メタボリックシンドロームの予防および改善用組成物
【課題】本発明は、メタボリックシンドロームを予防若しくは改善するために、安全で効率的に摂取できる組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】大豆胚芽タンパク質を有効成分とする血中コレステロール低減用組成物、血中HDL/LDL比改善用組成物、血中トリグリセリド低減用組成物、血糖値低減用組成物、肝臓重量増加抑制用組成物、及び痩身用組成物。
【解決手段】大豆胚芽タンパク質を有効成分とする血中コレステロール低減用組成物、血中HDL/LDL比改善用組成物、血中トリグリセリド低減用組成物、血糖値低減用組成物、肝臓重量増加抑制用組成物、及び痩身用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆胚芽タンパク質によるメタボリックシンドロームの予防および改善、すなわち血中脂質の状態の改善、血糖値の改善、肝臓重量の増加抑制および痩身用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より日本では豆腐、豆乳、油揚げ、煮豆、納豆、きな粉、味噌、醤油など、様々な調理を施して大豆を食する習慣があり、近年では種々の生理機能成分が注目され、健康維持に役立つ食品として注目されている。大豆から油分を除去した大豆蛋白(脱脂大豆)は蛋白質を40〜50%程度含み、植物蛋白としては比較的アミノ酸バランスが優れている点から畑の肉とも呼ばれ、食品、飼料用途に広く利用されている。また大豆中に含まれるイソフラボン、レシチン、ビタミンEといった機能性成分が注目され、これら有用成分は各種疾病予防などを目的としてサプリメントとして利用されている。しかしながら、大豆はタンパク質分解酵素の活性を阻害するトリプシンインヒビター、アレルギーを引き起こすアレルゲンとしての抗原性蛋白質、ミネラルの吸収を阻害するフィチン酸等も含んでいる。栄養機能食品としての大豆の有効利用は、有用成分の高度利用と、栄養阻害成分の低減という2本の柱の上に成り立つといえる。
【0003】
一方で、近年特に中高年におけるメタボリックシンドロームが大きな問題となっており、これを改善する為の食品や医薬品が求められている。大豆の血中コレステロール低減効果能については良く知られており、それは大豆タンパク質が、コレステロールの原因となる胆汁酸等と特異的に結合し、そのまま糞便として排泄されるためといわれている。
このコレステロール低減能をはじめとする生理機能を追及する目的で、大豆タンパク質を分解したペプチド成分の機能性画分の特定に関する研究がなされている。例えば、大豆タンパク質の酵素消化に際して得られる非消化性画分には、降コレステロール作用が見られることが確認されている(特許文献1、非特許文献1、2)。それ以外にも、血中の中性脂質、コレステロール、血糖値を改善する大豆の成分としては、グリシニンと呼ばれる11Sグロブリン(特許文献2)、β-コングリシニンと呼ばれる7Sグロブリン、イソフラボンなどが効果を持つと言われているが明確な結論が出ていない。そして、大豆胚芽のタンパク質に関しては、ほとんど研究がなされていない。
【0004】
大豆胚芽由来の物質については、大豆胚芽を麹菌で処理した物質を加水分解処理し、溶剤による抽出濃縮した物質に含まれるイソフラボンアグリコンを有効成分とする生体活性促進作用が報告されているが(特許文献3)、イソフラボンの効能に関してはその代謝産物も含め、現在も研究者によって見解が異なり、未だ明確な結論が出ていない。
一方で大豆胚芽は、大豆とはそのタンパク質の組成が大きく異なり、コングリシニン、β-コングリシニンなどの貯蔵蛋白質がほとんど含まれておらず、総蛋白質含量が低いために栄養価が低く、またサポニン、アレルゲンなど栄養阻害物質が豊富に含まれることに起因して、過剰に摂取した場合にはアレルギー、生育阻害などを惹き起こし、風味も悪く、食品、飲料および医薬への利用に向いていないとされてきた。この問題を解決した大豆胚芽タンパク質組成物について本発明者らは先に出願した(特願2005-36942号)。この組成物は大豆胚芽から溶剤処理により栄養阻害成分を除去し、さらに熱処理を加える工程を組み合わせることにより、大豆胚芽タンパク質の含量を高めながらもこれに起因するアレルゲンの含量を低減させ、かつ風味を向上させている。しかしながら、大豆胚芽タンパク質の機能性、すなわち、加工特性や、これを摂取することによって生じる生理作用については、本発明の成される時点では全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特公平07-025796号公報
【特許文献2】特開2003-88334号公報
【特許文献3】公報WO2003/077904号公報
【非特許文献1】Atherosclerosis、72、115、1988
【非特許文献2】J. Nutr.、120、977、1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大豆の機能性成分として今まで明らかにされていなかった血中脂質・血糖値改善作用を持つ部分を特定し、これを利用した食品、飲料、医薬品やその原料として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、大豆中に微量しか存在しない胚芽部分に含まれるタンパク質を20%以上好ましくは40%以上含有するように分画することで得られる大豆胚芽タンパク質含有分を有効成分とする血中脂質・血糖値改善用の組成物である。また、ここで得られた大豆胚芽部分から溶剤処理、化学処理、物理加工処理等により栄養阻害成分を除去し、さらに熱処理を加える工程を組み合わせることにより、タンパク質の含量を高めながらもこれに起因するアレルゲンの含量を低減させ、かつ風味を向上させた大豆胚芽タンパク質を得ることができる。
すなわち、本発明は大豆胚芽タンパク質を有効成分とする血中HDL/LDLコレステロール比改善用組成物、血中トリグリセリド低減用組成物、血糖値低減用組成物、及び痩身用組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による組成物は、血中コレステロール値、トリグリセリド、血糖値を改善し、健康増進に役立つ効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
品種によって差異はあるものの、一般的な大豆には大豆胚芽タンパク質が0.8%程度含まれる。大豆からの大豆胚芽タンパク質の分離はいかなる方法でもかまわない。例えば大豆を破砕して半割れ状態とし、篩でふるうことにより大豆胚芽を得る方法がある。この方法により、大豆胚芽タンパク質は、約50倍まで濃縮される。また、これをさらに脱脂することで、脂質成分を除去し、大豆胚芽タンパク質分の濃度を高めることができる。そのほか、タンパク質の抽出方法として、水及びあらゆる有機溶剤の使用が可能であるが、含水アルコールを0℃〜100℃で使用することが好ましい。また抽出後の大豆胚芽タンパク質に50〜300℃の熱を1〜180分間与えることで風味にも優れた、栄養価の高い大豆胚芽タンパク質を得ることができる。熱処理が50℃及び/又は1分未満ではタンパク質の変性が不十分であり、300℃及び/又は180分を超えると焦げが発生することによりアミノ酸の減少が生じる。また、大豆胚芽の栄養阻害成分を除去するために水性の溶媒による抽出を行い、酸やアルカリを用いてpHを変化させて等電点沈殿により特定のタンパク質のみを回収する方法では、簡易な設備で抽出回収できる利点がある。また、超臨界二酸化炭素を用いて低極性の物質を抽出除去する方法では、常温常圧に戻した状態において、二酸化炭素が気化するため、その後の乾燥処理が要らない利点もある。本発明における溶剤処理と熱処理の組み合わせは、いずれか一方の処理を先に行ってもよく、また両処理を同時に行っても、行わなくても良い。粉砕、分離、クロマトグラフィーなどの他の処理工程が含まれていても良い。また、本発明の大豆胚芽タンパク質は、一般的な大豆蛋白質である脱脂大豆、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白や、豆乳などから大豆の子葉部分に特異的に高含有される貯蔵タンパク質や種皮に高含有される繊維質を除くことでも製造可能である。またさらに、大豆の胚芽部分には比較的高濃度のイソフラボンやサポニンが含まれており、過剰な摂
取には注意が必要であるが、以上の方法を組み合わせることによりイソフラボンやサポニンの含有量が少なく、安心して食べることができる大豆胚芽タンパク質を得ることも可能となる。
【0010】
得られた大豆胚芽タンパク質は、通常の大豆のタンパク質組成と大きく異なることから、SDS‐PAGEによる分析により容易に確認することが可能である。
【0011】
本発明によって得られる大豆胚芽タンパク質は、以下のような効果を有する。
第1に、本発明の大豆胚芽タンパク質はカゼイン、大豆蛋白と比較して、血中LDLコレステロール低減効果、血中HDL増進効果を持ち、優れた血中HDL/LDLコレステロール比の改善効果を有する。また、臓器への脂肪蓄積を防ぎ、メタボリックシンドロームの予防効果を持つ。これは濃縮大豆蛋白にはない大豆胚芽タンパク質に固有の効果である。
第2に、本発明の大豆胚芽タンパク質は血中トリグリセリド低減効果を有する。
第3に、本発明の大豆胚芽タンパク質は血糖値低減効果を有する。
第4に、本発明の大豆胚芽タンパク質は、内臓脂肪などの体脂肪の蓄積を抑制し、痩身効果を持つ。
従来の形態では、大豆製品を摂取したとしても、胚芽タンパク質は微量であり、本発明で示す上記各効果を得ることはできないが、本発明のごとく高濃度に高めることにより生理作用を得ることができる。より具体的には、1日当り0.05g〜50g程度の摂取によって効果が得られため、様々な飲食品に添加することが可能となる。
【0012】
本発明における大豆胚芽タンパク質は、有効成分を単独で用いる他に、最終製品(医薬品、機能性食品、栄養補助食品、飲食品)の必要に応じて澱粉等の穀物系粉体、油脂、乳化剤、香料、増粘剤等を組み合わせた固体、液体、ゾル、ゲル、可塑性組成物等の構成としてもよい。
澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、えんどう豆澱粉、およびこれらにエステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理、α化等の物理的または化学的処理を単独で、または組み合わせて施した加工澱粉を挙げることができる。
【0013】
油脂としては、大豆油、大豆胚芽油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、高リノール酸ひまわり油、ミッドオレイックひまわり油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、かぼちゃ種子油、椿油、茶実油、えごま油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、藻類油、およびこれら油脂の水添油、エステル交換油、分別油等から選ばれる1種、または2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
乳化剤としては、通常、食品用に使用される乳化剤であればよく、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド類、エリスリトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンなどを1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
香料としては、通常食品に使用される天然系、合成系香料のいずれもが使用できる。
増粘剤としては、水溶液にしたとき粘度を上昇させる多糖類、すなわち、アラビアガム
、アラビノガラクタン、グアーガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、大豆水溶性多糖類(ヘミセルロース)、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ペクチン、カラヤガム、ガッティガム、トラガントガム、カードラン、グルコマンナン、キチン、キトサン、微小繊維状セルロース、微結晶セルロース等を挙げることができる。
このほかにも配合する物質として、コラーゲンペプチド、乳タンパクペプチド、カゼインペプチド、オリゴペプチド、乳清タンパク濃縮物、えんどうタンパク、ゼラチン等のタンパク質由来の物質、大豆ファイバー、えんどうファイバー等の繊維質、高度分岐環状デキストリン等のデキストリンも使用できる。
さらに大豆胚芽タンパク質に、pH調整剤や糖類を配合してもよい。
pH調整剤としては、乳酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、Lりんご酸、DLりんご酸、氷酢酸、グルコノデルタラクトン、L酒石酸、DL酒石酸等を挙げることができる。
糖類としては、グルコース(ブドウ糖)、マルトース、フラクトース(果糖)、ガラクトース、トレハロース、オリゴ糖、ショ糖、ソルビット等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明の大豆胚芽タンパク質をクッキーなどの焼き菓子に1〜50%含有させた際には、通常の大豆蛋白等では得られないサクサク感が得られるほか、香ばしく、風味の良い仕上がりとなる。
本発明の大豆胚芽タンパク質は、大麦、小麦、米、ひえ、粟、玄米、黒豆、赤米、緑米、小豆、黒豆、金時豆、ヒヨコ豆、白花豆などの穀類やその胚芽部分、あるいは、落花生、胡桃、ゴマ、松の実、栗等の種実類等と混合して使用した場合には、食品の風味を引き立てる効果を持つほか、上記生理機能性を有する点で、シリアル、焼き菓子、エネルギーバーなどへの利用に優れている。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨はもとよりこれに限定されるものではない。
【0017】
〔試験例1 大豆胚芽タンパク質の製造1〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が70%以上含有されるように分離して、大豆胚芽タンパク質濃縮画分を得た。この方法で得られた濃縮画分は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量40%であった。このうちの70%以上が大豆胚芽由来のタンパク質であることから、本品には大豆胚芽タンパク質含量として28%以上含まれており、その濃縮率は35倍以上となった。このサンプルのタンパク質組成をSDS‐PAGE分析により確認した。SDS‐PAGE分析は、得られたサンプル1gを5mlの10mMリン酸緩衝液(PBS;8.2 mM Na2HPO4、 1.8 mM KH2PO4、137 mM NaCl、3 mM KCl)に懸濁し、30分間の超音波処理によって抽出を行った。この抽出液50μlを、35mM ドデシル硫酸ナトリウム、1%β-メルカプトエタノールを含有する50mM Tris-HCl 250μlに溶解し、MILLEX-HV 0.22 μm ディスポーザブルフィルターでろ過して可溶性タンパク質試料とした。これに、1%のブロモフェノールブルーを含有する10%グリセロール溶液を20μl混合し、沸騰水浴中にて5分間の煮沸処理を行って電気泳動用サンプルとした。以上の処理において、β-メルカプトエタノールを加えた場合と加えない場合では泳動像が大きく異なる為、重要な工程である。
泳動には、PhastSystem (Pharmacia LKB Biotechnology)を用いた。泳動ゲルはPhastGel、Gradient 10-15を使用し、染色はCBBにより行った。泳動後、SDS‐PAGEで分離されたポリペプチド染色バンドの560 nmの吸収を、クロマトスキャナーCS9300(島津製作所)を用いて分析した。通常の大豆であれば約33kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約30kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。同様に、
通常の大豆であれば約48kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約52kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。そのほか、21kD付近、35kD付近にもバンドを認めるなどが通常の大豆タンパク質とは異なる。この像をクロマトスキャナーにより、グラフ化し、チャートのピーク面積から、大豆胚芽タンパク質が通常の大豆蛋白質よりも濃くなっていることを確認した。
各タンパク質の泳動像を図1に示す。
【0018】
〔試験例2 大豆胚芽タンパク質の製造2〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が70%以上含有されるように分離した。これを搾油工程における常法で行われるヘキサン抽出として、低温抽出法および高温抽出法により脱脂し、大豆胚芽タンパク質画分を得た。この方法で得られた大豆胚芽タンパク質は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量43%で、大豆胚芽タンパク質含量として30%以上含まれており、濃縮率は37倍以上となった。このサンプルのタンパク質組成をSDS‐PAGE分析により確認した。SDS‐PAGE分析は、得られたサンプル1mgを5mlの10 mMリン酸緩衝液(PBS;8.2 mM Na2HPO4、 1.8 mM KH2PO4、137 mM NaCl、3 mM KCl)に懸濁し、30分間の超音波処理によって抽出を行った。この抽出液50μlを、35mM ドデシル硫酸ナトリウム、1%β-メルカプトエタノールを含有する50mM Tris-HCl 250μlに溶解し、MILLEX-HV 0.22 μm ディスポーザブルフィルターでろ過して可溶性タンパク質試料とした。これに、1%のブロモフェノールブルーを含有する10%グリセロール溶液を20μl混合し、沸騰水浴中にて5分間の煮沸処理を行って電気泳動用サンプルとした。
泳動には、PhastSystem (Pharmacia LKB Biotechnology)を用いた。泳動ゲルはPhastGel、Gradient 10-15を使用し、染色はCBBにより行った。泳動後、SDS‐PAGEで分離されたポリペプチド染色バンドの560 nmの吸収を、クロマトスキャナーCS9300(島津製作所)を用いて分析した。通常の大豆であれば約33kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約30kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。同様に、通常の大豆であれば約48kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約52kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。そのほか、21kD付近、35kD付近にもバンドを認めるなどが通常の大豆タンパク質とは異なる。この像をクロマトスキャナーにより、グラフ化し、チャートのピーク面積から、大豆胚芽タンパク質が通常の大豆蛋白質よりも濃くなっていることを確認した。
各脱脂タンパク質の泳動像を図2に示す。
【0019】
〔試験例3 大豆胚芽タンパク質の製造3〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が90%以上含有されるように分離して大豆胚芽を得た。これを搾油工程における常法で行われるヘキサン抽出を行った後、さらに70%含水エタノールを加えて70℃、30分間攪拌した後、ろ過してその残渣を回収した。この残渣を減圧下で100℃、40分間の熱処理をし、大豆胚芽タンパク質画分を得た。この方法で得られた大豆胚芽タンパク質は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量62%で、大豆胚芽タンパク質含量として56%以上含まれており、濃縮率は70倍以上となった。このサンプルを試験例1と同様の方法によりSDS‐PAGE分析を行った結果、約33kD付近よりも約30kD付近のバンドが濃く、約48kD付近よりも約52kD付近のバンドが濃く、さらに、21kD付近、35kD付近にもバンドを認める大豆胚芽タンパク質に特徴的な組成を確認した。
また、大豆タンパク質を抗原として得た牛抗血清に対する抗原性をELISA分析法にて測定した結果40U/10mg以下であることを確認した。イソフラボン含量、サポニン含量は共に0.5%以下であり、通常の大豆胚芽と比較して5分の1以下で、丸大豆よりも低い含量であり、多量に食べても苦味が無いほか、これら微量成分の過剰摂取を防ぐことができる。濃縮大豆胚芽タンパク質の泳動像を図3に示す。
【0020】
〔実施例1〕
ラットに高脂肪食を与え、各種生理物質の血中濃度をカゼインに対して、一般的な大豆
蛋白として濃縮大豆蛋白(以下SPCと略す)、上記試験例3の大豆胚芽タンパク質(以下胚芽蛋白と略す)を用いてその値を比較した。
飼養する餌としては
1.カゼイン食、2.SPC食、3.胚芽蛋白食
の3種類を用意した。それぞれの餌の組成を表1に示した。
なお、胚芽蛋白は粉末にして用いた。
ラットは9週齢のCD(SD)IGS雄ラットを個別ケージに入れ、精製飼料(AIN93G)にて1週間予備飼育をおこなった。本試験に入る前に1群8匹を3区、各区の体重の平均値が等しくなるようにグループ分けした。各区のラットにはそれぞれ1.カゼイン食(対照)、2.カゼインをSPCに置き換えたSPC食、3.カゼインを胚芽蛋白で置き換えた胚芽蛋白食を与えた。試験期間は28日間とし、その間水及び飼料は自由摂取させた。試験環境は、温度22±3℃、湿度60±15%で換気回数12〜15回/時間、及び照明12時間(7時〜19時)に設定した飼育室で実施した。
【0021】
投与最終日の夕方よりラットを18時間絶食し、エーテル麻酔下で腹部大動脈より採血した。血液を血清分離剤入り採血管に採取し、3000rpm、15分間遠心分離して血清を分離し、LDLコレステロール(図4)、HDLコレステロール(図5)、中性脂肪(図7)、血糖値を測定した(図8)。また、LDLコレステロールとHDLコレステロールからHDLコレステロール/LDLコレステロール比を計算した(図6)。採血後、放血致死させ、肝臓を摘出し、重量を測定した。また、カゼイン食群、胚芽蛋白食群に関しては、さらに腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、腎周囲脂肪、副精巣周囲脂肪を摘出し、脂肪の蓄積に関しても調査した。なお、測定値については平均値±標準偏差で表現した。統計解析では、必要に応じてTukeyによる多重比較検定を行い、各値の間の有意差について検討した。
【0022】
【表1】
【0023】
図1〜11より、次のことが明らかとなった。
1.図4より、胚芽蛋白食では、血中総コレステロールを低下させる傾向が見られた
2.図5より、胚芽蛋白食では、血中LDLコレステロールを低下させる傾向が見られた
3.図6より、胚芽蛋白食では、血中HDLコレステロールを増加させる傾向が見られた。
4.図7より、胚芽蛋白食では、カゼイン食に比較して血中HDL/LDLコレステロール比を高める傾向が見られた。また、SPC食に対しては有意(P<0.05)にHDL/LDL比を高めることが見出された。コレステロール比に関しては、HDL/総コレステロールで計算しても同
様に胚芽蛋白食でSPC食に対して有意に高まる結果となった。
5.図8より、SPC及び胚芽蛋白食ではカゼイン食に対して、有意(P<0.05)に血中トリグリセリドを低下させた。
6.図9より、SPC及び胚芽蛋白食ではカゼイン食に対して、有意に血糖値を(SPCでP<0.01、胚芽蛋白でP<0.05)低下させた。
7.図10より、体重あたりの肝臓重量は、カゼイン食と比較して胚芽蛋白食でのみ有意(P<0.05)に軽くなり、脂肪肝の予防などに効果があることが明らかとなった。
8.
図11より、腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、腎周囲脂肪、副精巣周囲脂肪に関して、胚芽蛋白食を投与した区でカゼイン食区よりも重量が軽く、脂肪の蓄積を抑制している傾向がみられた。
以上より、胚芽蛋白はカゼイン食と比べて血中トリグリセリド、血糖値を低下させた。また、胚芽蛋白はSPCと比較してもHDL/LDLコレステロール比およびHDL/総コレステロール比を改善し、肝臓における脂質蓄積の予防効果を持つ。本発明の胚芽蛋白は、通常の大豆蛋白質とは異なる生理機能を有することが明らかとなった。
【0024】
〔実施例2〕
大豆蛋白素材として、試験例1、2、3における大豆胚芽タンパク質および、その比較例として市販の分離大豆タンパクを使用して焼き菓子を作製した。その際の配合を以下に示す。
薄力粉 130g
バター 100g
大豆蛋白素材 100g
砂糖 80g
卵 1個
バニラエッセンス 少量
以上の原料に、適量の牛乳を加えて混合した。4℃にて2時間保存後、直径約3cmの円盤状の形状に成形し、オーブンにて170℃、約12分間焼いてクッキーを作成した。このクッキーを試食し、10名のパネラーによる官能検査を行った。官能評価の結果、分離大豆タンパクを原料としたクッキーと比較して、大豆胚芽タンパク質を原料としたクッキーは香ばしく、サクサクした食感となり、風味、食感、美味しさの点で評価が上回った。
【0025】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各タンパク質の泳動像を示す図である。
【図2】各脱脂タンパク質の泳動像を示す図である。
【図3】濃縮大豆胚芽タンパク質の泳動像を示す図である。
【図4】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中総コレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図5】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中LDLコレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図6】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中HDLコレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図7】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中HDLコレステロール/血中LDLコレステロール比の変化を示すグラフである。
【図8】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中トリグリセロール濃度の変化を示すグラフである。
【図9】胚芽蛋白及びSPC投与時の血糖値の変化を示すグラフである。
【図10】胚芽蛋白及びSPC投与時の体重あたり肝臓重量の変化を示すグラフである。
【図11】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中総コレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆胚芽タンパク質によるメタボリックシンドロームの予防および改善、すなわち血中脂質の状態の改善、血糖値の改善、肝臓重量の増加抑制および痩身用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より日本では豆腐、豆乳、油揚げ、煮豆、納豆、きな粉、味噌、醤油など、様々な調理を施して大豆を食する習慣があり、近年では種々の生理機能成分が注目され、健康維持に役立つ食品として注目されている。大豆から油分を除去した大豆蛋白(脱脂大豆)は蛋白質を40〜50%程度含み、植物蛋白としては比較的アミノ酸バランスが優れている点から畑の肉とも呼ばれ、食品、飼料用途に広く利用されている。また大豆中に含まれるイソフラボン、レシチン、ビタミンEといった機能性成分が注目され、これら有用成分は各種疾病予防などを目的としてサプリメントとして利用されている。しかしながら、大豆はタンパク質分解酵素の活性を阻害するトリプシンインヒビター、アレルギーを引き起こすアレルゲンとしての抗原性蛋白質、ミネラルの吸収を阻害するフィチン酸等も含んでいる。栄養機能食品としての大豆の有効利用は、有用成分の高度利用と、栄養阻害成分の低減という2本の柱の上に成り立つといえる。
【0003】
一方で、近年特に中高年におけるメタボリックシンドロームが大きな問題となっており、これを改善する為の食品や医薬品が求められている。大豆の血中コレステロール低減効果能については良く知られており、それは大豆タンパク質が、コレステロールの原因となる胆汁酸等と特異的に結合し、そのまま糞便として排泄されるためといわれている。
このコレステロール低減能をはじめとする生理機能を追及する目的で、大豆タンパク質を分解したペプチド成分の機能性画分の特定に関する研究がなされている。例えば、大豆タンパク質の酵素消化に際して得られる非消化性画分には、降コレステロール作用が見られることが確認されている(特許文献1、非特許文献1、2)。それ以外にも、血中の中性脂質、コレステロール、血糖値を改善する大豆の成分としては、グリシニンと呼ばれる11Sグロブリン(特許文献2)、β-コングリシニンと呼ばれる7Sグロブリン、イソフラボンなどが効果を持つと言われているが明確な結論が出ていない。そして、大豆胚芽のタンパク質に関しては、ほとんど研究がなされていない。
【0004】
大豆胚芽由来の物質については、大豆胚芽を麹菌で処理した物質を加水分解処理し、溶剤による抽出濃縮した物質に含まれるイソフラボンアグリコンを有効成分とする生体活性促進作用が報告されているが(特許文献3)、イソフラボンの効能に関してはその代謝産物も含め、現在も研究者によって見解が異なり、未だ明確な結論が出ていない。
一方で大豆胚芽は、大豆とはそのタンパク質の組成が大きく異なり、コングリシニン、β-コングリシニンなどの貯蔵蛋白質がほとんど含まれておらず、総蛋白質含量が低いために栄養価が低く、またサポニン、アレルゲンなど栄養阻害物質が豊富に含まれることに起因して、過剰に摂取した場合にはアレルギー、生育阻害などを惹き起こし、風味も悪く、食品、飲料および医薬への利用に向いていないとされてきた。この問題を解決した大豆胚芽タンパク質組成物について本発明者らは先に出願した(特願2005-36942号)。この組成物は大豆胚芽から溶剤処理により栄養阻害成分を除去し、さらに熱処理を加える工程を組み合わせることにより、大豆胚芽タンパク質の含量を高めながらもこれに起因するアレルゲンの含量を低減させ、かつ風味を向上させている。しかしながら、大豆胚芽タンパク質の機能性、すなわち、加工特性や、これを摂取することによって生じる生理作用については、本発明の成される時点では全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特公平07-025796号公報
【特許文献2】特開2003-88334号公報
【特許文献3】公報WO2003/077904号公報
【非特許文献1】Atherosclerosis、72、115、1988
【非特許文献2】J. Nutr.、120、977、1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大豆の機能性成分として今まで明らかにされていなかった血中脂質・血糖値改善作用を持つ部分を特定し、これを利用した食品、飲料、医薬品やその原料として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、大豆中に微量しか存在しない胚芽部分に含まれるタンパク質を20%以上好ましくは40%以上含有するように分画することで得られる大豆胚芽タンパク質含有分を有効成分とする血中脂質・血糖値改善用の組成物である。また、ここで得られた大豆胚芽部分から溶剤処理、化学処理、物理加工処理等により栄養阻害成分を除去し、さらに熱処理を加える工程を組み合わせることにより、タンパク質の含量を高めながらもこれに起因するアレルゲンの含量を低減させ、かつ風味を向上させた大豆胚芽タンパク質を得ることができる。
すなわち、本発明は大豆胚芽タンパク質を有効成分とする血中HDL/LDLコレステロール比改善用組成物、血中トリグリセリド低減用組成物、血糖値低減用組成物、及び痩身用組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による組成物は、血中コレステロール値、トリグリセリド、血糖値を改善し、健康増進に役立つ効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
品種によって差異はあるものの、一般的な大豆には大豆胚芽タンパク質が0.8%程度含まれる。大豆からの大豆胚芽タンパク質の分離はいかなる方法でもかまわない。例えば大豆を破砕して半割れ状態とし、篩でふるうことにより大豆胚芽を得る方法がある。この方法により、大豆胚芽タンパク質は、約50倍まで濃縮される。また、これをさらに脱脂することで、脂質成分を除去し、大豆胚芽タンパク質分の濃度を高めることができる。そのほか、タンパク質の抽出方法として、水及びあらゆる有機溶剤の使用が可能であるが、含水アルコールを0℃〜100℃で使用することが好ましい。また抽出後の大豆胚芽タンパク質に50〜300℃の熱を1〜180分間与えることで風味にも優れた、栄養価の高い大豆胚芽タンパク質を得ることができる。熱処理が50℃及び/又は1分未満ではタンパク質の変性が不十分であり、300℃及び/又は180分を超えると焦げが発生することによりアミノ酸の減少が生じる。また、大豆胚芽の栄養阻害成分を除去するために水性の溶媒による抽出を行い、酸やアルカリを用いてpHを変化させて等電点沈殿により特定のタンパク質のみを回収する方法では、簡易な設備で抽出回収できる利点がある。また、超臨界二酸化炭素を用いて低極性の物質を抽出除去する方法では、常温常圧に戻した状態において、二酸化炭素が気化するため、その後の乾燥処理が要らない利点もある。本発明における溶剤処理と熱処理の組み合わせは、いずれか一方の処理を先に行ってもよく、また両処理を同時に行っても、行わなくても良い。粉砕、分離、クロマトグラフィーなどの他の処理工程が含まれていても良い。また、本発明の大豆胚芽タンパク質は、一般的な大豆蛋白質である脱脂大豆、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白や、豆乳などから大豆の子葉部分に特異的に高含有される貯蔵タンパク質や種皮に高含有される繊維質を除くことでも製造可能である。またさらに、大豆の胚芽部分には比較的高濃度のイソフラボンやサポニンが含まれており、過剰な摂
取には注意が必要であるが、以上の方法を組み合わせることによりイソフラボンやサポニンの含有量が少なく、安心して食べることができる大豆胚芽タンパク質を得ることも可能となる。
【0010】
得られた大豆胚芽タンパク質は、通常の大豆のタンパク質組成と大きく異なることから、SDS‐PAGEによる分析により容易に確認することが可能である。
【0011】
本発明によって得られる大豆胚芽タンパク質は、以下のような効果を有する。
第1に、本発明の大豆胚芽タンパク質はカゼイン、大豆蛋白と比較して、血中LDLコレステロール低減効果、血中HDL増進効果を持ち、優れた血中HDL/LDLコレステロール比の改善効果を有する。また、臓器への脂肪蓄積を防ぎ、メタボリックシンドロームの予防効果を持つ。これは濃縮大豆蛋白にはない大豆胚芽タンパク質に固有の効果である。
第2に、本発明の大豆胚芽タンパク質は血中トリグリセリド低減効果を有する。
第3に、本発明の大豆胚芽タンパク質は血糖値低減効果を有する。
第4に、本発明の大豆胚芽タンパク質は、内臓脂肪などの体脂肪の蓄積を抑制し、痩身効果を持つ。
従来の形態では、大豆製品を摂取したとしても、胚芽タンパク質は微量であり、本発明で示す上記各効果を得ることはできないが、本発明のごとく高濃度に高めることにより生理作用を得ることができる。より具体的には、1日当り0.05g〜50g程度の摂取によって効果が得られため、様々な飲食品に添加することが可能となる。
【0012】
本発明における大豆胚芽タンパク質は、有効成分を単独で用いる他に、最終製品(医薬品、機能性食品、栄養補助食品、飲食品)の必要に応じて澱粉等の穀物系粉体、油脂、乳化剤、香料、増粘剤等を組み合わせた固体、液体、ゾル、ゲル、可塑性組成物等の構成としてもよい。
澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、えんどう豆澱粉、およびこれらにエステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理、α化等の物理的または化学的処理を単独で、または組み合わせて施した加工澱粉を挙げることができる。
【0013】
油脂としては、大豆油、大豆胚芽油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、高リノール酸ひまわり油、ミッドオレイックひまわり油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、胡桃油、かぼちゃ種子油、椿油、茶実油、えごま油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、藻類油、およびこれら油脂の水添油、エステル交換油、分別油等から選ばれる1種、または2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
乳化剤としては、通常、食品用に使用される乳化剤であればよく、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド類、エリスリトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンなどを1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
香料としては、通常食品に使用される天然系、合成系香料のいずれもが使用できる。
増粘剤としては、水溶液にしたとき粘度を上昇させる多糖類、すなわち、アラビアガム
、アラビノガラクタン、グアーガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、大豆水溶性多糖類(ヘミセルロース)、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ペクチン、カラヤガム、ガッティガム、トラガントガム、カードラン、グルコマンナン、キチン、キトサン、微小繊維状セルロース、微結晶セルロース等を挙げることができる。
このほかにも配合する物質として、コラーゲンペプチド、乳タンパクペプチド、カゼインペプチド、オリゴペプチド、乳清タンパク濃縮物、えんどうタンパク、ゼラチン等のタンパク質由来の物質、大豆ファイバー、えんどうファイバー等の繊維質、高度分岐環状デキストリン等のデキストリンも使用できる。
さらに大豆胚芽タンパク質に、pH調整剤や糖類を配合してもよい。
pH調整剤としては、乳酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、Lりんご酸、DLりんご酸、氷酢酸、グルコノデルタラクトン、L酒石酸、DL酒石酸等を挙げることができる。
糖類としては、グルコース(ブドウ糖)、マルトース、フラクトース(果糖)、ガラクトース、トレハロース、オリゴ糖、ショ糖、ソルビット等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明の大豆胚芽タンパク質をクッキーなどの焼き菓子に1〜50%含有させた際には、通常の大豆蛋白等では得られないサクサク感が得られるほか、香ばしく、風味の良い仕上がりとなる。
本発明の大豆胚芽タンパク質は、大麦、小麦、米、ひえ、粟、玄米、黒豆、赤米、緑米、小豆、黒豆、金時豆、ヒヨコ豆、白花豆などの穀類やその胚芽部分、あるいは、落花生、胡桃、ゴマ、松の実、栗等の種実類等と混合して使用した場合には、食品の風味を引き立てる効果を持つほか、上記生理機能性を有する点で、シリアル、焼き菓子、エネルギーバーなどへの利用に優れている。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨はもとよりこれに限定されるものではない。
【0017】
〔試験例1 大豆胚芽タンパク質の製造1〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が70%以上含有されるように分離して、大豆胚芽タンパク質濃縮画分を得た。この方法で得られた濃縮画分は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量40%であった。このうちの70%以上が大豆胚芽由来のタンパク質であることから、本品には大豆胚芽タンパク質含量として28%以上含まれており、その濃縮率は35倍以上となった。このサンプルのタンパク質組成をSDS‐PAGE分析により確認した。SDS‐PAGE分析は、得られたサンプル1gを5mlの10mMリン酸緩衝液(PBS;8.2 mM Na2HPO4、 1.8 mM KH2PO4、137 mM NaCl、3 mM KCl)に懸濁し、30分間の超音波処理によって抽出を行った。この抽出液50μlを、35mM ドデシル硫酸ナトリウム、1%β-メルカプトエタノールを含有する50mM Tris-HCl 250μlに溶解し、MILLEX-HV 0.22 μm ディスポーザブルフィルターでろ過して可溶性タンパク質試料とした。これに、1%のブロモフェノールブルーを含有する10%グリセロール溶液を20μl混合し、沸騰水浴中にて5分間の煮沸処理を行って電気泳動用サンプルとした。以上の処理において、β-メルカプトエタノールを加えた場合と加えない場合では泳動像が大きく異なる為、重要な工程である。
泳動には、PhastSystem (Pharmacia LKB Biotechnology)を用いた。泳動ゲルはPhastGel、Gradient 10-15を使用し、染色はCBBにより行った。泳動後、SDS‐PAGEで分離されたポリペプチド染色バンドの560 nmの吸収を、クロマトスキャナーCS9300(島津製作所)を用いて分析した。通常の大豆であれば約33kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約30kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。同様に、
通常の大豆であれば約48kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約52kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。そのほか、21kD付近、35kD付近にもバンドを認めるなどが通常の大豆タンパク質とは異なる。この像をクロマトスキャナーにより、グラフ化し、チャートのピーク面積から、大豆胚芽タンパク質が通常の大豆蛋白質よりも濃くなっていることを確認した。
各タンパク質の泳動像を図1に示す。
【0018】
〔試験例2 大豆胚芽タンパク質の製造2〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が70%以上含有されるように分離した。これを搾油工程における常法で行われるヘキサン抽出として、低温抽出法および高温抽出法により脱脂し、大豆胚芽タンパク質画分を得た。この方法で得られた大豆胚芽タンパク質は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量43%で、大豆胚芽タンパク質含量として30%以上含まれており、濃縮率は37倍以上となった。このサンプルのタンパク質組成をSDS‐PAGE分析により確認した。SDS‐PAGE分析は、得られたサンプル1mgを5mlの10 mMリン酸緩衝液(PBS;8.2 mM Na2HPO4、 1.8 mM KH2PO4、137 mM NaCl、3 mM KCl)に懸濁し、30分間の超音波処理によって抽出を行った。この抽出液50μlを、35mM ドデシル硫酸ナトリウム、1%β-メルカプトエタノールを含有する50mM Tris-HCl 250μlに溶解し、MILLEX-HV 0.22 μm ディスポーザブルフィルターでろ過して可溶性タンパク質試料とした。これに、1%のブロモフェノールブルーを含有する10%グリセロール溶液を20μl混合し、沸騰水浴中にて5分間の煮沸処理を行って電気泳動用サンプルとした。
泳動には、PhastSystem (Pharmacia LKB Biotechnology)を用いた。泳動ゲルはPhastGel、Gradient 10-15を使用し、染色はCBBにより行った。泳動後、SDS‐PAGEで分離されたポリペプチド染色バンドの560 nmの吸収を、クロマトスキャナーCS9300(島津製作所)を用いて分析した。通常の大豆であれば約33kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約30kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。同様に、通常の大豆であれば約48kD付近に濃いバンドが見られるが、大豆胚芽タンパク質は、それと比較して約52kD付近のバンドが濃い特徴を持つ。そのほか、21kD付近、35kD付近にもバンドを認めるなどが通常の大豆タンパク質とは異なる。この像をクロマトスキャナーにより、グラフ化し、チャートのピーク面積から、大豆胚芽タンパク質が通常の大豆蛋白質よりも濃くなっていることを確認した。
各脱脂タンパク質の泳動像を図2に示す。
【0019】
〔試験例3 大豆胚芽タンパク質の製造3〕
大豆を機械的に割砕し、篩にかけて大豆の胚芽が90%以上含有されるように分離して大豆胚芽を得た。これを搾油工程における常法で行われるヘキサン抽出を行った後、さらに70%含水エタノールを加えて70℃、30分間攪拌した後、ろ過してその残渣を回収した。この残渣を減圧下で100℃、40分間の熱処理をし、大豆胚芽タンパク質画分を得た。この方法で得られた大豆胚芽タンパク質は、全窒素分析の結果、総タンパク質含量62%で、大豆胚芽タンパク質含量として56%以上含まれており、濃縮率は70倍以上となった。このサンプルを試験例1と同様の方法によりSDS‐PAGE分析を行った結果、約33kD付近よりも約30kD付近のバンドが濃く、約48kD付近よりも約52kD付近のバンドが濃く、さらに、21kD付近、35kD付近にもバンドを認める大豆胚芽タンパク質に特徴的な組成を確認した。
また、大豆タンパク質を抗原として得た牛抗血清に対する抗原性をELISA分析法にて測定した結果40U/10mg以下であることを確認した。イソフラボン含量、サポニン含量は共に0.5%以下であり、通常の大豆胚芽と比較して5分の1以下で、丸大豆よりも低い含量であり、多量に食べても苦味が無いほか、これら微量成分の過剰摂取を防ぐことができる。濃縮大豆胚芽タンパク質の泳動像を図3に示す。
【0020】
〔実施例1〕
ラットに高脂肪食を与え、各種生理物質の血中濃度をカゼインに対して、一般的な大豆
蛋白として濃縮大豆蛋白(以下SPCと略す)、上記試験例3の大豆胚芽タンパク質(以下胚芽蛋白と略す)を用いてその値を比較した。
飼養する餌としては
1.カゼイン食、2.SPC食、3.胚芽蛋白食
の3種類を用意した。それぞれの餌の組成を表1に示した。
なお、胚芽蛋白は粉末にして用いた。
ラットは9週齢のCD(SD)IGS雄ラットを個別ケージに入れ、精製飼料(AIN93G)にて1週間予備飼育をおこなった。本試験に入る前に1群8匹を3区、各区の体重の平均値が等しくなるようにグループ分けした。各区のラットにはそれぞれ1.カゼイン食(対照)、2.カゼインをSPCに置き換えたSPC食、3.カゼインを胚芽蛋白で置き換えた胚芽蛋白食を与えた。試験期間は28日間とし、その間水及び飼料は自由摂取させた。試験環境は、温度22±3℃、湿度60±15%で換気回数12〜15回/時間、及び照明12時間(7時〜19時)に設定した飼育室で実施した。
【0021】
投与最終日の夕方よりラットを18時間絶食し、エーテル麻酔下で腹部大動脈より採血した。血液を血清分離剤入り採血管に採取し、3000rpm、15分間遠心分離して血清を分離し、LDLコレステロール(図4)、HDLコレステロール(図5)、中性脂肪(図7)、血糖値を測定した(図8)。また、LDLコレステロールとHDLコレステロールからHDLコレステロール/LDLコレステロール比を計算した(図6)。採血後、放血致死させ、肝臓を摘出し、重量を測定した。また、カゼイン食群、胚芽蛋白食群に関しては、さらに腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、腎周囲脂肪、副精巣周囲脂肪を摘出し、脂肪の蓄積に関しても調査した。なお、測定値については平均値±標準偏差で表現した。統計解析では、必要に応じてTukeyによる多重比較検定を行い、各値の間の有意差について検討した。
【0022】
【表1】
【0023】
図1〜11より、次のことが明らかとなった。
1.図4より、胚芽蛋白食では、血中総コレステロールを低下させる傾向が見られた
2.図5より、胚芽蛋白食では、血中LDLコレステロールを低下させる傾向が見られた
3.図6より、胚芽蛋白食では、血中HDLコレステロールを増加させる傾向が見られた。
4.図7より、胚芽蛋白食では、カゼイン食に比較して血中HDL/LDLコレステロール比を高める傾向が見られた。また、SPC食に対しては有意(P<0.05)にHDL/LDL比を高めることが見出された。コレステロール比に関しては、HDL/総コレステロールで計算しても同
様に胚芽蛋白食でSPC食に対して有意に高まる結果となった。
5.図8より、SPC及び胚芽蛋白食ではカゼイン食に対して、有意(P<0.05)に血中トリグリセリドを低下させた。
6.図9より、SPC及び胚芽蛋白食ではカゼイン食に対して、有意に血糖値を(SPCでP<0.01、胚芽蛋白でP<0.05)低下させた。
7.図10より、体重あたりの肝臓重量は、カゼイン食と比較して胚芽蛋白食でのみ有意(P<0.05)に軽くなり、脂肪肝の予防などに効果があることが明らかとなった。
8.
図11より、腸間膜脂肪、後腹膜脂肪、腎周囲脂肪、副精巣周囲脂肪に関して、胚芽蛋白食を投与した区でカゼイン食区よりも重量が軽く、脂肪の蓄積を抑制している傾向がみられた。
以上より、胚芽蛋白はカゼイン食と比べて血中トリグリセリド、血糖値を低下させた。また、胚芽蛋白はSPCと比較してもHDL/LDLコレステロール比およびHDL/総コレステロール比を改善し、肝臓における脂質蓄積の予防効果を持つ。本発明の胚芽蛋白は、通常の大豆蛋白質とは異なる生理機能を有することが明らかとなった。
【0024】
〔実施例2〕
大豆蛋白素材として、試験例1、2、3における大豆胚芽タンパク質および、その比較例として市販の分離大豆タンパクを使用して焼き菓子を作製した。その際の配合を以下に示す。
薄力粉 130g
バター 100g
大豆蛋白素材 100g
砂糖 80g
卵 1個
バニラエッセンス 少量
以上の原料に、適量の牛乳を加えて混合した。4℃にて2時間保存後、直径約3cmの円盤状の形状に成形し、オーブンにて170℃、約12分間焼いてクッキーを作成した。このクッキーを試食し、10名のパネラーによる官能検査を行った。官能評価の結果、分離大豆タンパクを原料としたクッキーと比較して、大豆胚芽タンパク質を原料としたクッキーは香ばしく、サクサクした食感となり、風味、食感、美味しさの点で評価が上回った。
【0025】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各タンパク質の泳動像を示す図である。
【図2】各脱脂タンパク質の泳動像を示す図である。
【図3】濃縮大豆胚芽タンパク質の泳動像を示す図である。
【図4】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中総コレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図5】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中LDLコレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図6】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中HDLコレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【図7】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中HDLコレステロール/血中LDLコレステロール比の変化を示すグラフである。
【図8】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中トリグリセロール濃度の変化を示すグラフである。
【図9】胚芽蛋白及びSPC投与時の血糖値の変化を示すグラフである。
【図10】胚芽蛋白及びSPC投与時の体重あたり肝臓重量の変化を示すグラフである。
【図11】胚芽蛋白及びSPC投与時の血中総コレステロール濃度の変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆胚芽タンパク質を有効成分とするメタボリックシンドローム改善用組成物。
【請求項2】
メタボリックシンドロームの改善作用が脂質代謝改善効果によることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脂質代謝改善効果が、HDL/LDLコレステロール比の改善および/または血中トリグリセリドの低減である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
メタボリックシンドロームの改善作用が血糖値低減作用および/または肝臓重量の増加抑制に由来するものである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
大豆胚芽タンパク質を有効成分とする痩身用組成物。
【請求項6】
大豆胚芽タンパク質が、大豆胚芽を溶剤処理および熱処理を組み合わせた工程で処理して得られる物質である請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
大豆胚芽タンパク質を含有する血中HDL/LDLコレステロール比改善剤、血中トリグリセリド低減剤、血糖値低減剤、および痩身剤。
【請求項8】
請求項1〜5に記載の組成物を含有する飲食品、機能性食品、栄養補助食品、および飼料。
【請求項1】
大豆胚芽タンパク質を有効成分とするメタボリックシンドローム改善用組成物。
【請求項2】
メタボリックシンドロームの改善作用が脂質代謝改善効果によることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脂質代謝改善効果が、HDL/LDLコレステロール比の改善および/または血中トリグリセリドの低減である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
メタボリックシンドロームの改善作用が血糖値低減作用および/または肝臓重量の増加抑制に由来するものである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
大豆胚芽タンパク質を有効成分とする痩身用組成物。
【請求項6】
大豆胚芽タンパク質が、大豆胚芽を溶剤処理および熱処理を組み合わせた工程で処理して得られる物質である請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
大豆胚芽タンパク質を含有する血中HDL/LDLコレステロール比改善剤、血中トリグリセリド低減剤、血糖値低減剤、および痩身剤。
【請求項8】
請求項1〜5に記載の組成物を含有する飲食品、機能性食品、栄養補助食品、および飼料。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2008−31121(P2008−31121A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208949(P2006−208949)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【特許番号】特許第3944864号(P3944864)
【特許公報発行日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【特許番号】特許第3944864号(P3944864)
【特許公報発行日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】
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