説明

モールドモータ

【課題】本発明は、樹脂で一体的にモールド成形されたモールドモータに関するものであり、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化により、モータの寿命が低下するという課題がある。
【解決手段】固定子5と電機子巻線2を熱硬化性樹脂により一体的にモールド成形し、軸受保持部19を設けた固定子5と、固定子5に対向して回転自在に配置された軸受4を有する磁石回転子3より構成されたモールドモータ1であって、固定子5のモールド部分は、射出成形部分13と圧縮成形部分14より構成され、圧縮成形部分14は軸受保持部19に位置させたことによって、所期の目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電気機器に搭載される、樹脂で一体的にモールド成形されたモールドモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のモールドモータについて、図4を用いて説明する。従来のモールドモータは、巻線された固定子鉄心103と固定子鉄心103の上面か下面に配設されたプリント回路基板(以降、PC板105a)とが不飽和ポリエステル樹脂(プリミックス106)で一体にモールドされた固定子113と、固定子113内に配置される回転子107と、軸受110a、110bを介して回転自在に回転子107を支持するブラケット109などを備えたブラシレスDCモータ101aにおいて、PC板105aに孔を設け、PC板105aの孔にモータ制御用回路素子の裏面がくるように配設し、モータ制御用回路素子の表面と裏面を略コの字形をした金属製のヒートシンクで挟持したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−298762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のモータでは、電機子巻線や電子部品が発熱し、その熱は熱硬化性樹脂を介して軸受の温度を上昇させる。したがって、軸受内部に封入されたグリースの温度が上がることによって、グリースが熱劣化し、グリースの潤滑機能が低下するため、モータの寿命が低下するという課題があり、電機子巻線や電子部品によって生じた熱が、軸受に伝わらず、グリースの劣化を抑制することによって長寿命を実現したモールドモータが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、固定子鉄心に電機子巻線を巻装した固定子を充填材として水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムを含有する熱硬化性樹脂により一体的にモールド成形し、軸受保持部を設けたモールド固定子と、このモールド固定子に対向して回転自在に配置された軸受を有する回転子よりなるモールドモータであって、前記モールド固定子は射出成形部分と圧縮成形部分より構成され、前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムを前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムの割合よりも多くし、前記圧縮成形部分は軸受保持部に位置させたことを特徴とするモールドモータの構成としたものである。
【0006】
この手段により、熱伝導率が低い炭酸カルシウムを圧縮成形部分に多くすることで、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができ、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータが得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができ、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1におけるモールドモータを示す斜視図
【図2】同モールドモータの断面図
【図3】同モールドモータのモールド成形における射出前の状態を示す拡大図
【図4】従来のモールドモータを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の請求項1記載の発明は、固定子鉄心に電機子巻線を巻装した固定子を充填材として水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムを含有する熱硬化性樹脂により一体的にモールド成形し、軸受保持部を設けたモールド固定子と、このモールド固定子に対向して回転自在に配置された軸受を有する回転子よりなるモールドモータであって、前記モールド固定子は射出成形部分と圧縮成形部分より構成され、前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムを前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムの割合よりも多くし、前記圧縮成形部分は軸受保持部に位置させたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、熱伝導率が低い炭酸カルシウムを圧縮成形部分に多くすることで、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0010】
本発明の請求項2記載の発明は、電子部品を実装したプリント基板を一体的にモールド成形するとともに、発熱する電子部品を前記射出成形部分に位置させたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、発熱する電子部品を射出成形部分に位置させたことで圧縮成形部分への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0011】
本発明の請求項3記載の発明は、前記電機子巻線は前記射出成形部分に位置させたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、発熱する電機子巻線を射出成形部分に位置させたことで圧縮成形部分への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0012】
本発明の請求項4記載の発明は、前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有する低収縮剤の量は前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有する低収縮剤の量に比べ多くしたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、成形固化後の熱硬化性樹脂において、その内部に含有された可塑性の低収縮剤の周囲は空気層となっているため、圧縮成形部分の内部には空気層が多く存在するので、熱伝導率はさらに下がり、圧縮成形部分への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を一段と低減することができるという作用を有する。
【0013】
本発明の請求項5記載の発明は、前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有するスチレンモノマーの量は前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有するスチレンモノマーの量に比べ多くしたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、成形時にスチレンモノマーは重合反応するためガスが発生し、成形固化後の熱硬化性樹脂内部には気泡ができるため、圧縮成形部分の熱伝導率はさらに下がるので圧縮成形部分への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0014】
本発明の請求項6記載の発明は、圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有される充填材は、水酸化アルミニウムの割合よりも炭酸カルシウムの割合を多くしたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、圧縮成形部分に含有される熱伝導率の低い炭酸カルシウムの割合が多くなることで、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0015】
本発明の請求項7記載の発明は、前記射出成形部分にのみガス排出部を設けたことを特徴とするモールドモータの構成としたものであり、圧縮成形部分に含まれるガスは樹脂内部で気泡として残留するため、圧縮成形部分の熱伝導率が下がり、圧縮成形部分への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受に伝わる熱量を低減することができるという作用を有する。
【0016】
(実施の形態1)
図1〜図4に示すように、1はモールドモータで、5は固定子であり、複数のスロットを有する珪素鋼板などの薄板鋼板を積層した固定子鉄心10に絶縁材にて形成されたインシュレータ6を介して電機子巻線2を巻装し、電子部品7を実装したプリント基板8を取り付けた構成である。11はブラケットで軸受4を保持している。3はプラスチックマグネットを射出成形時に極配向させてシャフト9と一体成形して形成した磁石回転子であり、固定子鉄心10内周側に回転自在に配置されている。固定子5は熱硬化性樹脂12にて一体的にモールド成形され軸受保持部19を設け、モールド固定子5aを形成している。熱硬化性樹脂12は不飽和ポリエステルと、充填材として水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムと、補強材としてガラス繊維と、線膨張係数、成形収縮率を調整する分子量の高いポリスチレン系の低収縮剤と、硬化時に表面に浮き出して成形後の脱型性を良くするステアリン酸カルシウムなど金属石鹸からなる離型剤と、過酸化物よりなる硬化剤とを混錬したものである。この熱硬化性樹脂12は、圧縮成形部分14を形成する熱硬化性樹脂12aと、スクリュー式射出成形機(図示せず)にて射出成形されて射出成形部分13を形成する熱硬化性樹脂12bとから外被18を形成している。圧縮成形部分14は、軸受保持部19に位置させている。
【0017】
また、熱硬化性樹脂12aに含有される離型剤の量は、熱硬化性樹脂12bに含有される離型剤の量よりも少なくなっている(例えば、それぞれ1.3wt%と2.0wt%)。また、熱硬化性樹脂12aに含有されるガラス繊維は3.0mm長のものを3wt%と1.5mm長さのものを3wt%含有しているのに対し、熱硬化性樹脂12bに含有されるガラス繊維は3.0mm長のものを6wt%としている。
【0018】
また、熱硬化性樹脂12aに含有される充填材は水酸化アルミニウムを約45wt%と炭酸カルシウムを約11wt%含有している。一方、熱硬化性樹脂12bに含有される充填材は水酸化アルミニウムを約46wt%と、炭酸カルシウムを約2wt%含有している。すなわち、熱硬化性樹脂12aに含有される炭酸カルシウムの割合は、熱硬化性樹脂12bに含有される炭酸カルシウムの割合よりも多くなっており、熱硬化性樹脂12aに含有される水酸化アルミニウムの割合は炭酸カルシウムの割合を多くなっている。
【0019】
また、熱硬化性樹脂12aに含有されるスチレンモノマーは10wt%に対し、熱硬化性樹脂12bに含有されるスチレンモノマーは9wt%であり、熱硬化性樹脂12aに含有されるスチレンモノマーの割合は、熱硬化性樹脂12bに含有されるスチレンモノマーの割合よりも多くなっている。
【0020】
また、熱硬化性樹脂12aに含有される低収縮剤の割合は、熱硬化性樹脂12bに含有される低収縮剤の割合よりも多くなっている。
【0021】
図2に、本実施の形態のモールドモータの断面図、図3に、本実施の形態のモールドモータのモールド成形における射出前の状態を示す。 図3に示すように、モールド樹脂は、ゲート16から射出するが、射出成形部分13には、ガス排出部15を設けてある。一方、圧縮成形部分14には、ガスを排出する孔を設けていない。
【0022】
圧縮成形部分14は射出成形前に成形金型17内に事前に熱硬化性樹脂12aを配置させて、固定子5を配置させた後に、成形金型17の型締めと、熱硬化性樹脂12bの射出による樹脂の流動圧によって圧縮されて形成するものである。そして、熱硬化性樹脂12bに含有されるガラス繊維はスクリュー式射出成形機の計量時の背圧によって、1.5mm程度の長さまで折損するガラス繊維も存在している。
【0023】
このような本発明のモールドモータ1によれば、モータの回転により発生する熱(巻線部からの発熱、プリント基板8からの発熱)は、モールド樹脂のうち、射出成形部分13に伝わることになる。しかし、軸受周辺のモールド樹脂、すなわち、圧縮成形部分14は、熱伝導率が低い炭酸カルシウムを多く含んだ熱硬化性樹脂12aで形成されているため、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができる。従って、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0024】
また、発熱する電子部品7を射出成形部分13に位置させたことで圧縮成形部分14への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができるため、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0025】
また、発熱する電機子巻線2を射出成形部分13に位置させたことで圧縮成形部分14への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができるため、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0026】
成形固化後の熱硬化性樹脂12においては、その内部に含有された可塑性の低収縮剤の周囲は空気層となる。本実施の形態におけるモールドモータ1の圧縮成形部分14は、射出成形部分13よりもスチレンモノマーの割合を低くしてある。そのため、圧縮成形部分14の内部には空気層が多く存在することになり、熱伝導率はさらに下がり、圧縮成形部分14への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を一段と低減することができる。従って、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0027】
また、成形時にスチレンモノマーは重合反応するためガスが発生し、成形固化後の熱硬化性樹脂12内部には気泡ができるため、圧縮成形部分14の熱伝導率はさらに下がるので圧縮成形部分14への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができるため、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0028】
また、圧縮成形部分14に含有される熱伝導率の低い炭酸カルシウムの割合が多くなることで、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができるため、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【0029】
また、圧縮成形部分14に含まれるガスは樹脂内部で気泡として残留するため、圧縮成形部分14の熱伝導率が下がり、圧縮成形部分14への熱伝導が抑制され、軸受周辺から軸受4に伝わる熱量を低減することができるため、軸受内部に封入されたグリースの熱劣化を抑制でき、長寿命のモータとなり、より一層の高品質確保を実現できるモールドモータを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかるモールドモータは、長期に高品質化を確保した上で、小型化、薄型化、軽量化を実現することが要求される電気機器である換気装置、給湯機、エアコンなどの空気調和機、空気清浄機、除湿機、乾燥機、ファンフィルタユニットなどへの搭載が有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 モールドモータ
2 電機子巻線
3 磁石回転子
4 軸受
5 固定子
6 インシュレータ
7 電子部品
8 プリント基板
9 シャフト
10 固定子鉄心
11 ブラケット
12 熱硬化性樹脂
12a (圧縮成形部分の)熱硬化性樹脂
12b (射出成形部分の)熱硬化性樹脂
13 射出成形部分
14 圧縮成形部分
15 ガス排出部
16 ゲート
17 成形金型
18 外被
19 軸受保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に電機子巻線を巻装した固定子を充填材として水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムを含有する熱硬化性樹脂により一体的にモールド成形し、軸受保持部を設けたモールド固定子と、このモールド固定子に対向して回転自在に配置された軸受を有する回転子よりなるモールドモータであって、前記モールド固定子は射出成形部分と圧縮成形部分より構成され、前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムを前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有する炭酸カルシウムの割合よりも多くし、前記圧縮成形部分は軸受保持部に位置させたことを特徴とするモールドモータ。
【請求項2】
電子部品を実装したプリント基板を一体的にモールド成形するとともに、発熱する電子部品を前記射出成形部分に位置させたことを特徴とする請求項1記載のモールドモータ。
【請求項3】
前記電機子巻線は前記射出成形部分に位置させたことを特徴とする請求項1または2記載のモールドモータ。
【請求項4】
前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有する低収縮剤の量は前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有する低収縮剤の量に比べ多くしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモールドモータ。
【請求項5】
前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有するスチレンモノマーの量は前記射出成形部分の熱硬化性樹脂に含有するスチレンモノマーの量に比べ多くしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のモールドモータ。
【請求項6】
前記圧縮成形部分の熱硬化性樹脂に含有される前記充填材は、水酸化アルミニウムの割合よりも炭酸カルシウムの割合を多くしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のモールドモータ。
【請求項7】
前記射出成形部分にのみガス排出部を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のモールドモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−160561(P2011−160561A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20073(P2010−20073)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】