説明

メンブレンスイッチ用基材フィルムおよびメンブレンスイッチ

ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなるハンドリング性、耐久性に優れたメンブレンスイッチ用フィルム、特に高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるメンブレンスイッチ用として好適なフィルムが提供される。このフィルムは、製膜方向および幅方向の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であるか、示差走査型熱量計(DSC)で測定されるフィルムの融解サブピーク温度が220℃以上250℃以下であり、かつ一方の表面での融解サブピーク温度と他方の表面での融解サブピーク温度との差の絶対値が6℃以下であるメンブレンスイッチ用フィルムからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなるメンブレンスイッチ用基材フィルムに関する。更に詳しくは、ハンドリング性、耐久性に優れたメンブレンスイッチ用基材フィルム、特に高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるのに適したメンブレンスイッチ用基材フィルムに関する。
【背景技術】
メンブレンスイッチとは、スペーサーを介在した2つの基材フィルムの対向する面に各々相対する接点(電極)を配置したものである。そして、基材フィルムを押下する、すなわち基材フィルム間の間隔を変えることによって、導電、絶縁といったスイッチ作用が容易にできる。近年、携帯電話や携帯用パーソナルコンピューター等のキーパット、VTRやオーブンレンジ等に代表される家庭用電気製品の各種コントロールパネルスイッチ等としてメンブレンスイッチが多く用いられている。
メンブレンスイッチのスイッチ作用は、押下の繰り返しであるため、用いる基材フィルムには可撓性および耐変形性が要求される。従来、メンブレンスイッチの基材フィルムとして、その耐変形性、電極との密着性、印刷ペーストとの接着性等の理由からポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と省略する場合がある。)フィルムが一般的に多く用いられてきた。
しかしながら、最近では自動車関連部品(カーオーディオ、カーエアコン、カーナビゲーション等)において、操作パネルのメンブレンスイッチ化やリモートコントロールスイッチ化が普及してきている。そのため、PETフィルムでは耐えられないような高温下での耐変形性がメンブレンスイッチの基材フィルムに要求されるようになってきた。例えば、夏季の日中には車内の温度は約80℃になると言われており、車内の温度はPETのガラス転移温度(Tg)を超える場合がある。このような環境下において、メンブレンスイッチの基材フィルムとしてPETフィルムが使用されると、高温下で負荷がかかることによりPETフィルムが変形し、負荷を除いた後も変形が解消せず、PETフィルムが撓むためにスイッチの作動不良が発生する。
この改善策として特公平4−75610号公報では基材フィルムをPETフィルムよりガラス転移温度の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下「PEN」と省略する場合がある)フィルムにすることが提案されている。すなわち、特公平4−75610号公報には、2つの基体フィルムの対向する面にそれぞれ相対する接点を配置したメンブレンスイッチにおいて、少なくとも1つの基体フィルムとして、F−5値(5%伸長応力)が11kg/mm以上であり、密度が1.375g/cm以下であり、かつ120℃で30分間加熱したときの熱収縮率が1.0%以下である二軸配向ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムを使用したメンブレンスイッチが開示されている。
また、特公平6−4276号公報には、150℃で2時間熱処理したときの下記式で定義されるヘーズ増加率
ヘーズ増加率={(H2−H1)/H1}×100(%)
(ここで、H1は熱処理前のヘーズ値、H2は熱処理後のヘーズ値である)
が20%以下であり、かつそのときの加熱収縮率が、製膜方向(フィルムが連続製膜されるときの進行方向であり、フィルムの長手方向、縦方向、連続製膜方向またはMD方向と称することがある。)と幅方向(フィルム面内方向における製膜方向に直交する方向であり、横方向またはTDと称することもある。)共に0.5%以下であるポリエチレンナフタレートよりなるメンブレンスイッチ用ポリエステルフィルムが開示されている。
【発明の開示】
しかしながら、最近ではメンブレンスイッチ用基材フィルムに要求される品質がより厳しくなってきており、PENフィルムでも耐変形性や耐久性が不足することが一部で指摘されるようになった。
このような要求品質の変化に対して、再公表99/37466号公報にはPENフィルムに特定の熱処理を施すことで耐変形性を改良できることが開示されている。しかしながら、メンブレンスイッチの加工工程でのハンドリングにおいて、該公報の方法だと回路印刷前後の熱処理温度が制約される。そのため、加工工程でのハンドリング性に優れながら、耐久性も優れたメンブレンスイッチ基材用フィルムが求められてきている。
本発明の第1の目的は、上述の従来技術の課題を解決し、フィルムのハンドリング性、耐久性に優れた、特に高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるメンブレンスイッチに好適な基材フィルムに関する。本発明の第2の目的は、フィルムをメンブレンスイッチの形状に打ち抜く際の加工性に優れたメンブレンスイッチ用基材フィルムに関する。
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは製膜方向および幅方向の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であるメンブレンスイッチ用基材フィルムによって達成される。
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは示差走査型熱量計(DSC)で測定される融解サブピーク温度が220℃以上250℃以下であり、かつ一方の表面での融解サブピーク温度と他方の表面での融解サブピーク温度との差が絶対値で6℃以下であるメンブレンスイッチ用基材フィルムによっても達成される。
さらにまた、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは(1)製膜方向および幅方向の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ該両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であること、および(2)示差走査型熱量計(DSC)で測定される融解サブピーク温度が220℃以上250℃以下であり、かつフィルムの一方の表面での融解サブピーク温度と他方の表面での融解サブピーク温度との差が絶対値で6℃以下であるメンブレンスイッチ用基材フィルムによっても達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第4に、
上記第1、第2または第3の本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムと、スペーサおよび電極とからなるメンブレンスイッチによって達成される。
発明の好ましい実施態様
<ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリマーは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)を主成分とし、コポリマー又は混合体でもよい。ここでいう主たるとは、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが、ポリマーの全繰り返し単位の80mol%以上であり、更に好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上である。すなわち、本発明の二軸配向ポリエステルフィルム本来の特性を極端に失うことがなく、高温下の使用での耐永久変形性を確保できればよい。
コポリマーである場合は、主たる成分のエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート以外のコポリマーを構成する共重合成分としては、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができる。かかる化合物としては、シュウ酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸を好ましく用いることができる。また、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等の如きオキシカルボン酸も好ましく用いることができる。さらにまた、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール等の如き2価アルコール類等も好ましく用いることができる。
これらの化合物は1種のみでなく2種以上を同時に用いることができる。またこれらの化合物の中でも、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸およびp−オキシ安息香酸が、またグリコール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコールおよびビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物が好ましい。
また、本発明で使用するPENは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってもよい。また、本発明で使用するPENは、例えば極く少量のグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
また、本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムを構成するポリマーがPENのほかに、他の有機高分子を混合した混合体であってもよい。PENと混合させる有機高分子としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等を挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
これらのPENと混合する有機高分子は1種のみならず2種以上を併用しても良い。PENと混合する有機高分子の割合は、ポリマーの繰返し単位で、高々20mol%、好ましくは10mol%以下、特に好ましくは5mol%以下の範囲である。かかる混合体の製造は、一般に知られたポリエステル組成物の製造方法によって実施できる。
本発明における基材フィルムを構成するポリエステルは従来公知の方法で得ることができる。例えばジカルボン酸とグリコールとの反応で、直接、低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとを従来公知のエステル交換触媒を用いてエステル交換反応させる方法の後、重合触媒の存在下で重合反応を行なえばよい。
エステル交換反応触媒としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物が挙げられ、これらは一種でも二種以上を併用しても良い。また、重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物が挙げられる。
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的で、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が添加される。かかるリン化合物の含有量は、リン元素としてPEN中に20〜100重量ppmであることがポリエステルの熱安定性の点から好ましい。なお、ポリエステルは溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。
PENを主たる成分としてなるポリエステルの固有粘度は0.40dl/g以上0.90dl/g以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.43〜0.85dl/g、特に好ましくは0.45〜0.80dl/gである。固有粘度が下限未満であるとフィルムが脆くなり、フィルムの製膜時に破断が発生し易くなることがある。また、フィルムの固有粘度が上限を超えると、ポリマーの固有粘度をかなり高くする必要があり、通常の合成手法では重合に長時間を要し生産性が悪くなることがある。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値(単位:dl/g)である。
<添加剤>
本発明のメンブレンスイッチ用フィルムには、フィルムに滑り性を付与するために、不活性粒子を少割合含有させることが好ましい。かかる不活性粒子としては、例えば球状シリカ、多孔質シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、二酸化チタン、カオリンクレー、硫酸バリウム、ゼオライトの如き無機粒子、或いはシリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子の如き有機粒子を挙げることができる。無機粒子は粒径が均一であること等の理由で、天然品よりも合成品であることが好ましい。無機粒子の結晶形態、硬度、比重、色は特に制限されず、目的に応じて使用することができる。
具体的な無機粒子としては、炭酸カルシウム、多孔質シリカ、球状シリカ、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム等を挙げることができる。これらの中でも、炭酸カルシウム粒子、球状シリカ粒子、多孔質シリカ粒子、板状珪酸アルミニウムが特に好ましい。
有機粒子としては、有機塩粒子や架橋高分子粒子などが挙げられる。かかる有機塩粒子としては例えば蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩が挙げられる。また、架橋高分子粒子としては例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、およびメタクリル酸等のビニル系モノマーの単独体または共重合体が挙げられる。さらにまた、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子も好ましく挙げられる。これらの架橋高分子粒子の中でもシリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子が特に好ましい。
これらフィルム中に添加される不活性粒子の粒子径は、各々の種類の粒子について、平均粒径が0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、0.08μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましく、0.10μm以上3μm以下であることが特に好ましい。また、フィルム中に含まれる不活性粒子の全添加量は0.05重量%以上3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.08重量%以上2.5重量%以下であり、0.1量重量%以上2.0重量%以下であることが特に好ましい。
フィルムに添加する不活性粒子は上記に例示した中から選ばれた単一成分でもよく、二成分あるいは三成分以上を含む多成分でもよい。また、単一成分の場合には平均粒径が異なる2種類以上の粒子を含有しても良い。
なお、不活性粒子の平均粒径は、島津制作所製CP−50型セントリフューグルパーティクルサイズアナライザー(Centrifugal Particle Size Annalyzer)を用いて測定し、該測定から得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50重量%に相当する粒径を読み取った値である(「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年頁242〜247参照)。
本発明の基材フィルムは、平均粒径が0.3μm以上0.8μm以下である炭酸カルシウム粒子を0.1重量%以上0.4重量%以下、および/または平均粒径が0.1μm以上0.6μm以下である球状シリカ粒子を0.03重量%以上0.5重量%以下、および/または平均粒径が0.1μm以上0.6μm以下であるシリコーン粒子を0.03重量%以上0.4重量%以下の割合で含有することが特に好ましい。さらに、同じ種類の不活性微粒子で粒径が異なる粒子が同時に含まれていても良く、その場合は同じ種類の不活性粒子全体の含有量が上記の範囲内になっていればよい。
本発明の基材フィルムは、その用途に応じて結晶核剤、酸化防止剤、熱安定化剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、ポリシロキサン等を配合することができる。
不活性粒子やその他の添加剤の添加時期はPENを主たる成分とするポリエステルを製膜するまでの段階であれば特に制限はなく、例えば重合段階で添加してもよく、また製膜の際に添加してもよい。均一分散の見地からは、不活性粒子やその他の添加剤をエチレングリコール中に添加して重合時に高濃度添加してマスターチップとし、得られたマスターチップを無添加チップで希釈するのが好ましい。
<基材フィルムの表面と裏面の融解サブピーク温度(Tsm)の差>
本発明の基材フィルムの示差走査型熱量計(DSC)で測定される融解サブピーク温度(Tsm)は、220℃以上250℃以下であることが必要である。なおかつ、フィルムの一方の面(仮に「表面」)と他方の面(仮に「裏面」)との融解サブピーク温度(Tsm)の差の絶対値(|Tsm(表面)−Tsm(裏面)|)は、6℃以下であることが必要である。
融解サブピーク温度が下限未満であると、フィルムをシート状に断裁した端面に微小な亀裂やバリが発生し易くなる。一方、融解サブピーク温度が上限を超えると、フィルムの靭性が失われるためスイッチの耐久性が悪化する。また、フィルムの表面と裏面との融解サブピーク温度(Tsm)の差の絶対値(|Tsm(表面)−Tsm(裏面)|)が6℃を超えると、フィルムをシート状に断裁した端面に微小な亀裂やバリが発生し易くなったり、フィルムを巻き取り、ロールとしてしばらくの間保管した後、フィルムに巻癖がつきやすくなる。
なお、融解サブピーク温度(Tsm)はより好ましくは225℃以上245℃以下であり、特に好ましくは230℃以上245℃以下である。また、フィルムの表面と裏面との融解サブピーク温度(Tsm)の差の絶対値(|Tsm(表面)−Tsm(裏面)|)は、より好ましくは5℃以下、特に好ましくは4℃以下である。
<基材フィルムの屈折率>
本発明のフィルムのそれぞれの面において、製膜方向および幅方向の少なくとも一方向の屈折率は、1.770以上1.790以下であることが必要である。より好ましくは1.772以上1.788以下である。本発明では、特に断らない限り、製膜方向とはフィルムが連続製膜されるときの進行方向であり、フィルムの長手方向、縦方向、連続製膜方向またはMD方向と称することがある。また、本発明では、幅方向とはフィルム面内方向における製膜方向に直交する方向であり、横方向またはTDと称することもある。フィルムの製膜方向および幅方向の屈折率がともに下限未満であるとフィルムの耐久性が悪化する。一方、フィルムの製膜方向および幅方向の屈折率がともに上限を超えるとフィルムの製造において切断が頻繁に発生する。なおここでフィルムの屈折率は、アッベ屈折計の原理を用いたレーザ屈折計(測定波長:633nm)を用いて、フィルムそれぞれの面について測定した。
<基材フィルムの表面と裏面の屈折率の差>
本発明の基材フィルムにおいて、屈折率が1.770以上1.790以下である少なくとも一方向における、フィルムの一方の面(仮に「表面」)での屈折率と他方の面(仮に「裏面」)での屈折率との差の絶対値(|屈折率(表面)−屈折率(裏面)|)が、0.015以下であることが必要である。さらに好ましくは0.013以下、特に好ましくは0.011以下である。屈折率が1.770以上1.790以下である少なくとも一方向におけるフィルムの表面と裏面の屈折率の差の絶対値が0.015を超えると、フィルムをシート状に断裁した端面に微小な亀裂やバリが発生し易くなったり、フィルムを巻き取り、ロールとしてしばらくの間保管した後、フィルムに巻癖がつきやすくなる。
<基材フィルムの幅方向の屈折率>
本発明の基材フィルムのそれぞれの面での幅方向の屈折率は、1.770以上1.790以下であることが好ましい。より好ましくは1.772以上1.788以下である。なお屈折率は、アッベ屈折計の原理を用いたレーザ屈折計(測定波長:633nm)を用いて、フィルムそれぞれの面について測定した。フィルムの幅方向の屈折率が下限未満であるとフィルムの耐久性が悪化する場合がある。
一方フィルムの屈折率が上限を超えるとフィルムの製造において切断が発生する頻度が高まる。
<基材フィルム中の含まれるリン化合物およびチタン化合物>
本発明の基材フィルムは、前述のとおり、リン化合物を含有することが好ましい。かかるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホネート化合物及びそれらの誘導体等があげられ、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。これらの中でも、リン化合物としては、次式(I)で表されるホスホネート化合物が好ましい。

ここで、式中の、RおよびRは炭素原子数1〜4のアルキル基、Xは−CH−または−CH(Y)−(Yは、フェニル基を示す。)であり、RおよびRはそれぞれ同一でも異なっていても良い。
特に好ましいリン化合物は、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステルおよびジブチルエステルである。
本発明において、これらのホスホネート化合物の好ましい理由は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比べ、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行することから、重縮合反応中のチタン化合物の触媒活性の持続時間が長く、結果としてポリエステルへの触媒の添加量を少なくでき、また触媒に対して多量の安定剤を添加してもポリエステルの熱安定性を損ないにくいためである。
これら、リン化合物の添加時期は、エステル交換反応が実質的に終了した後であればいつでもよく、例えば、重縮合反応を開始する以前の大気圧下、重縮合反応を開始した後の減圧下、重縮合反応の末期または重縮合反応の終了後すなわちポリマーを得た後に添加してもよい。
本発明において、PENの製造に用いる触媒は、触媒起因の異物を少なくする目的から、実質的にPEN中に可溶なチタン化合物が好ましい。すなわち、従来から触媒として一般的に用いられているアンチモン化合物あるいはゲルマニウム化合物に由来するそれぞれのアンチモン元素およびゲルマニウム元素の量は、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数を基準として、高々5mmol%であることが好ましい。アンチモン元素およびゲルマニウム元素の含有量が、5mmol%を超えると、これらの触媒に起因する異物の析出などの問題が惹起する。
かかるチタン化合物は、ポリマー中に可溶なものであれば特に限定されず、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられる。これらの中でも、次式(II)で表わされる化合物、または式(II)で表わされる化合物と次式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応生成物が好ましい。

ここで、式(II)中のR、R、R、Rは、それぞれ炭素数2〜10のアルキル基および/またはフェニル基を示す。

また、上記式(III)中のnは、2〜4の整数を表す。
上記式(II)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、R、R、R、Rがそれぞれ炭素数2〜10のアルキル基および/またはフェニル基であれば特に限定されない。特に好ましい上記式(II)で表わされるテトラアルコキサイドチタンは、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンである。また、上記式(III)で表される芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸が好ましい。なお、一般式(III)で表される芳香族多価カルボン酸は、その無水物であっても良い。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸とを反応させるには、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部を溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。
触媒としてのチタン化合物の含有量は、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数を基準にして、チタン元素として4mmol%以上15mmol%以下であることが好ましい。より好ましくは6mmol%以上12mmol%以下、特に好ましくは6mmol%以上10mmol%以下である。該チタン化合物の含有量が下限未満だと、PENの生産性が低下し、所望の分子量を有するPENが得られ難い。一方、該チタン化合物の含有量が上限を超えると、得られたPENの熱安定性が低下しやすく、そのため、フィルムを製造する際の溶融押出しの時に分子量が大きく低下することがある。なお、ここで言うPEN中に可溶なチタン化合物の含有量とは、エステル交換反応を経由する場合は、エステル交換反応触媒として使用されたチタン化合物と重縮合反応触媒として使用されたチタン化合物の合計を示す。
本発明の基材フィルムは、その樹脂組成物の製造段階で上述のチタン化合物を触媒とし、リン化合物を安定剤として含有するものあることが好ましい。そしてチタン化合物とリン化合物の含有量は、前述の条件と合わせて下記式(1)〜(3)を満足することが好ましい。
4≦Ti≦15 …(1)
0.5≦P/Ti≦15 …(2)
15≦Ti+P≦150 …(3)
この式(1)〜(3)において、Tiはチタン化合物のチタン元素としてのモル数を組成物中のエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数で割った値(mmol%)であり、Pはリン化合物のリン元素としてのモル数を組成物中のエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数で割った値(mmol%)である。
(P/Ti)が下限未満の場合、得られたPENの熱安定性が悪化し、熱劣化物がダイスリット付近に析出してスリットの出口部分やダイ周辺部分を汚染する場合がある。一方(P/Ti)が上限を超えるとPENの重合時の反応性が大幅に低下し、所望の分子量を有するPENを得ることが困難になる場合がある。この(P/Ti)のさらに好ましい範囲は2以上10以下である。
また、(Ti+P)が下限未満の場合は、静電印可法によるフィルム製膜プロセスにおける生産性が低下し、フィルムの厚みの均一性が悪化する場合がある。一方(Ti+P)が上限を超えると、少量ではあるが触媒に起因する異物が発生しやすくなり、フィルム製造時に溶融押出機のダイスリット付近に触媒由来の異物が析出して、製膜方向に沿ったスジ状の表面欠点を引き起こすようになる場合がある。この(Ti+P)のさらに好ましい範囲は25以上100以下である。
本発明におけるPENは、2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールを原料として用いたものでも、2,6−ジメチルナフタレートに代表される2,6−ナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールを原料として用いたものでもよい。これらのなかでも、原料として用いる全ジカルボン酸成分の80mol%以上が2,6−ジメチルナフタレートである、エステル交換反応を経由する製造方法が好ましい。2,6−ジメチルナフタレートを原料物質とする製造方法の中でも、チタン化合物の少なくとも一部をエステル交換反応開始前に添加して、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒の二つの触媒を兼用させる方法が、チタン化合物の添加量を低減できるためさらに好ましい。また、エステル交換反応を0.05MPa以上0.20MPa以下の加圧下にて実施することは、チタン化合物の添加量をさらに低減できることから好ましい。
<熱収縮率>
本発明の基材フィルムを200℃で10分間加熱処理したときの製膜方向および幅方向の熱収縮率は0.2%以上1.4%以下であることが好ましく、0.3%以上1.3%以下であることがさらに好ましい。200℃の温度で10分間加熱処理したときの熱収縮率が上限を超えると寸法変化が大きくなり、メンブレンスイッチに加工する前の予備加熱処理によってフィルムの平面性が悪化することがある。一方、熱収縮率が下限未満ではメンブレンスイッチにした後の耐久性が悪化することがある。
なお、200℃で10分間加熱処理したときの製膜方向と幅方向の熱収縮率の差(熱収縮率(MD)−熱収縮率(TD))は特に限定はされないが、平面性の悪化を防止するために、製膜方向と幅方向の熱収縮率の差が−1.0%以上0.5%以下であることが好ましい。
<基材フィルムの厚み>
本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムの厚みは、40μm以上190μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは45μm以上175μm以下、特に好ましくは50μm以上160μm以下である。フィルムの厚みが下限未満であると、押下の繰り返しに対する耐久性が不足する場合がある。一方、フィルムの厚みが上限を超えると非常に撓み難くなるためメンブレンスイッチ用としては好ましくない。
なお、本発明のフィルムの任意の場所における厚みのバラツキはフィルムの中心厚みに対して10%以下であることが好ましく、8%以下であることより好ましい。フィルムの厚みのバラツキが小さい程、メンブレンスイッチが安定して作動するため好ましい。
<基材フィルムの表面粗さ(SRa)>
本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムの表面粗さ、すなわち3次元中心面平均粗さ(SRa)は少なくとも一方の表面が10nm以上45nm以下であることが好ましい。より好ましくは10nm以上40nm以下、特に好ましくは12nm以上35nm以下である。SRaが下限未満であると、シート状のフィルムが大量に積み上げられた後、フィルム1枚1枚をスイッチの製造工程に順次送り出す際にフィルム同士の滑りが悪く、送り不良が発生することがある。一方、SRaが上限を超えるとシート状のフィルムを大量に積み上げた際にフィルム同士が滑り過ぎるため、フィルム積み上げ時のズレが頻繁に発生することがある。
<基材フィルムの密度>
本発明の基材フィルムの密度は1.350g/cm以上1.367g/cm以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.352g/cm以上1.365g/cm以下、特に好ましくは1.354g/cm以上1.363g/cm以下である。密度が下限未満であると押下の繰り返しに対する耐久性が悪化することがある。また、上限を超えると結晶性が高くなり過ぎてフィルムの靭性が失われるためメンブレンスイッチの加工性が悪くなることがある。なお、フィルムの密度は硝酸カルシウム水溶液を溶媒として用いた密度勾配管中、25℃で浮沈法により測定された値である。
<塗布層>
本発明の基材フィルムには、印刷ペーストとの易接着性を向上させる目的でその少なくとも片面に塗布層を設けることができる。
塗布層はポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の水溶性または水分散性高分子樹脂からなることが好ましく、特にポリエステル樹脂とアクリル樹脂の両方を含むのが好ましい。本発明で用いる塗布層のポリエステル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が0〜100℃、更に好ましくは10〜90℃のものである。該ポリエステル樹脂は、水に可溶性または分散性のポリエステルが好ましいが、多少の有機溶剤を含有しても良い。
かかるポリエステル樹脂としては、以下のような多塩基酸またはそのエステル形成誘導体とポリオールまたはそのエステル形成誘導体とからなる。すなわち、多塩基酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これら酸成分を2種以上用いて共重合ポリエステル樹脂を合成する。また、若干量ながら不飽和多塩基酸成分であるマレイン酸、イタコン酸等及びp−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸を用いることができる。また、ポリオール成分としては、エチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加体等が挙げられる。塗布層として用いられるポリエステル樹脂は、例えばこれらモノマーによって形成されるが上述のモノマーに限定されるものではない。
本発明で用いる塗布層のアクリル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が−50〜50℃、更に好ましくは−50〜25℃のものである。該アクリル樹脂は、水に可溶性または分散性のアクリルが好ましいが、多少の有機溶剤を含有しても良い。かかるアクリル樹脂としては以下のようなアクリルモノマーから共重合できる。このアクリルモノマーとしては、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N、N−ジアルコキシアクリルアミド、N、N−ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等のモノマーが挙げられる。塗布層として用いられるアクリル樹脂は、これらのモノマーを使用したものに限定されない。
本発明で用いられる上記組成物は、塗膜を形成させるために、水溶液、水分散液或いは乳化液等の水性塗液の形態で使用されるのが好ましい。塗膜を形成するために、必要に応じて、前記組成物以外の他の樹脂、例えばオキサゾリン基を有する重合体、メラミン、エポキシ、アジリジン等の架橋剤、帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤(フィラー、ワックス)などを添加することができる。かかる滑剤はフィルムの滑り性の向上あるいは耐ブロッキング性の向上を目的として必要に応じて添加することができる。
水性塗液の固形分濃度は、通常20重量%以下であり、更には1〜10重量%であることが好ましい。この割合が1重量%未満であると、ポリエステルフィルムへの塗れ性が不足し、一方、上限を越えると塗剤の安定性や塗布外観が悪化することがある。
塗布層は、未延伸フィルムまたは一軸延伸が終了したフィルムに水性塗液を塗布し、その後、フィルムを2方向または1方向に延伸し熱固定することでフィルム上に強固に設けることができる。塗工方法としてはロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレー法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組み合わせて用いることが出来る。
<製造条件>
本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムは、PENを主成分とする二軸配向フィルムである。この二軸配向フィルムは通常の方法、例えば、該ポリマーを融点以上で溶融させダイスリットから60℃近辺に調温されたキャスティングドラム上に押出して密着冷却固化させ、未延伸フィルムを得る。この未延伸フィルムを縦および横方向に二軸延伸した後、熱固定し、必要に応じて縦方向および/または横方向に弛緩処理することで製造することができる。フィルムの延伸は公知のロール式縦延伸機、赤外線加熱縦延伸機、テンタークリップ式横延伸機、これらの延伸を複数段階にわけて行う多段式延伸機、チューブラ延伸機、オーブン式縦延伸機、同時二軸延伸機などを用いて行うことができるが特に限定されるものではない。本発明においては、フィルムの製膜方向および幅方向の少なくとも一方向の屈折率を1.770以上1.790以下に制御できれば、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
次に詳しく本発明のポリエステルフィルムの製造方法について述べるが必ずしもこれに限定されるものではない。
先ず、同時二軸延伸法による製造につき説明する。同時二軸延伸機の縦方向の延伸機構には従来の方式であるスクリューの溝にクリップを乗せてクリップ間隔を拡げていくスクリュー方式、パンタグラフを用いてクリップ間隔を拡げていくパンタグラフ方式およびリニアモーターを利用するリニアモーター方式がある。スクリュー方式やパンタグラフ方式に比べ、製膜速度が速められ、また延伸倍率等の条件変更が容易なことからリニアモーター方式が好ましい。同時二軸延伸では、逐次二軸延伸のように縦延伸ローラーを使用しないため、フィルム表面の傷が少なくなるという長所がある。また、一般的には未延伸フィルムを縦方向と横方向に同時に延伸するために縦方向と横方向の配向の制御が逐次二軸延伸よりも容易である長所がある。これらの特徴が本発明のメンブレンスイッチ用フィルムへの要求特性と合致するので、本発明においては同時二軸延伸を採用することができる。
本発明でいう同時二軸延伸とは、フィルムの縦方向、横方向に同時に配向を与えるための延伸であり、同時二軸延伸機を用い、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、縦方向および横方向に延伸する操作をいう。もちろん、縦方向と横方向の延伸が時間的に同時に延伸されている部分があればよいのであって、従って、フィルムを横方向または縦方向に単独に先に延伸した後に、縦方向と横方向とを同時に延伸する方法や、さらに同時二軸延伸後に横方向または縦方向に単独に更に延伸する方法なども本発明の範囲に含まれる。
本発明のフィルムを製造するには、所定のPENに不活性粒子を含有させた後、例えば280〜330℃の温度で溶融押出されたPENのフィルム状溶融物を表面温度が30〜70℃に設定された回転冷却ドラムの表面で急冷し、固有粘度が0.40〜0.90dl/gの未延伸フィルムを得る。溶融押出しする前の乾燥は160〜190℃で4〜7時間行うことが好ましい。未延伸フィルムの端部と中央部の厚みの比率(端部の厚み/中央部の厚み)は、望ましくは、1以上、10以下であり、好ましくは1以上、5未満、さらに好ましくは1以上、3未満である。前記厚みの比率が1未満であるか、上限値を越えるとフィルム破れまたはクリップ外れが多発するので好ましくない。
次いで、この未延伸フィルムを、同時二軸延伸機に該フィルムの両端部をクリップで把持して導き、予熱ゾーンで80〜170℃に加熱した後、一段階もしくは二段階以上の多段階で、120〜170℃で、面積倍率9〜20倍(縦倍2〜4.5倍)の同時二軸延伸を施す。また必要に応じて、その後さらに140〜245℃の温度範囲、一段階もしくは二段階以上の多段階で、面積倍率2〜5倍に同時二軸延伸しても良い。続いて、190〜250℃の温度範囲で熱固定を施し、必要であれば熱固定を施しながら、または熱固定からの冷却過程で弛緩処理を行う。かかる弛緩処理条件としては、140〜240℃の温度範囲が好ましく、縦および横方向に、好ましくは各方向に対して1〜10%の範囲で弛緩処理を行う。本発明のメンブレンスイッチ用フィルムの場合、予熱温度は130℃程度、延伸温度は145℃程度、熱固定温度は240℃程度が好ましく、必要ならば熱固定を行いながら縦および横方向に弛緩処理を施し、その後フィルムを室温まで冷やして巻き取り、目的とする同時二軸フィルムを得る。なお、本発明では、フィルムの表面に例えば易接着性、易滑性、離型性、制電性などの機能を付与するために、同時二軸延伸の前または後の工程で、ポリエステルフィルムの表面に塗剤のコーテングも好ましく行うことができる。
本発明のフィルムは通常の逐次二軸延伸でも製造できる。前述したように公知の方法で得られたPENの未延伸フィルムを予熱ゾーンで80〜170℃に加熱した後、120〜180℃、より好ましくは125〜170℃、特に好ましくは130〜160℃で縦方向に赤外線加熱式縦延伸機で3.0〜4.5倍、より好ましくは3.2〜4.2倍延伸する。また、ロール式縦延伸機を用いてもよく、縦延伸で無理なく延伸するためには延伸を複数回に分けて多段延伸することが好ましい。縦延伸後、横延伸、さらに必要に応じて熱固定や弛緩処理を行うことで所望のPENフィルムを得ることができる。
横延伸は、縦延伸後再度予熱ゾーンで80〜150℃に加熱した後、さらにステンター内で120〜180℃、、横方向に3.0〜4.5倍するのが好ましい。より好ましい横延伸温度は、125〜170℃、特に130〜160℃の範囲である。また、より好ましい横延伸倍率は3.3〜4.2倍である。また、熱固定は195〜250℃で0.3〜50秒間行うのが好ましい。より好まし熱固定温度は205〜245℃の範囲である。さらに、縦方向および/または横方向に140〜240℃の温度で、弛緩率0.5〜15%の範囲で熱弛緩処理を行うのが好ましい。なお、横方向の延伸は複数段階に分割する多段延伸を用いてもよい。
本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムの上記製造方法(同時二軸延伸および逐次二軸延伸)において、フィルムの表面と裏面の融解サブピーク温度(Tsm)の差の絶対値(|Tsm(表面)−Tsm(裏面)|)を6℃以下にするためには、熱固定ゾーンにおいてフィルムの上側表面と下側表面が実際に加熱される温度を確認して調整する必要がある。ここでいう調整とは、単に熱固定ゾーンの上側と下側の温度を単純に同じ温度に設定するということではない。
従来、フィルムの表面、裏面のそれぞれの面における熱固定での実際の熱処理温度に関しては注目されず、一般にフィルム全体の融解サブピーク温度のみが議論されていた。しかし、二軸延伸フィルムの厚みが50μm以上になる厚手のフィルムの場合は、メンブレンスイッチの製造工程におけるハンドリング性、加工性の良し悪しに、フィルムの表面と裏面の融解サブピーク温度(Tsm)の差が大きく影響していることを見出し、その問題を解決したのが本発明である。
また、本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムの上記製造方法(同時二軸延伸および逐次二軸延伸)において、フィルムの製膜方向および幅方向の少なくとも一方向の屈折率を1.770以上1.790以下にするためには、縦延伸および横延伸の前の各予熱ゾーンにおけるフィルムの上側表面と下側表面の温度をバランス良く調整するとよい。ここでのバランス良くとは、各延伸ゾーンでのフィルムの上側表面と下側表面の温度差を考慮した上で、フィルム厚み全体にわたって無理なく延伸ができるように予熱ゾーンでのフィルムの上側表面と下側表面の温度を調整することを意味する。したがって、予熱ゾーンの上側と下側の温度を単純に同じ温度に設定するということではない。従来予熱ゾーンの温度に関してはあまり注目されていなかったが、特に未延伸フィルムの厚みが700μm以上または一軸延伸後のフィルム厚みが300μm以上になる厚手のフィルムでは予熱ゾーンの温度がその後の延伸に大きく影響する。
なお、予熱ゾーンの上側と下側の温度差の調整範囲の目安としては、予熱ゾーンのフィルムの上側表面と下側表面の温度差は8℃以下であることが好ましく、より好ましくは6℃以下、特に好ましくは5℃以下である。なお、予熱ゾーンの温度は100℃〜160℃であることが好ましい。
また、フィルムの表面と裏面の屈折率の差の絶対値を所望の範囲にするには、熱固定後の縦方向および/または横方向への熱弛緩処理温度をフィルムの上側表面と下側表面で12℃以内の温度差に調整するとよく、さらに好ましくは7℃以内の温度差に調整するとよい。例えば、フィルムの表面と裏面で屈折率を比較した場合に屈折率が小さい面側の熱弛緩処理温度を高目に設定するとフィルム表面と裏面の屈折率差は小さくなる傾向にある。
このようにして得られた本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムは、自動車の車内の過酷な環境下(高温高湿)において劣化(湿熱劣化)しにくい優れた性能を有する。よって、自動車の耐用年数にも耐えうるフィルムとして本発明のフィルムは自動車の車内で好ましく用いられる。上述の湿熱劣化しにくい特性の発現には、少なくとも一方向に極度に配向していることが関わっているものと考えられる。
さらに本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムは、長時間にわたり強制的に変形を受けても、変形から解放された後は優れた変形回復を示し、特に約80℃の高温下においても良好な変形回復を示す。よって、自動車の座席の座面内部にメンブレンスイッチの基材として埋め込まれ、着座した乗員の体重を受けても、乗員が座席から離れればフィルムの変形は回復し、常に正常なスイッチとして機能する。そのため、乗員の着座センサースイッチの基材として特に好ましく用いられる。すなわち、自動車内の運転席を除いた各座席の座面内部に複数個埋め込まれた状態で、座席の上に乗員が着座したことを検知するセンサーとして、および/または、乗員が着座した時に座面の各位置で圧力を検知して着座位置を検出するためのセンサーとして用いられるメンブレンスイッチの基材フィルムとして、本発明のフィルムは好適に用いることができる。こうした変形回復の発現にも、少なくとも一方向に極度に配向したフィルムの弾性強度が関わっているものと考えられる。
【発明の効果】
本発明のメンブレンスイッチ用基材フィルムは、フィルムのハンドリング性、耐久性に優れている。特に、高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるメンブレンスイッチ用として好適である。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は以下の方法により測定または評価したものである。また、実施例中の部および比は、特に断らない限り、重量部および重量比を示す。
(1)エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの成分量(主成分mol比、共重合成分mol比)の算出
フィルムサンプルを測定溶媒(CDCl:CFCOOD=1:1)に溶解後、H−NMR測定を行い、得られた各シグナルの積分比をもって算出する。
(2)金属含有濃度分析
チタン,リン原子濃度は、乾燥したフィルムサンプルを走査電子顕微鏡(SEM,日立計測機器サービスS570型)にセットし、それに連結したエネルギー分散型X線マイクローアナライザー(XMA,堀場EMAX−7000)にて定量分析を実施した。
(3)固有粘度(IV)
固有粘度(IV)は、o−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定する。
(4)フィルム厚み
マイクロメーター(アンリツ(株)製 商品名「K−402B型」)を用いて、フィルムの長手方向および幅方向に各々10cm間隔で測定を行い、全部で300ヶ所のフィルム厚みを測定する。得られた300ヶ所のフィルム厚みの平均値を算出してフィルム厚みとする。
さらに電子マイクロメーター(アンリツ(株)製 商品名「K−312A型」)を用いて、針圧30g、走行速度25mm/秒でフィルムの縦方向および横方向それぞれ2mの長さにわたって測定し、連続厚みチャートを得る。このチャートから最大厚みと最小厚みを読み取り、上記のフィルム厚みと合わせて下式から厚みのバラツキを求める。
厚みのバラツキ(%)=((最大厚み−最小厚み)/フィルム厚み)×100
(5)融解サブピーク温度(Tsm)、表面と裏面の融解サブピーク温度の表裏差
フィルムの一方の面(表面または裏面)側から、サンドペーパー(#200)で削り、当初のフィルム厚みの20%の厚みになるまでフィルムを削る。削り残りのフィルム(裏面側サンプルまたは表面側サンプル)からDSC測定用のフィルムサンプルを採取し、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置DSC220を用い、昇温速度は20℃/min、サンプル量は10mg、そして窒素気流中の測定条件にて、サブピーク温度を求める方法により測定する。
(6)フィルムの屈折率
アッベ屈折計の原理を用いたレーザ屈折計により、フィルム両面それぞれごとにプリズムを接触させて、各面内方向のフィルム屈折率を求める。すなわち、プリズムカプラ(Metricon社製 Model 2010)を用いて、波長633nmでのフィルム製膜方向と幅方向の屈折率(それぞれnMDとnTDと表す)をフィルムの表面と裏面についてそれぞれ測定する。屈折率の値が1.770以上1.790以下である方向について、表面と裏面の屈折率の差の絶対値を求める。
(7)熱収縮率
200℃に温度設定されたオーブンの中に無緊張状態で10分間フィルムを保持し、加熱処理前後での寸法変化を熱収縮率として次式により算出する。
熱収縮率%=((L0−L)/L0)×100
ここでL0は熱処理前の標点間距離、そしてLは熱処理後の漂点間距離である。
(8)3次元中心面平均粗さ(SRa)
JIS B−0601に規定する方法に準じて、表面粗さ計(東京精密製 商品名「サーフコムSE−3CK」)にて測定する。すなわち、測定長(Lx)1mm、サンプリングピッチ2μm、カットオフ0.25mm、厚み方向拡大倍率1万倍、面方向拡大倍率200倍、走査線数100本(Ly=0.2mm)の条件にてフィルム表面の突起プロファイルを測定し、表面粗さを算出する。
(9)フィルム密度
フィルムの密度は、硝酸カルシウム水溶液を溶媒として用いた密度勾配管中、25℃で浮沈法により測定する。
(10)フィルムの連続製膜性
フィルムを連続製膜したときのフィルムの製膜状態を観察し、局所的にフィルムの製膜方向に発生する筋状の凹凸欠点が発生するまでの時間を計り、下記の基準で評価した。○および△の評価を合格とした。
○:筋状の凹凸欠点が製膜開始から72時間までは発生しない。連続製膜性は極めて良好。
△:筋状の凹凸欠点が製膜開始後36時間から72時間の間で発生する。連続製膜性は概ね良好。
×:筋状の凹凸欠点が製膜開始から36時間も経たないうちに発生する。連続製膜性は不良。
(11)フィルムの滑り性
A4版の大きさに切出したフィルムを400枚重ねた状態でコピー機のトレイにフィルムを供給した後に、OHPシートにコピーを行う要領で400枚の連続コピーを行い、フィルム送りでの滑り性について下記の基準で評価した。○および△の評価を合格とした。
○:フィルム送り不良が全くなく、フィルムの滑り性は極めて良好。
△:フィルム送り不良が1〜3回発生するが、フィルムの滑り性は概ね良好。
×:フィルム送り不良が4回以上発生し、フィルムの滑り性に問題あり。
(12)フィルムの加工性
フィルムを断裁あるいは打ち抜いた後の端面状態について観察し、下記の基準で加工性を評価した。○または△評価であれば本発明のフィルムとして使用が可能であり合格とした。
○:断裁後、打ち抜き後の端面を顕微鏡で拡大倍率100倍にて観察する。端面は一直線状で乱れがなく端面状態は極めて良好。
△:断裁後、打ち抜き後の端面を顕微鏡で拡大倍率100倍にて観察する。端面に部分的に乱れが見られるが、端面を指でなぞっても端面の凹凸は感じられない程度で、端面状態は概ね良好であり実用上問題がない。
×:断裁後、打ち抜き後の端面を指でなぞると端面の凹凸が感じられ、端面状態が悪い。
(13)メンブレンスイッチの耐久性評価
60℃、65%RHの環境下でメンブレンスイッチのON/OFFの繰返しテストを行う。スイッチにスイッチがONになる荷重(初期荷重 例えば1.5kg/cm)の負荷および荷重の除去を1分間隔毎で繰り返す。このON/OFFのサイクルを360時間継続して行う。ON/OFFの繰返しテストが終了した後、荷重を除去して60℃、65%RHの環境下に30分間放置する。その後に再度スイッチに荷重を掛けてスイッチがONになる荷重(処理後荷重)を測定する。処理後荷重が初期荷重の90%以上を維持できたサンプルを合格し、上記内容のテストをn=100で実施して、下記の基準(合格率)で評価した。
合格率%=(処理後荷重が初期荷重の90%以上のサンプル数/n数)×100
○:合格率が95%以上であり、スイッチの耐久性は極めて良好。
△:合格率が80%以上であり、スイッチの耐久性は概ね良好。
×:合格率が80%未満であり、スイッチの耐久性は不良。
なお、○または△の評価であれば、本発明のフィルムに必要とされる耐久性を有している。
(14)総合評価
以上の各評価結果を受けて総合評価を「◎」「○」「△」「×」にて表す。「◎」〜「△」の評価となったものは合格であり、「×」の評価となったものは不合格である。
【実施例1】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。
ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度が0.60dl/gでTgが121℃のPENを得た。このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出し機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを140℃で縦方向に3.4倍延伸する。その後、135℃で横方向に3.8倍に逐次に二軸延伸し、その後直にフィルムの上側の温度を241℃、フィルムの下側の温度を239℃に調整した熱固定ゾーンで6秒間熱固定した。熱固定処理後に横方向に1.5%の熱弛緩処理を行い、厚みが100μmの二軸配向フィルムを得てロールに巻き取った。このPEN基材フィルム上に導電回路として銀ペースト、印刷接点部(電極)としてカーボンペーストをスクリーン印刷し、140℃で20分間乾燥を行い、スイッチ用シートを作成した後、このシート2枚を貼り合わせるための接着剤およびメンブレンスイッチのスペーサーとしてフィルム状スチレン−ブタジエン樹脂を用いた。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表1に示す。
【実施例2】
実施例1において、熱固定ゾーンにおけるフィルムの上側の温度を243℃、フィルムの下側の温度を238℃にした以外は同様な操作を繰り返した。二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表1に示す。
【実施例3】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部とエチレングリコール56部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート(「TBT」と表す)0.011部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.25μmの球状シリコーン粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、加圧反応が可能なSUS(ステンレス)製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート(「TEPA」と表す)0.042部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、100Paの高真空にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.62dl/gでTgが121℃のPENを得た。この後のPENポリマーの乾燥および製膜は実施例1と同様な操作を繰り返した。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1において、熱固定ゾーンにおけるフィルムの上側の温度を220℃、フィルムの下側の温度を217℃にした以外は同様に製膜を行った。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1において、熱固定ゾーンにおけるフィルムの上側の温度を240℃、フィルムの下側の温度を232℃にした以外は同様に製膜を行った。結果を表1に示す。

【実施例4】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。
ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度が0.63dl/gでTgが121℃のPENを得た。このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出し機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを縦延伸前の120℃の予熱ゾーンに導き、フィルムの上側表面と下側表面の温度差が4℃以内になるように加熱を行った後、145℃で縦方向に3.2倍延伸する。その後、横延伸前の130℃の予熱ゾーンに導き、フィルムの上側表面と下側表面の温度差が4℃以内になるように加熱を行った後、135℃で横方向に3.9倍に逐次に二軸延伸し、その後直にフィルムの上側および下側両面の温度を237℃で6秒間熱固定した。熱固定処理後にフィルムの上側の温度を215℃、フィルムの下側の温度を218℃として横方向に1.5%の熱弛緩処理を行い、厚みが100μmの二軸配向フィルムを得てロールに巻き取った。
このPEN基材フィルム上に導電回路として銀ペースト、印刷接点部(電極)としてカーボンペーストをスクリーン印刷し、140℃で20分間乾燥を行い、スイッチ用シートを作成した後、このシート2枚を貼り合わせるための接着剤およびメンブレンスイッチのスペーサーとしてフィルム状スチレン−ブタジエン樹脂を用いた。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表2に示す。
【実施例5】
実施例4において、熱固定後の横方向への熱弛緩処理におけるフィルムの上側の温度を213℃、フィルムの下側の温度を221℃にした以外は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表2に示す。
【実施例6】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部とエチレングリコール56部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート(「TBT」と表す)0.011部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.25μmの球状シリコーン粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、加圧反応が可能なSUS(ステンレス)製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート(「TEPA」と表す)0.042部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、100Paの高真空にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.61dl/gでTgが121℃のPENを得た。この後のPENポリマーの乾燥および製膜は実施例4と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表2に示す。
比較例3
実施例4において、縦方向に3.3倍延伸した後、横方向に3.4倍延伸した以外は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表2に示す。
比較例4
実施例4において、熱固定後の横方向への熱弛緩処理におけるフィルムの上側の温度を225℃、フィルムの下側の温度を211℃にした以外は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表2に示す。
比較例5
実施例4において、縦方向に3.0倍延伸した後、横方向に4.7倍延伸した以外は同様な操作を繰り返した。しかし、製膜時の破断が多く、連続して1時間以上の製膜ができなかった。そのため、フィルム物性以外の評価は行わなかった。

【実施例7】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。
ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度が0.60dl/gでTgが121℃のPENを得た。このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出し機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを縦延伸前の120℃の予熱ゾーンに導き、フィルムの上側表面と下側表面の温度差が4℃以内になるように加熱を行った後、145℃で縦方向に3.2倍延伸する。その後、横延伸前の130℃の予熱ゾーンに導き、フィルムの上側表面と下側表面の温度差が4℃以内になるように加熱を行った後、135℃で横方向に3.9倍に逐次に二軸延伸し、その後直にフィルムの上側の温度を241℃、フィルムの下側の温度を239℃に調整した熱固定ゾーンで6秒間熱固定した。熱固定処理後にフィルムの上側の温度を215℃、フィルムの下側の温度を218℃として横方向に1.5%の熱弛緩処理を行い、厚みが100μmの二軸配向フィルムを得てロールに巻き取った。
このPEN基材フィルム上に導電回路として銀ペースト、印刷接点部(電極)としてカーボンペーストをスクリーン印刷し、140℃で20分間乾燥を行い、スイッチ用シートを作成した後、このシート2枚を貼り合わせるための接着剤およびメンブレンスイッチのスペーサーとしてフィルム状スチレン−ブタジエン樹脂を用いた。得られた二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表3に示す。
【実施例8】
実施例7において、熱固定ゾーンにおけるフィルムの上側の温度を243℃、フィルムの下側の温度を238℃にした以外は同様な操作を繰り返した。二軸配向フィルムの物性、評価結果、製膜性およびメンブレンスイッチの評価結果を表1に示す。
【実施例9】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部とエチレングリコール56部の混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート(「TBT」と表す)0.011部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.25μmの球状シリコーン粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、加圧反応が可能なSUS(ステンレス)製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート(「TEPA」と表す)0.042部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
その後反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、100Paの高真空にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.62dl/gでTgが121℃のPENを得た。この後のPENポリマーの乾燥および製膜は実施例7と同様な操作を繰り返した。結果を表3に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは製膜方向および幅方向の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であることを特徴とするメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項2】
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは示差走査型熱量計(DSC)で測定される融解サブピーク温度が220℃以上250℃以下であり、かつ一方の表面での融解サブピーク温度と他方の表面での融解サブピーク温度との差が絶対値で6℃以下であることを特徴とするメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項3】
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムからなり、該フィルムは(1)製膜方向および幅方向の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ該両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であること、および(2)示差走査型熱量計(DSC)で測定される融解サブピーク温度が220℃以上250℃以下であり、かつフィルムの一方の表面での融解サブピーク温度と他方の表面での融解サブピーク温度との差が絶対値で6℃以下であることを特徴とするメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項4】
幅方向のフィルムの屈折率が1.770以上1.790以下である請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項5】
リン化合物とポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート中に可溶なチタン化合物とを含有し、チタン化合物とリン化合物の量が以下の数式(1)〜(3)を満たす請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
4≦Ti≦15 …(1)
0.5≦P/Ti≦15 …(2)
15≦Ti+P≦150 …(3)
(ここで、数式(1)〜(3)中の、Tiは、チタン化合物のチタン元素としてのモル数を、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数で割った値(mmol%)であり、Pはリン化合物のリン元素としてのモル数を、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分のモル数で割った値(mmol%)である。)
【請求項6】
リン化合物が、下記式(I)で表されるホスホネート化合物である請求項5に記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。

(ここで、式(I)中の、RおよびRは炭素原子数1〜4のアルキル基、Xは−CH−または−CH(Y)−(Yは、フェニル基を示す。)である。)
【請求項7】
チタン化合物が、下記式(II)で表わされる化合物または下記式(II)で表わされる化合物と下記式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸との反応生成物である請求項5に記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。

(ここで、式(II)中の、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数2〜10のアルキル基またはフェニル基である。)

(ここで、式(III)中の、nは2〜4の整数を表す。)
【請求項8】
厚みが40μm以上190μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項9】
少なくとも一方の表面の表面粗さ(SRa)が10nm以上45nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項10】
200℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率が、製膜方向および幅方向のいずれも、0.2%以上1.4%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項11】
自動車の車内で用いられる請求項1〜3のいずれかに記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項12】
メンブレンスイッチが、自動車内の各座席の座面内部に複数個埋め込まれた状態で、座席の上に乗員が着座したことを検知するセンサーとして用いられる請求項11記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項13】
メンブレンスイッチが、自動車内の各座席の座面内部に複数個埋め込まれた状態で、乗員が着座した時に座面の各位置で圧力を検知して着座位置を検出するためのセンサーとして用いられる請求項11記載のメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載されたメンブレンスイッチ用基材フィルム、スペーサおよび電極からなることを特徴とするメンブレンスイッチ。

【国際公開番号】WO2004/033540
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542810(P2004−542810)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011303
【国際出願日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】