説明

モノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法

【課題】ジフルオロリン酸の量を減らし、工程が簡便で、全工程の時間が短縮可能なモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】(I)水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−I)に溶解したモノマー溶液に、重合開始剤を添加して(共)重合反応させ、反応液中に水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)を形成する工程、及び
(II)上記(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させる工程
を含むモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口腔の疾患の一つであるう蝕予防を目的に、フッ素化合物配合口腔用組成物が用いられている。このフッ素化合物を口腔内で効果的に放出させる技術として、モノフルオロリン酸化高分子化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/054492号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記モノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法においては、高分子化合物を調製した後、得られた高分子化合物とジフルオロリン酸とを反応させ、モノフルオロリン酸化して得ることができる。しかしながら、十分なフッ素導入率を得るためには、高分子化合物に対して多くのジフルオロリン酸を用いる必要があり、高分子化合物を調製した際の溶媒を留去する必要があり、工程が煩雑で全工程に時間がかかるという問題があった。よって、本発明は、ジフルオロリン酸の量を減らし、工程が簡便で、全工程の時間が短縮可能なモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、特定の溶媒に溶解したモノマー溶液で(共)重合反応させ、この(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合反応で得られた(共)重合体(A)と、ジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させることで、高分子化合物を調製した際の溶媒を留去する必要がなく、全工程の時間を短縮でき、驚くべきことに、(共)重合体(A)の水酸基の数に対する、ジフルオロリン酸又はその塩(B)の数の比を4以下にしても、十分なフッ素導入率を達成できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、下記モノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法を提供する。
[1].(I)水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−I)に溶解したモノマー溶液に、重合開始剤を添加して、上記モノマー混合物を(共)重合反応させ、反応液中に水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)を形成する工程、及び
(II)上記(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させる工程
を含むモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[2].水酸基を有するアクリルアミド誘導体が、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド及びN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミドから選ばれるアクリルアミド誘導体である[1]記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[3].上記溶媒(C−I)が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする[1]又は[2]記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[4].上記(II)工程において、(共)重合反応後の反応液に、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−II)を添加した後、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加することを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[5].上記溶媒(C−II)が、1,2−ジメトキシエタンであることを特徴とする[4]記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物。
[6].上記(II)工程において、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)の水酸基のモル数に対する、ジフルオロリン酸又はその塩(B)のモル数の比が4以下である[1]〜[5]のいずれかに記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[7].上記(II)工程において、モノフルオロリン酸化反応液全体に対するジフルオロリン酸又はその塩(B)の割合が30〜80質量%である[1]〜[6]のいずれかに記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
[8].上記(I)において、重合濃度が10〜60質量%である[1]〜[7]のいずれかに記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジフルオロリン酸の量を減らし、工程が簡便で、全工程の時間が短縮可能なモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られた高分子化合物の1H−NMRスペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法は、下記に示すとおりである。
(I)水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−I)に溶解したモノマー溶液に、重合開始剤を添加して、上記モノマー混合物を(共)重合反応させ、反応液中に水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)を形成する工程、及び
(II)上記(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させる工程
を含むモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【0010】
(I)(共)重合反応
[水酸基を有するアクリルアミド誘導体]
水酸基を有するアクリルアミド誘導体としては、分子中に、ビニル基、−C(=O)−NH−基と、水酸基を有するものであれば特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜6の2価炭化水素基、ポリエチレンオキサイド基(エチレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)、ポリプロピレンオキサイド基(プロピレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)、ポリエチレンオキサイド基(エチレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)及びポリプロピレンオキサイド基(プロピレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)を含むポリアルキレンオキサイド又はジメトキシエチル基である。)
【0011】
上記一般式(1)で表されるものとしては、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ジエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(トリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(テトラエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド等のN−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0012】
また、水酸基を有するアクリルアミド誘導体としては、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル](メタ)アクリルアミド、N,N’−ジヒドロキシエチレン−ビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0013】
中でも、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド及びN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミドが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方を示し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドとメタクリルアミドの一方又は両方を示す。
【0014】
共重合体における各モノマーからなる構成単位の含有量は、共重合する際の各モノマーの配合量と同様であり、モノマー混合物に対する水酸基を有するアクリルアミド誘導体の割合は、所望する(共)重合体中の構成単位の割合により適宜選定される。水酸基を有するアクリルアミド誘導体のモノマー混合物に対する割合は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは50〜80質量%である。上限は水酸基を有するアクリルアミド誘導体以外のモノマーの割合に応じて適宜選択される。
【0015】
モノマー混合物((共)重合体)には、水酸基を有するアクリルアミド誘導体以外のモノマーを含むことができ、例えば、粘膜への吸着性を向上させるためのイオン性モノマー、水溶性を向上させるための親水性(水溶性)非イオンモノマー、滞留性を向上させるための疎水性非イオンモノマー等が挙げられる。なお、上記(A)水酸基を有するアクリルアミド誘導体は除かれる。
【0016】
イオン性モノマーとしては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー、両性モノマーが挙げられる。カチオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(ジアルキル(炭素数1〜3)アミノアルキル(炭素数1〜3)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル((メタ)アクリル酸ジアルキル(炭素数1〜3)アミノアルキル(炭素数1〜3)、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、又はこれらのアンモニウム4級化物等が挙げられる。また、アンモニウム4級化物として、具体的には、トリメチルアンモニウムクロライド、エチルジメチルクロライド等が挙げられる。この中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、及びこれらのアンモニウム4級化物が好ましく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びそのアンモニウム4級化物がより好ましく、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライドがさらに好ましい。
【0017】
アニオン性モノマーとしては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のリン酸基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基を有するモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーが挙げられる。
【0018】
両性モノマーとしては、3−ジメチル((メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムエタンホスフェート等のリン酸基を有するモノマー、3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムエタンカルボキシレート等のカルボン酸基を有するモノマー、3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムプロパンスルホネート等のスルホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。
【0019】
モノマー混合物に対する、イオン性モノマーの割合の下限は0質量%でもよく、上限は95量%以下とすることもできる。好ましくは0.5〜50質量%であり、より好ましくは10〜35質量%である。50質量%を超えると、フッ素含有率の低下をもたらすおそれがある。
【0020】
親水性非イオンモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール(p=2〜50;EO(エチレンオキサイド)付加数が2〜50個)等が挙げられる。モノマー混合物に対する、水溶性モノマーの割合の下限は0質量%でもよく、0.5〜50質量%が好ましく、さらに好ましくは1〜30質量%である。50質量%を超えると、フッ素含有率の低下をもたらすおそれがある。
【0021】
疎水性非イオンモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等が挙げられる。この中でも、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が好ましく、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルがより好ましい。ただし、疎水性非イオンモノマーはモノフルオロリン酸化高分子化合物の水溶性を損ねない程度の比率で共重合させるのが好ましい。モノマー混合物に対する、疎水性非イオンモノマーの割合の下限は0質量%でもよく、0.05〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜40質量%であり、5〜40質量%がさらに好ましい。50質量%を超えると、フッ素導入率の低下と溶解性の低下をもたらすおそれがある。
【0022】
モノマーを重合させる重合方法は、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、溶媒(C−I)に溶解したモノマー溶液に、重合開始剤を添加して(共)重合する。重合開始剤は溶媒(C−I)に溶解してもよい。この溶媒(C−I)は、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる1種又は2種以上の溶媒成分からなる。中でもジメチルスルホキシドが好ましい。上記溶媒でなければ、モノフルオロリン酸化反応率が極端に下がり、(共)重合反応と、モノフルオロリン酸化反応とを同じ溶媒で行うことができず、十分なフッ素導入率も期待できない。
【0023】
モノマー重合の際に用いる重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロリルパーオキサイド等のパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤濃度は、通常、使用するモノマー合計量に対して0.1〜10%が好ましい。さらに、分子量を規制するためにアルキルメルカプタンのような連鎖移動剤、ルイス酸化合物等の重合促進剤、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸等のpH調整剤を使用してもよい。
【0024】
重合濃度は重合反応系における重合体成分(モノマー)の濃度をいう。重合濃度は10〜60質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。本発明においては、(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加するため、重合濃度は次の(II)モノフルオロリン酸化反応の濃度を考慮する必要がある。
【0025】
重合温度は、用いられる溶媒、重合開始剤により適宜定められるが、通常、50〜200℃が好ましく、60〜120℃がより好ましい。重合時間は1〜10時間が好ましい。なお、本発明の高分子化合物は、使用する開始剤の量、重合溶媒の種類、重合時のモノマー濃度等の重合条件を調整することで、分子量を制御することができる。
【0026】
本発明の製造方法では精製の必要はないが、精製してもよく、精製方法は、貧溶媒を使用した再沈殿でも、透析による精製でもよい。
【0027】
(II)モノフルオロリン酸化反応
上記(共)重合反応後の反応液には、(共)重合反応により得られた水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)が含まれている。この反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させることにより、アクリルアミド誘導体中の水酸基等の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換され、(共)重合体(A)にモノフルオロリン酸基が導入され、モノフルオロリン酸化される。なお、モノフルオロリン酸化高分子化合物中には下記一般式(2)で表されるモノフルオロリン酸残基を1種又は2種以上有することができ、部分中和物でもよい。
【0028】
【化2】

(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン又はトリエチルアミンを示す。)
【0029】
このように、(I)共重合反応において得られた反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加することにより、高分子化合物を調製した際の溶媒を留去する必要がなく、全工程の時間を短縮でき、(共)重合体(A)の水酸基のモル数に対する、ジフルオロリン酸又はその塩(B)のモル数の比を4以下、さらに3以下にしても、十分なフッ素導入率を達成できる。
【0030】
この場合、(共)重合反応後の反応液に、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−II)を添加した後、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加することもできる。この場合、溶媒(C−II)として、1,2−ジメトキシエタンを用いると、フッ素導入率が向上する。
【0031】
溶媒(C−I)、溶媒(C−2)を添加する場合はこれらの混合溶媒は、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる1種又は2種以上の溶媒成分のみからなることが好ましい。モノフルオロリン酸化反応が可能であれば、他の溶媒が不純物として含まれることは許容されるものの、この場合においても上記溶媒は、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる1種又は2種以上の溶媒成分が90質量%以上とする。
【0032】
(共)重合反応後の反応液、溶媒(C−II)及びジフルオロリン酸又はその塩(B)合計量、つまりモノフルオロリン酸化反応液中に対する、ジフルオロリン酸又はその塩(B)の割合は30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。この範囲で反応率が高く、低すぎると反応率が悪くなる。上述したように、本発明においては、(共)重合体(A)の水酸基のモル数に対する、ジフルオロリン酸又はその塩のモル数の比を減らすことができる。この場合、共重合モノフルオロリン酸化反応液中の重合濃度を上げることにより、系中の溶媒量が減り、結果として、モノフルオロリン酸化反応液中のジフルオロリン酸又はその塩の割合を増やすことができる。
【0033】
(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)との反応温度は、5〜40℃が好ましく、15〜35℃がより好ましい。温度が40℃を超えると、副反応が起こり、反応率が低下するおそれがある。反応時間は適宜選定されるが、3〜10時間が好ましい。
【0034】
反応物には、未反応のジフルオロリン酸が残存しているため、減圧乾燥によって除く、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液等の添加によってモノフルオロリン酸塩へと反応させることが好ましい。また、反応液は、ろ過しても、ろ過しなくてもよいが、微量不溶分を除去するためにろ過することは好ましい。ろ過を行う手順は、モノフルオロリン酸化高分子化合物を、透析後ろ過した後に中和してもよいし、透析し中和した後にろ過してもよい。
【0035】
本発明のモノフルオロリン酸化高分子化合物は、(共)重合体(A)中における水酸基の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換され、(共)重合体(A)にモノフルオロリン酸基が導入され、モノフルオロリン酸化されたものである。例えば、(A)(共)重合体の場合、水酸基を有するアクリルアミド誘導体の水酸基の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換され、例えば(1)の構成単位は、下記一般式(3)のようにモノフルオロリン酸基で置換される。
【0036】
【化3】

(式中、R1、R2及びMは上記と同じ。)
【0037】
(共)重合体(A)中における水酸基の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換されたモノフルオロリン酸化高分子化合物の場合、全構成単位に対するモノフルオロリン酸残基を有する構成単位の割合は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。上限は100質量%であってもよく、このモノマー以外の構成単位の割合に応じて適宜選択され、例えば、上限は95質量%、80質量%等に適宜選択される。
【0038】
得られるモノフルオロリン酸化高分子化合物中の各構成単位の割合は、モノフルオロリン酸化に用いる(A)(共)重合体中の各構成単位の割合により調整することができる。例えば、(A)(共)重合体は、水酸基を有するアクリルアミド誘導体5〜100質量%、好適には10〜90質量%、カチオン性モノマー0〜95質量%、好適には0〜65質量%、及び疎水性非イオンモノマー0〜50質量%、好適には0〜40質量%を構成単位として含む(共)重合体を用いることができる。なお、上記範囲はアクリルアミド誘導体の重合体(ホモポリマー)を含む範囲を含むものであり、その構成単位の割合は、上記及び下記の範囲から適宜選ばれる。本発明におけるモノフルオロリン酸化高分子化合物は、例えば、モノフルオロリン酸残基を有するモノマー5〜100質量%、水酸基を有するアクリルアミド誘導体0〜95質量%、カチオン性モノマー0〜65質量%、及び疎水性非イオンモノマー0〜40質量%を構成単位として含む(共)重合体と表すことができる。
【0039】
この中でも、口腔内におけるフッ素滞留性をより向上させる点から、(A)(共)重合体として、水酸基を有するアクリルアミド誘導体と、カチオン性モノマー及び/又は疎水性非イオンモノマーとを構成単位として含む共重合体を用いて、モノフルオロリン酸残基を有するモノマーと、カチオン性モノマー及び/又は疎水性非イオンモノマーとを構成単位として含む共重合体であるモノフルオロリン酸化高分子化合物とするとよい。また、滞留性をさらに向上させる点から、カチオン性モノマー及び疎水性非イオンモノマーを併用し、(A)(共)重合体として、水酸基を有するアクリルアミド誘導体と、カチオン性モノマーと、疎水性非イオンモノマーとを構成単位として含む共重合体を用いて、モノフルオロリン酸残基を有するモノマーと、カチオン性モノマーと、疎水性非イオンモノマーとを構成単位として含む共重合体であるモノフルオロリン酸化高分子化合物とするとよい。なお、上記モノフルオロリン酸化高分子化合物には、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含んでいてもよい。
【0040】
(A)共重合体及びモノフルオロリン酸化高分子化合物におけるカチオン性モノマーの割合は、フッ素導入率の低下を防止する点から65質量%以下が好ましく、滞留性をさらに向上させる点から10〜65質量%がより好ましく、15〜50質量%がさらに好ましい。また、(A)(共)重合体及びモノフルオロリン酸化高分子化合物における疎水性非イオンモノマーの割合は、モノフルオロリン酸化高分子化合物の溶解性の低下を防止する点から、40質量%以下が好ましく、滞留性を向上させる点から、5〜40質量%がより好ましく、10〜35質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が特に好ましい。疎水性非イオンモノマーの割合が40質量%を超えると、溶解性の低下をもたらすおそれがある。但し、(A)共重合体及びモノフルオロリン酸化高分子化合物が、カチオン性モノマー及び/又は疎水性非イオンモノマーを構成単位として含む共重合体の場合、カチオン性モノマー及び疎水性非イオンモノマーの割合が同時に0となることはない。
【0041】
また、口腔内におけるフッ素滞留性向上、フッ素導入率の低下防止、及びモノフルオロリン酸化高分子化合物の溶解性の低下防止等の総合的観点から、モノフルオロリン酸化高分子化合物は、モノフルオロリン酸残基を有するモノマー、水酸基を有するアクリルアミド誘導体、カチオン性モノマー及び疎水性非イオンモノマーを下記割合で含む共重合体が好ましい。
モノフルオロリン酸残基を有するモノマー5〜50質量%、好適には10〜30質量%、より好適には12〜29質量%。
水酸基を有するアクリルアミド誘導体0〜77質量%、より好適には10〜70質量%、さらに好適には10〜60質量%、特に好適には15〜45質量%、最も好適には19〜35質量%。
カチオン性モノマー10〜65質量%、好適には20〜40質量%、より好適には25〜35質量%。
疎水性非イオンモノマー5〜40質量%、好適には10〜35質量%、より好適には15〜30質量%。
なお、水酸基を有するアクリルアミド誘導体0質量%の場合とは、水酸基を有するアクリルアミド誘導体の全てが水酸基の水素原子がモノフルオロリン酸基に置換された場合をいう。
【0042】
モノフルオロリン酸化高分子化合物のフッ素導入率は、0.1〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満の場合、十分なフッ素放出量が得られない場合がある。モノフルオロリン酸化高分子化合物の導入率は、反応溶媒の種類、ジフルオロリン酸の量、反応時間、反応温度を選定することで、適宜調整することができる。
【0043】
なお、本発明におけるフッ素導入率は、高分子化合物0.1質量%水溶液1.6gに、1mol/L過塩素酸水溶液2.4gを添加し、密封したPE製蓋付チューブ中に入れて、105℃で10分加熱する。その後、液0.4gを採取し、1.6gの1mol/Lクエン酸カリウム緩衝液(pH5.5)と混合した後、フッ素電極(Expandable Ion Analyzer、Orion製)によりフッ素量:Xp(ppm)を定量する。高分子化合物全質量に対するフッ素の質量濃度(フッ素導入率:F(質量%))を以下の式により算出する。
F=Xp×1.25
【0044】
本発明におけるモノフルオロリン酸化高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、モノフルオロリン酸基の口腔内酵素によるフッ素の放出・徐放の観点から、1,000〜100万が好ましく、5,000〜50万がより好ましく、1万〜30万がさらに好ましい。分子量が1,000未満の場合は、口腔内での滞留性が不足するおそれがある。
【0045】
なお、重量平均分子量の測定方法は、リン酸二水素ナトリウム2水和物を0.175(mol/L)、リン酸水素二ナトリウム12水和物を0.025(mol/L)、トリエチルアミン0.1(mol/L)、アセトニトリル20質量%を含む移動相液とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、分子量5,800〜853,000のプルラン標準(P−82、昭和電工製)にて換算して重量平均分子量を算出する。具体的には、乾燥物を0.5質量%となるように移動相液と同様の液に溶かし、溶液を調製する。カラムには東ソー(株)製TSK−GelG2500PWXLとTSK−GelGMPWXLを連結して設置し、カラムオーブン設定温度40℃、溶離液は10mM硝酸ナトリウムと20vol%アセトニトリルを含む水を用い、流速0.5mL/min、検出はRIにて行う。
【0046】
本発明の製造方法で得られたモノフルオロリン酸化高分子化合物は、フッ素を多く有し、口腔内に適用することにより、酵素反応によってフッ素が放出・徐放されると共に、加水分解に対して安定であることから、口腔用組成物に配合することが好ましい。また、モノフルオロリン酸化高分子化合物の口腔内への付着性によって、フッ素を滞留させることもできる。
【0047】
口腔用組成物中のモノフルオロリン酸化高分子化合物の含有量は、0.01〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。モノフルオロリン酸化高分子化合物の含有量が0.01質量%未満の場合、満足な配合効果が得られない場合があり、20質量%を超えると組成物の使用性が劣るおそれがある。
【0048】
口腔用組成物としては、歯磨剤、洗口剤、歯面コーティング剤、貼付剤、義歯洗浄剤、チューインガム、トローチ等が挙げられる。その剤型に応じて、任意成分としてその他の添加剤を配合できる。
【0049】
任意の成分としては、例えば、界面活性剤、洗浄剤、湿潤剤、増粘剤、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、油分、本発明の高分子化合物以外の高分子化合物、防腐剤、包接化合物、酸化防止剤・抗酸化剤、キレート剤、無機粉体、ガムベース、酸味料、軟化剤、着色料、光沢剤、乳化剤、甘味剤、pH調整剤、香料、色素、生薬、糖類、塩類、アミノ酸類、上記以外の薬効成分、抗菌剤、さらに水、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等の溶媒等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0051】
[実施例1]
共重合体Aの重合反応
撹拌機、環流冷却器及び窒素導入管を取り付けた500mLの4つ口セパラブルフラスコに、ジメチルスルホキシド(DMSO)35gを入れ、撹拌しながら窒素導入管より窒素ガスを導入した。次いで、90℃のオイルバスで加温しながら、ここにN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド:HEAA(興人製)16.5gと、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライド:DMAPAA−Q13.5gを21gのDMSOに混合したモノマー溶液と、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(商品名V−59:和光純薬製)0.50gを14gのDMSOに溶解した重合開始剤溶液とを、それぞれ1時間かけて連続的に滴下して重合反応を行った(溶媒全量70g)。滴下終了後、窒素を導入しながら3時間加温を続けた後、温度を室温に戻した。
【0052】
モノフルオロリン酸化反応
重合反応終了後の反応溶液に、窒素ガスを導入しながら内部温度を25℃一定になるようにコントロールし、ジフルオロリン酸82.2gを滴下した。5時間撹拌後、25質量%の水酸化ナトリウムを反応溶液がpH8になるまで滴下した。中和終了後、反応物を3日以上流水中で透析(透析用セルロースチューブ、分画分子量:14,000、三光純薬)を行い、乾燥させ27gのモノフルオロリン酸化高分子化合物を得た。実施例1で得られたモノフルオロリン酸化高分子化合物の1H−NMRスペクトルチャートを図1に示す。3.5ppmのピークが未反応部分、3.8ppmのピークがMFP化された部分である。
【0053】
[実施例2]
共重合体Bの重合反応
DMSOとDME(1,2−ジメトキシエタン)を質量比7:3の割合で混合した溶媒を使用した以外は、実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、実施例1と同様の操作を行った。
【0054】
[実施例3]
共重合体Cの重合反応
DMSOとアセトニトリルを重量比7:3の割合で混合した溶媒を使用した以外は、実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、実施例1と同様の操作を行った。
【0055】
[実施例4]
共重合体Dの重合反応
モノマーとして、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド15.0g、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライド7.5g、メタクリル酸ラウリル:LMA(東京化成工業製)7.5gを使用した以外は実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、ジフルオロリン酸75.8gを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0056】
[実施例5]
共重合体Eの重合反応
モノマーとして、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド19.5g、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライド4.5g、メタクリル酸ラウリル6.0gを使用した以外は実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、ジフルオロリン酸79.0gを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0057】
[実施例6]
重合体Fの重合反応
モノマーとして、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド30.0gを使用し、溶媒全量をDMSO49gとした以外は実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、ジフルオロリン酸94.8gを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0058】
[実施例7]
共重合体Gの重合反応
DMSO49gを溶媒全量として使用した以外は、実施例1の方法と同様にして重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後、DMEを21g加え撹拌した。その後は実施例1と同様の操作で反応した。
【0059】
[実施例8]
実施例1と同様にして重合後、モノフルオロリン酸化反応の内部温度を35℃一定にした以外は、実施例1と同様の方法で反応した。
【0060】
[実施例9]
実施例1と同様にして重合後、モノフルオロリン酸化反応は、DMSOを50g加え撹拌した以外は、実施例1と同様の方法で反応した。
【0061】
[比較例1]
共重合体Hの重合反応
DMSOとエタノールとを質量比7:3の割合で混合した溶媒を使用した以外は、実施例1と同様の操作で重合した。
モノフルオロリン酸化反応
重合終了後のモノフルオロリン酸化反応は、実施例1と同様の操作を行った。
【0062】
[比較例2]
共重合体Iの重合反応
撹拌機、環流冷却器及び窒素導入管を取り付けた500mLの4つ口セパラブルフラスコに、エタノール70gを入れ、撹拌しながら窒素導入管より窒素ガスを導入した。次いで、90℃のオイルバスで加温しながら、ここにN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(興人製)33.0gと、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライド27.0gを42gのエタノールに混合したモノマー溶液と、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(商品名V−59:和光純薬製)1.0gを28gのDMSOに溶解した重合開始剤溶液とを、それぞれ1時間かけて連続的に滴下して重合反応を行った(溶媒全量140g)。滴下終了後、窒素を導入しながら5時間加温を続けた後、温度を室温に戻した。反応溶液を、20時間流水中で透析し(透析用セルロースチューブ、分画分子量:14000、三光純薬)した後、乾燥させ48gの粉体を得た。
モノフルオロリン酸化反応
共重合体Iの乾燥粉体30gにDMSO270gを加え溶解させた。その後、ジフルオロリン酸379.2gを滴下した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0063】
実施例で得られたモノフルオロリン酸化高分子化合物について、全工程製造時間、下記測定及び評価を行った。結果を表中に併記する。
【0064】
[重量平均分子量(Mw)]
リン酸二水素ナトリウム2水和物を0.175(mol/L)、リン酸水素二ナトリウム12水和物を0.025(mol/L)、トリエチルアミン0.1(mol/L)、アセトニトリル20質量%を含む移動相液とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定、分子量5,800〜853,000のプルラン標準(P−82、昭和電工製)にて換算して重量平均分子量を算出した。具体的には、乾燥物を0.5質量%となるように移動相液と同様の液に溶かし、溶液を調製した。カラムには東ソー(株)製TSK−GelG2500PWXLとTSK−GelGMPWXLを連結して設置し、カラムオーブン設定温度40℃、溶離液は10mM硝酸ナトリウムと20vol%アセトニトリルを含む水を用い、流速0.5mL/min、検出はRIにて行った。
【0065】
[モノフルオロリン酸残基導入率]
実施例1で得られたモノフルオロリン酸化高分子を重水中に0.1質量%溶解させ、プロトン核磁気共鳴分光法(1H−NMR)による測定を行った。結果を図1に示す。高分子中のN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド由来の水酸基は、ジフルオロリン酸との反応により、モノフルオロリン酸エステルを形成した場合、水酸基隣接メチレンのプロトンのピークがシフトするため、1H−NMR測定によって面積積分値を比較することにより、反応率を計算することが可能である。モノフルオロリン酸化前の(共)重合体中のN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドの場合、水酸基隣接メチレンのプロトンのピークは、3.5〜3.7ppmに現れるが、モノフルオロリン酸化され、水酸基の水素原子がモノフルオロリン酸残基に置換されると、3.7〜4.1ppmに現れる。モノフルオロリン酸化導入率は、(モノフルオロリン酸化後の3.7〜4.1ppmのピークの積分面積)/(モノフルオロリン酸化前の3.5〜3.7ppmのピークの積分面積)×100で求められる。
【0066】
[フッ素導入率]
高分子化合物0.1質量%水溶液1.6gに、1mol/L過塩素酸水溶液2.4gを添加し、密封したPE製蓋付チューブ中に入れて、105℃で10分加熱した。その後、液0.4gを採取し、1.6gの1mol/Lクエン酸カリウム緩衝液(pH5.5)と混合した後、フッ素電極(Expandable Ion Analyzer、Orion製)によりフッ素量:Xp(ppm)を定量した。高分子化合物全質量に対するフッ素の質量濃度(フッ素導入率:F(質量%))を以下の式により算出した。
F=Xp×1.25
【0067】
[フッ素放出性]
0.1質量%高分子化合物の水溶液4.9gに、70units/g酸性ホスファターゼ(イモ由来)リン酸緩衝溶液(pH7)0.1gを添加し、24時間、37℃で振とうしながら保存した。その後、液0.4gを採取し、1.6gの1mol/Lクエン酸カリウム緩衝液(pH5.5)と混合した後、フッ素電極計(Expandable Ion Analyzer EA920:Orion社製)により液中のフッ素量:Xe(ppm)を測定した。また、別に0.1質量%高分子化合物水溶液0.4gを採取し、1.6gの1mol/Lクエン酸カリウム緩衝液(pH5.5)と混合した後、フッ素電極計により液中のフッ素量:X0を測定した。フッ素放出性を下記評価基準に従って評価した。
○:Xe−X0が0.1ppmを超える
△:Xe−X0が0.05ppmを超えて0.1ppm以下
×:Xe−X0が0.05ppm以下
【0068】
[加水分解安定性]
(i)高分子化合物を下記pH1.2塩酸バッファー液に、0.1質量%で溶解させた。塩酸バッファー液は、0.2mol/L塩酸322.5mL及び0.2mol/L塩化カリウム水溶液250mLを純水で1Lに希釈して調製した。これを40℃で24時間保存した後、サンプル液4gを、ナノピュア水で5回濯ぎ処理した分画分子量10,000の限外ろ過膜(Amicon Ultra−4、MILLIPORE製)に入れ、3000G(29419.95m/s2)で15分間遠心ろ過操作を行った。ろ液1gを採取し、ナノピュア水で20gに希釈して、全有機炭素計により、保存処理後の分解有機分量:C1を測定した。
(ii)次に、これとは別に、高分子化合物をナノピュア水に、0.1質量%で十分溶解させた直後に、上記操作と同様に、サンプル液4gを、ナノピュア水で5回濯ぎ処理した分画分子量10,000の限外ろ過膜に入れ、3000G(29419.95m/s2)で15分間遠心ろ過操作を行った。ろ液1gを採取し、ナノピュア水で20gに希釈して、全有機炭素計により、保存処理なしの場合(ブランク)の分解有機分量:C0を測定した。
(iii)最後に、ナノピュア水で調製した0.1質量%高分子化合物水溶液0.2gを、更にナノピュア水で20gに希釈して、全有機炭素計により高分子化合物水溶液の全有機分量:Ctを測定した。
(i)〜(iii)より、保存処理による炭素分解率:Tを下記の式により算出した。
T(%)=[(C1−C0)×20(20倍希釈)/(Ct×100(100倍希釈))]×100
評価基準
○:Tが0.5%以下
△:Tが0.5%より大きく、1%以下
×:Tが1%より大きい
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)水酸基を有するアクリルアミド誘導体を含むモノマー混合物を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−I)に溶解したモノマー溶液に、重合開始剤を添加して、上記モノマー混合物を(共)重合反応させ、反応液中に水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)を形成する工程、及び
(II)上記(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加し、上記(共)重合体(A)とジフルオロリン酸又はその塩(B)とを反応させる工程
を含むモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
水酸基を有するアクリルアミド誘導体が、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド及びN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミドから選ばれるアクリルアミド誘導体である請求項1記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
上記溶媒(C−I)が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項1又は2記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
上記(II)工程において、(共)重合反応後の反応液に、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒(C−II)を添加した後、ジフルオロリン酸又はその塩(B)を添加することを特徴とする請求項1、2又は3記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
上記溶媒(C−II)が、1,2−ジメトキシエタンであることを特徴とする請求項4記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物。
【請求項6】
上記(II)工程において、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含む(共)重合体(A)の水酸基のモル数に対する、ジフルオロリン酸又はその塩(B)のモル数の比が4以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
上記(II)工程において、モノフルオロリン酸化反応液全体に対するジフルオロリン酸又はその塩(B)の割合が30〜80質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
上記(I)において、重合濃度が10〜60質量%である請求項1〜7のいずれか1項記載のモノフルオロリン酸化高分子化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26442(P2011−26442A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173353(P2009−173353)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】