説明

メタン発酵方法及び発酵装置

【課題】発酵処理対象液に含まれる有機性成分を発酵により処理する技術において、発酵によって発生する生物ガスを活用することにより、無動力で発酵処理対象液の撹拌及び移送を行う。
【解決手段】有機性成分を含む発酵処理対象液の発酵処理を下部同士が互いに連通した複数の発酵槽1,2で行い、上流側の発酵槽1で発生する生物ガスの圧力P1により、発酵処理対象液L1を上流側の発酵槽1から下流側の発酵槽2へ移送すると共に、下流側の発酵槽2の発酵処理対象液L2をオーバーフローさせて系外へ移送し、上流側の発酵槽1に蓄積された生物ガスの圧力P1を開放することにより下流側の発酵槽2の発酵処理対象液L2の一部を上流側の発酵槽1へ還流させ、これにより無動力で発酵処理対象液の撹拌及び移送を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵槽内の有機性の発酵処理対象液を無動力で撹拌しながらメタン発酵させる方法及びそのための発酵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設において、活性汚泥処理工程で発生する余剰汚泥をメタン発酵処理によりメタン(CH)ガスを発生させてエネルギーを回収する技術は、下水処理余剰汚泥の有効利用方法として一般的な技術となっている。
【0003】
通常、メタン発酵処理施設では、有機性廃棄物又は有機性廃水を、メタン発酵消化液を満たしたメタン発酵槽に投入し、このメタン発酵消化液と有機性廃棄物又は有機性廃水との混合液(以下、発酵処理対象液という)を任意の期間滞留させてメタン発酵させる。例えば下水処理施設の活性汚泥処理工程で発生する余剰汚泥は、最初に沈殿池で回収される汚泥と混合し、メタン発酵槽に投入して20〜30日の発酵時間を経てメタンガスを発生させる。
【0004】
メタン発酵槽内で効率的に発酵を進めるためには、発酵処理対象液を撹拌する必要がある。このためメタン発酵槽には撹拌装置を備えているのが一般的である。しかし、撹拌装置の導入コスト、維持管理コスト、撹拌装置を駆動するための外部動力コストなどは、処理コスト増大の要因となっている。
【0005】
また、メタン発酵後の残渣液である消化液は、例えばメタン発酵処理のみでは分解されない難分解性の有機性成分を好気性微生物によって分解したり、脱窒処理などを行うために、メタン発酵槽内から、系外の次の工程へ移送するが、この移送はポンプなどで行うのが一般的であり、撹拌装置と同様、ポンプの導入コスト、維持管理コスト、ポンプを駆動するための外部動力によるコストがかかる問題を有する。
【0006】
そこで、撹拌装置による処理コストを削減するための手法としては、従来、外部動力を用いずに発酵槽内の発酵処理対象液を撹拌する技術が開発されている(下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−276897号公報
【特許文献2】特開2007−130510号公報
【0008】
このうち特許文献1には、発酵槽内で発生するガスをガス室に溜め、このガスを、サイフォンの原理を利用して液内に噴出させることにより、外部動力を必要とすることなく発酵槽内を撹拌する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、メタン発酵により生成する生物ガスを利用して間欠的に液を撹拌する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、発酵槽内で発生するガスを利用して撹拌を行う手段としては望ましい方式であるが、発生したガスを循環させるためのポンプを必要とするため、ポンプの導入コスト、維持管理コスト、ポンプを駆動するための外部動力によるコストがかかる問題は、依然として解消されていない。また、特許文献1では触れられていないが、発酵処理対象液は移送管内で閉塞を起こしやすく、発酵処理対象液に浸漬した複数の液吸管を備える特許文献1の構造では、このような閉塞を防止することが困難であるという問題がある。
【0011】
また、特許文献2に開示された技術は、上述の特許文献1と同様、発酵槽内で発生するガスを利用して撹拌を行う手段としては望ましい方式であるが、移送管が常に発酵処理対象液に浸漬されているため、特許文献1と同様の問題が指摘される。
【0012】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、発酵処理対象液に含まれる有機性成分を発酵により処理する技術において、発酵によって発生する生物ガスを活用することにより、無動力で発酵処理対象液の撹拌及び移送を行い、低コストで発酵処理可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る発酵方法は、有機性成分を含む発酵処理対象液の発酵処理を下部同士が互いに連通した複数の発酵槽で行い、上流側の発酵槽で発生する生物ガスの圧力により、発酵処理対象液を上流側の発酵槽から下流側の発酵槽へ移送することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明に係る発酵方法は、有機性成分を含む発酵処理対象液の発酵処理を下部同士が互いに連通した複数の発酵槽で行い、上流側の発酵槽で発生する生物ガス量が下流側の発酵槽で発生する生物ガス量より多くなることにより生じるガス圧力差により、発酵処理対象液を上流側の発酵槽から下流側の発酵槽へ移送することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の発明に係る発酵方法は、請求項1又は請求項2に記載の方法において、上流側の発酵槽の生物ガスの圧力により、下流側の発酵槽の発酵処理対象液をオーバーフローさせて系外へ移送することを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の発明に係る発酵方法は、請求項1又は請求項2に記載の方法において、上流側の発酵槽に蓄積された生物ガスの圧力を開放することにより下流側の発酵槽の発酵処理対象液の一部を上流側の発酵槽へ還流させて撹拌することを特徴とするものである。
【0017】
請求項5の発明に係る発酵装置は、上部に密閉可能な投入口を有する上流側発酵槽と消化液排出管を有する下流側発酵槽を備え、これら上流側発酵槽の下部と下流側発酵槽の下部が、第一連通部を介して互いに連通し、上流側発酵槽の上部気室の圧力を開放可能としたことを特徴とするものである。
【0018】
請求項6の発明に係る発酵装置は、請求項5に記載の構成において、上流側発酵槽と下流側発酵槽が、一端が消化液排出管からのオーバーフローにより規定される下流側発酵槽の液面レベルの上限高さより上側で下流側発酵槽の上部気室に開口し、他端が前記一端の開口高さより下側で上流側発酵槽に開口した第二連通部を介して互いに連通したことを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の発明に係る発酵装置は、請求項5に記載の構成において、上流側発酵槽の上部気室の圧力が、バルブを介して開放可能としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜3の発明に係る発酵方法によれば、メタン発酵による生物ガスの圧力を利用して、無動力で発酵処理対象液の移送を行うため、低コストで発酵処理を行うことができる。
【0021】
請求項4の発明に係る発酵方法によれば、メタン発酵による生物ガスの圧力を利用して無動力で発酵処理対象液の撹拌を行うため、低コストで発酵処理を行うことができる。
【0022】
請求項5〜7の発明に係る発酵装置によれば、請求項1〜4を発明に係る発酵方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る発酵装置の第一の形態を示す概略構成説明図である。
【図2】生物ガスの発生速度の推移を示す線図である。
【図3】本発明に係る発酵装置の第二の形態を示す概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る発酵方法及び発酵装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず図1は、第一の形態を示す概略構成説明図である。
【0025】
すなわち図1に示される発酵装置は、隔壁3を介して互いに隣接した状態に画成された上流側発酵槽1と下流側発酵槽2とを備える。隔壁3の下部には、請求項5に記載された第一連通部に相当する開口部3aが開設されており、上流側発酵槽1の下部と下流側発酵槽2の下部は、この開口部3aを介して互いに連通している。
【0026】
なお、上流側発酵槽1と下流側発酵槽2の形状は特に限定しない。また、上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2のそれぞれの容積は同等とするか、あるいは下流側発酵槽2を上流側発酵槽1よりも大きいものとするが、処理する有機性廃棄物及び有機性廃水の量、処理時間、廃水に含まれる有機性成分の濃度、性状などを考慮して、それらの容積が適切に設定される。
【0027】
上流側発酵槽1の上部には、有機性廃棄物又は有機性廃水を投入するための投入口4が開設されている。この投入口4は、有機性廃棄物又は有機性廃水などの投入時以外は、投入口開閉手段41によって密閉可能となっている。
【0028】
下流側発酵槽2には、この下流側発酵槽2の液面レベルが所定の高さh2を超えた時にオーバーフローさせる消化液排出管5と、この消化液排出管5により規定される液面レベルの上限高さh2よりも上方に相当する上部気室2aには、ガス排出管6が開口されている。前記上部気室2a(下流側発酵槽2)の気相圧力P2は大気圧に保持されており、ガス排出管6は、不図示の生物ガス回収部に接続されている。また、消化液排出管5には、例えばトラップ5aが設けられており、このトラップ5aなどに滞留する消化液によって、下流側発酵槽2の上部気室2aが外気から遮断され、下流側発酵槽2の嫌気性が保たれるようになっている。
【0029】
隔壁3の上部には、請求項6に記載された第二連通部に相当する連通管7が貫通して取り付けられており、その一端開口7aが、消化液排出管5により規定される液面レベルの上限高さh2よりも上方で下流側発酵槽2の上部気室2aに開口していると共に、他端開口7bが、前記下流側発酵槽2の液面レベルの上限高さh2よりも下方で上流側発酵槽1に開口している。
【0030】
以上のように構成された第一の形態の発酵装置による発酵処理では、まず投入口開閉手段41を開いて投入口4から有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水を、上流側発酵槽1へ投入する。なお、有機性廃棄物又は有機性廃水などの投入時以外は、投入口4は投入口開閉手段41によって密閉される。またこのとき、上流側発酵槽1内の液面レベルh1は連通管7の他端開口7bより上側にあるものとすることによって、上流側発酵槽1は気密状態に保たれる。
【0031】
上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2には、先行して投入されメタン発酵過程にある発酵処理対象液が貯留されており、投入口4から新たに投入された有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水は、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液に混入されるので、この発酵処理対象液と有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水との混合液(以下、単に発酵処理対象液という)L1に含まれる有機性成分が、メタン菌などの嫌気性微生物の作用によって経時的に分解(メタン発酵)され、メタン(CH4)ガスなどの生物ガスを発生する。
【0032】
ここで、上述のメタン発酵は、上流側発酵槽1内及び下流側発酵槽2内の双方の発酵処理対象液L1,L2で行われるが、メタン発酵による生物ガスの発生速度は、図2に示されるように、有機性廃棄物や有機性廃水の投入直後に最大となる。したがって、発生ガス量は上流側発酵槽1内のほうが下流側発酵槽2内よりも多くなる。
【0033】
このとき、投入口4が密閉されると共に上流側発酵槽1内の液面レベルh1が連通管7の他端開口7bより上側にあることによって、上流側発酵槽1は気密状態に保たれているため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1から発生する生物ガスは液中を浮上し、あるいは液面から放出されて、上流側発酵槽1の上部気室1a内に蓄積されて行く。
【0034】
一方、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2から発生する生物ガスは液中を浮上し、あるいは液面から下流側発酵槽2の上部気室2aへ放出され、この上部気室2aからガス排出管6を通じて、不図示の生物ガス回収部に回収される。なお、回収された生物ガスは、例えば発電用の燃料として有効に利用することができる。
【0035】
このため、上流側発酵槽1内の液面に作用する上部気室1a内に蓄積される生物ガスの圧力(気相圧力)P1が上昇して行くのに対し、下流側発酵槽2の上部気室2aには生物ガスは蓄積されず、下流側発酵槽2の液面に作用する生物ガスの圧力(気相圧力)P2は大気圧に保たれる。したがって、上流側発酵槽1の気相圧力P1は下流側発酵槽2の気相圧力P2よりも高くなり、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の液面が押し下げられる。このため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の一部は、隔壁3の下部に開設された開口部3aを通じて下流側発酵槽2へ移送され、その流れによって前記発酵処理対象液L1が下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2と混合しながら、この発酵処理対象液L2を撹拌する。
【0036】
また、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の一部が開口部3aを通じて下流側発酵槽2へ移送されることによって、この下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の液面レベルが、消化液排出管5の上端開口5bの高さにより規定される液面レベルの上限高さh2を超えると、これによって下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部は、メタン発酵後の消化液L3として消化液排出管5の上端開口5bからオーバーフローし、系外の次工程へ移送される。
【0037】
ここで、上流側発酵槽1の上部気室1a内の気相圧力P1の上昇によって押し下げられる上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の液面レベルh1が、上流側発酵槽1内に開口した連通管7の開口7bの高さh7以上の高さにある場合は、上部気室1a,2aの気相圧力の差P1−P2によって、連通管7内には、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の一部が浸入しており、これによって、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相と下流側発酵槽2の上部気室2aの気相同士が互いに不連続となっている。なお、図1では、連通管7内の液柱高さを下流側発酵槽2の液面レベルh2と同一に示してあるが、連通管7の内径や発酵処理対象液L1の性状によっては、連通管7の内面との抵抗が大きくなるため、実際には、連通管7内の液柱高さは、上流側発酵槽1の液面レベルh1と下流側発酵槽2の液面レベルh2との間に位置することが多い。
【0038】
そして、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1が所定値を超えて上昇することによって、上流側発酵槽1内の液面レベルh1が連通管7の開口7bの高さh7を下回るまで低下すると、その瞬間に連通管7内の発酵処理対象液が流出するので、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力が連通管7を介して下流側発酵槽2の上部気室2aに開放される。
【0039】
このため、上流側発酵槽1の上部気室1aに蓄積された生物ガスの一部、が連通管7を通じて下流側発酵槽2の上部気室2aへ流れ込むと共に、上流側発酵槽1の気相圧力P1が急激に低下して下流側発酵槽2の気相圧力P2との圧力差が解消されるので、上流側発酵槽1と下流側発酵槽2の液面レベル差Δhによる液圧差によって、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部が、隔壁3の下部に開設された開口部3aを通じて上流側発酵槽1へ還流される。
【0040】
したがって、下流側発酵槽2の液面が、消化液排出管5の上端開口5bの高さにより規定される液面レベルの上限高さh2よりも低下すると共に、上流側発酵槽1の液面レベルが上昇する。また、開口部3aを通じて上流側発酵槽1へ流れ込んだ下流側発酵槽2の発酵処理対象液L2の一部は、その流れによって上流側発酵槽1の発酵処理対象液L1と混合しながら、この発酵処理対象液L1を撹拌する。
【0041】
そして上述の還流によって上流側発酵槽1の液面レベルが上昇すると、これによって連通管7に上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の一部が入り込むので、再び上流側発酵槽1の上部気室1aと下流側発酵槽2の上部気室2aの気相同士の連通状態が遮断される。このため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1から発生する生物ガスが上部気室1aに蓄積されてその気相圧力P1が下流側発酵槽2の気相圧力P2よりも高くなり、その圧力差によって、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の液面レベルh1が押し下げられ、この発酵処理対象液L1の一部が開口部3aを通じて下流側発酵槽2へ移送される。
【0042】
したがって上流側発酵槽1の生物ガスの圧力を利用して上流側発酵槽1と下流側発酵槽2に液面レベル差を発生させ、その液面レベル差が所定値を超えた時点で、連通管7が通気状態となって液面レベル差を解消する圧力開放作用を生じることが自動的に繰り返されることになる。このため、外部動力を用いることなく上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2の発酵処理対象液L1,L2を撹拌することができると共に、メタン発酵後の消化液L3を消化液排出管5から系外へ移送することができる。
【0043】
さらに、下流側発酵槽2から上流側発酵槽1への発酵処理対象液L2の還流による撹拌が起こる際には、連通管7内の発酵処理対象液が上流側発酵槽1へ流出して上流側発酵槽1の上部気室1a内の生物ガスが流入し、すなわち連通管7内が液相から気相に置換される動作が自動的かつ定期的に行われるため、発酵処理対象液の浸漬による連通管7の閉塞を防止することができ、維持管理コストを削減することができる。
【0044】
下流側発酵槽2から消化液排出管5を通じて系外へ移送された消化液L3は、例えばメタン発酵による嫌気性処理のみでは分解されない難分解性の有機性成分を好気性微生物によって分解すると共に窒素成分を硝酸態窒素へ酸化させる好気処理や、脱窒菌により前記硝酸態窒素を還元して脱窒素させる嫌気処置などの工程を経て十分に清浄化された後、環境へ放流される。
【0045】
なお、図示の例では、上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2の形状は立方体又は直方体であり、かつ上流側発酵槽1と下流側発酵槽2は互いに同じ容積であるが、有機性廃棄物及び有機性廃水の処理時間、有機性成分の濃度や性状などによって発酵槽1,2の形状を変更することや、容積に差を設けることも可能である。そして、上流側発酵槽1と下流側発酵槽2の発酵処理対象液L1,L2の滞留時間は、それぞれの槽の容積によって設定することができる。
【0046】
次に図3は、本発明に係る発酵装置の第二の形態を示す概略構成説明図である。
【0047】
この形態において、上述した図1に示される第一の形態と異なるところは、連通管7の代わりに、上流側発酵槽1の上部気室1aに、バルブ81により開閉可能なガス排出管8が開設され、このガス排出管8を、下流側発酵槽2の上部気室2aから延びるガス排出管6に合流させたことにある。すなわち、上流側発酵槽1の上部気室1aと、下流側発酵槽2の上部気室2aは、バルブ81、ガス排出管8及びガス排出管6を介して連通可能となっており、その他は、基本的に図1と同様に構成されている。
【0048】
バルブ81としては、例えば電磁弁、フラッパー弁、フロート弁などが採用可能であって、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1を圧力センサ9によって常時検出されるようにしておき、その検出値が設定値を超えたときに、不図示の制御手段を介して開弁するように構成される。この場合の設定値としては、下流側発酵槽2の液面を消化液排出管5の上端開口5bの高さh2に押し上げる圧力以上であると共に、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1が全て下流側発酵槽2へ移送されてしまう値を上限とし、槽の材質や容積、撹拌頻度、撹拌強度を考慮して決定する。例えば数値としては最大で1MPa(約10気圧)に設定される。
【0049】
以上のように構成された第二の形態の発酵装置による発酵処理では、まず投入口開閉手段41を開いて投入口4から有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水を、上流側発酵槽1へ投入する。なお、有機性廃棄物又は有機性廃水などの投入時以外は、投入口4は投入口開閉手段41によって密閉される。またこのとき、ガス排出管8に設けられたバルブ81は閉弁されており、このため上流側発酵槽1は気密に保たれる。
【0050】
上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2には、先行して投入されメタン発酵過程にある発酵処理対象液が貯留されており、投入口4から新たに投入された有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水は、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液に混入されるので、この発酵処理対象液と有機性廃棄物及び(又は)有機性廃水との混合液である発酵処理対象液L1に含まれる有機性成分が、メタン菌などの嫌気性微生物の作用によって経時的に分解(メタン発酵)され、メタンガスなどの生物ガスを発生する。そして先に説明したように、メタン発酵による生物ガスの発生速度は、有機性廃棄物や有機性廃水の投入直後に最大となるため、発生ガス量は上流側発酵槽1内のほうが下流側発酵槽2内よりも多くなる。
【0051】
このとき、投入口4が密閉されると共にバルブ81が閉弁されていることによって、上流側発酵槽1は気密状態に保たれているため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1から発生する生物ガスは上流側発酵槽1の上部気室1a内に蓄積されて行く。一方、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2から発生する生物ガスは、ガス排出管6を通じて流出し、不図示の生物ガス回収部に回収される。
【0052】
このため、上流側発酵槽1の気相圧力P1は下流側発酵槽2の気相圧力P2よりも高くなり、この圧力P1によって、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の液面が押し下げられる。このため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の一部は、隔壁3の下部に開設された開口部3aを通じて下流側発酵槽2へ移送される。そして、これによって、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の液面レベルが消化液排出管5の上端開口5bの高さにより規定される液面レベルの上限高さh2を超えると、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部は、メタン発酵後の消化液L3として消化液排出管5からオーバーフローし、系外へ移送される。
【0053】
そして、圧力センサ9によって常時検出されている上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1が設定値を超えて上昇すると、その時点でバルブ81が開弁動作してガス排出管8が開放されるので、上流側発酵槽1の上部気室1aに蓄積された生物ガスがガス排出管8及びその下流側のガス排出管6を通じて流出し、不図示の生物ガス回収部に回収される。回収された生物ガスは、例えば発電用の燃料として有効に利用することができる。
【0054】
そして、バルブ81の開弁によって、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1が急激に低下して下流側発酵槽2の上部気室2aとの圧力差が解消されるので、上流側発酵槽1と下流側発酵槽2の液面レベル差Δhによる液圧差によって、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部が、隔壁3の下部に開設された開口部3aを通じて上流側発酵槽1へ還流される。上流側発酵槽1へ流れ込んだ下流側発酵槽2の発酵処理対象液L2は、その流れによって上流側発酵槽1の発酵処理対象液L1と混合しながら、この発酵処理対象液L1を撹拌する。
【0055】
上述のように、下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部が上流側発酵槽1へ還流されることによって、下流側発酵槽2の液面が、消化液排出管5の上端開口5bの高さにより規定される液面レベルの上限高さh2よりも低下すると共に、上流側発酵槽1の液面レベルが上昇し、これに伴って、上流側発酵槽1の上部気室1aからガス排出管8を通じて排出される生物ガスの一部は、下流側発酵槽2の上部気室2aへ流入する。
【0056】
また、上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1が設定値未満の値まで低下したことが圧力センサ9によって検出されると、その時点で、制御手段を介してバルブ81がガス排出管8を閉塞する。このため、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1から発生する生物ガスが上部気室1aに蓄積されてその気相圧力P1が下流側発酵槽2の気相圧力P2よりも高くなり、その圧力差によって、上流側発酵槽1内の発酵処理対象液L1の液面が押し下げられ、この発酵処理対象液L1の一部が開口部3aを通じて下流側発酵槽2へ移送される。
【0057】
したがって上流側発酵槽1の生物ガスの圧力を利用して上流側発酵槽1と下流側発酵槽2に液面レベル差Δhを発生させ、その液面レベル差Δh、言い換えれば上部気室1a,2aの気相圧力の差P1−P2が設定値を超えた時点で、バルブ81が開かれて液面レベル差Δhを解消するといった動作が自動的に繰り返されることになる。このため、外部動力を用いることなく上流側発酵槽1及び下流側発酵槽2の発酵処理対象液L1,L2を撹拌することができると共に、メタン発酵後の消化液L3を消化液排出管5から系外へ移送することができる。
【0058】
なお、図3に示される第二の形態では、バルブ81を開閉させるために圧力センサ9で上流側発酵槽1の上部気室1aの気相圧力P1を検出することとしたが、例えば上流側発酵槽1の液面レベルh1が一定の高さまで低下したことをレベルセンサで検出することによってバルブ81が開かれ、これによって下流側発酵槽2内の発酵処理対象液L2の一部が開口部3aを通じて上流側発酵槽1へ還流されることによって、下流側発酵槽2の液面レベルh2が一定の高さまで低下するか、又は上流側発酵槽1の液面レベルh1が第二の一定の高さまで上昇したことをレベルセンサで検出することによってバルブ81が閉塞するように構成しても良い。
【0059】
また、上述した形態では、いずれも下流側発酵槽2の上部気室2aを大気圧に保持しておくこととしたが、下流側発酵槽2の上部気室2aを大気圧に保持しなくても、上述のように上流側発酵槽1のガス発生速度が下流側発酵槽2のガス発生速度よりも速いことにより生じる圧力差を利用して、上流側発酵槽1の発酵処理対象液L1の一部を下流側発酵槽2へ移送すると共に、下流側発酵槽2の発酵処理対象液L2をオーバーフローさせて系外へ移送し、上流側発酵槽1の上部気室1aに蓄積された生物ガスの圧力P1を開放することにより下流側発酵槽2の発酵処理対象液L2の一部を上流側発酵槽1へ還流させることは可能である。
【0060】
またこの場合は、下流側発酵槽2の上部気室2aに蓄積された生物ガスによる気相圧力P2が所定の値に上昇した時点で、ガス排出管6を不図示のバルブにより開くようにすることなどが考えられる。
【0061】
上述のように、本発明の特徴としては、メタン発酵処理対象液を、外部動力を導入することなく撹拌及び移送できることが挙げられる。このため、外部動力を用いた撹拌装置やポンプなどを不要とし、維持管理や動力投入のためのコストを削減することができる。
【0062】
具体的には、例えば日量生ゴミ1m3(重量で0.7t)を処理する容積5m3のメタン発酵槽において、上流側発酵槽1を1m3、下流側発酵槽2を4m3に区分し、滞留時間を5日に設定する。メタン発酵によれば、ゴミ1tあたり約150m3の生物ガスが発生することが知られており、さらに、5日目までに発生する生物ガスのうち、約60%は1日目で発生することから、1日に上流側発酵槽1で発生する生物ガス量は63m3となる。この生物ガスによって、1日あたり63m3分の発酵処理対象液L1が上流側発酵槽1から下流側発酵槽2へ移動し、同量の発酵処理対象液L2が下流側発酵槽2から上流側発酵槽1へ移動する。したがって1日あたりメタン発酵槽の容積の25.2倍に相当する126m3分の発酵処理対象液を撹拌することができる。
【0063】
同様に、例えば日量生ゴミ1m3を(重量で0.7t)を処理する容積5m3のメタン発酵槽において、上流側発酵槽1を2.5m3、下流側発酵槽2を同じく2.5m3に区分し、滞留時間を5日に設定した場合、5日目までに発生する生物ガスのうち、2.5日までに発生する生物ガスの割合は約80%であることから、1日に上流側発酵槽1で発生する生物ガス量は84m3となる。この生物ガスによって、1日あたり84m3分の発酵処理対象液L1が上流側発酵槽1から下流側発酵槽2へ移動し、同量の発酵処理対象液L2が下流側発酵槽から上流側発酵槽へ移動する。したがって1日あたりメタン発酵槽の容積の33.6倍に相当する168m3分のメ発酵処理対象液を撹拌することができる。
【0064】
いずれの場合も、メタン発酵槽の容積よりも大きな体積の生物ガスをもって発酵処理対象液を流動させるため、十分な撹拌を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1 上流側発酵槽
1a,2a 上部気室
2 下流側発酵槽
3 隔壁
3a 開口部(第一連通部)
4 投入口
41 投入口開閉手段
5 消化液排出管
6,8 ガス排出管
7 連通管(第二連通部)
81 バルブ
1,L2 発酵処理対象液
3 消化液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性成分を含む発酵処理対象液の発酵処理を下部同士が互いに連通した複数の発酵槽で行い、上流側の発酵槽で発生する生物ガスの圧力により、発酵処理対象液を上流側の発酵槽から下流側の発酵槽へ移送することを特徴とする発酵方法。
【請求項2】
有機性成分を含む発酵処理対象液の発酵処理を下部同士が互いに連通した複数の発酵槽で行い、上流側の発酵槽で発生する生物ガス量が下流側の発酵槽で発生する生物ガス量より多くなることにより生じるガス圧力差により、発酵処理対象液を上流側の発酵槽から下流側の発酵槽へ移送することを特徴とする発酵方法。
【請求項3】
上流側の発酵槽の生物ガスの圧力により、下流側の発酵槽の発酵処理対象液をオーバーフローさせて系外へ移送することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発酵方法。
【請求項4】
上流側の発酵槽に蓄積された生物ガスの圧力を開放することにより下流側の発酵槽の発酵処理対象液の一部を上流側の発酵槽へ還流させて撹拌することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発酵方法。
【請求項5】
上部に密閉可能な投入口を有する上流側発酵槽と、消化液排出管を有する下流側発酵槽を備え、これら上流側発酵槽の下部と下流側発酵槽の下部が、第一連通部を介して互いに連通し、上流側発酵槽の上部気室の圧力を開放可能としたことを特徴とする発酵装置。
【請求項6】
上流側発酵槽と下流側発酵槽が、一端が消化液排出管からのオーバーフローにより規定される下流側発酵槽の液面レベルの上限高さより上側で下流側発酵槽の上部気室に開口し、他端が前記一端の開口高さより下側で上流側発酵槽に開口した第二連通部を介して互いに連通したことを特徴とする請求項5に記載の発酵装置。
【請求項7】
上流側発酵槽の上部気室の圧力が、バルブを介して開放可能としたことを特徴とする請求項5に記載の発酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−247100(P2010−247100A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100466(P2009−100466)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】