説明

メンテナンス装置及び流体噴射装置

【課題】装置の大型化を抑制することができるメンテナンス装置及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置を提供する。
【解決手段】用紙に対してインクを噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列Nを形成するように設けられた流体噴射ヘッド24を備えるプリンターのメンテナンス装置であって、ノズル列方向に沿って張設され、ノズル開口から離間した退避位置とノズル開口に当接する当接位置との間を移動可能に構成された線状部材33を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス装置及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体に対して流体を噴射する流体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、流体噴射ヘッドに形成されたノズルからインク(流体)を噴射することにより媒体に印刷処理を施すようになっている。
【0003】
こうしたプリンターは、ノズルの目詰まりを防ぐため、有底箱状のキャップを有するメンテナンス装置を備える場合が多い(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−119284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうしたキャップは流体噴射ヘッドに対応するサイズに形成されるため、キャップを含むメンテナンス装置を配置することで、装置全体が大型化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の大型化を抑制することができるメンテナンス装置及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、媒体に対して流体を噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列を形成するように設けられた流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス装置であって、前記ノズル列方向に沿って張設され、前記ノズル開口から離間した退避位置と前記ノズル開口に当接する当接位置との間を移動可能に構成された線状部材を備える。
【0008】
この構成によれば、ノズル列方向に沿って張設された線状部材がノズル開口から離間した退避位置からノズル開口に当接する当接位置に移動することにより、ノズル開口の乾燥を抑制することができる。すなわち、有底箱状のキャップよりも省スペースな線状部材でキャッピングを行うことができるので、装置の大型化を抑制することができる。
【0009】
本発明のメンテナンス装置において、前記線状部材の太さは、前記ノズル開口の口径の10〜50倍である。
この構成によれば、線状部材の太さをノズル開口の口径の10倍以上に設定することで、部品の製造誤差やノズルと線状部材との位置の誤差をカバーすることができる。また、線状部材の太さをノズル開口の口径の50倍以下に設定することで、流体噴射ヘッドと媒体との間となる空間域を通過させることができる。
【0010】
本発明のメンテナンス装置において、前記線状部材は、弾性変形可能な材料から構成される。
この構成によれば、線状部材は弾性変形可能な材料から構成されるので、退避位置から当接位置に向かう方向に付勢された状態でノズル開口に当接することで、ノズル開口が設けられた流体噴射ヘッドの形状に沿うように弾性変形するので、ノズル開口の密閉度を増すことができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記線状部材は、前記ノズル列方向と交差する前記媒体の搬送方向に沿って移動可能に構成される。
この構成によれば、線状部材はノズル列方向と交差する媒体の搬送方向に沿って退避位置と当接位置との間を移動することができる。
【0012】
本発明のメンテナンス装置において、前記線状部材は、前記ノズル列方向及び前記搬送方向と交差する前記媒体の厚さ方向に沿って移動可能に構成される。
この構成によれば、線状部材は媒体の厚さ方向に沿って移動可能であるので、流体噴射ヘッドに対する摺接を抑制しつつ、ノズル開口に当接することができる。
【0013】
本発明のメンテナンス装置は、前記流体の透過性が低いキャッピング用の前記線状部材と、前記流体を吸収可能な流体吸収用の前記線状部材とを備える。
この構成によれば、キャッピング用の線状部材は流体の透過性が低いので、ノズル開口に当接することでノズル内の乾燥を抑制することができる。一方、流体吸収用の線状部材がノズル開口に近接してノズル開口付近に付着している液滴を吸収することで、ノズルのメニスカスを整えることができる。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の流体噴射装置は、媒体に対して流体を噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列を形成するように設けられた流体噴射ヘッドと、上記メンテナンス装置とを備える。
【0015】
この構成によれば、上記メンテナンス装置と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態におけるインクジェット式プリンター概略構成を示す正面図。
【図2】メンテナンス装置の配置を説明するための側面図。
【図3】メンテナンス装置の構成を示す平面図。
【図4】メンテナンス装置の作用を説明するための平面図。
【図5】(a)及び(b)は、キャッピング用の線状部材の作用を説明するための正面図。
【図6】(a)及び(b)は、キャッピング用の線状部材の作用を説明するための断面図。
【図7】(a)及び(b)は、インク吸収用の線状部材の作用を説明するための正面図。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、インク吸収用の線状部材の作用を説明するための側面図。
【図9】(a)及び(b)は、線状部材の変形例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という)に具体化した一実施形態を図1〜図8を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は各図中に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0018】
図1に示すように、プリンター11は、媒体としての用紙Pを搬送する搬送ユニット12と、用紙Pに印刷処理を施すヘッドユニット13と、ヘッドユニット13に流体としてのインクを供給するインク供給ユニット14と、メンテナンス装置15とを備えている。
【0019】
搬送ユニット12は、一対の給紙ローラー16と、無端状の搬送ベルト17と、駆動ローラー18と、従動ローラー19と、駆動ローラー18に接続された駆動モーター20と、一対の排紙ローラー21とを備えている。搬送ベルト17は、駆動ローラー18及び従動ローラー19に巻き掛けられ、駆動モーター20の駆動によって駆動ローラー18が図1における時計回り方向に回転すると周回移動する。そして、給紙ローラー16、搬送ベルト17及び排紙ローラー21によって用紙Pを搬送方向Yに沿って搬送するようになっている。また、搬送方向Yにおいて駆動ローラー18と従動ローラー19との間には用紙Pの支持台である矩形板状のプラテン22が設けられている。
【0020】
ヘッドユニット13は、支持部材23と、支持部材23に支持された流体噴射ヘッド24とを備えている。流体噴射ヘッド24には、搬送ベルト17を介してプラテン22に支持された用紙Pに対してインクを噴射するためのノズル25が前後方向及び左右方向に沿って複数設けられている。図2に示すように、用紙Pの幅方向(前後方向)に沿って並ぶノズル25はノズル列Nを構成する。そして、図1に示すように、流体噴射ヘッド24には左右方向に沿って複数列のノズル列Nが形成されている。
【0021】
図1に示すように、インク供給ユニット14は、インクを収容したインクタンク26と、インクタンク26から流体噴射ヘッド24にインクを供給するためのインク供給管27と、インクタンク26からインクを加圧供給するためのポンプ28とを備えている。インクタンク26、インク供給管27及びポンプ28はインク色等に対応して複数設けられているが、図1では簡略化のために1つずつ図示している。そして、流体噴射ヘッド24に加圧供給されたインクを流体噴射ヘッド24のノズル25から搬送ベルト17上の用紙Pに噴射することで、印刷処理が実行されるようになっている。
【0022】
図2に示すように、メンテナンス装置15は、搬送ベルト17の前側に配置された保持機構30と、搬送ベルト17の後方に配置された保持機構31と、保持機構30,31によって流体噴射ヘッド24と対応する敷設範囲に張設される線状部材32,33とを備えている。線状部材32,33は、上下方向Zにおいては用紙P(用紙Pがないときは搬送ベルト17)と流体噴射ヘッド24との間に配置されるように、ノズル列方向となる前後方向に沿って張設されている。
【0023】
そのため、線状部材32,33の径(太さ)は、ノズル形成面24aと用紙Pとの隙間(ペーパーギャップ)よりも小さく、ノズル25の口径よりも大きくなるように設定される。例えば、ペーパーギャップが約2mm、ノズル25の口径が約0.02mmである場合には、線状部材32,33の直径を0.2〜1mm(ノズル25の口径の10〜50倍)程度に設定するのが好ましい。線状部材32,33の直径をノズル25の口径の10倍以上に設定することで、部品の製造誤差やノズル25と線状部材32,33との位置の誤差をカバーすることができる。また、線状部材32,33の直径をノズル25の口径の50倍以下に設定することで、ノズル形成面24aと用紙Pとの間となる空間域を通過させることができる。
【0024】
また、線状部材32はインクを吸収可能なインク吸収用の線状部材である一方、線状部材33は弾性変形可能でインクの透過性が低い材料から構成されるキャッピング用の線状部材である。インク吸収用の線状部材32は、例えば絹、綿、親水性コートを施したポリアミド系合成繊維(例えばナイロン)、アラミド、ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリアリレート、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、商品名:ザイロン)等の繊維、ステンレスなどの金属、あるいはこれらの複数を含む複合繊維から形成することができる。こうした繊維は、素材自体にインクを吸収する性質がない場合であっても、複数本撚り合わされたり束ねられたりすることで、繊維間や繊維束間に生じる毛細管力によってインクを吸収することができる。さらに、線状部材32はインクを繊維間に吸収するだけではなく、表面張力や静電気力によってインクを吸着するものであってもよい。一方、キャッピング用の線状部材33は、例えばシリコーンやウレタン、ポリウレタン等からなるエラストマーやゴムなどから形成することができる。
【0025】
図3に示すように、保持機構30は、基台34と、基台34上を左右方向に沿って移動可能な移動テーブル35,36とを備えている。各移動テーブル35,36上には、敷設範囲に送られる前の線状部材32,33をそれぞれ巻着した状態で保持するリール37と、テンションローラー38と、従動ローラー39とがそれぞれ2つずつ設けられている。
【0026】
保持機構31は、基台40と、基台40上を左右方向に沿って移動可能な移動テーブル41,42とを備えている。各移動テーブル41,42上には、従動ローラー43と、テンションローラー44と、線状部材32,33を巻き取る巻軸45とがそれぞれ2つずつ設けられている。
【0027】
移動テーブル35,41上には、2本の線状部材32がノズル列Nに対応するように左右方向に離間した状態で支持されている。一方、移動テーブル36,42上には、2本の線状部材33がノズル列Nに対応するように左右方向に離間した状態で支持されている。そして、移動テーブル35は移動テーブル41と、移動テーブル35は移動テーブル42と、それぞれ対をなすように同期して左右方向に移動することで、線状部材32,33は前後方向と交差する用紙Pの搬送方向Yに沿って移動する態様となる。
【0028】
そして、使用によって線状部材32の機能が低下した場合には、移動テーブル35上のリール37と移動テーブル41上の巻軸45が図3における反時計回り方向に回転する。また、使用によって線状部材33の機能が低下した場合には、移動テーブル36上のリール37と移動テーブル42上の巻軸45が図3における時計回り方向に回転する。これにより、敷設範囲にある使用済みの線状部材32,33が送り方向Xに沿って移動して巻軸45に巻き取られ、リール37から巻き解かれた新しい線状部材32,33が敷設範囲に配置されるようになっている。
【0029】
基台34,40において、流体噴射ヘッド24の前後両側となる位置には、上下方向に移動可能な一対の可動部材46が設けられている。そして、線状部材32,33がノズル列Nの下方に移動したときに、可動部材46が上下方向Zに沿って移動することにより、敷設範囲にある線状部材32,33は用紙Pの厚さ方向となる上下方向Zに沿って移動する態様となる。
【0030】
次に、メンテナンス装置15の作用について説明する。
プリンター11においては、メンテナンス処理として、流体噴射ヘッド24内のインクを強制的に排出する加圧クリーニングを行う。この場合には、図4に示すようにキャッピング用の線状部材33がノズル列Nの下方に位置するように移動テーブル36,42が右側に移動するとともに、可動部材46が上方に移動する。
【0031】
このとき、可動部材46は図5(a)に示す位置から、図5(b)に示すように上面が流体噴射ヘッド24の下面であるノズル形成面24aよりも高くなる位置まで上昇する。すると、線状部材33がノズル開口25aから離間した退避位置からノズル開口25aに当接する当接位置に移動し、図6(a)に示すように断面略円形であった線状部材33はノズル形成面24aに押しつけられて、図6(b)に示すように弾性変形する。これにより、ノズル形成面24aに形成されるノズル25のノズル開口25aは線状部材33によって被覆される。
【0032】
この状態でポンプ28が駆動されると、インクタンク26から供給されるインクでインク供給管27内や流体噴射ヘッド24内は加圧状態となる。そのため、可動部材46が下方に移動して線状部材33がノズル開口25aから離間すると、ノズル25からインクが流出する。これにより、増粘したインクや滞留していた気泡が流体噴射ヘッド24内及びノズル25内から排出されるクリーニングが行われる。なお、線状部材33が当接位置から退避位置に移動するのと入れ替わりに線状部材32をノズル25の下方となる位置に移動させると、ノズル25から排出されたインクを線状部材32で吸収することができる。
【0033】
ところで、こうしたクリーニング後には、ノズル開口25aの周辺にインク滴が付着したり、ノズル開口25aに凸状のメニスカス(図8(a)参照)が形成されたりするが、印刷処理の際には、ノズル25内にインク液面が入り込んだ凹状のメニスカス(図8(c)参照)が形成されていなければならない。そこで、クリーニング後には、インク吸収用の線状部材32がノズル列Nの下方に位置するように移動テーブル35,41が左側に移動するとともに、可動部材46が上方に移動する。
【0034】
このとき、可動部材46は図7(a)に示す位置から上昇するが、その上面の高さ位置は図7(b)に示すようにノズル形成面24aよりも低い位置に設定される。そのため、線状部材32が図8(a)に示す位置から図8(b)に示すようにノズル形成面24aに近接する位置に配置され、凸状のメニスカスを形成していたインクに接触する。すると、線状部材32の毛細管力によってインクが適度に吸い取られ、図8(c)に示すように、ノズル25に凹状のメニスカスが形成される。なお、このときのメニスカスの形状は、線状部材32の吸収力やインクに接触させる時間などを変化させることで調整することが可能である。
【0035】
なお、従来、クリーニング後には弾性部材から構成される板状のワイピング部材でノズル形成面24aを摺動するワイピングを行い、ノズル形成面24aに付着した余分なインクを除去したりメニスカスを整えたりしていた。こうしたワイピング部材は、ノズル形成面24aを摺接して流体噴射ヘッド24から離脱すると急激に元の形状に復元するため、先端に付着したインクがその周囲に飛散してプリンター11内を汚染することがあった。これに対して、本実施形態の線状部材32は、毛細管力によりノズル形成面24aに当接することなくノズル開口25a付近のインクを吸収したりメニスカスを整えたりすることができる。
【0036】
また、印刷処理を休止する場合や終了する場合には、図4に示すようにキャッピング用の線状部材33がノズル列Nの下方に位置するように移動テーブル36,42が右側に移動するとともに、可動部材46が図5(b)に示す位置まで上方に移動する。これにより、線状部材33がノズル開口25aから離間した退避位置からノズル開口25aに当接する当接位置に移動し、ノズル開口25aが線状部材33によって被覆されるので、ノズル25内の乾燥が抑制される。
【0037】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ノズル列方向(前後方向)に沿って張設された線状部材33がノズル開口25aから離間した退避位置からノズル開口25aに当接する当接位置に移動することにより、ノズル開口25aの乾燥を抑制することができる。すなわち、有底箱状のキャップよりも省スペースな線状部材33でキャッピングを行うことができるので、装置の大型化を抑制することができる。
【0038】
(2)線状部材32,33の太さをノズル開口25aの口径の10倍以上に設定することで、部品の製造誤差やノズル25と線状部材32,33との位置の誤差をカバーすることができる。また、線状部材32については、太さをノズル開口25aの口径の10倍以上に設定することで、ノズル開口25aに近接した際に適切にインクに接触することができるとともに、インクの吸収量(保持量)を確保することができる。また、線状部材33については、太さをノズル開口25aの口径の10倍以上に設定することで、適切にノズル開口25aを覆蓋することができる。一方、線状部材32,33の太さをノズル開口25aの口径の50倍以下に設定することで、流体噴射ヘッド24と用紙Pとの間となる空間域を通過させることができる。
【0039】
(3)線状部材33は弾性変形可能な材料から構成されるので、可動部材46によって退避位置から当接位置に向かう方向に付勢された状態でノズル開口25aに当接することで、ノズル開口25aが設けられた流体噴射ヘッド24の形状に沿うように弾性変形するので、ノズル開口25aの密閉度を増すことができる。
【0040】
(4)線状部材33はノズル列方向と交差する用紙Pの搬送方向Yに沿って退避位置と当接位置との間を移動することができる。
(5)線状部材33は用紙Pの厚さ方向(上下方向Z)に沿って移動可能であるので、流体噴射ヘッド24に対する摺接を抑制しつつ、ノズル開口25aに当接することができる。したがって、ノズル形成面24aに付着したインクに線状部材33が接触し、当接位置に移動した際にノズル開口25a付近をインクで汚すことがない。
【0041】
(6)線状部材32は用紙Pの厚さ方向(上下方向Z)に沿って移動可能であるので、流体噴射ヘッド24に対する摺接を抑制しつつ、ノズル開口25aに近接することができる。ここで、線状部材32がノズル形成面24aに摺接すると、ノズル形成面24aに付着したインクを吸収して、ノズル開口25aの凸状のメニスカスに接触した際のインク吸収量に差異が生じるおそれがある。その点、線状部材32は摺接を避けつつノズル開口25aに近接するので、各ノズル開口25aに対する吸収力を均等に保持し、メニスカスのばらつきを抑制することができる。
【0042】
(7)キャッピング用の線状部材33はインクの透過性が低いので、ノズル開口25aに当接することでノズル25内の乾燥を抑制することができる。一方、インク吸収用の線状部材32がノズル開口25aに近接してノズル開口25a付近に付着しているインク滴を吸収することで、ノズル25のメニスカスを整えることができる。
【0043】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・図9に示すように、キャッピング用の線状部材50aとインク吸収用の線状部材50bとが長さ方向に交互に配置された線状部材50を採用してもよい。この場合には、図9(a)に示すように線状部材50aを敷設範囲に張設してキャッピングを行う一方、図9(b)に示すように線状部材50bを敷設範囲に張設してインクを吸収することができる。そして、線状部材50を保持する移動テーブルを一対備えればよいので、装置の小型化を図ることができる。なお、図9においては簡略化のために可動部材46の図示を省略している。
【0044】
・インク吸収用の線状部材32でメニスカスを整える際には、線状部材32がノズル開口25aに軽く接触してもよい。この場合には、ノズル25内のインクを吸収しすぎないように、吸収性を抑えた線状部材32を採用することが好ましい。
【0045】
・インク吸収用の線状部材32でフラッシング動作に伴うインクを受容してもよい。この場合には、フラッシング用にスポンジ状の吸収部材を別途備えなくてよいので、装置の小型化を図ることができる。
【0046】
・図8(b)に示すように線状部材32がノズル形成面24aに近接する高さ位置を保持した状態で、移動テーブル35,41が左右方向に沿って移動することで、ノズル形成面24aに付着したインク滴を線状部材32で吸収するようにしてもよい。一方、線状部材33がノズル形成面24aに摺接する高さ位置を保持した状態で移動テーブル36,42が左右方向に沿って移動することで、ノズル形成面24aに付着した固形物(乾燥して固化したインクや紙粉など)を除去するようにしてもよい。この場合には、板状のワイピング部材を別途備えなくてよいので、装置の小型化を図ることができる。
【0047】
・加圧クリーニングにおいて、キャッピング用の線状部材33をノズル開口25aから離間させたときにノズルから排出されるインクを吸収するための吸収部材を別途備えてもよい。
【0048】
・インク吸収用の線状部材32を備えない構成としてもよい。
・キャッピングとインク吸収を兼用する線状部材を採用してもよい。例えば、単繊維を複数本撚り合わせたり束ねたりすることで得られる繊維束を線状部材として採用し、付与する張力が小さい状態でインク吸収用として使用する一方、付与する張力を大きくして繊維間又は繊維束間を縮め、吸収性を低下させた状態でキャッピング用として使用する。この場合には、移動テーブルを一対備えればよいので、装置の小型化を図ることができる。
【0049】
また、インク吸収用の線状部材の表面の一部にコーティングを施し、インクの浸透を抑制するキャッピング層を形成するようにしてもよい。この場合には、ノズル開口25aに当接させる部分を変化させることによって、キャッピングとインク吸収とに使用することができる。
【0050】
・糸状の線状部材の他に、断面矩形状の帯状の線状部材を採用してもよい。この場合には、インク吸収用の線状部材とキャッピング用の線状部材とを積層し、ノズル開口25aに当接させる層を変化させることによってキャッピングとインク吸収とに使用するようにしてもよい。なお、断面矩形状の場合、線状部材の断面における一辺の長さは、ノズル開口25aの口径の10〜50倍程度に設定するのが好ましい。
【0051】
・移動テーブル36,42や移動テーブル35,41を上下移動させることによって線状部材32,33を上下移動させるようにしてもよい。この場合には、可動部材46を備えなくてもよい。
【0052】
・流体噴射ヘッド24が移動して線状部材32,33に近接又は当接するようにしてもよい。
・可動部材46は、回転軸に支持されるとともに回転軸からの距離が異なるカム面を有するカム部材として実現してもよい。この場合には、回転軸と共にカム部材を回転させることで、その上面位置を変化させることができる。
【0053】
・可動部材46が搬送ベルト17やプラテン22に設けられるようにしてもよい。
・線状部材32,33をノズル形成面24aと摺接する高さ位置に設定し、線状部材32,33がノズル形成面24aに沿って左右方向に移動することで、当接位置と退避位置との間を移動するようにしてもよい。
【0054】
・線状部材32,33が搬送方向Y及び前後方向と斜めに交差する方向に移動するようにしてもよい。例えば、線状部材32,33の一端側を固定端として他端側を保持する保持機構が固定端側を中心として回動し、ノズル列Nに対して傾動する態様で当接位置と退避位置との間を移動するようにしてもよい。
【0055】
・流体噴射ヘッド24やノズル25の数、ノズル列Nの列数は任意に設定することができる。また、線状部材32,33の設置数も任意に設定することができる。例えば、キャッピング用の線状部材33は各ノズル列Nに対応して設けることが好ましいが、インク吸収用の線状部材32は複数のノズル列Nに対して1本の線状部材32が移動しつつインクを吸収するようにしてもよい。
【0056】
・1本の線状部材32,33の太さを調整し、複数のノズル列Nを同時にカバーするようにしてもよい。
・流体噴射ヘッド24が前後方向及び左右方向に沿って千鳥状に複数設けられたフルラインタイプのラインヘッド式プリンターや、ラテラル式プリンター、あるいはシリアル式プリンターとして実現してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【0058】
上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)媒体に対して流体を噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列を形成するように設けられた流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス装置であって、
前記ノズル列方向に沿って張設され、前記ノズル開口から離間した退避位置と前記ノズル開口に付着した流体に接触可能な位置との間を移動可能に構成された線状部材を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【0059】
この構成によれば、線状部材がノズル開口に付着した流体に接触することで、ノズル開口に付着した流体の一部が線状部材側に移行するので、ノズルのメニスカスを整えることができる。
【符号の説明】
【0060】
11…流体噴射装置としてのプリンター、15…メンテナンス装置、24…流体噴射ヘッド、25a…ノズル開口、50…線状部材、32,50b…流体吸収用の線状部材、33,50a…キャッピング用の線状部材、N…ノズル列、P…媒体、Y…搬送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に対して流体を噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列を形成するように設けられた流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス装置であって、
前記ノズル列方向に沿って張設され、前記ノズル開口から離間した退避位置と前記ノズル開口に当接する当接位置との間を移動可能に構成された線状部材を備えることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記線状部材の太さは、前記ノズル開口の口径の10〜50倍であることを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記線状部材は、弾性変形可能な材料から構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記線状部材は、前記ノズル列方向と交差する前記媒体の搬送方向に沿って移動可能に構成されることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
前記線状部材は、前記ノズル列方向及び前記搬送方向と交差する前記媒体の厚さ方向に沿って移動可能に構成されることを特徴とする請求項4に記載のメンテナンス装置。
【請求項6】
前記流体の透過性が低いキャッピング用の前記線状部材と、前記流体を吸収可能な流体吸収用の前記線状部材とを備えることを特徴とする請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項7】
媒体に対して流体を噴射する複数のノズル開口が所定方向に沿って延びるノズル列を形成するように設けられた流体噴射ヘッドと、
請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置とを備えることを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−131564(P2011−131564A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295643(P2009−295643)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】