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メラニン産生抑制剤とこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物、食品組成物
説明

メラニン産生抑制剤とこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物、食品組成物

【課題】新規なメラニン産生抑制剤の提供。
【解決手段】乾燥地由来の植物であるハマダ・スコパリア(Hammada Scoparia)の抽出物が、メラニン産生抑制作用を有することを新規に見出した。このことから、ハマダ・スコパリア抽出物を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤を提供する。また、このメラニン産生抑制剤を含有する、美白医薬品組成物、美白化粧料組成物、並びに食品原料と混合した美白食品組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン産生抑制剤に関する。より詳しくは、Hammada属植物から抽出されたメラニン産生抑制剤と、これを含有する美白用の医薬品組成物、化粧料組成物、並びに食品組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
日焼けやシミ・ソバカスなどの皮膚における色素沈着は、表皮に存在する細胞「メラノサイト」が増殖し、増殖したメラノサイトにおいて生成された色素「メラニン」が隣接細胞に拡散することで生じる。このメラノサイトでのメラニン産生に中心的役割を果たしている酵素がチロシン酸化酵素(チロシナーゼ)である。このチロシナーゼの活性を阻害することにより、メラニン産生を抑制し、いわゆる美白作用を発揮する薬剤が種々知られている。このような薬剤の代表的なものに、コウジ酸やアルブチンがある。
【0003】
特にコウジ酸及びその誘導体は、メラニン産生抑制剤として美白用化粧料組成物や皮膚外用剤に使用されてきた。しかし、近年、コウジ酸に発癌性や遺伝毒性の可能性が指摘され、これに代わる安全性の高いメラニン産生抑制剤が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、チロシナーゼ阻害作用を有する西洋わさび抽出物が開示されている。西洋わさびは、アブラナ科の多年草植物であり、食用品に使用される植物のため、安全性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−232806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高い新規の植物由来のメラニン産生抑制成分を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題解決のために、鋭意検討した結果、チュニジア南部に生息する、乾燥地由来の芳香性の植物である、ハマダ・スコパリア(Hammada scoparia)から得られる抽出物が、チロシナーゼの活性を阻害することを新規に見出した。チロシナーゼによるチロシンの酸化は、メラニン合成の最初のステップとされており、チロシンナーゼの活性を阻害することは、メラニン産生の抑制につながる。
【0008】
すなわち本発明は、ハマダ・スコパリア(Hammada Scoparia)の抽出物を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤を提供する。本発明はまた、メラニン産生抑制剤を含有する美白用医薬品組成物、美白用化粧料組成物及び美白用食品組成物を提供する。
【0009】
本発明において、「ハマダ・スコパリア抽出物」には、ハマダ・スコパリアの植物全体又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根などから選択される一以上の部位を圧搾、又は粉砕等することにより得られる液体成分が含まれるものとする。また、「ハマダ・スコパリア抽出物」には、ハマダ・スコパリアの植物全体、又は葉、茎、花並びにこれらを含む地上部、あるいは果実、種子、根茎、根などから選択される一以上の部位から適正な溶媒を用いて抽出される溶出成分も含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規なメラニン産生抑制剤が提供される。また、このメラニン産生抑制剤は、高い安全性を発揮し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】チロシナーゼ活性に対するハマダ・スコパリア抽出物の阻害効果を示す図面代用グラフである(試験例1)。
【図2】ハマダ・スコパリア抽出物のB16細胞に対する細胞毒性についての解析結果を示す図面代用グラフである(試験例2)。
【図3】B16細胞におけるメラニン合成に対するハマダ・スコパリア抽出物の阻害を示す図面代用グラフ(A)及び図面代用写真(B)である(試験例2)。
【図4】ハマダ・スコパリア抽出物の処理によるB16細胞でのメラニン合成に関与する遺伝子の発現量の変化を示す図面代用グラフである(試験例3)。
【図5】ハマダ・スコパリア抽出物の添加によるB16細胞の形態の変化を示す図面代用写真である(試験例4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、実施例に詳しく後述するように、B16マウスメラノーマ細胞を用いた検討により、ハマダ・スコパリア抽出物がメラニン産生抑制作用を有することを初めて見出した。このハマダ・スコパリア抽出物のメラニン産生抑制作用は、チロシナーゼの活性を阻害して発揮されるものと考えられた。更に、ハマダ・スコパリア抽出物は、チロシナーゼのmRNAの発現量を低下させることで、チロシナーゼの活性を阻害しているものと考えられた。
【0013】
従って、ハマダ・スコパリア抽出物を有効成分とする本発明に係るメラニン産生抑制剤は、美白のための医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物などの適切な形態に加工され得る。
【0014】
本発明における美白とは、本来の皮膚の色が白くなること、また、日焼けなどによる黒色化した皮膚が白くなること、皮膚の黒色化が防止されること、シミやソバカスが薄く目立たなくなること、シミやソバカスの生成が抑制されることなどをいう。
【0015】
本発明において、ハマダ・スコパリアは、生のままでも乾燥したものでも使用することができる。使用するハマダ・スコパリアの部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、植物体全体、あるいは芽、葉、茎、根茎、根、花、果実、種子などから選択される一以上の部位とでき、これらを適宜組み合わせて用いることができる。本発明に係るメラニン産生抑制剤においては、例えば、葉、茎等を合わせた地上部を用いることが好ましい。
【0016】
ハマダ・スコパリア抽出物は、ハマダ・スコパリアを圧搾または粉砕等することにより液体成分として得ることができ、あるいはハマダ・スコパリアを適当な溶媒を用いて抽出することにより溶出成分として得ることもできる。
【0017】
溶媒抽出は、従来公知の手法によって行うことができる。溶媒抽出は、例えば、ハマダ・スコパリアの植物体全体あるいは一以上の部位を低温、常温、あるいは加温下で溶媒中において所定時間浸漬したり、加熱還流したりすることによって行い得る。得られた溶媒抽出物は、必要に応じてろ過や濃縮、イオン交換樹脂や液体クロマトグラフィーなどを用いた精製・分離、凍結乾燥等を行ってもよい。
【0018】
溶媒には、通常、植物抽出に用いられる溶媒を1種または2種以上選択して用いることができる。溶媒としては、例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノールおよびプロパノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコールおよびプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。本発明においては、例えば、水−エタノール抽出溶媒が好適である。
【0019】
ハマダ・スコパリア抽出物は、液状(ジュース)、ペースト状、ゲル状等いずれの形態で用いることもできる。ハマダ・スコパリア抽出物は、乾固させて固体状としてもよく、あるいは凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させて粉末状としてもよい。
【0020】
ハマダ・スコパリア抽出物を有効成分とする本発明に係るメラニン産生抑制剤、およびこれを含有する医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物は、次のような優位性を有する。
【0021】
すなわち、本発明に係るメラニン産生抑制剤は、実施例で詳しく後述するように、細胞毒性が低い濃度の範囲で、細胞に対してメラニン産生抑制効果を有するため、その医薬品組成物は長期にわたって連続的に適用できる可能性が高く、副作用も少ない可能性が高い。また、本発明に係るメラニン産生抑制剤は、例えば、医薬品、化粧品、又は健康補助食品(機能性食品)などとして長期間、連続的に適用することにより、より効果的に皮膚の美白を促す可能性がある。
【0022】
本発明に係る医薬品組成物は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。医薬品組成物は、上記メラニン産生抑制剤を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0023】
医薬品組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、投与対象の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。
【0024】
本発明に係る化粧料組成物は、ハマダ・スコパリア抽出物と公知の化粧品成分とを混合し、例えば、化粧水、ローション、クリーム、パック等、ファンデーション等のメイクアップ化粧料、日焼け止め、として調製ができる。
【0025】
化粧品成分として、具体的には、流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソパルミチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル、トリイソオクチル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸およびカプリン酸の混合脂肪酸のトリグリセリド、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、オリーブ油、ホホバ油、月見草油、ユーカリ油、大豆油、菜種油、サフラワー油、パーム油、ゴマ油、米胚芽油、タートル油、ミンク油、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール等の油性成分、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリンやショ糖と前記脂肪酸とのモノ、ジ、トリまたはテトラエステル等の界面活性剤、多価アルコール類、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、天然保湿因子(NMF)、ピロリドンカルボン酸ソーダ、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等の保湿剤、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン等の増粘剤、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、タルク、カオリン、マイカ、ベントナイト、雲母、雲母チタン、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の顔料、クエン酸−クエン酸ナトリウム等のpH、BHT、BHA、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンC類及びそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンE類及びそれらの誘導体並びにそれらの塩等の抗酸化剤、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ウロカニン酸等の紫外線吸収剤などが挙げられる。ハマダ・スコパリア抽出物に、これらの成分を組み合わせて適量配合し、加温もしくは非加温状態で、混合、分散、乳化あるいは溶解させ、液状、ペースト状、ゲル状、クリーム状(半固形状を含む)または固形状とし、化粧料組成物を得る。
【0026】
また、本発明に係る食品組成物は、ハマダ・スコパリアあるいはその抽出物に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の通常食品原料として使用されているものを適宜配合することにより製造できる。また、一般に食品材料として使用される米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサなどと混合してもよい。
【0027】
食品組成物としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
<試験例1>
ハマダ・スコパリア抽出物が、細胞におけるメラニン合成に影響を与え得るか確認するために、先ず、本試験例において、ハマダ・スコパリア抽出物のチロシン酸化酵素(チロシナーゼ、Tyrosinase)に対する活性阻害を評価した。
【0029】
本試験例に使用するハマダ・スコパリア抽出物を得るために、ハマダ・スコパリアの乾燥状態の地上部10gを、70%エタノール溶液(100ml)に2週間、15℃から30℃で、浸漬して、得られた溶液を、遠心分離(1000×g、15分)し、上清を回収した。上清は、孔径0.45μmのフィルターでろ過滅菌し、ハマダ・スコパリア抽出物とした。ハマダ・スコパリア抽出物は、使用まで、−80℃に保管した。
【0030】
本試験例、及び後述する試験例2から4において使用したハマダ・スコパリア抽出物は、前述の方法で得られた液体(抽出原液)である。使用に際して、−80℃に保存した抽出原液(濃度10%(w/v)(乾燥状態の地上部10g/70%エタノール溶液100ml))は、文中及び図に示す濃度(%)になるように、適切な溶液で希釈した。実施例における同一の濃度(%)の記載は、異なる試験例であっても、同一のハマダ・スコパリア抽出物の濃度を示す。また、本試験例及び後述する試験例2から4については、各試験群と対照群は、各々3試料ずつ解析に用い、得られた値の平均値を各々試験群又は対照群の値として用いた。
【0031】
チロシナーゼに対するハマダ・スコパリア抽出物の活性阻害は、チロシナーゼの基質であるL−DOPA(3,4-Dihydroxy-L-phenylalanine)の酸化の抑制の程度を測定し、次の式に示すように、ハマダ・スコパリア抽出物を加えていない対照群におけるチロシナーゼの活性阻害率を0%として算出した。
【0032】
阻害率=[1−(A試験群−A試験群ブランク)/(A対照群−A対照群ブランク)]×100
(上記式において、Aは吸光度を示す。)
【0033】
エタノール抽出によって得られたハマダ・スコパリア抽出物は、リン酸緩衝食塩水(PBS)によって様々な濃度に希釈し、各希釈液を試験群とした。各試験群70μlに対して、各々30μlのマッシュルームチロシナーゼ溶液(350ユニット/nl、シグマ社)を加え混合し、5分間室温に置いた。各試験群には更に110μlの基質溶液(12mM L−DOPA、シグマ社)を加え、37℃に30分間置いた。各試験群は、492nmにおける吸光度を測定し、L−DOPAの酸化の程度とした。対照群には、ハマダ・スコパリア抽出物が加えられていないPBSを用い、試験群と同様に測定した。また、マッシュルームチロシナーゼが加えられていない試料についても測定し、その値をブランクとした。
【0034】
図1は、マッシュルームチロシナーゼによるL−DOPAの酸化に対する阻害率を、ハマダ・スコパリア抽出物を添加していない対照群(CT)の阻害率を0%として、各試験群における阻害率を示している。図示する値は、各試験群の平均値並びに標準偏差を示し、*および**は、t検定によるP値を、*=P<0.05、**=P<0.01として示している。
【0035】
図1に示すように、ハマダ・スコパリア抽出物の添加濃度が0.02%(w/v)以上である試験群において、チロシナーゼのL−DOPAに対する酸化が有意に抑制された。また、ハマダ・スコパリア抽出物のチロシナーゼの活性に対する阻害率は、添加量が0.02%(w/v)から1%(w/v)の範囲において、約5%から20%と濃度依存的に高くなることが観察された。
【0036】
本試験例の結果から、ハマダ・スコパリア抽出物は、チロシナーゼの活性に対する阻害効果を有していることが示された。チロシナーゼによるチロシンの酸化は、メラニン合成の最初のステップであり、このステップに対する阻害効果を有するハマダ・スコパリア抽出物は、メラニン産生抑制剤の成分として有効である。
【0037】
<試験例2>
試験例1において、ハマダ・スコパリア抽出物がチロシナーゼ活性に対する抑制効果を有することが明らかとなったことから、本試験例では、ハマダ・スコパリア抽出物の、細胞におけるメラニン産生に対する効果について検証した。細胞は、B16マウスメラノーマ(B16C7B)細胞を用いた。B16細胞はマウスのメラノーマ(黒色腫)から樹立された細胞株であり、メラニン色素を産生する色素細胞である。このため、メラニン合成に関する薬効試験に広く用いられている。また、メラニン産生に対する抑制効果に先立ち、ハマダ・スコパリア抽出物のB16細胞に対する細胞毒性についても評価した。
【0038】
B16細胞は、定法に従い、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用い、37℃、二酸化炭素濃度5%の条件で、モノレイヤーの状態で、培養した。B16細胞の継代は、細胞の密度が80〜90%に達した時点で行った。細胞の形態の変化を考慮して、継代数が3から12の範囲のB16細胞を、本試験例及び後述する他の試験例に使用した。
【0039】
100mmディッシュに、5×10個のB16細胞を撒き、一晩、培養した。その後、細胞の培地を、試験例1で抽出した、ハマダ・スコパリア抽出物が様々な濃度で添加された各々の培地に置き換え、48〜72時間、細胞培養を続けた。ハマダ・スコパリア抽出物が添加された培地で培養したB16細胞を各々試験群とし、ハマダ・スコパリア抽出物が添加されていない培地を用いた一群を、対照群とした。
【0040】
細胞毒性の評価を行うため、各試験群及び対照群の細胞を回収した。先ず、ディッシュから培地を取り除き、B16細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗い、トリプシン溶液(0.25% トリプシン、0.02% EDTA)を用いて、ディッシュから剥がして回収した。回収したB16細胞については、ハマダ・スコパリア抽出物を含まない通常の培地に再懸濁し、マニュアルに従って、ViaCount reagent(ミリポア社)で染色した。染色後のB16細胞については、Guava PCA(ミリポア社)を使用し、フローサイトメトリー法によって細胞の生死判定を行い、ViaCount Programにより、ハマダ・スコパリア抽出物添加後のB16細胞の細胞生存率を解析した。
【0041】
B16細胞に対するハマダ・スコパリア抽出物の毒性の評価は、初め、培地に添加するハマダ・スコパリア抽出物の濃度を、0.001%(w/v)、0.01%(w/v)、0.1%(w/v)、また、処理時間は何れも48時間に設定して行った。その結果、0.1%(w/v)で48時間の処理によって、B16細胞の生存率が対照群に対して約12%低下した(図示せず)。このことから、ハマダ・スコパリア抽出物の濃度範囲を狭め、0.01%(w/v)、0.017%(w/v)、0.03%(w/v)の3点の濃度において48時間処理した細胞について、細胞生存率を測定した。
【0042】
図2は、各々の濃度のハマダ・スコパリア抽出物を添加し、48時間後の細胞の生存率を示している。生存率は、ハマダ・スコパリア抽出物を添加していない対照群の生存率を100%とした。図示する値は、各試験群の平均値並びに標準偏差を示している。48時間、0.01%(w/v)、0.017%(w/v)、0.03%(w/v)の各濃度でハマダ・スコパリア抽出物を添加された試験群の細胞生存率は、図2中「−」で示す対照群に比べ有意に減少していなかった(t検定)。すなわち、前記の濃度範囲及び処理時間において、ハマダ・スコパリア抽出物のB16細胞に対する細胞毒性は認められなかった。
【0043】
次に、上述した細胞毒性の認められなかった濃度である0.017%(w/v)のハマダ・スコパリア抽出物を添加したB16細胞におけるメラニン合成阻害効果について、解析を行った。
【0044】
5×10個のB16細胞を100mmディッシュに撒き、一晩培養した。培地を、ハマダ・スコパリア抽出物を添加したものに置き換え、48〜72時間培養を続けた。対照群については、ハマダ・スコパリア抽出物を加えていない培地で培養を行った。その後、B16細胞は、前記のトリプシン溶液でディッシュから剥がし、回収した。
【0045】
回収したB16細胞におけるメラニン量の測定は以下の方法で行った。回収したB16細胞を、超音波処理によって、トライトン溶液(1% Triton−X(T8787、シグマ社)/PBS)に再懸濁した。B16細胞内で合成されたメラニンを回収するために、細胞懸濁液に10%トリクロロ酢酸溶液を加え、メラニンを沈殿させた。沈殿物は、8規定の水酸化ナトリウム溶液で懸濁し、2時間、80℃に置いて再溶解させ、メラニン含有液を得た。メラニン含有液は、410nmにおける吸光度を測定し、検量線に基づき、メラニン量を算出した。検量線の作成には、合成メラニン(M8631、シグマ社)を使用した。算出されたメラニン量は、前記の細胞懸濁液に含まれる細胞数で割り、一細胞あたりのメラニン量を計算した。
【0046】
図3(A)は、0.017%(w/v)のハマダ・スコパリア抽出物で処理したB16細胞におけるメラニン量、及び細胞生存率について示す。棒グラフは、一細胞あたりのメラニン量について、ハマダ・スコパリア抽出物で処理していない細胞における含有量を100%として、各試験群の平均値並びに標準偏差を示している。折れ線グラフは、細胞生存率について、ハマダ・スコパリア抽出物で処理していない細胞の生存率を100%として、各試験群の平均値並びに標準偏差を示している。また、*および**は、t検定によるP値を、*=P<0.05、**=P<0.01として示している。図3(B)は、72時間ハマダ・スコパリア抽出物による処理を行った細胞から得られた前述のメラニン含有液と、対照群のメラニン含有液の写真である。
【0047】
図3(A)に示すように、ハマダ・スコパリア抽出物添加後、48時間の細胞においては、約78%に、72時間の細胞において約41.5%に、各々メラニン量が、対照群に比べ有意に低下していた。一方、前述の方法で評価した細胞生存率については、0.017%(w/v)ハマダ・スコパリア抽出物を含む培地で72時間培養した場合であっても、対照群に対し有意な低下は認められなかった。また、図3(B)に示すように、72時間ハマダ・スコパリア抽出物による処理を行った細胞から得られたメラニン含有液は、対照群のものに比べ肉眼で見ても、色の違いが明確であった。
【0048】
以上から、ハマダ・スコパリア抽出物は、B16細胞へ細胞毒性を示さない濃度範囲や処理時間においても、メラニン合成阻害の効果を示すことが確認された。このことは、ハマダ・スコパリア抽出物が、メラニン産生抑制剤の成分として安全かつ有効であることを示している。
【0049】
<試験例3>
ハマダ・スコパリア抽出物のメラニン合成阻害作用について、細胞における経路を明らかにするために、メラニン合成に関与する遺伝子のうち、3遺伝子、Mitf(microphthalmia-associated transcription factor)、Tyr(tyrosinase)、Tyrp1(tyrosinase-related protein 1)のmRNAレベルでの発現量のについて解析した。Tyr(tyrosinase)は、チロシナーゼをコードする遺伝子であり、Mitfは、メラニン合成に関する酵素の色素細胞特異的な発現に関与する転写因子をコードする遺伝子である。また、Tyrp1は、メラニン合成経路の黒色の真性メラニン生成において、5,6-ジヒドロキシインド-ル-2-カルボン酸を酸化する酵素をコードする遺伝子である。
【0050】
3×10個のB16細胞を100mmディッシュに撒き、一晩培養した。試験群については、培地をハマダ・スコパリア抽出物を所定の濃度で添加したものに置き換え、所定の時間、培養を行った。対照群については、ハマダ・スコパリア抽出物を加えていない培地で培養を行った。その後、各試験群及対照群の細胞から、ISOGEN(日本ジーン)を使用して、トータルRNAの抽出を行った。
【0051】
得られたトータルRNAのうち、1μgを逆転写反応の鋳型として用い、Oligo(dT)12−18プライマーを使用して、SuperScriptIII Reverse Transcriptase Kit(インビトロジェン社)をマニュアルに従って使用し、逆転写反応を行った。遺伝子の発現量の定量は、glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)を、内在性コントロールとして、TaqMan Gene Expression Assayを用いて、マニュアルに従って行った。核酸増幅反応については、50℃‐2分、95℃−10分の増幅前の加熱ステップの後、95℃−15秒、60℃−1分のサイクルを、40回行った。
【0052】
上記3遺伝子の、ハマダ・スコパリア抽出物の処理による発現量の変化について、図4(A)から(C)に示す。図4において、縦軸は、対照群の各遺伝子の発現量を1として示している。棒グラフは、各試験群及び対照群の平均値並びに標準偏差を示している。また、*および**は、t検定によるP値を、*=P<0.05、**=P<0.01として示している。
【0053】
図4(A)に示すように、0.017%(w/v)の濃度で48時間、ハマダ・スコパリア抽出物を培地に加えて処理した細胞において、Tyr遺伝子の発現量は、対照群(Control)の発現量に対して、80%程度に低下していた。一方、図4(B)に示すTyrp1遺伝子の発現量は、(A)と同じ抽出物の添加濃度及び処理時間において、対照群の発現量に対して、80%程度に低下していた。また、0.017%(w/v)の濃度で、ハマダ・スコパリア抽出物を加えて4時間処理した細胞において、Mitf遺伝子の発現量が、対照群に比して約70%に低下した(図4(C)参照)。
【0054】
本試験例において、ハマダ・スコパリア抽出物の処理によって、B16細胞におけるTyr遺伝子、Tyrp1遺伝子、及びMitf遺伝子の、3遺伝子の発現量が減少することが示された。また、Tyr遺伝子及びTyrp1遺伝子の発現量の減少は、転写因子をコードする遺伝子である、Mitfの発現量が減少したためであると考えられる。これらの結果から、ハマダ・スコパリア抽出物によるチロシナーゼの活性阻害作用は、複数の遺伝子の発現量の変化を介していることが示唆された。
【0055】
<試験例4>
メラニン合成において、メラノソーム(黒色素胞)の輸送、及び色素細胞の樹状突起の形成は、色素の蓄積において重要な役割を担っている。そこで、ハマダ・スコパリア抽出物で処理したB16細胞における、樹状突起の伸長について観察した。
【0056】
B16細胞を4穴チャンバースライドに、4×10個ずつ撒き、一晩培養した。培地を、濃度0.017%(w/v)でハマダ・スコパリア抽出物が添加された培地に交換し、24時間培養を続けた。24時間後、チャンバースライドから培地を除き、細胞はPBSで2回洗浄した後、3.7%ホルムアルデヒド溶液で5分間処理し、固定した。固定後の細胞については、再度洗浄した後、界面活性剤を含む溶液(0.2%Triton X−100/PBS)で、5分間、透過処理を施し、免疫染色に用いた。B16細胞の形状を観察するために、アクチンフィラメントを染色した。アクチンフィラメントの染色には、アクチンフィラメントに特異的に結合するファロイジンに、蛍光標識であるローダミンが付加されたもの(ローダミン−ファロイジン、Rhodamine-phalloidin)を使用した。また、細胞の核については、4',6-diamino-2-phenylindole(DAPI)で染色した。染色後の細胞については、蛍光顕微鏡で観察した。
【0057】
図5は、染色した細胞の観察結果を示す。上段は、ハマダ・スコパリア抽出物処理を行っていない対照群(Control)、下段は、ハマダ・スコパリア抽出物処理を行った試験群(Hammada)である。図5において、左の列は、DAPIによって染色された核の写真を、中央の列はRhodamine-phalloidinによって染色されたアクチンフィラメントの写真を、右の列は、核及びアクチンフィラメントの観察結果を重ね合わせた写真を示す。また、下段右の図中の矢印は、樹状突起の位置を示す。
【0058】
図5に示すように、ハマダ・スコパリア抽出物の処理を行った細胞においては、細胞同士が離れ、樹状突起が観察された(矢印参照)。一方、ハマダ・スコパリア抽出物を添加していない対照群(コントロール)では、細胞は塊状態であった。これらの結果は、ハマダ・スコパリア抽出物添加によって添加後24時間の時点で、B16細胞においてアクチンの重合とアクチンフィラメントの分布の差異が生じ、細胞の形状が変化して樹状突起の形成が起きたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るメラニン産生抑制剤は、ヒトの皮膚の美白の目的に対して、医薬品組成物、化粧料組成物及び食品組成物として好適に利用できる。特に本発明に係るメラニン産生抑制剤は、色素細胞に対して、メラニン合成を阻害する効果が確認されていることから、美白の目的に対して、利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハマダ・スコパリア(Hammada Scoparia)の抽出物を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のメラニン産生抑制剤を含有する美白用医薬品組成物。
【請求項3】
請求項1記載のメラニン産生抑制剤を含有する美白用化粧料組成物。
【請求項4】
請求項1記載のメラニン産生抑制剤を含有する美白用食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107840(P2013−107840A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252968(P2011−252968)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度〜平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業・地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(511281752)インスティテュート デ レジオンズ アリド (1)
【氏名又は名称原語表記】Institut des Regions Arides
【住所又は居所原語表記】Route de Djorf, km 22.5, 4119 Medenine, Tunisia
【Fターム(参考)】