役割
本実施例は、FTR遺伝子産物(例えば、mRNA、又はポリペプチド)がDKAマウスモデルのムコール菌症におけるR.オリゼの完全な病原性に必要とされることを示す。
【0128】
本発明者らは、R.オリゼにおけるFTRの発現を阻害するために、RNA干渉(RNAi)技術を利用した。REGLEモチーフ(取り込みの間、鉄と相互作用すると考えられる)を含むFTRのORFの400bp断片をイントロンセグメントの上流で、プラスミドpRNAi-pdcにおいてクローン化した。同じ断片の逆相補配列を、イントロンの下流にクローン化した。生成したプラスミドを、biolistic(登録商標)送達系(BioRad(登録商標))を使用してR.オリゼのpyrf突然変異体に形質転換し、形質転換体を、ウラシルを欠いている最少培地上で選択した。サザンブロット解析により、全ての得られた形質転換体がエピソーム的に形質転換されたプラスミドを維持したことが示された(データ示さず)。RT-PCRを使用して5つの選択した形質転換体によるFTRの発現を、空のプラスミドで形質転換した対照株と比較した。FTR発現は、対照株と比較して、試験した5つの形質転換体のうち4つにおいてほぼ完全に阻害され、1つの形質転換体において減少した(図13)。18s rDNAの発現は、いずれの形質転換体においても変化せず、FTR発現の阻害におけるRNAiの特異性を示す。
【0129】
RNAi形質転換体の1つの病原性を、血行性に播種性のムコール菌症のDKAマウスモデルの対照株と比較した。マウスを形質転換した対照株、又はRNAiプラスミドを有する形質転換体(FTR-i株)に感染させた。対照株と比較して、RNAi-形質転換体の病原性の遅発、及び減少があった。面白いことに、R.オリゼは、ウラシルのない最少培地上で増殖できないが、豊富な培地(ジャガイモデキストロース寒天)上で増殖したので、本発明者らは、FTR-i株に感染した瀕死のマウスの脳、及び腎臓から回収されるR.オリゼは、RNAiプラスミドを失ったことを見いだした。対照的に、25日間(疾患の徴候なしで)感染を生存した2匹のマウスから回収されるR.オリゼは、ウラシルのない最少培地、及び豊富な培地の両方で増殖することができ、RNAiプラスミドがこれらの胞子においていまだ存在しており、その感染の間にFTR発現を阻害することにより、R.オリゼの病原性を阻害することを示した(図14)。
【0130】
これらのデータは、FTRがDKAマウスモデルにおけるR.オリゼの中心的な病原性因子であり、ムコール菌症感染症を予防するためのFTRワクチンの開発のサポートにおいて、さらなる合理的なものを提供することを証明する。
【0131】
実施例10
rFTR1pは、細胞外に曝露されて、公知のヒトタンパク質に対して限定された相同性を有したが、その他のケカビ目の間では保存されている。
相同性モデリングでは、rFTR1pがその他の微生物において見いだされるイオン結合性、又は輸送タンパク質の特徴であるポリヘリカルバンドル構造を有することを予測する。最も強いモデルにおいて、REGLE鉄結合モチーフの重要なGlu 154、及びGlul57残基は、タンパク質の細胞外の面に曝露されており、これらが抗体による潜在的に結合、及び阻害するのに近づきやすくなる(図19)。
【0132】
自己免疫応答の誘導の可能性を最小限にするために、ヒトワクチンとして利用されるタンパク質ワクチンは、多数のヒトタンパク質と有意な相同性を持たないことが望ましい。rFTR1pとヒトタンパク質との間の相同性の可能性を調査するために、PubMed BLAST検索を行い、rFTR1pのアミノ酸16-368(すなわち、意図されたrFTR1pワクチンにおけるアミノ酸)をヒトプロテオームと比較した。検索により、5つのタンパク質の全てについて、30.4、e= 9.0の整列スコアをもつ、極めて限定された相同性をもつ5つのオープンリーディングフレームが同定された。これらのタンパク質のうちの3つは、82を含むコイルドコイルドメインであり(すなわち、EAW66982;AAH33726.1;及びNP_079001.2)、1つはCCDC82タンパク質(すなわち、AAH 18663.1)、及び名前の付いていないタンパク質(すなわち、BAB 15683.1)である。ベンチマークとして、その他の生物と比較した真菌からの独特の配列の同定のための標準的なBLAST検索e値は、10-8にセットされ(Jonesらの文献、Proc Natl Acad Sci USA 2004;101 :7329-34(2004))、rFTR1pは、ヒトプロテオームに有意な相同性を有しないことをを示す。対照的に、B型肝炎ウイルスに対するヒトにおける極めて安全なワクチンとして利用されるB型肝炎表面抗原のPubMed BLAST検索により、18のヒットが明らかとなり、その1つのは有意であり(スコア75.9、e = 3×lO-14)、残りは、5〜10のe値で、27〜29のスコアの範囲である。それ故、提唱されたrFTR1pワクチンは、広く利用されるHBSAgワクチンで行われるヒトプロテオームに対して、同程度又はより少ない相同性を有する。
【0133】
対照的に、最近の発表は、rFTR1は、R.ミクロスポルス(R. microsporus)、R.ニベウス(R. niveus)、R.ストロニファー(R. stolonifer)、リゾムコール・マイハイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコル・プシルス、ムコール・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)、M.ラセモサス(M. racemosus)、M.ロウキシイ(M. rouxii)、及びM.プルムベウス(M. plumbeus)を含むその他の病原性のケカビ目の間で高度に保存され、>70%のヌクレオチド相同性をもつことを証明した。面白いことに、推定上のREGLE鉄結合機能モチーフは、全てのケカビ目の中で100%保存されている。Nyilasiらの文献、Clin Microbiol Infect(2008)。これは、提唱されたワクチンがムコール菌症のその他の媒体に対して交差免疫原性であることを示す。その上、R.オリゼrFTR1pがコウジカビ属種、鵞口瘡カンジダ、及びクリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)を含む、カビさえ越えて、真菌の非常に多様なアレイからの高い鉄パーミアーゼと高度の同一性を有するので、交差する属の保護が生じるであろうことが予想される。これらの真菌の全てにおいて、中核となるREGLE鉄結合機能モチーフは、100%保存される。
【0134】
実施例11
rFTR1pをワクチン接種したマウスから収集した血清による受動免疫は、マウスをR.オリゼ感染から保護する。
タンパク質産生を最大にするために、細胞膜へのタンパク質の局在化を向けるシグナルペプチド、及び6つの膜貫通ドメインを取り除くことによって、より親水性のタンパク質をコードする遺伝子を合成した(Genscript)。合成した遺伝子は、配列エレメントが除去されていたが、タンパク質の曝露された親水性領域における潜在的エピトープの変化を避けるように、残りの配列のいずれも変化させなかった。合成遺伝子は、また、発現されたタンパク質を親和性精製するための6X-His-タグを含んだ。この遺伝子をpQE32発現ベクターにクローン化して、大腸菌に形質転換した。対数期の細菌細胞をIPTGで誘導して、細胞を収集して、組換えタンパク質を培養1リットルにつき1-1.3mgの精製したタンパク質の産生で、製造業者説明書(Qiagen)に従ってNi-アガロースアフィニティーカラム上で精製した(図20)。産生したタンパク質を、下記のようにマウス抗体を生ずるために使用した。
【0135】
受動免疫のための免疫血清を産生するために、Balb/cマウスを、0日目に完全フロイントアジュバント(CFA)と混合したrFTR1p(20μg)のSQ注射によって免疫して、21日目にて不完全フロイントアジュバント(IFA)と共に別の用量の抗原でブーストし、2週後に、血清収集のために採血した。ワクチン接種したマウスから収集したプールした血清は、>1:800,000のrFTR1pに対する抗体力価を示したが、空のプラスミドでワクチン接種したマウスから収集したプールした血清は、1:200の抗体力価を有した。免疫、又は対照血清(0.25ml)を、R.オリゼを鼻腔感染した2時間前にDKAレシピエントマウスにi.p.で投与した。血清用量を感染後3日繰り返した。免疫血清で治療した感染したマウスは、対照血清で治療したマウスと比較して、生存を改善した(図21)。これらの研究は、ムコール菌症の間に、生存を改善するために、rFTR1pをターゲティングする受動免疫を使用することの実現可能性を明らかに示す。
【0136】
実施例12
FTR1は、DKAマウスにおける感染の間にR.オリゼによって発現される。
FTR1がムコール菌症の病原性において役割を果たすためには、これは、感染の間に発現されなければならない。定量的リアルタイムPCR(qPCR)を使用して、2-3日以内に100%の死亡率を生じさせる接種材料である105胞子のR.オリゼを静脈内に感染したDKAマウスの脳におけるFTR1の発現を調査した(Ibrahimらの文献、Antimicrob Agents Chemother 49:721-727 (2005))。脳は、このモデルにおける一次標的器官であるので、これを解析のために選択した(Ibrahimらの文献、Antimicrob Agents Chemother 49:721-727 (2005))。感染後24時間に屠殺したマウス(n=5)からのFTR1の発現は、構成的ACTl遺伝子と比べて4倍まで増加していた[中央値(第25の四分位値、第75の四分位値)= 4.12(1.03、0.27)(Wilcoxon Rank Sumによるp = 0.03))]。予想通りに、感染していないマウスからの脳は、FTR1の何らの発現も示さなかった。
【0137】
ノンパラメトリック対数順位検定を生存時間の相違を決定するために使用したが、腎臓の真菌量、鉄の取り込み、増殖速度、及びインビボのFTR1発現の相違は、ノンパラメトリックウィルコクソン順位和検定によって比較した。
【0138】
感染の間のインビボにおけるFTR1の発現を直接視覚化するために、R.オリゼを、FTR1プロモーターの制御下にGFPを含むプラスミドで形質転換した。この研究に使用したR.オリゼ株を、表1に収載した。簡潔には、生物を、ジャガイモデキストロース寒天(PDA)、又はYPDプレート[1%の酵母抽出物(Difco Laboratories)、2%のバクト-ペプトン(Difco)、及び2%のD-グルコース]上で37℃にて4日間増殖させた。R.オリゼ M16(それ自体のウラシルを合成することができないpyrFヌル突然変異体)については、PDAに100μg/mlのウラシルを補充した。815bpの部分的なpyrF PCR断片(pyrF Pl1/P13)を使用して、原栄養性にR.オリゼ M16を回復した。この断片は、M 16に存在するpyrF突然変異(すなわち、nt +205にてのGからAへの点突然変異)に重なり(Skory及びIbrahimの文献、Curr Genet 52:23-33(2007))、及び遺伝子置換を介して機能的に回復することができる。いくつかの実験において、R.オリゼは、1mMのアスコルビン酸、及びフェロジンの存在下のウラシルのない完全補充培地(CSM-URA)(Q-Biogene)を補充した酵母窒素ベース(YNB)(Difco/Becton Dickinson、Sparks、MD)(YNB+CSM-URA)[製剤/100ml、アミノ酸のを含まない1.7gのYNB、20gグルコース、0.77gのCSM-URA]上での増殖により鉄を枯渇させた。胞子嚢胞子を0.01%のTween 80を含むエンドトキシンを含まないPBSに収集し、PBSで洗浄し、血球計算板で計数して最終的な接種材料を調製した。
【表1】

【0139】
この株は、インビトロにおいて鉄枯渇中で増殖するときに緑に蛍光を発したが、鉄が豊富な培地では発せず、構成的アクチンプロモーターの制御下のGFPで形質転換したR.オリゼ(正の対照)は、培地における鉄の濃度に関係なく、蛍光を発した(図22A)。DKAマウスには、感染の前にGFP発現を抑制するために鉄が豊富な状態下で増殖したGFPリポーター株、又はPyrFを補完したR.オリゼを感染させた。感染後24、又は48時間に脳を収集し、組織病理学のために処理した。パラフィン包埋の過程が、GFPタンパク質の内在蛍光を抑止したので、切片を蛍光抗GFP抗体で染色した。感染後24時間で採取した試料は、真菌成分を示さず、感染後48時間が最も初期の時点であったので、真菌成分は、感染した組織において組織病理学的に検出することができることが予想された(Ibrahimらの文献、Antimicrob Agents Chemother 49:721-727(2005))。感染の48時間の脳において、R.オリゼのFTR1リポーター株は、GFPを発現したが、負の対照のPyrFを補完したR.オリゼは発現しなかった(図22B)。加えて、マウスを感染させるのに使用した胞子は、鉄が豊富な培地(FTR1の発現を抑制する条件)において増殖し、マウスを感染させるために使用した時に緑の蛍光を発しなかったため、GFPの発現は、宿主環境における低い鉄濃度によって誘導された。(図22B、蛍光と重ねたDIC)。
【0140】
実施例13
同核状態のftr1ヌルの単離は、FTR1座位に破壊カセットを組込んだにもかかわらず、多核R.オリゼにおいて達成することができない。
活性な感染の間のFTR1の発現は、R.オリゼの病原性におけるFTR1の役割を示唆した。R.オリゼのインビトロにおける鉄の取り込み能力に対するFTR1遺伝子破壊の効果、及びインビボにおける病気の原因を研究した。2つの別々の形質転換体から得らた分離株を、一回の芽胞形成、及び単一コロニー分離で精製した。FTR1は、濃度350μM FeCl3において十分に発現されないため(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176(2004))、単一コロニー分離を達成するために、形質転換体を、1mM FeCl3(鉄が豊富)を補充した既知組成培地(YNB+CSM-URA)上で増殖し、ftr1ヌル対立遺伝子の分離を支持した。分離株を、PCRプライマー対FTR1-P3/PyrF-P9(1054bpと予想される)、及びPyrF-P18/FTR1-p4(1140bpと予想される)で、破壊カセットの組込みについてスクリーニングした。FTR1座位の破壊を、FTR1のORFからのセグメントを増幅したプライマーFTR1-P5/FTR1-P6(503と予想される)を使用して、PCR増幅産物の非存在によって試験した(表2、及び図23A)。PCRにより、FTR1座位における破壊カセットの組込み、及びいくつかの推定上のヌル突然変異体株からのFTR1 ORFの非存在を確認した(図23B)。更に、これらの増幅産物を、また、破壊カセットが相同的組換えによってFTR1座位に組み込んだことを証明するためにシーケンスした(データ示さず)。最後に、FTR1座位における破壊カセットの組込みをサザンブロッティングによって確認した(下記参照されたい)。
【0141】
FTR1の発現を研究するために、本発明者らは、FTR1プロモーター発現のためのリポーターシステムとして、GFPを利用した。R.オリゼ M16を、前述したようにFTR1プロモーターによって駆動されるリポーター遺伝子GFPを含むプラスミド(R.オリゼ GFP1)で形質転換した(Ibrahimらの文献、J Clin Invest 117:2649-2657(2007))。GFPを、また、構成的に発現するアクチンプロモーター(Act1p)下にクローン化し、次いでR.オリゼ M 16に形質転換し、正の対照として役立てた。インビボにおけるFTR1の発現を研究する前に、本発明者らは、FACS解析を使用してインビトロにおけるFTR1の発現を調べた。簡潔には、FTR1p、又はActlpによって駆動されるいずれかのGFPで形質転換したR.オリゼを、12時間、37℃にて1mMのアスコルビン酸、及びフェロジンの存在下(鉄が枯渇した状態)、又は非存在下(鉄に満ちた状態)のYNB+CSM-URA中で増殖した。これらの条件では、菌糸よりもむしろR.オリゼの胚を生じた。1mlの胚の蛍光を、488nmにてアルゴンレーザー放射を備えたFACSCaliber計測器(Becton Dickinson)を使用して決定した。蛍光発光は、515/40のバンドパスフィルタで読んた。蛍光データを対数増幅器で収集した。104イベントの平均蛍光強度は、CELLQUESTソフトウェアを使用して算出した。
【0142】
インビボ感染について、BALB/c雄マウス(>20g)を、真菌投与の10日前に0.2mlのクエン酸緩衝液中の190mg/kgのストレプトゾトシンの単一のi.p.注射で糖尿病様にした(Ibrahimらの文献、Antimicrob Agents Chemother 47:3343-3344(2003))。糖尿、及びケトン体尿症を、ストレプトゾトシン処理の7日後に全てのマウスにおいて確認した。糖尿病性ケトアシドーシスのマウスを、5×103胞子の標的接種材料で尾静脈注射によって真菌胞子を感染させた。接種材料を確認するために、希釈液を、0.1%のトリトンを含むPDAプレート上で画線して、37℃にて24時間のインキュベーション期間の後、コロニーを計数した。鼻腔内感染については、PBS中の20μlの0.01% Tween 80中の107胞子を、ケタミン(100mg/kg)で鎮静させたマウスの鼻孔上に置いた((Waldorfらの文献、Journal of Clinical Investigation 74:150-160(1984))。接種材料を確認するために、マウスを、R.オリゼ胞子を吸入した後に即時に屠殺し、肺をホモジナイズして、0.1%のトリトンを含むPDA上にまき、37℃にてインキュベーション後にコロニーを計数した。両方のモデルについては、一次有効性指標は、死ぬまでの時間であった。いくつかの実験において、二次指標として、脳、及び腎臓の真菌量(一次標的器官)(Ibrahimらの文献、Antimicrob Agents Chemother 49:721-727(2005))を、1mlの生理食塩水を含むWhirl-Pakバッグ(Nasco、Fort Atkinson、WI)に置いた器官上のピペットを回転させることによるホモジナイゼーションによって決定した。ホモジェネートを0.85%生理食塩水で段階希釈し、次いで定量的に0.1%のトリトンを含むPDAプレート上で培養した。値は、log1O cfu g-1組織として表した。GFP発現を検出するために、抗GFPウサギポリクローナル抗体(Novus)を使用して組織病理試料を染色し、次いでFITC抱合した抗ウサギ抗体で対比染色した。
【0143】
感染した組織におけるFTR1の発現を定量化するために、尾静脈注射を介してR.オリゼ野生型(99-880)を感染させたBALB/Cマウスの脳を感染後24、又は48時間で収集し、液体窒素において即時に急速凍結した後、粉砕、及びフェノールによるRNA抽出した。感染していないDKAマウスから収集した脳を平行して処理し、負の対照として役立てた。次いで、凍結した脳を液体窒素下で粉砕して、次いで総RNAを熱フェノール法を使用して単離した(Gravelatらの文献、Infect Immun 76:3632- 3639(2008))。混入するゲノムDNAを、室温にて30分間、1μlのTurbo-DNase(Ambion)の処理によって、RNA試料から取り除いた。次いで、DNaseを、RNA Clean-Upキット(Zymo Research)を使用して取り除いた。一本鎖cDNAの合成は、Retroscript一本鎖合成キット(Ambion)を使用して行った。FTR1特異的プライマー(表2に収載した)をオンラインプライマー設計ソフトウェア(Genscript)の助けを借りてデザインした。増幅効率を段階希釈実験によって決定して、生じる効率係数を産物の定量化のために使用した(Pfafflらの文献、Nucleic Acids Res 29:e45(2001))。
【0144】
遺伝子発現を、QuantiTect Sybr Green PCRキット(Qiagen)を使用して、ABI Prism 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)によって解析した。PCRの条件は、90℃にて10分、及び95℃にて15秒の40サイクル、並びに60℃にて1分であった。単一のPCR産物を、PCRサイクルの最後にて熱解離プロトコルで確認した。感染した脳におけるFTR1発現の量を18S rRNA、又はACT1に対して規準化し(表2)、2(-ΔΔC(T))法を使用して定量化した(Livak及びSchmittgenの文献、(2001)Methods 25:402-408 (2001))。全ての反応を二組行い、混合物には、逆転写酵素が省略された負の逆転写(RT)の無い対照を含んだ。
【表2】



【0145】
FTR1を破壊するために、本発明者らは、FTR1-5'UTR、及びFTR1-3'UTRそれぞれの606、及び710bp断片に隣接するR.オリゼ野生型から増幅される機能的なPyrFコピー(998bp)を包含する遺伝子破壊カセットを構築した(図23A)。相同的FTR1 UTR配列に隣接するpyrFだけを含む2.3kbの破壊断片を得るために、遺伝子破壊構築物をプライマーFTR1 P1/P2(表2)を使用してPCR増幅した(図23A)。次いで、これを使用してbiolistic遺伝子銃によりR.オリゼ M 16(pyrF突然変異体)を形質転換した(Skoryの文献、MoI Genet Genomics 268:397-406(2002))。破壊カセットは、-16から終止コドンまでの全てのFTR1コード領域をpyrF遺伝子断片と置き換える。FTR1発現は、この鉄濃度において抑制されるので、(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169- 176(2004))、ftr1ヌル対立遺伝子の分離を助けるために、2つの別々の形質転換体から得た分離株を、一回の芽胞形成、及び1mM FeCl3(鉄が豊富)を補充した既知組成培地(YNB+CSM-URA)上の単一コロニー分離で精製した。分離株を、PCRプライマー対FTR1-P3/PyrF-P9(1054bpと予想される)、及びPyrF-P18/FTR1-p4(1140bpと予想される)で、破壊カセットの組込みについて試験した。FTR1の破壊は、FTR1のORFを増幅するプライマーFTR1-P5/FTR1-P6(503と予想される)を使用して、PCR増幅産物の非存在によって、及びサザンブロット解析によって確認した。ftr1ヌル対立遺伝子を含む同核状態の分離株を得るための試みにおいて、FTR1座位において組み込みが確認された形質転換体を、更に、14回の芽胞形成、及び1mM FeCl3を補充したYNB+CSM-URA上の単一コロニー単離を介して取った。
【0146】
本発明者らは、FTR1が、鉄が枯渇した状態(0-50μM間のFeCl3濃度)においてインビトロにおいて発現され、鉄が充満した培地(350μMのFeCl3濃度)において抑制されることを以前に見いだした(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176(2004))。FTR1の破壊が、R.オリゼが異なる供与源、及び鉄の濃度である培地において増殖する能力に対して効果を有したかどうか調査するために、本発明者らは、いくつかの推定上のヌル突然変異体株の増殖を野生型、又はPyrFを補完したR.オリゼの増殖と比較した。増殖は、予め鉄をキレート化して、次いで遊離鉄(すなわち、FeCl3、又はFeSO4)、又はデフェロキサミン[フェリオキサミン]、又はヘムに複合体形成した鉄の定義された濃度を補充した培地(CSM-URA)上で比較した。野生型、又はPyrFを補完したR.オリゼと比較して、推定上のftr1ヌル突然変異体株は、鉄が枯渇した培地(すなわち10μMの遊離鉄)において48時間にて、有意により少ない増殖を有した(図23C)。100μM(鉄は複合されているため、比較的枯渇している)のヘムと複合したフェリオキサミン、又は鉄は、推定上のftr1ヌル突然変異体の増殖より、野生型、及びPyrFを補完した株の増殖をより多く支持した。しかし、1000μM(鉄が豊富な培地)にての遊離鉄は、全ての株の増殖を同程度に支持し(図23C)、これはFTR1が主に鉄が枯渇した環境において発現されるという本発明者らの以前の所見と一致した。
【0147】
推定上のFTR1破壊突然変異体の増殖を、鉄の供与源として10、又は1000μMのFeC13(FeSO4)を、或いは100μMのヘム、又はフェリオキサミンを補充したプレートYNB+CSM-URA上で増殖することによって、R.オリゼ野生型、又はR.オリゼのPyrF補完株と比較した。加えて、推定上のftr1ヌル、又はRNAi突然変異体を、YPD、又は既知組成培地(すなわちYNB+CSM-URA)上でのこれらの増殖について、これらの対応する対照株と比較した。簡潔には、10μlのR.オリゼ胞子の105胞子をプレートの中心にスポットして、FeC13、FeSO4、又はフェリオキサミンを含む培地について48時間、或いはヘムを補充したプレートについて72時間の増殖の後、菌糸体の直径を測定した。実験は、異なる日に3回繰り返して、増殖速度は、時間あたりの真菌の菌糸体の直径の増大として表した。
【0148】
面白いことに、推定上のftr1ヌル突然変異体の増殖は、鉄が枯渇した培地上で96時間の後、野生型、及びPyrFを補完した株と同様のレベルへ増加した(データ示さず)。更に、96時間の増殖後のこれらの培養のPCR解析により、FTR1 ORFが全ての推定上のftr1ヌル突然変異体形質転換体において、もう一度検出可能であることが確認された(図23D)。同様の結果は、いくつかのその他の推定上のftr1ヌル突然変異体で得られ、一回の芽胞形成、及び単一コロニー分離では、ftr1同核状態ヌル対立遺伝子株を精製するのに十分ではないと結論づけた。
【0149】
R.オリゼは、多核体であることは公知であり、胞子嚢胞子が多核であると一般に推定されるが、核の数は、以前に述べられていない(Maらの文献、PLoS Genet 5:el 000549(2009))。遺伝子破壊は、菌糸、及び胞子嚢胞子の両方における異核状態の存在によって複雑にされるようにみえ、DAPI染色を使用して腫大した胞子に存在する核の数を決定した。簡潔には、R.オリゼ胞子に存在する核の数を決定するために、YPD培地における胞子を、37℃にて2時間予備発芽させた。腫大した胞子を冷却PBSで一度洗浄し、次いでPBS中に5×105/mlの濃度にて懸濁した。1μlの50μg/mlの4'6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、Sigma)を添加して、細胞を製造業者の説明書に従って電気穿孔した(BioRad)。腫大した胞子を、100μlのPBSで再懸濁する前に、冷却PBSを使用して5回洗浄した。10μlの試料を、ガラススライド上に置き、カバーグラスでカバーした。染色した細胞を、落射蛍光顕微鏡を使用して視覚化した。
【0150】
R.オリゼ株M16は、腫大した胞子当たり10を超える核を有することが判明した(図24A)。多数の核が存在することを考慮すると、鉄が豊富な培地(すなわち、1000μMのFeCl3を含む培地)における推定上のftr1ヌル突然変異体の14回の芽胞形成、及び単一コロニー分離を行って、FTR1を維持するための選択圧を軽減することによってヌル対立遺伝子を分離した(FTR1は、鉄が豊富な状態において十分に発現されなかったので)(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176(2004))。14回の選択後の推定上のヌル突然変異体のPCR解析では、FTR1 ORFの増幅が不足していることを示した(図24B)。図23Cにおける結果に類似して、ヌル突然変異体は、野生型、又はPyrFを補完した株と比較して、最初の48時間の間に鉄を制限した供与源において不完全な増殖を有した。しかし、鉄が枯渇した環境(100μMフェリオキサミン)における同じ推定上のヌル突然変異体の増殖後、FTR1 ORFをPCRによってもう一度増幅した。これらの結果をサザンブロット解析で確認した(図24C)。サザンブロットにより、鉄が豊富な培地上で増殖した推定上のftr1ヌル突然変異体のgDNAから、FTR1バンド(1960kb)がほぼ完全に除去されているが、鉄が枯渇した培地上の同じ株の増殖後にFTR1バンドが戻ることを証明した(図24C)。加えて、推定上のftr1ヌル突然変異体が、鉄が豊富な培地において増殖する場合にだけ、サザンハイブリダイゼーション解析により、ftr1座位への破壊カセットの部位特異的な組込みが確認された。最後に、異所性組込み、又は染色体外の複製の証拠は無く、ftr1ヌル対立遺伝子の相対コピー数が異核状態の核の比率に依存的だったという事実と一致した。
【0151】
鉄が豊富な、又は鉄を制限した培地上で増殖した推定上のftr1ヌル突然変異体におけるFTR1のコピー数をPyrFを補完した株のものと比較するために、qPCRを使用した。簡潔には、1mM FeC13を補充したYNB+CSM-URAで増殖したPyrFを補完したR.オリゼから、又は1mM FeC13若しくは100μMフェリオキサミンを補充したYNB+CSM-URAのいずれかで増殖した推定上のftr1ヌル突然変異体から、OmniPrep溶解緩衝液(GBiosciences)でゲノムDNAを抽出した。それぞれの試料におけるFTR1コピー数を、ABI Prism 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を使用してqPCRによって決定して、増幅産物を、Power Sybr Green Cells-to-CTTMキット(Applied Biosystems)で検出した。PCR条件は、以下の通りだった:95℃にて15s分の変性、6O℃にて1分間実施するアニーリング/伸長を伴う増幅40サイクル。次いで、FTR1コピー数をR.オリゼACTlに対して規準化して、相対コピー数を式2-ΔΔCTを使用して見積もった。式中、ΔCT=[Cttarget gene -CtACT1]、及びΔΔCT=[突然変異体のΔCT - PyrFを補完した株のΔCT]。
【0152】
qPCRを使用して、鉄が豊富な培地で14回の芽胞形成、及び単一コロニー分離を行った推定上のftr1ヌル突然変異体、並びに鉄が枯渇した培地における増殖後の同じ株、及びR.オリゼ PyrFを補完した株におけるFTR1のコピー数を定量化した。鉄が豊富な培地で増殖した推定上のftr1ヌル突然変異体株は、鉄が枯渇した培地で増殖した同じ株、又はR.オリゼ PyrFを補完した株と比較して、FTR1の相対コピー数(ACTl遺伝子に対して規準化した)において60%の減少を有した(図25A、及び25B)。従って、多核R.オリゼにおける機能的なFTR1の相対コピー数を有意に減少させることが可能である一方、この突然変異体対立遺伝子の同核状態分離株は、得られなかった。
【0153】
実施例14
FTR1コピー数の減少は、インビトロにおける鉄の取り込みを減弱して、インビボにおける病原性を減少させる。
本明細書に示すように、R.オリゼにおける機能的なFTR1の相対コピー数の減少は、鉄の取り込みを減少させて、従って、病原性を減少させるために十分である。推定上のftr1ヌル突然変異体は、野生型、又はR.オリゼのPyrFを補完した株と比較して、59Feの取り込みにおいて35%の減少を有した(図25C)。
【0154】
推定上のftr1ヌル突然変異体の減弱したインビトロでの鉄の取り込みのインビボの関連性を決定するために、DKAを有するマウスにおける感染の間に、その病原性を、R.オリゼ野生型、又はPyrFを補完した株と比較した。マウスには、YPD、又はCSM-URAの鉄が豊富な環境においてインビトロで似たような増殖を示した株を、静脈内に(i.v.)、又は鼻腔内に(i.n.)感染させた(それぞれ、鉄が豊富なCSM-URA、又はYPD培地上で、推定上のftr1ヌルについては、0.185±0.005、又は0.257±0.003cm/時間対PyrF補完体については0.188±0.008、又は0.260±0.0051cm/時間)(図26A)。両方のモデルにおいて、推定上のftr1ヌル突然変異体は、野生型、又はPyrFを補完した株と比較して減少した病原性を示した(播種性感染によるマウスにおいて突然変異体対対照株について62%対100%の死亡率、及び鼻腔内モデルにおいて突然変異体対対照株について44%対75%の死亡率)(図26B,C)。予想されるとおり、推定上のftr1ヌル突然変異体株を感染させた瀕死の動物から回収されるコロニーは、PyrFを補完した株と比較してFTR1の同様のコピー数を示し(データ示さず)、インビトロにおける鉄が枯渇した環境における増殖の後に見られたFTR1コピー数の復元を示している。加えて、両方のモデルにおいて、PyrFを補完した株は、野生型R.オリゼと同様の病原性を有し、これは、その本来の座位におけるpyrF遺伝子の復元が病原性に影響を及ぼさないことを示している。
【0155】
実施例15
RNAiによるFTR1遺伝子発現の阻害は、鉄の取り込みを減少させて、R.オリゼの病原性を減弱させる。
遺伝子破壊の後に見られる表現型を確認するために、RNA干渉(RNAi)を使用してR.オリゼにおけるFTR1発現を減弱させた。
【0156】
RNA干渉(RNAi)技術を利用して、R.オリゼにおけるFTR1の発現を阻害した。取り込みの間に、鉄と相互作用すると考えられるREGLEモチーフを含むFTR1 ORFの450bp断片をPCR増幅して(Stearmanらの文献、Science 271:1552-1557(1996))、リゾープス属発現ベクターpPdcA-Exの制御下に反転した繰り返しとしてクローン化した(Mertensらの文献、Archives of microbiology 186:41-50(2006))。加えて、リゾープス属pdcA遺伝子からのイントロン(Skoryの文献、Curr Microbiol 47:59-64(2003))をリピートの間に含ませ、意図したdsRNA構造の安定化のためのリンカーとして役立てた(Nakayashikiらの文献、Fungal Genet Biol 42:275-283(2005);Wesleyらの文献、Plant J 21:581-590(2001))。産生されたプラスミドを、電子銃送達系(BioRad)を使用して、R.オリゼpyrF突然変異体に形質転換して、形質転換体を、ウラシルを欠いた最少培地上で選択した。
【0157】
サザンブロット解析(データ示さず)により、全てのRNAi形質転換体が染色体外に形質転換されたプラスミドを維持することが明らかになり、これは、本発明者らが形質転換の間にプラスミドを線形化しなかったという事実と一致していた(Skoryの文献、Mol Genet Genomics 268:397-406(2002))。FTR1発現は、5つの形質転換体対対照株(すなわち、空のプラスミドで形質転換したR.オリゼ pyrfヌル突然変異体[M16])におけるエンドポイントRT-PCRによって比較した。FTR1発現は、4つの形質転換体においてほぼ完全に遮断され、一方、容易に対照株において検出された(図27A)。同じRT鋳型による18s rDNAの増幅により、開始試料の完全性、及びPCR阻害剤の欠如が証明された。RNAiによるFTR1発現の阻害は、オフサイト遺伝子発現の明らかな減少を伴わずに、特異的であった。鉄が豊富なYPD、又はCSM-URA培地のいずれかで増殖するときに、代表的なRNAi形質転換体は、対照株と同様の増殖を示した(それぞれ、鉄が豊富なCSM-URA、又はYPD培地上の形質転換体について0.193±0.082、又は0.205±0.016cm/時間対対照株について0.201±0.087、又は0.211±0.011cm/時間)(図27B)。
【0158】
鉄を取り込む能力を、FTR1発現の完全に近い阻害、及び対照株と同様の増殖を有する形質転換体についてインビトロにおいて試験した。面白いことに、RNAiは、遺伝子破壊をしたものよりも効率的にR.オリゼによる59Feの取り込みを減少させ、試験した全ての時間にて鉄の取り込みの〜50%阻害であった(図27C)。簡潔には、インビトロにおける鉄を取り込むR.オリゼの能力についてFTR1操作の効果を特徴づけるために、ftr1の推定上の破壊突然変異体、又はRNAi突然変異体を、これらが細胞内59FeCl3(Amersham Pharmacia Biotech)を蓄積させる能力について、本発明者らの公開された方法の改変を使用して、野生型、又はR.オリゼのPyrFを補完した株と比較した(Fuらの文献、FEMS Microbiol Lett 235:169-176(2004))。胞子を、振とうしながら37℃にて、1mMフェロジン、及び1mMアスコルビン酸を補充したYPD培地について3時間前発芽させた。細胞を遠心によって収集し、氷冷アッセイ緩衝液pH 6.1(最小培地+10mMの4モルフォリンプロパンスルホン酸+1mMのフェロジン)で2回洗浄し、次いで、フェロジンを含まないアッセイ緩衝液に再懸濁し、1mlにつき108細胞の濃度を与えた。59Feの取り込みを測定するために、50μlの細胞懸濁液に、フェロジンを含まないが0.1lM 59FeC13を補充した450μlの冷却アッセイ緩衝液を添加し、30℃にて振とう水浴においてインキュベートした。選択した時点の後で、アッセイ試料を氷上で冷却し、撹拌し、Whatman GF/Cフィルタを通して吸引濾過して、10mlの氷冷SSW(1mM EDTA、20mM Na3-クエン酸pH 4.2、1mM KH2PO4、1mM CaC12、5mM MgSO4、1mM NaCl)で洗浄した。フィルタを除去し、10mlのシンチレーション液(Filter-count)を含むガラスシンチレーションバイアルに置いた。細胞に会合した59Feを、Packard 2200CA液浸計数装置(Packard Instrument社、Downers Grove、Il)において計数した。細胞表面への吸着による非特異的取り込みを、濾過、及び洗浄前の10分間氷上で保持した平行したアッセイを調製することによって決定した。バックグラウンドレベルの59Feは、取込み速度の算出の前に減算した。実験は、三組実施して、異なる日に3回繰り返した。データは、pmole/5×106発芽胞子における特異的取り込みとして示してある。
【0159】
次に、RNAi形質転換体の病原性を、血行性に播種性の、又は鼻腔内ムコール菌症のDKAマウスモデルにおいて、対照株と比較した。RNAi-形質転換体は、両方のモデルにおいて対照株と比較して、減少した病原性を示した(播種性感染のマウスにおいてRNAi形質転換体対対照株について75%対100%の死亡率、及び鼻腔内モデルにおいてRNAi形質転換体対対照について11%対67%の死亡率、Log Rand試験による両方の比較についてp<0.02)(図28A,B)。面白いことに、YNB+CSM-URA でなくYPDプレート上のR.オリゼのコロニーの増殖によって明らかな様に(データ示さず)、RNAi形質転換体による感染で死んだマウスの腎臓から回収される株は、RNAiプラスミドを失っており、それ故、FTR1を発現する能力を回復した。対照的に、25日目の感染を生存したマウスの腎臓から回収される株は、実験が終結したときに、これらのRNAiプラスミドを失わなかった。加えて、RNAi形質転換体を静脈内に感染させたマウスは、対照株を感染したマウスと比較して、腎臓、及び脳の真菌量が、それぞれ〜6、及び3倍の減少を有した(図28C)。これらのデータは、FTR1遺伝子産物がDKAマウスにおけるR.オリゼの中心的な病原性因子であることを証明する。
【0160】
実施例16
FTR1pをワクチン接種したマウスから収集した血清による受動免疫化が、マウスをR.オリゼ感染から保護する。
本実施例は、FTR1を標的とする受動免疫がムコール菌症から保護するだろうことを証明する。
【0161】
受動免疫のための免疫血清を産生するために、マウスを完全フロイントアジュバント(CFA)と混合したFTR1pのSQ注射によって免疫して、続いて、21日目に不完全フロイントアジュバント(IFA)を伴う抗原の別用量でブーストし、2週後に、血清収集のために採血した。別のセットのマウスを、空のプラスミドで形質転換した大腸菌から収集した上清でワクチン接種し、非免疫性対照血清を産生した。抗体価を、本発明者らが以前に記述したように、5μgの合成の組換えFTR1pでコーティングしたELISAプレートを使用して決定した(Ibrahimらの文献、Infect Immun 73:999-1005(2005))。免疫した、又は対照血清(0.25ml)を、2.5×107のR.オリゼ99-880胞子を鼻腔感染する2時間前に、糖尿病ケトアシドーシスレシピエントマウスにi.p.で投与した。血清用量を感染後3日繰り返し、マウスの生存は、感染後35日間続いた。ワクチン接種をしたマウスから収集したプールした血清は、>1.800,000の抗FTR1p IgG力価を有したが、空のプラスミドで形質転換したクローンから精製した上清をワクチン接種した負の対照マウスから収集したプールした血清は、1:200の抗FTR1p IgG力価を有した。R.オリゼを鼻腔内にその後感染させたDKAマウスに対する免疫血清の投与は、対照血清で処理したマウスと比較して、生存を著しく向上した(免疫血清対非免疫性血清について63%対0%の生存、p<O.OOl))(図28D)。
【0162】
本出願の全体にわたって、種々の刊行物を参照した。これらの刊行物の開示は、より完全に、本発明が属する技術水準を記述するために、これらの全体がこの出願において参照として本明細書に組み込まれる。
【0163】
本発明は、開示した実施態様に関して記述したが、当業者であれば、上で詳述した具体的実施例、及び研究は本発明の例証のみであることを容易に認識するだろう。種々の修飾を、本発明の精神を逸脱しない範囲で行うことができることを理解すべきである。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FTRポリペプチド、又は前記ポリペプチドの抗原性断片、及び医薬として許容し得る担体を含む、ワクチン組成物。
【請求項2】
更にアジュバントを含む、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記抗原性断片がFTRのドメイン、又は細胞外領域をヒンジ結合する鉄を含む、請求項1記のワクチン組成物。
【請求項4】
FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチドに実質的に相補的なヌクレオチド配列、転写プロモーター、及び転写ターミネーターを含むベクターであって;前記プロモーターは、FTRヌクレオチド配列に作動可能に連結され、及び前記FTRヌクレオチド配列は、転写ターミネーターに作動可能に連結されたベクター、並びに医薬として許容し得る担体を含む、ワクチン組成物。
【請求項5】
更にアジュバントを含む、請求項4記載のワクチン組成物。
【請求項6】
FTR配列の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチドRNAi配列;FTRポリペプチド、若しくはこれらの断片に特異的に結合する抗体、又はこれらの抗体断片からなる群から選択されるFTRのアンチセンス、低分子干渉RNA、又は抗体阻害剤;及び医薬として許容し得る賦形剤、又は担体を含む、真菌状態を、その必要のある対象において治療し、又は予防するための医薬組成物。
【請求項7】
真菌状態を有するか、又は有することに感受性の対象にFTRポリペプチド、又はこれらの免疫原性断片の免疫原性の量を投与することを含む、真菌状態を治療し、又は予防する方法。
【請求項8】
前記FTRポリペプチドの免疫原性の量が医薬として許容し得る媒体、又はアジュバントと共に投与される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記真菌状態が接合菌症を含む、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記接合菌症が更にムコール菌症を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ムコール菌症が鼻脳ムコール菌症、肺ムコール菌症、胃腸ムコール菌症、播種性ムコール菌症、骨ムコール菌症、縦隔ムコール菌症、気管ムコール菌症、腎臓ムコール菌症、腹膜ムコール菌症、上方大静脈ムコール菌症、又は外耳炎ムコール菌症を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ムコール菌症が目ケカビ目内の感染性媒体と関連する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記目ケカビ目内の媒体がコアネホラ科(Choanephoraceae);クンニンハメラ科;ケカビ科;マイコトファ科(Mycotyphaceae);フィコマイセタ科(Phycomycetaceae);ピロバラ科(Pilobolaceae);サクセナエア科(Saksenaeaceae);シンセファラストラ科(Syncephalastraceae);及びウンベロプシダ科(Umbelopsidaceae)の真菌科から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記目ケカビ目内の媒体がリゾープス属(Rhizopus)、アブシディア属(Absidia)、アポフィソマイセス属(Apophysomyces)、ケカビ属(Mucor)、又はクンニンハメラ属(Cunninghamella)の属から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記リゾープス属、アブシディア属、アポフィソマイセス属、ケカビ属、又はクンニンハメラ属の属内の媒体がリゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾープス・ミクロスポルス(Rhizopus microsporus)、リゾポホルミス(rhizopodiformis)、アブシディア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)、アポフィソマイセス・エレガンス(Apophysomyces elegans)、又はリゾムコル・プシルス(Rhizomucor pusillus)から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
真菌状態を、その必要のある対象において治療し、又は予防するための方法であって、前記真菌をアンチセンス、低分子干渉RNA、又はFTRの抗体(ポリクローナル、又はモノクローナル)阻害剤に曝露することを含む、前記方法。
【請求項17】
前記FTRのアンチセンス、又は抗体阻害剤が:FTRヌクレオチド配列の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列;FTR配列の少なくとも12の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチド配列、FTR配列の少なくとも18の隣接するヌクレオチド塩基に実質的に相補的なヌクレオチドRNAi配列;及びFTRヌクレオチド配列、ポリペプチド、若しくはこれらの断片に特異的に結合する抗体、又は抗体断片からなる群から選択される阻害剤を含む、請求項16記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B−C】
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【図23D】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【図25A】
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【図25B】
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【図25C】
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【図26A】
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【図26B−C】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図28A−B】
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【図28C−D】
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【公表番号】特表2012−520878(P2012−520878A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500790(P2012−500790)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/000820
【国際公開番号】WO2010/107500
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511226889)
【Fターム(参考)】