説明

ライニング材

【課題】 施工したライニング材の内周面を除去する必要が生じても、除去すべき範囲を作業者が目視で確認できるようにし、除去する厚みにばらつきや過不足を生じることを防止して、施工性および補修作業性の良好なライニング材を提供する。
【解決手段】 一実施形態としてのライニング材1は、不透過性材料からなる被覆層2と、被覆層2の内側に設けられて強化繊維材料からなる強化繊維基材、及び母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材とからなる基材層3とを有する。このうち、被覆層2は、基材層3との識別性を有する識別色からなるフィルム材により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の内壁に施工して老朽化した管路を更生するためのライニング材に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水道管、上水道管、農水管などの既設管が老朽化した場合に、その既設管を掘削することなく、地中に埋設された状態で管路の内壁にライニング材を施し、補修する工法が広く実用化されている。
【0003】
既設管を補修する更生工法の一つとして、管状のライニング材の内側に流体圧を作用さてライニング材を既設管内に反転挿入し、反転したライニング材を既設管の内壁に密着させ、硬化させてライニング層を形成する方法がある。また、管状のライニング材を縮径させた状態で既設管内に挿入し、このライニング材の内側に加圧ホースを反転挿入することによってライニング材を拡径させ、既設管の内壁に一体化させる方法もある。
【0004】
この種のライニング材として、例えば、特許文献1には、外表面がプラスチックフィルムで気密的に被覆された樹脂吸着基材に、未硬化の液状硬化性樹脂を含浸させた構成の管ライニング材を用いることが記載されている。この管ライニング材は、管路の内壁に押圧された状態で含浸樹脂を硬化させ、管路の内壁を被覆するライニング層となる。
【0005】
また、特許文献1に記載の工法では、施工前には管ライニング材が平坦状に折り畳まれ、密閉容器内に積み重ねられた状態で配備される。そして、密閉容器に接続された反転ノズルの開口端に管ライニング材を取り付け、密閉容器内に水圧を作用させて、管ライニング材を反転させつつ既設管内に挿入する。管ライニング材は、作用する水圧によって拡径され、樹脂吸着基材が既設管の内壁に密着して、プラスチックフィルムで被覆された内表面を形成する。このようなプラスチックフィルム層を有することにより、ライニング材は内表面の平滑性に優れ、樹脂吸着基材が保護されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−165158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように既設管に施工されたライニング材は、既設管の内壁を覆ってライニング層を形成するが、その後の継続的な使用によって、ライニング層に石などの異物が当たったり、流木が引っ掛かったりして、破損した箇所を部分的に補修する必要を生じる場合がある。このような場合、部分補修が必要となった箇所に、ライニング材と同様の材質からなる部分補修材を接着することで、十分に破損箇所を補修することができる。しかし、ライニング材は前記のとおり、プラスチックフィルムで内周面が被覆された構造であるため、部分補修材が内周面に接着しにくいという問題点があった。そこで、内周面のプラスチックフィルム層を削り落とすことで除去し、部分補修材との接着性を高める作業が必要とされた。
【0008】
また、更生する既設管の中には、複数の管が接続された管路や分岐部を有する管路もある。このような場合、管路の交差部分において、隣り合った管路のライニング材同士を接着して一体化する作業が行われる。かかるライニング材同士を接着する際にも、その接着性を高めるため、必要に応じて内表面のプラスチックフィルム層を除去することがあった。
【0009】
ところが、前記従来のライニング材は、除去しようとするプラスチックフィルム層と、その内側の樹脂吸着基材とがほぼ同色であり、プラスチックフィルム層と樹脂吸着基材との界面を明確に把握することができなかった。そのため、プラスチックフィルム層の除去を行っても、ライニング材の内表面を除去し過ぎてプラスチックフィルム層だけでなく樹脂吸着基材までも除去してしまったり、逆に、除去する量が不十分となってプラスチックフィルム層が残ってしまったりする不都合を生じやすかった。
【0010】
図12は従来のライニング材により更生された既設管を模式的に示した説明図である。図12において、符号101は従来のライニング材を示しており、図面を見やすくするため、プラスチックフィルム層102及び樹脂吸着基材103に断面を示すハッチングを省略して示している。図示するように、既設管104の部分的な補修範囲Rにおいて、内表面のプラスチックフィルム層102を削り落とす。しかし、外観上、プラスチックフィルム層102は樹脂吸着基材103に対して区別がつきにくいために、例示するようにプラスチックフィルム層102を除去し過ぎることがある。このようにプラスチックフィルム層102の除去量が多くなると、樹脂吸着基材103まで削り取ることになってしまい、樹脂吸着基材103の厚みが薄くなる。そうすると、既設管104のライニング層が薄くなって厚みを十分に確保できず、更生した既設管104の強度低下が懸念されることとなる。
【0011】
また、逆に、かかるプラスチックフィルム層102の除去が不十分であると、ライニング材101と部分補修材との接着性が悪くなり、破損箇所を適切に補修することが困難となる。
【0012】
そこで本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、施工したライニング材の内周面を除去する必要が生じても、除去すべき範囲を作業者が目視で確認できるようにし、除去する厚みにばらつきや過不足を生じることを防止して、施工性および補修作業性の良好なライニング材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、既設管の内径より小さい外径の筒状に形成され、既設管内に挿入及び拡径されて、既設管の内周面をライニングするライニング材を前提とする。このライニング材に対し、液状合成樹脂を主剤とする母材樹脂が含浸される単層若しくは複層からなる基材層と、基材層の内側の被覆層とを備えさせた複層構造としている。そして、被覆層及び基材層のうちの一層に、他層との識別色を付与した構成としている。
【0014】
上記構成により、ライニング材においては、被覆層を除去する際に、基材層と、その内表面を覆う被覆層とを識別することができるので、除去すべき範囲を目視で確認でき、被覆層の除去度合いを把握しながら作業を進めることが可能となる。その結果、被覆層を除去する量に過不足やばらつきを生じることがなくなり、施工性および補修作業性に優れたものとなる。
【0015】
前記ライニング材において、識別色を付与する層は、以下の多様な形態で設けることができる。
【0016】
まず、第1の形態は、ライニング材の被覆層全体に識別色を付与する構成である。
【0017】
この構成により、ライニング材の被覆層を除去する際、識別色の部分だけを除去すればよく、被覆層を容易に除去することできる。
【0018】
第2の形態は、ライニング材の基材層に、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層を設け、この樹脂吸着基材層に識別色を付与する構成である。この場合、 樹脂吸着基材に識別色を付与しても、樹脂吸着基材層に含浸させる母材樹脂に識別色を付与してもよい。
【0019】
この構成により、ライニング材の被覆層を除去する際、樹脂吸着基材層の識別色が視認できるまでライニング材の内表面を除去すればよいものとなる。
【0020】
第3の形態は、ライニング材の基材層に、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層と、被覆層に接した内側層とを設け、この内側層に識別色を付与する構成である。この場合、内側層の全体に識別色を付与しても、また、識別色の模様を内側層に形成してもよい。
【0021】
この構成により、ライニング材の被覆層を除去する際、内側層の識別色が視認できるまでライニング材の内周面を除去すればよいものとなる。
【0022】
第4の形態は、ライニング材の基材層に、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層と、強化繊維材料からなる強化繊維基材層とを設け、この強化繊維基材層に識別色を付与する構成である。この場合、強化繊維材料に識別色を付与しても、また、強化繊維基材層に識別色の繊維材を配列又は混合する構成であってもよい。
【0023】
この構成によると、ライニング材は、基材層の樹脂吸着基材層を介して、強化繊維基材層に付与されている識別色を視認することが可能なものとなる。したがって、ライニング材の被覆層を除去する際には、強化繊維基材層の識別色が視認できるまで、ライニング材の内周面を除去すればよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のライニング材によれば、施工後にライニング材の内周面の被覆層を除去する必要が生じても、除去すべき部分を作業者が目視で把握することができるので、被覆層だけを的確に除去することが可能となる。これにより、施工性および補修作業性に優れたライニング材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るライニング材の一例を示す断面図である。
【図2】図1のライニング材を用いた既設管の更生工法の一工程を示す説明図である。
【図3】本発明に係るライニング材の他の例を示す断面図である。
【図4】図3のライニング材を用いた既設管の更生工法の一工程を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るライニング材を既設管に施工した状態で示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るライニング材を既設管に施工した状態で示す断面図である。
【図7】図6に例示するライニング材により更生された既設管の管軸方向の断面を示し、被覆層を除去する工程を模式的に示す説明図である。
【図8】図7に示す既設管の被覆層が除去されたところを示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態3に係るライニング材を既設管に施工した状態で示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態4に係るライニング材を既設管に施工した状態で示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態4に係るライニング材の他の例を既設管に施工した状態で示す断面図である。
【図12】従来のライニング材により更生した既設管を部分的に補修する場合の工程例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るライニング材の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、本発明の実施形態に係るライニング材の説明に先立って、まず、ライニング材の概略構成及び当該ライニング材を使用して行う既設管の更生工法について説明する。
【0027】
図1は、ライニング材の一例を示す断面図であり、図2は、図1のライニング材を用いた既設管の更生工法の一工程を示す説明図である。
【0028】
(ライニング材)
ライニング材1は、補修対象の既設管2の内周面にライニング層を形成するものであり、あらかじめ既設管2の内径より小さい外径の筒状に形成されている。ライニング材1は被覆層2と基材層3とを備えた複層構造からなる。
【0029】
例示の形態では、ライニング材1の最も外側に被覆層2を有する。被覆層2は、加圧流体の不透過性を有する合成樹脂フィルム材により円筒状に形成されている。具体的には、被覆層2は、ポリエチレンフィルム、ポリウレタンフィルム、又は軟質塩化ビニル樹脂フィルム等によって形成されている。中でも、被覆層2には、0.2〜2.0mm程度の厚さを有するポリエチレンフィルム材が好適である。このほか、被覆層2には、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、若しくはポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム材、又はエラストマーや合成ゴム系材料からなるシート材を用いて形成することも可能である。
【0030】
ライニング材1の被覆層2の内側には、基材層3が単層又は複層にわたって設けられる。図1では、基材層3として、樹脂吸着基材層31、31と強化繊維基材層32とを備えている。樹脂吸着基材層31は、未硬化の液状合成樹脂を主剤とする母材樹脂を含浸させる基材であり、可撓性を有し樹脂含浸性に優れた材料からなることが好ましく、例えば、樹脂不織布やチョップドストランドマットにより形成されている。
【0031】
樹脂吸着基材層31を樹脂不織布により形成する場合、ポリエステル不織布を用いることが好ましい。また、樹脂吸着基材層31の樹脂不織布には、高密度ポリエチレン(HPPE)や、ポリプロピレンのように高強度で高弾性材料からなる不織布を用いることもできる。さらに、樹脂吸着基材層31の樹脂不織布は、連続フィラメント若しくはステープルファイバーから形成されたフェルト、マット、スパンボンド、又はウェブなどであってもよい。
【0032】
また、樹脂吸着基材層31をチョップドストランドマットにより形成する場合は、例えば、ガラス繊維等のストランドを一定長さに切断し、マット状に分散させた後、熱可塑性樹脂等の粘接着剤を均一に付与して熱溶融し、ストランド同士を接着させてマットとしたものを用いることが好ましい。この場合、樹脂吸着基材層31は、樹脂不織布を用いた場合よりも高い強度を得ることができる。
【0033】
かかる樹脂吸着基材層31は、既設管4の更生工程において、未硬化の状態の母材樹脂が含浸され、硬化してライニング層を構成するものとなる。母材樹脂は、熱硬化性樹脂が主剤とされ、中でも、比較的粘度が低く、硬化後の物性に優れ、低コストであるエポキシ系樹脂を主剤することが好ましい。また、母材樹脂の主剤として、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。さらに、母材樹脂には、前記主剤に硬化剤が添加され、硬化反応性が高められる。
【0034】
基材層3における強化繊維基材層32は、例えば、樹脂吸着基材層31の内部に介装されて、ライニング層の強度を高める。強化繊維基材層32の繊維は、強化繊維であれば特に限定されないが、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等が好ましい。中でも、得られる繊維強化樹脂成形品の強度や価格などを考慮すると、ガラス繊維が好適である。また、強化繊維基材層32に用いる強化繊維は、母材樹脂との接着性を高めるため、シランカップリング剤で前処理してあることが好ましい。
【0035】
また、強化繊維基材層32は、複数枚のシート状の強化繊維基材を円筒状に配設して形成することが好ましい。この場合、シート状の強化繊維基材は、ライニング材1の周方向に対しては、互いにオーバーラップするように配設される。これにより、ライニング材1の施工過程においてライニング材1が拡径されたとき、シート状の強化繊維基材が互いに周方向にずれ、強化繊維基材層32をライニング材1の拡径に追従させることができる。
【0036】
なお、図1のライニング材1では、基材層3として、円筒状に形成した樹脂吸着基材層31、31の間に、強化繊維基材層32を設けた構成を示したが、基材層3は、このほかにも多様な形態とすることが可能であり、下記の各実施形態で説明する。
【0037】
(既設管の更生工法)
次に、上述のごとく構成される複層構造のライニング材1を用いた既設管4の更生工法について説明する。
【0038】
既設管4の更生作業に先立ち、既設管4に下水等の流体がある場合には、既設管4内からいったん除去する。図2に示すように、既設管4の管路には、適当な間隔でマンホールM1、M2が設けられており、上流側マンホールM1の上流側に堰き止め部材5を設ける。堰き止めた下水等の流体は、さらに上流の図示しないマンホールから地上を迂回させ、マンホールM2の下流側管路へ排出することが好ましい。さらに、既設管4内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから、ライニング材1による更生作業に入ることが好ましい。なお、ライニング材1は可撓性を有する円筒体であることから、既設管4を更生するに際し、平坦状に折り畳んだコンパクトな状態で施工現場に搬入することができる。
【0039】
ライニング材1は、被覆層2の内部に未硬化の母材樹脂が注入される。次いで、被覆層2の内部を減圧して樹脂吸着基材層31内のエアを脱気し、母材樹脂を樹脂吸着基材層31及び強化繊維基材層32に含浸させる。樹脂吸着基材層31及び強化繊維基材層32の繊維間の隙間は、脱気経路として作用するとともに、未硬化の母材樹脂の流路としても作用する。
【0040】
次いで、図2に示すように、地上に設置した反転挿入機6にライニング材1を取り付け、圧縮空気や加熱水などの流体圧をライニング材1の外周側(被覆層2側)から作用させ、マンホールM2を通して既設管4内に反転させつつ挿入する(反転工法)。これにより、ライニング材1は被覆層2が内側となるように裏返りつつ、順次、既設管4内へ挿入されていく。また、反転したライニング材1は、既設管4内で、流体圧の作用により拡径し、樹脂吸着基材層31が既設管4の内壁に密着する。
【0041】
ライニング材1は、基材層3に含浸している母材樹脂が硬化することで、既設管4と一体化し、ライニング層を形成する。このライニング層は、被覆層2で覆われた状態となり、既設管4内に平滑な内周面を形成する。
【0042】
なお、既設管4を更生するライニング材1としては、図1に示したように、外周側に被覆層2、内周側に基材層3を有する積層形態のものに限定されない。例えば、図3に示すように、ライニング材1は、内周側に被覆層2を備え、この被覆層2の外周側に樹脂吸着基材層31、31及び強化繊維基材層32を備えて形成されていてもよい。つまり、この場合、ライニング材1は、図1とは内周側と外周側とが逆順の積層形態を有する。かかるライニング材1は、反転されることなく既設管4に挿入された後、拡径され、既設管4の内壁にライニング層を形成する(形成工法)。
【0043】
具体的には、図3に示すように、ライニング材1は、既設管4の内径よりも若干小さい径の管状体に形成されている。既設管4の更生に際しては、図4に示すように、ライニング材1の両端部に栓71が取り付けられ、マンホールM1、M2を利用して既設管4内に引き込んで配置される。ライニング材1の内部には、地上のボイラーユニット7から導入される加圧流体が作用し、既設管4内で膨張する。ライニング材1は、拡径された基材層3が既設管4の内壁に押圧されて密着する。
【0044】
次いで、ライニング材1は、基材層3に含浸されている母材樹脂が硬化することで、既設管4と一体化し、ライニング層を形成するものとなる。このライニング層は、被覆層2で覆われた状態となり、既設管4内に平滑な内周面を形成する。
【0045】
図1及び図3に示したライニング材1は、いずれも、既設管4内で拡径して内壁に密着する。そして、ライニング材1は、反転工法又は形成工法のいずれの工法で施工された場合も、ライニング層の内周面(すなわち、更生された既設管4の内表面)が被覆層2で覆われた状態となり、表面平滑性に優れ、耐水性及び耐薬品性の高い保護層となる。
【0046】
かかるライニング層において、最も内周側に配設された被覆層2は、後にライニング層を補修したり、ライニング層同士を接合したりする必要が生じた際に、適宜除去される。被覆層2を除去することで、ライニング層は、部分補修材や接合するライニング層との接着性を高めることができる。
【0047】
そこで、本発明に係るライニング材1においては、被覆層2を除去する必要が生じたときに備え、被覆層2及び基材層3のうちの一層に、他層との識別色を付与してある。これにより、被覆層2を除去する作業者は、除去作業をしながら被覆層2の除去度合いを把握することが可能となる。この識別色を付与する層は、ライニング材1において、多様な形態で設けることが可能である。以下では、そのうちの4つの実施形態について説明する。
【0048】
<実施形態1>
図5は、実施形態1に係るライニング材1について示し、ライニング材1が既設管4に施工された状態を示す断面図である。なお、図5、及び実施形態2以降で参照する各図において、ライニング材1の構成を見やすくするため、ライニング材1の各層には断面を示すハッチングを省略して示すとともに、識別色を付与した層に薄墨を施して示している。
【0049】
ライニング材1は、被覆層2及び基材層3を備える。基材層3は樹脂吸着基材層31からなる。このライニング材1では、被覆層2の全体が識別色に着色されている。被覆層2は、例えば0.2〜2.0mm程度の厚さを有するポリエチレンフィルム、ポリウレタンフィルム、軟質塩化ビニル樹脂フィルム等の合成樹脂系材料からなり、識別色に着色されている。
【0050】
識別色は、複層構造のライニング材1において、当該層が他層との識別性を有するように付与される色であり、作業者が目視により容易に他層と区別できる色とする。また、その色は、他層と異なる色相とすることによって識別性を高めるほか、彩度や明度の対比により識別できる色であってもよい。
【0051】
図5に示すように、ライニング材1が既設管4に施工された状態では、基材層3は、樹脂吸着基材層31に含浸した母材樹脂が硬化した状態となっており、通常は、母材樹脂の色がそのまま現れた有色の透明体又は半透明体である場合が多い。
【0052】
そこで、被覆層2の識別色には、基材層3、すなわち母材樹脂の色に対して識別性を有する色が選択される。そして、かかる識別色の顔料や蛍光物質を、材料の合成樹脂に混合したり、フィルム材に塗布したりすることで被覆層2が着色される。
【0053】
これにより、ライニング材1は、被覆層2と基材層3とが明確に区別できるものとなり、部分補修が必要となった場合や、交差するライニング層同士の接合性を高める場合に、被覆層2だけを確実に除去して接着性を高めることが可能となる。
【0054】
通常、この被覆層2の除去には、適宜の切削器具又は切削機械が使用される。特に、従来、手作業により被覆層2を切削して除去する場合は、目視や手触り等の感覚を頼りに除去量を把握せざるを得ないものであった。これに対し、実施形態1に係るライニング材1によれば、ライニング層の内周面の被覆層2が、識別色に着色されているので、この着色された部分だけを切削していけばよく、被覆層2を除去し終えると、識別色に着色された部分がライニング層の表面から無くなる。したがって、被覆層2の除去度合いを、表面の識別色を基に随時把握しながら作業することができ、被覆層2だけを除去することが容易となる。また、被覆層2を、均一に除去することも可能となり、除去量に過不足やばらつきを生じることがなく、効率よく作業を進めることができる。
【0055】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2に係るライニング材1について説明する。図6は、実施形態2に係るライニング材1について示し、ライニング材1が既設管4に施工された状態を示す断面図である。
【0056】
ライニング材1は、被覆層2及び基材層3を備え、基材層3が、被覆層2に接した内側層33と、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材層31とを備えた構成となっている。
【0057】
上述した実施形態1では、被覆層2の全体に識別色が付与されていた。本実施形態では、ライニング材1は、基材層3のうち、内側層33に識別色が付与されている。
【0058】
内側層33は、合成樹脂製のシート材又はフィルム材からなり、被覆層2と樹脂吸着基材層31との間に介装されている。この内側層33は、層全体が識別色のシート材やフィルム材で形成され、被覆層2と明確に区別できるように構成されている。内側層33の識別色には、被覆層2の色に対して識別性を有する色が選択される。
【0059】
ライニング材1により既設管4が更生されると、ライニング材1の基材層3と既設管4とが一体となり、内表面がライニング材1の被覆層2で覆われたライニング層が形成される。被覆層2と樹脂吸着基材層31との界面は、内側層33により明確に識別され、被覆層2を認識することができる。被覆層2は、かかるライニング層を補修したり、ライニング層同士を接合したりするなどの作業を行う場合に必要範囲で除去される。
【0060】
図7及び図8は、被覆層2を除去する工程を既設管4の管軸方向の断面により模式的に示した説明図である。
【0061】
例えば、図7に示す既設管4では、補修範囲Rにおいて、ライニング層10の内周面の部分補修が必要になったものとする。この場合、切削機械8の作動により補修範囲Rの被覆層2を除去し、樹脂吸着基材層31を露出させて部分補修材を接着し、ライニング層10を補修していく。ここで、識別色が付与された内側層33が、被覆層2と樹脂吸着基材層31との界面を示す。本実施形態では内側層33が、合成樹脂製のシート材又はフィルム材からなるので、被覆層2とともに除去される。
【0062】
つまり、補修範囲Rにおける被覆層2の除去は、識別色の内側層33をライニング層10から取り除く要領で行うことができる。作業者は、被覆層2を除去しつつ内側層33を削り取り、補修範囲Rにおけるライニング層10の内周面から、識別色である部分が無くなるまで除去作業を行えばよい。
【0063】
これにより、図8に示すように、既設管4内の補修範囲Rにおいて、ライニング層10のうち被覆層2と内側層33が適切に除去される。よって、基材層3の樹脂吸着基材層31が、その厚みを減じることなく好適に露出し、部分補修材との接着性を高めることができる。このように、被覆層2の除去は、内側層33の識別色を目安にして作業を進めることができるので、被覆層2を除去する量が不十分となったり、図12の従来例のように除去し過ぎてしまったりするという不都合が防止される。
【0064】
また、ライニング材1において、内側層33は、合成樹脂製のシート材又はフィルム材で形成されるに限らず、樹脂吸着基材により形成されていてもよい。この場合、例えば、識別色からなる樹脂吸着基材を被覆層2と樹脂吸着基材層31との間に介在させることで、識別色の内側層33を得る。また、かかる内側層33は、被覆層2と樹脂吸着基材層31との間に配置されていればよく、識別色の樹脂吸着基材を被覆層2の外周側に螺旋状に配設して、識別色の螺旋模様を有する形態とされてもよい。
【0065】
さらに、内側層33は、識別色の繊維材を用いて形成されてもよい。この場合、例えば、識別色の繊維材を網状に形成し、被覆層2と樹脂吸着基材層31との間に介装させることで識別色を含む内側層33を構成する。また、繊維材の識別色は、一色であるに限らず、識別性を有する複数の色の繊維材を組み合わせて内側層33を形成してもよい。
【0066】
これにより、被覆層2を除去する際、内側層33の識別色を視認できるまで被覆層2を切削すればよく、内側層33の識別色が見えたことを目安に除去作業を終了することで、被覆層2だけを容易に除去することが可能となる。あるいは、内側層33の識別色が表面から消えるまで切削して、被覆層2を除去してもよい。
【0067】
以上のように、かかる形態のライニング材1においても、被覆層2だけを確実かつ均一に除去することができ、除去量に過不足やばらつきを生じることがなく、効率よく作業を進めることが可能となる。
【0068】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3に係るライニング材1について説明する。図9は、実施形態3に係るライニング材1について示し、ライニング材1が既設管4に施工された状態を示す断面図である。
【0069】
ライニング材1は、被覆層2と、基材層3としての樹脂吸着基材層31とを備えている。上述した実施形態2では、基材層3のうちの内側層33に識別色が付与された構成であった。本実施形態では、ライニング材1は、基材層3のうち、樹脂吸着基材層31に識別色が付与されている。
【0070】
樹脂吸着基材層31を構成する樹脂不織布やチョップドストランドマット等の樹脂吸着基材は、本来、無色若しくは白色に近い色である。この樹脂吸着基材層31に識別色を付与する方法は複数あり、樹脂吸着基材そのものを、被覆層2とは異なった色の識別色に着色することがその一つである。すなわち、被覆層2とは異なる色の識別色の染料を用いて樹脂吸着基材を着色したり、識別色の顔料で着色した繊維材を樹脂吸着基材に混合したりすることで、識別色の樹脂吸着基材層31を得る。
【0071】
また、樹脂吸着基材層31に識別色を付与する他の方法として、樹脂吸着基材層31に含浸させる母材樹脂を識別色とする方法もある。この場合、母材樹脂に識別色の顔料や蛍光物質等を混合することで、母材樹脂を識別色に着色することが可能である。
【0072】
これにより、図9に示すように、ライニング材1が既設管4にライニングされると、被覆層2と樹脂吸着基材層31とが、異なる色で形成され、樹脂吸着基材層31の識別性が高まる。したがって、被覆層2を除去する際、樹脂吸着基材層31の識別色を確認できるまで被覆層2を切削すればよい。これにより、被覆層2だけを均一に除去することができ、被覆層2の除去量に過不足やばらつきを生じることがなく、効率よく作業を進めることが可能となる。
【0073】
<実施形態4>
次に、本発明の実施形態4に係るライニング材1について説明する。図10及び図11は、実施形態4に係るライニング材1について示し、ライニング材1が既設管4に施工された状態を示す断面図である。
【0074】
ライニング材1は、被覆層2と基材層3とを備える。基材層3は、樹脂吸着基材層31、31と、強化繊維基材層32との3層構造となっている。すなわち、このライニング材1の基材層3には、強化繊維基材層32が、2層にわたる樹脂吸着基材層31、31の間に設けられている。
【0075】
上述した実施形態3では、ライニング材1の基材層3の樹脂吸着基材層31に識別色が付与された構成であった。本実施形態では、ライニング材1の基材層3のうち、強化繊維基材層32に識別色が付与された構成とされている。
【0076】
図10に示すように、ライニング材1は、基材層3の強化繊維基材層32に識別色が付与されている。この場合、識別性を有する色に着色した強化繊維を用いることで、強化繊維基材層32の全体を識別色とすることができる。また、強化繊維基材層32に用いる強化繊維そのものの色を識別色として利用してもよい。例えば、強化繊維として、カーボン繊維を用いることで黒色の強化繊維基材層32を形成することができ、アラミド繊維を用いることで黄色の強化繊維基材層32を形成することができる。
【0077】
また、図10に示したように、強化繊維基材層32の全体を識別色とするだけでなく、強化繊維に識別色の繊維材を配列又は混合し、強化繊維基材層32に識別色の繊維材が分散されるように構成してもよい。例えば、図11に示す例では、強化繊維基材層32に識別色の繊維材321…321を管軸方向に均等に配列させている。これは、例えばガラス繊維を主基材とし、カーボン繊維やアラミド繊維等の有色の強化繊維を管軸方向に引き揃えて主基材に混合することで得ることができる。また、ガラス繊維を主基材として、有色の繊維束を織り込んで、強化繊維基材層32を形成するようにしてもよい。
【0078】
なお、このように強化繊維基材層32に識別色を付与する場合には、基材層3に含浸させる母材樹脂を、無色又は有色の透明若しくは半透明とすることが好ましい。また、半透明の母材樹脂を基材層3に含浸させる場合、基材層3の外側から識別色の強化繊維基材層32を視認できる程度の透明度を有するように、母材樹脂を選択することが好ましい。
【0079】
これにより、図10及び図11に示すように、ライニング材1が既設管4にライニングされたとき、基材層3のうち、強化繊維基材層32の全体又は一部が、被覆層2とは異なった色で形成されることとなる。かかる強化繊維基材層32は、被覆層2が除去されて樹脂吸着基材層31が露出すると、この樹脂吸着基材層31を介して強化繊維基材層32の識別色が視認可能なものとなる。
【0080】
したがって、被覆層2を除去する際には、強化繊維基材層32の識別色が目視できるまで被覆層2を切削すればよい。これにより、被覆層2だけを均一に除去することができ、被覆層2の除去量に過不足やばらつきを生じることがなく、効率よく作業を進めることが可能となる。
【0081】
以上、実施形態1〜4に示すようなライニング材1を用いて、既設管4の内壁を更生しておくことで、その後、ライニング層に部分的な補修の必要性が生じても、被覆層2だけを削り落とすことで除去し、部分補修材との接着性を高める作業を容易に行うことができる。かかる部分補修材とライニング層との接着性が高まることで、補修箇所の信頼性も高めることができる。
【0082】
また、既設管4にライニング材1を施工する際に、複数の管が接続された管路や分岐部を有する管路である場合にも、上記ライニング材1は好適なものとなる。つまり、既設管4の交差部分において、隣り合った管路のライニング材1同士を接着して一体化する場合に、接合部分の被覆層2を過不足なく除去することが容易となり、突き合わせたライニング材1の端部同士の接着性を高めることができる。加えて、ライニング材1の被覆層2の除去を、作業者の熟練度によらずとも均一で過不足を生じずに行うことが可能となるので、基材層3まで削り取ってしまうことが防止され、既設管4の強度維持を図ることが可能となる。
【0083】
なお、本発明に係るライニング材1は、上記実施形態1〜4に示したような複層構造とするに限られず、例えば基材層3が、樹脂吸着基材層31と強化繊維基材層32とを合わせて4層以上有する多層構造であってもよい。その場合にも、被覆層2と基材層3とのいずれか一層において他層との識別性を有する色を含む構成とすることで、被覆層2とその他の層との区別が容易となり、被覆層2だけを効率よく除去することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、老朽化して補修が必要となった既設管の更生に用いるライニング材に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 ライニング材
2 被覆層
3 基材層
31 樹脂吸着基材層
32 強化繊維基材層
33 内側層
4 既設管
5 堰き止め部材
6 反転挿入機
7 ボイラーユニット
71 栓
8 切削機械
M1、M2 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内径より小さい外径の筒状に形成され、既設管内に挿入及び拡径されて、既設管の内周面をライニングする複層構造のライニング材であって、
液状合成樹脂を主剤とする母材樹脂が含浸される単層若しくは複層からなる基材層と、基材層の内側の被覆層とを備え、被覆層及び基材層のうちの一層に、他層との識別色を付与したことを特徴とするライニング材。
【請求項2】
請求項1に記載のライニング材において、
前記被覆層全体に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項3】
請求項1に記載のライニング材において、
前記基材層は、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層を有し、この樹脂吸着基材層に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項4】
請求項3に記載のライニング材において、
前記樹脂吸着基材に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項5】
請求項3に記載のライニング材において、
前記樹脂吸着基材層に含浸させる母材樹脂に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項6】
請求項1に記載のライニング材において、
前記基材層は、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層と、被覆層に接した内側層とを備え、この内側層に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項7】
請求項6に記載のライニング材において、
前記内側層全体に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項8】
請求項6に記載のライニング材において、
前記内側層に識別色の模様があることを特徴とするライニング材。
【請求項9】
請求項1に記載のライニング材において、
前記基材層は、母材樹脂を含浸させる樹脂吸着基材からなる樹脂吸着基材層と、強化繊維材料からなる強化繊維基材層とを備え、この強化繊維基材層に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項10】
請求項9に記載のライニング材において、
前記強化繊維材料に識別色が付与されたことを特徴とするライニング材。
【請求項11】
請求項9に記載のライニング材において、
前記強化繊維基材層に識別色の繊維材が配列又は混合されていることを特徴とするライニング材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−143684(P2011−143684A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8464(P2010−8464)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】