説明

メカノケミカル反応による硫酸ピッチの無害化

【課題】 本プロセスにおいては、硫酸ピッチに、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、酸化鉄、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の微粉末を、ゼオライト、アルカリ水溶液等と共に適当な割合と順番で混合し、ナノ粒子状態まで粉砕すると、メカノケミカル反応と中和反応の相乗効果が生起して、硫酸は中和して硫酸カルシウム(石膏)になり、タール分ならびに油分に含まれる芳香族炭化水素、硫黄含有化合物は分解・消滅し、有害重金属イオンはフェライトを形成して不溶化され、毒性有機フッ素と塩素はカルシウム塩として無機化され、最終的にすべての有害物資が無害化される。
【解決手段】 重油、廃油等から軽油を製造する際に副生する有害廃棄物「硫酸ピッチ」を安全かつ低コストで無害資源化するユニ−クなプロセスを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
重油あるいは廃油等から軽油を製造する過程において副生する硫酸ピッチは、硫酸イオン、タ−ル分、油分+水分をそれぞれ約1/3づつ含有する強酸性の高粘性廃棄物である(平成15年2月13日付け東京都環境局インタ−ネット)。さらに、タ−ル分や油文中には有毒な有機化学物質や重金属イオンが含まれており、発生する亜硫酸ガスの毒性も高い。このような硫酸ピッチがしばしば不法投棄され、深刻な環境汚染を引き起こしているので、安全かつ安価な硫酸ピッチ無害化処理プロセスの開発は緊急な必要事である。従来の硫酸ピッチ処理は、もっぱら中和(例えば、特開2004−160424、ピッチ処理剤を使用した硫酸ピッチの無害化処理方法)あるいは焼却(例えば、特開2002−001399、硫酸ピッチの処理方法)より行われているが、有毒化学物質や重金属イオンの残存あるいは焼却炉の顕著な損傷等の点で不完全なプロセスである。今回、中和反応とメカノケミカル反応の相乗効果により硫酸ピッチの総合的無害化を安全かつ安価に行う技術を開発したので、これを特許出願する。
【背景技術】
【0002】
本プロセスを支える基幹的背景技術は、メカノケミカル反応の応用である。メカノケミカル反応は、熱力学的平衡状態において温度や圧力のみをパラメ−タ−として記述されるマクロな反応ではなく、機械的粉砕により到達されたナノ粒子状態における極めて活性な非平衡プロセスを内包している。したがって、硫酸ピッチの中和反応に適度の触媒物質を添加してメカノケミカル効果を付与することにより、有毒有機化学物質の分解・除去ならびに重金属イオンのフェライト化合物形成による不溶出化が総合的に実現される。本プロセスにより無害化された最終生成物は、ほとんど無臭であり、吸湿性も無く、適当な粒子寸法の粉末であるので、有用な資源材料として活用できる。すなわち、重油、廃油等から軽油を製造する際に副生する有害廃棄物「硫酸ピッチ」を中和反応ならびにメカノケミカル反応の相乗効果により、安全かつ低コストで無害資源化するユニ−クなプロセスを提供するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(硫酸イオンならびに未反応硫酸の無害化プロセス)
硫酸ピッチ中に含まれる硫酸イオンSO2−ならびに未反応硫酸HSOは、添加された生石灰CaO、消石灰Ca(OH)あるいは炭酸カルシウムCaCOと反応して、硫酸カルシウムCaSOに変化する。生成された硫酸カルシウムCaSOは、無臭・無害の白色粉末であり、石膏として日常生活において広く利用されている。
化学反応式は下記の通りである。
硫酸イオン SO2−+CaO→CaSO
SO2−+Ca(OH)→CaSO
SO2−+CaCO→CaSO
未反応硫酸 HSO+CaO→CaSO+H
SO+Ca(OH)→CaSO+2H
SO+CaCO→CaSO+HO+CO
【0004】
(タ−ル分の無害化プロセス)
タ−ル分に含有さる有害物質は、主として芳香族炭化水素(フェノ−ル類、ピリジン類)であるが、若干の硫黄含有化合物(二硫化炭素、チオフェン)も存在する。タ−ル分にゼオライト(特に、合成ゼオライトZSM−5)や石炭灰を添加して混合・攪拌すると、ゼオライトの触媒作用ならびにメカノケミカル効果の相乗作用により、芳香族炭化水素や硫黄含有化合物が分解・酸化され無害化される。その結果生成した炭酸ガスCO、水HO、窒素Nは蒸発して消失するが、亜硫酸ガスSOは生石灰CaOあるいは消石灰Ca(OH)と反応して硫酸カルシウムとなり、固定・無害化される。特に、本プロセスにおいて用いられる機械的粉砕・攪拌は単なる混合ではなく、メカノケミカル反応を誘起して、触媒作用が大幅に加速され、速やかに有害有機化合物が分解、酸化そして消失する。さらに、硫酸と生石灰あるいは消石灰から硫酸カルシウムを生成する化学反応は大きな発熱を伴うので、本プロセスにおいて生起する種々の化学反応は大幅に加速される。
化学反応式は下記の通りである。
フェノ−ル COH+7O(空気中)→6CO+3H
ピリジン CN+(6+1/4)O(空気中)→5CO+(5/2)HO+(1/2)N
二硫黄化炭素 CS+3O(空気中)→CO+2SO
チオフェン CS+4O(空気中)→2CO+2HO+SO
亜硫酸ガス SO+CaO+O(空気中)→CaSO+(1/2)O
SO+Ca(OH)+(1/2)O(空気中)→CaSO+H
【0005】
(油分の無害化プロセス)
油分の骨格は、炭化水素系有機化合物であるが、一部金属イオンが含まれている場合がある。油分に酸化鉄、シリカ、酸化アルミニウムのナノ粒子(ゼオライトならびに石炭灰の超微粒子でも可)を添加して攪拌・混合すると、タ−ル分の無害化プロセスの場合と同様に、メカノケミカル反応が促進されて、最終的に炭化水素系有機化合物が炭酸ガスと水に分解される。
【0006】
(重金属の無害化プロセス)
硫酸ピッチに含有される有害重金属は、水銀Hg、カドミウムCd、鉛Pb、砒素As、六価クロ−ムCr6+、燐P等である。本プロセスにより最終的に得られた反応生成物からこれらの有害重金属が溶出しない、あるいは溶出してもその量は法定基準値以下であることが、化学分析により確認されている。このように、重金属が最終反応生成物の中に安全に固定され、水に溶出しない理由は、メカノケミカル反応により重金属が安定な酸化物、特に酸化鉄ナノ粒子と反応して極めて安定なフェライト化合物Feを形成するからである。さらに、強力な粉砕・攪拌・混合によるメカニカル・アロイング効果により、消石灰、石炭灰ならびにゼオライトが反応して形成されるSi−Al−Mg−Ca−Na−O系化合物のナノ空隙中に重金属イオンが捕獲・包摂される場合もある。
化学反応式は下記の通りである。
重金属 M(Hg,Cd,Pb,As,Cr)+O(空気中)→M(不溶性酸化物)
フェライト化 M+Fe→Fe(不溶性フェライト)

【0007】
(有害有機化合物の無害化プロセス)
硫酸ピッチ中に残存する可能性がある有害有機化合物としては、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、ベンゼン、クロロベンゼン、クロロフェノ−ル、四塩化炭素、・・・・の多くの物質が知られている。しかし、実際に本プロセスにより得られた最終反応生成物の溶出試験において、これらの有害有機化合物の溶出量は法定基準値をはるかに下まわることが確認されている。このことは、本処理プロセスにおいて採用した手順・方法が有機化合物をほぼ完全に分解・酸化していることを示している。メカノケミカル反応を誘起する攪拌・混合法であるメカニカル・アロイング法が、有機化合物の分解に際して強力な力を発揮することは良く知られており、本プロセスもこの原理に従ったものである。実際の処理プロセスにおいては、タ−ル分ならびに油分の分解過程において、これらの有害有機化合物の分解も同時・並行して進行する。化学反応式は基本的にタ−ル分ならびに油分の分解・酸化の場合と同様であり、有害有機化合物が空気中の酸素と反応して最終的に炭酸ガスと水に変化する。
【0008】
(塩素ならびにフッ素の無害化プロセス)
有害有機化合物に含まれ塩素Cl、フッ素F等のハロゲン元素は、生石灰CaOあるいは消石灰Ca(OH)と反応して、安定かつ不溶性の塩化カルシウムCaClあるいはフッ化カルシウムCaFeを生成し、無毒化される。
ハロゲン元素の固定・無害化の化学反応式は下記の通りである。
塩素 2Cl+CaO→CaCl+(1/2)O
2Cl+Ca(OH)→CaCl+HO+(1/2)O
フッ素 2F+CaO→CaF+(1/2)O
2F+Ca(OH)→CaF+HO+(1/2)O
【課題を解決するための手段】
【0009】
メカノケミカル反応が生起する攪拌・粉砕・混合を行うには、ボ−ル・ミリング装置を使用するのが簡便であるが、工業的規模で実施するには強力アトライタ−の活用が必須かつ有効である。
【発明の効果】
【0010】
不法投棄されている硫酸ピッチを無害化処理し、環境保全ならびに省エネルギ−に貢献できる。本プロセスでは焼却を伴わないので、炭酸ガスの排出抑制効果も期待できる。装置が簡便であり、特別の温度管理を必要としないで室温にてメカノケミカル反応を行うので、小規模処理から大規模処理まで広く実用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
硫酸ピッチが保管あるいは投棄されている現場において、アトライタ−を用いて本プロセスによる無害化処理を実施するのが最良である。
【実施例】
【0012】
先ず、硫酸ピッチにpH=10前後のアルカリ水あるいはゼオライト水溶液を添加し、粘性率η=1〜10ポアズに調整する。次に、硫酸ピッチと同量あるいはやや過剰の水酸化カルシウム(消石灰)粉末、それぞれ1/10量程度の酸化鉄、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム微粉末を順次添加し、アトライタ−により粉砕・攪拌・混合し、メカノケミカル反応を生起させる。この時、常に粘性率が一定になるように、メカノケミカル反応の進行状況を確認しつつ、必要ならばアルカリ水あるいはゼオライト水溶液を適当量づつ追加添加する。硫酸と水酸化カルシウムが反応して硫酸カルシウムを生成する際、かなりの発熱があるので、通常の場合アトライタ−の内部温度は局所的には100℃程度にまで上昇する。このために、水分が蒸発し、アトライタ−から水蒸気の白煙が発生する。この白煙の発生が停止した時点が、メカノケミカル反応がほぼ終了した時点である。
本実施例における実験条件は下記の通りである。
硫酸ピッチ:重量=3kg、粘性率=4ポアズ
酸化鉄微粉末:α−FeOOHナノ粉末500g添加
シリカ微粉末:1kg添加
酸化アルミニウム+酸化マグネシウム微粉末:500g添加
メカノケミカル反応:アトライタ−回転数=100rpm
平均反応温度=70℃
反応時間=30分
最終反応生成物をX線回折により同定した結果、生成物の主成分は無害な硫酸カルシウム、カルシウム−アルミニウム−マグネシウム系珪酸塩、フェライトであることが確認できた。X線蛍光分析により測定された最終反応生成物の酸化物換算化学成分比(mass%)を表1に示す。さらに、最終反応生成物に残存する可能性が考えられる重金属ならびに有毒有機化合物の水に対する溶出量を検査した。表2ならびに表3に示すように、いずれも検出限界値以下であり、法定許容濃度制限に合格していることが明らかになった。
メカノケミカル反応が不完全な場合、最終反応生成物中に10%程度の炭素成分が残存することがある。本実施例においても炭素成分の残存が確認された。炭素成分には有害物質は殆ど含まれていないが、除去する必要がある場合には、焼却により処理することが出来る。焼却に際しては、α−FeOOHナノ粒子が酸化触媒として作用するので、ダイオキシン類の発生を抑止して完全燃焼することができる。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本プロセスにおいては、硫酸ピッチに生石灰、消石灰あるいは炭酸カルシウムを添加して硫酸イオンを中和し、無毒の硫酸カルシウムを生成させると共に、さらに酸化鉄、シリカ、酸化アルミニウム、参加マグネシウム等の微粉末を付加して粉砕・攪拌・混合することにより、ナノ粒子状態まで微細化してメカノケミカル誘起触媒反応を生起させ、タ−ル分ならびに油分に含有されている芳香族炭化水素(ベンゼン、フェノ−ル類、ピリジン類)、硫黄含有化合物(二硫化炭素、チオフェン)、有害蒸発製有機化合物(ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素等のVOC類)を分解・除去することを特徴とする。
【請求項2】
本プロセスにおいては、硫酸ピッチ中のタ−ル分ならびに油分に含まれる重金属イオン(水銀、カドミウム、鉛、砒素、六価クロ−ム、燐等)を酸化鉄ナノ粒子とメカノケミカル反応させることにより、安定なフェライト化合物を形成し、土壌水、地下水あるいは河川水に対する不溶性物質に転化することを特徴とする。
【請求項3】
本プロセスにおいてメカノケミカル反応を生起させる反応物質である酸化鉄、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等のナノ粒子に替わり、ゼオライトあるいは石炭灰の超微粉末を使用することが可能であることを特徴とする。

【公開番号】特開2006−212615(P2006−212615A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59615(P2005−59615)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(500586495)
【Fターム(参考)】