説明

メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の局所処置のための新規な方法および組成物

【課題】メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置のための医薬組成物の提供。
【解決手段】治療学的に有効な量のF−タイプのプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬、および医薬的に許容し得る担体を含有する、メニエール病または耳鳴の処置のための医薬組成物であって、内耳への局所投与に適当である、該医薬組成物。プロスタグランジンとしては、13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ラタノプロスト酸)、16−[(3−トリフルオロメチル)−フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α(トラボプロスト酸)、および17−[(3,5−ジフルオロ)−フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2α、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ビマトロプロストの遊離酸)、並びにそれらの医薬的に適当な塩からなる群から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メニエール病、聴覚損失および耳鳴の処置のための新規な方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内耳の障害であるメニエール病は、成人の人口の約0.1〜0.5%を悩ませている。該疾患は、めまい、聴覚損失および耳鳴を特徴とし、それはより低年齢でさえも現れ得るが、通常中年で発症する。該疾患は、ほぼ同じ割合で両方の性別において発症する。それは典型的に、顕著なめまい、聴覚損失および耳鳴のエピソード時に生じ、数時間〜数日間続くが、間欠性期間中でも、該患者は耳鳴および聴覚損失を患うことがある。通常、メニエール病は片側性であるが、時間の経過と共に両方の耳が関与するようになり得て、推定12パーセントが両側性疾患を有する。
【0003】
該疾患は、激しいめまい、悪心および聴覚損失、並びにその後の寛解を伴って発症する(episodic)傾向があるが、時間の経過と共に該患者は通常、一般的な聴覚の損失および耳鳴を患う。該寛解は、1日から数年間続き得るが、最も一般的にはそれらは数週間〜数ヶ月続く。めずらしくもない言語知覚は、発作の間に低下する。冒された耳における完全な聴覚障害は、約10パーセントの割合で生じると報告されている。メニエール病の個々の症状は、患者の間で非常に大きく変わり得て、寛解の期間はあり得るが、該疾患は典型的に、発症から残り全ての生涯にまで慢性的に続く。該疾患は、患者の作業能力および社会生活を損なうことがあり、これは心理学的な不安および精神的な不安となり、そして重度の場合には、患者は該疾患が原因で自殺さえする。
【0004】
メニエール病の病態生理学は現在十分には理解されていないが、一般的には、内耳の内リンパ液の圧が病態学的に上昇し、それにより水症(非常に高い圧が原因の、内耳の蝸牛を含めた膜性迷路の膨潤)と呼ばれる病気を引き起こす。該圧の上昇は、迷路における膜の破裂を生じ得て、このことによりその上昇した圧は低下し、従って急性発作の症状は軽減する。内耳の解剖学を、以下に記載する。
【0005】
メニエール病は比較的に一般的なものであって且つ能力欠損障害であると言う事実にも関わらず、該疾患に対する原因療法は存在しない。現在、全ての努力が、対症療法、または外科的なインターベンションによるかもしくは耳毒性薬物(例えば、ゲンタマイシン)の内耳ヘの投与による直接的な破壊的な処置に関しなければいけない。従って、メニエール病は患者をより大きく患わせる重要な臨床的な問題であり、その結果として急性発作および寛解中の該症状についての原因療法は、臨床的な観点から非常に所望されるであろう。
【0006】
耳鳴、音刺激のない時の音の認知は、中年および高齢者の間で非常に一般的な障害である。中年/高齢者の人口の10パーセント程が、ある程度の耳鳴を患い得る。しかしながら、耳鳴の症状を訴えるほとんどの患者がメニエール病を患わないが、有毛細胞を含むコルチ(Corti)器官における局所的な障害を有する。これらの細胞は、脳への聴覚インパルスの伝播のために、力学的なエネルギーを電気化学的なエネルギーに変換する。耳鳴の病態生理学的な病因論(ethiology)についての理解は乏しい。耳鳴の様々な原因としては例えば聴覚の外傷を含み得て、これは例えばコルチ器官における有毛細胞の永続的な破壊、蝸牛における微小血管脈管障害、薬物の毒性効果および感染を引き起こす。耳鳴は聴覚損失と関係することが多く、これはオージオメトリーによって測定することができる。多数の種類の耳鳴が存在し、そのいくつかは鼓膜および外耳における障害によって生じ、それらは十分に処置することができることが多いが、通常内耳由来の耳鳴は不治であったりまたは処置が困難である。
【0007】
聴覚の損失または聴覚の障害、すなわち正常な聴覚を持つ個体にとって聞き取れる正常な範囲の音を認知することの無能はまた、非常に一般的な障害である。聴覚損失は、ある周波数でそれ以外よりも大きくなり得たり、または全ての周波数は等しく影響を受け得る。聴覚損失の病因は全く複雑であり、そして十分には解明されていない。原因因子は、外耳もしくは中耳への身体的な損傷、急性もしくは慢性の聴覚の外傷、加齢、内耳もしくは聴覚神経ヘの損傷であり得る。聴覚損失が他の疾患の続発症として、またはある医薬の望まれない副作用として出現することも珍しいことではない。
【0008】
本明細書、実施例および特許請求の範囲において、用語:聴覚損失および耳鳴は、当該分野の当業者によって通常理解されるとおり、それらの最も広義の意味で使用する。
【0009】
現在、耳鳴または聴覚損失の処置のための臨床的に立証された療法は全く存在せず、従ってこれらの症状を予防し、軽減しまたは除去するのに使用することができるであろう薬物は臨床的な観点から非常に望まれる。
【0010】
耳の解剖学および生理学
耳は、3つの主な部分:外耳、中耳および内耳に分かれる。外耳は心耳(耳介)および鼓膜で終わる耳細管(ear canal)からなる。中耳は、鼓膜、鼓室腔、聴覚小骨および耳管からなる。内耳はその複雑な構造のために迷路とも呼ばれ、このものは側頭骨の錐体部部分の腔中に懸濁したのう(sac)および細管からなる。これらの構造は、内リンパと呼ばれる液体を含み、一方で膜性迷路および該骨の間の空隙は外リンパで満たされている。該骨性迷路は、2つの部分:前庭(これは、球形のう、卵形のう、半規管を収容する)およびラセン状にコイルした構造である蝸牛からなる。平衡の感覚は前庭に位置し、一方で聴覚の感覚は蝸牛に位置する。
【0011】
蝸牛は、液体で満たされた膜性構造を含有する骨中での4分の2と3のコイルした腔である。該蝸牛膜性構造は、3つの腔:前庭階(これは、卵円窓および中耳小骨と結合している);鼓室階(これは、中耳の正円窓と結合している);および最後に、内リンパ系の部分である中心階または蝸牛管を含む。該前庭階および鼓室階は、外リンパ系の部分である。該中心階は、音を認知する器官、コルチ器官、流体力学的なエネルギーを受け取りそしてそれを電気化学的な信号に変換する有毛細胞を含有する複雑な構造、支持細胞、基底膜および蓋膜、並びに該器官と近くに位置するラセン神経節とを結合させる神経線維を含む。ラセン神経節から、神経線維は聴覚信号の更なる加工処理のために脳に投射(project)される。該中心階はまた非常に血管新生化した構造(血管条と呼ばれる)をも含み、そして蝸牛の内リンパはこの構造中で生成するとみなされている。
【0012】
中耳の鼓膜に達した音は振動され、次いで該エネルギーは小骨によって内耳の卵円窓にまで通過する。該卵円窓からのエネルギーは、前庭階における圧力波(pressure wave)を蝸牛の先端部を通って、その開口部から鼓室階(これは、中耳で正円窓と結合している)ヘ伝達させる。外リンパ液系におけるこの圧力波は、基底膜を通して有毛細胞を蓋膜に対して振動させ、その結果力学的なエネルギーを電気化学的なエネルギーに変換する。最後に、外部音由来のエネルギーのほとんどは、正円窓を通して蝸牛から中耳ヘ放出される。
【0013】
蝸牛の内リンパ系は、結合管(ductus reuniens)を通して、前庭器官における球形のうの内リンパ系と結合する。該球形のうは更に、三半規管が結合した卵形のうと結合する。球形のう、卵形のうおよび半規管は、運動および位置を検出する際の生理学的な機能を有し、従って平衡の感覚に関連する。内耳におけるこの部分の障害は通常、悪心と関連することが多いめまいの症状を引き起こす。卵形のうおよび球形のうは共に、内リンパ管と呼ばれる小管を通して内リンパのうと結合する。極小構造である内リンパ管は、内リンパがこの構造中のリンパ管および/または血管中に再吸収されると考えられる非常に重要な機能を有する。
【0014】
従って、内リンパは全てではないが大部分、蝸牛の中心階および卵形のうの壁中の血管条において生成すると考えられる。次いで、そのものは蝸牛から球形のうおよび卵形のうへ流れ、最後にそのものが再吸収される内リンパ管およびのうで終わる。内リンパ管は、対応する骨性小管中の疎性結合組織に包埋された小さな約2mm長の狭小管である。リンパ管および血管は、該疎性結合組織から延びる。該内リンパ管は1つの上皮細胞層と結合しており、水および溶質はこの細胞層を横切って該疎性結合組織に入る。腔内圧は該結合組織間質および該内リンパ管中の大気圧(0mmHg)と比べて負である(−5〜−10mmHgと推定される)ので、この部分から該水はリンパ管または静脈中に再吸収される。従って、内リンパが内リンパ管を離れるための推進力は大部分が、該結合組織間質中の内リンパ管およびリンパ管の間の静水学的な圧の差異であるようである。該リンパ管は、静脈中に移る(empty)。膠質浸透圧の勾配は知られていない。メニエール病の場合、該液体の再吸収が損なわれて、前庭および蝸牛の両方における内リンパ液の圧が上昇し、その結果典型的な症状(例えば、めまい、悪心、聴覚損傷および耳鳴)が生じると、現在みなされている。
【0015】
(先行技術)
蝸牛における内因性プロスタグランジン、特にPGE、PGEおよびPGI(プロスタサイクリン)の生理学的な機能は、これまでに多数の研究において調べられており、これらのアラキドン酸代謝物質が蝸牛の血流の調節において重要であり得ると示唆されている(例えば、非特許文献1および2参照)。PGF2αもまた実験動物の蝸牛構造で合成されることが分かっているが、PGF2αの生理学的な機能は完全に未知のままであり(例えば、非特許文献2から4参照)、PGF2αが蝸牛の脈管構造に及ぼす影響は全く観察されていない。従って、PGF2αについての受容体(FPプロスタノイド受容体)が有毛細胞およびラセン神経節中に大量に分布しているという、本発明者によって見出された発見は非常に驚きであって、これは蝸牛中でのPGF2αのこれまで未知の機能に関係する。
【0016】
従来、プロスタグランジンは広い様々な疾患(例えば、メニエール病、耳鳴、緑内障、関節炎および滑液包炎)の病態生理学的な機構に関与すると仮説が立てられており(例えば、非特許文献5参照)、そしてインドメタシンはメニエール病を持つ2患者の判別スコアに及ぼすフロセミドの影響をブロックすることが見出されており、このことは恐らく内耳液体の動態における未決定のプロスタグランジンの関与を示唆する(例えば、非特許文献6参照)。これまで、臨床研究において、スルプロストン(sulprostone)、PGE誘導体が、静脈注入の1時間後にフロセミドによって引き起こされるのと同様な短い聴覚閾値シフトを生じることも分かっており、そしてPGEが聴覚機能に関与し得ると推測されている(例えば、非特許文献7参照)。このことに加えて、全身投与された別の合成PGEアナログ、ミソプロストールが臨床研究において耳鳴にある効果を及ぼすことが分かっている(例えば、非特許文献8参照)。本研究において、ミソプロストールを経口投与した。
【0017】
【非特許文献1】Rhee, C. K., Park, Y. S., Jung, T. T.およびPark, C. I.著(1999)、「Effects of leukotrienes and prostaglandins on cochlear blood flow in the chinchilla」、Eur. Arch. Otorhinolaryngol.、256、p.479-483
【非特許文献2】Umemura, K., Takiguchi, Y., Nakashima, M.およびNozue, M.著(1990)、「Effect of arachidonic acid on the inner ear blood flow measured with a laser Doppler flowmeter」、Ann. Otol. Rhinol. Laryngol.、99、p.491-495
【非特許文献3】Escoubet, B., Amsallem, P., Ferrary, E.およびTran Ba Huy, P.著(1985)、「Prostaglandin synthesis by the cochlea of the guinea pig. Influence of aspirin, gentamicin, and acoustic stimulation」、Prostaglandins.、29、p.589-599
【非特許文献4】Kawata, R., Urade, Y., Tachibana, M.およびMizukoshi, O.著(1988)、「Prostaglandin synthesis by the cochlea」、Prostaglandins、35、p.173-184
【非特許文献5】Rudin, D. O.著(1980)、「Glaucoma, ''auditory glaucoma'', ''articular glaucoma'', and the third eye」、Med. Hypotheses、6、p.427-430
【非特許文献6】Arenberg, I. K.およびGoodfriend, T. L.著(1980)、「Indomethacin blocks acute audiologic effects of furosemide in Meniere's disease」、Arch. Otolaryngol、106、p.383-386
【非特許文献7】Michel, O.およびMatthias, R.著(1992)、「Effects of prostaglandin E2 on the fluctuating hearing loss in Meniere's disease」、Auris Nasus Larynx、19、p.7-16
【非特許文献8】Briner, W., House, J.およびO’ Leary, M.著(1993)、「Synthetic prostaglandin E1 Misoprostol as a treatment for tinnitus」、Arch. Otolaryngol Head Neck Surgery、119、p.652-654。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置におけるプロスタノイドFP受容体作動薬(例えば、F−タイプのプロスタグランジン)の使用、並びにこの使用のための具体的な方法および組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は今回、プロスタグランジンの局所投与はメニエール病、耳鳴および聴覚損失の処置において非常に有益な効果を有することを予期せずに見出した。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、治療学的に有効な量のF−タイプのプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬、および医薬的に許容し得る担体を含有する、メニエール病または耳鳴の処置のための医薬組成物であって、内耳への局所投与に適当である、該医薬組成物の提供を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の薬物は、内リンパ管由来の液体の再吸収を増大させて、内リンパ腔中での圧の低下およびメニエール病の症状の緩和を引き起こすと思われる。加えて、本発明者が驚くべきことにFPプロスタノイド受容体は内耳の蝸牛領域、例えばコルチ器官、ラセン神経節および血管条において大量に発現することを発見した理由で、プロスタグランジン、少なくともF−タイプのプロスタグランジンは、蝸牛において直接的に有益な効果を有し得る。この発見は、非ステロイド性の抗炎症薬物NSAIDs(例えば、アセチルサリチル酸(アスピリン)およびインドメタシン)が耳毒性であることが知られ、そしてそれらは多数の患者において副作用として耳鳴を引き起こすことが多いという観点から特に関心が持たれる。そして、これらの薬物はシクロ−オキシゲナーゼ酵素、従って内在性プロスタグランジンの産生をブロックする理由で、プロスタグランジンは正常な生理学的な状態を維持するために蝸牛において重要であって、そしてそれらを用いて耳鳴および聴覚損失を治療し、軽減しまたは予防することができることを予期できないわけではない。
【0022】
従って、内耳に投与した外因性プロスタグランジン(特に、F−タイプ)、それらの誘導体またはプロスタノイドFP受容体作動薬は、耳鳴症状を軽減する助けとなり得る。メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失のための原因療法が今日存在しないので、本明細書に開示する発見は、臨床の観点から特に価値がある。
【0023】
本発明の発明者は、EPプロスタノイド受容体ではなく、FPプロスタノイド受容体の内耳での大量の発現を示し、そして、ラタノプロスト、PGF2αアナログおよびFP受容体作動薬の局所適用はメニエール病の耳鳴症状に及ぼす予期しない軽減効果、加えて聴覚能力を改善する効果を有することを示した。
【0024】
プロスタノイドFP受容体は、十分に定義され、クローニングされ、配列決定され、そして薬理学的に確認された実体である。従って、受容体における作動薬とは、該受容体と結合し、それを活性化する化合物(例えば、プロスタグランジンアナログ)である。該受容体における選択的な作動薬とは、他のプロスタノイド受容体よりも該受容体と優先して結合し、そして活性化し、薬理学的な意味ではFP受容体と他のプロスタノイド受容体との間のEC50値またはKd値の差異が少なくとも1ログ単位であることを通常意味する、化合物(例えば、プロスタグランジンアナログ)である。
【0025】
プロスタグランジンとは、シクロ−オキシゲアーゼ酵素(COX−1およびCOX−2)によって触媒される閉環および酸素化を含む代謝段階によって前駆体エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)またはエイコサンペンタエン酸から通常誘導される脂肪酸である。プロスタグランジンは典型的に、2つの炭素鎖が結合したシクロペンタン環を有する。その上方部は通常、末端カルボン酸部分を含めて7個の炭素からなるアルファ鎖と呼ばれ、一方で下方部の鎖は通常オメガ鎖と呼ばれ、これは末端メチル基を含めて8個の炭素を含む。該プロスタグランジンは、一般式:
【化1】

を有する。
【0026】
ここで、該シクロペンタン環(X)は、以下の通り置換され得る:
【化2】

【0027】
該鎖中の二重結合の数に応じて、下付き1〜3を使用する。下付き1を有するプロスタグランジン、例えばPGF1αおよびPGEの場合には、二重結合はオメガ鎖中の炭素13および14の間に位置し、天然に存在するプロスタグランジンのトランス配置を示す。下付き2を有するプロスタグランジン、例えばPGF2αおよびPGDの場合には、シス配置である別の二重結合がアルファ鎖中の炭素5および6の間に位置する。下付き3を有するプロスタグランジンの場合には、第3の二重結合がオメガ鎖中の炭素17および18の間に位置し、天然に存在するプロスタグランジンのシス配置を示す。プロスタグランジンの炭素15におけるヒドロキシル基は生物学的な活性にとって必須であり、そして該ヒドロキシ基のケトへの脱水素添加は、該プロスタグランジンの活性/効力を著しく低下させる。
【0028】
プロスタグランジンは現在、いくつかの異なる障害のための医薬として使用されている。例えば、胃潰瘍の処置またはNSAID処置の間の胃潰瘍の予防(ミソプロストール)、性交不能の処置(アルプロスタジル)、分娩の誘発および子宮の頚部組織の軟化(EおよびFのプロスタグランジン)、並びに緑内障の処置(ラタノプロストおよびイソプロピルウノプロストン)が挙げられる。特に、プロスタグランジンエステル(例えば、イソプロピルエステルまたはメチルエステル)は、バイオアベイラビリティを増大させるのに、並びに該プロスタグランジンの安定化のために有利であることが分かった。多数の天然に存在するプロスタグランジンが局所適用した場合に、例えば眼において刺激作用を生じる傾向があるが、オメガ鎖中に末端の環−置換を有するプロスタグランジン、好ましくは例えばPGF2αの17−フェニルまたは16−フェノキシ誘導体は眼における優れた治療学的な指標を有することが分かっており(以下の文献を参照)、そしてそれらの化合物もまた本発明において好ましい。
WO89/03384、および
Stjernschantz, J., Selen, G., Ocklind, A.およびResul, B.等(1998)、Effects of latanoprost and related prostaglandin analogues. In: Uveoscleral outflow. Biology and clinical aspects(A. AlmおよびR.N. Weinreb編)、Mosby-Wolfe Medical Communications、London、p.57-72。
【0029】
現在特に、ラタノプロスト(latanoprost)(13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α−イソプロピルエステル)、16−[(3−トリフルオロメチル)−フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α−イソプロピルエステル、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α−イソプロピルエステル、および17−[(3,5−ジフルオロ)−フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2α、並びにこれらのアナログのエステルは本発明によれば、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置において使用することが好ましい。プロスタグランジン関連化合物(例えば、プロスタミド(例えば、AGN192024(ビマトロプロスト(Bimatoprost))、並びにプロスタグランジンの誘導体およびアナログ(例えば、トラボプロスト(travoprost)およびイソプロピルウノプロストン(unoprostone))はまた、本発明の範囲内にある化合物である。
【0030】
従って、本発明はプロスタノイドFP受容体作動薬もしくはF−タイププロスタグランジン、またはそれらの誘導体の治療学的に有用な量を内耳に局所投与する場合に、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置のための新規な方法を提供する。特に、内耳の正円窓および/または卵円窓を医薬的に有効な量のプロスタノイドFP受容体作動薬もしくはF−タイププロスタグランジン、またはそれらの誘導体を含有する薬理学的に許容し得る組成物と接触させる。
【0031】
本発明の1態様によれば、プロスタノイドFP受容体作動薬はPGF2αまたはPGF2α誘導体である。本発明によれば、プロスタグランジンはオメガ中、芳香族環式構造または非芳香族環式構造で置換され得る。プロスタグランジンは、13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α、16−[(3−トリフルオロメチル)フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α、および17−[(3,5−ジフルオロ)フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2α、並びにそれらのアルキルエステルおよびアミドからなる群から選ばれることが好ましい。
【0032】
プロスタグランジンは、ラタノプロストおよび医薬的に適当な塩を含むラタノプロスト酸からなる群から選ばれることが、最も好ましい。
【0033】
本発明の1態様によれば、プロスタグランジンをプロドラッグの形態で投与する。該プロスタグランジンは例えば、アルキルエステルまたはアミドの形態で(例えば、イソプロピルエステルまたはアミドであり、エチルアミドが好ましい)投与することができる。
【0034】
本発明の方法によれば、医薬的に有効な量のプロスタノイドFP受容体作動薬もしくはF−タイププロスタグランジン、またはそれらの誘導体を内耳に1年に1〜100回投与する。本発明の態様によれば、該化合物を、医学的なポンプ装置を用いるかあるいは該プロスタグランジンおよび薬理学的に適当なゲル形成物質、担体またはマトリックス(例えば、ヒアルロン酸および/または架橋結合したヒアルロン酸)を含有するゲルの形態で、連続的にまたは半連続的に投与する。
【0035】
本発明の1態様によれば、該化合物は、内耳中に置くのに適当であったり、そして該活性化合物を正円窓および/または卵円窓ヘもしくはその近傍ヘ運搬することができる徐放出性薬物挿入物の形態で投与する。
【0036】
本発明は、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置のための薬物の製造における、F−タイプのプロスタグランジン、その誘導体またはプロスタノイドFP受容体作動薬の使用を提供する。1態様によれば、プロスタグランジンはPGF2αまたはPGF2α誘導体である。該プロスタグランジンはまた、オメガ鎖中、芳香族環式構造または非芳香族環式構造で置換されたプロスタグランジンでもあり得る。該プロスタグランジンは、13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α、16−[(3−トリフルオロメチル)フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2αおよび17−[(3,5−ジフルオロ)フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2αからなる群から選ばれることが好ましい。
【0037】
該プロスタグランジンは、ラタノプロストおよび医薬的に適当な塩を含むラタノプロスト酸酸からなる群から選ばれることが最も好ましい。本発明の使用のためのプロスタグランジンはまた、プロスタグランジンアルキルエステルまたはアミド、例えばイソプロピルエステルまたはエチルアミドの形態であるプロスタグランジンであり得る。
【0038】
本発明は、治療学的に活性な量のF−タイプのプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬、および医薬的に許容し得る担体を含有する、メニエール病、耳鳴または聴覚損失の処置のための、局所投与に適当な医薬組成物を提供する。本組成物において、担体は薬理学的に適当なゲル形成物質、担体または徐放出性マトリックス(例えば、ヒアルロン酸または架橋結合したヒアルロン酸)であることが好ましい。
【0039】
本発明は更に、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置のための装置を提供し、該装置は治療学的に有効な量のプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬を、徐放性期間中にヒト患者の中耳内で放出することができる。この装置は、正円窓および/または卵円窓でまたはその近くで上記化合物の連続的にまたは間欠的に制御された運搬のためのポンプとなり得る。
【実施例】
【0040】
本発明は、以下により詳細に例示するが、これは本発明を限定するものではない。
(実施例1)
【0041】
1.内耳におけるFPプロスタノイド受容体の同定
いずれかの性別の体重が300〜500gの成体白色種(albino)モルモットを、ペントバルビタール−エタノール溶液の腹腔内注射を用いて安楽死させた。該内耳構造を早く解剖し、4%の新しいホルムアルデヒド溶液中に浸漬させた。同じ溶液をまた、卵円窓および正円窓にわたる蝸牛および内耳にわたって灌流させた。適当に固定化させた後に、該骨性組織を2〜3週間、8%EDTAナトリウム処置によって脱灰させた。その後に、該標本を通常のパラフィン包埋のために加工処理し、5〜10μmの切片をミクロトームを用いて切断した。該切片を更に、免疫組織化学のために加工処理して、FP、EPおよびEPプロスタノイド受容体、並びにCOX−1酵素およびCOX−2酵素を示した。ヒトFP、EPおよびEPプロスタノイド受容体の第1細胞外ループに対して産生したポリクローナル抗体を用いた。COX−1酵素を検出するために、アミノ酸272〜282に相当するヒツジCOX−1配列に対して産生したポリクローナル抗体を用い、そしてCOX−2酵素を検出するために、アミノ酸584〜598に相当するマウスCOX−2配列に対して産生したポリクローナル抗体を使用した。
【0042】
免疫染色をパラフィン切片について行ない、このものについてろうを取り除き、再水和し、そしてトリプシン(0.1%)を用いて室温で15分間インキュベートした。内因性ペルオキシダーゼを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、1%Hを用いて室温で30分間ブロックした。PBS中で洗浄後に、非特異的な結合を、5%の正常なヤギ血清(DAKO)を用いて室温で30分間ブロックした。一次抗体をPBS中の0.1%ウシ血清アルブミン中で、1:250(COX−1およびCOX−2の検出の場合)、または8μg/mL(FP、EPおよびEP受容体の検出の場合)のいずれかにまで希釈し、引き続いて該組織と一緒に室温で60分間インキュベートした。ペルオキシダーゼEnVision + TM(DAKO Readytouse)と結合させた二次抗体を用いて、インキュベートを室温で30分間行なった。ジアミノベンジジンをペルオキシダーゼについての基質として使用し、そしてインキュベートを室温で約10分間行った。該スライドを、マイヤー(Mayer)ヘマトキシリン(Histolab)を用いて対比染色し、カバーガラスを用いてマウントし、そして光学顕微鏡で検査した。特異的な抗体を有しない適当なコントロールを含めた。
【0043】
特に、蝸牛構造を検査した。COX−1およびCOX−2の両方についての染色は、コルチの器官および蝸牛の多くの部分に存在することが分かった。通常、該COX−1発現はCOX−2発現よりもより強いようであった。FPプロスタノイド受容体は、コルチ器官(これは、有毛細胞そのものを含む)中で、ラセン靭帯(spiral ligament)および血管条中で、並びにラセン神経節中で大量に発現することを見出した。加えて、該FP受容体は内リンパ管領域において検出された。EPおよびEPプロスタノイド受容体についての染色は非常に弱く、このことはこれらの受容体がFP受容体と対比して内耳中で強くは発現しないことを示す。従って、FPプロスタノイド受容体は、メニエール病、耳鳴および聴覚損失について最も関連する構造中で、すなわちコルチ器官、血管条、ラセン神経節および内リンパ管領域中で検出された。該COX酵素が蝸牛中で少なくとも発現することを見出したという事実は、内因性プロスタグランジンが内耳において生理学的な機能を有するであろうことを示すものであり、このことは例えば耳鳴症状を治療し、軽減しまたは予防するのに重要となり得る。
(実施例2)
【0044】
2.ラタノプロストが内リンパ管構造の形態学に及ぼす影響の証明
ラタノプロストの鼓室内(中耳内に)投与のためおよび脳幹聴力測定のために、いずれかの性別の体重が200〜300gの4色素性モルモットを、ペントバルビタールを用いて安楽死させた。聴力測定を、ラタノプロスト(58μg/mL;約14μgのラタノプロストに相当する総計250μL/注射)およびビヒクルの投与前後に、8、16および32kHzの周波数で行なった。ラタノプロストを一方の耳に、1日1回、3日間投与し、一方で他方の耳はビヒクルだけを同様に注射した。4日目に、該動物を過剰量の該麻酔薬を用いて安楽死させた。中耳を解剖し、該粘膜を視察した。その後に、該内耳を取り出し、該迷路を、卵円窓および正円窓を通して3%緩衝化グルタルアルデヒド溶液を用いて灌流固定した。次いで、該組織を同じ溶液中に約24時間浸漬固定化させ、そして0.1M EDTAナトリウム溶液中で約2週間脱灰させた。その後に、該組織を光学顕微鏡についての通常の方法に従って調製し、そしてEpon包埋の組織片の超薄切片を透過型電子顕微鏡用に切断した。
【0045】
ラタノプロスト処理またはビヒクル処理の耳における中耳の粘膜においてまたは鼓膜において、炎症性の変化は全く検出されなかった。そして、蝸牛(これは、有毛細胞を有するコルチ器官を含む)中では、形態学上の変化は全く検出されなかった。脳幹オージオグラムは、ラタノプロストまたはビヒクルを用いた処置によるであろう変化を全く示さなかった。従って、投与様式は技術的に成功であり、ラタノプロストは十分に耐性であった。最も重要なことに、いくつかの動物においては、内リンパ管における形態学上の明確な変化が検出された。これらの変化は、内リンパ管の周囲にある疎性結合組織中での線維芽細胞にわたる細胞外マトリックス密度の減少の帯域を含んだ。これらの発見は、3人によって実証された。該結果は、ラタノプロストは内リンパ管に到達し、そして該細胞が細胞外マトリックスを改変するように誘発させたことを示す。同様な効果は、これまでにランタプロストおよび他のプロスタグランジンを用いた局所処置後に、眼の毛様体筋において観察されている(上記非特許文献8、および下記の文献を参照)。該結果は、ラタノプロスト並びに他のプロスタグランジン(少なくとも、PGF2αタイプ)が内リンパ管にわたる細胞外マトリックスを改変する能力を有することを示す。このことにより、多分、該組織からリンパ管または静脈までの水流の抵抗が減少し、従って内リンパ系中の圧が結果として低下するにつれて、メニエール病の処置において有益となる。
Lutjen-Drecoll, E.およびTamm, E.等(1989)、The effects of ocular hypotensive doses of PGF-isopropyl ester on anterior segment morphology. In: The ocular effects of prostaglandins and other eicosanoids(L. Z. BitoおよびJ. Stjernschantz編)、Progress in Clinical and Biological Research、312、p.437-446;
Lindsey, J.およびWeinreb, R. N.等(1998)、Effects of prostaglandins on uveoscleral outflow. In: Uveoscleral outflow. Biology and clinical aspects(A. AlmおよびR.N. Weinreb編)、Mosby-Wolfe Medical Communications. London、p.41-55。
(実施例3)
【0046】
3.メニエール病を患っている2患者ヘのラタノプロストの局所投与の有益な効果の説明
中から強の程度であると臨床的に評価された一側性のメニエール病を患っている中年の雌性および雄性の患者を、1日1回、3日間ラタノプロスト(キサラタン(Xalatan)登録商標)を用いて処置した。約0.3〜0.4mLの減菌キサラタン(登録商標)(0.005%のラタノプロスト)溶液を、適当な局所麻酔後に、該正円窓にほぼ同格に(in close apposition)鼓室内点滴注入(installation)することによって投与した。その後に、内耳内へのラタノプロストの浸透を増大させるために、該処置した耳を持つ側を上にして30分間以上横たわるように頼んだ。該患者は、ラタノプロストの処置前にベースラインで、0.5、1および2kHz周波数でのオージオグラムにおいて少なくとも40デシベル低下した。加えて、彼等は耳鳴と合わせてめまいおよび悪心のエピソードを患っていた。オージオグラムおよび蝸牛での放出(emission)を、処置前および処置開始後の7日目または13日目に記録し、そして自覚症状についての情報を集めた。該オージオグラムは、ラタノプロストの投与後に有意な変化を示さないが、蝸牛での放出は有意に改善され、そして該患者は耳鳴および聴覚損失についての彼等の状態において顕著に改善された(表1)。
表1.ラタノプロストの処置前後の、メニエール病を患っている2患者において得られたデータ
耳鳴は、以下の通り類別する:0はなし、1は弱、2は中、および3は強とする。
ラタノプロストを、1日1回、3日間、鼓室内注射によって投与し、そして処置の開始前および処置の開始後7または13日目にデータを記録した。

(実施例4)
【0047】
4.メニエール病におけるラタノプロストを用いた最初の臨床治験の結果
優先年期間中に、無作為化した二重盲の(double-masked)プラセボ対照臨床試験を、本特許出願の発明者によって行なった。一側性メニエール病を患っている9患者(5雄性および4雌性;39〜65齢)を、乗り換え設計の形を取る、ラタノプロスト(約50マイクログラム/mL)またはプラセボを用いて3日間連続で、毎日処置した。従って、各患者は、ラタノプロストまたはプラセボの両方を用いて無作為な順序で処置した。各処置期間は3日間持続し、その後該患者を処置の開始から5日目および15日目に調べた。該2つの処置期間の間(洗い出し期間)に、約1ヶ月を要した。該処置は、本質的に上記の通り、中耳内に鼓室内注射(約0.2〜0.8mL)によって行なった。いくつかのパラメータ/症状を記載し、それは以下の通りである:特に、純粋な音の平均値(デシベル)、識別値(%)、耳鳴の大きさ(デシベル);および目視アナログスケール方法を用いることによる、自覚的な聴覚能力、耳鳴およびめまい。該患者は毎日、該3つの最後に述べたパラメーターを記録し、そしてラタノプロストおよびプラセボを用いた処置の開始後の2〜5日間および2〜15日間についての平均値を算出した。
【0048】
9患者中の3患者において、ラタノプロストを用いた処置後に、識別値の顕著な改善(25〜50%)が観察された。該改善は、プラセボ処置の間には決して観察されなかった。15日目での、ラタノプロスト処置後の平均的な識別値は68.2±7.2%であり、一方でプラセボ処置後では52.9±11.5%であった。29%の差異はp<0.05レベルで統計学的に有意であった。同様に、プラセボと比較してラタノプロスト処置後に、15日目での純粋な音の平均値における統計学的に有意な(p<0.01)改善が見出され、それぞれの値は58.9±3.6および64.3±3.5デシベルであった(より低い方の値は改善を示す)。最後に、該9患者のうちの少なくとも7患者は、ラタノプロスト処置の開始後の早い期間(2〜5日)、およびラタノプロスト処置の開始後のより長い期間(2〜15日)の両方で、めまいをあまり被らなかった。目視アナログスケールでの値(単位はmm;値の減少は改善、すなわちめまいの感覚が低いことを反映する)は以下の通りであった;2〜5日のラタノプロスト処置の場合では22.4±9.1であり、そしてプラセボ処置の場合では33.5±10.8(p<0.05)であった;2〜15日のラタノプロスト処置の場合では、24.2±10.0であり、そしてプラセボ処置の場合では、34.2±11.4(p<0.05)であった。耳鳴の大きさ、耳鳴の自覚的な経験または自覚的な聴覚能力においては統計学的に有意な変化は観察されず、そして不定の結果が蝸牛での放出において得られた。
【0049】
従って、本発明者によって実施される本研究の結果は、聴覚の反応、特に言語を識別する能力、および平衡器官である前庭装置の両方に及ぼす該プロスタグランジンの正の効果を証明する。ラタノプロスト処置に対する応答が該2人の最初の患者と臨床治験に含まれた患者との間でいくらか変わるという事実は、該疾患の重度の差異、被験時間の差異および研究設計の差異に起因し得る。しかしながら、両方の研究において、ラタノプロスト処置後の内耳機能における明快な改善を観察することができるであろう。
【0050】
結論として、本発明者は、前臨床実験においてCOX酵素およびプロスタノイド受容体(特に、FP受容体)がメニエール病、耳鳴および聴覚損失に関して内耳の関連構造において発現することを示した。本発明者は、モルモットにおけるラタノプロストの鼓室内注射により、内リンパ管構造における形態学的な変化(これは、細胞外マトリックスの空隙率の増大を暗示する)を生じることも示し、このことより、内リンパ液の再吸収の増大を予想することができる。最後に、本発明者はメニエール病を患っている患者において、鼓室内ラタノプロスト注射後に有意な臨床的な改善を示した。従って、プロスタグランジンはメニエール病、耳鳴および聴覚損失を患っている患者の処置において治療学的な可能性を有することは非常にあり得ると考えられる。
【0051】
投与様式、医薬組成物、プロスタグランジンおよび用量
好ましい投与様式は、鼓膜からの直接的な点滴注入によるか、または中耳内ヘのポンプを用いた徐放性注入による。医薬組成物は、中耳での使用に適合し得るビヒクルに溶解する薬理学的に活性な原理を含む。それらのビヒクルとしては、水溶液、ある油状溶液、および適合し得る軟膏を含むことができるが、特に合成または天然のマトリックスまたは担体ベース(例えば、ヒアルロン酸またはコンドロイチン硫酸および他のグルコサミングリカンベース)のゲルを含む。特に、該ゲルの分解を防止するある架橋したヒアルロン酸ゲルは徐放性製剤を確立し、その結果該プロスタグランジンアナログは徐放性期間中(例えば、数週間、数ヶ月間、または一層より長い期間)、内耳に放出されるために、所望される。更に、該ビヒクルは可溶化剤、リポソームおよび生理学的に適合し得る高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸および他のグルコサミノグリカン)を含むことができ、粘性を増大させることができる。更に、生理学的に適合し得るナノ粒子製剤をも使用することができる。該製剤は中耳で使用するための適当な濃度で、適合し得る保存剤と一緒に保存することができる。
【0052】
従って、本発明はメニエール病、耳鳴および聴覚損失の処置における、PGF2αアナログおよび、FPプロスタノイド受容体での作動薬の使用を提供する。特に、ラタノプロスト(13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2αイソプロピルエステル)、(これは、緑内障の処置のための広い臨床的な使用における薬物)、および医薬的に適当な塩を含む該ラタノプロストの酸が好ましい。加えて、FP受容体作動薬(例えば、フルプロステノールおよびフルプロステノールのイソプロピルエステル(トラボプロスト(travoprost))、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α、並びにそれらのプロドラッグ(例えば、イソプロピルエステルまたはエチルアミド(ビマトプロスト(bimatoprost))、並びに17−[(3,5−ジフルオロ)−フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2αおよびこのアナログのエステルは、適当な薬物候補である。特に、オメガ鎖上に末端の芳香族環式置換基または非芳香族環式置換基(例えば、炭素17上のフェニル、ビフェニル、フリル、チオフェン、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチル)を有するプロスタグランジンアナログ、または炭素16上でのフェノキシ置換のアナログが好ましい。しかしながら、PGF2αそのもの、並びにPGF2αのより単純な誘導体およびエステルもまた適当であり得る。
【0053】
異なるプロスタグランジンアナログの用量は、各アナログの内因性活性に応じて変わるが、これは1日当たり0.01〜1000μgの範囲であり、より典型的には約1〜100μgである。該プロスタグランジンは優先的に、徐放性システム(例えば、ゲルまたは挿入物)によって投与すべきであるが、鼓膜からの注射を、例えばある期間中、1日1回または毎週1回、使用することもできる。インプラントポンプ装置を用いた連続投与もまた可能であり、そして特に該化合物の長期間投与が好ましい。インプラント可能な装置としては例えば、中耳、並びに正円窓および/または卵円窓の領域と結合させた耳介インプラント後再充填可能な浸透圧ポンプ装置を含む。典型的に、該プロスタグランジンは、寛解の期間および該組成物からの該プロスタグランジンの放出の性質に応じて、1日に1回から1年に数回、投与すべきである。現在、該プロスタグランジンの投与は寛解の期間中に連続であるべきか、またはメニエール病の攻撃中にだけ投与すべきであるのかは、分かっていない。しかしながら、耳鳴および聴覚の損失の処置の場合は、規則的な間隔で、例えば該疾患の激しさに応じて1年に1〜12回またはより多い回数で徐放性製剤での該プロスタグランジンの連続投与が必要と考えられる。
【0054】
本発明は本発明者にとって現在知られる最良の形態を構成する好ましい態様について記載するが、本分野の当業者によって明らかであろう様々な変化および改変を本明細書に添付する特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を逸脱することなく行なうことができると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のプロスタグランジンは、メニエール病、耳鳴および/または聴覚損失の処置において非常に有益な効果を有する為、工業的利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療学的に有効な量のF−タイプのプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬、および医薬的に許容し得る担体を含有する、メニエール病または耳鳴の処置のための医薬組成物であって、内耳への局所投与に適当である、該医薬組成物。
【請求項2】
プロスタグランジンは、13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ラタノプロスト酸)、16−[(3−トリフルオロメチル)−フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α(トラボプロスト酸)、および17−[(3,5−ジフルオロ)−フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2α、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ビマトロプロストの遊離酸)、並びにそれらの医薬的に適当な塩からなる群から選ばれる、請求項1記載の該医薬組成物。
【請求項3】
プロスタグランジンはプロドラッグの形態であることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
プロスタグランジンは医薬的に適当な塩、アルキルエステルまたはアミドの形態であることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
担体は徐放性のマトリックスまたはゲルであることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
担体はヒアルロン酸または架橋結合したヒアルロン酸であることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
メニエール病または耳鳴の処置のための医薬の製造における、F−タイプのプロスタグランジンまたはプロスタノイドFP受容体作動薬の使用。
【請求項8】
プロスタグランジンは、13,14−ジヒドロ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ラタノプロスト酸)、16−[(3−トリフルオロメチル)−フェノキシ]−17,18,19,20−テトラノル−PGF2α(トラボプロスト酸)、および17−[(3,5−ジフルオロ)−フェニル]−18,19,20−トリノル−PGF2α、17−フェニル−18,19,20−トリノル−PGF2α(ビマトロプロストの遊離酸)、並びにそれらの医薬的に適当な塩からなる群から選ばれる、請求項6記載の使用。
【請求項9】
プロスタグランジンはプロドラッグの形態であることを特徴とする、請求項6記載の使用。
【請求項10】
プロスタグランジンは医薬的に適当な塩、アルキルエステルまたはアミドの形態であることを特徴とする、請求項6記載の使用。
【請求項11】
プロスタグランジンは徐放性のマトリックスまたはゲルからなる担体中で投与されることを特徴とする、請求項6記載の使用。
【請求項12】
担体はヒアルロン酸または架橋結合したヒアルロン酸であることを特徴とする、請求項10記載の使用。
【請求項13】
プロスタグランジンはヒト患者の内耳にまで運搬されることを特徴とする、請求項6記載の使用。

【公開番号】特開2009−19043(P2009−19043A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197576(P2008−197576)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【分割の表示】特願2002−557397(P2002−557397)の分割
【原出願日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【出願人】(503259255)シュンフォラ・アクチボラゲット (2)
【氏名又は名称原語表記】SYNPHORA AB
【Fターム(参考)】