説明

メソポーラスチタニアの製造方法、ジェミニ型界面活性剤の使用、およびこれらに係るコンピュータプログラム

【課題】製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造やメソ孔の大きさを制御することができるなどの利点を有するメソポーラスチタニアの製造方法、ジェミニ型界面活性剤の使用、およびこれらに係るコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】ジェミニ型界面活性剤によりメソポーラス構造の鋳型を形成する鋳型形成工程と、前記鋳型によりチタニアを析出させるチタニア析出工程と、を含むメソポーラスチタニアの製造方法である。また、メソポーラスチタニアを製造する際のジェミニ型界面活性剤の使用およびこれに係るコンピュータプログラムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスチタニアの製造方法、ジェミニ型界面活性剤の使用、およびこれらに係るコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
触媒活性、吸着活性等の機能性表面を有する材料において、その効果をより発揮させるために、単位重量当たりの表面積を大きくした材料が望まれている。そして、そのような材料の一例として、メソポーラス材料が挙げられる。
【0003】
メソポーラス材料の素材化合物としては、これまでに、シリカ、チタニア等の金属酸化物等が報告されている(特許文献1、非特許文献1及び2)。しかしながら、これら報告の金属酸化物は結晶構造を有さない不定形(アモルファス)であり、結晶構造を有する金属酸化物で構成されるメソポーラス材料は報告されていない。
【0004】
ところで、一般に金属酸化物等の半導体材料は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することで、正孔と電子を生成することが知られている。そして、結晶構造を有するチタニア、特にアナターゼ型結晶構造のチタニアは、それが有する化学的安定性および光励起により生じる強い酸化力や還元力が利用され、光反応触媒、有害有機物の除去、湿式太陽電池、光治療等の多岐の用途に応用されている。
【0005】
そこで、このチタニアなどの金属酸化物を結晶構造を有する状態でメソポーラス材料とする試みがなされているが、主に以下の2つの問題点により実現されていない。
【0006】
すなわち第一の問題点として、不定形で構成された材料を結晶構造のものへ転移させるために加熱などを行うと、メソポーラス材料ではその壁膜が非常に薄いため、不定形でのメソポーラスの形状を保持することができないことが挙げられる。すなわち、金属酸化物であるチタニアは、現在までに硫酸法や塩素法等の様々な合成方法により調製されているが、メソポーラス材料の調製に通常用いられるチタンアルコキシドを用いて、低温で合成を行った場合には不定形となり、例えばアナターゼ型の結晶構造を持たせる為には高温での焼成処理が必要となる。しかしながら、この高温での焼成処理を行うと、上記したようにその過程でメソポーラスの形状が破壊されてしまうため、結晶構造を持ったメソポーラスチタニアはできない場合が多かった。
【0007】
また、第二の問題点として、結晶成長等の手法を用い、直接結晶構造を有するメソポーラスチタニアを製造しようとする場合、ナノオーダーレベルでの結晶の大きさの制御が難しく、3次元的に規則的に整列した構造を持たせることが困難である点が挙げられる。
【0008】
このように、メソポーラス材料は表面積を大きくできることが見込まれているが、活性をもつ結晶構造を有する金属酸化物でメソポーラス構造を有する材料を作ることができていなかった。これに対して、下記特許文献2では活性をもつ結晶構造を有する金属酸化物でメソポーラス構造の結晶性チタニアが報告されている。
【0009】
特許文献2には、メソポーラスチタニアは、カチオン性界面活性剤が水溶液中で規則性をもって配列している状態で、結晶性チタニアを析出させることにより、カチオン性界面活性剤を除く部分に結晶性を有するチタニアが得られることが報告されている。該文献ではこのカチオン性界面活性剤を取り除くことにより、メソポーラス構造の結晶性チタニアが得られることが報告されている。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,098,684号
【特許文献2】特開2006−69877号
【非特許文献1】C.T.Kresge etall,Nature,vol.359,710−712(1992)
【非特許文献2】D.M.Autonelliet all,Chem.Int. Ed.Engl.,34,2014(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、製造されるメソポーラスチタニアの結晶性や結晶構造の種類といった結晶構造やメソ孔の大きさを制御することができれば、その用途に適した結晶構造やメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを選択して提供できることになる。したがって結晶構造の制御方法が望まれている。
【0012】
また、上記特許文献2に記載されるメソポーラスチタニアの製造方法では、チタニアを反応にて析出させる際の反応液の温度が60℃以上でなければメソポーラス構造は得られる場合があっても結晶性チタニアを得ることができない場合があることが報告されている。
【0013】
したがって、反応液温度を60℃以上にしなければならない場合もあり、その場合、加熱装置によって加温等が必要となるのが通常である。反応液の熱安定性に劣る場合や環境的問題(例えば地球上で製造するのではなく、宇宙空間など地球上と比べて不安定な空間での製造など)によっては加熱装置による加温が難しい場合などがある。よって、反応液の温度を60℃以上とするのは通常難しく、チタニアを反応にて析出させる際の反応液の温度をより低温とすることが可能な(好適には常温)結晶性メソポーラスチタニアの製造方法が望まれている。
【0014】
本発明は、上記課題のうち少なくとも1つを解決することに鑑みてなされたものであり、製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造やメソ孔の大きさを制御することができるなどの利点を有するメソポーラスチタニアの製造方法、ジェミニ型界面活性剤の使用、およびこれらに係るコンピュータプログラムを提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ジェミニ型界面活性剤によりメソポーラス構造の鋳型を形成する鋳型形成工程と、前記鋳型によりチタニアを析出させるチタニア析出工程と、を含むメソポーラスチタニアの製造方法を特徴とする。
【0016】
上記メソポーラスチタニアの製造方法であって、予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造の相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択する選択工程と、を含むと好適である。
【0017】
上記メソポーラスチタニアの製造方法であって、予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアのメソ孔の大きさの相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択する選択工程と、を含むと好適である。
【0018】
上記メソポーラスチタニアの製造方法であって、前記ジェミニ型界面活性剤の連結基の炭素数sが3〜12であると好適である。
【0019】
上記メソポーラスチタニアの製造方法であって、前記チタニア析出工程は結晶性チタニアを析出させてなると好適である。
【0020】
上記メソポーラスチタニアの製造方法であって、前記チタニア析出工程は、反応液温度が60℃未満でなされると好適である。
【0021】
また、本発明は、メソポーラスチタニアを製造する際のジェミニ型界面活性剤の使用であることを特徴とする。
【0022】
上記ジェミニ型界面活性剤の使用であって、前記メソポーラスチタニアの結晶構造を制御すると好適である。
【0023】
上記ジェミニ型界面活性剤の使用であって、前記メソポーラスチタニアのメソ孔の大きさを制御すると好適である。
【0024】
また、本発明は、予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造の相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択するステップを含むコンピュータプログラムであることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアのメソ孔の大きさの相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択するステップを含むコンピュータプログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造やメソ孔の大きさを制御することができるなどの利点を有するメソポーラスチタニアの製造方法、ジェミニ型界面活性剤の使用、およびこれらに係るコンピュータプログラムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者は、ジェミニ型界面活性剤を鋳型として用いると、界面活性剤における親水基間距離間を連結基(スペーサ)により制御でき、結晶構造やメソ孔の大きさなどを制御できるのではないかという知見を得た。その知見に基づき鋭意検討した結果、ジェミニ型界面活性剤を鋳型として用いると驚くべきことに結晶構造の種類やメソ孔の大きさを制御できたり、反応液温度が60℃未満からそれよりかなり低温たる常温であっても結晶性を有するメソポーラスチタニアを得ることができるなど種々な利点を見出し本発明に至った。
【0028】
以下本実施形態に係るメソポーラスチタニアの製造方法ついて説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0029】
本明細書中においてメソポーラス材料とは、図1に模式的に示すように、約2nm〜50nmの繰り返し単位で、細孔構造が組み合わさった材料をいう(以下、メソポーラス材料の有する細孔を「メソ孔」ともいう)。メソ孔の直径とメソ孔の壁膜の厚さの比は特に限定はないが、3:1〜1:3が好ましく、2:1〜1:2が特に好ましい。
【0030】
このメソポーラス材料は、特にその得られる形状に限られることはないが、一般には粒子の状態で得ることができる。この粒子の直径は特に限定はないが、製造の容易さ、表面積の増大等の点で、20〜500nmが好ましく、20〜100nmが特に好ましい。
【0031】
本実施形態に係るメソポーラス材料は、種々の結晶構造を有するチタニアで構成されていてもよい。結晶性のメソポーラス材料が有する結晶構造は、アナターゼ型およびルチル型、ブルカイト型のいずれでも良いが、アナターゼ型であることが、光反応触媒、有害有機物の除去、湿式太陽電池、光治療等に使用され得るので好ましい。
【0032】
なお、本実施形態に係るメソポーラス材料が結晶性を有するチタニアで構成されていることは、X線回折により確認される。例えば、アナターゼ型結晶を有するチタニアで構成されている場合は、銅KαX線回析において、2.2゜、3.8゜及び4.2°の近辺に回折ピークが現れる。また、本実施形態に係るメソポーラス材料が結晶性を有するという概念は、メソポーラス粒子全体が結晶性を有しているのに近いほど好適であることは勿論だが、必ずしも全てが結晶構造になっている必要はなく、不定形の構造部分があっても良い。
【0033】
また、本実施形態に係るメソポーラス材料では、メソ孔の配列構造がヘキサゴナル構造であることが好ましい。このようなヘキサゴナル構造を有することは、メソポーラス材料の(100)面に帰属される銅Kα線の一次回折角2θが、約1°〜5°の範囲に、更に高次ピークが、約4°〜10°に現れることにより示される。
【0034】
本実施形態に係るメソポーラスチタニアの製造方法はジェミニ型界面活性剤によりメソポーラス構造の鋳型を形成する鋳型形成工程と、前記鋳型によりチタニアを析出させるチタニア析出工程と、を含むことを特徴とする。
【0035】
上記製造方法において用いるジェミニ型界面活性剤は、メソポーラス構造の鋳型(テンプレート)となるものである。すなわち、これらジェミニ型界面活性剤が水溶液中で規則性をもって配列している状態で、アモルファスまたは結晶性チタニアを析出させることにより、ジェミニ型界面活性剤を除く部分にチタニアが形成されたメソポーラス材料が得られる。そして、このジェミニ型界面活性剤を取り除くことにより、メソポーラス構造の結晶性チタニアが得られる。なお、本明細書においては、メソポーラス材料は界面活性剤を取り除かないものであってもメソポーラス材料に含まれる。
【0036】
従って、ジェミニ型界面活性剤には、それらが配列してメソポーラス構造の鋳型となる性質ないし構造であれば特に限られることがないが、例えば、カチオン性のテトラデシルトリメチルアンモニウムクロリドを連結基(スペーサ)で連結したジェミニ型界面活性剤C14-s-14([C1429+(CH32−(CH2s−N+(CH321429]・2Cl-、(s=3,4,6,8,10,12)、下記化学式(1)に示される(メタ)アクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0037】
ジェミニ型界面活性剤の連結基(スペーサ)としては特に限られることがないが、sが炭素数3〜12の範囲である連結基であるとメソ孔に規則性を付与する点、結晶性を付与させやすい点で好適である。なお、本明細書では単にs=x(xは整数)と示して炭素数xの連結基を表すこともある。また、スペーサ長とは炭素数sで表した連結基の長さをいう。
【0038】
連結基sは特定基に特に限られることがないが、例えばアルキル基、アルキレン基、メチレン基、フェニレン基、エポキシ基などなどであることを挙げることができる。
【0039】
【化1】

【0040】
上記化学式(1)について、nのうち好ましい数は、10〜14であり、特に好ましくは10〜12である。またRで表される低級アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、直鎖状ブチル基、分岐状ブチル基、炭素数1〜4のアルキル基が挙げられるが、メチル基が好ましい。更にXで表されるハロゲンイオンとしては、臭素イオン、塩素イオン、ヨードイオン等が挙げられるが、臭素イオン、塩素イオンが好ましい。
【0041】
ジェミニ型界面活性剤の入手方法については特に限られることがないが、市販のものを用いても、合成等してもよい。例えば、合成方法としては、原料には、N,N−ジメチル−n−テトラデシルアミン(CH3(CH213N(CH32)を用い、スペーサとして1,3−ジクロロプロパン(Cl(CH23Cl)、1,4−ジクロロブタン(Cl(CH24Cl)、1,6−ジクロロヘキサン(Cl(CH26Cl)、1,8−ジクロロオクタン(Cl(CH28Cl)、1,10−ジクロロデカン(Cl(CH210Cl)、1,12−ジクロロドデカン(Cl(CH212Cl)などを使用し、公知の方法を適宜選択して合成してジェミニ型界面活性剤を得ることなどが挙げられる。
【0042】
一方、結晶性チタニアの原料となり、ジェミニ型界面活性剤の鋳型でチタニアを析出させるチタニア源については特に限られることがないが好適例としては酸化硫酸チタン(TiOSO4)などを挙げることができる。
【0043】
上記混合にあたってのジェミニ型界面活性剤とチタニア源の混合モル比は、1:30〜1:100が好ましく、1:30〜1:70が特に好ましく、1:40〜1:60が更に好ましい。最も好ましくは1:50近傍である。ジェミニ型界面活性剤に対してチタニア源の量が少なすぎる場合や、多すぎる場合には、銅Kα線の回折角(2θ)2°〜6°付近に現れる回折ピーク(以下、「低角回折ピーク」という)がブロードになるかまたは消失し、メソ孔の規則構造、すなわちメソポーラスチタニアのヘキサゴナル構造の規則性が低下する場合がある。
【0044】
また、ジェミニ型界面活性剤の濃度は、水溶液中で配列する濃度、例えば、60〜240mM(mモル/L)が好ましい。また、反応液全体に対するチタニア源の濃度は特に限定はないが、3000〜6000mM(mモル/L)が好ましい。
【0045】
本実施形態に係る製造方法において、ジェミニ型界面活性剤水溶液とチタニア源水溶液とを混合した反応液の温度は、使用する環境、ジェミニ型界面活性剤の種類等にも依存するが、30度以下の常温〜80℃が好ましく、50〜70℃が特に好ましい。液温が低すぎると生成するチタニアの結晶性が低くなる場合がある。逆に液温が高いと、ジェミニ型界面活性剤がうまく配列せず、メソポーラスチタニアのヘキサゴナル構造の規則性が低下したり、規則性がなくなる場合がある。
【0046】
なお、本実施形態に係る製造方法での反応液のpHは、チタニア源の濃度などにも依存するが、酸性領域が好ましい。また、ジェミニ型界面活性剤とチタニア源との混合している時間は、チタニア源から十分に結晶性チタニアが析出する時間とすれば良く、一般には5〜120時間であり、好ましくは10〜80時間程度、特に好ましくは、15〜60時間、更に好ましくは、20〜40時間である。
【0047】
この間、撹拌しながら混合させることが好ましい。混合時間が短すぎると、生成するチタニアの結晶性が低下する傾向にあり、逆に混合時間が長すぎると、結晶性は上がるが、メソ孔の配列規則性が低下し、ヘキサゴナル構造が消失する場合がある。また、混合時間が長すぎるとチタニアのアナターゼ型のみならず、ルチル型も形成される傾向にある場合があるので光活性を大きくしたい場合には混合時間を長くしすぎないことが好適である。
【0048】
上記方法により、結晶構造を有するチタニアで構成されるメソポーラスチタニアが分散した液を得るが、この分散液をろ過し、必要により水洗を繰り返すことにより、メソポーラスチタニアを粉末として得ることができる。水洗に用いる水は特に限定はないが、例えば、蒸留水、超純水などを用いることが好ましい。
【0049】
好適には、上記メソポーラスチタニアからジェミニ型界面活性剤を除くことである。このようにすれば空孔を有するメソポーラスチタニアを得ることができ好ましい。この場合の9ジェミニ型界面活性剤の除去方法については特に限定はないが、加熱処理により行うことが好ましい。加熱温度は、ジェミニ型界面活性剤が十分に除去され、かつ、メソポーラスチタニアのヘキサゴナル構造が壊れない程度の温度であることが必要であり、例えば、400〜500℃が好ましい。加熱時間もジェミニ型界面活性剤を除去するのに充分であれば特に限定はないが、2〜10時間が好ましい。
【0050】
以上のようにして得られる結晶構造を有するチタニアで構成されるメソポーラスチタニアは、特に限られることなく用いられるが、例えば、その表面活性と表面積の大きさを生かして、光反応触媒、有害有機物の除去、湿式太陽電池、光治療等の用途に用いられ得る。また、メソポーラス構造の特性を生かして、触媒担体、分子レベルのフィルター、吸着剤等の用途に用いられ得る。
【0051】
本実施形態に係るメソポーラスチタニアが生成する原理は、現時点では次のように考えられている。すなわち、ジェミニ型界面活性剤分子は、ある一定濃度範囲の水溶液中では、規則正しく配向している。この状態で、チタニア源を結晶析出させると、ジェミニ型界面活性剤分子の親水基の部分を中心に、下記の化学式(2)で示される反応が起こり、様々な結晶構造のチタニアが生成すると考えられる。
【0052】
TiOSO4+H2O→TiO2+H2SO4 (2)
【0053】
そして前記のように、ジェミニ型界面活性剤分子が規則正しく配向しているから、生成する結晶性チタニアは、この配向したジェミニ型界面活性剤分子の周囲に析出し、結果的にメソポーラス構造を取ることになる。この析出直後のメソポーラスチタニアでは、メソ孔中にジェミニ型界面活性剤分子が残っているが、取り除く場合については、更に、適当な温度まで加温し、当該高分子を除去することにより、結晶構造チタニアにより構成される、ジェミニ型界面活性剤分子が取り除かれたメソ孔が空孔となるメソポーラスチタニアが得られる。
【0054】
さらに本発明者は鋭意検討の結果、ジェミニ型界面活性剤におけるスペーサ長の選択によりメソポーラスチタニアの結晶構造の制御、メソ孔の大きさを制御できることを見出すことができたことを利用して所望の結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得る方法に至った。すなわち、予めスペーサ長と結晶構造および/またはスペーサ長メソ孔の大きさとの相関関係を求めておき、この相関関係に基づいて所望とする結晶構造および/またはメソ孔の大きさに対応するスペーサを有するジェミニ型界面活性剤を選択し、このジェミニ型界面活性剤を用いてメソポーラスチタニアを製造することで、所望の結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得ることができるという方法である。
【0055】
ジェミニ型界面活性剤のスペーサ長によってメソ孔の大きさが制御できる理由は一例として考察するに以下のように考えることもできる。
【0056】
図1にはスペーサ長が(a)短い場合と(b)長い場合のジェミニ型界面活性剤と、それぞれの界面活性剤が形成する分子集合体のイメージを示す。スペーサ長が短い場合は界面活性剤が密に詰まるため、形成する分子集合体の半径は大きくなり、その結果細孔径が大きくなったと考えられる。逆にスペーサ長が長い場合は界面活性剤が疎に詰まるため、形成する分子集合体の半径は小さくなり、その結果細孔径が小さくなったとも考えられる。
【0057】
ジェミニ型界面活性剤のスペーサ長によって結晶構造が制御できる理由は一例として考察するに以下のように考えることができる。なお、結晶構造の制御とは、制御して結晶構造のメソポーラスチタニアを得るだけでなく、不定形のメソポーラスチタニアを得ることも含む。
【0058】
図2にアナターゼ型の単位格子と、スペーサ長が(a)短い場合と(b)長い場合のジェミニ型界面活性剤のイメージを示す。結晶成長の基盤となる親水基同士の距離と単位格子の一辺の長さが近いほど結晶成長が促進されると考えられるため、(b)のようになったときには、アナターゼ型への成長がより促進されるものと考えられる。ジェミニ型において室温での壁膜の結晶化に成功したのは、s=6〜8のときに単位格子の一辺の長さと親水基間距離が一致していたためであると考えられる。また、図3にアナターゼ型およびルチル型の単位格子のイメージを示す。単位格子の一辺の長さはアナターゼ型よりもルチル型の方が長いため、スペーサ長を8から10に長くしたことにより結晶構造がアナターゼ型からルチル型へと変化するものと考えられる。
【0059】
結晶性、結晶構造とは、アナターゼ型、ルチル型、ブルカイト型の他、結晶性いずれも含む意味である。また、結晶性、結晶構造とはこれら結晶が単独である構造に限らず、複数の結晶構造が混合した構造であってもよく、またアモルファス成分が混合した構造であってもよい。結晶構造の解析方法は、適宜選択して用いればよく特に限られるものではないが例えば、X線解析測定などを挙げることができる。
【0060】
メソ孔の大きさとは、その孔の大きさがわかるパラメータであればよく特に限られる概念ではないが、例えばメソ孔の径の大きさ、メソ孔の断面積、メソ孔を取り囲むチタニア壁の長さなどを挙げることができる。メソ孔の大きさの解析方法は、適宜選択して用いればよく特に限られるものではないが例えば、TEM写真観察などを挙げることができる。
【0061】
相関関係は、特に限られることがないが、例えばスペーサ長と結晶構造および/またはメソ孔の大きさのプロットしたグラフなどを挙げることができる。スペーサ長が予めわかっているジェミニ型界面活性剤を用い、そのスペーサ長であると結晶構造がどのようであるか、メソ孔の大きさがどのようであるかを解析し、スペーサ長と結晶構造および/またはメソ孔の大きさのプロットする。好ましくはスペーサ長を変化させた複数個のジェミニ型界面活性剤についてそれぞれのスペーサ長であると結晶構造がどのようであるか、メソ孔の大きさがどのようであるかを解析し、スペーサ長と結晶構造および/またはメソ孔の大きさの複数個のプロットによる相関関係を求めておくことが好ましい。また相関関係にはどのスペーサ長であると結晶度が小さい、または、全くないというアモルファス状態であるかという相関関係も含まれてもよい。
【0062】
また、相関関係は測定等によって得られたものだけに限られることがない。例えば、所望の結晶構造を得るための相関関係は、結晶成長の基盤となる親水基同士の距離とそれぞれの結晶における単位格子の一辺の長さが近いほど結晶成長が促進される相関関係がある。したがって、所望とする結晶構造について単位格子の一辺の長さは決まっているのでこれに近い長さのスペーサ長のジェミニ型界面活性剤を選択すれば所望の結晶構造のメソポーラスチタニアを得るためのスペーサ長のジェミニ型界面活性剤を選択することができることになる。したがって、相関関係は所望の結晶構造の単位格子の一辺の長さとそれに対応するジェミニ型界面活性剤のスペーサ長のデータなどの相関関係であってもよい。
【0063】
求められた相関関係は記憶装置などに予め記憶しておくと好ましい。記憶装置は特に限られることがないが読み取り専用の記憶装置(ROM等)、読み書き可能な記憶装置(RAM等)など相関関係を記憶できる装置であれば特に限られることがない。
【0064】
所望の結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得るための選択方法は、予め取得された相関関係に応じて適切な長さのスペーサ長を有するジェミニ型界面活性剤を選択する方法であれば特に限られることがない。例えば、種々のスペーサ長を有するジェミニ型界面活性剤から適切なスペーサ長を有するジェミニ型界面活性剤を選択する方法であってもよい。
【0065】
上記製造方法としては、例えば図4に示すような処理フローを実行するコンピュータを用いたシステムを用いた製造方法が挙げられる。コンピュータには予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造および/またはメソ孔の大きさの相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択するステップを含むコンピュータプログラムが読み込まれている。
【0066】
メソポーラスチタニアを製造する製造者が所望とする結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを製造することをキーボードなどの入力手段によってコンピュータ内のCPUに要求する(S1)。コンピュータ内のCPUはその所望とするメソポーラスチタニアを得るためにどのスペーサ長を有するジェミニ型界面活性剤を選択すればよいかが記憶された記憶装置にアクセスし(S2)、記憶装置に記憶された相関関係を読み出す(S3)。CPUは、読み出された相関関係に基づいてどのスペーサ長であると所望とする結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得ることができるのかを判断する(S4)。CPUによって判断されたスペーサ長のジェミニ型界面活性剤の情報は、種々のジェミニ型界面活性剤からその情報のスペーサ長のジェミニ型界面活性剤を選別する選別装置に伝達される(S5)。選別装置はその情報によって適切なスペーサ長のジェミニ型界面活性剤を選別する(S6)。選別されたジェミニ型界面活性剤を用いて、本実施形態に係るメソポーラスチタニアを製造する方法によって製造者が所望とする結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得る(S7)。また、この相関関係を利用して結晶構造を有しないアモルファスのメソポーラスチタニアを得ることもできる。
【0067】
上記システムを用いれば製造者が所望とする結晶構造および/またはメソ孔の大きさのメソポーラスチタニアを得たい場合に、適切なスペーサ長のジェミニ型界面活性剤を選択することができ、好適である。したがって、例えばアナターゼ型、ルチル型などの結晶構造の種類や結晶度の程度、メソ孔の大きさを所望のものとするメソポーラスチタニアを製造することが可能となる。また、この相関関係を利用して結晶構造を有しないアモルファスのメソポーラスチタニアを得ることもできる。特に結晶構造の種類としてはアナターゼ型結晶を得る場合に好適であり、結晶度の程度(不定形部分に対する結晶構造の多さ)も結晶構造の程度が多く、不定形部分が少ないものを得る場合に好適である。
【実施例】
【0068】
以下、本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはない。
【0069】
<ジェミニ型界面活性剤>
界面活性剤として、カチオン性のテトラデシルトリメチルアンモニウムクロリドをスペーサで連結したジェミニ型界面活性剤C14-s-14([C1429+(CH32−(CH2s−N+(CH321429]・2Cl-、(s=3,4,6,8,10,12)を使用した。
【0070】
使用したジェミニ型界面活性剤は全て合成したものを用いた。原料には、N,N−ジメチル−n−テトラデシルアミン(CH3(CH213N(CH32,東京化成工業(株)製)、スペーサとして1,3−ジクロロプロパン(Cl(CH23Cl,和光純薬工業(株)製)、1,4−ジクロロブタン(Cl(CH24Cl,和光純薬工業(株)製)、1,6−ジクロロヘキサン(Cl(CH26Cl,和光純薬工業(株)製)、1,8−ジクロロオクタン(Cl(CH28Cl,東京化成工業(株)製)、1,10−ジクロロデカン(Cl(CH210Cl,和光純薬工業(株)製)、1,12−ジクロロドデカン(Cl(CH212Cl,関東化学(株)製)を使用した。
【0071】
<チタニア源>
チタニア源(チタニア壁膜の前駆体)として酸化硫酸チタン(TiOSO4・xH2SO4・xH2O,Aldrich製)を使用した。
【0072】
<溶媒>
溶媒として超純水(>18.2MΩcm-1)を使用した。
【0073】
<結晶性メソポーラスチタニア粒子の調製方法>
14-s-14(s=3,4,6,8,10,12)を12.5gの超純水中に添加し、溶解させた。また、酸化硫酸チタンを12.5gの超純水中に溶解させたものを別に用意し、前述のC14-s-14水溶液に添加した。その後、24時間撹拌し、沈殿物をろ過、洗浄(H2O)し、乾燥処理(120℃,10h,1℃/min)を行い、チタニア/界面活性剤複合粒子を調製した。
【0074】
<結晶性メソポーラスチタニア粒子の物性評価方法>
調製した粒子の細孔の規則性、壁膜の結晶構造、および面間距離をX線回折(XRD)測定(PHILIPS X’Pert Pro CuKα線)により評価した。なお、測定サンプルは上記調製方法に準じて調製した試料を、乳鉢を用いて細かくすりつぶしたものを用いた。
【0075】
調製した粒子の細孔の規則性、細孔の大きさを透過型電子顕微鏡(TEM)観察(日立ハイテクノロジーズH−7650)により評価した。測定サンプルには細かくすりつぶした試料をエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事)に数的滴下し、乾燥させたものを使用した。
【0076】
「実施例1」
3M:TiOSO4水溶液と60mMの種々のスペーサー長のジェミニ型界面活性剤C14-s-14(s=3,4,6,8,10,12)を混合し、チタニア/界面活性剤複合粒子を調製した。
【0077】
得られた粒子のXRD測定結果を図5に示す。低角XRDパターンより全てのスペーサ長において規則的細孔構造に帰属されるピークを観測することができた。さらにそれぞれの1次ピークについて、各スペーサ長における面間距離をブラッグの式を用いて算出した結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1より、スペーサ長が長い界面活性剤を用いることに伴い、面間距離が小さくなっていることが分かった。従って、スペーサ長の選択により細孔径制御が可能となることが分かった。次に、低角XRDパターンにおいて特に規則性の高かったC14-4-14を用いて調製したチタニア粒子のTEM像を図6に示す。細孔を(a)方向より見た図においては非常に規則性の高いハニカム構造を観察することが出来た。また、(b)方向より見た図においても長周期的な細孔構造を観察することができた。
【0080】
一方、広角XRDパターンでは、全てのスペーサ長においてアナターゼ型およびルチル型に帰属されるピークを確認した。特にs=8のときアナターゼ型、s=10のときルチル型の結晶性が向上していることが分かった。従って、スペーサ長の選択により結晶構造の制御が可能となることが分かった。
【0081】
「実施例2」
室温で撹拌を行い結晶性メソポーラスチタニアの調製を試みた。得られた粒子のXRD測定結果を図7に示す。低角XRDパターンにおいては全てのスペーサ長から規則的細孔構造に帰属されるピークを確認した。また、実施例1と同様に面間距離を算出した結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2より、スペーサ長が長い界面活性剤を用いることに伴い、面間距離が小さくなるという、前項で加熱撹拌を行った場合と同様の傾向が得られた。
【0084】
一方、広角XRDパターンにおいては、C14-6-14、C14-8-14を用いた場合にアナターゼ型に帰属されるピークを確認することができた。
【0085】
以上より、ジェミニ型界面活性剤を用いることで、これまでの60℃以上での加熱撹拌を行わずに室温での撹拌のみで結晶性メソポーラスチタニアの調製に成功した。
【0086】
「参考例」
以下参考例として結晶性メソポーラスチタニアの調製とその形成機構を示す。
【0087】
(1)試料
界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH215N(CH33Br;C16TAB,Aldrich製)を使用した。
【0088】
また、界面活性剤の鎖長がチタニアの粒子形成に及ぼす影響を検討するため、アルキル鎖長の異なる、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH213N(CH33Br;C14TAB,東京化成工業(株)製)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH211N(CH33Br;C12TAB,東京化成工業(株)製)、さらに界面活性剤としては機能しないが、へキシルトリメチルアンモニウムブロミド(CH3(CH25N(CH33Br;C6TAB,東京化成工業(株)製)、テトラメチルアンモニウムブロミド(N(CH34Br;C1TAB,東京化成工業(株)製)を使用した。
【0089】
チタニア壁膜となる前駆体として酸化硫酸チタン(TiOSO4・xH2SO4・xH2O,Aldrich製)、硫酸チタン(Ti(SO42,和光純薬工業(株)製)、四塩化チタン(TiCl4,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0090】
溶媒として超純水(>18.2MΩcm-1)を使用した。
【0091】
対イオンの存在および塩添加がチタニアの構造特性に与える影響を検討するため、塩として臭化カリウム(KBr,和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0092】
(2)実験方法・評価方法
<結晶性メソポーラスチタニア粒子の調製方法>
種々のアルキル鎖長の四級アンモニウム塩を25gの超純水中に添加し、溶解させ60mMとした(60℃)。また、種々のチタニア前駆体を25gの超純水中に溶解させ、3Mとしたものを別に用意し、前述の界面活性剤水溶液に添加した。ただし、Ti(SO42のみ720mMとした。その後、60℃で種々の時間撹拌し、沈殿物をろ過、洗浄(H2O)し、乾燥処理(120℃,10h,1℃/min)を行い、チタニア/界面活性剤複合粒子を調製した。
【0093】
チタニア源となる前駆体にTiOSO4を用いて調製した粒子は界面活性剤除去のため、その後焼成処理(450℃,2h,1℃/min)を行い、メソポーラスチタニア粒子を調製した。
【0094】
<結晶性メソポーラスチタニア粒子の物性評価>
粒子形成の様子を観察するため、界面活性剤とチタニア前駆体を混合した直後の溶液の様子の目視観察を行った。調製した粒子の細孔の規則性、壁膜の結晶構造、および面間距離をX線回折(XRD)測定(PHILIPS X’Pert Pro CuKα線)により評価した。なお、測定サンプルは上記調製方法に準じて調製した試料を、乳鉢を用いて細かくすりつぶしたものを用いた。
【0095】
調製した粒子の細孔の規則性、細孔の大きさを透過型電子顕微鏡(TEM)観察(日立ハイテクノロジーズ H−7650)により評価した。測定サンプルには細かくすりつぶした試料をエタノールに分散させ、カーボン補強済コロジオン膜貼付銅メッシュ(応研商事)に数的滴下し、乾燥させたものを使用した。
【0096】
<対イオンの存在がチタニア粒子の構造特性に与える影響の検討>
対イオンの存在がチタニアの構造特性に与える影響を検討するため、3M TiOSO4水溶液に対し、(a)超純水のみ(Br-イオン無添加)、(b)60mM KBr水溶液、および(c)60mM C16TAB水溶液をそれぞれ添加し、60℃で24時間撹拌を行った。
【0097】
調製した粒子の結晶構造をX線回折(XRD)測定(PHILIPS X’Pert Pro CuKα線)により評価した。
【0098】
<結晶性メソポーラスチタニア粒子の物性評価結果>
調製条件としてはチタニア前駆体にTiOSO4、界面活性剤にC16TABを用い、撹拌は60℃で24時間行った。
【0099】
まず、調製した粒子の焼成処理前後のXRD測定結果を図8に示す。低角XRDパターンからは焼成前においては2θ=2.1°付近に(100)回折ピークを、また、2θ=3.6°付近に(110)回折ピークを、さらに2θ=4.1°付近に(200)回折ピークを確認することができたため、細孔はヘキサゴナル構造を形成しているものと考えられる。また、面間距離は(100)回折ピークから算出すると、約4.2nmであることが分かった。焼成後のサンプルにおいては、2θ=2.7°付近に回折ピークを確認した。従って、焼成処理を行っても規則的細孔構造が保持されていることが分かった。このとき面間距離を同様に算出したところ、約3.3nmであることが分かった。面間距離が小さくなったのは、焼成に伴い壁膜が密に詰まったためであると考えられる。
【0100】
また、広角XRDパターンにおいては焼成前・後共に、アナターゼ型に帰属されるピークを確認した。
【0101】
さらに、調製した粒子の焼成処理後のTEM像および電子線回折像を図9に示す。TEM像からは非常に規則性の高いハニカム構造が観察された。さらに細孔径は約4nmであり、XRD測定の面間距離とほぼ一致した。また、電子線回折像からチタニアの結晶構造に帰属されるデバイ環を観察することができた。
【0102】
以上より、得られた粒子は壁膜に結晶構造を有する結晶性メソポーラスチタニアであることが分かった。
【0103】
<チタニア前駆体がチタニア粒子に与える影響の検討結果>
60mM C16TAB水溶液に、種々のチタニア源たるチタニア前駆体(TiOSO4,Ti(SO42,TiCl4)水溶液を添加してチタニア粒子の調製を行った。
【0104】
まず、C16TAB水溶液と、種々のチタニア前駆体水溶液を混合した直後の目視観察を図10に示す。Ti(SO42およびTiCl4は混合直後に溶液が透明であったのに対し、TiOSO4は白濁し、粒子が形成している様子が確認された。この混合直後の粒子のXRD測定結果を図11に示す。低角XRDパターンからは3個の回折パターン(2θ=2.2,3.8,4.2°)が観測された。また、広角XRDパターンからはチタニアの結晶構造に帰属されるピークは確認されず、壁膜はアモルファスであると考えられる。酸化硫酸チタンの加水分解により水中で不溶性の含水酸化チタンが形成する。この際、C16TABの親水基である、四級アンモニウム基が反応の触媒として働いていると考えられる。従って、含水酸化チタンはC16TABの分子集合体表面でTiOSO4が位置選択的に加水分解され形成する。ヘキサゴナル型のメソポーラス粒子は、C16TABが形成するヘキサゴナル液晶上にTiOSO4とC16TABの相互作用により微細な含水酸化チタン粒子が集合して形成すると推測される。
【0105】
次に、この得られた混合溶液を60℃で24時間撹拌し調製したチタニア粒子のXRD測定結果を図12に示す。TiOSO4およびTi(SO42を用いた場合、低角XRDパターン上の2θ=2.2,3.8,4.2°付近にヘキサゴナル構造に帰属されるピークを観測することができた。また、TiCl4を用いた場合、規則的構造に帰属されるピークは観測されなかった。
【0106】
一方、広角XRDパターンでは、TiOSO4およびTi(SO42を用いて調製を行ったチタニア粒子からアナターゼ型に帰属されるピークを観測することができた。また、TiCl4を前駆体として用いた場合は、ルチル型に帰属されるピークを観測することができた。
【0107】
以上より、TiOSO4およびTi(SO42を前駆体に用いた場合に結晶性メソポーラスチタニアの調製が可能となることがわかった。Ti(SO42を用いた場合には、混合直後に白濁しなかったにもかかわらず結晶形メソポーラスチタニアが形成した。この点に関しては溶液中の中間体の状態の確認が必要であるが、含水酸化チタン形成の際に、Ti(SO42がTiOSO4へと変化する一段階多い反応が起こっていると推測される。
【0108】
<界面活性剤の鎖長がチタニアの粒子形成に及ぼす影響の検討結果>
界面活性剤とチタニア前駆体の相互作用が結晶性メソポーラスチタニアの形成には必要であることが分かった。そこで、3M:TiOSO4水溶液と種々の鎖長を有する60mM界面活性剤水溶液とを混合することで、その反応に寄与する因子について検討を行った。種々の鎖長を有する界面活性剤水溶液と、TiOSO4水溶液の混合直後の様子を図13に示す。12以上のアルキル鎖長を有する界面活性剤では、混合直後に白濁しチタニア粒子が形成しているのに対し、界面活性剤としては機能しない鎖長6以下の四級アンモニウム塩では混合直後に無色透明のままであった。また、C16TABの濃度の減少に伴い得られるチタニア粒子の量が減少していた。これより、界面活性剤量がチタニアの粒子形成に影響を与えること、そして、チタニアの粒子形成には界面活性剤の分子集合体の存在が必要であることが分かった。
【0109】
さらに、C6TABおよびC1TAB(N(CH34Br)を用いてチタニア粒子の形成を行い、その形成速度を濁度測定により評価した。その結果を図14に示す。C6TABに比べ、C1TABは濁度の上昇速度が遅い様子が観察された。このことにより、アルキル鎖長がチタニアの粒子形成に影響することが分かった。また通常、ミセル触媒はアルキル鎖長によりその触媒能が異なり、鎖長の増加に伴いミセル表面の電荷密度が向上し触媒能を向上することが知られている。本研究においてもC1TABに比べC6TABの方がチタニアの粒子形成速度が速いことから、CTABファミリーのミセルが触媒として機能していると推測され、この機能が爆発的なTiO(OH)2の形成を支持していると考えられる。
【0110】
<撹拌時間がチタニア粒子の構造特性に与える影響の検討結果>
60mM:C16TAB水溶液と3M:TiOSO4水溶液を用い、撹拌時間が細孔の規則性および結晶構造に与える影響について検討を行った。種々の撹拌時間で調製した粒子のXRD測定結果を図15に示す。広角XRDパターンからは、12時間撹拌処理を行っても結晶構造に帰属されるピークは観測されず、上記チタニア前駆体がチタニア粒子に与える影響の検討結果での結果と合わせて、初期段階から12時間までは生成するチタニア粒子はアモルファスであることがわかった。しかし、24時間撹拌処理を行って以降から、アナターゼ型からアナターゼ型とルチル型の混合物に帰属されるピークを観測することができた。
【0111】
一方、低角XRDパターンにおいては、広角XRDパターン上にアナターゼ型のみ観測される領域では、ヘキサゴナル構造に帰属されるピークが観測されるのに対し、アナターゼ型とルチル型の混合物に帰属されるピークが観測される領域では、ヘキサゴナル構造に帰属されるピークを観測することができなかった。以上の結果より、アナターゼ型からルチル型への転移がヘキサゴナル構造崩壊の原因であると考えられる。
【0112】
<対イオンの存在がチタニア粒子の構造特性に与える影響の検討結果>
ハロゲンイオンがゾル−ゲル法を用いたチタニアの調製においてその結晶構造に影響を与えることが知られている。そこで、界面活性剤の対イオンである臭化物イオン(Br-イオン)の存在がチタニア粒子の結晶構造に与える影響について検討を行った。3M TiOSO4水溶液に対し、(a)超純水のみ(Brイオン無添加)、(b)60mM KBr水溶液、および(c)60mM C16TAB水溶液をそれぞれ添加し、60 ℃で24時間撹拌を行った。調製した粒子のXRDパターンを図16に示す。(a)の系で調製した粒子はアナターゼ型とルチル型の混合物に帰属されるピークが観測されたのに対し、(b)、(c)のBr-イオンが存在している系においては、(a)の系と比べ、アナターゼ型の結晶性の向上とルチル型への転移の抑制がピークより観測された。しかしながら、C16TAB添加系(c)はアナターゼ型のみのピークが観測されたのに対し、KBr添加系(b)ではブロードではあるが、ルチル型のピークが確認された。これはアナターゼ型からルチル型への結晶構造の転移が始まっていることを示している。つまり(b)と(c)の系では、添加したBr-イオンは等しい濃度であっても結晶性が異なることが分かった。従って以下のように考えることができる。
【0113】
KBr添加系(b)では結晶が自由に成長するのに対し、C16TAB添加系(c)では反応の初期段階にミセル表面で選択的に微細な含水酸化チタンが形成する。それらが粒子径を保ちながら結晶構造をアナターゼ型へと転移していく。
【0114】
従って、結晶性メソポーラスチタニアの調製には、チタニアの結晶構造をアナターゼ型に保つため、そして界面活性剤の分子集合体が結晶径をナノオーダーに保つために、対イオン(Br-イオン)の存在があると好ましいことがわかった。
【0115】
<塩添加がチタニア粒子の構造特性に与える影響の検討結果>
対イオンがアナターゼ型からルチル型への結晶構造の転移を抑制する効果を持つことが見出された。そこで本項では60mM:C16TAB水溶液に、ルチル型への転移の抑制を目的として780mMとなるようにKBrを添加し、3M:TiOSO4水溶液と混合し、種々の撹拌時間でチタニア粒子の調製を行った。調製した粒子のXRD測定結果を図17に示す。低角XRDパターンにおいて撹拌時間が48時間以降のサンプルではヘキサゴナル構造に帰属されるピークが消失し、規則的細孔構造が崩壊していることがわかった。一方、広角XRDパターンでは、撹拌時間を増加させているにもかかわらず、全てのサンプルにおいて、アナターゼ型に帰属されるピークのみを確認することができた。従って、C16TAB水溶液にKBrを添加することで、アナターゼ型の成長を選択的に促進させることが可能であることがわかった。一般的に、界面活性剤にその対イオンを添加すると形成するミセルの表面電荷密度が変化することが知られている。その結果、界面活性剤の親水基間距離が変化すると考えられる。従って、結晶構造の制御は親水基間距離と大きく関係すると考えられる。
【0116】
また、撹拌時間が24時間のサンプルと、48時間以降のサンプルではピークのシャープさが異なり、撹拌時間の増加に伴い結晶が成長していることが分かった。以上より、ヘキサゴナル構造の崩壊はアナターゼ型の結晶成長およびアナターゼ型からルチル型への転移により生じるものであると考えられる。
【0117】
<考察>
以下一例として考察する。これまでの検討の結果、結晶性メソポーラスチタニアは以下のような段階で形成していることが分かった。まず、酸化硫酸チタン(TiOSO4・xH2SO4・xH2O)から得られる中間体が四級アンモニウム型界面活性剤の親水基と強い相互作用で結びつき、微細な含水酸化チタンを爆発的に形成すると考えられる。その後、60℃における加熱撹拌過程でアモルファスからアナターゼ型のチタニアナノ結晶へと転移し、メソポーラスチタニアの壁膜を形成する。この際、界面活性剤の対イオンがアナターゼ型からルチル型への転移を抑制し、界面活性剤の分子集合体が結晶径を微細な状態に保っていると考えられる。
【0118】
特に、対イオンの存在の影響に関しては、分子集合体を形成する界面活性剤の親水基間距離を変化させたことにより、結晶構造をアナターゼ型に保持できたということから、親水基間距離の変化による結晶構造の制御にまで発展が可能であることが示唆された。
また、過度の加熱撹拌処理を施した場合、結晶性は向上し続け、これに伴い壁膜がその歪みに耐えられず、ヘキサゴナル構造の崩壊が起こってしまうとも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】(a)スペーサ短,(b)スペーサ長のスペーサ長のジェミニ型界面活性剤が形成する分子集合体のイメージである。
【図2】アナターゼ型の単位格子と(a)スペーサ短,(b)スペーサ長のジェミニ型界面活性剤のイメージである。
【図3】(a)アナターゼ型と(b)ルチル型の単位格子を示す図である。
【図4】本実施形態に係る処理フローを説明する図である。
【図5】C14-s-14を用いて調製した結晶性メソポーラスチタニア/界面活性剤複合粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。(s=(a)3,(b)4,(c)6,(d)8,(e)10,(f)12、●はアナターゼ型、○はルチル型に帰属されるピーク)
【図6】ジェミニ型界面活性剤C14-4-14を用いて調製した結晶性メソポーラスチタニア/界面活性剤複合粒子のTEM像である。
【図7】室温で種々のスペーサ長のジェミニ型界面活性剤で調製した結晶性メソポーラスチタニア/界面活性剤複合粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。(s=(a)3,(b)4,(c)6,(d)8,(e)10,(f)12、●はアナターゼ型に帰属されるピーク)
【図8】結晶性メソポーラスチタニアの焼成前後のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。
【図9】焼成処理後の結晶メソポーラスチタニアのTEM像および電子線回折パターン(右上)を示す図である。(A:アナターゼ型,R:ルチル型)
【図10】種々の前駆体水溶液(チタニア源水溶液)とC16TAB水溶液の混合直後の様子を示す写真である。
【図11】TiOSO4水溶液とC16TAB水溶液の混合直後の粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。
【図12】種々のチタニア前駆体から調製したチタニア/界面活性剤複合粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。(a)TiOSO4,(b)Ti(SO42,(c)TiCl4.(●はアナターゼ型,○はルチル型に帰属されるピーク)
【図13】種々の鎖長を有する界面活性剤水溶液とTiOSO4水溶液の混合直後の様子を示す写真である。
【図14】種々の四級アンモニウム塩存在下におけるチタニア微粒子形成速度を示すグラフである。
【図15】種々の撹拌時間で調製した結晶性メソポーラスチタニア/界面活性剤複合粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。(a)0h,(b)12h,(c)24h,(d)48h,(e)72h,(f)120h(●はアナターゼ型, ○はルチル型に帰属されるピーク)
【図16】種々の塩を添加して調製したチタニア粒子のXRDパターンを示す図である。(a)超純水のみ添加,(b)60mM KBr水溶液添加,(c)60mM C16TAB水溶液添加(●はアナターゼ型,○はルチル型に帰属されるピーク)
【図17】KBrを添加し種々の撹拌時間で調製した結晶性メソポーラスチタニア/界面活性剤複合粒子のXRDパターン((A)低角,(B)広角)を示す図である。(●はアナターゼ型に帰属されるピーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェミニ型界面活性剤によりメソポーラス構造の鋳型を形成する鋳型形成工程と、
前記鋳型によりチタニアを析出させるチタニア析出工程と、を含むメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のメソポーラスチタニアの製造方法であって、
予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造の相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択する選択工程と、を含むメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメソポーラスチタニアの製造方法であって、
予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアのメソ孔の大きさの相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択する選択工程と、を含むメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のメソポーラスチタニアの製造方法であって、
前記ジェミニ型界面活性剤の連結基の炭素数sが3〜12であるメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のメソポーラスチタニアの製造方法であって、
前記チタニア析出工程は結晶性チタニアを析出させてなるメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のメソポーラスチタニアの製造方法であって、
前記チタニア析出工程は、反応液温度が60℃未満でなされるメソポーラスチタニアの製造方法。
【請求項7】
メソポーラスチタニアを製造する際のジェミニ型界面活性剤の使用。
【請求項8】
請求項7に記載のジェミニ型界面活性剤の使用であって、
前記メソポーラスチタニアの結晶構造を制御するジェミニ型界面活性剤の使用。
【請求項9】
請求項7または8に記載のジェミニ型界面活性剤の使用であって、
前記メソポーラスチタニアのメソ孔の大きさを制御するジェミニ型界面活性剤の使用。
【請求項10】
予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアの結晶構造の相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択するステップを含むコンピュータプログラム。
【請求項11】
予め取得したジェミニ型界面活性剤の連結基の長さと製造されるメソポーラスチタニアのメソ孔の大きさの相関関係に応じて、所望の連結基の長さを有するジェミニ型界面活性剤を選択するステップを含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図9】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−320813(P2007−320813A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153416(P2006−153416)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】