説明

ユニバーサル圧延機の竪ロール、ユニバーサル圧延機およびT形鋼の製造方法

【課題】T形鋼の熱間圧延に用いられるユニバーサル圧延機の竪ロール、ユニバーサル圧延機、および、それらを用いたT形鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】ロール幅方向の両端部にロール軸を中心に自由回転する大径部を有し、中央部にはロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する小径部を有し、またはロール幅方向の中央部にロール軸を中心に自由回転する小径部を有し、両端部にはロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する大径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能である竪ロール。この竪ロールをウェブ先端側に配置したユニバーサル圧延機。粗ユニバーサル圧延機の左右の竪ロールの一方でウェブの先端面を圧下し、他方でフランジをその板厚方向に圧下する際、ウェブ先端面を圧下する側の竪ロールに、大径部と小径部の段差量を調整することが可能な竪ロールを用い圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はT形鋼の熱間圧延設備に用いられるユニバーサル圧延機の竪ロール、ユニバーサル圧延機およびT形鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図12にT形鋼の断面形状を示す。T形鋼Hはウェブ50とフランジ60からなる断面がT字形状の形鋼であり、造船や橋梁等の分野で広く使用され、その用途や使用条件、使用箇所等によって様々な寸法の製品が製造されている。図12においてAo:ウェブ高さ、
tw:ウェブ厚、Ai:ウェブ内法寸法、Wf:フランジ幅、tf:フランジ厚とする。
【0003】
通常用いられるT形鋼の寸法は、ウェブ高さ:200〜1000mm程度、ウェブ厚:8〜25mm程度、ウェブ内法寸法:190〜980mm程度、フランジ幅:80〜300mm程度、フランジ厚:12〜40mm程度である。さらに、造船用として用いられるT形鋼の場合、ウェブ高さはフランジ幅の2倍以上であることが多い。
【0004】
ウェブ高さとフランジ幅がほぼ同じであっても、ウェブ厚とフランジ厚が異なる複数のサイズのT形鋼が、必要とされる強度に応じて選択され、構造物に適用される。図19に示すように、ウェブ高さの基準として、ウェブの内法寸法Aiとウェブの外法寸法Ao(図12のウェブ高さ(Ao)と同じ)を使用する場合があり、サイズが変わってもウェブ内法寸法Aiが同じ場合をウェブ内法一定、ウェブ外法寸法Aoが同じ場合をウェブ外法一定と呼ぶ。
【0005】
ウェブ内法一定の場合、図19(a)のようにフランジ厚tfがtf1、tf2、tf3と変化すると、Aiが一定でAoがAo1、Ao2、Ao3と変化する。また、ウェブ外法一定の場合、図19(b)のようにフランジ厚tfがtf1、tf2、tf3と変化すると、Aoが一定でAiがAi1、Ai2、Ai3と変化する。
【0006】
サイズの異なるT形鋼を長さ方向に接続すると、ウェブ内法一定の場合はフランジの内面(ウェブ側の面)が同じ高さになり、フランジの外面に段差が生じる。逆にウェブ外法一定の場合には、長さ方向に接続するとフランジの外面が同じ高さで内面に段差が生じる。どちらを使用するかは、用途や使用部位に応じて施工性の観点で選択される。
【0007】
T形鋼はウェブとフランジとを溶接して製造されることが一般的であるが、圧延により一体成形する技術も提案されている。
【0008】
例えば、ウェブ厚、フランジ厚、ウェブ高さおよびフランジ幅が様々な寸法のT形鋼を効率よく製造するため、ユニバーサル圧延機を中間圧延工程に2基、仕上圧延工程に1基配置した熱間圧延設備が提案されている(例えば特許文献1)。
【0009】
図13はその一例を示し、図において100は粗造形圧延機、200は第1の粗ユニバーサル圧延機、300はエッジャ圧延機、400は第2の粗ユニバーサル圧延機、500は仕上圧延機を示す。加熱炉(図示せず)から搬出された素材鋼片(図示せず)は粗造形圧延機100によって断面形状が略T形のT形鋼片に圧延される。
【0010】
得られたT形鋼片を、第1の粗ユニバーサル圧延機200とエッジャ圧延機300と第2の粗ユニバーサル圧延機400が近接して配置された圧延設備列で圧延を行って、ウェブとフランジの圧下を行う。
【0011】
第1の粗ユニバーサル圧延機200は図14に示すように、水平軸上を回転する水平ロール21a、21bと、垂直軸上を回転する竪ロール27a、27bを有する。水平ロール21a、21bの圧下面の幅W1は、ウェブ50の内法寸法Ai(フランジ内面からウェブ先端部までの距離)より大きくする。
【0012】
第1の粗ユニバーサル圧延機200では、水平ロール21a、21bによりウェブ50の高さ方向の全面をその板厚方向に圧下し、竪ロール27aと、水平ロール21a、21bの側面でフランジ60をその板厚方向に圧下する。フランジ60を圧下する際、竪ロール27aにより、水平ロール21a、21bの一方の側面から軸方向にスラスト力が作用するので、竪ロール27bを水平ロール21a、21bの、他方の側面に押圧して、水平ロール21a、21bが軸方向に移動しないようにする方法が開示されている。
【0013】
エッジャ圧延機300は図15に示すように、水平軸方向に大径ロール部33と小径ロール部32を備えた水平ロール31a、31bを有し、大径ロール部33が被圧延材Hのウェブ50を誘導し、小径ロール部32のロール表面32aがフランジ60の端面60aをその幅方向に圧下する。
【0014】
第2の粗ユニバーサル圧延機400は、図16に示すように、水平軸上を回転する水平ロール41a、41bと、垂直軸上を回転する竪ロール42a、42bを有する。水平ロール41a、41bのロール面の幅W2は、ウェブ50の内法寸法Ai(フランジ内面からウェブ先端部50aまでの距離)より小さくする。被圧延材Hのフランジ60を水平ロール41a、41bの側面に押し付けた場合、ウェブ先端部50aは、水平ロール41a、41bのロール面より外側に突出するので、竪ロール42bでウェブ50をその高さ方向に圧下することが可能となる。
【0015】
第2の粗ユニバーサル圧延機400では、水平ロール41a、41bのロール開度を調整して、ウェブ50の板厚を調整し、竪ロール42aと水平ロール41a、41bの一方の側面との開度を調整することによりフランジ60の板厚を調整し、竪ロール42bと水平ロール41a、41bの他方の側面との開度を調整することによりウェブ50の高さと、端部の形状を調整する。
【0016】
図16のロール形状を用いた第2の粗ユニバーサル圧延機400では、水平ロール41a、41bの軸方向移動をウェブ先端側の竪ロール42bで抑えることができないため、水平ロール41a、41bのロール軸に水平方向の移動を抑える機構を組み込む必要がある。
【0017】
ただし、被圧延材Hのフランジ60を圧延する際の圧延荷重が大きくなると、水平ロール41a、41bのロール軸に加わる水平方向の荷重も大きくなり、水平ロール41a、41bの水平方向の移動を抑える機構が大規模なものとなって設備費が過大になる場合がある。
【0018】
そこで、図17に示すように、ウェブ先端部側の竪ロール42cの高さ方向中央部に溝部43を設けた設備が開示されている。溝部43以外の竪ロール外周43aを水平ロール41a、41bの側面に接触させる構造にすれば、特別な機構を設けることなく水平ロール41a、41bの軸方向移動を抑えることができる。
【0019】
中間圧延工程で得られたT形鋼は、仕上圧延工程で製品寸法に圧延する。仕上ユニバーサル圧延機500は、図18に示すように、水平軸上を回転する水平ロール51a、51bと垂直軸上を回転する竪ロール52a、52bを有し、水平ロール51a、51bの側面はロール面と直交させる。
【0020】
竪ロール52aで被圧延材Hのフランジ60を圧延すると、ウェブ50に対し、フランジ60が垂直に整形される。竪ロール52bを水平ロール51a、51bのフランジ60と対向しない側の側面に押圧することで水平ロール51a、51bが軸方向に移動しないようにできる。なお、水平ロール51a、51bの圧下面の幅は、ウェブ内法寸法より大きくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第4453771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、例えばウェブ高さが50mm異なるT形鋼を一つのロールで圧延できれば、広範囲にウェブ高さを変化させたT形鋼製品をロール交換することなく製造できるため、ロール準備費用の削減による製造コスト低減やロール交換時間の短縮による生産性の向上が期待できる。
【0023】
特許文献1に開示されたT形鋼の圧延方法と圧延設備によれば、ウェブ厚やフランジ厚の異なるT形鋼を一つのユニバーサル圧延ロールで造り分けることができるが、第2の粗ユニバーサル圧延機400を図16に示す構造とする場合、水平ロール41a、41bの水平方向の移動を抑える機構が必要となる。しかし、軸方向のスラスト荷重を受ける構造として例示されているロール軸にスラスト玉軸受やスラストころ軸受けを設けることは設備費が過大になる場合があり、特に既存の粗ユニバーサル圧延機を改造しようとすると多額の費用が必要となる。
【0024】
一方、第2の粗ユニバーサル圧延機400の水平ロール41a、41bのロール軸に水平方向への移動を抑える機構を組み込まない場合は、図17に示すようにウェブ先端部側の竪ロール42cに溝部43を設けて、溝部43以外の竪ロール外周を水平ロール41a、41bの側面に接触させながら圧延することになるが、圧延されるT形鋼のウェブ内法が一定の寸法となるため、フランジ厚を変えるとウェブ高さが変化し、図19(b)に示すウェブ外法が一定のT形鋼を製造することができない。
【0025】
本発明は上記課題を解決するため、一般的な水平ロール軸受を使用してもウェブ内法寸法が異なるT形鋼を製造できる圧延設備およびそれを用いたT形鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の課題は以下の手段により達成可能である。
1.ユニバーサル圧延機の竪ロールであって、ロール幅方向の両端部にロール軸を中心に自由回転する大径部を有し、ロール幅方向の中央部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する小径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能であることを特徴とする竪ロール。
2.ユニバーサル圧延機の竪ロールであって、ロール幅方向の中央部にロール軸を中心に自由回転する小径部を有し、ロール幅方向の両端部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する大径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能であることを特徴とする竪ロール。
3.左右の竪ロールのうち、一方の竪ロールが、ロール幅方向の両端部にロール軸を中心に自由回転する大径部を有し、ロール幅方向の中央部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する小径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能なロールであることを特徴とする形鋼圧延用のユニバーサル圧延機。
4.左右の竪ロールのうち、一方の竪ロールが、ロール幅方向の中央部にロール軸を中心に自由回転する小径部を有し、ロール幅方向の両端部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する大径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能なロールであることを特徴とする形鋼圧延用のユニバーサル圧延機。
5.粗ユニバーサル圧延機の左右の竪ロールの一方でウェブの先端面を圧下し、他方でフランジをその板厚方向に圧下するT形鋼の製造方法であって、前記粗ユニバーサル圧延機のウェブ先端面を圧下する側の竪ロールに、ウェブの先端面を圧下する小径部を備えるとともに、その小径部の段差量を調整することが可能な竪ロールを用い、圧延するT形鋼のウェブ内法寸法に応じて前記段差量を調節することにより、粗ユニバーサル圧延機のロールを組替えることなくウェブ内法寸法の異なるT形鋼を圧延することを特徴とするT形鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明は竪ロールのロール軸に偏心機構を適用して、竪ロールにおいて、ウェブ先端を圧下する部分の水平ロール側面に対する深さを調整可能としたので、一つのロールでウェブ内法寸法を変化させたT形鋼を圧延できるようになり、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例に係るユニバーサル圧延機の竪ロールの側方外観図。
【図2】図1に示す竪ロールのロール軸心に垂直な平面のA−A´断面図で、(b)は(a)に対して偏心リングを180°回転させた場合を示す図。
【図3】図2に示す竪ロールのロール軸心を通るB−B´平面の断面図で、(b)は(a)に対して偏心リングを180°回転させた位置の断面図。
【図4】本発明の他の実施例に係るユニバーサル圧延機の竪ロールの側方外観図。
【図5】図4に示す竪ロールのロール軸心に垂直な平面のA−A´断面図で、(b)は(a)に対して偏心リングを180°回転させた場合を示す図。
【図6】図5に示す竪ロールのロール軸心を通るB−B´平面の断面図で、(b)は(a)に対して偏心リングを180°回転させた位置の断面図。
【図7】図1に示した竪ロールを第2の粗ユニバーサル圧延機に適用してT形鋼を圧延する場合を説明する図。
【図8】図1に示した竪ロールを第2の粗ユニバーサル圧延機に適用してT形鋼を圧延する場合を説明する図で、図7における偏心ロールのロール軸への取付け位置を180°回転させた場合を示す図。
【図9】図1に示した竪ロールにおいて偏心リングのロール軸に対する回転位置を変更し固定する装置の一例の構成を説明する図。
【図10】図1に示した竪ロールにおいて偏心リングのロール軸に対する回転位置を変更し固定する装置の他の例の構成を説明する図。
【図11】図4に示した竪ロールにおいて偏心リングのロール軸に対する回転位置を変更し固定する装置の一例の構成を説明する図。
【図12】T形鋼の断面形状を説明する図。
【図13】T形鋼の圧延ラインの設備配置を示す図。
【図14】T形鋼圧延設備の第1の粗ユニバーサル圧延機の圧延状態を説明する図。
【図15】T形鋼圧延設備のエッジャ圧延機の圧延状態を説明する図。
【図16】T形鋼圧延設備の第2の粗ユニバーサル圧延機の圧延状態を説明する図。
【図17】T形鋼圧延設備の第2の粗ユニバーサル圧延機において水平ロール側面を竪ロールで支持する圧延状態を説明する図。
【図18】T形鋼圧延設備の仕上ユニバーサル圧延機の圧延状態を説明する図。
【図19】T形鋼の断面形状を説明する図で、(a)は内法一定の場合、(b)は外法一定の場合のT形鋼の断面形状の変化を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1〜3は本発明に係る、ユニバーサル圧延機の竪ロールの構成の一例を説明する図で、図1は側方外観図、図2(a)(b)のうち(a)は図1のA−A´断面図、(b)は(a)に対して後述する偏心リング14を180°回転した場合のA−A´断面図、図3(a)(b)のうち(a)は図1の竪ロールを図2(a)のB−B´線の位置で切断した断面図、(b)は図2(b)のB−B´線の位置で切断した断面図を示す。
【0030】
これらの図において1は竪ロール、11はT形鋼のウェブ先端面(図示しない)を圧下する小径部、12a、12bは、竪ロール1とともにユニバーサル圧延機を構成する水平ロール(図示しない)の側面を支持する大径部、13は竪ロールのロール軸、14はロール軸13と小径部11の間に嵌入された偏心リング、15a(15b)はロール軸13の外周に嵌入した大径部12a(12b)の軸受、16は偏心リング14の外周に嵌入した小径部11の軸受、aはロール軸13の中心軸、bは偏心リング14の中心軸を示す。なお、本例においては、aは大径部12a(12b)の回転中心軸と、bは小径部11の回転中心軸と一致する。
【0031】
竪ロール1は、ウェブ先端面(図示しない)を圧延するための小径部11とウェブを圧延する水平ロールの側面(図示しない)を支持するための大径部12a、12bを有し、ロール幅方向に大径部12a、小径部11、大径部12bの順に配置されている。
【0032】
大径部12a、12bは、ロール軸13の中心軸aが大径部12a、12bの円中心となるようにロール軸13に軸受15a(15b)を介して取り付けられている。
【0033】
小径部11は環状で、その中心部に同心に取り付けた偏心リング14を介してロール軸13に取り付けられている。偏心リング14は環状で、ロール軸13が挿通する開口部が、偏心リング14の円中心bから偏心して設けられている。小径部11は軸受16を介して取り付けられている。
【0034】
小径部11の回転中心軸bとロール軸13の中心軸aは偏心(図2(a)(b)の距離cが偏心量)しているので、ロール軸13に対して偏心リング14の取り付け位置を変えることで、水平ロール(図示しない)の側面が大径部12a(12b)に当る位置において、小径部11の外周と大径部12a(12b)の外周との間隔(図3(a)(b)に示す距離d:小径部11と水平ロール(図示しない)の側面の位置を示す直線eとの間隔)を変えることが可能となる。
【0035】
例えば、図2(a)に示す偏心リング14の中心軸bが、ロール軸13の中心軸aに対して最も右側に偏心して位置した場合(すなわち、図3に示す小径部11と水平ロールの側面の位置を示す直線eとの間隔dが最小となる位置)を偏心リング14の回転角度0度とし、図2(b)に示す偏心リング14の中心軸bが、ロール軸13の中心軸aに対して最も左側に偏心して位置した場合(すなわち、図3に示す小径部11と水平ロールの側面の位置を示す直線eとの間隔dが最大となる位置)を偏心リング14の回転角度180度と定義した場合に、偏心リング14の回転角度を0〜180度(あるいは0〜360度)の範囲で任意の角度に調整できるものとする。これにより、小径部11と水平ロールの側面の位置を示す直線eとの間隔dを任意に変更可能となる。
【0036】
なお、偏心リング14をロール軸13に取り付ける機構は、偏心リング14がロール軸13に対して回転可能で且つ所望の位置で固定できるものとする。その構造は特に限定しないが、後述する構造とすることが好ましい。
【0037】
また、大径部12a、12bがロール軸13の中心軸aを回転中心として小径部11と接触せずに自由に回転することができ、小径部11が偏心リング14に対して自由に回転することができるように、小径部11と大径部12a(12b)との間、軸受15(16)と偏心リング14(大径部12a、12b)との間には適宜の空隙を設ける。
【0038】
図4〜6は本発明に係る、ユニバーサル圧延機の竪ロールの構成の他の例を説明する図で、図4は側方外観図、図5(a)(b)のうち(a)は図4のA−A´断面図、(b)は(a)に対して後述する偏心リング17a、17bを180°回転した場合のA−A´断面図、図6(a)(b)のうち(a)は図4の竪ロールを図5(a)のB−B´線の位置で切断した断面図、(b)は図5(b)のB−B´線の位置で切断した断面図を示す。
【0039】
これらの図において、17a、17bは大径部12a、12bとロール軸13の間の偏心リング、18a、18bは偏心リング17a、17bの外周に嵌入した大径部12a(12b)の軸受、19はロール軸13の外周に嵌入した小径部11の軸受、図1〜3と同じ符号が付与されたものは図1〜3と同じものを指す。但し、aはロール軸13の中心軸、bは偏心リング17a、17bの中心軸を示すものであって、本例においては、aは小径部11の回転中心軸と、bは大径部12a(12b)の回転中心軸と一致する。
【0040】
竪ロール2の大径部12a(12b)は環状で、その中心部に同心に取り付けた偏心リング17a(17b)を介してロール軸13に取り付けられている。偏心リング17a(17b)は環状で、ロール軸13が挿通する開口部が、偏心リング17a(17b)の円中心bから偏心して設けられている。大径部12a(12b)は偏心リング17a(17b)に軸受18a(18b)を介して取り付けられている。小径部11は、ロール軸13の中心軸aが小径部11の円中心となるようにロール軸13に軸受19を介して取り付けられている。
【0041】
小径部11は、ロール軸13との間の軸受19によりロール軸13に対して自由に回転する。
【0042】
大径部12a(12b)の回転中心軸bとロール軸13の中心軸aは偏心(図5(a)(b)の距離cが偏心量)しているので、ロール軸13に対して偏心リング17a(17b)の取り付け位置を変えることで、水平ロール(図示しない)の側面が大径部12a(12b)に当る位置において、小径部11の外周と大径部12a(12b)の外周との間隔(図6(a)(b)に示す距離d:小径部11と水平ロール(図示しない)の側面の位置を示す直線eとの間隔)を変えることが可能となる。
【0043】
偏心リング17a(17b)をロール軸13に取り付ける機構は、偏心リング17a(17b)がロール軸13に対して回転可能で且つ所望の位置で固定できるものとする。その構造は特に限定しないが、後述する構造とすることが好ましい。
【0044】
大径部12a(12b)が回転中心軸bを回転中心として小径部11と接触せずに自由に回転することができ、小径部11がロール軸13の中心軸aを回転中心として自由に回転することができるように、小径部11と大径部12a(12b)との間、軸受19と偏心リング17a(17b)との間には適宜の空隙を設ける。
【0045】
なお、竪ロール2において偏心リング17aと偏心リング17bは小径部11と大径部12aの距離dと、小径部11と大径部12bとの距離dが同じとなるようロール軸13に取り付ける。
【0046】
図7に図1に示した竪ロール1を第2の粗ユニバーサル圧延機4に適用してT形鋼50を圧延する場合を示す。
【0047】
小径部11が偏心リング(図示しない)の中心軸bを回転中心として、大径部12a、12bがロール軸13の中心軸aを回転中心として回転する。
【0048】
小径部11がT形鋼50のウェブ先端を圧下し、大径部12aが上水平ロール41aの側面を、大径部12bが下水平ロール41bの側面を支持して回転する。小径部11は偏心リング(図示しない)のロール軸13に対する取り付け位置を変えることによって大径部12a(12b)に対する段差Lが調整できる。T形鋼のフランジ部60は竪ロール42aで圧延する。図8に図7に示したT形鋼よりもウェブ内法寸法が大きなものを圧延する場合を示す。
【0049】
本発明によれば、偏心リング14(17a、17b)のロール軸13への取り付け位置を変えて、外周の段差Lを連続的に変化させることができるため、その範囲内においてT形鋼のウェブ内法寸法Aiを自由に造り分けて、外法一定T形鋼(図19(b)に示すようなフランジ厚tfが異なりウェブ高さA0が一定)をロール交換することなく圧延することができる。外周の段差Lを変更しても大径部(12a、12b)と上下の水平ロール(41a、41b)の側面との位置関係が変化しないので、大径部(12a、12b)により上下の水平ロール(41a、41b)の側面を支持することができる。
【0050】
図9に偏心リング14をロール軸13に対して回転させ、且つ回転させたその位置で偏心リング14を保持する偏心リング回転保持機構の1例を示す。図9は竪ロールの垂直断面を示す。小径部11と大径部12a(12b)との間に歯車20が設けられ、偏心リング14にロール軸13の軸心を回転中心として歯車20が固定されている。歯車20は大径部12a(12b)及び小径部11には固定しない。歯車20の直径は小径部11より大きくする。駆動装置22と歯車20の間に小径の歯車26を設ける。
【0051】
駆動装置22によって小径の歯車26が回転し、さらに歯車20が回転して偏心リング14の回転角度を調整する。駆動装置22を停止して小径の歯車26の回転を固定することにより、偏心リング14の回転角度が固定される。
【0052】
駆動装置22には例えば電動モータとウォーム歯車を組合わせた機構が適用できる。なお、偏心リング14とロール軸13および歯車20とロール軸13の間に軸受25を設ければ、偏心リング14の角度設定が円滑に実施できる。図10に歯車20の直径を小径部11よりも小さくし、小径の歯車26の直径を図9よりも大きくした例を示す。
【0053】
図11に大径部12a(12b)に偏心リング17a(17b)を設けた場合の偏心リング回転保持機構の例を示す。上方の大径部12aの偏心リング17aと歯車23a、下方の大径部12bの偏心リング17bと歯車23bが接続されており、駆動装置22により歯車26を回転させることにより、歯車23aと歯車23bが回転して偏心リング17a(17b)の回転角度を調整する。歯車23aと歯車23bはロール軸13の軸心を回転中心として偏心リング17a(17b)に固定されている。
【0054】
図9、10に示した偏心リング回転保持機構において歯車20は小径部11と上下の大径リング12a(12b)の間に2枚設けられているが、いずれかの1枚でも良い。また、図10における歯車26も歯車20に電動モータの駆動力が伝達されれば1枚でもよい。
【0055】
なお、偏心リングの角度設定装置はこれらの例に限定されるものではなく、偏心リングを所定の角度に回転させ、その回転角度を保持することが可能な機構であればよい。
【0056】
また、本発明に係る形鋼圧延用のユニバーサル圧延機は、上記で説明した本発明に係る竪ロールを、図7および図8に示すように、左右の竪ロールのうちの一方の竪ロールとして設置する。本発明に係る竪ロールを設置する側は、T形鋼を圧延する際に被圧延材Hのウェブ先端を圧延する側とする。
【0057】
このようなユニバーサル圧延機の構成にすることにより、以下に説明するとおり、ロール交換することなくウェブ内法寸法の異なるT形鋼を圧延することが可能となる。
【0058】
また、圧延するT形鋼のウェブ内法寸法が変化しても、ユニバーサル圧延機のウェブ先端側の水平ロール側面を竪ロールで支持することが可能となるため、軸方向のスラスト荷重を受けるための特別な機構が不要となり、設備費を低減することができる。
【0059】
本発明に係る竪ロールを図13に示すT形鋼熱間圧延設備の第2の粗ユニバーサル圧延機400のウェブ先端側竪ロールに適用して、図19(b)に示すウェブ外法一定のT形鋼をロール交換することなく内法寸法を変えて圧延する方法を説明する。
【0060】
まず、フランジ厚がtf1、ウェブ内法がAi1のT形鋼を圧延するため、ウェブ先端側竪ロールの偏心リングを回転させて小径部と大径部の段差を調整し、偏心リングを固定してT形鋼の圧延を行う。
【0061】
次にフランジ厚がtf2、ウェブ内法がAi2のT形鋼を圧延する場合には、ウェブ先端側竪ロールの偏心リングを再び回転させて小径部と大径部の段差を小さくする。段差の調整量はtf2−tf1の値とほぼ同じ量とすればよいが、粗造形圧延機1で圧延された後のT形鋼片の断面形状によっては、ウェブ内法寸法がAi2になるように段差量をさらに調整する必要が生じる場合がある。
【0062】
さらに、引き続きフランジ厚がtf3、ウェブ内法がAi3のT形鋼を圧延する場合には、フランジ厚がtf2のT形鋼の圧延が終了した後に、さらに偏心リングを回転させて小径部と大径部の段差をtf3−tf2の値だけ小さくする。
【0063】
上述したように本発明に係る竪ロールをユニバーサル圧延機の竪ロールに適用すれば、竪ロールを交換することなく、上下水平ロールの側面を支持しつつウェブ内法寸法の異なる外法寸法が一定のT形鋼を圧延することができる。
【0064】
偏心リングにより調整可能な小径部と大径部の段差量の範囲内であれば、ロールを交換することなくウェブ高さが大きく異なるT形鋼であっても、圧延することが可能であることは言うまでもない。
【0065】
なお、ここでは、本発明に係る竪ロールを、図13に示すT形鋼熱間圧延設備の第2の粗ユニバーサル圧延機400のウェブ先端側竪ロールに適用して、図19(b)に示すウェブ外法一定のT形鋼を圧延する実施形態について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、本発明の竪ロールは、第2の粗ユニバーサル圧延機400のようにウェブ先端面を竪ロールで圧下するユニバーサル圧延機であれば、どのような圧延機にも適用できる。また、本発明のT形鋼の圧延方法の実施に供する熱間圧延設備における粗ユニバーサル圧延機の配置は、他のどのような配置であってもよく、例えば、図13に示す第1の粗ユニバーサル圧延機200、エッジャ圧延機300および第2の粗ユニバーサル圧延機400のいずれかの圧延機を2基以上連続して配置してもよいし、これらの圧延機の配置順を変更してもよい。そして、その中のウェブ先端面を圧延する粗ユニバーサル圧延機のウェブ先端側竪ロールとして、本発明に係る竪ロールを適用すればよい。
【実施例】
【0066】
第2の粗ユニバーサル圧延機400のウェブ先端側竪ロールに、図10に示した竪ロールを用いた圧延設備(図13)を用いて、ウェブ外法寸法一定(ウェブ高さ300mm)でウェブ内法寸法を2種類に変えたT形鋼と、ウェブ高さ350mmのT形鋼を圧延した。
【0067】
竪ロールにおいてT形鋼のウェブ先端を圧下する小径部11の直径は660mm、幅は90mmとした。また、大径部12aおよび12bの直径は780mm、幅は75mmとした。
【0068】
偏心リング14は直径が450mmであり、その軸心がロール軸13の中心軸に対し30mm離れた位置になるようにリングの偏心形状を設計した。T形鋼のウェブ先端を小径部11が圧延する位置において、大径部12aおよび12bの外周面に対する小径部11の外周面の段差は、偏心リング14のロール軸13に対する回転位置を調整することにより最大で90mm、最小で30mmで、60mmの範囲内で調整可能とした。
【0069】
ウェブ高さ300mm、フランジ幅125mm、ウェブ厚が10mmで、フランジ厚が19mmと22mmのT形鋼(ウェブ内法寸法はフランジ厚19mmの場合、281mm、フランジ厚22mmの場合、278mmである)を製造した。
【0070】
まず、フランジ厚が19mmの製品を圧延するに際し、駆動装置22によって小径歯車26、歯車20を回転させて、大径部12a(12b)と小径部11の段差が36mmとなるように偏心リング14の回転位置を調整した。
【0071】
この状態で大径部12a(12b)を水平ロール(図示しない)の側面に接触させ、10本のT形鋼の圧延を行ったところ、ウェブ内法寸法は目標の281mmに対して±1.0mmの範囲となり、ウェブ高さが300mmの製品を寸法公差内で製造することができた。
【0072】
次に、フランジ厚が22mmのT形鋼を圧延するため、駆動装置22を回転させて偏心リング14の位置を調整し、大径部12a(12b)と小径部11の段差を33mmとした。
【0073】
大径部12a(12b)を水平ロール(図示しない)の側面に接触させた状態で10本のT形鋼を圧延して各部の寸法を測定したところ、ウェブ内法寸法は目標とする278mmに対して±1.0mmの範囲で、ウェブ高さが300mmのT形鋼を寸法公差内で製造できた。
【0074】
上述したように、本発明に係る竪ロールを用いることにより、ロールを組み替えることなく、水平ロールの軸方向荷重を支持しつつフランジ厚が異なりウェブ高さが等しい外法一定T形鋼を製造することができた。
【0075】
また、同じ圧延設備を用いてウェブ高さ350mm、フランジ幅125mm、ウェブ厚10mm、フランジ厚19mmのT形鋼を圧延した。製品のウェブ内法寸法が331mmであることから、偏心リング14のロール軸13に対する回転位置を調整し、大径部12a(12b)と小径部11の段差を86mmに設定した。大径部12a(12b)を水平ロール(図示しない)の側面に接触させた状態で、10本のT形鋼を圧延したところ、製品のウェブ内法寸法は目標±1.0mmの範囲であり、ウェブ高さが350mmのT形鋼も前述の竪ロールを交換することなく製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
1 竪ロール
11 小径部
12a、12b 大径部
13 ロール軸
14、17a、17b 偏心リング
15a、15b 大径部の軸受
16 小径部の軸受
20、26 歯車
22 駆動装置
3 エッジャ圧延機
21a、21b、31a、31b、41a、41b 水平ロール
27a、27b、42a、42b、42c 竪ロール
32 小径ロール部
33 大径ロール部
50 ウェブ
60 フランジ
100 粗造形圧延機
200 第1の粗ユニバーサル圧延機
300 エッジャ圧延機
400 第2の粗ユニバーサル圧延機
500 仕上圧延機
a ロール軸の中心軸
b 偏心リングの中心軸
Ao ウェブ高さ
tw ウェブ厚
Ai ウェブ内法寸法
Wf フランジ幅
tf フランジ厚
H 被圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユニバーサル圧延機の竪ロールであって、ロール幅方向の両端部にロール軸を中心に自由回転する大径部を有し、ロール幅方向の中央部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する小径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能であることを特徴とする竪ロール。
【請求項2】
ユニバーサル圧延機の竪ロールであって、ロール幅方向の中央部にロール軸を中心に自由回転する小径部を有し、ロール幅方向の両端部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する大径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能であることを特徴とする竪ロール。
【請求項3】
左右の竪ロールのうち、一方の竪ロールが、ロール幅方向の両端部にロール軸を中心に自由回転する大径部を有し、ロール幅方向の中央部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する小径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能なロールであることを特徴とする形鋼圧延用のユニバーサル圧延機。
【請求項4】
左右の竪ロールのうち、一方の竪ロールが、ロール幅方向の中央部にロール軸を中心に自由回転する小径部を有し、ロール幅方向の両端部には前記ロール軸に対して偏心して取り付けられる偏心リングと、前記偏心リングの外側にベアリングを介して回転する大径部を有し、前記偏心リングのロール軸に対する取付位置が調整可能なロールであることを特徴とする形鋼圧延用のユニバーサル圧延機。
【請求項5】
粗ユニバーサル圧延機の左右の竪ロールの一方でウェブの先端面を圧下し、他方でフランジをその板厚方向に圧下するT形鋼の製造方法であって、前記粗ユニバーサル圧延機のウェブ先端面を圧下する側の竪ロールに、ウェブの先端面を圧下する小径部を備えるとともに、その小径部の段差量を調整することが可能な竪ロールを用い、圧延するT形鋼のウェブ内法寸法に応じて前記段差量を調節することにより、粗ユニバーサル圧延機のロールを組替えることなくウェブ内法寸法の異なるT形鋼を圧延することを特徴とするT形鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−96287(P2012−96287A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220666(P2011−220666)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】