説明

モリブデンの回収方法及び触媒の製造方法

少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物、特に使用済み触媒から触媒の製造に用いる回収モリブデン含有物を得る方法、及び該回収モリブデン含有物を使用した触媒の製造方法が開示されている。なお、特に好ましい触媒は気相接触酸化によるメタクリル酸製造用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素)を含むモリブデン含有物より少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)又は沈殿(回収モリブデン含有沈殿)を回収する方法、及び回収モリブデン含有液及び/又は回収モリブデン含有沈殿を用いる触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素)を含むモリブデン含有物は、例えば、イソ酪酸の酸化脱水素によるメタクリル酸の製造、メタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸の製造等で用いるヘテロポリ酸系触媒として有効であることが広く知られ、イソブチレンの直接気相酸化法によるメタクリル酸製造プロセスに使用されているものもある。
【0003】
一般に、工業的気相酸化反応では触媒は一定期間使用され、使用期間が過ぎた触媒は反応器より取り出され、新しい触媒と交換される。この際に取り出された使用済み触媒には、例えば、モリブデン、カリウム、ルビジウム、セシウムなどの触媒製造原料として有用な元素が多く含まれている。これらの元素を回収、再利用する技術の開発あるいは使用済み触媒を再生して使用する技術の開発は経済的にも、また、環境への負荷を低減する上でも非常に重要な課題となっている。
【0004】
使用済み触媒からの成分の回収方法について、反応に使用したヘテロポリ酸塩系触媒を水酸化ナトリウムで加熱分解した後にナトリウム型強酸性樹脂と接触させてセシウム、ルビジウム、タリウム又はカリウムを選択的に吸着分離し、吸着した元素を硫酸で溶離してそれぞれの硫酸塩として回収する工程と、前記工程で分離したヘテロポリ酸のナトリウム塩溶液をプロトン型強酸性イオン交換樹脂で処理してヘテロポリ酸を回収する工程からなる方法が知られている(例えば、特開平07−213922号公報(特許文献1)参照)。
【0005】
また、触媒の再生については、メタクリル酸の製造に使用した使用済み触媒を塩酸で処理する再生方法(例えば、特開昭54−002293号公報(特許文献2)参照)、含窒素ヘテロ環化合物で処理する再生方法(例えば、特開昭60−232247号公報(特許文献3)参照)、失活触媒に対してアンモニウム根及び硝酸根を添加する再生方法(例えば、特開昭61−283352号公報(特許文献4)参照)、結晶性アンチモン酸などの無機系イオン交換体で処理する再生方法(例えば、特開平06−285373号公報(特許文献5)参照)等が知られている。
【0006】
しかしながら、特開平07−213922号公報(特許文献1)に開示された回収方法は2つの工程でイオン交換樹脂を用いている。イオン交換樹脂を用いる回収方法では回収処理される溶液中の被回収元素の濃度を低くしなければならず、このように2つの工程でイオン交換樹脂を用いることは結果として設備面積の増大、イオン交換樹脂使用量の増加を伴い不経済であるといった問題などがある。
【0007】
また、特開昭54−002293号公報(特許文献2)、特開昭60−232247号公報(特許文献3)、特開昭61−283352号公報(特許文献4)、特開平06−285373号公報(特許文献5)等に示されている触媒の再生方法について、触媒はある程度のレベルまでは再生されるが、通常の方法で製造された触媒よりもメタクリル酸の収率が低いという問題などがある。
【0008】
これら問題を解決した方法として、回収触媒を水に分散した後、アルカリ金属化合物やアンモニア水を加え、ついで該混合液をpH6.5以下にしてモリブデンをリン、ヒ素等と共に沈殿させ、触媒の製造に使用可能なモリブデン含有沈殿として回収する方法がある(例えば、米国特許第6777369号明細書(特許文献6)参照)。
【0009】
しかしながら、米国特許第6777369号明細書(特許文献6)に記載された回収方法により得られたモリブデン含有沈殿は、回収原料に含まれるリン、ヒ素を共に含むものであり、これを直接新規触媒の製造に使用するには制限がある。
【特許文献1】特開平07−213922号公報
【特許文献2】特開昭54−002293号公報
【特許文献3】特開昭60−232247号公報
【特許文献4】特開昭61−283352号公報
【特許文献5】特開平06−285373号公報
【特許文献6】米国特許第6777369号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物、特に回収された使用済み触媒から触媒の製造に用いる新規モリブデン化合物と同様に用いうる少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)又は沈殿(回収モリブデン含有沈殿)を回収する方法、及び該回収モリブデン含有液又は回収モリブデン含有沈殿を原料として触媒を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、モリブデンを回収するための原料モリブデン含有物をアルカリ溶液に分散させ、特定のpH領域でマグネシウムを含む化合物を作用させることにより、モリブデンを含む各種触媒の製造に利用可能な状態でモリブデンを回収できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明は、
1)少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物を水に分散し、アルカリを加えて、pHを8以上とする工程、
2)得られた混合液のpHを6〜12に調整したのちに、マグネシウムを含む化合物とアンモニア水を加え、少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物を生成する工程、及び、
3)工程2)で生成した少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物と、少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)を分離する工程
を含むことを特徴とするモリブデンの回収方法である。
【0013】
また、本発明は、さらに、工程4)回収モリブデン含有液に酸を加え、pH3以下として少なくともモリブデンを含む沈殿を生成し、生成した沈殿(回収モリブデン含有沈殿)を溶液から分離する工程を含むことを特徴とする上記モリブデンの回収方法である。
【0014】
さらに、本発明は、上記モリブデンの回収方法で回収された回収モリブデン含有液又は回収モリブデン含有沈殿を用いる触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)およびX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素)を含むモリブデン含有物、特に廃モリブデン含有触媒から有用なモリブデンを簡単な操作で、再利用可能な溶液あるいは沈殿として、回収することができる。
【0016】
また、本発明で製造された回収モリブデン含有溶液あるいは沈殿を触媒製造に使用すると、単に廃モリブデン含有触媒が有効に利用できるというだけでなく、回収モリブデン含有物を使用しない従来のモリブデン原料を使用した場合と同等のメタクリル酸収率の触媒を得ることができる。また、これらの溶液あるいは沈殿はA元素(リン及び/又はヒ素)を実質的に含まないので触媒の製造方法に対する制限が少ないという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、モリブデンを回収するのに用いるモリブデン含有物は、少なくともモリブデン、A元素、X元素を含むものであり、例えば、メタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸の製造反応、イソ酪酸の酸化脱水素によるメタクリル酸の製造反応等に使用された触媒が挙げられる。なお、これらメタクリル酸製造用触媒の場合、下記式(1)の組成のものが好ましく、特に好ましくは、下記式(2)の組成のものである。
【0018】
Mo (1)
式中、Mo、Oはそれぞれモリブデン、酸素を表し、Aはリン及び/又はヒ素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、c、d及びeは各元素の原子比であり、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0〜3及びd=0.01〜3であり、eは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0019】
MoY’c’Cu (2)
式中、Mo、Cu、V、Oはそれぞれモリブデン、銅、バナジウム、酸素を表し、Aはリン及び/又はヒ素を表す。Y’は鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、好ましくは鉄、亜鉛、ゲルマニウム、アンチモン、ランタン及びセリウムから選ばれる。Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、好ましくはカリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる。a、b、c’、f、g、d及びeは各元素の原子比を表し、b=12のとき、a=0.1〜3、好ましくは0.5〜3、c’=0〜2.98、好ましくは0〜2.5、f=0.01〜2.99、好ましくは0.01〜2、g=0.01〜2.99、好ましくは0.01〜2及びd=0.01〜3、好ましくは0.1〜3であり、eは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。かつ、(c’+f+g)=0.02〜3である。
【0020】
なお、モリブデンを回収する触媒として、通常メタクリル酸の製造反応等に使用されたものを用いるが、都合で反応に使用されなくなったもの、使用途中で反応器より抜き出されたもの等を用いてもよく、特に限定されない。
【0021】
(工程1)
少なくともモリブデン、A元素及びX元素を含むモリブデン含有物は、まず水に分散した後、アルカリを添加する。アルカリの添加量はpH8以上となる量であるが、より好ましくはpH8.5〜13となる量である。ここで用いることができるアルカリは、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等が挙げられ、特に水酸化ナトリウムが好ましい。また、触媒の全部あるいは一部が還元状態にあるときは、アルカリを加える前に空気焼成、塩素処理、過酸化水素処理等で、あるいはアルカリを加えた後に塩素処理、過酸化水処理等で酸化しておくことが好ましい。
【0022】
(工程2)
次いで、モリブデン含有物の溶液を予めpHを6〜12に調整してから、マグネシウム元素を含む化合物とアンモニア水を添加する。その後、該溶液を必要により再びpHを6〜12に調整し、少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物を生成する。なお、マグネシウム元素を含む化合物とアンモニア水を添加する前の溶液に含まれる不溶解分を濾過等によって予め取り除いておくことが好ましい。沈殿を生成する際に加えるマグネシウム元素及びアンモニアの量は、A元素1モルに対して各1モル以上であることが好ましい。
【0023】
沈殿を生成する際に使用するマグネシウム元素を含む化合物は、特に限定はされず、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等を用いることができる。
【0024】
また、この工程2)での溶液のpHは6〜12、好ましくは6.5〜11、より好ましくは7〜10である。pH6未満では沈殿が発生しないか、発生しても不充分であるため、沈殿中へのA元素の捕捉が不充分となると共に、12−モリブドリン酸アンモニウム塩が沈殿となり易くなり、モリブデンの回収率が低くなってしまうため好ましくない。一方、pH12を越えるとマグネシウム元素が水酸化マグネシウムとなってしまい、A元素の捕捉が不充分となる。
【0025】
pHの調整に用いる化合物は特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、好ましくは塩酸とアンモニアである。
【0026】
マグネシウム元素を含む化合物とアンモニア水を添加した後は沈殿生成のために溶液を一定時間保持することが好ましい。このときの保持時間は0.5〜24時間程度が好ましく、溶液の温度は室温から90℃程度とするのが好ましい。保持中は静置しておいてもよいが、攪拌することが好ましい。
【0027】
(工程3)
前記の沈殿生成工程で生成した少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿は、少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)と分離する。沈殿物と溶液を分離する方法は特に限定されず、例えば、重力濾過、加圧濾過、減圧濾過、フィルタープレス等の濾過分離や遠心分離等の一般的な方法が適用できる。
【0028】
(工程4)
マグネシウム及びA元素を含む沈殿を分離して得られた少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)は、そのままでもモリブデン原料として触媒の製造に使用可能であるが、次いでpHを調整し、少なくともモリブデンを含む沈殿(回収モリブデン含有沈殿)を生成させることが好ましい。
【0029】
回収モリブデン含有沈殿を生成する際のpHは3以下が好ましく、特に好ましくは2以下である。pHの調整に用いる化合物は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸類が挙げられ、好ましくは硝酸又は塩酸である。溶液のpH調整後は沈殿生成のために一定時間保持することが好ましい。このときの保持時間は0.5〜24時間程度が好ましく、溶液の温度は室温から90℃程度とするのが好ましい。保持中は静置しておいてもよいが、攪拌することが好ましい。
【0030】
回収モリブデン含有沈殿とその残液を分離する方法は特に限定されず、重力濾過、加圧濾過、減圧濾過、フィルタープレス等の濾過分離、遠心分離等の一般的な方法を用いることができる。また、回収モリブデン含有沈殿から不純物を除去するためには必要に応じて洗浄してもよい。この際の洗浄液は回収モリブデン含有沈殿の用途や溶解性を考慮して選ばれるが、例えば、純水、硝酸アンモニウムや塩化アンモニウム等の薄い水溶液等が挙げられる。なお、洗浄後の回収モリブデン含有沈殿物は、沈殿物中に含まれるナトリウム元素及び塩素が、モリブデン元素12モルに対して0.1モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。
【0031】
回収モリブデン含有液から回収モリブデン含有沈殿を生成する際、回収原料のモリブデン含有物によっては溶液中にバナジウムが含まれる場合がある。触媒の製造原料として用いる場合、製造する触媒の組成によってはバナジウムの一部又は全部を除去しておくことが好ましい。溶液からバナジウムを除去する方法は特に限定されないが、例えば、モリブデン以外にバナジウムを含む回収モリブデン含有溶液のpHを調整した後、弱塩基性陰イオン交換樹脂で吸着除去する方法や塩化アンモニウムや硫酸アンモニウムを用いて沈殿分離する方法などが挙げられる。バナジウムを除去する時期はマグネシウム及びA元素を含む沈殿を分離した後から回収モリブデン含有沈殿を生成する前であれば特に限定されない。
【0032】
本発明では、このようにして得られた回収モリブデン含有液及び/又は回収モリブデン含有沈殿を触媒の製造原料として用いることができる。以下、回収モリブデン含有液と回収モリブデン含有沈殿を併せて「回収モリブデン含有物」ともいう。触媒製造において用いる回収モリブデン含有物の状態は特に限定されず、溶液の状態あるいは湿潤状態、乾燥状態のいずれでもよい。また、触媒の原料として酸化物の状態で使用したい場合には、これらの回収モリブデン含有物、特に回収モリブデン含有沈殿を焼成して酸化物としたものを用いることができる。焼成の条件は空気等の酸素含有ガス雰囲気下で300〜600℃、0.5時間以上とするのが好ましい。
【0033】
(触媒の製造)
本発明において、触媒を製造する方法は特に限定されず、共沈法、蒸発乾固法、酸化物混合法等の種々の方法から原料として用いる回収モリブデン含有物の状態に応じて適宜選択される。
【0034】
また、触媒の製造は、回収モリブデン含有物及び/又はその焼成物のみを用いてもよいし、必要に応じて上記の回収方法以外で回収されたモリブデン原料やモリブデン鉱石から製造されるモリブデン原料等のその他のモリブデン原料(以下、「その他のモリブデン原料」ともいう)と一緒に用いてもよい。上記回収モリブデン含有物以外のモリブデン原料の製造方法は特に限定されず、例えば、モリブデン鉱石を焙焼して得られた粗三酸化モリブデンを、硝酸で洗浄した後にアンモニア水で溶解、精製し、次いで硝酸でpHを調整して得られたモリブデン酸を再びアンモニア水に溶解した後に濃縮、晶析を行って得られたパラモリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウムやモリブデン酸を焼成することによって得られた三酸化モリブデンなどが挙げられる。また、回収モリブデン含有物以外の触媒の調製に用いる原料は特に限定されず各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物、酸素酸等を組み合わせて使用することができる。例えば、モリブデンの原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等、リンの原料としては、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が使用できる。
【0035】
具体的な触媒の調製方法としては、例えば、回収モリブデン含有物、必要に応じて用いる上記のその他のモリブデン原料とともに少なくともA元素及びX元素を含むスラリーを乾燥したものを焼成する方法や、回収モリブデン含有物、必要により用いる上記のその他のモリブデン原料とともに少なくともA元素及びX元素を含む乾式混合物を焼成する方法などが挙げられる。また、触媒の製造で、原料として用いる回収モリブデン含有物中に含まれる触媒構成元素由来の不純物含有量を考慮して、これらの元素を含む原料の添加量を調整した際は、原料中に含まれる対イオンの不足分を追加してもよい。例えば、バナジウム元素の添加量をメタバナジン酸アンモニウムの添加量を減らして調整した場合は、不足するアンモニウムイオンをアンモニア水などの添加によって、カリウムやセシウム元素の添加量を硝酸カリウムや硝酸セシウムの添加量を減らして調整した場合は、不足する硝酸イオンを硝酸などの添加によって調整することができる。
【0036】
本発明では、触媒製造時にアンモニアが混合されていることが好ましい。アンモニアとしては特に限定されず、アンモニアそのものであっても、水溶液や各種酸のアンモニウム塩の形であってもよい。また、モリブデン酸、リン酸等のアンモニウム塩として混合されてもよい。ここで使用するアンモニアの量は、モリブデン原子12モルに対し、1〜17モルであることが好ましく、特に好ましくは2〜13モルである。アンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。これらは、1種類でも、2種類以上であってもよく、特に限定されない。
【0037】
本発明において、アンモニアを混合する方法は特に限定されず、回収モリブデン含有物を水に懸濁させた後にアンモニア水を加える方法や、少なくとも回収モリブデン含有物とA元素、Y元素などを含む液を還流下で加熱攪拌した後に所定の温度まで冷却し、アンモニア水や硝酸アンモニウムを加える方法などが挙げられる。また、混合されるアンモニアは、回収モリブデン含有物中に含まれるものであってもよい。通常の触媒製造に用いる各種原料としてアンモニア成分を含むものを使用することによってアンモニアの添加とすることもできる。
【0038】
また、本発明の触媒製造に際し、溶液やスラリーを経由する時には、溶液、スラリーの液温は本発明の回収モリブデン含有物を使用しない通常の触媒製造の場合と同じであっても良いが、工程の一部又は全部で該通常の触媒製造の場合よりも低くすることができる。なお、その際の液温は、スラリー中の沈殿粒子の粒径分布、得られる粉の成形性、触媒の細孔分布、触媒の反応成績などより適宜決定することが好ましく、該通常の触媒製造の場合よりも0〜40℃低くすることがより好ましく、0〜30℃低くすることが特に好ましい。
【0039】
さらに、スラリーの乾燥方法は特に限定されず、箱型乾燥機、噴霧乾燥機、ドラム乾燥機等を用いる乾燥方法が使用できる。その際に得られる乾燥物(触媒前駆体)は成形を考慮して粉体状であることが好ましい。乾燥物はそのまま成形してもよいし、焼成した後に成形してもよい。成形方法としても特に限定されず、例えば、打錠成形、押出成形、造粒、担持等が挙げられる。担持触媒の担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリコンカーバイド等の不活性担体が挙げられる。成形に際しては、成形物の比表面積、細孔容積及び細孔分布を制御したり、機械的強度を高めたりする目的で、例えば、硫酸バリウム、硝酸アンモニウム等の無機塩類、グラファイト等の滑剤、セルロース類、でんぷん、ポリビニルアルコール、ステアリン酸等の有機物、シリカゾル、アルミナゾル等の水酸化物ゾル、ウィスカー、ガラス繊維、炭素繊維等の無機質繊維等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0040】
成形した成形物を焼成する場合、焼成は反応器に充填する前に行っても、反応器の中で行ってもよい。焼成条件は、用いる触媒の原料、触媒組成、調製条件等によって異なるので一概には言えないが、空気等の酸素含有ガス及び/又は不活性ガス流通下で300〜500℃が好ましく、より好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1〜40時間である。
【0041】
(メタクリル酸の製造)
以下に、メタクロレインの気相接触酸化によりメタクリル酸を製造する場合の反応条件について説明する。
【0042】
本発明の方法で製造された触媒を用いて反応を行う際の反応条件は特に限定されず、公知の反応条件を適用することができる。
【0043】
気相接触酸化反応では、少なくともメタクロレインと分子状酸素を含む原料ガスを触媒と接触させる。通常、反応には触媒を充填した管式反応器が使用される。工業的には多数の反応管を有する多管式反応器が使用される。
【0044】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましく、特に3〜10容量%が好ましい。原料のメタクロレインには、水、低級飽和アルデヒド等の実質的に反応に影響を与えない不純物が少量含まれている場合があるが、このようなメタクロレイン由来の不純物が含まれていてもよい。
【0045】
原料ガスには分子状酸素が含まれている必要があるが、原料ガス中の分子状酸素の量はメタクロレインの0.4〜4モル倍が好ましく、特に0.5〜3モル倍が好ましい。原料ガスの分子状酸素源には空気を用いるのが工業的に有利であるが、必要に応じて純酸素で酸素を富化した空気も使用できる。また原料ガスは、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス、水蒸気等で希釈されていることが好ましい。
【0046】
気相接触酸化の反応圧力は大気圧〜数気圧である。反応温度は、200〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃である。原料ガスと触媒の接触時間は1.5〜15秒が好ましく、より好ましくは2〜7秒である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明する。実施例において「部」は質量部である。また、含有元素(又は分子)の定量分析はICP発光分析法、原子吸光分析法により行った。メタクリル酸の製造における原料ガスと生成物の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0048】
各元素の回収率、原料であるメタクロレインの転化率、生成したメタクリル酸の選択率及び収率は以下のように定義される。
【0049】
a)各元素の回収率
回収率(質量%)=(W/W)×100
ここで、Wは取得した組成物中に含まれる元素の質量であり、Wは回収に用いた組成物中に含まれる元素の質量である。
【0050】
b)原料であるメタクロレインの転化率、生成したメタクリル酸の選択率及び単流収率
メタクロレイン転化率(モル%)=(B/A)×100
メタクリル酸選択率(モル%) =(C/B)×100
メタクリル酸単流収率(モル%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数及びCは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0051】
参考例1
(メタクリル酸製造触媒Aの製造)
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム4.4部及び硝酸セシウム9.2部を純水300部に70℃で溶解した。これに85質量%リン酸8.7部を純水10部に溶解した溶液を加え、ついで三酸化アンチモン5.5部を加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅1.1部を純水10部に溶解した溶液を加えた。更にこの混合液を95℃で15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成形し、さらに破砕し、目開き1.70mmの篩を通過し目開き0.85mmの篩に乗る粒子を分取し、空気流通下に380℃で5時間熱処理して触媒A(酸素原子を除く組成:P1.6Mo12Sb0.8Cu0.10.8Cs)を得た。
【0052】
(メタクリル酸製造テストA)
この触媒Aを反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%及び窒素55容量%の混合ガスを反応温度290℃、接触時間3.6秒で通じたところ、メタクロレイン転化率82.9モル%、メタクリル酸選択率83.7モル%及びメタクリル酸単流収率69.3モル%であった。
【0053】
[実施例1]
(モリブデンの回収1)
参考例1のメタクリル酸製造触媒Aと同様にして製造した触媒(酸素原子を除く組成:P1.6Mo12Cs)を用いてメタクリル酸製造テストAを2000時間行なった後触媒を回収した。この回収した触媒100部にはモリブデン56.3部、リン2.4部及びセシウム6.5部が含まれていた。この使用後の触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加えて60℃で3時間攪拌した。pHは12.3であった。この溶液を36質量%塩酸でpH7に中和した後に、塩化マグネシウム6水和物20.5部を純水50部に溶解させた溶液と29質量%アンモニア水4.5部を加え、さらに29質量%アンモニア水を加えてpHを9に調整した後、攪拌しながら30℃で3時間保持し、生成した沈殿物と溶液(回収モリブデン含有液)を濾別した。このようにして得られた回収モリブデン含有液に36質量%塩酸を加えてpHを1.0に調整した後、攪拌しながら30℃で3時間保持した。このようにして得られた沈殿を濾過し、2質量%硝酸アンモニウム溶液で洗浄して「回収モリブデン含有物1」を得た。回収モリブデン含有物1は、モリブデン55.5部及びセシウム2.9部を含んでいた。また、このときのモリブデンの回収率は98.6質量%であった。なお、回収モリブデン含有物1中のリンは不検出であった。
【0054】
(触媒1の製造)
上記で得られた回収モリブデン含有物1の全量(モリブデンとして55.5部)を純水280部に分散した後、29質量%アンモニア水29.1部を加えて60℃で溶解した。これにメタバナジン酸アンモニウム4.5部及び硝酸セシウム5.2部を溶解した。次いで85質量%リン酸8.9部を純水10部に溶解した溶液を加えた後に三酸化アンチモン5.6部を加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅1.2部を純水10部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し11.1モルであった。更にこの混合液を95℃で15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1のメタクリル酸製造触媒Aの製造におけると同様に乾燥、成形、破砕、篩分級及び焼成を実施して触媒1を得た。この触媒1の酸素原子を除く組成は、参考例1において製造した触媒Aと同様のP1.6Mo12Sb0.8Cu0.10.8Csであった。
【0055】
(メタクリル酸製造テスト1)
この触媒1を用いてメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率83.0モル%、メタクリル酸選択率83.5モル%及びメタクリル酸単流収率69.3モル%であり、触媒1は触媒Aと同等の性能であった。
【0056】
[実施例2]
(モリブデンの回収2)
実施例1のメタクリル酸製造テスト1において2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.1部、リン2.4部、アンチモン4.5部、銅0.3部、バナジウム2.0部及びセシウム6.4部が含まれていた。なお、この回収触媒の酸素を除く元素の組成はP1.6Mo12Sb0.8Cu0.10.8Csであった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.1であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、さらに同様の手順で回収モリブデン含有沈殿(回収モリブデン含有物2)を得た。回収モリブデン含有物2は、モリブデン53.5部、バナジウム1.8部及びセシウム2.6部を含んでいた。また、このときのモリブデンの回収率は97.1質量%であった。なお、回収モリブデン含有物2中のリン、アンチモンおよび銅は不検出であった。
【0057】
(触媒2の製造)
上記で得られた回収モリブデン含有物2の全量(モリブデンとして53.5部)を純水270部に分散した後、29質量%アンモニア水28.1部を加えて60℃で溶解した。これにメタバナジン酸アンモニウム0.2部及び硝酸セシウム5.2部を溶解した。次いで85質量%リン酸8.6部を純水10部に溶解した溶液を加えた後に三酸化アンチモン5.4部を加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅1.1部を純水10部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し11.1モルであった。更にこの混合液を95℃で15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1のメタクリル酸製造触媒Aの製造におけると同様に乾燥、成形、破砕、篩分級及び焼成を実施して触媒2を得た。この触媒2の酸素原子を除く組成は、P1.6Mo12Sb0.8Cu0.10.8Csであった。
【0058】
(メタクリル酸製造テスト2)
この触媒2を用いてメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率83.1モル%、メタクリル酸選択率83.5モル%及びメタクリル酸単流収率69.4モル%であり、触媒2は触媒Aと同等の性能であった。
【0059】
参考例2
(メタクリル酸製造触媒Bの製造)
パラモリブデン酸アンモニウム100部を純水200部に70℃で溶解した。そこへメタバナジン酸アンモニウム2.8部及び85質量%リン酸8.2部を純水30部に溶解した溶液、硝酸銅1.1部を純水30部に溶解した溶液及び硝酸鉄3.8部を純水10部に溶解した溶液を順次加え、これを攪拌しながら90℃まで加熱し、液温を90℃に保ちつつ5時間攪拌した後に、硝酸セシウム9.2部を純水100部に溶解した溶液を加え、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒B(酸素原子を除く組成:P1.5Mo12Fe0.2Cu0.10.5Cs)を得た。
【0060】
(メタクリル酸製造テストB)
この触媒Bを用いて参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率82.4モル%、メタクリル酸選択率81.3モル%及びメタクリル酸単流収率67.0モル%であった。
【0061】
[実施例3]
(モリブデンの回収3)
参考例2のメタクリル酸製造テストBにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン54.6部、リン2.2部、バナジウム1.2部、銅0.3部、鉄0.5部及びセシウム6.3部が含まれていた。なお、この回収触媒の酸素を除く元素の組成はP1.5Mo12Fe0.2Cu0.10.5Csであった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.3であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、さらに同様の手順で回収モリブデン含有沈殿(回収モリブデン含有物3)を得た。回収モリブデン含有物3は、モリブデン53.1部、バナジウム1.1部及びセシウム2.6部を含んでいた。また、このときのモリブデンの回収率は97.3質量%であった。なお、回収モリブデン含有物3中のリン、鉄および銅は不検出であった。
【0062】
(触媒3の製造)
上記で得られた回収モリブデン含有物3の全量(モリブデンとして53.1部)を純水180部に分散した後、29質量%アンモニア水27.8部を加えて60℃で溶解した。そこへメタバナジン酸アンモニウム0.2部、85質量%リン酸8.0部を純水30部に溶解した溶液、硝酸銅1.1部を純水30部に溶解した溶液及び硝酸鉄3.7部を純水10部に溶解した溶液を順次加え、これを攪拌しながら90℃まで加熱し、液温を90℃に保ちつつ5時間攪拌し後に、硝酸セシウム5.1部を純水57部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し10.8モルであった。更にこの混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例2の触媒Bの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒3を得た。この触媒3の酸素原子を除く組成は、P1.5Mo12Fe0.2Cu0.10.5Csであった。
【0063】
(メタクリル酸製造テスト3)
この触媒3を用いて参考例2のメタクリル酸製造テストBと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率82.6モル%、メタクリル酸選択率81.2モル%及びメタクリル酸単流収率67.1モル%であり、触媒3は触媒Bと同等の性能であった。
【0064】
参考例3
(メタクリル酸製造触媒Cの製造)
純水400部に三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸7.3部、五酸化バナジウム4.7部、酸化銅0.9部及び酸化鉄0.2部を加え、還流下で5時間攪拌した。得られた混合液を50℃まで冷却した後、29質量%アンモニア水37.4部を滴下し、15分間攪拌した。次いで、硝酸セシウム9.0部を純水30部に溶解した溶液を滴下し、15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒C(酸素原子を除く組成:P1.1Mo12Fe0.05Cu0.20.9Cs0.8)を得た。
【0065】
(メタクリル酸製造テストC)
この触媒Cを用いて参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率87.4モル%、メタクリル酸選択率85.8モル%及びメタクリル酸単流収率75.0モル%であった。
【0066】
[実施例4]
(モリブデンの回収4)
参考例3のメタクリル酸製造テストCにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.2部、リン1.6部、バナジウム2.2部、銅0.6部、鉄0.1部及びセシウム5.1部が含まれていた。なお、この回収使用済み触媒の酸素を除く元素の組成はP1.1Mo12Fe0.05Cu0.20.9Cs0.8であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.4であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、ついで以下実施例1におけると同様の手順で回収モリブデン含有沈殿を単離したのち、110℃で16時間乾燥した。このようにして得られた乾燥物を550℃で3時間焼成し、「回収モリブデン含有物4」を得た。回収モリブデン含有物4には、モリブデン53.9部、バナジウム2.0部及びセシウム2.5部が含まれていた。また、このときのモリブデンの回収率は97.7質量%であった。なお、回収モリブデン含有物4中のリン、鉄および銅は不検出であった。
【0067】
(触媒4の製造)
純水320部に上記で得られた回収モリブデン含有物4の全量(モリブデンとして53.9部)、85質量%リン酸5.9部、五酸化バナジウム0.3部、酸化銅0.7部、酸化鉄0.2部を加え、還流下で5時間攪拌した。得られた混合液を50℃まで冷却した後、29質量%アンモニア水30.2部を滴下し、15分間攪拌した。次いで、硝酸セシウム3.7部を純水13部に溶解した溶液を滴下した。アンモニア量はモリブデン12モルに対し11.0モルであった。更にこの混合液を15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例3の触媒Cの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒4を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、P1.1Mo12Fe0.05Cu0.20.9Cs0.8であった。
【0068】
(メタクリル酸製造テスト4)
この触媒4を用いて参考例3のメタクリル酸製造テストCと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率87.6モル%、メタクリル酸選択率85.5モル%及びメタクリル酸単流収率74.9モル%であり、触媒4は触媒Cと同等の性能であった。
【0069】
参考例4
(メタクリル酸製造触媒Dの製造)
三酸化モリブデン100部、五酸化バナジウム2.6部、85質量%リン酸6.7部を純水800部に加え、還流下で3時間加熱攪拌した。これに酸化銅1.4部を加え、さらに還流下で2時間加熱攪拌した。還流後の混合液を50℃に冷却し、硝酸カリウム7.1部を純水40部に溶解した溶液を加え、さらに硝酸アンモニウム9.8部を純水40部に溶解した溶液を加え、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒D(酸素原子を除く組成:PMo12Cu0.30.51.2)を得た。
【0070】
(メタクリル酸製造テストD)
この触媒Dを用い、反応温度を285℃とした以外は参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率85.0モル%、メタクリル酸選択率84.2モル%及びメタクリル酸単流収率71.6モル%であった。
【0071】
[実施例5]
(モリブデンの回収5)
参考例4のメタクリル酸製造テストDにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン57.6部、リン1.6部、バナジウム1.3部、銅1.0部及びカリウム2.4部が含まれていた。なお、この回収使用済み触媒の酸素を除く元素の組成はPMo12Cu0.30.51.2であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.2であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、ついで以下同様の手順で回収モリブデン含有沈殿を単離したのち、110℃で16時間乾燥した。このようにして得られた乾燥物を550℃で3時間焼成し、「回収モリブデン含有物5」を得た。回収モリブデン含有物5には、モリブデン55.9部、バナジウム1.1部及びカリウム0.6部が含まれていた。また、このときのモリブデンの回収率は97.1質量%であった。なお、回収モリブデン含有物5中のリンおよび銅は不検出であった。
【0072】
(触媒5の製造)
上記の回収モリブデン含有物5の全量(モリブデンとして55.9部)、五酸化バナジウム0.2部、85質量%リン酸5.6部を純水660部に加え、還流下で3時間加熱攪拌した。これに酸化銅1.2部を加え、さらに還流下で2時間加熱攪拌した。還流後の混合液を50℃に冷却し、硝酸カリウム4.4部を純水26部に溶解した溶液を加え、さらに硝酸アンモニウム8.1部を純水35部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し2.1モルであった。更にこの混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例4の触媒Dの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒5を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、PMo12Cu0.30.51.2であった。
【0073】
(メタクリル酸製造テスト5)
この触媒5を用いて参考例4のメタクリル酸製造テストDと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率85.3モル%、メタクリル酸選択率84.1モル%及びメタクリル酸単流収率71.7モル%であり、触媒5は触媒Dと同等の性能であった。
【0074】
参考例5
(メタクリル酸製造触媒Eの製造)
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム4.4部及び硝酸カリウム4.8部を純水400部に70℃で溶解した。これを撹拌しながら、85質量%リン酸8.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、さらに硝酸銅1.1部を純水10部に溶解した溶液を加えた。次に、硝酸ビスマス6.9部に60質量%硝酸7.0部及び水40部を加えて得られた硝酸ビスマスの均一溶液を前記混合液に加えた後、95℃に昇温した。これに、60質量%ヒ酸2.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、続いて三酸化アンチモン2.1部及び二酸化セリウム1.6部を加えた。得られた水性スラリーを加熱撹拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒E(酸素原子を除く組成:P1.5As0.2Mo12Sb0.3Bi0.3Ce0.2Cu0.10.8)を得た。
【0075】
(メタクリル酸製造テストE)
この触媒Eを用いて参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率90.0モル%、メタクリル酸選択率88.2モル%及びメタクリル酸単流収率79.4モル%であった。
【0076】
[実施例6]
(モリブデンの回収6)
参考例5のメタクリル酸製造テストEにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.7部、リン2.3部、ヒ素0.7部、アンチモン1.8部、ビスマス3.0部、セリウム1.4部、銅0.3部、バナジウム2.0部及びカリウム1.9部が含まれていた。なお、この回収使用済み触媒の酸素を除く元素の組成はP1.5As0.2Mo12Sb0.3Bi0.3Ce0.2Cu0.10.8であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌保持した。pHは12.2であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得た。このようにして得られた回収モリブデン含有液に36質量%塩酸を加えてpHを6.0に調整した後、弱塩基性イオン交換樹脂(オルガノ社製、XE−583)カラムに通液した。イオン交換樹脂処理後の溶液を以下実施例1のモリブデンの回収1におけると同様の手順で回収モリブデン含有沈殿(回収モリブデン含有物6)を得た。回収モリブデン含有物6には、モリブデン53.6部及びカリウム0.5部が含まれていた。また、このときのモリブデンの回収率は96.2質量%であった。なお、回収モリブデン含有物6中のリン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、セリウム、銅およびバナジウムは不検出であった。
【0077】
(触媒6の製造)
上記で得られた回収モリブデン含有物6の全量(モリブデンとして53.6部)、五酸化バナジウム2.1部、85質量%リン酸5.5部を純水650部に加え、還流下で3時間加熱攪拌した。これに酸化銅1.1部を加え、さらに還流下で2時間加熱攪拌した。還流後の混合液を50℃に冷却し、硝酸カリウム4.6部を純水26部に溶解した溶液を加え、さらに硝酸アンモニウム8.0部を純水35部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し2.1モルであった。更にこの混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例4の触媒Dの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒6を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、PMo12Cu0.30.51.2であった。
【0078】
(メタクリル酸製造テスト6)
この触媒6を用いて参考例4のメタクリル酸製造テストDと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率85.2モル%、メタクリル酸選択率84.0モル%及びメタクリル酸単流収率71.6モル%であり、触媒6は触媒Dと同等の性能であった。
【0079】
参考例6
(メタクリル酸製造触媒Fの製造)
三酸化モリブデン100部、五酸化バナジウム3.2部及び85質量%リン酸8.7部を純水800部に加え、還流下で3時間加熱攪拌した。これに硝酸銅1.4部を加え、さらに還流下で2時間加熱攪拌した。還流後の混合液を60℃に冷却し、重炭酸セシウム12.3部を純水30部に溶解した溶液を加え15分間攪拌した。次いで、硝酸アンモニウム10部を純水30部に溶解した溶液を加え、さらに15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級した後に窒素流通下で400℃にて5時間焼成を実施して触媒F(酸素原子を除く組成:P1.3Mo12Cu0.10.6Cs1.1)を得た。
【0080】
(メタクリル酸製造テストF)
この触媒Fを用い、参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率83.4モル%、メタクリル酸選択率84.9モル%及びメタクリル酸単流収率70.8モル%であった。
【0081】
[実施例7]
(モリブデンの回収7)
参考例6のメタクリル酸製造テストFにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.9部、リン2.0部、バナジウム1.5部、銅0.3部及びセシウム7.1部が含まれていた。なお、この回収使用済み触媒の酸素を除く元素の組成はP1.3Mo12Cu0.10.6Cs1.1であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素12質量%)25.7部を加え、60℃で3時間攪拌した後に、45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、更に60℃で3時間攪拌し残さを濾別した。pHは12.4であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、ついで以下同様の手順で回収モリブデン含有沈殿を単離したのち、110℃で16時間乾燥した。このようにして得られた乾燥物を550℃で3時間焼成し、「回収モリブデン含有物7」を得た。回収モリブデン含有物7には、モリブデン54.1部、バナジウム1.2部及びセシウム2.9部が含まれていた。また、このときのモリブデンの回収率は96.8質量%であった。なお、回収モリブデン含有物7中のリンおよび銅は不検出であった。
【0082】
(触媒7の製造)
上記の回収モリブデン含有物7の全量(モリブデンとして54.1部)、五酸化バナジウム0.9部、85質量%リン酸7.0部を純水650部に加え、還流下で3時間加熱攪拌した。これに硝酸銅0.9部を加え、さらに還流下で2時間加熱攪拌した。還流後の混合液を60℃に冷却し、重炭酸セシウム5.7部を純水14部に溶解した溶液を加え15分間攪拌した。次いで、硝酸アンモニウム8.1部を純水24.4部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し2.2モルであった。更にこの混合液を15分間攪拌した後に加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例6の触媒Fの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒7を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、P1.3Mo12Cu0.10.6Cs1.1であった。
【0083】
(メタクリル酸製造テスト7)
この触媒7を用いて参考例6のメタクリル酸製造テストFと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率83.6モル%、メタクリル酸選択率84.5モル%及びメタクリル酸単流収率70.6モル%であり、触媒7は触媒Fと同等の性能であった。
【0084】
参考例7
(メタクリル酸製造触媒Gの製造)
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム1.7部及び硝酸カリウム4.8部を純水300部に70℃で溶解した。これに85質量%リン酸8.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、ついで三酸化アンチモン4.1部を加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅1.1部を純水30部に溶解した溶液を加えた。続いて20質量%硝酸4.5部を加えた。混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒G(酸素原子を除く組成:P1.5Mo12Sb0.6Cu0.10.3)を得た。
【0085】
(メタクリル酸製造テストG)
この触媒Gを用い、反応温度を280℃とした以外は参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率80.2モル%、メタクリル酸選択率82.3モル%及びメタクリル酸単流収率66.0モル%であった。
【0086】
[実施例8]
(モリブデンの回収8)
参考例7のメタクリル酸製造テストGにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.9部、リン2.3部、バナジウム0.7部、銅0.3部、アンチモン3.5部及びカリウム1.9部が含まれていた。なお、この回収触媒の酸素を除く元素の組成はP1.5Mo12Sb0.6Cu0.10.3であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.1であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、さらに同様の手順で回収モリブデン含有沈殿(回収モリブデン含有物8)を得た。回収モリブデン含有物8は、モリブデン54.5部、バナジウム0.6部及びカリウム0.5部を含んでいた。また、このときのモリブデンの回収率は97.5質量%であった。なお、回収モリブデン含有物8中のリン、アンチモンおよび銅は不検出であった。
【0087】
(触媒8の製造)
上記で得られた回収モリブデン含有物8の全量(モリブデンとして54.5部)を純水270部に分散した後、29質量%アンモニア水28.6部を加えて60℃で溶解した。そこへメタバナジン酸アンモニウム0.3部、及び硝酸カリウム3.6部を溶解した。これに85質量%リン酸8.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、ついで三酸化アンチモン4.1部を加え、攪拌しながら95℃に昇温した後、硝酸銅1.1部を純水30部に溶解した溶液を加えた。続いて20質量%硝酸4.5部を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し10.6モルであった。更にこの混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒7を得た。この触媒8の酸素原子を除く組成は、P1.5Mo12Sb0.6Cu0.10.3であった。
【0088】
(メタクリル酸製造テスト8)
この触媒8を用いて参考例7のメタクリル酸製造テストGと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率80.1モル%、メタクリル酸選択率82.5モル%及びメタクリル酸単流収率66.1モル%であり、触媒8は触媒Gと同等の性能であった。
【0089】
参考例8
(メタクリル酸製造触媒Hの製造)
三酸化モリブデン100部、五酸化バナジウム2.6部、85質量%リン酸6.7部及び60質量%ヒ酸2.7部を純水200部に加え、還流下で5時間加熱攪拌した。これを50℃まで冷却した後、硝酸セシウム13.5部を純水30部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら混合液の温度を70℃に昇温した。次いで、29質量%アンモニア水34.0部を加え、得られた混合液を70℃にて90分間攪拌した後、硝酸銅2.8部を純水10部に溶解した溶液、硝酸鉄1.2部を純水10部に溶解した溶液を加え、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例1の触媒Aの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒H(酸素原子を除く組成:PAs0.2Mo12Fe0.05Cu0.20.5Cs1.2)を得た。
【0090】
(メタクリル酸製造テストH)
この触媒Hを用い、参考例1のメタクリル酸製造テストAと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率82.5モル%、メタクリル酸選択率87.6モル%及びメタクリル酸単流収率72.3モル%であった。
【0091】
[実施例9]
(モリブデンの回収9)
参考例8のメタクリル酸製造テストHにおいて2000時間反応後の使用済み触媒100部にはモリブデン55.8部、リン1.5部、バナジウム1.2部、銅0.6部、鉄0.1部、ヒ素0.7部及びセシウム7.7部が含まれていた。なお、この回収使用済み触媒の酸素を除く元素の組成はPAs0.2Mo12Fe0.05Cu0.20.5Cs1.2であった。この使用後触媒100部を純水400部に分散させた。これに45質量%水酸化ナトリウム水溶液130部を加え、60℃で3時間攪拌後に残さを濾別した。pHは12.2であった。この溶液を実施例1のモリブデンの回収1と同様の手順で回収モリブデン含有液を得、ついで以下同様の手順で回収モリブデン含有沈殿を単離したのち、110℃で16時間乾燥した。このようにして得られた乾燥物を550℃で3時間焼成し、「回収モリブデン含有物9」を得た。回収モリブデン含有物9には、モリブデン54.3部、バナジウム1.0部及びセシウム2.9部が含まれていた。また、このときのモリブデンの回収率は97.4質量%であった。なお、回収モリブデン含有物9中のリン、ヒ素、鉄および銅は不検出であった。
【0092】
(触媒9の製造)
上記の回収モリブデン含有物9の全量(モリブデンとして54.3部)、五酸化バナジウム0.4部、85質量%リン酸5.4部及び60質量%ヒ酸2.2部を純水160部に加え、還流下で5時間加熱攪拌した。これを50℃まで冷却した後、硝酸セシウム6.7部を純水15部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら混合液の温度を70℃に昇温した。次いで、29質量%アンモニア水27.4部を加え、得られた混合液を70℃にて90分間攪拌した後、硝酸銅2.3部を純水8部に溶解した溶液及び硝酸鉄1.0部を純水8部に溶解した溶液を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し9.9モルであった。更にこの混合液を加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例8の触媒Hの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒9を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、PAs0.2Mo12Fe0.05Cu0.20.5Cs1.2であった。
【0093】
(メタクリル酸の製造テスト9)
この触媒9を用いて参考例8のメタクリル酸製造テストHと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率82.7モル%、メタクリル酸選択率87.4モル%及びメタクリル酸単流収率72.3モル%であり、触媒9は触媒Hと同等の性能であった。
【0094】
[実施例10]
(触媒10の製造)
実施例9のモリブデンの回収9と同様にして得られた回収モリブデン含有物の全量(モリブデンとして54.3部)、パラモリブデン酸アンモニウムを550℃で3時間焼成して得られた三酸化モリブデン50部、五酸化バナジウム1.7部、85質量%リン酸8.8部及び60質量%ヒ酸3.6部を純水260部に加え、還流下で5時間加熱攪拌した。これを50℃まで冷却した後、硝酸セシウム13.5部を純水30部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら混合液の温度を70℃に昇温した。次いで、29質量%アンモニア水44.4部を加えた。アンモニア量はモリブデン12モルに対し9.9モルであった。得られた混合液を70℃にて90分間攪拌した後、硝酸銅3.7部を純水13部に溶解した溶液及び硝酸鉄1.6部を純水13部に溶解した溶液を加え、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。このようにして得られた固形物を参考例8の触媒Hの製造と同様に乾燥、成形、粉砕、篩分級及び焼成を実施して触媒10を得た。この触媒の酸素原子を除く組成は、PAs0.2Mo12Fe0.05Cu0.20.5Cs1.2であった。
【0095】
(メタクリル酸の製造テスト10)
この触媒10を用いて参考例8のメタクリル酸製造テストHと同じ反応条件で反応を行った結果、メタクロレイン転化率82.9モル%、メタクリル酸選択率87.3モル%及びメタクリル酸単流収率72.4モル%であり、触媒10は触媒Hと同等の性能であった。
【0096】
比較例1
(モリブデンの回収10)
実施例1のモリブデンの回収1において、45質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後の36質量%塩酸による調整後のpHを4に、塩化マグネシウム6水和物溶液と29質量%アンモニア水を加えた後の29質量%アンモニア水による調整後のpHを5に変更した以外は実施例1と同様にして「回収モリブデン含有物10」を得た。回収モリブデン含有物10はモリブデン21.4部、リン0.6部を含んでいた。このときのモリブデンの回収率は38.2質量%であり、回収率が大幅に低下した。この方法ではリンの除去が不充分であった。なお、回収モリブデン含有物10中のセシウムは不検出であった。
【0097】
比較例2
(モリブデンの回収11)
実施例1のモリブデンの回収1において、45質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後に36質量%塩酸を加えず、塩化マグネシウム6水和物溶液と29質量%アンモニア水を加えた後の29質量%アンモニア水を加えなかった以外は実施例1と同様にして「回収モリブデン含有物11」を得た。回収モリブデン含有物11はモリブデン54.3部、リン1.5部及びセシウム5.9部を含んでいた。このときのモリブデンの回収率は96.4質量%であったが、この方法ではリンの除去が不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物よりモリブデンを高率で回収することができるので、使用後のモリブデン含有物、特に使用後触媒を有効に利用できる。また、本発明を用いることにより少なくともモリブデン、A元素及びX元素を含むモリブデン含有物より回収した回収モリブデン含有物を原料として触媒を製造することができ、少なくともモリブデン、A元素及びX元素を含むモリブデン含有物、特にメタクリル酸製造触媒を使用後も有効に活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物を水に分散し、アルカリを加えて、pHを8以上とする工程、
2)得られた混合液のpHを6〜12に調整したのちにマグネシウムを含む化合物とアンモニア水を加え、少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物を生成する工程、及び、
3)工程2)で生成した少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物と、少なくともモリブデンを含む溶液(回収モリブデン含有液)を分離する工程
を含むことを特徴とするモリブデンの回収方法。
【請求項2】
さらに、工程4)回収モリブデン含有液をpH3以下に調整して少なくともモリブデンを含む沈殿を生成し、生成した沈殿(回収モリブデン含有沈殿)を溶液と分離する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のモリブデンの回収方法。
【請求項3】
少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物が下記式(1)で表される組成を有するメタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸製造用触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモリブデンの回収方法。
Mo (1)
式中、Mo、Oはそれぞれモリブデン、酸素を表し、Aはリン及び/又はヒ素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、c、d及びeは各元素の原子比であり、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0〜3及びd=0.01〜3であり、eは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のモリブデンの回収方法で回収された回収モリブデン含有液及び/又は回収モリブデン含有沈殿(これらを併せて、「回収モリブデン含有物」という)を用いて触媒を製造することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
回収モリブデン含有物と共に、前記回収モリブデン含有物以外のモリブデン原料を用いて触媒を製造することを特徴とする請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
触媒製造時に、モリブデン12原子に対し、アンモニアが1〜17モル含まれていることを特徴とする請求項4又は5に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
触媒製造時の全工程あるいは一部の工程において、溶液又はスラリーの液温が、請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法で回収された回収モリブデン含有物以外のモリブデン原料を使用して触媒を製造する場合よりも0〜40℃低いことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
触媒が下記式(1)で表される組成を有するメタクロレインの気相接触酸化によるメタクリル酸製造用触媒であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の触媒の製造方法。
Mo (1)
式中、Mo、Oはそれぞれモリブデン、酸素を表し、Aはリン及び/又はヒ素を表し、Yは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Xはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、c、d及びeは各元素の原子比であり、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0〜3及びd=0.01〜3であり、eは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比である。

【国際公開番号】WO2005/079983
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519351(P2006−519351)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002593
【国際出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】