説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、メタクリル酸選択率の高い条件でもメタクロレイン転化率が高い触媒が得られる方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される組成を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、少なくとも触媒原料を溶媒中で混合して触媒原料混合液を得る工程と、前記触媒原料混合液に含まれる固形分をろ別する工程と、ろ別した前記固形分を減圧乾燥する工程と、得られた乾燥物を焼成する工程と、を含むことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
aMobcCudefgh (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための触媒としては、特許文献1には、少なくともモリブデン、リン及びバナジウムを含む溶液またはスラリーとアンモニア化合物を含む溶液またはスラリーとを混合し、得られた混合溶液または混合スラリーに、カリウム等を含む溶液またはスラリーを混合し、得られた触媒原料混合液を乾燥および焼成してメタクリル酸製造用触媒を製造する方法が記載されている。この方法における乾燥は、触媒原料混合液から固形物を得るために行うものであり、ドラム乾燥等の蒸発乾固法を行なっていることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−296336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この方法で得られた触媒ではメタクリル酸選択率の高い条件でのメタクロレイン転化率が低くなる傾向が見られた。従って、本発明は、メタクリル酸選択率の高い条件でもメタクロレイン転化率が高いメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、下記式(1)で表される組成を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、少なくとも触媒原料を溶媒中で混合して触媒原料混合液を得る工程と、前記触媒原料混合液に含まれる固形分をろ別する工程と、ろ別し前記固形分を減圧乾燥する工程と、得られた乾燥物を焼成する工程と、を含むことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法に関する。
【0005】
aMobcCudefgh (1)
(式中、P、Mo、V、CuおよびOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、および酸素を示し、Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステン、およびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム、およびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Zはカリウム、ルビジウム、セシウム、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素をそれぞれ示す。a、b、c、d、e、fおよびgは各元素の原子比率を示し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明により、メタクリル酸選択率の高い条件でもメタクロレイン転化率が高い触媒が得られ、即ちメタクリル酸収率の向上が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
先ず本発明の方法で製造するメタクリル酸製造用触媒の組成及び使用する触媒原料について説明し、引き続き本発明の製造方法を順を追って以下に説明する。
【0008】
(メタクリル酸製造用触媒の組成)
本発明の方法で製造する触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるメタクリル酸製造用触媒であって、下記式(1)で表される組成を有するものである。
【0009】
aMobcCudefgh (1)
(式中、P、Mo、V、CuおよびOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、および酸素を示し、Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステン、およびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム、およびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Zはカリウム、ルビジウム、セシウム、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素をそれぞれ示す。a、b、c、d、e、fおよびgは各元素の原子比率を示し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
上記触媒成分は、リン、モリブデン、バナジウム、銅、Z元素および酸素を必須成分として構成されるものであり、X元素およびY元素は任意成分である。aは0.5〜2が好ましい。cは0.01〜1が好ましい。gは0.5〜2が好ましい。Z元素はセシウムが好ましい。後述する各原料の配合比を適宜調整することで、目的とするメタクリル酸製造用触媒における各元素の原子比率(aおよびc〜g)を上記範囲で任意に設定することができる。製造されたメタクリル酸製造用触媒の組成は、例えばアンモニア水に溶解した触媒をICP発光分析法と原子吸光分析法で分析することによって酸素以外の組成を分析できる。
【0010】
(使用する触媒原料)
本発明のメタクリル酸製造用触媒を製造するための原料は特に限定されず、目的とする触媒組成に含まれる各元素(酸素以外)の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。例えば、モリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等、バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム等が使用できる。リン原料としては、例えば、正リン酸、五酸化リン、または、リン酸アンモニウム、リン酸セシウム等のリン酸塩が使用できる。銅原料としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化第1銅、塩化第2銅等が使用できる。X元素の原料としては、例えば、砒酸、亜砒酸、酢酸アンチモン、塩化アンチモン、テルル化銅、テルル酸等が使用できる。Y元素の原料としては、例えば、Y元素の、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物、水酸化物等が使用できる。Z元素の原料としては、例えば、Z元素の、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物等が使用できる。
【0011】
(触媒原料混合液を得る工程)
まず、少なくとも触媒原料を溶媒中で混合して触媒原料混合液を調製する。触媒原料混合液を調製する容器には、ガラス容器、ステンレス反応槽等を使用できる。容器の上にリービッヒ冷却器等の各種冷却管を付けてもよい。容器の大きさは特に限定されない。
【0012】
混合する触媒原料は、目的とするメタクリル酸製造用触媒の組成になるように、例えば上記例示の原料から適宜選択することができる。各元素の原料は、1種でも良く、2種以上を併用しても良い。各原料の配合比についても、目的とするメタクリル酸製造用触媒の組成になるように適宜設定することができる。
【0013】
溶媒としては、水を用いることが好ましい。溶媒の使用量は特に限定されないが、用いる原料の総量と溶媒との含有比(質量比)で、1:3〜1:4であることが好ましい。
【0014】
触媒原料と溶媒の混合方法には特に制限はないが、溶媒を撹拌しながらその中に触媒原料を添加する方法が好ましい。添加する順番、温度については特に制限はなく、目的とする触媒の組成に応じて、適宜設定することができる。
【0015】
また、アンモニア若しくはアンモニア化合物、またはセシウム塩等のアルカリ金属塩(以下必要に応じてアンモニア等と称する)を、触媒原料混合液に添加することが好ましい。アンモニア等を添加することで、触媒原料混合液中に固形物(沈殿)を析出させることができ、後述するろ過工程が容易になる。この固形物はヘテロポリ酸および/またはその塩を含んでおり、その主な構造はケギン型および/またはドーソン型と呼ばれるものである。アンモニア等を添加するタイミングには特に制限はなく、最初から溶媒に添加しても良く、触媒原料の一部を混合した後に添加しても良く、全ての触媒原料を混合した後に最後に混合しても良い。あらかじめ他の触媒原料と混合したものを添加することもできる。特にリン原料、モリブデン原料、及びバナジウム原料を混合した後に、アンモニア等を添加するのが好ましい。
【0016】
アンモニア若しくはアンモニア化合物としては特に限定されず、例えば、アンモニア(アンモニア水)、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。セシウム塩としては、例えば、炭酸セシウム、硝酸セシウム、水酸化セシウム等が挙げられ、硝酸セシウムが好ましい。セシウム塩以外のアルカリ金属塩としては、例えば、硝酸ルビジウム、炭酸ルビジウム、酢酸ルビジウム、硝酸カリウム等が挙げられる。アンモニア等は1種を用いても、2種以上を併用してもよい。なお、触媒原料としてセシウム塩等のアルカリ金属塩を用いる場合、別途アンモニア等を添加しなくても同様の効果が得られるが、別途選択したアンモニア等を添加しても構わない。
【0017】
アンモニア等の添加量は、リン原子1モルに対して7〜12モルが好ましく、更に好ましくは9〜11モルである。
【0018】
以上のようにして、少なくとも触媒原料と溶媒とを混合した後、さらに、40℃以上で1〜50時間攪拌を継続するのが好ましい(以下、この工程を加熱攪拌という)。加熱攪拌中の触媒原料混合液の温度は40℃以上98℃以下が好ましい。加熱には、電熱ヒーター、オイルバスヒーター、スチーム等を使用できる。攪拌には、スターラーバー、攪拌羽根、攪拌翼等を使用可能である。
【0019】
以上のようにして得られる触媒原料混合液の状態は、後述するろ過工程において固形分がろ別できるものであれば特に制限されず、溶媒中に固形分が懸濁しているスラリーでも良く、沈殿物が沈降していても良い。
【0020】
(固形分をろ別する工程)
本発明の触媒の製造方法においては、上記で得られた触媒原料混合液に含まれる固形分を焼成することで製造することから、触媒原料混合液から水を除去する必要がある。従来の技術では、蒸発乾固等の加熱工程により水を留去する方法が取られていた。それに対し、本発明では、ろ過により水を除去することが特徴である。本発明の方法によれば、熱を加えることなく固形分を分離することができるので、加熱による固形分の表面構造の変化を防ぐことができる。なお、固形分には、溶媒に溶解していない固体状の触媒原料だけでなく、前記のアンモニア等を混合することにより生じた沈殿も含まれる。
【0021】
ろ過は、自然ろ過、加圧ろ過、減圧ろ過のいずれでも構わない。ろ過の圧力は減圧の場合は10〜30Torr(0.0013〜0.0040MPa)、加圧の場合は1500〜2000Torr(0.20〜0.27MPa)で行うことが好ましく、それぞれ常温で10〜20分行なうことが好ましい。ろ過する際にはろ紙を使うこととなるが、結晶の保留粒子径1〜5μmのろ紙を使うことが好ましい。
【0022】
(ろ別した固形分を減圧乾燥する工程)
本発明では、ろ別した固形分を減圧乾燥する。乾燥圧力は減圧下であれば特に限定されないが、1Torr(0.00013MPa)以上が好ましい。乾燥温度は100℃以下が好ましく、30〜50℃がより好ましい。乾燥温度は低いほど熱による触媒前駆体の構造変化が少ないので好ましい。乾燥時間は12〜24時間が好ましい。乾燥雰囲気は、エアー雰囲気が好ましいが、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で乾燥してもよい。減圧乾燥が好ましい理由は明らかではないが、通常の加熱乾燥による触媒表面構造の変化を防げる効果があるためと推定される。
【0023】
(成形)
得られた乾燥物は、必要に応じて、打錠成形機、押出し成形機、転動造粒機等の乾式成形機等を用いて成形することができる。成形形状は、球状、リング状、円柱状等任意の形状が例示できる。尚、成形に際しては、公知の添加剤、例えばグラファイト、タルク等を少量添加してもよい。成形は次の焼成を行った後に行っても良い。
【0024】
(焼成する工程)
次に、上記の乾燥物を焼成して触媒とする。焼成方法や焼成条件は、公知の方法および条件を使用することができる。用いる触媒原料、触媒組成、製造法、流通ガス等により最適な熱処理条件は異なるが、空気等の含酸素ガス(酸素濃度10〜30%)流通下で、好ましくは350〜450℃、より好ましくは350〜380℃の温度条件で、焼成する方法が挙げられる。焼成時間は0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1〜40時間である。
【0025】
(メタクリル酸の製造方法)
次に、上記のような本発明の方法により得られたメタクリル酸製造用触媒を用いてメタクリル酸を製造する方法について説明する。メタクリル酸の製造方法は、上記のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するものである。
【0026】
気相接触酸化反応は、固定床でも流動床でも行うことができる。固定床で行なうことが好ましい。このとき、触媒層は1層でも2層以上でもよく、触媒のみの層でも、触媒を担体に担持させたものの層でも、その他の添加成分を混合したものの層でもよい。
【0027】
上記のような本発明のメタクリル酸製造用触媒を用いてメタクリル酸を製造する際には、メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを触媒と接触させる。
【0028】
原料ガス中のメタクロレイン濃度は広い範囲で変えることができるが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。
【0029】
分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。原料ガス中の分子状酸素濃度はメタクロレイン1モルに対して0.3モル以上が好ましく、0.4モル以上がより好ましい。また、メタクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、2.5モル以下がより好ましい。
【0030】
また、原料ガスは水蒸気を含んでいることが好ましい。水の存在下で反応を行なうと、より高収率でメタクリル酸が得られる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。
【0031】
原料ガスは、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいても良い。
【0032】
原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。接触時間は1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、15秒以下が好ましく、5秒以下がより好ましい。
【0033】
メタクリル酸製造反応の反応圧力は常圧(大気圧)から数気圧まで用いられる。反応温度は230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による触媒の製造方法および得られた触媒を用いてのメタクリル酸製造反応例を具体的に説明する。説明中「部」は質量部を意味する。メタクリル酸製造反応の生成物はガスクロマトグラフィーにより分析した。メタクロレインの反応率、生成したメタクリル酸の選択率および単流収率は以下のように定義される。
メタクロレインの反応率(%)=A/B×100
メタクリル酸の選択率(%) =C/A×100
メタクリル酸の単流収率(%)=C/B×100
ここで、Aは反応したメタクロレインのモル数、Bは供給したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数を表わす。
【0035】
(実施例1)
三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸水溶液6.67部、メタバナジン酸アンモニウム2.71部を純水370部に混合し、100℃に加熱して2時間攪拌した。50℃まで冷却後、硝酸セシウム11.3部を添加した。70℃まで加温後、28質量%アンモニア水を36.3部を加えた。50℃まで冷却後、90分攪拌した。硝酸銅1.4部を加えて15分攪拌後、硝酸鉄1.17部を加え、更に15分攪拌した。更に100℃まで加温後で15分攪拌して、触媒原料混合液とした。
【0036】
この触媒原料混合液に含まれる固形分を1500Torr(0.20MPa)で加圧ろ過して固形物を得た。固形物を10Torr(0.0013MPa)で減圧乾燥した。得られた乾燥物を200kgf/cm2(20MPa)で圧縮破砕して破砕品とした。この破砕品をair雰囲気下(流速20L/h)で377℃で5h焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.46Cu0.08Fe0.06Cs1.2であった。
【0037】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5%、酸素10%、水蒸気30%、窒素55%(容量%)の混合ガスを反応温度285℃、接触時間3.6秒で通じ、メタクロレインの気相接触酸化反応(メタクリル酸製造反応)を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタクロレイン反応率70.4%、メタクリル酸選択率89.3%、メタクリル酸単流収率62.9%であった。
【0038】
(比較例1)
三酸化モリブデン110部、メタバナジン酸アンモニウム3.39部、硝酸銅1.26部、硝酸鉄1.64部、硝酸セシウム14.7部にして触媒原料混合液を調製し、その触媒原料混合液を100℃に加熱することで蒸発乾固して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.46Cu0.08Fe0.06Cs1.2であった。
【0039】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率62.5%、メタクリル酸選択率90.0%、メタクリル酸単流収率56.3%であった。
【0040】
(比較例2)
触媒原料混合液を100℃に加熱することで蒸発乾固して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo1210.4Cu0.1Fe0.043Cs1.2であった。
【0041】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率63.7%、メタクリル酸選択率90.3%、メタクリル酸単流収率57.5%であった。
【0042】
(実施例2)
触媒原料混合液を20Torr(0.0027MPa)で吸引ろ過して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.37Cu0.09Fe0.06Cs1.2であった。
【0043】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率70.1%、メタクリル酸選択率89.1%、メタクリル酸単流収率62.5%であった。
【0044】
(比較例3)
三酸化モリブデン110部、85質量%リン酸水溶液7.34部、メタバナジン酸アンモニウム2.17部に変えて触媒原料混合液を調製し、その触媒原料混合液を100℃に加熱することで蒸発乾固して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.37Cu0.09Fe0.06Cs1.2であった。
【0045】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率63.0%、メタクリル酸選択率89.1%、メタクリル酸単流収率56.1%であった。
【0046】
(実施例3)
70℃まで加温せずに50℃のままアンモニア水を添加したこと、及び触媒原料混合液を自然ろ過して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.46Cu0.09Fe0.06Cs1.2であった。
【0047】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率70.2%、メタクリル酸選択率89.2%、メタクリル酸単流収率62.6%であった。
【0048】
(比較例4)
三酸化モリブデン110部、85質量%リン酸水溶液7.34部に増量して触媒原料混合液を調製し、その触媒原料混合液を100℃に加熱することで蒸発乾固して固形物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法で、メタクリル酸製造用触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素の組成はMo120.920.46Cu0.09Fe0.06Cs1.2であった。
【0049】
この触媒を用いて実施例1と同様にメタクロレインの気相接触酸化反応を行ったところ、メタクロレイン反応率63.2%、メタクリル酸選択率89.0%、メタクリル酸単流収率56.2%であった。
【0050】
以上の結果をまとめて表1に示す。本発明のように触媒原料混合液からろ過により固形物を得ることにより、メタクリル酸選択率の高い条件でもメタクロレイン転化率が高いメタクリル酸製造用触媒が得られ、メタクリル酸収率の向上が図れることが分かる。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、下記式(1)で表される組成を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
少なくとも触媒原料を溶媒中で混合して触媒原料混合液を得る工程と、
前記触媒原料混合液に含まれる固形分をろ別する工程と、
ろ別した前記固形分を減圧乾燥する工程と、
得られた乾燥物を焼成する工程と、
を含むことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
aMobcCudefgh (1)
(式中、P、Mo、V、Cu、およびOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、および酸素を示し、Xはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステン、およびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウム、およびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を、Zはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素をそれぞれ示す。a、b、c、d、e、fおよびgは各元素の原子比率を示し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)

【公開番号】特開2006−81974(P2006−81974A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266985(P2004−266985)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】