説明

メタボリックシンドローム改善又は予防剤

【課題】 モルトフィードの新たな用途を提供すること。
【解決手段】 モルトフィード又はその粉砕物を有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム改善又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール、発泡酒等の麦芽アルコール飲料の製造過程では、副産物としてモルトフィード(仕込み麦芽粕)が大量に発生する。
【0003】
モルトフィードの用途としては、飼料又は肥料への利用が知られている。また、近年、土地改良材、調味料、再生紙等への利用が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−9954号公報
【特許文献2】特開平8−38061号公報
【特許文献3】特開2000−80587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モルトフィードが恒常的かつ大量に発生することに鑑みれば、モルトフィードの有効利用法に関しては未だ十分な選択肢が存在するとはいえない。
【0006】
そこで、本発明は、モルトフィードの新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、モルトフィード又はその粉砕物をマウスに投与すると、内臓脂肪の蓄積を始めとするメタボリックシンドロームの症状が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、モルトフィード又はその粉砕物を有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤を提供する。ここで、「モルトフィード」とは、麦芽(モルト)の糖化液(マイシェ)から液体成分を除去して得られる粕をいう。
【0009】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪の蓄積を抑制し(内臓脂肪の増大を抑制するか、内臓脂肪を低減させ)、また、脂肪細胞の肥大化を抑制することを可能とする。そして、そのような作用を介して、内臓脂肪型肥満ないしメタボリックシンドロームを改善(治療、軽減)及び予防することを可能とする。
【0010】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能を改善し、肝障害(脂肪肝、肝炎、肝線維化、肝硬変、肝癌等)を抑制(治療、軽減、予防)することを可能とする。また、血糖値を改善し(血糖値の上昇を抑制するか、血糖値を降下させ)、糖尿病を改善(治療、軽減)及び予防することを可能とする。
【0011】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、より高い内臓脂肪蓄積抑制効果、脂肪細胞肥大化抑制効果、肝機能改善効果、血糖値改善効果等が得られる点で、モルトフィードの粉砕物、特に微粉砕物を有効成分として含有することが好ましい。ここで、「微粉砕物」とは、平均粒径50μm以下のモルトフィード粒子をいう。微粉砕物の平均粒径は、好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0012】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、内臓脂肪蓄積抑制作用及び脂肪細胞肥大化抑制作用を有することから、内臓脂肪蓄積抑制剤又は脂肪細胞肥大化抑制剤として使用することもできる。
【0013】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、肝機能改善剤ないし肝障害抑制剤として使用することもできる。また、血糖値改善(血糖値上昇抑制又は血糖値降下)剤ないし糖尿病改善又は予防剤として使用することもできる。
【0014】
モルトフィードは、安全性が厳重に管理された飲料製造過程で発生するものであることから、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、生体への安全性が高く、長期間継続的に摂取可能であり、医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用するのに好適である。すなわち、本発明はまた、上記メタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料等を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モルトフィードの新たな用途が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、生体への安全性が高く、飲食品の成分としても使用可能な新規のメタボリックシンドローム改善又は予防剤が提供される。また、そのようなメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、モルトフィード又はその粉砕物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0019】
「メタボリックシンドローム」とは、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会による「メタボリックシンドロームの定義と診断基準」(日本内科学会誌、94(4)、794−809、2005)で定義されたものを意味する。
【0020】
すなわち、日本人の場合、「ウエスト周囲径:男性≧85cm、女性≧90cm(男女とも、内臓脂肪面積≧100cmに相当)」という要件を満たし、かつ、下記(1)〜(3)のうちの少なくとも2つの要件を満たす場合に、メタボリックシンドロームと診断される。
(1)リポタンパク異常: 高トリグリセリド血症(トリグリセリド値≧150mg/dL)及び/又は低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール値<40mg/dL)
(2)血圧高値: 収縮期血圧≧130mmHg及び/又は拡張期血圧≧85mmHg
(3)高血糖: 空腹時血糖≧110mg/dL
【0021】
上記診断基準によりメタボリックシンドロームと診断された場合には、高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習慣病が発症していることを意味し、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞等の深刻な疾患が引き起こされやすい状態にあるといえる。
【0022】
本発明において、「モルトフィード」とは、麦芽(モルト)の糖化液(マイシェ)から液体成分を除去して得られる粕を意味する。麦芽ないしモルトフィードは、典型的には大麦に由来するが、小麦、オート麦、ライ麦等に由来するものであってもよい。
【0023】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、モルトフィードの粉砕物、特に微粉砕物を有効成分として含有することが好ましい。モルトフィードの粉砕物は、例えば、ハンマーミル、ターボミル、ロールミル、ジェットミル、超音波粉砕機等を用いてモルトフィードを粉砕することによって得ることができる。また、モルトフィードの微粉砕物は、例えば、ジェットミルを用いてモルトフィードを粉砕し、次いで超音波ふるいでふるい分けすることによって得ることができる。
【0024】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形をとってもよい。また、本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はモルトフィード又はその粉砕物からなるものであってもよい。
【0025】
上述の各種製剤は、モルトフィード又はその粉砕物と、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0026】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、上述の界面活性剤の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、飲料、食品、飼料等に添加して用いることができる。添加可能な飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料等が挙げられる。また、添加可能な食品としては、例えば、ご飯、麦ご飯等の粒食、及び小麦粉等の粉食が挙げられる。特に、小麦粉を素材とする、麺、パン、お菓子等の食品は添加の対象として好適である。更に、麦を原料とした加工食品(例えば、味噌、醤油)も添加の対象となる。本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。飲料、食品等の全質量に対するメタボリックシンドローム改善又は予防剤の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。
【0028】
上記飲料、食品、飼料等は、当該分野で通常使用される添加物を更に含有していてもよい。そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルテン等のタンパク質;大豆、エンドウ等の豆類;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類;亜鉛、銅、マグネシウム等のミネラル類;CoQ10、α−リポ酸、カルニチン、カプサイシン等の機能性素材が挙げられる。これらの添加物は、各々を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明のメタボリックシンドローム改善又は予防剤は、ヒトに投与されても、非ヒト哺乳動物に投与されてもよい。投与量及び投与方法は、投与される個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な投与方法としては、例えば、経口投与が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
4週齢、雄のKKマウス(日本クレア社)を用いて、モルトフィード及びその粉砕物の内臓脂肪蓄積抑制作用、脂肪細胞肥大化抑制作用、肝機能改善作用、血糖値改善作用を確認する以下の試験を行った。
【0032】
(マウスの群分け)
マウスは、1週間の馴化飼育後、一般状態が良好であったマウスを24匹選択し、体重、血漿総コレステロール及び血漿トリグリセリドが群間でバラつかないように、コントロール群、モルトフィード群、微粉砕モルトフィード群の3群(各群8匹)に分けた。なお、馴化飼育期間及びその後の試験期間を通じて、マウスは、温度22±3℃、相対湿度55±20%、換気回数12回/時、明暗時間12時間(明期:8時〜20時)の条件で飼育した。
【0033】
(モルトフィード及びその微粉砕物の調製)
大麦由来の麦芽を糖化し、得られた糖化液(マイシェ)をロイターで濾過し、濾物を熱風で乾燥して、モルトフィードを得た。また、得られたモルトフィードの一部(平均粒径:328.2μm)を、ジェットミルNJ−100型(徳寿工作所)を用いて2回粉砕処理(供給速度:3kg/時;圧縮空気圧:0.9MPa)し、粉砕物を更に超音波ふるいにかけて、平均粒径8.3μmのモルトフィード微粉砕物を得た。モルトフィード及びその微粉砕物の平均粒径の測定は、SALD−3100(島津製作所)を用いて行った。
【0034】
(飼料の調製)
各群のマウスに投与する飼料は、粉末飼料AIN93Gをベースにして、表1の組成が得られるように調製した(コントロール群のマウスに投与する飼料は、粉末飼料AIN93Gをそのまま使用した)。表中、各成分量の単位はg/kg飼料である。
【0035】
【表1】

【0036】
(飼料の投与)
上述の馴化飼育後、各群のマウスに所定の飼料及び水を8週間自由に摂取させた。なお、馴化飼育期間中は、飼料としてAIN93Gをそのまま使用した。
【0037】
(脂肪重量、脂肪細胞サイズ、血漿AST、血漿ALT、血糖値の測定)
8週間の飼料投与期間終了後、各群のマウスについて、エーテル麻酔下、心採血、解剖を行い、後腹壁脂肪重量(g/100g体重)、副睾丸周辺脂肪重量(g/100g体重)、後腹壁脂肪細胞サイズ(長径)(μm)、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ(長径)(μm)、腸間膜脂肪細胞サイズ(長径)(μm)、血漿AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)(U/L)、血漿ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(U/L)、血糖値(mg/dL)を測定した。なお、血漿AST、血漿ALTは、一般に肝機能の指標として用いられる。
【0038】
結果(平均±標準誤差)を表2〜5及び図1〜8に示す。図1は、各群のマウスの後腹壁脂肪重量を示すグラフである。図2は、各群のマウスの副睾丸周辺脂肪重量を示すグラフである。図3は、各群のマウスの後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。図4は、各群のマウスの副睾丸周辺脂肪細胞サイズを示すグラフである。図5は、各群のマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。図6は、各群のマウスの血漿ASTを示すグラフである。図7は、各群のマウスの血漿ALTを示すグラフである。図8は、各群のマウスの血糖値を示すグラフである。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
表2〜5及び図1〜8から明らかなように、後腹壁脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、後腹壁脂肪細胞サイズ、副睾丸周辺脂肪細胞サイズ、腸間膜脂肪細胞サイズ、血漿AST、血漿ALT、血糖値のいずれも、コントロール群と比較して、モルトフィード群、微粉砕モルトフィード群において低値を示し、特に微粉砕モルトフィード群において顕著に低い値を示した。
【0044】
以上の実施例により、モルトフィード及びその粉砕物は、内臓脂肪蓄積抑制作用(図1、2)、脂肪細胞肥大化抑制作用(図3〜5)、肝機能改善作用(図6、7)、血糖値改善作用(図8)を有し、メタボリックシンドローム改善又は予防剤の成分として有用であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの後腹壁脂肪重量を示すグラフである。
【図2】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの副睾丸周辺脂肪重量を示すグラフである。
【図3】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの後腹壁脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図4】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの副睾丸周辺脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図5】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの腸間膜脂肪細胞サイズを示すグラフである。
【図6】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの血漿ASTを示すグラフである。
【図7】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの血漿ALTを示すグラフである。
【図8】モルトフィード又はその微粉砕物を投与したマウスの血糖値を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルトフィードを有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項2】
モルトフィードの粉砕物を有効成分として含有するメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項3】
前記粉砕物が微粉砕物である、請求項2に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項4】
内臓脂肪の蓄積を抑制するために使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項5】
脂肪細胞の肥大化を抑制するために使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項6】
肝機能を改善するために使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項7】
血糖値を改善するために使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飲食品添加物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のメタボリックシンドローム改善又は予防剤を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−150185(P2010−150185A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330156(P2008−330156)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】