説明

メチオニンの製造方法

【課題】シアン化ナトリウムを原料として用いることなく、メチオニンを製造できる新たな方法が求められていた。
【解決手段】2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる第1工程と、第1工程で得られる2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する第2工程とを有するメチオニンの製造方法。第1工程は、好ましくはラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチオニン(別名:2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸)は、必須アミノ酸であり、飼料添加剤等として用いられる極めて有用な化合物である。
【0003】
メチオニンの製造方法としては、アクロレインにメタンチオールを付加させて得られる3−メチルチオプロピオンアルデヒドと、シアン化ナトリウムと、重炭酸アンモニウムとを反応させて置換ヒダントインに導いた後、置換ヒダントインをアルカリで加水分解する方法が知られている(例えば非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】工業有機化学、東京化学同人、273〜275頁(1978年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法は、シアン化ナトリウムを原料として使用するが、シアン化ナトリウムの取り扱いには充分な管理やそれに適合する設備等が必要である。
かかる状況下、シアン化ナトリウムを原料として用いることなく、メチオニンを製造できる新たな方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討し、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は以下の通りである。
〔1〕 2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる第1工程と、
第1工程で得られる2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する第2工程と
を有するメチオニンの製造方法。
〔2〕 第1工程が、ラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 ラジカル開始剤がアゾ化合物である前記〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 第1工程が、溶媒の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の製造方法。
〔5〕 溶媒がエステル溶媒である前記〔4〕記載の製造方法。
〔6〕 第2工程が、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔7〕 第2工程が、銅と水との存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔8〕 第2工程が、ルテニウム又は白金と酸素との存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔9〕 第2工程が、さらにアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の典型金属化合物の存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である前記〔6〕〜〔8〕のいずれか記載の製造方法。
〔10〕 典型金属化合物がアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物である前記〔9〕記載の製造方法。
〔11〕 第2工程が、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールに、当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔12〕 前記微生物が、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養した微生物である前記〔11〕記載の製造方法。
〔13〕 低級脂肪族アルコールが炭素数1〜5の鎖状もしくは分岐の脂肪族アルコールである前記〔12〕記載の製造方法。
〔14〕 前記微生物が、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物である前記〔11〕〜〔13〕のいずれか記載の製造方法。
〔15〕 2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程
を有する2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの製造方法。
〔16〕 前記工程が、ラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である前記〔15〕記載の製造方法。
〔17〕 ラジカル開始剤がアゾ化合物である前記〔16〕記載の製造方法。
〔18〕 前記工程が、溶媒の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である前記〔15〕〜〔17〕のいずれか記載の製造方法。
〔19〕 溶媒がエステル溶媒である前記〔18〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シアン化ナトリウムを原料として用いることなく、メチオニンを製造できる新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のメチオニンの製造方法は、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる第1工程と、第1工程で得られる2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する第2工程とを有する。
また、本発明の2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの製造方法は、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程(以下、第1工程と記すことがある)を有する。
【0011】
まず、第1工程で用いられる2−アミノ−3−ブテン−1−オールを説明する。
【0012】
<2−アミノ−3−ブテン−1−オール>
2−アミノ−3−ブテン−1−オールは、例えば、1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとを反応させることにより得られる。以下、1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとの反応を、本アミノ化反応と記すことがある。
【0013】
本アミノ化反応に用いられる1,2−エポキシ−3−ブテンは、酸素、有機過酸化物、過酸化水素等の酸化剤と、ブタジエンとを反応させる方法等の公知の方法により製造することができる。1,2−エポキシ−3−ブテンは、好ましくは、銀含有触媒の存在下で酸素とブタジエンとを反応させる方法(例えば特表平3−502330号公報参照。)により製造することができる。
【0014】
本アミノ化反応は、例えば、下記(A−1)〜(A−3)のいずれかに記載される方法により行うことができる。
【0015】
(A−1)
1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニア水とを、金属触媒の非存在下に反応させる方法(例えば、Journal of the American Chemical Society,第79巻,4792〜4796頁(1950年)参照。)。
(A−2)
1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとを、Pd(0価)錯体とルイス酸との存在下に反応させる方法(例えば、米国特許第5463079号明細書参照。)。
(A−3)
1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとを、周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物の存在下に反応させる方法。
【0016】
本アミノ化反応は、上記(A−3)に記載される方法により行うことが好ましい。
以下、上記(A−3)に記載される方法により実施される態様に基づいて、本アミノ化反応を説明するが、本アミノ化反応は、上記(A−3)に記載される方法により実施される態様に限定されるものではない。
【0017】
周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物において、周期律表第3族元素としては、例えばスカンジウム、イッテリウム、ランタニウムが挙げられ、ランタノイド元素としては、例えばセリウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、イッテルビウムが挙げられる。
周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素は、好ましくは周期律表第3族元素より選ばれる少なくとも一種の元素であり、より好ましくはスカンジウム、イッテリウム及びランタニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、さらに好ましくはスカンジウム及びイッテリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。
【0018】
周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物としては、例えば、
酸化スカンジウム、スカンジウムトリフラート、酢酸スカンジウム、塩化スカンジウム、硫酸スカンジウム、硝酸スカンジウム等のスカンジウム化合物;
酸化イッテリウム、イッテリウムトリフラート、酢酸イッテリウム、塩化イッテリウム、硫酸イッテリウム、硝酸イッテリウム等のイッテリウム化合物;
酸化ランタニウム、ランタニウムトリフラート、酢酸ランタニウム、塩化ランタニウム、硫酸ランタニウム、硝酸ランタニウム等のランタニウム化合物;
酸化セリウム、セリウムトリフラート、酢酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム等のセリウム化合物;
酸化サマリウム、サマリウムトリフラート、酢酸サマリウム、塩化サマリウム、硫酸サマリウム、硝酸サマリウム等のサマリウム化合物;
酸化ユウロピウム、ユウロピウムトリフラート、酢酸ユーロピウム、塩化ユウロピウム、硫酸ユウロピウム、硝酸ユウロピウム等のユウロピウム化合物;
酸化ガドリニウム、ガドリニウムトリフラート、酢酸ガドリニウム、塩化ガドリニウム、硫酸ガドリニウム、硝酸ガドリニウム等のガドリニウム化合物;
及び
酸化イッテルビウム、イッテルビウムトリフラート、酢酸イッテルビウム、塩化イッテルビウム、硫酸イッテルビウム、硝酸イッテルビウム等のイッテルビウム化合物
が挙げられる。以下、周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する化合物を、本アミノ化触媒と記すことがある。
本アミノ化触媒は、好ましくはスカンジウム化合物、イッテリウム化合物又はランタニウム化合物であり、より好ましくはスカンジウム化合物又はイッテリウム化合物であり、さらに好ましくはスカンジウム化合物であり、より一層好ましくはスカンジウムトリフラートである。
【0019】
本アミノ化触媒は、単独であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。
本アミノ化触媒が水和物になり得る場合には、本アミノ化触媒は、水和物であってもよいし、無水物であってもよい。
本アミノ化触媒は、担体に担持されたもの(以下、担持アミノ化触媒と記すことがある。)であってもよいし、担持されていないものであってもよい。担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト、珪藻土及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の担体が挙げられる。かかる担体の表面積は、本アミノ化反応の反応活性を向上させる点で広い方が好ましい。担持アミノ化触媒は、市販品であってもよいし、例えば、周期律表第3族元素及びランタノイド元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物及び/又は酸化物を、上記した担体に共沈法若しくは含浸法により担持させた後、焼成したものであってもよい。
【0020】
本アミノ化触媒の使用量は、1,2−エポキシ−3−ブテン1モルに対して、0.001モル以上であることが、2−アミノ−3−ブテン−1−オールを良好な収率で得る点で好ましい。使用量の上限は制限されないが、1,2−エポキシ−3−ブテン1モルに対して、0.5モル以下とすることが実用的である。
【0021】
本アミノ化反応に用いられるアンモニアは、液体アンモニア、アンモニアガス又はアンモニア溶液のいずれの形態でも用いることができる。アンモニア溶液としては、例えば、アンモニア水及びアンモニア−メタノール溶液が挙げられる。アンモニア溶液は、市販品であってもよいし、アンモニアを水やメタノール等の極性溶媒に溶解することにより調製したものであってもよい。
アンモニアとしては、アンモニア溶液を用いることが好ましく、アンモニア水を用いることがより好ましい。
アンモニアの使用量は、1,2−エポキシ−3−ブテン1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、得られる2−アミノ−3−ブテン−1−オールと1,2−エポキシ−3−ブテンとの反応を抑制する点で、より好ましくは5モル以上であり、さらに好ましくは10モル以上である。使用量の上限は制限されないが、1,2−エポキシ−3−ブテン1モルに対して、100モル以下とすることが実用的である。
【0022】
本アミノ化反応は、溶媒の非存在下に行うこともできるし、溶媒の存在下に行うこともできる。本アミノ化反応は、溶媒の存在下に行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等のアルコール溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;及び水が挙げられる。溶媒は、好ましくは水である。溶媒の使用量は制限されないが、容積効率を良好にする点で、1、2−エポキシ−3−ブテン1重量部に対して、好ましくは100重量部以下である。
【0023】
本アミノ化反応は、常圧条件下又は加圧条件下で実施することができる。好ましくは、0.3〜2MPa程度の加圧条件下で実施される。
反応温度は、例えば−20〜150℃の範囲、好ましくは0〜100℃の範囲から選択される。反応温度が150℃よりも高い場合には副生成物が増加する傾向にあり、反応温度が−20℃よりも低い場合には本アミノ化反応の反応性が低下する傾向にある。
【0024】
本アミノ化反応は、例えば、溶媒の存在下又は溶媒の非存在下に、1,2−エポキシ−3−ブテンと、アンモニアと、本アミノ化触媒とを混合することにより実施される。本アミノ化反応における反応試剤の混合順序は制限されず、好ましくは下記(A−3−1)又は(A−3−2)に記載される方法により行われる。
【0025】
(A−3−1)
溶媒の存在下又は溶媒の非存在下に、アンモニアと本アミノ化触媒とを混合し、得られる混合物に1,2−エポキシ−3−ブテンを添加する方法。
(A−3−2)
溶媒の存在下又は溶媒の非存在下に、1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとを混合し、得られる混合物に本アミノ化触媒を添加する方法。
【0026】
(A−3−1)に記載される方法において、本アミノ化反応が常圧条件下で実施される場合、1,2−エポキシ−3−ブテンの添加は、好ましくは滴下により実施される。本アミノ化反応が加圧条件下で実施される場合、1,2−エポキシ−3−ブテンの添加は、好ましくは圧入により実施される。
【0027】
反応の進行度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析等の分析手段により確認することができる。
【0028】
反応終了後、反応混合物からアンモニアを必要に応じて回収した後、本アミノ化触媒を濾別し、濃縮処理、分液処理、晶析処理等することにより、2−アミノ−3−ブテン−1−オールを取り出すことができる。
異なる実施態様として、反応混合物からアンモニアを必要に応じて回収した後、本アミノ化触媒を濾別し、得られる濾液とシュウ酸等の酸とを混合し、形成される塩を晶析することにより、当該濾液から2−アミノ−3−ブテン−1−オールの酸付加塩を取り出すこともできる(例えば、Journal of the American Chemical Society,第79巻,4792〜4796頁(1950年)参照。)。
さらに異なる実施態様として、反応混合物からアンモニアを必要に応じて回収した後、本アミノ化触媒を濾別し、必要に応じて濃縮処理した後に、精留処理することにより、2−アミノ−3−ブテン−1−オールを取り出すこともできる。
【0029】
反応混合物から濾別された本アミノ化触媒は、そのまま、若しくは必要に応じて精製処理等を行った後、本アミノ化反応に再使用することができる。また、分液処理により得られる溶液に本アミノ化触媒が含まれている場合には、濃縮処理、精製処理等を行った後、本アミノ化反応に再使用することができる。
【0030】
取り出した2−アミノ−3−ブテン−1−オールは、そのまま、若しくは蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により精製した後に、第1工程に供することができる。
もちろん、2−アミノ−3−ブテン−1−オールを取り出すことなく、反応混合物のまま第1工程に供してもよい。
【0031】
続いて、第1工程を説明する。
【0032】
<第1工程>
2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる。以下、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとの反応を、本付加反応と記すことがある。本付加反応により、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールが得られる。
【0033】
本付加反応に用いられるメタンチオールは、市販のものであってもよいし、例えばメタノールと硫化水素との反応等の公知の方法により調製したものであってもよい。
メタンチオールの使用量は、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1モルに対して、好ましくは1モル以上である。メタンチオールの使用量の上限は制限されないが、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1モルに対して、20モル以下とすることが実用的である。
また、本付加反応を開始する時点におけるメタンチオールの量は、本付加反応の開始を制御しやすくする点で、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1モルに対して、好ましくは4モル以下である。
【0034】
本付加反応は、良好な収率で2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを得る点で、好ましくはラジカル開始剤の存在下に実施する。
以下、ラジカル開始剤の存在下に実施される態様に基づいて、本付加反応を説明するが、本付加反応はラジカル開始剤の存在下に実施される態様に限定されるものではない。
【0035】
ラジカル開始剤としては、例えば、ハロゲン分子、有機過酸化物、アゾ化合物、トリエチルボラン、ジエチル亜鉛が挙げられる。
【0036】
ハロゲン分子としては、例えば塩素が挙げられ、有機過酸化物としては、例えばジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイルが挙げられ、アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス−4−シアノペンタノイックアシッド、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド等のアゾニトリル化合物;アゾビスイソブタノールジアセテート、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソ酪酸エチル等のアゾエステル化合物;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾアミジン化合物;2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等のアゾイミダゾリン化合物;1,1’−アゾビスホルムアミド、1,1’−アゾビス(N−メチルホルムアミド)、1,1’−アゾビス(N,N−ジメチルホルムアミド)等のアゾアミド化合物;アゾ−tert−ブタン等のアゾアルキル化合物が挙げられる。
【0037】
ラジカル開始剤は、好ましくはアゾ化合物であり、入手が容易な点で、より好ましくはアゾニトリル化合物、アゾエステル化合物、アゾアミジン化合物又はアゾイミダゾリン化合物であり、さらに好ましくはアゾニトリル化合物である。
【0038】
ラジカル開始剤の使用量は、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1モルに対して、好ましくは0.001モル以上である。ラジカル開始剤の使用量の上限はないが、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1モルに対して、0.2モル以下とすることが実用的である。
【0039】
本付加反応は、溶媒の非存在下に行うこともできるし、溶媒の存在下に行うこともできる。本付加反応は、溶媒の存在下に行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、本付加反応を阻害しないものが挙げられ、例えば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素溶媒;クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;tert−ブチルアルコール等の第三級アルコール溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;水が挙げられる。溶媒は、エステル溶媒であることが好ましい。溶媒は単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
溶媒の使用量は制限されないが、容積効率を良好にする点で、2−アミノ−3−ブテン−1−オール1重量部に対して、100重量部以下とすることが好ましい。
【0040】
反応温度は、用いるラジカル開始剤の種類や量により異なるが、好ましくは−10℃〜100℃の範囲、より好ましくは0℃〜50℃の範囲から選択される。反応温度が−10℃よりも低い場合は本付加反応の速度が低下する傾向にあり、反応温度が100℃よりも高い場合は副生成物が増加する傾向にある。
【0041】
本付加反応は、減圧条件下で実施することもできるし、常圧条件下で実施することもできるし、加圧条件下で実施することもできる。メタンチオールはその沸点が6℃であり減圧条件下では揮発する傾向にあるため、好ましくは、常圧条件下又は加圧条件下で実施する。
【0042】
本付加反応は、ラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを混合することにより実施され、その混合方法は限定されない。
【0043】
本付加反応を常圧条件下で実施する場合は、例えば、下記(1−1)に記載される方法が用いられる。
(1−1)
2−アミノ−3−ブテン−1−オールとラジカル開始剤とを混合し、得られる混合物を反応温度に調整し、該混合物中にガス状のメタンチオールを吹き込む方法。
【0044】
本付加反応を加圧条件下で実施する場合は、例えば、下記(1−2)又は(1−3)に記載される方法が用いられる。
(1−2)
オートクレーブ等の密閉可能な容器に、ラジカル開始剤と2−アミノ−3−ブテン−1−オールとを仕込み、該容器を密閉して混合物を反応温度に調整した後、ガス状のメタンチオールを圧入する方法。
(1−3)
メタンチオールの沸点以下の温度で、オートクレーブ等の密閉可能な容器内で、ラジカル開始剤、2−アミノ−3−ブテン−1−オール及びメタンチオールを混合し、該容器を密閉した後、混合物を反応温度に調整する方法。
【0045】
反応の進行度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析等の分析手段により確認することができる。
【0046】
反応終了後、必要に応じて、得られる反応混合物から、メタンチオール及び/又はラジカル開始剤とその分解生成物とを除去し、濃縮処理等を行い、さらに必要に応じて2−アミノ−3−ブテン−1−オールを除去することにより2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを取り出すことができる。2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールは、例えば、塩酸、硫酸等の酸との酸付加塩として析出させ、得られる酸付加塩を水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基と処理することにより、取り出すこともできる。
【0047】
2−アミノ−3−ブテン−1−オールを除去する方法としては、例えば蒸留処理が挙げられる。蒸留処理等により除去された2−アミノ−3−ブテン−1−オールを、回収し、必要に応じて精製処理に付した後、本付加反応に再使用することもできる。
【0048】
メタンチオールを除去する方法としては、例えば、反応混合物からメタンチオールを減圧留去する方法や反応混合物に不活性ガスを吹き込み、メタンチオールを蒸発させる方法が挙げられる。除去されたメタンチオールを回収し、必要に応じて精製処理に付した後、本付加反応に再使用することもできる。
【0049】
ラジカル開始剤とその分解生成物とを除去する方法としては、本付加反応に用いられるラジカル開始剤により異なるが、例えば、反応混合物と極性溶媒とを混合してラジカル開始剤とその分解生成物とを析出させ、析出物を濾過する方法、反応混合物と極性溶媒と非極性溶媒とを混合し、非極性溶媒層に分配したラジカル開始剤とその分解生成物とを除去する方法、水に相溶性の無い極性溶媒と水と反応混合物とを混合し、水層に分配したラジカル開始剤とその分解生成物とを除去する方法が挙げられる。
かかる方法に用いられる極性溶媒としては、例えば、水、水とアルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒が挙げられ、非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒が挙げられ、水に相溶性の無い極性溶媒としては、例えば、酢酸エチル等のエステル溶媒、メチルtert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒が挙げられる。これら極性溶媒、非極性溶媒及び水に相溶性の無い極性溶媒の使用量は制限されない。また、極性溶媒、非極性溶媒又は水に相溶性の無い極性溶媒の存在下に本付加反応を行った場合には、これら溶媒を新たに加えてもよいし、加えなくてもよい。除去されたラジカル開始剤を回収し、必要に応じて精製処理に付した後、本付加反応に再使用することもできる。
【0050】
取り出した2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールは、そのまま、若しくは蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により精製した後に、第2工程に供することができる。もちろん、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを取り出すことなく、反応混合物のまま第2工程に供してもよい。
【0051】
続いて、第2工程を説明する。
【0052】
<第2工程>
第1工程で得られる2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する。以下、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの酸化を、本酸化反応と記すことがある。本酸化反応により、メチオニンが得られる。本酸化反応は、金属触媒の存在下で行うこともできるし、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物を2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールに作用させることによっても行うことができる。以下、金属触媒の存在下で行う本酸化反応を、本酸化反応1と記すことがある。また、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物を2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールに作用させることにより行われる本酸化反応を、本酸化反応2と記すことがある。
【0053】
本酸化反応1は、好ましくは、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の存在下に酸化することにより行われ、より好ましくは下記(2−1)又は(2−2)に記載される方法により行われる。
【0054】
(2−1)
2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを、周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属と酸素との存在下に酸化する方法。
(2−2)
2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを、銅と水との存在下に酸化する方法。
【0055】
以下、(2−1)に記載される方法により実施される態様及び(2−2)に記載される方法により実施される態様に基づいて、本酸化反応1を説明するが、本酸化反応はこれら態様に限定されるものではない。
【0056】
まず、(2−1)に記載される方法により実施される態様を説明する。
【0057】
周期表第8族元素としては、鉄、ルテニウム等が挙げられ、周期表第9族元素としては、コバルト、ロジウム等が挙げられ、周期表第10族元素としては、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属は、好ましくはルテニウム又は白金であり、より好ましくは白金である。以下、周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を、酸素酸化触媒と記すことがある。
【0058】
酸素酸化触媒は、担体に担持されたもの(以下、担持酸素酸化触媒と記すことがある。)であってもよいし、担持されていないものであってもよい。また、周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む合金を、酸又はアルカリで処理したもの(以下、展開酸素酸化触媒と記すことがある。)であってもよい。
担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト、珪藻土及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。かかる担体の表面積は、反応活性を向上させる点で広い方が好ましい。担持酸素酸化触媒は、市販品であってもよいし、例えば、周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属又はそのアルミニウム合金を、上記した担体に担持させたものであってもよいし、周期表第8族元素、周期表第9族元素及び周期表第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の硝酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、水酸化物及び酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を、上記した担体に共沈法若しくは含浸法により担持させた後、焼成若しくは水素により還元されたものであってもよい。
酸素酸化触媒は、好ましくは展開酸素酸化触媒又は担持酸素酸化触媒であり、より好ましくは担持酸素酸化触媒である。
【0059】
酸素酸化触媒の使用量は、その使用形態により異なるが、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは0.001モル以上であり、経済性の点でより好ましくは0.001〜0.5モルである。
【0060】
酸素は、酸素ガスであってもよいし、窒素等の不活性ガスにより希釈された酸素ガスであってもよいし、大気に含まれる酸素であってもよい。また、大気に含まれる酸素を窒素等の不活性ガスにより希釈したものであってもよい。
酸素の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、その上限は制限されない。
【0061】
本酸化反応1は、さらにアルカリ金属化合物お及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の典型金属化合物の存在下に行われることが好ましい。
【0062】
アルカリ金属化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属炭酸塩及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩及び水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。
典型金属化合物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物であり、より好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0063】
典型金属化合物の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、その上限は制限されない。典型金属化合物の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、2モル以下とすることが実用的である。
【0064】
本酸化反応1は、さらに溶媒の存在下に行われることが好ましい。
溶媒としては、本酸化反応1を阻害しないものであれば制限されず、例えば、酢酸エチル等のエステル溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒、水及びそれらの混合物が挙げられる。溶媒は、好ましくは、水、水とエステル溶媒との混合物又は水とニトリル溶媒との混合物であり、より好ましくは水とニトリル溶媒との混合物であり、さらに好ましくは、水とアセトニトリルとの混合物である。
溶媒の使用量は制限されず、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1重量部に対して、100重量部以下とすることが実用的である。
【0065】
本酸化反応1において、反応試剤の混合順序は制限されない。好ましい実施態様としては、例えば、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールと酸素酸化触媒と典型金属化合物と溶媒とを混合し、得られる混合物を酸素と混合する方法が挙げられる。
【0066】
本酸化反応1は、減圧条件下、常圧条件下又は加圧条件下のいずれの条件下でも行われるが、好ましくは、常圧条件下又は加圧条件下のいずれかの条件下で行われる。
【0067】
本酸化反応1の反応温度は、酸素酸化触媒の使用量、酸素の使用量等により異なるが、好ましくは0℃〜150℃の範囲、より好ましくは20℃〜100℃の範囲から選択される。反応温度が0℃よりも低い場合は、酸化反応の速度が低くなる傾向にあり、反応温度が150℃よりも高い場合は、酸化反応の選択率が低下する傾向にある。
【0068】
本酸化反応1の進行度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析等の分析手段により確認することができる。
【0069】
本酸化反応1終了後、例えば、得られる反応混合物を濾過することにより、反応混合物から酸素酸化触媒を取り除いた後、必要に応じて硫酸、塩酸などの鉱酸で中和処理を行い、濃縮処理、冷却処理等を行うことにより、メチオニンを取り出すことができる。
取り出したメチオニンは、蒸留、カラムクロマトグラフィー、結晶化などの精製手段により、精製してもよい。
【0070】
次いで、(2−2)に記載される方法により実際される態様を説明する。
【0071】
銅(以下、銅触媒と記すことがある。)は、担体に担持されたもの(以下、担持銅触媒と記すことがある。)であってもよいし、担持されていないものであってもよい。また、銅を含む合金を、酸又はアルカリで処理したもの(以下、展開銅触媒と記すことがある。)であってもよい。
担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト、珪藻土及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。かかる担体の表面積は、反応活性を向上させる点で広い方が好ましい。担持銅触媒は、市販品であってもよいし、例えば、銅又は銅とアルミニウムとの合金を、上記した担体に担持させたものであってもよいし、銅の硝酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、水酸化物及び酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の銅塩を、上記した担体に共沈法若しくは含浸法により担持させた後、焼成若しくは水素により還元されたものであってもよい。展開銅触媒は、スポンジ銅触媒とも呼ばれ、市販品であってもよいし、例えば、米国特許第5292936号明細書に記載される方法に準じて、銅とアルミニウムとを含有する合金から調製したものであってもよい。
銅触媒は、好ましくは展開銅触媒又は担持銅触媒であり、より好ましくは展開銅触媒である。
【0072】
銅触媒の使用量は、その使用形態により異なるが、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは0.001モル以上であり、経済性の点で好ましくは0.5モル以下である。
【0073】
水の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、その上限は制限されず、好ましくは100モル以下である。
【0074】
本酸化反応1は、さらにアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の典型金属化合物の存在下に行われることが好ましい。
【0075】
アルカリ金属化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属炭酸塩及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩及び水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。
典型金属化合物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物であり、より好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0076】
典型金属化合物の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、その上限は制限されない。典型金属化合物の使用量は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1モルに対して、2モル以下とすることが実用的である。
【0077】
本酸化反応1は、さらに有機溶媒の存在下に行うこともできる。
有機溶媒としては、本反応を阻害しないものであれば制限されず、例えば、酢酸エチル等のエステル溶媒及びアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒が挙げられる。
有機溶媒の使用量は制限されず、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール1重量部に対して、100重量部以下とすることが実用的である。
【0078】
本酸化反応1において、反応試剤の混合順序は制限されない。好ましい実施態様としては、例えば、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールと典型金属化合物と水とを混合し、得られる混合物に銅触媒を添加する方法が挙げられる。混合は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0079】
本酸化反応1は、減圧条件下、常圧条件下又は加圧条件下のいずれの条件下でも行われるが、好ましくは、常圧条件下又は加圧条件下のいずれかの条件下で行われる。
【0080】
本酸化反応1の反応温度は、銅触媒の種類及び使用量等により異なるが、好ましくは0℃〜200℃の範囲、より好ましくは50℃〜180℃の範囲から選択される。反応温度が0℃よりも低い場合は、酸化反応の速度が低くなる傾向にあり、反応温度が200℃よりも高い場合は、酸化反応の選択率が低下する傾向にある。
【0081】
本酸化反応1の進行度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析等の分析手段により確認することができる。
【0082】
本酸化反応1終了後、例えば、得られる反応混合物を濾過することにより、反応混合物から銅触媒を取り除いた後、必要に応じて硫酸、塩酸などの鉱酸で中和処理を行い、濃縮処理、冷却処理等を行うことにより、メチオニンを取り出すことができる。
取り出したメチオニンは、蒸留、カラムクロマトグラフィー、結晶化などの精製手段により、精製してもよい。
【0083】
本酸化反応2は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールに、当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることにより行われる。前記微生物は、好ましくは、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養した微生物である
【0084】
前記微生物の培養に用いられる培地に含まれていてもよい「低級脂肪族アルコール」としては、例えば、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコール等を挙げることができる。具体的には例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等を挙げることができる。好ましくは、1−プロパノール、1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。このような各種の低級脂肪族アルコールを適当な比率に混合して用いてもよい。
【0085】
尚、前記微生物を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養する方法については後述する。
【0086】
本酸化反応2において2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物は、好ましくは、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールが有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する。ここで「優先的に酸化する」とは、含硫アミノアルコール化合物のスルフィド酸化よりもヒドロキシル基の酸化が優先的に進行するという意味である。このような能力を有する微生物(以下、本微生物と記すことがある。)としては、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
【0087】
また、本微生物としては、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
<微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)、バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)、バシラス・バリダス(Bacillus validus)、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)およびロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)
【0088】
更に、好ましい本微生物としては、例えば、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
<好ましい微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)JCM5490、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)ATCC43123、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)IFO12669、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)IFO14130、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)IFO15125t、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)IFO15126t、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)IFO3343t、バシラス・バディウス(Bacillus badius)ATCC14574t、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)JCM2503t、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)JCM2152t、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)JCM2257t、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)JCM2512t、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)ATCC27811、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)IFO12197、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)IFO12200t、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)ATCC21282、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)IFO12092t、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)IFO3341、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)IFO3526、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC14593、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC15841、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3108、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3132、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3026、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3037、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3108、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3134、バシラス・バリダス(Bacillus validus)IFO13635、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)IAM1426、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)IAM1923、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)JCM2400t、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)IAM12402、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)IFO3458t、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)IFO13583t、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)IFO12688、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)JCM5968t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO3738、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12653、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)IFO3910、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)IFO13584t、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)JCM2783t、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)IFO14055、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)IFO3508、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)IFO3460、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)JCM1477t、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)ATCC17023、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19067、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19149、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19150、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21197、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21199、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)JCM3202t、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19070、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19071及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148
【0089】
これら菌株は天然から分離してもよいし、各菌株保存機関より購入することにより容易に入手することができる。
このような菌株を購入できる各菌株保存機関として、例えば、下記の菌株保存機関を挙げることができる。
【0090】
1.IFO(Institute of Fermentation Osaka:財団法人 醗酵研究所)
現在は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門(NBRC)で取り扱い可能であり、入手に際しては http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCDispSearchServlet?lang=jp にアクセスすればよい。
2.ATCC(American Type Culture Collection)
住商ファーマインターナショナル株式会社 ATCC事業グループで取り扱い可能であり、入手に際しては http://www.summitpharma.co.jp/japanese/service/s_ATCC.html にアクセスすればよい。
3.JCM(理化学研究所微生物系統保存施設 (Japan Collection of Microorganisms, JCM)
現在は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター (RIKEN BRC) 微生物材料開発室に移管されている。入手に際しては http://www.jcm.riken.go.jp/JCM/aboutJCM_J.shtml にアクセスすればよい。
4.IAMカルチャーコレクション
現在は、IAMカルチャーコレクション保存菌株のうち、細菌、酵母、糸状菌の場合には独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)に、また微細藻類の場合には独立行政法人 国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES)に移管されている。入手に際しては http://www.jcm.riken.go.jp/JCM/aboutJCM_J.shtml、http://mcc.nies.go.jp/aboutOnlineOrder.do にアクセスすればよい。
【0091】
また、本酸化反応2において用いられる触媒としての、前記2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールが有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物を探索することにより入手・調製することもできる。具体的には、例えば、試験管に滅菌済み培地5mlを入れ、これに各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
このようにして、前記2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールが有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する微生物を選抜する。
【0092】
また、本酸化反応2において用いられる触媒としての、前記2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールが有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物は、予め低級脂肪族アルコールを含む培地で培養した2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物を探索することにより入手・調製することもできる。具体的には例えば、試験管に滅菌済みの低級脂肪族アルコールの入った培地(1Lの水に、低級脂肪族アルコール5g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これに各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
一方、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養されていないこと以外は同様な方法で実施された系でのメチオニンの生成量を分析し、得られた分析値を前記「生成したメチオニンの量」と比較することにより、ヒドロキシル基を優先的に酸化する活性が向上する能力を有する微生物を選抜する。
【0093】
次に、本微生物の調製方法について説明する。
本微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。
【0094】
炭素源としては、例えば、グルコ−ス、デキストリン、シュ−クロ−ス等の糖類、グリセロ−ル等の糖アルコ−ル、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0095】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コ−ン・スティ−プ・リカ−(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のナトリウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0096】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001%(w/v)〜5%(w/v)程度である。
【0097】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は約15℃〜約45℃の範囲、培養液のpHは約4〜約8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1日間〜約7日間である。
【0098】
次に、本微生物の菌体を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養する方法について説明する。
本微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。ここで用いられる培地に含まれる炭素源としては、低級脂肪族アルコールのみを用いてもよく、また、糖質、炭化水素、有機酸、糖アルコール等との混合系で用いてもよい。
【0099】
本微生物の培養に用いられる培地に含まれる「低級脂肪族アルコール」としては、前述の如く、例えば、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコール等を挙げることができる。具体的には例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等を挙げることができる。好ましくは、1-プロパノール、1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。このような各種の低級脂肪族アルコール類を適当な比率に混合して用いてもよい。
【0100】
炭素源としては、上述の如く、例えば、低級脂肪族アルコールが挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0101】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コ−ン・スティ−プ・リカ−(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のナトリウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0102】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001%(w/v)〜5%(w/v)程度である。
【0103】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は約15℃〜約45℃の範囲、培養液のpHは約4〜約8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1日間〜約7日間である。
【0104】
本微生物の菌体は、そのまま本酸化反応2の触媒として用いることができる。本微生物の菌体を用いる方法のうち、本微生物の菌体をそのまま用いる方法としては、例えば、(1)培養液をそのまま用いる方法、(2)培養液を遠心分離等することにより回収された菌体(必要に応じて、緩衝液又は水で洗浄した後の湿菌体)を用いる方法等を挙げることができる。
【0105】
また本酸化反応2の触媒として、本微生物の菌体の処理物を用いることもできる。当該処理物としては、例えば、培養して得られた菌体を有機溶媒(アセトン、エタノール等)処理したもの、凍結乾燥処理したもの若しくはアルカリ処理したもの、又は、菌体を物理的若しくは酵素的に破砕したもの、又は、これらのものから分離・抽出された粗酵素等を挙げることができる。さらに、前記処理物には、前記処理を施した後、公知の方法により固定化処理したものも含まれる。
【0106】
具体的な形態としては、例えば、本微生物の菌体、かかる菌体の処理物(例えば、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質及びこれらの固定化物等)を挙げることができる。ここで、菌体の処理物としては、例えば、凍結乾燥微生物、有機溶媒処理微生物、乾燥微生物、微生物摩砕物、微生物の自己消化物、微生物の超音波処理物、微生物抽出物、微生物のアルカリ処理物を挙げることができる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロ−ス、イオン交換樹脂等に本酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギ−ナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本酵素等を閉じ込める方法)を挙げることができる。
【0107】
尚、本微生物を用いた工業的な生産を考慮すれば、未処理状態の微生物を用いる方法よりも当該微生物を死滅化させた処理物を用いる方法のほうが製造設備の制限等の点から好ましい場合がある。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコ−ル、フェノ−ル、アミン、サルファイド、エ−テル、アルデヒド、ケトン、シアン、抗生物質)を挙げることができる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ本酵素の前記「含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力」を失活させず、且つ、反応系への残留、汚染等の影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
【0108】
本酸化反応2は、通常、水の存在下で行われる。この場合の水は、緩衝液の形態であってもよい。当該緩衝液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩や、アルカリ性の緩衝液としてTris−塩酸緩衝液、Tris−クエン酸緩衝液等が挙げられる。
また本酸化反応2は、更に疎水性有機溶媒を用いて、水と疎水性有機溶媒との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる疎水性有機溶媒としては、例えば、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−オクチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類及びこれらの混合物を挙げることができる。
また本酸化反応2は、更に親水性有機溶媒を用いて、水と水性媒体との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0109】
本酸化反応2は、通常、水層のpHが3〜11の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。好ましくはアルカリ側で行われることがよく、より好ましくは水層のpHが8〜10の範囲内で行われることがよい。
【0110】
本酸化反応2は、通常、約0℃〜約60℃の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0111】
本酸化反応2は、通常、約0.5時間〜約10日間の範囲内で行われる。反応の終点は、原料化合物である2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの添加終了後、例えば、反応液中の当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの量を、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により測定することにより確認することができる。
【0112】
本酸化反応2における原料化合物である2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの濃度は、通常、50%(w/v)以下であり、反応系中の当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの濃度を略一定に保つために、当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを反応系に連続又は逐次加えてもよい。
【0113】
本酸化反応2では、必要に応じて反応系に、例えば、グルコース、シュークロース、フルクトース等の糖類、又は、TritonX−100若しくはTween60等の界面活性剤等を加えることもできる。
【0114】
反応液からのメチオニンの回収は、一般に知られている任意の方法で行えばよい。
例えば、反応液の有機溶媒抽出操作、濃縮操作、イオン交換法、結晶化法等の後処理を、必要によりカラムクロマトグラフィ−、蒸留等を組み合わせて、行うことにより精製する方法を挙げることができる。
【0115】
尚、本発明の製造方法により得られたメチオニンは、塩の形であってもよい。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0117】
<2−アミノ−3−ブテン−1−オールの製造>
製造例1
磁気回転子を付したステンレス製の100mL反応管に、1,2−エポキシ−3−ブテン200mg、28重量%アンモニア水10g及びスカンジウムトリフラート14mgを加え、混合物を調製した。調製した混合物を、内温30℃で6時間攪拌し、1,2−エポキシ−3−ブテンとアンモニアとを反応させた。反応時の反応管内の圧力は、0.3〜0.4MPaの範囲に保持されていた。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却した後、反応混合物からアンモニアを蒸発させた。アンモニアを蒸発させて得られた混合物のうちの一部を採取し、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−3−ブテン−1−オールと1−アミノ−3−ブテン−2−オールと1,2−エポキシ−3−ブテンとの含量を求め、収率を算出した。なお、2−アミノ−3−ブテン−1−オールと1−アミノ−3−ブテン−2−オールとの含量は、塩化アセチルとピリジンとを用いてジアシル化体へ変換し、ジアシル体として求めた。
2−アミノ−3−ブテン−1−オール 収率:55%
1−アミノ−3−ブテン−2−オール 収率:43%
1,2−エポキシ−3−ブテン (原料) 回収率: 0%
【0118】
<第1工程>
実施例1−1
磁気回転子を付した50mL耐圧反応管に、2−アミノ−3−ブテン−1−オール100mg、酢酸エチル2g及び2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)10mgを加え、混合物を調製した。調製した混合物を内温−20℃に冷却した後、混合物へメタンチオール500mgを加えた。反応管を密閉した後、40℃に昇温し、40℃で4時間攪拌した。反応管の圧力(ゲージ圧)は、40℃に昇温した当初は2kg/cm(0.20MPa相当)であり、40℃で4時間攪拌した後には1kg/cm(0.10MPa相当)であった。反応終了後、得られた反応混合物に窒素を吹き込むことにより、未反応のメタンチオールを除去した。メタンチオールを除去して得られた混合物の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの含量を求め、収率を算出した。2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの収率は90%であった。
原料として用いた2−アミノ−3−ブテン−1−オールが、5%回収された。
【0119】
実施例1−2
磁気回転子を付した50mL耐圧反応管に、2−アミノ−3−ブテン−1−オール300mg、酢酸エチル3g及び2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)10mgを加え、混合物を調製した。調製した混合物を内温−20℃に冷却した後、混合物へメタンチオール1.0gを加えた。反応管を密閉した後、40℃に昇温し、40℃で4時間攪拌した。反応管の圧力(ゲージ圧)は、40℃に昇温した当初は3kg/cm(0.30MPa相当)であり、40℃で4時間攪拌した後には1kg/cm(0.10MPa相当)であった。反応終了後、得られた反応混合物に窒素を吹き込むことにより、未反応のメタンチオールを除去した。メタンチオールを除去して得られた混合物の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの含量を求め、収率を算出した。2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの収率は91%であった。原料として用いた2−アミノ−3−ブテン−1−オールが、5%回収された。
メタンチオールを除去して得られた混合物を、濃縮することで、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの無色液体450mgを得た。この無色液体は、冷凍庫(−10℃)で保管すると固化した。
【0120】
<第2工程>
実施例2−1
磁気回転子を付した50mL耐圧反応管に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール200mg、水酸化ナトリウム90mg及び水2gを仕込み、混合物を調製した。調製した混合物に、スポンジ銅(ラネー(登録商標)タイプ、Strem Chemicals社品)40mgを加えた。反応管内を窒素で置換した後、混合物を140℃まで昇温し、140℃で8時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、冷却した反応混合物を濾過することにより、反応混合物からスポンジ銅を除去した。得られた濾液に0.1規定硫酸を加えて中和した後、水を留去することにより、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸即ち、メチオニンを得た。
【0121】
収率の決定:
得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸にメタノール5gを加え、さらにトリメチルシリルジアゾメタンの10重量%へキサン溶液を加えて、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを得た。得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを含むメタノール溶液の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルへの収率を決定した。収率は37%であった。即ち、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから37%以上の収率で得られていた。原料として用いた2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールは、用いた量の49%が回収された。
【0122】
実施例2−2
磁気回転子を付した50mL耐圧反応管に、2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノール200mg、水酸化ナトリウム120mgおよび水2gを仕込み、攪拌した。この混合物に展開触媒としてスポンジ銅(ラネー(登録商標)タイプ、Strem Chemicals社品)50mgを加えた。反応管内を窒素で置換した後、得られた混合物を140℃で8時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、冷却した反応混合物を濾過することにより、反応混合物からスポンジ銅を除去した。得られた濾液に、酢酸エチル5gを加えて、油水分離し、親油性物を除去した。水層に、ドライアイス(CO)5gを加えて炭酸を生じさせ、攪拌すると、固体が析出した。析出固体を、濾過・乾燥し、白色粉末130mgを得た。この粉末の、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸含量を、液体クロマトグラフィー(修正面積百分率法)にて分析したところ、64%であった。2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸への収率は38%であった。
【0123】
実施例2−3
磁気回転子を備えた50mL耐圧反応管に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール135mg、水酸化ナトリウム40mg、水1g、アセトニトリル1g及び5重量%Pt/C(50重量%含水品)100mgを仕込み、反応管内を空気で1MPaまで加圧した。得られた混合物を50℃に昇温し、50℃で8時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、濾過することにより反応混合物からPt/Cを除去した。得られた濾液に0.1規定硫酸を加えて中和した後、溶媒を留去し、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸、即ちメチオニンを得た。
【0124】
収率の決定:
得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸にメタノール5gを加え、さらにトリメチルシリルジアゾメタンの10重量%へキサン溶液を加えて、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを得た。得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを含むメタノール溶液を、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルへの収率を決定した。収率は14%であった。即ち、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから14%以上の収率で得られていた。原料として用いた2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールは、用いた量の80%が回収された。
【0125】
実施例2−4
磁気回転子を備えた50mLフラスコに、2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノール100mg、炭酸水素ナトリウム70mg、アセトニトリル3gおよび5重量%Pt/C(50重量%含水品)100mgを仕込み、得られた混合物を、空気雰囲気下、60℃で8時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。得られた濾液に0.1規定硫酸を加えて中和した後、混合物から溶媒を留去し、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸を得た。
【0126】
収率の決定:
得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸にメタノール5gを加え、さらにトリメチルシリルジアゾメタンの10重量%へキサン溶液を加えて、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを得た。得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを含むメタノール溶液を、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析し、4−(メチルチオ)―2−アミノ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルまでの収率を決定したところ、収率は9%であった。即ち、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノールから9%以上の収率で得られていた。原料として用いた2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノールは、用いた量の90%が回収された。
【0127】
実施例2−5
磁気回転子を備えた50mLフラスコに、2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノール100mg、炭酸水素ナトリウム30mg、水1g、アセトニトリル1gおよび5重量%Ru/C(50重量%含水品)50mgを仕込み、得られた混合物を、空気雰囲気下、50℃で8時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。得られた濾液に0.1規定硫酸を加えて中和した後、混合物から溶媒を留去し、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸を得た。
【0128】
収率の決定:
得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸にメタノール5gを加え、さらにトリメチルシリルジアゾメタンの10重量%へキサン溶液を加えて、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを得た。得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを含むメタノール溶液を、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析し、4−(メチルチオ)―2−アミノ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルまでの収率を決定したところ、収率は5%であった。即ち、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノールから5%以上の収率で得られていた。原料として用いた2−アミノ−4−メチルチオ―1−ブタノールは、用いた量の90%が回収された。
【0129】
実施例2−6
磁気回転子を備えた50mL耐圧反応管に、実施例1−2で得た2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール135mg、水酸化ナトリウム80mg、水1g、アセトニトリル1g及び5重量%Pt/C(50重量%含水品)100mgを仕込み、反応管内を空気で1MPaまで加圧した。得られた混合物を50℃に昇温し、50℃で8時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、濾過することにより反応混合物からPt/Cを除去した。得られた濾液に0.1規定硫酸を加えて中和した後、溶媒を留去し、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸、即ちメチオニンを得た。
【0130】
収率の決定:
得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸にメタノール5gを加え、さらにトリメチルシリルジアゾメタンの10重量%へキサン溶液を加えて、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを得た。得られた2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルを含むメタノール溶液を、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析することにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸メチルへの収率を決定した。収率は6%であった。即ち、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールから6%以上の収率で得られていた。原料として用いた2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールは、用いた量の78%が回収された。
【0131】
<2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の探索>
参考例1
試験管に滅菌済み培地(水に、ポリペプトン、酵母エキス、肉エキス、硫酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム及び硫酸マグネシウム7水和物を加えた後、pHを7.0に調整したもの)を入れ、これに、各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液をサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
このようにして、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物を選抜する。
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:20
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0132】
実施例2−7〜2−26
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、表1〜4で示された各種の低級脂肪族アルコール類5g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19149(表1:実施例2−7〜2−11)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19150(表2:実施例2−12〜2−16)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19070(表3:実施例2−17〜2−21)、または、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148(表4:実施例2−22〜2−26)の各種の菌体を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1M、Tris−グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、実施例1−2で得た2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノール2mgを添加した後、得られた混合物を30℃で7日間振盪させた。
反応終了後、反応液0.5mlをサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析した。得られた結果を表1〜4に示す。
【0133】
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:0
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、必須アミノ酸であり、飼料添加剤等として用いられる極めて有用な化合物であるメチオニンの製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる第1工程と、
第1工程で得られる2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する第2工程と
を有するメチオニンの製造方法。
【請求項2】
第1工程が、ラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ラジカル開始剤がアゾ化合物である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
第1工程が、溶媒の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
溶媒がエステル溶媒である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
第2工程が、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
第2工程が、銅と水との存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
第2工程が、ルテニウム又は白金と酸素との存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
第2工程が、さらにアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の典型金属化合物の存在下に、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である請求項6〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項10】
典型金属化合物がアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
第2工程が、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールに、当該2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールをメチオニンに変換する能力を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させることにより、2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールを酸化する工程である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項12】
前記微生物が、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養した微生物である請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
低級脂肪族アルコールが炭素数1〜5の鎖状もしくは分岐の脂肪族アルコールである請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
前記微生物が、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物である請求項11〜13のいずれか記載の製造方法。
【請求項15】
2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程
を有する2−アミノ−4−メチルチオ−1−ブタノールの製造方法。
【請求項16】
前記工程が、ラジカル開始剤の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
ラジカル開始剤がアゾ化合物である請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程が、溶媒の存在下に、2−アミノ−3−ブテン−1−オールとメタンチオールとを反応させる工程である請求項15〜17のいずれか記載の製造方法。
【請求項19】
溶媒がエステル溶媒である請求項18記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−184215(P2012−184215A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113182(P2011−113182)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】