説明

メタクリル酸製造用触媒の再生方法及びメタクリル酸の製造方法

【課題】 触媒活性を良好に回復させ、優れた触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒の再生方法を提供する。
【解決手段】 リンと、モリブデンと、特定の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなる触媒の再生方法であって、使用済触媒、硝酸根、アンモニウム根及び水を混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo比)が2/12〜4/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程(I)、ヘテロポリ酸化合物の構成元素のうち少なくともモリブデンを含む化合物と水とを混合し、X/Mo比が0/12〜0.5/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程(II)、および工程(I)で得られた水性スラリーAと工程(II)で得られた水性スラリーBとを混合した後、乾燥、焼成する工程(III)を経て、再生触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるX/Mo比を0.5/12〜2/12とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンと、モリブデンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含むヘテロポリ酸化合物からなる使用済みの触媒に再生処理を施し、メタクリル酸製造用触媒を再生する方法と、この方法により得られた再生触媒を用いてメタクリル酸を製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
リンと、モリブデンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒は、例えばメタクロレイン等を原料とする気相接触酸化反応に長時間使用すると、熱負荷等により触媒活性が低下することが知られている。
【0003】
かかる使用済触媒の再生方法として、これまでに、使用済触媒に硝酸根及びアンモニウム根を混合して得られる水性スラリーを乾燥した後、焼成する方法が提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−80232号公報
【特許文献2】特開2008−86928号公報
【特許文献3】特開2008−93595号公報
【特許文献4】特開2009−248034号公報
【特許文献5】特開2009−248035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の再生方法で再生された再生触媒は、触媒活性や触媒寿命の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、触媒活性を良好に回復させ、優れた触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒の再生方法を提供することにある。さらに、本発明の他の課題は、この方法により得られた再生触媒を用いて、良好な転化率及び選択率を長時間維持しつつメタクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)リンと、モリブデンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の再生方法であって、下記工程(I)〜(III)を含み、再生された触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)を0.5/12〜2/12とし、かつ下記水性スラリーA及びCから選ばれる少なくとも一方が湿式粉砕処理されたものであることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
工程(I):メタクリル酸の製造に使用して得られた使用済触媒、硝酸根、アンモニウム根及び水を混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2/12〜4/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程。
工程(II):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素のうち少なくともモリブデンを含む化合物と水とを混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.5/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程。
工程(III):工程(I)で得られた水性スラリーAと工程(II)で得られた水性スラリーBとを混合して得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程。
(2)工程(I)で得られる水性スラリーAは、硝酸根1モルに対し0.1〜3.0モルのアンモニウム根を含む前記(1)に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
(3)工程(I)で得られる水性スラリーAの液相のpHが8以下である前記(1)又は(2)に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
(4)前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、バナジウムと、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を再生し、この再生された触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付すことを特徴とするメタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、劣化触媒の触媒活性を効果的に回復させることができ、触媒寿命についても良好なメタクリル酸製造用触媒を再生することができる。また、この方法により再生された再生触媒を用いれば、良好な転化率及び選択率で長期間にわたり生産性良くメタクリル酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のメタクリル酸製造用触媒の再生方法は、メタクリル酸の製造に使用して得られた使用済のメタクリル酸製造用触媒に再生処理を施し、再生触媒を得る方法である。
本発明の再生方法に適用できるメタクリル酸製造用触媒(以下「対象触媒」と称することがある)は、リンと、モリブデンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなるものであり、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)からなるものが好ましく、さらに好ましくはケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものである。前記ヘテロポリ酸化合物は、さらに、バナジウムと、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下「元素Y」と称することがある)とを含有することが望ましい。
【0011】
前記メタクリル酸製造用触媒(対象触媒)を構成する前記ヘテロポリ酸化合物の組成は、使用前の新品触媒の状態においては、下記式(1)の通りであることが好ましい。
PaMobVcXdYeOx (1)
(式(1)中、P、Mo及びVはそれぞれリン、モリブデン及びバナジウムを表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xを示し、Yは銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(元素Y)を示し、Oは酸素を表し、b=12としたとき、0<a≦3、0≦c≦3、0<d≦3、0≦e≦3であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である)
特に、前記メタクリル酸製造用触媒(対象触媒)を構成する前記ヘテロポリ酸化合物の組成においては、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.5/12〜2/12であることが好ましい。
【0012】
前記メタクリル酸製造用触媒(対象触媒)は、例えば、ヘテロポリ酸化合物を構成する上述した各元素を含む化合物(例えば、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等)を混合し、所望の形状に成形した後、焼成するなど、従来公知の方法で製造されたものであればよい。例えば、リンを含む化合物としては、リン酸、リン酸塩等が用いられ、モリブデンを含む化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムの如きモリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデン等が用いられ、バナジウムを含む化合物としては、バナジン酸、バナジン酸アンモニウム(メタバナジン酸アンモニウム)の如きバナジン酸塩(メタバナジン酸塩)、酸化バナジウム、塩化バナジウム等が用いられ、元素Xを含む化合物としては、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウムの如き酸化物、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、硝酸タリウムの如き硝酸塩、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムの如き炭酸塩、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムの如き重炭酸塩、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムの如き水酸化物、塩化カリウム、塩化ルビジウム、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムの如きハロゲン化物等が用いられる。また、前記元素Yを含む化合物としては、元素Yのオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が用いられる。
【0013】
一般に、使用前の新品触媒の状態において上述した好ましい触媒組成に設定されていた対象触媒は、メタクリル酸の製造に使用すると、熱負荷等により触媒活性が低下してしまうことがある。本発明の再生方法では、このように触媒活性の低下した使用済触媒を再生処理の対象とし、二種類の水性スラリーを混合し、乾燥、焼成することにより、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が上述した範囲になるようにするものである。
【0014】
本発明の再生方法では、上記工程(I)〜(III)を経て、再生触媒が得られる。
工程(I)においては、使用済触媒、硝酸根、アンモニウム根及び水を混合し、さらに、得られるスラリー中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2/12〜4/12、好ましくは、2.5/12〜3.5/12となるように調整して、水性スラリーAを得る。ここで、硝酸根及びアンモニウム根を混合することにより、得られる再生触媒における転化率や選択率は向上する。
【0015】
硝酸根を混合するには、硝酸根供給源として、例えば、前記対象触媒を構成する元素を含む硝酸塩のほか、硝酸、硝酸アンモニウムのような硝酸塩等を用いればよく、他方、アンモニウム根を混合するには、アンモニウム根供給源として、例えば、前記対象触媒を構成する元素を含むアンモニウム塩のほか、アンモニア、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウムのようなアンモニウム塩等を用いればよい。好ましくは、硝酸根の供給源またはアンモニウム根の供給源として、前記対象触媒を構成する元素を含む硝酸塩やアンモニウム塩を用いるのがよく、さらに、硝酸根とアンモニウム根との比率を後述の範囲に調整するために、硝酸、アンモニア、硝酸アンモニウムを用いるのがよい。
【0016】
工程(I)で得られる水性スラリーAにおいて、前記硝酸根と前記アンモニウム根との比率は、硝酸根1モルに対してアンモニウム根が0.1〜3.0モルであることが好ましい。より好ましくは、硝酸根1モルに対してアンモニウム根が0.5〜2.5モルであるのがよい。アンモニウム根の量が前記範囲を外れると、触媒活性が充分に回復しない恐れがある。
【0017】
水性スラリーAを調製する際には、その中に存在するモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲(水性スラリーAにおけるX/Mo比)になるように調整することが必要である。具体的には、原子比の調整は、元素Xを含む化合物(元素X含有化合物)とモリブデン化合物の少なくとも一方を加えることにより行なえばよく、その混合量は、再生に供する前の使用済触媒の触媒組成(構成成分の種類や量)を、蛍光X線分析やICP発光分析等により分析しておき、この使用済触媒の触媒組成に基づき、元素X含有化合物および/またはモリブデン化合物を加えた後の組成におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲になるように決定すればよい。通常は、使用済触媒のモリブデン量を考慮して元素X含有化合物を加えることになるが、メタクリル酸の製造に長時間使用することによる熱負荷等によってモリブデンが飛散、消失してしまう場合には、その減少量によっては、使用済触媒の組成が前述した水性スラリーAにおけるX/Mo比になっている場合もあり、そのような場合には元素X含有化合物とモリブデン化合物の両方を加えないこともありえる。
【0018】
水性スラリーAの調製において混合するモリブデン化合物や元素X含有化合物としては、上述した対象触媒の製造に用いることのできるモリブデンを含む化合物や元素X含有化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0019】
なお、水性スラリーAを調製する際には、使用済触媒の触媒組成に基づき、必要に応じて、モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物を加えることもできる。モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物としては、上述した対象触媒の製造に用いることのできる各元素を含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0020】
水性スラリーAの調製において混合する水としては、通常イオン交換水が用いられる。水の混合量は、得られる水性スラリーA中のモリブデン量(使用済触媒に含まれるモリブデンと添加するモリブデン化合物に含まれるモリブデンとの合計)1重量部に対し、通常1〜20重量部である。
水性スラリーAを調製する際には、上述した各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0021】
水性スラリーAを調製する際には、使用済触媒をそのまま混合に供してもよいし、これにあらかじめ前処理として熱処理を施してもよい。
【0022】
使用済触媒の前処理として行う前記熱処理の処理温度は、特に制限されないが、好ましくは350〜600℃である。熱処理の処理時間は、特に制限されないが、通常0.1〜24時間であり、好ましくは0.5〜10時間である。また、使用済触媒の前処理として行う前記熱処理は、酸素含有ガス等の酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよい。
【0023】
また、水性スラリーAの調製に供する使用済触媒が成形体である場合、そのまま用いてもよいが、必要に応じて、あらかじめ従来公知の方法で破砕処理を施すこともできる。
なお、水性スラリーAの調製に供する使用済触媒に、破砕処理と前処理として行う前記熱処理との両方を施す場合、両処理の順序は特に制限されないが、通常は破砕処理を行った後に熱処理が施される。
【0024】
工程(I)で得られる水性スラリーAにおいて、その液相のpHは8以下であることが好ましい。水性スラリーAの液相のpHが8を超えると、触媒活性が充分に回復しないおそれがある。
【0025】
工程(II)においては、対象触媒を構成するヘテロポリ酸化合物の構成元素のうち少なくともモリブデンを含む化合物と水とを、得られるスラリー中のモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.5/12、好ましくは、0/12〜0.3/12となるように調整して混合し、水性スラリーBを得る。
【0026】
水性スラリーBの調製においては、ヘテロポリ酸化合物の原料化合物として、少なくともモリブデンを含む化合物を用い、このモリブデンを含む化合物に対して、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が前述した範囲(水性スラリーBにおけるX/Mo比)になるように元素Xを含む化合物を用いる。よって、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)を0/12に設定する場合には、元素Xを含む化合物は混合する必要はない。
【0027】
水性スラリーBの調製において混合するモリブデン化合物や元素X含有化合物としては、上述した対象触媒の製造に用いることのできるモリブデンを含む化合物や元素X含有化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0028】
なお、水性スラリーBを調製する際には、必要に応じて、モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物を加えることもできる。モリブデンや元素X以外の触媒構成元素を含む化合物としては、上述した対象触媒の製造に用いることのできる各元素を含む化合物の中から、1種もしくは2種以上を適宜選択すればよい。
【0029】
水性スラリーBの調製において混合する水としては、通常イオン交換水が用いられる。水の混合量は、得られる水性スラリーB中のモリブデン量1重量部に対し、通常1〜20重量部である。
水性スラリーBを調製する際には、上述した各成分の混合順序は特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0030】
工程(III)においては、工程(I)で得られた水性スラリーAと工程(II)で得られた水性スラリーBとを混合し、水性スラリーCを得る。水性スラリーAとBの混合割合は、特に制限されないが、水性スラリーC中に含まれるモリブデンおよび元素Xの量を考慮して、最終的に得られる再生触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0.5/12〜2/12となるようにすればよい。
【0031】
水性スラリーCを作成する際の混合順序、温度、攪拌条件などは、特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。
水性スラリーAと水性スラリーBとを混合する際や、後述する熟成処理の際または該熟成処理後には、必要に応じて、対象触媒の触媒構成元素を含む化合物、中でも、前記元素Yを含む化合物を混合することもできる。その場合、通常、触媒構成元素を含む化合物(前記元素Yを含む化合物など)を水に懸濁させた状態で加えることが好ましい。それらの混合量は、最終的に得られる再生触媒を構成するヘテロポリ酸化合物の組成が、上述した使用前の新品触媒の状態における好ましい組成(すなわち前記式(1)において、モリブデンに対する元素Xの原子比X/Moが0.5/12〜2/12である組成)となるよう適宜設定すればよい。
【0032】
工程(III)において、水性スラリーCは、次いで乾燥に付される。乾燥する際の乾燥方法は、特に制限されるものではなく、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法など、この分野で通常用いられる方法を採用することができる。また、乾燥条件については、混合スラリー中の水分含量が充分に低減されるよう適宜設定すればよく、特に制限されないが、その温度は、通常300℃未満である。
【0033】
水性スラリーCは、上述した乾燥に付す前に、密閉容器内で100℃以上にて加熱することにより熟成させる熟成処理が施されることが好ましい。水性スラリーCにこのような熟成処理が施されることにより、触媒活性を効果的に回復させることができる。熟成処理における加熱温度の上限は、200℃以下であるのが好ましく、150℃以下であるのがより好ましい。熟成処理における加熱時間は、充分な活性回復効果を得るうえでは、通常0.1時間以上、好ましくは2時間以上であり、生産性の観点からは、20時間以下であるのがよい。
【0034】
工程(III)においては、前記乾燥後に得られた乾燥物は、次いで焼成に付される。焼成は、この分野で通常用いられる方法により行うことができ、特に制限はされない。例えば、酸素等の酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよく、焼成温度は通常300℃以上で行われる。中でも、触媒寿命を良好に回復させるうえでは、酸化性ガス又は非酸化性ガスの雰囲気下で多段焼成するのが好ましく、酸化性ガスの雰囲気下で第一段焼成を行い、次いで非酸化性ガスの雰囲気下で第二段焼成を行う、二段階の焼成方法を採用するのがより好ましい。
【0035】
焼成に用いられる酸化性ガスは、酸化性物質を含むガスであり、例えば、酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスを用いる場合、その酸素濃度は、通常1〜30容量%程度とすればよく、酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。また、前記酸化性ガスには、必要に応じて水分を存在させてもよいが、その濃度は通常10容量%以下である。酸化性ガスとしては、中でも、空気が好ましい。酸化性ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、このような酸化性ガスの気流下で行われる。また、酸化性ガス雰囲気下で行う焼成の温度は、通常360〜410℃であり、好ましくは380〜400℃である。
【0036】
焼成に用いられる非酸化性ガスは、実質的に酸素の如き酸化性物質を含有しないガスであり、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。また、前記非酸化性ガスには、必要に応じて水分を存在させてもよいが、その濃度は通常10容量%以下である。非酸化性ガスとしては、中でも、窒素が好ましい。非酸化性ガス雰囲気下で行う焼成は、通常、このような非酸化性ガスの気流下で行われる。また、非酸化性ガス雰囲気下で行う焼成の温度は、通常420〜500℃であり、好ましくは420〜450℃である。
【0037】
なお、前記乾燥後に得られた乾燥物には、上述した焼成に先立ち、前焼成として、酸化性ガス又は非酸化性ガスの雰囲気下に、180〜300℃程度の温度で保持する熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
前記乾燥後に得られた乾燥物には、上述した焼成もしくは前焼成に付す前に、必要に応じて、所望の形状(リング状、ペレット状、球状、円柱状など)に成形する成形処理を施すことができる。成形処理は、例えば打錠成形や押出成形など、この分野で通常用いられる方法により行えばよい。成形処理に際しては、必要に応じて、前記乾燥物に、水、成形助剤、気孔剤等を加えることができる。成形助剤としては、例えば、セラミックファイバーやグラスファイバーのほか、硝酸アンモニウム等が挙げられる。特に、硝酸アンモニウムは、成形助剤としての機能を有するほか、気孔剤としての機能も有する。
【0039】
前記成形処理で得られた成形体には、引き続き、調温調湿処理を施すことが好ましい。焼成もしくは前焼成に付す前に調温調湿処理を施すことにより、より安定な触媒を得ることができる。調温調湿処理は、具体的には、40〜100℃、相対湿度10〜60%の雰囲気下に、成形体を0.5〜10時間程度曝すことにより行われる。該処理は、例えば、調温、調湿された槽内にて行ってもよいし、調温、調湿されたガスを成形体に吹き付けることにより行ってもよい。また、該処理を行う際の雰囲気ガスとしては、通常、空気が用いられるが、窒素等の不活性ガスを用いてもよい。
【0040】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の再生方法は、上記した水性スラリーA及び水性スラリーCから選ばれる少なくとも一方を湿式粉砕処理が施されたものとすることにより、触媒活性、触媒寿命を回復させるものである。
【0041】
湿式粉砕処理は、スラリー中の固形分を粉砕する処理であり、通常、湿式粉砕機を用いて行われる。湿式粉砕機としては、例えば、ボールミル、振動ミル、ロッドミル、媒体撹拌型ミル、ジェットミル等が挙げられる。前記湿式粉砕処理において、粒径は、5.0μm以下まで粉砕されることが好ましく、2.0μm以下まで粉砕されることがさらに好ましい。
なお、本発明における粒径は、水性スラリー中の固形分の平均粒径であり、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準のメジアン径を測定することにより求めることができる。
【0042】
湿式粉砕処理前の水性スラリーの濃縮は、行わなくてもよいが、粉砕効率の点では行う方がよい。水性スラリー中の固形分濃度は、35〜60重量%であるのがよい。好ましくは後述する実施例の45重量%程度がよい。濃縮条件については、特に制限はない。
湿式粉砕処理は、水性スラリーA及びCから選ばれる少なくとも一方の調製時に施され、なかでも触媒寿命の回復度合いの点から、水性スラリーAのみ、または水性スラリーA及びCが湿式粉砕処理されたものであるのが好ましい。水性スラリーAのみが湿式粉砕処理されたものとするには、例えば、工程(I)〜(III)において、湿式粉砕処理が施された水性スラリーAをそのまま水性スラリーBとの混合に供して得られた水性スラリーCを乾燥、焼成すればよい。水性スラリーA及びCが湿式粉砕処理されたものとするには、例えば、工程(I)〜(III)において、湿式粉砕処理が施された水性スラリーAをそのまま水性スラリーBとの混合に供して、さらに湿式粉砕処理を施して得られた水性スラリーCを乾燥、焼成すればよい。
なお、水性スラリーCを前記熟成処理が施されたものとする場合は、前記熟成処理の前に湿式粉砕処理を行ってもよいし、前記熟成処理の後に湿式粉砕処理を行なってもよいが、前記熟成処理の後に湿式粉砕処理を行うのが好ましい。
【0043】
かくして、触媒活性及び触媒寿命が良好に回復した再生触媒を得ることができる。この再生触媒は、対象触媒と同様、ヘテロポリ酸化合物からなるものであり、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものが好ましく、さらにケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものがより好ましい。また、再生された触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)は0.5/12〜2/12であり、該へテロポリ酸化合物は、好ましくは、上述した使用前の新品触媒の状態における好ましい組成(すなわち前記式(1)において、モリブデンに対する元素Xの原子比X/Moが0.5/12〜2/12である組成)を有する。
なお、本発明のメタクリル酸製造用触媒の再生方法は、メタクリル酸の製造に使用して得られた使用済触媒を再生対象とするものであるが、例えば、触媒の製造過程で生じるロス粉や、所望の性能を有していない触媒など、メタクリル酸の製造に未使用の触媒を再生対象として本発明の再生方法を実施することもでき、そのような場合にも、使用済触媒を再生した場合と同様に、良好な効果が得られる。
【0044】
本発明のメタクリル酸の製造方法は、上記のようにして再生されたメタクリル酸製造用触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物(以下「メタクリル酸原料」と称することがある)を気相接触酸化反応に付すものである。
本発明の再生触媒を用いることにより、良好な転化率及び選択率を長時間維持しつつメタクリル酸を製造することができる。
【0045】
メタクリル酸の製造は、通常、固定床多管式反応器に触媒を充填し、これに前記メタクリル酸原料と酸素とを含む原料ガスを供給することにより行われるが、これに限定されるものではなく、流動床や移動床のような反応形式を採用することもできる。酸素源としては、通常、空気が用いられる。また、原料ガス中には、前記メタクリル酸原料及び酸素以外の成分として、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気等が含まれていてもよい。
【0046】
前記原料ガスに含まれるメタクリル酸原料は、必ずしも高純度の精製品である必要はなく、例えば、メタクロレインとしては、イソブチレンやt−ブチルアルコールの気相接触酸化反応により得られたメタクロレインを含む反応生成ガスを用いることもできる。なお、前記原料ガスに含まれるメタクリル酸原料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0047】
メタクリル酸の製造における反応条件は、原料ガスに含まれるメタクリル酸原料の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、前記メタクリル酸原料としてメタクロレインを用いる場合、通常、原料ガス中のメタクロレイン濃度は1〜10容量%、水蒸気濃度は1〜30容量%、メタクロレインに対する酸素のモル比は1〜5、空間速度は500〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜350℃、反応圧力は0.1〜0.3MPa、である条件下で反応が行われる。他方、前記メタクリル酸原料としてイソブタンを用いる場合、通常、原料ガス中のイソブタン濃度は1〜85容量%、水蒸気濃度は3〜30容量%、イソブタンに対する酸素のモル比は0.05〜4、空間速度は400〜5000h-1(標準状態基準)、反応温度は250〜400℃、反応圧力は0.1〜1MPa、である条件下で反応が行われる。また、前記メタクリル酸原料としてイソブチルアルデヒドやイソ酪酸を用いる場合には、通常、メタクロレインを原料として用いる場合とほぼ同様の反応条件が採用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、以下で使用した空気は3.5容量%の水分を含むもの(大気相当)であり、以下で使用した窒素は実質的に水分を含まないものである。
【0049】
以下の各例において得られたそれぞれの触媒の分析、評価は、下記のようにして行った。その結果は表1に示す。
<触媒組成(構成元素比)>
蛍光X線分析装置(リガク社製「ZSX Primus II」)を用い、触媒を蛍光X線分析することにより求めた。
【0050】
<粒径>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920、(株)堀場製作所製)を用いてスラリー中の固形分の平均粒径(体積基準のメジアン径)を測定した。なお、分散媒には水を使用し、相対屈折率は1.80(水に対する値)で測定を行った。
【0051】
<触媒の活性試験>
触媒9gを内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、この中に、メタクロレイン、空気、スチーム及び窒素を混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%)を空間速度670h-1で供給して、一旦、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)355℃にて1時間反応を行った後、上記と同じ組成の原料ガスを、上記と同じ空間速度で供給して、炉温280℃で反応を行った。この反応開始から(炉温を280℃としてから)1時間経過時の出口ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマログラフィーにより分析して、下記式に基づき、メタクロレイン転化率(%)、メタクリル酸選択率(%)及び収率(%)を求めた。
【0052】
メタクロレイン転化率(%)=〔反応したメタクロレインの物質量÷供給したメタクロレインの物質量〕×100
メタクリル酸選択率(%)=〔生成したメタクリル酸の物質量÷反応したメタクロレインの物質量〕×100
収率(%)=〔転化率(%)×選択率(%)〕÷100
【0053】
<触媒の寿命試験>
触媒4.5gを、内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、この中に、メタクロレイン、空気、スチーム及び窒素を混合して調製したメタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%の組成の原料ガスを、空間速度1340h-1で供給して、炉温310℃にて50日以上反応を行い、この間、7〜10日おきにメタクロレイン転化率を求めた。反応時間を横軸、転化率を縦軸としてプロットしたところ、ほぼ直線関係にあったので、最小二乗法により傾きを求め、転化率の低下速度(%/日)を算出した。
【0054】
(参考例1)
<新品触媒の調製>
40℃に加熱したイオン交換水224kgに、硝酸セシウム[CsNO3]38.2kg、75重量%オルトリン酸27.4kg、及び70重量%硝酸25.2kgを溶解させ、これをα液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水330kgに、モリブデン酸アンモニウム4水和物[(NH46Mo724・4H2O]297kgを溶解させた後、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]8.19kgを懸濁させ、これをβ液とした。
【0055】
α液とβ液の温度を40℃に保持しながら、攪拌下、β液にα液を滴下した後、密閉容器中で120℃にて5.8時間攪拌した。次いで、三酸化アンチモン[Sb23]10.2kg及び硝酸銅3水和物[Cu(NO32・3H2O]10.2kgを、イオン交換水23kg中に懸濁させた状態で添加した後、密閉容器中で120℃にて5時間攪拌した。こうして得られたスラリー中の固形分の粒径は1.9μmであった。得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥し、得られた乾燥粉末100重量部に対して、セラミックファイバー4重量部、硝酸アンモニウム13重量部、及びイオン交換水9.7重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形し、温度90℃、相対湿度30%にて3時間乾燥させた。得られた成形体を、空気気流中にて220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで窒素気流中にて435℃で3時間、続いて空気気流中にて390℃で3時間の順に焼成を行った後、触媒を取り出した。
【0056】
上記で得られた触媒は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムをそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.3及び1.4の原子比で含むヘテロポリ酸化合物からなるものであった。表1の参考例1にこの新品触媒の活性試験及び寿命試験の結果を示す。
【0057】
(参考例2)
<使用済触媒の調製>
参考例1で調製した新品触媒を所定時間、メタクロレインの接触気相酸化反応に付して、使用済触媒を得た。
得られた使用済触媒を構成するヘテロポリ酸化合物の酸素を除く金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.3、9.6、0.48、0.5、0.3及び1.4であった。
【0058】
(実施例1)
〔工程(I):水性スラリーA1の調製〕
参考例2で得られた使用済触媒200gをイオン交換水400gに加え攪拌した。次に、新品触媒に対する使用済触媒の不足成分を補うため、モリブデン源として三酸化モリブデン[MoO3]31.6gと、リン源として75重量%オルトリン酸2.6gと、バナジウム源としてメタバナジン酸アンモニウム0.2gとを添加した後40℃に昇温し、25重量%アンモニア水75.2gを添加した。40℃で1時間保持した後、67.5%硝酸を38.2g加え、さらに40℃で1時間保持した後、硝酸セシウム35.9gをイオン交換水108gに溶解させた40℃の水溶液を加え、40℃で15分保持した後、密閉容器中120℃にて5時間攪拌して、水性スラリーA1を得た。水性スラリーA1の硝酸根に対するアンモニウム根の比は1.9、pHは6.8であった。また水性スラリーA1に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.3及び3.2であり、モリブデンに対するセシウムの原子比は3.2/12であった。
【0059】
〔水性スラリーA2の調製〕
上記水性スラリーA1の全量を75℃にて約2時間濃縮し、700gの濃縮スラリーを得た。得られた濃縮スラリーを直径15mmのアルミナ製ボール1870gとともにアルミナ製容器に入れ、回転式ボールミルを用いて53回転/分の速度で容器を連続的に回転させることで16時間粉砕を行い、水性スラリーA2を得た。水性スラリーA2中の固形分の粒径を表1に示す。尚、水性スラリーA2の硝酸根に対するアンモニウム根の比は1.9、pHは6.5であった。
【0060】
〔工程(II):水性スラリーB1の調製〕
40℃に加熱したイオン交換水105gに、75重量%オルトリン酸12.9g、及び67.5重量%硝酸12.3gを溶解し、これをa液とした。一方、40℃に加熱したイオン交換水165gに、モリブデン酸アンモニウム4水和物139gを溶解した後、メタバナジン酸アンモニウム3.85gを懸濁させ、これをb液とした。攪拌下、a液にb液を滴下して、ヘテロポリ酸化合物を含む水性スラリーB1を得た。この水性スラリーB1に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン及びバナジウムがそれぞれ、1.5、12、0.5であり(アンチモン、銅、セシウムはいずれも0である)、モリブデンに対するセシウムの原子比は0/12であった。
【0061】
〔工程(III):水性スラリーC1の調製〕
水性スラリーA2を350g分取し、上記水性スラリーB1の全量を混合後、密閉容器中で120℃にて5時間攪拌し、次いで、三酸化アンチモン4.80g及び硝酸銅3水和物1.59gを、イオン交換水3.67gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間攪拌し、水性スラリーC1を得た。水性スラリーC1中の固形分の粒径を表1に示す。
【0062】
〔水性スラリーC1の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC1を135℃にて乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対し、セラミックファイバー2重量部、硝酸アンモニウム14重量部、イオン交換水7.5重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%で3時間乾燥させた後、空気気流中にて220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで空気気流中にて390℃で4時間、続いて窒素気流中にて435℃で4時間、保持することで焼成し、その後成形体を取り出して、再生触媒(1)を得た。この再生触媒(1)に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.2及び1.4であった。この再生触媒(1)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2)
〔工程(I)、(II):水性スラリーA1及びB1の調製〕
実施例1と同様の操作を行い、水性スラリーA1及びB1を得た。水性スラリーA1中の固形分の粒径を表1に示す。
【0064】
〔工程(III):水性スラリーC2の調製〕
水性スラリーA1を半量分取し、上記水性スラリーB1の全量を混合後、密閉容器中で120℃にて5時間攪拌し、次いで、三酸化アンチモン4.80g及び硝酸銅3水和物1.59gを、イオン交換水3.67gに懸濁させた状態で添加し、その後、密閉容器中で120℃にて5時間攪拌し、水性スラリーC2を得た。
【0065】
〔水性スラリーC3の調製〕
得られた水性スラリーC2の全量を75℃にて約2時間濃縮し、700gの濃縮スラリーを得た。得られた濃縮スラリーを直径15mmのアルミナ製ボール1870gとともにアルミナ製容器に入れ、回転式ボールミルを用いて53回転/分の速度で容器を連続的に回転させることで16時間粉砕を行い、水性スラリーC3を得た。水性スラリーC3中の固形分の粒径を表1に示す。
【0066】
〔水性スラリーC3の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC3を135℃にて乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対し、セラミックファイバー2重量部、硝酸アンモニウム14重量部、イオン交換水7.5重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%で3時間乾燥させた後、空気気流中にて220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで空気気流中にて390℃で4時間、続いて窒素気流中にて435℃で4時間、保持することで焼成し、その後成形体を取り出して、再生触媒(2)を得た。この再生触媒(2)に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.2及び1.4であった。この再生触媒(2)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
〔水性スラリーA1及びB1の調製〕
実施例1と同様の操作を行い、水性スラリーA1及びB1を得た。
【0068】
〔水性スラリーC2の調製〕
実施例2と同様の操作を行い、水性スラリーC2を得た。水性スラリーC2中の固形分の粒径を表1に示す。
【0069】
〔水性スラリーC2の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC2を135℃にて乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対し、セラミックファイバー2重量部、硝酸アンモニウム14重量部、イオン交換水7.5部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%で3時間乾燥させた後、空気気流中で220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで空気気流中にて390℃で4時間、続いて窒素気流中にて435℃で4時間、保持することで焼成し、その後成形体を取り出して、再生触媒(4)を得た。この再生触媒(4)に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.2及び1.4であった。この再生触媒(4)の活性試験及び寿命試験の結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
〔水性スラリーA1の調製〕
実施例1と同様の操作を行い、水性スラリーA1を得た。
【0071】
上記水性スラリーA1の全量を135℃にて約18時間乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を直径15mmのアルミナ製ボール1870gとともにアルミナ製容器に入れ、回転式ボールミルを用いて53回転/分の速度で容器を連続的に回転させることで16時間粉砕を行ったところ、容器内壁への固着が多く、粉砕は困難であった。
【0072】
(実施例3)
〔工程(I)、(II):水性スラリーA2及びB1の調製〕
実施例1と同様の操作を行い、水性スラリーA2及びB1を得た。
【0073】
〔工程(III):水性スラリーC1の調製〕
実施例1と同様の操作を行い、水性スラリーC1を得た。
【0074】
〔水性スラリーC4の調製〕
得られた水性スラリーC1の全量を75℃にて約2時間濃縮し、700gの濃縮スラリーを得た。得られた濃縮スラリーを直径15mmのアルミナ製ボール1870gとともにアルミナ製容器に入れ、回転式ボールミルを用いて53回転/分の速度で容器を連続的に回転させることで16時間粉砕を行い、水性スラリーC4を得た。水性スラリーC4中の固形分の粒径を表1に示す。
【0075】
〔水性スラリーC4の乾燥及び焼成〕
得られた水性スラリーC4を135℃にて乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対し、セラミックファイバー2重量部、硝酸アンモニウム14重量部、イオン交換水7.5重量部を加えて混練し、直径5mm、高さ6mmの円柱状に押出成形した。得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%で3時間乾燥させた後、空気気流中にて220℃で22時間、続いて250℃で1時間保持し、次いで空気気流中にて390℃で4時間、続いて窒素気流中にて435℃で4時間、保持することで焼成し、その後成形体を取り出して、再生触媒(3)を得た。この再生触媒(3)に含まれる金属元素の原子比は、リン、モリブデン、バナジウム、アンチモン、銅及びセシウムがそれぞれ1.5、12、0.5、0.5、0.2及び1.4であった。この再生触媒(3)の活性試験および寿命試験の結果を表1に示す。
【0076】
以上の実施例および比較例の比較結果を表1に示す。表1において、○は粉砕有り、×は粉砕無しを示している。
【表1】

【0077】
表1から、比較例1に比べて、実施例1〜3では、水性スラリーA及びCから選ばれる少なくとも一方を、湿式粉砕処理が施されたものとすることにより、再生触媒の転化率低下速度を新品触媒と同じ程度にする、あるいは小さくすることができ、良好な転化率及び選択率で長期間にわたり生産性良くメタクリル酸を製造することができるということがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンと、モリブデンと、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素Xとを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の再生方法であって、下記工程(I)〜(III)を含み、再生された触媒を構成するヘテロポリ酸化合物におけるモリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)を0.5/12〜2/12とし、かつ下記水性スラリーA及びCから選ばれる少なくとも一方が湿式粉砕処理されたものであることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
工程(I):メタクリル酸の製造に使用して得られた使用済触媒、硝酸根、アンモニウム根及び水を混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が2/12〜4/12となるように調整した水性スラリーAを得る工程。
工程(II):前記ヘテロポリ酸化合物の構成元素のうち少なくともモリブデンを含む化合物と水とを混合し、モリブデンに対する元素Xの原子比(X/Mo)が0/12〜0.5/12となるように調整した水性スラリーBを得る工程。
工程(III):工程(I)で得られた水性スラリーAと工程(II)で得られた水性スラリーBとを混合して得られた水性スラリーCを、乾燥、焼成する工程。
【請求項2】
工程(I)で得られる水性スラリーAは、硝酸根1モルに対し0.1〜3.0モルのアンモニウム根を含む請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項3】
工程(I)で得られる水性スラリーAの液相のpHが8以下である請求項1又は2に記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、バナジウムと、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む請求項1〜3のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の再生方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を再生し、この再生された触媒の存在下に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン及びイソ酪酸からなる群より選ばれる化合物を気相接触酸化反応に付すことを特徴とするメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−167678(P2011−167678A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257419(P2010−257419)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】