説明

モータ制御装置及び制御方法

【課題】 いかなる条件でサーボシステムが不安定になった場合にも発振して暴走するような危険な状態を回避することができるモータ制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】 駆動系の発振状態を検出する発振検出部103と、トルク指令urefを予め設定したリミット値TLIMT以下に制限するリミット演算部5と、発振検出部103が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、トルク指令urefをリミット演算部5を介して出力する切り替えスイッチ1、及び積分制御器3への入力をオフとする切り替えスイッチ2とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置を駆動制御するサーボシステムの発振による暴走を回避できるモータ制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御装置は、発振検出部が発振と判断した場合にゲインを小さくする処理を行っていた。(例えば、特許文献1参照)。
また、位置決め時のオーバシュートを小さくする目的で、トルクリミットの値を小さい値に切り替える処理をしているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
図7は従来例1の特許文献1の処理を示すフローチャートである。同図において、61から64はシステムが発振しているかどうかを検出する発振検出部の処理である。64の判断で発振と判断された場合65に進み制御ゲインを下げるという処理を行うようになっている。
【0004】
図8は従来例2の特許文献2の構成を示すブロック図である。この実施形態では、加減速処理部が2つの直線形加減速処理1,2で構成されるベル形加減速処理を適用している。CNC(数値制御装置)等の制御装置から分配された移動指令P0を第1段目の加減速処理1に入力し該加減速処理1の出力P1を第2段目の加減速処理2に入力し、該第2段目の加減速処理2の出力P2を求める。この2段目の加減速処理の出力P2を位置ループ処理の移動指令としてエラーカウンタに加算入力し、機械可動部に取付けられたスケール等の検出器からの位置のフィードバック値Pfをエラーカウンタに減算入力して位置偏差を求める。該エラーカウンタに記憶する位置偏差に位置ループゲインKpを乗じて速度指令Vcを求め、該速度指令Vcからスケール等の検出器からの速度フードバック値Vfを減じて速度偏差を求め、該速度偏差を積分器75で積算して積分ゲインk1を乗じた値と上記速度偏差に比例ゲインを乗じた値を加算してトルク指令Tcを求めるPI(比例積分)制御の速度ループ処理を行う。速度ループ処理によって求められたトルク指令Tcをトルクリミット回路77を通して所定値以下のトルク指令Tc´として、電流ループに渡し電流ループ処理(図示せず)を行いサーボモータを駆動し、機械可動部を駆動することになる。
【0005】
この発明の特徴は、エラーカウンタに入力される移動指令が「0」になる僅か前に積分器75の値を減少させる点である。この実施形態においては、加減速処理部の第1段目の加減速処理1から出力される移動指令P1が「0」となると積分器75で行う積分処理を不完全積分処理に変え、その時使用する係数を小さな値(0〜1未満)とし、さらに加減速処理2の出力P2が「0」となると積分器75の不完全積分の上記係数を少し大きい値に変え、設定時間が経過すると、通常の積分処理に変えるようにしていること。さらには、加減速処理1の出力P1が「0」になるとトルクリミット回路のトルクリミット値も小さな値にし、加減速処理2の出力P2が「0」となると該トルクリミット値を通常の大きい値に変えるようにしている。
【0006】
このように、位置決め時に移動指令がまだ残っている段階で積分器75の積分値を小さな値に設定することによって、トルク指令Tcの値を減少させ、さらには、トルクリミット回路によって小さな値に制限するからサーボモータの出力トルクは減少し、その結果サーボモータと機械可動部間の機械系のねじれは解消し、エラーカウンタに記憶する位置偏差値がほとんど「0」となり位置決めが完了した段階では、上記機械系のねじれはほとんどなく、機械可動部はオーバシュートすることなく位置決めされることになる。
【0007】
このように、特許文献1のモータ制御装置は、発振検出時に制御ゲインの値を小さくすることで発振を回避するのである。
また、特許文献2のモータ制御装置は、位置決め完了時に積分値を小さな値に設定し、かつトルクリミットの値を小さな値に切り替え、位置決め完了時に少しずつしかトルクが出ないようにすることで、オーバシュートを小さくするのである。
【特許文献1】国際公開第04/008624号パンフレット(第7頁、図8)
【特許文献2】特許3628119号公報(第3−6頁、図1,3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来例1の特許文献1のモータ制御装置は、発振と判断した場合にゲインを小さくする(たとえば半分にする)ようになっているため、ゲインを小さくする値によっては、ゲインを小さくした後も発振状態が持続する可能性があり、なかなか発振状態がおさまらない場合があるといった問題があった。これにより、不快な発振状態が続く上に、場合によっては装置の一部を破損する可能性があるという問題もあった。また、どれくらいゲインを小さくすれば発振を回避できるかは機械の構成や摩擦などの条件により異なり、ゲインの値をどれくらい小さくするかの決定が難しいという問題もあった。さらに、オブザーバ推定値のフィードバックなどを行っている場合は、それらのゲインも同様に小さくしてやる必要があり、それらのゲインをどれくらい小さくすれば良いかの判断がさらに難しくなるという問題もあった。最悪の場合、ゲインを小さくすることによって余計にシステムが不安定になり、機械が暴走する可能性があるという問題もあった。
【0009】
従来例2の特許文献2のモータ制御装置は、本発明と同じくトルクリミット値を可変とするものであるが、目的は位置決め時にトルクが少ししか出ないように制限することでオーバシュートを軽減するものであり、位置指令のタイミングでトルク制限の値を小さくする従来例2の方法では、発振を回避することは全くできない。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、発振検出部が発振と判断した場合にのみ、トルク指令をリミットがかかったトルク指令に切り替えるとともに積分制御器への入力をオフに切り替えることで、ゲインの上げ過ぎや負荷変動、経年変化、慣性モーメント設定値の誤設定、機械のガタなどのいかなる条件でサーボシステムが不安定になった場合にも発振して暴走するような危険な状態を回避することができるモータ制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明は、次のような構成及び制御方法としたものである。
請求項1に記載の発明は、位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行い、トルク指令を出力するモータ制御装置において、
前記機械装置と前記モータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部と、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算部と、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を前記リミット演算部を介して出力する切り替えスイッチ1、及び前記積分制御器への入力をオフとする切り替えスイッチ2と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行い、トルク指令を出力するモータ制御装置において、
前記機械装置と前記モータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部と、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算部と、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を前記リミット演算部を介して出力する切り替えスイッチ1、及び前記積分制御器への入力をオフとする切り替えスイッチ2、及び前記積分制御器の出力にゲインを乗じた信号を前記スイッチ1の出力に加算する切り替えスイッチ3と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のモータ制御装置において、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記リミット演算部のリミット値を徐々に小さくし、所定のリミット値に達したらサーボオフすることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載のモータ制御装置において、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記位置制御部及び/または速度制御部で使用しているゲインの値を前記発振検出部が発振中であると判断しなくなるまで徐々に小さくすることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行いトルク指令を出力し、前記機械装置とモータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部を有し、前記発振状態を抑制制御するモータ制御方法において、
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算処理をして出力し、さらに前記積分制御器への入力をオフとする切り替え処理を実行することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行いトルク指令を出力し、前記機械装置とモータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部を有し、前記発振状態を抑制制御するモータ制御方法において、
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算処理をして出力し、さらに前記積分制御器への入力をオフとする切り替え処理をし、かつ、前記積分制御器の出力にゲインを乗じて前記リミット演算処理をしたトルク指令に加算してトルク指令trefとすることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載のモータ制御方法において、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記リミット演算処理のリミット値を徐々に小さくし、所定のリミット値に達したらサーボオフすることを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、請求項5または6に記載のモータ制御方法において、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記位置制御部及び/または速度制御部で使用しているゲインの値を前記発振検出部が発振中であると判断しなくなるまで徐々に小さくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1及び5に記載の発明によると、ゲインの上げ過ぎや負荷変動、経年変化、慣性モーメント設定値の誤設定、機械のガタなどのいかなる条件でサーボシステムが不安定になった場合も、発振状態であると判断している間はトルク指令を制限したトルク指令に切り替え、かつ積分制御器への入力をオフとすることで、強制的にサーボシステムを安定にすることができ、機械が発振して暴走するような危険な状態を回避することができる。
また、請求項2及び6に記載の発明によると、ゲインの上げ過ぎや負荷変動、経年変化、慣性モーメント設定値の誤設定、機械のガタなどのいかなる条件でサーボシステムが不安定になった場合も、発振状態であると判断している間はトルク指令を制限したトルク指令に切り替え、かつ積分制御器への入力オフとし、かつ、積分制御器の出力にゲインを乗じた信号を制限されたトルク指令値に加算することで、重力やケーブルの張力等一定の外力が加わっている場合でも、それら外力の影響で機械が勝手に動くことなく、また、トルクリミットの値を一定の外力よりも小さく設定することができるようになり、強制的にサーボシステムを安定にすることができ、機械が発振して暴走するような危険な状態を回避することができる。
【0014】
また、請求項3及び7に記載の発明によると、発振状態がある一定時間続いた場合にトルクリミットの値を徐々に小さくして最後にはサーボオフすることで、ゲインの上げ過ぎや負荷変動、経年変化、慣性モーメント設定値の誤設定、機械のガタなどのいかなる条件でサーボシステムが不安定になった場合も、強制的にサーボシステムを安定にすることができ、機械が発振して暴走するような危険な状態を回避しながら最終的には安全にサーボオフすることができる。
また、請求項4及び8に記載の発明によると、発振状態がある一定時間続いた場合に、位置制御部及び/または速度制御部で使用しているゲインの値を発振状態でなくなるまで徐々に小さくすることができ、発振状態でなくなった後は、直ちにトルク制限及び積分制御器への入力が元の状態へ切り替わることで、少しの間のみトルク制限がかかるが、発振回避後はゲインが適正な値に設定された状態にあるので、安全に問題なく動作を続けることができる。また、この方法では、予めどれくらいゲインを小さくすれば良いかを決めておく必要がなく、機械の構成や摩擦の大きさ等にかかわらず、自動的に安定に動作するゲインに設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図6を参照して説明する。実際のサーボシステムやモータ制御装置においては、様々な機能や制御手段を備えているが、以下に示す図には本発明に関係する機能や制御手段のみを記載して説明する。
【実施例1】
【0016】
先ず、本発明におけるサーボシステムの全体構成を図4に示す。同図において、100は位置・速度制御部を表し、位置指令prefと位置検出値xfbを入力し、制御演算を行いトルク指令trefを算出する。通常、この後に電流制御部の処理が行われるがここでは省略する。101は制御対象を表し、102は制御対象の位置を検出する検出器を表す。103は発振検出部を表し、サーボシステムが発振状態にあるかどうかを判断し、発振と判断された場合は発振フラグfgに1を立てる。発振フラグfgは発振と判断されていないときは0に設定されている。
ここで発振検出部103の処理方法はどのようなものでも良いが、たとえば、実際の速度フィードバック信号の値から、一般的なオブザーバで推定した速度推定値を減じた信号を監視しておき、その偏差信号の振動成分が予め設定した閾値より大きい場合に発振と判断する方法等を用いればよい。
【0017】
図5は発振検出部103の構成例を示す図である。同図において、31はオブザーバを表し、トルク指令trefと位置検出値xfbから速度推定値vhatを算出する。オブザーバの構成は特に限定しないが、式(1)で示すように一般的な全次元のオブザーバを用いればよい。
【0018】
【数1】



【0019】
ここで、式(1)中の各変数はそれぞれ、xhat:位置推定値、vhat:速度推定値、dhat:外乱推定値、Ts:制御サンプリング周期、Jn:慣性モーメントノミナル値、k:サンプリング(k=1,2,3,・・・)である。
また、L1,L2,L3はオブザーバゲインであり、推定誤差に対する収束速度を決定する変数である。L1,L2,L3の値は、実速度に現れる発振時の振動が、速度推定値vhatに現れないような小さな値に設定しておく。
また、図5において、32は減算器であり、位置検出値xfbを微分して求めた速度Vfbから、オブザーバ31で演算した速度推定値vhatを減じて速度Vfb中の振動成分を抽出する。33は閾値比較部を表し、抽出した振動成分が予め設定した閾値より大きい場合に発振と判断し発振フラグfgを1に設定する。
【0020】
次に、本発明の第1実施例を説明する。図1は、本発明の第1実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図である。同図において、1は位置制御部の比例ゲインを表し、ここでは位置指令prefと位置検出値xfbの偏差εpを減算器14にて求め、この偏差εpに比例ゲインKpを乗じて比例制御を行い、速度指令vrefを算出する。2は速度制御部の比例ゲインを表し、vrefと位置検出値xfbを微分した速度vfbとの偏差εvを減算器15で求め、偏差εvに速度制御比例ゲインKvを乗じarefを算出する。3は積分制御器を表し、速度制御積分ゲインKiを用いて積分制御しirefを算出する。16は加算器でありarefとirefとの和を算出する。4は慣性モーメントノミナル値Jnを表しarefとirefとの和にJnを乗じてトルク指令urefを算出する。5はリミット演算部を表し、トルク指令urefを予め設定したリミット値TLIMIT以下に制限してulimとする。6はスイッチ1を表し、通常のトルク指令urefと制限のかかったトルク指令ulimを切り替える。7はスイッチ2を表し、積分制御器3への入力arefをオフし、すでに積分演算したirefの値を保持する。
【0021】
次にリミット値TLIMITの設定方法を説明する。TLIMITの値はどのように設定しても良いが、たとえば、モータの定格トルクの5%などのようにモータ定格トルクに対してその比率を設定するか、あるいは、振動する加速度のピーク値を設定し、その加速度のピーク値に慣性モーメントノミナル値Jnを乗じた値を設定しても良い。また、実際にゲインを高めに設定し、リミットの値を変えながら音を確認し、発振音が不快にならない程度に実機で調整を行って設定しても良い。
【0022】
本発明が従来技術と異なる部分は、発振と判断された場合にサーボゲインの値を変更することなく、発振中であると判断されている間のみ発振フラグfgが1となりスイッチ1、6を制限されたトルク指令ulimを使用するように切り替え、かつ、スイッチ2、7によって積分制御器3への入力をオフにし、発振と判断されなくなったら発振フラグfgが0となり各スイッチは自動的に元に戻るようにした点である。
【0023】
次に本発明を使用したときの発振抑制効果をシミュレーションの結果で説明する。
図6は負荷慣性モーメント比1:1、共振周波数100Hzの2慣性系の制御対象に対して速度ループ比例ゲインKvを上げていった場合のシミュレーションである。制御周期は500μsとし、各ゲインの値はKp=71(1/s)、Kv=710(1/s)、Ki=71(1/s)であり、トルクリミットはTLIMIT=0.02(N・m)とした。
図6(a)は発振と判断しても各スイッチを切り替えない場合の応答であり、同図(b)が本発明の通り、発振と判断した時にスイッチ1及び2を切り替える場合の応答である。図6から明らかように、(a)では完全に発散してしまい暴走するのに対して、(b)では発散することなくきちんと応答していることが分かる。
【0024】
このように、サーボゲインの上げ過ぎや負荷変動、経年変化、慣性モーメント設定値の誤設定、機械のガタなどのいかなる条件下でもサーボシステムが不安定になった場合、発振と判断している間はトルク指令を制限したトルク指令に切り替え、かつ積分制御器への入力をオフとすることで、強制的にサーボシステムを安定にすることができ、機械が発振して暴走するような危険な状態を回避することができる。
【実施例2】
【0025】
図2は本発明の第2実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図である。本実施例では実施例1に加え、積分制御器3の出力irefを切り替えるスイッチ3、8とゲイン演算器11の慣性モーメントノミナル値Jnを追加した点が実施例1と異なる。第2実施例では、発振フラグfgが0の場合、実施例1の図1と同一の構成となるが、発振フラグfgが1になると、スイッチ3、8を切り替え、irefにゲイン演算器11の慣性モーメントノミナル値Jnを乗じた信号を、スイッチ1、6の出力側に設けた加算器17で加算してトルク指令trefを算出するように動作する。
【0026】
このように、積分制御器3の出力irefにゲイン演算器11の慣性モーメントノミナル値Jnを乗じた値を、制限されたトルク指令ulimに加えることで、重力やケーブルのテンション等一定の外力が作用する場合も、トルクリミットの値をそれらの一定の外力の大きさよりも小さく設定することができるため、発振時の騒音も小さくなり、また機械に与える振動も小さくでき、さらに安全なモータ制御装置を実現できるのである。
【実施例3】
【0027】
図3は本発明の第3実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図である。本実施例は、速度制御部ではなく位置制御部に積分制御器13がある場合を示すものである。図3のスイッチ4、9とスイッチ5、10はそれぞれ実施例2で説明したように発振フラグfgによって同様の切り替え処理を行う。この場合、スイッチ4、9が切り替わった後に乗じるゲインの大きさがゲイン演算器12に示すように、Kv・Jnとなるところが、実施例2と異なる。
【0028】
このように、位置制御部に積分制御器がある場合も、何の問題もなく本発明を適用することができる。
【実施例4】
【0029】
次に本発明の第4実施例に関して説明する。本実施例では、実施例1から実施例3の処理を行った後に、発振中であると判断されている状態が予め設定した時間を超えた場合に、トルクリミットTLIMITの値を徐々に小さくしていく。たとえば、毎制御周期ごとにトルクリミットTLIMITの値を0.9などのように1以下の正数を乗じた値にすればよい。そして、たとえばトルクリミットTLIMITが0.1以下になった時点でサーボオフにすればよい。トルクリミットTLIMITを小さくする方法はどのようなものでもよく、また、サーボオフするタイミングも適当に設定すればよい。
【0030】
このように、本発明の実施例1から実施例3の処理を行った上で、徐々にトルクリミットを小さくし最終的にサーボオフすることで、発振時にただちにサーボオフしたときに機械が惰走して破損するといった問題を起こさずに安全にサーボオフすることができるのである。
【実施例5】
【0031】
次に本発明の第5実施例に関して説明する。本実施例では、実施例1から実施例3の処理を行った後に、発振中であると判断されている状態が予め設定した時間を超えた場合に、位置・速度制御部で使用しているゲインの値を、発振検出部が発振と判断しなくなるまで徐々に小さくして、発振と判断しなくなった時の各ゲインの値を保持すればよい。ゲインを小さくする方法はどのようなものでもよく、たとえば各ゲイン全てを毎制御周期ごとに0.9などのように1以下の正数を乗じるようにすればよい。
【0032】
このように、本発明の実施例1から実施例3の処理を行った上で、徐々に位置・速度制御部のゲインを小さくして、発振中であると判断しなくなった時点で、その時のゲインを保持することで、自動的に、その時の機械の状態に応じた安定なゲイン設定ができるため、安全なモータ制御装置が実現できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
発振状態を検出して発振中であると判断している間のみ、積分制御器の入力をオフすると共にトルクに制限のかかったトルク指令に切り替えることによって、いかなる場合も発振による暴走や機械装置の破損を回避できる安全なモータ制御装置を提供することができるので、ロボットや工作機械、その他の一般産業機械及び化学プラントという用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図
【図2】本発明の第2実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図
【図3】本発明の第3実施例を示すモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図
【図4】本発明におけるサーボシステムの全体構成を示す図
【図5】本発明における発振検出部103の構成例を示す図
【図6】本発明のモータ制御装置における発振抑制の効果を示すシミュレーション結果
【図7】従来例1のモータ制御装置における振動抑制方法を示すゲイン調整の処理フロー
【図8】従来例2のモータ制御装置における制御処理の要部ブロック図
【符号の説明】
【0035】
1 位置制御部の比例ゲイン
2 速度制御部の比例ゲイン
3 速度制御部の積分制御器
4 慣性モーメントノミナル値
5 リミット演算部
6 スイッチ1
7 スイッチ2
8 スイッチ3
9 スイッチ4
10 スイッチ5
11、12 ゲイン演算器
13 位置制御部の積分制御器
14、15、32 減算器
16、17、18 加算器
19、34 微分器
31 オブザーバ
33 閾値比較部
71 加減速処理1
72 加減速処理2
73 エラーカウンタ
74 比例ゲイン
75 積分器
76 比例ゲイン
77 トルクリミット回路
100 位置・速度制御部
101 制御対象
102 検出器
103 発振検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行い、トルク指令を出力するモータ制御装置において、
前記機械装置と前記モータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部と、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算部と、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を前記リミット演算部を介して出力する切り替えスイッチ1、及び前記積分制御器への入力をオフとする切り替えスイッチ2と、を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行い、トルク指令を出力するモータ制御装置において、
前記機械装置と前記モータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部と、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算部と、前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を前記リミット演算部を介して出力する切り替えスイッチ1、及び前記積分制御器への入力をオフとする切り替えスイッチ2、及び前記積分制御器の出力にゲインを乗じた信号を前記スイッチ1の出力に加算する切り替えスイッチ3と、を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記リミット演算部のリミット値を徐々に小さくし、所定のリミット値に達したらサーボオフすることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記位置制御部及び/または速度制御部で使用しているゲインの値を前記発振検出部が発振中であると判断しなくなるまで徐々に小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行いトルク指令を出力し、前記機械装置とモータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部を有し、前記発振状態を抑制制御するモータ制御方法において、
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算処理をして出力し、さらに前記積分制御器への入力をオフとする切り替え処理を実行することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
位置制御部または速度制御部のいずれか一方に積分制御器を備え、位置指令及び/または速度指令を入力し、位置及び/または速度検出信号をフィードバックして機械装置を駆動制御する演算を行いトルク指令を出力し、前記機械装置とモータ制御装置から成る駆動系の発振状態を検出する発振検出部を有し、前記発振状態を抑制制御するモータ制御方法において、
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している間のみ、前記トルク指令を予め設定したリミット値以下に制限するリミット演算処理をして出力し、さらに前記積分制御器への入力をオフとする切り替え処理をし、かつ、前記積分制御器の出力にゲインを乗じて前記リミット演算処理をしたトルク指令に加算してトルク指令trefとすることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項7】
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記リミット演算処理のリミット値を徐々に小さくし、所定のリミット値に達したらサーボオフすることを特徴とする請求項5または6に記載のモータ制御方法。
【請求項8】
前記発振検出部が発振を検知して発振中であると判断している時間が予め設定した一定時間を超えた場合に、前記位置制御部及び/または速度制御部で使用しているゲインの値を前記発振検出部が発振中であると判断しなくなるまで徐々に小さくすることを特徴とする請求項5または6に記載のモータ制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−119155(P2010−119155A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288310(P2008−288310)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】