説明

モードS二次監視レーダ及び位相判定システム

【課題】送信するモードS質問における信号の内容、位相反転の状態、波形の性能等P6パルス(データブロック)に関する性質を確実かつ容易に確認することができるモードS二次監視レーダを提供する。
【解決手段】航空機に搭載されているトランスポンダ2に対し、DPSKによりデータの位相が反転されたデータブロックを含むモードS質問を送信する送信部121aと、モードS質問の生成するとともに、モードS質問と同期し、モードS質問のデータブロックの位相を反転しない基準信号を生成する生成部112と、モードS質問の位相反転を判定する計測器3に、モードS質問及び基準信号を出力する出力手段121bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視空域内に存在する航空機を監視するモードS二次監視レーダ及び位相判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地上局のモードS二次監視レーダ(SSRモードS)は、空港や航空路の主要地点に管制施設として設置されている。図7に示すように、モードS二次監視レーダ4は、送受信信号を処理する処理部41、信号を送受信する送受信部42を備え、アンテナ43を介して航空機に搭載されるトランスポンダ2に質問信号や応答信号を送信するとともに、質問に対応して航空機のトランスポンダ2から送信される応答信号を受信する。
【0003】
モードS二次監視レーダ4は、応答に含まれるデータを用いて、該当する監視空域を飛行する航空機を監視しており(例えば、非特許文献1)、モードS二次監視レーダ4及びトランスポンダ2は、非特許文献1に記載されるような規格に従って構成されている。
【0004】
モードS二次監視レーダ4が送信する信号として、モードS質問やモードS応答等のモードS信号がある。例えば、モードS質問は、図8に示すように、質問内容に関するデータであるP6パルスとともに、トランスポンダ2がモードS質問であることの識別を行うP1パルスやP2パルスを含んでいる。モードS質問のP6パルスではDPSK(Differential Phase Shift Keying)反転によって実際の質問内容が表されており、DPSK反転の開始を示す位相判定通知ブロック(同期位相反転)と、DPSK反転によって実際の質問内容が表されるDPSKブロックとを含んでいる。このDPSKブロックでは、データ“0”を位相反転なしで表わし、データ“1”を位相反転ありで表わしている。
【0005】
具体的には、モードS二次監視レーダ4の処理部41は、図9に示すように信号処理部411、信号生成部412、周波数変換部413を有しており、送信対象となるデータ(ディジタルデータ)を信号処理部411で生成すると、信号生成部412は、このデータを含む低周波の送信信号(アナログデータ)に変換する。さらに、周波数変換部413で低周波から高周波に変換された送信信号(モードS質問)を送受信部42の送信部421がアンテナ43を介してトランスポンダ2に送信する。
【0006】
モードS二次監視レーダ4において、モードS質問のP6パルスで表されるデータの内容や、位相反転の状態又は波形の性能等を確認するためには、送信直前のモードS質問を判定する必要がある。しかしながら、送信直前のモードS質問は、低周波の質問内容等が高周波である搬送波に混合されている。例えば、図10に示すように、送信直前のモードS質問を計測器3のディスプレイ31上に表示しても、表示されるモードS質問の波形からデータの内容や位相反転の状態等を区別することはできない。
【0007】
すなわち、従来は、データの内容や波形の性能等を計測器3のディスプレイに表示される波形から判定することができなかった。したがって、従来のモードS質問の測定方法としては検波器等を利用し、位相反転時間やデータブロックを確認する方法が採用されていた。
【非特許文献1】ICAO、「INTERNATIONAL STANDARDS AND RECOMMENDED PRACTICES AERONAUTICAL TELECOMMUNICATIONS ANNEX 10」、1998年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来は、モードS二次監視レーダ4から送信するモードS質問について、P6パルスのデータの内容、位相反転の状態、波形の性能等を確認する手段がなかった。そのため、例えばモードS質問で反転の性能が低下している場合であっても、性能の低下を発見することは困難であり、モードS二次監視レーダ4の改善は遅れることがあった。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、送信するモードS質問における信号の内容、位相反転の状態、波形の性能等のP6パルス(データブロック)に関する性質を確実かつ容易に確認することができるモードS二次監視レーダ及び位相判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴に係るモードS二次監視レーダは、航空機に搭載されているトランスポンダに対し、DPSKによりデータの位相が反転されたデータブロックを含むモードS質問を送信するモードS二次監視レーダであって、モードS質問を生成するとともに、前記モードS質問と同期し、前記モードS質問の前記データブロックの位相を反転しない基準信号を生成する生成手段と、前記モードS質問の位相反転を判定する計測器に、前記モードS質問及び前記基準信号を出力する出力手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送信するモードS質問における信号の内容、位相反転の状態、波形の性能等のデータブロックに関する性質を確実かつ容易に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の最良の実施形態に係るモードS二次監視レーダ及び位相判定システムについて説明する。なお、図7で上述した構成と同一構成には同一符号を付し、類似構成には類似符号を付して説明を省略する。
【0013】
図1及び図2に示すように、モードS二次監視レーダ1は、信号処理部111、信号生成部112及び周波数変換部113を有する処理部11と、送信部121及び受信部122を有する送受信部12とを備えている。また、位相判定システムは、図2で示すように、モードS二次監視レーダ1と計測器3が接続される構成である。
【0014】
信号処理部111は、モードS質問のディジタルデータを生成し、信号生成部112に出力する。具体的には、信号処理部111は、モードS質問を生成する際、図3(a)に示すようなP1パルス、P2パルスとともに、P6パルスを含むデータを生成する。P1パルス及びP2パルスはモードS質問であることの識別を行うパルスであり、P6パルスは質問内容の実データである。P6パルスでは、データが位相反転された旨のデータ(図3(a)中の「同期位相反転」)を先頭に含んでいる。
【0015】
信号生成部112は、図2に示すように、第1生成部112a及び第2生成部112bを有している。第1生成部112aは、入力したモードS質問のディジタルデータをアナログデータに変換(D/A変換)し、周波数変換部113に出力する。例えば、信号生成部112は、図4(a)に示すようなディジタルデータのモードS質問から、図4(b)に示すようなアナログデータに変換する。このとき、第1生成部112aは、データブロック(P6パルス)をDPSKによって位相反転したアナログデータを生成する。
【0016】
一方、第2生成部112bは、第1生成部112aで生成されるモードS質問と同期させて、データブロックを位相反転させない基準となる基準信号を生成し、周波数変換部113に出力する。図3(b)は、図3(a)に示すモードS質問に対応する基準信号を説明する図である。図3(a)に示すモードS質問は、P6パルスが位相反転されるが、図3(b)に示すように、基準信号に含まれるP6パルスは位相反転されない。したがって、図3(b)に示す基準信号では、図3(a)のモードS質問のようにP6パルスでデータが位相反転された旨のデータ(図3(a)中の「同期位相反転」)を含んでいない。
【0017】
周波数変換部113は、入力するモードS質問と基準信号の周波数を規格で定められるモードS質問の周波数に変換し、送受信部12に出力する。具体的には、信号生成部112で生成された低周波の信号(図4(b))を規格で定められている高周波の信号に変換する(図4(c))。
【0018】
送信部121は、図1に示すように送信手段121a及び出力手段121bを有している。送信手段121aは、入力したモードS質問をアンテナ13を介してトランスポンダ2に送信する。また、出力手段121bは、入力したモードS質問及び基準信号を接続される計測器3に出力する。なお、モードS二次監視レーダ1から計測器3へのモードS質問及び基準信号の出力形態については出力手段121bから出力される形態に限られず、計測器3にモードS質問及び基準信号が入力されれば、どのような形態であっても良い。例えば、モードS質問の出力は、アンテナ13に出力されるモードS質問をアンテナ13とともに計測器3に出力する形態であっても同一の効果を実現できる。
【0019】
計測器3は、例えば、図2に示すようにディスプレイ31を有しており、ディスプレイ31にモードS質問及び基準信号の波形を表示する。図5は、ディスプレイ31に表示されるモードS質問の波形と基準信号の波形の一例である。図5に示す例では、モードS質問及び基準信号の一部を波形としてディスプレイ31に表示している。図5中で、モードS質問と基準信号とが同位相(位相反転なし)の部分は、データ“0”を表わし、位相反転中及び位相反転の部分は、データ“1”を表わしている。
【0020】
オペレータは、このようにディスプレイ31に表示されるモードS質問の波形を基準信号の波形と比較することで、モードS質問の位相反転が正確にされているかを容易に判断し、モードS質問の性質を把握できる。
【0021】
図6に示すフローチャートを用いて、処理部11においてモードS質問及び基準信号を生成し、送受信部12が送信及び出力する処理を説明する。フローチャートに示すように、信号処理部111は、質問を生成し、信号生成部112に出力する(S1)。
【0022】
その後、信号生成部112では、第1生成手段112aがモードS質問を生成し、第2生成手段112bが基準信号を生成し、それぞれ周波数変換部113に出力する(S2)。周波数変換部113は、低周波であるモードS質問と基準信号を、高周波である搬送波に周波数変換し、それぞれ送受信部12に出力する(S3)。
【0023】
送受信部12の送信手段121aは、モードS質問と基準信号を計測器3に出力する(S4)。これとともに、送受信部12の出力手段121bは、アンテナ13を介してトランスポンダ2にモードS質問を送信する(S5)。計測器3では、ステップS4で出力されたモードS質問と基準信号とから、図5に示すように、モードS質問の波形と基準信号の波形をディスプレイ31に表示する。なお、送信手段121aによる信号の送信と出力手段121bによる信号の出力の順序は問わず、同時に行われても良い。
【0024】
上述したように、本発明に係るモードS二次監視レーダによれば、モードS質問とともに基準信号を生成して計測器3に出力し、にディスプレイ31に表示させる。したがって、オペレータは、計測器3のディスプレイ31に表示される波形によって信号の内容、位相反転の状態等を把握し、処理部11における位相反転の処理の不具合等を容易に検出することができる。また、オペレータは、ディスプレイ31に表示される波形に歪が生じていればその歪も検出することができるため、処理部11における性能の不具合等を容易に検出することができる。
【0025】
本発明を上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0026】
本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明に記載した事項と自明な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るモードS二次監視レーダについて説明する図である。
【図2】図1で示したモードS二次監視レーダの機能ブロック図である。
【図3】図1で示したモードS二次監視レーダから送信するモードS質問の構成例である。
【図4】図1で示したモードS二次監視レーダで生成する信号について説明する図である。
【図5】計測器に表示されるモードS質問と基準信号の波形の一例である。
【図6】図1で示したモードS二次監視レーダにおけるモードS質問の生成処理の一例を説明する図である。
【図7】従来のモードS二次監視レーダについて説明する図である。
【図8】図7で示したモードS二次監視レーダから送信するモードS信号の構成例である。
【図9】図7で示したモードS二次監視レーダの機能ブロック図である。
【図10】計測器に表示されるモードS信号の波形の一例である。
【符号の説明】
【0028】
1…二次監視レーダ
11…処理部
111…信号処理部
112…信号生成部
112a…第1生成手段
112b…第2生成手段
113…周波数変換部
12…送受信部
121…送信部
121a…送信手段
121b…出力手段
122…受信部
13…アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に搭載されているトランスポンダに対し、DPSK(Differential Phase Shift Keying)によりデータの位相が反転されたデータブロックを含むモードS質問を送信するモードS二次監視レーダであって、
モードS質問を生成するとともに、前記モードS質問と同期し、前記モードS質問の前記データブロックの位相を反転しない基準信号を生成する生成手段と、
前記モードS質問及び前記基準信号を、前記モードS質問の位相反転を判定する計測器に出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするモードS二次監視レーダ。
【請求項2】
航空機に搭載されているトランスポンダに対してモードS質問を送信するモードS二次監視レーダと、前記モードS質問に含まれるデータブロックのDPSK(Differential Phase Shift Keying)によるデータの位相の反転を判定する計測器とを有する位相判定システムであって、
モードS質問を生成するとともに、前記モードS質問と同期し、前記モードS質問の前記データブロックの位相を反転しない基準信号を生成する生成手段と、
前記モードS質問及び前記基準信号を出力する出力手段と、
を備えるモードS二次監視レーダと、
前記モードS質問及び前記基準信号を入力し、前記モードS質問の波形とともに前記基準信号の波形を表示する計測器と、
を有することを特徴とする位相判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−25261(P2009−25261A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191549(P2007−191549)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】